ゲスト
(ka0000)
【王戦】王都外縁部攻防戦
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2019/05/11 09:00
- 完成日
- 2019/05/19 20:33
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●とある街道にて
人の気配が無い街道を魔装鞘を背負って歩く、紡伎 希(kz0174)の目の前で、馬車が止まった。
御者は老人だった。白髪と白髭が特徴的な人物。かつて、その容赦ない戦いぶりから、『戦慄の機導師』と呼ばれていた。
今は、その二つ名を名乗る事は無い。他のハンターに継承した……と本人は言っているが……。
「オキナがどうしてここに?」
「アークエルスから近いじゃろ。迎えにきたんじゃ……魔装を、な」
そう言って、オキナと呼ばれた老人の指示に従い、荷馬車に乗り込む希。
重たそうな音を立てて、魔装鞘を降ろす。
「“本隊”からの決定事項じゃ」
オキナが投げたメモを受け取ると、希は驚きの声を上げる。
「アルテミス小隊を後方へ! これは、本当なのですか!?」
「先の戦いで消耗が激しかったのじゃろう。港町で暫くは待機じゃ。決戦には間に合わんじゃろう」
冷酷に告げると、別の書状を渡す。
そこには傲慢王の宣言と浮遊大陸の出現が記されていた。
「……一番大事な時に、力になれないなんて……私だけでも、戦います!」
「魔装は転移門を渡れん。魔装無しで戦える程、傲慢の軍勢は甘くはないぞ」
希自身、その実力は着々と成長している。
だが、一人での戦力というと、やはり、魔装がなければ突出してはいない。
「それでも、私は……戦いたいです! ここまで来て……あの子との決着もあるのに」
“あの子”とはミュール(kz0259)の事だ。
境遇が似ているからこそ、気になるのだろう。
「現地で剣を振る事だけが戦いではないじゃろ、ノゾミ嬢ちゃん」
「オキナ……」
「転移門でリゼリオに向かえ。想いを繋げる為に、嬢ちゃんは受付嬢を選んだのじゃろ」
その台詞に、希はハッとなる。
「……分かりましたよ、オキナ。私にハンターを集めろという事ですね」
「それも大事な仕事じゃ」
希は力強く頷いたのでった。
●王都外縁部
洪水でもないのに、遊水地には多くの水がなみなみとしていた。
防衛戦に合わせて簡易的な外堀としての為だ。だが、それは悪手であった。
「ねぇねぇ、ティオリオス。ここでペットとしての力をイヴ様に見せてよ~」
ミュールが無邪気に笑いながら、退屈そうにしている好青年の歪虚に呼び掛けた。
傲慢の軍勢を眺め、ティオリオスは渋々と立ち上がる。
「ペットではない。偉大なる傲慢の王に相応しい竜だ」
「どっちでもいいからさ~。ねぇ~、ティオリオス~」
「ええい。わざとらしく引っ付くな。それで、幼き従者よ、この全ての水を従える俺に何を求めるのだ」
その台詞にミュールはくるくると回る。
漆黒のドレスが揺れる中、幼女は指を遊水地に差した。
「あそこからね、別動隊を送り込む予定なんだけど、守って欲しいなぁ~って」
「なるほど。外堀を強引に突破して手薄な所から城壁を突破するつもりか……全く、誰の入れ知恵なんだか」
遊水地が深かったのが、歪虚側に有利に働いたようだ。
歪虚の姿が直接見えていれば、人間側も警戒するだろう。だが、水の中を強引に進んでくる歪虚を早期に発見する事は、戦闘中、なかなか難しい。
「そういう事! さっすが、ティオリオス!」
「偉大なる傲慢の王に相応しい竜だからな。当然の事だ。それに……俺の宿敵も現れるに違いないからな」
「無茶しなくていいからね。まだ、本番じゃないし」
ミュールの言葉に不敵な笑みを浮かべて応えたティオリオスは遊水地に向かって歩き出す。
王都を征服する戦いはまだ始まったばかりだ。まずは緒戦。人間共がどんな抵抗をするのか、楽しみである。
「全力で掛かってこいよ、宿敵よ。出ないと――死ぬぞ」
傲慢歪虚の軍勢を迎撃していた南東側の一角、見張りの兵士が慌てて報告する。
「た、大変です! 遊水地側から多数の傲慢歪虚が突撃してきます!」
「やはり、手薄な所を攻めてきたか……」
現場指揮官はギリっと歯を食いしばる。
分かっていた事だが、有効な対応策が無かったのが実情だ。
強力な砲撃力を持つ、刻令ゴーレム『Volucanius』の射撃は、特別な調整や精霊の加護が無ければ、水中まで射撃が届かない。
敵がその隙を突いてくるのは容易に想像できた。歪虚は呼吸もしない為、進撃路として水中は有効だろう。
「だが、こちらも何の対策が無かった訳じゃない……待機させていたハンター達を呼んで迎撃させろ!」
「了解!」
ハンター達は武装も指揮系統もバラバラだが、だからこそ、柔軟な戦い方が出来る。
きっと、迎撃に向かった所で、何か不都合があっても、彼らなら、なんとかなるだろう。
いや……なんとかならなければ、ここの城壁は突破されるだろう。
「よし、ハンター達の迎撃に合わせ、我らも攻勢に出るぞ! いつまでも傲慢共の好きにさせるな!」
指揮官の言葉に、兵士達が雄叫びを上げた。
人の気配が無い街道を魔装鞘を背負って歩く、紡伎 希(kz0174)の目の前で、馬車が止まった。
御者は老人だった。白髪と白髭が特徴的な人物。かつて、その容赦ない戦いぶりから、『戦慄の機導師』と呼ばれていた。
今は、その二つ名を名乗る事は無い。他のハンターに継承した……と本人は言っているが……。
「オキナがどうしてここに?」
「アークエルスから近いじゃろ。迎えにきたんじゃ……魔装を、な」
そう言って、オキナと呼ばれた老人の指示に従い、荷馬車に乗り込む希。
重たそうな音を立てて、魔装鞘を降ろす。
「“本隊”からの決定事項じゃ」
オキナが投げたメモを受け取ると、希は驚きの声を上げる。
「アルテミス小隊を後方へ! これは、本当なのですか!?」
「先の戦いで消耗が激しかったのじゃろう。港町で暫くは待機じゃ。決戦には間に合わんじゃろう」
冷酷に告げると、別の書状を渡す。
そこには傲慢王の宣言と浮遊大陸の出現が記されていた。
「……一番大事な時に、力になれないなんて……私だけでも、戦います!」
「魔装は転移門を渡れん。魔装無しで戦える程、傲慢の軍勢は甘くはないぞ」
希自身、その実力は着々と成長している。
だが、一人での戦力というと、やはり、魔装がなければ突出してはいない。
「それでも、私は……戦いたいです! ここまで来て……あの子との決着もあるのに」
“あの子”とはミュール(kz0259)の事だ。
境遇が似ているからこそ、気になるのだろう。
「現地で剣を振る事だけが戦いではないじゃろ、ノゾミ嬢ちゃん」
「オキナ……」
「転移門でリゼリオに向かえ。想いを繋げる為に、嬢ちゃんは受付嬢を選んだのじゃろ」
その台詞に、希はハッとなる。
「……分かりましたよ、オキナ。私にハンターを集めろという事ですね」
「それも大事な仕事じゃ」
希は力強く頷いたのでった。
●王都外縁部
洪水でもないのに、遊水地には多くの水がなみなみとしていた。
防衛戦に合わせて簡易的な外堀としての為だ。だが、それは悪手であった。
「ねぇねぇ、ティオリオス。ここでペットとしての力をイヴ様に見せてよ~」
ミュールが無邪気に笑いながら、退屈そうにしている好青年の歪虚に呼び掛けた。
傲慢の軍勢を眺め、ティオリオスは渋々と立ち上がる。
「ペットではない。偉大なる傲慢の王に相応しい竜だ」
「どっちでもいいからさ~。ねぇ~、ティオリオス~」
「ええい。わざとらしく引っ付くな。それで、幼き従者よ、この全ての水を従える俺に何を求めるのだ」
その台詞にミュールはくるくると回る。
漆黒のドレスが揺れる中、幼女は指を遊水地に差した。
「あそこからね、別動隊を送り込む予定なんだけど、守って欲しいなぁ~って」
「なるほど。外堀を強引に突破して手薄な所から城壁を突破するつもりか……全く、誰の入れ知恵なんだか」
遊水地が深かったのが、歪虚側に有利に働いたようだ。
歪虚の姿が直接見えていれば、人間側も警戒するだろう。だが、水の中を強引に進んでくる歪虚を早期に発見する事は、戦闘中、なかなか難しい。
「そういう事! さっすが、ティオリオス!」
「偉大なる傲慢の王に相応しい竜だからな。当然の事だ。それに……俺の宿敵も現れるに違いないからな」
「無茶しなくていいからね。まだ、本番じゃないし」
ミュールの言葉に不敵な笑みを浮かべて応えたティオリオスは遊水地に向かって歩き出す。
王都を征服する戦いはまだ始まったばかりだ。まずは緒戦。人間共がどんな抵抗をするのか、楽しみである。
「全力で掛かってこいよ、宿敵よ。出ないと――死ぬぞ」
傲慢歪虚の軍勢を迎撃していた南東側の一角、見張りの兵士が慌てて報告する。
「た、大変です! 遊水地側から多数の傲慢歪虚が突撃してきます!」
「やはり、手薄な所を攻めてきたか……」
現場指揮官はギリっと歯を食いしばる。
分かっていた事だが、有効な対応策が無かったのが実情だ。
強力な砲撃力を持つ、刻令ゴーレム『Volucanius』の射撃は、特別な調整や精霊の加護が無ければ、水中まで射撃が届かない。
敵がその隙を突いてくるのは容易に想像できた。歪虚は呼吸もしない為、進撃路として水中は有効だろう。
「だが、こちらも何の対策が無かった訳じゃない……待機させていたハンター達を呼んで迎撃させろ!」
「了解!」
ハンター達は武装も指揮系統もバラバラだが、だからこそ、柔軟な戦い方が出来る。
きっと、迎撃に向かった所で、何か不都合があっても、彼らなら、なんとかなるだろう。
いや……なんとかならなければ、ここの城壁は突破されるだろう。
「よし、ハンター達の迎撃に合わせ、我らも攻勢に出るぞ! いつまでも傲慢共の好きにさせるな!」
指揮官の言葉に、兵士達が雄叫びを上げた。
リプレイ本文
●
遊水地に張られた河川の水は見るだけで膨大という事は現地ですぐに確認できた。
遠く、対岸に姿を現した傲慢歪虚が次々に遊水地の中へと潜っていく。
「やれやれ、数に任せての強行突破ですか……単純かつ非効率ですが……この場合、効果的ではありますね」
破軍(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka0725unit004)の中で、鹿東 悠(ka0725)が敵の動きを見て、そんな感想を口にした。
戦闘において数というのは戦力として有効な手段の一つだ。
それが水中から一斉に迫ってくるのだ。息継ぎの必要がない歪虚だからこその戦術と言えよう。
「ま……脳筋ばかりではないでしょうけどね。張れる網は張っておきましょう……ミグさんの方はどうですか?」
「敵が堀を突っ切ってくることくらい先刻、お見通しじゃが。やはり、排水は難しいようじゃな」
強烈な一撃を撃ち込む前に敵が水中へと姿を消した事を確認し、ミグ・ロマイヤー(ka0665)が愛機ヤクト・バウ・PC(ダインスレイブ)(ka0665unit008)のコントロールパネルを軽快に叩き、設定を再調整する。
遊水地である以上、水門操作ができれば水位を下げる事ができるのではないかと思っていたのだ。
水を全部抜く事ができなくとも、僅かでも……という希望は、王都を防衛する騎士から思わぬ返事で頓挫した。
「ユメリア殿が当たってくれたようじゃが、水門が開けられないなら、それでやるしかないからのぅ」
「水門の操作には、特別な道具を使って操作する仕組みとの事です」
ミグの台詞にユメリア(ka7010)が応える。水門操作は、防衛と防犯上の理由により、その管理は厳重だった。
もし、アルテミス小隊が参加していれば、王都防衛の騎士達との調整は可能だったかもしれないが……居ないものは仕方ない。
それに、水門操作できたとしても、これだけ大きな遊水地である。水位が下がる前に戦闘が終了している可能性もあるし、急激に水位を下げる事で発生する影響もあるかもしれない。
ユメリアは振り返ると王城の城壁を見つめた。
あの城壁の向こう側には避難が進められているとはいえ、多くの人々がいるのだ。
そして、そんな人々を守ろうとする戦士達がいる。
(戦士達のその想いを守るため、私も戦います)
心の中で誓うと彼女は星弓を握り締めた。
「最近、土木作業ばっかっすね~」
神楽(ka2032)が刻令ゴーレム「Gnome」の作業風景を目にしていた。幾台かの刻令ゴーレムが一心不乱に作業用のマニュピレータを忙しく動かしている。結果、出来上がるのは簡易的な構造物の壁だ。
これを水際に作って並べているのだ。
掛矢鬼六(刻令ゴーレム「Gnome」)(ka6053unit002)など別のハンターが手配したゴーレムも壁作りに勤しんでいる。
「ついにここまで来ましたか……なかなか、厳しい戦ですね」
鳳城 錬介(ka6053)の台詞に双眼鏡で敵の行動を観察していたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が頷く。
強欲歪虚であるティオリオスが自信満々な様子で、遊水地に張った水の上を歩きから進んでくる。強敵であり、その力の奥底は知れない。
「今回は、あの竜へのリベンジより、防衛する事の方を念頭に置くよ」
「主目的は王城の城壁ですからね。守るのは得意です。……いつも通り、何とかしてみせましょう」
「なら、守りは任した。私は水から上がってくるだろう奴らを迎え撃つ」
アルトは錬介に告げると、駆け出した。
難敵ティオリオスに対応するハンターは決めてある。倒す必要がなく、足止めであればできるはずだ。
問題なのは突破を図る敵の数の方だ。軽く見積もってもハンター達の数倍はあるのだ。おまけに傲慢戦車や傲慢巨象は人よりも大きい。それなりに耐久力もあるはずだから、一撃で倒せないだろう。
「厄介な戦場だが、これも仕事ってね」
アースィファ(グリフォン)(ka4072unit001)の背に乗ったジャンク(ka4072)が敵の動きを上空から偵察していた。
といっても、全部を把握する事は出来ない。遊水地の透明度の問題以上に、敵が水底で巻き上げた汚泥のせいだ。
それでも浅い部分や陸地のある所に上がってきた敵の動きは把握できた。全身が入れなかった傲慢巨象の頭が並んで、ヌッヌと進んでくる光景は、ちょっとどころかかなり不気味でもある。眺めていると、やがて、それらの傲慢巨象も完全に水没した。
「まさか、そのまま直進だけしてくるなんて、な」
通信機で仲間達に敵の動きを伝える。
ジャックの予想では南北への迂回も考えたのだが、どうやら考えすぎだったようだ。
「何もこんなところから攻めてこなくともよいものですが……」
通信を受けたマッシュ・アクラシス(ka0771)がルクシュヴァリエの中で呟く。
よくよく思えば、敵には迂回する理由が無い。
水の中であれば刻令ゴーレム「Volucanius」の射撃攻撃は届かない。もし、届いたとしてもその威力は大幅に減退される。
生身の人間は長時間潜っていられないのもあり、戦術的なアドバンテージは絶対に歪虚側にあるのだ。
それを、傲慢歪虚が知らない訳がない。それに、迂回しようとした場合、細かな指示や足並みを揃えるのに苦労するだろう。単純かつ効率的な手段を敵が選んだに過ぎない。そういう意味では、傲慢歪虚との戦いは、純粋な殴り合いではないだろう。
「初動は南側に向かいますが、何かあれば連絡を」
嫌な予感がする――それが何か分からないが、マッシュはそう感じながら、ルクシュヴァリエを進ませた。
ゴーレムに壁を作らせている神楽が正面を見つめた。
正面は遊水地の中に通路のように続いている陸地と橋があるのだが、そこに敵が姿を現したからだ。
「陸地を進んでくるコースは早くやってきそうっす!」
他の群れは水中だが、正面だけは違った。
地上と水中での全力移動には差が生じる。途中、橋があるとはいえ、その差は歴然だろう。壁作りが間に合えばいいのだが……。
「いよいよ、来たか」
FightWithDream(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka6651unit006)に乗る南護 炎(ka6651)が気合を入れた。
ゴーレムであれCAMであれ、搭乗者は水中での息継ぎの心配はない。それは水際で戦う事とはいえ、大きな能力だった。もし、水の中で戦う事があれば、息継ぎの心配をしなくてはならないからだ。それが無いという事は、存分に剣を振るう事が出来るのだ。
敵襲に備え、央崎 遥華(ka5644)は仲間に魔法を使っていた。
水の上を歩けるようになる魔法だ。もっとも、水面が揺れたり動いたりしたら、立っていられない場合もあるが。それでも、こうした場面でも有効だろう。
「ウォーターウォークを掛けましたが無理はせずに」
「はい。少しでも勝たないと助命嘆願の機会もなくなっちゃうから」
宵待 サクラ(ka5561)は二十四郎(イェジド)(ka5561unit002)の背に乗りながら、言葉を返す。国が滅んでしまっては、嘆願先もなくなってしまうというもの。自分の行動に心の中でウンウンと肯定する。ここでの戦いの結果が、意味のあるものに繋がるようにと。
一方、サクラの台詞に遥華は首を傾げていた。
まぁ、色々な理由で戦っているのがハンターだし、あまり深入りする事でもないだろうと思うと気を取り直す。
「敵が王都の城壁を狙っているという事は、敵の狙いは当然、王城そのもの……行かせません」
遥華は胸を張って魔杖を構えた。
王城は幾重かの城壁で囲まれている。それらをどれだけ維持できるかは防衛上、大事な事だ。城壁があるのとないのとでは、防衛する時の戦術的なアドバンテージはもちろんのこと、防衛する兵士達の士気にも関わる。
「王都自体をまずは守らないと」
「全ての城壁を一気に突破される訳にはいかないからな。絶対に抜かせない!」
ハンター達の決意に対し、傲慢戦車が地上を猛スピードで走り、水の中へと飛び込んで行く。大きく上がる水柱。
水際での戦いが始まろうとしていた。
●
(水中は、静か……か。音も余程でなければ響かないしな)
frozenblood(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka0178unit008)に乗った龍崎・カズマ(ka0178)は疾影士としての能力で身を隠しながら水の中を進んでいた。
兎に角、まずは索敵しなければならない。空中からの偵察内容も入ってくるが、戦闘レベルという話になると、目視が必要になるからだ。
(やはり水底の堆積物を巻き上げているか)
視界の先は煙のように濁ってきていた。
それだけで大量の敵が迫ってきている事が容易に想像できる。だが、悲観する事ではない。見えにくいというのは敵にとっても同じ条件のはずなのだから。
水中を別のルクシュヴァリエが進んでいく。レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が乗ったものだ。イメージ通りに水中を進んでいく、いや、泳いでいくと言った方が適切だろうか。
「いい加減、王都に入られるのは止めたいからな。門前払いとさせてもらうぜ」
ルクシュヴァリエは対傲慢歪虚の切り札としての側面もある。
その力を存分に活かして、ここは戦闘を有利にしていきたい所だ。特に攻守に優れた魔法能力とスキルトレースは強みである。
「お前の力を示す良い機会だ。行くぞ、オレ専用ルクシュヴァリエ」
「ルクシュヴァリエは憑依だから溺れないけど、代わりにマテリアルの消耗がちょっぴり重いの……」
同じく刻騎ゴーレムに搭乗しているディーナ・フェルミ(ka5843)が言った。
普通に乗っている分に関していえば、CAMと大差ないだろうが、搭乗者の能力をトレースする仕組みによってはマテリアルを多く消耗する。
その分、強力な技や魔法を使えるのであるが……。
「……地道な作業になりそうなの」
ディーナは今回、回復魔法による支援と攻撃魔法を想定している。
あまり派手さはないかもしれないが、重要な役目である事に違いはないはずだ。
水中を移動しているのは、ルクシュヴァリエだけでは無かった。
「うぉぉぉ!!!」
水中を猛進するエストレリア・フーガ(マスティマ)(ka0038unit012)のコックピット内でキヅカ・リク(ka0038)が叫んでいた。
説明しよう! リアルブルーのアニメに影響されたキヅカが、勇ましく仁王立ちで登場した姿を、ことごとく、仲間から冷やかされた、その結果、やけくそでこのような状態に陥っていると!
言葉は不要。ポーズで煽る(キリッ という目的だったらしいが、ティオリオスからの反応は特に無かった。
「とりあえずは最も敵の濃い場所や敵が通過しそうな場所に!」
敵の方が、数多いのだ。もたもたしていると討伐する間もなく突破を許してしまうかもしれない。
キヅカの後を続くように、ジュード・エアハート(ka0410)が乗るディアーナ(R7エクスシア)(ka0410unit003)も水中を進んでいた。キヅカを励まそうという事ではない。彼なりに連携できる事があると思っての事だ。
マスティマと比べれば移動力に差があるが、キヅカの機体に隠れるように進んでいるので、これはこれで問題ないだろう。
「水の中だからこそ、敵の姿をいち早く見つけないとね」
機体のメインカメラがスキルリンカーによる力を受けて輝いた。
行使したのは猟撃士としての能力だ。水底から煙のように巻き上がった汚泥の中で、敵の動きを捉える。
「さーて、見えてきたかな。俺の目からは逃れないからね」
ジュードの認識にモニターが応え、次々に反応を示す。
どうやら、移動力がある傲慢戦車が横陣を組みながら迫ってきているようだ。車の形をしているようで、腕が生えて底を掻くように進んでいた。
敵姿とその動きの情報をジュードから通信機を通じて聞いた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は天禄(ワイバーン)(ka4009unit003)の首元を撫でた。初夏を感じさせるような風が頬を優しく撫でた。
「さて、仕事……か……征こうか、天禄」
蜜鈴の意図を読んで、天禄が大きく羽ばたく。穏やかな風はこれから、戦闘の激風へと変わるであろう。
水面近くを飛び、敵の動きを空中からも確認する。
合わせるように白縹(ペガサス)(ka0962unit004)に乗るルカ(ka0962)が近づいてきた。
彼女は蒼機弓から矢を放つ。発煙筒が括りつけられたそれは、橋のある陸地に突き刺さった。意図した事を行うつもりだったが……。
「効果はないですか」
「仕方ないのじゃ。それにしても、水面越しに見るもの程見難いモノは無いのう」
「私は支援主体で動いてきます」
二人は頷くとそれぞれが別の方向へと飛ぶ。
広い範囲を空中からカバーする事も敵の動きを把握し続ける以上は意味がある。
それに、魔法攻撃であれば水中でも届くのだ。敵の姿が確認できれば、空中から直接攻撃も可能だ。
遊水地の上を、ガルム(イェジド)(ka2434unit001)が立っていた。
その背に乗っているのはエルバッハ・リオン(ka2434)だ。ウォーターウォークの魔法でガルムに掛ける事で水の上でも行動できるようにしているのだ。ガルムは嬉しそうに水面を跳ねながら進む。
「私は接近していきますので。それと、先行しているのは傲慢戦車のようです」
水中射撃に対応していない重機関銃の代わりに錬金杖を手にする。
魔法攻撃であれば水中でも関係ない。遊水地の水深は魔法が届かないほど深い訳ではない。
「連絡ありがとうじゃん。それじゃ、俺は届き次第、打ち込んでいくよ」
皐月=A=カヤマ(ka3534)が水の中から顔を出した状態でエルバッハからの連絡に答えた。
彼が持っている蒼弓は特殊な弓であり、水の中でも矢が飛ぶのだ。
そんな訳で水中から遠距離射撃に徹するつもりで水中を泳いでいる。ちなみに彼が連れてきたイェジドは水際での迎撃戦を指示している。
「水の上に立ちたくなったら、言って下さいね」
「その時はよろしくじゃん!」
エルバッハの申し出に皐月は笑顔で答えると勢いよく、水の中へと潜る。まだ泳ぐには寒かったが、そんな事言っていられない状況だ。
敵の侵攻を止める為の手立てを、彼は彼なりに用意しているのであった。
●
遊水地の北側の通路のような陸地。その陸地に架かる橋が突然爆発した。
橋を渡ろうとした傲慢戦車が幾体も爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ。
「狙い通りですね」
鹿東が冷静な口調で戦果を告げる。
橋を爆破しても良いかどうか騎士団に確認したのは他ならぬ彼であった。
時間が無かったので橋に小細工する事は出来なかったが、ミグに砲撃要請したのだ。
「エターナルグランドスラムの名に恥じぬ砲撃戦をお見舞いしてやったのじゃ」
砲身にセットする大型の追加爆薬で放った一撃は、橋付近で大爆発を起こしたのだ。
その範囲も威力も、味方がいれば大惨事になってしまうが、要は使い方次第だ。傲慢戦車だったと思われる残骸が塵となって消えていく。
「かなりの数を撃破したようですが……まだ、やってきますね」
「陸地を走って来る分は撃ち続けるのじゃ」
土煙の奥から傲慢巨象が進んでくる。
橋があった場所は残骸で酷い事になっているが、傲慢巨象は障害物を乗り越えて走ってくる。
そこに再び大爆発が発生した。ミグ機からの圧倒的な火力が陸地を敵ごと更地へと変えているのだ。一番北側の敵戦力は相当数減ったはずだ。
「これはすげぇ砲撃だな」
グリフォンに騎乗し、戦況を確認しながらジャンクがそんな感想を口にした。爆風が届いているわけではないが、そんな気になってしまう。
確かに陸地を進む傲慢歪虚の数は激減している。
だが、それ以上に水中の方の状態が緊迫してきた。ミグ機の砲撃は射撃攻撃に分類される。それは水中へ適応していないのだ。いくら強力な攻撃でも届かなければ意味がない。
「射撃攻撃が届かないのは俺も同じだがな」
魔導銃からシーマンズボウに持ち替えてジャックは矢を番える。
この弓であれば、水中にも対応しているからだ。矢はマッシュが乗っているルクシュヴァリエを援護するように放たれた。
「ただ……真っ直ぐに向かって来るようですか」
マッシュはルクシュヴァリエを操作して一歩踏み込ませると勢いそのままに機甲槍を突き出した。ぐさりと貫く感触。傲慢巨象に槍が直撃すると負のマテリアルの塊みたいなものが襲い掛かってきた。傲慢歪虚特有の能力【懲罰】だ。
しかし、マッシュはそれを難なく避けた。
「敵は積極的な交戦よりも、突破を主眼としているようです」
反撃を警戒していたマッシュだが、敵はルクシュヴァリエを避けながら正面へと進んでいく。
その情報を受けて、水際で待ち構えているアルトは怪訝な表情を浮かべた。
「……そういう事か……」
法術刀を振り、ビシっと止める。
ハンターによって撃破されるのは覚悟の上なのだろう。
アルトは振り返ると、そこにはGnomeが作り出した壁が並んでいる。
「なるべく、早く討伐した方がいいか」
「なにか、気が付いた事が?」
同じように刻令ゴーレムに壁作りを指示していた錬介がアルトに訊ねる。
歴戦の戦士は錬介の問いに法術刀の先を遊水地へと向けた。色々と思う事、考える事あるだろうが、結局は敵を倒す事が大事だ。
「分かりました。敵を出来るだけ足止めしますよ」
「私もお手伝い致します。そろそろ、敵が近づいてきているようですし」
ユメリアはそう告げながら静かな歌を唄う。
マテリアルが広がっていく。その力は抵抗力を増す事が出来るのだ。
傲慢歪虚との戦いでは【強制】や【懲罰】の対策として有効の手段の一つだ。
「助かります、ユメリアさん」
支援を受けながら遥華が感謝の言葉を発した。
魔法は強力だからこそ、傲慢歪虚の能力に注意しなければならないからだ。特に範囲攻撃での複数体からの【懲罰】は要注意だ。
「そろそろ、敵が近づいてきているはずです」
「魔法が届く距離に来たら、どんどん撃ちますから」
二人の視線が水面へと向けられる。
水際で敵を待ち構えているのは、彼女らだけではない。
壁作りを指揮している神楽はワクワクしながらこれまで作ってきたものを確認する。ゴーレムが作った壁がずらーと並んでいる。
「ちょっとした長城のようっす!」
「ここまで出来ると、壮観だな」
南護が乗るルクシュヴァリエが退屈そうに斬艦刀を振り回した。
振るわれた武器が起こした風圧を肌で感じながら、神楽は胸を張る。
「後は、壁の間の空間に敵が寄ってきたら、詰まった所を撃破っす」
敵が侵入しやすい空間に集まってきたら、それで進撃スピードが落ちる。中には詰まって動けなくなる者も出るはずだ。
そこを一網打尽にする事が目論見だ。
「敵は必ず撃破する。早く、上がって来い!」
気合の声をあげた南護に応えるかのように、傲慢巨象が水の中からヌッと頭を出したのであった。
「ようやく来ましたね! 二十四郎!!」
サクラの呼び掛けにイェジドが大きく咆哮した。
壁の間の穴を簡単に突破できないように、身体とスキルを使って文字通り、封鎖するつもりだ。
「って、あれれ?」
思わず手で口元を抑えるサクラ。
わざと作られた壁間の空間に敵が殺到――しなかったからだった。
●
水中を進む傲慢巨象の動きを蜜鈴は空中から追い続けていた。
「はてさて……空の目が如何程に役立つか……顔見知りの傷つく様は見とう無い故な」
遊水地の透明度や舞い上がった汚泥のせいで100%の確認はできないが、大きな敵の姿の確認は空からでも可能だった。
幸いなのは敵が“真っ直ぐ”移動しているという事だ。変に迂回したり、可笑しな機動を取れば違っただろう。
「冷たき女王の腕。伸ばす御手より舞うは氷華。開く花弁に頭を垂れ、奪いし想いに懺悔せよ」
突き出した腕から放たれる氷華の魔法。
それが傲慢巨象を中心に広がった。途端、負のマテリアルが牙を剥く。まるで、蜜鈴を叩き落そうとするかのような反撃。
しかし、天禄は旋回すると苦も無く【懲罰】を避けた。
その様子を水面で見ていたエルバッハが、【懲罰】を放った傲慢巨象に対して魔法を行使する。
「確か、【懲罰】は何度も使えないはずです」
個体差はあるが、少なくともここに存在している傲慢巨象は、短時間の間に幾度も【懲罰】を使えない。ハンターが同名のリアクションスキルを一瞬の間に幾度も使えない事と同じだ。
エルバッハが放った風雷陣が傲慢巨象を撃ち抜き、消滅させた。
「敵の数が多いですね」
「それなら、私が……足止めを、やってみます」
ルカが白縹を水面スレスレに飛行させながらエルバッハの言葉に応える。
敵の射撃攻撃に対する調査の為、空高く飛んでいたのだが、ルカを狙う事がなかったので、降りてきたのだ。
「攻撃すれば……反撃は、してきそうですし」
【懲罰】は怖いが、対抗手段さえ確保できれば、脅威ではない。
先ほどからの戦闘の様子を確認し、ルカは念には念を入れて抵抗力を増す魔法も準備してきた。
プルガトリオの魔法を唱え、敵の移動を封じる。
今回の戦い、敵の移動や行動を封じる手段は有効だった。敵の狙いが城壁の突破であるなら、道中の無駄な戦闘は極力避けて、強引に戦場を抜けようとする。
これを防ぐには圧倒的な殲滅力で叩きのめすか、足止めしてからの多段的な攻撃で倒すかだ。魔法の効果を受けて移動が封じられると、ようやく、その場からハンターに対して攻撃するようになってきた。
(何とか足止めできれば……)
弓矢にマテリアルを流し、猟撃士としての力を行使続けていた皐月は、弓の射程に敵が入り次第、足止めに徹していた。
惜しむらくは強度が不足していた事だが、それでも、幾体かは足止めすると、それで敵の列が乱れる。
(今、じゃん)
水中では声を発する事ができないので、ハンドサインで仲間に伝える。
それを確認し、レイオスがルクシュヴァリエの機構を稼働させた。
機体に発生させたマテリアル障壁と共に、一直線に突き進むルクシュヴァリエ。幾体かの傲慢戦車を巻き込んで進む。
「戦車で水中を進むか。凄いのは分かるがそいつは悪手だぜ」
身動きができない傲慢戦車に対し、レイオスはゴーレムを直上へと移動させる。
リアルブルーで見かけた戦車とは形状は違うが、構造的には車体の真上や裏は弱いはずだ。
「これで、どうだ!」
斬魔刀で傲慢戦車を切り刻んでいく。
【懲罰】が反撃に放たれるが、ぐるんと体勢を捻じ曲げて避ける。
思った以上に敵の強度は低いようだ。だが、油断はできない。【強制】対策に対抗術式を準備しつつ、レイオスは攻撃を続けるのであった。
ショットナックルから放たれたマテリアルの拳に引かれるようにルクシュヴァリエが水中を一瞬で移動した。
水中では移動力に大幅な制限が出る。特に、メインのアクションを攻撃に費やすとサブアクションの移動に頼らざるを得ないからだ
「確実に数を減らすこと、移動力を奪うことが対多数での基本だし」
カズマは疾影士としての能力を最大限にゴーレムに活かしていた。
移動と攻撃の両立で傲慢歪虚を次々に攻撃していく。【懲罰】に対抗できるだけの準備があってこそだが。
疾影士とは本来、こうした不安定な戦場でこそ、真価を発揮するクラスなのかもしれない。
「それにしても敵の数が多い、か」
「私も攻撃に回った方がいいですの」
ディーナもゴーレムを操作させる。
敵の進撃スピードに、守勢に回るよりも攻勢に出た方が良いと判断したからだ。
手負いの傲慢戦車を狙って、ハンマーを振り下ろす。
ベコ! っと傲慢戦車の身体が深く抉れると【懲罰】を放つ間もなく崩れ去っていく。
相手を倒せば【懲罰】は来ない。となると、カズマが傷つけていった残りを一気に倒してしまえば。
「どんどん倒していくですのー」
ゴーレムから光の波動が水中へと解き放たれた。
この戦いで大事だった事は『移動力』『殲滅力』そして、汚泥が巻き上がった水中での『索敵』だった。
水中対応班はそういう視点で見ると、首の皮一枚で繋がっていた。
「かなりの数を倒しているはずなんだけど……」
キヅカはパネルを直感的に叩く。エストレリア・フーガの翼が広がり、ブレイズウィングが一斉に射出した。
それは水中でも自我を持ったように飛翔して傲慢歪虚に突き刺さる。
射撃攻撃ではなく、大精霊の演算能力にて放つ魔法スキルの一種だから可能な攻撃だ。
「撃ち漏らしは俺が叩くから、リク君は遠慮したらだめだよ」
「それなら、お願いしようかな」
ジュードからの連絡にキヅカは応えると、モニターに映る敵を次々とロックオンしていく。
ブレイズウィングは6枚射出するが、それで同一個体を狙わず、出来るだけ多くの敵を巻き込む方針に切り替えた。
頼める仲間がいるからこそ、成立する戦術だ。
マスティマの圧倒的な攻撃に合わせるよう、スラスターを全開して最適な攻撃位置に移動するジュード。
「……目標までの距離、方向……仲間の位置……よしっ!」
覚悟を決めて、機体が持つ砲から紫色のビームが放たれ、傲慢歪虚共を貫いた。
●
水際でも水中でも戦いが佳境に入ろうとしていた事、強欲歪虚であるティオリオスとの戦いはハンター側に有利に進んでいた。
「くそ……やっぱり、上手く戦えねぇか」
悔しそうに水面に漂いながら、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が呟いた。
不幸な事にユニットの手配が半端だったのか、ボルディアのゴーレムは届かなかった。
故に生身で戦う事になったのだが、泳ぎながらの時点で既に色々と不足しているのは確かだった。
「だったらよ、これならどうだ!」
幻影で作り出した腕を伸ばして、水面に立つ、ティオリオスを掴もうとした。
「水なんか掴んでどうした?」
「くっそ。【水壁】はこんな効果もあるのかよ!」
ティオリオスの周囲を包むように広がる【水壁】は攻撃だけではなく、個人を対象とした能力にも効果があるようあ。
それが分かっただけでも、大きな収穫ではあるのだが……。
「なんだか奇妙な盤面……に見えるけど……」
戦いの行方に十色 エニア(ka0370)がグラム(オファニム)(ka0370unit002)のモニター越しに言うと、機体を加速させる。
ティオリオスに取り巻きはいない。だから、攻撃を集中できる。
プラズマキャノンの強力な一撃が【水壁】を1枚吹き飛ばす。
「また、それ……なかなか狙った所に当たらない」
「何度やっても同じ事だ」
余裕の表情を浮かべて、長い青髪を手で抑えるティオリオス。
【水壁】の能力を突破するには、同じ個所に立て続けに狙わらないといけない。
だが、それが難しい。敵は止まっている訳ではないのだ。狙えば確実に当たるという保証はない。
そんなティオリオスを符の結界が包んだ。
ルクちゃん(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka5852unit008)に乗る星野 ハナ(ka5852)が放った符術だ。
ストーンサークルはスキルトレースの対象外だったが、ダブルキャストは有効だった。
「2回攻撃できるようになったら。2回攻撃が必要な敵とかちょうどいいですぅ」
「連続攻撃か。だとしても、当たる部位は毎回同じ場所とは限らん!」
「だとしても【水壁】は消費しますぅ。それでは、撃破目指して頑張りましょぉ、ルクちゃん」
「小癪な真似を」
徐々に剥がされていく【水壁】。
剥がされればそれだけ、続く攻撃が本体に当たりやすくなる。
ティオリオス自身も【水壁】がある所に狙って攻撃を受ける事はできないようだ。
「こんなものではないだろう!」
猛烈な高圧の水流、それも幾本にもなり、豪雨のようにハンター達を襲う。
その猛攻の中を掻い潜って時音 ざくろ(ka1250)が魔動冒険王『グランソード』(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka1250unit008)に乗って迫る。
「過去のあれが引き金だというなら、彼奴には彼奴の正義があるのだと思う……」
ざくろはティオリオスを廻る過去へと神霊樹ダイブしていた。
結局、詳細までは把握できなかったが、海を汚す人間に対する恨みがあるのは予想できた。
「でも、だからといって、ここを行かせるわけには行かない!」
「それこそ、我が宿敵だ。掛かって来るがいい!」
「ざくろには、ざくろの護りたいものが有る! 一刀両断スーパーリヒトカイザー!」
ゴーレムとティオリオスが打ち合い、強烈な衝撃波が水面を揺らした。
初見で戦った時よりも、ハンター達は成長し、また、ティオリオスの情報を得ている。
倒す事は出来なくとも戦闘中、ティオリオスを大暴れさせない事はできるはずだ。
「このまま抑え込めれば……」
「幾らでも符術は使えるのですぅ」
ざくろのゴーレムが正面で踏ん張る中、エニア機とハナのゴーレムが猛攻を続ける。
【水壁】は全て吹き飛んだ。だが、ティオリオスからは慌てる様子は見えない。
「これはどうやら、変身しなくてはならないな」
「無駄ですよぉ。ゴーレムやCAMは呼吸の必要ないのです」
「チッ……メンドクセェ戦い方を……」
ボルディアが泳いで退避する。このままこの空間に漂っていては危険だからだ。
それに、水際に戻ってもやる事はあるのだ。
仲間の退避を確認し、ルクシュヴァリエに乗るUisca Amhran(ka0754)がティオリオスの正面へと回った。
「海を汚す人を懲らしめるのは反対しません。でも、海を汚したのがヒトだからと、無差別にヒトを攻撃するのは『ヒーロー』のする事ですか?」
「俺は『ヒーロー』ではない。『ダークヒーロー』だ。それに、言っておく。“全ての滅び”を願ったのはヒトだ」
変身するポーズのまま、ティオリオスはUiscaの声掛けに答えた。
その言葉に、ざくろはハッとした。
「まさか、“全ての滅び”を願ったのは……」
ティオリオスその人だったのだろう。
ハンター達が介入したせいで、神霊樹ダイブ上では真実までは到達しなかった。
しかし、想像は出来た。全てを失った青年は、全ての滅びを願ったのだ。そして、それを受け入れたのだろう。
「ナーシャさんは恋人の復讐なんて望んでいないと思う……だから、彼女に代わって貴方を止めますっ! ティオリオスさん……いえ、海龍の精霊さん!」
「そこまで分かっているのなら、もはや、何も言うまい。止められるものなら止めてみろ! へ・ん・し・ん!」
全方位に発せられる水色のマテリアルの光が出現し、集束するようにティオリオスを包む。
直立したような竜の姿――は一瞬の事、再び、ティオリオスは片腕を高々と突き上げた。
「さぁ、贖罪の刻だ」
集束した水色のマテリアルが外に向かって放たれた。
大きな咆哮と共に、ティオリオスの身体が巨大化していく。
「これが、ティオリオスの真の姿?」
「こ、これって、りゅ、竜ですぅ!?」
エニアとハナが驚きの声をあげた。
ハンター達の前に現れたのは傲慢巨象よりも一回り大きい、巨大な水竜の姿だった。
●
(ライブラリで出会ったティオリオスさんは、普通の人だった。ちょっと変わった性格をしていたのは精霊の方で正解でしたね)
Uiscaは心の中で推測が正しかったと思った。
心優しき海龍の精霊は、絶望した一人の青年の想いを叶えようとしているだけだ。
恐らく、青年は自分の全てを――姿も名前も――捧げたのだろう。
「私がナーシャさんだったら……同じ巫女として私の想い、伝えたい……」
滅び合うだけでは何も生まない。
それに、ナーシャはきっと、こんな結末を望んではいなかったはずだ。
「止めてみせます!」
「がぁぁぁぁぁ!!!」
そんなUiscaの決意を聞きながら、ティオリオスは叫ぶ。
直後、遊水地の水面より上の空間が、一気に水中へと置き換わった。
ティオリオスの特殊能力【水棺】だ。
「ちょっと、範囲が広いって」
「これは、水竜の姿で使っただけあって、効果範囲が広がってる?」
エニアとざくろがざっと確認する。これは今まで判明している【水棺】よりも更に広がっているようだ。
水中対応班が離れているので、影響はないが、これが、陸地だったらと思うと身の毛がよだつ。
「気後れしてる場合じゃないね。この子の利点は……」
気を取り直してエニアが機体の武装を選択する。
水中では射撃武器がほぼ不適用になるが、魔法攻撃であれば問題ない。機体がマテリアルの残影を残しつつ、照準を合わす。
「ざくろも合わすよ!」
二人から放たれたマテリアルライフルとヒカリアレは一直線に飛び、水竜を直撃した。
威力はそこそこあったはずだ。通りが悪いのか、それとも、ただ耐久力があるのか、水竜はビクともしていない。
「もしかしなくても……危ない状況ですぅ?」
繰り返し、五色光符陣を放っていたハナが呟いた。
ハンター達は傲慢歪虚との戦いに戦力を割り振っていた。今、この場のハンターだけで、ティオリオスを抑えるのは、難しいかもしれない。
「……符術も、もう使えませんし」
「私が前に立ちます」
ルクシュヴァリエを水竜の正面へと移動させるUisca。
傲慢対策に回復魔法を多くセットしてきた意味があった。
要は、時間を稼げればいいのだ。傲慢歪虚を退けたら、ティオリオスがこの場で戦い続ける意味はない。
「ぐごぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
水の中というのに叫び響く、水竜の怒声。
直後の事だった。水竜の死角から、ヒカリアレの刃が放たれた。
それは水中対応班に回っていたカズマのルクシュヴァリエから撃たれたものだった。ティオリオスが真の力を見せたので、援護に回ってきたのだろう。比較的近くで戦っていたというのもある。
「水竜に事情があるとは分かった。だが……」
一気に距離を詰めるカズマ。
接近に気が付いた水竜が長い尻尾を振り回すが水底に突っ込むように避けると、反転、急浮上して、大太刀を突き立てた。
「俺は、明日を創らない歪虚――おまえら――を滅ぼすためにいるんだから」
その一撃は水竜にとって重たい一撃になったようだ。
水流は怒り狂った様子で水の流れに干渉する。集束していく水圧……だが、それが放たれる前に、人機一体を使用して強引にも機動力を上げたジュードの機体がスラスター全開でキヅカ機を押していた。
「この水流操作……きっと、水竜の仕業だよ」
「通じるかどうか分からないが、最接近する!」
「リク君、いっけぇ!」
押し出されるように、水中の中を進むキヅカの機体。
ティオリオスが高水圧を全周囲に向かって撃ち出そうとした力に対し、エストレリア・フーガが因果律を不可思議に操作した。
「危なかった……?」
何か途轍もない一撃が放たれそうだっただけに、安堵するキヅカ。
一方の水竜の意識は攻撃を無力化された事よりも、水際での戦いに注意を向けていた。
「…………」
幾体かは傲慢歪虚が戦闘区域を突破しているようだ。
当初の目的を果たしたと判断し、ティオリオスは水の中というのに、翼を広げると撤退していった。
本気で戦う時は今ではない。立ち去り際、振り返った水竜の瞳が、そう告げていた。
●
幾人かがティオリオス対応に回ったが、傲慢歪虚の移動に合わせて水中対応班も戦っていた。
足止めは有効だったが、如何せん、敵の数が多かった。反省があるとすれば、水中対応の戦力が不足していたという点だろうか。
「傲慢……貴様等を滅ぼせと願う妾の想いも、貴様等と変わらぬ傲慢なのじゃろうか?」
「そんな事はないはずです……。私達は……守る為に、戦っているのですから」
蜜鈴の疑問に合流したルカが答える。
この戦いの結果が、次にどのような状況を生み出すのか、分からない。
それでも、分かっている事はある。それは、戦う理由が傲慢とは別にあるのだと。
「水際まで来たので、結界を作って……足止めしてみます」
「ならば、妾は持てる最大の攻撃を続けるだけじゃ」
「時間稼ぎ程度には……」
ペガサスから発生した光の結界が傲慢歪虚の行く手を塞ぐ。それで壁を目指す傲慢歪虚の動きが止まる訳ではない。
結界を迂回しようと動いた形が、無意識のうちに列と化した。
そこを狙って、意識を集中させた蜜鈴の電撃魔法が傲慢歪虚を貫いた。
「抜かせはせぬよ。喩えこの身が朱に塗れようともな」
数体からの【懲罰】を避けながら、再び攻撃体勢に入った。
幾度目の息継ぎで水面に顔を出した皐月は水際で戦っていた自身のイェジドを呼ぶ。
陸地に近づいて水深は浅くなっているからだ。傲慢巨象なんかは水面から既に頭が出ている状態になっている。
「足止めするじゃん」
敵の足元に矢を撃ち込み、マテリアルの力で足止めを狙った。
だが、やはり強度が低くて、確実とはいえない。
正面に迫ってきた傲慢巨象にエルバッハが割って入る。
「【懲罰】は面倒ですね。とはいえ、全力攻撃をしてこちらが倒れるような馬鹿な真似は晒したくないですから仕方ないです」
敵の知能は低くはなく、人語も理解しているはずだ。
だから挑発の言葉を掛けて【懲罰】を誘発させようとした。
「……【懲罰】を使ってこない?」
強力な魔法を放ったが、傲慢巨象は【懲罰】を使ってこなかった。
「そっか。敵も使いどころのタイミングは選べるって事じゃん」
皐月の射撃攻撃に対しても傲慢巨象は反撃してこない。
今一度、説明すると、【懲罰】はハンターで言う所のリアクションスキルに該当する。
ハンターがスキルを使うかどうか“選択”できるように、傲慢巨象もどこで使うか“選択”できるのだ。
一つのラウンドに使える回数が決まっているが故に、無計画に力を行使して来ないのは、傲慢巨象に知能があるとも示していた。
「一撃で倒れなければ、遠慮する事ないですのー!」
「そういう事だ!」
ディーナのゴーレムが幾重にもマテリアルのオーラで強化された光の刃を放ち、マテリアルの障壁に包まれたレイオスのルクシュヴァリエが傲慢の列に突撃する。
【懲罰】を回避……あるいは受け、抵抗して二体のゴーレムは、ここでの敵の突破を阻止する。
「次に行くのですのー」
「無駄に数だけは多いからな。連携して確実に落としていくしかない」
これ以上、水際へ行かせる訳にはいかない。
仲間からの通信に応じ、戦力の不足している場所へハンター達は向かった。
●
「あ、やっぱ無理っす。たっけてーっす!」
神楽が悲鳴を上げたが、崩壊する壁の音に紛れて遠くには響かなかった。
水際に壁を並べて、敵の上陸を足止めしつつ、わざと空けた空間に敵を誘導しようと思った彼の作戦は頓挫していた。
「ほ、ほら、修理の時間っす! 時間は稼ぐっす~!」
その戦術自体、特に悪い発想では無かった。
戦場で敵の進撃を阻害させる為の障害物設置は理に適っているし、それだけのゴーレムも準備したのだから。問題があるとすれば……。
「流石に、広すぎたようですね」
慌てる神楽の前に錬介が庇うように立った。
水中対応班ではカバーしきれなかった敵が上陸してくるが、範囲が広すぎた。
南北に広い展開しては壁の修復も間に合わない。移動と修復は同時にはできないのだ。
「それに、敵も敵で、やはり、傲慢歪虚といった所でしょうか」
傲慢戦車の突撃を聖盾剣で受け止める錬介の横を別の傲慢戦車が抜けていく。
敵の目的は城壁の破壊。ハンター達との積極的な戦闘ではない。故に、障害物が壊せるのだと判断すれば、壁の間に空いた空間へ向かう事はない。
既に幾体かの敵の突破を許している状況だ。後は城壁がどの程度まで保つかによる……。
「王都の守りはそんなに弱くはないと信じていますけどね」
破軍を操作して鹿東は傲慢巨象を強引に遊水地へと叩き落した。
しかし、倒さない限り、また岸に上がって来るのは確実だ。
「作戦の煮詰めが、若干不足していたのかもしれません」
水際での戦いも悪くはなかった。作った壁は破壊されるが、補修すれば簡単には抜けられないのだから。
この作戦で戦うのであれば、水中対応班と水際対応班の、それぞれが、重点を置いて戦う場所を決めておけば良かったのかもしれない。
例えば、橋側のある北側の敵と、完全に水中である南側と分けていれば、敵の突破を完全に阻止できたかもしれない。
「陸上にさえ、上がっていれば、弓でなくても構わないって事か」
ジャンクがアースィファの背で装備を持ち帰ると、魔導銃の銃口を傲慢巨象へと向ける。
壁を破壊して突破しようとしている、まさにその時、ジャックの射撃がマテリアルの弾幕となって降り注ぐ。
「よし、動きが止まったぞ」
「【懲罰】が来ないなら、遠慮は無用ですね」
仲間の援護にマッシュがゴーレムを操作する。
イメージ通りにルクシュヴァリエは槍を構えると、マテリアルの光刃を放った。
「突破を許してしまいましたが、これ以上は許しません」
戦況を冷静に見ながら、マッシュは脳裏にゴーレムの動きを浮かべる。
これほどの規模での戦闘が完全試合で終わるだろうと王国軍だって考えていないはずだ。
想定している損害よりも低く抑えれば――ハンター達の勝ちともいえる。
回復魔法で仲間を支援しつつ、ユメリアは傲慢戦車の前に立ち塞がった。
これ以上の突破は許されないと感じたからだ。
「膝をついても心が折れない限り、支えてみせます!」
圧し潰そうと迫る傲慢戦車を吹き飛ばしたのは南護だった。
ルクシュヴァリエがマテリアルの光を集束した一瞬、猛烈な刃となって放たれた。
「絶対に突破はさせない。敵をまとめて薙ぎ払う!」
「ありがとうございます……ですが、また、新手が上がって来ます」
「数が多いが、まだ戦える!」
ユメリアから支援魔法を受けつつ、南護はルクシュヴァリエを構えさせた。
水底から勢いをつけて向かってくる傲慢巨象を受け止める。
敵の頭部を魔導銃の弾丸が貫く。
「ウェルカム&バイ」
流暢な外国語で告げて魔導銃を放ったのは遥華だった。
そのまま駆け寄りながら、ギアブレイドの機構を操作すると、接近戦に挑む。
「敵の意識がこちらに向きました。今ですよ、サクラさん」
「いっきますよー!」
二十四郎に乗ったままサクラが水際から飛び出すと、傲慢巨象に聖罰刃繰り出す。
刀身を素早く切り返し、斬撃を続ける傷を負っていた事もあり、ボロボロと消滅していく。
壁が出来ていない所に上陸し、特に立ち塞がるハンターもいない最南側の傲慢歪虚。
それを黙って見過ごす程、ハンターは甘くはない。ミグ機の長距離砲撃が、それらの傲慢歪虚を吹き飛ばした。
「陸地にさえ上がってしまえば、単なる的じゃ」
グランドスラムは強力な攻撃であると同時に敵味方の区別がない。
使いどころが悩ましいが、この状況下にあっては頼もしい砲撃となっていた。
「超遠距離のようじゃと【懲罰】も届かないようじゃしな。撃ち放題じゃ!」
ミグが強気になるのは、厄介な反撃である【懲罰】の射程外という事もある。
サイズが大きい場合、範囲攻撃は多段ヒットするが、それがそのまま返ってくる【懲罰】だった場合は致命傷になり得る。
しかし、そもそもの有効距離外ならば、その心配はないのだ。
水際での戦いで大事なのは殲滅力となっていた。
壁を修復するには限度がある以上、僅かでも足が遅れた敵を速やかに倒すだけの力。それが求められていたのだ。
当然の事ながら、殲滅力を上げると【懲罰】の餌食になるリスクもあるので、そこは、バランスの取りようだろう。
「それにしても、最近は空中や水上のような場所での戦いが多いな。地に足をつけて戦いたいものだ」
宙を疾走しつつ、法術刀を振り回し、鬼神の如き戦いをアルトは続けていた。
予想していた【懲罰】は回避も抵抗も対策しているので、問題はほとんどなかった。
水際での移動手段の確保も大きな意味があった。空渡があれば敵の巨体の頭上を駆けていける。
「……城壁を突破させるという事は、この後に来る、か……」
手が届くうちの敵を殲滅し、アルトは王城の方へと視線を向けた。
土煙が上がっている。恐らく、外側の城壁は崩されているだろう。
まさか、傲慢歪虚が城壁を壊しただけで引き下がるとは思えない。
「いよいよ、決戦か……」
戦士としての勘が、そう言っていた。
ハンター達の作戦は完全には成り立つ事は無かったが、それぞれの力が敵の討伐に大きな貢献を果たした。
王城を取り巻く城壁の幾つかは突破されたが、王都防衛が絶望的という状況にはならない程度であった。
おしまい。
●
ティオリオスは人間体の姿に戻ると、ミュール(kz0259)が率いる軍に合流した。
その規模は圧倒的な戦力だ。はっきり言って、ミュールが連れてきたシャトランジの軍勢だけで、王都を制圧する事も可能だろう。
「王都の外側の城壁は破壊できたはずだ」
「ありがとう! さっすが、ティオリオス! イヴ様のペットなだけあるね!」
いつもの言い草に、しかし、彼は反論しなかった。
分かっている事だ。イヴにとって、自身は家畜に過ぎないし、ミュールは単なる堕落者であると。
ペットのように愛玩するつもりも、絶対なる主従関係がある訳でもない。
単なる“駒”だ、と。だが、それをミュールに告げる義理もない。いや、告げた所で、この幼女が可哀想なだけだ。
「次は王都に行くだろうけど……ティオリオスはどうするの?」
「……邪魔でなければいく」
同情だ。この幼女も自分……の元となった青年と似ている。
ヒトに絶望したからこそ、今の立場に立っている。
「来てもいいけど、やたらめったら壊さないでね。あの城はイヴ様のものなんだから」
「分かっている。ちょっと遊んでやるだけだ」
次はハンター達も本気で立ち塞がるはずだ。
その時、ミュールがどう戦うか。それを見届けてやろうと、ティオリオスは思うのであった。
遊水地に張られた河川の水は見るだけで膨大という事は現地ですぐに確認できた。
遠く、対岸に姿を現した傲慢歪虚が次々に遊水地の中へと潜っていく。
「やれやれ、数に任せての強行突破ですか……単純かつ非効率ですが……この場合、効果的ではありますね」
破軍(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka0725unit004)の中で、鹿東 悠(ka0725)が敵の動きを見て、そんな感想を口にした。
戦闘において数というのは戦力として有効な手段の一つだ。
それが水中から一斉に迫ってくるのだ。息継ぎの必要がない歪虚だからこその戦術と言えよう。
「ま……脳筋ばかりではないでしょうけどね。張れる網は張っておきましょう……ミグさんの方はどうですか?」
「敵が堀を突っ切ってくることくらい先刻、お見通しじゃが。やはり、排水は難しいようじゃな」
強烈な一撃を撃ち込む前に敵が水中へと姿を消した事を確認し、ミグ・ロマイヤー(ka0665)が愛機ヤクト・バウ・PC(ダインスレイブ)(ka0665unit008)のコントロールパネルを軽快に叩き、設定を再調整する。
遊水地である以上、水門操作ができれば水位を下げる事ができるのではないかと思っていたのだ。
水を全部抜く事ができなくとも、僅かでも……という希望は、王都を防衛する騎士から思わぬ返事で頓挫した。
「ユメリア殿が当たってくれたようじゃが、水門が開けられないなら、それでやるしかないからのぅ」
「水門の操作には、特別な道具を使って操作する仕組みとの事です」
ミグの台詞にユメリア(ka7010)が応える。水門操作は、防衛と防犯上の理由により、その管理は厳重だった。
もし、アルテミス小隊が参加していれば、王都防衛の騎士達との調整は可能だったかもしれないが……居ないものは仕方ない。
それに、水門操作できたとしても、これだけ大きな遊水地である。水位が下がる前に戦闘が終了している可能性もあるし、急激に水位を下げる事で発生する影響もあるかもしれない。
ユメリアは振り返ると王城の城壁を見つめた。
あの城壁の向こう側には避難が進められているとはいえ、多くの人々がいるのだ。
そして、そんな人々を守ろうとする戦士達がいる。
(戦士達のその想いを守るため、私も戦います)
心の中で誓うと彼女は星弓を握り締めた。
「最近、土木作業ばっかっすね~」
神楽(ka2032)が刻令ゴーレム「Gnome」の作業風景を目にしていた。幾台かの刻令ゴーレムが一心不乱に作業用のマニュピレータを忙しく動かしている。結果、出来上がるのは簡易的な構造物の壁だ。
これを水際に作って並べているのだ。
掛矢鬼六(刻令ゴーレム「Gnome」)(ka6053unit002)など別のハンターが手配したゴーレムも壁作りに勤しんでいる。
「ついにここまで来ましたか……なかなか、厳しい戦ですね」
鳳城 錬介(ka6053)の台詞に双眼鏡で敵の行動を観察していたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が頷く。
強欲歪虚であるティオリオスが自信満々な様子で、遊水地に張った水の上を歩きから進んでくる。強敵であり、その力の奥底は知れない。
「今回は、あの竜へのリベンジより、防衛する事の方を念頭に置くよ」
「主目的は王城の城壁ですからね。守るのは得意です。……いつも通り、何とかしてみせましょう」
「なら、守りは任した。私は水から上がってくるだろう奴らを迎え撃つ」
アルトは錬介に告げると、駆け出した。
難敵ティオリオスに対応するハンターは決めてある。倒す必要がなく、足止めであればできるはずだ。
問題なのは突破を図る敵の数の方だ。軽く見積もってもハンター達の数倍はあるのだ。おまけに傲慢戦車や傲慢巨象は人よりも大きい。それなりに耐久力もあるはずだから、一撃で倒せないだろう。
「厄介な戦場だが、これも仕事ってね」
アースィファ(グリフォン)(ka4072unit001)の背に乗ったジャンク(ka4072)が敵の動きを上空から偵察していた。
といっても、全部を把握する事は出来ない。遊水地の透明度の問題以上に、敵が水底で巻き上げた汚泥のせいだ。
それでも浅い部分や陸地のある所に上がってきた敵の動きは把握できた。全身が入れなかった傲慢巨象の頭が並んで、ヌッヌと進んでくる光景は、ちょっとどころかかなり不気味でもある。眺めていると、やがて、それらの傲慢巨象も完全に水没した。
「まさか、そのまま直進だけしてくるなんて、な」
通信機で仲間達に敵の動きを伝える。
ジャックの予想では南北への迂回も考えたのだが、どうやら考えすぎだったようだ。
「何もこんなところから攻めてこなくともよいものですが……」
通信を受けたマッシュ・アクラシス(ka0771)がルクシュヴァリエの中で呟く。
よくよく思えば、敵には迂回する理由が無い。
水の中であれば刻令ゴーレム「Volucanius」の射撃攻撃は届かない。もし、届いたとしてもその威力は大幅に減退される。
生身の人間は長時間潜っていられないのもあり、戦術的なアドバンテージは絶対に歪虚側にあるのだ。
それを、傲慢歪虚が知らない訳がない。それに、迂回しようとした場合、細かな指示や足並みを揃えるのに苦労するだろう。単純かつ効率的な手段を敵が選んだに過ぎない。そういう意味では、傲慢歪虚との戦いは、純粋な殴り合いではないだろう。
「初動は南側に向かいますが、何かあれば連絡を」
嫌な予感がする――それが何か分からないが、マッシュはそう感じながら、ルクシュヴァリエを進ませた。
ゴーレムに壁を作らせている神楽が正面を見つめた。
正面は遊水地の中に通路のように続いている陸地と橋があるのだが、そこに敵が姿を現したからだ。
「陸地を進んでくるコースは早くやってきそうっす!」
他の群れは水中だが、正面だけは違った。
地上と水中での全力移動には差が生じる。途中、橋があるとはいえ、その差は歴然だろう。壁作りが間に合えばいいのだが……。
「いよいよ、来たか」
FightWithDream(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka6651unit006)に乗る南護 炎(ka6651)が気合を入れた。
ゴーレムであれCAMであれ、搭乗者は水中での息継ぎの心配はない。それは水際で戦う事とはいえ、大きな能力だった。もし、水の中で戦う事があれば、息継ぎの心配をしなくてはならないからだ。それが無いという事は、存分に剣を振るう事が出来るのだ。
敵襲に備え、央崎 遥華(ka5644)は仲間に魔法を使っていた。
水の上を歩けるようになる魔法だ。もっとも、水面が揺れたり動いたりしたら、立っていられない場合もあるが。それでも、こうした場面でも有効だろう。
「ウォーターウォークを掛けましたが無理はせずに」
「はい。少しでも勝たないと助命嘆願の機会もなくなっちゃうから」
宵待 サクラ(ka5561)は二十四郎(イェジド)(ka5561unit002)の背に乗りながら、言葉を返す。国が滅んでしまっては、嘆願先もなくなってしまうというもの。自分の行動に心の中でウンウンと肯定する。ここでの戦いの結果が、意味のあるものに繋がるようにと。
一方、サクラの台詞に遥華は首を傾げていた。
まぁ、色々な理由で戦っているのがハンターだし、あまり深入りする事でもないだろうと思うと気を取り直す。
「敵が王都の城壁を狙っているという事は、敵の狙いは当然、王城そのもの……行かせません」
遥華は胸を張って魔杖を構えた。
王城は幾重かの城壁で囲まれている。それらをどれだけ維持できるかは防衛上、大事な事だ。城壁があるのとないのとでは、防衛する時の戦術的なアドバンテージはもちろんのこと、防衛する兵士達の士気にも関わる。
「王都自体をまずは守らないと」
「全ての城壁を一気に突破される訳にはいかないからな。絶対に抜かせない!」
ハンター達の決意に対し、傲慢戦車が地上を猛スピードで走り、水の中へと飛び込んで行く。大きく上がる水柱。
水際での戦いが始まろうとしていた。
●
(水中は、静か……か。音も余程でなければ響かないしな)
frozenblood(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka0178unit008)に乗った龍崎・カズマ(ka0178)は疾影士としての能力で身を隠しながら水の中を進んでいた。
兎に角、まずは索敵しなければならない。空中からの偵察内容も入ってくるが、戦闘レベルという話になると、目視が必要になるからだ。
(やはり水底の堆積物を巻き上げているか)
視界の先は煙のように濁ってきていた。
それだけで大量の敵が迫ってきている事が容易に想像できる。だが、悲観する事ではない。見えにくいというのは敵にとっても同じ条件のはずなのだから。
水中を別のルクシュヴァリエが進んでいく。レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が乗ったものだ。イメージ通りに水中を進んでいく、いや、泳いでいくと言った方が適切だろうか。
「いい加減、王都に入られるのは止めたいからな。門前払いとさせてもらうぜ」
ルクシュヴァリエは対傲慢歪虚の切り札としての側面もある。
その力を存分に活かして、ここは戦闘を有利にしていきたい所だ。特に攻守に優れた魔法能力とスキルトレースは強みである。
「お前の力を示す良い機会だ。行くぞ、オレ専用ルクシュヴァリエ」
「ルクシュヴァリエは憑依だから溺れないけど、代わりにマテリアルの消耗がちょっぴり重いの……」
同じく刻騎ゴーレムに搭乗しているディーナ・フェルミ(ka5843)が言った。
普通に乗っている分に関していえば、CAMと大差ないだろうが、搭乗者の能力をトレースする仕組みによってはマテリアルを多く消耗する。
その分、強力な技や魔法を使えるのであるが……。
「……地道な作業になりそうなの」
ディーナは今回、回復魔法による支援と攻撃魔法を想定している。
あまり派手さはないかもしれないが、重要な役目である事に違いはないはずだ。
水中を移動しているのは、ルクシュヴァリエだけでは無かった。
「うぉぉぉ!!!」
水中を猛進するエストレリア・フーガ(マスティマ)(ka0038unit012)のコックピット内でキヅカ・リク(ka0038)が叫んでいた。
説明しよう! リアルブルーのアニメに影響されたキヅカが、勇ましく仁王立ちで登場した姿を、ことごとく、仲間から冷やかされた、その結果、やけくそでこのような状態に陥っていると!
言葉は不要。ポーズで煽る(キリッ という目的だったらしいが、ティオリオスからの反応は特に無かった。
「とりあえずは最も敵の濃い場所や敵が通過しそうな場所に!」
敵の方が、数多いのだ。もたもたしていると討伐する間もなく突破を許してしまうかもしれない。
キヅカの後を続くように、ジュード・エアハート(ka0410)が乗るディアーナ(R7エクスシア)(ka0410unit003)も水中を進んでいた。キヅカを励まそうという事ではない。彼なりに連携できる事があると思っての事だ。
マスティマと比べれば移動力に差があるが、キヅカの機体に隠れるように進んでいるので、これはこれで問題ないだろう。
「水の中だからこそ、敵の姿をいち早く見つけないとね」
機体のメインカメラがスキルリンカーによる力を受けて輝いた。
行使したのは猟撃士としての能力だ。水底から煙のように巻き上がった汚泥の中で、敵の動きを捉える。
「さーて、見えてきたかな。俺の目からは逃れないからね」
ジュードの認識にモニターが応え、次々に反応を示す。
どうやら、移動力がある傲慢戦車が横陣を組みながら迫ってきているようだ。車の形をしているようで、腕が生えて底を掻くように進んでいた。
敵姿とその動きの情報をジュードから通信機を通じて聞いた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は天禄(ワイバーン)(ka4009unit003)の首元を撫でた。初夏を感じさせるような風が頬を優しく撫でた。
「さて、仕事……か……征こうか、天禄」
蜜鈴の意図を読んで、天禄が大きく羽ばたく。穏やかな風はこれから、戦闘の激風へと変わるであろう。
水面近くを飛び、敵の動きを空中からも確認する。
合わせるように白縹(ペガサス)(ka0962unit004)に乗るルカ(ka0962)が近づいてきた。
彼女は蒼機弓から矢を放つ。発煙筒が括りつけられたそれは、橋のある陸地に突き刺さった。意図した事を行うつもりだったが……。
「効果はないですか」
「仕方ないのじゃ。それにしても、水面越しに見るもの程見難いモノは無いのう」
「私は支援主体で動いてきます」
二人は頷くとそれぞれが別の方向へと飛ぶ。
広い範囲を空中からカバーする事も敵の動きを把握し続ける以上は意味がある。
それに、魔法攻撃であれば水中でも届くのだ。敵の姿が確認できれば、空中から直接攻撃も可能だ。
遊水地の上を、ガルム(イェジド)(ka2434unit001)が立っていた。
その背に乗っているのはエルバッハ・リオン(ka2434)だ。ウォーターウォークの魔法でガルムに掛ける事で水の上でも行動できるようにしているのだ。ガルムは嬉しそうに水面を跳ねながら進む。
「私は接近していきますので。それと、先行しているのは傲慢戦車のようです」
水中射撃に対応していない重機関銃の代わりに錬金杖を手にする。
魔法攻撃であれば水中でも関係ない。遊水地の水深は魔法が届かないほど深い訳ではない。
「連絡ありがとうじゃん。それじゃ、俺は届き次第、打ち込んでいくよ」
皐月=A=カヤマ(ka3534)が水の中から顔を出した状態でエルバッハからの連絡に答えた。
彼が持っている蒼弓は特殊な弓であり、水の中でも矢が飛ぶのだ。
そんな訳で水中から遠距離射撃に徹するつもりで水中を泳いでいる。ちなみに彼が連れてきたイェジドは水際での迎撃戦を指示している。
「水の上に立ちたくなったら、言って下さいね」
「その時はよろしくじゃん!」
エルバッハの申し出に皐月は笑顔で答えると勢いよく、水の中へと潜る。まだ泳ぐには寒かったが、そんな事言っていられない状況だ。
敵の侵攻を止める為の手立てを、彼は彼なりに用意しているのであった。
●
遊水地の北側の通路のような陸地。その陸地に架かる橋が突然爆発した。
橋を渡ろうとした傲慢戦車が幾体も爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ。
「狙い通りですね」
鹿東が冷静な口調で戦果を告げる。
橋を爆破しても良いかどうか騎士団に確認したのは他ならぬ彼であった。
時間が無かったので橋に小細工する事は出来なかったが、ミグに砲撃要請したのだ。
「エターナルグランドスラムの名に恥じぬ砲撃戦をお見舞いしてやったのじゃ」
砲身にセットする大型の追加爆薬で放った一撃は、橋付近で大爆発を起こしたのだ。
その範囲も威力も、味方がいれば大惨事になってしまうが、要は使い方次第だ。傲慢戦車だったと思われる残骸が塵となって消えていく。
「かなりの数を撃破したようですが……まだ、やってきますね」
「陸地を走って来る分は撃ち続けるのじゃ」
土煙の奥から傲慢巨象が進んでくる。
橋があった場所は残骸で酷い事になっているが、傲慢巨象は障害物を乗り越えて走ってくる。
そこに再び大爆発が発生した。ミグ機からの圧倒的な火力が陸地を敵ごと更地へと変えているのだ。一番北側の敵戦力は相当数減ったはずだ。
「これはすげぇ砲撃だな」
グリフォンに騎乗し、戦況を確認しながらジャンクがそんな感想を口にした。爆風が届いているわけではないが、そんな気になってしまう。
確かに陸地を進む傲慢歪虚の数は激減している。
だが、それ以上に水中の方の状態が緊迫してきた。ミグ機の砲撃は射撃攻撃に分類される。それは水中へ適応していないのだ。いくら強力な攻撃でも届かなければ意味がない。
「射撃攻撃が届かないのは俺も同じだがな」
魔導銃からシーマンズボウに持ち替えてジャックは矢を番える。
この弓であれば、水中にも対応しているからだ。矢はマッシュが乗っているルクシュヴァリエを援護するように放たれた。
「ただ……真っ直ぐに向かって来るようですか」
マッシュはルクシュヴァリエを操作して一歩踏み込ませると勢いそのままに機甲槍を突き出した。ぐさりと貫く感触。傲慢巨象に槍が直撃すると負のマテリアルの塊みたいなものが襲い掛かってきた。傲慢歪虚特有の能力【懲罰】だ。
しかし、マッシュはそれを難なく避けた。
「敵は積極的な交戦よりも、突破を主眼としているようです」
反撃を警戒していたマッシュだが、敵はルクシュヴァリエを避けながら正面へと進んでいく。
その情報を受けて、水際で待ち構えているアルトは怪訝な表情を浮かべた。
「……そういう事か……」
法術刀を振り、ビシっと止める。
ハンターによって撃破されるのは覚悟の上なのだろう。
アルトは振り返ると、そこにはGnomeが作り出した壁が並んでいる。
「なるべく、早く討伐した方がいいか」
「なにか、気が付いた事が?」
同じように刻令ゴーレムに壁作りを指示していた錬介がアルトに訊ねる。
歴戦の戦士は錬介の問いに法術刀の先を遊水地へと向けた。色々と思う事、考える事あるだろうが、結局は敵を倒す事が大事だ。
「分かりました。敵を出来るだけ足止めしますよ」
「私もお手伝い致します。そろそろ、敵が近づいてきているようですし」
ユメリアはそう告げながら静かな歌を唄う。
マテリアルが広がっていく。その力は抵抗力を増す事が出来るのだ。
傲慢歪虚との戦いでは【強制】や【懲罰】の対策として有効の手段の一つだ。
「助かります、ユメリアさん」
支援を受けながら遥華が感謝の言葉を発した。
魔法は強力だからこそ、傲慢歪虚の能力に注意しなければならないからだ。特に範囲攻撃での複数体からの【懲罰】は要注意だ。
「そろそろ、敵が近づいてきているはずです」
「魔法が届く距離に来たら、どんどん撃ちますから」
二人の視線が水面へと向けられる。
水際で敵を待ち構えているのは、彼女らだけではない。
壁作りを指揮している神楽はワクワクしながらこれまで作ってきたものを確認する。ゴーレムが作った壁がずらーと並んでいる。
「ちょっとした長城のようっす!」
「ここまで出来ると、壮観だな」
南護が乗るルクシュヴァリエが退屈そうに斬艦刀を振り回した。
振るわれた武器が起こした風圧を肌で感じながら、神楽は胸を張る。
「後は、壁の間の空間に敵が寄ってきたら、詰まった所を撃破っす」
敵が侵入しやすい空間に集まってきたら、それで進撃スピードが落ちる。中には詰まって動けなくなる者も出るはずだ。
そこを一網打尽にする事が目論見だ。
「敵は必ず撃破する。早く、上がって来い!」
気合の声をあげた南護に応えるかのように、傲慢巨象が水の中からヌッと頭を出したのであった。
「ようやく来ましたね! 二十四郎!!」
サクラの呼び掛けにイェジドが大きく咆哮した。
壁の間の穴を簡単に突破できないように、身体とスキルを使って文字通り、封鎖するつもりだ。
「って、あれれ?」
思わず手で口元を抑えるサクラ。
わざと作られた壁間の空間に敵が殺到――しなかったからだった。
●
水中を進む傲慢巨象の動きを蜜鈴は空中から追い続けていた。
「はてさて……空の目が如何程に役立つか……顔見知りの傷つく様は見とう無い故な」
遊水地の透明度や舞い上がった汚泥のせいで100%の確認はできないが、大きな敵の姿の確認は空からでも可能だった。
幸いなのは敵が“真っ直ぐ”移動しているという事だ。変に迂回したり、可笑しな機動を取れば違っただろう。
「冷たき女王の腕。伸ばす御手より舞うは氷華。開く花弁に頭を垂れ、奪いし想いに懺悔せよ」
突き出した腕から放たれる氷華の魔法。
それが傲慢巨象を中心に広がった。途端、負のマテリアルが牙を剥く。まるで、蜜鈴を叩き落そうとするかのような反撃。
しかし、天禄は旋回すると苦も無く【懲罰】を避けた。
その様子を水面で見ていたエルバッハが、【懲罰】を放った傲慢巨象に対して魔法を行使する。
「確か、【懲罰】は何度も使えないはずです」
個体差はあるが、少なくともここに存在している傲慢巨象は、短時間の間に幾度も【懲罰】を使えない。ハンターが同名のリアクションスキルを一瞬の間に幾度も使えない事と同じだ。
エルバッハが放った風雷陣が傲慢巨象を撃ち抜き、消滅させた。
「敵の数が多いですね」
「それなら、私が……足止めを、やってみます」
ルカが白縹を水面スレスレに飛行させながらエルバッハの言葉に応える。
敵の射撃攻撃に対する調査の為、空高く飛んでいたのだが、ルカを狙う事がなかったので、降りてきたのだ。
「攻撃すれば……反撃は、してきそうですし」
【懲罰】は怖いが、対抗手段さえ確保できれば、脅威ではない。
先ほどからの戦闘の様子を確認し、ルカは念には念を入れて抵抗力を増す魔法も準備してきた。
プルガトリオの魔法を唱え、敵の移動を封じる。
今回の戦い、敵の移動や行動を封じる手段は有効だった。敵の狙いが城壁の突破であるなら、道中の無駄な戦闘は極力避けて、強引に戦場を抜けようとする。
これを防ぐには圧倒的な殲滅力で叩きのめすか、足止めしてからの多段的な攻撃で倒すかだ。魔法の効果を受けて移動が封じられると、ようやく、その場からハンターに対して攻撃するようになってきた。
(何とか足止めできれば……)
弓矢にマテリアルを流し、猟撃士としての力を行使続けていた皐月は、弓の射程に敵が入り次第、足止めに徹していた。
惜しむらくは強度が不足していた事だが、それでも、幾体かは足止めすると、それで敵の列が乱れる。
(今、じゃん)
水中では声を発する事ができないので、ハンドサインで仲間に伝える。
それを確認し、レイオスがルクシュヴァリエの機構を稼働させた。
機体に発生させたマテリアル障壁と共に、一直線に突き進むルクシュヴァリエ。幾体かの傲慢戦車を巻き込んで進む。
「戦車で水中を進むか。凄いのは分かるがそいつは悪手だぜ」
身動きができない傲慢戦車に対し、レイオスはゴーレムを直上へと移動させる。
リアルブルーで見かけた戦車とは形状は違うが、構造的には車体の真上や裏は弱いはずだ。
「これで、どうだ!」
斬魔刀で傲慢戦車を切り刻んでいく。
【懲罰】が反撃に放たれるが、ぐるんと体勢を捻じ曲げて避ける。
思った以上に敵の強度は低いようだ。だが、油断はできない。【強制】対策に対抗術式を準備しつつ、レイオスは攻撃を続けるのであった。
ショットナックルから放たれたマテリアルの拳に引かれるようにルクシュヴァリエが水中を一瞬で移動した。
水中では移動力に大幅な制限が出る。特に、メインのアクションを攻撃に費やすとサブアクションの移動に頼らざるを得ないからだ
「確実に数を減らすこと、移動力を奪うことが対多数での基本だし」
カズマは疾影士としての能力を最大限にゴーレムに活かしていた。
移動と攻撃の両立で傲慢歪虚を次々に攻撃していく。【懲罰】に対抗できるだけの準備があってこそだが。
疾影士とは本来、こうした不安定な戦場でこそ、真価を発揮するクラスなのかもしれない。
「それにしても敵の数が多い、か」
「私も攻撃に回った方がいいですの」
ディーナもゴーレムを操作させる。
敵の進撃スピードに、守勢に回るよりも攻勢に出た方が良いと判断したからだ。
手負いの傲慢戦車を狙って、ハンマーを振り下ろす。
ベコ! っと傲慢戦車の身体が深く抉れると【懲罰】を放つ間もなく崩れ去っていく。
相手を倒せば【懲罰】は来ない。となると、カズマが傷つけていった残りを一気に倒してしまえば。
「どんどん倒していくですのー」
ゴーレムから光の波動が水中へと解き放たれた。
この戦いで大事だった事は『移動力』『殲滅力』そして、汚泥が巻き上がった水中での『索敵』だった。
水中対応班はそういう視点で見ると、首の皮一枚で繋がっていた。
「かなりの数を倒しているはずなんだけど……」
キヅカはパネルを直感的に叩く。エストレリア・フーガの翼が広がり、ブレイズウィングが一斉に射出した。
それは水中でも自我を持ったように飛翔して傲慢歪虚に突き刺さる。
射撃攻撃ではなく、大精霊の演算能力にて放つ魔法スキルの一種だから可能な攻撃だ。
「撃ち漏らしは俺が叩くから、リク君は遠慮したらだめだよ」
「それなら、お願いしようかな」
ジュードからの連絡にキヅカは応えると、モニターに映る敵を次々とロックオンしていく。
ブレイズウィングは6枚射出するが、それで同一個体を狙わず、出来るだけ多くの敵を巻き込む方針に切り替えた。
頼める仲間がいるからこそ、成立する戦術だ。
マスティマの圧倒的な攻撃に合わせるよう、スラスターを全開して最適な攻撃位置に移動するジュード。
「……目標までの距離、方向……仲間の位置……よしっ!」
覚悟を決めて、機体が持つ砲から紫色のビームが放たれ、傲慢歪虚共を貫いた。
●
水際でも水中でも戦いが佳境に入ろうとしていた事、強欲歪虚であるティオリオスとの戦いはハンター側に有利に進んでいた。
「くそ……やっぱり、上手く戦えねぇか」
悔しそうに水面に漂いながら、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が呟いた。
不幸な事にユニットの手配が半端だったのか、ボルディアのゴーレムは届かなかった。
故に生身で戦う事になったのだが、泳ぎながらの時点で既に色々と不足しているのは確かだった。
「だったらよ、これならどうだ!」
幻影で作り出した腕を伸ばして、水面に立つ、ティオリオスを掴もうとした。
「水なんか掴んでどうした?」
「くっそ。【水壁】はこんな効果もあるのかよ!」
ティオリオスの周囲を包むように広がる【水壁】は攻撃だけではなく、個人を対象とした能力にも効果があるようあ。
それが分かっただけでも、大きな収穫ではあるのだが……。
「なんだか奇妙な盤面……に見えるけど……」
戦いの行方に十色 エニア(ka0370)がグラム(オファニム)(ka0370unit002)のモニター越しに言うと、機体を加速させる。
ティオリオスに取り巻きはいない。だから、攻撃を集中できる。
プラズマキャノンの強力な一撃が【水壁】を1枚吹き飛ばす。
「また、それ……なかなか狙った所に当たらない」
「何度やっても同じ事だ」
余裕の表情を浮かべて、長い青髪を手で抑えるティオリオス。
【水壁】の能力を突破するには、同じ個所に立て続けに狙わらないといけない。
だが、それが難しい。敵は止まっている訳ではないのだ。狙えば確実に当たるという保証はない。
そんなティオリオスを符の結界が包んだ。
ルクちゃん(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka5852unit008)に乗る星野 ハナ(ka5852)が放った符術だ。
ストーンサークルはスキルトレースの対象外だったが、ダブルキャストは有効だった。
「2回攻撃できるようになったら。2回攻撃が必要な敵とかちょうどいいですぅ」
「連続攻撃か。だとしても、当たる部位は毎回同じ場所とは限らん!」
「だとしても【水壁】は消費しますぅ。それでは、撃破目指して頑張りましょぉ、ルクちゃん」
「小癪な真似を」
徐々に剥がされていく【水壁】。
剥がされればそれだけ、続く攻撃が本体に当たりやすくなる。
ティオリオス自身も【水壁】がある所に狙って攻撃を受ける事はできないようだ。
「こんなものではないだろう!」
猛烈な高圧の水流、それも幾本にもなり、豪雨のようにハンター達を襲う。
その猛攻の中を掻い潜って時音 ざくろ(ka1250)が魔動冒険王『グランソード』(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka1250unit008)に乗って迫る。
「過去のあれが引き金だというなら、彼奴には彼奴の正義があるのだと思う……」
ざくろはティオリオスを廻る過去へと神霊樹ダイブしていた。
結局、詳細までは把握できなかったが、海を汚す人間に対する恨みがあるのは予想できた。
「でも、だからといって、ここを行かせるわけには行かない!」
「それこそ、我が宿敵だ。掛かって来るがいい!」
「ざくろには、ざくろの護りたいものが有る! 一刀両断スーパーリヒトカイザー!」
ゴーレムとティオリオスが打ち合い、強烈な衝撃波が水面を揺らした。
初見で戦った時よりも、ハンター達は成長し、また、ティオリオスの情報を得ている。
倒す事は出来なくとも戦闘中、ティオリオスを大暴れさせない事はできるはずだ。
「このまま抑え込めれば……」
「幾らでも符術は使えるのですぅ」
ざくろのゴーレムが正面で踏ん張る中、エニア機とハナのゴーレムが猛攻を続ける。
【水壁】は全て吹き飛んだ。だが、ティオリオスからは慌てる様子は見えない。
「これはどうやら、変身しなくてはならないな」
「無駄ですよぉ。ゴーレムやCAMは呼吸の必要ないのです」
「チッ……メンドクセェ戦い方を……」
ボルディアが泳いで退避する。このままこの空間に漂っていては危険だからだ。
それに、水際に戻ってもやる事はあるのだ。
仲間の退避を確認し、ルクシュヴァリエに乗るUisca Amhran(ka0754)がティオリオスの正面へと回った。
「海を汚す人を懲らしめるのは反対しません。でも、海を汚したのがヒトだからと、無差別にヒトを攻撃するのは『ヒーロー』のする事ですか?」
「俺は『ヒーロー』ではない。『ダークヒーロー』だ。それに、言っておく。“全ての滅び”を願ったのはヒトだ」
変身するポーズのまま、ティオリオスはUiscaの声掛けに答えた。
その言葉に、ざくろはハッとした。
「まさか、“全ての滅び”を願ったのは……」
ティオリオスその人だったのだろう。
ハンター達が介入したせいで、神霊樹ダイブ上では真実までは到達しなかった。
しかし、想像は出来た。全てを失った青年は、全ての滅びを願ったのだ。そして、それを受け入れたのだろう。
「ナーシャさんは恋人の復讐なんて望んでいないと思う……だから、彼女に代わって貴方を止めますっ! ティオリオスさん……いえ、海龍の精霊さん!」
「そこまで分かっているのなら、もはや、何も言うまい。止められるものなら止めてみろ! へ・ん・し・ん!」
全方位に発せられる水色のマテリアルの光が出現し、集束するようにティオリオスを包む。
直立したような竜の姿――は一瞬の事、再び、ティオリオスは片腕を高々と突き上げた。
「さぁ、贖罪の刻だ」
集束した水色のマテリアルが外に向かって放たれた。
大きな咆哮と共に、ティオリオスの身体が巨大化していく。
「これが、ティオリオスの真の姿?」
「こ、これって、りゅ、竜ですぅ!?」
エニアとハナが驚きの声をあげた。
ハンター達の前に現れたのは傲慢巨象よりも一回り大きい、巨大な水竜の姿だった。
●
(ライブラリで出会ったティオリオスさんは、普通の人だった。ちょっと変わった性格をしていたのは精霊の方で正解でしたね)
Uiscaは心の中で推測が正しかったと思った。
心優しき海龍の精霊は、絶望した一人の青年の想いを叶えようとしているだけだ。
恐らく、青年は自分の全てを――姿も名前も――捧げたのだろう。
「私がナーシャさんだったら……同じ巫女として私の想い、伝えたい……」
滅び合うだけでは何も生まない。
それに、ナーシャはきっと、こんな結末を望んではいなかったはずだ。
「止めてみせます!」
「がぁぁぁぁぁ!!!」
そんなUiscaの決意を聞きながら、ティオリオスは叫ぶ。
直後、遊水地の水面より上の空間が、一気に水中へと置き換わった。
ティオリオスの特殊能力【水棺】だ。
「ちょっと、範囲が広いって」
「これは、水竜の姿で使っただけあって、効果範囲が広がってる?」
エニアとざくろがざっと確認する。これは今まで判明している【水棺】よりも更に広がっているようだ。
水中対応班が離れているので、影響はないが、これが、陸地だったらと思うと身の毛がよだつ。
「気後れしてる場合じゃないね。この子の利点は……」
気を取り直してエニアが機体の武装を選択する。
水中では射撃武器がほぼ不適用になるが、魔法攻撃であれば問題ない。機体がマテリアルの残影を残しつつ、照準を合わす。
「ざくろも合わすよ!」
二人から放たれたマテリアルライフルとヒカリアレは一直線に飛び、水竜を直撃した。
威力はそこそこあったはずだ。通りが悪いのか、それとも、ただ耐久力があるのか、水竜はビクともしていない。
「もしかしなくても……危ない状況ですぅ?」
繰り返し、五色光符陣を放っていたハナが呟いた。
ハンター達は傲慢歪虚との戦いに戦力を割り振っていた。今、この場のハンターだけで、ティオリオスを抑えるのは、難しいかもしれない。
「……符術も、もう使えませんし」
「私が前に立ちます」
ルクシュヴァリエを水竜の正面へと移動させるUisca。
傲慢対策に回復魔法を多くセットしてきた意味があった。
要は、時間を稼げればいいのだ。傲慢歪虚を退けたら、ティオリオスがこの場で戦い続ける意味はない。
「ぐごぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
水の中というのに叫び響く、水竜の怒声。
直後の事だった。水竜の死角から、ヒカリアレの刃が放たれた。
それは水中対応班に回っていたカズマのルクシュヴァリエから撃たれたものだった。ティオリオスが真の力を見せたので、援護に回ってきたのだろう。比較的近くで戦っていたというのもある。
「水竜に事情があるとは分かった。だが……」
一気に距離を詰めるカズマ。
接近に気が付いた水竜が長い尻尾を振り回すが水底に突っ込むように避けると、反転、急浮上して、大太刀を突き立てた。
「俺は、明日を創らない歪虚――おまえら――を滅ぼすためにいるんだから」
その一撃は水竜にとって重たい一撃になったようだ。
水流は怒り狂った様子で水の流れに干渉する。集束していく水圧……だが、それが放たれる前に、人機一体を使用して強引にも機動力を上げたジュードの機体がスラスター全開でキヅカ機を押していた。
「この水流操作……きっと、水竜の仕業だよ」
「通じるかどうか分からないが、最接近する!」
「リク君、いっけぇ!」
押し出されるように、水中の中を進むキヅカの機体。
ティオリオスが高水圧を全周囲に向かって撃ち出そうとした力に対し、エストレリア・フーガが因果律を不可思議に操作した。
「危なかった……?」
何か途轍もない一撃が放たれそうだっただけに、安堵するキヅカ。
一方の水竜の意識は攻撃を無力化された事よりも、水際での戦いに注意を向けていた。
「…………」
幾体かは傲慢歪虚が戦闘区域を突破しているようだ。
当初の目的を果たしたと判断し、ティオリオスは水の中というのに、翼を広げると撤退していった。
本気で戦う時は今ではない。立ち去り際、振り返った水竜の瞳が、そう告げていた。
●
幾人かがティオリオス対応に回ったが、傲慢歪虚の移動に合わせて水中対応班も戦っていた。
足止めは有効だったが、如何せん、敵の数が多かった。反省があるとすれば、水中対応の戦力が不足していたという点だろうか。
「傲慢……貴様等を滅ぼせと願う妾の想いも、貴様等と変わらぬ傲慢なのじゃろうか?」
「そんな事はないはずです……。私達は……守る為に、戦っているのですから」
蜜鈴の疑問に合流したルカが答える。
この戦いの結果が、次にどのような状況を生み出すのか、分からない。
それでも、分かっている事はある。それは、戦う理由が傲慢とは別にあるのだと。
「水際まで来たので、結界を作って……足止めしてみます」
「ならば、妾は持てる最大の攻撃を続けるだけじゃ」
「時間稼ぎ程度には……」
ペガサスから発生した光の結界が傲慢歪虚の行く手を塞ぐ。それで壁を目指す傲慢歪虚の動きが止まる訳ではない。
結界を迂回しようと動いた形が、無意識のうちに列と化した。
そこを狙って、意識を集中させた蜜鈴の電撃魔法が傲慢歪虚を貫いた。
「抜かせはせぬよ。喩えこの身が朱に塗れようともな」
数体からの【懲罰】を避けながら、再び攻撃体勢に入った。
幾度目の息継ぎで水面に顔を出した皐月は水際で戦っていた自身のイェジドを呼ぶ。
陸地に近づいて水深は浅くなっているからだ。傲慢巨象なんかは水面から既に頭が出ている状態になっている。
「足止めするじゃん」
敵の足元に矢を撃ち込み、マテリアルの力で足止めを狙った。
だが、やはり強度が低くて、確実とはいえない。
正面に迫ってきた傲慢巨象にエルバッハが割って入る。
「【懲罰】は面倒ですね。とはいえ、全力攻撃をしてこちらが倒れるような馬鹿な真似は晒したくないですから仕方ないです」
敵の知能は低くはなく、人語も理解しているはずだ。
だから挑発の言葉を掛けて【懲罰】を誘発させようとした。
「……【懲罰】を使ってこない?」
強力な魔法を放ったが、傲慢巨象は【懲罰】を使ってこなかった。
「そっか。敵も使いどころのタイミングは選べるって事じゃん」
皐月の射撃攻撃に対しても傲慢巨象は反撃してこない。
今一度、説明すると、【懲罰】はハンターで言う所のリアクションスキルに該当する。
ハンターがスキルを使うかどうか“選択”できるように、傲慢巨象もどこで使うか“選択”できるのだ。
一つのラウンドに使える回数が決まっているが故に、無計画に力を行使して来ないのは、傲慢巨象に知能があるとも示していた。
「一撃で倒れなければ、遠慮する事ないですのー!」
「そういう事だ!」
ディーナのゴーレムが幾重にもマテリアルのオーラで強化された光の刃を放ち、マテリアルの障壁に包まれたレイオスのルクシュヴァリエが傲慢の列に突撃する。
【懲罰】を回避……あるいは受け、抵抗して二体のゴーレムは、ここでの敵の突破を阻止する。
「次に行くのですのー」
「無駄に数だけは多いからな。連携して確実に落としていくしかない」
これ以上、水際へ行かせる訳にはいかない。
仲間からの通信に応じ、戦力の不足している場所へハンター達は向かった。
●
「あ、やっぱ無理っす。たっけてーっす!」
神楽が悲鳴を上げたが、崩壊する壁の音に紛れて遠くには響かなかった。
水際に壁を並べて、敵の上陸を足止めしつつ、わざと空けた空間に敵を誘導しようと思った彼の作戦は頓挫していた。
「ほ、ほら、修理の時間っす! 時間は稼ぐっす~!」
その戦術自体、特に悪い発想では無かった。
戦場で敵の進撃を阻害させる為の障害物設置は理に適っているし、それだけのゴーレムも準備したのだから。問題があるとすれば……。
「流石に、広すぎたようですね」
慌てる神楽の前に錬介が庇うように立った。
水中対応班ではカバーしきれなかった敵が上陸してくるが、範囲が広すぎた。
南北に広い展開しては壁の修復も間に合わない。移動と修復は同時にはできないのだ。
「それに、敵も敵で、やはり、傲慢歪虚といった所でしょうか」
傲慢戦車の突撃を聖盾剣で受け止める錬介の横を別の傲慢戦車が抜けていく。
敵の目的は城壁の破壊。ハンター達との積極的な戦闘ではない。故に、障害物が壊せるのだと判断すれば、壁の間に空いた空間へ向かう事はない。
既に幾体かの敵の突破を許している状況だ。後は城壁がどの程度まで保つかによる……。
「王都の守りはそんなに弱くはないと信じていますけどね」
破軍を操作して鹿東は傲慢巨象を強引に遊水地へと叩き落した。
しかし、倒さない限り、また岸に上がって来るのは確実だ。
「作戦の煮詰めが、若干不足していたのかもしれません」
水際での戦いも悪くはなかった。作った壁は破壊されるが、補修すれば簡単には抜けられないのだから。
この作戦で戦うのであれば、水中対応班と水際対応班の、それぞれが、重点を置いて戦う場所を決めておけば良かったのかもしれない。
例えば、橋側のある北側の敵と、完全に水中である南側と分けていれば、敵の突破を完全に阻止できたかもしれない。
「陸上にさえ、上がっていれば、弓でなくても構わないって事か」
ジャンクがアースィファの背で装備を持ち帰ると、魔導銃の銃口を傲慢巨象へと向ける。
壁を破壊して突破しようとしている、まさにその時、ジャックの射撃がマテリアルの弾幕となって降り注ぐ。
「よし、動きが止まったぞ」
「【懲罰】が来ないなら、遠慮は無用ですね」
仲間の援護にマッシュがゴーレムを操作する。
イメージ通りにルクシュヴァリエは槍を構えると、マテリアルの光刃を放った。
「突破を許してしまいましたが、これ以上は許しません」
戦況を冷静に見ながら、マッシュは脳裏にゴーレムの動きを浮かべる。
これほどの規模での戦闘が完全試合で終わるだろうと王国軍だって考えていないはずだ。
想定している損害よりも低く抑えれば――ハンター達の勝ちともいえる。
回復魔法で仲間を支援しつつ、ユメリアは傲慢戦車の前に立ち塞がった。
これ以上の突破は許されないと感じたからだ。
「膝をついても心が折れない限り、支えてみせます!」
圧し潰そうと迫る傲慢戦車を吹き飛ばしたのは南護だった。
ルクシュヴァリエがマテリアルの光を集束した一瞬、猛烈な刃となって放たれた。
「絶対に突破はさせない。敵をまとめて薙ぎ払う!」
「ありがとうございます……ですが、また、新手が上がって来ます」
「数が多いが、まだ戦える!」
ユメリアから支援魔法を受けつつ、南護はルクシュヴァリエを構えさせた。
水底から勢いをつけて向かってくる傲慢巨象を受け止める。
敵の頭部を魔導銃の弾丸が貫く。
「ウェルカム&バイ」
流暢な外国語で告げて魔導銃を放ったのは遥華だった。
そのまま駆け寄りながら、ギアブレイドの機構を操作すると、接近戦に挑む。
「敵の意識がこちらに向きました。今ですよ、サクラさん」
「いっきますよー!」
二十四郎に乗ったままサクラが水際から飛び出すと、傲慢巨象に聖罰刃繰り出す。
刀身を素早く切り返し、斬撃を続ける傷を負っていた事もあり、ボロボロと消滅していく。
壁が出来ていない所に上陸し、特に立ち塞がるハンターもいない最南側の傲慢歪虚。
それを黙って見過ごす程、ハンターは甘くはない。ミグ機の長距離砲撃が、それらの傲慢歪虚を吹き飛ばした。
「陸地にさえ上がってしまえば、単なる的じゃ」
グランドスラムは強力な攻撃であると同時に敵味方の区別がない。
使いどころが悩ましいが、この状況下にあっては頼もしい砲撃となっていた。
「超遠距離のようじゃと【懲罰】も届かないようじゃしな。撃ち放題じゃ!」
ミグが強気になるのは、厄介な反撃である【懲罰】の射程外という事もある。
サイズが大きい場合、範囲攻撃は多段ヒットするが、それがそのまま返ってくる【懲罰】だった場合は致命傷になり得る。
しかし、そもそもの有効距離外ならば、その心配はないのだ。
水際での戦いで大事なのは殲滅力となっていた。
壁を修復するには限度がある以上、僅かでも足が遅れた敵を速やかに倒すだけの力。それが求められていたのだ。
当然の事ながら、殲滅力を上げると【懲罰】の餌食になるリスクもあるので、そこは、バランスの取りようだろう。
「それにしても、最近は空中や水上のような場所での戦いが多いな。地に足をつけて戦いたいものだ」
宙を疾走しつつ、法術刀を振り回し、鬼神の如き戦いをアルトは続けていた。
予想していた【懲罰】は回避も抵抗も対策しているので、問題はほとんどなかった。
水際での移動手段の確保も大きな意味があった。空渡があれば敵の巨体の頭上を駆けていける。
「……城壁を突破させるという事は、この後に来る、か……」
手が届くうちの敵を殲滅し、アルトは王城の方へと視線を向けた。
土煙が上がっている。恐らく、外側の城壁は崩されているだろう。
まさか、傲慢歪虚が城壁を壊しただけで引き下がるとは思えない。
「いよいよ、決戦か……」
戦士としての勘が、そう言っていた。
ハンター達の作戦は完全には成り立つ事は無かったが、それぞれの力が敵の討伐に大きな貢献を果たした。
王城を取り巻く城壁の幾つかは突破されたが、王都防衛が絶望的という状況にはならない程度であった。
おしまい。
●
ティオリオスは人間体の姿に戻ると、ミュール(kz0259)が率いる軍に合流した。
その規模は圧倒的な戦力だ。はっきり言って、ミュールが連れてきたシャトランジの軍勢だけで、王都を制圧する事も可能だろう。
「王都の外側の城壁は破壊できたはずだ」
「ありがとう! さっすが、ティオリオス! イヴ様のペットなだけあるね!」
いつもの言い草に、しかし、彼は反論しなかった。
分かっている事だ。イヴにとって、自身は家畜に過ぎないし、ミュールは単なる堕落者であると。
ペットのように愛玩するつもりも、絶対なる主従関係がある訳でもない。
単なる“駒”だ、と。だが、それをミュールに告げる義理もない。いや、告げた所で、この幼女が可哀想なだけだ。
「次は王都に行くだろうけど……ティオリオスはどうするの?」
「……邪魔でなければいく」
同情だ。この幼女も自分……の元となった青年と似ている。
ヒトに絶望したからこそ、今の立場に立っている。
「来てもいいけど、やたらめったら壊さないでね。あの城はイヴ様のものなんだから」
「分かっている。ちょっと遊んでやるだけだ」
次はハンター達も本気で立ち塞がるはずだ。
その時、ミュールがどう戦うか。それを見届けてやろうと、ティオリオスは思うのであった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/05/10 13:36:49 |
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【相談卓】 Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/05/11 08:28:07 |