• 血断

【血断】Marble Color

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/26 19:00
完成日
2019/05/28 10:07

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●花の精霊の選択

 ここは帝国自然公園の管理小屋。
 フィー・フローレ(kz0255)は軍人を問い詰めて集めた情報をを読み返すと小さくため息を吐いた。
(怖イ子ヲ退治スルノカ、怖イ子ノ言ウコトヲ聞クノカ、
 ソレトモ私達ノ存在ヲ使ッテ怖イ子ヲ封印スルノカ……トッテモ難シイ問題ナノネ)
 これは選択権のない精霊に過ぎない彼女にとっても、ひどく悩ましい問題だ。
 何しろ邪神ファナティックブラッドの討伐には決して少なくはない犠牲を覚悟しなければならない。
 今まで出会ってきた「友達」がいなくなるのは嫌だ。
 でも邪神に従うことを皆が選ぶとしたら……きっと自分は大精霊に従う道を選ぶだろう。
 自分は弱い。だからきっと邪神に取り込まれたら真っ先に消去される。
 それなら最後まで癒し手として花を咲かせ続け、今まで信じてきた世界のために力を尽くしたい。
 例えそれで友に殺められても恨みはしない。ただ守りたいものがちょっと違っただけなのだから。
 そして――最後の「封印」が最もフィーの心を揺らす。
 友達と二度と会えなくなるし、大好きな公園の手入れもできなくなるけれど。
 それでも友達が犠牲になる危険性が少なくなる。
(リアルブルーデハ精霊ヤ幻獣ガイナイッテ聞イタ。ソレハ少シ、寂シイコト。
 ソレデモ、私ノ大切ナ友達ガ平和ニ生キテクレルナラ……私ハ封印ノ為ノ鎖ニナル)
 決意を込めて小さな手をぎゅっと握る。しかし――その拳に涙がぽとりと落ちた。
 どの選択肢が選ばれようと、きっと自分はひとりになったら泣くだろう。
 皆の前では精一杯笑って見送る覚悟でいるけれど……どれも痛みが伴うものだから。
「……覚悟ハ出来テル。デモ……モシ、他の可能性ガアルノナラ……」
 できるなら皆を一生懸命鼓舞して癒して、大好きな皆とまたこの公園で遊びたい。
 この世界がいつか滅びるものだと知っていても、最後の日まで諸人のために緑と笑顔を守り続けたい。
 そうできる選択肢があるのなら、自分はどんな苦しみだって耐えるのに――フィーは静かに涙を零した。


●絶火の騎士と曙光の精霊の選択

 英霊フリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)と
 精霊ローザリンデ(kz0269)はコロッセオで鍛錬の一環として刃を交わした。
 力はフリーデが圧倒的に強いが、
 ローザは彼女より遥か昔から現在の帝国領全土を駆け巡り無数の戦闘経験を積んでいる。
 それゆえに腕力に頼りがちなフリーデの癖を読み、
 数手先までを想定して刀を薙いだが、上腕に薄い血色の線を引くに留まった。
『っ! あぁ、まだ斬れないか。どうやらアタシの刀もまだまだ鈍らなようだね』
『それはどうだか。実際お前は手加減しているんじゃないか?
 歪虚相手の時と比べて速度も重さも足りないように感じるぞ』
 もっともフリーデの肉体は並の斬撃で傷つくほどやわではない。
 敢えて刃を受けると一瞬硬直したローザの腕を掴み、背中から地に叩きつける。
 だがそこからローザが体を起こすと「にやり」と笑った。
 6本の短刀が腕に纏わりつくように浮遊し、フリーデの喉元へ瞬時に突きつけられる。
 その短刀の色は全て赤。炎の力を宿した刃は風の精霊でもあるフリーデには殊に恐ろしい。
 ――しかし短刀はフリーデの喉を裂く前に全て消え去った。チェックメイト、ということだろう。
『それがお前の隠し玉か。相手の弱点属性を容赦なく突くとは恐ろしい女だな』
『これはアタシの封印術の応用だよ。
 本来は負のマテリアルを6種の正のマテリアルの刃で調和させるんだがね、
 6本すべてに封印の力を乗せたままひとつの属性に絞れば相手の弱点を突く武器にもなる。
 ……邪神にこれが効くかはわからないが、雑魚を潰すには役立つだろ?』
 ふふん、と鼻を鳴らして籠手を撫でるローザ。
 彼女が裸に近い姿で戦うのは瞬発力と反射速度を極限まで高めるためだ。
『アンタの力にはどうしても勝てないからね。今回は猪武者用のとっておきを出したのさ』
『い、猪だと!? くっ、それは否定しないが……』
 フリーデが悔しそうに収まりの悪い髪をくしゃと掻く。
 ――こうして鍛錬を重ねる彼女たちは邪神との決戦以外を思考に入れていない。
 これは彼女らが戦士だからではなく、恋人や夫との約束を果たすためだ。
 封印では別の世界の住人となり、二度とその手を重ねることなく静かに消えていくことになる。
 恭順となれば問題外だ。
 常に邪神の気まぐれで運命が左右されるなら愛する者を守り、消滅する方がよほど幸せだ。
 つまり必然的に邪神を殺す選択肢しか彼女達にはない。神殺しの刃になるしか前に進めないのだ。
『全く、悩む必要がないというのは良いことだねェ』
 へらりと笑って模擬戦後の一服を楽しむローザ。
 相変わらず大量の煙を吐き出すが、その匂いの妙な軽さにフリーデが気づいた。
『……まぁな。ところで煙草の銘柄、変えたのか?』
『ああ、いや。ここのところうちの可愛い坊やが男を見せてくれるんでね。
 だからアタシも変わろうと思ったんだよ。ヤニ臭い女って嫌だろ。
 それで最近ハーブに変えたのさ。あの子の可愛い声を潰すのは嫌だからねェ』
『……そういえばお前のとこは犯罪級の年齢差だったな。ウン百歳と15歳……』
『それを言っちゃアンタも同じだろ。見た目の年齢が近くとも旦那より270ぐらい上とか』
『なっ……! 私は本物のフリーデリーケではないのだぞ!?
 この姿を貰い受けたのは2年前の秋だ。英霊といえどまだ若いんだぞ!』
『ほう、そうなると今度はアンタが幼児じゃないか。なんとも困ったもんだねェ』
 肩を竦めるローザにぷるぷる震えるフリーデ。いつも口では負け通しだ――。
 とにもかくにも2人の精霊は戦に向けて技を磨き上げていく。
 ハンター達の決断がどうであれ、邪神に一矢報いるために。


●混ざり合う想い

 一方、事実を知った帝国軍人とその関係者の間では多くの意見が交わされていた。
「とりあえず死なずに生き続けられるなら……」と妥協し恭順を支持する者がいれば。
「帝国軍は歪虚と戦うために存在する。殲滅する以外に道はない!」と強硬論を展開する軍人もいて。
「精霊と幻獣は別の世界に行くだけなんでしょう?
 一旦封印して、その間に邪神を倒す首尾を整えるべきよ」と封印を併せた折衷案を説く者もいる。

 さて、あなたはこの状況をどう考えるだろうか。
 奇しくも今日はフィーとフリーデとローザが自然公園で久しぶりの休暇を楽しんでいる。
 ひとりで思案に耽るのも良いだろうし、仲間と意見を交わすのも良いだろう。
 精霊達に声をかけてみるのも良いかもしれない。
 そのひとつひとつが重なり、混ざり合うことで……
 もしかしたら誰も予測しえない新たな選択肢が見つかるかもしれない。
 それを花の精霊フィー・フローレはただただ願っている。

リプレイ本文

●おもてなしの準備

 ここは早朝の帝国自然公園。
 花壇の手入れをするフィー・フローレ(kz0255)の背にふいに「フィー様」と優しい声がかけられた。
「ワワワッ、リアリュール!? コンナニ早ク、ドウシタノ?」
「フィー様が依頼された案件を拝見しまして。よろしければ他の皆さんが来られる前にお菓子や軽食を沢山作っておもてなししませんか?」
「ア、ソレデ……? 来テクレテ、アリガトナノ! 嬉シイノ!」
 無邪気に何度も跳ねるフィー。リアリュール(ka2003)が笑みをこぼす。
「限りある時は大切な事、好きな事の為に使いたいですし。それに気を緩めた時にこそ名案が浮かぶものです。皆さんが気兼ねなくお話しできる場所を作りましょう」
「ソレハ素敵ナノ! 私モオ手伝イスル!」
「はい、今日は役割を分担せずに一緒に楽しく作りましょうね。それとフィー様が作りたいお菓子はありますか?」
「ウン、アノネ……」
 嬉しそうにキッチンのある管理小屋へ向かうフィー。その横顔を眺め、リアリュールは思った。
(フィー様がこの依頼を出されたのはきっと私が『笑って』など無理を言ったから……。でも泣き顔より笑顔を見たいのは本当です。どうか今日が良い日になりますように)


●穏やかな陽

 リアリュールとフィーが料理を運ぶ中で、ローザリンデ(kz0269)とフリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)がテーブルのセッティングを終えた。
 そこに依頼を受けた面々が到着し始める。
 まずエステル・クレティエ(ka3783)が「フィー様! フィー様っ、こんにちはっ」とフィーの手を両手で包み込んだ。
 その様子をエステルの親友ユメリア(ka7010)が和やかに見つめている。
「エステルー、コンニチハナノ! トコロデ、オ隣ノオ姉サンハ?」
「初めまして、花の精霊様。フィー様とお呼びしてよろしいですか? 私はユメリア、エステルさんと友誼を結んでおります」
「エステルノオ友達ナラ私モオ友達ニナル! ヨロシクナノ、ユメリア!」
 ユメリアに手を差し出すフィー。ユメリアはその手を優しく握り返した。
 マリィア・バルデス(ka5848)も愛車から荷物を降ろし、フィーに優しくハグをする。
「久しぶり。元気にしていたかしら、フィー?」
「ウン! マリィアモ元気?」
「ええ、それは勿論よ。今日のお土産、量が結構あるの。他のお友達もお招きしたらどうかしら。精霊、人、区別せずに、ね?」
「ウン。今日ハ皆デ楽シクオ話シスルノ。マリィアのケーキ、美味シイカラ好キ! マリィアハ優シイカラモット好キ!!」
 次いで澪(ka6002)と濡羽 香墨(ka6760)が共にフィーに挨拶した。
「皆と分けようと思って、クッキーを焼いてきた。お茶会の形をとるなら、丁度いい」
 澪がにこ、と笑う。実は今日のクッキーは香墨と一緒に作ったのと。途端に香墨が顔を赤らめた。
「普段は料理って。買ってばかりだったから。……たまには。手伝いぐらいだけど」
「ウワァ、澪ト香墨ノ手作リ!? 絶対美味シイノ! アリガトウ、早速オ皿持ッテクルネ!!」
 早速大皿にクッキーを盛り付けるフィー。クッキーの形は星、花、円、動物。
 その形のように様々な意見を聞きたいとフィーは願った。


●滲む不安

 それはお茶会の準備をしている間のこと。持参した果物を東屋の泉に浸すエステルが、隣で手伝うフィーに静かに問うた。
「あの、フィー様……封印の鎖とはどのような生活なのでしょう?」
「エ、ナンデソレヲ!?」
「精霊様方の噂で。皆さん不安を抱えていらっしゃるのでしょうか」
 その言葉に知らぬふりはできないと観念したフィーが語り出す。
「……封印ニ使ワレタ精霊ト幻獣ハネ、他の生命ニ干渉スル力ガナクナルノ。ヒトノ姿モ見エナクナル。ソシテ精霊モ幻獣モ封印ノタメニ命ヲ使ッテ……全員ガ力尽キタラ封印ハオ終イ。ズット皆ヲ守レナイカモシレナイッテ、不安ナノヨ」
「そうでしたか……そこに穏やかな日々があるならまだ、と思っていたのですが。私は長い長いその役割をフィー様達だけに押しつけたくないのです」
「……アリガト」
 フィーの告白にエステルの心が揺れる。本当は覚悟していたはずなのに。
(封印は悲しい選択。でも殲滅もまた、ハンターの全勢力が邪神に向かうだけに多くの人が犠牲になる確率が跳ね上がる。どうすれば……)
 だがエステルは自分を鼓舞するように無理に笑みを浮かべると「大丈夫です」とフィーを強く抱きしめた。
 そしてふたりが外に出ると、柔らかな歌声が不安に満ちた心を癒す。
 ユメリアがハンターと精霊達に即興の歌を披露しているのだ。弾む音は初夏の眩しい陽射しのよう。
(そうね、ユメリアさんのように前を向かなくちゃ。まだこうして考えられる時があるんだもの!)
 エステルはフィーの手を握り直すと、明るい表情でテーブルに向かった。


●重なり合う色

 茶会ではまずリアリュールお手製のブレンドティーが振る舞われた。
「こちらは菩提樹の花と赤薔薇の蕾を乾燥させたもの。心が落ち着く、穏やかに薫るものよ」
 そして澪と香墨のクッキーとマリィアのサンドイッチとロールケーキ。プレートにはリアリュールとフィーによるたまごサンド、ミートボールの玉ねぎソース、テリーヌが見栄え良く並べられている。
『随分な馳走だな』
 酒好きのフリーデが末席で茶を啜る。それは皆の話を聞かなければという想いからだ。
 そんな中、マリィアがおもむろに話を切り出した。
「よく考えたら私、フィーが本当に喜ぶものって知らなかったかもしれない。それが何か自然に言えるようになるまで、貴女達と離れたくないわね」
 その言葉にこくんと頷き澪が問う。
「フィーは、どうしたい?」
「私ハ、コレカラモ皆ト一緒ニイタイ。コノ世界ノ最期マデ皆ノ笑顔ト緑ヲ守リタイノ」
 俯きがちに応じるフィー。その願いがあらゆる選択肢と矛盾すると知っているのだ。
 続けて他の精霊に問えば、フリーデもローザも『邪神を討つ。例え封印の役を与えられようと阻む壁はぶち破る』の一点張り。恋人との約束を反故にできないと無駄に漢気溢れる意気を見せた。
(やっぱり。聞くまでもなかった)
 澪が苦笑し、頬を掻く。
 次いでリアリュールが感情を吐露した。
「私はフィー様や幻獣のティオーと離れることが辛い。そういう個人の想いも大切なこと。皆さんの本音もぜひ聞かせて」
 すると澪がはっきりと宣言した。
「私は、殲滅。私にとっては他の二つの選択肢なんて無いも同じ。許容などできるものじゃない」
「それはどうして?」
「邪神が危険なのはわかってる。けど、一時の安全の代償に誰かを犠牲にするのなら私は戦いを選ぶ。香墨も、フィーも、フリーデやローザ、家族、私の大事な人達。私は誰か1人でも失う事になる選択肢は取れない」
 香墨が澪の隣でこくりと頷く。
「消えてほしくないけど。だからこそ。……私も。殲滅をとりたい」
 澪が香墨の手をテーブルの下でそっと握り、再び意見する。
「私は全てを救いたいと思えるほど強くも優しくもなれない。同時に邪神側にどんな事情があっても関係ない。私の大事な人達を害するのなら、死力を尽くして戦うだけ」
 香墨も澪に続きぽつぽつと言葉を重ねた。
「恭順するってことは。死ぬのとおんなじだから。死ぬのは怖いし。あんなのとは。いっしょになりたくない。……封印も賛成できない。私たちは生きれるかもしれないけど。フィーも。葵も。フリーデにローザも。みんな大事だから。……私が今こうやって話せるのも。みんなのおかげだから。みんなと引き換えに生きるのは。絶対に嫌」
「成程、香墨さんは消去法で殲滅派なのね?」
 リアリュールの問いに香墨が改めて頷いた。
「ん。フィーのことは。絶対にひとりにしない。私は『約束』のせいで。倒れてられないし。澪だって。護ってみせるから。それに。原因をとらないと。また襲われそう。それがいつなのか。わからないけれど。どっちにしろ。みんなが苦しむなら。断たなくちゃ。……本当なら。和解ができるなら。それもいいんだろうけど。歪虚はいるだけで周りに影響出ちゃうから。難しそう。住み分けも。出口が見えない。元を断つくらいしか」
 そこで今度はマリィアが別の視点から話し始めた。
「私は何があっても封印は嫌。リアルブルーにも精霊の伝承はあれど、それは物語の中だけ。要は封印で時間稼ぎをしてもヒトの手だけでは邪神を倒す戦力が整わなかった。封印が真の解決策になるのなら、とっくにそれを実行したリアルブルーが邪神を倒しているはずよ」
 これはリアルブルーの元軍人だからこそ身に染みた現実。そしてもう一言付け加える。
「みんなで一緒に恭順も嫌だわね。全てが絶望に沈む世界を繰り返すなんて、想像すらしたくないわ」
 ――どうやら現状では殲滅派が多いようだ。その中でユメリアが微かに微笑む。
(ここにエステルさんがいらっしゃることを心強く感じます。どのような流れであれ、想いを分かちあうのは嬉しくて)
 彼女は歌を紡ぐようにそっと語り出した。
「私は……封印を望んでいます。今日私は皆さんに出会えました。本当に偶然に。それはある種の奇跡です。でも死は厳然としてそれを許さない。ましてや恭順は魂の死。だから『今』を生きることが先決です」
 彼女はまず恭順案を否定する。そして祈りを言葉に変えた。
「封印の実行でフィー様や精霊の皆様、幻獣と会えなくなるのは寂しいです。でも、生きてさえいれば奇跡も起こせるはず。私は邪神を3つの世界で持ち回りで封印できたらと考えています。人はその間に癒され、力をつける。これだけたくさんの人がいるのですもの。そして封印のつなぎ目に邪神が食らった星を一つ解放し、マテリアルで封印を担当した星を癒す。そうすればいつかフィー様とも会えるかもしれません。封印の持ち回りごとに。または。邪神の中の宇宙が尽きた後に」
 その無垢な言葉ににローザが顔を強張らせた。ユメリアの理想は崇高なまでに美しい。
 だが、それゆえに叶えるのは困難だ。
 まずは封印を実現した時点でこの世界からマテリアルが消失し、覚醒者は力を失う。
 そして3つの世界が完全に繋がりを断たれる。
 ――封印の円環を世界間の交流や協力なしに続けるのは至難の業だ。
 そこでリアリュールが逡巡し、発言する。
「私もマリィアさんの意見と同様、封印案は反対よ。マテリアルを手放せば邪神が復活した時に恭順以外の道がなくなる。未来に犠牲を強いたくないの」
 そして恭順案も大精霊をはじめとした精霊と戦になるため拒否したいとし――最後にため息をひとつ。
「邪神の元の世界はどうなったのかしら。正から負への転換も……まだ知らないことばかり」
 そこでマリィアが空のティーカップを置くと、予想外の言葉を放った。
「先ほど私は殲滅案を主張したけれど。もし本当に殲滅を選ぶなら、今のリアルブルーの封印も開封するのかしら。それなら私は、まず全ての封印を解いてほしいわ」
 その言葉に思わず皆が顔を見合わせるも、構わずマリィアが話を続ける。
「今のエバーグリーンの大精霊は開闢時の大精霊と別の存在。となると、リアルブルーの精霊を封印した大精霊も今の大精霊と別の存在の可能性があると思う。だから一旦リアルブルーの封印を全て解いてもらうの。その時に歪虚しかいなかったら封印を選ぶ人はいなくなると思う。それに分かたれたまま勝敗の結果だけをリアルブルーの精霊達に押し付けたくない。だから私はまず開封を選びたいわ。それが殲滅と同義でも」
 それは封印の前例「リアルブルー」に封印の意味を見出す「全解放」という新たな選択。無暗にマテリアルの力を手放さず、まずは封印の結果を知ってから実行の有無を決定する方針は安全策としても有効だろう。
 エステルはそこで決意し、口を開いた。
「そうですね。例え痛みを伴うものでも、それを知る前に物事を選ぶのは嫌なことです」
 多くの同席者が頷く。そしてエステルは自身の考えを語り始めた。
「私は……笑わないで、くださいね? 一気に撃破ではなくて、撃破と封印の折衷案と言うか、歪虚神も飲み込んだ多くの記憶も皆で時間を掛けて鎮めて行く。そんな方法が無いか考えています」
 それはユメリアと同様、救済のための案。
「苦しい最後の瞬間のループから逃れたい。でも滅びるのは怖い。あの神の中にはそんな人もいると思うんです。そう言う人達と協力できないかなって。具体的な手段はまだ思いつかないんですけど」
 その時、意外な人物が「そうだね」と呟いた。殲滅案を熱心に推していた澪だ。
「私もより失う事の無い新しい選択肢をできるかぎり考えてみたいと思う。……どうしてみんなで仲良くできないのかな」
 澪は今回の対話で何かを感じたのか、マリィアのケーキを食べながら考える。クリームの中の果実が互いの味を引き立てるように調和すればいいのにと。
 香墨も残念そうに俯く。その口元についたソースを澪がハンカチで拭うと、香墨は頬を赤らめ「ありがと」と答えた。
(昔、同族の鬼さえ憎んでいた香墨が出逢いを重ねて今はこんな優しい顔をするようになった。だから私は守りたい。私達が今まで出逢ってきた人達と未来への可能性を)
 澪は今までの意見を胸のうちで反芻し、そっと胸に手をあてた。


●それは輝く星と迫る闇のように

 結局「恭順」だけは拒み、できる範囲で情報を集めるという流れに落ち着くも明確な答えは見つからなかった。
 しかしエステル持参の冷やしたての果実が討論で火照った体を心地よく冷やし、雰囲気を和やかにする。
 多彩な色は混ざり合う最中だが、それでもフィーはいつもの元気を取り戻した。
「マダ諦メチャイケナイノ! ワカラナイコトガ沢山アルナラ新シイ可能性モ沢山アルンダモノネ!」
 そうして皆に感謝のハグをするフィー。リアリュールはその頭を優しく撫でた。どの道が選ばれても後悔しないように。
「ええ。フィー様、また会いに来ます。少しでもお傍にいられるように」
「ウン!」
 一方、ユメリアはリュートを奏で穏やかな声で一同に告げた。
「生きている。それは奇跡を起こせるということ。一人で為すより、みんなでなら奇跡を起こす確率も高められる。手を取り合って奇跡を起こしましょう」
 例えそれがどのような道であれ、自分の歩みが誇れるものとなるように。
 だが仲間達が帰途につく中で――リアリュールが思い出したようにぽつりと呟いた。
「大精霊様が守られればここは消えない。今まで通り少しずつ、ではいけないのかしら。太古の引き継いだ願いを成就させて……」
 その願いとは裏腹に、時は止まらない。
 斜陽で彼女の影が伸び、いつか闇に呑み込まれるように――邪神という闇が紅の世界を呑み込もうとしている。
 その予感に彼女は首を小さく横に振ると、影を振り切るように駆けだした。

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MVP一覧

  • よき羊飼い
    リアリュールka2003
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848

重体一覧

参加者一覧

  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨(ka6760
    鬼|16才|女性|聖導士
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/26 16:52:01