ともに歩んだ相棒とのはなし

マスター:四月朔日さくら

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/06/09 07:30
完成日
2019/06/16 17:28

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 雨がさあさあと降っている。
 そんな中で、リムネラはぼんやりと庭を見つめていた。
 思うことは、今まっただ中の投票のことだ。
 世界の命運を決める投票、と言って過言ではないだろうそれは、リムネラのごく身近にも影響を与える。それは――

「りむ、ねら?」

 そう言って、こちらを見つめてくる双眸の主・ヘレ。
 六大龍の後継であるヘレは、幻獣や精霊と言ったものに寄り添う側の存在であり、投票の結果次第ではその関係性も全く変わってしまう。消滅や、敵に回る可能性も考えられる。
 でも、それでも。
 その前に、ヘレとリムネラという間に、何らかの絆を刻んでおきたい。
 目に見える形の絆でなくても、そう言うものを作ることは不可能ではない。いつどうなるかわからないこのご時世、思い出という名の徴を刻んでおきたいのだ。
 ――それはあるいは、後の世までこの出来事を刻むと言うことにも繋がるのかもしれない。
「ヘレ……ネエ、思い出作り、シマショウカ?」
 リムネラの小さな提案に、ヘレも小さく首をかしげ、そして頷いた。


 数日後。
 辺境ユニオン『ガーディナ』に人が集まる。
 いや、人だけでなく、ユニットたちも。
 もしかしたらこう言う機会は最後になるかもしれないからと、ハンターたちと小さなお茶会を催すことに決めたのだ。
 一つ、話題のテーマを決めて。
 それは『ユニットとの思い出』。
 彼らの口から、どんな話が飛び出すのだろうか……?

リプレイ本文


 あの、運命の投票の締め切り直前のこと。

 幻獣の話をしませんか――
 そんなリムネラの呼びかけに集まったのは、十人。
 その誰もが、幻獣をつれて微笑んでいる。……一部、少々疲れたような複雑そうな笑みも垣間見えるが。
 しかし、幻獣と共に出かけることの出来る機会はそう多くないし、場合によってはこの先がないとも思える状況なのだから、仕方がない。
 封印、そして恭順というふたつの可能性があるいまは、幻獣との別れも場合によってはあり得るし、そうでなくともいつ何時何が起きるかわからないのは間違いがないから……いつどんな別れが訪れるかはわからない。
 思い出というのは何よりも大切なモノだ。人が、ものが、そこにあった証をなにがしかの形で残す為のモノだから。
 たとえ肉体が失われても、その人を懐かしく思うことはできる。その根源が思い出。
 そう言う意味で、今回はその思い出を共有し、鮮明にする、そんな意図も自然と含まれていた。
 リムネラは立場などの理由で、戦闘に直接赴くことは滅多にない。今度の邪神討伐も、彼女が戦場に立つことがあるかは怪しい。
 でも、いやだからこそ。
 彼女は思い出の共有を望むのだ。
 たとえ小さな思い出の欠片でも、その人を形作る、何らかの欠片となり得るのだから。


「……デモ、こうヤッテ幻獣さんと一緒のトコロを見ると、スゴクほのぼのシマスネ……♪」
 リムネラはあえて笑顔でそう言った。
 これから激化する戦いを考えれば、そうそう笑顔のままでいることは難しい。でも、いまこの瞬間は皆に笑顔でいてほしい――リムネラという一人の少女の、それは切なる望みだった。
 彼女は少女の心を忘れぬまま成長したような純粋さを秘めている。だからこそ彼女が心を痛めることも多いが、その無垢な笑みに救われる人が数多いことも事実だ。
「今日ハ、少し雨ガ冷たいデスから……温かい紅茶を、ドウゾ?」
 手ずから焼いたクッキーとともにそれを差し出すと、ふふ、と笑いが小さく上がる。声の主は勇ましい『幻獣のおねぇさん』こと、ボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。その脇にいるのは燃えさかる焔のごとき毛並みをしたイェジド、名前をヴァーミリオン。
「にしても思い出なんて、全部話そうとしたら紅茶がすっかり冷めちまうくらい色々あるぜ? そうだな……たとえばものスゲーデケェ敵とも一緒にやり合ったし、数え切れない数の敵に突っ込んでって大暴れしたことだってある。そんな俺の無茶にも文句言わず……って、言ってねぇよな、ヴァン? ま、まぁ、とにかくいつもついてきてくれた最高の相棒だよ!」
 ボルディアは嬉しそうにそう言うと、そっとヴァーミリオン……ヴァンの毛並みを優しくなでる。そんな様子を見て、他の参加者たちも嬉しそうに微笑むのだ。パートナーユニットと呼ばれる存在はただかわいいだけの存在ではない。無論そう言う側面の強いユニットもいるにはいるが、パートナー、相棒と呼ばれるだけのゆえんは、戦場でともに戦ってくれる仲間であることが一つの大きな要因なのだから。相棒は、ともに戦うことによって強くなっていく。そして、同じ経験をしていくことで絆を強くしていくのだ。
「あとコイツ、俺のことをなんか色々面倒見てくれんだよ。朝は舐めて起こしてくれたりとか、服を咥えて集めてくれたりとか……お前は母ちゃんかっての。そんで、俺が文句言うとじっと見てきてさ……ちょっと怒ってるような、悲しんでるような、そんな目でよ。そんな目で見られるとちょっと……何にも言えなくなっちまうんだけどさ」
 母親めいたヴァンの行動に、つい仲間たちも口元をほころばせる。
「……なんなんだろうな。もう家族って言い方でも、ちょっと足りねぇ。俺はヴァンがいなくなるなんて考えられねぇし、そんな世界を想像しただけで目の前が真っ暗になりそうだ。ヴァンは俺の中の一部で、欠けたら絶対埋められない。ある意味……一生添い遂げるって言うなら、ケッコン、してるみてぇなもんかもな……やべ、言っててさすがに恥ずかしい……」
 ほんのり顔を赤らめて、ボルディアはついと目をそらす。賢いヴァンは、そんな照れ気味の主の顔からわざと視線を外してやる。そんな一人と一匹は、確かにどこかカップルめいていて、周囲もそんな一対を微笑ましく見つめていた。
 同じようにイェジドのイレーネをつれているのはアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)だ。イレーネは純白の毛並みをもつ個体である。
「幻獣たちとの思い出と言えば戦いを助けてもらったことばかりを思い出すが、今日のお茶会にはもっとほのぼのとした思い出のほうが相応しいかな」
 アルトはそういうと手土産を差し出して優しく目を細める。
「イレーネは一番最初に相棒になってくれた子で、一番思い出もある。この子との思い出を少し語るとしようか」
 アルトはそういうと、わずかに息をためてから語り出した。
「元々イレーネとの出会いはハイルタイや青木燕太郎といったあたりが幻獣の森に目をつけていた頃だったかな……たまたま、幻獣の森へ入り込んだ歪虚とイレーネが戦っているときに出会って助太刀をして……そうしたら意気投合してついてきてくれたんだ」
 少し自慢げに語るアルト。
「このイレーネは戦いの場ではかなり好戦的なんだが、一緒に暮らすようになって普段はかなり穏やかだったのに驚いたな。たとえば私の家では、ペットもたくさん……特に猫とかを飼っているんだが、天気のいい日に何となくイレーネの様子を見に行ったら、いると思った場所にイレーネじゃなく猫たちの塊がいてな? 不思議に思ったらじつはイレーネの上に猫たちが気持ちよさそうに寝ていたりひなたぼっこをしたりしていて、本人も日だまりの中でぐっすり寝ていた。どうも猫たちはひなたぼっこの好きなイレーネのいる場所が暖かいと気づいたようで……だから天気のいい日はよくイレーネは猫に埋まっているんだ」
 猫に埋もれたイレーネを想像すると、それは何とも微笑ましい構図だ。誰からともなく小さな笑みがこぼれる。
「まあ、それに気づいてからは、私もよく昼寝の時にイレーネを枕にさせてもらっているんだが」
 少し照れくさそうなアルトの言葉に、くすくすという笑いがまたこぼれる。相手をけなしたものではないので、アルトの顔にも自然と笑みが浮かんでいる。
「逆に寒いのや冷たいのは苦手のようで、一度風呂で全身を洗ってあげたら、寒い季節に水浴びはあまりしたくなかったようでな、汚れが気になるようになると風呂を沸かしてくれってせっつかれるようになったよ」
 言いながらイレーネの背をそっとなでる。イレーネも心地よさそうに目を細め、すり寄る。
「そんな感じで、幻獣たちとは楽しく生活している。幻獣も精霊も、大切な隣人だから……できれば、これからも彼らと過ごせるようだといいな」
 運命を決める投票の結果はまだでない。出たとしても、どうなるかわからない。それまでは、誰も油断できないのだ――きっと。


 一方、どちらかと言えば戦闘向きでない幻獣を連れてきているのはUisca Amhran(ka0754)。彼女の連れはもふらのモフカだ。もふらは元々エトファリカの一部に生息する、どちらかというと幻獣の中でも珍しい部類なのだが、紆余曲折あって今はハンターの手伝いをしてくれる個体もいる。
「そう言えばこれ。王国のお茶と、最近人気のお店のお菓子なんですよ。皆さんもよければどうぞ」
 そう言って土産を振る舞い、それからモフカをそっとなでて語り出す。
「もふらは、ユニットとしてパートナーにできるまえは幻獣ハンターによって捕獲の危機にさらされていました。私も依頼で保護したことがきっかけで、このモフカを保護して、そしてパートナーにさせてもらったんです。以前リムネラさんやヘレちゃんに紹介したときは名前も決まっていなくて小さなままでしたけど、あの時からはだいぶ大きくなったでしょう?」
 Uiscaもそういって少し嬉しそうだ。最近はスキルも使えるようになったとあって、モフカもどや顔を見せている。
「まあ、まだ戦闘に連れて行くと言うほどではないんですけれどね。普段はもふもふしたり、一緒にお昼寝したり……そうそう、最近モフカのためにお布団も買ってあげたんです! そしたら私もぐっすり眠れるようになって……」
 思わずモフカに抱きついて目を閉じ、すやすやと眠るふりをする。一瞬本当に眠ってしまったのは、もふら特有のスキルも影響しているのだが。
「私にとってもふもふは愛情表現なんです。だから、できるときにいっぱいもふもふするんです。ね、リムネラさんも一緒に!」
 そう言って、Uiscaはヘレにそっと抱きつき、リムネラにももふもふを促す。ヘレは少し戸惑っていたが、こっくり頷いた。リムネラもいいのかなぁという表情を浮かべつつ、モフカの毛並みを優しくなでる。Uiscaは今のところ、もふもふを満喫しているようだ。
「……こんな風に過ごせるのも、残りわずかかもしれませんから……思い出はなるべく、笑顔のものを増やしたいんですよ、ね?」
 そう言うUiscaの双眸は、優しい光をたたえていた。


「ソウ言えば、今回はユグディラ連れの方も多いデスね」
 リムネラがくるりと見渡してそう言う。ユグディラは王国に多く見られる幻獣であるが故に、辺境育ちのリムネラからすれば少しばかり珍しい存在で、二足歩行の猫と言った雰囲気の彼らが主人とともに並んでいるのを見ると、なんだか嬉しくなってしまう。
 今回ユグディラとともに訪れているのはルナ・レンフィールド(ka1565)、リアリュール(ka2003)、星野 ハナ(ka5852)の三名だ。
 パートナーとしての実力のほどはハナのグデちゃんとリアリュールのティオーが同じくらい、ルナのミューズが少し劣る程度、という感じのようで、現時点での特に大きな差異は見られない。
 ルナは、同じく参加者のユメリア(ka7010)――ペガサスのエーテルをつれている――と仲のよい関係らしく、席も隣同士だ。
「……あの投票、私は封印に一票投じたので……もしそうなったら、ミューズたちにも逢えなくなるかもと思ったけれど……。討伐が理想なのはわかってるけど、色んなものを失う怖さには勝てなくて、先延ばしに逃げたって言う自覚もあるから。でも、間違ってるとも思っていないし、逢えなくなっても存在は変わらないって信じてるから……」
 そういうルナの声は、ほんのわずか震えていた。決断を迫られた邪神にどう対抗するかの投票は、まもなく結果も出る。だから、これからのことはまだわからない――それでも、思う以上のよい結果を期待したいのが、誰もの望み。
「……マテリアルは生き物や自然の中に微量でも存在していると考えていて、音楽はそれを活性させて……だから奏でるとき、そのマテリアルを感じられると思うし、ミューズと奏でた瞬間はなくならない。何度も、戦場でも、ともに奏でた……だから今日も、ここで一緒に楽しく合奏したいなって」
 言うと、彼女はユメリアの方を見る。携えていたリュートを片手に。
 吟遊詩人であるユメリアもぴんときたらしく、リュートを持って軽く爪弾いた。
「……私のペガサス、エーテルというのは遙か上空にある一番澄んだ場所のことです。空から眺める世界を見ると、同じ世界が全く違うように見えて……いまも目に焼き付いています」
 そして、優しく言葉を続ける。
「私は吟遊詩人ですから、心の深淵はよく見ます。皆たくさんの違いはありますが、深く深く見つめていけば、海に浮かぶ島々が海底で繋がっているように、大きな星という塊で見ることができるように、繋がりを感じるのです。エーテルは、私を空に連れて行って、この世界も人も、大きな繋がりがあることを教えてくれました。もしかするともっともっと離れてみてみると、星も宇宙も全部大きな一つと見ることができるのかもしれません。宇宙にも心があることを、エーテルは景色を通して教えてくれました」
 目を伏せ、そして穏やかな笑みを浮かべるユメリア。
「もしそうだとしたら、邪神に対する選択も単に争うのではなく、全部救える道筋もどこかにあるのでは――と思ったんです。じっさい、そういう作戦になりそうですけれど。でもそのために、私達はまず自分を護る、そしてリムネラさまや幻獣や精霊、みんな護る必要があります。……想いを一つにして、みんなで護り合いましょう?」
 そういうと、優しい歌声に歌を口ずさみはじめた。
 ルナも合わせるようにして、歌を続ける。
 二人の吟遊詩人、そしてユグディラたちのセッションは、この小さなお茶会の雰囲気を柔らかくしていく。万物に含まれるマテリアルが、音楽に合わせて震えるのだ。それは同時に心の震えであり、共鳴して、自然と誰もの心をやさしくするのだ。
 ああ、その瞬間はなんと素敵なことだろう。
 そして曲が奏で終えると、誰からともなく拍手が巻き起こった。幸福を謳う、最高の拍手だった。


 リアリュールの手土産は追加のおやつに季節の生花。そして相棒を改めて皆に紹介する。 
「こちらはティオー、私のおともだち。……これから先どうなるかわからないけれど、思い出は変わらないと思っているから……皆の話も、楽しく聞かせてもらっているし、私も話させてもらうわね」
 そう言うと、ティオーがぺこりと頭を下げる。
「ティオーはね、はぐれユグディラだったみたいで……森の湖で遭ったのよね。仲間もいなくて、なついてきたからそのまま一緒に暮らしてるの……私も一人暮らしだから、帰ったらお帰りってしてくれて、留守の時にはハウスキーピングもしっかりしてくれるティオーが来てくれて、すごく助かってるの」
 もちろん、そんな家事ばかりというわけではない。
「私達、日頃は依頼の合間に、キャンピングしながら一緒に野山を回ってるのよ。ずっと人の中にいたらストレスかなって思うのと、私も材料集めに行きたくて」
 元々リアリュールの趣味は、木や蔦を使って楽器やアクセサリーなどを作ることだ。そのための材料と言うことだろう。
「いままでは一人だったけれど、ティオーと一緒だと効率もいいし、一緒に食べ物を集めたり食事を作ったり、夜のお布団も暖かいし……お話ができるわけでないけれど、色々話してたら、色んな反応を返してくれるでしょ? 一緒に笑ったり、怒ったり……それが一番嬉しいかしら。だってそんなキュートな仕草にも和ませてもらってるからね。たまに親元へ帰ると、みんなになで繰り回されて怖いんだろうなとは思うけど、逃げずに皆の愛を受け止めてくれて感謝してるわ」
 そう言って茶をすすると、クスッと笑った。
「もちろん依頼でも、テルルさまのピリカ部隊に参加させてもらったのもいい思い出ね。お墨付きももらったし、私の英雄」
 その言葉に、ティオーはほんのり恥ずかしそうに頭を下げる。
「……だから別れることになったら寂しいけれど、行った先で頑張ってほしいから、あんまり執は留めないようにするつもりだったし。でも、ともに過ごした時間を思って感謝を伝えられたら……たとえ別れることになってもならなくても、ちゃんと伝えられたらいいわね」
 だからこそここで友達も作ってあげたいのだとも言って笑う。お気に入りの毬やバイオリンを持ったティオーは、小さく小首をかしげた仕草が愛らしい。
(誰かが一緒に遊んでくれると嬉しいな)
 遊びの種類は構わない。でも、楽しんでもらうのが一番大切なのだから、とリアリュールは胸の中で微笑んだ。

 ハナのグデちゃんは、ハナ曰く『暴れん坊将軍』。
 手土産にともってきたクッキーはきらきら可愛らしいステンドグラスクッキーやドレンチェリーをあしらった絞り出しクッキーなど、見目に鮮やかなものばかり。
「飴とかドレンチェリーとかぁ、光沢があるじゃないですかぁ。うちの暴れん坊将軍は鴉でもないのに光るものが好きみたいでぇ……ッ、痛い痛いっ。まあ、これがうちの暴れん坊将軍なユグディラのグデちゃんですぅ」
 彼女の家では一番小柄だが、一番マイペースで暴れん坊なのだそうだ。今日も、本人(?)のたっての希望でついてきたのだという。言いながらハナは脇腹に頭突きを食らっている。なるほど、けんかっ早いというか、そういう性格なのだろうと見ていてわかる。
「あっ、でも流石に他のおうちの人には暴れたりしないのでそれはだいじょうぶですぅ……ただ外でも、マイペースッぷりは全然変わらないというかぁ……」
 そう言うと、隣に座っていたはずのグデちゃんの行動をみて、
「こらぁグデちゃん! 椅子の上に立ってお菓子に手をのばさないぃ!」
 そう言うものの、流石のマイペース。怒られたのも気にせず手を伸ばすのをやめない。ハナはため息をついてから、
「噛むのと引っ掻くのだけは絶対に駄目って教え込んだのでやりませんけどぉ、頭突き・猫パンチ・髪に食いついてぶらぶら……なんて言うのは結構普通にやりますねぇ。大してダメージにはならないのでまあいっかぁ、って流しちゃった私も悪いんですけどぉ」
 言いながらクッキーをいくらか皿に取り、それをグデちゃんの前に押しやってやる。グデちゃんは嬉しそうに頷いてからぱくぱくと食べ始めた。
「でもグデちゃんは、うちのナマモノユニットでは一番早く来た子なんですぅ。リアルブルーでアパート暮らしをしていたせいでナマモノユニットとクラスのは敷居が高い気がしてぇ……トラック・馬車・R7ときて、四番目がこの子だったんですぅ。思えば、おんぶ紐で背負って戦闘依頼に行ったりぃ、毎日一緒にご飯やおやつを食べたりぃ、屋台出すのに手伝っ……てもらおうとするとすぐいなくなりますけどぉ、この子のいない生活なんて、もう想像できないですぅ」
なんだかんだ言って、愛情いっぱいに暮らしているのがわかる言葉遣いで、誰の口もついほころんだ。


 そしてここに入りきらない幻獣を連れてきているものもいる。
 レイア・アローネ(ka4082)と鞍馬 真(ka5819)はワイバーン、フェリア(ka2870)はグリフォンだ。
 三体はガーディナ本部の屋根や庭で、おとなしく待っている。そんな様子が、またけなげで愛らしい。
 そしてレイアは、笑顔で友人をリムネラに紹介する。
「ええと、リムネラは初めましてだったか? こちらは私の友人で戦友のフェリアだ」
「私はフェリア=シュベールト=アウレオス。お招きありがとうございますね」
 フェリアは丁寧に挨拶をしてから、友人だというレイアにも微笑みかける。
「……私の家は帝国では貴族の末席に連なる家でして。少し詳しく言えば、皇帝の剣の名を与えられた部門の家柄です。ですので、後継となる私も、皇帝の剣であることを意識してきました。グリフォンのエアリアルも、そんな私の意を汲むようにして、傍にいてくれるように思います」
 丁寧だが嫌みのない口ぶりで話し始める。
「エアリアルは数多の戦いで私を背に乗せて守ってくれた歴戦の相棒です。彼は誇り高く、それこそ騎士のように私の身を案じ守ってくれました……力強い翼は風を切り、私や友人を背に乗せても揺らぐことはなく、地に脚のつかない空の戦いであっても、不安に感じたことはありません。エアリアルとともにあれば、そうそう後れをとることもないでしょうし、それだけの自負と実績をこれまで私達は築いてきたのですから」
 そう言うと、彼女は銀の髪をさらりとかき上げる。その仕草もどこか優雅さが垣間見えた。
「……エアリアルを相棒に選んでからは、暇があれば翼をブラッシングしたりするようにしています。とても気持ちよさそうにしてくれいますから、私も嬉しいです。それに、木陰で本を読むときなどは、寄りかかって背を預けていることも多くなりました。冬でも風を遮る大きな身体と、包んでくれるような暖かさには安らぎと安心感を得るようで……。戦闘での相棒、と言う面以外でもかけがえのない存在になっていますね。最近では何となく、考えることもわかるような気になってきました……」
 そして一度目を伏せると、きりりとした表情を浮かべる。
「これからあるのは、決して負けられない戦いですけれど……それでも、傍にいてくれる、大切な存在なんです。きっと」
 その声に秘められた意思は、騎士らしい堅固なものだった。

「それにしても、ヘレもまた少し大きくなったんじゃないか?」
 レイアは気さくな口調でそう問いかけると、ヘレは小さく小首をかしげた。本人はあまりそう言うことに無頓着らしい。
「私のワイバーンに逢わせるのは確か二度目だな。以前はまだ名前もなかったと記憶しているが、いまはりっぱな名前があるぞ。アウローラと言うんだ、やっと名前で呼んでもらえるな」
 彼女のワイバーンは確かオスだったような気がするが、アウローラとはどちらかというと女性名だ。それを指摘すると、
「ああ、もちろんアウローラは男の子だが?」
 きっとそう言うことに頓着しないのだろう、そうさらっと言うと、嬉しそうににこにこと笑った。
「ああいやいかんな、ユニットのお披露目だとついつい親馬鹿視点になってしまいがちだ。だが、私もフェリア同様、こいつには何度も助けられたんだ。だからこれからの戦いにおいてもともに戦っていく、大切な相棒だ」
 そして名前を呼ばれて窓越しにのぞき込んでくるアウローラにそっと手を伸ばし、優しく頭をなでてやる。
「よろしく頼むぞ、アウローラ」
 その声には、優しさがにじみ出ていた。

「……でも、幻獣の思い出なんて、私もたくさんありすぎて語れないなぁ」
 ワイバーンのカートゥルをつれた真は、無類の幻獣好きだったりする。今回も、誰にするかとても迷ったのだとか。紅茶をすすりながら、懐かしそうに目を細める。
「カートゥルとはワイバーンとともに戦えるようになった当初からずっと一緒にいるから、思い出もたくさんあるんだけれど……私は空を飛ぶことが好きだから、カートゥルとはたくさんの光景を一緒に見たんだ。……その中でも一番思い出に残っているのは、一緒に桜を見たこと、かな。暖かい春の日に青い空を飛んで、満開の桜が咲く高原に行ったんだ。そこで二人でじゃれ合ったり、歌を聴いてもらったり、ぼんやりと散る桜を見て二人で花びらまみれになって笑いあったり……何か特別な出来事があったというわけじゃないけど、動乱の日々の中で、そうやって穏やかな時間を過ごしたことは、とても強く印象に残っているよ」
 そう言い終わると、また紅茶を一口すすった。
「私はカートゥルの他にも一緒に過ごしている幻獣がいるけれど、みんな頼もしくて、大切で、いとおしい存在だよ。世界がこの先、どうなるかわからないけれど……叶うのならば、幻獣がいなくならないような道がいいな。私にとってかけがえのない存在だから。……皆さんも、そうでしょう?」
 真の言葉に、誰もがこくりと頷いた。


 まもなく、投票の結果も出る。
 そのとき、彼らはどう思うのだろう。
 出会いと別れは背中合わせ。
 それでも、誰もが幻獣を大切な仲間としている。
 それは、優しい事実に間違いなかった――。

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重体一覧

参加者一覧

  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    モフカ
    モフカ(ka0754unit004
    ユニット|幻獣
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    ヴァーミリオン(ka0796unit001
    ユニット|幻獣
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ミューズ
    ミューズ(ka1565unit001
    ユニット|幻獣
  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ティオー
    ティオー(ka2003unit001
    ユニット|幻獣
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    エアリアル
    エアリアル(ka2870unit002
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イレーネ(ka3109unit001
    ユニット|幻獣
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アウローラ
    アウローラ(ka4082unit001
    ユニット|幻獣

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カートゥル
    カートゥル(ka5819unit005
    ユニット|幻獣
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    グデチャン
    グデちゃん(ka5852unit004
    ユニット|幻獣
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/06/06 00:16:19
アイコン 【相談卓】相棒との思い出を
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/06/07 21:06:27