ゲスト
(ka0000)
ポルトワール港冬景色
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/29 19:00
- 完成日
- 2015/02/05 02:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ここは港湾都市、ポルトワールの港。年から年中多くの人が集い、喧騒に包まれるこの港だが、今日は実に静かだった。人の姿が全く見えない。
いや、人の姿が見えないのは事実だが、静かかと言うとそうではなかった。ザッパーン!という波音が、幾重にも重なって聞こえていた。
港であるからには、船が着岸することで人が集まる。しかし今は多くの船が出かけており、戻ってこない。
さらに本来なら今日出発の船もいくつかあったのだが、それらも全て航行が中止されている。
それもこれもこの天候が原因だ。折からの強い風により、海面は普段とは違い白く泡立っている。いわゆる時化の状態。これでは船を出すことも出来ない。
海軍の船ならこんな時でも航行するかもしれないが、その海軍は現在CAMの稼働実験の為、そのほとんどが出払っている。
というわけで、かなり珍しい「人のいないポルトワールの港」という風景が出来上がったのだ。
●
そんな港に人影が現れた。どこから現れたのか? それは海面からである。この時点でこれらの人影は人間ではない。
やがて雲の隙間から漏れた太陽の光が当たり、鱗がきらめく。上半身は鱗で覆われ、頭部は魚になっている。俗に言うギルマン、と呼ばれる怪物だ。
何の因果かわからないが、人がいないタイミングでギルマンは港を占拠しようとしたのだった。
●
「依頼です」
ハンターオフィス受付嬢、モア・プリマクラッセ(kz0066)は集まったハンター達に依頼の内容を説明する。
「内容は雑魔6体の排除。ギルマンと呼ばれる半魚半人の怪物です。これらを全て排除してください」
モアは続けて注意点を説明していく。
「基本的には爪で攻撃してきますが、一体、体格の大きなギルマンがトライデント……三叉槍とも言いますね。それを持っています。おそらくこの個体が群れのボスなのでしょう」
敵の内訳を説明した後、モアは最後に一言付け加えた。
「ギルマンは口から水を噴き出します。これに注意してください。威力はそれほどでもありませんが、相手を吹き飛ばすだけの勢いがあります。冬の海に落ちると……危険です」
ここは港湾都市、ポルトワールの港。年から年中多くの人が集い、喧騒に包まれるこの港だが、今日は実に静かだった。人の姿が全く見えない。
いや、人の姿が見えないのは事実だが、静かかと言うとそうではなかった。ザッパーン!という波音が、幾重にも重なって聞こえていた。
港であるからには、船が着岸することで人が集まる。しかし今は多くの船が出かけており、戻ってこない。
さらに本来なら今日出発の船もいくつかあったのだが、それらも全て航行が中止されている。
それもこれもこの天候が原因だ。折からの強い風により、海面は普段とは違い白く泡立っている。いわゆる時化の状態。これでは船を出すことも出来ない。
海軍の船ならこんな時でも航行するかもしれないが、その海軍は現在CAMの稼働実験の為、そのほとんどが出払っている。
というわけで、かなり珍しい「人のいないポルトワールの港」という風景が出来上がったのだ。
●
そんな港に人影が現れた。どこから現れたのか? それは海面からである。この時点でこれらの人影は人間ではない。
やがて雲の隙間から漏れた太陽の光が当たり、鱗がきらめく。上半身は鱗で覆われ、頭部は魚になっている。俗に言うギルマン、と呼ばれる怪物だ。
何の因果かわからないが、人がいないタイミングでギルマンは港を占拠しようとしたのだった。
●
「依頼です」
ハンターオフィス受付嬢、モア・プリマクラッセ(kz0066)は集まったハンター達に依頼の内容を説明する。
「内容は雑魔6体の排除。ギルマンと呼ばれる半魚半人の怪物です。これらを全て排除してください」
モアは続けて注意点を説明していく。
「基本的には爪で攻撃してきますが、一体、体格の大きなギルマンがトライデント……三叉槍とも言いますね。それを持っています。おそらくこの個体が群れのボスなのでしょう」
敵の内訳を説明した後、モアは最後に一言付け加えた。
「ギルマンは口から水を噴き出します。これに注意してください。威力はそれほどでもありませんが、相手を吹き飛ばすだけの勢いがあります。冬の海に落ちると……危険です」
リプレイ本文
●
肌を刺す冷たい風が吹き付ける。天候の良い時は空を映したかのように青い海の色も、今は闇のように黒く、波が立ち出来た白色が斑になっていた。辺りに聞こえるのは、岸壁に打ち付ける波の音。
その激しく大きな波の音を切り裂くように声が響く。
「間が悪い時ってのもあるもんだな」
声の主は、鳴神 真吾(ka2626)。その周りには合わせて8人の人間がいる。その視線の先には埠頭に屯するギルマン達。彼らはこのギルマンを排除するために集まったハンター達だ。
敵はすぐに彼らが敵意を抱いている事を理解し、臨戦態勢に入る。特にギルマンの一番前に立つ、一回り大きな個体は三叉の槍・トライデントを構え、堂々とした態度だ。これがこの群れのボスなのだろう。子分たちを守るとでも言いたいのだろうか。
そしてハンター達も同時に、銃を、弓を構える。一瞬の間の後、もう一度激しい波の音が立ち、その音を上回る大きな声で鳴神が叫んだ。
「テメエらがなんのつもりかは知らねえが、ここに居座られちまうとみなが迷惑しちまうんでな、覚醒!」
●
鳴神が叫ぶと同時に、ギルマン達が突っ込んできた。同時にハンター達も、弓の、弾丸の雨を降らせる。
「わざわざ敵のフィールドで戦ってやる必要もない。こちらの領域に引き摺り込んで叩くのが得策だな」
ハンター達の後方に構えていたアバルト・ジンツァー(ka0895)は、弓を引き絞った。男性としても相当大柄なアバルトの、その体よりも大きな弓を一杯に引き、狙いを付ける。狙うはギルマン達の先頭に立ち、こちらに切り込んでくるボス。丸太のごとく太い腕に力が込められ、筋肉が盛り上がる。そして呼吸を整え、その胸に向かって射放った。
唸りを上げて弓は真っ直ぐに飛び、前に立つ鳴神ともう一人の間を通ってボスへ向かう。しかし相手は手にしたトライデントをぐるぐると振り回し、矢をはたき落としてみせた。まさしく攻防一体。この得物を捌かないと勝ち目はない。
「魚の化物は水の中に潜って泳いでいれば良い。陸に上がるなどと烏滸がましい真似を」
だがその時、鳴神の横に立つ短き銀髪の女エルフが、そう感情の抑揚を付けずに語った。
彼女の名はスティリア(ka3277)。彼女は右人差し指を伸ばし、ボスを見据える。まっすぐ上に立てたその指で、彼女の髪の色と同じく銀色の円輪が回転していた。
「全て三枚におろして海の藻屑と変えてくれる」
そしてアバルトの弓が自分と鳴神の間を抜け、ボスに向かって飛んでいった直後に、その円輪をボスヘ向かって投げ放った。
投げ放たれた円輪は風にあおられながらも、魔法のようにカーブを描きボスの腹部へ向かって吸い込まれていく。その輪の外側は刃になっていた。チャクラムと呼ばれる武器。それをもう一度叩き落とそうにも、アバルトの矢を叩き落としたトライデントはもう間に合わない。そしてチャクラムはボスの鱗の隙間から、その身体に深々と傷をつけた。
「水が得意な敵は陸で対処するのが定跡、です。正々堂々戦う必要などありませんね」
一方、アバルトの隣で同じく弓を構えていたのは、椥辻 ヒビキ(ka3172)だ。
ヒビキはギルマンがこちらへ向かってきた時にはアバルトの前に居たが、今は隣にいる。そして彼女は矢を一番前に立つボスに向かって放つと、さらに後ろへと下がった。それもこれも敵をこちらへ引き寄せるためだ。ギルマンは資料によると相手を吹き飛ばす鉄砲水を持っている。それに押されて海に落ちることを避けるのなら、埠頭で戦うべきではない。アバルトに負けず劣らずの大きな弓を構えアピールするその動きに釣られ、狙い通りボスはこちらへと突っ込んできた。
「寒中水泳とはギルマン達もご苦労なことだ……俺は付き合いたくないんでね、そのまま海の底に沈んでもらおうか」
そして同じく後方、少し離れた位置にいたのが鬼塚 雷蔵(ka3963)。しかし、彼は他の二人とは違う武器を手にしていた。黒光りする猟銃のボルトレバーを起こし、弾丸を装填すると素早く戻す。恐らく長い間修練したのであろうことが一目でわかる、流れる様な動作の後に照準をボスに定め、トリガーを引いた。
「港を占拠……単純に縄張りが欲しいだけならば兎も角、破壊活動まで行われると非常に厄介ですね」
一方、柳津半奈(ka3743)はそんな二人より前に位置取っていた。剣を用いた白兵戦を得意とする彼女だが、今は剣を収め、代わりに拳銃を持っている。
「航海に旅立った船は、また同じ港へと帰るもの」
半奈は銃を構える。
「その寄る辺を、奪わせる訳には参りませんわ」
そして同じく、トリガーを引いた。
ヒビキの矢が風を切る音と同時に、鬼塚と半奈の銃の発射音が鳴り、矢と二発の銃弾が真っ直ぐボスに向かって飛んでいく。
だが相手は怯むこと無く、トライデントをバトンのように回転させながら突っ込んでくる。そして迫る矢と銃弾を弾き飛ばし、そのまま速度を落とさず襲い掛かった。
しかしハンター達には文字通り二の矢、三の矢がある。
「よりにもよって、CAMの実験で人がいない時に……だけど、港を占拠させたりはしないわ。いつか戻ってくる人達の為にも、ね」
半奈の横の位置で椿姫・T・ノーチェ(ka1225)が弓を構えていた。その弓はアバルトの物より遥かに短いながら、獲物を狩るという一点に置いては同等の能力を持つ機能美にあふれた一品。その弓に矢をつがえ、迫るボスに焦ること無く狙いとタイミングを見極めるべく呼吸を整える。
「お魚さんが人の形をなして動き出すなど、美しさの形も感じられないのでございますわ」
そしてヒビキや鬼塚と同じく後衛に位置取っていたのはアドルフィーネ・シュナイダー(ka3970)だ。彼女はハンター達の中でただ一人、全く違う武装で挑む。片手には円形の大きな盾。そしてもう片方の手には短い杖、いわゆるワンド。
「海のゴミは藻屑へと返して差し上げるのが、最も美しい道理でございましょう?」
アドルフィーネが口を開くと、唄うように呪言が流れ出る。その言葉が風に乗ると同時に光るエネルギーがワンドに集約していく。意識を集中し、そのエネルギーがボスを焼きつくすイメージを念ずる。
やがてその光は矢の形を取る。彼女の魔術が完成すると同時に、椿姫は矢を放った。
そしてそれに合わせ、前に居た鳴神も攻撃を行う。その姿はいつの間にか異形の者へと変わっていた。機械とも生物とも付かぬ装甲を全身に纏うその姿は、リアルブルーに多く存在する特撮ヒーローのそれだ。かの世界では架空の存在であるそれらが人々に勇気を与えていた。そして鳴神は確かにここにいる。彼はヒーローとなるべく、銃を抜き放つ。
放たれた鉄の矢、鉛の矢、光の矢。それらは一点、ボスの足へと向かう。鉄と鉛の矢が傷つけ、そこに光の矢が深々と突き刺さりボスの足を焼いた。
●
だが、ボスは動きを止めない。痛むであろう足を引きずりながらも前へ、前へと出てくる。それはまるで長としての責務を果さんとするかのようだ。ボスは深く傷つきながらも、最も前に立つスティリアと向かい合う。
怪物はトライデントを振り上げ、ハンターを血祭りに上げるべく振り下ろそうとする。
「どうした、その手に持った武器は飾りか? 陸では勝てぬというのなら、諦めて海に帰るがいい!」
その時、鳴神が叫んだ。言葉が通じるかはわからぬが、人々を守るヒーローとして自らに攻撃を誘うべく行った挑発。彼の口調はいつしか普段の口調と代わり、凛々しいヒーローとしてのそれに変わった。
果たしてその挑発はボスに聞こえたのか否か。それはわからないが、ボスは振り上げたトライデントをスティリアに振り下ろすかのように見せかけ、やおら鳴神へ向けて投げつけた!
盾を掲げ、それを受け止めようとする鳴神。だが、その三叉槍はまるでリアルブルーの海神が使った時の様に飛び、乾坤一擲の一撃が鳴神の肩から胸へ深々と突き刺さった。
それに勢いづいたのか、ボスを追ってこちらに向かってきたギルマン達は殺到する。
しかし、鳴神は膝をつかない。明らかに深い傷を負ったが、同時にボスの自慢の武器を奪うことに成功したのだ。トライデントを引き抜き、地面に落とす。そこに椿姫が走りこみながら拾い上げ、遠くへ投げ捨てた。
そして殺到するギルマン達も、その狙いは食い止められた。
「参ります」
半奈が銃を捨て、長く分厚い金色の剣を抜く。そのまま前に出るとボスと配下の間にその身を踊らせ、その勢いのまま刃を大きく振るった。唸るその剣圧の前に足を止めざるを得ないギルマン達。
「貴方の相手は、私です」
寄らば斬るとばかりに剣を構え直し、ギルマンに立ち向かう半奈。
だが、配下のギルマンは5体いた。1体、2体では半奈に押し留められるとしても、この数があれば。そう考えたのか、彼女の死角になる方から襲い来る。
「寒い冬の海などに飛び込むのはご免被る。悪いが、陸上から存分に射掛けさせて貰おう」
だが、ギルマン達は襲うことはできない。足元に刺さっていた矢が、彼らをその場に押し留めていた。アバルトはその大きな弓で直接ギルマンを狙うのではなく、足止めを行うという選択をした。それは軍人故の判断である。自らが敵を倒さなくても、部隊で事に当たればいい。
足を止めたギルマン達に、アバルトの思惑通りに鉛弾が牙を剥く。鬼塚は敵に狙いを定めさせず、有利な位置を取るべく動き回っていた。走りながらボルトアクションを行い、射線が通ったところで一瞬だけ動きを止め、状況を確認してから銃を撃つ。撃ったらすかさず次に備えて再び動きだす。そんな鬼塚の放った弾丸はギルマンの心臓を貫き、赤い花を咲かせた。
「また海に入られると面倒です、陸で片をつけましょう」
一方のボスには、ヒビキが攻撃の火蓋を切った。再び矢をつがえ、ボスに向かって弓を引く。先ほどと同じように放たれた矢だが、一点だけ違うことがあった。それはボスが既にトライデントを失っていること。その矢を受け止めることは叶わず、肩口に深々と突き刺さる。
「板子の下は地獄と謳われる海の底へ、叩き込んでくれる」
そして流石に怯んだボスを足すべく、詰めに向かって攻撃を続ける。先に動いたのはスティリア。二つの拳を顔の前に上げ、構えを取ると、下半身から上半身へ力を伝えながらパンチを放つ。そして彼女の全身を力が動くのと同時に、手を覆うナックルにマテリアルが流れこむと、それは姿を変え、鮫の顎門を形どった。
そのまま放たれたパンチは横殴りにボスを打つ。強い衝撃をアゴに受け、フラフラとよろめくボス。
それとアドルフィーネが呪文を完成させたのは同時だった。再びの集中から放たれた光の矢が曇天の空の下、ふらつくボスの元へと飛ぶ。その矢はピンポイントでボスの心臓を捉えた。
「おほほほー」
崩れ落ちるその姿を見ながら、彼女は機嫌よく高笑いを上げるのであった。
●
長を倒されたギルマン達だが、士気は衰えない。いや、せめてその弔いにハンター達を海の底に沈めようと再び襲い掛かる。片側にいる2体はその足を止めず、1体は半奈に向け爪を振るい、もう1体は海に落とすべく大きく息を吸い込んだ。
振るわれた爪を剣で受け止めようとする半奈。だが、それは剣をかいくぐり、彼女の柔肌を引っ掻いた。
傷から赤い雫が落ちる。だが、半奈はひるまない。自らを傷つけたギルマンではなく、今水を吹付けようとした敵に向かって剣を突く。その刃先は口に向かって突き出され、その唇を切り裂いた。ギルマンがいくら口を閉じても傷口から水が漏れ出る。
「隙あり……!」
そのまま攻撃を続けると見せかけ、半奈は刃を返し自らに傷をつけた敵に向かって剣を振るう。その分厚い刃は鱗ごとギルマンの体を袈裟掛けに斬り裂き、一刀の元に切り捨てた。
リアルブルーの古い文章には「武士(もののふ)の女房たるものは、健気なる心を一つ持ちてこそ」と記されている。後ろに居る仲間たちの為に剣一つで奮戦する彼女の姿は、まさしく健気なる武士であった。
「港を危険にさらすわけには、いかないんです!」
その奮戦に答えるべく、仲間達も戦う。椿姫はトライデントを投げ捨てたその足で前に出る。そして吹付けようとした水が流れ落ちることに困惑するギルマンに、逆手で持った黒いナイフを突き立てその息の根を止めた。
そしてもう片側にいるギルマン達はスティリアに襲いかかる。水の噴射で陣形を崩し、そこに爪を突き立てる。その狙い通り、吹きつけられた水は威力こそ大したことが無いにせよ、スティリアの体をもう1体のギルマンの前に孤立させる。その頭を狙い、振り下ろされる爪。
「釣人が望まぬ魚を外道と言うそうだが、成す事を含めギルマンは当に外道だな」
だが、その狙いは叶わなかった。襲い来る爪を素早く身を屈めて交わし、伸び上がりながら突き上げるように腹部にパンチ。
「へぇ……」
ギルマンを仕留めようと銃を構え照準を合わせていた鬼塚が思わず言葉を漏らす。リアルブルーでボクシングを経験してきた彼にはわかる。スティリアのその動き、ダッキングからのボディアッパーという流れは、一流のプロボクサーにも引けを取らないものであった。
「眼前より消えて貰おうか」
そして動きを止めたギルマンへ、体を流して横に回りこむと左ジャブから右ストレート。それは海中で鮫が小魚を喰らう食物連鎖のように、彼女の拳はギルマンを喰らい尽くした。
事ここに来て、もはや叶わぬことを悟ったギルマンは踵を返し海へ戻ろうと一目散に駆け出す。
深追いする必要はない。が、みすみす見逃す必要もない。
ヒビキのその漆黒の瞳にマテリアルが巡り、ただ一点、敵の急所を見据える。果たして、彼女が放った矢は港を貫くように一条の線を描き、残る怪物の息の根を止めた。
●
戦いは終わった。ハンター達の完勝と言っていい。
しかし、覚醒し戦いに集中していた時は気付かなかったが、いざ終わってみると実に寒い。例え海に落ちなかったとはいえ、この天候である、否応なく飛び散った波しぶきが体にかかり、体温が奪われていた。ならばやることは一つだ。
「みな、寒い中お疲れ様だった。戦いが終わったことだし、自分がおごるから暖かくなるモノを腹に収めていく事としようじゃないか」
アバルトはハンター達を酒場に誘う。きっとそこには港に出られない海の男達が屯しているだろう。彼らに戦果を話しながら呑むのも悪くない。未成年の3人にはホットミルクでもおごろうか。そんなことを思いながら、ハンター達はポルトワールの歓楽街へと消えていった。
肌を刺す冷たい風が吹き付ける。天候の良い時は空を映したかのように青い海の色も、今は闇のように黒く、波が立ち出来た白色が斑になっていた。辺りに聞こえるのは、岸壁に打ち付ける波の音。
その激しく大きな波の音を切り裂くように声が響く。
「間が悪い時ってのもあるもんだな」
声の主は、鳴神 真吾(ka2626)。その周りには合わせて8人の人間がいる。その視線の先には埠頭に屯するギルマン達。彼らはこのギルマンを排除するために集まったハンター達だ。
敵はすぐに彼らが敵意を抱いている事を理解し、臨戦態勢に入る。特にギルマンの一番前に立つ、一回り大きな個体は三叉の槍・トライデントを構え、堂々とした態度だ。これがこの群れのボスなのだろう。子分たちを守るとでも言いたいのだろうか。
そしてハンター達も同時に、銃を、弓を構える。一瞬の間の後、もう一度激しい波の音が立ち、その音を上回る大きな声で鳴神が叫んだ。
「テメエらがなんのつもりかは知らねえが、ここに居座られちまうとみなが迷惑しちまうんでな、覚醒!」
●
鳴神が叫ぶと同時に、ギルマン達が突っ込んできた。同時にハンター達も、弓の、弾丸の雨を降らせる。
「わざわざ敵のフィールドで戦ってやる必要もない。こちらの領域に引き摺り込んで叩くのが得策だな」
ハンター達の後方に構えていたアバルト・ジンツァー(ka0895)は、弓を引き絞った。男性としても相当大柄なアバルトの、その体よりも大きな弓を一杯に引き、狙いを付ける。狙うはギルマン達の先頭に立ち、こちらに切り込んでくるボス。丸太のごとく太い腕に力が込められ、筋肉が盛り上がる。そして呼吸を整え、その胸に向かって射放った。
唸りを上げて弓は真っ直ぐに飛び、前に立つ鳴神ともう一人の間を通ってボスへ向かう。しかし相手は手にしたトライデントをぐるぐると振り回し、矢をはたき落としてみせた。まさしく攻防一体。この得物を捌かないと勝ち目はない。
「魚の化物は水の中に潜って泳いでいれば良い。陸に上がるなどと烏滸がましい真似を」
だがその時、鳴神の横に立つ短き銀髪の女エルフが、そう感情の抑揚を付けずに語った。
彼女の名はスティリア(ka3277)。彼女は右人差し指を伸ばし、ボスを見据える。まっすぐ上に立てたその指で、彼女の髪の色と同じく銀色の円輪が回転していた。
「全て三枚におろして海の藻屑と変えてくれる」
そしてアバルトの弓が自分と鳴神の間を抜け、ボスに向かって飛んでいった直後に、その円輪をボスヘ向かって投げ放った。
投げ放たれた円輪は風にあおられながらも、魔法のようにカーブを描きボスの腹部へ向かって吸い込まれていく。その輪の外側は刃になっていた。チャクラムと呼ばれる武器。それをもう一度叩き落とそうにも、アバルトの矢を叩き落としたトライデントはもう間に合わない。そしてチャクラムはボスの鱗の隙間から、その身体に深々と傷をつけた。
「水が得意な敵は陸で対処するのが定跡、です。正々堂々戦う必要などありませんね」
一方、アバルトの隣で同じく弓を構えていたのは、椥辻 ヒビキ(ka3172)だ。
ヒビキはギルマンがこちらへ向かってきた時にはアバルトの前に居たが、今は隣にいる。そして彼女は矢を一番前に立つボスに向かって放つと、さらに後ろへと下がった。それもこれも敵をこちらへ引き寄せるためだ。ギルマンは資料によると相手を吹き飛ばす鉄砲水を持っている。それに押されて海に落ちることを避けるのなら、埠頭で戦うべきではない。アバルトに負けず劣らずの大きな弓を構えアピールするその動きに釣られ、狙い通りボスはこちらへと突っ込んできた。
「寒中水泳とはギルマン達もご苦労なことだ……俺は付き合いたくないんでね、そのまま海の底に沈んでもらおうか」
そして同じく後方、少し離れた位置にいたのが鬼塚 雷蔵(ka3963)。しかし、彼は他の二人とは違う武器を手にしていた。黒光りする猟銃のボルトレバーを起こし、弾丸を装填すると素早く戻す。恐らく長い間修練したのであろうことが一目でわかる、流れる様な動作の後に照準をボスに定め、トリガーを引いた。
「港を占拠……単純に縄張りが欲しいだけならば兎も角、破壊活動まで行われると非常に厄介ですね」
一方、柳津半奈(ka3743)はそんな二人より前に位置取っていた。剣を用いた白兵戦を得意とする彼女だが、今は剣を収め、代わりに拳銃を持っている。
「航海に旅立った船は、また同じ港へと帰るもの」
半奈は銃を構える。
「その寄る辺を、奪わせる訳には参りませんわ」
そして同じく、トリガーを引いた。
ヒビキの矢が風を切る音と同時に、鬼塚と半奈の銃の発射音が鳴り、矢と二発の銃弾が真っ直ぐボスに向かって飛んでいく。
だが相手は怯むこと無く、トライデントをバトンのように回転させながら突っ込んでくる。そして迫る矢と銃弾を弾き飛ばし、そのまま速度を落とさず襲い掛かった。
しかしハンター達には文字通り二の矢、三の矢がある。
「よりにもよって、CAMの実験で人がいない時に……だけど、港を占拠させたりはしないわ。いつか戻ってくる人達の為にも、ね」
半奈の横の位置で椿姫・T・ノーチェ(ka1225)が弓を構えていた。その弓はアバルトの物より遥かに短いながら、獲物を狩るという一点に置いては同等の能力を持つ機能美にあふれた一品。その弓に矢をつがえ、迫るボスに焦ること無く狙いとタイミングを見極めるべく呼吸を整える。
「お魚さんが人の形をなして動き出すなど、美しさの形も感じられないのでございますわ」
そしてヒビキや鬼塚と同じく後衛に位置取っていたのはアドルフィーネ・シュナイダー(ka3970)だ。彼女はハンター達の中でただ一人、全く違う武装で挑む。片手には円形の大きな盾。そしてもう片方の手には短い杖、いわゆるワンド。
「海のゴミは藻屑へと返して差し上げるのが、最も美しい道理でございましょう?」
アドルフィーネが口を開くと、唄うように呪言が流れ出る。その言葉が風に乗ると同時に光るエネルギーがワンドに集約していく。意識を集中し、そのエネルギーがボスを焼きつくすイメージを念ずる。
やがてその光は矢の形を取る。彼女の魔術が完成すると同時に、椿姫は矢を放った。
そしてそれに合わせ、前に居た鳴神も攻撃を行う。その姿はいつの間にか異形の者へと変わっていた。機械とも生物とも付かぬ装甲を全身に纏うその姿は、リアルブルーに多く存在する特撮ヒーローのそれだ。かの世界では架空の存在であるそれらが人々に勇気を与えていた。そして鳴神は確かにここにいる。彼はヒーローとなるべく、銃を抜き放つ。
放たれた鉄の矢、鉛の矢、光の矢。それらは一点、ボスの足へと向かう。鉄と鉛の矢が傷つけ、そこに光の矢が深々と突き刺さりボスの足を焼いた。
●
だが、ボスは動きを止めない。痛むであろう足を引きずりながらも前へ、前へと出てくる。それはまるで長としての責務を果さんとするかのようだ。ボスは深く傷つきながらも、最も前に立つスティリアと向かい合う。
怪物はトライデントを振り上げ、ハンターを血祭りに上げるべく振り下ろそうとする。
「どうした、その手に持った武器は飾りか? 陸では勝てぬというのなら、諦めて海に帰るがいい!」
その時、鳴神が叫んだ。言葉が通じるかはわからぬが、人々を守るヒーローとして自らに攻撃を誘うべく行った挑発。彼の口調はいつしか普段の口調と代わり、凛々しいヒーローとしてのそれに変わった。
果たしてその挑発はボスに聞こえたのか否か。それはわからないが、ボスは振り上げたトライデントをスティリアに振り下ろすかのように見せかけ、やおら鳴神へ向けて投げつけた!
盾を掲げ、それを受け止めようとする鳴神。だが、その三叉槍はまるでリアルブルーの海神が使った時の様に飛び、乾坤一擲の一撃が鳴神の肩から胸へ深々と突き刺さった。
それに勢いづいたのか、ボスを追ってこちらに向かってきたギルマン達は殺到する。
しかし、鳴神は膝をつかない。明らかに深い傷を負ったが、同時にボスの自慢の武器を奪うことに成功したのだ。トライデントを引き抜き、地面に落とす。そこに椿姫が走りこみながら拾い上げ、遠くへ投げ捨てた。
そして殺到するギルマン達も、その狙いは食い止められた。
「参ります」
半奈が銃を捨て、長く分厚い金色の剣を抜く。そのまま前に出るとボスと配下の間にその身を踊らせ、その勢いのまま刃を大きく振るった。唸るその剣圧の前に足を止めざるを得ないギルマン達。
「貴方の相手は、私です」
寄らば斬るとばかりに剣を構え直し、ギルマンに立ち向かう半奈。
だが、配下のギルマンは5体いた。1体、2体では半奈に押し留められるとしても、この数があれば。そう考えたのか、彼女の死角になる方から襲い来る。
「寒い冬の海などに飛び込むのはご免被る。悪いが、陸上から存分に射掛けさせて貰おう」
だが、ギルマン達は襲うことはできない。足元に刺さっていた矢が、彼らをその場に押し留めていた。アバルトはその大きな弓で直接ギルマンを狙うのではなく、足止めを行うという選択をした。それは軍人故の判断である。自らが敵を倒さなくても、部隊で事に当たればいい。
足を止めたギルマン達に、アバルトの思惑通りに鉛弾が牙を剥く。鬼塚は敵に狙いを定めさせず、有利な位置を取るべく動き回っていた。走りながらボルトアクションを行い、射線が通ったところで一瞬だけ動きを止め、状況を確認してから銃を撃つ。撃ったらすかさず次に備えて再び動きだす。そんな鬼塚の放った弾丸はギルマンの心臓を貫き、赤い花を咲かせた。
「また海に入られると面倒です、陸で片をつけましょう」
一方のボスには、ヒビキが攻撃の火蓋を切った。再び矢をつがえ、ボスに向かって弓を引く。先ほどと同じように放たれた矢だが、一点だけ違うことがあった。それはボスが既にトライデントを失っていること。その矢を受け止めることは叶わず、肩口に深々と突き刺さる。
「板子の下は地獄と謳われる海の底へ、叩き込んでくれる」
そして流石に怯んだボスを足すべく、詰めに向かって攻撃を続ける。先に動いたのはスティリア。二つの拳を顔の前に上げ、構えを取ると、下半身から上半身へ力を伝えながらパンチを放つ。そして彼女の全身を力が動くのと同時に、手を覆うナックルにマテリアルが流れこむと、それは姿を変え、鮫の顎門を形どった。
そのまま放たれたパンチは横殴りにボスを打つ。強い衝撃をアゴに受け、フラフラとよろめくボス。
それとアドルフィーネが呪文を完成させたのは同時だった。再びの集中から放たれた光の矢が曇天の空の下、ふらつくボスの元へと飛ぶ。その矢はピンポイントでボスの心臓を捉えた。
「おほほほー」
崩れ落ちるその姿を見ながら、彼女は機嫌よく高笑いを上げるのであった。
●
長を倒されたギルマン達だが、士気は衰えない。いや、せめてその弔いにハンター達を海の底に沈めようと再び襲い掛かる。片側にいる2体はその足を止めず、1体は半奈に向け爪を振るい、もう1体は海に落とすべく大きく息を吸い込んだ。
振るわれた爪を剣で受け止めようとする半奈。だが、それは剣をかいくぐり、彼女の柔肌を引っ掻いた。
傷から赤い雫が落ちる。だが、半奈はひるまない。自らを傷つけたギルマンではなく、今水を吹付けようとした敵に向かって剣を突く。その刃先は口に向かって突き出され、その唇を切り裂いた。ギルマンがいくら口を閉じても傷口から水が漏れ出る。
「隙あり……!」
そのまま攻撃を続けると見せかけ、半奈は刃を返し自らに傷をつけた敵に向かって剣を振るう。その分厚い刃は鱗ごとギルマンの体を袈裟掛けに斬り裂き、一刀の元に切り捨てた。
リアルブルーの古い文章には「武士(もののふ)の女房たるものは、健気なる心を一つ持ちてこそ」と記されている。後ろに居る仲間たちの為に剣一つで奮戦する彼女の姿は、まさしく健気なる武士であった。
「港を危険にさらすわけには、いかないんです!」
その奮戦に答えるべく、仲間達も戦う。椿姫はトライデントを投げ捨てたその足で前に出る。そして吹付けようとした水が流れ落ちることに困惑するギルマンに、逆手で持った黒いナイフを突き立てその息の根を止めた。
そしてもう片側にいるギルマン達はスティリアに襲いかかる。水の噴射で陣形を崩し、そこに爪を突き立てる。その狙い通り、吹きつけられた水は威力こそ大したことが無いにせよ、スティリアの体をもう1体のギルマンの前に孤立させる。その頭を狙い、振り下ろされる爪。
「釣人が望まぬ魚を外道と言うそうだが、成す事を含めギルマンは当に外道だな」
だが、その狙いは叶わなかった。襲い来る爪を素早く身を屈めて交わし、伸び上がりながら突き上げるように腹部にパンチ。
「へぇ……」
ギルマンを仕留めようと銃を構え照準を合わせていた鬼塚が思わず言葉を漏らす。リアルブルーでボクシングを経験してきた彼にはわかる。スティリアのその動き、ダッキングからのボディアッパーという流れは、一流のプロボクサーにも引けを取らないものであった。
「眼前より消えて貰おうか」
そして動きを止めたギルマンへ、体を流して横に回りこむと左ジャブから右ストレート。それは海中で鮫が小魚を喰らう食物連鎖のように、彼女の拳はギルマンを喰らい尽くした。
事ここに来て、もはや叶わぬことを悟ったギルマンは踵を返し海へ戻ろうと一目散に駆け出す。
深追いする必要はない。が、みすみす見逃す必要もない。
ヒビキのその漆黒の瞳にマテリアルが巡り、ただ一点、敵の急所を見据える。果たして、彼女が放った矢は港を貫くように一条の線を描き、残る怪物の息の根を止めた。
●
戦いは終わった。ハンター達の完勝と言っていい。
しかし、覚醒し戦いに集中していた時は気付かなかったが、いざ終わってみると実に寒い。例え海に落ちなかったとはいえ、この天候である、否応なく飛び散った波しぶきが体にかかり、体温が奪われていた。ならばやることは一つだ。
「みな、寒い中お疲れ様だった。戦いが終わったことだし、自分がおごるから暖かくなるモノを腹に収めていく事としようじゃないか」
アバルトはハンター達を酒場に誘う。きっとそこには港に出られない海の男達が屯しているだろう。彼らに戦果を話しながら呑むのも悪くない。未成年の3人にはホットミルクでもおごろうか。そんなことを思いながら、ハンター達はポルトワールの歓楽街へと消えていった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
ギルマン掃討作戦相談場 鬼塚 雷蔵(ka3963) 人間(リアルブルー)|20才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/27 00:34:52 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/25 02:23:35 |