新ジャガと聖堂教会の闇

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/07/05 07:30
完成日
2019/07/08 21:37

みんなの思い出

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オープニング

 闇にも種類がある。
 人の間から異端を……歪虚と通じた邪悪を見つけ出すための闇。
 歪虚に対する戦力を揃えるため権力財力を振るう闇。
 そして、歪虚に対しあらゆる手段を使う闇。
 ここに集った闇は、3番目の最も深い所にいる聖職者達だった。

●苦闘
「死ぃねぇ!」
 普段は穏和な医師として知られる司教が、目を見開き歯を剥き出しにして白銀の刃を振るう。
 痛みを感じさせるより早く皮を切り裂き身を刮いで、歪虚の体液で白衣を濡らした。
「ハッハァ! 歪虚を罰する機会を与えてくださり感謝しますエクラ万歳!!」
 濁流じみた光の波動が歪虚の身を焼き独特の匂いを発生させる。
 強力な法術を使ったのに枯れ木のような老司教は異様に元気そうで、全身から殺意に満ちたオーラが噴き上がっている。
 だが敵は膨大だ。
 傷ついた歪虚と入れ替わりに新手が現れ、退路を塞ぐ形で別の歪虚がじりじり動いている。
 それでも、司教と司祭達は嬉々として抗戦を続けていた。

●5分前の光景
「司教、そこ焼けましたよ」
「儂はもうちょっと焼けたのが好きでのぅ」
 網焼きである。
 勢いの強い炎の上端付近に網が設置され、朝とれたばかりのジャガイモが狐色に焼けている。
 熟成が進んでいないので甘い香りはほとんどない。
 しかし瑞瑞しい匂いは目に見えるほど濃く、日頃の激務で鈍った胃を強烈に刺激し目覚めさせる。
「どうぞ、塩です」
「そこはマヨネーズじゃろイコニアちゃん」
「脂っぽい物食べ過ぎでお医者様に止められていますよねっ」
 和気藹々と表現するには全員手際が良すぎた。
 作戦行動中に手早く食事を済ませる軍隊のような、普通の聖職者とは思えない練度と緊張感があった。
「かー、うまい!」
「毎年のこれが楽しみでこの世にしがみついとるわ」
「いやいや、今年のは特に素晴らしいですぞ」
 医学者を始めとする専門家や大規模聖堂の責任者達が、健啖を発揮しながら炎から視線を動かさない。
 燃やしているのは、歪虚を尋問した際の記録だ。
「邪神を倒すために歪虚を引き込もうとするとはのぅ」
 ジャガイモの皮の歯ごたえもいい。
「ハンターのこれまでの実績が無ければ虚言か妄想ですな」
「しかしそれに賭けるのが1番ましなのも事実。ということは……」
 炭になった紙をメイスで突いて完全に破壊する。
「歪虚勢力と友好を結ぶ可能性がある」
「となると歪虚を加工する技術など残す訳にはなぁ」
「まあイコニアちゃんの担当技術の方が危険じゃが」
 1番若い司祭はせっせと資料焼却作業を続けている。
 歪虚を使った延命や復活についての研究資料なので、万一流出すればこの場の全員の首が物理的に飛ぶ。
「一度も使わずに済んでほっとしています。条件が揃っても成功率は低いでしょうが……」
 事前に油かけているらしく、火の勢いが急に強まり紙が燃え字が読めなくなる。
「歪虚の手に渡るのは嬉しくない情報ですからね。仮に味方になっても歪虚は歪虚です」
 話が通じるように見えても聖堂教会の中で特に過激な面々だ。
 歪虚に対する敵意は人格の一部であり修正する方法など無い。
「私のはこれで最後です。……安心したらお腹が減りました。1つ下さい」
 少し塩を振っただけの焼きジャガイモが何故が美味い。
「そうじゃの。しかし」
「炎を見続けると目が痛いですな」
 気を抜いていた訳ではない。
 全員全く同じタイミングで目をこすったのは、ファンブルが数度連続するレベルの不運であった。
 呪われた資料に染みこんでいた負マテリアルが煙になる。
 それは網の上のジャガイモに吸い込まれ……雑魔として活動を開始した。

●緊急依頼
「はい! 聖堂教会が歪虚に襲われています!」
 あなたは転移装置に向かって走っている。
 ママチャリで並走する職員が説明をしてくれてはいるが、息が乱れて苦しそうだ。
「誤報ではありません。人払いをした聖堂に歪虚が大量発生。会合中の高位聖職者が包囲され連絡がとれないそうです」
 陰謀の気配とコメディ展開の予感がするのは気のせいだろうか。
「建物内からの避難と周辺地域からの避難は聖堂戦士団が行っています。皆さんはっ」
 力尽きてあなたに並走できなくなる。
 転移装置近くにいた別の職員が説明を引き継いだ。
「確認された歪虚は2種類です。1つは古い紙の束が集まって人型になったタイプ」
 見た目より重く、手足による一撃はかなりの威力だ。
 素材のせいか物理攻撃には強い。
「これ、火がつくと激しく燃えて危ないらしいです。紙の一部が外に飛ぶと政治的に危険なので出来れば物理で倒してくれって……無茶言うなぁ」
 同感である。
「もう1種は……えっ、新ジャガ?」
 精霊翻訳のミスだろうか。
「あ、いえ本当に新しいジャガイモって書いてあります。聖堂に運び込んだ採れたてジャガイモが負マテリアルに触れて雑魔化したらしい、です」
 今朝とれたばかりらしい。
 市場に出荷するには小さ過ぎ形も悪く、けれど味には問題ない。
 間違いなく美味しい。
「大きさは中型犬くらいで、全部ジャガイモです」
 強度はジャガイモ。攻撃手段は体当たりとジャガイモ投擲。
「ジャガイモなんです」
 とにかく弱いが雑魔が攻撃するだけでジャガイモが傷つく。
 つまり美味しさがどんどん喪われていく。
「死者が出ないなら少々現場や近くの聖堂を壊してもいいそうですので、その、いい感じに完結して下さいお願いします」
 こうして、聖堂教会の闇の処分が貴方に任されたのである。

リプレイ本文

●鮮度的に新しき歪虚
 開放的な祈りの場を抜けると機能的な居住区があり、さらに奥には戦闘用の無骨な仕掛けが待ち受けている。
 そんな老朽施設に力強い足音が響いている。
 軽いのに龍の力を感じさせる音が連続。若きドラグーンが全ての障害を突破する。
「あれが」
 ユウ(ka6891)の瞳に微かな困惑が浮かんだ。
 ジャガイモを擬人化し3頭身にした何かが、ユウの足音が響いてくる方向が分からず通路でまごまごしている。
 ユウは一切油断せず、しかし建物に傷をつけないよう最大限の注意を払いながら、通路にたむろす全てのジャガイモ歪虚を刃で切り裂いた、つもりだった。
「えっ」
 水っぽい炸裂音が同時に響く。
 ただのジャガイモに戻った元雑魔が床に落ちて鈍い音をたてる。
 魔剣で斬った部位は、綺麗に真っ二つになった後に衝撃に耐えられず爆発して壁を汚していた。
「歪虚化したものって……確か、倒したら消滅して残らなかった筈……ですよね」
 大きな魔導バイクを使った分少し遅れて来た天央 観智(ka0896)が、瑞瑞しいジャガイモを拾い上げて困惑の表情になる。
 落下の衝撃で少し傷んではいるが感触が良い。
 鍛え抜いた五感でも異常を感知出来ないので、9割9分を超える確率でこれはただの野菜だ。
「新手です!」
 イツキ・ウィオラス(ka6512)が警戒を促す。
 狭い通路で槍を構えているのに無理は感じられず、その強くて重い槍こそイツキの牙に相応しく見える。
 三叉路でユウと別れてイツキは食料庫に続く通路へ進む。
 先程感じた匂いの通りに、土がついた新ジャガで構成された歪虚がゆっくりと近づいてくる。これが芋雑魔の全力突撃だ。
「物理で倒すのは得意です。寧ろ専業です」
 この聖堂に入る直前、善意で心配してくれた聖堂戦士達を思い出す。
 小柄で細身なエルフであるイツキが大精霊から槍を賜るほどの使い手だと気付けない程度の……人格的にはともかく戦力的には雑魚だった。
「エルフだからって魔法が得意とは想ってはいけません」
 知り合いの術師エルフのことを考えながら穂先を動かし、ジャガイモの強度しかない雑魔の胸を刺し貫く。
 徹底的に力を抜いても床ごと貫きかねないほど、弱い雑魔と建物であった。
「なるほど」
 観智は理解した。
 歪虚は存在を奪うのだ。
 地面に転がるジャガと食料庫に積まれたジャガを見比べれば、どの程度の時間でどの程度の力が奪われるか直感的に理解出来る。
「長く歪虚でいれば存在する力が奪い尽くされ、歪虚で無くなった瞬間何も残らなくなる、か」
 威力の弱い方の装備を選び、イツキの陰から術を使う。
 広々とした食料庫に展開していたジャガイモ雑魔1個小隊が、濃い野菜の匂いと体を構成していた芋を残して一撃で全滅した。
「今は無事な新ジャガを確保しませんと」
 雑魔の予想以上の弱さに気付かないふりをして、真面目な顔で言い切る観智。
 イツキもまた真剣な表情を意識して浮かべ、蟻一匹通さない態勢を維持しつつユウの後を追った。

●雑魔の最期と青春
 古びた書類の歪虚は怨念に満ち、それに包囲された聖職者達は喜悦すら感じられる殺意を撒き散らして応戦する。
 ただ、攻防に用いられる武力は甘く見ても中堅ハンター程度しかない。
 歪虚は雑魔でしかなく、聖職者側はBBQ用装備しかないのだ。
「イコニア!」
「イコちゃん」
 ハンターの男女が高い壁に上に現れた直後、カイン・A・A・マッコール(ka5336)は躊躇わずに飛び降り宵待 サクラ(ka5561)は宙を駆け下りた。
 当然のようにサクラの方が早く着く。
「不用心だよ!」
 東方の戦馬で駆け寄りざまに歪虚を切り捨てる。
 羊皮紙を束ねる金具が1つ外れ、特に薄い数枚が焚火の近くまで吹き飛び発火した。
「なんてことなの」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)が目を閉じ、激発しそうになる感情に堪える。
 手元にあるのは黒く焦げていく論文だ。
「おイモの鮮度が落ちようがおイモはおイモなの、美味しくいただく自信があるのっ……でもこれはっ」
 歪虚を加工し使用した実験についての論文だ。
 地面に散らばる同種の紙にも目を向けると、別内容で同程度に危険な論文がずらりと並んでいる。
「死活問題なの一欠けらも逃がせないのそこに直れなのー!」
 メイスを振り回す。
 元からいた聖職者より雑な動きと見たのは雑魔達の勘違いだ。
 それは物理攻撃ではなく法術の予備動作であり、壮絶な数の刃がディーナから溢れて歪虚に迫る。
 飛び退いて躱そうとしても身を屈めて耐えようとしても意味が無い。
 圧倒的な力の差は半端な工夫を無意味にし、ディーナはこれほどの差があっても油断などしない。
 範囲内の全ての雑魔に無数の穴が開き、雑魔だった大量の書類が元に戻って地面に落ちる。
 ディーナの反対側にいて唯一無事だった歪虚も、純粋な殺意を滾らせるカインにより腰から上下に両断されて止めを刺された。
「イコニアァ!」
 既に歪虚の気配は無いのにカインは猛っている。
 乱暴に兜を外して脇に抱え、爛爛と輝く青い瞳を聖堂教会司祭に向ける。
「何勝手に婚期逃した気になってんだ?こちとらまだ諦めてねえし、こちとら今だってイコニアにべた惚れだってのによ」
 甘酸っぱい青春の気配を感じて司教達がどよめく。
「そっち任せるの!」
「はいどいてどいて。いやちゃんと確認しろよあんた等の重要書類じゃん!」
 ディーナとサクラは束から外れた紙をベルトポーチを詰め込んでいる。
 束に戻す時間などない。
 強い風が吹いたら壁の外へ飛ばされかねないし、密偵に1枚盗まれただけでも大問題が発生しかねない。
「さっさと終わらせようや」
 後ろの騒動を放置し、カイン己の髪をかく。
 地位も権威もある司教達に見せるには粗雑に過ぎるが、過激派とすら呼ばれる彼等には好印象だ。
 力がなければ、娘とも妹とも思う司祭の盾にもならない。
「前回ヘタレた真似をしちまったのは本当に済まない」
 真っ直ぐに頭を下げ、しかし小さくなりはしない。
 顔を上げほとんど触れあう距離にまで踏み込む。
「けどよ、こっちが本気で手ぇ出してえのをどんだけ我慢してると思ってんだよ、愛する女に対してケダモノになる気なんざねえが、我慢しなくていいんならもう逃げん」
 翠の瞳は動かず、しかし白い肌が微かに熱を持つ。
「俺がイコニアをどれだけ愛しているかを証明出来る物も言葉はどこにも無いが、俺が一番貴女を愛しているし、誰にも負ける気もないし譲る気もない、だから結婚して欲しい。ま、ここで断られよう」
 が、と多い終えるより早く濃密な殺気がたたきつけられた。
「そういう逃げ道を残す所が気に入らないんです! 朝騎さんの告白の方が男らしいってどういうことなんですかっ」
「それはっ」
 カインとは逆にイコニアが冷静になる。
「対邪神戦がどうなっても私は死ぬか引退するまで仕事漬けです」
 カインに対する好意はある。
 だが義務を後回しに出来るほどの好意には育たなかった。
 戦後の後始末と後継者の複数育成まで考えるとカインの想いを受け入れる余裕はない。
 余裕が出来るまで最短でも20年かかる。それだけ期待を持たせて待たせるのはあまりに惨い。
 だから、真正面からカインの目を見て、ごめんなさいと頭を下げた。

●四方山話
「覗いてたんでちゅか!」
「ルル様が会う度に惚気話をするので耳たこなんです。そっち焼けてますよ」
 司祭はカップの蒸留酒を一口飲んでから、網の上の新ジャガを行儀悪く指し示す。
「ルルしゃんの味がするでちゅ」
 大真面目に変態的な発言をする北谷王子 朝騎(ka5818)だが、マテリアルに対する感覚が超人じみているだけで特殊な性癖は無い。多分。
「今朝農業法人が運び込んだものですから。で、話は?」
 朝騎は別の網から鍋を下ろしてマッシュポテトにとりかかる。
 わざと作業の音を大きくして、司祭にしか聞こえない音量で司祭にたずねた。
「ルル教作ったらどうなりまちゅかね?」
 教えはシンプルにたった一つ、人もエルフも仲良く。
 エクラとの兼教も当然OK。
 対歪虚を最優先する派閥とはいえ、聖堂教会幹部に話す内容としては際どすぎた。
「エクラ教ルル派になると思いますよ?」
 返事はあっさりしたものだった。
「聖堂教会とルル様は別に対立している訳じゃないですし、ルル様を崇めてる人のほとんどがエクラ教徒ですから朝騎さんが誘導しても最終的にはそうなると思います」
 説明している間も焼き立て芋に伸びる手は止まらない。
 やけ食いであると同時に、次の作戦に備えた体力補充であった。
「ルルしゃんへの信仰……」
「有効な作戦だとは思います。異端審問部門の人はいい顔しないでしょうが、経済力を維持出来ればだいたいの事は通りますし」
「イコニアちゃんイコニアちゃん、聞いていないふりをするのにも限度があるからね、お願いね」
「あ、すみません」
「ごめんでちゅ」
 派閥首脳陣から身内扱いされているため、朝騎への対応は歯が溶け落ちるほどに甘かった。
「ん」
 フィーナ・マギ・フィルム(ka6617)が小さな拳を握った。
「完成」
 鉄串を掲げる。
 串に刺さった小さなジャガイモは団子のようで、漂う香りは甘みとは異なるが食欲を非常に刺激する。
 数度の……軽度の失敗を含めると十数度の失敗を経ての成功だ。
 フィーナの顔には滅多に浮かばないやり遂げた表情が浮かんでいる。
「いや」
「それは」
 司教達が何か言いたげだ。
 ドラグーンから渡された鉄串と見比べると、中央部は中まで焦げていて端の芋はどう見ても半生だ。
「初心者の意欲を大事にするのも、先達の役目と思いますよ」
 観智が大型クーラーボックスを地面に下ろす。
 よく冷えた瓶と氷が触れあい華やかな音が響く。
「凝った料理は皆さんにお任せするとして……どうです?」
 焼けた芋に十字に切れ目を入れ、厨房から持って来たバターを小さく切って載せる。
 脂が芋の熱に溶かされ、芋に染みこみたまらぬ匂いを発生させる。
「ふむ」
「心地よい若さ」
 小ぶりとはいえフィーナの握りこぶしほどもある芋が一口で消える。
 それを各々好みのアルコールで流し込むと、腹から熱が全身に広がり胃袋から満足感が駆け上る。
「じゃがバターは定番ですが」
 観智の男の料理は終わらない。
「新鮮な食材を焼いて塩だけ振るというのもなかなかですよ」
 小さすぎて店頭には並ばない芋に、皮がぱりぱりになった段階で塩を振りかける。
 それを見ていたフィーナが目を見開く。
 自身の手にある芋とは何もかもが違う。
「おかしい」
 極めて高度な術を巧みに操るフィーナは、料理に関しては初心者未満だった。
「じゃあこれは、生焼け?」
 世界の謎の深淵に迫る研究者のような態度で、新鮮すぎるため食べることが出来てしまうジャガイモを凝視する。
「煮ればいけるかな?」
 そっとユウがサポートしてくれた。
「汁、ザラザラしてるし……蒸せばいけるかな?」
 今度は司祭が協力してくれた。
 蒸籠として使った機材に火がつく。
「もう料理やだ」
「フィーナさん、気持ちは分かりますけど破壊による消火は駄目ですよっ、私も助祭のときにしてすごく怒られましたからっ」
 2人して、必死の消火活動を行っていた。

●焚書
 野心家が記した論文も、愛のために全てを擲った結果の論文も、全てが炎の中で炭に変わる。
「紙が舞ったら一大事なの物理的に首が飛ぶだけじゃすまないの、あうあう」
 煙により発生した涙をハンカチで拭いながらディーナが火箸を動かす。
 4個目のポーチが崩れ、一部燃え残った紙に火がつき煙が出て目の痛みが強くなった。
「ありがとうなの」
 目が死んでいるカインから店で出せる水準の料理を受け取り体力を補給する。
 ただ燃やすことを考えると効率は良くないが、今回は情報流出の阻止が第一だ。
 高位聖職者と相互監視を行いながら、呪われた研究資料を地味に燃やして燃やし続ける。
「サクラさんには助けられてばかりですね」
 司祭が儚げに微笑むがアルコールの臭いで台無しだ。
 しかし目には理性がある。
 貴族相手の交渉で酒には慣れている。
 男から迫られるのも、若い頃からの戦場での慰問等でそれ以上に慣れている。
 なので動揺はしていないが婚期を逃したのを確信して投げやりになっていた。
「サクラさーん」
「イコちゃん、友情と愛情は違うからね?」
 妖しい方向に向かおうとする友にサクラが釘を刺す。
「友情は愛情よりも雑味がないんだ……自分が好かれたいという必要性がないからね。狂気に近いと言っても良い」
「私もサクラさんのこと言えませんよ」
 客観的に見てイコニアは狂信者の類いだ。
「私はイコちゃんが恋愛したいのを止める気はないから。今回はああなっちゃったけど、結婚したいならちゃんと後押しするよ? 私の1番は聖女イコニア・カーナボン、でもそれでイコちゃんの幸せの邪魔したいわけじゃないからね」
「もう聖女路線は無理があると思いますけどー」
「そのくらいしないと生き残れないでしょ」
 対邪神戦直前の、騒がしくも楽しい時間だった。

●新ジャガ
 からからと鍋の鍋が鳴る。
 狐色に揚がった芋は生とは別物で、皿の上に移されると近隣の子供だけでなく大人まで押し寄せてきた。
「お酒は二十歳未満は駄目ですよ。調味料は……」
 無数の大型歪虚相手に切り込めるイツキが圧倒されかかっている。住民の熱意と、料理の出来が凄いのだ。
 相棒との間にある違和感も不安要素だ。戦闘後手入れはしたが、なんとなく普段より距離がある気がする。
「ガーリックソテーはそちらに……押さないで下さいっ」
 押し寄せる人の波で、ぼろい聖堂が軋んでいる気すらした。
「はい、もちろん大丈夫です」
 ユウが胸を張り住民の代表者に説明している。
 実際に食べてみて美味しいとはいえ歪虚だった芋を使っているので懸念も当然だった。
「聖堂教会の皆さんも食べられているますから」
 程よく焼き上がったガレットを直接司祭に渡す。
 熱いはずだが平然と持って小さく齧る。すると目をきらきらさせて倍速でガレットを小さくしていく。
 それからは大変だった。
 ハンター全員が料理人や給仕として駆り出され、地域住民の腹を満たすため戦闘並みの密度で酷使された。
「ユウさん」
 聖堂の奥からイコニアが顔を出す。
 水分補給のためのソフトドリンクが人数分、お盆の上にあった。
 ユウは受け持ちを変わって貰ってイコニアと合流する。
「盛況ですね」
「はい。私の戦いがこの笑顔に繋がって居るなら……」
 確かな手応えと大きな期待を感じる。
 自然と手が伸び、ドラグーンと司祭が同時に手を伸ばす。
「イコニアさん、今まで本当にありがとうございました。……そして、これからも宜しくお願いします」
「ええ!」
 人々の笑顔を見ながら、近づく最終決戦を乗り越える強い意志を持ってイコニアと握手を交わすのだった。

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MVP一覧

  • イコニアの騎士
    宵待 サクラka5561
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843
  • 無垢なる守護者
    ユウka6891

重体一覧

参加者一覧

  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 闇を貫く
    イツキ・ウィオラス(ka6512
    エルフ|16才|女性|格闘士
  • 丘精霊の絆
    フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
    エルフ|20才|女性|魔術師
  • 無垢なる守護者
    ユウ(ka6891
    ドラグーン|21才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
カイン・A・A・カーナボン(ka5336
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/07/04 17:18:38
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/07/05 02:39:33
アイコン 質問卓
北谷王子 朝騎(ka5818
人間(リアルブルー)|16才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2019/06/29 19:38:44