ゲスト
(ka0000)
天使の羽ばたく音
マスター:水貴透子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/01 19:00
- 完成日
- 2015/02/09 06:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
そこには天使がいる、と近隣集落の人間の間では有名だった。
ただし救済する天使ではなく、縋って来た者を殺す死天使なのだと――。
※※※
ハンター達が受けたのは『天使を退治する』という酷く曖昧な任務だった。
白い翼をはばたかせて、襲い掛かってくる少女。
既に数人の犠牲者が出ていると、ギルドの方に報告もあがってきている。
「ダメだよ……!」
ハンター達が依頼に向かおうとした時、ひとりの少年が駆け寄ってきた。
「あの天使は、いつか僕の妹を治してくれるんだ!」
「……だから、あの天使を殺しちゃ、僕の妹が治らなくなる!」
案内人に取り押さえられ、少年は別室に連れて行かれた。
状況が分からないハンター達は互いの顔を見合わせながら首を傾げている。
「……リアルブルーの方が、あの子に教えたそうなのです」
「背中に白い翼の生えた天使はいつか人を救ってくれる存在なのだ、と」
もちろん少年に教えた人間は、今回のようなことは予想していなかったのだろう。
妹が病気になり、日に日に痩せ衰えていく中、教えられた救いの存在に告示する雑魔。
「……あの子のことは気にせず、雑魔退治をお願い致します」
案内人にそう告げられたが、ハンター達は心の中に何か残る引っ掛かりを感じていた。
それが少年への罪悪感なのか、少年の心を弄ぶ雑魔に対しての怒りなのか、人それぞれだったけれど。
リプレイ本文
●天使討伐のために集まったハンター達
「ダメだよ……! 天使様は殺させない、僕の妹が治らなくなっちゃうよ!」
ハンター達は、少年の連れられた別室にやってくると泣きそうな表情で叫んできた。
「……」
そんな少年の姿を見て、天竜寺 詩(ka0396)は無言のまま覚醒を行う。
「……っ!?」
天竜寺の覚醒状態を見て、少年は酷く驚いた表情を見せた。
それもそのはずだ。少年が天使と信じて疑わない姿が目の前に現れたのだから。
「羽も輪もあるけど、私は天使じゃない。ただの人間だよ。あなたが信じる雑魔も同じ。天使と同じ姿だけど、ただの雑魔なの。人を傷つける天使なんているはずないでしょ?」
「あなたは、本当に天使が救ってくれると信じているんですか? 違うでしょう? 目の前に縋りつきたい何かがあったから、それにしがみついているだけでしょう?」
ジョン・フラム(ka0786)はやんわりとした口調で少年に言葉を投げかける。
少年の事など放っておいても良かったのだが、今回雑魔退治に参加したハンター達は、少年を見捨てられない性格の持ち主が多かったようだ。
「このご時世、不幸な人間は掃いて捨てるほどいますからね。誰も彼もを救おうとしてはキリがありませんけど、手を伸ばせば届く命くらいは拾っておきたいと思うんです。それに、医療の心得があります。任務終了後になりますが、妹さんの診察をさせて頂きたいのですが」
ジョンの言葉に、少年は驚いた表情を見せる。
今までそのように声を掛けてくれる者などいなかったのだろう。
「……ガキには知識も経験もねぇ。だから自分の信じてぇモンしか信じねぇし、都合の悪いモンには見向きもしねぇ」
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)はため息混じりに呟く。
「誰だってガキから大人になってくんだ、それを悪いとは思わねぇさ。ただまぁ、お前は大人になる切欠が早すぎた……そんだけの事なんだろうさ」
ジャックは少年を否定こそしないけど、肯定もしなかった。
少年の駄々捏ねをあくまで『子供だから』と言って納得しているだけ。
「今度の雑魔は天使、ですか。何度か戦闘はこなしてきましたが、天使とは……まぁ、やる事はいつもと変わりませんけどね」
水雲 エルザ(ka1831)は表情を変える事なく呟く。
「……それにしても、病気の妹さんですか。どうにかして差し上げたくはありますけど……」
水雲は気まずそうに少年から視線を逸らす。
どんな病状なのかも分からないまま下手に希望を持たせるような事は言えないからだ。
「少年、祈るだけでは奇跡は起こらないよ。人事を尽くしてこそ、神は奇跡を授けてくれるのさ」
イーディス・ノースハイド(ka2106)は少年の目を真っ直ぐ見据えながら言葉を投げかける。
「私が助言を述べるなら、彼女の病は寝かせているだけで快癒するようなモノではないのだろう。リアルブルーには此方以上に医療が進歩しているらしい、サルヴァトーレ・ロッソ内の病院ならキチンとした治療を受けさせてもらえると思う」
もちろん、イーディスは自分が言っている事がいかに難しい事かは理解している。
サルヴァトーレ・ロッソも慈善事業を行うわけにはいかない。無情な言い方だけど、少年のような苦しみを持つ者は掃いて捨てるほど存在するのだから。
だから助けを求める者すべてを受け入れていてはキリがない。
けれど、イーディスが言いたいのは妹のために少しでも行動を起こそうとしたのか、という事なのだろう。
「少年がどんな風に思っているかは知らないが、少年の信じる天使は人に害を成す存在なのだ。それに運命とは待つのではなく、自らで切り開くものだとわたしは思う」
ユルゲンス・クリューガー(ka2335)は淡々とした口調で呟く。
少年の事を気にする者は、仲間の中に数多くいるため彼らに任せて大丈夫だろうと考えたのだ。
「……どうして、そんな事を言うんだよ。僕だって、僕に出来る事は……っ」
少年はボロボロと涙を零しながら消え入りそうな声で呟く。
「貴方が信じたいならそれでも構わない、それに縋るのもいいでしょう。けれど現実を見なきゃ前には進めない。それはそれ、これはこれ……よ」
關 湊文(ka2354)はきっぱりと少年に対して言い切る。
子供は敏感だからその場誤魔化しを言っても無駄、そう考えた關は、他のハンター達と同様に隠す事なく少年にすべてを告げた。
「俺ぁ、天使なんか信じねぇけどな」
苦笑気味に呟いたのは武神 守悟(ka3517)だった。
「天使なんか居たとしても信じたもんとか選んだもんしか救わない、救う人間をえり好みする存在だろ? んな奴を信用するなんて事自体、俺ぁ変だと思うがね」
武神は拳を強く握り締めながら呟く。
(……あいつを見捨てたって神が俺ぁ憎いのかもしれねぇな。この斧が届くなら、首を吹っ飛ばしてやりたくなるくらいには)
ギリ、と武器を握り締める手に力がこもる。
「私は怪我なら治してあげられるけど、病気は治せない。でも、妹さんの病気を治せる人は……きっといるよ。例え羽なんかなくてもね……! だから諦めちゃダメだよ!」
天竜寺は少年を優しく抱きしめた後、一緒に任務に行う事になったハンター達と共に出発した。
そして、出発したハンター達の心にはひとつの想いがあった。
その存在を信じるいたいけな少年の心を裏切った事――。
天使という姿をしているだけで、その雑魔は存在自体が罪なのだという事を――。
●天使の住まう荒野
今回は開けた場所という事もあり、班分けを行わずに一つに固まって行動をしていた。
「……あれ、ですか」
意外にも標的は簡単に見つける事が出来た。
まるで本物の天使のように優雅に飛んでいたから。
「胸糞わりぃ姿しやがって……神だの仏だの……糞喰らえ」
武神は絞り出すような声と共に『戦斧・アムタトイ』を振り上げ、雑魔に向かって駆けだす。
「ここは私にとって良い場所のようね、遮る物がなければ雑魔と言えど絶好の的だもの」
關は『アサルトライフル』を構え、不敵に微笑みながら射撃を行う。
「あの子は勝手に信じただけかもしれない、けれど……信じる想いを裏切った罪は重いです」
天竜寺は前衛で戦うハンター達に『ホーリーセイバー』を使用する。
そして『ホーリーライト』を使用して、雑魔に攻撃を仕掛けた。
「……ふむ、特別何かに秀でているのではないみたいですね」
ジョンは雑魔の攻撃を避けながら、ため息混じりに呟く。
「天使を語るなら、それ相応の力を持っていて欲しいものですね」
ジョンは『ライフル メルヴイルM38』を構えて射撃を行う。
(あの少年には覚悟がなかった。少年の言う事を聞いて雑魔に人が襲われた場合……中途半端な覚悟は周りを苦しめるだけ。それならば私はあの少年の希望を断ち切る思いで戦いましょう)
ジョンは眉根を寄せながら、再びライフルの引き金を引いた。
(クソッ、マジで雑魔が少女型なのかよ……だだ大丈夫だ、落ち着け! 俺様やれば出来る子! 相手が女でも所詮はクソ雑魔イケルイケル……! んで、ぶつかる前から恥ずか死ななきゃいけねんだ、クソッタレが!)
ジャックは心の中で葛藤しながら『ワンド・オブ・サウザンド』で射撃を行う。
どうやら、彼は女性にはあまり攻撃が出来ないタイプらしい。しかし相手は雑魔相手は雑魔と心の中で言い聞かせながら引き金を引いていた。
「おいでなさいませ」
水雲は射撃などによって地面に落とされた雑魔に向けて呟き『日本刀 不知火』を振りかぶり、雑魔に強力な一撃を与える。
「申し訳ありませんが逃げられても困りますので、その翼をちょうだい致します」
優しげな表情とは裏腹に、水雲の雑魔に投げかける声は冷たい。
「おっと、射撃している人の所には行かせないよ」
イーディスは『シールド サヴァー』で雑魔のレイピア攻撃を防ぐ。
そして『シールド サヴァー』で弾き、雑魔が体勢を崩したところに『ユナイテッド・ドライブ・ソード』で斬り払う。
「貴方も思う所があって形成された個体ではないだろうけど、間が悪かったね。その姿をしているだけで、貴方は貴テンシとやらを信じている者を裏切っているのだよ」
「そのまま、雑魔を引きつけていて欲しい」
ユルゲンスが短く呟いた後『踏込』と『攻めの構え』を併用した『渾身撃』を雑魔に叩きつける。雑魔はイーディスの方に気を取られており、完全に無防備な状態でユルゲンスの攻撃を受けてしまった。
「手早く片付けさせてもらいたい。戦をすれば腹が減る、さっさと夕餉にしたいものでな」
ユルゲンスが呟くが、雑魔はそれでも立ち上がり、なおもハンター達に襲いかかる。
その姿は既に天使と呼べるものではなく、悪魔に似た雑魔としか言えなかった。
「おめぇをぶっ飛ばせば神様とやらにも届くのかね……そんなはずはねぇって分かってるが……少しだけてめぇに八つ当たりをさせてもらうぜ? 恨むんならその姿になったてめぇを恨みな」
武神は低い声で呟いた後『戦斧 アムタトイ』を振り上げ、雑魔にトドメを刺したのだった。
●戦いが終わり……
天使型雑魔を退治した後、ハンター達は傷の手当てを行っていた。
苦戦はしなかったとはいえ、それなりに傷を負ってしまったからだ。
「とりあえず、坊主に雑魔を殺ったって事だけは伝えた方がいいだろうな」
武神が呟くと、他のハンター達も複雑そうな表情を見せた。
少年に納得してもらおうと、各々言葉を伝えてきたけど、それでも少年の心の支えを奪ってしまったのだという罪悪感があるのだろう。
※※※
「……天使様、殺しちゃったの」
ハンター達が告げた言葉を聞いて、少年は酷く悲しそうな表情を浮かべた。
頭の中では雑魔が妹を助けてくれないと分かっていても、それでも信じたかったのだろう。
「誰がどう手を差し伸べても結局、最後に治すのはおめぇの大事な人の生命力だ。どんなに他に縋ろうと誰もそれを助ける事しか出来ん。誰も救っちゃくれねぇ。坊主に言っても分からんかもしれん、だが何があっても笑ってやれ。支えたいと思うなら医学を学べ、欲しい物があるってなら金を貯めて買ってやれ。他の誰でもない、おめぇの大事な人に出来る事をしてやれ」
子供には難しいかもしれないと分かっていても、武神は伝えずにはいられなかった。
最悪の状況になってからでは遅い。自分が納得出来るくらい色々な事をしてやればいい、そう伝えたかったのだろう。
「あのね、これを妹さんに渡してくれるかな? お菓子なんだけど……私には、こういう事しか出来ないから……」
天竜寺は途中で買ったお菓子を少年に渡す。お菓子でどうにかなる物ではないと分かっていても、天竜寺は何か少年と妹のためにしてやりたいと思った。
その中、ジャックだけは遠くから少年とハンター達を見つめている。
(ガキの相手は依頼に含まれちゃいねぇしな、でもまぁつらい経験をした奴は……経験のねぇ奴より大成する確率が高ぇ、つまりここで恩を売っておけば今はガキでも何らかの役に立つかもしれねぇな)
ジャックは心の中で呟きながら、自分の持っているお金を出して案内人に渡す。
少年と少年の妹に役立ちそうな物を買って渡してやってほしい――と、言いながら。
「ご自分で渡した方がいいのでは?」
案内人から不思議そうに問いかけられたけど「俺様はクソ雑魔の相手で疲れたんだよ」と面倒そうに言葉を返す。素っ気ない態度だけど、彼なりに心配をしているのだろうと分かり、案内人は少しだけ微笑ましくなったのだとか。
その後、ジャンが少年の妹を診察したけれど、どうやら不治の病ではなく栄養失調などが重なってのものだろうという事だった。
「……不治の病ではないのですね、良かった……」
病気が治ったわけではないから喜ぶのは不謹慎かもしれないが、それでも水雲は言いたかった。
栄養のある物を食べて、ゆっくり安静していれば、いつか治るものだと分かったのだから。
「このご時世だからね、中々栄養のある物ばかりは食べられないかもしれないが……それでも、快癒する可能性が高いのだから、君が祈り続けた甲斐はあったのかもしれないな」
イーディスは少年の肩を軽く叩きながら、励ますように言葉を投げかける。
「あの雑魔は見てくれこそ天使だったが、それ故に歪で血なまぐさいものだった。あんなモノに願わずとも、別に縋るものはあっただろう」
ユルゲンスは少年に言葉を投げかける。
「恐らくこれからが貴方にとっては大変よ。治る病なのだと分かったのだから、今以上に妹さんのために動かなくてはならない。食べ物、飲み物……今以上に気を遣わなければならない」
關が少年に言葉を投げかけると「……僕が頑張って妹が治るなら、そんなの、どうって事ない」と涙を流しながら言葉を返してきた。
(慢性的な医者不足が招いた事なのでしょうね、この子の妹のように些細な原因で寝込んでいる人間は想像しているよりもずっと多いはずだわ)
その中で、少年の妹は希望を見出せたのだから、少年は運が良かったと言えるのだろう。
「良かったじゃねぇか、しっかりと妹を守ってやんな」
武神は少年の頭を撫でた後、そのまま背中を向ける。
「ありがとう、最初……仕事の邪魔をしてごめんなさい……っ」
少年はハンター達の姿が見えなくなるまで、何度も『ありがとう』と『ごめんなさい』を言い続けていたのだった……。
END
「ダメだよ……! 天使様は殺させない、僕の妹が治らなくなっちゃうよ!」
ハンター達は、少年の連れられた別室にやってくると泣きそうな表情で叫んできた。
「……」
そんな少年の姿を見て、天竜寺 詩(ka0396)は無言のまま覚醒を行う。
「……っ!?」
天竜寺の覚醒状態を見て、少年は酷く驚いた表情を見せた。
それもそのはずだ。少年が天使と信じて疑わない姿が目の前に現れたのだから。
「羽も輪もあるけど、私は天使じゃない。ただの人間だよ。あなたが信じる雑魔も同じ。天使と同じ姿だけど、ただの雑魔なの。人を傷つける天使なんているはずないでしょ?」
「あなたは、本当に天使が救ってくれると信じているんですか? 違うでしょう? 目の前に縋りつきたい何かがあったから、それにしがみついているだけでしょう?」
ジョン・フラム(ka0786)はやんわりとした口調で少年に言葉を投げかける。
少年の事など放っておいても良かったのだが、今回雑魔退治に参加したハンター達は、少年を見捨てられない性格の持ち主が多かったようだ。
「このご時世、不幸な人間は掃いて捨てるほどいますからね。誰も彼もを救おうとしてはキリがありませんけど、手を伸ばせば届く命くらいは拾っておきたいと思うんです。それに、医療の心得があります。任務終了後になりますが、妹さんの診察をさせて頂きたいのですが」
ジョンの言葉に、少年は驚いた表情を見せる。
今までそのように声を掛けてくれる者などいなかったのだろう。
「……ガキには知識も経験もねぇ。だから自分の信じてぇモンしか信じねぇし、都合の悪いモンには見向きもしねぇ」
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)はため息混じりに呟く。
「誰だってガキから大人になってくんだ、それを悪いとは思わねぇさ。ただまぁ、お前は大人になる切欠が早すぎた……そんだけの事なんだろうさ」
ジャックは少年を否定こそしないけど、肯定もしなかった。
少年の駄々捏ねをあくまで『子供だから』と言って納得しているだけ。
「今度の雑魔は天使、ですか。何度か戦闘はこなしてきましたが、天使とは……まぁ、やる事はいつもと変わりませんけどね」
水雲 エルザ(ka1831)は表情を変える事なく呟く。
「……それにしても、病気の妹さんですか。どうにかして差し上げたくはありますけど……」
水雲は気まずそうに少年から視線を逸らす。
どんな病状なのかも分からないまま下手に希望を持たせるような事は言えないからだ。
「少年、祈るだけでは奇跡は起こらないよ。人事を尽くしてこそ、神は奇跡を授けてくれるのさ」
イーディス・ノースハイド(ka2106)は少年の目を真っ直ぐ見据えながら言葉を投げかける。
「私が助言を述べるなら、彼女の病は寝かせているだけで快癒するようなモノではないのだろう。リアルブルーには此方以上に医療が進歩しているらしい、サルヴァトーレ・ロッソ内の病院ならキチンとした治療を受けさせてもらえると思う」
もちろん、イーディスは自分が言っている事がいかに難しい事かは理解している。
サルヴァトーレ・ロッソも慈善事業を行うわけにはいかない。無情な言い方だけど、少年のような苦しみを持つ者は掃いて捨てるほど存在するのだから。
だから助けを求める者すべてを受け入れていてはキリがない。
けれど、イーディスが言いたいのは妹のために少しでも行動を起こそうとしたのか、という事なのだろう。
「少年がどんな風に思っているかは知らないが、少年の信じる天使は人に害を成す存在なのだ。それに運命とは待つのではなく、自らで切り開くものだとわたしは思う」
ユルゲンス・クリューガー(ka2335)は淡々とした口調で呟く。
少年の事を気にする者は、仲間の中に数多くいるため彼らに任せて大丈夫だろうと考えたのだ。
「……どうして、そんな事を言うんだよ。僕だって、僕に出来る事は……っ」
少年はボロボロと涙を零しながら消え入りそうな声で呟く。
「貴方が信じたいならそれでも構わない、それに縋るのもいいでしょう。けれど現実を見なきゃ前には進めない。それはそれ、これはこれ……よ」
關 湊文(ka2354)はきっぱりと少年に対して言い切る。
子供は敏感だからその場誤魔化しを言っても無駄、そう考えた關は、他のハンター達と同様に隠す事なく少年にすべてを告げた。
「俺ぁ、天使なんか信じねぇけどな」
苦笑気味に呟いたのは武神 守悟(ka3517)だった。
「天使なんか居たとしても信じたもんとか選んだもんしか救わない、救う人間をえり好みする存在だろ? んな奴を信用するなんて事自体、俺ぁ変だと思うがね」
武神は拳を強く握り締めながら呟く。
(……あいつを見捨てたって神が俺ぁ憎いのかもしれねぇな。この斧が届くなら、首を吹っ飛ばしてやりたくなるくらいには)
ギリ、と武器を握り締める手に力がこもる。
「私は怪我なら治してあげられるけど、病気は治せない。でも、妹さんの病気を治せる人は……きっといるよ。例え羽なんかなくてもね……! だから諦めちゃダメだよ!」
天竜寺は少年を優しく抱きしめた後、一緒に任務に行う事になったハンター達と共に出発した。
そして、出発したハンター達の心にはひとつの想いがあった。
その存在を信じるいたいけな少年の心を裏切った事――。
天使という姿をしているだけで、その雑魔は存在自体が罪なのだという事を――。
●天使の住まう荒野
今回は開けた場所という事もあり、班分けを行わずに一つに固まって行動をしていた。
「……あれ、ですか」
意外にも標的は簡単に見つける事が出来た。
まるで本物の天使のように優雅に飛んでいたから。
「胸糞わりぃ姿しやがって……神だの仏だの……糞喰らえ」
武神は絞り出すような声と共に『戦斧・アムタトイ』を振り上げ、雑魔に向かって駆けだす。
「ここは私にとって良い場所のようね、遮る物がなければ雑魔と言えど絶好の的だもの」
關は『アサルトライフル』を構え、不敵に微笑みながら射撃を行う。
「あの子は勝手に信じただけかもしれない、けれど……信じる想いを裏切った罪は重いです」
天竜寺は前衛で戦うハンター達に『ホーリーセイバー』を使用する。
そして『ホーリーライト』を使用して、雑魔に攻撃を仕掛けた。
「……ふむ、特別何かに秀でているのではないみたいですね」
ジョンは雑魔の攻撃を避けながら、ため息混じりに呟く。
「天使を語るなら、それ相応の力を持っていて欲しいものですね」
ジョンは『ライフル メルヴイルM38』を構えて射撃を行う。
(あの少年には覚悟がなかった。少年の言う事を聞いて雑魔に人が襲われた場合……中途半端な覚悟は周りを苦しめるだけ。それならば私はあの少年の希望を断ち切る思いで戦いましょう)
ジョンは眉根を寄せながら、再びライフルの引き金を引いた。
(クソッ、マジで雑魔が少女型なのかよ……だだ大丈夫だ、落ち着け! 俺様やれば出来る子! 相手が女でも所詮はクソ雑魔イケルイケル……! んで、ぶつかる前から恥ずか死ななきゃいけねんだ、クソッタレが!)
ジャックは心の中で葛藤しながら『ワンド・オブ・サウザンド』で射撃を行う。
どうやら、彼は女性にはあまり攻撃が出来ないタイプらしい。しかし相手は雑魔相手は雑魔と心の中で言い聞かせながら引き金を引いていた。
「おいでなさいませ」
水雲は射撃などによって地面に落とされた雑魔に向けて呟き『日本刀 不知火』を振りかぶり、雑魔に強力な一撃を与える。
「申し訳ありませんが逃げられても困りますので、その翼をちょうだい致します」
優しげな表情とは裏腹に、水雲の雑魔に投げかける声は冷たい。
「おっと、射撃している人の所には行かせないよ」
イーディスは『シールド サヴァー』で雑魔のレイピア攻撃を防ぐ。
そして『シールド サヴァー』で弾き、雑魔が体勢を崩したところに『ユナイテッド・ドライブ・ソード』で斬り払う。
「貴方も思う所があって形成された個体ではないだろうけど、間が悪かったね。その姿をしているだけで、貴方は貴テンシとやらを信じている者を裏切っているのだよ」
「そのまま、雑魔を引きつけていて欲しい」
ユルゲンスが短く呟いた後『踏込』と『攻めの構え』を併用した『渾身撃』を雑魔に叩きつける。雑魔はイーディスの方に気を取られており、完全に無防備な状態でユルゲンスの攻撃を受けてしまった。
「手早く片付けさせてもらいたい。戦をすれば腹が減る、さっさと夕餉にしたいものでな」
ユルゲンスが呟くが、雑魔はそれでも立ち上がり、なおもハンター達に襲いかかる。
その姿は既に天使と呼べるものではなく、悪魔に似た雑魔としか言えなかった。
「おめぇをぶっ飛ばせば神様とやらにも届くのかね……そんなはずはねぇって分かってるが……少しだけてめぇに八つ当たりをさせてもらうぜ? 恨むんならその姿になったてめぇを恨みな」
武神は低い声で呟いた後『戦斧 アムタトイ』を振り上げ、雑魔にトドメを刺したのだった。
●戦いが終わり……
天使型雑魔を退治した後、ハンター達は傷の手当てを行っていた。
苦戦はしなかったとはいえ、それなりに傷を負ってしまったからだ。
「とりあえず、坊主に雑魔を殺ったって事だけは伝えた方がいいだろうな」
武神が呟くと、他のハンター達も複雑そうな表情を見せた。
少年に納得してもらおうと、各々言葉を伝えてきたけど、それでも少年の心の支えを奪ってしまったのだという罪悪感があるのだろう。
※※※
「……天使様、殺しちゃったの」
ハンター達が告げた言葉を聞いて、少年は酷く悲しそうな表情を浮かべた。
頭の中では雑魔が妹を助けてくれないと分かっていても、それでも信じたかったのだろう。
「誰がどう手を差し伸べても結局、最後に治すのはおめぇの大事な人の生命力だ。どんなに他に縋ろうと誰もそれを助ける事しか出来ん。誰も救っちゃくれねぇ。坊主に言っても分からんかもしれん、だが何があっても笑ってやれ。支えたいと思うなら医学を学べ、欲しい物があるってなら金を貯めて買ってやれ。他の誰でもない、おめぇの大事な人に出来る事をしてやれ」
子供には難しいかもしれないと分かっていても、武神は伝えずにはいられなかった。
最悪の状況になってからでは遅い。自分が納得出来るくらい色々な事をしてやればいい、そう伝えたかったのだろう。
「あのね、これを妹さんに渡してくれるかな? お菓子なんだけど……私には、こういう事しか出来ないから……」
天竜寺は途中で買ったお菓子を少年に渡す。お菓子でどうにかなる物ではないと分かっていても、天竜寺は何か少年と妹のためにしてやりたいと思った。
その中、ジャックだけは遠くから少年とハンター達を見つめている。
(ガキの相手は依頼に含まれちゃいねぇしな、でもまぁつらい経験をした奴は……経験のねぇ奴より大成する確率が高ぇ、つまりここで恩を売っておけば今はガキでも何らかの役に立つかもしれねぇな)
ジャックは心の中で呟きながら、自分の持っているお金を出して案内人に渡す。
少年と少年の妹に役立ちそうな物を買って渡してやってほしい――と、言いながら。
「ご自分で渡した方がいいのでは?」
案内人から不思議そうに問いかけられたけど「俺様はクソ雑魔の相手で疲れたんだよ」と面倒そうに言葉を返す。素っ気ない態度だけど、彼なりに心配をしているのだろうと分かり、案内人は少しだけ微笑ましくなったのだとか。
その後、ジャンが少年の妹を診察したけれど、どうやら不治の病ではなく栄養失調などが重なってのものだろうという事だった。
「……不治の病ではないのですね、良かった……」
病気が治ったわけではないから喜ぶのは不謹慎かもしれないが、それでも水雲は言いたかった。
栄養のある物を食べて、ゆっくり安静していれば、いつか治るものだと分かったのだから。
「このご時世だからね、中々栄養のある物ばかりは食べられないかもしれないが……それでも、快癒する可能性が高いのだから、君が祈り続けた甲斐はあったのかもしれないな」
イーディスは少年の肩を軽く叩きながら、励ますように言葉を投げかける。
「あの雑魔は見てくれこそ天使だったが、それ故に歪で血なまぐさいものだった。あんなモノに願わずとも、別に縋るものはあっただろう」
ユルゲンスは少年に言葉を投げかける。
「恐らくこれからが貴方にとっては大変よ。治る病なのだと分かったのだから、今以上に妹さんのために動かなくてはならない。食べ物、飲み物……今以上に気を遣わなければならない」
關が少年に言葉を投げかけると「……僕が頑張って妹が治るなら、そんなの、どうって事ない」と涙を流しながら言葉を返してきた。
(慢性的な医者不足が招いた事なのでしょうね、この子の妹のように些細な原因で寝込んでいる人間は想像しているよりもずっと多いはずだわ)
その中で、少年の妹は希望を見出せたのだから、少年は運が良かったと言えるのだろう。
「良かったじゃねぇか、しっかりと妹を守ってやんな」
武神は少年の頭を撫でた後、そのまま背中を向ける。
「ありがとう、最初……仕事の邪魔をしてごめんなさい……っ」
少年はハンター達の姿が見えなくなるまで、何度も『ありがとう』と『ごめんなさい』を言い続けていたのだった……。
END
依頼結果
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相談卓 イーディス・ノースハイド(ka2106) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/01 16:05:42 |
|
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/27 22:42:24 |