ゲスト
(ka0000)
【血断】人魚たちの祈りに導かれ
マスター:大林さゆる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/07/25 07:30
- 完成日
- 2019/08/03 02:43
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
同盟海域、人魚の長老クアルダの島。
「さあ、覚醒者たちのために、祈り、歌いましょう」
海底神殿から離れた砂浜に、波が打ち寄せる中、人魚たちが祈りを捧げていた。
長老のクアルダを筆頭に、人魚たちが天に向かって、歌声を響かせていた。
(どうか、どうか、ご無事で……我らの願いは、ただ一つ……)
次第に、人魚たちの歌が、二重奏から、三重奏へと転化していく。
ナールエリド、エルギッサ、トエラ。
ミールローラ、エルラット、マラサ。
古来から歌い繋がれてきた伝承。
ヒトの勇気と常しえの誓を称えて。
この世界の全てに行き渡るように、願い、祈り続ける。
(私たちの祈りが、少しでも、届きますように)
ナールエリド、エルギッサ、トエラ。
ミールローラ、エルラット、マラサ。
海の漣。
荒れ狂う時もあれど、囁くような穏やかな日々もある。
同じ波は、ない。
繰り返し、波が島に打ち寄せても、その一つ一つの飛沫は、異なる命の連鎖。
●
その頃、人魚の島にあるキャンプ・ベースを拠点に魔術師協会広報室から派遣されてきたハンターたちが、警護のため、島を巡回していた。
同盟近郊の沖合にて、シェオルの集団が出没したこともあり、人魚の島でも警戒態勢が展開されていた。
オートマトンの少年、ディエス(kz0248)が開けた場所まで辿り着くと、異形の姿をしたモノが、島の南に向かって、移動しているのが見えた。
ディエスは魔導スマートフォンを使い、仲間に連絡した。
「こちら、ディエスです。東の海岸近くに、巨大な生き物がいます。例えるなら、大きなイカみたいな感じです。人魚さんたちがいる方向へ移動しているように見えます」
応答したのは、魔術師のスコットだった。
『了解した。俺たちの部隊は、人魚たちの近くにいるから、まずは防衛に専念する。そちらの部隊は、巨大イカを退治してくれ』
「はい。ボクは、ラキさんたちと協力して、巨大イカを倒します」
ディエスはそう返答したが、緊張していたのか、少し手が震えていた。
エバーグリーンは滅びを迎え、今やリアルブルー、クリムゾンウェストも危機的状況にある。
それ故、ディエスが恐怖を感じるのも無理はなかった。
ラキ(kz0002)が、ディエスの肩を軽く叩いた。
「大丈夫だよ。あたしもいるからね。それに、皆で協力すれば、なんとかなるもんだよ」
楽観的にも思える意見だが、ラキが明るい笑みを見せると、ディエスは緊張が解けたのか、少し凛々しい顔つきになっていた。
「ボクには、ボクのできることをやるだけだ」
世界を守るということは、何も邪神と闘うことだけでない。
恐怖が消えないならば、その想いも受け入れようと、ディエスは密かに決意していた。
(たとえ、ボクが消えてしまったとしても、ボクは、大切な人たちが生き残るなら、どんなことだってする)
仲間である人魚たちを守ることも、ディエスにとっては、大切な……そして、自分ができることの一つでもあった。
同盟海域、人魚の長老クアルダの島。
「さあ、覚醒者たちのために、祈り、歌いましょう」
海底神殿から離れた砂浜に、波が打ち寄せる中、人魚たちが祈りを捧げていた。
長老のクアルダを筆頭に、人魚たちが天に向かって、歌声を響かせていた。
(どうか、どうか、ご無事で……我らの願いは、ただ一つ……)
次第に、人魚たちの歌が、二重奏から、三重奏へと転化していく。
ナールエリド、エルギッサ、トエラ。
ミールローラ、エルラット、マラサ。
古来から歌い繋がれてきた伝承。
ヒトの勇気と常しえの誓を称えて。
この世界の全てに行き渡るように、願い、祈り続ける。
(私たちの祈りが、少しでも、届きますように)
ナールエリド、エルギッサ、トエラ。
ミールローラ、エルラット、マラサ。
海の漣。
荒れ狂う時もあれど、囁くような穏やかな日々もある。
同じ波は、ない。
繰り返し、波が島に打ち寄せても、その一つ一つの飛沫は、異なる命の連鎖。
●
その頃、人魚の島にあるキャンプ・ベースを拠点に魔術師協会広報室から派遣されてきたハンターたちが、警護のため、島を巡回していた。
同盟近郊の沖合にて、シェオルの集団が出没したこともあり、人魚の島でも警戒態勢が展開されていた。
オートマトンの少年、ディエス(kz0248)が開けた場所まで辿り着くと、異形の姿をしたモノが、島の南に向かって、移動しているのが見えた。
ディエスは魔導スマートフォンを使い、仲間に連絡した。
「こちら、ディエスです。東の海岸近くに、巨大な生き物がいます。例えるなら、大きなイカみたいな感じです。人魚さんたちがいる方向へ移動しているように見えます」
応答したのは、魔術師のスコットだった。
『了解した。俺たちの部隊は、人魚たちの近くにいるから、まずは防衛に専念する。そちらの部隊は、巨大イカを退治してくれ』
「はい。ボクは、ラキさんたちと協力して、巨大イカを倒します」
ディエスはそう返答したが、緊張していたのか、少し手が震えていた。
エバーグリーンは滅びを迎え、今やリアルブルー、クリムゾンウェストも危機的状況にある。
それ故、ディエスが恐怖を感じるのも無理はなかった。
ラキ(kz0002)が、ディエスの肩を軽く叩いた。
「大丈夫だよ。あたしもいるからね。それに、皆で協力すれば、なんとかなるもんだよ」
楽観的にも思える意見だが、ラキが明るい笑みを見せると、ディエスは緊張が解けたのか、少し凛々しい顔つきになっていた。
「ボクには、ボクのできることをやるだけだ」
世界を守るということは、何も邪神と闘うことだけでない。
恐怖が消えないならば、その想いも受け入れようと、ディエスは密かに決意していた。
(たとえ、ボクが消えてしまったとしても、ボクは、大切な人たちが生き残るなら、どんなことだってする)
仲間である人魚たちを守ることも、ディエスにとっては、大切な……そして、自分ができることの一つでもあった。
リプレイ本文
シェオルは、人間や精霊が変質したとされる歪虚であったが、人魚の島に出没したモノは、七本足のクラーケンだった。
ディエス(kz0248)は、出没したシェオル歪虚が、この世界を滅ぼそうとしているのなら、自分の命と引き替えにしても、倒そうと思い詰めていた。
その様子に気が付いたフィロ(ka6966)が、ディエスを呼び止めた。
「ディエス様、貴方が無茶をすれば、ラキ様もフォローのために必ず無茶をなさいます。貴方の命は貴方だけのものではないとお忘れなく。これから続くのはそういう戦いです。ご自分の命を、ラキ様の命と同じく大事にしてくださいね」
「……あ」
ディエスは我に返ったように、フィロと向き合った。
「ボク……ラキさんも、巻き込みたくない」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)が、ディエスに手招きしていた。
「ディエス、こっちに来てくれる? 中衛の位置から攻撃するから、あなたの力が必要なのよ。あのシェオル型に力不足を感じるなら、私も同じよ。だから、フィロやラキを心配させたくないなら、協力してほしいの」
カーミンは、エバーグリーンを失ったディエスが、通常より死に近い危うさがあると感じていた。
まず最初に、ディエスに自覚して欲しかったのだ。
「ディエスも、ラキのための安全地帯作ってあげなさいよ?」
軽く笑みを浮かべるカーミン。彼女の気さくな態度が、ディエスにとっては心強かった。
「はい! もちろんできる限りのことはします」
ディエスが、カーミンの方へと移動すると、ラキ(kz0002)は安堵していた。
(良かった~。ディエスの様子が変だなって思ってたけど、あたしが言っても説得力ないかなって、ちょっと自信なかったんだよね)
内心、そう思いながら、ラキはディエスの援護をすることにした。
フィロはエバーグリーン出身だからこそ、ディエスがどういう危険を冒すのか、すぐに察することができた。
カーミンならば、相手のことを気遣って、具体的な対処をディエスに促すことができたのだろう。
●
「このタイミングで人魚たちを狙ってくるか……思い通りには絶対にさせないぜェ」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)は、魔導ママチャリ「銀嶺」のペダルを漕いで、クラーケンの後を追いかけていた。シガレットの予想通り、クラーケンはハンターたちの方へとは移動せず、南にいる人魚たちの方へと向かっていたのだ。
魔導ママチャリ「銀嶺」の速さならば、クラーケンに追いつくことができた。
「オラァン! イカした格好のシェオルじゃねェか! かかってこいやァ!」
挑発するシガレットが人間だったこともあり、クラーケンは移動を止めて、炎のオーラを放ってきた。
『テッマ……ルエコキ……ガタウナキテス!』
クラーケンは何かを叫んでいるようであったが、ハンターたちには威嚇しているように感じた。
「そんな攻撃じゃ、俺の身体に触れることはできないぜェ」
波の音が聴こえる中、シガレットは幻盾「ライトブロッカー」で、敵の炎を受け流した。
先手を取ったシガレットは、星神器「ゲネシス」を構え『ヤルダバオート』の力を解放した。周囲の認識と現象を書き換える結界を展開させ、味方に強固な守りを与える大魔法だ。
「人魚さんたちをやらせる訳にはいかないもんね、一気に終わらせよう!」
葛音 ステラ(ka5122)がクラーケンに接近すると、聖罰刃「ターミナー・レイ」を振りおろし、敵の脚を斬り付け、『納刀の構え』を取った。
(ディエスくんが、あんなに思いつめていたなんて……ここは、早々に片付けた方が得策かな)
ステラはヤルダバオートの結界内にいたこともあり、クラーケンの攻撃対象になったとしても、触手攻撃はステラに命中することはなかった。
カーミンはドールリング「アンジュ・デシュ」による『千日紅』の残像を纏い、『オレアンダー』の毒が注入された蒼機槍「ダチュラ」を『藤袴』の技で投擲……クラーケンの胴部に突き刺さり、じわりじわりと毒が効いていた影響か、クラーケンの生命力はあまり回復していなかった。
「オレアンダーの毒、じっくりと味わいなさい」
たとえ相手が元人間であるシェオル歪虚だとしても、カーミンは情けをかけるようなことはしなかった。
「ラキちゃん、ディエス! 無茶しないでね。無理したら泣いちゃうよ?」
アリア(ka2394)が『マーキス・ソング』を使うため、明るい笑みを浮かべて励ますように手を振り、歌いながらステップを踏んで、詠唱していた。
奏唱士とは、まさに歌って踊れるアイドルである。
「イカー、イィカー、白くて、大きなぁ、海のー、おにくー♪」
海の匂いが風で運ばれ、アリアは過去を思い出してセンチメンタルな気持ちになったが、それでも尚、明るく陽気に踊り、歌っていた。
「ステラ様とシガレット様の援護に入ります」
フィロは星神器「角力」による『鹿島の剣腕』を発動させ、『縮地瞬動』を駆使してクラーケンの間合いに飛び込むと、『白虎神拳』を繰り出し『鎧徹し』を叩き込んだ。かなりのダメージを与えていたが、クラーケンは動じることもなく、カーミンに狙いを定めて触手攻撃を繰り出すが、『蒲公英』が発動して軽々と回避……敵の射程外へ移動していく。
「この間合いくらいで、充分かしらー?」
敵からの攻撃に備えて、フィロは『金剛不壊』を使うつもりでいたが、クラーケンからの攻撃は受けなかったこともあり、その技は発動しなかった。
「案件触手は間に合ってるよっ!?」
先手を取ったのは、ステラだ。『画竜点睛』を発動させ、聖罰刃「ターミナー・レイ」を鞘に収めたまま、マテリアルを練り高めていた。さらに『不留一歩』で間合いを取り、一旦、下がった。
シガレットは、ステラの構えを援護するため、『ミレニアム』の結界を発動させた。
「葛音さんの溜めが集中できるように、ミレニアムするぜェ」
範囲内にいる味方それぞれに光の障壁を付与することができるが、ミレニアムを維持するため、シガレットは更に祈り続けていた。
「これでも喰らいなさい」
カーミンは蒼機銃「マトリカリア」を構え、クラーケンを狙って『藤袴』の高加速射撃を放ち、さらに『胡蝶蘭』の弾丸が敵の胴部に命中し、ダメージを与えていた。一気に弾丸を消費するが、千日紅によって増えた残像を駆使して、再装填する。
「よっし、援護射撃だよ!」
ラキは『広角投射』でチャクラムを投げ飛ばし、クラーケンの胴部に命中させ、ダメージを与えていた。
ディエスは、カーミンを援護するため、『シャドウブリット』を解き放った。クラーケンの胴部に黒い塊が命中して、ダメージを与えることができた。
「当たった?!」
自分でも信じられないという表情をするディエスに対して、フィロが頷き、こう告げた。
「私達には求められる役割があります。私は自分が倒れるまで前線を支えること、貴方は中衛で一般人を含む中衛以降の後方の方々が倒れないよう支えること。前線が倒れた後は貴方が最前線になって戦うしかないのです。邪神戦争が続けばそれはいつか必ず起こります。だからディエス様……私達前線が倒れるより前に、貴方は倒れてはいけません。そういうことも考えて、戦うようになさって下さいね」
「はい! フィロさんに言われたこと、忘れないよ」
自信を取り戻したディエスだが、まだまだ戦いは続いていた。
「ガードはお任せください」
フィロは『黄龍神楽舞』で体内の気を活性化させ、『縮地瞬動』からの『白虎神拳』を放ち、『鎧徹し』をクラーケンの胴部に繰り出した。多大なダメージを与えていたが、クラーケンの巨体が倒れることはなかった。
アリアがドールリング「アンジュ・デシュ」による『アクセルオーバー』で加速し、『アサルトディスタンス』で駆け抜けながら、すれ違いざまに試作光斬刀「MURASAMEブレイド」でクラーケンの身体をを斬り裂いていく。
「ステラ、あたしも援護するよ」
アリアの攻撃がダメージを与えたこともあり、クラーケンは怒り狂ったようにアリアに狙いを定めて、触手攻撃を繰り出した。だが、そう簡単に捕まるアリアではない。クラーケンの触手を回避し、『瞬影』を駆使して相手の攻撃をいなし、その勢いのままに後退していく。
フィロは敵からの攻撃は受けなかったため、『金剛不壊』は発動しなかった。
シガレットは、ステラを援護するため、引き続き『ミレニアム』の結界を維持し続けていた。
「そろそろ、頃合いといったところかねェ」
「みんな、ありがとう!」
ステラは、皆の想いを受け止めるように『一之太刀』で先手を取り、溜めていた『画竜点睛』を解き放ち、煌めくような聖罰刃「ターミナー・レイ」を振りおろし、一直線に薙ぎ払っていく。
「イカそうめんにしてあげる……いっけぇ!! 叩 っ 斬 る!!」
刃による連撃が炸裂し、クラーケンの脚が斬り裂かれて、敵の全身が激しく斬りつけられていく。
クラーケンは積み重なるダメージに耐え切れず、ついに咆哮をあげながら粉々に砕け散った。
『ニノナっ、ケダタッカタっ、キキガタウゥっ!!』
断末魔の叫びが響き渡り、次第に波の音だけが聴こえてきた。
「……プルガトリオを使うまでもなかったぜェ」
消滅していくクラーケンを見て、シガレットが呟いた。
何も、残らなかった。
そこには、憎しみも、哀愁もなかった。
そして。
とある人間だったシェオル歪虚は、繰り返される地獄のような苦しみから解放された。
その男は、歌が好きであった。
『……ああ、なんて素敵な歌なんだろう。子守唄のようだ。懐かしいな』
どこの世界で生きていたのか、男にも分からなかった。
最後に耳にしたのは、人魚たちの歌声だった。
その男が、どこの世界から来たのか、ハンターたちには知る由もなかった。
●
その後。
人魚たちの様子が気になり、シガレットたちは集いの砂浜へと向かった。
「クラーケンは退治できたし、人魚さんたちも無事で一安心だよ」
ステラは、万が一のことも考えて、ヒーリングポーションを用意していたが、怪我人はゼロだったこともあり、使う必要がなかった。
だが、ステラのように、戦闘後に安否確認をするというのは、とても大事なことであった。
「ディエスくんも、怪我してないね」
ステラが子犬のような朗らかな笑みを浮かべた。
「はい、今回は本当にありがとうございます」
緊張が解けたのか、ディエスも微笑んでいた。
「どうやら、人魚たちはクラーケンが出没したことも気付かないくらい、祈りに没頭していたみたいだなァ」
シガレットが、人魚たちの様子を確認すると、全員が祈りの歌に集中していたのだ。
「わー、素敵な歌声♪」
アリアは、人魚たちの歌声に聞き惚れていた。
「ナールエリド、エルギッサ、トエラ。ミールローラ、エルラット、マラサ……人魚語かな? どういう意味か、よく分からないけど、聴いてると、気持ちが落ち着くね」
人魚たちが唄う節を覚えようと、アリアが口ずさんでいた。
ラキも、アリアと一緒になって楽しそうに歌っていた。
その様子を見ながら、カーミンはディエスに声をかけた。
「ディエス、攻撃魔法を使うのは、今回が初めて?」
カーミンの問いに、ディエスはしばらく考え込んだ後、応えた。
「ハンターになってから、依頼で攻撃魔法を使ったのは初めてです。いつもは、回復魔法とか使うことが多いです」
「そう、ディエスがシャドウブリットを使って攻撃してたから、あら? と、思ったけどね。ま、とにかく、あなたが無事で良かったわ」
カーミンがそう言うと、ディエスが安心したように微笑んでいた。
フィロは、普段と変わらないように見えたが、ディエスには気になることがあった。
「あの、フィロさん、さっきは戦闘で精一杯だったから、気がつかなかったけど、改めて、フィロさんに言われたこと、考えてたんだ」
「何か、疑問に思ったことがあったのでしょうか?」
フィロが首を傾げると、ディエスは何か引っかかることがあったのか、こう尋ねた。
「……私達前線が倒れるより前に、貴方は倒れてはいけませんってところ。それって、前線で戦っているフィロさんが倒れることもあるってことだよね? ボク、そんなの嫌だよ。だから、なにがなんでもボクは倒れないようにするから、フィロさんも倒れたりしないでね」
ディエスの言葉に、フィロは何も言わず、穏やかに微笑んでいた。
その想いは、分かる。
分かるからこそ、激しい戦いを乗り越えなくてはならない。
理想論だけでは、ファナティックブラッドと戦うことはできない。
ディエスは、邪神と戦うには純粋過ぎるのだ。
どうして? と、疑問ばかりが浮かんで、「想うこと」と「実際の行動」が噛み合わず、少しのミスでも、それが命取りになる恐れもあるからだ。
それぞれが、自分のできることで、世界と向き合うということは、自身の存在の有り方を模索することにも似ているような気がした。
ディエス(kz0248)は、出没したシェオル歪虚が、この世界を滅ぼそうとしているのなら、自分の命と引き替えにしても、倒そうと思い詰めていた。
その様子に気が付いたフィロ(ka6966)が、ディエスを呼び止めた。
「ディエス様、貴方が無茶をすれば、ラキ様もフォローのために必ず無茶をなさいます。貴方の命は貴方だけのものではないとお忘れなく。これから続くのはそういう戦いです。ご自分の命を、ラキ様の命と同じく大事にしてくださいね」
「……あ」
ディエスは我に返ったように、フィロと向き合った。
「ボク……ラキさんも、巻き込みたくない」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)が、ディエスに手招きしていた。
「ディエス、こっちに来てくれる? 中衛の位置から攻撃するから、あなたの力が必要なのよ。あのシェオル型に力不足を感じるなら、私も同じよ。だから、フィロやラキを心配させたくないなら、協力してほしいの」
カーミンは、エバーグリーンを失ったディエスが、通常より死に近い危うさがあると感じていた。
まず最初に、ディエスに自覚して欲しかったのだ。
「ディエスも、ラキのための安全地帯作ってあげなさいよ?」
軽く笑みを浮かべるカーミン。彼女の気さくな態度が、ディエスにとっては心強かった。
「はい! もちろんできる限りのことはします」
ディエスが、カーミンの方へと移動すると、ラキ(kz0002)は安堵していた。
(良かった~。ディエスの様子が変だなって思ってたけど、あたしが言っても説得力ないかなって、ちょっと自信なかったんだよね)
内心、そう思いながら、ラキはディエスの援護をすることにした。
フィロはエバーグリーン出身だからこそ、ディエスがどういう危険を冒すのか、すぐに察することができた。
カーミンならば、相手のことを気遣って、具体的な対処をディエスに促すことができたのだろう。
●
「このタイミングで人魚たちを狙ってくるか……思い通りには絶対にさせないぜェ」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)は、魔導ママチャリ「銀嶺」のペダルを漕いで、クラーケンの後を追いかけていた。シガレットの予想通り、クラーケンはハンターたちの方へとは移動せず、南にいる人魚たちの方へと向かっていたのだ。
魔導ママチャリ「銀嶺」の速さならば、クラーケンに追いつくことができた。
「オラァン! イカした格好のシェオルじゃねェか! かかってこいやァ!」
挑発するシガレットが人間だったこともあり、クラーケンは移動を止めて、炎のオーラを放ってきた。
『テッマ……ルエコキ……ガタウナキテス!』
クラーケンは何かを叫んでいるようであったが、ハンターたちには威嚇しているように感じた。
「そんな攻撃じゃ、俺の身体に触れることはできないぜェ」
波の音が聴こえる中、シガレットは幻盾「ライトブロッカー」で、敵の炎を受け流した。
先手を取ったシガレットは、星神器「ゲネシス」を構え『ヤルダバオート』の力を解放した。周囲の認識と現象を書き換える結界を展開させ、味方に強固な守りを与える大魔法だ。
「人魚さんたちをやらせる訳にはいかないもんね、一気に終わらせよう!」
葛音 ステラ(ka5122)がクラーケンに接近すると、聖罰刃「ターミナー・レイ」を振りおろし、敵の脚を斬り付け、『納刀の構え』を取った。
(ディエスくんが、あんなに思いつめていたなんて……ここは、早々に片付けた方が得策かな)
ステラはヤルダバオートの結界内にいたこともあり、クラーケンの攻撃対象になったとしても、触手攻撃はステラに命中することはなかった。
カーミンはドールリング「アンジュ・デシュ」による『千日紅』の残像を纏い、『オレアンダー』の毒が注入された蒼機槍「ダチュラ」を『藤袴』の技で投擲……クラーケンの胴部に突き刺さり、じわりじわりと毒が効いていた影響か、クラーケンの生命力はあまり回復していなかった。
「オレアンダーの毒、じっくりと味わいなさい」
たとえ相手が元人間であるシェオル歪虚だとしても、カーミンは情けをかけるようなことはしなかった。
「ラキちゃん、ディエス! 無茶しないでね。無理したら泣いちゃうよ?」
アリア(ka2394)が『マーキス・ソング』を使うため、明るい笑みを浮かべて励ますように手を振り、歌いながらステップを踏んで、詠唱していた。
奏唱士とは、まさに歌って踊れるアイドルである。
「イカー、イィカー、白くて、大きなぁ、海のー、おにくー♪」
海の匂いが風で運ばれ、アリアは過去を思い出してセンチメンタルな気持ちになったが、それでも尚、明るく陽気に踊り、歌っていた。
「ステラ様とシガレット様の援護に入ります」
フィロは星神器「角力」による『鹿島の剣腕』を発動させ、『縮地瞬動』を駆使してクラーケンの間合いに飛び込むと、『白虎神拳』を繰り出し『鎧徹し』を叩き込んだ。かなりのダメージを与えていたが、クラーケンは動じることもなく、カーミンに狙いを定めて触手攻撃を繰り出すが、『蒲公英』が発動して軽々と回避……敵の射程外へ移動していく。
「この間合いくらいで、充分かしらー?」
敵からの攻撃に備えて、フィロは『金剛不壊』を使うつもりでいたが、クラーケンからの攻撃は受けなかったこともあり、その技は発動しなかった。
「案件触手は間に合ってるよっ!?」
先手を取ったのは、ステラだ。『画竜点睛』を発動させ、聖罰刃「ターミナー・レイ」を鞘に収めたまま、マテリアルを練り高めていた。さらに『不留一歩』で間合いを取り、一旦、下がった。
シガレットは、ステラの構えを援護するため、『ミレニアム』の結界を発動させた。
「葛音さんの溜めが集中できるように、ミレニアムするぜェ」
範囲内にいる味方それぞれに光の障壁を付与することができるが、ミレニアムを維持するため、シガレットは更に祈り続けていた。
「これでも喰らいなさい」
カーミンは蒼機銃「マトリカリア」を構え、クラーケンを狙って『藤袴』の高加速射撃を放ち、さらに『胡蝶蘭』の弾丸が敵の胴部に命中し、ダメージを与えていた。一気に弾丸を消費するが、千日紅によって増えた残像を駆使して、再装填する。
「よっし、援護射撃だよ!」
ラキは『広角投射』でチャクラムを投げ飛ばし、クラーケンの胴部に命中させ、ダメージを与えていた。
ディエスは、カーミンを援護するため、『シャドウブリット』を解き放った。クラーケンの胴部に黒い塊が命中して、ダメージを与えることができた。
「当たった?!」
自分でも信じられないという表情をするディエスに対して、フィロが頷き、こう告げた。
「私達には求められる役割があります。私は自分が倒れるまで前線を支えること、貴方は中衛で一般人を含む中衛以降の後方の方々が倒れないよう支えること。前線が倒れた後は貴方が最前線になって戦うしかないのです。邪神戦争が続けばそれはいつか必ず起こります。だからディエス様……私達前線が倒れるより前に、貴方は倒れてはいけません。そういうことも考えて、戦うようになさって下さいね」
「はい! フィロさんに言われたこと、忘れないよ」
自信を取り戻したディエスだが、まだまだ戦いは続いていた。
「ガードはお任せください」
フィロは『黄龍神楽舞』で体内の気を活性化させ、『縮地瞬動』からの『白虎神拳』を放ち、『鎧徹し』をクラーケンの胴部に繰り出した。多大なダメージを与えていたが、クラーケンの巨体が倒れることはなかった。
アリアがドールリング「アンジュ・デシュ」による『アクセルオーバー』で加速し、『アサルトディスタンス』で駆け抜けながら、すれ違いざまに試作光斬刀「MURASAMEブレイド」でクラーケンの身体をを斬り裂いていく。
「ステラ、あたしも援護するよ」
アリアの攻撃がダメージを与えたこともあり、クラーケンは怒り狂ったようにアリアに狙いを定めて、触手攻撃を繰り出した。だが、そう簡単に捕まるアリアではない。クラーケンの触手を回避し、『瞬影』を駆使して相手の攻撃をいなし、その勢いのままに後退していく。
フィロは敵からの攻撃は受けなかったため、『金剛不壊』は発動しなかった。
シガレットは、ステラを援護するため、引き続き『ミレニアム』の結界を維持し続けていた。
「そろそろ、頃合いといったところかねェ」
「みんな、ありがとう!」
ステラは、皆の想いを受け止めるように『一之太刀』で先手を取り、溜めていた『画竜点睛』を解き放ち、煌めくような聖罰刃「ターミナー・レイ」を振りおろし、一直線に薙ぎ払っていく。
「イカそうめんにしてあげる……いっけぇ!! 叩 っ 斬 る!!」
刃による連撃が炸裂し、クラーケンの脚が斬り裂かれて、敵の全身が激しく斬りつけられていく。
クラーケンは積み重なるダメージに耐え切れず、ついに咆哮をあげながら粉々に砕け散った。
『ニノナっ、ケダタッカタっ、キキガタウゥっ!!』
断末魔の叫びが響き渡り、次第に波の音だけが聴こえてきた。
「……プルガトリオを使うまでもなかったぜェ」
消滅していくクラーケンを見て、シガレットが呟いた。
何も、残らなかった。
そこには、憎しみも、哀愁もなかった。
そして。
とある人間だったシェオル歪虚は、繰り返される地獄のような苦しみから解放された。
その男は、歌が好きであった。
『……ああ、なんて素敵な歌なんだろう。子守唄のようだ。懐かしいな』
どこの世界で生きていたのか、男にも分からなかった。
最後に耳にしたのは、人魚たちの歌声だった。
その男が、どこの世界から来たのか、ハンターたちには知る由もなかった。
●
その後。
人魚たちの様子が気になり、シガレットたちは集いの砂浜へと向かった。
「クラーケンは退治できたし、人魚さんたちも無事で一安心だよ」
ステラは、万が一のことも考えて、ヒーリングポーションを用意していたが、怪我人はゼロだったこともあり、使う必要がなかった。
だが、ステラのように、戦闘後に安否確認をするというのは、とても大事なことであった。
「ディエスくんも、怪我してないね」
ステラが子犬のような朗らかな笑みを浮かべた。
「はい、今回は本当にありがとうございます」
緊張が解けたのか、ディエスも微笑んでいた。
「どうやら、人魚たちはクラーケンが出没したことも気付かないくらい、祈りに没頭していたみたいだなァ」
シガレットが、人魚たちの様子を確認すると、全員が祈りの歌に集中していたのだ。
「わー、素敵な歌声♪」
アリアは、人魚たちの歌声に聞き惚れていた。
「ナールエリド、エルギッサ、トエラ。ミールローラ、エルラット、マラサ……人魚語かな? どういう意味か、よく分からないけど、聴いてると、気持ちが落ち着くね」
人魚たちが唄う節を覚えようと、アリアが口ずさんでいた。
ラキも、アリアと一緒になって楽しそうに歌っていた。
その様子を見ながら、カーミンはディエスに声をかけた。
「ディエス、攻撃魔法を使うのは、今回が初めて?」
カーミンの問いに、ディエスはしばらく考え込んだ後、応えた。
「ハンターになってから、依頼で攻撃魔法を使ったのは初めてです。いつもは、回復魔法とか使うことが多いです」
「そう、ディエスがシャドウブリットを使って攻撃してたから、あら? と、思ったけどね。ま、とにかく、あなたが無事で良かったわ」
カーミンがそう言うと、ディエスが安心したように微笑んでいた。
フィロは、普段と変わらないように見えたが、ディエスには気になることがあった。
「あの、フィロさん、さっきは戦闘で精一杯だったから、気がつかなかったけど、改めて、フィロさんに言われたこと、考えてたんだ」
「何か、疑問に思ったことがあったのでしょうか?」
フィロが首を傾げると、ディエスは何か引っかかることがあったのか、こう尋ねた。
「……私達前線が倒れるより前に、貴方は倒れてはいけませんってところ。それって、前線で戦っているフィロさんが倒れることもあるってことだよね? ボク、そんなの嫌だよ。だから、なにがなんでもボクは倒れないようにするから、フィロさんも倒れたりしないでね」
ディエスの言葉に、フィロは何も言わず、穏やかに微笑んでいた。
その想いは、分かる。
分かるからこそ、激しい戦いを乗り越えなくてはならない。
理想論だけでは、ファナティックブラッドと戦うことはできない。
ディエスは、邪神と戦うには純粋過ぎるのだ。
どうして? と、疑問ばかりが浮かんで、「想うこと」と「実際の行動」が噛み合わず、少しのミスでも、それが命取りになる恐れもあるからだ。
それぞれが、自分のできることで、世界と向き合うということは、自身の存在の有り方を模索することにも似ているような気がした。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/07/20 15:06:48 |
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相談卓 カーミン・S・フィールズ(ka1559) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/07/24 21:40:47 |