ゲスト
(ka0000)
生ハム緊急輸送! 行商可
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2015/02/01 22:00
- 完成日
- 2015/02/06 01:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラムヘイズ王国西部の某都市で火災が発生した。
燃え上がる倉庫に覚醒者で構成された貴族私兵団が突入、はせずに周囲の建造物を粉砕する。
こうして、放置すれば街全体が燃え、少しでも遅れたら1区画が全焼したはずの火災は呆気なく鎮圧された。
「領主様万歳!」
「さすがですお館様!」
市民は歓声をあげる。
各種ギルドが様々な名目で修繕費用その他を領主へ献上する。
これぞ理想的主従関係。
少なくとも周辺諸領主はそう見ていた。
●領主館
「増税でも臨時徴収でもしてなんとかせんかセバスチャン!」
血走った目で最も信頼する部下を見る中年男。彼こそが一応名君ということになっている領主である。
「いけませんな。後、私セバスチャンではありません」
執事姿の老人が、平然とした顔で書類をめくっている。
内容は火事による被害についての報告書だ。
駄目になったのは今年中に建て替え予定だった倉庫3つに、生ハム数十キロ、布が十数キロ、独特の着色がされた丸太が3本。
金額的には全くたいしたことがない被害だが……。
「祭りは10日後。今からとりよせても間に合いません」
老人は沈痛な面持ちで首を横に振る。
「馬鹿を言うなセバスチャン。我が家の初代がこの街を拓いてから毎年続く、由緒正しい祭りだぞ。いくら使っても構わぬ。忌々しいが隣領の阿呆共に頭を下げても構わんっ。なんとしても例年通り執り行うのだ!」
祭りと言っても小規模なもので、当代が初代の格好をして初代が開拓民に振る舞ったとされるハムを昔風天幕の中で配るだけという内容だ。
同時に開催される市の方が圧倒的に人が集まり街も潤う。
「ですから、金を使ってもコネを使っても物理的に無理な物は無理なのです。後、私セバスチャンではありませんので」
要約した報告書を領主に差し出した。
この街にも周辺の町や村にも在庫は皆無。この街にはハンターズソサエティ支部、要するに転移門はないので高い金を払って無理矢理遠くから運び込むのも不可能。
「そこをなんとかしろと言うのだセバスチャン! 200年以上続いた祭りを私の代で途絶えさせる気か!」
領主が吼える。
「伝え聞く初代様の性格なら内容を少し変えても気にされないと思いますが」
領主をあやしながらハンターズソサエティ宛の依頼書を書いていく。
主は保守的というより狷介、誇り高いというより攻撃的な人物だ。
とはいえ領地に抱く愛情は本物で、真摯に仕えた部下の意見を無視することもない。
「ぜぇはぁ……。セバスチャン、意見具申を許す」
老人は真面目な顔で訂正し、署名欄以外の全てを書き終えた依頼書を差し出した。
「無念だ」
領主は痛々しいほど項垂れて、意外なほど美しい字で己の名を書き込むのだった。
●本部
ぱんぱかぱーん、と気楽な効果音と共に3Dディスプレイが現れる。
映っているのは航空写真風に合成された地図だ。
「緑ばっかだな」
「王国の田舎かねぇ」
数人のハンターが立ち止まる。
地図が小さくなる。空白部分に依頼内容と報酬が表示されていく。
「遠方の街で荷物を受け取って森を突っ切れ?」
「ついでに商品買い込んで商売しても構わない、ねぇ?」
ハンター達が視線をかわし、同時に肩をすくめた。
「無茶じゃね? 足場と視界最悪の場所に匂いのきついハム持って突っ込むなんて失敗フラグだろ」
「時間制限も厳しいからな。商才がある奴なら美味い仕事かもしれねぇが」
ハンター達が去っていく。
3Dディスプレイは、自己主張をするようにくるくると回っていた。
燃え上がる倉庫に覚醒者で構成された貴族私兵団が突入、はせずに周囲の建造物を粉砕する。
こうして、放置すれば街全体が燃え、少しでも遅れたら1区画が全焼したはずの火災は呆気なく鎮圧された。
「領主様万歳!」
「さすがですお館様!」
市民は歓声をあげる。
各種ギルドが様々な名目で修繕費用その他を領主へ献上する。
これぞ理想的主従関係。
少なくとも周辺諸領主はそう見ていた。
●領主館
「増税でも臨時徴収でもしてなんとかせんかセバスチャン!」
血走った目で最も信頼する部下を見る中年男。彼こそが一応名君ということになっている領主である。
「いけませんな。後、私セバスチャンではありません」
執事姿の老人が、平然とした顔で書類をめくっている。
内容は火事による被害についての報告書だ。
駄目になったのは今年中に建て替え予定だった倉庫3つに、生ハム数十キロ、布が十数キロ、独特の着色がされた丸太が3本。
金額的には全くたいしたことがない被害だが……。
「祭りは10日後。今からとりよせても間に合いません」
老人は沈痛な面持ちで首を横に振る。
「馬鹿を言うなセバスチャン。我が家の初代がこの街を拓いてから毎年続く、由緒正しい祭りだぞ。いくら使っても構わぬ。忌々しいが隣領の阿呆共に頭を下げても構わんっ。なんとしても例年通り執り行うのだ!」
祭りと言っても小規模なもので、当代が初代の格好をして初代が開拓民に振る舞ったとされるハムを昔風天幕の中で配るだけという内容だ。
同時に開催される市の方が圧倒的に人が集まり街も潤う。
「ですから、金を使ってもコネを使っても物理的に無理な物は無理なのです。後、私セバスチャンではありませんので」
要約した報告書を領主に差し出した。
この街にも周辺の町や村にも在庫は皆無。この街にはハンターズソサエティ支部、要するに転移門はないので高い金を払って無理矢理遠くから運び込むのも不可能。
「そこをなんとかしろと言うのだセバスチャン! 200年以上続いた祭りを私の代で途絶えさせる気か!」
領主が吼える。
「伝え聞く初代様の性格なら内容を少し変えても気にされないと思いますが」
領主をあやしながらハンターズソサエティ宛の依頼書を書いていく。
主は保守的というより狷介、誇り高いというより攻撃的な人物だ。
とはいえ領地に抱く愛情は本物で、真摯に仕えた部下の意見を無視することもない。
「ぜぇはぁ……。セバスチャン、意見具申を許す」
老人は真面目な顔で訂正し、署名欄以外の全てを書き終えた依頼書を差し出した。
「無念だ」
領主は痛々しいほど項垂れて、意外なほど美しい字で己の名を書き込むのだった。
●本部
ぱんぱかぱーん、と気楽な効果音と共に3Dディスプレイが現れる。
映っているのは航空写真風に合成された地図だ。
「緑ばっかだな」
「王国の田舎かねぇ」
数人のハンターが立ち止まる。
地図が小さくなる。空白部分に依頼内容と報酬が表示されていく。
「遠方の街で荷物を受け取って森を突っ切れ?」
「ついでに商品買い込んで商売しても構わない、ねぇ?」
ハンター達が視線をかわし、同時に肩をすくめた。
「無茶じゃね? 足場と視界最悪の場所に匂いのきついハム持って突っ込むなんて失敗フラグだろ」
「時間制限も厳しいからな。商才がある奴なら美味い仕事かもしれねぇが」
ハンター達が去っていく。
3Dディスプレイは、自己主張をするようにくるくると回っていた。
リプレイ本文
森の中は暗くて湿っていた。
太い幹と太細様々な蔓が進路を塞ぎ、枯れた葉の下にある穴が天然の罠となりハンターを待ち受ける。
「見えないな」
ザレム・アズール(ka0878)が上体を揺らして蜘蛛の巣を回避する。
彼の愛馬は普段の数分の1の速度しか、否、こんな条件でも数分の1も速度を出せていた。
馬が草を踏む。砕けた草から濃厚な臭いが漂っているはずなのに、馬の背にあるハムの香りが全てのにおいをかき消している。
馬が体を震わせた。半秒遅れで前方から銃声が聞こえてくる。
「防御障壁は」
ザレムが呼びかける。
「不要!」
緑の隙間から、飛び跳ねる道化師の姿が一瞬だけ見えた。
馬が不安げな目をザレムに向ける。主と一緒なら歪虚にすら立ち向かえるとはいえ乗用馬は乗用馬だ。あまり無理はできない。
「良い子だ」
ザレムはそっと肩を撫でて労ると同時に停止を命じ、考えるよりも速く魔導拳銃を引き抜き引き金を引く。
彼が頭で認識したときには、銃弾が茂みを貫通して大柄な狼の頭を半壊させていた。
拳銃とは異なる銃声が近づく。馬が自主的に一歩下がり、直前までいた空間をリズリエル・ュリウス(ka0233)とハムの匂いが侵略する。
「獣には勿体ないが、見せてやろう。ュリウス家のエアリアルという物をな」
リズリエルが真上に跳躍する。
馬を怯えさせないためだろうか。短銃身でも長いライフルは持ったまま使わず、蔓の間を通り抜けて枝に着地し真下に向かって鉤爪を射出した。
リズリエルを追って2頭の狼がやって来る。うち1頭の首を爪が貫き痛みを感じさせずに命を奪う。
もう1頭は堅いはずの頭蓋を撃ち抜かれ、番と共に倒れた。
「何頭いるんだ」
ザレムは拳銃からヴィントボウに持ち替え、眼を細め、放つ。
矢は緑の隙間を数十メートル飛ぶ。潜んで接近中だった若狼をかすめどこかへ消えた。
リズリエルが追撃しようとする直前、付けっぱなしのトランシーバから声が聞こえた。
『リズ、北から2つ』
振り返る。天然の塹壕じみた凹みで、痩せ狼が2頭匍匐前進に近い形で移動中だった。
「これでよし」
ザレム達の後方50と数メートルでは、鹿島 雲雀(ka3706)がトランシーバーを耳に当てたまま視線を動かしていた。
前方ではハンター2人が野生の狼を数秒で粉砕した。一方的蹂躙という表現が相応しい展開だ。
だが森の地形という強敵が健在だ。
「こちら鹿島」
『どうかしましたかぁ~?』
スノゥ(ka1519)から即座に返事が来る。
「倒木だ」
雲雀が蹴る。倒れてから数日の木は蔓草に覆われていて、数十度傾いたところで停止した。
「1つ戻って南の獣道を通った方がいい」
脳裏に地図を再生して指示を出す。
雲雀が木こりから聞き出した情報は予想以上に正確だ。今のように多少の変化はあるが己の五感と同程度に信用できそうだ。
『南は塞がっていました~』
スノゥの返答に狼の悲鳴が混じっている。
「合流するか?」
『できれば予定進路上の相当をお願いします~』
「了解」
雲雀が大きく伸びをする。
彼女の鼻先を狼の牙がかすめるのと、雲雀がトランシーバーと逆の手に持ったナイフが狼の腹に埋まるのは同時だった。
腹が割けて腸がこぼれ、血と湯気が溢れて急速に冷えていく。
血抜きすれば高く売れるかもしれない。そんな考えを脇に置き、雲雀はナイフから大弓に持ち替え馬車の予定進路に意識を向けた。
「野生も馬鹿に出来ないね」
怪しげな気配が複数ある。1頭で足止めして他が襲撃予定地点に隠れたのだ。
大きな気配、馬複数にひかれた馬車が一旦後退する。
「おう、荷物荒らしには容赦しねーってな!」
木と草と蔓が邪魔で狙いが付けづらくても、茂みの中に矢を打ち込んで追い出す程度なら可能だ。
矢が茂みに到着。矢は斜めに刺さったまま倒れず、矢が刺さったままの狼が悲鳴をあげて茂みから飛び出した。
「当たるもんだな」
伏兵でないなら仲間1人対処可能だ。雲雀は即座に思考を切り替え、別の気配目がけて矢の雨を降らすのだった。
●
イチカ・ウルヴァナ(ka4012)が調達した馬車は最高だった。木々の隙間を通せるほど細身で、その割に頑丈で多くの荷を載せても大丈夫。
「ふふふ」
御者席のスノゥは、いつも通りにおっとり微笑みながら額に汗を浮かべていた。
馬車の幅1.5メートルに対し獣道の幅は最大50センチ。控えめに表現して無理ゲーだ。
手綱を操る手が常人に視認できない速度で動く。馬は考えることを止めてただただスノゥの指示に従う。
のんびりなんて、どこにもなかった。
「あ」
エルフ耳がふるりと震えた。
獣道の段差回避に気をとられ、馬の首の高さに張られた蔓を見落としていた。
が、蔓に複数の切れ目が入って切断される。
「斥候や警戒、護衛は忍者の華」
木の陰から現れるのは忍び装束っぽい仮面の少女。藤林みほ(ka2804)である。
「やる気が出るでござるな!」
得意げに胸を張る。左手が一瞬ぶれ、十数メートル先の幹に半ばまで埋まり、毒々しい色の蛇が逃げていく。
「みほさ~ん」
スノゥの声に気づいて獣道から離れる。
茂みを押しのけ若木を粉砕する音を伴い、みほの前を馬車が通過していった。
みほは獣道には戻らず馬車に並行して走る。湿った緑を飛び越え枝を伝って空をいき、馬車との距離を保ちつつ警戒も怠らない。
わんわんと、ささやき声より小さな鳴き声が聞こえた。
みほがかがみ込む。枯れ葉まみれの犬が近くの茂みから飛び出し主にすがりつく。
「何頭いた?」
犬が小首を傾げる。
「2、3頭?」
犬が曖昧にうなずいた。
「よし」
みほは偵察を成功させた犬を労ってやり、犬が落ち着くのを待ってから馬車の後を追った。
スノゥは善戦しているが限界が近い。馬車が何度も堅い木にぶつかりかかり、そのたびに緩衝材もとい一応売り物の羊毛が木を受け止めて馬車の中身を保護する。
ぶつかるたびに、馬車の背後から飛び出す丸太数本がふらふら揺れてた。
「大変でござるな」
馬車をあっさり抜いて獣道に入る。
鉈を振るって邪魔っ気な枝と茂みを刈って、先行の面々が倒した狼の亡骸を回収した。
「森の生態系、大丈夫でござるか」
おそらく頂点にいるはずの狼を、群れ単位で滅ぼした後どうなるか。正直ちょっと不安だ。多分なにかあっても領主が対処するだろうが……。
「……さん、スノゥさん!」
荷車から柏部 狭綾(ka2697)が身を乗り出す。
馬車と木がこすれあう音で聞きづらく、スノゥが気づいて速度を緩めるまである程度の時間が必要だった。
「馬を後退させましょう。できれば小休止も」
馬は主に精神的な疲れから大量の汗をかいている。狭綾が馬車から降りて水をやり、馬より数倍スノゥが極短時間の休憩に入り、みほが馬車との連結を解いて替え馬を繋ぐ。
「後方の狼は私が追い散らします」
胸元に淡い燐光が灯る。弓に番えるのは通常より太い鉄製の矢だ。
「元々ここにいた狼なら」
マテリアルが狭綾の目と指先に集中する。葉と枝と草の隙間から遠くに見える狼。その進路に向けて放つと、矢は何もかもをすり抜けて狼の足下へ深く埋まる。
狼の悲鳴が森の中に満ちた。
体格の良い老狼ほど怯えて腰が退けている。何の変哲もない矢が猛毒であるかのように、群れを引き連れ森の奥へと消えた。昔の、覚醒者複数による狼駆除がトラウマになっているのだ。
スノゥが興味津津な視線を狭綾に向ける。
「地元の狼対策です」
狼が出没する地域で農業をやっているのだから、有効な対策を持っていると推測して尋ねてみたところ案の定だった。
「前からも来たでござる」
手裏剣が空気を裂く。先頭の狼の首が割れ、一瞬遅れて赤黒い血を噴出して地面に転がる。
続く1頭は狭綾に射殺され、残る1体が同属の屍を踏み越え馬の喉元に食いつこうとした。
ハンターの分厚い防御に比べれば薄紙同然の喉が切り裂かれる直前、スノゥが生みだした障壁が9割9分まで牙の力を防ぎきる。
スノゥは静かに拳銃を構え、生き残りの喉元に銃口を当てた。
「おやすみ」
銃声が森に吸い込まれる。
狼は、苦痛を感じる前に命を絶たれた。
●
大木の根が浮き上がる。
苔がはがれて土に落ち、進路を完全に塞いでいた根が宙に浮いた。
「鉈や」
イチカが刃物を放る。
リュー・グランフェスト(ka2419)はほとんど見もせずに後ろ手に受け取り、木こりが切るなら数時間がかりの根っこを一息に切断した。
「リュー、休憩せんで大丈夫か?」
イチカが覚醒状態を解かずに問いかける。
なにしろこれで8本目の根切りだ。岩を地面から引き抜くのも2桁繰り返している。熟練ハンターでもそろそろ体力的に限界のはずだ。
「持久力は人並み以上って自負がある。なんとか持たせてみせるぜ」
振り返り、荷車に歩み寄り、大きな袋を3つまとめて背負う。
「助かるわ」
イチカは意識して明るく礼を言い、覚醒の結果けものハンドっぽくなった手で手綱を操作する。
馬は疲れている。地形の確認はハンターがしないと小さな凹みにはまって捻挫か最悪脚を折りかねない。
馬車は、じれったくなるほどゆっくりと、獣道を進んでいるにしては驚異的な速度で森の外縁に近づいていた。
手綱がひかれる。馬が停止を命じられて戸惑う。
イチカは手綱を仲間に任せて飛び降り、長身を折り曲げて獣道を凝視する。
「こりゃまた、酷い道やねぇ」
リューから石を受け取り天然の落とし穴に詰めて塞いで土をかける。
何か聞こえた気がして首をかしげる。
リューのロケットロケットナックルがイチカから数センチの地点を通過し、いつの間にか忍び寄っていた狼を撃ち抜いた。
リューは止まらず前進し、荷車側から忍び寄っていた最後の1頭を蹴り飛ばし、再度のナックルで止めを刺した。
「ごめん、助かったわ」
イチカが手のひらをあわせて礼を言う。
「お互い様だ」
にやりと笑い額の汗をぬぐう。
表面上は余裕だが実際は疲労が凄まじい。戦慣れしたリューでも油断はできない。
「どしたん?」
リューが立ち止まっているのに気付いてイチカが問いかける。
「頑丈な馬だと思ってな」
馬は潰れもせずに健在だ。ハンターの持ち馬だけならおかしくはない。森に入る前に調達した馬も元気なのが予想外だった。
「牧場のおっちゃん達と相当やりあったんよねぇ」
遠い目で元来た道を振り返る。
出発地の街で荷台と馬を用意したのはイチカだ。
困難な、実際は予想よりさらに困難だった道のりを予測し、荷物と道に向いた最適なものを探してもらって借り受けたていた。
また、イチカが持ち込んだのは馬と荷車だけではない。
「ほい」
リューに大きな板を渡す。
「準備万端だな」
体力を活かして小川の上に端をかけ、馬車を通して最後の難所を通過した。
緑の濃度が急速に落ちていく。
空からは午後の陽光が、前方からは農地の匂いが混じった風が吹きつける。
馬の足取りが軽くなる。ハンター達の顔に精気が戻ってくる。
「街だ!」
地平線の手前に、小さくも風情のある街が広がっていた。
●
街の通りでは絶え間なく乾杯が繰り返され、生半可な吟遊詩人では注意を引きつけることもできない。
「みんないい飲みっぷりね」
ギターの音色と、綺麗なのに何故か大きな声が酔っぱらい共の耳を撫でる。
「油と塩たっぷりの肉が」
馬上から、ザレムがギターとお手製メガフォンで宣伝中だ。幼女から老女まで魅了する笑みが浮かんではいる。けれど本人には全く余裕が無い。雑魔相手の死闘は平然とこなせてもこういうのには慣れていないのだ。
「お手頃価格で提供中だぜ」
リューがリュートで演奏を交代し、領主館がある方向を示す。
「何を売ってるの?」
着飾った街のお嬢さんがたずねた。
「売り物は小麦と羊毛だ」
ザレムの言葉にリューが説明を足す。この町の平均的な価格よりわずかに安い。緩衝材として使われたのはさらに安い。
「甘いものも売ってるぞ」
お嬢さんだけでなく、一部野郎も含めた人垣が領主館に向け走り出す。
同時刻。領主館前は華やいだ街とは正反対に閑散とした雰囲気だった。
古びたテント前の領主がとても侘びしい。
狭綾は礼儀正しく築かないふりをして、チョコレートをたっぷり使った生地をオーブンに入れる。
石造りのオーブンは、1時間前に組まれたばかりの急造品だ。しかし作ったのは領主が抱える内政面での精鋭で、リアルブルー出身者も満足できる見事な出来映えだ。
もう1つのオーブンから芳醇で濃厚な香りが漏れて広がっていく。領主から、元気な腹の音が聞こえた。
狭綾は、接近してくる人波に気づいて困った表情になる。
大目に作ったつもりでも甘かったらしい。取り出したパンケーキを小さめに切って小さなコップに牛乳をついだのをセットにして並べていく。
「うむ」
最初の客は、厳めしい顔で耳を赤くした領主だった。
寂れた空間が瞬く間に人で埋まる。狭綾だけでは到底さばききれない。
「お酒が飲める方はこちらへどうぞ」
スノゥが領主の部下を使ってテーブルとグラスを準備し、今回運んできたお酒を注ぐ。列が別れて狭綾の負担が小さくなる。
「森向こうの街から仕入れたおいしいお酒があるよー!」
イチカも営業に加わる。
大胆に注いでグラスを揺らし、酒飲みにはたまらない香りで客を引きつける。
「それとな、なんや今日はこの街の伝統的なお祭りがあるらしいん。寄ってってなー」
列の最後尾に再度並んだ領主が、慌てて自分の持ち場へ戻っていった。
「ありがとうございました!」
みほは十数人目の客を見送り、小さなため息をついた。
大目に運んだ生ハムの余りは毎年販売されている。今回は前年比十数倍売れてはいるが在庫はまだたっぷりだ。
「場所を移して売り込む……えっ?」
みほが停止する。
彼女のそばを全身うさぐるみが歩いて常設舞台に向かっている。よく見ると中身はリズリエルで着ているのは羊毛を使った一品だ。
うさぎが宙に舞う。
危なげなく数回転して舞台へ降り立ち、男達を挑発し、可愛いもの好きな男女を惹きつけ、惑わし、冷めつつあった街の空気を暖めていく。
「いかんでござる」
リズリエルの指示を思い出し、近くの天幕から大きな机を引っ張り出した。
並べられているのは生ハムとチーズときつい酒が少量。未成年用には酒のかわりに牛乳の、観劇用セットだ。
うさぎが動く。観客の体がうさぎの動きを追う。
盛り上がりはリズリエルの狙い通りに財布の紐を緩くして、セットが瞬く間に売れていった。
「1つもらうよ」
雲雀が金色の金貨と置いて最後のセットを手に取る。狼の素材が高値で売れた。ハンター達全員で飲み食いしても儲けはかなりの額になる。
「いつもこうならいいんだけどね」
街は平和で、ハンターと領主を中心に賑わっていた。
太い幹と太細様々な蔓が進路を塞ぎ、枯れた葉の下にある穴が天然の罠となりハンターを待ち受ける。
「見えないな」
ザレム・アズール(ka0878)が上体を揺らして蜘蛛の巣を回避する。
彼の愛馬は普段の数分の1の速度しか、否、こんな条件でも数分の1も速度を出せていた。
馬が草を踏む。砕けた草から濃厚な臭いが漂っているはずなのに、馬の背にあるハムの香りが全てのにおいをかき消している。
馬が体を震わせた。半秒遅れで前方から銃声が聞こえてくる。
「防御障壁は」
ザレムが呼びかける。
「不要!」
緑の隙間から、飛び跳ねる道化師の姿が一瞬だけ見えた。
馬が不安げな目をザレムに向ける。主と一緒なら歪虚にすら立ち向かえるとはいえ乗用馬は乗用馬だ。あまり無理はできない。
「良い子だ」
ザレムはそっと肩を撫でて労ると同時に停止を命じ、考えるよりも速く魔導拳銃を引き抜き引き金を引く。
彼が頭で認識したときには、銃弾が茂みを貫通して大柄な狼の頭を半壊させていた。
拳銃とは異なる銃声が近づく。馬が自主的に一歩下がり、直前までいた空間をリズリエル・ュリウス(ka0233)とハムの匂いが侵略する。
「獣には勿体ないが、見せてやろう。ュリウス家のエアリアルという物をな」
リズリエルが真上に跳躍する。
馬を怯えさせないためだろうか。短銃身でも長いライフルは持ったまま使わず、蔓の間を通り抜けて枝に着地し真下に向かって鉤爪を射出した。
リズリエルを追って2頭の狼がやって来る。うち1頭の首を爪が貫き痛みを感じさせずに命を奪う。
もう1頭は堅いはずの頭蓋を撃ち抜かれ、番と共に倒れた。
「何頭いるんだ」
ザレムは拳銃からヴィントボウに持ち替え、眼を細め、放つ。
矢は緑の隙間を数十メートル飛ぶ。潜んで接近中だった若狼をかすめどこかへ消えた。
リズリエルが追撃しようとする直前、付けっぱなしのトランシーバから声が聞こえた。
『リズ、北から2つ』
振り返る。天然の塹壕じみた凹みで、痩せ狼が2頭匍匐前進に近い形で移動中だった。
「これでよし」
ザレム達の後方50と数メートルでは、鹿島 雲雀(ka3706)がトランシーバーを耳に当てたまま視線を動かしていた。
前方ではハンター2人が野生の狼を数秒で粉砕した。一方的蹂躙という表現が相応しい展開だ。
だが森の地形という強敵が健在だ。
「こちら鹿島」
『どうかしましたかぁ~?』
スノゥ(ka1519)から即座に返事が来る。
「倒木だ」
雲雀が蹴る。倒れてから数日の木は蔓草に覆われていて、数十度傾いたところで停止した。
「1つ戻って南の獣道を通った方がいい」
脳裏に地図を再生して指示を出す。
雲雀が木こりから聞き出した情報は予想以上に正確だ。今のように多少の変化はあるが己の五感と同程度に信用できそうだ。
『南は塞がっていました~』
スノゥの返答に狼の悲鳴が混じっている。
「合流するか?」
『できれば予定進路上の相当をお願いします~』
「了解」
雲雀が大きく伸びをする。
彼女の鼻先を狼の牙がかすめるのと、雲雀がトランシーバーと逆の手に持ったナイフが狼の腹に埋まるのは同時だった。
腹が割けて腸がこぼれ、血と湯気が溢れて急速に冷えていく。
血抜きすれば高く売れるかもしれない。そんな考えを脇に置き、雲雀はナイフから大弓に持ち替え馬車の予定進路に意識を向けた。
「野生も馬鹿に出来ないね」
怪しげな気配が複数ある。1頭で足止めして他が襲撃予定地点に隠れたのだ。
大きな気配、馬複数にひかれた馬車が一旦後退する。
「おう、荷物荒らしには容赦しねーってな!」
木と草と蔓が邪魔で狙いが付けづらくても、茂みの中に矢を打ち込んで追い出す程度なら可能だ。
矢が茂みに到着。矢は斜めに刺さったまま倒れず、矢が刺さったままの狼が悲鳴をあげて茂みから飛び出した。
「当たるもんだな」
伏兵でないなら仲間1人対処可能だ。雲雀は即座に思考を切り替え、別の気配目がけて矢の雨を降らすのだった。
●
イチカ・ウルヴァナ(ka4012)が調達した馬車は最高だった。木々の隙間を通せるほど細身で、その割に頑丈で多くの荷を載せても大丈夫。
「ふふふ」
御者席のスノゥは、いつも通りにおっとり微笑みながら額に汗を浮かべていた。
馬車の幅1.5メートルに対し獣道の幅は最大50センチ。控えめに表現して無理ゲーだ。
手綱を操る手が常人に視認できない速度で動く。馬は考えることを止めてただただスノゥの指示に従う。
のんびりなんて、どこにもなかった。
「あ」
エルフ耳がふるりと震えた。
獣道の段差回避に気をとられ、馬の首の高さに張られた蔓を見落としていた。
が、蔓に複数の切れ目が入って切断される。
「斥候や警戒、護衛は忍者の華」
木の陰から現れるのは忍び装束っぽい仮面の少女。藤林みほ(ka2804)である。
「やる気が出るでござるな!」
得意げに胸を張る。左手が一瞬ぶれ、十数メートル先の幹に半ばまで埋まり、毒々しい色の蛇が逃げていく。
「みほさ~ん」
スノゥの声に気づいて獣道から離れる。
茂みを押しのけ若木を粉砕する音を伴い、みほの前を馬車が通過していった。
みほは獣道には戻らず馬車に並行して走る。湿った緑を飛び越え枝を伝って空をいき、馬車との距離を保ちつつ警戒も怠らない。
わんわんと、ささやき声より小さな鳴き声が聞こえた。
みほがかがみ込む。枯れ葉まみれの犬が近くの茂みから飛び出し主にすがりつく。
「何頭いた?」
犬が小首を傾げる。
「2、3頭?」
犬が曖昧にうなずいた。
「よし」
みほは偵察を成功させた犬を労ってやり、犬が落ち着くのを待ってから馬車の後を追った。
スノゥは善戦しているが限界が近い。馬車が何度も堅い木にぶつかりかかり、そのたびに緩衝材もとい一応売り物の羊毛が木を受け止めて馬車の中身を保護する。
ぶつかるたびに、馬車の背後から飛び出す丸太数本がふらふら揺れてた。
「大変でござるな」
馬車をあっさり抜いて獣道に入る。
鉈を振るって邪魔っ気な枝と茂みを刈って、先行の面々が倒した狼の亡骸を回収した。
「森の生態系、大丈夫でござるか」
おそらく頂点にいるはずの狼を、群れ単位で滅ぼした後どうなるか。正直ちょっと不安だ。多分なにかあっても領主が対処するだろうが……。
「……さん、スノゥさん!」
荷車から柏部 狭綾(ka2697)が身を乗り出す。
馬車と木がこすれあう音で聞きづらく、スノゥが気づいて速度を緩めるまである程度の時間が必要だった。
「馬を後退させましょう。できれば小休止も」
馬は主に精神的な疲れから大量の汗をかいている。狭綾が馬車から降りて水をやり、馬より数倍スノゥが極短時間の休憩に入り、みほが馬車との連結を解いて替え馬を繋ぐ。
「後方の狼は私が追い散らします」
胸元に淡い燐光が灯る。弓に番えるのは通常より太い鉄製の矢だ。
「元々ここにいた狼なら」
マテリアルが狭綾の目と指先に集中する。葉と枝と草の隙間から遠くに見える狼。その進路に向けて放つと、矢は何もかもをすり抜けて狼の足下へ深く埋まる。
狼の悲鳴が森の中に満ちた。
体格の良い老狼ほど怯えて腰が退けている。何の変哲もない矢が猛毒であるかのように、群れを引き連れ森の奥へと消えた。昔の、覚醒者複数による狼駆除がトラウマになっているのだ。
スノゥが興味津津な視線を狭綾に向ける。
「地元の狼対策です」
狼が出没する地域で農業をやっているのだから、有効な対策を持っていると推測して尋ねてみたところ案の定だった。
「前からも来たでござる」
手裏剣が空気を裂く。先頭の狼の首が割れ、一瞬遅れて赤黒い血を噴出して地面に転がる。
続く1頭は狭綾に射殺され、残る1体が同属の屍を踏み越え馬の喉元に食いつこうとした。
ハンターの分厚い防御に比べれば薄紙同然の喉が切り裂かれる直前、スノゥが生みだした障壁が9割9分まで牙の力を防ぎきる。
スノゥは静かに拳銃を構え、生き残りの喉元に銃口を当てた。
「おやすみ」
銃声が森に吸い込まれる。
狼は、苦痛を感じる前に命を絶たれた。
●
大木の根が浮き上がる。
苔がはがれて土に落ち、進路を完全に塞いでいた根が宙に浮いた。
「鉈や」
イチカが刃物を放る。
リュー・グランフェスト(ka2419)はほとんど見もせずに後ろ手に受け取り、木こりが切るなら数時間がかりの根っこを一息に切断した。
「リュー、休憩せんで大丈夫か?」
イチカが覚醒状態を解かずに問いかける。
なにしろこれで8本目の根切りだ。岩を地面から引き抜くのも2桁繰り返している。熟練ハンターでもそろそろ体力的に限界のはずだ。
「持久力は人並み以上って自負がある。なんとか持たせてみせるぜ」
振り返り、荷車に歩み寄り、大きな袋を3つまとめて背負う。
「助かるわ」
イチカは意識して明るく礼を言い、覚醒の結果けものハンドっぽくなった手で手綱を操作する。
馬は疲れている。地形の確認はハンターがしないと小さな凹みにはまって捻挫か最悪脚を折りかねない。
馬車は、じれったくなるほどゆっくりと、獣道を進んでいるにしては驚異的な速度で森の外縁に近づいていた。
手綱がひかれる。馬が停止を命じられて戸惑う。
イチカは手綱を仲間に任せて飛び降り、長身を折り曲げて獣道を凝視する。
「こりゃまた、酷い道やねぇ」
リューから石を受け取り天然の落とし穴に詰めて塞いで土をかける。
何か聞こえた気がして首をかしげる。
リューのロケットロケットナックルがイチカから数センチの地点を通過し、いつの間にか忍び寄っていた狼を撃ち抜いた。
リューは止まらず前進し、荷車側から忍び寄っていた最後の1頭を蹴り飛ばし、再度のナックルで止めを刺した。
「ごめん、助かったわ」
イチカが手のひらをあわせて礼を言う。
「お互い様だ」
にやりと笑い額の汗をぬぐう。
表面上は余裕だが実際は疲労が凄まじい。戦慣れしたリューでも油断はできない。
「どしたん?」
リューが立ち止まっているのに気付いてイチカが問いかける。
「頑丈な馬だと思ってな」
馬は潰れもせずに健在だ。ハンターの持ち馬だけならおかしくはない。森に入る前に調達した馬も元気なのが予想外だった。
「牧場のおっちゃん達と相当やりあったんよねぇ」
遠い目で元来た道を振り返る。
出発地の街で荷台と馬を用意したのはイチカだ。
困難な、実際は予想よりさらに困難だった道のりを予測し、荷物と道に向いた最適なものを探してもらって借り受けたていた。
また、イチカが持ち込んだのは馬と荷車だけではない。
「ほい」
リューに大きな板を渡す。
「準備万端だな」
体力を活かして小川の上に端をかけ、馬車を通して最後の難所を通過した。
緑の濃度が急速に落ちていく。
空からは午後の陽光が、前方からは農地の匂いが混じった風が吹きつける。
馬の足取りが軽くなる。ハンター達の顔に精気が戻ってくる。
「街だ!」
地平線の手前に、小さくも風情のある街が広がっていた。
●
街の通りでは絶え間なく乾杯が繰り返され、生半可な吟遊詩人では注意を引きつけることもできない。
「みんないい飲みっぷりね」
ギターの音色と、綺麗なのに何故か大きな声が酔っぱらい共の耳を撫でる。
「油と塩たっぷりの肉が」
馬上から、ザレムがギターとお手製メガフォンで宣伝中だ。幼女から老女まで魅了する笑みが浮かんではいる。けれど本人には全く余裕が無い。雑魔相手の死闘は平然とこなせてもこういうのには慣れていないのだ。
「お手頃価格で提供中だぜ」
リューがリュートで演奏を交代し、領主館がある方向を示す。
「何を売ってるの?」
着飾った街のお嬢さんがたずねた。
「売り物は小麦と羊毛だ」
ザレムの言葉にリューが説明を足す。この町の平均的な価格よりわずかに安い。緩衝材として使われたのはさらに安い。
「甘いものも売ってるぞ」
お嬢さんだけでなく、一部野郎も含めた人垣が領主館に向け走り出す。
同時刻。領主館前は華やいだ街とは正反対に閑散とした雰囲気だった。
古びたテント前の領主がとても侘びしい。
狭綾は礼儀正しく築かないふりをして、チョコレートをたっぷり使った生地をオーブンに入れる。
石造りのオーブンは、1時間前に組まれたばかりの急造品だ。しかし作ったのは領主が抱える内政面での精鋭で、リアルブルー出身者も満足できる見事な出来映えだ。
もう1つのオーブンから芳醇で濃厚な香りが漏れて広がっていく。領主から、元気な腹の音が聞こえた。
狭綾は、接近してくる人波に気づいて困った表情になる。
大目に作ったつもりでも甘かったらしい。取り出したパンケーキを小さめに切って小さなコップに牛乳をついだのをセットにして並べていく。
「うむ」
最初の客は、厳めしい顔で耳を赤くした領主だった。
寂れた空間が瞬く間に人で埋まる。狭綾だけでは到底さばききれない。
「お酒が飲める方はこちらへどうぞ」
スノゥが領主の部下を使ってテーブルとグラスを準備し、今回運んできたお酒を注ぐ。列が別れて狭綾の負担が小さくなる。
「森向こうの街から仕入れたおいしいお酒があるよー!」
イチカも営業に加わる。
大胆に注いでグラスを揺らし、酒飲みにはたまらない香りで客を引きつける。
「それとな、なんや今日はこの街の伝統的なお祭りがあるらしいん。寄ってってなー」
列の最後尾に再度並んだ領主が、慌てて自分の持ち場へ戻っていった。
「ありがとうございました!」
みほは十数人目の客を見送り、小さなため息をついた。
大目に運んだ生ハムの余りは毎年販売されている。今回は前年比十数倍売れてはいるが在庫はまだたっぷりだ。
「場所を移して売り込む……えっ?」
みほが停止する。
彼女のそばを全身うさぐるみが歩いて常設舞台に向かっている。よく見ると中身はリズリエルで着ているのは羊毛を使った一品だ。
うさぎが宙に舞う。
危なげなく数回転して舞台へ降り立ち、男達を挑発し、可愛いもの好きな男女を惹きつけ、惑わし、冷めつつあった街の空気を暖めていく。
「いかんでござる」
リズリエルの指示を思い出し、近くの天幕から大きな机を引っ張り出した。
並べられているのは生ハムとチーズときつい酒が少量。未成年用には酒のかわりに牛乳の、観劇用セットだ。
うさぎが動く。観客の体がうさぎの動きを追う。
盛り上がりはリズリエルの狙い通りに財布の紐を緩くして、セットが瞬く間に売れていった。
「1つもらうよ」
雲雀が金色の金貨と置いて最後のセットを手に取る。狼の素材が高値で売れた。ハンター達全員で飲み食いしても儲けはかなりの額になる。
「いつもこうならいいんだけどね」
街は平和で、ハンターと領主を中心に賑わっていた。
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無茶な輸送依頼を果たすには? 柏部 狭綾(ka2697) 人間(リアルブルー)|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/02/01 21:09:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/30 22:05:05 |