• 血断

【血断】死の幽霊

マスター:近藤豊

シナリオ形態
イベント
難易度
難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/07/29 19:00
完成日
2019/08/04 18:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「報告。敵大部隊、マギア砦北東で確認」
「やはり来ましたか」
 ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)はマギア砦の二階で北東に視線を向ける。
 ヴェルナーは敵の報告情報をまとめた結果、幻獣の森を襲撃した敵はマギア砦付近に現れると予想を立てた。

 このマギア砦は過去に二度、敵の侵攻を受けている。
 一度目は巨人の大軍を指揮するヤクシーがCAM実験場へ攻撃を仕掛けた際に。
 二度目は怠惰王オーロラ亡き後、青髯となった青木 燕太郎(kz0166)が統一地球連合宙軍のドックを狙った際に。
 そして――。
 ヴェルナーは、三度このマギア砦の前を敵が通過すると考えて防御を固めていたのだ。
「このルートを辿るとするなら、敵の狙いはホープ。
 幻獣の森に続いてホープを狙う事で対邪神の戦力を削るつもりでしょう」
 自らの推理を口にするヴェルナー。
 だが、頭の片隅に少しばかりの違和感がある。
 既に邪神との戦いは始まっている。大半の戦力は邪神に向けて行動を開始。
 その上で、本当にホープを狙うのか。
「おいっ、ヴェルナー!」
 そこへ駆け込んできたのはヨアキム(kz0011)であった。
 マギア砦の外で防護壁を構築している最中のはずだが、明らかに慌てている様子だ。
「どうしました?」
「さっき連絡があった。敵の大部隊がパシュパティ砦の東に現れた」
「! 接近されるまで気付かなかったのですか?」
「分からねぇ。急に現れたらしいぞ」
 ヨアキムによればパシュパティ砦から来た戦士が早馬で知らせに来た。
「こちらは囮ですか」
「ああ。敵の狙いはホープじゃねぇ。パシュパティ砦だ」
 ヨアキムの指摘でヴェルナーは合点がいった。
 敵はハンターの戦力を削る事が目的ではない。
 辺境を、クリムゾンウェストを、闇に落とす事が目的だ。
 つまり、ハンターが邪神に対抗している間に部族会議を潰して辺境を歪虚の支配地域にする事。敢えてマギア砦付近に囮の部隊を残したのも部族会議の主力をこちらへ惹き付ける為だ。
「すいません、私の判断ミスです」
「謝るのは後だ。ヴェルナー、お前はパシュパティ砦に向かえ」
 項垂れるヴェルナーの肩に手を置くヨアキム。
 マギア砦の北に迫る囮部隊に対応している間、パシュパティ砦が陥落すれば敵はそのままマギア砦の陥落に動き出す。下手をすれば北だけではなく南からも挟撃されて逃げ場を失う事になる。
 ――しかし。
「パシュパティ砦を救援する為にはマギア砦を防衛する戦力を連れて行く事になります。そうなればここの防衛戦力は……」
「ここはオレが食い止める。お前が砦に向かわなければ、砦にいる連中が危ねぇ! お前が行くしかねぇんだよ」
 ヨアキムの手に力が込められる。
 今、ヴェルナーが救援に向かわなければパシュパティ砦内の連中は殺される。既に遅いかもしれないが、座して死を待つよりはましだ。
「……分かりました。ですが、ヨアキムさん。あなたもご無事で」
 ヴェルナーは足早に一階へと降りていく。
 おそらく部下に撤退指示を出した上で馬を走らせるつもりだ。
 ヨアキムはその姿を見守りながら一人呟く。
「ご無事で、か」


 聞いた時には信じられなかった。
 あの誇り高き青龍が、人間の船を動かす動力のような事までさせられているとは。
 そのような事、決して赦されてはならない。
 もう龍園の連中も、人間にも任せてはいられない。
「……ヒトは必ず叩き潰す」
 契約者であるドラグーンのアルフォンソはマギア砦の北東に陣取っていた。
 怠惰残党と狂気の軍に合流したのは数日前だ。マギア砦北東で囮となっている隙に本体がパシュパティ砦を襲撃する。コーリアスの残した遺産に歪虚を転移させる簡易ゲートがあった。一回限りのアイテムであるが、事前にポイントとなる目印を設置すれば遠隔からゲートを起動するだけで転移を可能とする。
「あの砦を落とす事で敵の士気を挫く。
 こちらは囮だが……手を抜いてやる謂われはない」
 アルフォンソは槍を携えて深紅のワイバーンに近づいた。
 鉤爪と専用アーマーが特徴的なワイバーンは、明らかに異質な存在だ。
「行くぞ、アル」
 背の乗り、手綱を退いたアルフォンソ。
 アルはマギア砦に向かって上空へ飛び上がる。


「いいか、10分だ。10分だけここで足止めをしてくれ」
 ヨアキムはそう言い残してマギア砦向かいのジクウ連山に向かって歩き出した。
 マギア砦二階には青髯戦で用いられた大砲が未だ健在。さらに街道にはドワーフが設置した大型の防御壁が設置。足跡の為耐久性に課題は残すが、小型狂気程度であれば弾き飛ばす能力が付与されている。
「兄貴は、あの山へ何しにいったんだ?」
「さぁ? 切り札ってぇので敵の進軍を食い止めるらしい。何するかは知らねぇが」
 ヨアキムは護衛も付けず、ジクウ連山へ消えた。
 何をしようとしているのかは分からないが、パシュパティ砦へ向かう敵を止める為に有効な手立てだという。
「確か、合図の花火が上がったら砦から撤退しろって話だけど……また兄貴得意の発明かな?」
 そう言いながら、ドワーフの体は軽く震えていた。
 ここへ間もなく歪虚の大軍が訪れる。
 それもかつてない程の大軍――果たして生き残る事はできるのか。


「急いで下さい! パシュパティ砦まで急ぎます」
 ヴェルナーは馬を西へ走らせ続けていた。
 後方からは要塞『ノアーラ・クンタウ』に駐留する第一師団所属の騎士団。必死でヴェルナーの後を追いかけているが、装備の重さもあって徐々に距離が開き始めている。
「ヴェルナー様、お待ち下さい。このままでは馬が潰れてしまいます」
「私は急がなければなりません。バタルトゥさんが守ってきた部族会議を、私が壊す訳にはいきません」
 部下はヴェルナーの焦る様を初めて見た。
 いつも冷静なあのヴェルナーが、今はただ冷静さを失う若き武官でしかない。
 明らかに焦り、怒っている。
 バタルトゥ・オイマト(kz0023)という大首長が、蛇の戦士シバ(kz0048)より受け継ぎ、守り抜いてきた部族会議。それを穢してしまった自分が許せないのだ。
「……先に行きます」
 ヴェルナーは馬へ鞭を入れた。


「いつになく余裕を欠く天使。作戦は成功です」
 邪神討伐に向かったニダヴェリールを早期に航行不能へ追い込んだブラッドリー(kz0252)は、エンジェルダストと共に辺境へ舞い戻っていた。
 留守の間歪虚の軍へ託した指示は、正しく遂行されたようだ。
 マギア砦の北東には北方にいたアルフォンソを始めとする契約者のドラグーンも合流している。
 ――ならば、ブラッドリーが行うべき行動は一つ。
「あの天使をここで討ち果たせば、この地は神の座す地へと生まれ変わる。今からでも楽園へ行く事を願う者が現れるでしょう」
 エンジェルダストは上空からブーストを全開して地上へ向かう。
 馬を必死で走らせるヴェルナーをこの地で殺す為に。

リプレイ本文

「毎度毎度よく狙われるな、ここは」
 マギア砦の防壁に布陣したダインスレイブ『長光』の操縦席で、近衛 惣助(ka0510)でそう呟いた。

 既にこの砦での防衛戦は三度目だ。
 一度目は怠惰の軍勢を引き連れたヤクシーによるCAM実験場の攻防。
 二度目は青髯と化した青木燕太郎(kz0166)の暴走。
 そのいずれの場合でもマギア砦のある街道を通過していた。
 確かに砦としての役割は十分全うしているとも言える。

 ――しかし。
 この繰り返されたマギア砦の戦いが、『フリとして』使われた。
「お客は間もなくご到着。しっかり歓迎してやらないとな」
 魔導パイロットインカムを通して惣助の声が仲間達へと伝わる。
 部族会議は敵本隊がマギア砦を通過すると予測して防衛戦力を布陣。敵の襲来に備えていた。
 だが、敵はその動きを待っていた。
 マギア砦の攻略を囮にし、敵本隊はパシュパティ砦の狙っていたのだ。
 部族会議は撤退を図りながら、このマギア砦で囮部隊の侵攻を抑える事になった。
「だーもう! ここは一体、何回危機になってんだよ!」
 マギア砦の外で敵の登場を待ち構えるボルディア・コンフラムス(ka0796)。
 敵の到着をイェジド『ヴァーミリオン』と共に待つ。
 こんな危機的状況、今まで何度も乗り越えて来た。今回だって、今までと同じように敵を叩き潰せば良いだけだ。
(……『今までと同じように』、か)
 ボルディアは脳裏に浮かんだ言葉を思い返した。
 自分でも分かっている。今回は今までと違う事に。
 味方主力は邪神ファナティックブラッドの攻略へ向かっている。言い換えれば、クリムゾンウェストの防衛戦力は部族会議と元強化人間のハンターだ。敵はその事を熟知した上でクリムゾンウェストへ攻勢をかけているのだ。
「おまけに相手はシェオル型もいるのかよ」
「相手に不足はないだろう?」
 ボルディアの独り言に惣助は敢えて返した。
 惣助も今までのような単なる防衛戦と違う事は分かっていた。その証拠に敵の攻勢は今まででもっとも激しい。幻獣の森を陥落させた狂気の軍勢は怠惰の残党を飲み込む形で攻勢をかけている。赤き大地を飲み込まんとする漆黒の闇を前に、ボルディアも惣助も抗おうとしていた。
 邪神と戦い、未来を掴み取らんとする者達と共に。
「今までだって何度も守ってきたんだ。今回もキッチリ守ってやるよ!」
 咆哮にも似たボルディアの声。
 砦にいたドワーフ達の心も激しく震える。


「悪ぃが、もうちょっと我慢してくれよ」
 辺境ドワーフ王ヨアキム(kz0011)はマギア砦の前に聳え立つジグウ連山を登っていた。
 かつてマギア砦に怠惰の軍が侵攻した際、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)率いる部隊が切り立った崖から滑り降りる形で強襲を仕掛けた事があった。
 ――あれから数年。
 ヨアキムはこの崖を隠れながら一人登る。
 部族会議の作戦が外れ、敵の策に釣り出される失態はあまりにも大きい。しかし、全軍撤退すれば敵はその後を追撃する。下手をすればパシュパティ砦を攻める敵部隊と挟撃を受ける可能性もすらある。
「誰かがここでやらなきゃならねぇ」
 大きな岩を乗り越えたヨアキムは、素早く身を隠す。
 誰かがこの役目を担わなければならない。
 それは未来ある若者ではなく、自分のような者の役目だ。
「本当は、邪神に一発ゲンコツをくれてやりかったんだけどよ。そいつはハンターの連中に任せるか」
 ヨアキムは再び上を目指す。
 目的の場所まで、もう少し先だ。
 
 それまで――もう少しだけ耐え忍んでくれ。


 一方、マギア砦を脱出してパシュパティ砦へ向かう騎士団。
 普段であれば敵の伏兵を警戒して部隊行動を遵守するのだが、今日はその様子がいつもと様子が異なっていた。
「ヴェルナー様、お待ち下さい!」
 騎士団の呼びかけを無視して馬を走らせるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)。既に馬は休みなく走らされ続け、限界が明らかに近づいている。
 それでもヴェルナーは止まる気配もない。
「……急がなければ」
 ヴェルナーは、そう呟いた。
 二度ある事は、三度ある。
 同じルートを何も考えずに敵は通過する。
 それは敵が力任せの戦略のみを選び取る愚鈍な集団。
 その認識は、あまりに敵を過小評価し過ぎた。
 その結果、部族会議はマギア砦へと釣り出され、部族会議の拠点であるパシュパティ砦を攻められる事になった。
「なるほど、水野様の予想通りになった訳ですか」
「!」
 ヴェルナーの近くに姿を見せたのはハンス・ラインフェルト(ka6750)のR7エクスシアだった。
 ハンスが口にした名でヴェルナーは眉をひそめる。
 奇しくもその名前がヴェルナーの胸にあった焦りへ水をかける事となった。
「……何が、言いたいのですか?」
「貴方が『東の狸』と呼ぶ水野様が、此度の失策を予期されておられました。
 貴方が目先に拘って足元を掬われる。まさにその通りになったようで」
 ハンスは、ヴェルナーの失態を『東の狸』こと水野 武徳(kz0196)が予期していたと敢えて告げた。
 ヴェルナーと武徳は双方が認知するレベルの将だ。
 パシュパティ砦への帰還で焦るヴェルナーに対して武徳の存在を認知させる事は、冷静さを取りもどさせる一助になった。
「貴方は、それは見事に歪虚の吊り出しに引っかかった。貴方の命より大事な相手でも、その為に貴方が失われては結局部族会議も辺境も歪虚の波へ沈み事になりましょう。同じ策にかかろうが、次回は相手を見くびらず別の策を取るようお勧め致します」
 ハンスは更に言葉を続ける。
 ヴェルナーとて馬鹿ではない。ここでハンスに腹を立てる事の無意味さを知っている。むしろ、それに気付かせる事で焦りに染まる心を抑えるのが狙いだ。
「ただ怒りに任せてる生き様よりも、最後まで隣で頼りになる奴って思わせたいじゃん」
 ヴェルナーの後へ続くようにキヅカ・リク(ka0038)のマスティマ『エストレリア・フーガ』が姿を見せる。
 キヅカもここでヴェルナーに万一があれば部族会議の未来がない事を知っていた。
 それは敵も理解しているのだろうか、エストレリア・フーガの後方から複数の堕天使型が追跡する。
 キヅカは機体を反転させる。
 同時にプラズマキャノン「ヴァレリフラッペ」の照準を迫る堕天使型へと合わせる。敵は追跡する為にスピードを上げている。今から方向転換してもそう簡単には止まらない。
「最後まで隣で……クールに決められる。そういう頼れる奴が、辺境には必要なんだよ」
 キヅカは、引き金を引く。
 次の瞬間放たれる強烈なエネルギー。堕天使型に回避する暇すら与えず、直撃させる。邪神との決戦に向けて調整された兵器であるが故、その威力はかなり高い。
 辛うじて直撃を避けた堕天使型もいたが、攻撃チャンスを見逃す程ハンター達は甘くない。
「……早く言って下さい。斬って欲しいなら、そうして差し上げたのに」
 蹌踉めく堕天使型へハンスの斬艦刀「雲山」が振り抜かれる。
 既にハンターとの交戦は始まっている。ヴェルナー追撃を優先して襲ってきた堕天使型だろうが、ハンター達もヴェルナーを守る為に相応の準備は整えている。
「お供、します。無事に辿り着けるように。……ヴェルナーさんの、抱えた想いを……一緒に支えたいから」
 ペガサス『輝夜』と共に空を駆ける桜憐りるか(ka3748)は、ヴェルナーへそっと微笑みかける。
 ヴェルナー最大の窮地に、自分は何ができるのか。
 それはヴェルナーの望み通りにパシュパティ砦へ送り届ける事。
 ならば、りるかはその望みを成就させる為に尽力する。
 ――仲間もいる。何よりヴェルナーの傍らに居られるのだ。
 怖い物は、何もない。
「りるかさん、皆さん……」
 そう呟くとヴェルナーは小さく頭を振った。
 自らの頭にこびり付いた負の感情を振り払うかのように。
「すいません、皆さん。もう少しだけ私の我が侭に付き合って下さい。
 ……この辺境の窮地を、救うために」


「敵部隊に龍騎士がいるな」
 マギア砦上空から南下する歪虚の軍勢を見下ろす藤堂研司(ka0569)とワイバーン『竜葵』。普段であれば地上の武装巨人を攪乱するなどの活躍を見せる航空部隊であるが、研司は前方から飛来する部隊が視界に飛び込んでくる。
 北の森から舞い上がるワイバーンの群れ。
 斥候の情報通りであれば龍園を追放され、ブラッドリーと手を結んだ契約者の龍騎士達だ。
「あの機動力は厄介だ。行くぞ、竜葵。迎撃する」
 竜葵に一声かける研司。
 呼び掛けに応え、竜葵は一度高度を下げて研司を地上へと降ろして舞い上がる。上空を竜葵に任せ、研司は地上から対空攻撃を仕掛けるつもりだ。
「青龍様を拐かす愚かな人間に鉄槌を!」
 龍騎士達も竜葵の存在を視認。上空で部隊を分けて一気に散開。
 スピードを乗せて竜葵に的を絞らせない。
「竜葵、ファイアブレス!」
 竜葵から吐き出すファイアブレス。近づいていたワイバーンに浴びせかけるものの、敵を墜落させるには至らない。
 だが、それでいい。
 地上にいる研司を警戒されなければ十分だ。
「……歪虚なのだとしたら、龍盟の戦士の一員として……俺達で介錯する」
 研司は星降を発動。天に向かって一斉に放たれた赦矢「光よ、憐れみたまえ」はマテリアルを纏い、光の雨となって降り注ぐ。上空を飛び交う敵のワイバーンではあったが、降り注ぐ。命中したワイバーンの移動速度は明らかに落ちる。
 ――しかし。
「……!? 『あいつ』がいない」
 研司は上空にいる敵ワイバーンを改めて視認する。
 敵のワイバーンが龍園より追い出された契約者の龍騎士であるなら、その指導者である存在は必ずこの戦場にいるはずだ。
 青龍を敬いすぎるが故、六大龍でも青龍を絶対視する一派。
 その行き過ぎる思想と他の龍を屈服させんとする過激な行動。
 青龍を救い出そうとするのなら、必ず行動を起こすはず――。
「ヒトの身分で青龍様の誑かす罪。その身を以て知るがいい」
 マギア砦に向かって猛スピードで飛来するワイバーン。
 その背に乗るのは龍騎士のアルフォンソ。槍を手にマギア砦の二階へと迫る。
「アルフォンソだ。狙いはマギア砦の二階。対空防御だ」
 魔導パイロットインカムで研司は仲間へ呼び掛ける。
 敵にとって厄介な存在はマギア砦二階にある大砲と対空防御を担うハンター達だ。
 アルフォンソはそれらの兵器を黙らせる為に高度を下げて一気に叩くつもりだ。
「まだそんな腐った救済思想に取り憑かれているのか、憐れだな」
 研司の呼び掛けを受けコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)がアルフォンソの飛来する方向へと向かう。
 重機関銃「ラワーユリッヒNG5」による制圧射撃で迎撃を試みる。
「青龍様を船の動力にする愚行。不敬である上、世界を滅ぼす行為と何故分からん。
 ……アル!」
 アルフォンソは騎乗していたワイバーン『アル』へ呼び掛ける。
 アルは足に装備されていた筒から何かを打ちだした。
 その何かはマギア砦の外壁へと突き刺さる。同時に激しい閃光が一瞬周囲を包み込む。
「くっ、閃光弾か!」
 その瞬間、コーネリアの視界は奪われる。
 短い時間だ。長い時間ではない。
 だが、アルフォンソとアルにとってはその時間で十分だ。
 マギア砦の二階を強襲する為には。
「傅け、頭を垂れろ。そして、後悔して……死ね!」
 アルから放たれるファイアブレス。
 それも一発ではなく、連続で三発。マギア砦の二階に何発かの爆発が巻き起こる。
「やってくれるな。
 たとえ、どんな手を使おうと邪神の首は絶対に叩き落とす。貴様等如きの攻撃に、今更引き下がる理由はない」
 ホワイトアウトした視界が元に戻った事を確認したコーネリア。
 再びラワーユリッヒNG5でアルフォンソに戦いを挑む――。


 ヴェルナーを追撃する敵部隊は勢いに任せて騎士団を襲撃していた。
 ハンター達の目的はヴェルナーを無事にパシュパティ砦へと送り届ける事。
 しかし、同時にある存在を抑え込まなければならなかった。
「ブラッドリー……」
 ワイバーンで接近する堕天使型を迎撃するGacrux(ka2726)は、視界に入った白いマスティマを見て呟いた。
 Gacruxにとっては屈辱な出来事。
 邪神ファナティックブラッドへ向かう盾の役割を果たしていたニダヴェリール。反重力バリアを展開しながら突き進むニダヴェリールであったが、ブラッドリーとその眷属による攻撃でニダヴェリールは予定よりもずっと手前で役割を終えた。
 ブラッドリーが撤退する際に放った一言を、Gacruxは忘れられない。

 『神に抗うと決断したのであれば、もう少し隣人の事を考えなさい』

 その一言にGacruxの心に怒りが溢れかえる。
 本当であればそのしたり顔を殴り付けてやりたい。
 しかし、今成すべき事はヴェルナーを護衛する事。ハンター達はブラッドリーへ戦力を割り振るのではなくヴェルナーの護衛に主軸を置いた。
 ブラッドリーを倒すのは――今ではない。
 その時が来たら、Gacruxは容赦なく奴に懺悔をさせてやる。
 それまでは耐えなければ。
「騎士団に接近した敵を中心に片付けますか」
 仲間達に向けて魔導拡声機「ナーハリヒト」で敵の存在を知らせていく。
 想像よりも敵は多いが、必ずやり遂げられるはずだ。
 こんな所で、立ち止まる訳にはいかない。

「そうよね、これだけ見事にヴェルナーが釣り出しに引っかかったんだもの。単なる歪虚の仕業じゃないと思ってた」
 ブラッドリーのエンジェルダストに対して進路を塞ぐマスティマ『morte anjo』。
 マリィア・バルデス(ka5848)には今回の策が武装巨人や狂気、龍騎士の発案ではないと直感していた。
 もっと大胆な策を立てられる存在の仕業。今の戦況においてそれが可能な歪虚は限られている。
「我が友が残した遺品。それを用いたに過ぎません。名誉は神の御許へ召された我が友へ」
 我が友――それが『錬金の到達者』コーリアス(kz0245)である事はすぐに分かった。
 武装巨人を始め、様々な兵器を歪虚へもたらした高位の存在であるが、今回もコーリアスが残した兵器を用いたようだ。
 その兵器は部族会議にとって最悪のタイミングで効果を発揮してくれた。
「ヴェルナーはリクたちが護衛してくれるから心配する必要すらないわね。だから……殺り合いましょう、ブラッドリー!」
 プラズマキャノン「アークスレイ」を構え、エンジェルダストへ一射。
 既に幾度かの交戦でお互い出方はある程度予測が付く。この一撃が回避されても構わない。重要な事は手数を増やして圧倒する事。
 そしてそれは、ブラッドリーにしても同じ事だ。
「力無く神に挑むは、己の傲慢に気付かぬ故。それは太陽を目指すイカロスの如く……ですが」
 エンジェルダストの背後から派出される誘導型攻撃端末。
 素早い動きでmorte anjoで飛来する。
「させない」
 マリィアと攻撃端末の間に割り込んだキャリコ・ビューイ(ka5044)は、ポロウの惑わすホーを発動。
 幻影の結界は攻撃端末が放つビームを巧みに回避していく。
 同時にキャリコは新式魔導銃「応報せよアルコル」へ装弾を済ませると攻撃端末に照準を合わせる。
「……!」
 引き金を引くキャリコ。
 しかし、銃弾は空を切る。
 移動し続けるだけなら端末を一撃で撃ち落とす事も不可能ではないだろうが、相手はエンジェルダストの攻撃端末。突然軌道を変更する事もあるのだ。
(命中させる為には、もっと敵の動きを予測する必要がある)
 攻撃端末のビームを惑わすホーで回避するポロウ。
 キャリコは何としてもこの場で攻撃端末の軌道を完全に予測しなければならない。
「時の流れの先を行くのですか、天使」
「邪神を倒す為なら、あなたを倒す為なら何だってしてみせる。苦渋を舐めるのはもう沢山よ」
 フライトブーストでmorte anjoの高度を引き上げたマリィア。
 打ち下ろすようにガトリングガン「エヴェクサブトスT7」の弾丸をバラ撒く。少しでもパラドックスを使わせるのが狙いだが、エンジェルダストはプライマルシフトでその場から転移する。
「ですが、学んだはずです。敵は……私だけではありませんよ?」
 攻撃端末を狙撃しようとしていたキャリコの側面から転移で姿を現した堕天使型。
 ビームソードを惑わすホーで回避するポロウだが、邪魔が入ればキャリコも攻撃端末は狙い撃てない。
 妨害されるキャリコ。
 だが、ここでブラッドリーも失念していた。ハンターは一人だけではない、と。
「こっち気にしてていいのかよ。気ぃ抜いてっと墜ちるぜ?」
 突如爆発する攻撃端末。
 キャリコと別方向からプラズマライフル「ラッド・フィエル01」で狙撃した赤いオファニム。
 オファニム『レラージュ・ベナンディ』――アニス・テスタロッサ(ka0141)の機体だ。 強大な力を前にしてもハンターは決して退かない。
 その後方には守るべき物があると知っているからだ。
「お前こそ、いい加減学べよ。邪神に未来は無ぇってな!」
 アクティブブラスターで距離を取りながら接近する堕天使型を迎撃するアニス。
 一時は押され気味かと思われたハンター達であるが、この状況で形成を一気に盛り返す。
「あまり侮らない事ね。ハンターを」
 マリィアは断言する。
 ヴェルナーは必ず仲間達が守り切る、と。


「耐久レースって感じだな。それもちょっと過酷な奴だ」
 カイ(ka3770)のR7エクスシアが魔銃「ナシャート」によるマテリアルライフルを前方へと叩き込む。
 マギア砦二階をアルフォンソが強襲しているが、敵陣に向けての砲撃は今も行われている。カイも敵の進軍を少しでも食い止める為に武装巨人に向けて撃ち込んでいく。命中しなくてもいい。少しでも敵の動きを封じられる事が重要なのだ。
 しかし、今回の敵は今までと大きく点がある。
『死ねぇぇぇぇ!』
 武装巨人を盾にしながら一気に前に出る黒い影。
 カイはマテリアルライフル放つが、盾になった武装巨人が邪魔で影には命中しない。
 一定の間合いに入った瞬間、影は飛び上がる。
 カイはその影がシェオル型だと視認する。
 振り下ろされる爪。R7エクスシアへ激しい振動が加わる。
「くっ!」
 二撃目をシールド「ストルクトゥーラ」で防御するカイ。
 ストルクトゥーラでも伝わる負の感情。怨嗟を撒き散らすシェオル型は明らかに異質な存在だと分かる。
「退いて下さい」
 カイに掛けられる声。
 それに反応してカイはシェオル型と距離を取る。
 次の瞬間、シェオル型をツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)の放ったアイシクルコフィンが襲い掛かる。次々と展開される無数の氷柱がシェオル型へ突き刺さり、その動きを一時的に縛る。
「ヴェルナー殿の無事を願って彼の元へと駆けつけた者達の、後顧の憂いは絶たねばなりません」
 ツィスカはマギア砦の攻防で覚悟を決めていた。
 敵の進軍をここで食い止めなければ、確実に敵は南下する。そうなれば被害はより一層広がっていく。ヴェルナー達を挟撃させない為にも、ここで相応の時間を稼がなければ。「お願いします」
「……分かった」
 動きが落ちたシェオル型に対して不退の駆で突撃する神城・錬(ka3822)の刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」。
 シェオル型を巻き込み、武装巨人と共に一気に弾き飛ばしていく。
 これだけでシェオル型が撃破できないと分かっているが、神城にとって優先すべきはマギア砦での策が成就する為に時間を稼ぐ事。
 敵を倒せずとも、このまま足止めしさえすれば必ず大局での勝利は見えてくる。
「このまま前線の敵を蹴散らす」
 神城はルクシュヴァリエに連撃を繰り出させ、マギア砦近くの武装巨人を押し戻そうとしていた。
 カイもこれに応じてマテリアルライフルで後方から援護射撃を試みるが、ここでふとツィスカへ連絡用にドワーフから借りたトランシーバー越しに話し掛ける。
「気付いたんだけどよ。ヨアキムがやろうとしているのは、砦ごと敵を道連れで自爆じゃないか?」
「!」
 カイの言葉にツィスカは驚く。
 ドワーフなら周辺も鉱山を把握している事も、地下空洞がある事を知っていてもおかしくはない。突如敵の罠にかかった状況を考えれば、事前に準備できた策は限られてくる。
「そんな、自爆なんてすれば……」
「ただでは済まないな」
 突撃しながら神城は呟いた。
 しかし、仮にカイの言う通りだとしても神城はヨアキムを引き留められないだろう。誰かがこの窮地で体を張らなければ、敵の侵攻を食い止められない。それは最前線で壁となって敵へ立ち向かう神城だからこそ分かる。シェオル型を多数存在し、龍騎士の航空戦力まで保持した歪虚の軍勢を、主力を欠いた状態の戦力で食い止めるには限界がある。「合図が出たら早急に戦線を下げる決断も必要になるかもな」
 策の準備ができれば、ヨアキムが合図を送る手筈になっている。
 カイ達にできる事は、ヨアキムの策が成功するよう可能な限り素早く対応する事だ。
「…………」
 これもハンター達の決断のせいなのか。
 ツィスカは、その仮説に対して何も言う事はできなかった。


「墜ちやがれっ!」
 キラースティンガーを乗せたフローズンパニッシャーを上空の龍騎士に向けて放つコーネリア。
 研司の竜葵が上空で奮戦してくれている為、比較的コーネリアも地上から狙い撃ちしやすい。既に何体かのワイバーンを叩き落としている。
 さらにエンバディ(ka7328)とワイバーン『インドラ』が敵のワイバーンと砦上空で交戦していた。
「いけっ!」
 フォースリングで増幅されたマジックアローが敵のワイバーンと龍騎士へ突き刺さる。
 衝撃と共に錐揉み状態で地上へ落下していくワイバーン。この高さから落下すれば契約者でもただでは済まない。
「貴様っ!」
「龍騎士なのに相手が歪虚あと知ってて契約したの? 契約した事を青龍様や周りのせいにしているの?
 アズラエル様も人間嫌いだったけど、歪虚と契約なんてしなかっただろ」
「俺達には力が必要なんだ。青龍様を取り戻すだけの力が」
 ワイバーンのファイアブレスを回避するインドラ。
 エンバディの記憶では青龍を敬愛するあまり過激な行動に出る事も多かった龍騎士の一派が龍園を追放された。龍騎士は世界を護る存在として存在していたはずだが、彼らは青龍が龍園の龍騎士に奪われたと考えていたようだ。
 青龍を取り戻すには力がいる。
 おそらく歪虚の力を『利用』して青龍を奪おうとしたのだろうが、結果的に歪虚が龍騎士達に漬け込んだ形となった。
「元同胞だろうと、歪虚と契約したのなら敵だ。容赦する気はないよ」
 旋回と同時に再びマジックアローを浴びせかけるエンバディ。
 マギア砦上空の攻防はハンター側が優勢に進んでいた。
 ――しかし。
「遅いっ!」
 コーネリアがアルフォンソへ銃口を向けるが、他よりも圧倒的早いスピードで移動する為命中させる事が難しい。
 更に照準を定めさせない為に上昇下降を織り交ぜる為に厄介な相手となっている。
「砲撃手、一斉砲撃っ!」
 コーネリアは苛つきならがドワーフへ呼び掛ける。
 その呼び掛けに応じてドワーフ達はマギア砦二階に設置された大砲から一気に砲撃を開始する。撃ち出される砲弾。だが、アルフォンソを乗せたアルは大きく旋回して砲弾を回避。
 そしてマギア砦の二階まで舞い戻ると砲撃手を務めていたドワーフに向けてアルフォンソの槍が突き刺さる。
「ぐわっ!」
「まずいですわ、大砲が!」
 大砲を護っていた金鹿(ka5959)はアルフォンソの襲撃に手を焼いていた。
 金鹿は敵が大砲を狙ってくると考えて大砲の守護を主軸に考えていた。
 御霊符で召喚した式神とオートソルジャー「翠蘭」を展開。敵の襲撃に備えていたのだが、現れたのは高速移動を可能とするワイバーンのアル。式神や翠蘭も反応して対応しようとするが、一撃離脱を繰り返されて止める事ができない。
「くそっ、この位置からだとマギア砦に命中するか」
 研司は地上からアルフォンソを超研司砲『四眼』で狙い撃つ。
 しかし、アルフォンソも先に研司の星降を見ている。ドワグーンを狙う相手として認識していればマギア砦の影に入る事で狙いから逃れていた。せめて他のハンターがアルフォンソを上空で足止めするか、研司がマギア砦の二階から攻撃を仕掛けていれば――。
「アヴァっ!」
 アルフォンソを追跡するように後方から白龍の息吹を見舞う木綿花(ka6927)。
 ワイバーン『アヴァ』は、木綿花の命を受けてアルフォンソのアルに対して空中戦を挑んでいた。アヴァの飛行スピードは決して遅い訳ではない。しかし、アルの飛行性能はそれを凌駕していた。歪虚化した事でその能力が向上したのだろうか。
「貴様……ヘブンズドアか。龍園で惰眠を貪る連中と同じか」
「アル。龍騎士隊の先輩なら何故……青龍様を慕われるなら、傍らを離れたあなた方が青龍様の御意志に叛かれた事になるのでは?」
「知った風な口を聞くな!」
 アルは木綿花に向けてファイアブレス。
 連続して発射される炎をアヴァは大きく旋回して回避する。
「青龍様を利用して俺達を追放した連中への怒り、忘れた日は一日もない。青龍様を利用する貴様等にそのような事を言う資格はない!」
「そのような考えが、皆に負担を掛けて民の心をかき乱します」
「ほざけっ! すべては青龍様の為にある! 青龍様の為に命が使われる事を誉れに思うべきだ!」
 空中で何度もすれ違うアヴァとアル。
 その度にアルフォンソと木綿花は顔を見合わせる。
 いくら言葉を交わしても意思の疎通はまったく行えない。言葉は心に届かず、ただアルフォンソの怒りを増幅させるばかり。
 白龍の息吹やアイシクルコフィンもアルの移動速度の前では命中させる事が難しい。
「アルフォンソっ!」
 木綿花の危機を感じ取って飛来するエンバディ。
 新手の存在に気付いたアルフォンソはアルへファイアブレスを放たせる。
 飛来する火炎弾を回避するエンバディ。
「もう止めて!」
 木綿花の言葉。
 アルフォンソはそれをあっさり聞き流す。
 だが、木綿花の言葉は研司に攻撃の機会を与えるに至った。
「この時を待ってたぞっ! くたばれぇぇぇっ!!」
「……! アルっ!」
 アルフォンソは木綿花の言葉で怒りに飲み込まれていた。
 その結果、地上にいた研司の存在を失念していた。
 その為、上空で移動するアルを地上から超研司砲で狙われる事になったのだ。
 その事に気付いたアルフォンソはアルに閃光弾を発射されるが、遅い。
 連続で発射される研司が白く染まる空へと吸い込まれていく。
 光の中で発生する衝撃音。
 光が晴れる頃にはアルフォンソの姿は消失していた。
「やったか?」
 コーネリアの言葉に研司は頭を振った。
「いや、撤退に追い込めたようだ」
 北の空へ目を向ければ龍騎士達が引き返していくのが分かる。
 敵の航空戦力はこれで沈黙させられた。後は地上の敵を撃退すればいい。
「アル……」
 アルフォンソがいた場所を木綿花は寂しそうに見つめていた。


「ヴェルナーさん! お気持ちはちょっとわかりますけど、このままじゃ良い的ですー! ダメですー!!」
 ヴェルナーの馬に並走する形でリーリー『ミーティア』を走らせるアルマ・A・エインズワース(ka4901)。
 ハンター達の説得で多少スピードを落としたヴェルナーであったが、依然として騎士団の隊列は乱れたままだ。こうなれば敵の攻撃によって騎士団は逐次討伐されてしまう。
「お気遣いは感謝致しますが、私はパシュパティ砦へ急がなければ……」
「辿り着く前に死んじゃうです! おちついてくだ……シオン、何してるですかーー!?」
 そこへ突如ヴェルナーへミネラルウォーターが掛けられた。
 ヴェルナーが道の反対に視線を送ればリーリー『マイル』の背に乗る仙堂 紫苑(ka5953)がいた。手にしているボトルを見る限り、ミネラルウォターは紫苑の仕業だ。
「どういうつもりですか?」
「ちっとは頭が冷えたかよ。濡れたまま風に当たると気持ちがいいだろ?」
 紫苑はヴェルナーがまだ冷静さを欠いていると考えていた。
 既にヴェルナーも馬も限界間近。このまま走らせれば道端で倒れる事は必定だ。
「手荒な手段を選ばれましたか」
「そうさせたのはお前だ。もっと大局を見ろ。いつものお前を取り戻せ」
 目の前の事に囚われるな。
 パシュパティ砦へ到達して終わりではない。そこからヴェルナーは敵の背後を突く形で戦いを挑まなければならない。だとするなら、ここで戦況をしっかりと認識できるように自分を思い出させる必要がある。
「……この先にケリド川を渡る為に準備させた船が停泊しています。そこで後続の騎士団を待ちます。敵の襲撃を受ける事になりますが」
「構わねぇだろ。その為に集まったハンター達だ」
 紫苑は軽く笑みを浮かべる。
 ヴェルナーに冷静さが戻ったと感じ取った。これならこの後もしっかりと騎士団を指揮できるだろう。
「それよりその馬じゃ船まで到達できねぇだろ。乗り換えた方がいい」
「わふー。ならヴェルナーさんはこっちに乗り移るですー」
 アルマに誘われる形でミーティアに移るヴェルナー。
 二人乗り状態となったアルマは、そのまま一気にスピードを上げる。
「それじゃあ、このまま走り抜けるですー」
「だと良かったんだけどな……アルマ、前に敵の待ち伏せだ」
 紫苑が指し示した先には道を塞ぐように集まる浮遊型狂気の群れが漂っていた。
 一体当たりは弱くても多数集まれば進路妨害は十分可能だ。
 先へ進むには敵を倒す必要がある。
「遊んであげる暇はないですー」
 ミーティアで走りながらアルマは浮遊型に向けてデルタレイ。
 強烈な一撃が浮遊型を吹き飛ばす。さらにアルマを支援するように蒼機銃「エーデルワイス」で援護射撃。すべてを倒す必要はない。自分達が通り抜けられればいい。
「アルマ、このまま跳べ!」
 二匹のリーリーは大地を踏みしめジャンプ。
 浮遊型の群れを飛び越えた。そのまま一気に地面を大きく蹴る。
「船までもう少しです。お願いします」
 ヴェルナーの願い。
 だが、敵もこのまま黙って見過ごすつもりはなかった。


 ハンターの尽力でマギア砦の制空権を取り戻した。
 予定の時間までもう少し――あとは地上へ迫る敵を撃退する必要があった。
「いけぇ!!」
 輝羽・零次(ka5974)の青龍翔咬波が武装巨人に向けて放たれる。
 練り上げられたマテリアルが武装巨人の体を突き抜ける。衝撃を受ける武装巨人。しかし、倒すまでには至らない。負傷しながらも手にしたアサルトライフルで反撃してくる。
(そうだ、それでいい)
 アサルトライフルの銃弾から身を隠しながら零次は満足そうに頷いた。
 今回の作戦はマギア砦における敵の足止め。縮地瞬動で接近して老龍大回天で武装巨人を敵陣へ放り込んだりしたのも、すべてはこの作戦成功のためだ。つまり、ここで武装巨人を生かしたまま生きた障害物として敵の進軍を遅らせるのだ。
 屍となったならばそのまま亡骸は消失。体力のある元気な武装巨人が後からやってくる。しかし、傷付いて進軍スピードが落ちた武装巨人ならば後続もそう簡単には前に出られない。
「赤雷、前衛に追い打ちだ」
 零次は上空にいたワイバーン『赤雷』で武装巨人達にレイン・オブ・ライトによる追撃を指示。
 無数の光線として放出されたマテリアルが武装巨人に降り注がれる。
 上空のワイバーンが不在となった事で赤雷も容赦なく地上にいる敵を攻撃していた。
「最早憂いはありませんわ。今こそ大砲の出番です」
 金鹿はドワーフ達の砲撃を打診。
 ドワーフ達は敵が襲来する街道の北側に向けて次々と砲弾の雨を降らせた。
 アルフォンソの襲撃でドワーフ達に多少の被害が発生したが、砲撃そのものは可能だ。制限時間が迫る中で金鹿は更なる砲撃を続けさせる。
「また砲台を狙っているようですわね。いけませんわ」
 遠距離から砲台近くのドワーフを狙う武装巨人を見つけた金鹿は、素早く風雷陣の符を放り投げる。
 符は空中で稲妻と化し、武装巨人を貫いた。
 この間にも次々と撃ち込まれる砲弾。歪虚達の進軍スピードは明らかに落ち始めていた。
 そこへ遅れていたミグ・ロマイヤー(ka0665)が到着する。
「ふふ、二つの戦域から引っ張りだことはヤクトバウも人気者じゃわい」
 街道に布陣したダインスレイブ『ヤクト・バウ・PC』は早々に砲門を歪虚の一団へ差し向ける。
 大軍で街道に押し寄せたとしても街道の幅は変わらない。マギア砦からの砲撃もあって敵の進軍スピードが遅くなったのであれば、ヤクト・バウ・PCにとって敵は動かない的も同然だ。
「この戦いの幕を閉じるにはちょうど良い。ミグからの餞別じゃ」
 ミグ回路「カートリッジフェアリー」の増設により更なる追加砲撃。グランドスラムの連続砲撃の準備に取りかかる。
 稼働する砲身。照準は歪虚の群れ。
 命中させる必要はない。爆風だけでも敵をビビらせてやればいい。
「遠慮無く受け取るが良い」
 震える空気。
 次の瞬間、ヤクト・バウ・PCの砲身から次々と放たれる砲弾。地面の形を変えるかのような勢いで降り注ぐ砲撃を前に歪虚側は前に出て来られない。
 堕天使型やシェオル型が強引に前へ出ようとするものの、ハンター達の攻撃を前に活路が見いだせない状態だ。

 定められた刻限まで――もう間もなくであった。


「見えたっ、船だ!」
 キヅカのエストレリア・フーガからでもケリド川に停泊する船が視認できた。
 深度がある場所を選び、比較的大型の渡し船を使ってケリド川を航行していた。
 ケリド川は辺境でも聖なる川と呼ばれる川だ。その川幅は場所によって大きな差がある。その中から最適な場所を選んだけあり、船が到着まで待機する場所も存在している。
 この地であれば後続の騎士団の待つ事ができるだろう。
 一方でハンター達はこの場所で襲撃する敵を迎撃する必要がある。
「後続の騎士団を守りながら渡し船を護衛するぞ」
 エストレリア・フーガを反転させ、後続の騎士団を護るべく動き出す。
 既にキヅカは視界に捉えていた。
 騎士団を追撃する複数の堕天使型。
 キヅカは射程距離に収めた堕天使型に対してブレイズウィング展開。敢えて的を一体に絞る事で確実に堕天使型の足止めを狙う。
「騎士団に手出しはさせない」
 堕天使の体へ突き刺さるブレイズウイング。
 一体に対して殺到する刃が確実に堕天使型をその場へと縫い付ける。
 だが、残る堕天使型が後続の騎士団へと迫っていた。
「仕掛けてくるならこのタイミングだろう。
 だが、そう易々と目論見通りに進むとは思わない事だ」
 騎士団と堕天使型の間にマスティマを滑り込ませたロニ・カルディス(ka0551)。
 振り下ろされた堕天使型のビームソードの一撃をパラドックスで打ち消し。
 さらにブレイズウイングを射出して眼前の堕天使型へ突き立てる。
(ここまでは順調だ。あとは……)
 ロニは騎士団を護衛しながら訪れるであろう『展開』を警戒していた。
 奴に気付かれれば厄介だ。できるなら気付かれる前に迎撃したい所だ。
 虎視眈々と様子を窺うロニ。
 同時に渡し船の防衛にはUisca Amhran(ka0754)が回る。
「船は到着しています。順に乗り込んで下さい」
 渡し船に背を向け敵の襲撃を警戒するUisca。
 ワイバーン『ウイヴル』と共にケリド川上空で堕天使型やシェオル型を押し止めるつもりだ。
(敵の作戦がブラッドリーさんの仕業なら、邪神による楽園を目指す彼にとって辺境の歪虚支配地域を広げる意味は? ……楽園と関係ないように思えるけど)
 Uiscaは少しばかり離れた位置でハンターと交戦するエンジェルダストの凝視した。
 元々何を考えているか分からないと言われるブラッドリーだが、今回の行動については疑問も多い。
 だが、どのような答えが待っていようともヴェルナーを狙うならばその身を盾にしてでも止めるだけだ。
「ウイヴルっ!」
 堕天使型の遠距離ビームに対して【龍壁】龍想即興曲を展開。
 白い防御壁を展開して渡し船への攻撃を遮断する。

 Uiscaの疑問――それは、後程判明する事になる。


「……っ! シェオル型かっ!」
 八島 陽(ka1442)は騎士団まで距離を詰めるシェオル型の爪を聖機盾「オラシオン」で防御する。
 マスティマ『シュネルギア・アリシア』のプライマルシフトでなければ騎士団への攻撃を防ぎ切る事は難しかっただろう。
『何で……どうして……邪魔……する?』
「邪魔はするさ。進むべき道を妨害するなら」
 攻性防壁でシェオル型を押し返し、呪斧「シングルメイカー」を上段から振り下ろす。
 その間に八島は敵の動きから真実を探っていた。
 船があったにも関わらず、その前で罠がなかった事。
 敵は騎士団を後方から追撃していた事。
 前方からも敵は現れるが堕天使型やシェオル型は後方から多く現れる傾向。
 おそらくエンジェルダストはこの会敵は想定だったのではないか。言い換えればこの戦いに参戦できるとは思っていなかった。邪神との戦いで相応のダメージを推測していたからこそコーリアスの兵器を使わせてパシュパティ砦襲撃の策を授けた。
 ――ブラッドリーが間に合わなくても辺境の進軍を継続できるように。
「だが、予定が変わった。ニダヴェリールが予想よりも早く墜ちたから」
 そう、作戦はここまでだった。
 ただ、ブラッドリーはヴェルナーを見つけてしまった。それを見逃す程、お人好しではない。ヴェルナーを狙うのは自然の流れだ。
『何を……言ってる? ……お前も……馬鹿に……見下して……いる……』
 シェオル型が纏っていた炎のオーラがさらに激しさを増す。
 敵の本隊がパシュパティ砦へ差し向けられているなら、ここにいる敵は限りがある。
 待ち伏せされたのではなく、想定外の会敵なら――。
「撤退を優先させれば活路は見いだせる」
「はい。諦めるには早すぎます」
 ハンスのR7エクスシアが、シェオル型の側面から強襲した。
 斬艦刀「雲山」を手に円舞による下段からの振り上げ。シェオル型は爪を盾代わりに防御を試みるが、完全には防ぎ切れない。
 ヴェルナーが渡し船へ乗り込んだ事を確認したハンスは騎士団が少しでも早く到着するように支援を開始していた。幸いにもヴェルナーを護衛しようとする者は比較的多い。それならば少しでも早くパシュパティ砦へ到達できるように尽力するべきと判断したのだ。「ヴェルナーさんの所へは行かせません!」
 穂積 智里(ka6819)はペガサスに騎乗して上空からデルタレイを放つ。
 智里もヴェルナーの危機を武徳から聞かされていた為、救援には素早く動いたハンターの一人であった。詩天に武徳が必要であるように、辺境にはヴェルナーが必要な人材だ。ヴェルナーがここで大怪我を負えば確実に部族会議は大きすぎる損失を受ける事になる。
「ヴェルナーさんは失えない辺境の重要人物。それをお伝えした際、優しく頷いてくれました。
 ヴェルナーさんは生きなければいけないんです」
『誰でも……いい……みんな……消えれば』
「犠牲はユーキで最後だ。闇へ帰るのはお前達だけでいい」
 八島のマスティマによるプライマルシフト。
 シェオル型の背後に回り込みシングルメイカーによる横薙ぎ。
 シェオル型の胴体を捉え、隙を生み出す。
 そこへハンスの二連之業が叩き込まれる。
「おやすみの時間です。無意味な怨嗟は墓場でお願いします」
 防ぐ暇を与えず叩き込まれる連撃が、シェオル型に刻まれる。
 シェオル型は反応する事もできず、その場へと倒れ込んだ。
「お二人とも次の敵に向かわれるのでしょう。傷を癒します」
 智里はエナジードレインでハンスと八島の機体を癒す。
 マギア砦の敵に比べれば攻勢は少ない。これもブラッドリーにとって想定外の戦闘だったからなのだろうか。
 そうだとしてもヴェルナーを護衛する事は変わらない。
「行こう。船が出航するまでもう少しだ」
 八島達は再び船着き場へと戻る。
 ヴェルナーを確実に向こう岸へ送り届ける為に――。


 ……。
 …………。
 …………――。

「なんでそこまで頑張るんだ?」
 幼い頃、ヨアキムはこんな事を覚醒者に聞いてみた。
 ドワーフが危機に陥った時、真っ先に飛び出して立ち向かっている光景が印象的だったからだ。
 どうして、そこまで頑張れるのか。
 その力の根源がヨアキムは知りたかった。
「どうしてって……気付けば体が動くだけだ。理由なんかない」
「理由が、ない?」
「納得できねぇ様子だな」
 覚醒者は立ち上がるとヨアキムの肩にそっと手を置いた。
「呼吸するのと同じようにそれが当たり前の行動だ」
「怖くはないの?」
「怖いさ。だがな、覚悟を決めているからな」
 覚悟。
 ヨアキムはその語感を気に入ってた。
 退く事を許されず、その場で踏ん張る事――。
「いいか。戦う奴にとって体を張らなければならない時が必ず来る。そこから逃げない覚悟だ」
「それで死ぬ事があっても?」
「そうだ。誰かがそれをやらなきゃならない。仮に死ぬ事になったとしてもやり遂げなきゃならない事がある。いつでもその時が訪れる覚悟をしておくんだ」


 ジクウ連山でヨアキムは何故か昔の話を思い出した。
 どうしてその光景が蘇ったかは分からない。
 もしかしたら、今がその覚悟を示す時なのかもしれない。
「合図は上げた。みんな砦から退避してくれよ」
 ヨアキムはしゃがみ込む。
 切り札――それはかつて北伐からの撤退時に使おうとしていたブロートの改良型であった。
 このブロートを爆発させる事でジクウ連山に大規模な土砂崩れを発生させる。これで街道を封鎖すれば北から押し寄せる軍勢は西へ向かうにしても大回りする必要が出てくるからだ。
 残念ながらブロートの時限装置は間になわなかった。
 誰かがこのブロートを起爆する必要がある。
「へへ、覚悟か。今がその時だよな。
 確かに怖ぇ。逃げ出したい気落ちでいっぱいだ。それでも俺は筋を通さなきゃならねぇ」
 ブロートを起動する。
 激しい点滅が開始されブロートは激しく振動する。
 逃げるだけの時間は残されていない。
 ――それでも。
 ヨアキムは満足だった。
 ヴェルナーは生き、歪虚と戦うハンター達がいる。
 彼らがいれば辺境は安泰だ。きっと皆が平和で暮らせる時代にしてくれる。
「……振り返るな。真っ直ぐに進めよ」
 ブロートが、爆ぜた。
 次の瞬間、ジグウ連山は大きく崩れ始める。


「……あれは!?」
 友軍撤退を支援する為、制圧射撃で歪虚の軍勢を牽制していた惣助を襲う地響き。
 上を見上げればジグウ連山に崖崩れが発生。マギア砦横の街道へ大量の土砂が雪崩れ込む。
 砂埃が巻き上がり、視界は一気に悪化する。
「ヨアキムだ」
「!」
 カイの一言に惣助は振り返る。
 その一言で惣助は気付く。ヨアキムが言っていた切り札とは、ジグウ連山に土砂崩れを引き起こして街道を封鎖する事。確かにこの街道が封鎖されれば歪虚側も南下するには時間がかかる。武装巨人や中型狂気などは簡単に進む事はできなくなるだろう。
 しかし――。
「おい、ヨアキムはどうしたんだ?」
 ボルディアはヴァーミリオンと共に周辺を見回してみるが、ヨアキムがやってくる気配はない。
 いや、ボルディアも分かっている。大規模な土砂崩れをジクウ連山で引き起こすには大規模な爆破が必要。仮に爆弾を設置して撤退するとしても『10分』で可能なのか。むしろ設置して爆破するまでが『10分』と考えた方が自然だ。
「まさか、あいつ……」
「行こう」
 ボルディアが言葉を口にしようとするが、カイはそれを遮った。
 この土砂崩れに巻き込まれたのなら――口にしたくない現実。
 だが、それは明らかに目の前にある。
「合図があったら、即撤退だ。
 逃げ遅れたらヨアキムに怒鳴り飛ばされるぞ」
 カイは非情にも聞こえる台詞を敢えて言った。
 ヨアキムの想い。それはここでショックを受ける事も、悲しむ事でもない。
 前に進み、この辺境の窮地を救う事。
 ハンターは、歩まなければならない。
 ――強く、しっかりと。


「船で移動……そう簡単にさせると思いますか?」
「しまった!」
 エンジェルダストと対峙していたmorte anjoだが、射線上に堕天使型が割り込んだ隙を見てエンジェルダストはプライマルシフト。
 マリィアは一瞬、エンジェルダストを見失ってしまう。
 その状況をみていたアニスは渡し船へ向かうエンジェルダストをマテリアルライフルで狙い撃つ。
「くそっ、動きやがったか」
「その位置から止められると思いますか?」
 マテリアルライフルを光の盾で防御するエンジェルダスト。
 スラスターで機体を加速させて渡し船へ接近を試みる。
「その船を落とせば、天使達は動きを止める……」
「させると思うか?」
 渡し船へ接近するエンジェルダストの前にロニのマスティマが転移する。
 ロニがブレイズウイングを展開すると同時にエンジェルダストも誘導型攻撃端末を再び展開する。
「ここへ来る事を予見してましたね?」
「当然だ。お前を倒すのではなく足止めが目的だからな」
 ロニはブレイズウイングをエンジェルダストへ飛ばす。
 攻撃端末と正面から衝突させて少しでも攻撃手段を封じる。今回ハンター達はヴェルナー護衛を優先した。言い換えればエンジェルダストを足止めする戦力を少なくするのだが、場合によってはエンジェルダストは転移でヴェルナーを狙う可能性がある。
 しかし、その状況を待ち伏せる事ができればエンジェルダストを追い詰める事ができるかもしれない。
「……くっ、罠でしたか」
「ブラッドリー、あの戦いで手を伸ばせば届いたかもしれない人達が死んだ。
 けど、許してくれとも納得しようとも思わない」
 船着き場からプラズマキャノン「ヴァレリフラッペ」でエンジェルダストを狙うキヅカ。
 ロニがエンジェルダストを押し止めているが、エンジェルダストには高出力のスナイパーライフルがある。攻撃端末でロニを牽制しながらスナイパーライフルで船を狙う撃つ恐れがあるからだ。
「この痛みや恐怖……誰かに手を伸ばさない理由にはならない。
 過去や未来を人質に……今、この心の声から背ける理由にはならないんだ!」
「!」
 放たれるヴァレリフラッペ。
 ロニへの対応で反応が遅れるエンジェルダストに直撃。しかしパラドックスでダメージを打ち消す。
 そこへアニスが別方向からラッド・フィエル01で狙いを定める。
「人気者だな。羨ましいぜ、本当にな」
 攻撃端末をマルチロックオンで複数破壊を狙って行く。
 四方からの攻撃で防御手段を封じれば、嫌でもパラドックスを使っていくしかない。
「アルマっ!」
「シオン! やっちゃうですー!」
 超覚醒したアルマは船上で紫苑に望みの白雨を使用する。
 光の雨が紫苑へと降り注ぐ。
 紫苑は船上の後方から機導砲・紅鳴を発動させ、蒼機銃「エーデルワイス」の弾丸に雷撃を纏わせる。
「よぉブラッドリー、ちょっと前と趣味が変わったか?」
「そうかもしれません。我が友が注目したハンターという存在は、神を脅かすへ変わろうとしている。神を救おうとするとは思いませんでしたから」
 紫苑の制圧射撃もあってエンジェルダストは船に接近する事は難しくなった。
「この状況、エンジェルダストも反応して動き出しましたか」
 Gacruxはワイバーンと共に船の護衛を開始していた。
 派手なエンジェルダストが相手だ。自然と堕天使型やシェオル型も船を狙うように動き始める。Gacruxはその行動を先読みして早期から敵を起動で翻弄していた。
「数はそこまで多くはない、か。だけど、船は傷付けさせませんよ」
 ワイバーンのサイドワインダーで堕天使型を死角から強襲するGacrux。
 少しでも敵を攪乱できさえすればいい。ヴェルナーと騎士団に手を出させない事が肝要だ。
 一方、Uiscaはブラッドリーへ接触を試みていた。
「ブラッドリーさん、辺境を侵攻してどういうおつもりでしょう? 楽園を目指すのではなかったのですか?」
「天使達が判断を誤ったからです。神に弓を引く真似は見過ごせません。神に手を出すのであれば天使達が守る場所を攻撃する事で神へ振り下ろす剣を鈍らせるまでです」
 Uiscaが求めていた答え。
 それはハンター達の選択に起因していた。邪神討伐を選択した時点でブラッドリーは楽園の崩壊を危惧。神を守る為に辺境を攻撃する事で邪神に向かう戦力を少しでも削ろうとしたのだろう。
「ですが、神を救う事は予見できなかったのですね」
「はい。ですが、必ず救える保証がない以上、無碍に神を傷付ける事は許されません」
「あら。デート中に他の娘と楽しくお喋り? ……嫌われるわよ、ブラッドリー!」
 追いついたマリィアはブラッドリーの至近距離からガトリングガン「エヴェクサブトスT7」を浴びせかける。
 既に複数の方向から攻撃を受けてパラドックスを多用。さらにアニスらにより攻撃端末の破壊を狙われている。
 エンジェルダストは確実に追い詰められていた。
「ブラッドリー、もう満足だろう」
 八島のマスティマも船を守る為にエンジェルダストに対峙する。
 八島は状況からエンジェルダストにとってもこの会敵は想定外だと考えていた。
 ブラッドリーの性格を考えればこの場で無理をするとは思えない。
「…………」
「ブラッドリー」
 沈黙を守るブラッドリーの傍らからキヅカが呼び掛ける。
「お前をここで墜としたとしても、お前は必ず生き延びてこの地に災いをもたらす。エンジェルダストを倒すだけじゃダメなんだ。俺達はお前の信仰を折る必要がある」
「信仰を?」
「そうだ。神を崇め執着する心がお前の根源だと俺は思う。そして、俺達の根源は……」 キヅカは周囲に視線を向ける。
 今までどんな強敵を相手にしても戦ってきた仲間達。
 彼らと一緒であれば、決して負けない。
 ――絆。
 それが、ハンター達の力の根源だ。
「良いでしょう。私の信仰の力と天使達の絆の力。次の戦いで証明しましょう。
 どちらが、より強い力なのか」
 ブラッドリーはそう言い残すとプライマルシフトで姿を消した。

 次の戦いが、ブラッドリーとの最後の決戦となる。
 その場にいたハンター達は誰もがそう感じていた。


「あれは……」
 ヴェルナーはりるかのペガサスに乗り換えて上空からパシュパティ砦を見渡した。
 そこには黒い波と化した歪虚の軍勢が一つの砦に向かって押し寄せている光景であった。
 その戦力差は明確。この軍勢を前にパシュパティ砦の長期籠城は難しい。
「…………」
「ヴェルナーさん。落ち込まないで、下さい。ヴェルナーさんのせいでは、ないです」
 りるかなりにヴェルナーを気遣った。
 歪虚に出し抜かれたヴェルナー。その結果がパシュパティ砦の絶望的危機である。
 この戦いで失った戦力は大きく、部族会議はさらに西へ拠点を移さざるを得ないだろう。
「ありがとうございます。早急に生き残った戦士を集めて再編を図らなければなりません。私が預かるノアーラ・クンタウで……」
 りるかは背中で力強く前を見据えるヴェルナーを感じていた。
 いつものヴェルナー。
 りるかが慕っていた、あのヴェルナーが帰ってきた。
 だったら、もう負けない。
 歪虚がどんなに攻めてきてもきっとはね除けられる。
「頑張ります、ね」
 絶望的な光景を前に、りるかは力強く答えた。


 パシュパティ砦を巡る戦いの一つは、こうして終焉を迎えた。
 ドワーフ王ヨアキムの行方は未だに不明。マギア砦周辺は既に歪虚支配地域となっており、捜索も困難。生死すら不明の状態だ。
 部族会議大首長の帰還という吉報を抱きながら、部族会議は最後の戦いに向かって走り出した。

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  • ヴェルナーの懐刀
    桜憐りるかka3748
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901
  • 大局を見据える者
    仙堂 紫苑ka5953
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルトka6750

重体一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 支援巧者
    ロニ・カルディスka0551
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽ka1442
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    エストレリア・フーガ
    エストレリア・フーガ(ka0038unit012
    ユニット|CAM
  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    レラージュ・アキュレイト(ka0141unit003
    ユニット|CAM
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ナガミツ
    長光(ka0510unit004
    ユニット|CAM
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    マスティマ
    マスティマ(ka0551unit005
    ユニット|CAM
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    リュウキ
    竜葵(ka0569unit003
    ユニット|幻獣
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ウイヴル
    ウイヴル(ka0754unit003
    ユニット|幻獣
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    ヴァーミリオン(ka0796unit001
    ユニット|幻獣
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽(ka1442
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マスティマ
    シュネルギア・アリシア(ka1442unit017
    ユニット|CAM
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka2726unit004
    ユニット|幻獣
  • ヴェルナーの懐刀
    桜憐りるか(ka3748
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    カグヤ
    輝夜(ka3748unit004
    ユニット|幻獣
  • 情報屋兼便利屋
    カイ(ka3770
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka3770unit001
    ユニット|CAM
  • 良き羅針盤
    神城・錬(ka3822
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka3822unit002
    ユニット|CAM
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ミーティア
    ミーティア(ka4901unit005
    ユニット|幻獣
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ポロウ
    ポロウ(ka5044unit005
    ユニット|幻獣
  • アウレールの太陽
    ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ポロウ
    ポロウ(ka5835unit001
    ユニット|幻獣
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    モルチ アンジョ
    morte anjo(ka5848unit007
    ユニット|CAM
  • 大局を見据える者
    仙堂 紫苑(ka5953
    人間(紅)|23才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マイル
    マイル(ka5953unit005
    ユニット|幻獣
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    スイラン
    翠蘭(ka5959unit003
    ユニット|自動兵器
  • 拳で語る男
    輝羽・零次(ka5974
    人間(蒼)|17才|男性|格闘士
  • ユニットアイコン
    セキライ
    赤雷(ka5974unit002
    ユニット|幻獣
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka6750unit005
    ユニット|CAM
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ペガサス
    ペガサス(ka6819unit006
    ユニット|幻獣
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    アヴァ
    アヴァ(ka6927unit001
    ユニット|幻獣
  • 舌鋒のドラグーン
    エンバディ(ka7328
    ドラグーン|31才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    インドラ
    インドラ(ka7328unit001
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/07/26 05:52:58
アイコン 相談卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/07/29 15:34:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/07/27 20:37:18