• 血断

【血断】黒雲の向こう

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/07/30 22:00
完成日
2019/08/06 05:20

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 パシュパティ砦にいたファリフはドワーフ工房からの連絡を受け取り、安堵した表情を見せていた。
 内容は先日から行方不明になっていた部族なき部族のリーダーであるテトを保護したこと。
「山羊さん、テトは無事だって」
 ファリフと共に斥候役として同行していた部族なき部族のメンバー達は「よかった……」と呟いていた。
 山羊と花豹はテトが動けない間、部族戦士の斥候を担いテトやルックス達と離れていた。
「何もないと油断していたのだろう。斥候として失格だ」
「その辺の説教は会ってからにしてくれよ、一番心配してたのはあんたなんだから」
 しれっと花豹が言えば、山羊は「うぐ」と唸る。
 二人のやり取りを見ていたファリフは「多分テトのこと、言えないんだよなぁ」と心の中で一応反省していた。
 ファリフの手の中には『ファリフへ』と表に書かれた手紙と紐で括られている手紙がある。
「けど、テトはそのシスって奴になんで保護されてたんだい?」
「うーんと、手紙には、シスはタットルが捕縛された時、タイフォンが動くと思っていたので、見張りをつけてたんだって。テトが郊外の町で口論をし、タイフォンの部下がテトたちを眠らせ、タイフォンが相手のリーダー格を殺して、殺人の偽装をしていた所まで見てたんだって」
 一度言葉を切ったファリフは二人に急かされ、話を続ける。
「シスの手先はテトを知っていたみたい。上手い事タイフォンからテトを巻き上げたって。部族なき部族のリーダーはハンターとも懇意にしてるし、何かをやるにしても、取引材料にはうってつけ。粗末にはされてなかったようだし、戻ってきてよかったよ」
 ほっとするファリフだが、部族なき部族の二人は顔色が悪い。
「シスと元締めも一緒なんだろう?」
 華やかな美貌が憂いとなり、花豹が尋ねる。
「二人はそれぞれの場所を取り戻す気だよ。部族なき部族やハンターを使って。テトの考えはこっちだって」
 ファリフがまだ紐で結ばれたままの手紙を二人に渡す。
 手紙を受け取った二人は二度読んでから顔を見合わせる。
「はぁあああああああああ……」
 嘆きのような深いため息。
「何でこうなっちゃったんだろ……」
「……立ち向かいすぎだろ」
 頭を抱える二人はファリフに手紙を渡す。
 そこに書かれてあったのは心配かけたこと、組織を蔑ろにしたと思えるような軽薄な行動をしたことへの謝罪。
 花豹と山羊は前線で部族会議を支える斥侯役を引き続きやってほしいという要請。
 テトはティアランの根城と郊外の町をタイフォンとタットルの残党から取り戻す方向とのこと。
 理由はこのままだとタイフォン達が辺境を更に混乱を齎すかもしれないという考えのもと。
 歪虚との戦いも激化している中、人為的恐怖まで晒すわけにいかないから。
「犯罪は許されないけど、爪弾きに遭った人には必要な場所なんだろうね」
 ぽつりと呟くファリフに二人は頷く。
「いいように悪い神輿に乗らないといいけど……」
「もう梯子は外されてるんじゃないのか?」
 がっくりとした様子だが、その表情は何だか子猫の成長を見ているようだとファリフは思う。

 テトからの手紙が届いた数日後、花豹がファリフのもとへ飛び込んできた。
「ファリフ様! 歪虚が大軍を率いてこちらに向かってきている!」
「なんだって……!」
 蒼の瞳を思い切り見開いたファリフは急いで花豹が来た方向へ走っていく。
 部族戦士達の制止を振りほどき、若き長はパシュパティ砦を飛び出す。
「そんな……」
 呆然と呟くファリフが見たのは光を遮る黒雲よりも、月が隠れる闇夜よりも黒い空がこちらへと近づいてきている。
 空を覆うが如くの歪虚が大軍となっている。
「ファリフ!」
 トリシュヴァーナが叫ぶと、ファリフは頷く。
「ここを落とす気なんだね……ボクは部族会議の方へ行く」
 そう言ったファリフは自身の動きを伝えるために走り出す。
 恐らく、助けは来る……とファリフは踏んでいるが、まず先に思い浮かんだ人物は自分を大事にしてほしい人達。
 敵と見なしたこともあったが、今は素直に敬意を向けている。
 そんな事を考えながら、ファリフは部族戦士達を引き連れ、北へと向かう。
 歪虚の群れは大きく広がっており、この方向までも手は伸びていた。
「ハンターの皆は?」
 彼らもまたファリフにとって大切な人達だ。
 差し伸べてくれる手に助けられたか。
「じきに」
 部族戦士の一人が言葉を返すと、ファリフは重々しく頷く。
「射程内に入ったらすぐに戦闘開始だ」
 他の部族は籠城を決意した。
 だが、ファリフは他の有志の部族戦士と共に前線に立つ。
「何度でもボク達は立ち上がる! 部族戦士達よ、この時もまた力を振るえ!」
 ファリフが叫ぶと、部族戦士達は鼓舞し、声を上げる。

リプレイ本文

 パシュパティ砦に到着したハンター達はファリフがいる場所へ移動していた。
 空を覆う歪虚を見たボルディア・コンフラムス(ka0796)は忌々しそうに目を細める。
「ったく、潰しても潰してもタケノコみてぇに生えてきやがる……」
 が、彼女の知るタケノコはとても柔らかく美味なもの。目の前に迫る歪虚を皮ごと焼いたり、甘辛く煮たとしても、美味そうとはどうしても思えない。
「調味料に悪かったな」
 ぼそりと呟くボルディアの様子にクリスティア・オルトワール(ka0131)が口元を緩める。
「小型の狂気はウナギのゼリー寄せのようなものですからねぇ」
 確実に不味いものを例えに出す星野 ハナ(ka5852)に殆どのハンターはイメージが湧かない様子だが、リアルブルーの漫画を好むミグ・ロマイヤー(ka0665)はイラストで見たことがあったようだ。
「確かに、あまり美味そうではないのう」
 イラストの内容を思い浮かべつつ、うんうんと頷くミグ。
「やっぱり、食べるなら、生より加熱した方がいいと思うのー」
 朗らかな声音だが、しっかりと力説するのはディーナ・フェルミ(ka5843)。
「だよな、腹壊したら意味ねぇもんな」
 この意見にボルディアも同じ見解のようだ。
「……論点がずれてると思うのですが……」
 恐る恐る呟く木綿花(ka6927)だが、ハンター達の結論は食べ物は生より焼くで落ち着きそうだった。
 食べ物は焼くに限る派のファリフがハンターの姿を見つける。
「来てくれてありがとう」
「当たり前だろ」
 ファリフの言葉にオウガ(ka2124)が笑って握った拳をファリフの方に向けると、ファリフも拳を突きつけて拳を合わせた。
「久しぶりね、ファリフ君……どうしたの?」
 じっとアイラ(ka3941)を見つめるファリフは声をかけられて思い出す。
「あ、感傷に浸ってた」
 けろりと告げるファリフの口調と言葉の内容が合わない。
「ボク達部族にとって、死はいつでも隣にあって、ただの通過点に過ぎない。魂はいつでも寄り添うものでしょ?」
 辺境部族にとって、死はとても身近だ。
 今日笑い合った者が明日には死んでいることもある。
 部族達はいつ来るかわからない歪虚の襲撃に恐れていた。
 だが、その戦いにも転機が訪れているのだ。
 リアルブルーからの転移者が増え、リアルブルー出身、クリムゾンウェスト出身の強いハンター達が強力な歪虚を倒していった。
 厚い雲に覆われていた地上に光が差し込むような思いを持ったものも少なくはない。
「今は、誰にも死んでほしくはない。一緒に生きていたいって思うんだ。皆で」
 ファリフの言葉を聞いていたアイラとオウガは顔を見合わせて笑う。
「そりゃ、そうだ」
 オウガが頷く。
「誰も死なせたくないわ。皆で生きましょ」
 ね、とアイラが振り向くと、木綿花達も同意見だ。
「もっちろんです!」
 ディーナがぐっと拳を握りしめる。隣にいたハナはじっとファリフを見つめる。
「個人的な意見ですけどぉ、次の大首長はファリフちゃんだと思うんですよぉ。こんなところで大怪我とかしちゃダメですよぉ」
 人差し指を立て、自分の頬に当ててポーズをとるハナが言えば、ハンター達はファリフの方を見てしまう。
 現在大首長の座にいるオイマト族の若長は命運が決まっていた。
 いずれ来るであろう権力の空席は避けないとならない。
「……ここだけの話……本音、言っていい?」
 上目遣いでおねだりをするファリフを見たハンター達は「某勇気の精霊が見たら大喜びするだろうな」と心の中で一致しながら真顔で頷く。
「ボクは任命されたら受け止めるよ。でもね、他の部族の派閥とかでどこかが肩身の狭い思いをするようなことは出来るだけしたくないんだ。皆が皆平等ってのも無理なのも分かってる」
 ファリフは部族の者達がいないか視線で確認しながら言葉を続ける。
「次の大首長といっても、それは個人なのか、オイマト族なのかも決まってないみたい」
 もしかしたら、オイマト族長補佐であるイェルズの可能性だってあるのだ。
「今の辺境部族は大首長の座を作って動き出したのもまだ日が浅い。バタルトゥさんが大首長でいて、ヴェルナーさんという支えがあったからこそだと思う」
 以前のファリフは帝国に下ったオイマト族を敵視しているような素振りがあった。様々な戦いを走り抜け、彼女は二人に敬意をもち、信頼しているのはハンターも知る所。
「部族にはまだ知らなくてはならないことが多くある。ボクとしては誰が大首長になっても、ヴェルナーさんの支えは必要だという考えを明確にしてる」
 本国から帰って来いと言われたら仕方ないけど、と言ってファリフは言葉を締める。
 野性味ある美貌をもつボルディアだが、目を点にして一生懸命脳を動かしている模様。
「えーっと……ファリフは大首長、やってもいいけど、誰かがうまい汁を飲むのは嫌だ。ヴェルナーの助けが必要って、ことでいいか?」
 たどたどしく確認するボルディアにファリフは「そうだよ」と肯定する。
「いかなる未来があったとしても、今は迫りくる敵を倒さんとのぅ」
 ミグの言葉は尤もだ。
「皆で生き延びて、またお話しましょう」
 戦闘準備へと促すクリスティアだが、ボルディアは難しい話ならちょっと勘弁してほしかった。

 ハンター達はそれぞれのユニットに乗り、前進する。
 先に空へ上がったのはボルディアのワイバーンであるシャルラッハ。鮮やかな緋色の鱗を煌めかせて一気に上空へと昇っていく。
「っしゃ、行くぜぇ!」
 気合十分にボルディアは先を進む。
 空における敵の先鋒は鳥型歪虚だった。地上はシェオル型と小型狂気が浮いている状態。
 その間の中空に中型狂気が中衛で指揮を執るような形をとっていた。
「このまま突っ切れ、シャル!」
 ボルディア達の前方には鳥型歪虚の群れがいたが、シャルは彼女の意のままに進んでいく。
 鳴き声を上げる歪虚に構わずボルディアは炎のオーラが纏わりついた斧を振り回す。
 容赦なく叩き落とされる歪虚はまるで、巨大な紅蓮の炎が意思を持っている様に見える。
「ハッハハァッ! 空は邪魔するモンがねぇから思いっきり斧を振り回せるなァ!」
 なぁシャル? 爽快感で気持ちが良くなったボルディアが問うと、シャルラッハも同意見のようだ。
 今回も勝てる。皆で美味いものを食べようと思い、ボルディアは目的の中型歪虚へと向かう。

 ワイバーンのアヴァに乗り込んだ木綿花は低空飛行でファリフの方へと向かう。
「今回の戦いもファリフ様の士気に関わります」
 木綿花の言葉にファリフは頷く。
「どうか、ご武運を」
「ありがとう、キミ達も空の祖霊の加護を祈ってるよ」
 ね、トリシュヴァーナとファリフが自身が乗っている大幻獣に言えば、「無論だ」と彼は返す。
 張り詰められた状況だが、砕けた調子を垣間見せるファリフに木綿花は口許を緩ませる。
「では、参ります」
 宣言と共に木綿花はアヴァに上昇を促す。
 風を切って上空へ向かうと、ボルディアとシャルラッハが鳥型歪虚と空中戦を始めている。
「できるだけボルディア様達から離れて」
 アヴァを操り、大きく旋回した木綿花はシャルラッハが交戦している方向から離れていく。
 鳥型歪虚が鳴いて知らせているのを見つけた木綿花はアヴァを飛ばして、銃で撃ち抜いていく。
 他の鳥も木綿花めがけて飛んできたが、アヴァの鋭い爪で羽ごと引き裂いていった。
 何を知らせているのだろうか……琥珀の瞳が意図を探していると、鳥型歪虚より少し低い所から視線を感じた。
 ぞくりとした感覚を探し当てた木綿花のインカムへアイラの鋭い声が響く。
 斜め下……中型狂気がかざした手のひらにある目玉が木綿花が感じた視線だ。
 アヴァに旋回するように指示をしても、歪虚の方が早くビームを木綿花めがけて発動させた。
 大きく広げられたアヴァの翼に歪虚のビームが貫通する。
「アヴァ!」
 ぐらりと大きく身体を傾けて下降するアヴァだが、木綿花の声に応えるようにバランスを整えて一度上昇した。
 そして、一度啼く。大丈夫、と言いたげに。
「一度離れましょう」
 アヴァの怪我を恐れたわけではない。
 仲間の援護に巻き込まれないため。

 操縦席にて仲間の報告を聞いていたミグは通信で援護射撃をする方向を空中戦を行っている仲間に伝えていた。
「間に合った、な……」
 ため息混じりに呟くミグだが、その表情は満足に近い好奇心を滲ませたものだ。
 前の戦訓を基にヤクト・バウの弱点を把握したミグは急ピッチの改修を進めていた。それが先日完成し、この戦いで実戦となる。
 ほぼ試運転ではあるが、長い事共に戦ってきたヤクト・バウの癖を彼女は理解している。ミグ回路「カートリッジフェアリー」を展開したミグは狙いをつけた。
 優先すべきと考えている相手はシェオル型。
 高い回復力とほぼ自我のないものほど危険な敵はいない。早く殲滅するに限る。
 通信で味方が敵陣から離脱した報告が聞こえてきた。
「了解じゃ」
 ヤクト・バウの肩に搭載されている二門の滑空砲の内一門が狙いを澄ますように動き出す。
 砲身にはグランドスラムがセットされている。
 安定性は高いが、大量の弾薬を必要とする為、試運転をするにも大変だ。
 標準が合わさった。
「クェーサー砲。刮目せよ」
 その瞬間だけが静寂であったが、次の瞬間からは轟音が周囲に響いていく。ヤクト・バウの滑空砲から光が伸びていくように弾が敵へと向かう。
 グランドスラムの弾薬が爆ぜ、シェオル型の半数の後ろ側の隊列や同じエリアに浮かんでいた小型狂気、一部の中型狂気もクェーサー砲をくらっていた。
「まぁ、試運転だしの」
 にまりと笑ったミグはこの戦いの後に行おうと思っている微調整を念頭に入れ、もう一門による援護射撃へと移行する。

 ミグの援護射撃にハンターや部族戦士は驚いていたが、それどころではない。地上の敵の最前が近くまで来ている。
 敵の数も削れたが、敵はそれを上回る数で押し寄せているのだ。
「皆、こっちは守るから、思いっきりやっておいで」
 部族なき部族の花豹や一部の部族戦士が守るのはクリスティアである。現在、メテオスウォームを発動させるためにエクステンドキャストを展開している真っ最中。
 高い集中力を要するため、無防備となる。術の達成の為に彼女を守るのだ。
「そうさせて貰うぜ、な、ルーシー!」
 オウガがリーリーのルーシーに声をかけると、バサバサと羽を動かしている。
「さ、近づけさせないよ!」
 大幻獣トリシュヴァーナに乗ったファリフと一緒に前線へと駆け出す。
 現界せしものを発動させたオウガの周囲に自身の祖霊である竜が現れる。祖霊を身に纏わせた。
 次にコンバートソウルでモフロウを介し、祖霊や精霊の力を引き出してシンクロナイズで仲間に支援をする。
 近くにいたアイラのペガサスからも味方に優しい光の雨が降り注ぐ。エナジーレインの加護が前衛の味方に広がっていく。
「アイラさんは空中戦?」
 徐にファリフが尋ねると、彼女は首を横に振る。
「ペガサスは攻撃より回復や支援の方が得意だしね。地上で戦うわ」
「わかったよ、気を付けてね」
「ファリフ君もよ」
 気遣うファリフの思いを受け止め、アイラも声をかける。
 一足先に走るルーシーに乗ったオウガは味方の攻撃に巻き込まれない方向へ突っ走っていた。
 目の前には最前線を進むシェルオ型と小型狂気が浮かんでいる。
 小型狂気が威嚇射撃宜しく、ルーシーの足元を狙ってビームを繰り出していく。
「ルーシー!」
 気を配るオウガの声に反応したルーシーはダッシュで速度を上げて躱していった。猛然と敵陣に入るなり、オウガはルーシーより飛び降りた。
 ルーシーは自分の危機を回避するため、リーリージャンプでオウガより離れた。
「来やがれ!」
 叫ぶオウガは全身のマテリアルを滾らせて身の丈より高く、長く愛用している魔斧「モレク」を水平に構えた。
 シェルオ型は攻撃させまいと飛び出すが、それはオウガにとっては好都合だ。
「うぉおおおおおお!」
 気合と共に自身を大回転させてその滾らせたマテリアルを魔斧に乗せて周囲の敵を吹き飛ばしていく。
 軸である自分がブレないようにオウガはマテリアルの補助を使って踏ん張っている。
 周囲にいた粗方の敵が吹き飛ばされたが、後ろに控える敵から炎のようなオーラによる魔法攻撃やビームを受けてしまったオウガは少なからずダメージを受けていた。
 ルーシーを呼ぶ前にもう迎えが来ており、オウガはその絆に戦闘中なのに嬉しく口元が緩む。
「いったん戻るぜ」
 宣言をするオウガの声を通信で聞き取ったのはディーナだ。
「了解したよー! 何かあったら呼んでねー!」
 オウガとすれ違うように進んでいくのはディーナの刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」だ。
「とっつげきーーー!」
 刻騎ゴーレムを操縦しつつ、敵陣へ入っていくと、ディーナはセイクリッドフラッシュを発動させた。
 光の波動とダメージを受けたシェルオ型と小型狂気は動きを鈍くなりつつもディーナのルクシュヴァリエへ向かってくる。
 この隙を逃がすつもりがないディーナはマテリアルを機体に流し込む。膨大なマテリアルは光の刃へと変化して一直線に刃を振り下ろす。
 ディーナの視線は一方向だけではなかった。気にする方向はファリフの方。
 果敢に前線で奮闘しており、トリシュヴァーナがフォローに回っている。
 トップの戦い方は土地それぞれで、国の特色が出るものだとディーナは内心思っている。 現大首長の戦い方もファリフ同様であり、果敢にその身を戦いに捧げ、前線を走っていれば、部下を誘導しては仲間を守っていた。
 けど、自分を天秤に置いて犠牲の支払いを自身の命で払う事はとても悲しい事だ。
 ディーナはルクシュヴァリエの向きを変えて光の刃をファリフと歪虚の間に差し込んで一直線上にいた歪虚へダメージを与える。
「ファリフちゃん、大丈夫ー?」
 あえてのんびりとした口調でディーナは声をかけた。
「うん。凄いね、刻騎ゴーレムの攻撃」
 返すファリフも穏やかだが、その攻撃は速く重い。
「ウチの大首長がムリしすぎてるけど、ボク達……部族の長は民を守らなくてはならないんだ」
「そうだね」
 辺境部族は常に歪虚の恐怖に晒されている。
 殆どの部族は季節ごとに移動して生活をするが、スコール族は辺境でも南側に構え、農作物を育てる住居固定の部族だ。
「長が率先と戦い、戦況を把握し、殿となって民を逃がす。それは基礎だと思ってる。バタルトゥさんのしたことは何も間違っていないと思ってる」
 そう言ったファリフは斧でシェルオ型へ斧を叩きつける。
「でも、ボク達は完璧じゃないから、ハンターの皆の力が必要なんだ」
 にこっと笑うファリフにディーナは目を瞬かせ、目を細めた。
「わかったの。出来ることをするね」
 ふふ、と笑うディーナは敵へセイクリッドフラッシュを放つと、間髪入れずにファリフはトリシュヴァーナから降りて、ワイルドラッシュの連撃を敵に向けていく。
 ディーナは言葉には出さなかったが、この地で上に立つ者は前を見据えた者でないとならない。
 今ここにいないテトも人の上に立つ器ではないかと思ってる。
 ファリフもテトもまだ少女の面影があるがこの大地を思っているのは確かなのだ。

 ディーナとは別な方向へ刻騎ゴーレムを向けているハナの表情に浮かぶのは雨が降るのか、雷が落ちるのか分からない曇天のようなもの。
 だが、敵はハナの乙女心を知らずに向かってくる。刻騎ゴーレムのルクちゃんは可愛らしい名前でありながら、頼もしくも激しい援護射撃を行っていた。
「ちょーっと、高度上げてくださいねぇ」
 通信をしている相手はボルディアだ。ワイバーンに騎乗して中型狂気と交戦中だが、小型歪虚に囲まれているので、援護射撃をする為に声をかける。
 威勢のいいボルディアの返事が返ってくると、彼女のワイバーンが上昇していき、援護射撃範囲内に入らない所まで昇っていく。
 十数体ほど中型狂気がボルディアを追っていったが、急接近したアヴァに乗っている木綿花が白夜の祈りを行い、敵を混乱させて攻撃を怯ませた。
 効果がなかった残りはボルディアが烽火連天で自身の炎のマテリアルを爆発させるようにして引き出して大回転をして敵を紅蓮の炎に食わせていく。
 次に、ミグと通信を行う。
「十時の方向でお願いしますねぇ」
 了解してくれたと同時にミグは標準を定め、ハナは二時の方向へ弾丸を歪虚へと撃ち込んでいった。
 二機で連携し狂気型歪虚を撃ち抜いていく。
 次に入った通信はクリスティアからだ。
 長い集中を要していたクリスティアの術が完成したことの連絡だった。
「すぐに戻ってください」
 そう告げるクリスティアの頭上には三つの火球が浮かんでいる。
 ハンターや部族戦士たちは大急ぎで味方の陣営へ戻り、援護射撃ができるミグやハナは味方が敵の追撃にやられないように援護射撃を行う。
 味方陣営へ戻ってきたボルディアや木綿花空中戦で傷を負ったが、現状報告も行っていた。
「後ろの方に武装した巨人兵が来たみたいたぜ」
「クリスティア様の射程距離に入るものもいるかと思います」
 ボルディアは身体を休める為にがくりと膝を地面につけていた。
「とりあえず、今は身体を休めて」
 気遣うアイラはペガサスにエナジーレインを発動させるように促す。ペガサスは光の雨が優しく降り注ぎ、ハンターや部族戦士の傷を癒していく。
 深い傷を負った者はディーナがフルリカバリーで更に癒していった。
 治療している間に三つの火球がクリスティアから離れ、三つの流れ星が空に弧を描く。
 一つは前衛でも後ろの部分のシェルオ型に届き、二つ目は中型歪虚、最後の一つは合流したばかりの武装巨人兵の前列。
 武装巨人達が構えていたアサルトライフルで火球を撃ち落とそうとし、引き金を引いていた。
 三番目の火球が着弾すると同時にそれぞれの火球が爆発し、大輪の花となった爆炎が歪虚を巻き込み、爆ぜていく。
 広範囲に歪虚を焼いていった爆炎は儚くその場から消える。
 前衛の歪虚はほぼ殲滅となり、中型歪虚もその数は少なくなった。残るは武装巨人兵だ。
 アイラはペガサスに乗っている虎猫と見つめ合う。
「お願い。力を貸して」
 虎猫はアイラの言葉に呼応するように背を伸ばす。祖霊の力をコンバートソウルで引き出し、シンクロナイズで味方に付与をする。
「もう少しだな! 行くぜ、ルーシー!」
 リーリーに乗り込んだオウガが再び戦地へと向かい、ファリフもまたトリシュヴァーナと共に走っていく。
「こっちも行くぜ!」
 負けじとボルディアがシャルラッハに乗って前線に出る。
 交戦の跡を踏みしめ向かってくる武装巨人へ狙いをつけるのはオウガだ。
 ルーシーは敵の集団の中で飛び込めるところを見つけ、リーリージャンプで飛び込んだ。オウガはマテリアルを滾らせて大回転をする。
 カーネージロアの威力は武装巨人も吹き飛んでいき、あるいは胴を斬り裂かれて自重を保てないものもいた。
「命のいらねえ奴からかかってきな!」
 声を張り上げて威嚇するオウガに武装巨人達はアサルトライフルを構え、オウガに向かって引き金を引くが、オウガを乗せたリーリーはダッシュで巨人兵との距離を縮めて懐に飛び込むと思わせてリーリージャンプで一度離脱する。
 オウガの離脱を確認したファリフが武装巨人兵へ斧を叩きつけた。
 空ではボルディアが炎獣憑依の儀『禍狗』を使い、残りの中型狂気を片づけていた。
「シャル!」
 武装巨人兵のアサルトライフルに狙われていることに気付いたボルディアはシャルにバレルロールで身体を回転しつつ、複数の巨人が放つアサルトライフルの弾幕から回避していく。
「ぐあ!」
 ボルディアの脚に、シャルラッハの翼に弾丸が掠っている。
 うざったいと苛立っていると、通信で高く飛んで下さいとクリスティアの声が響いた。
 先ほどの火球とは少し違うものが一つ武装巨人兵へぶつけられると、先ほどのメテオスウォームよりは火力は低いが広範囲にいた武装巨人兵が焼かれてしまう。
 高く上昇しファイアーボールの被害を免れたボルディアはシャルラッハにマテリアルを纏わせて猛スピードで急下降させる。敵陣に突っ込んだシャルラッハは衝撃波を発生させダメージを与えて離脱する。
 白龍の息吹を使ったアイラは歪虚同士の同士討ちを狙い、ペガサスを走らせていた。視界の端に掠めた影に気付いた彼女はその方向へとペガサスを向かわせた。
「皆、大丈夫!?」
 その影は傷ついた部族戦士達だ。
「ああ……君も無事でよかった」
 気遣う部族戦士にアイラは「自分のこと心配して」と心配を返す。
 ペガサスがエナジーレインの雨を降らせて回復させた。
「もう少しだよ、頑張ろう!」
 アイラの言葉に部族戦士達の気合が入り、敵陣へと向かっていく。
 あと少しでここに攻め込んでいた歪虚が倒される。
 ここが守られるのだと思った時だ。
 パシュパティ砦の方から伝令の部族戦士が駆けてきた。何事かとおもって対応したハナが聞いたのは驚くべきこと。
「西の方から歪虚の大群が向かってきているという情報が入った!」
 流石に皆、消耗していた。
 ここから更に歪虚を倒せるかと言えば正直に言って戦力不足だ。
 ヴェルナーもオイマト族もここに来ているという。
 希望があるというのに。
「ハナさん」
 一緒に話を聞いていたクリスティアがハナの名を呼ぶと、彼女は俯いて歯噛みし、通信で前線のハンターにファリフを連れ戻すよう告げた。
 下がってきたファリフも同じことを聞かされたが、彼女は戦う気だ。
 しかし、ファリフ一人の問題ではない。
「部族会議は?」
 現在籠城中の部族会議の考えが出ているのか尋ねるファリフに部族戦士は悔しそうな表情を浮かべていた。
「この砦を捨て、要塞都市へ撤退と……」
「パシュパティ砦を……」
 呆然とした声のファリフだが、彼女はぐっと拳を握りしめる。
 感情を殺すように顔を俯かせる。
「ファリフ君……」
 後衛に戻ってきたアイラが声をかける。
 この砦の名が誰に通ずるのかアイラは知っている。
 ファリフに大きな影響を与えた偉大なる蛇の戦士がここで散った。
「……部族会議の決定で、皆もここにいなくなるなら守る理由はない。民なくして部族は成り立たない……」
 オルゴールのように言い聞かせるように呟くファリフは意を決するように顔を上げた。
「撤退する。ただ、ここに避難している部族を逃がすことを優先。出来る限り最後まで残る。ヴェルナーさんが率いるハンターの部隊が撤退したらボク達も撤退。いいね?」
 最後の念押しはハンターへではなく、伝令役への念押しだった。
「皆でなら絶対生き残れるよ」
 体力も使えるスキルも弾薬も少ないが、使い切る前に避難は終わるだろう。

 ハンター達はファリフの指示に従ってくれた。
 誰よりもファリフに応えようとしたオウガは限界せしものを発動させた効果で幻影を纏い巨大化する。
「まとめてやってやるぜ!」
 斧を振り下ろし、武装巨人の身体を真っ二つにした。
 ディーナが刻騎ゴーレムでクロイツハンマー「ガバメント」で武装巨人を殴りつけ、近くにいた巨人へ吹き飛ばす。
「ファリフちゃん……」
 ディーナの心配はファリフあった。
 彼女は取り乱すこともなかったが、苛立ちを敵にぶつけていつも以上に速く重い攻撃を繰り出している。
 だが、どこか攻撃が雑に思えてしまう。
 上空でアヴァに旋回してもらいながら木綿花は再生の光を発動していた。木綿花もファリフを心配していた。
 彼女の思いは皆わかっていた。
 どれだけ悔しいのかも。
 怪我をしてほしくはない。だが、今は思い切り暴れさせないとどこかで無理が来る。
 木綿花はファリフに怪我をしてほしくはないが目を瞑り、彼女の無事も祈るしかなかった。
 少し離れたところでクリスティアは援護にマジックアローを繰り出していた。
 西はまだ騒がしくはない。
 だが、数時間もすればここが歪虚の占有地域となる。
 伝令兵が行った後、ファリフは皆は最高の戦いをしたと言っていた。
 どうしようも出来ない事だったのだ。
「それでも、悔しい事ですね」
 そう呟いてクリスティアはフォースリングを嵌めている指からマジックアローを飛ばしていった。

 伝令兵が戻ってくると、退避が完了し、ヴェルナーの部隊も引き上げると連絡があった。
 殆どの敵は倒されていた。
「撤退……じゃな」
 そう呟くミグはファリフ達に自陣へ戻るようにし、ハナと共に最後の射撃で武装巨人達を倒していく。
 次は負けないと皆が心に決めて要塞都市へ向かった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 7
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MVP一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤーka0665
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

重体一覧

参加者一覧

  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ガスティ
    ガスティ(ka0131unit002
    ユニット|幻獣
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    シャルラッハ(ka0796unit005
    ユニット|幻獣
  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ルーシー
    ルーシー(ka2124unit004
    ユニット|幻獣
  • 太陽猫の矛
    アイラ(ka3941
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ペガサス
    ペガサス(ka3941unit003
    ユニット|幻獣
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka5843unit007
    ユニット|CAM
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ルクチャン
    ルクちゃん(ka5852unit008
    ユニット|CAM
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    アヴァ
    アヴァ(ka6927unit001
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
クリスティア・オルトワール(ka0131
人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/07/30 17:05:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/07/28 00:01:12