月だけが見ていた

マスター:水貴透子

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2015/02/03 07:30
完成日
2015/02/11 07:37

みんなの思い出

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オープニング


僕は、自分の罪を忘れちゃいけない。
あの日、僕も死ぬべきだった。
……大事な家族を殺され、どうして僕だけが助けられたんだろう。
あのハンターさえ余計な事をしなければ、僕は死ねたのに。

※※※

今回、ハンターに課せられたのは少年の救助任務だった。
とある集落が雑魔に襲われ、家族で別の集落に移動する最中、少年以外の家族は殺された。
少年が殺される前に、運よくハンターが通りがかり、彼だけは保護されたのだが……。

「自分から雑魔のいる場所に行く?」
「……しかも今回だけじゃなく、今までに何回も?」

案内人から告げられた言葉に、ハンター達は酷く驚いた表情を見せた。
それもそうだろう、なぜ助かった命をわざわざ捨てに行くような事をするのか誰も理解できるはずがない。

「あの子は、自分を助けたハンターを恨んでいるんです」
「ハンターのせいで、自分はひとりぼっちになった……と現在あの子を保護している夫妻の前でも言っていたそうです」

家族を殺した雑魔を恨むのではなく、自分を助けたハンターを恨む。
それほどに少年の心の傷は深いという事なのだろう。

「ハンターの皆さんにお願いしたいのは、雑魔退治だけではありません」
「……あの子に、命の大切さを教えて下さい」

案内人の言葉を聞き、ハンター達は互いに顔を見合わせたのだった。

リプレイ本文

●雑魔退治と少年保護のために集まったハンター達

「今、生きてる事にちゃんと意味はあると思うんだ……だからこそ、ざくろは彼に命って大切なんだよって分かって欲しい」
 時音 ざくろ(ka1250)は悲しそうな声で呟く。現在、少年を保護している老夫婦は酷く少年を心配していて、原因は自分達にあるのかもしれないと責任を感じているのだと案内人から聞いた。
(ひとりぼっちになっちゃった、って言ってたみたいだけど……本当にひとりだなんて事はないんじゃないかって思う)
 時音の呟きを聞いて、ミィリア(ka2689)も心の中で呟いていた。身近にある物ほど気づきにくいと言うけど、少年はまさにそれなんじゃないか、とミィリアは考えていた。
 殺された家族の事ばかり考えて、今現在少年を大事にしてくれている者の事を気づけていない。
「死にたがりか、ある意味では雑魔が大好きなのかもな」
 鈴胆 奈月(ka2802)はため息混じりに呟く。
「ひとりぼっちなのは、自分だけじゃないんだけどな」
 鈴胆はポツリと呟く。こんな時代、ひとりぼっちになる確率なんて高い。
 中には少年のように落胆する者もいるだろうが、大抵の人間はそれを乗り越えようとしている。
 だからこそ、少年の甘えにも似た行動を許せなく思っている者が多いのだろう。
「家族を殺された、か……」
 扼城(ka2836)は複雑そうな表情を見せながら呟く。彼も凄惨な過去を持つ者であり、少年と自分の境遇が似ている事に思う所があるのだろう。
「……死を望む少年ですか、それもひとつの道なのでしょうけどね」
 屋外(ka3530)はため息混じりに呟く。
 少年が間違っていないと思う気持ちはあるものの、それでもやはり放っておけない。
(命の大切さ、か……。重みも大切さも、その人の受け取りようだとは思うけれど)
 草薙 桃李(ka3665)は心の中で呟く。価値観が人によって違うように、命の重みもそれぞれだ。目の前で家族を殺された子供に対して、何を言っても気休めにしかならないと分かっているけど、それでも生きていた方がいい、なんて言葉を考えてしまうのだ。
「問題の場所について、もう少し詳しく聞かせてもらえないだろうか。明るさや身を隠せるものがあるのか、それ次第で戦闘にも影響が出てくるからな」
 宮地 楓月(ka3802)は案内人に問い掛ける。
「は、はい、今夜は月が出ていますが……夜ですし、多少の暗さは覚悟した方がいいかもです。身を隠す場所に関してですけど、ほぼないと思っていただければ」
 案内人の言葉を聞き、宮地は小さなため息を零した。
(まだ身を隠す場所があれば良かったんだけどな)
 空からの攻撃を余儀なくされる上に、身を隠す場所がないとなればハンター達には不利だ。
「面倒くせぇガキがいたもんだ、手間をかけさせんじゃねぇよ……ったく」
 深いため息と共に愚痴を零すのはユーロス・フォルケ(ka3862)だった。
 ハンターとしての立場から言えば、ユーロスの言葉通りなのだろう。ただの雑魔退治で終わるはずの任務にオマケがついてきたようなものなのだから。
「……とりあえず、急ごう? こうしている間にもその子は危険に足を踏み入れているはずだから」
 時音が呟き、ハンター達は少年の向かった場所へと出発したのだった。

●荒野で……

「お願い、早くあの子を見つけなきゃいけないの」
 時音は連れて来た飼い犬に少年の匂いを探してもらう。
「ランタンを吊るせる場所は、多少はあるみたいだね」
 枯れ果てた木々を見ながら、ミィリアが呟く。
 その時、耳をつんざくような鳥の声が聞こえた。
「……どうやら近いみたいだな」
 鈴胆は眉根を寄せながら呟き『LEDライト』を手に持つ。
「雑魔の下にいるのは、例の少年ではないか?」
 扼城が『チャクラム』を手に持ちながら呟き、ハンター達は雑魔の下を見る。
 すると、攻撃されるのを待つようにひとりの少年がぽつんと佇んでいる。
「見つけたぞ、クソガキ……!」
 忌々しげにユーロスが呟き、ハンター達も少年、雑魔、それぞれに向かって駆けだす。
「くっ、間に合わない……!」
 鈴胆は眉根を寄せながら呟き、身を盾にして少年を庇う。
「……っ!?」
 突然現れたハンター達に少年は驚きの表情を見せる。
「こ、のぉっ……!」
 時音は『魔法剣 ヴァレリー』を振りかぶり、雑魔に攻撃を仕掛ける。
 けれど、雑魔はすぐに上空へと逃げて時音の剣は空を切るだけだった。
「……あんた達、ハンター? なんだ、またハンターが邪魔をするんだ」
 虚ろな瞳のまま、少年は8名の顔を見渡す。
「一人だけ生き残って辛い気持ちも分かるけど…でも、自分から失くしていい命なんてないはずだもん」
 時音が今にも泣きそうな表情で少年に言葉を投げかけるけど、少年の表情は変わらない。
「僕の命じゃないか、捨てるのなんて、僕の勝手だろ」
 ハンター達を振り切って、少年は再び雑魔の元へ向かおうとするけど、鈴胆が強く腕を掴む。
「目の前で死なれると、寝覚めが悪いからな」
「ほっとけよ! 僕は死にたいんだ、何で皆いつも僕の邪魔ばかりするんだよ! 僕は……! 父さん達がされたみたいに、雑魔に殺されるんだ! それで父さん達の所に行きたいんだよ!」
「……なら、お前を心配してるじーさんやばーさんを裏切るのか? お前の周囲にいる人は余計な事だろうが、こうしてハンターまで雇ってる。甘ったれたガキには自分から死を選ぶ資格も権利もないんだよ」
 宮地は呟いた後『魔導銃』を構え、雑魔を狙い撃つ。
「おい、クソガキ。テメェ死にてぇのか。死にてぇなら何でこんな所にいる」
 ユーロスは少年を見下ろしながら言葉を投げかける。
「さっさと死ねばいいだろうが。ここじゃテメェは死ねねぇよ。どっかのお節介が止めに来るからな。てめぇが一番分かってんだろ?」
 ユーロスの言葉に、少年は黙り込む。
 その様子を見て、ユーロスは(やっぱりな)と心の中で呟いた。
「てめぇは死にてぇわけじゃねぇ。ただ救われたいだけだよ。僕は可哀想な子なんですって……不幸なツラして彷徨ってりゃ誰かが救ってくれるとでも思ったか? あぁ?」
 ユーロスはそれだけ呟き『アックス ライデンシャフト』を構える。
「言いたい事はあるけど、まずは雑魔を退治するのが先だね――……さぁ、それじゃ、始めよう。僕は――剣」
 草薙は『オートマチック イレイザー』を構え、雑魔が自分を狙って降下して来るのを待つ。
 そして、タイミングを計って翼の付け根部分を狙い撃つ。
「さて、肩を借りるでござる! ……ちょーっと痛いかもだけど、許してねっ?」
 ミィリアは扼城に可愛く告げる。
 彼女達の作戦は到ってシンプルなもの。扼城がミィリアをぶん投げて、ミィリアが雑魔を叩き落とす――……というものだ。
「……君なら軽いから飛ばせそうだな、大丈夫だ。その辺の投擲具よりも絶対優秀だぞ」
 扼城はそう言いながら、全力で勢いをつけながらミィリアを飛ばす。
 だが、雑魔もミィリアを狙うために動き始めた――が、時音の放った矢で雑魔の動きが鈍る。
「その子も、ざくろの仲間も傷つけさせないんだから」
 時音は厳しい表情で再び構える。
 ちなみにミィリアが飛ぶ瞬間、鈴胆が『運動強化』を彼女に使用して命中精度や回避力を上昇させていた。
「とりあえず大きな怪我はなくてよかったですね」
 屋外は少年に持参してきたジャケットを被せ、怪我している部分の治療を行う。
「さて、自分も雑魔との交戦に――」
 屋外は呟いた後、雑魔の方を見る。
 すると、ちょうどミィリアが雑魔を地面にたたき落とした所だった。
「自分は、君は間違っていないと思うが……君を心配する者がいる事も分かった方がいいですよ」
 屋外はそれだけ少年に言葉を残して、雑魔の元に向かった。
「……僕は、生きてちゃいけないんだよ」
 少年は被せられたジャケットで顔を隠しながら、消え入りそうな声で呟く。
 戦闘中のため、その声に気づいた者は誰もいなかった。

※※※

「これでもう空は飛べないね」
 時音は地面を這いずる雑魔を見下ろしながら呟く。
「ミィリアが翼を斬り落としたでござるからねっ! ずぇりゃああっと!」
 ビシッとポーズを取りながら、ミィリアが叫び、再び『大太刀 物干竿』を振り下ろした。
 その攻撃でもう片方残っていた翼も斬り落とされ、地面を這いずるだけの獣に成り下がった。
「デバイス駆動……」
 鈴胆は呟き『LEDライト』で『機導砲』を放ち、雑魔にダメージを与える。
「現在の状況は弱い物イジメにしかなっていないが、君を潰す事で誰かが傷つけられずに済む。歪虚とは人を傷つける事はあっても、救う事にはなりえない。だから、ここで潰させてもらおう」
 扼城は冷たく呟きながら、攻撃を仕掛けた。
「残念だね、見逃してやるほど僕は……甘く、ない」
「そうですね、これで終いとしましょう」
 草薙の呟きに屋外も頷き、ふたりで雑魔にトドメを刺したのだった。

●少年

「自分が死ぬべきだとか言っていたらしいな。死なんて雑魔に関係なくすぐ転がっているのに」
 戦闘が終わった後、宮地が少年に言葉を投げかける。
「文句があるなら、もっと自分の行動に責任を持ってから言うんだな。お前の家族が移動中に殺された事は聞いた、死に場所を求めて移動していたのか? 違うだろう、生きるためだろうが」
「だから僕は死にたいんじゃないか!」
 宮地の言葉に、少年が初めて感情を露にするように叫んできた。
「生きるために移動してて、家族は死んだ……! いくら僕を大事にしてくれても他人なんだ! 僕の血の繋がった家族はもうこの世にいないんだよ!」
 少年の言葉を聞き「だから甘ったれだって言うんだよ」と宮地は呆れたように呟いた。
「結局お前は何も出来なかった自分を疎んでるだけ。家族のために死にたいわけじゃない。生きてる事に罪悪感を覚えるから死にたいだけ、結局自分のためだろうが。守られてばかりのガキが死にたいなんて言うんじゃねぇよ、雑魔に殺されたいならまず自立してからにしろ」
 宮地はそれだけ言うと、少年に背中を向けた。
「……君の家族を守れなくて、ごめんね」
 草薙は少年と視線を合わせるように屈みながら話しかける。
 自分がその場にいたわけじゃない、けれど謝らずにはいられなかった。
「けどね。君は……同じ想いを君のお爺さんやお婆さんにさせるのか? 血が繋がっていなくても君の事を心配している、残された痛みを知っているなら……傍にいてくれる人の事を想うんだ」
「ざくろも、そう思うよ」
 草薙の言葉を聞き、時音も賛同するように頷く。
「命って、そんなに軽々しく扱っていいものじゃないんだよ? ……家族が亡くなって凄く辛かったよね、でも同じ気持ちをあのお祖父さんとお祖母さんにも味わわせるの? それに君まで死んじゃったら君の家族を覚えている人、想いながら生きてく人は、もうこの世からいなくなっちゃうんだよ? そんなの、悲しすぎるよ……」
 時音はまるで自分の事のように瞳を潤ませながら、必死に少年を説得しようとしている。
「普段は気づきづらいだけで傍にいてくれる人、大切に想ってくれる人はたくさんいて。しかもお友達に恋人、家族……そんな風にどんどん増えていくものなんだって」
 ミィリアも少年を見下ろしながら言葉を投げかける。
「今だっておじーちゃんやおばーちゃんっていう家族が出来たんじゃないかな? 失ったという、どうしようもなく悔しくて、悲しい気持ちを、他の人に味わわせちゃダメだよ」
 ハンター達の言葉に、少年の心が揺らぎ始める。
「転移者の大半だって独り身だ。家族が存命でも、自分の意志で会いに行けないわけだしな。自分より不幸な奴を見て、自身を保てとは言わないさ。けど、とりあえずは目の前とその周りを見てみたらいい。案外、なんとかなるもんだ」
 それにどうせ死ぬにしても、もう少し死に方選んだら? と鈴胆は言葉を付け足す。
「ここに刃物があって、それで自分を刺せるか? 本当に死にたいと願っているなら、方法問わず、いつでも死のうとするもんだ。雑魔に殺される事にこだわらず、な」
 扼城は多くを語らず、少年に話しかける。彼自身も少年と似たような過去を持っているが、それを言っても不幸自慢にしかならない事が分かっているからだ。
「皆様の言葉でだいぶお分かりになられたでしょう。自分には君を責められるはずがない、そんな資格はないですが、君に生きていて欲しいと願う者がいるという事を忘れずに」
 屋外は少年の肩を軽く叩きながら話す。少しでも少年の心の氷が溶ける事を祈りながら。
「……おいクソガキ。生きることは難しい、死ぬのは簡単だ。 だから生きてみろよ。ガキがガキのまま死ぬのは最っ低の親不孝だぜ。生きて、生きて、五年経って十年経って、いつか大人になったなら その時には今はまだ見えてないモンも見えてるだろうよ。死にたくなったら家族の顔を思い出せ」
 ユーロスは少年の隣に腰を下ろしながらぶっきらぼうに話し始める。
「『今までよくがんばった、もう楽になってもいい』そう言ってくれるか考えろ。 まだ駄目だって言うんなら、そりゃきっと死ぬ時じゃねぇってことだ」
 その後、少年は集落に戻るまでひとことも話さなかった。
 少年に自分達の言葉が伝わらなかったのか、と心配になるハンター達もいたが……。
 数日後、少年から『ありがとう』とだけ書かれた手紙がギルドに届けられた。
 それ以外は何も書かれていなかったけれど、少年の死にたい心がなくなったのだとハンター達は信じる事にした――……。


END

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重体一覧

参加者一覧

  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 生身が強いです
    鈴胆 奈月(ka2802
    人間(蒼)|18才|男性|機導師

  • 扼城(ka2836
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 心を守りし者
    屋外(ka3530
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • 心を守りし者
    草薙 桃李(ka3665
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士

  • 宮地 楓月(ka3802
    人間(蒼)|16才|男性|機導師
  • たたかう者
    ユーロス・フォルケ(ka3862
    人間(紅)|17才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】その命の重みを
草薙 桃李(ka3665
人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/02/03 00:34:08
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/30 22:32:22