ゲスト
(ka0000)
【MN】夏に負けない情熱を!
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2019/08/15 09:00
- 完成日
- 2019/08/19 11:04
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●補習授業
窓の外からは厳しすぎる陽射しが差しこんできていた。
「……どうして遮光しないのであるかな」
空調のおかげで快適な温度となっている教室だが、窓際に座らせられていたヴォールは忌々し気に立ち上がりカーテンを引く。
「そこの兄の方ー、サボらないでさっさと問題解くんですよ?」
永遠の幼女だとかで学校七不思議のひとつになっているタングラムがチョークを投げる。つまり教師である。やたら綺麗なフォームによってチョークはヴォールの頭に命中し、跳ね返っても衰えない勢いのまま隣のシャイネに着弾!
「痛いじゃないか、タングラム嬢。僕はちゃんとやっていると思うんだけどな♪」
「そこは双子の連帯責任っつーやつですよ、むしろその兄ちゃんと管理しろ」
「わあ横暴♪」
頭上から落ちてきたチョークをしっかり受け止めて、教壇に返すついでに完成しているプリントを提出するシャイネ。
「それじゃあ、採点宜しくお願いしようかな?」
「……なんで2枚あるんですかね」
「終わっていたからね♪」
「10分で終わっているのである」
兄の分も纏めて提出するあたり、弟もしっかり効率化の精神が身についている。
「だったらさっさと出しに来れば私も解放されるじゃないですか」
キッ! と睨みつけるが身長の都合で全然怖くない。ちょっと目つきが悪くなったくらいかな?
「えっさっさと帰って良かったのかい?」
「30分は座っていろと言われたのであるからして」
「……それは、誰から」
「「ハジャ」」
「あんの野郎今度高い酒驕らせる!」
受け取ったチョークがいい音を立てて、割れた。
●解放プール
(あぁ……あの窓の向こうにおねえさまが……)
ぷかぷか大きな浮輪の上で、ぼんやりと校舎を、その一部の窓へと視線を向け続ける。
「って、ぁぁー!!! せっかく頼んでおいたのに、どうしてカーテン締めるんですかー!?!?!?」
元々陽射しやら位置関係やらの都合で教室の中が見えるわけがないのだが。わざわざ補習に参加が決定しているクラスメイトにちょっとした取引をしていたフクカンである。
「もしかしたら、奇跡的な確率で窓際に来てくれたかもしれないのに……」
流石に防水カメラを持ちこめはしなかったので、肉眼で、きっちり記憶に焼き付けるしかできないのだけれど。
「……あぁ……私も、おねえさまの補習だったら受けたかった……」
緊張して顔も見れないし、挨拶もまともに返せなくて、むしろ変な生徒だと思われているだろうけれど。
「同じ部屋の空気が吸えるだけで幸せなのに……うわぁぁぁ~ん!」
●特別授業
「んーこのクラスは楽でいいよなー」
のんびりと読書に勤しむ態度で教壇についているハジャだが、その中身はカバーを偽装した漫画だったりする。
「……先生?」
「おっ、出来たかー?」
お気楽な声で顔をあげたハジャの前に、どさっと置かれたのは分厚い参考書、その数は正直あまり数えたくはない。
「えっ何これこんなに出したっけ、課題」
「実は自主研究でちょっと行き詰っておりまして。今日は気分転換を兼ねて参加させていただくつもりで来たのですが……」
「うん、まず聞いたことに答えようなーヨハネ」
ハジャの声はどうひいき目に聞いても棒読みである。
「担当教師のハジャ先生は生物担当だと聞き、急遽図書室のパウラ先輩に依頼して参考文献を集めていただいたのです」
「うわ無駄に有能なの引き当ててるーそりゃ多いわー」
「というわけで、先生! この論文のここのところなのですが、先生はどう思われますか」
「あっれープリント渡してわからなかったら質問に答えるだけの簡単な臨時出勤だった筈なんだが―?」
何を言ってもとまらないヨハネの熱弁を右から左に聞き流……せずに、仕方なさそうに対応し始めた。
「「……」」
すっかり騒がしい空気に染まってしまった教室には、もちろん他にも人がいる。
「先生はあの状態だが、私達は去年やったばかりなので教えられもする」
双子らしくそっくりな少女達の当惑気味の視線が彷徨い始めたのに気付いて、ユレイテルが声をかける。夏休み明けからの転入ということで、後輩二人のフォローを教師陣からも伝えられていたからだ。
「そうです。前の学校でまだ習っていないところがあるようでしたら、是非聞いてくださいね、ホリィさん、アイリスさん」
同じくデリアも声をかければ、揃いの瞳が一緒に動く。
「勉強は、多分、大丈夫そう」
「今熱弁ふるってる……ヨハネだっけ? あいつあたし達と同学年って聞いたわ」
「科目ごとの新度リスト、くれた」
姉妹の返事に顔を見合わせる会長と会計。
「デリア君、転入生の情報って我々生徒会メンバーしか知らされていない筈では?」
「その筈、ですけど……」
「見ない顔だ、って」
「それだけで転入生って看過されたわよ」
「そう言えば聞いたことがあります。今年入って来た一年生に、絶対記憶の持ち主が居るとかで。それで校内全員の顔覚えているのかも……?」
授業でノートを取っていないとか、誰かの名前を言い間違えないとか。未だに小学校の時に聞いた自己紹介の内容を全て諳んじられるとか。その証拠となるまことしやかな噂がちらほら。思い出した情報があまりの内容過ぎて、恐る恐る挙げていくデリア。
「「「「……こわっ」」」」
●イベント会場
『本日はお集まりくださりサンキューっすよー!』
夏の暑さを盛り上げろ! と垂れ幕のあるステージの端、アルバイトのレオがマイク片手に奔走している。
『もうすぐ今日の特別イベント、“エンターテイナーは君だ!”が開催されるっすー!』
そろそろ15時を示す大きな時計を指さして、空席へと人々を誘導していく。
『暑さを忘れるほど惹きつける歌! 背筋をひやりとさせる物語! ハラハラドキドキ手に汗握るバランス芸! とにかくご来場の皆様を盛り上げるために集まったエンターテイナーが集ってるっすよ! まだまだ参加申し込みも受け付け中っす!』
近隣の学校からもゲスト出演を依頼してるっす、なんてビラも撒いて。
『ちょっとした一発芸でも何でもありっすよー! この通り屋内ステージっすからね! 魅せる側も見る側も、是非是非気楽にお立ち寄りくださいっす!』
「カミラ部長、今日はここだったんですね!」
「元をつけろ、元を。今はイサーク、お前が部長だろうに」
「俺の中ではずっと尊敬すべき部長ですよ! あっ今焼いてるソレください!」
屋台のスタッフと客、という間柄のまま会話は続いている。鉄板の前で黙々と焼き続けているカミラに、イサークは小銭を取り出しながら尋ねる。
「そろそろお前が来ると思ったからな、この店で最も値段の張るスペシャルミックス焼きをトッピング二倍、天かすマシマシ特別仕様だ。しめて……ぴったり2000円だな!」
「何でそうわざと大盛仕様にするんですかね、食べますけど! 部長の焼いた奴なら間違いないですからね!」
「お前、ブレないな……」
窓の外からは厳しすぎる陽射しが差しこんできていた。
「……どうして遮光しないのであるかな」
空調のおかげで快適な温度となっている教室だが、窓際に座らせられていたヴォールは忌々し気に立ち上がりカーテンを引く。
「そこの兄の方ー、サボらないでさっさと問題解くんですよ?」
永遠の幼女だとかで学校七不思議のひとつになっているタングラムがチョークを投げる。つまり教師である。やたら綺麗なフォームによってチョークはヴォールの頭に命中し、跳ね返っても衰えない勢いのまま隣のシャイネに着弾!
「痛いじゃないか、タングラム嬢。僕はちゃんとやっていると思うんだけどな♪」
「そこは双子の連帯責任っつーやつですよ、むしろその兄ちゃんと管理しろ」
「わあ横暴♪」
頭上から落ちてきたチョークをしっかり受け止めて、教壇に返すついでに完成しているプリントを提出するシャイネ。
「それじゃあ、採点宜しくお願いしようかな?」
「……なんで2枚あるんですかね」
「終わっていたからね♪」
「10分で終わっているのである」
兄の分も纏めて提出するあたり、弟もしっかり効率化の精神が身についている。
「だったらさっさと出しに来れば私も解放されるじゃないですか」
キッ! と睨みつけるが身長の都合で全然怖くない。ちょっと目つきが悪くなったくらいかな?
「えっさっさと帰って良かったのかい?」
「30分は座っていろと言われたのであるからして」
「……それは、誰から」
「「ハジャ」」
「あんの野郎今度高い酒驕らせる!」
受け取ったチョークがいい音を立てて、割れた。
●解放プール
(あぁ……あの窓の向こうにおねえさまが……)
ぷかぷか大きな浮輪の上で、ぼんやりと校舎を、その一部の窓へと視線を向け続ける。
「って、ぁぁー!!! せっかく頼んでおいたのに、どうしてカーテン締めるんですかー!?!?!?」
元々陽射しやら位置関係やらの都合で教室の中が見えるわけがないのだが。わざわざ補習に参加が決定しているクラスメイトにちょっとした取引をしていたフクカンである。
「もしかしたら、奇跡的な確率で窓際に来てくれたかもしれないのに……」
流石に防水カメラを持ちこめはしなかったので、肉眼で、きっちり記憶に焼き付けるしかできないのだけれど。
「……あぁ……私も、おねえさまの補習だったら受けたかった……」
緊張して顔も見れないし、挨拶もまともに返せなくて、むしろ変な生徒だと思われているだろうけれど。
「同じ部屋の空気が吸えるだけで幸せなのに……うわぁぁぁ~ん!」
●特別授業
「んーこのクラスは楽でいいよなー」
のんびりと読書に勤しむ態度で教壇についているハジャだが、その中身はカバーを偽装した漫画だったりする。
「……先生?」
「おっ、出来たかー?」
お気楽な声で顔をあげたハジャの前に、どさっと置かれたのは分厚い参考書、その数は正直あまり数えたくはない。
「えっ何これこんなに出したっけ、課題」
「実は自主研究でちょっと行き詰っておりまして。今日は気分転換を兼ねて参加させていただくつもりで来たのですが……」
「うん、まず聞いたことに答えようなーヨハネ」
ハジャの声はどうひいき目に聞いても棒読みである。
「担当教師のハジャ先生は生物担当だと聞き、急遽図書室のパウラ先輩に依頼して参考文献を集めていただいたのです」
「うわ無駄に有能なの引き当ててるーそりゃ多いわー」
「というわけで、先生! この論文のここのところなのですが、先生はどう思われますか」
「あっれープリント渡してわからなかったら質問に答えるだけの簡単な臨時出勤だった筈なんだが―?」
何を言ってもとまらないヨハネの熱弁を右から左に聞き流……せずに、仕方なさそうに対応し始めた。
「「……」」
すっかり騒がしい空気に染まってしまった教室には、もちろん他にも人がいる。
「先生はあの状態だが、私達は去年やったばかりなので教えられもする」
双子らしくそっくりな少女達の当惑気味の視線が彷徨い始めたのに気付いて、ユレイテルが声をかける。夏休み明けからの転入ということで、後輩二人のフォローを教師陣からも伝えられていたからだ。
「そうです。前の学校でまだ習っていないところがあるようでしたら、是非聞いてくださいね、ホリィさん、アイリスさん」
同じくデリアも声をかければ、揃いの瞳が一緒に動く。
「勉強は、多分、大丈夫そう」
「今熱弁ふるってる……ヨハネだっけ? あいつあたし達と同学年って聞いたわ」
「科目ごとの新度リスト、くれた」
姉妹の返事に顔を見合わせる会長と会計。
「デリア君、転入生の情報って我々生徒会メンバーしか知らされていない筈では?」
「その筈、ですけど……」
「見ない顔だ、って」
「それだけで転入生って看過されたわよ」
「そう言えば聞いたことがあります。今年入って来た一年生に、絶対記憶の持ち主が居るとかで。それで校内全員の顔覚えているのかも……?」
授業でノートを取っていないとか、誰かの名前を言い間違えないとか。未だに小学校の時に聞いた自己紹介の内容を全て諳んじられるとか。その証拠となるまことしやかな噂がちらほら。思い出した情報があまりの内容過ぎて、恐る恐る挙げていくデリア。
「「「「……こわっ」」」」
●イベント会場
『本日はお集まりくださりサンキューっすよー!』
夏の暑さを盛り上げろ! と垂れ幕のあるステージの端、アルバイトのレオがマイク片手に奔走している。
『もうすぐ今日の特別イベント、“エンターテイナーは君だ!”が開催されるっすー!』
そろそろ15時を示す大きな時計を指さして、空席へと人々を誘導していく。
『暑さを忘れるほど惹きつける歌! 背筋をひやりとさせる物語! ハラハラドキドキ手に汗握るバランス芸! とにかくご来場の皆様を盛り上げるために集まったエンターテイナーが集ってるっすよ! まだまだ参加申し込みも受け付け中っす!』
近隣の学校からもゲスト出演を依頼してるっす、なんてビラも撒いて。
『ちょっとした一発芸でも何でもありっすよー! この通り屋内ステージっすからね! 魅せる側も見る側も、是非是非気楽にお立ち寄りくださいっす!』
「カミラ部長、今日はここだったんですね!」
「元をつけろ、元を。今はイサーク、お前が部長だろうに」
「俺の中ではずっと尊敬すべき部長ですよ! あっ今焼いてるソレください!」
屋台のスタッフと客、という間柄のまま会話は続いている。鉄板の前で黙々と焼き続けているカミラに、イサークは小銭を取り出しながら尋ねる。
「そろそろお前が来ると思ったからな、この店で最も値段の張るスペシャルミックス焼きをトッピング二倍、天かすマシマシ特別仕様だ。しめて……ぴったり2000円だな!」
「何でそうわざと大盛仕様にするんですかね、食べますけど! 部長の焼いた奴なら間違いないですからね!」
「お前、ブレないな……」
リプレイ本文
●
「あぢぃー」
喫煙スペースはあるものの、屋外にしか設けられていない。
「俺が学生の頃は教師は煙草吸い放題だったてぇのによぉ……これで来客用だってんだから世知辛いよなぁ」
一本吸いきったトリプルJ(ka6653)は香りを誤魔化していく。口臭剤や消臭剤もしっかり習慣づいていた。
クーラーの効いた校長室から出て、自主的に見周りを行うミグ・ロマイヤー(ka0665)の五感が盛大なる襲撃を受ける!
「自主学習の勝利なんだからー!」
補講で出された課題に勝利したクレール・ディンセルフ(ka0586)が気合の入りまくった声を挙げながら廊下を駆けていく!
「これでヴォールパイセンの跡継ぎ扱いは避けられたはず! 今日はイベントで遊ぶんだからねー!」
「のわぁ!? 青春じゃのう……」
暑さに負けぬ情熱、よきかな。なんて頷こうとしてから、我に返った。
「こら保健室の住人クレール! 廊下は走るなー!?」
「校長先生ごめんなさーい!」
「その元気があるなら普段から授業に出るべきじゃろう!?」
身体が弱め、という情報はミグも把握しているが、正直首を傾げるばかりである。
「……イベントとやらにも顔を出すとするかのう」
とはいえ、まずは校内が先なのである。
「お疲れ様です、そろそろ部員が集まる時間ですか」
専用の格好に着替えて戻って来たトリプルJに声をかけるのは同僚の天央 観智(ka0896)、理科の総合準備室は他にも出勤している教師がいるために空調管理は万全である。
「おう、ずっとここで過ごせればいいんだけどな」
軽口を交えつつ勤怠ボードの表示を変える。
「熱中症にはお気をつけて」
「わかってるって、大会だって控えてるしな!」
(さて……中々、教師というのも……忙しい仕事、ですよね)
同僚の背を見送りながら、手元の資料に目を落とす。
この春から母校の教師として着任したばかりの観智は授業準備を色々と揃えなければならなかった。とはいえ急に全てに携われるわけでもなく、先輩教師の補助をしたり、急な休みの穴埋めをしたりしながら自分なりの授業というものを手探りしている状態だ。
(これで、クラブの顧問までしていたら……時間が足りていませんよね)
所属していた科学部から声をかけてもらえるなら考えもするけれど。けれど、今の自分ではまだ十分に生徒と向き合える気がしない。
「まずは……理科を、数学を、好奇心を刺激できるように……」
何か新しいものを取り入れるとか?
ふと視線を感じて振り返ると、隙間から覗き込んでいるミグと目が合った。
「ちょうど良い所に、校長先生。今の生徒達に流行っているものとか、ご存じありませんかね?」
「部活始めるぞー。まずランニングしたら柔軟な」
レスリングシューズを穿いたトリプルJも共に走りはじめ、俊敏性を鍛えるためのジャンプやステップを混ぜていく。
「……よし、お前ら水飲んでこい。体調管理も作戦のうちだからな。戻った者からローリングだ」
時計を確認しながら合図の笛を吹けば、部員達が元気よく水道に駆けていった。
(基礎をおろそかには出来ねぇしな)
どう見繕っても三時間は下らない。全国に行きたい彼等の為にも念入りに仕上てやりたい。
「チクショー今日もなげぇなあ」
自身もボトルから冷えたスポドリを流し込んだ。
「宿題つまんなぁい! 遊びたーい!!」
葛音 ステラ(ka5122)の声が教室に響いて、慌てて葛音 水月(ka1895)が口を抑える。幸い、監督役の教師には睨まれただけで済んだ。
「僕もステラと遊びたかったけど、赤点取ったのはだーれ?」
膨らませたステラの頬をつんと突いて窘める。補習は必然で、担任からは宿題も学校で済ませておけと言われたのは勿論ステラである。むしろ教師は後に困らないよう進言してくれた筈であった。
「教えてあげるから、もう少し頑張ろう?」
学校から出れないのは残念だけど、これもデートだと思えば楽しいよ、なんてフォローも忘れない。
「でも飽きたしつまんなーい!」
けれどステラの我慢は限界だった。
「ね、水月くん……プールいこっ?」
上目遣いで大好きな彼氏の顔を見つめる。
「学校から出なければいいんだし、気分転換も大事だよねー?」
制服の襟元を少しだけ寛げる。
「水着もね、着てきてるから準備万端なんだよー?」
瞳に自分の胸元が映ったのが分かる。
「……もう、仕方ないなー」
つい見てしまったステラの胸元が脳裏から離れそうにない。視線を逸らしはしたが既に遅く、水月は自身の頬が暑くなっているのを感じていた。
(ここまでしてるんじゃ、宿題は進みそうにないね)
また後日に改めて手伝う、そう決めて広げたノートやら筆記用具を片付け始めた。
「お待たせしてしまいましたわね」
駆け寄ってくる金鹿(ka5959)を迎え入れて、キヅカ・リク(ka0038)は首を振る。
「僕が待ち遠しくて走って来ただけだし誤差でしょ」
手荷物を引き取って自転車に乗せていく。籠の一番上は弁当箱入りの袋。
「あとでロッカーに預けよっか」
「リクさんがすっかり食べて下さいましたから、見掛け倒しで軽いのですわよ?」
「嵩張るとさ、手が塞がるじゃん?」
金鹿の手を引いて後ろに誘導する。わざと恋人繋ぎにして、一瞬だけ力を籠めた。
「……そう、ですわね」
染まった頬を隠そうと乗り込んだ金鹿が、背中からぎゅっと抱きついた。
「暑さ対策のお薬、持ってきましたよ♪」
ユメリア(ka7010)がふってみせる箱から飛び出すのはフルーツ盛りだくさんのアイスバー。
「溶けないうちに食べなくてはね。勿論私も持ってきているわよ!」
高瀬 未悠(ka3199)が隣に置いた箱から覗くのは、音符型にくりぬいた中にクリームやジャムが層を成して詰められたゼリー。
どちらも彩り鮮やかで、練習の合間の休憩が華やいでいく。
「……あの、未悠先輩、ユメリア先輩」
エステル・クレティエ(ka3783)が淹れたハーブティでひとごこちついたタイミングに、ルナ・レンフィールド(ka1565)が切り出す。
「文化祭の助っ人、お願いできませんか?」
「ちょっとだけ人手が足りなくて。都合が付けばでいいんですけど」
縋ってくる目線に先輩二人が視線を交わす。
「凱旋ライブみたいで楽しそうじゃない?」
「未悠さんがそういうなら。私も、皆さんと歌うのは嬉しいです」
「よかった……」
「それじゃあ追加で曲選びしなくちゃですね!」
後輩達の笑顔が弾けた。
本を捲る音と、時折響く足音だけが図書室を支配している。
軽くした髪が視界を遮ぎるように落ちてきたので、メアリ・ロイド(ka6633)は手櫛で梳いた髪を耳にかける。自然な動作で視線を座席の方に向けることが出来たので、口元に薄く微笑みが浮かんでいた。
(やっぱり、静かだから来るのかな)
ただの図書委員であるメアリには推測するしかできない。本の貸し出しや返却の時にしか合う事のない視線をそっと逸らして、また手元の本へと意識を向けたふりをする。気になる人、いや確実に好意を向けている自覚のある相手をこうして眺められるだけで充分だと思える。
(嘘だけど)
以前に彼が借りた本を、触れた本をこうして借りて読んでいる時点でちょっとした職権乱用だ。ばれないようにブックカバーをかけて、あたかも読書が好きなように装って。
(なんとなく選んだ委員会だったけど、良かった)
「今日の冒険は新しく見つけたポイントの調査だよ!」
集まった部員達の前で時音 ざくろ(ka1250)が握り拳を掲げて宣言すれば、リンゴ(ka7349)が一生懸命に拍手をして盛り上げる。
ざくろがもってきた資料を手に取って目を通すアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)はふむふむと頷いている。
「確かにここなら布教もしやすそうですね」
「つまり、駅前のショッピングモールでイベントがあるから皆で遊びに行こうってことでいいのよね?」
アデリシアの手からチラシを受け取ったアルラウネ(ka4841)が確認すれば、慌てる部長、白一点。
「アルラウネ先輩ってばっ、これは、冒険部の活動なんだからっ!?」
「活動時は冒険用語を使うのが浪漫と、聞きました……」
ざくろをフォローするようにそっとリンゴの声が続く。一番年下なので遠慮がちなのは仕方ない。
「ごめんってば。まあ宿題の息抜きも必要よね~、遊び倒すわよ~!」
折角集まったんだしね、と微笑むアルラウネはしっかり外出仕様の涼しげな格好だ。つまり薄着である。一応制服の定義はあるが、節度を守れば私服通学も可能な自由さがありがたいなんて、こういう時は思ってしまう。
「……」
「ざくろさん、どうしました?」
身を固くしたざくろにアデリシアが首を傾げて尋ねるが、実際その理由にはしっかり気付いている。証拠に口元には薄く微笑みが浮かんでいる。
「えーっと……なんでもないよっ?」
「正直に言ったら、手伝ってあげてもいいですよ?」
するり、と近寄り耳元に囁くアデリシア。北欧出身の彼女に日本の夏は暑すぎて、他の誰より薄着のせいで柔らかさがダントツ。
「ア、アデリシア先輩っ、当たっ、当たってるからっ」
「これは失敬」
わざとらしいやり取りに二人も気づいて。
「ざくろんまだ終わってないのか~、リンゴちゃんは?」
「私は、先月のうちに全て終わらせています」
いつ呼び出されてもいいように、なんて理由が透けて見えている。その証拠に今日のおめかしは今までで一番気合が入っていると言っていいだろう。普段のリンゴならここまで短いスカートは履いてこない。
「後輩にここまでさせて、宿題終わってないから行くの中止にはできないわね~」
「上手に褒められたら、予定通り繰り出すという事で」
アルラウネとアデリシアの先輩コンビの間で話は纏まる。目配せに気付いたリンゴがまだわかっていないざくろの前にそっと進み出た。
「その、時音様。如何でしょうか?」
耳まで真っ赤にして尋ねてくる様子がざくろの頬にも移っていって。
「……いつも可愛いけど、今日は特別で、見つめるの恥ずかしくなるくらい……本当にきれい!」
「ありがとう、ございます……!」
「及第点としましょうか」
嬉しそうに微笑むリンゴに納得するアデリシアを見て、アルラウネが号令を部長から奪っていく。
「それじゃ冒険部、早速出発しましょうか!」
選択授業でもなるべく理科系の科目をとることでイブリス・アリア(ka3359)との距離を縮める努力をしてきたけれど、遂に三年生になってしまったティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394)は、夏休みも有効に使うことを決意した。
「……イブリス先生? 質問いいですか?」
宿題で分からないところがあるんです、そう言いながら近づいていく。
眉が露骨なくらい潜められているけれど、なりふり構っていられない。こうでもしなければ、受験シーズンには学校に来ることさえ難しくなってしまうのだ。
棚の整理する手を止めて振り返ればいつも以上に熱のこもった視線が見上げてくる。軽く手で追い払う仕草をしてみるが今更効果がないことくらいわかっていた。あからさまに溜息を吐きながら席に戻る。どうせ勝手に予備の椅子でも引き摺ってくるだろうと、あえて声をかけることはしないイブリスである。
「教えて欲しいところがある? 成績優秀者のお嬢ちゃんが?」
自分が作ったテストの時だけ満点を取り、他の教師が作った問題は変な所で間違える。そんな生徒の動機くらいうすうす察しているが、学生相手に手を出す気はゼロだ。
(……さて)
ひとつしかない椅子に座らせ頁を開かせる。肩の後ろから覗き込むように近付けば、小さく息を飲むのが分かった。
吐息が耳にかかりそうなほど近くで続けられる説明は、耳に入っている筈なのにすぐに出て行ってしまいそうだ。むしろ自身の鼓動の方が大きくて邪魔なくらい。声を聞いていたいというのに、身体が火照るのを止められず落ち着けない。
ちらりと伺えば、いつもの授業と変わらない様子。子供扱いとも取れる今の状況はやっぱり迷惑なのだろうと僅かに心が沈む。
(他の子達よりは目をかけてくれていると……思うんです、けど)
「先生」
深すぎる呼吸に説明を止めて待ってみれば、近いままで正面から見つめられる。境界を越えてくる予感はあるが止めるのも面倒だと感じて、そのままに待ち受ける。
「……大人になるまで、猛アタックし続けるので、私が大学卒業するまで隣はとっといてください!」
説明を少しも聞いていなかったと分かる唐突な台詞に呆れればいいのか、真剣な様子を茶化せばいいのか。言い訳もせず潔さに笑いそうになったイブリスは、あえて揶揄うことにする。
「いい女になるんならな、ティア?」
「当番ばかりで良いのかのう」
「っ!?」
気付かぬうちにカウンターの影からミグが顔を覗かせる。
「……夏にしか、出来ないことをしているんですよ」
悲鳴をどうにか抑え込んで、図書委員の面目を保つメアリ。
想いを自覚するまでに少し時間はかかったけれど、ゆっくりと温めていける今を大切にしたいのだ。
「ステラ、やけに歩くのがゆっくりだけど大丈夫?」
調子悪いならおぶっていくよ、と心配そうに見つめる水月の顔が真っ直ぐ見られないステラは、とにかく勢いよく首を振った。
(下着もってくるの忘れたなんて言えないよぉ)
ましておんぶなんてもってのほかである。
(どうしたら切り抜けられるのぉーっ、せっかく沢山いちゃいちゃできたのにっ)
焦ってオロオロするステラの反応をくすくす笑って見守る水月に気付くのは、もう少し後のこと。
●
「いらっしゃいませぇ! 本日蒼園商店街では夜店市のくじ引きを行っておりますぅ!」
だらだら汗も労働の証とばかりに笑顔をふりまき声をあげる星野 ハナ(ka5852)は気温に負けじと熱が入っていた。
「お買い物の際はレシートをお忘れなくぅ、2000円分でくじ1回、多数の豪華商品を取り揃えておりますよぅ」
ここで一気に気合を入れて、お腹から声を出す。とにかくたくさんの人に聞いてもらうのが一番なのだ。
「ペア宿泊チケットから有名アイドル通称陛下のポートレート、商店街の無料商品券も! 数に限りがございますぅ、どうぞ奮ってご参加下さいぃ!」
「冷たくさっぱり、ヘルシーなグラニータは如何かな?」
幾つかの彩りを持つ氷をシャーリーン・クリオール(ka0184)がひとつずつ、削り器に放り込む音が香りのかわりに行き交う人々の興味を惹いていく。
淡いクリーム色は甘味も優しい林檎、真夏の太陽のように鮮やかで目も覚める色合いはマンゴー。情熱の赤と一緒に酸味も溢れるブラッドオレンジ。三種類其々のトッピング用に、美しくカットして凍らせた果肉達もトッピング用として準備してある。
「トッピングなしならスプーンだけで楽しめるし、フローズンヨーグルトもあるからハーフミックスも作れるよ」
氷の割合を変えれば、氷の色合いも変わっていく。
「果物三種全て入ったトリプルミックスもできるから、希望を言ってくれるかな?」
「音大で学ぶとあんなに音に深みが出るんですね……!」
互いの癖は知っていたつもりでも、久しぶりの四人。練習で感じた先輩二人の音はまだ、ルナの胸に余韻として残っている。
「そう言ってもらえると嬉しいですね、励んでいる甲斐があります」
より想いを、感情を言葉に籠めて音楽に乗せるために進んだ道だ。声楽科を選んだことは間違いではなかったとユメリアは思う。
「本当、腕を磨き甲斐があるのよね。知らなかったことを知る度、改善するほど音が応えてくれるの」
未悠はプロデュース方面を意識して音響や演出を学んでいるのだが、機材や舞台の構造の面からこれまでの癖の矯正を始めていた。
「いつかを思えばこそ、楽しいわ!」
それこそ衣装の想像まで始めているのだが、先走り過ぎるのも良くないと、これでいて自制もしていたりする。
「それに……好きだからこそ続けられます」
久しぶりだったからこそ、ユメリアも練習中に編曲のバリエーションがいくつも浮かんでいた。四人全員で、時には一人ひとり別々でメインにして。二人ずつの組み合わせだっていくつもあるのだ。
((いつかユニットを汲んで、それから、デビュー……))
互いに言葉にしていなくても、先輩二人の内心の願いは揃っていたりする。其々の音と出会ったから、其々の音を重ねるのが楽しいから。繋がっていく先は同じだ。
(音楽はやっぱり続けていようかな)
専門に選ぶまではしなかったけれど、エステルの心にも音楽が傍に在る。既に決まっている付属の大学ではもう少し幅広く学んでいたいから、どれも取りこぼさない程度に。
目的地であるCDショップが見えてきた。
「……そろそろ着きますね、まずは皆でひとつずつ持ち寄ってみてから、でしょうか」
声をあげたエステルにルナが破顔する。
「なら、ジャズアレンジ前提で!」
全員が好きなもの、全部やりたいから!
(皆が知ってる曲なら、初めての人には聞きやすいかも)
部員を増やす目的もあるけれど、折角なら足をとめてくれる人が多い方が良い。気付けばエステルは童謡のコーナーに足を運ぼうとしていた。
「ルナさんは……あ」
ちょうど良く立っていた場所、その棚の前に見覚えのあるタイトル。
「それ、最近兄が聞いてる曲」
「えっ!?」
びくっと奮えた勢いで落としそうになったのを、慌ててキャッチするルナの顔は一気に真っ赤だ。
「ねえ、エステルちゃん。例えば、例えばだけど……ね?」
件の曲を胸に抱えたまま、声はどこまでも小さくなって。
「聞き惚れる程上手に演奏できたら……って考えるのは……どうかなあ?」
「此方にまで声が聞こえていたよ、随分熱が入っているね?」
「これで資金を貯めてぇ、彼を旅行に誘おうと思ってるんですぅ。もうちょっとで目標額に達しそうなのでぇ、秋にお泊まり旅行に行けたらなあってぇ……キャー」
休憩スペースで行き合ったシャーリーンの疑問に照れたのか、片手にジュースを持ったまま器用にイヤイヤしてみせるハナである。
「ハナは頑張りますよぅ……!」
心に想う誰かに向けた呟きは決意がこもっている。後半戦も、この想いがあれば駆け抜けられるはず!
「なんじゃこりゃぁぁぁ!?」
フリフリポップなコスチュームを前に叫ぶボルディア・コンフラムス(ka0796)はアクションヒーローのバイトに応募したのであって、決して可愛い衣装を求めていたわけではないのである!
「フッザけんなできるかこんなもん!」
ケーヤクフリコーだ! 出て行こうとするボルディアに必死に縋りつくスタッフ達!
「人手なら他を……って何ィ、斧……?」
早歩きに変更しながらも先を急ぐクレールは所属一名の鍛冶研究会である。工芸部の焼き窯が空いたタイミングに設備を借りつつさりげなくトンデモ改造を施して、鍛冶作業ができる環境を整えてしまった一点集中職人気質、紙一重でギリギリ天才である。持病と書いて鍛冶場籠もりと読む日常生活の中、暑気あたりではなく熱気あたりでしょっちゅう保健室の世話になっているのである。なお工芸部の顧問は焼き窯として利用できるからと目こぼしを貰ったので、年中暇を見つければ鍛冶場(兼焼き場)に入り浸っている。保健室に居るのは替え玉の抱き枕という説も実は噂になっている。あと一歩で七不思議入り目前だったりする。
目星をつけていた出店の軽食をかき込んで、ステージへと一目散!
「そこの人ー、慌てなくても席はまだ空いているから大丈夫ですよ!」
慌ただしくやってくるクレールに声をかける鞍馬 真(ka5819)の腕にはボランティアスタッフの腕章が輝いている。
(ひとりみたいだし、見やすい場所に案内してあげるべきかな)
身長だとか、会場の人の入り具合とか。全体を把握しているからこそ最適な場所を示す真は非常に重宝されていた。
「あれっ? 参加希望者?」
ちょっと待って、と慌てて呼び止める。
「だったら受付はあっちだよ。この先は少し人通りが多いから、回り道したほうが早く着ける筈」
簡易マップを開いて道順を示し、さりげなく食べ終わったお好み焼きの容器を回収する。
「急ぐんだろ? ついでだからこのゴミも捨てておくよ。ステージ頑張って!」
「わあぁ、お兄さんありがとうございますー!」
「仕事だから気にしないでね。此処からでもステージは見えるし、応援させて貰うよ」
「アイスがいいです」
「そう言ってさっきも食べたけど大丈夫~?」
何より一番の薄着なシスターは、とにかく熱に弱かった。へばったアデリシアを支えるアルラウネの服も無防備を通り越して隙だらけになっている。
(どうしよう隠さないと……って)
慌てていたざくろは注意力散漫、思いきり首を圧迫され潰れたような悲鳴を上げた!
「ぐぇ」
柔らかい感触と苦しさで天国と地獄ミックスである。
(……すみません、怖がりですみません……先輩達が少しでも涼しく感じられればと……お邪魔しないようにと……)
原因であるリンゴは声には出さないけれど、先ほどまで皆で見ていたホラー映画の影響で顔色は悪いまま。本能的にざくろに助けを求めたはいいものの、うっかり首を締めてしまっていた。
(気付いてリンゴ、リンゴー!!!)
「おねーちゃーん!」
「リト、補講だった割に元気がいいな?」
まさか寝ていたのではあるまいな、と目を光らせるセシア・クローバー(ka7248)に誤魔化し笑いを返すフューリト・クローバー(ka7146)。
「ちょーっと授業中にうとうとしちゃったから補講に呼ばれただけだよー」
「待て、そもそも授業中に眠くなるというのは」
「さーさー行こー、待ってて暑かったでしょー?」
ぐいぐいと姉の背を押してショッピングモールに入っていくフューリト。
「私は調べ物をしていただけだから別に……ああもう、わかったから押すな、自分で歩ける!」
「えへへーそうこなくっちゃー」
「ふむ、出店か……イベントものだし、行こうか」
何処から回るかと悩むセシアの隣から、ふらふらとフューリトが離れていく。
「あの出店見てみよーよ」
美味しそうな気配を感じるとばかりに進んだ先で、可愛らしい花を持つ人々が見えてくる。
「アイス……だよね? おいしそーだよ」
「ババヘラというのか」
名前からは想像できない形状だが、確かにコーンの上に氷菓の花弁が重ねられ、花の形になっている。手早く花の形へと仕上げていく過程はまさに職人技と言える。
「……凄いな、何時までも見ていられそうだ」
列に並ぶ間も、創りだされていく花に目が奪われ続ける。写真で見たことはあったセシアだが、こうして実物を見るとまたひとしおだ。
「おおおおお……見た目がゴウカ……!」
見事な薔薇を受け取ったフューリトがひとくち、ぱくり。定番のバナナと苺でほっとする味だ。
「おいしーねぇ」
「うん、美味しい」
セシアの頬も緩む。微笑むと更にそっくりになる姉妹である。
「大盛? 皆で食べるなら……ふむ、少しだけ時間を貰おうか」
氷の個数で値段統一をしていたシャーリーンなので、客の注文に柔軟に対応できるのだ。
小さな容器に削った氷を溶けない程度にやさしく詰めて、形作った小さな山を皿に並べて。手早く美しく、気付けば皿の上には氷の楽園が広がっていた。
「これを積み上げた場所に飛び込みたい……」
グラニータを夢心地で堪能するアデリシアの幸せそうな様子に見惚れていたざくろだが、ふと気が付いてしまった。
「そういえば先輩達、今年で卒業なんだよね……」
思わず握りしめたのはアルラウネの服の裾。肩より下に落ちそうになって真っ赤に慌てるざくろの頭を落ち着かせるように撫でる。
「そうね~、夏が終わったら受験関係でもう余裕なくなるからね~」
「国に帰る支度も考えなくてはいけませんね」
「「そんな……」」
ざくろだけでなくリンゴも一緒に肩を落としている。
「でも、夏休みの約束は全部果たすからね~」
「宿題を終わらせてからですけれど」
「えっ、ざくろまだちょっとしか」
「ちゃんと見てあげますから」
「息抜きくらいはつきあってあげてもいいかな~?」
「差し入れなら、私に任せて下さい、先輩」
「みんな……大好き!」
『当たらなければ怖くない!』
ボルディア扮する魔法少女が愛斧片手に立ち回る。大斧当てては踏み台に、時に斧自身を足場にして。小柄な少女が大きすぎる得物を振り回す様子は愛と魔法の力によるものなのである!(設定!)
縦横無尽にステージ内を駆け回るボルディアは子供達だけでなく大人達の視線もひきつけてやまないのだ!
『仕上げるよ!』
必殺技のタイミングに合わせて大きく振りかぶり、正面のボス役と取り巻き目がけてフルスイング!
『愛と平和の心でラブリーチャーミン☆スラーッシュ!』
周囲の敵が倒れていく中、ふわりとスカートを翻し、ピースと一緒に決めポーズ☆
(あぁぁコーチョー居るぅぅぅ!?)
ステージ傍の観客席。子供達に紛れて、ミグがにこにこ拍手してくるのに気づいてしまったボルディアの精神的な明日は、どうなる!?
「やっと癒しの時間だぁ……」
「今日は英語でしたっけ、お教えしたほうが良ければ」
「流石僕のマリは特別講習を受けるくらい賢くて真面目で可愛い素晴らしい彼女だけど、開放感に浸ってる僕にそれは酷じゃない?」
「補習を受ければ赤点すれすれでも大丈夫、なんて胡坐をかいているようでは今後難しくなりますわよ?」
「確かにいいところに就職しないとね! マリに楽をさせるためにもね!」
「なっ……ッ!?」
「うん素晴しい照れ顔をありがとうマリ、初心な彼女尊い……」
「拝まないでくださいましっ」
「周囲への配慮で声量抑えるマリ最高に可愛いよね」
「ですから……っ」
「まあまあ今日のこれも僕の驕りだから、ゆっくり楽しもう?」
彼氏力(財力)を見せつけるために空き時間にバイトしているなんてことは匂わせないリク。それが学習状況に影響している自覚はあるのだろうか?
「補修を真面目に受けているのは存じておりますわ」
梨のコンポートとブドウの果肉で形作られた花を少しずつ崩して、見た目より柔らかいタルト台ごと一口分を掬い上げる。綺麗に掬えたことに満足して、金鹿はちらりとリクを伺う。
「ご褒美はご入用かしら? なーんて……」
「はぐっ♪」
腕を引かれたことに気付いた時にはスプーンはリクの口の中へと消えていた。
「ご褒美は別のがいいな?」
「今っ、今のは……」
「ご馳走様♪ 前に遊園地に行こうって話ししただろ? それご褒美ってことで!」
リクが挙げるのは観覧車のジンクスが人気の場所。金鹿の目が輝いたのを肯定とみて、ドンドン話を進めていく。
「次の休みも迎えに行くね?」
帰路も勿論リクの自転車。背中に額を押し付けながら、捕まれた腕の感触に悶える金鹿が見られるのだが、それはまた別の話である。
「リンゴ飴、これも食べちゃったらお夕飯はいらなくなっちゃうかなー?」
セシアが買ってきたもう一方、サイダーを飲みながらベンチでひとやすみ。
「今食べる必要はないだろう、お土産にすればいい」
家なら切り分けることも可能だと聞いて、フューリトの顔が勢いよく上がる。
「それだー、いい案! おねーちゃん、皆の分も買っていかなくちゃねー?」
「食べきれない程は買わないぞ?」
「わかってるよー」
残りを一気に飲み干したフューリトが勢いよく立ち上がれば、セシアも空の瓶を手に立ち上がる。
「リト、途中で寝たら土産ごと、そのまま置いていくからな?」
「だいじょーぶだもーん!」
ユメリアのピアノが静かな波を描いて、早朝の海に少しずつ命の息吹を与えていく。
『つたう飛沫がいのち紡いで、笑顔つないでほころぶ灯り……』
サックスの穏やかなスタッカートがリズムを刻んで、エステルが描くのは徐々にビーチに増えていく、人々の賑やかな声。
『空に煌めく流れ星、天の川で泳げば子守歌……』
ドラムセットのシンバルが大波の勢いを添えて、未悠の声がより大きく重なる。ユメリアの声がコーラスに回って、厚みを増やす。
『……行き違う覚悟で勢い借りて、貴方の胸に飛び込んじゃおう!』
海底の深い場所からずっと支えていたルナのベースがメロディを奏で、夕焼けに染まる落ち着いた海がそこに在った。
『走り疲れた時に、穏やかに受け止められる場所があれば……』
四曲のサビをメロディのアレンジでうまく繋いだメドレーは、ジャズの真骨頂である、四人の息の合ったアドリブの集大成。簡単な音合わせだけでイベント本番に飛び入りで臨んだ彼女達の息が合うのは、それだけ回数を重ねていたからだ。
「楽しそうだ。若いって良いねえ」
演奏を聞いたからか喉が疼くような気がして、真が微笑みを零す。最近趣味の時間をとっていないことに気付いてしまったからか、つられて歌いだしてしまいそうだ。
「うちの生徒が世話になったようじゃの」
「え? いえ、お構いなく」
振り返って見つけられず、見下ろした真を見上げてくるミグは思いきり背伸びをして真の肩をぽんぽんしてくる。
「そなたも若いのじゃ、ゆめゆめ忘れるでないぞ?」
会場をめいっぱい使って繰り出されていくワイヤーアートを指し示して、軽く肩をすくめた。
「あれくらいでかくとまでは言わぬがの」
●
「あーもー終わんなぁい!」
泣きべそをかきながら残った宿題の山に向かうステラは、けれど補習の時と同じように逃げ出すことが出来なかった。
「許して、水月くぅん……もう、無理……」
「だーめー。これはステラの宿題だもんね?」
夏休み中甘やかしすぎちゃったかな、と笑顔の水月によって、後ろからのハグ状態のまま捕まっているからだ。
「終わるまで振り向くのも、悪戯も禁止だからねー?」
「あぢぃー」
喫煙スペースはあるものの、屋外にしか設けられていない。
「俺が学生の頃は教師は煙草吸い放題だったてぇのによぉ……これで来客用だってんだから世知辛いよなぁ」
一本吸いきったトリプルJ(ka6653)は香りを誤魔化していく。口臭剤や消臭剤もしっかり習慣づいていた。
クーラーの効いた校長室から出て、自主的に見周りを行うミグ・ロマイヤー(ka0665)の五感が盛大なる襲撃を受ける!
「自主学習の勝利なんだからー!」
補講で出された課題に勝利したクレール・ディンセルフ(ka0586)が気合の入りまくった声を挙げながら廊下を駆けていく!
「これでヴォールパイセンの跡継ぎ扱いは避けられたはず! 今日はイベントで遊ぶんだからねー!」
「のわぁ!? 青春じゃのう……」
暑さに負けぬ情熱、よきかな。なんて頷こうとしてから、我に返った。
「こら保健室の住人クレール! 廊下は走るなー!?」
「校長先生ごめんなさーい!」
「その元気があるなら普段から授業に出るべきじゃろう!?」
身体が弱め、という情報はミグも把握しているが、正直首を傾げるばかりである。
「……イベントとやらにも顔を出すとするかのう」
とはいえ、まずは校内が先なのである。
「お疲れ様です、そろそろ部員が集まる時間ですか」
専用の格好に着替えて戻って来たトリプルJに声をかけるのは同僚の天央 観智(ka0896)、理科の総合準備室は他にも出勤している教師がいるために空調管理は万全である。
「おう、ずっとここで過ごせればいいんだけどな」
軽口を交えつつ勤怠ボードの表示を変える。
「熱中症にはお気をつけて」
「わかってるって、大会だって控えてるしな!」
(さて……中々、教師というのも……忙しい仕事、ですよね)
同僚の背を見送りながら、手元の資料に目を落とす。
この春から母校の教師として着任したばかりの観智は授業準備を色々と揃えなければならなかった。とはいえ急に全てに携われるわけでもなく、先輩教師の補助をしたり、急な休みの穴埋めをしたりしながら自分なりの授業というものを手探りしている状態だ。
(これで、クラブの顧問までしていたら……時間が足りていませんよね)
所属していた科学部から声をかけてもらえるなら考えもするけれど。けれど、今の自分ではまだ十分に生徒と向き合える気がしない。
「まずは……理科を、数学を、好奇心を刺激できるように……」
何か新しいものを取り入れるとか?
ふと視線を感じて振り返ると、隙間から覗き込んでいるミグと目が合った。
「ちょうど良い所に、校長先生。今の生徒達に流行っているものとか、ご存じありませんかね?」
「部活始めるぞー。まずランニングしたら柔軟な」
レスリングシューズを穿いたトリプルJも共に走りはじめ、俊敏性を鍛えるためのジャンプやステップを混ぜていく。
「……よし、お前ら水飲んでこい。体調管理も作戦のうちだからな。戻った者からローリングだ」
時計を確認しながら合図の笛を吹けば、部員達が元気よく水道に駆けていった。
(基礎をおろそかには出来ねぇしな)
どう見繕っても三時間は下らない。全国に行きたい彼等の為にも念入りに仕上てやりたい。
「チクショー今日もなげぇなあ」
自身もボトルから冷えたスポドリを流し込んだ。
「宿題つまんなぁい! 遊びたーい!!」
葛音 ステラ(ka5122)の声が教室に響いて、慌てて葛音 水月(ka1895)が口を抑える。幸い、監督役の教師には睨まれただけで済んだ。
「僕もステラと遊びたかったけど、赤点取ったのはだーれ?」
膨らませたステラの頬をつんと突いて窘める。補習は必然で、担任からは宿題も学校で済ませておけと言われたのは勿論ステラである。むしろ教師は後に困らないよう進言してくれた筈であった。
「教えてあげるから、もう少し頑張ろう?」
学校から出れないのは残念だけど、これもデートだと思えば楽しいよ、なんてフォローも忘れない。
「でも飽きたしつまんなーい!」
けれどステラの我慢は限界だった。
「ね、水月くん……プールいこっ?」
上目遣いで大好きな彼氏の顔を見つめる。
「学校から出なければいいんだし、気分転換も大事だよねー?」
制服の襟元を少しだけ寛げる。
「水着もね、着てきてるから準備万端なんだよー?」
瞳に自分の胸元が映ったのが分かる。
「……もう、仕方ないなー」
つい見てしまったステラの胸元が脳裏から離れそうにない。視線を逸らしはしたが既に遅く、水月は自身の頬が暑くなっているのを感じていた。
(ここまでしてるんじゃ、宿題は進みそうにないね)
また後日に改めて手伝う、そう決めて広げたノートやら筆記用具を片付け始めた。
「お待たせしてしまいましたわね」
駆け寄ってくる金鹿(ka5959)を迎え入れて、キヅカ・リク(ka0038)は首を振る。
「僕が待ち遠しくて走って来ただけだし誤差でしょ」
手荷物を引き取って自転車に乗せていく。籠の一番上は弁当箱入りの袋。
「あとでロッカーに預けよっか」
「リクさんがすっかり食べて下さいましたから、見掛け倒しで軽いのですわよ?」
「嵩張るとさ、手が塞がるじゃん?」
金鹿の手を引いて後ろに誘導する。わざと恋人繋ぎにして、一瞬だけ力を籠めた。
「……そう、ですわね」
染まった頬を隠そうと乗り込んだ金鹿が、背中からぎゅっと抱きついた。
「暑さ対策のお薬、持ってきましたよ♪」
ユメリア(ka7010)がふってみせる箱から飛び出すのはフルーツ盛りだくさんのアイスバー。
「溶けないうちに食べなくてはね。勿論私も持ってきているわよ!」
高瀬 未悠(ka3199)が隣に置いた箱から覗くのは、音符型にくりぬいた中にクリームやジャムが層を成して詰められたゼリー。
どちらも彩り鮮やかで、練習の合間の休憩が華やいでいく。
「……あの、未悠先輩、ユメリア先輩」
エステル・クレティエ(ka3783)が淹れたハーブティでひとごこちついたタイミングに、ルナ・レンフィールド(ka1565)が切り出す。
「文化祭の助っ人、お願いできませんか?」
「ちょっとだけ人手が足りなくて。都合が付けばでいいんですけど」
縋ってくる目線に先輩二人が視線を交わす。
「凱旋ライブみたいで楽しそうじゃない?」
「未悠さんがそういうなら。私も、皆さんと歌うのは嬉しいです」
「よかった……」
「それじゃあ追加で曲選びしなくちゃですね!」
後輩達の笑顔が弾けた。
本を捲る音と、時折響く足音だけが図書室を支配している。
軽くした髪が視界を遮ぎるように落ちてきたので、メアリ・ロイド(ka6633)は手櫛で梳いた髪を耳にかける。自然な動作で視線を座席の方に向けることが出来たので、口元に薄く微笑みが浮かんでいた。
(やっぱり、静かだから来るのかな)
ただの図書委員であるメアリには推測するしかできない。本の貸し出しや返却の時にしか合う事のない視線をそっと逸らして、また手元の本へと意識を向けたふりをする。気になる人、いや確実に好意を向けている自覚のある相手をこうして眺められるだけで充分だと思える。
(嘘だけど)
以前に彼が借りた本を、触れた本をこうして借りて読んでいる時点でちょっとした職権乱用だ。ばれないようにブックカバーをかけて、あたかも読書が好きなように装って。
(なんとなく選んだ委員会だったけど、良かった)
「今日の冒険は新しく見つけたポイントの調査だよ!」
集まった部員達の前で時音 ざくろ(ka1250)が握り拳を掲げて宣言すれば、リンゴ(ka7349)が一生懸命に拍手をして盛り上げる。
ざくろがもってきた資料を手に取って目を通すアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)はふむふむと頷いている。
「確かにここなら布教もしやすそうですね」
「つまり、駅前のショッピングモールでイベントがあるから皆で遊びに行こうってことでいいのよね?」
アデリシアの手からチラシを受け取ったアルラウネ(ka4841)が確認すれば、慌てる部長、白一点。
「アルラウネ先輩ってばっ、これは、冒険部の活動なんだからっ!?」
「活動時は冒険用語を使うのが浪漫と、聞きました……」
ざくろをフォローするようにそっとリンゴの声が続く。一番年下なので遠慮がちなのは仕方ない。
「ごめんってば。まあ宿題の息抜きも必要よね~、遊び倒すわよ~!」
折角集まったんだしね、と微笑むアルラウネはしっかり外出仕様の涼しげな格好だ。つまり薄着である。一応制服の定義はあるが、節度を守れば私服通学も可能な自由さがありがたいなんて、こういう時は思ってしまう。
「……」
「ざくろさん、どうしました?」
身を固くしたざくろにアデリシアが首を傾げて尋ねるが、実際その理由にはしっかり気付いている。証拠に口元には薄く微笑みが浮かんでいる。
「えーっと……なんでもないよっ?」
「正直に言ったら、手伝ってあげてもいいですよ?」
するり、と近寄り耳元に囁くアデリシア。北欧出身の彼女に日本の夏は暑すぎて、他の誰より薄着のせいで柔らかさがダントツ。
「ア、アデリシア先輩っ、当たっ、当たってるからっ」
「これは失敬」
わざとらしいやり取りに二人も気づいて。
「ざくろんまだ終わってないのか~、リンゴちゃんは?」
「私は、先月のうちに全て終わらせています」
いつ呼び出されてもいいように、なんて理由が透けて見えている。その証拠に今日のおめかしは今までで一番気合が入っていると言っていいだろう。普段のリンゴならここまで短いスカートは履いてこない。
「後輩にここまでさせて、宿題終わってないから行くの中止にはできないわね~」
「上手に褒められたら、予定通り繰り出すという事で」
アルラウネとアデリシアの先輩コンビの間で話は纏まる。目配せに気付いたリンゴがまだわかっていないざくろの前にそっと進み出た。
「その、時音様。如何でしょうか?」
耳まで真っ赤にして尋ねてくる様子がざくろの頬にも移っていって。
「……いつも可愛いけど、今日は特別で、見つめるの恥ずかしくなるくらい……本当にきれい!」
「ありがとう、ございます……!」
「及第点としましょうか」
嬉しそうに微笑むリンゴに納得するアデリシアを見て、アルラウネが号令を部長から奪っていく。
「それじゃ冒険部、早速出発しましょうか!」
選択授業でもなるべく理科系の科目をとることでイブリス・アリア(ka3359)との距離を縮める努力をしてきたけれど、遂に三年生になってしまったティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394)は、夏休みも有効に使うことを決意した。
「……イブリス先生? 質問いいですか?」
宿題で分からないところがあるんです、そう言いながら近づいていく。
眉が露骨なくらい潜められているけれど、なりふり構っていられない。こうでもしなければ、受験シーズンには学校に来ることさえ難しくなってしまうのだ。
棚の整理する手を止めて振り返ればいつも以上に熱のこもった視線が見上げてくる。軽く手で追い払う仕草をしてみるが今更効果がないことくらいわかっていた。あからさまに溜息を吐きながら席に戻る。どうせ勝手に予備の椅子でも引き摺ってくるだろうと、あえて声をかけることはしないイブリスである。
「教えて欲しいところがある? 成績優秀者のお嬢ちゃんが?」
自分が作ったテストの時だけ満点を取り、他の教師が作った問題は変な所で間違える。そんな生徒の動機くらいうすうす察しているが、学生相手に手を出す気はゼロだ。
(……さて)
ひとつしかない椅子に座らせ頁を開かせる。肩の後ろから覗き込むように近付けば、小さく息を飲むのが分かった。
吐息が耳にかかりそうなほど近くで続けられる説明は、耳に入っている筈なのにすぐに出て行ってしまいそうだ。むしろ自身の鼓動の方が大きくて邪魔なくらい。声を聞いていたいというのに、身体が火照るのを止められず落ち着けない。
ちらりと伺えば、いつもの授業と変わらない様子。子供扱いとも取れる今の状況はやっぱり迷惑なのだろうと僅かに心が沈む。
(他の子達よりは目をかけてくれていると……思うんです、けど)
「先生」
深すぎる呼吸に説明を止めて待ってみれば、近いままで正面から見つめられる。境界を越えてくる予感はあるが止めるのも面倒だと感じて、そのままに待ち受ける。
「……大人になるまで、猛アタックし続けるので、私が大学卒業するまで隣はとっといてください!」
説明を少しも聞いていなかったと分かる唐突な台詞に呆れればいいのか、真剣な様子を茶化せばいいのか。言い訳もせず潔さに笑いそうになったイブリスは、あえて揶揄うことにする。
「いい女になるんならな、ティア?」
「当番ばかりで良いのかのう」
「っ!?」
気付かぬうちにカウンターの影からミグが顔を覗かせる。
「……夏にしか、出来ないことをしているんですよ」
悲鳴をどうにか抑え込んで、図書委員の面目を保つメアリ。
想いを自覚するまでに少し時間はかかったけれど、ゆっくりと温めていける今を大切にしたいのだ。
「ステラ、やけに歩くのがゆっくりだけど大丈夫?」
調子悪いならおぶっていくよ、と心配そうに見つめる水月の顔が真っ直ぐ見られないステラは、とにかく勢いよく首を振った。
(下着もってくるの忘れたなんて言えないよぉ)
ましておんぶなんてもってのほかである。
(どうしたら切り抜けられるのぉーっ、せっかく沢山いちゃいちゃできたのにっ)
焦ってオロオロするステラの反応をくすくす笑って見守る水月に気付くのは、もう少し後のこと。
●
「いらっしゃいませぇ! 本日蒼園商店街では夜店市のくじ引きを行っておりますぅ!」
だらだら汗も労働の証とばかりに笑顔をふりまき声をあげる星野 ハナ(ka5852)は気温に負けじと熱が入っていた。
「お買い物の際はレシートをお忘れなくぅ、2000円分でくじ1回、多数の豪華商品を取り揃えておりますよぅ」
ここで一気に気合を入れて、お腹から声を出す。とにかくたくさんの人に聞いてもらうのが一番なのだ。
「ペア宿泊チケットから有名アイドル通称陛下のポートレート、商店街の無料商品券も! 数に限りがございますぅ、どうぞ奮ってご参加下さいぃ!」
「冷たくさっぱり、ヘルシーなグラニータは如何かな?」
幾つかの彩りを持つ氷をシャーリーン・クリオール(ka0184)がひとつずつ、削り器に放り込む音が香りのかわりに行き交う人々の興味を惹いていく。
淡いクリーム色は甘味も優しい林檎、真夏の太陽のように鮮やかで目も覚める色合いはマンゴー。情熱の赤と一緒に酸味も溢れるブラッドオレンジ。三種類其々のトッピング用に、美しくカットして凍らせた果肉達もトッピング用として準備してある。
「トッピングなしならスプーンだけで楽しめるし、フローズンヨーグルトもあるからハーフミックスも作れるよ」
氷の割合を変えれば、氷の色合いも変わっていく。
「果物三種全て入ったトリプルミックスもできるから、希望を言ってくれるかな?」
「音大で学ぶとあんなに音に深みが出るんですね……!」
互いの癖は知っていたつもりでも、久しぶりの四人。練習で感じた先輩二人の音はまだ、ルナの胸に余韻として残っている。
「そう言ってもらえると嬉しいですね、励んでいる甲斐があります」
より想いを、感情を言葉に籠めて音楽に乗せるために進んだ道だ。声楽科を選んだことは間違いではなかったとユメリアは思う。
「本当、腕を磨き甲斐があるのよね。知らなかったことを知る度、改善するほど音が応えてくれるの」
未悠はプロデュース方面を意識して音響や演出を学んでいるのだが、機材や舞台の構造の面からこれまでの癖の矯正を始めていた。
「いつかを思えばこそ、楽しいわ!」
それこそ衣装の想像まで始めているのだが、先走り過ぎるのも良くないと、これでいて自制もしていたりする。
「それに……好きだからこそ続けられます」
久しぶりだったからこそ、ユメリアも練習中に編曲のバリエーションがいくつも浮かんでいた。四人全員で、時には一人ひとり別々でメインにして。二人ずつの組み合わせだっていくつもあるのだ。
((いつかユニットを汲んで、それから、デビュー……))
互いに言葉にしていなくても、先輩二人の内心の願いは揃っていたりする。其々の音と出会ったから、其々の音を重ねるのが楽しいから。繋がっていく先は同じだ。
(音楽はやっぱり続けていようかな)
専門に選ぶまではしなかったけれど、エステルの心にも音楽が傍に在る。既に決まっている付属の大学ではもう少し幅広く学んでいたいから、どれも取りこぼさない程度に。
目的地であるCDショップが見えてきた。
「……そろそろ着きますね、まずは皆でひとつずつ持ち寄ってみてから、でしょうか」
声をあげたエステルにルナが破顔する。
「なら、ジャズアレンジ前提で!」
全員が好きなもの、全部やりたいから!
(皆が知ってる曲なら、初めての人には聞きやすいかも)
部員を増やす目的もあるけれど、折角なら足をとめてくれる人が多い方が良い。気付けばエステルは童謡のコーナーに足を運ぼうとしていた。
「ルナさんは……あ」
ちょうど良く立っていた場所、その棚の前に見覚えのあるタイトル。
「それ、最近兄が聞いてる曲」
「えっ!?」
びくっと奮えた勢いで落としそうになったのを、慌ててキャッチするルナの顔は一気に真っ赤だ。
「ねえ、エステルちゃん。例えば、例えばだけど……ね?」
件の曲を胸に抱えたまま、声はどこまでも小さくなって。
「聞き惚れる程上手に演奏できたら……って考えるのは……どうかなあ?」
「此方にまで声が聞こえていたよ、随分熱が入っているね?」
「これで資金を貯めてぇ、彼を旅行に誘おうと思ってるんですぅ。もうちょっとで目標額に達しそうなのでぇ、秋にお泊まり旅行に行けたらなあってぇ……キャー」
休憩スペースで行き合ったシャーリーンの疑問に照れたのか、片手にジュースを持ったまま器用にイヤイヤしてみせるハナである。
「ハナは頑張りますよぅ……!」
心に想う誰かに向けた呟きは決意がこもっている。後半戦も、この想いがあれば駆け抜けられるはず!
「なんじゃこりゃぁぁぁ!?」
フリフリポップなコスチュームを前に叫ぶボルディア・コンフラムス(ka0796)はアクションヒーローのバイトに応募したのであって、決して可愛い衣装を求めていたわけではないのである!
「フッザけんなできるかこんなもん!」
ケーヤクフリコーだ! 出て行こうとするボルディアに必死に縋りつくスタッフ達!
「人手なら他を……って何ィ、斧……?」
早歩きに変更しながらも先を急ぐクレールは所属一名の鍛冶研究会である。工芸部の焼き窯が空いたタイミングに設備を借りつつさりげなくトンデモ改造を施して、鍛冶作業ができる環境を整えてしまった一点集中職人気質、紙一重でギリギリ天才である。持病と書いて鍛冶場籠もりと読む日常生活の中、暑気あたりではなく熱気あたりでしょっちゅう保健室の世話になっているのである。なお工芸部の顧問は焼き窯として利用できるからと目こぼしを貰ったので、年中暇を見つければ鍛冶場(兼焼き場)に入り浸っている。保健室に居るのは替え玉の抱き枕という説も実は噂になっている。あと一歩で七不思議入り目前だったりする。
目星をつけていた出店の軽食をかき込んで、ステージへと一目散!
「そこの人ー、慌てなくても席はまだ空いているから大丈夫ですよ!」
慌ただしくやってくるクレールに声をかける鞍馬 真(ka5819)の腕にはボランティアスタッフの腕章が輝いている。
(ひとりみたいだし、見やすい場所に案内してあげるべきかな)
身長だとか、会場の人の入り具合とか。全体を把握しているからこそ最適な場所を示す真は非常に重宝されていた。
「あれっ? 参加希望者?」
ちょっと待って、と慌てて呼び止める。
「だったら受付はあっちだよ。この先は少し人通りが多いから、回り道したほうが早く着ける筈」
簡易マップを開いて道順を示し、さりげなく食べ終わったお好み焼きの容器を回収する。
「急ぐんだろ? ついでだからこのゴミも捨てておくよ。ステージ頑張って!」
「わあぁ、お兄さんありがとうございますー!」
「仕事だから気にしないでね。此処からでもステージは見えるし、応援させて貰うよ」
「アイスがいいです」
「そう言ってさっきも食べたけど大丈夫~?」
何より一番の薄着なシスターは、とにかく熱に弱かった。へばったアデリシアを支えるアルラウネの服も無防備を通り越して隙だらけになっている。
(どうしよう隠さないと……って)
慌てていたざくろは注意力散漫、思いきり首を圧迫され潰れたような悲鳴を上げた!
「ぐぇ」
柔らかい感触と苦しさで天国と地獄ミックスである。
(……すみません、怖がりですみません……先輩達が少しでも涼しく感じられればと……お邪魔しないようにと……)
原因であるリンゴは声には出さないけれど、先ほどまで皆で見ていたホラー映画の影響で顔色は悪いまま。本能的にざくろに助けを求めたはいいものの、うっかり首を締めてしまっていた。
(気付いてリンゴ、リンゴー!!!)
「おねーちゃーん!」
「リト、補講だった割に元気がいいな?」
まさか寝ていたのではあるまいな、と目を光らせるセシア・クローバー(ka7248)に誤魔化し笑いを返すフューリト・クローバー(ka7146)。
「ちょーっと授業中にうとうとしちゃったから補講に呼ばれただけだよー」
「待て、そもそも授業中に眠くなるというのは」
「さーさー行こー、待ってて暑かったでしょー?」
ぐいぐいと姉の背を押してショッピングモールに入っていくフューリト。
「私は調べ物をしていただけだから別に……ああもう、わかったから押すな、自分で歩ける!」
「えへへーそうこなくっちゃー」
「ふむ、出店か……イベントものだし、行こうか」
何処から回るかと悩むセシアの隣から、ふらふらとフューリトが離れていく。
「あの出店見てみよーよ」
美味しそうな気配を感じるとばかりに進んだ先で、可愛らしい花を持つ人々が見えてくる。
「アイス……だよね? おいしそーだよ」
「ババヘラというのか」
名前からは想像できない形状だが、確かにコーンの上に氷菓の花弁が重ねられ、花の形になっている。手早く花の形へと仕上げていく過程はまさに職人技と言える。
「……凄いな、何時までも見ていられそうだ」
列に並ぶ間も、創りだされていく花に目が奪われ続ける。写真で見たことはあったセシアだが、こうして実物を見るとまたひとしおだ。
「おおおおお……見た目がゴウカ……!」
見事な薔薇を受け取ったフューリトがひとくち、ぱくり。定番のバナナと苺でほっとする味だ。
「おいしーねぇ」
「うん、美味しい」
セシアの頬も緩む。微笑むと更にそっくりになる姉妹である。
「大盛? 皆で食べるなら……ふむ、少しだけ時間を貰おうか」
氷の個数で値段統一をしていたシャーリーンなので、客の注文に柔軟に対応できるのだ。
小さな容器に削った氷を溶けない程度にやさしく詰めて、形作った小さな山を皿に並べて。手早く美しく、気付けば皿の上には氷の楽園が広がっていた。
「これを積み上げた場所に飛び込みたい……」
グラニータを夢心地で堪能するアデリシアの幸せそうな様子に見惚れていたざくろだが、ふと気が付いてしまった。
「そういえば先輩達、今年で卒業なんだよね……」
思わず握りしめたのはアルラウネの服の裾。肩より下に落ちそうになって真っ赤に慌てるざくろの頭を落ち着かせるように撫でる。
「そうね~、夏が終わったら受験関係でもう余裕なくなるからね~」
「国に帰る支度も考えなくてはいけませんね」
「「そんな……」」
ざくろだけでなくリンゴも一緒に肩を落としている。
「でも、夏休みの約束は全部果たすからね~」
「宿題を終わらせてからですけれど」
「えっ、ざくろまだちょっとしか」
「ちゃんと見てあげますから」
「息抜きくらいはつきあってあげてもいいかな~?」
「差し入れなら、私に任せて下さい、先輩」
「みんな……大好き!」
『当たらなければ怖くない!』
ボルディア扮する魔法少女が愛斧片手に立ち回る。大斧当てては踏み台に、時に斧自身を足場にして。小柄な少女が大きすぎる得物を振り回す様子は愛と魔法の力によるものなのである!(設定!)
縦横無尽にステージ内を駆け回るボルディアは子供達だけでなく大人達の視線もひきつけてやまないのだ!
『仕上げるよ!』
必殺技のタイミングに合わせて大きく振りかぶり、正面のボス役と取り巻き目がけてフルスイング!
『愛と平和の心でラブリーチャーミン☆スラーッシュ!』
周囲の敵が倒れていく中、ふわりとスカートを翻し、ピースと一緒に決めポーズ☆
(あぁぁコーチョー居るぅぅぅ!?)
ステージ傍の観客席。子供達に紛れて、ミグがにこにこ拍手してくるのに気づいてしまったボルディアの精神的な明日は、どうなる!?
「やっと癒しの時間だぁ……」
「今日は英語でしたっけ、お教えしたほうが良ければ」
「流石僕のマリは特別講習を受けるくらい賢くて真面目で可愛い素晴らしい彼女だけど、開放感に浸ってる僕にそれは酷じゃない?」
「補習を受ければ赤点すれすれでも大丈夫、なんて胡坐をかいているようでは今後難しくなりますわよ?」
「確かにいいところに就職しないとね! マリに楽をさせるためにもね!」
「なっ……ッ!?」
「うん素晴しい照れ顔をありがとうマリ、初心な彼女尊い……」
「拝まないでくださいましっ」
「周囲への配慮で声量抑えるマリ最高に可愛いよね」
「ですから……っ」
「まあまあ今日のこれも僕の驕りだから、ゆっくり楽しもう?」
彼氏力(財力)を見せつけるために空き時間にバイトしているなんてことは匂わせないリク。それが学習状況に影響している自覚はあるのだろうか?
「補修を真面目に受けているのは存じておりますわ」
梨のコンポートとブドウの果肉で形作られた花を少しずつ崩して、見た目より柔らかいタルト台ごと一口分を掬い上げる。綺麗に掬えたことに満足して、金鹿はちらりとリクを伺う。
「ご褒美はご入用かしら? なーんて……」
「はぐっ♪」
腕を引かれたことに気付いた時にはスプーンはリクの口の中へと消えていた。
「ご褒美は別のがいいな?」
「今っ、今のは……」
「ご馳走様♪ 前に遊園地に行こうって話ししただろ? それご褒美ってことで!」
リクが挙げるのは観覧車のジンクスが人気の場所。金鹿の目が輝いたのを肯定とみて、ドンドン話を進めていく。
「次の休みも迎えに行くね?」
帰路も勿論リクの自転車。背中に額を押し付けながら、捕まれた腕の感触に悶える金鹿が見られるのだが、それはまた別の話である。
「リンゴ飴、これも食べちゃったらお夕飯はいらなくなっちゃうかなー?」
セシアが買ってきたもう一方、サイダーを飲みながらベンチでひとやすみ。
「今食べる必要はないだろう、お土産にすればいい」
家なら切り分けることも可能だと聞いて、フューリトの顔が勢いよく上がる。
「それだー、いい案! おねーちゃん、皆の分も買っていかなくちゃねー?」
「食べきれない程は買わないぞ?」
「わかってるよー」
残りを一気に飲み干したフューリトが勢いよく立ち上がれば、セシアも空の瓶を手に立ち上がる。
「リト、途中で寝たら土産ごと、そのまま置いていくからな?」
「だいじょーぶだもーん!」
ユメリアのピアノが静かな波を描いて、早朝の海に少しずつ命の息吹を与えていく。
『つたう飛沫がいのち紡いで、笑顔つないでほころぶ灯り……』
サックスの穏やかなスタッカートがリズムを刻んで、エステルが描くのは徐々にビーチに増えていく、人々の賑やかな声。
『空に煌めく流れ星、天の川で泳げば子守歌……』
ドラムセットのシンバルが大波の勢いを添えて、未悠の声がより大きく重なる。ユメリアの声がコーラスに回って、厚みを増やす。
『……行き違う覚悟で勢い借りて、貴方の胸に飛び込んじゃおう!』
海底の深い場所からずっと支えていたルナのベースがメロディを奏で、夕焼けに染まる落ち着いた海がそこに在った。
『走り疲れた時に、穏やかに受け止められる場所があれば……』
四曲のサビをメロディのアレンジでうまく繋いだメドレーは、ジャズの真骨頂である、四人の息の合ったアドリブの集大成。簡単な音合わせだけでイベント本番に飛び入りで臨んだ彼女達の息が合うのは、それだけ回数を重ねていたからだ。
「楽しそうだ。若いって良いねえ」
演奏を聞いたからか喉が疼くような気がして、真が微笑みを零す。最近趣味の時間をとっていないことに気付いてしまったからか、つられて歌いだしてしまいそうだ。
「うちの生徒が世話になったようじゃの」
「え? いえ、お構いなく」
振り返って見つけられず、見下ろした真を見上げてくるミグは思いきり背伸びをして真の肩をぽんぽんしてくる。
「そなたも若いのじゃ、ゆめゆめ忘れるでないぞ?」
会場をめいっぱい使って繰り出されていくワイヤーアートを指し示して、軽く肩をすくめた。
「あれくらいでかくとまでは言わぬがの」
●
「あーもー終わんなぁい!」
泣きべそをかきながら残った宿題の山に向かうステラは、けれど補習の時と同じように逃げ出すことが出来なかった。
「許して、水月くぅん……もう、無理……」
「だーめー。これはステラの宿題だもんね?」
夏休み中甘やかしすぎちゃったかな、と笑顔の水月によって、後ろからのハグ状態のまま捕まっているからだ。
「終わるまで振り向くのも、悪戯も禁止だからねー?」
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 |