• 血断

【血断】戦い終わって宴会だぁ!

マスター:馬車猪

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~50人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2019/08/22 15:00
完成日
2019/08/26 22:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●終戦
 大地は歪虚に埋め尽くされ、空には無数のひびが入っている。
 そこからこぼれ落ちる小さなもの1つ1つが、500メートル先にたむろす大型歪虚の同属だ。
「土嚢止め、飛び込んでください!」
 凜としてはいるが幼くすら声が指示を出す。
 土埃に塗れた老若男女が塹壕へ飛び込んだ直後、大型歪虚数十から十数本のレーザーが伸びた。
 熱は吸収できても負マテリアルまでは防御しきれない。
 麻袋の存在感が薄れ、中身の土も零れていないのに量が減ってバリケードが凹む。
「ハンターはどこに行ったんだよぉっ!?」
「この程度の相手に出せるかよ馬鹿野郎っ」
 500メートル先の大型歪虚……旧型の狂気である鉄触手と眼球の固まりは敵の主力でも偵察でもない。
 1000メートル先から地平線に至るまで、数え切れない歪虚がひしめいている。
「来たぞ」
「ゴーレムか!」
 頼もしい砲声が疎らに響いた。
 ゴーレム砲と炸裂弾による敵陣粉砕を夢見た元避難民現志願兵達は、敵も味方もいない場所に落ちた旧型砲弾を見て肩を落とす。
「なんでこんなに弱いんだよぉ!」
「農業用ゴーレムだからだよそんなことより来るぞ槍構えろっ」
 この地は地元精霊による結界により守られている。
 呪いじみた結界が知性を奪い破壊衝動だけを増大させ、結界内の歪虚に壮絶な同士討ちを強いている。
 歪虚にしか効かず、高位の歪虚しか抵抗できない凶悪な結界だ。
 歪虚がどんな大軍であっても、本来の力の100分の1も発揮できないはずだ。
 だが1000分の1でも十分過ぎる脅威だ。
 こちらに接近する歪虚が少し増えただけで、アサルトライフルの弾幕でも塹壕からの槍でも全く防げなくなる。
 あなたがいる場所はこんな戦場だ。
 わずかな休憩を終えて戦闘に参加する。
 剣、あるいは銃、もしかしたら術。
 残された力をやりくりして、旧型の狂気に紛れて突撃してきた全身甲冑のシェオル型を防いで押し返す。
 唐突に、乾ききった立木が裂けて崩れる音が聞こえた。
 それは大地の断末魔を思わせる響きで、実際にその音が響くたびに大地から感じるマテリアルがほんの少しずつ薄れる。
 古のエルフにはルーレと呼ばれ、今は丘精霊ルルと呼ばれる存在が、文字通り我が身を削って結界を維持していた。
「あの」
 志願兵を指揮する聖導士が、疲れの張り付いた顔をあなたに向けた。
 歳は12か13で、実践的な教育を受けているとはいえ学校に通う生徒でしかない。
 あなたと比べると心技体全てが幼児のようなものだ。
「後、何日耐えれば」
 あなたはその言葉を聞いていなかった。
 無限に押し寄せる歪虚も、徐々に力を失う大地もこの瞬間だけは気にならない。
 遙か彼方の宇宙で、今この瞬間に決着がついたのだ。
「は」
「えぁっ?」
 志願兵が奇声をあげる。
 銃声だけが酷く目立つ。
 塹壕から突き出された槍が何もない空間を何度も突いている。
 志願兵の震える手が弾倉を取り落とし、湿った土が乾いた鉄を受け止めた。
 歪虚の姿がどこにもない。
 邪神の末端の末端である旧型狂気もシェオル型歪虚も、存在を維持できなくなり全て消え去った。
 むせ返るような負の気配が同時に消え、破壊の跡だけが残っている。
 勝利だ。
 あなたが確信をもって宣言すると、最初は呆然としているだけだった人々に見る見る血の気が戻って泣き笑いの表情でへたり込む。
 服や肌が砂と土にまみれても気にならない。
 隣の生きた人間と肩を寄せ合い生きていることを確かめ合い、喜びとも悲しみともつかぬ涙をただ流す。
「よかった、これで」
 志願兵ほどでは無いが安堵している指揮官達をあなたが呼び寄せる。
 先程までの指揮官としての態度は消え、今は年相応の少年少女に見えた。
「あの?」
「えっと、私達この後何をすれば……あっ、ご飯の配給!」
 違うのだ。
 結界が全然消えていないのだ。
 王国全体を殲滅可能な数の歪虚が1つ残らず目の前から消えて、空のひび割れもあなたの視力でしか気付けないほど薄れて今完全に消えた。
 なのに結界はそのままだ。
 対歪虚に特化しても圧迫感のある結界が、歪虚を狂わせるための力を消費できないまま存在感を増していく。
「ルル様、ルル様ー!」
「終わりですっ。お祝いですよー!」
 生徒達が呼びかけても反応が無い。
 結界の存在感はますます増して歪んでいき、ぽん、と間抜けな音を立てて黒々とした何がこの世に現れる。
「う゛ぉいどはしねー!」
 それは黒いカソックを着ている。
「えくらばんざーい!」
 それはちんまりとしている。
「しねー、しねー!」
「そこのひと、ここあぶないですよー」
「しんでいいのはう゛ぉいどだけですよー」
 それは、精霊がよく知っている聖堂教会司祭によく似ている。
 ただし外見は10歳以上若返り、金髪が一房立ち上がってアホ毛になっていた。

●瀕死
 ベッドの上で終戦を知った。
「これで、全てが」
 安堵のあまり魂が抜けそうになる。
「っ」
 気合いを入れても体に力は戻らず意識もいまいちはっきりしない。
 イコニアは痛みに耐えながら医者に頼み込み、ようやく拘束から解放された。
「重体を回復する薬、調達出来ませんか? 駄目? そこをなんとか……」
 医者がため息をついた。
 肉体と魂の酷使が痛みの原因なので休ませるしかない。
 無理に回復させると肉体か魂が耐えきれず即死や狂死しかねない。
「駄目ですか」
 きつく言い含められたイコニアは、肩を落としてPDAを取り出し情報を呼び出す。
 ハンターの超人的活躍で一般人に被害は出ていないがそれ以外の被害は甚大だ。
 激戦が長時間行われた川周辺は特に酷い。
 幸いなことに、戦闘開始前に麦の収穫は済んでいた。
 食糧倉庫に被害はないので食料自体は足りる。
 だが全員限界まで疲労しているのでパンを焼くこともできない。
「そろそろ、転移装置を使って何人かハンターが来てくれると思います。今近くにいるハンターの皆さんと……」
 思考が空転する。
 頭の痛みが激しく最低限の集中もできない。
「予算と資材はこちらで用意するので避難してきた方をお願いすると伝言をお願いします。それと」
 ありがとうと伝えて下さい。
 それだけなんとか口にして、イコニアは痛みで意識を失った。

●救援依頼
 皆さんの奮闘に感謝します。
 世界は救われました。
 それはそれとして救援依頼です。
 邪神を倒す直前まで防戦を行っていた地域へ赴き、避難民数千人分の調理と慰撫をお願いします。
 現地までの交通インフラが壊滅しているため、本作戦にユニットは持ち込めず、新たに大量の物資を運ぶ込むことも不可能です。
 皆さんの手で、疲れ切った避難民が立ち上がるための手助けをしてあげてください。
 中規模のイベント用ステージもあるようなので、歌謡ショーやダンスショーも開催可能です。
 なお、現地にある食材は小麦と南瓜とジャガイモのみです。

リプレイ本文

●平和
 空は青く風は爽やかで、白い雲は鮮やかだ。
「拙いですねー」
 そんな光景に戦時並の危機感を抱いているおねーさんが1人。
 今日も髪の先から爪先に至るまで完璧な星野 ハナ(ka5852)である。
 静かすぎて落ち着かない。
 動くだけで大地を削る大型歪虚や、空を埋め尽くすレーザーの印象が強すぎて、ハンター以外の人間が現状を受け入れられていないのだ。
「すみませんっ、南瓜をもう一箱持って来ます!」
 初々しい少年が顔を上気させて駆け出そうとして、ハナの咳払いによって止められた。
「違いますよー? ああ、顔を動かさず見て下さい」
 少年は言われた通りにしようとして目だけで無く顔も少し動かしてしまう。
 避難民が座り込んでいる。
 風雨をしのげるテントが割当てられているのに、そこに行く気力もないのか生気が抜けた顔で惚けている。
「これって……」
 ここだけでも数百はいる。
 避難民総勢数千のうち半分がこうだとしたら、手当をする人数が絶対に足りない。
「あんまり良い匂いがする食事は出したくなかったんですぅ」
 ハナたちハンターの腕なら、今ある食材だけでも凝った料理を作ることが出来る。
 しかし避難民全員に行き渡る量を作るのは困難だ。
 食べ物と恨みというのは強烈であり、最悪の場合は暴動が起きてもおかしくない。
「仕方がないですぅ」
 傷ついた人々の心を癒やすために、ちょっと無理をすることに決めた。
 簡易釜程度では全く足りない。
 ハナが組み上げた釜が複数、猛烈な火力で鍋を加熱する。
 新鮮な油が弾けて良い音を立てる。
 そこに投入されるのは大量の細切りジャガイモだ。
 少し時間が経つだけで油より蠱惑的な香りとなり、精神的に瀕死だった避難民の心を賦活する。
 エステル・ソル(ka3983)が頑丈な鉄笊でフライドポテトを掬い上げ、油を切って特大皿に並べて塩を一振り。
「持っていってください!」
「はい!」
「頑張ります!!」
 生徒達が両側から皿を持って運ぶ。避難民からの視線には殺意に近いものが混じっているので、正直ストレスで胃が痛い。
 エステルは気付いてはいるが気にしない。
 以前とは違って歪虚はいない。多少揉めることはあっても人死にはないと確信しているからだ。
 それになにより、10以上の釜を使って複数の料理とお菓子を作るのは高位覚醒者であるエステルにとっても重労働で料理以外に意識を向ける余裕がない。
 生徒の女子組が必死になってエステルの真似をしようとして目を回していた。
「大丈夫です。これも持って行って下さい!」
 焙った薄切り肉と野菜を載せたバーガー。
 完璧にすり潰したカボチャスープ。
 食後のデザートは綺麗に畳んだクレープにジャムや蜂蜜を包んだ甘いお菓子。
 じりじりと迫ってくる避難民へ、冷や汗まみれの生徒少年組がエステルの料理を運び続けていた。
「わふー!」
「わふー!!」
 避難民の子供達が口元に食べかすをつけたまま元気に走り回っている。
 先頭はアルマ・A・エインズワース(ka4901)だ。
 身長の割には細身で一見体力がないように見えるのに、肩車した子供にほとんど衝撃を与えず高さと速さを楽しませるという高等技術を披露している。
「次あたしー!」
「僕っ、僕のせてっ」
 はしゃぐ子供の中に引っ込み思案な一人を見つける。
「僕とあそぶですー?」
 周囲が反発を覚えぬ絶妙のタイミングで抱き上げ、肩車の子供は順次載せ替えながら南下する。
 どれだけ行ってもテントが続いている。
 時折建設途中の仮設住宅があるが、必要数が多すぎて足りていない。
「わふーっ」
「すげーっ!」
 色鮮やかなボールが10個宙に舞う。
 トリプルJ(ka6653)が手を伸ばし、落ちてきたボールの速度を落とさず横にやっては上に飛ばす。
 手足の加速と減速が圧倒的だ。
 鍛え抜かれたすらりとした体が踊りで魅せ、速度と高さが常に変化するジャグリングが子供だけでなく大人まで惹きつける。
「あの結果がこれか……悪くないんじゃね」
 トリプルJの口元がほころぶ。
 子供と学校を守れた。
 避難民もほぼ無事だった。
 失われたものもあるとはいえ、これ以上を望むのは無理がある。
「ちょっと休んで元気になろうぜ、なあ」
 10の玉を受け止め静止させ、子供達ににやりと笑う。
 子供達はまだ、自分達の置かれて状況を理解出来ていない。
 それでも、爽やかな男から元気をもらって久々の笑顔を浮かべ……いきなりトリプルJが噴き出した炎に驚嘆した。
「料理の準備が出来たみたいだぜ。そら、そこに兄ちゃんについて行きな」
 アルマが子供達の面倒を引き継ぎ、ハナが担当する調理場に連れて行く。
「かわいいイコニアさんです? ご本人じゃないですけど……」
 ファンシーなメイスとカソックの外見10歳児がアルマを見上げている。
 避難民には学校の生徒に見えているのだろうが、優れたハンターである守護者でもあるアルマにはその正体が分かる。
 ルルと呼ばれる、この地を象徴する精霊だった。
「う゛ぉいどはー?」
 本人は歪虚を倒す聖堂戦士を気取っているつもりらしいが表情は遊びをせがむ子供でしかない。
 アルマが背負うと、きゃーと歓声をあげて騒ぎ出す。
 その声を聞いた瞬間、カイン・A・A・マッコール(ka5336)が油から引き上げた直後のドーナツを取り落としかけた。
「イコニア……」
 この場にいるはずがないと分かっているのだが、無邪気に喜びの感情を爆発させる声を聞かされて反応しないというのは無理だ。
 命を賭けて愛する女に似すぎているのだから。
「っと、ルル様か」
 避難民を元気づけるために料理を作る方が優先だ。
 それを放置してお見舞いにいったら怒られる。
 そう自分に言い聞かせて生地作りまで平行して行うカインの元に、イコニア(10)状態の精霊とアルマがやって来る。
「ちょっとカインさん借りますです!」
 アルマが周囲の生徒達に断りを入れている。
 精霊は緑の瞳を好奇心できらめかせ、ドーナツの甘い香りに小さな鼻をむずむずさせた。
「もっと小さい子供優先だ」
 腹持ちの良いジャガイモ菓子は食べ盛りの少年へ。
 柔らかく消化の良いものは体力の落ちた避難民や幼児達へ。
 くれないの? と涙目になる精霊は、イコニアの幼い頃そっくりだった。
「僕をからかうつもりじゃないんだよな……」
 もしそうならげんこつを1発落とすつもりだが、この精霊は性悪ではない。
 単に、猪突猛進で考えが足りないだけだ。
「ちょっと冷えてるけど、これ食べていけ」
 少し形の崩れたドーナツを手渡す。
「ありがとう!!」
 満面の笑みに、釣られてカインも微笑んでいた。
「あの、姐さん、他の場所とメニューが……」
 いかつい男が艶やかに微笑まれ、心の底から震え上がった。
「オートミールかクラッカーを選ばせてやるですぅ」
 裕福な学校や法人が備蓄していただけあり味は良いのだがしょせんは保存食と速度最優先料理。
 エステルやカインが作るお菓子とは次元が違う。
「そこのスープは自分で掬って飲むですぅ」
 鍋が足りずドラム缶だ。
 出来自体は素晴らしい。
 仮設住宅で骨身を惜しまず働く彼等にとり、干し肉と油の入ったそれこそが体の求める物だ。
「せめてそっちのパンを頂ければなーなんて、いえ1つだけ! せめて半分っ」
 ハナの手により高速度で練られ、女子生徒の手で安置場所へ運ばれて行くパン生地を切なげに見る。
「100人の料理なら学校設備で出来ますけどぉ、数千人の料理を半日2回って考えたら今日はもうパンは無理ですぅ」
 かつては町のごろつきだった男達が悲しげに肩を落とし、スープを口に入れた瞬間喜びと情けなさが混じった変な顔になっていた。

●荒魂から和魂へ
 ルル!
 るるじゃないよいこにあだよ。
 どこにいるの?
 ひとがいっぱいいるとこー。おねーさんだれ?
 フィーナ・マギ・フィルム(ka6617)はエレメンタルコールを維持したまま安堵の息を吐いた。
 ルルがフィーナのことを忘れているように見えるのは表面だけだ。
 声には甘えと信頼がみっちりと詰まっている。
 手が届く距離にいたら確実にフィーナじゃれついていたはずだ。
「ルルの居場所が分かった」
 フィーナはルルを宥めながら、他のメンバーに通信を送った。
「見つけたの!」
 魔導エンジンの補助だけでは説明のつかない高速で、魔導ママチャリがテントとテントの隙間をすりぬけチビイコニアの前で急停車した。
「う゛ぉいど?」
 見るからに聖導士なディーナ・フェルミ(ka5843)に気付いて表情が引き締まる。
 空に漂う冷たい気配がイコニア(10)に集まってくる。
「ルル様、戦闘は終わったの」
 ディーナは真剣だ。
 守護者と精霊が対峙し風が止まる。
 小さな手がメイスを構え、守護者が懐から小さな物を取り出す。
 それはとても可愛らいサイズと色使いで、非常に柔らかく離れていても上品な香りが届く。
「戻って下さいなの、ルル様……えいえいえい」
 ディーナが手を伸ばせば精一杯開いた口でマシュマロを受け止められ、敢えて向きをずらせば慌てて近づいて来てマカロンが咥えられる。
 明らかに、精霊の人格の割合が増えている。
「ルルさ~ん、戻った~?」
 メイム(ka2290)が何かの準備をしているが精霊は気にしない。
 対歪虚結界を張ったときにイコニアを真似し過ぎたため、自身が精霊であることを半ば忘れて思考もイコニアに似てしまっている。
 ルル自身の甘味好きとイコニアの甘味好きが共鳴して、お菓子以外の食べ物が目に入らない。
 既に、歪虚のことを忘れかかってはいた。
「特製カルビだよ。早くしないと猫とキノコにお肉わけちゃうよー?」
 猫が寄ってくる。
 いつの間にか住み着いたユグディラも寄ってくる。
 肉を鉄網に載せてかまど上に置くと、複雑な香りと脂の香りがふわりと広がる。
 おろした大蒜と生姜、スライスした玉ねぎを加え、ドワーフの酒で漬け込んだ焼肉用の肉だ。
 ルルの好みに徹底的にあわせ、イコニアの好みからわざと外した逸品であった。
「おいしそう」
 メイスが足下へ落ちていく。
 地面に触れる前に空気に溶ける。
「邪神は消えたらしいよ、皆の大活躍で。イコニアさんも、満身創痍だけど生き残った」
 火が通った薄切り肉を串に刺して手渡す。
 それは冒涜的なほどの魅力的で、イコニアのままの顔にルルの表情が浮かび、行儀悪く食いついた。
「うまー! メイムおかわり!」
「はいはい」
 徐々に厚い肉を渡す。
 肉汁とタレを吸い込んだキノコを渡すのも忘れない。
 ひたすら食べ続け、猫達からの視線が冷たくなってきた頃、相変わらずイコニアに似ているルルが、けぷっとげっぷを履いた。
「はい、これは約束のルルチョコ3の追加だよ。ルルさん、意識ははっきりしてるー?」
「してるよー。んんっ、していますよ」
 はっとして厳かな態度をとっても口のまわりが脂まみれで、無意識に高級チョコを捕まえ今にもかじりつこうとしている。
「お肉とチョコ食べ終わったら、他の皆にも会って来てね♪」
「んんっ、今は直接跳ぶ余裕はないので」
 ソナ(ka1352)が清潔なハンカチを取り出し、慣れた手つきでルルの手と口元を拭いてあげる。
 手際が良いだけでなく非常に優しい手つきで、気付いた老人達が優しい目になるほどだがルルは激しく動揺する。
 親しいエルフは何人もいるが、丘精霊ルルにとり現代のエルフの代表は目の前のエルフだ。
 散々世話になっているのでお説教が始まっても逃げられない。
「ルル様がすごく頑張って下さったから沢山の命が守られました」
 常時警戒を続けていた聖堂戦士も、今はベッドの上で療養中か食材運搬中だ。
「想いの先は其々でも、ルル様の下に集まり和を成す」
 価値観も種族すら違う人々が、聖堂教会ではなくルルを象徴として集って協力し合っている。
「ですが、人は誤った方向に信念をもつことも。ルル様の想いは聴かせて欲しかった」
「それは止められました」
 ハンターに甘えるルルの部分と、土地そのものである精霊の部分が均衡した表情だ。
「私が口を出すと、私が直接背負うことになるからと」
 ソナはコメントを避けた。
 ルルは支配者には向いていない。
 権力を持てば間違いなく派手に失敗するので真っ当な忠告だ。
「私は舞台の準備に回ります。ルル様は?」
「消耗が激しいですから丘で休みます。ソナも元気で」
 言動は上品になっても、身振りでお菓子とお肉のお土産を要求する欲望に忠実な精霊であった。

●一般人達
「勝ったのは良いけど、これからが大変だね……」
 包帯を固定して鞍馬 真(ka5819)が離れると、覚醒者としては熟練で、ハンター基準ではようやく中堅というレベルの男が安堵の息を吐いた。
 真が美人過ぎる。
 整った中性的な顔立ちというだけでなく、よく手入れされた黒髪も涼やかな蒼の瞳も目に毒だ。
「ははは、私等も頑張りますんで」
 迷いを振り切る様に勢いよく頭を下げ、隣領の貴族私兵が配給所の警備のため駆けて行く。
「はい次の人! 駄目だよ雑に扱ったら」
 若手の兵士の隣に跪き、微かに汚れの残った傷口の近くを手で掴む。
「え、でもっ、痛ぁーっ!?」
 清潔な水と消毒液を惜しまず使って清潔な状態にする。
 ガーゼをあてて包帯をくるりと巻いて応急処置完了だ。
「きみ達、どうして生徒達にヒールを頼まなかったんだい?」
 同じような負傷者を見つけ、真は全員をまとめて注意する。
 心から心配されているのが分かるから、最も若い者でも真より年上の兵士達が神妙に聞いている。
「この程度舐めていれば直りますぜ」
「そ、そうですよっ」
 真がじとりと見つめると反論の声が消えた。
「甘く見ては駄目だ。ここまで五体満足で生き残ったのに、復興に関われずに寝たきりになるのは嫌だろう?」
 真の実力を感じとれないようや雑魚はこの場にいないしそもそも生き残れない。
「みんな着いてきて。一度しっかり診てもらおう」
 誰も、逆らえなかった。
「おはようございます」
 穂積 智里(ka6819)が一度振り返って礼をして、すぐに領主へと向き直る。
「ですから、体力が上限まで回復すれば疲労の回復も早いのではないでしょうか」
「この状況で癒やしの技や品がいくらするか分かるだろう。復旧に回す資金が無くなれば今癒えても……」
「その場合はここから融資を……」
 平時であれば守護者でもすぐには会えない地位にある領主相手に堂々と主張している。
 今は即座の命のやりとりはなくても緊急時であり、交渉のためにどの位置にいればいいかの勘が働いていた。
「避難民さんが元気に帰宅するためには、領主様達が元気な姿を見せて帰還計画を発表する、これ以上に避難民さんを勇気づけ元気づける方法はないのではないかと思います」
「全く、君が未婚なら長男を押しつけているぞ」
 領主は智里の薬指をちらりと見て、智里の提案を全面的に受け入れた。
「んんっ、負傷者がいたらこちらに集まってもらって下さい!」
 少し顔を赤くしたまま、真に頼んで人を集めてもらう。
 重傷の人間はいないが血の臭いがする程度には酷い。
「はい、深呼吸して」
 戦争を乗り越え益々冴えを増す癒やしの技を使う。
 精度も効果も聖導士学校生徒のそれとは別次元に優れていて、兵士だけでなく領主も圧倒され声も出なかった。

●陽が落ちて
「あの葉が落ちたら……」
「はいはい、暇だからリアルブルーのドラマでも見たんだね」
 宵待 サクラ(ka5561)が差し入れの中身を確認している。
 イコニアが死ぬか再起不能になれば利益を受ける部署や組織が多数有るので、カインからの差し入れでも手を抜けない。
 途中で曲者に毒をを仕込まれている可能性もあるからだ。
「このまま2時間ごとの体位交換が必要な生活が3か月続くのかと思ってたからなあ……イコちゃんが1度でも目を覚ましてくれて本当に良かったよ」
「いっそ気絶したいんですけどねー」
 あははと笑うが力が感じられない。
 気を抜けば自分自身の頭を破壊したくなるほど、痛いのだ。
「はいこれ大丈夫」
 小さなチョコレートケーキと、保温カップに入ったレモンティーだ。
「あ、これなら匂いが分かります。頂きます!」
 喜んでちまちま食べ始める。
 ケーキが舌に触れた瞬間だけ、レモンの酸味を舌と鼻で感じたときだけ、強烈な痛みを忘れることが出来た。
「イコちゃん、南方大陸開拓が始まるらしいよ。いざとなったら2人で紛れようか」
 冗談のようにかけた言葉は半ば以上本音だ。
 サクラの友はそれほど危険な位置にいる。
 他領の避難民数千人を救うのに協力しても全く足りない。
「司教様達がまとめて引退しそうなんですよね……」
 甘いため息をつく。
 隠居してもおかしくない年齢と体力の司教達が、歪虚に対抗するため心身をすり減らして一線にいたのだ。
 邪神を退けた今、安堵と達成感で緊張の糸が切れるのは自然なことだ。
「それじゃ私は今日の演習引率に行くね。サイさん達の指示はちゃんと聞く様に」
「はーい」
 相変わらず、生気の薄い笑顔だった。
 静かなノックが響いた。
 以前ならその前に気配に気づけていたはずなのに、今のイコニアには3度目のノックでしか気づけない。
 窓越しに安全の合図がされているのを確認してからどうぞと声をかけると、戦闘用の装備なのにほとんど足音を立てずにドラグーンとエルフが入って来た。
「よかった」
 ユウ(ka6891)がほっと息を吐く。
 無事とは聞いていても直接うまでは確信できなかった。
 それほど激しい戦いで、それだけ大規模な法術を使ったのだ。
「これをどうぞ。マカロンは……ルル様が全部食べちゃいましたけど」
 直ってからですよと貴重な酒を2瓶並べるイツキ・ウィオラス(ka6512)に、ベッドの上に司祭が心配そうな目を向ける。
「イツキさん、ご無理は……いえ、無事なお帰りを」
 武運を祈るという言葉を、口にする気にはなれなかった。
 複数の篝火が舞台を照らしている。
 腹が満ち、ようやく生き延びた実感を持てた避難民達が、エステルのフルートの音に惹かれて少しずつ集まってくる。
「繋ぎ、導いて、辿り着いた勝利と日常」
 始まりを告げる口上であるのに、アリア・セリウス(ka6424)の声が音楽として耳に届く。
「祝いの為、祈り、願い、これからを誓う為に、心の儘に響かせ、歌いましょう」
 膨大な鍛錬と優れた技術が、その言葉を控えめな表現に感じさせる。
 緊張した様子の生徒達がステージに並ぶ。
 真剣な表情のエルフが楽器を構える。
 主旋律を担当するのはアリア自身だ。
 音を大きくする機械もないのに、透き通る声と凛とした鋭い響きを維持したままステージ周辺の数百人に響かせる。
 生徒達も負けてはいない。
 アリアと比べと技術は拙くても練習を積んだ声で、精霊への感謝を込めて唱和する。
 演奏は添え物に徹している。
 月の光を思わせる美女が、常人離れした身体能力で思いを踊りとして表現しているのだ。無粋な色を加える気にはなれない。
 肝心のアリアは少しの寂しさを感じている。
 観客が心動かされていても、かつてこの地で何がありそれ故何を目指したかなどはほとんど伝わっていない。
 だが今はこれでいいのかもしれない。
 聞き手である避難民は、今はまだ癒やされるべき人々なのだから。

●学校
 夜空に色とりどりの花が咲いた。
 打ち上げる者の想いが色濃く反映されていて、夏の空のような蒼と、過酷な勤務状況を示すどんよりした灰色が混じっている。
「休憩はしっかりと。夜番の方は安全第一でお願いします」
 10代前半の生徒はソナに誘導されベッド行き。
 それ以上の年齢の聖導士は少し疲れた足取りで警備に向かう。
 その中には、農業法人の社員も含まれていた。
「おおエステル殿!」
 暑苦しいほどに感謝の感情を露わにして、元王国騎士現ルル農業法人社長がエステル(ka5826)の両手を握って上下に振った。
 相手が妙齢の女性でなければ感極まり抱きついていた。
 戦場で命を救われたのはそれほどの劇的な体験なのだ。
「ご無事で何よりです。……奥様は?」
 社長の顔が別人のように引き締まる。
「そろそろですし、見知らぬ人間が多すぎるので病院に1部屋借りています。よければ顔を出してやってください」
 最早ただの退役騎士ではなく将来性があり過ぎる企業のトップで、その妻も経理を受け持つナンバー2だ。
 これだけ手を打っても万全とはいえない。
「ええ、ルル様と一緒に。ところで」
 今後1週間程度で必要な物資一覧をPDAで示す。
「うっ」
 種類も数も凄まじい。
 社長の処理能力を明らかに超えている。
「ではこれは奥様に話を伺うと言うことで」
 イコニアから権限を預かっているので話は短時間で済むはずだ。
「ところで農業ゴーレムは?」
「無理をさせ過ぎました。修理に出すまで動かしたくないですな」
 塹壕堀りからゴーレム砲による射撃まで慣れない作業を強いてしまった結果、メーカー修理必須なダメージを負っていた。
「その分私達が働きますとも。……戦闘は、もう無理でしょうが」
 避難民ほどではないが、社長も精神的に疲弊していた。
 そして翌朝、というより夜明けの寸前。
 焼きたてでまだ熱いパンが山を作り、強烈な脂の香り漂うスープが1人あたりどんぶり1つ。
 それを黙々と食らう少年少女を、ディーナが温かく見守っている。
「貴方達が元気にならないとみんなが家に帰れないの。家に帰る前に1回くらいお祭りできるかもしれないけど、それにはまず疲労と体力回復なの」
 朝から晩まで警備や仲裁や調理で酷使されている。これだけ食べても痩せてしまうのだ。
 全員行儀は悪くないが、飛び抜けて洗練された子供達が1つのテーブルに集中している。
 同一派閥から増援として送られてきた、この学校の卒業生だ。
「こんにちは、みなさん。仕事にも慣れたようで何よりです」
 徹夜の見回りを終えた直後なのに、平然と平らげたハンス・ラインフェルト(ka6750)がスプーンを置いた。
 かつて受け持った子供達が、落ち着きと凄みを感じさせる顔つきになっている。
 なお、全員ブライダル産業に就職していて、人間的な修羅場は潜っていても戦闘力はほとんど変わらない。
「貴方方が疑似的に戦地を味わえるのは幸運です。貴族に連なる貴方方は、こういう時にも他者よりも良い食材、良い衣料を手にすることが可能でしょう。それを人に見せびらかしたり手に入ると匂わせてはなりません。飢えた人はパン1つのために人を殺します。人を救いに行って、その相手に殺されるのは双方にとって不幸です」
 必要だから食らい、必要だから隠す。
 それが癖になってしまえば利だけをむさぼる人間に墜ちるという険しい道のりだ。
「苦しみと妬みは容易く怒りに転化し他者を傷つけます。貴方方はそれを決して忘れてはいけませんよ。……さて」
 新人従業員達がびくりと震える。
「見回りついでに戦闘訓練と参りましょうか。以前と比べて肝は据わっているようです。腕についた錆びも落とさなくてはね」
 勿論、拒否権など存在しない。

●人と精霊
 司祭は黙ってうなずいてくれた。
「病める時も」
 聖職者として位階よりも存在感がある
「健やかなる時も」
 イコニアを通じて高位の精霊が語りかけているようにも感じる。
 参列者もいないたった3人の式が、常人では生きて生けない純度のマテリアルで満たされている。
 それでも北谷王子 朝騎(ka5818)は胸を張り、可憐な装束の花嫁の横に立っている。
「では」
 イコニアから感じる気配が、少なくとも緑の目が目視可能な程度に弱くなる。
「指輪の交換を」
 朝騎は腹に力を入れ、外見はともかく中身は元に戻ったルルの前で跪く。
 小さな指が震えている。
 精霊と人間は生きている領域が違う。
 近づきすぎれば諸共に破滅する未来が訪れる。
 朝騎から距離をとるべきだと思っているのに、ルルは動けなかった。
「世界中の誰よりも貴方のことを愛していまちゅ」
 それは音ではない。
 純粋すぎるマテリアルは音を伝達せず、魂から魂へ直接意思を届ける。
「朝騎のお嫁さんになって下ちゃい」
 微かに触れ合うだけのキスをして、1人と1柱の魂が結びつけられた。
 霊的な感覚では、式が終わって数時間経っても太陽じみて輝いて見えた。
 フィーナは森の中に腰を下ろそうとして、バランスを崩して受け身も取れずに緑の中へ転がる。
 痛みはなかった。
 疲労と不調で感覚が鈍くなっているというだけでは説明できない。
 立派に育った木も、絨毯の様な下草も、漂うマテリアルや空気までもフィーナを優しく包んでいる気がする。
「ルル……」
 返事はなくても気配がある。
 丘精霊ルルの精霊としての側面がフィーナを受け入れ、心身の消耗を最小限に抑えてくれている。
「私は、ここで」
 精霊がフィーナのために作ってくれた森の中で、選択の時が迫っているのを感じていた。

●生まれ変わった土地で
 戦馬が颯爽と駆けている。
 厳しい環境で育成・訓練されたとはいえ環境が良い方が力が出る。
 負マテリアルが非常に薄く、生気に満ちた土地を駆けるの簡単で最高に楽しい。
 エルバッハ・リオン(ka2434)が軍用双眼鏡を顔に当てている。
 隣領までよく見える。
 以前は負マテリアルが濃すぎて途中で見えなくなっていたのに、今では痩せた農民の姿までくっきりと見える。
 だから、歪虚を発見するのもかつてとは比べものにならないほど容易い。
「1、2」
 広範囲を見渡しても歪虚は2体しかいない。
 素になる遺体もなく生成された、辛うじて雑魔に分類される程度の微弱な歪虚だ。
「雑魚同然の歪虚であっても」
 主の意を察して戦馬が走り出す。
 土は硬いが微かに湿り、ところどころに緑の芽生えがある。いずれ育ったときに是非食べたいと思える草だ。
「避難民の目に触れたら彼らの士気に悪影響がでそうですからね」
 術を使う必要もないが、術を全て使い切る機会も既にない。
 馬を存分に駆けさせた後、十分狙ってから風の刃を放って確実に止めを刺す。
 ただ、土地が非常に広いので、駆け回るのに時間をとられ調理に協力する時間は残らなかった。
「イツキさん、そちらに向かいました!」
 雨が降り出している。
 その状況でもユウの目にははっきりと見えているが、半透明の大型歪虚に追いつけない。
 大型といっても旧型狂気よりはずっと小さい。
 鳥を大きくして歪めた、この地に縁が深いハンターにはなじみ深い歪虚だ。
「やはり、いましたか」
 イツキが奥歯を噛みしめ、目を逸らさずに歪虚を見つめる。
「謝罪を」
 想いを受け取ったと言いながら、幼い歪虚を迎えるという選択肢をとらなかった事をただ謝意と共に告げ。
「だから」
 星神器は解放しない。
 大精霊から世界守護を託されたハンターではなく1人のエルフとして槍を振るい、嘴と爪を弾いて防ぐ。
 かつてない殺意がイツキを襲う。
 肌が粟立ち心臓が不規則に鼓動し、けれどイツキの動きを乱すには全く足りない。
 目の前の闇鳥は過去の時点で完成している。
 対邪神戦を戦い抜き、今なお成長を続けるイツキとの差は開くばかりだ。
「全部背負って」
 貫き、退き刺す。
 下がる歪虚を追って大地に縫い止める。
「歩み続けます」
 最後の瞬間まで、決して目を逸らさなかった。

●めでたし
「かくして平和になりました、と」
 グラス越しに見て楽しみ、ちびちびと味わい夜風を楽しむ。
 ミグ・ロマイヤー(ka0665)と共に楽しんでいた司教達は、薄い毛布にくるまって気持ちよさそうな寝息をたてている。
「まだ直っとらんのじゃろう?」
 聞き覚えのある足音だが乱れがある。
 壮絶な痛みに耐え、無理矢理歩いているとしか思えないリズムだ。
「ずっとベッドにいても心が参りますから」
 ユウに護衛されながら、足を引きずりミグの隣のデッキチェアに腰を下ろす。
 下ろした瞬間音のない悲鳴をあげ、ユウにそっと背中を撫でられていた。
「この瞬間に終わることが出来るのなら、めでたしめでたしで済むのでしょうね」
 瓶の封を切って欲しいと訴えても、ユウは断固として拒否をする。
 肩を落として背もたれに体重を預け、司祭はまた痛みに耐え悲鳴を我慢し息を吐く。
「随分弱っておるな。睡眠時間は」
 つまみの載った皿を手渡してやる。
「寝転がって目を閉じているだけです。あれだけマテリアルを酷使してこの程度で済んでるのをエクラに感謝しないといけないんですけど」
「感謝も謝罪も直ってからでよかろう」
「そこまで割切るのはなかなか……」
 ナッツの殻を外そうとして取り落とす。
 ユウが空中で受け止めたことにも気づけない。
「覚悟はしてたつもりなんですけどね」
 痛い。
 思考の8割以上が痛みでそれ以外のほとんどが現実逃避の思考だ。
 尊敬し、強い友情を感じているユウが近くにいなければ確実に泣き叫んでいた。
「ユウさん」
 目を動かすのも億劫で、ユウが回り込んで視線をあわせたことにも十数秒かかって気付く有様だ。
「突入してから何があったか、教えてくれませんか」
「そう……ですね」
 ユウの気配が乱れた。
 喪失感が巨大で思い出すだけでも苦しい。
 いつかは消化して力に変えなければならないのかもしれないが、今はまだ無理だ。
「凄く広くて、寂しい場所でした」
 だから少しずつ向き合う。
 自分自身が経験したことを1つずつ口にして共有し、今日を耐え明日に向かうための糧にする。
「最初に竜が助けに来てくれて……」
 苦痛に震える友を労りながら、少しずつ、少しずつ、前に進んでいくのであった。

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MVP一覧

  • タホ郷に新たな血を
    メイムka2290
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852
  • 闇を貫く
    イツキ・ウィオラスka6512
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJka6653

重体一覧

参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 聖堂教会司祭
    エステル(ka5826
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 闇を貫く
    イツキ・ウィオラス(ka6512
    エルフ|16才|女性|格闘士
  • 丘精霊の絆
    フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
    エルフ|20才|女性|魔術師
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • 無垢なる守護者
    ユウ(ka6891
    ドラグーン|21才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/08/21 18:26:31
アイコン 質問卓
北谷王子 朝騎(ka5818
人間(リアルブルー)|16才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2019/08/19 18:51:56
アイコン 相談卓
北谷王子 朝騎(ka5818
人間(リアルブルー)|16才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2019/08/22 00:26:51