ゲスト
(ka0000)
帝都に流れる『新アイドル』の噂
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/07 12:00
- 完成日
- 2015/02/13 03:18
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
最近、帝都には『新たなアイドルが現れた』との噂が流れている。
現在帝国唯一の軍属アイドルであるグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)とは明らかに違う彼女は、ある日は大きな市でミニライブと握手会、ある日は城へと続く道でチラシ配り、ある日は突然広場の舞台に現れて1曲歌って踊って帰るなど、とにかく突如現れて突如去っていくという。
歌やダンスは、さすがにグリューエリンには劣るという声もあるが――幾分露出が多めの煽情的な衣装や、それが似合う高めの身長と恵まれたスタイル、気の強そうな美貌で、帝都の人々の興味を惹いているらしい。
帝都ではそのアイドルを見ることが出来たら幸運が訪れるとか、恋人が出来るなんて話まで出ているとか、それを信じていても信じていなくても、突然の新アイドルが自分の目の前に訪れることを楽しみにしている人も多いとか――
「……と、未確定情報ばかりで申し訳ないんだが……」
帝国歌舞音曲部隊長クレーネウスは、集まったハンター達に申し訳なさそうに説明を始めた。
「歌舞音曲部隊員も出来るだけ調査には出ているんだが、何しろいつもどこに現れるかわからないのが特徴らしくて、上手く出くわせないでいるんだ。だけど彼女の行動は……明らかに、何らかの形でのデビューを狙ったものだと思う」
つまりはグリューエリンのライバルとなるかもしれないのか、と尋ねたハンターに、クレーネウスは大きく頷いた。
「未だ身元は不明だけれど、個人の活動とは思えないね。背後に、誰かが……そして、帝国内のどこかの組織が存在しているかもしれない」
事実、舞台で1曲歌って行ったときは、簡単なものだが音響装置が使われていたという。それは、1人の少女が自分の力だけで調達して扱えるものでは決してない。
「だから、今回はハンターの皆に調査を頼みたいんだ。調査なら部隊員よりも、ハンターの皆の方が専門だからね」
不確定なことも多いがよろしく頼む、と頭を下げたクレーネウスは、ハンター達を見送ってからぽつりと口を開く。
「…………まさかとは、思うけど。……莉子……?」
突如現れてパフォーマンスを行い、そして風のように去っていく。
それは――10年前、己が考えた手段と全く同じ。
「まさか……ね。莉子は、俺を否定して、去って行ったはずだ……」
頭を押さえ沈み込むように椅子に座り込んだクレーネウスは、長い間そのまま動かなかった。
「……順調ね。既に存在するアイドルという下地があるだけで、こんなにも話題を呼ぶのが楽だなんてね」
大きな魔導機械の置かれた部屋に、女の呟きが落ちた。
全ては――己が果たせなかった夢を、叶えるため。
下層階級から拾ってきた少女は、己が見込んだ通りの輝きを見せている。まだまだ至らぬ点は多いけれど、それをカバーしてくれるのは――
「私の知識と、この機械があれば大丈夫――さぁ」
仕上がったばかりのポスターを、女は広げて天井の灯りにかざす。
そこには長身でスタイルの良い、銀髪に蒼い瞳の少女の姿。大人っぽく露出多めの衣装に身を包み、挑戦的な笑顔が女へと向けられる。
それに負けぬほど、楽しげに女は笑った。
――デビューの時ね。
現在帝国唯一の軍属アイドルであるグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)とは明らかに違う彼女は、ある日は大きな市でミニライブと握手会、ある日は城へと続く道でチラシ配り、ある日は突然広場の舞台に現れて1曲歌って踊って帰るなど、とにかく突如現れて突如去っていくという。
歌やダンスは、さすがにグリューエリンには劣るという声もあるが――幾分露出が多めの煽情的な衣装や、それが似合う高めの身長と恵まれたスタイル、気の強そうな美貌で、帝都の人々の興味を惹いているらしい。
帝都ではそのアイドルを見ることが出来たら幸運が訪れるとか、恋人が出来るなんて話まで出ているとか、それを信じていても信じていなくても、突然の新アイドルが自分の目の前に訪れることを楽しみにしている人も多いとか――
「……と、未確定情報ばかりで申し訳ないんだが……」
帝国歌舞音曲部隊長クレーネウスは、集まったハンター達に申し訳なさそうに説明を始めた。
「歌舞音曲部隊員も出来るだけ調査には出ているんだが、何しろいつもどこに現れるかわからないのが特徴らしくて、上手く出くわせないでいるんだ。だけど彼女の行動は……明らかに、何らかの形でのデビューを狙ったものだと思う」
つまりはグリューエリンのライバルとなるかもしれないのか、と尋ねたハンターに、クレーネウスは大きく頷いた。
「未だ身元は不明だけれど、個人の活動とは思えないね。背後に、誰かが……そして、帝国内のどこかの組織が存在しているかもしれない」
事実、舞台で1曲歌って行ったときは、簡単なものだが音響装置が使われていたという。それは、1人の少女が自分の力だけで調達して扱えるものでは決してない。
「だから、今回はハンターの皆に調査を頼みたいんだ。調査なら部隊員よりも、ハンターの皆の方が専門だからね」
不確定なことも多いがよろしく頼む、と頭を下げたクレーネウスは、ハンター達を見送ってからぽつりと口を開く。
「…………まさかとは、思うけど。……莉子……?」
突如現れてパフォーマンスを行い、そして風のように去っていく。
それは――10年前、己が考えた手段と全く同じ。
「まさか……ね。莉子は、俺を否定して、去って行ったはずだ……」
頭を押さえ沈み込むように椅子に座り込んだクレーネウスは、長い間そのまま動かなかった。
「……順調ね。既に存在するアイドルという下地があるだけで、こんなにも話題を呼ぶのが楽だなんてね」
大きな魔導機械の置かれた部屋に、女の呟きが落ちた。
全ては――己が果たせなかった夢を、叶えるため。
下層階級から拾ってきた少女は、己が見込んだ通りの輝きを見せている。まだまだ至らぬ点は多いけれど、それをカバーしてくれるのは――
「私の知識と、この機械があれば大丈夫――さぁ」
仕上がったばかりのポスターを、女は広げて天井の灯りにかざす。
そこには長身でスタイルの良い、銀髪に蒼い瞳の少女の姿。大人っぽく露出多めの衣装に身を包み、挑戦的な笑顔が女へと向けられる。
それに負けぬほど、楽しげに女は笑った。
――デビューの時ね。
リプレイ本文
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)のライバルとなり得る新アイドルの登場。
「……アレは、狂言の類ではなかった訳か」
蘇芳 和馬(ka0462)が眉を寄せ呟く。アレ、即ちクリスマスのピースホライズンに届いた手紙の差出人の名は、ブレンネ・シュネートライベン。切磋琢磨し合う関係になるのであれば、むしろ喜ばしいところだが。
「……やり口が気にくわん……利用できる物は何でも、か」
確かに、この売り出し方は効果的だ。だが、それはグリューエリンという下地があるゆえでしかないように思える。
「考えの相違なのだろうな」
眉を寄せる和馬の様子を、その裏にある想いを、こなゆき(ka0960)は微笑ましく見守っていた。彼女自身は、新アイドルの登場を歓迎してもいるし、挑戦状を叩きつけるという行為も否定しようとは思っていないが。
「何処のどいつだか知らねーが、よくやってくれたと褒めてやりてぇ」
さらにデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が満足げに、そして興味深げに頷く。
「帝国軍属アイドルたァ聞こえはいいが、グリりん1人じゃいかんせん足りねえ。アイドルの何たるかをこの世界に知らしめるにゃ、もっと多くのアイドルが必要だ」
「確かに上手くやれば、ライバルの出現は業界としてファンの裾野を広げる事になるものね」
新アイドルの過去の活動地点を地図でチェックしながら、Jyu=Bee(ka1681)が唇をにっと吊り上げる。
「ただ一方的にやられるんじゃつまらないけどね。グリューエリンちゃん、もちろん負けるつもりは無いわよね?」
それに躊躇なく頷いたグリューエリンは、けれど、と静かに付け加えた。
「新たなアイドルとして活動しようとしている方が、どのようなお人柄で、なぜアイドルになるのかは気になります。……同じ、境遇ですから」
「そうだよね、わたしも気になるよ」
フノス=スカンディナビア(ka3803)が、深く頷いた。彼女はクリスマスに行われたピースホライズンの舞台で、アイドルとしてデビューしたばかりだ。
「わたしの他に、新しいアイドルがデビューするんだね。凄く楽しみだよ。どんな、ぱふぉーまんすが見れるのか。わたしもデビューして、そんなに間も無いし、色々なアイドルの活動をチェックしながら勉強しないとね」
フノスの言葉に、グリューエリンが微笑んで頷く。
「とはいえ……後ろに何らかの組織が関わってるっぽいってのが気になるな」
ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)が腕を組み、難しい顔をする。新アイドル自体は歓迎なのだが。
軽い打ち合わせを終えた一同は、それぞれに調査を開始した。
「君がグリューエリンを思って言ってくれていることはとても良くわかる。ただ、彼女には、もう断られているから……」
そう目を伏せたクレーネウスに、こなゆきは頷く。
「無理に押して就いて頂いても、意味がない事は承知しています。……ただ、その方と直接会って、もう一度だけお願いしてみたいのです」
真っ直ぐなこなゆきの言葉に、クレーネウスは幾分の逡巡の後に頷いて。
「話したい人がいると言っておこう。……彼女の名は、大柳莉子だ」
和馬が見せた手紙を一読したクレーネウスは、申し訳なさそうに心当たりはないと言った。それを確認した和馬は今度は商会で噂を調べる。
(アイドルを売り出すのであれば何らかの形で商会に属しているか、関係があるはずだ)
グッズの作成や販売もだが、会場を押さえるための後ろ盾として――けれどアイドルを、またはその後援者を名乗って商会に接触したという形跡や情報は得られなかった。
「グッズの作成については、まだその段階まで行っていない可能性もある。しかし、商会の協力を得る必要がないとは……」
そう考えた時、ふと頭に思い浮かぶものがあった。
(……帝国の、公的組織?)
グリューエリン自身、第一師団に所属する軍属のアイドルである。であれば、他の師団や部隊が、あるいは別の組織がアイドルを売り出す可能性――。
「ありえるな」
頷いた和馬は、再び調査のためにと歩き出した。
ライバルアイドルの次の活動地点を絞り込んだJyu=Beeは、何人かの歌舞音曲部隊員と共に探索に出ていた。
「こちらはまだ気配はありません!」
「了解、引き続き探してみて!」
通信機で連絡を取りながら、Jyu=Beeは辺りを見渡す。新アイドルの存在は既にかなり知られているから、現れればそれなりの騒ぎになるはず――!
「うおおお!!」
突然の歓声。通信機に一報入れて、Jyu=Beeは急いでそちらへ向かう。
「みんなー! 今日はアタシが手作りキャンディ撒いちゃうよ! 味わって食べてよね!」
銀色の短髪に青い瞳。高めの身長。スタイルを生かした扇情的な衣装。
二階建てのテラスで、片手に持った籠にもう片手を突っ込んで。
「それじゃ、受け取ってー!」
高らかに宣言し、放り投げられた何かのうち1つを、Jyu=Beeは素早く受け止めた。
(……キャンディに間違いはないわね)
可愛らしい包み紙に入ったキャンディをポケットに入れつつ、Jyu=Beeは今度は辺りの様子を観察し始める。窓の奥に数人、そして下で人員整理をしているのが数人、スタッフらしき彼らの顔をJyu=Beeは頭に刻み込む。
――やがてキャンディを投げ尽くしたのか、「またね!」と少女の姿は屋内へと消える。別れを惜しむ人々に紛れて、すっとJyu=Beeは路地に入った。
しばらくして建物から出てきた見覚えのある2、3人をJyu=Beeは静かに追う。もっと人数はいたはずだが、分散して本拠地に戻るつもりなのだろう。
「……!」
辿り着いた、その有名すぎる建物に、Jyu=Beeは思わず息を呑んで。
「なるほどね……」
ポケットから取り出したキャンディの包み紙を開けば、紙の内側に書かれた「近日重大発表!」の文字。
「手作りってのは、確かみたいね」
少しいびつなキャンディを見つめ、Jyu=Beeは呟いた。
「クレーネウスから聞いているわ、こなゆきさん。よろしくお願いします」
小さな料理屋で、こなゆきを迎えたのはやや長身に黒髪の女性であった。
「けれどあの話は、お断りしたはずよ」
「存じております。けれど、グリューエリンさんには手助けできる女性が必要なのです」
「そのために、あなた方がいるのではなくて?」
そう笑った莉子が、どこか自嘲的に見えて。
「私には、ちゃんと助けてくれる人はいなかった。……そして今、私の元には誰にも助けてもらえなかった子がいるわ」
「……彼女が、新アイドルですか」
「ええ」
頷いた莉子に、そっとこなゆきは目を細める。これも想定した事態ではあった。
「用がないなら、もう行くけれど」
「……莉子さん、あなたにとって、アイドルとは何でしょうか」
こなゆきの問いに、莉子は躊躇なく答えた。
「全てよ」
「……全て」
「私の全て。私自身がアイドルになる道は捨ててしまったけれど、今度は私の全力を以って、あの子をトップアイドルにしてみせる」
唇を強気に吊り上げた莉子は、テーブルに代金を置き止める間もなく去っていく。その後姿を、どこか痛ましげにこなゆきは見つめた。
フノスと軽く変装したグリューエリンは、街に出て新アイドルについて尋ね歩いていた。
「……グリューエリンちゃんの普段着って、こんな感じなんだ」
「え、お、おかしいでしょうか?」
ジャケットに、膝丈のスカート、コート。色合いもデザインも地味だ。
「わたしは、今の服装は、リアルブルーの人達が読んでいる『ざっし』を参考にしながら選んでみたんだけど……」
「ええ、とても似合っておりますわ」
「グリューエリンちゃんはお洒落、しないの?」
「アイドルとして活動していない間は単なる軍人ですゆえ」
ちなみにスカートの下もスパッツ完備、しっかり剣も帯びている。
街の人達に新アイドルの印象を聞いたりしているうちに、中央広場に出てきた2人ははっと目を見合わせた。
『バルトアンデルスの皆さんへ。
新アイドル「ブレンネ・シュネートライベン」、このステージでついにデビュー!
応援よろしくねっ!』
そう大きく書かれた横断幕がステージに張られ、奥ではスタッフらしき人達が、既に設営を行っている。
「……そうなんだ。応援してあげたいね。……でも」
ぎゅ、とフノスが、胸の前で手を握る。
「大きなライバルになるんだよね……、複雑」
彼女の隣で、グリューエリンは静かに頷く。
――そこは、彼女がデビューしたのと、同じステージだった。
新アイドルのデビューライブが発表されてすぐに、デスドクロは行動を開始した。
中央広場のステージ前、一番良い場所を取ったデスドクロは、会場設営の様子をじっと見つめる。
(機材設置の手際は申し分ない。質もかなりの高級品、それに用途のわからん魔導機械まであるのか。だが……装飾系についちゃ若干、手慣れてない感じだな)
スタッフの動きまで細やかに見つめるデスドクロを、スタッフは不思議そうに眺めてはいるが追い出したりする気はないようであった。
それは、デスドクロが本当にライブを楽しみにして表情を輝かせているからかもしれない。
(ところで新アイドルはブレンネか……いい愛称を付けてやらねばな)
そう、顎に手を当てて考え始めるデスドクロであった。
ロジャーが調べるのは新アイドルの背後にあるだろう組織について。軍属であるグリューエリンに挑戦する以上、旧皇族派など反体制派、また犯罪組織に資金源として使われている可能性もある。
ステージには24時間体制で多めのスタッフが常駐しており、おそらくは魔導機械の警備をしているのだろう。ロジャーはそれを手掛かりに調査を始める。
――しかし。
城門では、そのような大物を通してはいないと言われた。分解して持ち込んでもそれなりに目立つだろうが、目撃はされていない。
ならば帝都の中で製作されたのだろうと、ロジャーが向かったのは錬金術師組合。聞き込んでみたところ、組合の中には怪しげな動きをしている錬金術師はいないと言う。しかし――。
「あの装置は私も見ましたけど……あの大型な装置を作れるのは、おそらく」
出てきた組織の名に、ロジャーは一瞬驚きつつも頷く。犯罪組織や反体制派について調べようと思っていたのを変更し、その組織の構成員を見つけ出して口説きながら酒場で話を聞けば。
「ええ、そのプロジェクトね、聞いているわ」
自慢げに話してくれた内容を、ロジャーはしっかりと持ち帰った。
和馬が、Jyu=Beeが、ロジャーが顔を見合わせ、口を開く。
「錬魔院」
「……まさか、帝国の組織がな」
「アイドルを出して、何をするつもりなのかしら?」
「まぁ、まずはライブを見に行くしかないだろうな」
――新アイドルデビューライブは、もう明日。
翌日は、よく晴れた冬の日であった。
「みんなー! 今日はブレンネのために集まってくれてありがとう!」
少々機械じみた装飾を身に付けて、扇情的な衣装で舞台に現れた噂の新アイドルに巻き起こる歓声。それを上手く誘導しているのはデスドクロだ。
(ここまでアイドルとしちゃ順調にきすぎちまったグリりんにとって、必要なのは何より逆境だ。これだけ手の込んだ事やってんだ、ウチのアイドルにとって脅威になるくらいじゃねぇと意味がねぇ)
だからあえてデスドクロはこのライブを思い切り成功させようと盛り上げる。
髪を結って帽子で隠し、眼鏡を掛けたグリューエリンは、そのかなり後方でステージを見つめていた。黒く髪を染めて服を変えた和馬が、隣でそっと様子を伺う。グリューエリンが何か急なアクションを起こせば止めようと思ったが、その心配はなさそうであった。
その傍らで、Jyu=Beeは周りの様子を確認する。スタッフはやや慣れていないようだが音響装置の扱いは的確で、舞台セットもかなり豪華なものだ。そして、背後に鎮座する大きな謎の魔導機械。
「……ぱふぉーまんすする彼女の邪魔をしないように気を付けないとね」
そう呟くフノスも、普段着姿で髪型を変えていた。アイドルとして、新アイドルの邪魔になることがないように。
ロジャーとこなゆきは、やや離れた場所でそれぞれステージへと目を向ける。
(どの様に装おうと、歌にはその人の人となりが出るものです)
こなゆきが気にするのは、彼女が歌を愛し、歌を楽しんでいるか、それだけ。
最初の曲は帝国で広く愛唱される歌。グリューエリンよりやや低めの声は、よく通る。けれどまだ、音程をなぞっているという印象は否めない。
(練習はまだ、あまり積んでいないようだな……)
そう、和馬は思う。とはいえグリューエリン自身も、表現技法というものを身に付けたのはデビューしてから、ハンター達のレッスンあってこそだ。
次の曲は、やや激しいダンスを含むオリジナル曲。初めて聞く曲であっても、デスドクロが的確にコールを入れ観客を舞台に巻き込んでいく。
そして。
「……すごいね」
フノスが思わず目を丸くし、グリューエリンが深く頷く。
ダンスの技量が素晴らしいとは言えないが、それを身体能力がカバーしている――技術がつけば、グリューエリンを明らかに凌駕するだろう。ブレンネ自身の表情も幾分楽しげだ。
そして――最後の一曲。
「!」
Jyu=Beeが表情を険しくする。背後の魔導機械が、確かにその瞬間起動したのだ。
稼動音と共に、ブレンネが付けていた装飾と思われたものが、光を放つのがわかる。
そして歌が始まった瞬間、はっとハンター達は息を呑んだ。
「ねぇ私を見て! 私を聞いて! 私を好きになってお願い!」
まだ拙いけれど必死に歌い上げるその歌詞が、吸い込まれるように感じる。技術は同じなのに、受ける印象が明らかに違う。
歓声が大きくなる。熱狂が広まっていく。コールに力が篭る。
ライブの最終曲と思えば、不自然ではないかもしれない。けれど、ハンター達には違和感があった。
曲が終わった瞬間、ブレンネの身体が大きく揺らいだ。それでも手を振って、ふらつく足でブレンネは舞台裏へと去っていく。ロジャーがファンとの触れあいをと称して接触を試みたが、ブレンネと顔を合わせることはできなかった。スタッフとは少し話せたが、あまり愛想は良くない。
ブレンネは、少なくとも歌い踊ることを楽しんではいるようだ、とこなゆきには思えたが、その裏に打算があるようにも感じられる。けれど興味は、まだある。
そして、まだ舞台を見つめていたグリューエリンの肩を、Jyu=Beeが叩く。
「仮に何か裏があっても関係ないわ、アイドルはアイドルとして戦いなさい!」
「……ええ」
頷いたグリューエリンは、小さく口を開く。
「あの方を、嫌いとは思いません。けれど……負けたくない」
それが、彼女の意思であった。
「……アレは、狂言の類ではなかった訳か」
蘇芳 和馬(ka0462)が眉を寄せ呟く。アレ、即ちクリスマスのピースホライズンに届いた手紙の差出人の名は、ブレンネ・シュネートライベン。切磋琢磨し合う関係になるのであれば、むしろ喜ばしいところだが。
「……やり口が気にくわん……利用できる物は何でも、か」
確かに、この売り出し方は効果的だ。だが、それはグリューエリンという下地があるゆえでしかないように思える。
「考えの相違なのだろうな」
眉を寄せる和馬の様子を、その裏にある想いを、こなゆき(ka0960)は微笑ましく見守っていた。彼女自身は、新アイドルの登場を歓迎してもいるし、挑戦状を叩きつけるという行為も否定しようとは思っていないが。
「何処のどいつだか知らねーが、よくやってくれたと褒めてやりてぇ」
さらにデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が満足げに、そして興味深げに頷く。
「帝国軍属アイドルたァ聞こえはいいが、グリりん1人じゃいかんせん足りねえ。アイドルの何たるかをこの世界に知らしめるにゃ、もっと多くのアイドルが必要だ」
「確かに上手くやれば、ライバルの出現は業界としてファンの裾野を広げる事になるものね」
新アイドルの過去の活動地点を地図でチェックしながら、Jyu=Bee(ka1681)が唇をにっと吊り上げる。
「ただ一方的にやられるんじゃつまらないけどね。グリューエリンちゃん、もちろん負けるつもりは無いわよね?」
それに躊躇なく頷いたグリューエリンは、けれど、と静かに付け加えた。
「新たなアイドルとして活動しようとしている方が、どのようなお人柄で、なぜアイドルになるのかは気になります。……同じ、境遇ですから」
「そうだよね、わたしも気になるよ」
フノス=スカンディナビア(ka3803)が、深く頷いた。彼女はクリスマスに行われたピースホライズンの舞台で、アイドルとしてデビューしたばかりだ。
「わたしの他に、新しいアイドルがデビューするんだね。凄く楽しみだよ。どんな、ぱふぉーまんすが見れるのか。わたしもデビューして、そんなに間も無いし、色々なアイドルの活動をチェックしながら勉強しないとね」
フノスの言葉に、グリューエリンが微笑んで頷く。
「とはいえ……後ろに何らかの組織が関わってるっぽいってのが気になるな」
ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)が腕を組み、難しい顔をする。新アイドル自体は歓迎なのだが。
軽い打ち合わせを終えた一同は、それぞれに調査を開始した。
「君がグリューエリンを思って言ってくれていることはとても良くわかる。ただ、彼女には、もう断られているから……」
そう目を伏せたクレーネウスに、こなゆきは頷く。
「無理に押して就いて頂いても、意味がない事は承知しています。……ただ、その方と直接会って、もう一度だけお願いしてみたいのです」
真っ直ぐなこなゆきの言葉に、クレーネウスは幾分の逡巡の後に頷いて。
「話したい人がいると言っておこう。……彼女の名は、大柳莉子だ」
和馬が見せた手紙を一読したクレーネウスは、申し訳なさそうに心当たりはないと言った。それを確認した和馬は今度は商会で噂を調べる。
(アイドルを売り出すのであれば何らかの形で商会に属しているか、関係があるはずだ)
グッズの作成や販売もだが、会場を押さえるための後ろ盾として――けれどアイドルを、またはその後援者を名乗って商会に接触したという形跡や情報は得られなかった。
「グッズの作成については、まだその段階まで行っていない可能性もある。しかし、商会の協力を得る必要がないとは……」
そう考えた時、ふと頭に思い浮かぶものがあった。
(……帝国の、公的組織?)
グリューエリン自身、第一師団に所属する軍属のアイドルである。であれば、他の師団や部隊が、あるいは別の組織がアイドルを売り出す可能性――。
「ありえるな」
頷いた和馬は、再び調査のためにと歩き出した。
ライバルアイドルの次の活動地点を絞り込んだJyu=Beeは、何人かの歌舞音曲部隊員と共に探索に出ていた。
「こちらはまだ気配はありません!」
「了解、引き続き探してみて!」
通信機で連絡を取りながら、Jyu=Beeは辺りを見渡す。新アイドルの存在は既にかなり知られているから、現れればそれなりの騒ぎになるはず――!
「うおおお!!」
突然の歓声。通信機に一報入れて、Jyu=Beeは急いでそちらへ向かう。
「みんなー! 今日はアタシが手作りキャンディ撒いちゃうよ! 味わって食べてよね!」
銀色の短髪に青い瞳。高めの身長。スタイルを生かした扇情的な衣装。
二階建てのテラスで、片手に持った籠にもう片手を突っ込んで。
「それじゃ、受け取ってー!」
高らかに宣言し、放り投げられた何かのうち1つを、Jyu=Beeは素早く受け止めた。
(……キャンディに間違いはないわね)
可愛らしい包み紙に入ったキャンディをポケットに入れつつ、Jyu=Beeは今度は辺りの様子を観察し始める。窓の奥に数人、そして下で人員整理をしているのが数人、スタッフらしき彼らの顔をJyu=Beeは頭に刻み込む。
――やがてキャンディを投げ尽くしたのか、「またね!」と少女の姿は屋内へと消える。別れを惜しむ人々に紛れて、すっとJyu=Beeは路地に入った。
しばらくして建物から出てきた見覚えのある2、3人をJyu=Beeは静かに追う。もっと人数はいたはずだが、分散して本拠地に戻るつもりなのだろう。
「……!」
辿り着いた、その有名すぎる建物に、Jyu=Beeは思わず息を呑んで。
「なるほどね……」
ポケットから取り出したキャンディの包み紙を開けば、紙の内側に書かれた「近日重大発表!」の文字。
「手作りってのは、確かみたいね」
少しいびつなキャンディを見つめ、Jyu=Beeは呟いた。
「クレーネウスから聞いているわ、こなゆきさん。よろしくお願いします」
小さな料理屋で、こなゆきを迎えたのはやや長身に黒髪の女性であった。
「けれどあの話は、お断りしたはずよ」
「存じております。けれど、グリューエリンさんには手助けできる女性が必要なのです」
「そのために、あなた方がいるのではなくて?」
そう笑った莉子が、どこか自嘲的に見えて。
「私には、ちゃんと助けてくれる人はいなかった。……そして今、私の元には誰にも助けてもらえなかった子がいるわ」
「……彼女が、新アイドルですか」
「ええ」
頷いた莉子に、そっとこなゆきは目を細める。これも想定した事態ではあった。
「用がないなら、もう行くけれど」
「……莉子さん、あなたにとって、アイドルとは何でしょうか」
こなゆきの問いに、莉子は躊躇なく答えた。
「全てよ」
「……全て」
「私の全て。私自身がアイドルになる道は捨ててしまったけれど、今度は私の全力を以って、あの子をトップアイドルにしてみせる」
唇を強気に吊り上げた莉子は、テーブルに代金を置き止める間もなく去っていく。その後姿を、どこか痛ましげにこなゆきは見つめた。
フノスと軽く変装したグリューエリンは、街に出て新アイドルについて尋ね歩いていた。
「……グリューエリンちゃんの普段着って、こんな感じなんだ」
「え、お、おかしいでしょうか?」
ジャケットに、膝丈のスカート、コート。色合いもデザインも地味だ。
「わたしは、今の服装は、リアルブルーの人達が読んでいる『ざっし』を参考にしながら選んでみたんだけど……」
「ええ、とても似合っておりますわ」
「グリューエリンちゃんはお洒落、しないの?」
「アイドルとして活動していない間は単なる軍人ですゆえ」
ちなみにスカートの下もスパッツ完備、しっかり剣も帯びている。
街の人達に新アイドルの印象を聞いたりしているうちに、中央広場に出てきた2人ははっと目を見合わせた。
『バルトアンデルスの皆さんへ。
新アイドル「ブレンネ・シュネートライベン」、このステージでついにデビュー!
応援よろしくねっ!』
そう大きく書かれた横断幕がステージに張られ、奥ではスタッフらしき人達が、既に設営を行っている。
「……そうなんだ。応援してあげたいね。……でも」
ぎゅ、とフノスが、胸の前で手を握る。
「大きなライバルになるんだよね……、複雑」
彼女の隣で、グリューエリンは静かに頷く。
――そこは、彼女がデビューしたのと、同じステージだった。
新アイドルのデビューライブが発表されてすぐに、デスドクロは行動を開始した。
中央広場のステージ前、一番良い場所を取ったデスドクロは、会場設営の様子をじっと見つめる。
(機材設置の手際は申し分ない。質もかなりの高級品、それに用途のわからん魔導機械まであるのか。だが……装飾系についちゃ若干、手慣れてない感じだな)
スタッフの動きまで細やかに見つめるデスドクロを、スタッフは不思議そうに眺めてはいるが追い出したりする気はないようであった。
それは、デスドクロが本当にライブを楽しみにして表情を輝かせているからかもしれない。
(ところで新アイドルはブレンネか……いい愛称を付けてやらねばな)
そう、顎に手を当てて考え始めるデスドクロであった。
ロジャーが調べるのは新アイドルの背後にあるだろう組織について。軍属であるグリューエリンに挑戦する以上、旧皇族派など反体制派、また犯罪組織に資金源として使われている可能性もある。
ステージには24時間体制で多めのスタッフが常駐しており、おそらくは魔導機械の警備をしているのだろう。ロジャーはそれを手掛かりに調査を始める。
――しかし。
城門では、そのような大物を通してはいないと言われた。分解して持ち込んでもそれなりに目立つだろうが、目撃はされていない。
ならば帝都の中で製作されたのだろうと、ロジャーが向かったのは錬金術師組合。聞き込んでみたところ、組合の中には怪しげな動きをしている錬金術師はいないと言う。しかし――。
「あの装置は私も見ましたけど……あの大型な装置を作れるのは、おそらく」
出てきた組織の名に、ロジャーは一瞬驚きつつも頷く。犯罪組織や反体制派について調べようと思っていたのを変更し、その組織の構成員を見つけ出して口説きながら酒場で話を聞けば。
「ええ、そのプロジェクトね、聞いているわ」
自慢げに話してくれた内容を、ロジャーはしっかりと持ち帰った。
和馬が、Jyu=Beeが、ロジャーが顔を見合わせ、口を開く。
「錬魔院」
「……まさか、帝国の組織がな」
「アイドルを出して、何をするつもりなのかしら?」
「まぁ、まずはライブを見に行くしかないだろうな」
――新アイドルデビューライブは、もう明日。
翌日は、よく晴れた冬の日であった。
「みんなー! 今日はブレンネのために集まってくれてありがとう!」
少々機械じみた装飾を身に付けて、扇情的な衣装で舞台に現れた噂の新アイドルに巻き起こる歓声。それを上手く誘導しているのはデスドクロだ。
(ここまでアイドルとしちゃ順調にきすぎちまったグリりんにとって、必要なのは何より逆境だ。これだけ手の込んだ事やってんだ、ウチのアイドルにとって脅威になるくらいじゃねぇと意味がねぇ)
だからあえてデスドクロはこのライブを思い切り成功させようと盛り上げる。
髪を結って帽子で隠し、眼鏡を掛けたグリューエリンは、そのかなり後方でステージを見つめていた。黒く髪を染めて服を変えた和馬が、隣でそっと様子を伺う。グリューエリンが何か急なアクションを起こせば止めようと思ったが、その心配はなさそうであった。
その傍らで、Jyu=Beeは周りの様子を確認する。スタッフはやや慣れていないようだが音響装置の扱いは的確で、舞台セットもかなり豪華なものだ。そして、背後に鎮座する大きな謎の魔導機械。
「……ぱふぉーまんすする彼女の邪魔をしないように気を付けないとね」
そう呟くフノスも、普段着姿で髪型を変えていた。アイドルとして、新アイドルの邪魔になることがないように。
ロジャーとこなゆきは、やや離れた場所でそれぞれステージへと目を向ける。
(どの様に装おうと、歌にはその人の人となりが出るものです)
こなゆきが気にするのは、彼女が歌を愛し、歌を楽しんでいるか、それだけ。
最初の曲は帝国で広く愛唱される歌。グリューエリンよりやや低めの声は、よく通る。けれどまだ、音程をなぞっているという印象は否めない。
(練習はまだ、あまり積んでいないようだな……)
そう、和馬は思う。とはいえグリューエリン自身も、表現技法というものを身に付けたのはデビューしてから、ハンター達のレッスンあってこそだ。
次の曲は、やや激しいダンスを含むオリジナル曲。初めて聞く曲であっても、デスドクロが的確にコールを入れ観客を舞台に巻き込んでいく。
そして。
「……すごいね」
フノスが思わず目を丸くし、グリューエリンが深く頷く。
ダンスの技量が素晴らしいとは言えないが、それを身体能力がカバーしている――技術がつけば、グリューエリンを明らかに凌駕するだろう。ブレンネ自身の表情も幾分楽しげだ。
そして――最後の一曲。
「!」
Jyu=Beeが表情を険しくする。背後の魔導機械が、確かにその瞬間起動したのだ。
稼動音と共に、ブレンネが付けていた装飾と思われたものが、光を放つのがわかる。
そして歌が始まった瞬間、はっとハンター達は息を呑んだ。
「ねぇ私を見て! 私を聞いて! 私を好きになってお願い!」
まだ拙いけれど必死に歌い上げるその歌詞が、吸い込まれるように感じる。技術は同じなのに、受ける印象が明らかに違う。
歓声が大きくなる。熱狂が広まっていく。コールに力が篭る。
ライブの最終曲と思えば、不自然ではないかもしれない。けれど、ハンター達には違和感があった。
曲が終わった瞬間、ブレンネの身体が大きく揺らいだ。それでも手を振って、ふらつく足でブレンネは舞台裏へと去っていく。ロジャーがファンとの触れあいをと称して接触を試みたが、ブレンネと顔を合わせることはできなかった。スタッフとは少し話せたが、あまり愛想は良くない。
ブレンネは、少なくとも歌い踊ることを楽しんではいるようだ、とこなゆきには思えたが、その裏に打算があるようにも感じられる。けれど興味は、まだある。
そして、まだ舞台を見つめていたグリューエリンの肩を、Jyu=Beeが叩く。
「仮に何か裏があっても関係ないわ、アイドルはアイドルとして戦いなさい!」
「……ええ」
頷いたグリューエリンは、小さく口を開く。
「あの方を、嫌いとは思いません。けれど……負けたくない」
それが、彼女の意思であった。
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アイドル調査隊相談室 Jyu=Bee(ka1681) エルフ|15才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/06 11:50:21 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/01 22:36:14 |