ゲスト
(ka0000)
私を雪原に連れてって!
マスター:蝦蟇ダス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/09 22:00
- 完成日
- 2015/02/17 21:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここは、とある町のハンターオフィス。今日も今日とて、多くのハンターで賑わ――
ドガカッ ドガカッ
おや、いくら大通りに面しているからといって、ハンターオフィスの入り口に馬車で直接乗りつけるなんて大胆な。しかも、物凄く立派な馬車ですよ。
「お嬢様、こちらです」
「ありがとう、モリスン」
先に出てきた老執事に恭しく手を取られて降り立ったのは、見た目麗しいご婦人で御座います。とはいえ、年の頃は成人して数年。二十歳前後でしょうか。さらさらに手入れされた長い金髪を見るだけでお家柄が察せられるというものです。
さて、そのお嬢様。ハンターオフィスの看板を見上げて嬉しそうな顔をしておられます。
「ここが、ハンターが集まる場所ですのね! 早速依頼を出して貰う事にしましょう!」
「おいおい、お嬢ちゃん。ここはアンタみてぇな奴が来る所じゃねぇぜ」
立ちはだかったのは、露出度の高い装備に蛮刀を背負った、見るからにムサい男戦士でした。ほとんどその辺のゴロツキと変わりません。
「大体、馬車で入り口が塞がれちまってるじゃねぇか。往来の方々に迷惑だろ?」
半裸のくせにまさかの正論です。ゴロツキの風上にも置けないヤツです。
「まあ、それは申し訳御座いませんでした。何とお詫びを申し上げたら……」
憂い顔で胸に手を当てた姿に、戦士の鼻の下が伸びます。
(よく見たら、いいナオンじゃねぇか。ちょいと小便臭ぇが)
「ま、まあ、ちょいとそこの路地裏で特別なお詫びをしてくれたら、許してやらなくも……」
やっとらしくなってきました。そうです。こうでなくては。
そこで黙っていないのが老執事です。こう見えても若い頃は傭兵稼業でブイブイ言わせていた身。ついた仇名が『血風の(以下略
「この方をクロイツェン家のセラフィーナお嬢様と知っての狼藉か! その首、今ここでおぶるああぁぁぁぁぁぁっっ!!」
――えー。何が起こったのか、説明しなければならないでしょう。
主に無礼を働いた悪漢を退治しようとした老執事ですが、次の瞬間、セラフィーナお嬢様のドレスの裾が大きくはためきまして、華麗に弧を描いたおみ足が老執事をハンターオフィスの外壁に叩きつけました。凄く痛そうです。
「おやめなさい、モリスン! 市井の方々に怪我をさせてはなりません!」
「――できれば、うちの建物も大事にして貰いたいもんだけどね」
朝っぱらからの大騒ぎにオフィスの職員が出てきて、ひとしきり説教が終わった後。
職員の目の前には、小さくなって謝罪する令嬢と、血をだくだく流しながら控える老執事の姿があった。
「本当に、申し訳御座いません……」
「全ては某の至らなさ故。かくなる上は、この場で腹を掻っ捌いてお詫びを――」
「掃除が大変だからよしとくれ」
今度は正拳突きの動きを見せたセラフィーナの機先を制し、職員は面倒臭そうにたしなめた。茶を出したのは失敗だったろうか?
ちなみに、セラフィーナに絡んだ戦士は命の危険を感じたらしく、とっくの昔に逃げ出していた。賢明な判断である。
「それより、何か依頼があるんじゃなかったのかい? そうじゃないなら、私は仕事に戻らせて貰うけれども」
「あ、そうでした。――モリスン!」
「御意」
職員の目の前に開かれる一冊の書物。随分と古いもののようだ。立派な装丁である。
「旅の護衛をお願いしたいのです」
セラフィーナの話をまとめると、以下のような感じだ。
最初に示された本は、とある冒険家の自伝のようなもので、クロイツェン家の蔵書の中でもセラフィーナのお気に入りだという。幼い頃から繰り返し読んでいたそうだ。
その中の一節、『雪精のダンス』なるものを見に行く旅を護衛してほしい。それが依頼だった。
(……護衛なんて必要なのかねぇ?)
職員の疑問はごもっともであるし、セラフィーナも叶うのならば一人旅というものをやってみたかったのだが、流石にそこは両親とモリスンに大反対されたという。
家族会議の結果、モリスンを連れて行く事。そしてハンターの護衛をつければ許可する、となったそうだ。
「目的地はこちらで御座います」
モリスンが地図上で指し示したのは、北の外れ。時折強い風が吹く事で有名な雪原地帯だった。最寄りの村までは、のんびり歩いても片道一週間前後といったところだろうか。そこからさらに半日程進む事になる。
「そこではこの季節、雪の精霊達が舞い踊っているのを見られるのだそうです。きっと、とても美しい光景なのでしょうね」
うっとりとした様子のセラフィーナ。既に心は北の大地へ赴いているのだろう。
(ま、特に危険な一帯じゃないし、報酬も良いから人は集まりそうかね)
問題はどちらかといえば、世間知らずを絵に描いたようなセラフィーナと、血気盛んなモリスンのお守りの方だろう。この二人だけで野に放った時の事を思うとぞっとする。
「私(わたくし)、ハンターの方を間近に見るのは初めてですの。とっても楽しみですわ」
予想されるトンデモ珍道中を本にしたら売れるだろうか? ふとそんな事を思う職員であった。
ドガカッ ドガカッ
おや、いくら大通りに面しているからといって、ハンターオフィスの入り口に馬車で直接乗りつけるなんて大胆な。しかも、物凄く立派な馬車ですよ。
「お嬢様、こちらです」
「ありがとう、モリスン」
先に出てきた老執事に恭しく手を取られて降り立ったのは、見た目麗しいご婦人で御座います。とはいえ、年の頃は成人して数年。二十歳前後でしょうか。さらさらに手入れされた長い金髪を見るだけでお家柄が察せられるというものです。
さて、そのお嬢様。ハンターオフィスの看板を見上げて嬉しそうな顔をしておられます。
「ここが、ハンターが集まる場所ですのね! 早速依頼を出して貰う事にしましょう!」
「おいおい、お嬢ちゃん。ここはアンタみてぇな奴が来る所じゃねぇぜ」
立ちはだかったのは、露出度の高い装備に蛮刀を背負った、見るからにムサい男戦士でした。ほとんどその辺のゴロツキと変わりません。
「大体、馬車で入り口が塞がれちまってるじゃねぇか。往来の方々に迷惑だろ?」
半裸のくせにまさかの正論です。ゴロツキの風上にも置けないヤツです。
「まあ、それは申し訳御座いませんでした。何とお詫びを申し上げたら……」
憂い顔で胸に手を当てた姿に、戦士の鼻の下が伸びます。
(よく見たら、いいナオンじゃねぇか。ちょいと小便臭ぇが)
「ま、まあ、ちょいとそこの路地裏で特別なお詫びをしてくれたら、許してやらなくも……」
やっとらしくなってきました。そうです。こうでなくては。
そこで黙っていないのが老執事です。こう見えても若い頃は傭兵稼業でブイブイ言わせていた身。ついた仇名が『血風の(以下略
「この方をクロイツェン家のセラフィーナお嬢様と知っての狼藉か! その首、今ここでおぶるああぁぁぁぁぁぁっっ!!」
――えー。何が起こったのか、説明しなければならないでしょう。
主に無礼を働いた悪漢を退治しようとした老執事ですが、次の瞬間、セラフィーナお嬢様のドレスの裾が大きくはためきまして、華麗に弧を描いたおみ足が老執事をハンターオフィスの外壁に叩きつけました。凄く痛そうです。
「おやめなさい、モリスン! 市井の方々に怪我をさせてはなりません!」
「――できれば、うちの建物も大事にして貰いたいもんだけどね」
朝っぱらからの大騒ぎにオフィスの職員が出てきて、ひとしきり説教が終わった後。
職員の目の前には、小さくなって謝罪する令嬢と、血をだくだく流しながら控える老執事の姿があった。
「本当に、申し訳御座いません……」
「全ては某の至らなさ故。かくなる上は、この場で腹を掻っ捌いてお詫びを――」
「掃除が大変だからよしとくれ」
今度は正拳突きの動きを見せたセラフィーナの機先を制し、職員は面倒臭そうにたしなめた。茶を出したのは失敗だったろうか?
ちなみに、セラフィーナに絡んだ戦士は命の危険を感じたらしく、とっくの昔に逃げ出していた。賢明な判断である。
「それより、何か依頼があるんじゃなかったのかい? そうじゃないなら、私は仕事に戻らせて貰うけれども」
「あ、そうでした。――モリスン!」
「御意」
職員の目の前に開かれる一冊の書物。随分と古いもののようだ。立派な装丁である。
「旅の護衛をお願いしたいのです」
セラフィーナの話をまとめると、以下のような感じだ。
最初に示された本は、とある冒険家の自伝のようなもので、クロイツェン家の蔵書の中でもセラフィーナのお気に入りだという。幼い頃から繰り返し読んでいたそうだ。
その中の一節、『雪精のダンス』なるものを見に行く旅を護衛してほしい。それが依頼だった。
(……護衛なんて必要なのかねぇ?)
職員の疑問はごもっともであるし、セラフィーナも叶うのならば一人旅というものをやってみたかったのだが、流石にそこは両親とモリスンに大反対されたという。
家族会議の結果、モリスンを連れて行く事。そしてハンターの護衛をつければ許可する、となったそうだ。
「目的地はこちらで御座います」
モリスンが地図上で指し示したのは、北の外れ。時折強い風が吹く事で有名な雪原地帯だった。最寄りの村までは、のんびり歩いても片道一週間前後といったところだろうか。そこからさらに半日程進む事になる。
「そこではこの季節、雪の精霊達が舞い踊っているのを見られるのだそうです。きっと、とても美しい光景なのでしょうね」
うっとりとした様子のセラフィーナ。既に心は北の大地へ赴いているのだろう。
(ま、特に危険な一帯じゃないし、報酬も良いから人は集まりそうかね)
問題はどちらかといえば、世間知らずを絵に描いたようなセラフィーナと、血気盛んなモリスンのお守りの方だろう。この二人だけで野に放った時の事を思うとぞっとする。
「私(わたくし)、ハンターの方を間近に見るのは初めてですの。とっても楽しみですわ」
予想されるトンデモ珍道中を本にしたら売れるだろうか? ふとそんな事を思う職員であった。
リプレイ本文
●家を出る前からが旅行です
「セラフィーナさん、道中は何もかも珍しく興味深い事が多いかと存じます。ですが決して我々から離れないで下さいね?」
「ハイ!」
「モリスン殿も、主を想うお気持ちが強い事は判ります。しかし貴方の挙動が主家の家名にも関わる事も念頭に入れて行動下さいますよう」
「モチのロン、心得ておりますとも」
(本当でしょうか……?)
返事だけはやたらと良い依頼主の二人に、リステル=胤・エウゼン(ka3785)は胸中で疑問を抱かずにいられなかった。
ともあれ、旅の準備を進めなくては。小さな手提げ鞄一つで現れたセラフィーナの姿には愕然としたものである。しかも中身は、およそ旅とは関係の無い品ばかり。
「本格的な防寒具や、先々の食料はもっと北へ進んでから調達すれば良いだろうけど、毎日町や村に寄れるとも限らないからね。餓死しない程度の食べ物と着替えくらいはあった方が良いと思うよ」
と、これはクィーロ・ヴェリル(ka4122)の言葉である。隣の雨夜 時雨(ka3964)も頷き、
「身体一つでの旅は初めてみたいだし、予備も含めてちょっと多めに準備した方がいいかな。少しくらいならボクの馬に載せていけるし」
次にエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が、筆談にて旅の心得を伝授していく。
『財布はひったくりやスリがあるから、もしもの時に備えてお金はまとめて入れておかない事』
「お金って何ですの?」
そこからか!
『あんまり軽い荷物だと、すぐに置き引きされるから気を付ける!』
「そのような不貞の輩、このモリスンが抹殺――」
殺しちゃ駄目! お願いだから!!
「えへへ。情報収集ついでに、人数分のお弁当、お願いしてきちゃったよ――どうしたの?」
ランカ(ka0327)の言葉に答える気力を持つ者は、既にその場には存在していないのだった。
●この道の行く先は
幸運にも、旅立ちは快晴に恵まれた。
時雨、エヴァ、クィーロの馬を連れての旅路はなかなかに賑やかなものである。
「それではエルディラ様は、魔術をお使いになるのですね」
「うむ。他にも法術、霊呪、機導術――一通りは押さえておる。お互いに関わり合いの深い分野でもあるしのぅ」
胸を張るエルディラ(ka3982)に、セラフィーナは無邪気に賞賛の言葉を贈る。
「素晴らしいですわ。私も機会があれば学んでみたいと思っていますの」
と、その時だ。モリスンの瞳がギラリと輝いた。
「お嬢様! 足元に危険な窪みぐはぁっ!」
見事な反射神経でヘッドスライディングを決めたモリスンを踏みつけながら、セラフィーナは何事も無かったかのように歩みを進めたのであった。
止める暇も無くその様子を傍観するしかなかったリステルであるが、立ち上がったモリスンの頬がほんのり赤く染まっている事実には戦慄するしかなかった。
「貴方、まさか……」
すっと差し出される、口止めの人差し指。
「いやー、世の中色々な人がいるものだね」
朗らかに笑うクィーロがススス、とモリソンから距離を取ったのを、リステルは見逃さなかった。
冬の日暮れは、夏のそれよりもずっと早い。
「僕は薪を集めてくるよ」
そう言い残して近くの森へ去っていくクィーロの背中を見送り、リステルは溜め息にも似た息を漏らした。彼としては出来るだけ安全な旅を推奨したかったのだが、キラキラ輝く瞳で「野宿もしてみたいのです!」と押し切られてしまった。何だかんだで、彼も自分の力の及ぶ範囲で主の願いを叶えようとする気質なのだ。
女性陣が協力してテントを張っているようなので、こちらでは火を焚く為の竈を準備し、クィーロの帰りを待って炎を囲んだ。
「ディナーは何かしら?」
はてさて、お嬢様の口に合うかどうか。
乾し肉を薄く切ったものを火で炙り、お湯で戻すだけの干し野菜で簡単なスープを作る。
木のお椀の中身を口に運んだセラフィーナの表情が、瞬く間に何とも言えないものへと変化していった。一同から笑いが零れる。
「お世辞にも美味しいものではないからね」
「でも、慣れると結構イケるんだよ!?」
クィーロの言葉にランカがフォローを入れるが、これに慣れるのにはどれだけの旅を経験すれば良いのだろうか。文句一つ言わずに食事を進めるハンター達を、セラフィーナは信じられないような瞳で見ていた。
「最近は、こんな便利な物も出回っておってのぅ」
アルディラが「ほれ」と差し出したのは、妙な光沢を放つ袋であった。中に入っているのは、黄色くて薄い――フライドポテト?
「『ぽてち』というそうじゃ。我も最近手にしたのだが、なかなか美味いものでな。主食にするには心許無いが、保存性も高い」
次に取り出したのは、手のひらサイズの缶詰。変な部品がついているのは何だろうと見ていると、アルディラはそこに指を引っ掛けて一気に缶を開けたのだった。
缶の中身は、オイル漬けにされた魚のほぐし身である。これに適当な味付けをし、余っていたパンに挟んで食す。
「……不思議な味ですわ」
そうしている間にも夜はふけ、ある者は着の身着のまま、またある者は毛布を羽織ると、それぞれの準備で横になった。
明日も夜明けから歩く事になる。交替で火の番をし、眠りに就く。
「眠れませんか?」
炎に新たな薪をくべたリステルが振り向くと、寝袋から顔だけを出したセラフィーナと視線がぶつかった。彼女は寝返りを打つと、空を見上げて白い息を吐く。
「えぇ。このような形で眠るのは初めてですので、緊張しているみたいですわ。それから……ちょっとだけ興奮しています」
その頬は年頃の女性らしく赤く上気している。
「何かお話、して頂けませんか?」
「そうですね。では、母から聞いた蒼の世界の話など――」
ぱらり、とページをめくる音だけが夜のしじまに響き渡る。
「すっかり寝入ったみたいだね」
『何だかんだで、疲れているみたいだったから』
本を手にした時雨の言葉に、エヴァはこくりと頷いた。
初日としては、上々の滑り出しだろう。ほぼ予定通りに街道を進んでいる。
「問題は、明日からだけど」
といっても、心配する程の事でもない。その為に自分達がいるのだから。今はこの夜を満喫しようではないか。
来たる明日に、むしろ楽しみを抱いて。時雨はページの向こうに揺らぐ炎を見つめて微笑むのだった。
案の定、セラフィーナは鞍上の人となっていた。
足を庇うような動きには全員が気づき、クィーロが穏やかながらも有無を言わさぬ調子で自分の馬へと乗せたのだった。
「休める時に休むのも、旅を楽しむ秘訣だよ」
愛馬の鼻を撫でてやりながら、こうも言葉を掛ける。
「それに、そこからの景色も乙なものさ」
旅の始まりから、馬をちらちらと乗りたそうに見ているのには気がついていた。実際、自分の不甲斐なさにがっかりしながらも、これはこれで楽しそうな様子である。
「さて。先行した人達はどうしているかな?」
丁度その頃、エヴァ、時雨、ランカの三人は喧騒の中にいた。
「街道の交わる宿場町だけあって、凄い賑わいだね」
人混みに流されないようにしながら、ランカが声を上げる。小柄な女性だけでは、油断するとすぐにお互いを見失ってしまいそうであった。馬の手綱を引きながら、ようやっと目ぼしい宿屋に辿り着く。
「五人部屋二つと馬小屋、大丈夫だって」
受付で話していた時雨が振り返って大きく「丸」のジェスチャーをすると、エヴァとランカの顔が華やいだ。これで今夜はゆっくりとお風呂に入り、柔らかいベッドで眠れるというわけだ。旅慣れた彼等であっても――否。彼等だからこそ、宿の有難みを知っているのである。
『あとはご飯だね』
「そういえばランカちゃん、出発前に情報を集めていたみたいだけど……」
二人に水を向けられると、ランカはえっへん、と胸を張り、
「うん! 人気のお店も教えて貰っちゃった。確か名前は――」
『腰抜けチキン亭へようこそ!』
「「……………………」」
何ともコメントに困る店名に、一同は言葉を失ってしまった。
店名が書かれた看板を手に満面の笑みを浮かべているのは、微妙な造形の人形である。これは所謂ゆるキャラ……なんだろうか? そこはかとなく鶏っぽい。
『芸術が爆発しているね』
エヴァには何か感じるものがあったらしく、その場で簡単にスケッチを取っていた。
入るのに若干勇気がいる店構えだが、中からはいい匂いが漂ってきている。空腹も手伝って一同がテーブルに着くと、すぐにウエイトレスが注文を取りに来た。目的の品はここの看板料理らしく、皆まで言う事無く「OKOK」と厨房へと引っ込んでいく。
そして――
「「おぉ~」」
テーブルの中央に勢い良く置かれた皿を囲んで、一斉に声が上がった。
大きな丸鶏が一羽丸ごと、ローストされた形で出てきた。切れ目から漂ってくるのは、中に詰められた香草と穀物の匂いだろうか。
それをウエイトレスが鮮やかな手つきでさばいていく。すぐに人数分の皿に取り分けられ、さあ召し上がれ。
「え? それが正式な作法ですの?」
「正式というわけではないけど、物は試しさ」
セラフィーナはクィーロに教えられながら、おっかなびっくりの手づかみでモモ肉にかぶりついていた。
「すっほふほひひいへふぬぇ」
「うむ、ランカよ。まずは口の中のものを飲み込むのじゃ」
口一杯に頬張って幸せそうな顔のランカを嗜めるエルディラ。リステルが抜け目無く注文していた飲み物も行き渡り、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「いよいよ、目的地まで半分を越えたね」
宿までの帰り道を歩きながら、時雨が思い出したように告げる。
「『雪精のダンス』ってどんなのかなぁ。きっと綺麗なんだろうけど……!」
「ほぅ、やはり気になるか。我が考えるに――」
どうやら今日は、長い夜になりそうである。
●雪精のダンス
「凄いですわ! 一面の銀世界!」
頭からすっぽり被った毛皮の重みも何のその。目の前に広がる景色の中に突進していくセラフィーナを追って、ハンター達も雪原へと踏み出していく。
「結局、『雪精のダンス』って何なんだろうね?」
首を傾げるランカの脳裏には、昨日の事が思い出されていた。
「『雪精のダンス』? 知らんなぁ、そんなもんは」
目的地手前の村にて。宿屋が無いようなので一晩の宿をお願いした村長は一行の目的について尋ねられると、ハッキリとそう告げてきたのだった。
「雪なんて外に出ればいくらでもあるもんでな。有難がるのはお前ぇさん達みたいなヨソモンだけだろうよぉ」
身も蓋も無い言い草に思わず顔を見合わせる。確かに、この地に住む人にとっては日常的な出来事が、本を書いた冒険者の目には珍しく映ったのかもしれない。
「それに、ワシ等が奉っとるのは風神様だぁで」
「風神様?」
問い返した時雨に、村長は今まさに手を合わせた祭壇を示し、
「この地の恵みは全て風神様が運んで来て下さる。冬の間は特に、早く春を運んで来て下さるよう、祈りは欠かせみゃーでな」
土着信仰の一つといったところだろうか。験担ぎに全員で見様見真似の祈りを捧げると、「明日は早いんじゃろ? 朝は特に寒いでなぁ。温まってさっさと寝ちめーよ」という村長の言葉に甘え、床に就くのだった。
「本の記述に従うなら、この辺り?」
ランカは周囲を見渡すも、殺風景な雪原の風景が広がるばかりである。
「あ、熊さんですわ。待って……!」
「お嬢様、しばしお待ちを。このモリスンがすぐに狩ってぐふぅっ!」
意気揚々と駆け出そうとしたモリスンの後頭部を、エルディアのフルスイングの一撃が襲った。
「逆に狩られるわ、たわけめ!」
「貴方も従者ならば、まずは主の安全を考えて下さい」
雪に沈んだモリスンを引っ張り起こしながら、リステルは何度目かも分からない溜め息を零す。どうやら退屈はしないで済みそうである。油断もできないが。
『かまくら作らない?』
エヴァの一言で始まったかまくら造り。まずは『かまくら』という聞き慣れないものを絵で説明するところから始まり、男性陣は必要になる水を探しに出てくれた。
汲んできた水で時々固めてやりながら雪の山を作り、充分な大きさになったところで今度は中をくり抜いていく。
『完成!』
エヴァが笑顔でOKサインを出す頃には、太陽は西の空に掛かり始めていたのだった。
早速中に入り、小さな竈を作って火をおこす。雪の壁が融けないかと心配になるが、一晩くらいなら意外と大丈夫なものらしい。
かまくらを作っている間も、ついぞ『雪精のダンス』を見る事は叶わなかった。クィーロが一同を励ますように声を出す。
「ギリギリまで粘ってみようよ。折角なんだからさ」
「そうですね。備えはありますので」
夕食はリステルが保存食から作ってくれた、濃厚な味わいのスープ。味噌という調味料を使っているらしい。
『実は……取って置きのお酒があるよ』
いたずらっ子の顔でエヴァが取り出したのは、香草を混ぜた女性にも飲みやすいワインだった。芳醇な香りと共に口をつければ、たちまち身体がポカポカしてくる。
酔い覚ましも兼ねて全員で外に出ると、冬の澄んだ空気に瞬く満天の星空が出迎えてくれた。
時雨は息を吐き、自分達以外に音のしない夜の闇を見つめた。
「いい夜だね」
遠くの空をじっと見つめていたクィーロがそれに応える。
「雲が流れてきている。朝から雪が降りそうだね」
「それはもしや、チャンスやもしれぬのぅ?」
エルディラの瞳が、不敵な笑みと共に鋭く光っていた。
――光の世界が広がっていた。
明け方から降り始めた粉雪が、ゆっくりと昇っていく太陽の光を反射してキラキラと輝いている。その様子はまさに――
「これが『雪精のダンス』……?」
思わず見惚れていたランカだったが、横からの強風に顔を庇う。いや、これは強風なんてものじゃない。油断すれば身体ごと持っていかれる――!
「ほぉ。真に精霊がおったか」
愉しげな笑みを浮かべるエルディラの見つめる先では、雪に混じってマテリアルの残滓が宙を舞っていた。感覚を研ぎ澄ませば、気分良く飛び回る存在をうっすらと感じる事すら出来るかもしれない。
「雪ではなく、風の精霊でしたか」
「風神様のご加護って奴がありそうだね」
モリスンと共にセラフィーナを風から守るリステル。クィーロは清々しい朝の空気を肺一杯に吸い込み、背伸びをした。
「……凄いね」
隣に座る時雨の言葉に頷きながらも、エヴァは今この時を逃してなるものかと猛烈な勢いで筆を動かしていた。湧き上がる感情そのままに鮮やかな色彩がパレットを駆け抜ける。
望みが叶ったというのにポカーンとした表情で呆けていたセラフィーナだったが、ようやく我に返ると、モリスンの制止も聞かずに飛び出し、天へと手を伸ばす。細い喉で力の限りに叫んだ。
「私、今、最ッ高ーに幸せですわっ!!」
「セラフィーナさん、道中は何もかも珍しく興味深い事が多いかと存じます。ですが決して我々から離れないで下さいね?」
「ハイ!」
「モリスン殿も、主を想うお気持ちが強い事は判ります。しかし貴方の挙動が主家の家名にも関わる事も念頭に入れて行動下さいますよう」
「モチのロン、心得ておりますとも」
(本当でしょうか……?)
返事だけはやたらと良い依頼主の二人に、リステル=胤・エウゼン(ka3785)は胸中で疑問を抱かずにいられなかった。
ともあれ、旅の準備を進めなくては。小さな手提げ鞄一つで現れたセラフィーナの姿には愕然としたものである。しかも中身は、およそ旅とは関係の無い品ばかり。
「本格的な防寒具や、先々の食料はもっと北へ進んでから調達すれば良いだろうけど、毎日町や村に寄れるとも限らないからね。餓死しない程度の食べ物と着替えくらいはあった方が良いと思うよ」
と、これはクィーロ・ヴェリル(ka4122)の言葉である。隣の雨夜 時雨(ka3964)も頷き、
「身体一つでの旅は初めてみたいだし、予備も含めてちょっと多めに準備した方がいいかな。少しくらいならボクの馬に載せていけるし」
次にエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が、筆談にて旅の心得を伝授していく。
『財布はひったくりやスリがあるから、もしもの時に備えてお金はまとめて入れておかない事』
「お金って何ですの?」
そこからか!
『あんまり軽い荷物だと、すぐに置き引きされるから気を付ける!』
「そのような不貞の輩、このモリスンが抹殺――」
殺しちゃ駄目! お願いだから!!
「えへへ。情報収集ついでに、人数分のお弁当、お願いしてきちゃったよ――どうしたの?」
ランカ(ka0327)の言葉に答える気力を持つ者は、既にその場には存在していないのだった。
●この道の行く先は
幸運にも、旅立ちは快晴に恵まれた。
時雨、エヴァ、クィーロの馬を連れての旅路はなかなかに賑やかなものである。
「それではエルディラ様は、魔術をお使いになるのですね」
「うむ。他にも法術、霊呪、機導術――一通りは押さえておる。お互いに関わり合いの深い分野でもあるしのぅ」
胸を張るエルディラ(ka3982)に、セラフィーナは無邪気に賞賛の言葉を贈る。
「素晴らしいですわ。私も機会があれば学んでみたいと思っていますの」
と、その時だ。モリスンの瞳がギラリと輝いた。
「お嬢様! 足元に危険な窪みぐはぁっ!」
見事な反射神経でヘッドスライディングを決めたモリスンを踏みつけながら、セラフィーナは何事も無かったかのように歩みを進めたのであった。
止める暇も無くその様子を傍観するしかなかったリステルであるが、立ち上がったモリスンの頬がほんのり赤く染まっている事実には戦慄するしかなかった。
「貴方、まさか……」
すっと差し出される、口止めの人差し指。
「いやー、世の中色々な人がいるものだね」
朗らかに笑うクィーロがススス、とモリソンから距離を取ったのを、リステルは見逃さなかった。
冬の日暮れは、夏のそれよりもずっと早い。
「僕は薪を集めてくるよ」
そう言い残して近くの森へ去っていくクィーロの背中を見送り、リステルは溜め息にも似た息を漏らした。彼としては出来るだけ安全な旅を推奨したかったのだが、キラキラ輝く瞳で「野宿もしてみたいのです!」と押し切られてしまった。何だかんだで、彼も自分の力の及ぶ範囲で主の願いを叶えようとする気質なのだ。
女性陣が協力してテントを張っているようなので、こちらでは火を焚く為の竈を準備し、クィーロの帰りを待って炎を囲んだ。
「ディナーは何かしら?」
はてさて、お嬢様の口に合うかどうか。
乾し肉を薄く切ったものを火で炙り、お湯で戻すだけの干し野菜で簡単なスープを作る。
木のお椀の中身を口に運んだセラフィーナの表情が、瞬く間に何とも言えないものへと変化していった。一同から笑いが零れる。
「お世辞にも美味しいものではないからね」
「でも、慣れると結構イケるんだよ!?」
クィーロの言葉にランカがフォローを入れるが、これに慣れるのにはどれだけの旅を経験すれば良いのだろうか。文句一つ言わずに食事を進めるハンター達を、セラフィーナは信じられないような瞳で見ていた。
「最近は、こんな便利な物も出回っておってのぅ」
アルディラが「ほれ」と差し出したのは、妙な光沢を放つ袋であった。中に入っているのは、黄色くて薄い――フライドポテト?
「『ぽてち』というそうじゃ。我も最近手にしたのだが、なかなか美味いものでな。主食にするには心許無いが、保存性も高い」
次に取り出したのは、手のひらサイズの缶詰。変な部品がついているのは何だろうと見ていると、アルディラはそこに指を引っ掛けて一気に缶を開けたのだった。
缶の中身は、オイル漬けにされた魚のほぐし身である。これに適当な味付けをし、余っていたパンに挟んで食す。
「……不思議な味ですわ」
そうしている間にも夜はふけ、ある者は着の身着のまま、またある者は毛布を羽織ると、それぞれの準備で横になった。
明日も夜明けから歩く事になる。交替で火の番をし、眠りに就く。
「眠れませんか?」
炎に新たな薪をくべたリステルが振り向くと、寝袋から顔だけを出したセラフィーナと視線がぶつかった。彼女は寝返りを打つと、空を見上げて白い息を吐く。
「えぇ。このような形で眠るのは初めてですので、緊張しているみたいですわ。それから……ちょっとだけ興奮しています」
その頬は年頃の女性らしく赤く上気している。
「何かお話、して頂けませんか?」
「そうですね。では、母から聞いた蒼の世界の話など――」
ぱらり、とページをめくる音だけが夜のしじまに響き渡る。
「すっかり寝入ったみたいだね」
『何だかんだで、疲れているみたいだったから』
本を手にした時雨の言葉に、エヴァはこくりと頷いた。
初日としては、上々の滑り出しだろう。ほぼ予定通りに街道を進んでいる。
「問題は、明日からだけど」
といっても、心配する程の事でもない。その為に自分達がいるのだから。今はこの夜を満喫しようではないか。
来たる明日に、むしろ楽しみを抱いて。時雨はページの向こうに揺らぐ炎を見つめて微笑むのだった。
案の定、セラフィーナは鞍上の人となっていた。
足を庇うような動きには全員が気づき、クィーロが穏やかながらも有無を言わさぬ調子で自分の馬へと乗せたのだった。
「休める時に休むのも、旅を楽しむ秘訣だよ」
愛馬の鼻を撫でてやりながら、こうも言葉を掛ける。
「それに、そこからの景色も乙なものさ」
旅の始まりから、馬をちらちらと乗りたそうに見ているのには気がついていた。実際、自分の不甲斐なさにがっかりしながらも、これはこれで楽しそうな様子である。
「さて。先行した人達はどうしているかな?」
丁度その頃、エヴァ、時雨、ランカの三人は喧騒の中にいた。
「街道の交わる宿場町だけあって、凄い賑わいだね」
人混みに流されないようにしながら、ランカが声を上げる。小柄な女性だけでは、油断するとすぐにお互いを見失ってしまいそうであった。馬の手綱を引きながら、ようやっと目ぼしい宿屋に辿り着く。
「五人部屋二つと馬小屋、大丈夫だって」
受付で話していた時雨が振り返って大きく「丸」のジェスチャーをすると、エヴァとランカの顔が華やいだ。これで今夜はゆっくりとお風呂に入り、柔らかいベッドで眠れるというわけだ。旅慣れた彼等であっても――否。彼等だからこそ、宿の有難みを知っているのである。
『あとはご飯だね』
「そういえばランカちゃん、出発前に情報を集めていたみたいだけど……」
二人に水を向けられると、ランカはえっへん、と胸を張り、
「うん! 人気のお店も教えて貰っちゃった。確か名前は――」
『腰抜けチキン亭へようこそ!』
「「……………………」」
何ともコメントに困る店名に、一同は言葉を失ってしまった。
店名が書かれた看板を手に満面の笑みを浮かべているのは、微妙な造形の人形である。これは所謂ゆるキャラ……なんだろうか? そこはかとなく鶏っぽい。
『芸術が爆発しているね』
エヴァには何か感じるものがあったらしく、その場で簡単にスケッチを取っていた。
入るのに若干勇気がいる店構えだが、中からはいい匂いが漂ってきている。空腹も手伝って一同がテーブルに着くと、すぐにウエイトレスが注文を取りに来た。目的の品はここの看板料理らしく、皆まで言う事無く「OKOK」と厨房へと引っ込んでいく。
そして――
「「おぉ~」」
テーブルの中央に勢い良く置かれた皿を囲んで、一斉に声が上がった。
大きな丸鶏が一羽丸ごと、ローストされた形で出てきた。切れ目から漂ってくるのは、中に詰められた香草と穀物の匂いだろうか。
それをウエイトレスが鮮やかな手つきでさばいていく。すぐに人数分の皿に取り分けられ、さあ召し上がれ。
「え? それが正式な作法ですの?」
「正式というわけではないけど、物は試しさ」
セラフィーナはクィーロに教えられながら、おっかなびっくりの手づかみでモモ肉にかぶりついていた。
「すっほふほひひいへふぬぇ」
「うむ、ランカよ。まずは口の中のものを飲み込むのじゃ」
口一杯に頬張って幸せそうな顔のランカを嗜めるエルディラ。リステルが抜け目無く注文していた飲み物も行き渡り、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「いよいよ、目的地まで半分を越えたね」
宿までの帰り道を歩きながら、時雨が思い出したように告げる。
「『雪精のダンス』ってどんなのかなぁ。きっと綺麗なんだろうけど……!」
「ほぅ、やはり気になるか。我が考えるに――」
どうやら今日は、長い夜になりそうである。
●雪精のダンス
「凄いですわ! 一面の銀世界!」
頭からすっぽり被った毛皮の重みも何のその。目の前に広がる景色の中に突進していくセラフィーナを追って、ハンター達も雪原へと踏み出していく。
「結局、『雪精のダンス』って何なんだろうね?」
首を傾げるランカの脳裏には、昨日の事が思い出されていた。
「『雪精のダンス』? 知らんなぁ、そんなもんは」
目的地手前の村にて。宿屋が無いようなので一晩の宿をお願いした村長は一行の目的について尋ねられると、ハッキリとそう告げてきたのだった。
「雪なんて外に出ればいくらでもあるもんでな。有難がるのはお前ぇさん達みたいなヨソモンだけだろうよぉ」
身も蓋も無い言い草に思わず顔を見合わせる。確かに、この地に住む人にとっては日常的な出来事が、本を書いた冒険者の目には珍しく映ったのかもしれない。
「それに、ワシ等が奉っとるのは風神様だぁで」
「風神様?」
問い返した時雨に、村長は今まさに手を合わせた祭壇を示し、
「この地の恵みは全て風神様が運んで来て下さる。冬の間は特に、早く春を運んで来て下さるよう、祈りは欠かせみゃーでな」
土着信仰の一つといったところだろうか。験担ぎに全員で見様見真似の祈りを捧げると、「明日は早いんじゃろ? 朝は特に寒いでなぁ。温まってさっさと寝ちめーよ」という村長の言葉に甘え、床に就くのだった。
「本の記述に従うなら、この辺り?」
ランカは周囲を見渡すも、殺風景な雪原の風景が広がるばかりである。
「あ、熊さんですわ。待って……!」
「お嬢様、しばしお待ちを。このモリスンがすぐに狩ってぐふぅっ!」
意気揚々と駆け出そうとしたモリスンの後頭部を、エルディアのフルスイングの一撃が襲った。
「逆に狩られるわ、たわけめ!」
「貴方も従者ならば、まずは主の安全を考えて下さい」
雪に沈んだモリスンを引っ張り起こしながら、リステルは何度目かも分からない溜め息を零す。どうやら退屈はしないで済みそうである。油断もできないが。
『かまくら作らない?』
エヴァの一言で始まったかまくら造り。まずは『かまくら』という聞き慣れないものを絵で説明するところから始まり、男性陣は必要になる水を探しに出てくれた。
汲んできた水で時々固めてやりながら雪の山を作り、充分な大きさになったところで今度は中をくり抜いていく。
『完成!』
エヴァが笑顔でOKサインを出す頃には、太陽は西の空に掛かり始めていたのだった。
早速中に入り、小さな竈を作って火をおこす。雪の壁が融けないかと心配になるが、一晩くらいなら意外と大丈夫なものらしい。
かまくらを作っている間も、ついぞ『雪精のダンス』を見る事は叶わなかった。クィーロが一同を励ますように声を出す。
「ギリギリまで粘ってみようよ。折角なんだからさ」
「そうですね。備えはありますので」
夕食はリステルが保存食から作ってくれた、濃厚な味わいのスープ。味噌という調味料を使っているらしい。
『実は……取って置きのお酒があるよ』
いたずらっ子の顔でエヴァが取り出したのは、香草を混ぜた女性にも飲みやすいワインだった。芳醇な香りと共に口をつければ、たちまち身体がポカポカしてくる。
酔い覚ましも兼ねて全員で外に出ると、冬の澄んだ空気に瞬く満天の星空が出迎えてくれた。
時雨は息を吐き、自分達以外に音のしない夜の闇を見つめた。
「いい夜だね」
遠くの空をじっと見つめていたクィーロがそれに応える。
「雲が流れてきている。朝から雪が降りそうだね」
「それはもしや、チャンスやもしれぬのぅ?」
エルディラの瞳が、不敵な笑みと共に鋭く光っていた。
――光の世界が広がっていた。
明け方から降り始めた粉雪が、ゆっくりと昇っていく太陽の光を反射してキラキラと輝いている。その様子はまさに――
「これが『雪精のダンス』……?」
思わず見惚れていたランカだったが、横からの強風に顔を庇う。いや、これは強風なんてものじゃない。油断すれば身体ごと持っていかれる――!
「ほぉ。真に精霊がおったか」
愉しげな笑みを浮かべるエルディラの見つめる先では、雪に混じってマテリアルの残滓が宙を舞っていた。感覚を研ぎ澄ませば、気分良く飛び回る存在をうっすらと感じる事すら出来るかもしれない。
「雪ではなく、風の精霊でしたか」
「風神様のご加護って奴がありそうだね」
モリスンと共にセラフィーナを風から守るリステル。クィーロは清々しい朝の空気を肺一杯に吸い込み、背伸びをした。
「……凄いね」
隣に座る時雨の言葉に頷きながらも、エヴァは今この時を逃してなるものかと猛烈な勢いで筆を動かしていた。湧き上がる感情そのままに鮮やかな色彩がパレットを駆け抜ける。
望みが叶ったというのにポカーンとした表情で呆けていたセラフィーナだったが、ようやく我に返ると、モリスンの制止も聞かずに飛び出し、天へと手を伸ばす。細い喉で力の限りに叫んだ。
「私、今、最ッ高ーに幸せですわっ!!」
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エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ランカ(ka0327) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/09 18:57:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/09 09:52:32 |