ゲスト
(ka0000)
急募、劇場出演者!
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/29 09:00
- 完成日
- 2014/07/07 12:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●報道官
自由都市同盟の事実上の首都ヴァリオス。
極彩色の街と呼ばれるにふさわしい、賑やかで華やかな街である。
ここには自由都市同盟軍の総司令部もある。
とはいえ、「クリムゾンウェスト最強」とすら謳われる同盟海軍の中枢はポルトワールにある為、総司令部の役割は軍全体の行動計画や各方面との調整など、お役所仕事的なものとなっている。
ちなみに同盟軍には陸軍もあるのだが、こちらは海軍に比して評価が低めである。精々、街の治安維持をまあ一応は頑張っているんじゃないかという程度だ。
「それでは特にご質問も無いようですので、本日の定例会見は終了といたします。お疲れ様でした」
段上で妙齢の女性が告げる。名札には報道官メリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉、とある。
すらりとした長身で、穏やかな笑顔を絶やさない。だが眉や頬のあたりには将校らしい、隠しようのない鋭さが時折閃いた。
集まった人々が腰を上げ、会見室をぞろぞろと出て行く。
メリンダも書類を小脇に抱え立ち去ろうとしたが、自分を呼ぶ声に足を止めた。
「ドナーティ報道官、ちょっとよろしいですかな」
「あら、アルバ支配人。こんな所でお珍しいですね」
メリンダは初老の男に会釈を返した。
「実はですな、ご相談がありまして……」
「何かありましたか?」
メリンダの表情が引き締まる。
●とばっちり
近々ヴァリオスの『ベルカント大劇場』にて、人気の劇団による歌劇が上演されることになっていた。
だが劇団の馬車がヴァリオスへの道中で何者かに襲われ、どうしても初日に間に合わなくなってしまったのだ。
劇場のアルバ支配人は、穏やかな言い回しながら、これは同盟陸軍の治安維持能力に問題があるから起きた事件だとメリンダに仄めかした。つまり責任問題について騒ぎたてられなくなければ、そちらで劇場が日程に穴を開けずに済むように手配しろ、という訳だ。
メリンダはこっそりお手洗いの壁にパンチをくれてから、上司に報告した。上司は溜息をつき、彼女に事後を任せた。メリンダはもう一度壁を殴り、その足でハンターズソサエティへと向かったのである。
●急募
集まったハンターたちを前に、メリンダはてきぱきと説明を始めた。
「お願いしたいのは、ショーへの出演なのです」
時間は1時間ほど。
演目は特にこだわらず。
楽器、大道具、小道具、衣装など、大概の物は劇場に揃っている。
「急なことで申し訳ないのですが、どうぞ宜しくお願い致します」
最後にメリンダは、上手くいった場合は支配人に報酬を弾ませる、と付け加えた。
自由都市同盟の事実上の首都ヴァリオス。
極彩色の街と呼ばれるにふさわしい、賑やかで華やかな街である。
ここには自由都市同盟軍の総司令部もある。
とはいえ、「クリムゾンウェスト最強」とすら謳われる同盟海軍の中枢はポルトワールにある為、総司令部の役割は軍全体の行動計画や各方面との調整など、お役所仕事的なものとなっている。
ちなみに同盟軍には陸軍もあるのだが、こちらは海軍に比して評価が低めである。精々、街の治安維持をまあ一応は頑張っているんじゃないかという程度だ。
「それでは特にご質問も無いようですので、本日の定例会見は終了といたします。お疲れ様でした」
段上で妙齢の女性が告げる。名札には報道官メリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉、とある。
すらりとした長身で、穏やかな笑顔を絶やさない。だが眉や頬のあたりには将校らしい、隠しようのない鋭さが時折閃いた。
集まった人々が腰を上げ、会見室をぞろぞろと出て行く。
メリンダも書類を小脇に抱え立ち去ろうとしたが、自分を呼ぶ声に足を止めた。
「ドナーティ報道官、ちょっとよろしいですかな」
「あら、アルバ支配人。こんな所でお珍しいですね」
メリンダは初老の男に会釈を返した。
「実はですな、ご相談がありまして……」
「何かありましたか?」
メリンダの表情が引き締まる。
●とばっちり
近々ヴァリオスの『ベルカント大劇場』にて、人気の劇団による歌劇が上演されることになっていた。
だが劇団の馬車がヴァリオスへの道中で何者かに襲われ、どうしても初日に間に合わなくなってしまったのだ。
劇場のアルバ支配人は、穏やかな言い回しながら、これは同盟陸軍の治安維持能力に問題があるから起きた事件だとメリンダに仄めかした。つまり責任問題について騒ぎたてられなくなければ、そちらで劇場が日程に穴を開けずに済むように手配しろ、という訳だ。
メリンダはこっそりお手洗いの壁にパンチをくれてから、上司に報告した。上司は溜息をつき、彼女に事後を任せた。メリンダはもう一度壁を殴り、その足でハンターズソサエティへと向かったのである。
●急募
集まったハンターたちを前に、メリンダはてきぱきと説明を始めた。
「お願いしたいのは、ショーへの出演なのです」
時間は1時間ほど。
演目は特にこだわらず。
楽器、大道具、小道具、衣装など、大概の物は劇場に揃っている。
「急なことで申し訳ないのですが、どうぞ宜しくお願い致します」
最後にメリンダは、上手くいった場合は支配人に報酬を弾ませる、と付け加えた。
リプレイ本文
●
「よくわからないが、演劇をやればいいのだな」
アイアン・カーメン(ka1278)の仮面の下の表情は窺い知れない。
「ハンターの役割は戦うばかりではないのだな。ならば、観客の笑顔が見られるよう、精いっぱい努力しよう」
メンバーのほとんどが芝居は初めてだが、気持ちは同じだ。
エテ(ka1888)が手にした本は『シンデレラ』だった。
「とても面白い物語ですね! 主人公の逆転劇、みたいです」
すっかり気に入ったようだ。
「……素敵」
ほう、と、こっそり溜息。不幸なヒロインが王子様に救われ幸せになる物語は、乙女心をくすぐるようだ。
「元々あちらの世界で、宮廷のサロン向けに作られたものだと聞いているわ。マダムやお嬢様方向けには丁度いいんじゃなあい?」
アルバート・P・グリーヴ(ka1310)も同意する。
リアルブルー出身組はおよその筋は知っていた。
「シンデレラ……なんだか懐かしいわね」
月影 夕姫(ka0102)の言葉に、紅・L・諾子(ka1466)が悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「どうせならば、少しアレンジしてみるのも面白かろうな」
リノ・キャロル(ka1671)がぱっと顔を輝かせる。
「あたしは男の子がシンデレラ役するの見たいです!」
「あはは、だったら王子は女の子なんだね」
陽炎(ka0142)が何気なくそう言った。……墓穴とも気付かず。
「というわけで、配役はこんな感じになります」
クラーク・バレンスタイン(ka0111)が壁に紙を広げた。
シンデレラ:陽炎
継母:紅
姉:月影
妹:エテ
王子:リノ
魔法使い:アルバート
審判:アイアン
ナレーション:クラーク
「女装して『背の高さをコンプレックスにしたシンデレラ』を演じるよ!」
腹を括って開き直った陽炎。
(……やるんだ陽炎、やるなら全力で! ためらいなく!)
「あたし、むかーしから、踊りとか芝居には憧れてましたし……あんまりうまくないですけど」
大役にリノはちょっと戸惑っている。
「でも練習して、頑張ります!」
拍手が起こった。
そこにメリンダ・ドナーティ(kz0041)が様子を見に訪れた。
「シンデレラになりましたか。……審判……っていたかしら?」
「ほほほ、当日までのお楽しみじゃ。何、妾は劇団におったでな、安心するが良いぞ」
諾子がさも自信ありげに請け合う。
「わかりました、では当日を楽しみにしています」
「頑張ります! 『ベルカント大劇場』の人たちが困ってるんですから!」
リノが力強く言った。
●
いよいよ当日。
「皆さん、宜しくお願い致しますぞ」
劇場の支配人アルバは不安げに見えた。
「任せときなさいって。やるからには素人芝居だなんて呼ばせはしないわよ」
衣装をつけたアルバートが胸を張る。
観劇は好きだが、役者の経験はない。その分しっかり練習を積んできたのだ。後は演じ切るだけ。
「アル兄さん、もし台詞を忘れたらあちらを見るか、俺に合図を」
ロイ・I・グリーヴ(ka1819)が舞台の袖を指さした。
クラークが用意したボードに、劇の流れがしっかり書いてある。
「了解。頼りにしてるわよ」
当然、台詞は完璧だ。だがアルバートは弟の気遣いを頼もしく思う。
楽屋は静かな興奮と緊張に満ちていた。
「動かないで下さいね、ずれますから」
アマービレ・ミステリオーソ(ka0264)が陽炎のメイクを手伝う。
「最初はこんなものかしら」
「有難うね、うん、ステキ……」
もう、ここまで来たら開き直れ、自分。陽炎はリノを気遣って、声をかける。
「王子、大丈夫?」
「ちょっと緊張してます。でも、凄く楽しみです!」
にっこり笑うリノと、握手。
「頑張ろうね」
「はい! かなり責任重大ですけど、頑張ります! しっかりエスコートしますね!」
開演時間が迫っていた。
「必ず成功させましょう!」
青と黄の花柄ワンピースを纏ったエテの明るい声に、全員が強く頷く。
●
幕が上がる。
『ある所に、シンデレラというかわいそうな少女がおりました』
ナレーターのクラークの滑らかな声が響き、襤褸を纏った陽炎シンデレラが登場。
客席が僅かにざわめいた。シンデレラ、でかい。少女じゃない。
『彼女は継母とその連れ子である姉たちに日々いじめられるという、辛い日々を送っています』
ドレスの裾さばきも堂々と、継母諾子登場。
「シンデレラ、なんだい玄関の埃は? 掃除の手を抜いてはいけないとあれほどいっただろう!?」
「はい、お母様……」
シンデレラはとぼとぼと玄関へ。
向かい合うエテがツンと顎を上げる。
「シンデレラ、どうしてそんな髪をしているの? 結い方が甘いですわ!」
「いたたたた!?」
エテは強引にシンデレラを座らせ、ぼさぼさの髪を梳く。
続いて現れた夕姫姉が、シンデレラを見下ろした。
「今日はお城の舞踏会の日。お前はお留守番よ」
「舞踏会はお母様と姉様、私で行くんです!」
エテが強く断言。
「舞踏会……」
「王子様が花嫁を選ぶための舞踏会よ。国中の娘が招かれているけれど、お前は玄関でも磨いていなさい」
姉娘はシンデレラとすれ違いざまに、ふと足を止める。
「そういえば昨日のご飯……」
「えっ、何でしょう」
怯えたように振り向くシンデレラに、姉娘はプイと横を向いた。
「何でもないわ」
「家に変な人が来ても応対しちゃダメですよ!」
姉娘とエテは舞台袖に消えて行く。
床に座り込んで嘆くシンデレラ。
「お母様、お姉様、エテはずっと私を家に押し込めて……このままじゃ婚期を逃して行き遅れちゃう」
えらくリアルな嘆きである。
「でも、私は背ばっかり伸びて、似合うドレスもないわ。こんな男みたいな女を好いてくださる殿方なんて……」
よよと泣き崩れるシンデレラ。その背後に影が浮かび上がった。
『嘆いていると、不思議な事が起こります』
クラークは充分に間合いを取る。ここは劇的でなければ。
『なんと、魔法使いが現れたのです』
サッと薄い布が開き、アルバートの魔法使いが登場した。
「シンデレラ、私の可愛い名付け子よ。もう泣くのはお止し。私が舞踏会に行かせてあげよう」
目深に被ったフードで顔を隠し、声も年寄りに聞こえるように。
杖を振る合図を見て、アマービレが灯を落とす。
「これが……私……?」
驚きと戸惑いを含んだ声。
『準備を整えたシンデレラは、お城に向かいました』
馬の蹄、嘶きの声が響く。
その間に、全員が急いで衣装替え。
「その飾りは私の……!」
「アルバートさん、自分の服装は変ではないですか」
舞台裏は戦場だ。
「シンデレラの衣装替えに時間がかかる。ダンスは気持ち長めに頼む」
ロイの指示に、アルバートが頷いた。
「いいこと。見つめ合い、優雅なお辞儀の後に手を取って、ね」
アルバートは皆に優雅な所作やダンスを教え込んできた。下手に自信を折るようなことはしない。こんな役は褒められた方が上手く行くはずだ。
「さ、行きましょ。大丈夫よ、練習の通りにやればいいのよ。観客もうっとりする事請け合いよ」
どこまでも華麗に、堂々と。
舞踏会が始まる。
●
柔らかなワルツが流れる。進み出た全員が面をつけ、薄闇に溶け込んでいた。
(せめて相手に恥をかかせないようにせねばな)
アイアンは諾子の手を取り、背筋を伸ばす。
仮面を被ったままの彼に配慮して、仮面舞踏会ということになったのだ。その配慮に報いなければならない、とアイアンは気負う。
「なかなかリードが上手じゃな」
見事な肢体を濃紺のシックなドレスに包んだ諾子が囁いた。
恭しく夕姫の手を取り、貴族らしい姿に戻ったアルバートが軽くお辞儀。
(流石、というところかしらね)
青いドレス姿の夕姫が心中呟く。リアルブルーの人間にとっては、この世界自体がおとぎ話のような物。思えば不思議な縁である。
「宜しくお願いします、エテさん」
これから戦場に向かうかのような真剣な目つきのクラークに、エテも真面目にお辞儀する。
「よろしくお願いします。その服、良く似合ってますね」
「有難うございます」
導かれるままにふわりと身を翻すと、薄青いドレスの羽根飾りと裾が翻り、華やかな爪先が見え隠れする。
そうして影たちが優雅に静かに踊る姿を背景に、うっとりと夢見るようにシンデレラが呟いた。
長身に華やかな薄紅色のドレスを身に纏い、さっきまでの襤褸を着た娘とは別人である。
「美少年で可愛らしい王子様! 間違いない、この人が私の運命の人……!」
もうひとり、照明に照らされているのは……カボチャパンツに白タイツ、腰にサーベルを挿したリノ王子。
振り向いた姿勢のままで、目を見張っている。
「なんてすらりとした女性だろう。憧れる程の長身!」
客席からくすくす笑いが漏れた。だが王子は、ゆっくりと引き寄せられるようにシンデレラの元へ。
「ボ……ボクと踊って頂けますか、美しい方!」
「ええ、喜んで……!」
いつしか影達は消え、ふたりは手を取り見つめ合う。
『その時シンデレラの耳に、12時を知らせる鐘の音が聞こえてきます』
ゴーン、ゴーン……。
「ごめんなさい! 私帰らなくては!」
「あっ、待ってください!」
シンデレラは長いコンパスで王子を引き離し舞台を駆け抜けた。
袖に引っ込んだところで、王子が声を上げる。
「あっ! 危ない!!」
後を追いかけて王子も舞台から消えた。
『余りに慌てて階段を走り抜けたので、シンデレラのガラスの靴が脱げてしまいました』
王子が再び登場する。
「行ってしまった……この靴だけを残して」
悲しそうに王子が胸に抱くのは、ガラスの靴。……でかい。
「そうだ、国中の娘にこの靴を履かせよう。この靴の持ち主こそ、ボクの花嫁だ!」
王子は自分なら両足が入りそうな靴を、大事に掲げるのだった。
●
『王子はシンデレラを探すためにガラスの靴をもって出かけます』
クラークのナレーションと共に、場面が入れ替わる。
『けれどガラスの靴がぴったりと合う娘はいません。他に誰かいないのか。その声に、ついにシンデレラが現れました!』
「王子様ぁーーー!!」
客席の後方から、颯爽と馬に跨り……と行きたかったが、流石に支配人に怒られた。
ので、馬っぽい物を被った大道具の人がふたり、シンデレラを乗せて頑張っている。
「あなたはあのときの……! 確かにその長身、間違いない!」
「王子様……!」
舞台の上でキラキラと見つめ合うふたり。
「お待ちなさい!」
姉娘の声が鋭く響いた。
「私達のシンデレラを、自分の事すら碌にできないだろう貴族や王族に渡すなんて論外ね!」
「絶対シンデレラ姉様は守って見せます!」
妹のエテも立ち塞がる。
「え……?」
一番びっくりしているのはシンデレラだ。そこに激しい音楽が流れはじめる。
「かかってきなさい王子様。私を倒せない限りシンデレラは渡しませんよ」
びしい。長い鞭で床を叩き、高笑いの継母が現れたのだ。
『なんと、シンデレラを巡っての争奪戦が始まりました!』
アルケミストタクトを構えた姉娘がじりじりと母の後ろから近付く。
「連れて行くというなら、相応の覚悟をしなさい。あの子は渡さないわ」
「これも姉様を守る為なのです!」
エテの周囲に風が湧き起る。
「でも、ボ、ボクは……シンデレラを連れて帰るんだ!」
王子の必死の訴え。
「その勝負! このアイアン・カーメンが預かった!!」
突如乱入する仮面の男。
「赤コーゥナァー! 158cm 108ポンド! 王子、リノ・キャロルゥゥ!」
王子が万歳すると、わーっと効果音。
「青コーゥナァー! 173cm 126ポンド! 継母、紅・L・諾子ォォ!」
継母が胸を反らし、効果音再び。
「いざ尋常に……ファイッ!」
そこにローブ姿の魔法使いが登場。
「待たれよ!」
シンデレラは怖くなって思わず叫んだ。
「お母様達も、王子様も! あと何でいるのか分からない魔法使いさんとそこの煽る人も! 喧嘩はしないでーーーー!!」
だが魔法使いは継母を睨みつける。
「お前達はまだシンデレラを虐めようとするのか?」
「虐めですって?」
継母は鼻で笑うと、魔法使いの杖を鞭で絡め取り、遠くへ放り投げた。
「あれは花嫁修業。いつか良い人の元へ嫁ぎ可愛い可愛いシンデレラが幸せになるための。その証拠に手を上げたことなどないわ」
ちょっと怯えながらも、魔法使いは必死に抗う。
「だが王子との結婚を邪魔しようとしているではないか!」
「こんな可愛い子をつまらない男の餌食にする訳にはいかないの。王子がいかほどのものか、それを今、証明して貰うのよ!」
姉娘がキリ、と唇を結ぶ。その心情をナレーターが代弁。
『本当はお姉さんも、シンデレラが大好きなのです。性格は優しいし、作ってくれるご飯は美味しい。ツンデレラのお姉さんは、そんなことは絶対口に出しせんけど』
「姉様、お嫁になんて行かないで!」
エテも必死で叫ぶ。
「お母様……姉様、エテ……私そんなこと知らなくて……」
シンデレラがふるえる。
「わ、私……王子様の所にお嫁に行っても、ちゃんと、ずっと皆の家族のまま……ぐすっ……だから……うわぁあああああん!!」
感極まって子供のように泣き出すシンデレラ。
「そう、あなたの決意は固いのね……幸せになるのよ。可愛い私の妹」
姉娘がふっと笑う。そして王子を睨みつけた。
「この子を泣かすようなことがあったら許さないわよ」
「姉様の心は姉様だけの物ですものね……」
エテはシンデレラに縋りついた。
「私も姉様みたいに、いつか素敵な恋をできるように祈ってくださる?」
「勿論よエテ。お母様、ごめんなさい」
エテを抱き締めながら、シンデレラが顔を上げた。
「貴女が幸せならそれでいいのですよ」
継母も優しく微笑みながら、鞭を収める。
杖を拾って戻ってきた魔法使いが、キリ、と指さした。
「シンデレラよお行き。躊躇わず真実の愛を得るのだ!」
「はい!」
『こうして王子様とシンデレラは、幸せに暮らしましたとさ』
幕が静かに下りて行った。
●
拍手喝采のカーテンコールも終わり、楽屋に戻ったところでようやく安堵の息が漏れる。
「ふ~、何とか終わったわね。すごく緊張したわ」
夕姫が軽く肩をすくめた。
「こっちの人達が、今回のが本当の話だと思わないと良いけどね。でも楽しかった! この後、みんなで打ち上げなんてどう?」
賛成の声が上がる。
カーメンがそこにメリンダを呼ぼうと提案した。
「まぁ、なんだ。終わった後は感想が気になるのでな。メリンダに自身の感想と、他の観客の反応を聞きたいと思わないか?」
「上々ですよ。私の思っていたのとは、何だかちょっと違いましたけど」
いつの間にかメリンダが来ていた。
「お陰さまで助かりました。また何かありましたら、宜しくお願いします」
支配人の伝手で、打ちあげ会の準備ができているという。
どうやら『今後何かあったら』と考えているのは、メリンダだけではないようだ。
<了>
「よくわからないが、演劇をやればいいのだな」
アイアン・カーメン(ka1278)の仮面の下の表情は窺い知れない。
「ハンターの役割は戦うばかりではないのだな。ならば、観客の笑顔が見られるよう、精いっぱい努力しよう」
メンバーのほとんどが芝居は初めてだが、気持ちは同じだ。
エテ(ka1888)が手にした本は『シンデレラ』だった。
「とても面白い物語ですね! 主人公の逆転劇、みたいです」
すっかり気に入ったようだ。
「……素敵」
ほう、と、こっそり溜息。不幸なヒロインが王子様に救われ幸せになる物語は、乙女心をくすぐるようだ。
「元々あちらの世界で、宮廷のサロン向けに作られたものだと聞いているわ。マダムやお嬢様方向けには丁度いいんじゃなあい?」
アルバート・P・グリーヴ(ka1310)も同意する。
リアルブルー出身組はおよその筋は知っていた。
「シンデレラ……なんだか懐かしいわね」
月影 夕姫(ka0102)の言葉に、紅・L・諾子(ka1466)が悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「どうせならば、少しアレンジしてみるのも面白かろうな」
リノ・キャロル(ka1671)がぱっと顔を輝かせる。
「あたしは男の子がシンデレラ役するの見たいです!」
「あはは、だったら王子は女の子なんだね」
陽炎(ka0142)が何気なくそう言った。……墓穴とも気付かず。
「というわけで、配役はこんな感じになります」
クラーク・バレンスタイン(ka0111)が壁に紙を広げた。
シンデレラ:陽炎
継母:紅
姉:月影
妹:エテ
王子:リノ
魔法使い:アルバート
審判:アイアン
ナレーション:クラーク
「女装して『背の高さをコンプレックスにしたシンデレラ』を演じるよ!」
腹を括って開き直った陽炎。
(……やるんだ陽炎、やるなら全力で! ためらいなく!)
「あたし、むかーしから、踊りとか芝居には憧れてましたし……あんまりうまくないですけど」
大役にリノはちょっと戸惑っている。
「でも練習して、頑張ります!」
拍手が起こった。
そこにメリンダ・ドナーティ(kz0041)が様子を見に訪れた。
「シンデレラになりましたか。……審判……っていたかしら?」
「ほほほ、当日までのお楽しみじゃ。何、妾は劇団におったでな、安心するが良いぞ」
諾子がさも自信ありげに請け合う。
「わかりました、では当日を楽しみにしています」
「頑張ります! 『ベルカント大劇場』の人たちが困ってるんですから!」
リノが力強く言った。
●
いよいよ当日。
「皆さん、宜しくお願い致しますぞ」
劇場の支配人アルバは不安げに見えた。
「任せときなさいって。やるからには素人芝居だなんて呼ばせはしないわよ」
衣装をつけたアルバートが胸を張る。
観劇は好きだが、役者の経験はない。その分しっかり練習を積んできたのだ。後は演じ切るだけ。
「アル兄さん、もし台詞を忘れたらあちらを見るか、俺に合図を」
ロイ・I・グリーヴ(ka1819)が舞台の袖を指さした。
クラークが用意したボードに、劇の流れがしっかり書いてある。
「了解。頼りにしてるわよ」
当然、台詞は完璧だ。だがアルバートは弟の気遣いを頼もしく思う。
楽屋は静かな興奮と緊張に満ちていた。
「動かないで下さいね、ずれますから」
アマービレ・ミステリオーソ(ka0264)が陽炎のメイクを手伝う。
「最初はこんなものかしら」
「有難うね、うん、ステキ……」
もう、ここまで来たら開き直れ、自分。陽炎はリノを気遣って、声をかける。
「王子、大丈夫?」
「ちょっと緊張してます。でも、凄く楽しみです!」
にっこり笑うリノと、握手。
「頑張ろうね」
「はい! かなり責任重大ですけど、頑張ります! しっかりエスコートしますね!」
開演時間が迫っていた。
「必ず成功させましょう!」
青と黄の花柄ワンピースを纏ったエテの明るい声に、全員が強く頷く。
●
幕が上がる。
『ある所に、シンデレラというかわいそうな少女がおりました』
ナレーターのクラークの滑らかな声が響き、襤褸を纏った陽炎シンデレラが登場。
客席が僅かにざわめいた。シンデレラ、でかい。少女じゃない。
『彼女は継母とその連れ子である姉たちに日々いじめられるという、辛い日々を送っています』
ドレスの裾さばきも堂々と、継母諾子登場。
「シンデレラ、なんだい玄関の埃は? 掃除の手を抜いてはいけないとあれほどいっただろう!?」
「はい、お母様……」
シンデレラはとぼとぼと玄関へ。
向かい合うエテがツンと顎を上げる。
「シンデレラ、どうしてそんな髪をしているの? 結い方が甘いですわ!」
「いたたたた!?」
エテは強引にシンデレラを座らせ、ぼさぼさの髪を梳く。
続いて現れた夕姫姉が、シンデレラを見下ろした。
「今日はお城の舞踏会の日。お前はお留守番よ」
「舞踏会はお母様と姉様、私で行くんです!」
エテが強く断言。
「舞踏会……」
「王子様が花嫁を選ぶための舞踏会よ。国中の娘が招かれているけれど、お前は玄関でも磨いていなさい」
姉娘はシンデレラとすれ違いざまに、ふと足を止める。
「そういえば昨日のご飯……」
「えっ、何でしょう」
怯えたように振り向くシンデレラに、姉娘はプイと横を向いた。
「何でもないわ」
「家に変な人が来ても応対しちゃダメですよ!」
姉娘とエテは舞台袖に消えて行く。
床に座り込んで嘆くシンデレラ。
「お母様、お姉様、エテはずっと私を家に押し込めて……このままじゃ婚期を逃して行き遅れちゃう」
えらくリアルな嘆きである。
「でも、私は背ばっかり伸びて、似合うドレスもないわ。こんな男みたいな女を好いてくださる殿方なんて……」
よよと泣き崩れるシンデレラ。その背後に影が浮かび上がった。
『嘆いていると、不思議な事が起こります』
クラークは充分に間合いを取る。ここは劇的でなければ。
『なんと、魔法使いが現れたのです』
サッと薄い布が開き、アルバートの魔法使いが登場した。
「シンデレラ、私の可愛い名付け子よ。もう泣くのはお止し。私が舞踏会に行かせてあげよう」
目深に被ったフードで顔を隠し、声も年寄りに聞こえるように。
杖を振る合図を見て、アマービレが灯を落とす。
「これが……私……?」
驚きと戸惑いを含んだ声。
『準備を整えたシンデレラは、お城に向かいました』
馬の蹄、嘶きの声が響く。
その間に、全員が急いで衣装替え。
「その飾りは私の……!」
「アルバートさん、自分の服装は変ではないですか」
舞台裏は戦場だ。
「シンデレラの衣装替えに時間がかかる。ダンスは気持ち長めに頼む」
ロイの指示に、アルバートが頷いた。
「いいこと。見つめ合い、優雅なお辞儀の後に手を取って、ね」
アルバートは皆に優雅な所作やダンスを教え込んできた。下手に自信を折るようなことはしない。こんな役は褒められた方が上手く行くはずだ。
「さ、行きましょ。大丈夫よ、練習の通りにやればいいのよ。観客もうっとりする事請け合いよ」
どこまでも華麗に、堂々と。
舞踏会が始まる。
●
柔らかなワルツが流れる。進み出た全員が面をつけ、薄闇に溶け込んでいた。
(せめて相手に恥をかかせないようにせねばな)
アイアンは諾子の手を取り、背筋を伸ばす。
仮面を被ったままの彼に配慮して、仮面舞踏会ということになったのだ。その配慮に報いなければならない、とアイアンは気負う。
「なかなかリードが上手じゃな」
見事な肢体を濃紺のシックなドレスに包んだ諾子が囁いた。
恭しく夕姫の手を取り、貴族らしい姿に戻ったアルバートが軽くお辞儀。
(流石、というところかしらね)
青いドレス姿の夕姫が心中呟く。リアルブルーの人間にとっては、この世界自体がおとぎ話のような物。思えば不思議な縁である。
「宜しくお願いします、エテさん」
これから戦場に向かうかのような真剣な目つきのクラークに、エテも真面目にお辞儀する。
「よろしくお願いします。その服、良く似合ってますね」
「有難うございます」
導かれるままにふわりと身を翻すと、薄青いドレスの羽根飾りと裾が翻り、華やかな爪先が見え隠れする。
そうして影たちが優雅に静かに踊る姿を背景に、うっとりと夢見るようにシンデレラが呟いた。
長身に華やかな薄紅色のドレスを身に纏い、さっきまでの襤褸を着た娘とは別人である。
「美少年で可愛らしい王子様! 間違いない、この人が私の運命の人……!」
もうひとり、照明に照らされているのは……カボチャパンツに白タイツ、腰にサーベルを挿したリノ王子。
振り向いた姿勢のままで、目を見張っている。
「なんてすらりとした女性だろう。憧れる程の長身!」
客席からくすくす笑いが漏れた。だが王子は、ゆっくりと引き寄せられるようにシンデレラの元へ。
「ボ……ボクと踊って頂けますか、美しい方!」
「ええ、喜んで……!」
いつしか影達は消え、ふたりは手を取り見つめ合う。
『その時シンデレラの耳に、12時を知らせる鐘の音が聞こえてきます』
ゴーン、ゴーン……。
「ごめんなさい! 私帰らなくては!」
「あっ、待ってください!」
シンデレラは長いコンパスで王子を引き離し舞台を駆け抜けた。
袖に引っ込んだところで、王子が声を上げる。
「あっ! 危ない!!」
後を追いかけて王子も舞台から消えた。
『余りに慌てて階段を走り抜けたので、シンデレラのガラスの靴が脱げてしまいました』
王子が再び登場する。
「行ってしまった……この靴だけを残して」
悲しそうに王子が胸に抱くのは、ガラスの靴。……でかい。
「そうだ、国中の娘にこの靴を履かせよう。この靴の持ち主こそ、ボクの花嫁だ!」
王子は自分なら両足が入りそうな靴を、大事に掲げるのだった。
●
『王子はシンデレラを探すためにガラスの靴をもって出かけます』
クラークのナレーションと共に、場面が入れ替わる。
『けれどガラスの靴がぴったりと合う娘はいません。他に誰かいないのか。その声に、ついにシンデレラが現れました!』
「王子様ぁーーー!!」
客席の後方から、颯爽と馬に跨り……と行きたかったが、流石に支配人に怒られた。
ので、馬っぽい物を被った大道具の人がふたり、シンデレラを乗せて頑張っている。
「あなたはあのときの……! 確かにその長身、間違いない!」
「王子様……!」
舞台の上でキラキラと見つめ合うふたり。
「お待ちなさい!」
姉娘の声が鋭く響いた。
「私達のシンデレラを、自分の事すら碌にできないだろう貴族や王族に渡すなんて論外ね!」
「絶対シンデレラ姉様は守って見せます!」
妹のエテも立ち塞がる。
「え……?」
一番びっくりしているのはシンデレラだ。そこに激しい音楽が流れはじめる。
「かかってきなさい王子様。私を倒せない限りシンデレラは渡しませんよ」
びしい。長い鞭で床を叩き、高笑いの継母が現れたのだ。
『なんと、シンデレラを巡っての争奪戦が始まりました!』
アルケミストタクトを構えた姉娘がじりじりと母の後ろから近付く。
「連れて行くというなら、相応の覚悟をしなさい。あの子は渡さないわ」
「これも姉様を守る為なのです!」
エテの周囲に風が湧き起る。
「でも、ボ、ボクは……シンデレラを連れて帰るんだ!」
王子の必死の訴え。
「その勝負! このアイアン・カーメンが預かった!!」
突如乱入する仮面の男。
「赤コーゥナァー! 158cm 108ポンド! 王子、リノ・キャロルゥゥ!」
王子が万歳すると、わーっと効果音。
「青コーゥナァー! 173cm 126ポンド! 継母、紅・L・諾子ォォ!」
継母が胸を反らし、効果音再び。
「いざ尋常に……ファイッ!」
そこにローブ姿の魔法使いが登場。
「待たれよ!」
シンデレラは怖くなって思わず叫んだ。
「お母様達も、王子様も! あと何でいるのか分からない魔法使いさんとそこの煽る人も! 喧嘩はしないでーーーー!!」
だが魔法使いは継母を睨みつける。
「お前達はまだシンデレラを虐めようとするのか?」
「虐めですって?」
継母は鼻で笑うと、魔法使いの杖を鞭で絡め取り、遠くへ放り投げた。
「あれは花嫁修業。いつか良い人の元へ嫁ぎ可愛い可愛いシンデレラが幸せになるための。その証拠に手を上げたことなどないわ」
ちょっと怯えながらも、魔法使いは必死に抗う。
「だが王子との結婚を邪魔しようとしているではないか!」
「こんな可愛い子をつまらない男の餌食にする訳にはいかないの。王子がいかほどのものか、それを今、証明して貰うのよ!」
姉娘がキリ、と唇を結ぶ。その心情をナレーターが代弁。
『本当はお姉さんも、シンデレラが大好きなのです。性格は優しいし、作ってくれるご飯は美味しい。ツンデレラのお姉さんは、そんなことは絶対口に出しせんけど』
「姉様、お嫁になんて行かないで!」
エテも必死で叫ぶ。
「お母様……姉様、エテ……私そんなこと知らなくて……」
シンデレラがふるえる。
「わ、私……王子様の所にお嫁に行っても、ちゃんと、ずっと皆の家族のまま……ぐすっ……だから……うわぁあああああん!!」
感極まって子供のように泣き出すシンデレラ。
「そう、あなたの決意は固いのね……幸せになるのよ。可愛い私の妹」
姉娘がふっと笑う。そして王子を睨みつけた。
「この子を泣かすようなことがあったら許さないわよ」
「姉様の心は姉様だけの物ですものね……」
エテはシンデレラに縋りついた。
「私も姉様みたいに、いつか素敵な恋をできるように祈ってくださる?」
「勿論よエテ。お母様、ごめんなさい」
エテを抱き締めながら、シンデレラが顔を上げた。
「貴女が幸せならそれでいいのですよ」
継母も優しく微笑みながら、鞭を収める。
杖を拾って戻ってきた魔法使いが、キリ、と指さした。
「シンデレラよお行き。躊躇わず真実の愛を得るのだ!」
「はい!」
『こうして王子様とシンデレラは、幸せに暮らしましたとさ』
幕が静かに下りて行った。
●
拍手喝采のカーテンコールも終わり、楽屋に戻ったところでようやく安堵の息が漏れる。
「ふ~、何とか終わったわね。すごく緊張したわ」
夕姫が軽く肩をすくめた。
「こっちの人達が、今回のが本当の話だと思わないと良いけどね。でも楽しかった! この後、みんなで打ち上げなんてどう?」
賛成の声が上がる。
カーメンがそこにメリンダを呼ぼうと提案した。
「まぁ、なんだ。終わった後は感想が気になるのでな。メリンダに自身の感想と、他の観客の反応を聞きたいと思わないか?」
「上々ですよ。私の思っていたのとは、何だかちょっと違いましたけど」
いつの間にかメリンダが来ていた。
「お陰さまで助かりました。また何かありましたら、宜しくお願いします」
支配人の伝手で、打ちあげ会の準備ができているという。
どうやら『今後何かあったら』と考えているのは、メリンダだけではないようだ。
<了>
依頼結果
参加者一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
公演に向けて! 陽炎(ka0142) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/06/29 01:24:32 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/29 00:18:57 |