【未来】輝かしい栄光と闇黒に抗う日々を

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~50人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2019/10/16 09:00
完成日
2019/10/22 20:29

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 王国を長年脅かしていた傲慢――アイテルカイト――は滅んだ。
 邪神によって世界の存在そのものが滅亡する危機を乗り越えた。
 傲慢の残党や自然発生する雑魔はいるだろうが、もはや、国の運命を左右するような障害がなくなり、人々は安心して生活が過ごせるようになったのだ。
 これまで抑圧されていたものが一気に噴き出し、生活レベルだけではなく、技術や思想、文化、あらゆるものが、リアルブルーと交わる事で急速に発展していく事になり、後世の学者は“黄金時代”と呼ぶ者もいるだろう。
「歪虚の脅威がなくなったとはいえ、弛んでるのではないか」
 青の隊隊長のノセヤはそんな厳しい言葉を副長に言った。
 政は王女や貴族、各地を治める領主に任せておいて、ノセヤは自らに課せられた任務に忠実でありたいと思う。
 ところが、騎士隊の中には政争に忙しいものもいる。
「青の隊は、元々は国内での任務が多かった故、外地に出向かないと意識が別の所に向いてしまうのでしょう」
「インフラを整備するのも、我々の大事な役目だ。かの戦いから3年経過しても、まだまだ不足している」
 副長の台詞にノセヤはすぐさま自論を述べた。
 復興が進んでいるのは確かだが、その爪痕が王国全土から消え去ってはいないのも、また確かな事だ。
 壊された道路や橋を復旧しない事には物流は戻らないし、数は少なくなっているが、傲慢歪虚の残党や雑魔の出現は続いている。
 全てをハンターに任せる訳にもいかないし、民間人だけに頼る訳にもいかない。やはり、国の要たる騎士団が率先して動かなければいけないのだ。
「貴族の中には優先的に修復しろと言ってくる者もいるとか」
「あくまでも国防や民の暮らしが最優先なのだが……分からぬ輩が多くて困る」
「どういたしますか? 後回しにして政敵を増やす訳にもいきませんし」
 予想はしていたが、これで悩む事があるのが、騎士隊長という立場だ。
 一人の騎士として『軍師騎士』と呼ばれ、様々な戦場を駆け回っていた頃が懐かしい。
 ノセヤは彼自身が立案、指揮した戦いで敗れた事がない為、その手腕を高く評価している者もいる。ノセヤから言わせると、ハンター達のおかげなのだが……。
 それが理解できない人は、時に無理難題を押し付けてくるのだ。
「ハンター達に依頼を出すにせよ、それでは根本的な解決になりませんからね……半永続的に専属として働いてくれるなら別ですが、彼らは自由の身」
「南方や北方の開拓にも力を貸していると聞きます」
 人手不足を解決する手段があれば幾分か、マシになるだろうか。
 こんな時、先輩方ならどうしたのかと思案するノセヤであった。


 青の隊の外郭団体として結成されたアルテミス小隊は、より民間人の登用が進んだ事もあり、ただ“アルテミス”と呼ばれるようになってきた。
 所属の長はノセヤである事に代わりはないが、実務的な取り纏めは紡伎 希(kz0174)がハンターオフィスの受付嬢を兼任しながら行っている。
 その目的は『絶望からの救済』であった。
 “アルテミス”の設立には、とあるハンターからの強い意向があるとされる。
 それは長く続いた傲慢歪虚との戦いの中で、真なる敵……向かい合わなければいけない“存在”に気が付いたからだろうと言われている。
「……それは困りましたね」
 希が相談にやってきた一人の司祭からの話にそう答えた。
 司祭はとある中規模の街の教会を任されている者だった。
「領主と共に、恵まれない人々の救済を始めたのですが、このままだと街そのものが崩壊してしまいます」
 項垂れる司祭の表情は暗かった。
 その街の領主は希も一度、会った事がある。敬虔なエクラ教信者であった。
「問題点をもう一度、整理しましょう」
「はい……まず、街の中心部の教会で、身寄りのない者や傷病人を対象に施しを厚くしました」
「施しの噂をどこからか聞きつけて、王国各地からそうした人々が集まったのですね?」
「その通りです。おまけに中には、病人だと偽るものや、街中で悪さを始める者も出てきました……」
 そんな訳で街は急激な人口増加による衛生環境や治安の悪化が発生した。
 人口が増えれば商人達の仕事は増えるのだが、施しを受けている相手では商売にならないと判断したようで、行商達の多くは街の環境悪化により立ち寄らなくなった。
 さらに、施しによる財政の圧迫も増えた。街の人々も当初は受け入れていたものの、今や排他主義的になっている。
「街そのものが暗く淀んでいる雰囲気で……なんとか、援助をお願いできないでしょうか」
「何かお手伝いできる事があればいいのですが“アルテミス”は、金銭的な援助を目的とする団体ではありませんので……」
 希の答えにガッカリとする司祭。
 よほどショックだったのだろう。落ちた肩が上がる様子が見られない。
「……金銭的な援助はできませんが、他にやれる事があるかもしれません」
 その言葉に辛うじて顔をあげた司祭に希は微笑みを向けた。


 3年という年月は少年を青年へと成長させるのには十分だったかもしれない。
 スラリとした身体、凛々しい顔立ち、全身から発せられる堂々としたオーラを放つ、星加 孝純(kz0276)はハンターとして活躍を続けていた。
 また、フライング・システィーナ号のユニット部隊のアドバイザーでもある。その一方で、歴史学者としての道も歩んでいる。
「王国歴が始まるよりも前の時代の記録があると思ったけど……これじゃ……」
 ある街に昔の記録があると聞きつけてやってきたのだが、街に入って孝純は顔をしかめた。
 異臭が物凄いのだ。糞尿が混じっただけではない、何かが腐った臭いも混じった酷い悪臭だ。
「綺麗な街並みだと聞いていたけど、当てが外れたかな」
 記録が残っているとされるのは、街の中心部にあるエクラ教の教会らしい。
 一先ずは行ってみないと分からないので、真っ直ぐに向かっていると、別の通りから見知った人物が現れて、孝純は驚いた。
「希さん!?」
「お久しぶりです、孝純様」
 特徴的な緑髪を揺らして答える希。
 出逢った頃は僅かばかりの身長差はこの3年間で大きく変わってしまった。
「また、背が伸びましたか?」
「丈がすぐに合わなくなるから困るんだよね」
 希の質問に苦笑を浮かべる孝純。
 贅沢な悩みだなと思いながら希は自身の胸元に手を当てた。
 自身の身長はさほど伸びてないので不満だった。ついでいうとそれは胸にも言える。
「“アルテミス”の活動?」
「そんな所です。もっとも、まだ何も始まっていませんけど」
「そっか。僕の力が必要であれば、声を掛けて」
 魔導スマホをチラっと見せた孝純に希は大きく頷くのであった。

リプレイ本文

●騎士として、乙女として
「すまない……」
 エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)は、そうと頭を下げた。
 そんな必要なんてないのに、だ……彼への想いを告白したヴァルナ=エリゴス(ka2651)は、涙を堪えながら首を振った。
「謝らないで下さい。エリオット様が私にとって、尊敬する騎士である事に変わりはないのですから」
「……正直、どう答えていいか」
 相手が黄色い声を上げている町娘や貴族の娘なら、丁重に断るだけで済んでいた。
 だが、共に戦い続けてきたヴァルナだからこそ言葉に詰まったようだ。
 少しは女性の扱いに慣れて欲しいものだが――この朴念仁には仕方ない事かもしれない。
「エリオット様……そういう時は、ありがとうって言って下さって良いのですよ」
 勇気を出して想いを伝えてくれた事への感謝に。
「分かった……ヴァルナ、ありがとう」
「こちらこそ、話を聞いて下さり、ありがとうございました。そして、いってらっしゃいです」
 仕事に向かう彼を、ヴァルナは“いつも”のように送り出すのであった。


●古塔の守り手
 クリスティア・オルトワール(ka0131)は、古の塔に住み込んでいた。
 爵位は辞退したが、塔の管理に王国が資材や人員のなどの後ろ盾となっている。
「……終わりませんね、掃除。エトワールも駄目ですし」
 孤独な作業が続く。
 古の塔は巨大であるので、その分、掃除だけでも大変だ。
 誰か…“あの方”が手伝いに来る筈もないと心の中で呟き、重たい荷物を持ち上げた時だ。クリスティアはバランスを崩して後ろに倒れそうになった。
「無茶をするな」
 聞き覚えのある声と共に背中を支えられた。
「……」
 言葉に詰まりながら、クリスティアは振り返ると“あの方”が真面目な顔で見つめている。
 “あの方”が、何故、ここに居るのか……仕事をサボって来たのなら、説教の一つでもしないといけないのだろうか。
「驚く事はないはずだが。古の塔の定期巡回は隊長格の役割だからな」
「そうだったのですね……エリオット様、ありがとうございます」
 背を預けながら、クリスティアは黒の隊の隊長に感謝の言葉を伝えるのであった。


●黒の隊副隊長
 書類の束に追われ、誠堂 匠(ka2876)は騎士団の自室の天井を見上げた。
 この国の力になりたい。エリオットやユエル・グリムゲーテ(kz0070)、グリム家の力になりたい――という強い想いと、これまでの実績や信頼から、誠堂は黒の隊の副隊長として忙しい日々を過ごしていた。
「隊長は今頃、古の塔でしょうか……」
 強大過ぎる力の管理も、これからの時代、大切な事だ。
 そんな訳で隊長が仕事に出ている間、隊長の代理として務める事も、誠堂の大事な仕事の一つであった。
 デスクワークだけではなく、錬兵など、休む間も無い。だが、働くだけ人々の活気に繋がる事は励みであった。
 今迄、喪われた命を想うと、今、この瞬間が貴重に感じられる。
 かつての仲間達……ヴァルナや文月 弥勒(ka0300)らも、各々、受け継いだものを未来へ繋ぐ為に、やれる事を行っている。
「……俺も力を尽くしていかないと。この平和を未来へと繋いでいけるように」
 そう呟くと、誠堂は再び書類の山に手を伸ばすのであった。


●赤の隊隊長
 傭兵団を率い、レクエスタに参加していたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、コントラルト(ka4753)と共に王国へと帰還していた。
 その活躍はアカシラ(kz0146)が率いる赤の隊と共に、王国にまで轟いている。
 今回、王国に帰還したのは、レクエスタの活動に区切りがついた事と共に、アカシラからの書状を届ける役目があったからだ。
「そういえば、ノセヤさんには謝りたい事がありまして」
 部屋を訪れた青の隊隊長のノセヤにコントラルトはお茶を出しながら言った。
 コントラルトはアルトを支え続けていた。傭兵団の功績も彼女のおかげである所が大きく、ノセヤも高く評価していた。
「何かありましたか?」
「以前、CAMを破壊する事になってしまった事で、ずっと引っ掛かっていたから」
「懐かしい話をまた……謝る事などありませんよ。むしろ、貴女のおかげで危機を乗り越えられたのです」
 感謝しかありませんよと続けると、ノセヤはお茶を一口飲むと、視線をアルトへと向けた。
 今日、ノセヤが二人に会いに来たのは、大事な話があったからだ。
「アルトさん、アカシラからの書状の中身は知ってますか?」
「戦いの経過が記してあるだけでは?」
 僅かばかり首を傾げるアルトにノセヤは書状を広げて、テーブルに置くと、とある箇所を指さした。
「アカシラさんは自身の後任、つまり、赤の隊隊長にアルトさんを推すと」
「まさか、そっちから推挙されるとはね」
 それだけ、レクエスタでの活躍が目立ったという事でもあるのだろう。
「御受けいただける……という事で、よろしいでしょうか?」
 ノセヤの言葉に、アルトは姿勢を正すと、軽く頭を下げて頷いた。
 ホッと安堵するノセヤ。最強の守護者とも評されるアルトを騎士団に迎え入れられたのだ。
 これで王国は安泰だ。そして、その強大な軍事力は人間同士の愚かな争いへの抑止力に成り得る。
「話も終わった事だし、私は行くよ。そろそろ、五光の稽古の時間だから」
 アルトはそう告げて立ち上がった。
 東方で出会った少年を厳しく鍛え上げる事も、今のアルトにとっては、大切な日課であるからだ。


●灯り輝く道
 ジャック・J・グリーヴ(ka1305)はグラズヘイム王国男爵であり、近々、爵位が更に上がる事も、円卓会議にも出席するのではないかと噂されていた。
「ともあれ金は必要だ。円卓会議の椅子をぶんどるにしてもな」
 商人として金を稼ぎ、貴族として地盤を固め、政争でも上を目指す。
 いつまでも、第六商会……いや、ヘクスにデカイ面させたくない事もあり、ジャックは『黄金商会』を立ち上げた。
 稼いだ金の一部をレクエスタで戦う王国騎士やハンターや、王国内で人々の救済支援を行っているアルテミスに援助している。
「援助先からの影響も後押ししているようだ。円卓会議も間もなく、だろうか」
 そう応えたのは、クローディオ・シャール(ka0030)だった。
 クローディオもまた、名誉男爵である。個人としての爵位だ。今は親友であるジャックを支えている。
 商売や貴族間のあれこれで忙しいジャックに代わりに、アルテミス等との繋がりを続けているのだ。
「今更だが、クローディオ。てめぇには正直、感謝している」
 唐突な親友の柄にもない言葉に、クローディオは手にしていた本を落としそうになった。
「藪から棒にどうした?」
「黄金商会からアルテミスに援助している。てめぇがやってる事も含めてな」
 クローディオは、ジャックの代わりに赴き、彼らの活動を側面から支援している。
 時に指導し、あるいは導き、人の生や道の価値を共に考え、肯定していく。クローディオから希望の灯りを託された彼らはより多くの人々を貧困や絶望から救っているのだ。
 それらの活動が認められ、円卓会議入りの話に繋がったのだ。
「……まだ“勝負”の決着はついてないか」
「はっ……俺の勝ちに決まってるだろ」
 勝負の行方は、取り方の問題なはずだが……指摘する事をクローディオは止めた。
 ジャックは窓から見える王城に指先を向ける。
「見てろや、クソガキ。この国を輝かせるのはお前じゃねぇ。この俺、ジャック様だ!」
 力強く宣言する親友の背を見つめながら、クローディオは改めて思うのであった。
(ジャック、私はお前が好きだ。これからもよろしく頼む)
 ――と。


●鬼塚巨砲神社
 幾度目かの結婚記念で東方の地に訪れた檜ケ谷 樹(ka5040)とリルエナの二人は、なんでも御利益ありがたいと噂の神社へとやって来た。
「へぇー。ここが、鬼塚巨砲神社かー。すごい所だね」
「観光客も多い。ただ……不安もある」
 パンフレットを広げながら冷静に言葉を口にしたリルエナ。
 共に過ごした時間が長くなるほど、二人の愛はより深まっているのだろう。
「どうしたんだい?」
 リルエナは、人々の祈りと強い関わりがあった法術陣をよく知っている。
 この神社への祈りについて、懸念があるのだろうか。
「私は構わないのだが、やましいマテリアルが悪い影響を及ぼさなければいいが」
「やらしいマテリアル!?」
 聞き間違えた樹が、思わず叫ぶ。
 そんな危険な神社に、大切なリルエナと来てしまったというのだ。
 狼狽える樹に、参道でたまたま、すれ違おうとしていた、ハンターが言った。
「大丈夫。ここは、確りとした神社だから。ちょっと、見てくれは変かもしれないけど、多くの人々の想いが込められた所だから」
「そうなのか。だったら、安心だな。見たところ、ハンターのようだが」
 昔、どこかで会った事があるかもしれないが、ハンターの数も多い。思い出せない事もあるとリルエナは思った。
 だが、樹は知っていたようだった。ポンと手を叩く。
「あー。伝説の男! この神社を建てた人だ。超有名人だよ!」
「伝説の男って程じゃないけど……」
 少し引き気味に応える鬼塚 陸(ka0038)。
 伝説というと、ファンタジーゲームっぽい響きだが、伝説として残されるのが、某キャノンだと思うと、そこは何とか変えたくなる。
「それほどの有名人だったのか。それは失礼した」
「いいよ、いいよ。慣れてるから」
 軽く返した鬼塚に、リルエナはある物を手渡した。
 サインでも求められている――のかと思ったら、それは魔導カメラだった。
「悪いが、記念写真を撮ってくれないか」
「伝説の男になんて事を……。あ、すみません。インスタントなんで写真にサインを貰ってもいいですか?」
 そんな事を言いつつ、樹とリルエナの二人は仲良く並ぶのであった。


●子宝領主御一行忍び旅
 時音 ざくろ(ka1250)は嫁達と共にお忍びで王国内に旅行していたが、通りがかった街で、紡伎 希(kz0174)と偶然にも再会した。
 希から街の惨状を聞き、ハンター活動の一環という形で、緑髪の少女の活動を手伝う事になった。
「領地経営の見聞広げるってのもあるけど、なにより、困ってる人々は放っておけないから!」
 二つ返事のざくろは笑顔で希に応えた。
「治安維持ですか……大戦も一段落ついたというのに、元気なことです」
 憮然としているのは、目立たないようにシスター服に身を包んだアデリシア・R・時音(ka0746)だ。
 街はエクラ教の教えに従う者が大部分だが、かといって、彼女が何もしないという事はない。
「問題点については、施しの方向性の周知かしらね? ノゾミちゃんも大変な仕事を……」
 希との久々の再会だったアルラウネ(ka4841)が、大太刀の具合を確認する。
 もしかして、使用する可能性が高いからだ。
「やれやれ、東方に領地を貰い、お忍びでこれとは……まったく、我が主らしいな」
 諦めるような、あるいは呆れたような口調でソティス=アストライア(ka6538)は言った。
 ざくろはきっと、そういう星の下に生まれた存在なのだろうか。
「やることは治安維持らしいが、情報はあるんだろう?」
「ありますよ!」
 ソティスの問いに、即答したのは、颯爽と現れた忍者――ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)だった。
 スッと差し出したのは幾枚かの紙。可愛らしい丸文字がルンルンの性格を如実に表している。
「流入者や街の人に変装しつつ状況を調査していました!」
「相変わらず、仕事が早いですね。まぁ、私達はあまり顔も知られてないでしょうし、適任かもしれませんね」
 豊満な胸を張るルンルンに、アデリシアは目を丸くした。
 お忍びといっても安全を確保するのも、ルンルンの大事な役目だ。もっとも、仕事があるかもしれないという星加 孝純(kz0276)からのリークのおかげでもあったが。
「ルンルン、ありがとう。時間が勿体ないし、結論からいいかな?」
 ざくろの問いかけにルンルンは頷いて答えた。
「環境や治安の悪化を突いて、悪人が裏社会を形成しつつあるようです!」
 その悪人が流入者の一部を唆して、悪さを指示しているのだ。
 更に、行商ルートも押さえ込んで法外な値段で商売を行い、街から金銭も搾取しているという。
「教会での取り組みを広範囲に広げたのも、この悪人です!」
「前例のない事が迷走しちゃうのは当たり前の話よね」
 ルンルンからの話と調査結果を確認して、アルラウネが大袈裟に両手を広げる。
「……それにしては、事態が上手く進み過ぎです……何か、裏があるのですか?」
 考えながら言ったアデリシアの台詞にルンルンがビシっと指さす。
「そうなのです! この悪人、近隣貴族の回しものだったのです! 証拠も掴みました!」
「なるほど。善行を行うこの街の領主が気に食わないから失敗させようとした政争だったという事か」
 ニヤリと口元を緩めるソティス。
 ルンルンのおかげで情報が取り纏められているのなら、後は“やる”――実力行使――だけだ。
「後は、どうやって悪人達を炙りだすかだね。ざくろん、どうする?」
 アルラウネの疑問にざくろは顎元に手を当てて考える。
 彼らの狙いは、街の更なる混乱と、隙を見ての蜂起だろう……だったら……。
「ソティ、頼めるかい?」
「やれやれ、人使いが荒い事。まぁ、夜ほどじゃないけどな」
「い、今は夜の話はいいから!」
 舌なめずりをするソティスに顔を真っ赤にするざくろ。
 楽しいお忍びの旅を続ける為にも、ここでの事件は早急に解決したい所だ。ざくろの意を理解した彼女はマテリアルを集中させる。
「さて、狩りの時間だ」
 狼のオーラが無数に現れると共に、空に突如として巨大な火球が出現した。
 それらが容赦なく街に降りかかる――直前で、消え去った。
 だが、効果は抜群だ。街の住民達は大慌てとなって騒ぎとなる。こんな大魔法、見たことは無いようだ。
「狙い通りですが、次はどうしますか、ざくろさん」
「大混乱に生じて街を乗っ取るなら、領主を狙うはず。行こう、アデ、アルラ、ソティ! ちょっと悪人共を懲らしめてやろう!」
 一行の先頭に立つとざくろが力強く宣言した。
 こういう時の彼は、一際、輝いているように見える。それが嫁達にとっては嬉しく、そして、誇りである。
「一応、手加減しながら戦う、ということで……負けるどころか手こずる要素もないですけど」
「無力化するのなら、任せて!」
「存分に狩りができるような相手ならいいんだがな」
 アデリシア、アルラウネ、ソティスの3人が、それぞれ獲物を手にざくろに並んだ。
 ルンルンと言えば、忍者らしく屋根の上に飛び上がる。
「そうそう、中には扇動されているだけの人もいるのです!」
「そういう人はなるべく、助けてあげたいな」
 率直なざくろの言葉にアルラウネが頷いた。
 色々と困って、仕方なく街を訪れた人もいるはずだ。
「大事なのは”きっかけ”になる事。『依存』させてはダメって教えないとね」
「この街の自警団の設立が先だろうか……見どころがあるなら、我らが領地に招いてもいいやもしれんな」
「となると、また嫁候補が増えると……」
「そ、そんなに簡単に増えたりしないから!」
 こうしてお忍び一行の旅は続くのであった。


●慈愛深き夫婦
 街の中心部の教会は酷い有様だった。
 救済活動を続けていた司祭や神官達は、すでに限界だったようだ。
「記録の整備、病床人の再確認から行いましょう。大丈夫です。私達が必ず支えます」
 志鷹 都(ka1140)が神官達に支援物資を渡しながら告げた。
 困難な状況になっていると、街の支援に来ているアルテミスの希から話を聞いている。
 根本的な解決の為にハンターに依頼を出したと。あとは解決を信じて、街を支えるだけだ。
「恭にお願いできるのかな?」
「皆が安全に過ごせる環境を作ればいいのだろう、都」
 手袋とつなぎを着用した志鷹 恭一(ka2487)が愛する人からの頼み事を快く引き受けた。
 用意したクリーナー2台も準備万端だ。
「可能であれば、教会周囲の環境も確認したい所か」
 幾人もの血を流してきた彼の手には今、掃除道具が握られていた。
 人々が健やかな生活を過ごせるようにと。

 教会の立て直しは一朝一夕では終わらないものの、良い方向に進みだした。
 希からの情報によると、裏社会を形成しつつあった悪人は捕らえられたそうだ。
 夜になり、遅くまで書類を整理していた都のもとに、身寄りのない赤子を抱いた恭一が姿を現す。
「慣れてはいるんだがな」
「ふふ……恭が悪くて泣いてる訳じゃないのだよね、きっと」
 泣き止まない赤子を、我が子を抱くように、愛おしそうに小さな体を両腕で包む都。
 親の愛を知らないこの赤子に、ひと時だけでも寄り添ってあげたいと、都は心底から思った。
 優しく背中をポンポンとしながら、子守歌を聞かせると、すぐに穏やかな寝息を立てる。
「この子、名前はあるのかな……」
「後で身に着けていたものをもう一度、確認するよ」
 赤子を抱えたままソファーに座った都の隣に恭一は座った。
 小さく柔らかい赤子の手に恭一は微笑をこぼしながら触れる。暖かい体温を感じる。
「いつか……優しい明日が、この子達に訪れる事を、強く願う」
「そう、だよね。今日の事、私達の事を憶えていなくとも、私達の想いはあなたに、伝わっていますように……」
 寄り添う二人の優しい子守歌が、その夜、続くのであった。


●未来への旅人
 旅を続けていた龍崎・カズマ(ka0178)は王国へとやって来た。
 変わる風景と変わらない風景――カズマは来た道を振り返る。
(まさか、この世界で骨を埋めているなんて、な……)
 以前、依頼で知り合った一人の老人の所へと足を運んだのだが、老人は半年ほど前に脳出血で亡くなっていた。
 直前まで転移民達の帰還の為に尽くしていたという。
(悪夢の残滓も、そろそろ消える。夢はいつか醒める。いつまでも、夢の中で居座っている訳にもいかない)
 夢の役割は、より良い明日を願う為の、心の助けだ。
 とある教会の陰で、カズマは深く被ったフードを外した。
 視界には二人の少年と少女の姿。自分にも、二人のように必死でもがき続けた時があった。
(起きて自分の足で歩かねぇとな……人も世界も……)
 そんな事を心の中で思いながら、カズマは一歩踏み出した。
 足音に気が付いた少年が振り返る。見違えるような青年へと成長した彼は、カズマの姿を認めると、出会った時のような無邪気な笑顔を向けてきたのであった。


●【魔装】の友
「ネルさん、僕ですっ!」
 諸事情でリゼリオの拠点から王国へと移送中の魔装鞘にアルマ・A・エインズワース(ka4901)が抱き着いた。
 耳を澄ますとネル・ベルからの返事……ではなく、魔導機械が刻む音が聞こえてくる。
「返事はありませんが声は聞こえているはずです」
 案内してくれた希が説明をする。
 その言葉にアルマは嬉しそうに頷くと魔装鞘を叩いた。
「僕、精霊さんと結婚してますので、だいぶこっち側の縁が濃くなりましたけど、それでも、ネルさんは大切で大好きな友達ですよ!」
 返事がない状況に希は苦笑を浮かべると馬車の御者席へと向かう。
 それを見届けると、アルマはこっそりと悪戯っぽく尋ねた。
「……ネルさん、もしかして、希さんとの“勝負”、負けた方が幸せって思ってるです」
 馬車の揺れではないカタカタとした音が鞘から響いた。
「だってネルさん、大事な子の不幸を望むような“ヒト”じゃないですもんね」
 微笑を浮かべながらアルマは鞘に寄り掛かる。
 移送先までの旅が始まろうとしていた。


●ふたりで歩む旅路
「ここの復興は随分と早いものですね」
 傲慢歪虚の残党を狩りしながらの旅を続けるアティエイル(ka0002)と柊羽(ka6811)の二人。
 行商から旅の必須品を買い込み、次の目的地へと向かう。
「シケたツラァした奴も減ったなァ……良ィこったァ」
 柊羽の言う通り、街道を行き交う人々は笑顔が多かった。
 傲慢との戦いの最中では見られなかった光景だろう。
「次はどこへ向かいますか? それに道中、薬草があれば採取しておきたいですね」
 アティエイルの視線は柊羽の包帯が巻かれた腕に向けられていた。
 かすかに血が滲んでいる。先日の戦傷が荷物を持った事で開いたようだ。
 彼は相変わらず、いつも何かと傷を負っている。
「どこかで飯でも喰うついでに、採れそうな場所でも聞くかねィ」
 日が暮れるまでには宿場町には到着できるはずだ。
「ツバをつけても治りませんからね」
「何度、その不評を買ったか」
 ツバをつけて治る程度の傷ならいいが、大抵、その程度に収まらない傷ばかりだ。
 両肩を竦めて苦笑を浮かべる柊羽の態度に、アティエイルはクスっと笑った。
 ずっと彼と共に旅を続け、いつの間のか当たり前となった彼の“隣”。
 それが大切な事であると同時に、一つの不安でもあった。また、“皆”の“彼女”のように、居なくなってしまうのではないかと、不安を払うように首を振る。
「どうしたよ?」
 心配そうに顔を覗き込んだ柊羽にアティエイルは応えた。
「……一度拾ったんですから、最後まで面倒みて下さいよ、柊羽」
 こんな風に遠慮なく言えるようになったのは間違いなく、彼と過ごした時間のおかげだろう。
「拾った覚えはねェんだが……」
 その時、街道を走る馬車から、アティエイルを庇うように彼女の身体を抱き寄せた。
 馬車の振動で壊れそうな程、華奢な彼女の身体。何か特別ではなく、ただ当たり前に隣に居る存在。唯一背中を預けられる相手だ。
「お前の居る場所も、帰って来る場所も此処だろィ? アティ。だから、心配する事なんざァねェよ」
 柊羽は軽く笑い飛ばしながら、アティエイルの頭をわしゃわしゃと撫でるのであった。


●ある司祭の為に
 宰相位についたセドリック・マクファーソン(kz0026)の下に、宵待 サクラ(ka5561)は訪れていた。
 サクラは王国内を訪問しては聖導士学校が如何に王国の名を轟かすようになるか説明し、寄進を募っていたのだ。
「イコちゃ……イコニア・カーナボン司祭は人の世での称号がないだけで、王国の誇る聖女言って良いと思う」
「カーナボン司祭が優れた人物である点は、私も同意見だ」
 ソファーに腰かけ、セドリックはそう応えた。
 その眼光は一見、穏やかであるようで……瞳の奥底に宿る光は力強い。
「世界には天爵人爵って考え方がある。私は人爵を得て、天爵を得ているカーナボン司祭を守り続ける力が欲しいんだ」
「……話は理解した。しかし、国からの直接の援助ではあの学校にとって些か波が立ちすぎる」
 女王を中心に一枚岩となったと言っても、派閥がなくなった訳ではないようだ。
「とはいえ……“名誉男爵”からの申し出だ。なんとかしよう」
「あ、ありがとうございます!」
 嬉しそうなサクラの様子に、微笑ましく応えながらセドリックの頭の中では、新たな考えが巡っていたのであった。

●聖導士学校
 多くの貴族からの寄進や人的な援助により、聖導士学校は年々、その規模を拡大していく事となっていた。
 学校の一室にハンター達が集まったのは、それと関係があっての事だ。
「名誉職扱いでも持ってれば多少学校の役に立てるんじゃないかと思ったけど……」
 紫光大綬章を軽く振ってマリィア・バルデス(ka5848)は呟いた。
 スワローテイルに参加している彼女は、紫光大綬章での名誉爵位は貰えなかった。
 もっとも、ハンターとしての力量は認められているので客将や食客として迎えたいとする貴族は多かった。一応、それなりに尊重はされているようだ。
 あるいは、スワローテイルでの活動が終わったら来い……という事なのかもしれない。
「私は、今回の王国内の陞爵でぇ、勢力図がどう書き換わるかは、とっても興味がありますよぅ」
 星野 ハナ(ka5852)が言葉通り楽し気な表情を浮かべていた。
 臨時講師として聖導士学校に関わっているが、普段、世界を飛び回っている彼女の拠点は辺境か、この学校なのだ。
 学校の行く末がどうなるか、興味が沸かない訳がない。
「私は王国の聖導士学校で寮母をしております」
 そう言ったのは、名誉男爵位を賜ったフィロ(ka6966)であった。
 聖導士学校の隆盛に生涯を賭けているだけあって、彼女が管理している寮は大変な人気があるようだ。
 人気があると言えば、魔術師過程を担当しているエルバッハ・リオン(ka2434)の授業も同様だ。
「学校から予算を出して貰えましたが、お金の事になると会議等で色々と言われますね……」
 世界各地を回り素質のある子を迎え入れたが、費やすお金の事になると、なかなか、上手くいかないものだ。
「何事も順風満帆には進まないという事ですぅ~」
「人間領域を拡げようと志す子供達の多くが、今後、この学校から輩出されるという意味を理解して欲しいものです」
 ハナとフィロの言葉に、頷くマリィア。
 認識の隔たりがある程度、発生しているのは仕方のない事だろうか。
「資金面はサクラのおかげで少しは、ゆとりが出来ただろうけど……これから先も手伝っていかないとな」
 王国だけではなく、世界全体で復興や発展が進んでいる。
 それはどこも仕事だらけであり、人手不足を意味する。
「私はオートマトンとして動ける限り、寮で子供達の成長に関わりたいと思っております」
 フィロは凛として胸を張った。
 聖導士学校で尽くすことは王国に尽くす事に他ならないと信じているからこそだろう。
 世界各地からの受け入れを行っているが、スパイ紛いの事を企む者を、こっそりとお掃除しているのも、彼女の役目である。
「今日、ここに来て良かったですぅ~。私はこの世界で一生ハンターしてるつもりですからぁ」
 それぞれが何かあったとしても、学校に尽くそう、絡もうという仲間達がいるのは心強いとハナは思う。
 そして、それはマリィアにとっても同様だった。
「将来的に娘を王国の聖導士学校に入れてハンターにしようと思っているから、学校が隆盛するように出来る限り、私も協力するわ」
 流石に子供をシャングリラに乗せておく訳にもいかない。
 学校で同じ年の友達と過ごす事自体が、大事な教育の一環なのだから。
「それなら、私の寮を一ついつでも、開けておきますよ」
「流石に、今すぐという訳じゃないけどね」
 フィロとマリィアのやり取りに、エルバッハはもう一つ、悩みを思い出して、大きな、ため息をついた。
「エルさん、どうしたのですぅ~」
「生徒から『永遠の十二歳ですね』と言われた時には、地獄の特訓を課しましたが……本当に見た目がこのままというのは困りますね」
 哀しそうな表情を浮かべて、頭頂に手を当てるエルバッハ。いつだって、子供達の無邪気な言葉は容赦ないものだ。
 残酷なもので、子供達は日々、毎日成長している。あっという間に身長を抜かれる事も珍しい事ではなくなった。
 それだというのに、彼女の身長は、努力の割りに変わらないままだ。せめて、胸の大きさに見合うだけの背丈になりたかった。
「「「あ~」」」
 仲間達からの何とも言えない感想に、こればかりは解決策がない……と、天井を仰ぎ見るエルバッハであった。


●合同結婚式
 フライングシスティーナ号の飛行に合わせ、盛大な結婚式が開かれていた。
 一介の民間人が出来る事ではない。救国の英雄であるUisca Amhran(ka0754)の結婚式だからこそだ。
「復興や新生アルテミスの準備で遅くなっちゃったけれど、ようやく一息ついて結婚式を挙げられるよ」
 白竜の巫女であるUiscaの為にと、人前式が行われる事になった。
 立会人はノセヤである。Uiscaと新郎である瀬織 怜皇(ka0684)と縁があった事もあり、快く引き受けてくれた。
 希はブライズメイドとして、Uiscaの傍に控えていた。
「おめでとうございます、イスカさん……ドレス姿、凄く綺麗です」
「ありがとう、ノゾミちゃん。そのうち、ノゾミちゃんの番が来たら、私が介添えするね」
「いつになるか分かりませんけど」
 微笑を浮かべて答える希。
 その時、緊張した様子の瀬織 怜皇(ka0684)が控室に入ってきた。
 会場の様子を見に行っていたのだ。
「イスカ、やっと来るべき時が来ました、ね。大勢の人が、待っていますよ」
「待たせて、ごめんなさい、レオ」
 二人は衣装が崩れない程度に軽く抱擁する。
 いつもラブラブな二人な様子を間近で見ていた星輝 Amhran(ka0724)が咳払いをした。
 Uiscaの言う、待たせたの意味は忙しかった日々とは別に、もう一つの意味があるからだ。
「仕方ないじゃろ。背丈が日々、変わってくるのだから」
 負のマテリアルの影響が薄まったからなのか、星輝のロリ婆な体形は、元の姿へと戻っていた。
 本来、スレンダーな体形へと成長するはずだったのが、今になっての事なので、サイズ合わせに苦労したのだ。
「おかげで、俺の身長と大差ないほどに……」
 タキシード姿の神薙 蒼(ka5903)が結婚式というのに嘆いていた。
 小さかった星輝が、今やすっかり、大人な身体だ。嫌ではなかろうが、男子として何かあるのだろう。
「皆様も素敵です。今日の合同結婚式は、多くの人にとっても素晴らしい日になると思います」
「この姿、角折にも見せてやらんとなぁ」
 控室の一角に置かれている魔装鞘に向かって、星輝はニヤリと口元を緩める。
 妹ばかりを拉致しようとした事を、今でも根に持っているようだ。
「周囲は見えてませんが、声は聞こえていると思いますよ」
「見た目は鞘だけど、魔導鞘だし、聞こえていてもおかしくないね」
 機導師らしく鞘を観察する怜皇。
 オキナは高齢だし、そのうち、魔装鞘の維持でお手伝いする事もあるかもしれない。
「ほほう。それじゃ、わしから言いたい放題じゃな」
「キララ姉さま……久々に再会できて嬉しいのは分かりますが、今日は新郎にちゃんと構ってあげてくださいね」
 魔装は転移門を通過できないので、わざわざ陸路でリゼリオから移送してきたのだ。
 もっとも、本人が出席したかったかどうかと言われると分からないが。
「大丈夫じゃ、蒼とはこれからも、ずっと一緒じゃからな」
 神薙をギュっと抱き締める星輝。
 上手く誤魔化したようで、神薙はうんうんと大きく頷く。
「そうそう、これからもずっと宜しくなんだぜっ!」
「よく分かってるではないかー。蒼ー!」
 二人のバカップルな様子を、それでも微笑ましく見守る希。
 恩人達が幸せな日々を過ごしている事が、希には、とても嬉しい事であった。
 今日の合同結婚式には多くの人々が集まっている。
 水の精霊ソルラや長年の付き合いであるオキナ、孝純も来ているし、エトファリカ連邦国を代表して立花院家当主の朱夏(kz0116)も来ている。
 当然“アルテミス”を構成している仲間達もいるし、そして、邪神や歪虚と戦い続けたハンターの仲間達も駆けつけてくれている。
「イスカさん、私……」
 感極まったのか、希が涙を流す。
 ここに至るまでの多くの出会い、そして、別れ。繋いできた想い。未来に広がる幸せ――それが涙となって表れたのだ。
「……ノゾミちゃん」
 Uiscaは怜皇から純白のハンカチを受け取ると、緑髪の少女の頬を流れる涙を拭く。
「私達の道はこれからもずっと続く……だから、ノゾミちゃん、見届けて欲しいの。私達の……永遠の愛を」
「はい、必ず……」
 これ以上、涙を流さないと堪える希に、Uiscaは優しく微笑みかけ、星輝が無言で肩を叩くのであった。

●九羽の魔術師
 長く戦場を共にしたUiscaや星輝達の合同結婚式に参加した十色 エニア(ka0370)は、新郎新婦へ祝福を告げ、自席へと戻ってきた。
「お帰りなさい、エニアさん」
 声を掛けてきたのは、立会人でもあったノセヤであった。
 テーブルには王国の偉い人達が集まっており、なぜ、この席になったのかと思う。
「辺境と違って、肩身が狭いわ」
「エフィーリアさんとの式には、呼んで下さいね」
「ノセヤさんに休みがあるならね」
 その返しに、ノセヤは頭を掻いて笑った。
 多忙な彼が立会人をしているのも、何か意味があるはずだ。
「そうだ……アルテミスで覚醒者を育成しようとなりまして、エニアさんには、ぜひ、先生になって頂けますか」
「定期的に関わりたいって言ったのは、わたしだしね。勿論、大丈夫だよ」
 笑顔で応えたエニアにノセヤは頷くと、グラスを掲げた。
 エニアほどの優秀な魔術師はなかなかいないのだ。きっと、良い弟子が育つはずだろう。
「輝かしい未来に」
「乾杯っ!」
 未来へ向けて希望の音が響くのであった。

●式場にて
 会場となるフライングシスティーナ号での設営を手掛けた孝純からの要請で必要な資材を納入していた鹿東 悠(ka0725)も結婚式会場に来ていた。
「取り扱いは煙草から戦車、もちろん、結婚式の資材まで万屋“ArmyDog”にお任せ下さい」
「本当に助かりました。僕は結婚式に出た事もないので……」
「こういうのは戦場と同じで、場数と経験がものを言いますからね。いつでも、頼って下さい」
 余裕の笑みで鹿東はそう言った。
 戦場での傷により、一線から退いたものの、鹿東は物資の手配や新人育成・紹介などの後方支援を手掛けていた。
 その評判は上々だ。リアルブルー式のシステムに基づいた適切なアドバイザーとして重宝されている。
「戦えない以上、こんなことしか出来ませんけどね」
「それが、どれほど助かるかは、戦場に立つ人間なら、染み付いて、よく分かっていますよ」
 応えたのは、大胆にも胸元が大きく開いた深紅のドレスを纏ったヘルヴェル(ka4784)だった。
 大人な女性の妖艶な魅力を周囲に放っているが、意図している事でないので、声を掛けてくる貴族共が哀れだ。
「本当に、ヘルヴェルさんの言う通りです。これからもよろしくお願いします、マスター」
「マスター?」
 孝純が鹿東を呼ぶ、そのあだ名に同席しているアーシャ(ka6456)が首を傾げた。
 邪神討伐前後からおよそ3年間、共にユニットを駆って戦場を共にしてきた信頼する戦友の疑問に、孝純が頷いて答える。
「なんて呼んだら、しっくりくるかなってずっと考えてたんだけど、鹿東さん、バーも経営しているから、マスターがいいなって」
「確かに、合っている気がしますね、マ・ス・ター」
 ヘルヴェルは感心した様子で、鹿東を呼んだ。
 ハンター達を影ながら支援する男に相応しい呼び名だ。
「まぁ、俺の事はいいですから。それより……まだまだ、ですね~」
 鹿東の視線は、女性二人に挟まれ、両手に花の孝純に向けられた。
 その視線と言葉に、孝純は苦笑を浮かべながら、酒の入ったグラスを呷った。別に、二人から逃げている訳ではない。ハンターとして忙しいのだ。
 その奥底には、どちらかを選べないという事もあるのだが……。
 ヘルヴェルは昔からの恩人であり家族のような人だし、アーシャはこの3年間、ずっと、互いの背を預けてきた戦友だ。
 おまけに二人とも誰もが羨む程の美人さんである。恋愛に縁がなかった孝純にとって、選ぶのは酷だろう。
「アーシャさんは告白して保留だそうで、今回、ブーケもキャッチしたので、彼女と付き合ってみてはどうですか?」
「えぇ!? そんなノリで始まっていいのですか?」
 思わぬ助け舟に驚く孝純。
「あたしはそれでいいよ。付き合ってみないと分からない事も、多いと思うし」
 それだけ自信があるという事なのだろうか、アーシャは堂々と胸を張った。
 突然の事に孝純はチラリとヘルヴェルを見る。
「つまり、後手……という事ですね。何とかでも先手が怖いと言いますが、やってみてはどうです?」
 これが年上の貫禄というものなのか、ヘルヴェルが言う。
「そんな余裕も今のうちですよ」
「早々に飽きられないように、ね」
 バチバチと火花が散る二人の間に挟まれて困った表情を浮かべる孝純に、鹿東は笑いながら酒を勧めるのであった。


●語らいの刻の中で
 傲慢歪虚との戦いで戦死した先代領主が眠る墓に、君はやってきた。
「領民から貰ったんだ。半分やるよ」
 仮面を外した君は、半分に千切ったパンと、今季に作られたばかりの葡萄酒を供えた。
 これらは、この領地が復興し、繁栄している証でもある。
「あの日の約束通り、やれる事はやってきたんだが、ここらが一区切りだと思ってな」
 墓に向かって君はそう告げる。
 風が吹き抜け、自然の優しい香りが感じられる。多くの犠牲の上に、掴み取った平和の香りだ。
「知ってるか、双子の女の子が生まれるらしいぜ。まったく、飽きさせないよな」
 君はゆっくりとした口調で“報告”を続ける。
「……きっと、あいつ以上に、険しい道になるだろうな」
 平和な時だからこそ、戦いの日々とは違った苦労もある。
 だからこそ、君が行うべき事も、まだまだあるのだが。
「『悩んでもいい。けれど、歩きながらにしなさい』だっけか、いつか、使わせて貰うぜ――」
 最後にそう告げると、君は、仮面を装着した。
 これからも、想いを未来に繋いでいく、その為に。

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参加者一覧

  • ふたりで歩む旅路
    アティエイル(ka0002
    エルフ|23才|女性|魔術師
  • フューネラルナイト
    クローディオ・シャール(ka0030
    人間(紅)|30才|男性|聖導士
  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 壁掛けの狐面
    文月 弥勒(ka0300
    人間(蒼)|16才|男性|闘狩人
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 聖なる焔預かりし者
    瀬織 怜皇(ka0684
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 母のように
    都(ka1140
    人間(紅)|24才|女性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 天壌無窮
    恭一(ka2487
    人間(紅)|34才|男性|闘狩人
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師
  • 絆を繋ぐ
    ヘルヴェル(ka4784
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 幸せを手にした男
    檜ケ谷 樹(ka5040
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 【魔装】の監視者
    神薙 蒼(ka5903
    鬼|15才|男性|格闘士
  • 孝純のお友達
    アーシャ(ka6456
    エルフ|20才|女性|舞刀士
  • 白狼は焔と戯る
    ソティス=アストライア(ka6538
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • ふたりで歩む旅路
    柊羽(ka6811
    鬼|30才|男性|舞刀士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/10/13 21:29:22
アイコン 【相談卓】光と影の日々の中で
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/10/14 20:10:00
アイコン 質問卓
誠堂 匠(ka2876
人間(リアルブルー)|25才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/10/15 12:29:28