ゲスト
(ka0000)
【未来】チューダのダイエット大作戦?!
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/10/19 07:30
- 完成日
- 2019/10/25 21:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「平和というのはよいものでありますなあ……」
チューダはそう言いながら、桃缶の桃をぱくっと食べる。
桃はうまい。ふわーっとした甘みが口の中を通り抜けていくとき、チューダの心はえもいわれぬ多幸感に包まれていく。
邪神との戦いも終わり、以前通り――とはいかないが、平穏な日々を取り戻したクリムゾンウェストは、チューダにとっても幸福な世界なのだった。
何しろ、巫女は以前の生活を取り戻し、膝枕で桃を分けてくれる。
しょうもないことのように聞こえるが、チューダにとっては大事なことなのだった。
●
「……ハンターの皆サン、お久しぶりデス」
大巫女の座を譲られ、リタ・ティトに戻ってきているリムネラからの依頼は、ずいぶん久々のような気がする、と集まったハンターたちは思った。
質素ながら丁寧な作りの白いワンピースを身に纏ったリムネラは、大巫女という責任ある立場にまだ慣れきってはいないものの、ユニオンリーダーの経験が彼女の中で生きているためだろう、重責につぶされずに微笑んでいる。
その笑みはかつてのものとも変わらず、見ていて快いものだ。
とはいえ、ハンターの出番と言うことは何らかの困った事態があるのだろうと、ハンターたちは気を引き締める。すると、リムネラはゆっくりと口を開き、思いがけぬ言葉を告げた。
「実は、チューダがトテモ太ってシマッテ……皆サンの力で、少しダイエットさせてあげることは出来ないデショウか?」
チューダにダイエット。何とも今更、という気もしたが、チューダの姿を見たハンターはあんぐりと口を開け、ぽかんとその姿を見つめた。
そして理解した。これは確かに自分たちの力が必要だと。
だって、チューダときたら、
「いや、久しぶりでありますな!」
そう言いながら……ごろんごろんと樽のように丸くなった胴を転がしながら現れたからである。
「平和というのはよいものでありますなあ……」
チューダはそう言いながら、桃缶の桃をぱくっと食べる。
桃はうまい。ふわーっとした甘みが口の中を通り抜けていくとき、チューダの心はえもいわれぬ多幸感に包まれていく。
邪神との戦いも終わり、以前通り――とはいかないが、平穏な日々を取り戻したクリムゾンウェストは、チューダにとっても幸福な世界なのだった。
何しろ、巫女は以前の生活を取り戻し、膝枕で桃を分けてくれる。
しょうもないことのように聞こえるが、チューダにとっては大事なことなのだった。
●
「……ハンターの皆サン、お久しぶりデス」
大巫女の座を譲られ、リタ・ティトに戻ってきているリムネラからの依頼は、ずいぶん久々のような気がする、と集まったハンターたちは思った。
質素ながら丁寧な作りの白いワンピースを身に纏ったリムネラは、大巫女という責任ある立場にまだ慣れきってはいないものの、ユニオンリーダーの経験が彼女の中で生きているためだろう、重責につぶされずに微笑んでいる。
その笑みはかつてのものとも変わらず、見ていて快いものだ。
とはいえ、ハンターの出番と言うことは何らかの困った事態があるのだろうと、ハンターたちは気を引き締める。すると、リムネラはゆっくりと口を開き、思いがけぬ言葉を告げた。
「実は、チューダがトテモ太ってシマッテ……皆サンの力で、少しダイエットさせてあげることは出来ないデショウか?」
チューダにダイエット。何とも今更、という気もしたが、チューダの姿を見たハンターはあんぐりと口を開け、ぽかんとその姿を見つめた。
そして理解した。これは確かに自分たちの力が必要だと。
だって、チューダときたら、
「いや、久しぶりでありますな!」
そう言いながら……ごろんごろんと樽のように丸くなった胴を転がしながら現れたからである。
リプレイ本文
●
「チューダ様、選んでください。痩せるか、ここで死ぬか」
チューダを一目見たエルバッハ・リオン(ka2434)は、冷ややかな眼差しで、殺気を放ちながら静かに言った。
仕方ないというものだ。何しろ今のチューダときたら自堕落の極み、エルバッハの堪忍袋の緒もとうとう切れてしまったということらしい。他の面々も唖然とし、あるいは笑いを堪えるのに複雑な表情を浮かべ、とにかく全員の心の中で思ったのは良くも悪くもここまでよくもまあ太ることが出来たな、ということだったりするわけで。
いまのチューダの姿は言ってみればほぼ球体とでも言うべき体型をしている。正直、以前はまだメタボ予備軍で済んでいた程度だったんだな、とか何とか変な発想をしてしまう。確かに、このままでは健康によくないのは間違いないだろう。
かわいい丸み、というものにも限度があるのだと改めて知らされた気分になったのはリアリュール(ka2003)。
「でも、なるほど……チューダのダイエット、ね。いい依頼なんじゃないかしら」
言いながらマリィア・バルデス(ka5848)は楽しそうなのにどこか黒い微笑みを浮かべる。幻獣大好きチューダ好きなマリィア、今回はおおっぴらにチューダを好きにできる言質を依頼主であるリムネラからとったと思った。まあその発想は間違っていないだろう。
「それならまずはぁ、いまのチューダ様の身長体重胴回り腕回りその他を計測しますよぉ」
そう言いながらシュッとメジャーを取り出す星野 ハナ(ka5852)、調べてみると胴回りが身長の約二倍あることが判明した。完全に樽というか、ボール体型になっている。その数字を見た全員が、また息をついた。そうそう、とフィロ(ka6966)がそんなチューダの写真を撮っていく。
「私も微力ながらご協力させていただきます」
そう一礼をする。
写真はライフログとなる。記録として可視化することで、チューダにも自覚を持たせることだってできるかもしれない。
「触ってもいいですかね?」
Gacrux(ka2726)がそう言いながら頭や頬を触れてみると、何とも絶妙なもちもち具合。脂身が多くなった影響か、毛づやも以前よりよくなっていて、そう言うところは幻獣王という名乗りに相応しいとも思えるのだが、なんにしろその体型はいささかどころでなくよろしくない。
「少しおなかに力を入れてみてくださいませ」
同じく触診をするリアリュールの言葉にチューダも従うが、そのスタイルは全くといっていいほど変わらない。
(筋肉はどこへ行ったのかしら……)
でもどちらにしろ、このままでは威厳もへったくれもない。きっと見知った他の幻獣たちにも何か言われるに違いなかろう。特に喧嘩仲間でもあるテルルあたりにはどんな風に言われることか。
(うーん……チューダさんが肥満なのは平和の証拠なのでしょうが、ここまでくると平和ぼけ……でしょうか……?)
Uisca Amhran(ka0754)はそう思いつつ少し首をひねる。確かに闘いの絶えない頃に比べればずいぶん各地も落ち着いてきて、平和を満喫できるようになってきているが、だからといってこれは確かに平和ぼけと思われても仕方がないだろう。
そう言えば、とUiscaは同じように首をひねっている現大巫女のリムネラに努めて笑顔で話しかける。
「リムネラさんもお勤め大変でしょう? これはお土産にともってきたリラックスできるハーブなのです。ヘレちゃんも元気ですか」
問われればリムネラも笑顔を浮かべ、
「ありがとうゴザイマス。ヘレも相変わらずデスよ」
そう言って近くにヘレを呼び寄せる。体格は最後に会った頃とそれほど変わらないが、その双眸には以前よりも更に理知の光が宿っているように見えて、その様子が微笑ましく思えた。
「デハ、十日ほどの間、よろしくお願いシマス」
リムネラは深く頭を下げた。
●
「でも、チューダがこれだけまるまる太るだけの平和な時間があれば、機導術だって平和な方向に発展するものだよ!」
そう言って頷く時音 ざくろ(ka1250)はどこか自慢げ。どうもチューダの姿を見て、何かぴんとくるものがあったらしい。手伝ってくれる人を募りながら、さっそく頭の中で設計図を引き始める。
「このままでは破裂してしまうかもしれませんし、あんまり膨らむと、おなかが押されて今度は食べることもできなくなるかもしれないですし……」
そう呟くリアリュールに、チューダも顔を青ざめさせる。食が何よりの楽しみであるこの幻獣王にとって、『美味しくものを食べられなくなる』ことはずいぶんなショックだったようだ。
「そうですよ。ダイエットを拒否するならば、口に出すことも憚られるようなことをしてから永遠の眠りについてもらいます」
エルバッハは殺意を隠そうともしていないあたり、こちらもこちらでこわいが。
「……とはいえ、依頼期間内で体重を落としきるのは難しいと思います。運動などによって贅肉を引き締めることで、自立歩行できる程度に肉体をスリム化するのはどうでしょうか」
まあ、考えることはもっともなことなので、誰も否定はしない。もともと誰も彼もチューダの身体が心配なのは同じなのだ。このままでは病気や、思わぬ事故などの可能性もある。最終的に辛い思いをするのはチューダ自身なのだから、それをすこしでも和らげたいのだ。
「確かにトイレもひとりでできなくなりそうなのはよくないですね。要介護ハムスター……いや、厳密にはハムスターじゃないですが。しかもこれはこれで、枕としてグッズ化すれば女子受けしそうですが」
「トイレがひとりでできないのは我輩もいやでありますよ!?」
Gacruxの言葉が聞こえていたのだろう、チューダもさすがにそれはどうかと思ったらしく反論する。
「んー……でも、チューダ様が太ったのはチューダ様だけのせいじゃないの、チューダ様が愛らしすぎるのも原因なの。それをリタ・ティトの巫女全員にわかってもらわないと、ダイエットが成功してもすぐに元通りになってしまうの」
そう指摘したのはディーナ・フェルミ(ka5843)だ。なるほど確かに、チューダに食べ物を与えてしまう人がいれば、チューダはたちまちリバウンドしてしまうだろう。
「ちょっと調べてくるの!」
ディーナは巫女たちへ聞き取りをしに向かっていった。
「それじゃあ、チューダの周囲の環境を整えるのは任せるとして……チューダ本人は、私達で何とかするとしましょうか」
にこっと笑ってそういうマリィア、しかしどこか凄みがあるのは気のせいではないだろう。チューダの側に座ってじっとチューダを見つめるマリィア。それはちょっとばかり不思議にも思える。
「あっ、そうそう。チューダ様ってぇ、いま毎日何回ご飯食べてますぅ?」
先ほど計測した数字から器用になにやら裁縫をするハナ。チューダはのんきに、
「そうでありますなぁ、おなかがすいたら何か食べるので……最低でも十回くらいは食べてるでありますよ?」
そう言いながら髭をしごく。ついでにナッツを口に運ぶ。こういう問診も大事だ。
「ふむふむ……よし、出来ましたぁ」
そう言って見せたのは、特製のズボンとベスト、マント。着用するとわかるが、胴回りが少しきつめに作られている。でもチューダ本人としてはまんざらでもないようで、
「かっこいいですよぅ」
なんておだてられたら嬉しそうに頷いている。革のベルトを締めて、なるほど確かにかわいらしさが出ているが、この服にどういう意味があるのかは本人はわかっていないらしい。
「チューダ様、いまのお体だとたとえ幻獣であってもあっという間にお亡くなりになりかねない体型なのです。皆に愛される姿を長く私達にも拝見させていただきたいのです。ですから頑張りましょうね」
優しい言葉をかけるフィロ。
「死ぬのは確かに嫌であります……うう、がんばるであります」
チューダも納得したようだ。
●
「こっちも完成したよ!」
嬉しそうにざくろが呼びかける。そこにあったのは、よくハムスターのおりにありそうな回し車……の、チューダサイズだった。
「機導術を使ったハムスター運動マシーンだよ。自動でも動くから自発的に動かないと、強制的に回っちゃうんだ」
仲間にそうささやいてから、チューダをうまく回し車の中に誘い込み、スイッチオン。
「動かないとぐるぐる回されちゃうよー、洗濯機みたいにね!」
「それはいやでありますぅぅ!」
チューダもさすがに動き始める。はじめはゆっくり、だんだんスピードを上げて。
頃合いをみて休憩をいれる。
「何か食べたいであります……」
「なら、チューダ様。まずはきゅうりを食べるといいですぅ」
ハナが手渡したのはきゅうり一本。チューダは首をかしげつつも、それをポリポリ食べ尽くす。それからハナはナッツよりも油の少ない木の実を一粒渡して、
「今日からしばらく、何か食べるときにはかならずきゅうりを食べるようにしますよぅ」
そう言って笑った。
回し車トレーニングのあとはクールダウンと言うことで、リアリュールのマッサージタイム。
マッサージをすることで血液の循環を促し、体温を上げて余分な脂肪を落としてやるのが目的だ。チューダ好みのナッツオイルを用い、膝枕してやればチューダも逃げようとは思わない。実際こういうものは少し痛いくらいでも気持ちいいのだから、気持ちのいい時間である。オイルマッサージは身体を適度にあたため、更につまんだりもんだりもすれば汗と一緒に余分な脂も落ちていくというもの。
「これは一日三回やりますからね、チューダ様」
リアリュールもにこっと微笑む。
そのあとに訪れるのはGacruxの水泳トレーニング。身体にかかる負荷を考えてみれば、少しでもそれを減らせる水中の方がいいだろう。事前にリムネラから許可をもらった大浴場で、チューダは浮き輪を着けて水泳に挑む。
勿論、きつい運動ではなく、レクリエーション的な部分もある。水面に浮かべたボールを取りに行かせたり、バタ足の練習をさせたりなどなど。これらの練習を観に来た巫女たち(勿論Gacruxも含め水着着用である)にだっこされたりするチューダは、ある意味役得なのかもしれない……
複雑な気分になるGacruxだった。
チューダのタイムスケジュールの作成はエルバッハの役目だ。いままで滅多に運動をしてこなかったチューダに突然の負荷は逆にダメージになってしまうかもしれない。運動の合間にマッサージや休憩を挟み、食事のメニューも仲間たちと相談の上、ナッツの類いは控えるようにした。しかし水分や塩分といった必要な養分はちゃんと与えるようにしたり、特製ドリンクを調整したり、一番真面目にダイエットをさせようとしているのはあるいは彼女なのかもしれない。
また、日中はマリィアが、夜はフィロが、ほぼほぼの時間、チューダの傍について回るようにした。
『見つめていること』は思っている以上に相手に精神的な負荷をかけることになる。それに、もし逃げだそうとしたり、つまみ食いをしようとしたりするときにもそれを阻止することができる。ある意味一石二鳥とも言えるわけだ。
「それにチューダ、色々制限がかかった状態でのストレスは、過食より拒食になりやすいのよ? それに貴方、それでも私のことは嫌いじゃないでしょう?」
「なるほど、それはそうかもしれないでありますな」
……チューダ、チョロい。
一方のフィロはというと、無意識な過食を防ぐという目的があった。急なダイエットなどでは反動で夜にものを食べたくなってしまい、気づかぬうちに台所でおなかいっぱい食べてしまうこともあるのだという。
「せっかくチューダ様が昼間に頑張っていらっしゃるのですから、それを知らずに台無しにされることがないよう、協力させていただきたいのです」
もし無意識に起きても、白湯を与えて子守歌などで寝かしつける等をしてくれるのだという。ありがたい話であった。
●
そんなチューダが休憩している間などにも、相談は行われる。ディーナの「巫女たちにも現状を認識させる」ことはとくに大事で、一つ間違えれば『辺境巫女が大幻獣を意図的に弑した』と思われる可能性のある状態だと気づいてもらえば、彼女たちも注意をするようになるだろう。
「チューダ様は愛らしすぎるの、私だってチューダ様をかわいがりたいし笑顔が見たいの。でもね、それでチューダ様が死んでしまったら、私達の愛がチューダ様を殺してしまったら……貴方はそれにたえられる? 私は耐えられないの。だから私達は、きちんと知って行動しなければならないの、知らずに殺しても罪は罪なのだと」
ディーナのこの主張は少しずつ、しかししっかりと根付いていくことに成功した。チューダに必要以上のおやつを与えないことなどの声が、巫女たち側からも自発的に上がってきたのだ。双方で相談して、食事をする場所や料理をする場所のあちこちにチューダの食事量や種類などについて記されたポスターが貼られる。
すべてはチューダがいつまでも元気でいてほしいから。
それは巫女たちにも共通した認識なので、浸透しやすかったのだろう。
●
Uiscaの雑魔退治やざくろのダイエット腹巻きはさすがにリスクがあると言うことで実現しなかったものの、定期的な運動や食事の提案をすること、もしも怠けていれば心を鬼にしてでも注意をすることなどを説明した。
Uiscaは昔から評判だったというディエナの声真似のコツを教え、こうすればチューダもパブロフの犬よろしく言うことをきくだろうと提案する。確かにそれは効果がありそうだ。
また、リアリュールのオイルマッサージもコツを教えてもらえば、脂肪を揉み出すこともできるだろうからとこれも巫女仲間で評判に。マッサージは人間にも効果があるだろうと言うことだったので、なおのこと好評だったのだろう。
●
そして十日後。
チューダの身体を調べてみれば、ハナの用意したベルトの穴ひとつ分、胴回りが小さくなっていた。わずか十日での効果と考えると、十分すぎるくらいだろう。
初日に撮影したフィオの写真と比べても、パンパンぶりは少しましになっている。
ハナの用意した衣装も、毎日ぴったりぐらいに締めていたのは胃を物理的に少し縮めてやる目的があったのだという。きゅうりもダイエットに適した食材なので、おやつ代わりに与えるのもありだろうと言うことだった。
「我輩、頑張ってもっとスリムになるであります……! そして、もう少しおやつを食べても大丈夫って言うくらいになるのであります!」
そう言って、チューダは頭を下げ……ようとしてころりと転がった。
でも、きっともう少し頑張れば大丈夫だろう。
だって、みんなチューダが大好きなのだから!
……後にチューダがマンゴーにはまるのは、また別の話である。
「チューダ様、選んでください。痩せるか、ここで死ぬか」
チューダを一目見たエルバッハ・リオン(ka2434)は、冷ややかな眼差しで、殺気を放ちながら静かに言った。
仕方ないというものだ。何しろ今のチューダときたら自堕落の極み、エルバッハの堪忍袋の緒もとうとう切れてしまったということらしい。他の面々も唖然とし、あるいは笑いを堪えるのに複雑な表情を浮かべ、とにかく全員の心の中で思ったのは良くも悪くもここまでよくもまあ太ることが出来たな、ということだったりするわけで。
いまのチューダの姿は言ってみればほぼ球体とでも言うべき体型をしている。正直、以前はまだメタボ予備軍で済んでいた程度だったんだな、とか何とか変な発想をしてしまう。確かに、このままでは健康によくないのは間違いないだろう。
かわいい丸み、というものにも限度があるのだと改めて知らされた気分になったのはリアリュール(ka2003)。
「でも、なるほど……チューダのダイエット、ね。いい依頼なんじゃないかしら」
言いながらマリィア・バルデス(ka5848)は楽しそうなのにどこか黒い微笑みを浮かべる。幻獣大好きチューダ好きなマリィア、今回はおおっぴらにチューダを好きにできる言質を依頼主であるリムネラからとったと思った。まあその発想は間違っていないだろう。
「それならまずはぁ、いまのチューダ様の身長体重胴回り腕回りその他を計測しますよぉ」
そう言いながらシュッとメジャーを取り出す星野 ハナ(ka5852)、調べてみると胴回りが身長の約二倍あることが判明した。完全に樽というか、ボール体型になっている。その数字を見た全員が、また息をついた。そうそう、とフィロ(ka6966)がそんなチューダの写真を撮っていく。
「私も微力ながらご協力させていただきます」
そう一礼をする。
写真はライフログとなる。記録として可視化することで、チューダにも自覚を持たせることだってできるかもしれない。
「触ってもいいですかね?」
Gacrux(ka2726)がそう言いながら頭や頬を触れてみると、何とも絶妙なもちもち具合。脂身が多くなった影響か、毛づやも以前よりよくなっていて、そう言うところは幻獣王という名乗りに相応しいとも思えるのだが、なんにしろその体型はいささかどころでなくよろしくない。
「少しおなかに力を入れてみてくださいませ」
同じく触診をするリアリュールの言葉にチューダも従うが、そのスタイルは全くといっていいほど変わらない。
(筋肉はどこへ行ったのかしら……)
でもどちらにしろ、このままでは威厳もへったくれもない。きっと見知った他の幻獣たちにも何か言われるに違いなかろう。特に喧嘩仲間でもあるテルルあたりにはどんな風に言われることか。
(うーん……チューダさんが肥満なのは平和の証拠なのでしょうが、ここまでくると平和ぼけ……でしょうか……?)
Uisca Amhran(ka0754)はそう思いつつ少し首をひねる。確かに闘いの絶えない頃に比べればずいぶん各地も落ち着いてきて、平和を満喫できるようになってきているが、だからといってこれは確かに平和ぼけと思われても仕方がないだろう。
そう言えば、とUiscaは同じように首をひねっている現大巫女のリムネラに努めて笑顔で話しかける。
「リムネラさんもお勤め大変でしょう? これはお土産にともってきたリラックスできるハーブなのです。ヘレちゃんも元気ですか」
問われればリムネラも笑顔を浮かべ、
「ありがとうゴザイマス。ヘレも相変わらずデスよ」
そう言って近くにヘレを呼び寄せる。体格は最後に会った頃とそれほど変わらないが、その双眸には以前よりも更に理知の光が宿っているように見えて、その様子が微笑ましく思えた。
「デハ、十日ほどの間、よろしくお願いシマス」
リムネラは深く頭を下げた。
●
「でも、チューダがこれだけまるまる太るだけの平和な時間があれば、機導術だって平和な方向に発展するものだよ!」
そう言って頷く時音 ざくろ(ka1250)はどこか自慢げ。どうもチューダの姿を見て、何かぴんとくるものがあったらしい。手伝ってくれる人を募りながら、さっそく頭の中で設計図を引き始める。
「このままでは破裂してしまうかもしれませんし、あんまり膨らむと、おなかが押されて今度は食べることもできなくなるかもしれないですし……」
そう呟くリアリュールに、チューダも顔を青ざめさせる。食が何よりの楽しみであるこの幻獣王にとって、『美味しくものを食べられなくなる』ことはずいぶんなショックだったようだ。
「そうですよ。ダイエットを拒否するならば、口に出すことも憚られるようなことをしてから永遠の眠りについてもらいます」
エルバッハは殺意を隠そうともしていないあたり、こちらもこちらでこわいが。
「……とはいえ、依頼期間内で体重を落としきるのは難しいと思います。運動などによって贅肉を引き締めることで、自立歩行できる程度に肉体をスリム化するのはどうでしょうか」
まあ、考えることはもっともなことなので、誰も否定はしない。もともと誰も彼もチューダの身体が心配なのは同じなのだ。このままでは病気や、思わぬ事故などの可能性もある。最終的に辛い思いをするのはチューダ自身なのだから、それをすこしでも和らげたいのだ。
「確かにトイレもひとりでできなくなりそうなのはよくないですね。要介護ハムスター……いや、厳密にはハムスターじゃないですが。しかもこれはこれで、枕としてグッズ化すれば女子受けしそうですが」
「トイレがひとりでできないのは我輩もいやでありますよ!?」
Gacruxの言葉が聞こえていたのだろう、チューダもさすがにそれはどうかと思ったらしく反論する。
「んー……でも、チューダ様が太ったのはチューダ様だけのせいじゃないの、チューダ様が愛らしすぎるのも原因なの。それをリタ・ティトの巫女全員にわかってもらわないと、ダイエットが成功してもすぐに元通りになってしまうの」
そう指摘したのはディーナ・フェルミ(ka5843)だ。なるほど確かに、チューダに食べ物を与えてしまう人がいれば、チューダはたちまちリバウンドしてしまうだろう。
「ちょっと調べてくるの!」
ディーナは巫女たちへ聞き取りをしに向かっていった。
「それじゃあ、チューダの周囲の環境を整えるのは任せるとして……チューダ本人は、私達で何とかするとしましょうか」
にこっと笑ってそういうマリィア、しかしどこか凄みがあるのは気のせいではないだろう。チューダの側に座ってじっとチューダを見つめるマリィア。それはちょっとばかり不思議にも思える。
「あっ、そうそう。チューダ様ってぇ、いま毎日何回ご飯食べてますぅ?」
先ほど計測した数字から器用になにやら裁縫をするハナ。チューダはのんきに、
「そうでありますなぁ、おなかがすいたら何か食べるので……最低でも十回くらいは食べてるでありますよ?」
そう言いながら髭をしごく。ついでにナッツを口に運ぶ。こういう問診も大事だ。
「ふむふむ……よし、出来ましたぁ」
そう言って見せたのは、特製のズボンとベスト、マント。着用するとわかるが、胴回りが少しきつめに作られている。でもチューダ本人としてはまんざらでもないようで、
「かっこいいですよぅ」
なんておだてられたら嬉しそうに頷いている。革のベルトを締めて、なるほど確かにかわいらしさが出ているが、この服にどういう意味があるのかは本人はわかっていないらしい。
「チューダ様、いまのお体だとたとえ幻獣であってもあっという間にお亡くなりになりかねない体型なのです。皆に愛される姿を長く私達にも拝見させていただきたいのです。ですから頑張りましょうね」
優しい言葉をかけるフィロ。
「死ぬのは確かに嫌であります……うう、がんばるであります」
チューダも納得したようだ。
●
「こっちも完成したよ!」
嬉しそうにざくろが呼びかける。そこにあったのは、よくハムスターのおりにありそうな回し車……の、チューダサイズだった。
「機導術を使ったハムスター運動マシーンだよ。自動でも動くから自発的に動かないと、強制的に回っちゃうんだ」
仲間にそうささやいてから、チューダをうまく回し車の中に誘い込み、スイッチオン。
「動かないとぐるぐる回されちゃうよー、洗濯機みたいにね!」
「それはいやでありますぅぅ!」
チューダもさすがに動き始める。はじめはゆっくり、だんだんスピードを上げて。
頃合いをみて休憩をいれる。
「何か食べたいであります……」
「なら、チューダ様。まずはきゅうりを食べるといいですぅ」
ハナが手渡したのはきゅうり一本。チューダは首をかしげつつも、それをポリポリ食べ尽くす。それからハナはナッツよりも油の少ない木の実を一粒渡して、
「今日からしばらく、何か食べるときにはかならずきゅうりを食べるようにしますよぅ」
そう言って笑った。
回し車トレーニングのあとはクールダウンと言うことで、リアリュールのマッサージタイム。
マッサージをすることで血液の循環を促し、体温を上げて余分な脂肪を落としてやるのが目的だ。チューダ好みのナッツオイルを用い、膝枕してやればチューダも逃げようとは思わない。実際こういうものは少し痛いくらいでも気持ちいいのだから、気持ちのいい時間である。オイルマッサージは身体を適度にあたため、更につまんだりもんだりもすれば汗と一緒に余分な脂も落ちていくというもの。
「これは一日三回やりますからね、チューダ様」
リアリュールもにこっと微笑む。
そのあとに訪れるのはGacruxの水泳トレーニング。身体にかかる負荷を考えてみれば、少しでもそれを減らせる水中の方がいいだろう。事前にリムネラから許可をもらった大浴場で、チューダは浮き輪を着けて水泳に挑む。
勿論、きつい運動ではなく、レクリエーション的な部分もある。水面に浮かべたボールを取りに行かせたり、バタ足の練習をさせたりなどなど。これらの練習を観に来た巫女たち(勿論Gacruxも含め水着着用である)にだっこされたりするチューダは、ある意味役得なのかもしれない……
複雑な気分になるGacruxだった。
チューダのタイムスケジュールの作成はエルバッハの役目だ。いままで滅多に運動をしてこなかったチューダに突然の負荷は逆にダメージになってしまうかもしれない。運動の合間にマッサージや休憩を挟み、食事のメニューも仲間たちと相談の上、ナッツの類いは控えるようにした。しかし水分や塩分といった必要な養分はちゃんと与えるようにしたり、特製ドリンクを調整したり、一番真面目にダイエットをさせようとしているのはあるいは彼女なのかもしれない。
また、日中はマリィアが、夜はフィロが、ほぼほぼの時間、チューダの傍について回るようにした。
『見つめていること』は思っている以上に相手に精神的な負荷をかけることになる。それに、もし逃げだそうとしたり、つまみ食いをしようとしたりするときにもそれを阻止することができる。ある意味一石二鳥とも言えるわけだ。
「それにチューダ、色々制限がかかった状態でのストレスは、過食より拒食になりやすいのよ? それに貴方、それでも私のことは嫌いじゃないでしょう?」
「なるほど、それはそうかもしれないでありますな」
……チューダ、チョロい。
一方のフィロはというと、無意識な過食を防ぐという目的があった。急なダイエットなどでは反動で夜にものを食べたくなってしまい、気づかぬうちに台所でおなかいっぱい食べてしまうこともあるのだという。
「せっかくチューダ様が昼間に頑張っていらっしゃるのですから、それを知らずに台無しにされることがないよう、協力させていただきたいのです」
もし無意識に起きても、白湯を与えて子守歌などで寝かしつける等をしてくれるのだという。ありがたい話であった。
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そんなチューダが休憩している間などにも、相談は行われる。ディーナの「巫女たちにも現状を認識させる」ことはとくに大事で、一つ間違えれば『辺境巫女が大幻獣を意図的に弑した』と思われる可能性のある状態だと気づいてもらえば、彼女たちも注意をするようになるだろう。
「チューダ様は愛らしすぎるの、私だってチューダ様をかわいがりたいし笑顔が見たいの。でもね、それでチューダ様が死んでしまったら、私達の愛がチューダ様を殺してしまったら……貴方はそれにたえられる? 私は耐えられないの。だから私達は、きちんと知って行動しなければならないの、知らずに殺しても罪は罪なのだと」
ディーナのこの主張は少しずつ、しかししっかりと根付いていくことに成功した。チューダに必要以上のおやつを与えないことなどの声が、巫女たち側からも自発的に上がってきたのだ。双方で相談して、食事をする場所や料理をする場所のあちこちにチューダの食事量や種類などについて記されたポスターが貼られる。
すべてはチューダがいつまでも元気でいてほしいから。
それは巫女たちにも共通した認識なので、浸透しやすかったのだろう。
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Uiscaの雑魔退治やざくろのダイエット腹巻きはさすがにリスクがあると言うことで実現しなかったものの、定期的な運動や食事の提案をすること、もしも怠けていれば心を鬼にしてでも注意をすることなどを説明した。
Uiscaは昔から評判だったというディエナの声真似のコツを教え、こうすればチューダもパブロフの犬よろしく言うことをきくだろうと提案する。確かにそれは効果がありそうだ。
また、リアリュールのオイルマッサージもコツを教えてもらえば、脂肪を揉み出すこともできるだろうからとこれも巫女仲間で評判に。マッサージは人間にも効果があるだろうと言うことだったので、なおのこと好評だったのだろう。
●
そして十日後。
チューダの身体を調べてみれば、ハナの用意したベルトの穴ひとつ分、胴回りが小さくなっていた。わずか十日での効果と考えると、十分すぎるくらいだろう。
初日に撮影したフィオの写真と比べても、パンパンぶりは少しましになっている。
ハナの用意した衣装も、毎日ぴったりぐらいに締めていたのは胃を物理的に少し縮めてやる目的があったのだという。きゅうりもダイエットに適した食材なので、おやつ代わりに与えるのもありだろうと言うことだった。
「我輩、頑張ってもっとスリムになるであります……! そして、もう少しおやつを食べても大丈夫って言うくらいになるのであります!」
そう言って、チューダは頭を下げ……ようとしてころりと転がった。
でも、きっともう少し頑張れば大丈夫だろう。
だって、みんなチューダが大好きなのだから!
……後にチューダがマンゴーにはまるのは、また別の話である。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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ダイエット大作戦(そのまんま) レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/10/17 01:48:08 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/10/16 19:50:29 |