弱り目に祟り目

マスター:江口梨奈

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~8人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/10 19:00
完成日
2015/02/18 04:29

みんなの思い出

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オープニング

 こういうのを、リアルブルーでは「弱り目に祟り目」と言うらしい。

 土砂崩れが起こって道が塞がれ、とある鉱村が孤立してしまった。倒木や岩をどかして、土砂山を乗り越える形ではあるが、辛うじて人が歩ける程度の道を造り直すことはできた。けれど、これまでのように馬車が往来できるほどの幅を確保できるのはまだ先だろう。
 それよりも問題は、彼らの村は食糧が豊富にあるところではない、ということだ。村は常に、外部から食糧を買っていた。少々の蓄えは銘々の家であるだろうが、すぐにでも追加は欲しい状況だ。そこでハンター達には、見舞いを兼ねて、芋や野菜を運んでもらいたい、それが本来の依頼であった。
 しかし、なんということだろう。その崩れた土砂の周りに、ヴォイドが沸いたというのである。
 ひと2人分の背丈はあろうかという、巨大なヒトデというかイソギンチャクというか、太く平べったい触手のようなものを7、8本生やした物体だ。触手の根元は繋がっていてそこが足になっているようで、カタツムリのように這いながら進んでいるが、動きは遅くない。触手はかなり自由に動き、空をひらひらさせているものもあれば、立木に巻き付いてへし折るものも、地面に付けて歩行の補助をしているものもある。
 土砂崩れの上にヴォイドとは、まったく、なんという運の悪さか! 村人達は怒りや悲しみを通り越して呆れてしまった。
 こんなものに居座られては、物資の運搬はおろか、道の復旧すらできやしない。
 
 面倒ごとが一つ増えてしまった……おそらく依頼を受けたハンター達は皆、そう思ったことであろう。
 

リプレイ本文

●荷造り
 『災害対策本部』、と名乗るほどご立派な造りではないが、孤立した鉱村へ続く道を直すために何人かの人が集まっており、そこでは不気味なヴォイドの噂で持ちきりだった。
「……土砂崩れの上に、歪虚とは。どこであっても、大変な事はあるものだ」
 人の助けになるのもまた修行だと、銀 真白(ka4128)は決意する。この若輩者が、どこまで役に立てるかは分からないが、精一杯努めるのはもちろんだ。
 ハンター達が到着すると指揮官が歓迎してくれたはいいが、まだ届ける食糧の準備が終わっていないと、申し訳なさそうに頭を掻いた。
「手伝います」
 ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が進み出た。村の人たちは今頃不安に包まれているだろう、一刻も早く安心させてやりたかった。
「俺も」
 扼城(ka2836)も腰を下ろし、袋の中に芋を詰め始める。しかし、届ける食料は芋と野菜、と聞いてはいたが……あまりにも貧相な量ではないだろうか。いくら自分たちが歩いて届けるからと言っても、もっと持てるのに。
 聞けば、順次、近くの市場や農家から運ばれているらしいが、ヴォイドのせいで足が鈍っているそうだ。
「ふむ……」
 と、考え込むルドルフ・デネボラ(ka3749)。このまま指をくわえて待っているのも勿体ない。
「こちらから受け取りに行った方が早そうです、市場の場所は?」
 ルドルフが尋ねると、そう遠くないとの答えだ。早速、皆で向かうことにする。
 市場に到着した時音 ざくろ(ka1250)は、そこに集まる行商人らをつかまえることができた。彼の欲する情報は、『村でよく買われていた品』だ。
 鉱村、つまり石の切り出しを主な生業にしている村で、体力を使うのだろう、塩気の多いものや肉がよく買われていたという。ざくろはそれらも、持って行く荷物のリストに加えた。かなりの量になりそうだが……。
「よいしょ、っと」
 女のような華奢な外見に似合わず、ざくろは大きな荷物を抱え上げた。
「他の荷物を、減らしてきたからね」
 平気な顔をするざくろに、ドロテア・フレーベ(ka4126)も負けじと、背負い上げる。
「あっはっは、重いじゃない!!」
 ドロテアの荷物の中には、小さな酒樽も入っている。ストレス解消のために必須であると彼女のすこぶる正当な主張により、用意させたものだ。
「そうね、酒は大事。酒は」
 同意する十色 エニア(ka0370)。もっとも、彼にとっては酒も大事で芋も野菜も大事、出来るなら薬も持って行きたい。あれもこれもと選んでいると、あっという間に山のような荷物が出来上がった。小柄なエニアが背負うと、どちらが本体か分からない。
(人力、か……)
 と、これまた小柄な犬養 菜摘(ka3996)は不安げに呟いた。孤立した村へ出来るだけの物資は運んでやりたい、けれど、リアルブルーと違ってトラックが動かせるわけではない。ならば馬車ででも、と思えど、肝心の道が塞がれている。山を駆けずり回るのは得意だが、こんな大荷物を背負ってということは経験がない。せめて運ぶ食糧は少しでもおいしいものを、と、菜摘は食材を吟味する。できるだけ軽くて、たくさん運べて、日持ちがして、喜ばれるものを……。
(干し魚、干し肉、……乾パンは売っているだろうか? 大航海時代に作られていたというビスケットを、ここで作ることは出来るだろうか……)
 世界は違えど、窮地で必要なものはそう変わらないはずだ。皆がいろいろ頭を悩ませて、ずっしりと重い救援物資が、それぞれの背中にくくりつけられた。

●ヴォイド
 土砂崩れはかなり広範囲であったらしく、遠目からでも山肌がごっそり流れているのが見えた。あの山にあっただけの土砂が街道に乗り上げたのだとしたら、道を直すのにまだ時間がかかるというのも頷ける。
「ふう、大変そうだな……」
 とりあえず大きな岩や木を横へ避けただけ、という道の現状を見て扼城は溜息をついた。本来なら、もっと作業が進んでいてもいいはずなのに、それもこれもヴォイドのせいか。昇ったり降りたり、右へ曲がったり左へ曲がったりと、見通しのよくない道だった。
「……しっ、頭を下げろ」
 真白が指を唇に当て、皆の方を向いた。噂をすれば、か。最初の情報で、ひと2人分ほどの背丈と言われていた物体は、やはり大きく、禿げた山の斜面で蠢いているのは離れた位置からでも見つけることが出来た。8本ある触手の全てが地面を触っていて、今の姿は巨大なクモのようにも見えた。
「なに、この…………何?」
 エニアが困惑するのも無理はない、こんな奇妙な生物なぞ誰も見たことないだろう。歪虚がいかに自然の摂理から離れた存在であるか、証明するかのような姿だった。
「速いな」
 あれが全速力なのか、ゆっくり歩いているのかは分からないが、人間の歩く速さほどのスピードはあるらしい。ずりずりと体を引きずるように斜面を降り、もうすぐ街道に乗りそうだ。
「まだ距離はありますね、あの辺に荷物を……」
 ルドルフはヴォイドとの位置を測り、脇の、陰になっている場所なら安全だろうと荷物を降ろそうとした。
 しかし、ざくろはその大きな荷物を背負ったまま、ヴォイドに向かって駆けだした!
「皆の準備が出来るまで、時間稼ぎをするよ!」
 大事な食糧だ、背嚢越しとはいえ地べたに置くわけにはいかない、そんな感情も働いてざくろは不自由を受け入れた。
「皆さん、そこに降ろして。僕が運びます」
 ユキヤは荷物の護衛を名乗り出た。一刻も早く、皆を身軽にしなければ。
「荷物番、よろしくね!」
 まったく、このあたしが抜け駆けされるなんて、とジョークを言いながらドロテアはざくろの後を追う。残るハンターも、精霊の力を目覚めさせつつ、薄気味悪い歪虚の元へ駆けた。

「おまえの相手は、このざくろだ!」
 回り込むように、ユキヤが荷物をまとめている場所の反対側へ走り、挑発するように剣を構えた。キラキラと輝くレヴァリーはヴォイドの気を引きつけたのか、何本かの触手が地面から離れ、ざくろに向かって伸ばしてきた。鞭のようにしなりはするが、恐れる速さではない、狙いを定めて斬り落とす。
「……え!?」
 ぶにゃり、とした手応えだった。剣はめりこみはしたものの、断面に染みだしたぬらぬらした体液で勢いが削がれた。体液が貼り付くようにまとわり、一瞬、膠着してしまう。
「ざくろさん、顎を引いて!」
 エニアの『ウィンドスラッシュ』が飛んでくる。遅ればせながら到着した彼の瞳からは光が消え、さながら人形のような雰囲気となっている。エニアの、これが彼の覚醒した姿だ。清廉な風の力は、汚らしい体液を洗い流し、まずは1本の触手が分離された。
「エニアさん、後ろ!!」
 ルドルフの声で振り返ると、次の触手が間髪入れず襲いかかってきた。避けきれない! ルドルフが『防御障壁』を生み出すも触手はそれを突き破り、エニアの体に巻き付いてきた。
「ゃ……離、して……っ!」
「エニアさん!!」
 絡め取られた仲間を救うべく、菜摘が猟銃の引き金をひく。大きな的を外しはしない、けれど、弾の当たったところから例の体液を噴き出すだけで、力が緩まる気配はない。
「こんな動物、リアルブルーにはいなかったぞお!」
 触手はエニアを掴んだまま持ち上げ、本体の方へ引き寄せる。高く掲げられた形になったエニアは、本体の中心を見た。そこにはぽっかり口が開いていて、自分はそこへ放り込まれようとしていた。
「させるか!」
 扼城のユナイテッド・ドライブ・ソードが振り下ろされた。中途半端な力では、粘液に邪魔されてしまう。『踏込』で精一杯の力を込め、エニアを掴む触手を叩きつけるように破壊した。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
 しかし呑気に謝辞を述べている場合ではなさそうだ。2本の触手を失ったにも関わらず、ヴォイドの動きが弱まる気配はない。
 そっちがまだやる気だと言うなら、手を休める理由もない。
「想像以上に気持ち悪いわね……」
 ドロテアはどことなく嬉しそうな口調で、次なる手立てを考える。
「単純な造りの生物であるのは、間違いないようだな」
 真白は、切り離された触手を見て判断した。これが、斬った後も動いているというなら厄介だが、地面に転がり落ちた体液まみれの物体は動かないどころか形を保てなくなりつつあった。そして本体の切り口から、次なる触手が再生する気配もない。
「ならば、まずは触手から切り落としてしまえば良い」
 結論が出た。扼城に倣い、『踏込』とともに黒松で斬りかかる。気持ちの悪い手応えだ、絡まった体液の重みで思うように刀が捌けない。それどころかトリモチのようにくっついたまま、真白を持ち上げようとする。
「うふふ、丸坊主にしてあげる♪」
 ドロテアが助け船を出す。ショートソードで間に入り、粘液をこそげるように斬ると、真白と触手の切れ端が一緒に落ちた。
「さあ、また1本減ったわよ、残るは何本かしら?」
 触手がひとつ無くなるごとに、ハンター達は有利になった。
 ついに全ての触手が胴体から離れたヴォイドは、いかなる攻撃からも己の身を守れなくなった。そうして先に消滅した8本の触手同様に、頂点に口を持つ筒のような胴体もまた、消滅したのだった。

●到着
 孤立した村へようやっと入れた。小さな村だった。
「おまたせだよ!」
 ヴォイドに閉じこめられていた村人達は、道の向こうから来たのがハンターで、すなわちヴォイドが退治されたことを知ると歓声を上げた。抱えてきた荷物を降ろすと、これだけの量を人力で運んで来られたことに大人達は恐縮していたが、子供らは正直なもので、何が入っているのか早く見たいとせがみだした。
「よく頑張ったね」
 ルドルフは一番に、飴玉を取り出した。子供たちはきっとお菓子が好きだろう、との心遣いだ。もちろん子供は喜んだが、それよりも喜んだのは子の母親達だった。やっと笑顔が戻ったのだという。それを聞いてルドルフは、やっぱり持ってきて良かったと嬉しくなった。
「今日はこれだけですが、もうヴォイドはいません、だからもっと、頻繁に行き来できますよ」
 ユキヤは努めて、これからの明るい展望を話してみる。ヴォイドはもういないこと、道の復旧は着実に進んでいること、必要があればいつでも自分たちが駆けつけること、等々……。彼の目的であった、村人の不安を拭うことは出来ただろうか? やはり口だけでは説得力に欠ける、実行に移さねば、と彼は考えた。
「まだ時間はありますので、少しだけですが、道を直していきますね」
 立ち上がり、元の街道へ戻ろうとしたユキヤを、扼城が止めた。
「自分だけ行くつもりか?」
 俺が何のためにスコップを持ってきているのか、と扼城はニヤリとして、言った。
「何度も依頼を出すのも面倒だろうし、な」
 と言ったのは真白だ。
「猟師の義務の一部だ」
 菜摘も後に続く。
 エニアも、ざくろも、ルドルフも、ドロテアも。
 つまり全員が、まだまだこの村に協力をするつもりであったのだ。

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重体一覧

参加者一覧

  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師

  • 扼城(ka2836
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • カウダ・レオニス
    ルドルフ・デネボラ(ka3749
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 熊撃ち
    犬養 菜摘(ka3996
    人間(蒼)|21才|女性|猟撃士
  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベ(ka4126
    人間(紅)|25才|女性|疾影士
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/06 06:20:47
アイコン 相談しましょ!
ドロテア・フレーベ(ka4126
人間(クリムゾンウェスト)|25才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/02/10 03:00:47