ゲスト
(ka0000)
濃く暗い泥の塊
マスター:トーゴーヘーゾー

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/21 19:00
- 完成日
- 2015/03/03 08:07
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
人気のない路地裏に二つの人影があった。
寒さを忘れるために、寄り添う一組のカップル。
「綺麗な月ね」
「いや、君ほどじゃないさ」
「……まあ」
などと、ベタな会話をかわし、熱く甘い雰囲気を醸し出す恋人達の逢瀬だ。
他人の目が、あればもう少し自粛するのかもしれない。
いや、他人の目が無いからこそ、互いしか目に入らないのかもしれない。
そんなラブラブ空間を乱す、迷惑な存在がこの場に現れた。
「ぅぅぅぅぅ……」
籠もったようなうなり声を発しながら、ずりずりと不格好なすり足音が近づいてくる。
男の方が、それとなく咳払いをして、相手が立ち去るのを期待するも、その意図を汲むつもりはなさそうだ。音源は徐々に接近してくる。
「……ったく」
不機嫌そうに相手を確認した男の目が見開かれた。
2mを越えるその巨体は、子供がこね上げた泥人形の様な姿をしていた。
「に、逃げよう」
虚勢を張る余裕もなく、しがみつく女性を連れて、彼は逃走を選択する。
「ぅぅぅぅぅ……」
が、退路には別な泥人形が現れた。
さらに、もう1体。
しばらくして、通報を受けた兵士達がその惨状を目の当たりにする。
男は、泥人形の吐き出した粘液を浴び、全身汚物まみれとなって、濃密な臭気を漂わせている。
傍らでは、恋人の女性が泣き伏していた。
「あれれー、これなーに?」
小生意気そうな子供が近づき、男性をデコレートしている黒い物をすくい取ると、そのまま舐めてみる。
「はっ! これはチョコレート!?」
そう。奇妙な怪物はチョコレートのゴーレムだったのだ。
バレンタインなる催し物から除外された男達の怨念か? はたまた、受け取りを拒まれたチョコレートのなれの果てか?
チョコレートゴーレムの雑魔は、しばらくの間は帝都を徘徊することだろう。
ハンターズソサエティから討伐の依頼が出るのは自然の流れと言えた。
寒さを忘れるために、寄り添う一組のカップル。
「綺麗な月ね」
「いや、君ほどじゃないさ」
「……まあ」
などと、ベタな会話をかわし、熱く甘い雰囲気を醸し出す恋人達の逢瀬だ。
他人の目が、あればもう少し自粛するのかもしれない。
いや、他人の目が無いからこそ、互いしか目に入らないのかもしれない。
そんなラブラブ空間を乱す、迷惑な存在がこの場に現れた。
「ぅぅぅぅぅ……」
籠もったようなうなり声を発しながら、ずりずりと不格好なすり足音が近づいてくる。
男の方が、それとなく咳払いをして、相手が立ち去るのを期待するも、その意図を汲むつもりはなさそうだ。音源は徐々に接近してくる。
「……ったく」
不機嫌そうに相手を確認した男の目が見開かれた。
2mを越えるその巨体は、子供がこね上げた泥人形の様な姿をしていた。
「に、逃げよう」
虚勢を張る余裕もなく、しがみつく女性を連れて、彼は逃走を選択する。
「ぅぅぅぅぅ……」
が、退路には別な泥人形が現れた。
さらに、もう1体。
しばらくして、通報を受けた兵士達がその惨状を目の当たりにする。
男は、泥人形の吐き出した粘液を浴び、全身汚物まみれとなって、濃密な臭気を漂わせている。
傍らでは、恋人の女性が泣き伏していた。
「あれれー、これなーに?」
小生意気そうな子供が近づき、男性をデコレートしている黒い物をすくい取ると、そのまま舐めてみる。
「はっ! これはチョコレート!?」
そう。奇妙な怪物はチョコレートのゴーレムだったのだ。
バレンタインなる催し物から除外された男達の怨念か? はたまた、受け取りを拒まれたチョコレートのなれの果てか?
チョコレートゴーレムの雑魔は、しばらくの間は帝都を徘徊することだろう。
ハンターズソサエティから討伐の依頼が出るのは自然の流れと言えた。
リプレイ本文
●バレンタインに背を向けて
「ギャンブルでお金使い果たして目の前の依頼に飛びついたけど、……こっちの世界は本当に何でも有りね」
どこか遠くを眺めて八原 篝(ka3104)がつぶやく。ちなみに、彼女が口にしたのはアイテム強化を目的とした資金投入のため、単純な賭博とは大きく隔たりがる。
「バレンタイン……か。こっちでも、そのイベントはあったんだな。だけど、チョコのゴーレムって辺りが異世界感満点だ。チョコをかけられるなんて、リアルブルーだったら、食べ物で遊ぶなと苦情が寄せられそうな敵だな」
懐かしさ混じりに、城戸 慶一郎(ka3633)が評した。
「正視に耐えない光景、なのです」
リナリア・リアナ・リリアナ(ka3127)の発言に、モカ・プルーム(ka3411)が疑問を挟む。
「チョコレートの匂いって結構好きなんだけどな~♪ でも、やっぱ強すぎるとキツいのかな?」
「いいえ。チョコまみれの方ではなく、……カップルの多さがなのです」
リアルブルーの、それも、ごく狭い範囲での習慣であるはずなのに、バレンタインという祭りでクリムゾンウェストのカップル達が浮かれ気味だ。ごく個人的な事情からリナリアは少数派に類するようだ。
うむうむと頷く慶一郎も、おそらく似た様な心情に違いない。
「動く、ちょこれーと……材料にしたら美味しいのが出来るかしら……?」
が、金刀比良 十六那(ka1841)は首を振って湧きでる興味を振り払った。
「と、とりあえず……っ! 襲われるカップルがこれ以上増えない様に早いうちにとめないと、ね!」
「そうです。個人的な感情はさておき、チョコゴーレムを倒しましょう」
ぽろっと批判的な本心を漏らしつつ、リナリアは仕事優先を宣言する。
「とにかく、本番は夜だな。昼までガッツリ寝てきたしねぇ」
「夜に備えて松明も準備してきた」
「私はランタンを」
鵤(ka3319)の言葉に、ゲルト・フォン・B(ka3222)や十六那が応じる。
「班分けは打ち合わせ通り、わたし、金刀比良さん、鵤さん、ディードリヒさんの4名がA班ね?」
と篝。
「残りはB班なのです。連絡はこれで行うのです」
魔導短伝話を掲げてリナリアが、鵤へ視線を向ける。
「俺も持ってきた。それと、通じなかった場合には、魔法攻撃を空に打ち上げるのはどうだ? 出た敵の数だけ打ち上げるとかな」
●デートスポットの占拠者
土手を歩くカップルを夕闇が覆い隠そうとする中、羨ましそうな視線を向けていた十六那が、わざわざカップルへ声をかけるのは邪魔するのが目的ではない。雑魔との戦闘に備えて、第三者を待避させるためだ。
「はーいどうもすいませんねぇ~。お熱い所悪いんですけどぉ、ちょいと今から雑魔退治するんで、この辺りから撤退してもらえますぅ? まあ雑魔に囲まれ大惨事になってまでイチャツキなら残っててもいいが、色々保証はしないぜ?」
おどけた態度の鵤も、脅しつける様にしてカップルを追い払っていく。
敵をおびき寄せるためのエサは、篝とディードリヒ・D・ディエルマン(ka3850)の即席カップルだ。
「篝さん……太陽の様に、月の様に……気まぐれな心で魅せる貴女を……想い続けても、よろしいでしょうか?」
「ありがとう……。ちょっと寒いね。近く、行っていい?」
まったく照れを感じさせずにささやくディードリヒに対し、篝はおずおずと腕を組みに行く。
「これであったかくなった。種族の違いも、年の差も関係ない。わたしは、あなたと一緒に居られればそれだけで幸せ……」
なんとか台詞を絞り出すものの、このテの経験に乏しい篝にとって、長時間の演技は到底不可能に思えた。十六那は偽装カップルなんて無理だと辞退したが、篝もまたあまり向いていない。
敵の出現をもっとも待ちわびているのは彼女と言えた。
もう一つのデートスポットとなる公園は、B班の担当だ。
「リアルブルー出身の慶一郎さんにあわせた服も纏っています。カップルとして完璧です」
自信満々のリナリアとは対照的に、慶一郎はやや憮然とした態度だ。
「いや……。セーラー服はあまりデートに向いていない」
異文化コミュニケーションの限界らしく、セーラー服少女と青年男性という組み合わせに、リナリアはなんら違和感を感じていない。『リアルブルーの女子学生は恋に恋する存在であって、カップル大作戦に相応しい存在』だと強く主張して押し切った。
「こちらB班です。順調にカップルを演じています」
魔導短伝話を介して状況を知らせつつ、リナリアも慶一郎とガッチリと腕を組む。
密着しているはずなのに、このふたりだと妙に恋愛関係を感じさせない。
リナリアはリアルブルーのスラングを多用しているが、逆に慶一郎側にその知識が欠けているのだ。
かつて、クリスマスに起きた騒乱でも後ろ向きなスタンスで関わった慶一郎とリナリアは、どちらかと言えば戦友というドライな距離感を思わせる。
それでも遠目で見る限りは、恋人と言えなくもない。
「必要ならば、私も男役を引き受けようと思っていたが……」
男装も辞さないゲルトだったが、相手役は幼いモカだ。こちらはどう見てもカップルが成立せず、身を潜めて警戒に当たっていた。
「他のカップルには帰ってもらったし、後は敵をみつけるだけだね~」
くんくんと鼻を鳴らして、モカはチョコレートの匂いを探っているようだ。
複雑な心情を抱くリナリアは、カップルが悲鳴を上げる不幸な事態を待ちかねていたのだが、事前の警戒が功を奏したらしく第三者は周囲に存在しない。そのため、やや残念に感じていたとかいないとか……。
急変を告げる開始のベルは、悲鳴ではなくA班からの通信だった。
●チョコレートの猛威
第三者ならばさっさと追い払うつもりで、鵤はLEDライトを物音に向ける。雰囲気をぶち壊すはずの行為だが、灯りに浮かび上がったのは焦げ茶色の像だ。
「邪魔者の乱入と言うべきか、それとも、待ち人が来たと言うべきかねぇ」
鵤の独白を耳にして、篝も腰に固定していたLEDライトを周囲に向ける。
「……こっちは2体目みたいね」
「自分より甘い存在が許せませんか? 残念です、私はミルクよりもビター派なんです」
篝をかばって進み出たディードリヒが、ユナイテッド・ドライブ・ソードで斬りつける。
半ばまで断ち切られた腕が、みるみる修復してしまう。
「事前情報で効かないのはわかっていましたが、私では少々分が悪い様です。退治は皆さんにお任せ致しますね」
確かに、鵤と組んだ十六那の魔法攻撃の方が有効打を与えているようだ。
魔導短伝話を通じて、鵤からリナリアへと急報が届く。
「A班が敵と遭遇しました。ただし、2体のみです」
「あと1体はどこに現れるかな?」
色気のないカップルの会話。
「3体目だよっ!」
モカの声に、慶一郎のLEDライトが向けられる。
ランアウトと瞬脚を使ったモカが、一瞬だけ照明の中に浮かび上がった。残されたのは傷を修復しつつあるチョコゴーレムのみ。
「……チョコは学生時代に貰ったきりだな。後は義理ばっかで」
ゴーレムを目の当たりにして、そんな連想をした慶一郎が自嘲気味につぶやく。
「銃を手にしてるし。俺には血のバレンタインがお似合いってことなのかな……」
「向こうに2体現れたのなら、こちらは早めに終わらせて援軍に向かおう」
ゲルトが、ホーリーセイバーやホーリーライトで畳みかけていく。
慶一郎の銃撃が牽制し、ゲルトやリナリアがメイン火力を担当する。
「ウィンドスラッシュで切り刻み、ファイアアローで貫き溶かし、ウォーターシュートで水責め……。刻み、溶かし、水で冷やすのは、さながらラブチョコを作る手順が如しなのです」
なんてことを考えるリナリアは余裕がありそうだ。
初手こそ颯爽と斬りつけたモカは、成果が薄いために仲間の防御に徹したところ、ゲルトの代わりに吐き出されたチョコレートを浴びてしまった。
身体の前面をチョココーティングされたのは、敵に背を向けなかった証と言えよう。幸い、行動に支障が出るほど深刻な被害はなかったので、地面に転がったりしてチョコレートをこそげ取る必要はない。
「全身チョコフォンデュなんて、セクシーな人なら色っぽい感じかもしれないけど、ボクじゃ泥遊びみたいだ……」
彼女の嘆きを否定してくれる者は誰もいなかった。
「……まあ、がんばれ」
「慶一郎さんの励ましも、なんだか投げやりなんだよ!」
傍らの喜劇をよそに、ゲルトやリナリアの魔法攻撃はチョコレートに宿った歪虚を消し去ったようだ。
「まだ、終わりじゃない」
ゲルトの先導でB班が次の戦場へ向かった。
バックラーの表面になすりつけられるチョコレートの鉄拳を受け流しつつ、踏み込んだ篝がジエロダガーで斬りつけた。
「水属性のおかげか、多少は効果があるみたいね」
ディードリヒの腕にもチョコの汚れがついていたが、こちらは持参したクッキーを使って、チョコレートフォンデュに挑戦した結果である。
「なかなかの美味ですね。……『あのお方』ならこの程度作ってしまいそうですが……ふふふ、そう思うと私も遊び甲斐があるというものです」
と当人は涼しい顔だ。
「さっきは危なかったな……」
足にチョコを浴びた当初は怯みも見せた十六那だったが、今は気を取り直したようだ。狙いやすい胴体へ、ウィンドスラッシュで大きな裂傷を刻みつける。
「こっちだけで無理に倒す必要はなさそうだねぇ。……ほら、援軍が到着した」
チョコゴーレムごしに、A班の姿が確認できた。
「チョコ塗れになってデートを台無しにしたくなければ離れて!」
散見される野次馬に忠告を発する慶一郎。
無防備な背後に向かって、A班の魔法攻撃が繰り出された。
「ぅぅぅぅぅ……」
唸っている頭部を、十六那のマジックアローが爆散させる。
残るは、篝やディードリヒが押さえているゴーレムのみ。
ハンターに取り囲まれたというのに、状況を把握していないのか、それまで同様に篝を狙う。
横合いから飛び込んだモカのスラッシュエッジが、ゴーレムの太い右足を斬りつけた。すぐに修復が開始されるが、それより早くディードリヒの剣が一閃する。二つの残撃によって、右足が両断されてしまう。
両腕で身を起こそうとするが、元々鈍重なゴーレムでは的でしかなかった。
強力な魔法攻撃による絨毯爆撃をうけ、チョコレートゴーレムは原形もとどめないほどに破壊し尽くされる。
●チョコレートゴーレム共が夢の跡
「……このちょこって……材料になるかしら?」
十六那の疑問にディードリヒが答える。
「私の経験によれば、十分に美味しいですよ」
そんなふたりを、篝は感心する様に見つめていた。
「チョコは、もうしばらく見るのもイヤ。いろいろな意味で疲れたわ。チョコの掃除は仕事の契約に入ってなかったけど、残骸が減ったら感謝されるかもよ」
止められたら諦めるつもりの十六那は、むしろ篝から後押しされた格好だ。
「……来月ホワイトデーだろぉ? いやー丁度いいやなぁ」
「私も仲間内で食べるくらいは確保して帰ろう」
鵤がけらけら笑いながら、ゲルトも淡々と採集を行う。
「せっかくなので、別な食べ方もしてみたいですね。ゲルトさん、松明を貸りますよ」
「ああ」
立ててある松明を手にしたディードリヒが、チョコレートの表面に近づけてジリジリと焦がす。
「……食感が変わって、こちらもいい感じですね」
堪能するディードリヒに触発されたのか、モカも興味をそそられたようだ。
「……チョコを無駄にしない為にも、ボクも持って帰ろうかな」
すでにチョコレートまみれで嫌と言うほど匂いを嗅いでいたのだが、実際に口に入ったのは攻撃の余波だけだ。気分的にはまだしも、肉体的には腹が膨れてるとは言えない。
かくて、健康面での被害は軽微で済み、ハンター達はそれなりの楽しみを得て事件を終える。
ただ……、直接的には関係はないものの、十六那の持ち帰ったチョコレートは壊滅的なクッキングセンスによる魔改造の結果、お裾分けされた友人知人に間接的な被害を生じさせたらしい。
「ギャンブルでお金使い果たして目の前の依頼に飛びついたけど、……こっちの世界は本当に何でも有りね」
どこか遠くを眺めて八原 篝(ka3104)がつぶやく。ちなみに、彼女が口にしたのはアイテム強化を目的とした資金投入のため、単純な賭博とは大きく隔たりがる。
「バレンタイン……か。こっちでも、そのイベントはあったんだな。だけど、チョコのゴーレムって辺りが異世界感満点だ。チョコをかけられるなんて、リアルブルーだったら、食べ物で遊ぶなと苦情が寄せられそうな敵だな」
懐かしさ混じりに、城戸 慶一郎(ka3633)が評した。
「正視に耐えない光景、なのです」
リナリア・リアナ・リリアナ(ka3127)の発言に、モカ・プルーム(ka3411)が疑問を挟む。
「チョコレートの匂いって結構好きなんだけどな~♪ でも、やっぱ強すぎるとキツいのかな?」
「いいえ。チョコまみれの方ではなく、……カップルの多さがなのです」
リアルブルーの、それも、ごく狭い範囲での習慣であるはずなのに、バレンタインという祭りでクリムゾンウェストのカップル達が浮かれ気味だ。ごく個人的な事情からリナリアは少数派に類するようだ。
うむうむと頷く慶一郎も、おそらく似た様な心情に違いない。
「動く、ちょこれーと……材料にしたら美味しいのが出来るかしら……?」
が、金刀比良 十六那(ka1841)は首を振って湧きでる興味を振り払った。
「と、とりあえず……っ! 襲われるカップルがこれ以上増えない様に早いうちにとめないと、ね!」
「そうです。個人的な感情はさておき、チョコゴーレムを倒しましょう」
ぽろっと批判的な本心を漏らしつつ、リナリアは仕事優先を宣言する。
「とにかく、本番は夜だな。昼までガッツリ寝てきたしねぇ」
「夜に備えて松明も準備してきた」
「私はランタンを」
鵤(ka3319)の言葉に、ゲルト・フォン・B(ka3222)や十六那が応じる。
「班分けは打ち合わせ通り、わたし、金刀比良さん、鵤さん、ディードリヒさんの4名がA班ね?」
と篝。
「残りはB班なのです。連絡はこれで行うのです」
魔導短伝話を掲げてリナリアが、鵤へ視線を向ける。
「俺も持ってきた。それと、通じなかった場合には、魔法攻撃を空に打ち上げるのはどうだ? 出た敵の数だけ打ち上げるとかな」
●デートスポットの占拠者
土手を歩くカップルを夕闇が覆い隠そうとする中、羨ましそうな視線を向けていた十六那が、わざわざカップルへ声をかけるのは邪魔するのが目的ではない。雑魔との戦闘に備えて、第三者を待避させるためだ。
「はーいどうもすいませんねぇ~。お熱い所悪いんですけどぉ、ちょいと今から雑魔退治するんで、この辺りから撤退してもらえますぅ? まあ雑魔に囲まれ大惨事になってまでイチャツキなら残っててもいいが、色々保証はしないぜ?」
おどけた態度の鵤も、脅しつける様にしてカップルを追い払っていく。
敵をおびき寄せるためのエサは、篝とディードリヒ・D・ディエルマン(ka3850)の即席カップルだ。
「篝さん……太陽の様に、月の様に……気まぐれな心で魅せる貴女を……想い続けても、よろしいでしょうか?」
「ありがとう……。ちょっと寒いね。近く、行っていい?」
まったく照れを感じさせずにささやくディードリヒに対し、篝はおずおずと腕を組みに行く。
「これであったかくなった。種族の違いも、年の差も関係ない。わたしは、あなたと一緒に居られればそれだけで幸せ……」
なんとか台詞を絞り出すものの、このテの経験に乏しい篝にとって、長時間の演技は到底不可能に思えた。十六那は偽装カップルなんて無理だと辞退したが、篝もまたあまり向いていない。
敵の出現をもっとも待ちわびているのは彼女と言えた。
もう一つのデートスポットとなる公園は、B班の担当だ。
「リアルブルー出身の慶一郎さんにあわせた服も纏っています。カップルとして完璧です」
自信満々のリナリアとは対照的に、慶一郎はやや憮然とした態度だ。
「いや……。セーラー服はあまりデートに向いていない」
異文化コミュニケーションの限界らしく、セーラー服少女と青年男性という組み合わせに、リナリアはなんら違和感を感じていない。『リアルブルーの女子学生は恋に恋する存在であって、カップル大作戦に相応しい存在』だと強く主張して押し切った。
「こちらB班です。順調にカップルを演じています」
魔導短伝話を介して状況を知らせつつ、リナリアも慶一郎とガッチリと腕を組む。
密着しているはずなのに、このふたりだと妙に恋愛関係を感じさせない。
リナリアはリアルブルーのスラングを多用しているが、逆に慶一郎側にその知識が欠けているのだ。
かつて、クリスマスに起きた騒乱でも後ろ向きなスタンスで関わった慶一郎とリナリアは、どちらかと言えば戦友というドライな距離感を思わせる。
それでも遠目で見る限りは、恋人と言えなくもない。
「必要ならば、私も男役を引き受けようと思っていたが……」
男装も辞さないゲルトだったが、相手役は幼いモカだ。こちらはどう見てもカップルが成立せず、身を潜めて警戒に当たっていた。
「他のカップルには帰ってもらったし、後は敵をみつけるだけだね~」
くんくんと鼻を鳴らして、モカはチョコレートの匂いを探っているようだ。
複雑な心情を抱くリナリアは、カップルが悲鳴を上げる不幸な事態を待ちかねていたのだが、事前の警戒が功を奏したらしく第三者は周囲に存在しない。そのため、やや残念に感じていたとかいないとか……。
急変を告げる開始のベルは、悲鳴ではなくA班からの通信だった。
●チョコレートの猛威
第三者ならばさっさと追い払うつもりで、鵤はLEDライトを物音に向ける。雰囲気をぶち壊すはずの行為だが、灯りに浮かび上がったのは焦げ茶色の像だ。
「邪魔者の乱入と言うべきか、それとも、待ち人が来たと言うべきかねぇ」
鵤の独白を耳にして、篝も腰に固定していたLEDライトを周囲に向ける。
「……こっちは2体目みたいね」
「自分より甘い存在が許せませんか? 残念です、私はミルクよりもビター派なんです」
篝をかばって進み出たディードリヒが、ユナイテッド・ドライブ・ソードで斬りつける。
半ばまで断ち切られた腕が、みるみる修復してしまう。
「事前情報で効かないのはわかっていましたが、私では少々分が悪い様です。退治は皆さんにお任せ致しますね」
確かに、鵤と組んだ十六那の魔法攻撃の方が有効打を与えているようだ。
魔導短伝話を通じて、鵤からリナリアへと急報が届く。
「A班が敵と遭遇しました。ただし、2体のみです」
「あと1体はどこに現れるかな?」
色気のないカップルの会話。
「3体目だよっ!」
モカの声に、慶一郎のLEDライトが向けられる。
ランアウトと瞬脚を使ったモカが、一瞬だけ照明の中に浮かび上がった。残されたのは傷を修復しつつあるチョコゴーレムのみ。
「……チョコは学生時代に貰ったきりだな。後は義理ばっかで」
ゴーレムを目の当たりにして、そんな連想をした慶一郎が自嘲気味につぶやく。
「銃を手にしてるし。俺には血のバレンタインがお似合いってことなのかな……」
「向こうに2体現れたのなら、こちらは早めに終わらせて援軍に向かおう」
ゲルトが、ホーリーセイバーやホーリーライトで畳みかけていく。
慶一郎の銃撃が牽制し、ゲルトやリナリアがメイン火力を担当する。
「ウィンドスラッシュで切り刻み、ファイアアローで貫き溶かし、ウォーターシュートで水責め……。刻み、溶かし、水で冷やすのは、さながらラブチョコを作る手順が如しなのです」
なんてことを考えるリナリアは余裕がありそうだ。
初手こそ颯爽と斬りつけたモカは、成果が薄いために仲間の防御に徹したところ、ゲルトの代わりに吐き出されたチョコレートを浴びてしまった。
身体の前面をチョココーティングされたのは、敵に背を向けなかった証と言えよう。幸い、行動に支障が出るほど深刻な被害はなかったので、地面に転がったりしてチョコレートをこそげ取る必要はない。
「全身チョコフォンデュなんて、セクシーな人なら色っぽい感じかもしれないけど、ボクじゃ泥遊びみたいだ……」
彼女の嘆きを否定してくれる者は誰もいなかった。
「……まあ、がんばれ」
「慶一郎さんの励ましも、なんだか投げやりなんだよ!」
傍らの喜劇をよそに、ゲルトやリナリアの魔法攻撃はチョコレートに宿った歪虚を消し去ったようだ。
「まだ、終わりじゃない」
ゲルトの先導でB班が次の戦場へ向かった。
バックラーの表面になすりつけられるチョコレートの鉄拳を受け流しつつ、踏み込んだ篝がジエロダガーで斬りつけた。
「水属性のおかげか、多少は効果があるみたいね」
ディードリヒの腕にもチョコの汚れがついていたが、こちらは持参したクッキーを使って、チョコレートフォンデュに挑戦した結果である。
「なかなかの美味ですね。……『あのお方』ならこの程度作ってしまいそうですが……ふふふ、そう思うと私も遊び甲斐があるというものです」
と当人は涼しい顔だ。
「さっきは危なかったな……」
足にチョコを浴びた当初は怯みも見せた十六那だったが、今は気を取り直したようだ。狙いやすい胴体へ、ウィンドスラッシュで大きな裂傷を刻みつける。
「こっちだけで無理に倒す必要はなさそうだねぇ。……ほら、援軍が到着した」
チョコゴーレムごしに、A班の姿が確認できた。
「チョコ塗れになってデートを台無しにしたくなければ離れて!」
散見される野次馬に忠告を発する慶一郎。
無防備な背後に向かって、A班の魔法攻撃が繰り出された。
「ぅぅぅぅぅ……」
唸っている頭部を、十六那のマジックアローが爆散させる。
残るは、篝やディードリヒが押さえているゴーレムのみ。
ハンターに取り囲まれたというのに、状況を把握していないのか、それまで同様に篝を狙う。
横合いから飛び込んだモカのスラッシュエッジが、ゴーレムの太い右足を斬りつけた。すぐに修復が開始されるが、それより早くディードリヒの剣が一閃する。二つの残撃によって、右足が両断されてしまう。
両腕で身を起こそうとするが、元々鈍重なゴーレムでは的でしかなかった。
強力な魔法攻撃による絨毯爆撃をうけ、チョコレートゴーレムは原形もとどめないほどに破壊し尽くされる。
●チョコレートゴーレム共が夢の跡
「……このちょこって……材料になるかしら?」
十六那の疑問にディードリヒが答える。
「私の経験によれば、十分に美味しいですよ」
そんなふたりを、篝は感心する様に見つめていた。
「チョコは、もうしばらく見るのもイヤ。いろいろな意味で疲れたわ。チョコの掃除は仕事の契約に入ってなかったけど、残骸が減ったら感謝されるかもよ」
止められたら諦めるつもりの十六那は、むしろ篝から後押しされた格好だ。
「……来月ホワイトデーだろぉ? いやー丁度いいやなぁ」
「私も仲間内で食べるくらいは確保して帰ろう」
鵤がけらけら笑いながら、ゲルトも淡々と採集を行う。
「せっかくなので、別な食べ方もしてみたいですね。ゲルトさん、松明を貸りますよ」
「ああ」
立ててある松明を手にしたディードリヒが、チョコレートの表面に近づけてジリジリと焦がす。
「……食感が変わって、こちらもいい感じですね」
堪能するディードリヒに触発されたのか、モカも興味をそそられたようだ。
「……チョコを無駄にしない為にも、ボクも持って帰ろうかな」
すでにチョコレートまみれで嫌と言うほど匂いを嗅いでいたのだが、実際に口に入ったのは攻撃の余波だけだ。気分的にはまだしも、肉体的には腹が膨れてるとは言えない。
かくて、健康面での被害は軽微で済み、ハンター達はそれなりの楽しみを得て事件を終える。
ただ……、直接的には関係はないものの、十六那の持ち帰ったチョコレートは壊滅的なクッキングセンスによる魔改造の結果、お裾分けされた友人知人に間接的な被害を生じさせたらしい。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/02/21 15:56:34 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/18 01:14:56 |