ゲスト
(ka0000)
【不動】魔銃吼える
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/24 12:00
- 完成日
- 2015/03/04 07:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
その森は完全に死んでいるというのでもなかった。
立ち枯れて赤茶色く変色した木々の合間に、背の低い若木や草が伸びている。
それでも他所に比べれば、ここ一帯の森が随分と寒々しい景色であることは間違いない。
更に奥へ進めば、より深刻な植生の破壊が見られる筈だと聞く。立ち入ることができればの話だが。
クリケット(kz0093)は双眼鏡を覗き込んだままつまみを弄り、倍率を下げて森の辺縁部を広く見渡した。
風吹きすさぶ荒野のほうぼうに2、3匹で群れて歩く生き物の姿があった。
荒れた長い毛並に覆われていてはっきりとは分からないが、恐らくコボルド由来の雑魔であろう。
他にも、地球のサイによく似た大型の動物が地面を嗅ぎ回っている。
こちらも雑魔と見えるが由来不明。考えられる限りでは羊か牛か馬――
何にせよ、全身に及ぶ激しい変異によって原型をほとんど留めていない。
もう少し身近な場所へ目を向ければ、荒野を越えてこちら側へ近づきつつあるコボルドの群れ。
クリケットの背後で銃声が上がり、群れの1匹が頭を撃ち抜かれて倒れる。
残された2匹は逃げ出すどころか、仲間の屍を踏み越えてこちらへ突進してきた。
危険かと思われたが、すかさずの斉射で彼らも蜂の巣に。
クリケットは双眼鏡を下ろし、後ろに居並ぶ銃騎兵たちへ尋ねる。
「毎日こんな感じなのかい」
「職務としてはこれが常態ですが、今月は森を出る雑魔の数がやけに多い。
駆除を手助けして頂けるのはありがたいですよ」
帝国・ワルプルギス錬魔院が管轄する、魔法公害の重度汚染区域。
枯死した森とそれを取り囲むこの広大な土地は、
帝国本土にあって『最悪の部類』と言われるほどの、深刻なマテリアル汚染に全域を覆い尽されていた。
●
「カールスラーエ要塞へ移送される機体は全て、魔導型への改修作業が急ピッチで進行中でしてねぇ。
起動実験は後日改めてということに。よって、今すぐ貴方を送り込んでも仕事がない」
言い放つ錬魔院長ナサニエル・カロッサ(kz0028)に、クリケットは肩をすぼめてみせた。
「そも、俺の立場はおたくらの新入りで、素性も知れん地球人の元便利屋だ。
いつかみたいな緊急事態でもなし、いきなり虎の子のCAMに触らせてくれとは言わねぇよ」
元宙軍CAMパイロット、ジェームズ・"クリケット"サーボン中尉は、
帝国軍による歪虚化CAM破壊作戦に参加後、錬魔院での勤務を志願した。
覚醒者としてハンターになる道もありはしたが、
(歪虚とまたガチンコになるのは、しばらく勘弁)
ということで、別方向から歪虚との戦いに助力しようと考えた。
CAM破壊作戦中にコネのできたナサニエルの下へ、
元パイロットとして何かできることはないかと尋ねたのだが、
「まぁ、貴方は覚醒者でもあることですし? そっちを生かして暇を潰して頂きましょう」
そう言って案内された研究室で組み立てられていたのは、
全長2メートル近い、火砲らしき黒塗りの無骨な兵器。
クリケットが軍人時代に見たどんな武器とも似ていない。
「強いて言えば、迫撃砲かな? にしちゃえらくごてついてるが。
分かった、曲射用の魔導砲だろ? こう、地面に置いてさ……」
「違います。手に持って撃つんですよ」
冗談だろと呟くクリケットの前で、床に置かれた砲を掴み上げようとするナサニエル。
なるほど、言われてみればちゃんと手持ち用のハンドルが溶接されてはいるが、
「あっ、重い。私頭脳労働者なので無理です。肉体労働者、どうぞ」
「……はいはい」
クリケットが代わって持ち上げてみせる。上がるには上がったが、ひどく重い。
前後のハンドルを握って腰だめに構えてはみるが、こんな姿勢で本当に発射できるものなのか。
「魔導砲という点については正解――対歪虚専用大型魔導銃『オイリアンテ』、その試作機ですよ。
こないだの作戦で君に預けた『カスパール』、あれの弟分ってとこですかねぇ。
特殊錬金弾の汚染軽減と小口径化に併せて、専用の発射装置として開発されました。
将来的には帝国軍の一般兵向けに配備し、歩兵火力の大幅な強化を目指したい……、
のですが、現状は魔導銃の出力限界や重量の問題もありまして、覚醒者専用の装備としてまずは落ち着けたい。
近く、ハンターを呼んで試射などさせようと思っていたのですが丁度良かった。
君に試作の2丁を預けますから、試射してデータ取りつつ上手いこと調整しといて下さい」
●
じゃじゃ馬だった。弱装弾使用での標的射撃すら身体に堪えた。
以前使わされた魔導狙撃砲と違って、射手のマテリアルを大きく消耗するような仕掛けこそないものの、
砲自体の重みと、駐退機が殺しきれない発射時の反動だけでやたらに疲れる。
(脚だけで立って、運んで、直射で撃とうっていう考え自体がまずおかしい)
命中精度や威力以前の問題だと考えたクリケットは、
ひとまず肩かけ用のスリングを取りつけ、二脚の支持架も作ってみた。
試射を重ねる内、射撃姿勢さえ安定させればそう悪くない命中率が出せることも分かってきた。
「じゃ、そろそろ実戦でテストですかねぇ」
「結局現場仕事かよ……」
実地試験の会場に指定されたのが、某所の重度汚染区域だった。
かの地が何故こうも荒れ果ててしまったのか、説明はナサニエルの口からはなく、
クリケットも敢えて踏み込んで訊こうとはしなかった。
(他の職員連中も、詳しい事情はあまり知らないらしいが……)
兎に角、昔何らかの事件か事故があったのは確かで、
それ以降ずっと、何人たりとも立ち入ることのできない無人の野と化しているそうだ。
帝国軍駐屯部隊の分隊長は語る。
「完全に雑魔の巣と化していますからね、森の中は。
大部隊で踏み込んで一掃すればすっきりするでしょうが、汚染がきつ過ぎてそれもできない。
覚醒者ですら危険だそうですから……」
「ここらは大丈夫なの?」
「そういうことになっていますが、身体には確実に良くないでしょうね。
通常、哨戒線上への立ち入りは最長2時間と定め、交替で任務に当たっています。
区域内への立ち入りは厳禁。また週毎、月毎にシフトを管理して、
ひとりが短期間で頻繁に哨戒線を出入りすることのないよう注意しています。
無論、人員には限りがあるので『努力はする』という程度ですが」
帝国軍人たるもの、長生きなど元より望みはしていない、と冗談交じりに分隊長が言い、
銃を担いだ部下の銃騎兵たちも苦笑してみせる。
「覚醒者であれば汚染への耐性も強いでしょうが、だとしてもこれ以上立ち入ることはお勧めしません」
この場所なら汚染を気にせずに済むし、砲の射程も何とか足りそうだ。
クリケットは双眼鏡を仕舞いつつ、分隊長へ告げる。
「ここでやらせてもらうよ。火砲の実験だからね、中へ入る用事もない筈だ……」
その森は完全に死んでいるというのでもなかった。
立ち枯れて赤茶色く変色した木々の合間に、背の低い若木や草が伸びている。
それでも他所に比べれば、ここ一帯の森が随分と寒々しい景色であることは間違いない。
更に奥へ進めば、より深刻な植生の破壊が見られる筈だと聞く。立ち入ることができればの話だが。
クリケット(kz0093)は双眼鏡を覗き込んだままつまみを弄り、倍率を下げて森の辺縁部を広く見渡した。
風吹きすさぶ荒野のほうぼうに2、3匹で群れて歩く生き物の姿があった。
荒れた長い毛並に覆われていてはっきりとは分からないが、恐らくコボルド由来の雑魔であろう。
他にも、地球のサイによく似た大型の動物が地面を嗅ぎ回っている。
こちらも雑魔と見えるが由来不明。考えられる限りでは羊か牛か馬――
何にせよ、全身に及ぶ激しい変異によって原型をほとんど留めていない。
もう少し身近な場所へ目を向ければ、荒野を越えてこちら側へ近づきつつあるコボルドの群れ。
クリケットの背後で銃声が上がり、群れの1匹が頭を撃ち抜かれて倒れる。
残された2匹は逃げ出すどころか、仲間の屍を踏み越えてこちらへ突進してきた。
危険かと思われたが、すかさずの斉射で彼らも蜂の巣に。
クリケットは双眼鏡を下ろし、後ろに居並ぶ銃騎兵たちへ尋ねる。
「毎日こんな感じなのかい」
「職務としてはこれが常態ですが、今月は森を出る雑魔の数がやけに多い。
駆除を手助けして頂けるのはありがたいですよ」
帝国・ワルプルギス錬魔院が管轄する、魔法公害の重度汚染区域。
枯死した森とそれを取り囲むこの広大な土地は、
帝国本土にあって『最悪の部類』と言われるほどの、深刻なマテリアル汚染に全域を覆い尽されていた。
●
「カールスラーエ要塞へ移送される機体は全て、魔導型への改修作業が急ピッチで進行中でしてねぇ。
起動実験は後日改めてということに。よって、今すぐ貴方を送り込んでも仕事がない」
言い放つ錬魔院長ナサニエル・カロッサ(kz0028)に、クリケットは肩をすぼめてみせた。
「そも、俺の立場はおたくらの新入りで、素性も知れん地球人の元便利屋だ。
いつかみたいな緊急事態でもなし、いきなり虎の子のCAMに触らせてくれとは言わねぇよ」
元宙軍CAMパイロット、ジェームズ・"クリケット"サーボン中尉は、
帝国軍による歪虚化CAM破壊作戦に参加後、錬魔院での勤務を志願した。
覚醒者としてハンターになる道もありはしたが、
(歪虚とまたガチンコになるのは、しばらく勘弁)
ということで、別方向から歪虚との戦いに助力しようと考えた。
CAM破壊作戦中にコネのできたナサニエルの下へ、
元パイロットとして何かできることはないかと尋ねたのだが、
「まぁ、貴方は覚醒者でもあることですし? そっちを生かして暇を潰して頂きましょう」
そう言って案内された研究室で組み立てられていたのは、
全長2メートル近い、火砲らしき黒塗りの無骨な兵器。
クリケットが軍人時代に見たどんな武器とも似ていない。
「強いて言えば、迫撃砲かな? にしちゃえらくごてついてるが。
分かった、曲射用の魔導砲だろ? こう、地面に置いてさ……」
「違います。手に持って撃つんですよ」
冗談だろと呟くクリケットの前で、床に置かれた砲を掴み上げようとするナサニエル。
なるほど、言われてみればちゃんと手持ち用のハンドルが溶接されてはいるが、
「あっ、重い。私頭脳労働者なので無理です。肉体労働者、どうぞ」
「……はいはい」
クリケットが代わって持ち上げてみせる。上がるには上がったが、ひどく重い。
前後のハンドルを握って腰だめに構えてはみるが、こんな姿勢で本当に発射できるものなのか。
「魔導砲という点については正解――対歪虚専用大型魔導銃『オイリアンテ』、その試作機ですよ。
こないだの作戦で君に預けた『カスパール』、あれの弟分ってとこですかねぇ。
特殊錬金弾の汚染軽減と小口径化に併せて、専用の発射装置として開発されました。
将来的には帝国軍の一般兵向けに配備し、歩兵火力の大幅な強化を目指したい……、
のですが、現状は魔導銃の出力限界や重量の問題もありまして、覚醒者専用の装備としてまずは落ち着けたい。
近く、ハンターを呼んで試射などさせようと思っていたのですが丁度良かった。
君に試作の2丁を預けますから、試射してデータ取りつつ上手いこと調整しといて下さい」
●
じゃじゃ馬だった。弱装弾使用での標的射撃すら身体に堪えた。
以前使わされた魔導狙撃砲と違って、射手のマテリアルを大きく消耗するような仕掛けこそないものの、
砲自体の重みと、駐退機が殺しきれない発射時の反動だけでやたらに疲れる。
(脚だけで立って、運んで、直射で撃とうっていう考え自体がまずおかしい)
命中精度や威力以前の問題だと考えたクリケットは、
ひとまず肩かけ用のスリングを取りつけ、二脚の支持架も作ってみた。
試射を重ねる内、射撃姿勢さえ安定させればそう悪くない命中率が出せることも分かってきた。
「じゃ、そろそろ実戦でテストですかねぇ」
「結局現場仕事かよ……」
実地試験の会場に指定されたのが、某所の重度汚染区域だった。
かの地が何故こうも荒れ果ててしまったのか、説明はナサニエルの口からはなく、
クリケットも敢えて踏み込んで訊こうとはしなかった。
(他の職員連中も、詳しい事情はあまり知らないらしいが……)
兎に角、昔何らかの事件か事故があったのは確かで、
それ以降ずっと、何人たりとも立ち入ることのできない無人の野と化しているそうだ。
帝国軍駐屯部隊の分隊長は語る。
「完全に雑魔の巣と化していますからね、森の中は。
大部隊で踏み込んで一掃すればすっきりするでしょうが、汚染がきつ過ぎてそれもできない。
覚醒者ですら危険だそうですから……」
「ここらは大丈夫なの?」
「そういうことになっていますが、身体には確実に良くないでしょうね。
通常、哨戒線上への立ち入りは最長2時間と定め、交替で任務に当たっています。
区域内への立ち入りは厳禁。また週毎、月毎にシフトを管理して、
ひとりが短期間で頻繁に哨戒線を出入りすることのないよう注意しています。
無論、人員には限りがあるので『努力はする』という程度ですが」
帝国軍人たるもの、長生きなど元より望みはしていない、と冗談交じりに分隊長が言い、
銃を担いだ部下の銃騎兵たちも苦笑してみせる。
「覚醒者であれば汚染への耐性も強いでしょうが、だとしてもこれ以上立ち入ることはお勧めしません」
この場所なら汚染を気にせずに済むし、砲の射程も何とか足りそうだ。
クリケットは双眼鏡を仕舞いつつ、分隊長へ告げる。
「ここでやらせてもらうよ。火砲の実験だからね、中へ入る用事もない筈だ……」
リプレイ本文
●
魔導トラックを降りたハンターの目前に広がるは、灰色の荒野。
彼方に火事の燃え残りのような、枯れた森の赤い影がひとつあった。
音桐 奏(ka2951)はソフト帽の鍔を指で押し上げ、荒涼たる景色を見渡す。
(試作兵器の試射も興味深いですが、この場所も観察のし甲斐がありますね)
監督のクリケットは、場所の由来について多くを語らない。ただ、
「ここは魔法公害の重度汚染区域だ。
イレギュラーがない限り、俺たちも駐屯部隊が設定した哨戒線を越えない」
それだけ念を押して、大型魔導銃『オイリアンテ』試作型2丁の荷下ろしを指示する。
「新しい銃の試射なんて、わくわくするね」
ジュード・エアハート(ka0410)がオイリアンテのスリングを肩にかけながら、嬉しそうに言う。
藤堂研司(ka0569)も、もう1丁を引き受けて担ぎながら、
「そういや狙撃に使える銃って無かったな。こいつはちと重くてデカイが……」
「おっさんにはしんどい荷物だよ」
研司と壬生 義明(ka3397)が言う通り、本当に重かった。一体何10キロあるものか、
歩兵装備という名目上、ぎりぎり持って運べなくもない重量・形状になってはいたが、
「ま……実験なら、普段自分がやらないようなことをしてみたいよねぇ」
「オイリアンテ、『カスパール』の妹分ってとこか」
ラスティ(ka1400)が、荒野に向けた双眼鏡を覗き込むクリケットの横に立って、言った。
彼はエルフハイム北部での歪虚CAM撃破作戦に参加した折、新型の魔導狙撃砲を目撃していた。
あの破壊力を歩兵が扱えたなら、大型歪虚との戦いが格段に有利になる。
(あれほどでないにしても……普段はアサルトライフルなんて使ってる身としては、
魔弾の射手、って言葉の響きには惹かれるモンがあるな)
クリケットが標的を見つけた。
コボルド2匹に四足獣1頭、計3体の雑魔が、荒野を越えてこちらに向かっている。
指示を待たずとも、ハンターたちは気合十分で準備を進め――
「浮かない顔だな」
ラスティが、うつむいて自前の拳銃をいじっていたヒースクリフ(ka1686)に声をかける。
対するヒースクリフは、銃のスライドを引いて薬室に弾を込め、
「試作兵器には興味あるけど、銃は正直苦手なんだ」
「にしちゃ、そいつの扱いは手慣れてるみたいだが」
ヒースクリフの銃を指差して言うが、彼は答えない。やがてクリケットが、
「今回は試験も兼ねて雑魔を駆除し、駐屯部隊の仕事を手伝う。
ここは区域内でもまだ敵の発見数が少ないとこだが、油断するなよ」
「想定外の敵、例えば剣機みたいな大物が出たら大人しく撤退する。
試作機が駄目になったときもさっさと帰る。それで良いかな?」
義明がクリケットに進言した。ヒースクリフも、
「この場所で足がなくなるとやばい。トラックがやられそうなときも――」
「そうしよう。俺も注意してるが、危険だと思ったら遠慮なく言ってくれ」
クリケットがトラックへ戻り、試作機2丁を携えたハンターたちが前に出る。
汚染区域脱出を図る雑魔たちを相手取り、オイリアンテの実射試験が始まった。
●
「きっちりデータ取って、将来の改善に尽くしますか!」
まずは研司が、全長2メートル近い試作機を立ったまま腰だめに構えてみせた。
ゆっくりとこちらへ近づきつつある雑魔へ、ものは試しと曲射に挑戦する。
腰を使って仰角をつけ、銃の後部ハンドルに仕込まれた引き金を引けば、
銃というよりは砲に近い、重たい発射音がして、銃口が炎を吹き上げる。
巨大な駐退機がスライドし、小瓶ほどもある空薬莢を吐き出した。
研司は反動によろめきつつ、弾丸の軌跡を目で追おうとしたが、
「どっかに飛んでっちまった……」
曲射をするにはこれでも弾が軽すぎ、また、初速が早すぎた。
ジュード、ヒースクリフと共にもう1丁を扱うことになった奏は、
こちらも立射の構えをしつつ、敵が射程内へ入るのをじっと待った。
研司、ラスティ、義明の3人に速射や実験的な使用法を任せつつ、
奏たちはもう少し慎重な射撃で、平均的な命中率や威力を割り出すつもりだ。
雑魔は砲音に反応し、ハンターたちへ向かって一斉に走り出す。
奏が、射程に入ったコボルドを狙って撃つも命中せず。弾丸は地面に食い込んだ。
(なるほど、試作型だけあってまさにじゃじゃ馬ですね。
ですが使い物にする為にも、ここで頑張らないとですね)
二脚を広げて伏射に挑戦した義明も、的を外した
機関部のレバーを引いて給弾口を開け、次弾を手で直接差し込む。
「次は俺だね」
ジュードが奏からオイリアンテを受け取った。
(さて、このレディが戦場で俺たちや歩兵の頼りになるパートナーになるかどうか、確かめようじゃないか)
ラスティもトラックの荷台へ上がり、義明に手伝われつつ銃架に試作機を乗せる。
ジュードは奏と結果を比較するべく、同じ立射に構えた。コボルドへ照準して引き金を――
コボルドの小柄な体躯が、一瞬で血煙と消えてしまった。
初の命中を決めたジュードは思わず呟く。
「すごい! ……けど、ちょっとまずいな」
ラスティの射撃をかわした残り1匹が、射程の内側へ入り込んでしまう。
すかさずヒースクリフが拳銃を発砲するも、
敵の素早い動きに翻弄され、なかなか仕留められない。
ジュードはオイリアンテを一旦置き、こちらも自前の魔導拳銃でヒースクリフに加わった。
すんでのところでコボルドの頭を撃ち、どうにか目前のコボルドを片づける。
研司がラスティと交替し、オイリアンテを銃架から下ろして再び腰だめに構えた。
残るは、遅れてこちらへ近づきつつあった四足獣。
(跳弾の具合も調べたいけど……うーん、この野原じゃ、こいつの弾を跳ね返せるものがない)
諦めて直射に切り替える。狙いを絞って放てば、
闘牛のように背を丸めて走る雑魔の頭部が、西瓜のように弾けて飛んだ。
●
「破壊力は申し分なさそうだし、後は取り回しか。
命中精度によっちゃ最大射程より、このまま威力に特化した方が潔いか?」
ラスティが考察するが、記録係を買って出ていた奏は、
「もう少し使ってみないと、はっきりしたことは言えませんね」
命中弾はコボルド1匹と四足獣1頭の計2発。
まだ、オイリアンテの実力を十全に測れてはいない。
河岸を移しての第2トライアル、
100メートルほどの距離にコボルド4匹が固まっていて、それが厄介の種だった。
小柄なコボルドに、慣れない試作機での射撃はなかなか命中せず、遂には、
「あっ」
と叫んだのは、オイリアンテの伏射でコボルドを狙った義明。
1発を外した上、動作不良で排莢口に空薬莢が挟まってしまった。
奏の射撃も外れ、リロードに手間取る内に敵が接近してしまう。
研司がショートボウで牽制の矢を放つが、雑魔化で凶暴さを増したコボルドは一向に怯まない。
「知恵がない敵ってのも厄介だぜ……!」
言いつつ、ヒースクリフが拳銃で敵の先頭を押し止める。その間に義明がジャムを修理、
彼からオイリアンテを回されたラスティと、ジュードが銃架を使って同時発射。
ジュードの放った1発が、コボルド1匹を吹き飛ばす。
ラスティは研司と交替、ジュードはオイリアンテをリロードだけして、魔導拳銃に持ち替えた。
奏もトラックを下り、やはり拳銃で応戦。義明はナックルをはめて格闘戦に回る。
(この距離は、重くて大きいオイリアンテ嬢じゃ追いつかないからねぇ)
義明のナックル『ヴァリアブル・デバイド』のギミックが展開、
猛獣の顎に似た上下のクローで、弾幕を抜け出た1匹の喉を抉る。
更に2匹が拳銃弾で倒され、ようやくその場が落ち着いた。
遅ればせに現れた四足獣2頭へ、ヒースクリフと義明が対応する。
「やれやれ、やっとまともに当てられそうな相手が回ってきたよ」
義明はヒースクリフと並んで伏せ、地面に置いたオイリアンテを照準する。
同時に発射し、同時に命中。着弾時の衝撃で、敵の巨体が跳ね上がるほどだった。
●
3番目の現場では、更に近い距離に、前回の倍近い数の敵が固まっていた。
現在まで負傷者なし、試作機やトラックにも故障はない。しかし、
「あのまま殺到されると、今度こそテストどころじゃなくなるかもな」
ラスティがそう言って、奏と共にトラックの荷台へ上がる。
「接敵前に数を絞ったほうが良いかも……」
ジュード、そしてヒースクリフは先んじて拳銃を構えておいた。
研司は弓を、義明はラスティとの射撃手交替に備えつつナックルを装備する。
やがて、敵群がこちらに気づいた。トラックの銃架から奏が1発、
少し間を置いてラスティがもう1発を撃つが、散りぢりに低い姿勢で走ってくるコボルド相手に、
重量のあるオイリアンテでは咄嗟に照準を修正することも難しい。
「このままじゃトラックがやばい、下がるんだ!」
ヒースクリフが手を振り、クリケットに合図した。
トラックは奏とラスティ、オイリアンテ2丁を乗せたまま走り出す――が、
重量物の輸送用で、馬力はあるが足の重いトラックではコボルドを振り切れないだろう。
「持ってて良かった!」
研司は矢で1匹を射抜いて足止めして、デリンジャーを抜いた。これ以上は弓では間に合わない。
ジュード、ヒースクリフが拳銃で先頭2匹を倒すが、
とうとう哨戒線へ侵入した残り5匹が、一斉に飛びかかってきた。
義明は防御障壁を展開、鋭い爪を受け止め、
「いきなり緊急事態になってしまったねぇ……!」
コボルドがマテリアルの障壁に跳ね返され、転倒したところを踏みつけて首をへし折る。
だが、押し寄せてきた後続に、今度は左右から襲いかかられた。
障壁で防ぎ切れないダメージを身体に受けつつ、どうにか踏み止まる。
他3人も、拳銃で間近からコボルドを1匹ずつ仕留めていく。
乱戦の最中、やおら突進してきた四足獣の1頭が、ヒースクリフを頭突きで転ばせた。
角こそ刺さらなかったものの、転倒した拍子に頭を強く打ってしまう。
「トラックを止めてくれ」
ラスティが銃架に乗せたままオイリアンテをリロードし、運転席のクリケットへ伝える。
コボルドの群れはほぼ片づいたが、前衛も傷を負い、このまま四足獣と接近戦に入るのは危険だ。
(落ち着いて狙えば、当てられる筈です)
ラスティの隣で奏が意識を集中させ、慎重に狙いを定める。
トラックが停止した瞬間にオイリアンテを発射、ヒースクリフを襲った四足獣を1撃で屠ってみせた。
続くラスティの射撃も、撤退を始めた前衛に追いすがる、コボルドの最後の1匹を仕留めた。
●
「無事か!?」
クリケットが運転席から荷台を振り返った。
義明に背負われていたヒースクリフは、荷台に上げられるとすぐ意識を取り戻す。
「……どうにか」
頭を振りつつ答えるヒースクリフ。共に乗り込んだ義明、ジュード、研司も、
深手ではないものの、コボルドの群れとぶつかって細々と手傷を負わされていた。
「撤退するべきかな」
ジュードが言うが、
「けど、このスピードじゃ逃げ切れないんじゃないか?」
研司が見やれば、トラックを追って哨戒線を越えてきた四足獣、その数残り3頭。
早速、銃架からオイリアンテを外し、またも腰だめに。
ジュードももう1丁を掴む。再び走り出したトラックの荷台から、ふたりで立射に挑んだ。
(意外な感じもするけど、この構えのほうが――!)
射撃の直前、ラスティとヒースクリフが、射手にマテリアルを流し込み身体強化の術を施す。
トラックを追跡中の四足獣2頭が、立て続けに弾を受けて横倒しになった。
「お見事。どれどれ、機導術の触媒としてはどうかな?」
義明が、研司からオイリアンテを受け取って、荷台へ腹這いになる。
ハンドルに手をかけたまま、オイリアンテを触媒に機導砲を撃てば、
銃口から飛び出した光弾が、四足獣の額にぶつかり弾けた。
敵は怒りに頭を振り立てるが、巨体故のタフネスで機導砲を耐え、その歩みを止めようとしない。
(こっちの威力はあまり変わらないようだねぇ……やはり、本領は)
続き、ヒースクリフがジュードと交替して伏射をするが命中せず。
確実に敵を片づけるべく、ラスティは支援に回り、研司がもう1度オイリアンテの射手を引き受けた。
変わらずの立射――変わらずの威力で、最後の1頭が倒された。
●
6人はトラックの荷台で揺られ、帝国軍の駐屯基地へ戻っていく。
奏が取っていた記録をクリケットのそれと引き合わせ、間違いがないことを確認すると、
「不思議なことに、最も不安定な筈の腰だめで最も命中が多かった……、
射撃回数が少ないですから、一概に結論づけることはできませんが」
奏のメモを覗き込み、他5人もそれぞれに試作機の感触を思い返す。まずは研司が、
「銃が重たい分、あんまり銃口が跳ねなかったな。
後ろに来るショックはでかいから、下手すると手首をやっちゃいそうだけど」
「ハンターの身体だけで支えてる分、瞬間的な照準の補正が利きやすいのかもね」
研司と同じく、立射で命中弾を出したジュードが言う。
「速射が困難なのが第一の課題かな。懐に飛び込まれると何もできない」
義明が問題点を挙げる。皆、コボルドへの対応に苦心した点が最も大きいと考えていた。
「1発1発を無駄にしないことが大事ですね。
距離やスキルによる補助等、条件が揃えば、狙って当てられない武器ではないですから」
「その『条件』ってのが厳しいな。射程内に敵を留めておく工夫が必須だ」
奏とラスティも加わって、オイリアンテの弱点をカバーする方策を話し合う。
「拠点に設置して、後方からの火力支援専用とすればいけるかもな。
前衛に矢面を任せつつ、大物をピンポイントで狙撃する……」
「撤退時は、追跡されると危険な敵だけを確実に仕留めるようにしましょう。
立射で当たるなら、射手もこまめに動きつつ、簡易の移動砲台として働けるでしょうか」
「貫通や跳弾ができるようになったら、群れで来られても結構勝てそうだけどなぁ」
研司のぼやきに、義明が肩をすぼめ、
「おっさん的にはもうちょい軽くなってくれるとありがたいねぇ。いやぁ、肩が凝った」
「……これなら、怠惰の巨人ども相手にも渡り合えるかね?」
ラスティの呟きを聞きながら、ヒースクリフは後ろで寝そべり、空を見上げていた。
(銃。やっぱり苦手だ。これからの戦いに必要な力ではあるんだろうが……)
奏も、汚染区域を振り返って思案する。
魔導機械の活躍の場が広がれば、それだけ汚染の危険も増していく。
歪虚の脅威を退けたとて、残された汚染の中で、これまでの生活圏を維持できたものか。
(この場所、この光景が世界の行き着く先になるか……見届ける価値がありますね)
オイリアンテの砲声が消えた後、無人の野にはただ風が吼えるのみだった。
魔導トラックを降りたハンターの目前に広がるは、灰色の荒野。
彼方に火事の燃え残りのような、枯れた森の赤い影がひとつあった。
音桐 奏(ka2951)はソフト帽の鍔を指で押し上げ、荒涼たる景色を見渡す。
(試作兵器の試射も興味深いですが、この場所も観察のし甲斐がありますね)
監督のクリケットは、場所の由来について多くを語らない。ただ、
「ここは魔法公害の重度汚染区域だ。
イレギュラーがない限り、俺たちも駐屯部隊が設定した哨戒線を越えない」
それだけ念を押して、大型魔導銃『オイリアンテ』試作型2丁の荷下ろしを指示する。
「新しい銃の試射なんて、わくわくするね」
ジュード・エアハート(ka0410)がオイリアンテのスリングを肩にかけながら、嬉しそうに言う。
藤堂研司(ka0569)も、もう1丁を引き受けて担ぎながら、
「そういや狙撃に使える銃って無かったな。こいつはちと重くてデカイが……」
「おっさんにはしんどい荷物だよ」
研司と壬生 義明(ka3397)が言う通り、本当に重かった。一体何10キロあるものか、
歩兵装備という名目上、ぎりぎり持って運べなくもない重量・形状になってはいたが、
「ま……実験なら、普段自分がやらないようなことをしてみたいよねぇ」
「オイリアンテ、『カスパール』の妹分ってとこか」
ラスティ(ka1400)が、荒野に向けた双眼鏡を覗き込むクリケットの横に立って、言った。
彼はエルフハイム北部での歪虚CAM撃破作戦に参加した折、新型の魔導狙撃砲を目撃していた。
あの破壊力を歩兵が扱えたなら、大型歪虚との戦いが格段に有利になる。
(あれほどでないにしても……普段はアサルトライフルなんて使ってる身としては、
魔弾の射手、って言葉の響きには惹かれるモンがあるな)
クリケットが標的を見つけた。
コボルド2匹に四足獣1頭、計3体の雑魔が、荒野を越えてこちらに向かっている。
指示を待たずとも、ハンターたちは気合十分で準備を進め――
「浮かない顔だな」
ラスティが、うつむいて自前の拳銃をいじっていたヒースクリフ(ka1686)に声をかける。
対するヒースクリフは、銃のスライドを引いて薬室に弾を込め、
「試作兵器には興味あるけど、銃は正直苦手なんだ」
「にしちゃ、そいつの扱いは手慣れてるみたいだが」
ヒースクリフの銃を指差して言うが、彼は答えない。やがてクリケットが、
「今回は試験も兼ねて雑魔を駆除し、駐屯部隊の仕事を手伝う。
ここは区域内でもまだ敵の発見数が少ないとこだが、油断するなよ」
「想定外の敵、例えば剣機みたいな大物が出たら大人しく撤退する。
試作機が駄目になったときもさっさと帰る。それで良いかな?」
義明がクリケットに進言した。ヒースクリフも、
「この場所で足がなくなるとやばい。トラックがやられそうなときも――」
「そうしよう。俺も注意してるが、危険だと思ったら遠慮なく言ってくれ」
クリケットがトラックへ戻り、試作機2丁を携えたハンターたちが前に出る。
汚染区域脱出を図る雑魔たちを相手取り、オイリアンテの実射試験が始まった。
●
「きっちりデータ取って、将来の改善に尽くしますか!」
まずは研司が、全長2メートル近い試作機を立ったまま腰だめに構えてみせた。
ゆっくりとこちらへ近づきつつある雑魔へ、ものは試しと曲射に挑戦する。
腰を使って仰角をつけ、銃の後部ハンドルに仕込まれた引き金を引けば、
銃というよりは砲に近い、重たい発射音がして、銃口が炎を吹き上げる。
巨大な駐退機がスライドし、小瓶ほどもある空薬莢を吐き出した。
研司は反動によろめきつつ、弾丸の軌跡を目で追おうとしたが、
「どっかに飛んでっちまった……」
曲射をするにはこれでも弾が軽すぎ、また、初速が早すぎた。
ジュード、ヒースクリフと共にもう1丁を扱うことになった奏は、
こちらも立射の構えをしつつ、敵が射程内へ入るのをじっと待った。
研司、ラスティ、義明の3人に速射や実験的な使用法を任せつつ、
奏たちはもう少し慎重な射撃で、平均的な命中率や威力を割り出すつもりだ。
雑魔は砲音に反応し、ハンターたちへ向かって一斉に走り出す。
奏が、射程に入ったコボルドを狙って撃つも命中せず。弾丸は地面に食い込んだ。
(なるほど、試作型だけあってまさにじゃじゃ馬ですね。
ですが使い物にする為にも、ここで頑張らないとですね)
二脚を広げて伏射に挑戦した義明も、的を外した
機関部のレバーを引いて給弾口を開け、次弾を手で直接差し込む。
「次は俺だね」
ジュードが奏からオイリアンテを受け取った。
(さて、このレディが戦場で俺たちや歩兵の頼りになるパートナーになるかどうか、確かめようじゃないか)
ラスティもトラックの荷台へ上がり、義明に手伝われつつ銃架に試作機を乗せる。
ジュードは奏と結果を比較するべく、同じ立射に構えた。コボルドへ照準して引き金を――
コボルドの小柄な体躯が、一瞬で血煙と消えてしまった。
初の命中を決めたジュードは思わず呟く。
「すごい! ……けど、ちょっとまずいな」
ラスティの射撃をかわした残り1匹が、射程の内側へ入り込んでしまう。
すかさずヒースクリフが拳銃を発砲するも、
敵の素早い動きに翻弄され、なかなか仕留められない。
ジュードはオイリアンテを一旦置き、こちらも自前の魔導拳銃でヒースクリフに加わった。
すんでのところでコボルドの頭を撃ち、どうにか目前のコボルドを片づける。
研司がラスティと交替し、オイリアンテを銃架から下ろして再び腰だめに構えた。
残るは、遅れてこちらへ近づきつつあった四足獣。
(跳弾の具合も調べたいけど……うーん、この野原じゃ、こいつの弾を跳ね返せるものがない)
諦めて直射に切り替える。狙いを絞って放てば、
闘牛のように背を丸めて走る雑魔の頭部が、西瓜のように弾けて飛んだ。
●
「破壊力は申し分なさそうだし、後は取り回しか。
命中精度によっちゃ最大射程より、このまま威力に特化した方が潔いか?」
ラスティが考察するが、記録係を買って出ていた奏は、
「もう少し使ってみないと、はっきりしたことは言えませんね」
命中弾はコボルド1匹と四足獣1頭の計2発。
まだ、オイリアンテの実力を十全に測れてはいない。
河岸を移しての第2トライアル、
100メートルほどの距離にコボルド4匹が固まっていて、それが厄介の種だった。
小柄なコボルドに、慣れない試作機での射撃はなかなか命中せず、遂には、
「あっ」
と叫んだのは、オイリアンテの伏射でコボルドを狙った義明。
1発を外した上、動作不良で排莢口に空薬莢が挟まってしまった。
奏の射撃も外れ、リロードに手間取る内に敵が接近してしまう。
研司がショートボウで牽制の矢を放つが、雑魔化で凶暴さを増したコボルドは一向に怯まない。
「知恵がない敵ってのも厄介だぜ……!」
言いつつ、ヒースクリフが拳銃で敵の先頭を押し止める。その間に義明がジャムを修理、
彼からオイリアンテを回されたラスティと、ジュードが銃架を使って同時発射。
ジュードの放った1発が、コボルド1匹を吹き飛ばす。
ラスティは研司と交替、ジュードはオイリアンテをリロードだけして、魔導拳銃に持ち替えた。
奏もトラックを下り、やはり拳銃で応戦。義明はナックルをはめて格闘戦に回る。
(この距離は、重くて大きいオイリアンテ嬢じゃ追いつかないからねぇ)
義明のナックル『ヴァリアブル・デバイド』のギミックが展開、
猛獣の顎に似た上下のクローで、弾幕を抜け出た1匹の喉を抉る。
更に2匹が拳銃弾で倒され、ようやくその場が落ち着いた。
遅ればせに現れた四足獣2頭へ、ヒースクリフと義明が対応する。
「やれやれ、やっとまともに当てられそうな相手が回ってきたよ」
義明はヒースクリフと並んで伏せ、地面に置いたオイリアンテを照準する。
同時に発射し、同時に命中。着弾時の衝撃で、敵の巨体が跳ね上がるほどだった。
●
3番目の現場では、更に近い距離に、前回の倍近い数の敵が固まっていた。
現在まで負傷者なし、試作機やトラックにも故障はない。しかし、
「あのまま殺到されると、今度こそテストどころじゃなくなるかもな」
ラスティがそう言って、奏と共にトラックの荷台へ上がる。
「接敵前に数を絞ったほうが良いかも……」
ジュード、そしてヒースクリフは先んじて拳銃を構えておいた。
研司は弓を、義明はラスティとの射撃手交替に備えつつナックルを装備する。
やがて、敵群がこちらに気づいた。トラックの銃架から奏が1発、
少し間を置いてラスティがもう1発を撃つが、散りぢりに低い姿勢で走ってくるコボルド相手に、
重量のあるオイリアンテでは咄嗟に照準を修正することも難しい。
「このままじゃトラックがやばい、下がるんだ!」
ヒースクリフが手を振り、クリケットに合図した。
トラックは奏とラスティ、オイリアンテ2丁を乗せたまま走り出す――が、
重量物の輸送用で、馬力はあるが足の重いトラックではコボルドを振り切れないだろう。
「持ってて良かった!」
研司は矢で1匹を射抜いて足止めして、デリンジャーを抜いた。これ以上は弓では間に合わない。
ジュード、ヒースクリフが拳銃で先頭2匹を倒すが、
とうとう哨戒線へ侵入した残り5匹が、一斉に飛びかかってきた。
義明は防御障壁を展開、鋭い爪を受け止め、
「いきなり緊急事態になってしまったねぇ……!」
コボルドがマテリアルの障壁に跳ね返され、転倒したところを踏みつけて首をへし折る。
だが、押し寄せてきた後続に、今度は左右から襲いかかられた。
障壁で防ぎ切れないダメージを身体に受けつつ、どうにか踏み止まる。
他3人も、拳銃で間近からコボルドを1匹ずつ仕留めていく。
乱戦の最中、やおら突進してきた四足獣の1頭が、ヒースクリフを頭突きで転ばせた。
角こそ刺さらなかったものの、転倒した拍子に頭を強く打ってしまう。
「トラックを止めてくれ」
ラスティが銃架に乗せたままオイリアンテをリロードし、運転席のクリケットへ伝える。
コボルドの群れはほぼ片づいたが、前衛も傷を負い、このまま四足獣と接近戦に入るのは危険だ。
(落ち着いて狙えば、当てられる筈です)
ラスティの隣で奏が意識を集中させ、慎重に狙いを定める。
トラックが停止した瞬間にオイリアンテを発射、ヒースクリフを襲った四足獣を1撃で屠ってみせた。
続くラスティの射撃も、撤退を始めた前衛に追いすがる、コボルドの最後の1匹を仕留めた。
●
「無事か!?」
クリケットが運転席から荷台を振り返った。
義明に背負われていたヒースクリフは、荷台に上げられるとすぐ意識を取り戻す。
「……どうにか」
頭を振りつつ答えるヒースクリフ。共に乗り込んだ義明、ジュード、研司も、
深手ではないものの、コボルドの群れとぶつかって細々と手傷を負わされていた。
「撤退するべきかな」
ジュードが言うが、
「けど、このスピードじゃ逃げ切れないんじゃないか?」
研司が見やれば、トラックを追って哨戒線を越えてきた四足獣、その数残り3頭。
早速、銃架からオイリアンテを外し、またも腰だめに。
ジュードももう1丁を掴む。再び走り出したトラックの荷台から、ふたりで立射に挑んだ。
(意外な感じもするけど、この構えのほうが――!)
射撃の直前、ラスティとヒースクリフが、射手にマテリアルを流し込み身体強化の術を施す。
トラックを追跡中の四足獣2頭が、立て続けに弾を受けて横倒しになった。
「お見事。どれどれ、機導術の触媒としてはどうかな?」
義明が、研司からオイリアンテを受け取って、荷台へ腹這いになる。
ハンドルに手をかけたまま、オイリアンテを触媒に機導砲を撃てば、
銃口から飛び出した光弾が、四足獣の額にぶつかり弾けた。
敵は怒りに頭を振り立てるが、巨体故のタフネスで機導砲を耐え、その歩みを止めようとしない。
(こっちの威力はあまり変わらないようだねぇ……やはり、本領は)
続き、ヒースクリフがジュードと交替して伏射をするが命中せず。
確実に敵を片づけるべく、ラスティは支援に回り、研司がもう1度オイリアンテの射手を引き受けた。
変わらずの立射――変わらずの威力で、最後の1頭が倒された。
●
6人はトラックの荷台で揺られ、帝国軍の駐屯基地へ戻っていく。
奏が取っていた記録をクリケットのそれと引き合わせ、間違いがないことを確認すると、
「不思議なことに、最も不安定な筈の腰だめで最も命中が多かった……、
射撃回数が少ないですから、一概に結論づけることはできませんが」
奏のメモを覗き込み、他5人もそれぞれに試作機の感触を思い返す。まずは研司が、
「銃が重たい分、あんまり銃口が跳ねなかったな。
後ろに来るショックはでかいから、下手すると手首をやっちゃいそうだけど」
「ハンターの身体だけで支えてる分、瞬間的な照準の補正が利きやすいのかもね」
研司と同じく、立射で命中弾を出したジュードが言う。
「速射が困難なのが第一の課題かな。懐に飛び込まれると何もできない」
義明が問題点を挙げる。皆、コボルドへの対応に苦心した点が最も大きいと考えていた。
「1発1発を無駄にしないことが大事ですね。
距離やスキルによる補助等、条件が揃えば、狙って当てられない武器ではないですから」
「その『条件』ってのが厳しいな。射程内に敵を留めておく工夫が必須だ」
奏とラスティも加わって、オイリアンテの弱点をカバーする方策を話し合う。
「拠点に設置して、後方からの火力支援専用とすればいけるかもな。
前衛に矢面を任せつつ、大物をピンポイントで狙撃する……」
「撤退時は、追跡されると危険な敵だけを確実に仕留めるようにしましょう。
立射で当たるなら、射手もこまめに動きつつ、簡易の移動砲台として働けるでしょうか」
「貫通や跳弾ができるようになったら、群れで来られても結構勝てそうだけどなぁ」
研司のぼやきに、義明が肩をすぼめ、
「おっさん的にはもうちょい軽くなってくれるとありがたいねぇ。いやぁ、肩が凝った」
「……これなら、怠惰の巨人ども相手にも渡り合えるかね?」
ラスティの呟きを聞きながら、ヒースクリフは後ろで寝そべり、空を見上げていた。
(銃。やっぱり苦手だ。これからの戦いに必要な力ではあるんだろうが……)
奏も、汚染区域を振り返って思案する。
魔導機械の活躍の場が広がれば、それだけ汚染の危険も増していく。
歪虚の脅威を退けたとて、残された汚染の中で、これまでの生活圏を維持できたものか。
(この場所、この光景が世界の行き着く先になるか……見届ける価値がありますね)
オイリアンテの砲声が消えた後、無人の野にはただ風が吼えるのみだった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/02/24 03:13:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/19 12:24:39 |