ゲスト
(ka0000)
【不動】清風明月凶殺夜
マスター:剣崎宗二

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/02/27 07:30
- 完成日
- 2015/03/09 06:20
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
星と月が照らす、夜。
マギア砦を陥落させた怠惰の軍勢が迫り来る。その一報を受けたCAM試験場周辺では、緊迫した空気が流れ、戦闘への準備が進められていた。
だが、如何に急ピッチで事を進めようと、人には睡眠が必要である。睡眠を欠けば、集中力を失い、効率は低下するのだ。
「ふわーぁ……」
マギア砦と反対側にある、とある集落。
ここはCAM実験場と近い事もあり、警邏も兼ねて正規兵が派遣される等、比較的に安全な位置であった。
安全だと思えば人は安心する物で。警邏を行っていたこの兵士も、午前の三時程。人が最も眠くなる時間であった事もあり、大きなあくびをしていた。
――だが、この日に限っては。それは行うべきではなかった。
「おうおう、楽なもんだぜ」
シャッ。
音もなく、その頭が胴を離れ、地に落ちる。
そこに立っていたのは、夜を模ったような、フードを深く被った人影。
袖から伸びるは二本の銀刃。それは、人の血に濡れていた。
「――!」
光が隣から彼を照らす。
直ぐに助けを呼ぼうと、兵士が口を開けるが――
「うぜぇ、黙ってな」
ザン。
空に浮かぶ無数の黒い刃の内一本が、その喉元を貫く。続いて急速に接近する黒い影。刃がその両拳に纏わり着き、鉄拳を成す。
ドン。強烈な一打が、兵士の頭部を粉砕する。
「っち、雑魚ばっかじゃつまんねぇ……もっとぱーっとやりてぇな」
彼の心中で、主の命と、己の欲望が天秤に掛けられる。
『……ディーン。裏から適当な村襲っとけ。ただ、一気にやるな。いつやられるかわからん恐怖を植えつけてやれ』
「ちっ……めんどくせぇ」
憎々しく言い放ちながら、全てを殺すため存在する黒い影は、夜の闇へと紛れ込む。
――己の顔面に一撃を叩き込んだ男の顔を思い浮かべる。
あのような殺し方もあるのだと、素直に感心した。故に、己なりの、拳の戦法を編み出した。
殺すための術ならば、この狂人は――研究をも厭わない。
――『凶殺悪鬼』ディーン・キル。
それが、黒い影の名であった。
この集落からの脱出も考えた。だが、それでは、脱出先の集落が襲撃されないとも限らない。なによりも長距離移動は、襲われる可能性を大幅に高める。
かくして、ハンターたちに依頼が出される事となる。集落に発生した、兵士が惨殺される謎の事件解決の為に、警邏を行って欲しい、と。
マギア砦を陥落させた怠惰の軍勢が迫り来る。その一報を受けたCAM試験場周辺では、緊迫した空気が流れ、戦闘への準備が進められていた。
だが、如何に急ピッチで事を進めようと、人には睡眠が必要である。睡眠を欠けば、集中力を失い、効率は低下するのだ。
「ふわーぁ……」
マギア砦と反対側にある、とある集落。
ここはCAM実験場と近い事もあり、警邏も兼ねて正規兵が派遣される等、比較的に安全な位置であった。
安全だと思えば人は安心する物で。警邏を行っていたこの兵士も、午前の三時程。人が最も眠くなる時間であった事もあり、大きなあくびをしていた。
――だが、この日に限っては。それは行うべきではなかった。
「おうおう、楽なもんだぜ」
シャッ。
音もなく、その頭が胴を離れ、地に落ちる。
そこに立っていたのは、夜を模ったような、フードを深く被った人影。
袖から伸びるは二本の銀刃。それは、人の血に濡れていた。
「――!」
光が隣から彼を照らす。
直ぐに助けを呼ぼうと、兵士が口を開けるが――
「うぜぇ、黙ってな」
ザン。
空に浮かぶ無数の黒い刃の内一本が、その喉元を貫く。続いて急速に接近する黒い影。刃がその両拳に纏わり着き、鉄拳を成す。
ドン。強烈な一打が、兵士の頭部を粉砕する。
「っち、雑魚ばっかじゃつまんねぇ……もっとぱーっとやりてぇな」
彼の心中で、主の命と、己の欲望が天秤に掛けられる。
『……ディーン。裏から適当な村襲っとけ。ただ、一気にやるな。いつやられるかわからん恐怖を植えつけてやれ』
「ちっ……めんどくせぇ」
憎々しく言い放ちながら、全てを殺すため存在する黒い影は、夜の闇へと紛れ込む。
――己の顔面に一撃を叩き込んだ男の顔を思い浮かべる。
あのような殺し方もあるのだと、素直に感心した。故に、己なりの、拳の戦法を編み出した。
殺すための術ならば、この狂人は――研究をも厭わない。
――『凶殺悪鬼』ディーン・キル。
それが、黒い影の名であった。
この集落からの脱出も考えた。だが、それでは、脱出先の集落が襲撃されないとも限らない。なによりも長距離移動は、襲われる可能性を大幅に高める。
かくして、ハンターたちに依頼が出される事となる。集落に発生した、兵士が惨殺される謎の事件解決の為に、警邏を行って欲しい、と。
リプレイ本文
●闇の到来
「……予定通り終わったようね」
黄昏時。周囲に仕掛けられた、黒塗りのワイヤーを見て、エリシャ・カンナヴィ(ka0140)がほっと一息つく。
「知らせてきたぜー。死にたくねぇなら夜に外には出るな ってな」
lol U mad ?(ka3514)――ロルもまた、『仕込み』完了を、ハンターたちに報せる。
敵の正体が『不明』である以上、戦闘は先ず『何が』警備兵たちを殺したのか。その現場を突き止める事から始まる。
「死体は調べておいた。……鋭利な刃物での攻撃――むごいもんだ」
「反撃も逃走の隙もなくやられてました。……相当の威力とスピードだと思います」
遺族の許可を得て、死体を調査していたリュー・グランフェスト(ka2419)とアニス・エリダヌス(ka2491)。
「そう……なら、尚更単独行動は危険ね。予定通り二人ペアで行動するわよ。……貴方達も、行動する際は三人で動いてね」
エリシャのその言葉は、警備兵たちに向けられた物。
――かくして、集落に夜の帳が下りる。
調査の合間に十分な休憩を取ったハンターと警備兵たちが、集落の各所を見回り始める。この時の彼らには、まだ知る由はない。
――黒い殺人鬼が、再度闇に紛れ、襲来していた事を。
●突き出される刃
「おい……油断するなよ。前のやつら見たいになりたくなけりゃな」
大あくびをした兵士の一人を、別の兵士が咎める。
時は夜中、三時頃。いくら休憩を取ったとは言え、習慣はそう簡単に変更できる物でもない。多少の眠気は避けられない。
「大丈夫だよ。昼間仕掛けられてるのを見ただろ?何かが動けば、鳴るはずさ」
そう言った兵士が見たのは、周りのワイヤーにくくりつけられた鈴。
――チリーン。
その瞬間、鈴のなる音。
「……おい、嘘だよな? いたずらするなよ」
「誰もしてねぇよ……!気をつけ――」
彼が最後まで言葉を紡ぐ事はない。
次の瞬間、彼の視界には、彼自身の首のない体が写っていたのだから。
「こ、この――!」
振り回される斧槍。仲間を黒い影が斬殺したその機に乗じて、兵士の一人は黒い影に仕掛ける。
ザン。斧槍は、黒い影の背中に食い込む。
「へ、へへっ、ざまぁ――」
「おいやめろ!!」
「あ!?」
空を舞っていた黒い刃が、斧槍を振るった兵士の足に突き刺さる。
「なかなかいい一撃だったぜ。――お返しだ」
腕から突き出した銀の刃が、彼の心臓に突き刺さり、その命脈を絶つ。
「――っ、もう少し時間を稼げば――!」
きっと、今の鈴の音を聞いて、ハンターたちが応援に来てくれるはず。
そう考えた兵士の逃げ道を阻んだのは、然し仕掛けられたワイヤー。
躓いて、倒れる。
丈夫に作られた、そのワイヤーたちは――鈴を鳴らし敵の場所を報せると同時に、一般人程度の身体能力である警備兵の逃げ道をも――阻んでいたのであった。
●第一の到着者
「近くみたいですね。行きましょう」
アニスの言葉に、彼女とペアを組んだシルフェ・アルタイル(ka0143)が頷く。
――空気中に漂う血の匂いに反応したのか唸る犬を、シルフェは優しく宥める。
「……ったく、待たせやがって」
黒い影。空に浮かぶ無数の黒の刃。腕から伸びる、二本の銀刀。
「みっけ♪シルと踊りましょ」
アニスのランタンが敵の姿を照らし出した瞬間。シルフェの脳裏で、過去に報告書で読んだ事のあるとある歪虚のイメージと、目の前の敵が重なる。
先手のナイフ投擲と共に、踊るように四方八方にフェイントをかけ、無数の棍影が歪虚――ディーン・キルを襲う。
「へへへ、いいぜ、燃えてきたぜぇ!」
それを、まるで何も感じないかのように、その身で受けるディーン。
関節への連撃も、彼の動きを鈍らせるには至らない。
パァン。響く銃声。
それは、アニスが放った、仲間たちへの合図。交戦開始――と。
その銃声をディーンは気にする事はなく、空に浮かぶ無数の黒刃を操り、シルフェを襲う。
「シル、知ってるよ。黒いのが偽物で、銀のが本物でしょ?」
襲ってくるのは黒。然し――彼女が『偽物』と断じたその黒刃は、彼女の足を貫き、地に縫い付けていた。
「なーにを訳わかんねぇ事言ってんだよ!」
――『殺刃』『幻刃』を厄介な技にしている原因は、この二つの技が『同じように見える黒刃』によって『同じモーションで』放たれる事にある。空に浮かぶのは、黒刃のみなのだ。
銀刃とは――動けないシルフェに向かって、突き出された『腕の刃』。過去の報告書の読み間違い。それが致命的な危機を招いたのである。
「これで――!」
聖なる光がディーンの視界を覆う。そのせいか、僅かに刃の切っ先はずれ、急所には刺さらず。シルフェは運よく致命傷を回避する。その機に、黒い刃を引き抜き、脱出する。
「面白いことしてくれるじゃねぇか……!」
今の一撃で、どうやらディーンの興味は、光を放ったアニスに移ったようだ。猛然と迫り、その銀刃が胴に向かい薙がれる。
「あなただけは、倒さないと――!」
かつての思い人と同じ名を持った歪虚。それを野放しにし、罪を犯させる事は、思い人の思い出を汚されるような感じがしたから。
敢えてアニスは回避せず、一閃を受け止める。
(「お願いだから、無茶しないでね。せっかくできた友達、いなくなっちゃうなんて嫌よ」)
誰かの祈りが、彼女に加護を与え、刃を受け止め衝撃を軽減する。
即座に、彼女は自身へ回復の光を付与し、傷を癒す。
(「このまま時間を稼いで、皆が来るまで――!」)
「いじめちゃえ~」
甲高い口笛の音。動物を友とするシルフェが、昼間の内に仲良くなっていた犬たちを呼び寄せる。
それらを彼女は、一斉にディーンに嗾ける。
「――うぜぇ」
銀刃、そして空舞う黒刃の連閃が、次々と犬たちを、肉片と化していく。
「今です!」
肉片の雨に紛れ、アニスの放つ光が、再度僅かにディーンの視界を遮った隙に。跳躍、急降下したシルフェの棍が、ディーンの脳天を狙う。
ゴン。鈍い音。
垂れる一筋の血。その下のディーンの表情は、獰猛に笑っていた。
「おいおい、もう体力切れか?さっきより軽いじゃねぇか」
――ディーンの強さを支えているのは、その特性『血狂い』。
その片鱗である『殺害する毎に、倒す毎に強化される』と言う面が、最初の警備兵三人が斬られた後、犬が大量に斬殺された事で、余す事無く発揮されていたのだった。
「ならもう一度!」
腰の布で、ディーンの首を狙い巻きつけようとするシルフェ。
「甘ぇよ!」
然し今度、それが直撃したのは――ディーンではなく、彼に引っ張られたアニス。
「このまま延々と傷を癒されてもめんどくせぇ――!」
銀刃による無数の突きが、布に巻きつけられられたアニスに突き立てられる。
●第二陣
次の者たち――リューとメイ=ロザリンド(ka3394)が到着したのは、丁度、シルフェが闇の中に倒れ込んだ瞬間。
「今日はほんとに運がいい。次々と相手が来るとは……なぁ!」
確認の隙も与えぬ強襲。それをリューは、盾で受け止める。
重い一撃。然し受けられぬほどではない。強引に盾を持つ手に力を入れ、敵を押し退ける。
その後ろから、放たれる光弾。メイのホーリーライトが、正面からディーンの顔を直撃する。
「ったぁ、そういう戦法か……面倒くせぇ――!」
操るは黒刃。無数のそれが、盾をすり抜け、防御を重視していたリューの動きを止める。そして、ディーンは、そのままメイの方へと向かう。
「っち――」
メイを援護すべく腰の銃に手を伸ばすリュー。その間に、ディーンの刃はメイの首元に迫っていた。
何とか、急所だけははずす。
「貴方は『斬る』。私は言葉を、唄を、紡ぐ。例え貴方が何度も斬ろうとしても、私は何度でも紡ぎ……戦いますっ」
覚醒と共に、戻った『声』。それによって紡がれる光の魔力が、彼女自身の傷を癒す。
「むう……っ!」
刃を伸ばし、『鬼哭』で彼女の動きを止めようとしたディーン。然し、そこには、ショールが巻きついていた。先ほどシルフェを斬った際に、巻かれたものだろうか。
刃を伸ばすことによってショールを切断するが、その一瞬の遅れが、メイに彼の意図を気づかせる結果となる。
より一層、音量を上げ。歌で、鬼哭の効果の一部を相殺する。
然し、その歌声は。突如として停止する事になる。
「――うぜぇんだよ」
リューのシールドタックルによって地に押し倒されながらも、操られた黒刃が、メイの喉元に突き刺さったのであった。
命に別状はないが、歌声が止まる。鬼哭を再度発動するディーン。僅かにリューの動きが鈍った隙に、盾の下から抜け出し、メイへと接近する。
回避しようとするが、鬼哭はメイにもその影響を及ぼしている。鈴音による相殺に切り替えるが、音量に差がある。その間に、ディーンは、メイの目の前に肉薄していた。
――一閃。
●合流
最初に駆けつけたシルフェたちの班とは違い、エリシャとロルたちの班と、リューたちの班の現場からの距離は、それほど違いは無い。
リューの戦術が防御寄り――時間稼ぎに向いていたのもあり、メイが倒された直後に、彼らはリューの元へと駆けつけていたのであった。
「っだぁ、こりゃまたひでぇ事になってるな」
周りに横たわる仲間たちと、屍になった動物と警備兵を見回す。
「そう熱い視線をくれんな。今ラブレター返してやっからよ」
「さっさとしろよ、でねぇと俺は待ちきれねぇんだよ」
ロルに向かって駆け出そうとしたディーンの前に、然し彼以上の速度で一つの影が出現する。
「殺人鬼?腹立たしいことにこちとら解体屋(ブッチャー)呼ばわりよ」
振動刀の強烈な一撃が、腕に叩き付けられる。刃に阻まれはしたが、その強烈な振動は刃を伝わって腕にダメージを与えたようで、ディーンが痺れを払うように腕をぶんぶんと振るう。
「おっと」
怯まずに刃を伸ばしたディーンの一撃を、華麗なステップでかわすエリシャ。彼女の敏捷さは、ハンターの中でも有数。並みの攻撃ならば当てられまい。
三対一。敏捷に優れるエリシャと防御に優れるリューが前衛を張り、ロルが後方から狙撃する。理に適った布陣だ。
「へっ……!」
だが、狂人は後退しようとはしなかった。
「きっつい一発って言われてたかんな。しっかり狙って――!」
パン。銃弾は、猛烈な勢いでディーンの傍へと迫る。
「ちっ――」
咄嗟に、ディーンは体を滑らせ、エリシャを射線上に入れると共に、その背後へと手を伸ばす。鬼哭によって動きは僅かに鈍っている。振動刀の騒音にてある程度低減させたが、無効化には至らない。
「おっとさせねぇぜ!」
パン。もう一発射出された牽制弾が、その手を弾く。
「おもしれぇ……けどなぁ!!」
リアクションにリアクションで対抗する。そのロルの発想は、間違いではない。
だが、それは即ち、ディーンもまた――『更にリアクション』する事が可能と言う事であった。
強引に逆の手でエリシャの背後から彼女を掴み、弾道に押し込む。ロルもまた応射するが、元々牽制射撃とは『回避を妨げる』ための技。回避ではなく『共に喰らおう』と言う『借刀殺』には、成功率は下がる。
「くっ……」
加護の乗ったロルの一撃は、軽い物ではない。ディーンにも相応のダメージを与えたものの、元々防御には長けないエリシャの体力は一気に低下していた。
速度を維持するために、自己回復の技を放棄したのも響いていた。アニスかメイがいれば彼女を回復させる事も出来ただろうが――
ここでもう一発当たるわけには行かない。振るわれる銀刃を、エリシャは横に動いて回避する。
「先ずはてめぇだ――!」
だが、ディーンの本当の狙いは彼女ではない。
黒刃が、盾をすり抜け、リューの動きを止める。続く攻撃を予測し、盾を突きつけるように前に突き出し、そのまま逆手の振動刀一閃。
刃はディーンの二の腕を切り裂き、確かな手応えを伝える。
「いてぇな……!」
然し、動けない彼の後ろに、ディーンは一撃を受ける代わりに回り込んでいた。
盾を後ろに向けようにも、身動きの取れない状態では時間が掛かる。
銀刃が、突き刺さる。
●決着
ロルに急接近するディーン。その後ろを追うエリシャ。が、多少なりとも鬼哭の影響を受けた状態では、速度には違いが出る。
応射するロルだが、慌てたのか。その弾道は大きくディーンを逸れる。
「なーにやってんだよ!」
嘲笑いながら、銀刃が防御策を講じなかったロルの脇腹を抉る。
ドン。
「っ!?」
「受け取れよ! オレの脳天ラブレターだ、遠慮すんな!」
弾丸が、ディーンの背後に突き刺さる。
エリシャはまだ遠い。彼女が撃った物ではなさそうだ。では誰が?
「ビリヤードは好きか? 今夜から大嫌いになるぜ…なーんっつってな」
跳弾。付近の家屋に反射させ、精密に計算された一撃が、背後からディーンを打ち抜いたのであった。
「って、まだくんのか!?」
血に狂った状況ならば、このトリックに気づくまい。そう考えたロルの推測は正解だった。
だが、それには続きがある。
――『ここまで血に狂って強化されたディーンならば、この程度の攻撃では何も感じない』と言う可能性だった。
降り注ぐ黒刃が、回避を封じる。
追いすがるエリシャの刃の前に、ディーンはロルを押し出す。
「っ――」
ロルの防御力は薄いわけではない。だが、エリシャの攻撃力はそれを上回っていた。
――かくして、状況はエリシャとディーンのタイマンとなる。
お互い、決め手に欠く状況。エリシャの速度は確かにほぼ、攻撃が当たらない程素早い。
だが、多くの者の血を浴び、これ以上無い程に強化されたディーンの速度も、また同様。
人の目に視認できる域を超えた交戦は。然し、『幻刃』――黒刃によるフェイントを用い得たディーンが優勢であった。
――若しも警備兵を不要と断じ、部屋内に隠蔽させていたならば。
動物たちを使用しなかったならば。
合流してから纏まって向かっていたならば。
ディーンの強化の度合いは低下し、或いは状況は変わっていたかもしれない。
ドン。
「っ!?」
手甲に変形させた銀刃で振動刀を強引に掴み、逆の拳がエリシャの腹部に叩き込まれる。振りぬかれる振動刀は空を切り、背後に忍び寄ったディーンが、その刃を突き立てる。
「ったぁ、やるもんだぜ。 ……アレクサンドルの出した仕事も、捨てたもんじゃねぇな」
自らの傷口を撫でるディーン。借刀殺はダメージの一部を分散させるだけであり、完全に彼自身は無傷と言う訳ではない。ましてや、直撃も多く入っていたのである。
満足げな笑みを浮かべ、殺人鬼は夜の闇に溶け込んだ。
後に、この一戦で殺害された動物たちは、村人によって丁重に葬られ。新たな動物たちが、村人全員生存の感謝の印として、ハンターたちに贈呈される事となる。
「……予定通り終わったようね」
黄昏時。周囲に仕掛けられた、黒塗りのワイヤーを見て、エリシャ・カンナヴィ(ka0140)がほっと一息つく。
「知らせてきたぜー。死にたくねぇなら夜に外には出るな ってな」
lol U mad ?(ka3514)――ロルもまた、『仕込み』完了を、ハンターたちに報せる。
敵の正体が『不明』である以上、戦闘は先ず『何が』警備兵たちを殺したのか。その現場を突き止める事から始まる。
「死体は調べておいた。……鋭利な刃物での攻撃――むごいもんだ」
「反撃も逃走の隙もなくやられてました。……相当の威力とスピードだと思います」
遺族の許可を得て、死体を調査していたリュー・グランフェスト(ka2419)とアニス・エリダヌス(ka2491)。
「そう……なら、尚更単独行動は危険ね。予定通り二人ペアで行動するわよ。……貴方達も、行動する際は三人で動いてね」
エリシャのその言葉は、警備兵たちに向けられた物。
――かくして、集落に夜の帳が下りる。
調査の合間に十分な休憩を取ったハンターと警備兵たちが、集落の各所を見回り始める。この時の彼らには、まだ知る由はない。
――黒い殺人鬼が、再度闇に紛れ、襲来していた事を。
●突き出される刃
「おい……油断するなよ。前のやつら見たいになりたくなけりゃな」
大あくびをした兵士の一人を、別の兵士が咎める。
時は夜中、三時頃。いくら休憩を取ったとは言え、習慣はそう簡単に変更できる物でもない。多少の眠気は避けられない。
「大丈夫だよ。昼間仕掛けられてるのを見ただろ?何かが動けば、鳴るはずさ」
そう言った兵士が見たのは、周りのワイヤーにくくりつけられた鈴。
――チリーン。
その瞬間、鈴のなる音。
「……おい、嘘だよな? いたずらするなよ」
「誰もしてねぇよ……!気をつけ――」
彼が最後まで言葉を紡ぐ事はない。
次の瞬間、彼の視界には、彼自身の首のない体が写っていたのだから。
「こ、この――!」
振り回される斧槍。仲間を黒い影が斬殺したその機に乗じて、兵士の一人は黒い影に仕掛ける。
ザン。斧槍は、黒い影の背中に食い込む。
「へ、へへっ、ざまぁ――」
「おいやめろ!!」
「あ!?」
空を舞っていた黒い刃が、斧槍を振るった兵士の足に突き刺さる。
「なかなかいい一撃だったぜ。――お返しだ」
腕から突き出した銀の刃が、彼の心臓に突き刺さり、その命脈を絶つ。
「――っ、もう少し時間を稼げば――!」
きっと、今の鈴の音を聞いて、ハンターたちが応援に来てくれるはず。
そう考えた兵士の逃げ道を阻んだのは、然し仕掛けられたワイヤー。
躓いて、倒れる。
丈夫に作られた、そのワイヤーたちは――鈴を鳴らし敵の場所を報せると同時に、一般人程度の身体能力である警備兵の逃げ道をも――阻んでいたのであった。
●第一の到着者
「近くみたいですね。行きましょう」
アニスの言葉に、彼女とペアを組んだシルフェ・アルタイル(ka0143)が頷く。
――空気中に漂う血の匂いに反応したのか唸る犬を、シルフェは優しく宥める。
「……ったく、待たせやがって」
黒い影。空に浮かぶ無数の黒の刃。腕から伸びる、二本の銀刀。
「みっけ♪シルと踊りましょ」
アニスのランタンが敵の姿を照らし出した瞬間。シルフェの脳裏で、過去に報告書で読んだ事のあるとある歪虚のイメージと、目の前の敵が重なる。
先手のナイフ投擲と共に、踊るように四方八方にフェイントをかけ、無数の棍影が歪虚――ディーン・キルを襲う。
「へへへ、いいぜ、燃えてきたぜぇ!」
それを、まるで何も感じないかのように、その身で受けるディーン。
関節への連撃も、彼の動きを鈍らせるには至らない。
パァン。響く銃声。
それは、アニスが放った、仲間たちへの合図。交戦開始――と。
その銃声をディーンは気にする事はなく、空に浮かぶ無数の黒刃を操り、シルフェを襲う。
「シル、知ってるよ。黒いのが偽物で、銀のが本物でしょ?」
襲ってくるのは黒。然し――彼女が『偽物』と断じたその黒刃は、彼女の足を貫き、地に縫い付けていた。
「なーにを訳わかんねぇ事言ってんだよ!」
――『殺刃』『幻刃』を厄介な技にしている原因は、この二つの技が『同じように見える黒刃』によって『同じモーションで』放たれる事にある。空に浮かぶのは、黒刃のみなのだ。
銀刃とは――動けないシルフェに向かって、突き出された『腕の刃』。過去の報告書の読み間違い。それが致命的な危機を招いたのである。
「これで――!」
聖なる光がディーンの視界を覆う。そのせいか、僅かに刃の切っ先はずれ、急所には刺さらず。シルフェは運よく致命傷を回避する。その機に、黒い刃を引き抜き、脱出する。
「面白いことしてくれるじゃねぇか……!」
今の一撃で、どうやらディーンの興味は、光を放ったアニスに移ったようだ。猛然と迫り、その銀刃が胴に向かい薙がれる。
「あなただけは、倒さないと――!」
かつての思い人と同じ名を持った歪虚。それを野放しにし、罪を犯させる事は、思い人の思い出を汚されるような感じがしたから。
敢えてアニスは回避せず、一閃を受け止める。
(「お願いだから、無茶しないでね。せっかくできた友達、いなくなっちゃうなんて嫌よ」)
誰かの祈りが、彼女に加護を与え、刃を受け止め衝撃を軽減する。
即座に、彼女は自身へ回復の光を付与し、傷を癒す。
(「このまま時間を稼いで、皆が来るまで――!」)
「いじめちゃえ~」
甲高い口笛の音。動物を友とするシルフェが、昼間の内に仲良くなっていた犬たちを呼び寄せる。
それらを彼女は、一斉にディーンに嗾ける。
「――うぜぇ」
銀刃、そして空舞う黒刃の連閃が、次々と犬たちを、肉片と化していく。
「今です!」
肉片の雨に紛れ、アニスの放つ光が、再度僅かにディーンの視界を遮った隙に。跳躍、急降下したシルフェの棍が、ディーンの脳天を狙う。
ゴン。鈍い音。
垂れる一筋の血。その下のディーンの表情は、獰猛に笑っていた。
「おいおい、もう体力切れか?さっきより軽いじゃねぇか」
――ディーンの強さを支えているのは、その特性『血狂い』。
その片鱗である『殺害する毎に、倒す毎に強化される』と言う面が、最初の警備兵三人が斬られた後、犬が大量に斬殺された事で、余す事無く発揮されていたのだった。
「ならもう一度!」
腰の布で、ディーンの首を狙い巻きつけようとするシルフェ。
「甘ぇよ!」
然し今度、それが直撃したのは――ディーンではなく、彼に引っ張られたアニス。
「このまま延々と傷を癒されてもめんどくせぇ――!」
銀刃による無数の突きが、布に巻きつけられられたアニスに突き立てられる。
●第二陣
次の者たち――リューとメイ=ロザリンド(ka3394)が到着したのは、丁度、シルフェが闇の中に倒れ込んだ瞬間。
「今日はほんとに運がいい。次々と相手が来るとは……なぁ!」
確認の隙も与えぬ強襲。それをリューは、盾で受け止める。
重い一撃。然し受けられぬほどではない。強引に盾を持つ手に力を入れ、敵を押し退ける。
その後ろから、放たれる光弾。メイのホーリーライトが、正面からディーンの顔を直撃する。
「ったぁ、そういう戦法か……面倒くせぇ――!」
操るは黒刃。無数のそれが、盾をすり抜け、防御を重視していたリューの動きを止める。そして、ディーンは、そのままメイの方へと向かう。
「っち――」
メイを援護すべく腰の銃に手を伸ばすリュー。その間に、ディーンの刃はメイの首元に迫っていた。
何とか、急所だけははずす。
「貴方は『斬る』。私は言葉を、唄を、紡ぐ。例え貴方が何度も斬ろうとしても、私は何度でも紡ぎ……戦いますっ」
覚醒と共に、戻った『声』。それによって紡がれる光の魔力が、彼女自身の傷を癒す。
「むう……っ!」
刃を伸ばし、『鬼哭』で彼女の動きを止めようとしたディーン。然し、そこには、ショールが巻きついていた。先ほどシルフェを斬った際に、巻かれたものだろうか。
刃を伸ばすことによってショールを切断するが、その一瞬の遅れが、メイに彼の意図を気づかせる結果となる。
より一層、音量を上げ。歌で、鬼哭の効果の一部を相殺する。
然し、その歌声は。突如として停止する事になる。
「――うぜぇんだよ」
リューのシールドタックルによって地に押し倒されながらも、操られた黒刃が、メイの喉元に突き刺さったのであった。
命に別状はないが、歌声が止まる。鬼哭を再度発動するディーン。僅かにリューの動きが鈍った隙に、盾の下から抜け出し、メイへと接近する。
回避しようとするが、鬼哭はメイにもその影響を及ぼしている。鈴音による相殺に切り替えるが、音量に差がある。その間に、ディーンは、メイの目の前に肉薄していた。
――一閃。
●合流
最初に駆けつけたシルフェたちの班とは違い、エリシャとロルたちの班と、リューたちの班の現場からの距離は、それほど違いは無い。
リューの戦術が防御寄り――時間稼ぎに向いていたのもあり、メイが倒された直後に、彼らはリューの元へと駆けつけていたのであった。
「っだぁ、こりゃまたひでぇ事になってるな」
周りに横たわる仲間たちと、屍になった動物と警備兵を見回す。
「そう熱い視線をくれんな。今ラブレター返してやっからよ」
「さっさとしろよ、でねぇと俺は待ちきれねぇんだよ」
ロルに向かって駆け出そうとしたディーンの前に、然し彼以上の速度で一つの影が出現する。
「殺人鬼?腹立たしいことにこちとら解体屋(ブッチャー)呼ばわりよ」
振動刀の強烈な一撃が、腕に叩き付けられる。刃に阻まれはしたが、その強烈な振動は刃を伝わって腕にダメージを与えたようで、ディーンが痺れを払うように腕をぶんぶんと振るう。
「おっと」
怯まずに刃を伸ばしたディーンの一撃を、華麗なステップでかわすエリシャ。彼女の敏捷さは、ハンターの中でも有数。並みの攻撃ならば当てられまい。
三対一。敏捷に優れるエリシャと防御に優れるリューが前衛を張り、ロルが後方から狙撃する。理に適った布陣だ。
「へっ……!」
だが、狂人は後退しようとはしなかった。
「きっつい一発って言われてたかんな。しっかり狙って――!」
パン。銃弾は、猛烈な勢いでディーンの傍へと迫る。
「ちっ――」
咄嗟に、ディーンは体を滑らせ、エリシャを射線上に入れると共に、その背後へと手を伸ばす。鬼哭によって動きは僅かに鈍っている。振動刀の騒音にてある程度低減させたが、無効化には至らない。
「おっとさせねぇぜ!」
パン。もう一発射出された牽制弾が、その手を弾く。
「おもしれぇ……けどなぁ!!」
リアクションにリアクションで対抗する。そのロルの発想は、間違いではない。
だが、それは即ち、ディーンもまた――『更にリアクション』する事が可能と言う事であった。
強引に逆の手でエリシャの背後から彼女を掴み、弾道に押し込む。ロルもまた応射するが、元々牽制射撃とは『回避を妨げる』ための技。回避ではなく『共に喰らおう』と言う『借刀殺』には、成功率は下がる。
「くっ……」
加護の乗ったロルの一撃は、軽い物ではない。ディーンにも相応のダメージを与えたものの、元々防御には長けないエリシャの体力は一気に低下していた。
速度を維持するために、自己回復の技を放棄したのも響いていた。アニスかメイがいれば彼女を回復させる事も出来ただろうが――
ここでもう一発当たるわけには行かない。振るわれる銀刃を、エリシャは横に動いて回避する。
「先ずはてめぇだ――!」
だが、ディーンの本当の狙いは彼女ではない。
黒刃が、盾をすり抜け、リューの動きを止める。続く攻撃を予測し、盾を突きつけるように前に突き出し、そのまま逆手の振動刀一閃。
刃はディーンの二の腕を切り裂き、確かな手応えを伝える。
「いてぇな……!」
然し、動けない彼の後ろに、ディーンは一撃を受ける代わりに回り込んでいた。
盾を後ろに向けようにも、身動きの取れない状態では時間が掛かる。
銀刃が、突き刺さる。
●決着
ロルに急接近するディーン。その後ろを追うエリシャ。が、多少なりとも鬼哭の影響を受けた状態では、速度には違いが出る。
応射するロルだが、慌てたのか。その弾道は大きくディーンを逸れる。
「なーにやってんだよ!」
嘲笑いながら、銀刃が防御策を講じなかったロルの脇腹を抉る。
ドン。
「っ!?」
「受け取れよ! オレの脳天ラブレターだ、遠慮すんな!」
弾丸が、ディーンの背後に突き刺さる。
エリシャはまだ遠い。彼女が撃った物ではなさそうだ。では誰が?
「ビリヤードは好きか? 今夜から大嫌いになるぜ…なーんっつってな」
跳弾。付近の家屋に反射させ、精密に計算された一撃が、背後からディーンを打ち抜いたのであった。
「って、まだくんのか!?」
血に狂った状況ならば、このトリックに気づくまい。そう考えたロルの推測は正解だった。
だが、それには続きがある。
――『ここまで血に狂って強化されたディーンならば、この程度の攻撃では何も感じない』と言う可能性だった。
降り注ぐ黒刃が、回避を封じる。
追いすがるエリシャの刃の前に、ディーンはロルを押し出す。
「っ――」
ロルの防御力は薄いわけではない。だが、エリシャの攻撃力はそれを上回っていた。
――かくして、状況はエリシャとディーンのタイマンとなる。
お互い、決め手に欠く状況。エリシャの速度は確かにほぼ、攻撃が当たらない程素早い。
だが、多くの者の血を浴び、これ以上無い程に強化されたディーンの速度も、また同様。
人の目に視認できる域を超えた交戦は。然し、『幻刃』――黒刃によるフェイントを用い得たディーンが優勢であった。
――若しも警備兵を不要と断じ、部屋内に隠蔽させていたならば。
動物たちを使用しなかったならば。
合流してから纏まって向かっていたならば。
ディーンの強化の度合いは低下し、或いは状況は変わっていたかもしれない。
ドン。
「っ!?」
手甲に変形させた銀刃で振動刀を強引に掴み、逆の拳がエリシャの腹部に叩き込まれる。振りぬかれる振動刀は空を切り、背後に忍び寄ったディーンが、その刃を突き立てる。
「ったぁ、やるもんだぜ。 ……アレクサンドルの出した仕事も、捨てたもんじゃねぇな」
自らの傷口を撫でるディーン。借刀殺はダメージの一部を分散させるだけであり、完全に彼自身は無傷と言う訳ではない。ましてや、直撃も多く入っていたのである。
満足げな笑みを浮かべ、殺人鬼は夜の闇に溶け込んだ。
後に、この一戦で殺害された動物たちは、村人によって丁重に葬られ。新たな動物たちが、村人全員生存の感謝の印として、ハンターたちに贈呈される事となる。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/20 22:07:40 |
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相談卓 ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/02/26 21:26:51 |