ゲスト
(ka0000)
【不動】戦場―暗雲を穿て!
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/26 22:00
- 完成日
- 2015/03/06 06:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
かつては僕も。その想いを『希望』と呼んでいたのだろう。
……ああもあっけなくも砕かれた、そのときまでは。
●
……ナナミ川防衛ラインでの戦いは、間もなく一つの分岐点を迎えるだろう。
身を伏せ、息を潜めながら少年はその様子を、そのときを伺っていた。
開拓地ホープ。CAM実験場。その行く末を決める戦い。
開拓地。
蹂躙する歪虚。
己が抱える傷跡との符合に、舌打ちでもしてやりたい気分になるが、今はその小さな物音すらはばかられる。
……かつて火星を開拓しようと星の海を進んだ蒼の世界の人類――少年の父親もそこに含まれる――は、ただそこに現れた歪虚たちに、その夢もろとも打ち砕かれた。
奴らがそうした目的など分からない。それこそ、ただそこに在ったから、邪魔な石ころを蹴飛ばすくらいの。そんな程度のことだったのかもしれない。
今回、新たに『希望』の名の下に拓かれた地に向かってくる奴らも、もしかして。
――だからといって、重ね合わせてなどやるものか。
声には出さぬよう、少年は心の中でそう呟く。
今少年が居る位置とは大分後方に位置する開拓地。自分がしている戦いは、それを守るためのものではない。
守りたいのはあくまで、CAM実験と、それを行う大義名分。
それから……当たり前のように人類を蹂躙して憚らないとする歪虚どもに一泡吹かせること。
絶望で塗りつぶそうとする敵に抗うのは希望だろうか? ――否。そんな単純じゃない。
真正面から受けとめ正々堂々と弾き返す、そんな奇麗ごとだけで世界が成り立つとはもう、思えない。
だから……少年が選んだのはこの戦場で、この作戦だった。
大目的を確認したところで、改めて目前の仕事を見据える。
タイミングは、敵がナナミ川の防衛ラインを突破しCAM実験場前への進軍を再度開始したその時。
次の防衛ラインとぶつかるその前に、少人数で奇襲作戦を実行し敵陣を乱し、開戦を優位にする。
……行動は迅速に。少人数ゆえに、敵が陣形を建て直し包囲されたら一巻の終わりだ。
求められるのはなぎ払う大太刀の斬撃ではなく猛毒となる蜂の一刺し。
狙うべき敵は?
前線の要となる屈強な巨人を不意をつける隙に脆い場所を叩くか。
飛び道具を使う敵を倒せれば遠戦から優位を決められるか。
雑な進軍だが、それでも分隊を取りまとめる役割の眷族は居る。あれを倒せれば、混乱は大きそうなものだが……。
……欲をかけば、蜂の針は命を代償とした一刺しになるだろう。かといって、浅い攻撃では、かえって敵の警戒を強め状況を悪化させる。
自らが出来ることは何か。
自らがすべきことは何か。
自らがしたいことは何か。
これはそれを――見極める戦い。
……守りつもりなんてない。思い入れなんてない。だから自分は、冷静で居られるはず。
少年はそう己に言い聞かせて、集う味方と共に突撃のときを待つ。
……ああもあっけなくも砕かれた、そのときまでは。
●
……ナナミ川防衛ラインでの戦いは、間もなく一つの分岐点を迎えるだろう。
身を伏せ、息を潜めながら少年はその様子を、そのときを伺っていた。
開拓地ホープ。CAM実験場。その行く末を決める戦い。
開拓地。
蹂躙する歪虚。
己が抱える傷跡との符合に、舌打ちでもしてやりたい気分になるが、今はその小さな物音すらはばかられる。
……かつて火星を開拓しようと星の海を進んだ蒼の世界の人類――少年の父親もそこに含まれる――は、ただそこに現れた歪虚たちに、その夢もろとも打ち砕かれた。
奴らがそうした目的など分からない。それこそ、ただそこに在ったから、邪魔な石ころを蹴飛ばすくらいの。そんな程度のことだったのかもしれない。
今回、新たに『希望』の名の下に拓かれた地に向かってくる奴らも、もしかして。
――だからといって、重ね合わせてなどやるものか。
声には出さぬよう、少年は心の中でそう呟く。
今少年が居る位置とは大分後方に位置する開拓地。自分がしている戦いは、それを守るためのものではない。
守りたいのはあくまで、CAM実験と、それを行う大義名分。
それから……当たり前のように人類を蹂躙して憚らないとする歪虚どもに一泡吹かせること。
絶望で塗りつぶそうとする敵に抗うのは希望だろうか? ――否。そんな単純じゃない。
真正面から受けとめ正々堂々と弾き返す、そんな奇麗ごとだけで世界が成り立つとはもう、思えない。
だから……少年が選んだのはこの戦場で、この作戦だった。
大目的を確認したところで、改めて目前の仕事を見据える。
タイミングは、敵がナナミ川の防衛ラインを突破しCAM実験場前への進軍を再度開始したその時。
次の防衛ラインとぶつかるその前に、少人数で奇襲作戦を実行し敵陣を乱し、開戦を優位にする。
……行動は迅速に。少人数ゆえに、敵が陣形を建て直し包囲されたら一巻の終わりだ。
求められるのはなぎ払う大太刀の斬撃ではなく猛毒となる蜂の一刺し。
狙うべき敵は?
前線の要となる屈強な巨人を不意をつける隙に脆い場所を叩くか。
飛び道具を使う敵を倒せれば遠戦から優位を決められるか。
雑な進軍だが、それでも分隊を取りまとめる役割の眷族は居る。あれを倒せれば、混乱は大きそうなものだが……。
……欲をかけば、蜂の針は命を代償とした一刺しになるだろう。かといって、浅い攻撃では、かえって敵の警戒を強め状況を悪化させる。
自らが出来ることは何か。
自らがすべきことは何か。
自らがしたいことは何か。
これはそれを――見極める戦い。
……守りつもりなんてない。思い入れなんてない。だから自分は、冷静で居られるはず。
少年はそう己に言い聞かせて、集う味方と共に突撃のときを待つ。
リプレイ本文
黒々とした塊が、川の向こうからやってくる。
ぼんやりとした輪郭に過ぎなかったそれが、少しずつ、敵の姿を模っていく。
奇襲作戦を任命された一行は、近づいてくるその姿を息を潜めながら穴が開くほど見つめていた。
いや。
穴は、開けるのだ。これから。
辺境の地に染み広がり始める、敵の軍勢。絶望をもたらす暗雲。
「奇襲ですか、アレだけの数を相手に、この戦力でなんて……デカイのばっかりなら骨は断てそうにないか、なら肉を斬ればいいか、さてうまくいくかな」
半ば祈るかのように、ライガ・ミナト(ka2153)が呟く。
眼前の大群に対し、今この場に居る人員は7名。確かに普通に考えて、無謀すぎる突撃だった。
……単純な勝利を目的とするならば。
「往こうか……奴らに、楔を穿つ」
湧き上がる不安を、恐怖を拭うように、低く、だが確りとした声で応えるのはオウカ・レンヴォルト(ka0301)。
暗雲を――今ここで、振り払う必要は、ない。
ただ一度、ただ一箇所、穿つことが出来れば。
希望の輝きを、一瞬でも垣間見せることが出来れば。
その目的を確かめるように、オウカの言葉に各々が頷くと。それが、合図となった。
隠れ潜んでいた陰から、意を決し、一行は奇襲を仕掛けるべく飛び出していく!
初めに動きを見せたのはイレーナ(ka0188)。
敵陣向かって駆ける一行、その中で唯一彼女が、まだ距離のあるそのうちに手綱を引き馬を止める。
変わらず前を行く皆の背中を見やりながら、彼女はその位置――まだ不意に飛び出してきた一行をどれほどが認識しているかも怪しい敵軍、それを射程に捕らえたギリギリの位置でスリープクラウドを発動させる!
進軍をする大集団、しかも全体が十分な知恵を保有するわけではないその一行に対しこの不意打ちは絶大な効果をもたらした。
意志の弱い獣、虫、知能の低い巨人たちが真っ先に昏倒し、眠らずとも咄嗟に動きを止められなかった別の敵がそれに脚を取られて躓く。蹴飛ばしたほうも蹴飛ばされたほうも互いに文句を言い合い、敵進軍、隊列はこれで一気に乱れた。
イレーナは己の術がもたらした効果を確認し、ひとまず満足すると、そのまま、その位置で待つ。あえて彼女自身は積極的に攻め入ることをせず、敵動向を監視する役割を己に課す。
「皆に武運を……と、祈りましょう……」
彼女の祈りに応じるように、敵陣に向けて真っ先に切り込んでいくのはケイジ・フィーリ(ka1199)だった。
混乱し、今は足並みを乱し連携もあったもんではない敵陣だが、それでも圧倒的多数、図体もでかいといった手合いに向けて突っ込んでいくのはかなりの勇気がいることだろう。
それでもケイジに迷う様子はない。その心は、開拓地も、CAM実験場も守るんだと気合十分。そして――
「背中は任せた!」
やはり、一片の疑いも見せずに放たれる信頼の言葉。
ケイジに続き動きを見せた孫 楽偉は、同じくらいの年端の少年が放つ純粋さに、まぶしいものでも見るかのように一瞬目を細める。
ケイジがまず標的としたのはイレーナのスリープクラウドで倒れなかった敵。オートマチックピストルで牽制しながら前進、更に敵陣に踏み込むべく前に出る。
孫も、与えられた役割には特に不平を見せる様子もなく、猟銃でケイジにひきつけられて前に出る敵を狙い撃ちその動きを援護する。
「……まあ、やれるだけのことは、やります、けどね」
どこかわざとらしく孫は呟いた。ケイジは孫に、二つ頼み事をしている。最初に敵陣を切り開く役割に孫も回ってほしいということ。それから、猟撃士ならば後衛として、敵陣の動きを良く見て欲しい、と。
不満はなかった。実際、自分に出来ること、やるべきことは、この面子と己の能力を考えればそんなところだろうと。だから彼は与えられた役割を淡々とこなそうとした。信じなければ同じ戦場には立てない。それだけのことだと言い聞かせるように、仏頂面を形作って。
そんな孫の顔は見えていないだろう、ケイジは向かってくる敵に向けて、迎撃するように刃を振るう。突き出された亜人の拳にケイジの刃がぶつかり、敵が痛みにのたうつ。
「悪いけど、急いでるんだよな!」
利き手にダメージを与え大幅に戦力を削いだと思われるそれを、ケイジは無視するように迂回して他の敵に回る。
倒すのが目的ではない、この状況ならば、倒すよりも無力化を狙うほうが早くいく可能性がある。そう目論み、ケイジは腕や脚、目を狙っての攻撃を試みる。
とはいえ、相手は巨体だ。混乱の中であれば腕や脚を切りつけるのはそこまで不可能ではないが、只でさえ小さい標的である目が高い位置にあるのを狙うのは上手くは行かなかった。
それでも、最初の混乱から立て直す隙を与えず飛び込んだケイジと孫の攻撃は、場を更にかき回すには十分だった。
スリープクラウドに倒れ、倒れた味方に脚を取られ、そこに現れた乱入者に怒りのまま飛び出してきた敵陣営は、一部の密度が極端にスカスカになる。
そんな中、奇襲部隊の皆が目を凝らし探すものは一つ。目的を一つにして探す複数の目が向かう先が一致して――確信を持ったミリア・コーネリウス(ka1287)が手綱を叩き、一気に走り抜ける!
右往左往する有象無象どもには目もくれず、隙間だらけとなった敵陣をこの機を逃すまいと走りぬけ……それでも、一瞬の後に立ち直り、ミリアに攻撃せんとする敵には、彼女と同時に馬を走らせた清柳寺 月羽(ka3121)が対応する。
「大きくなるだろう戦いだろうからね。序盤だろうと気合入れてくか」
景気づけに思いを言葉にすると、ミリアに狙いをつけた敵を更に背後から拳銃で狙い打ち、己に近寄る敵には日本刀で迎え討つ。
そうして――
『ああうぜぇ! なんなんだこれ! おまえら勝手に暴れるなっつーの!』
敵陣の中、苛立たしげに声をあげ周囲に向かって手を振るオーガ。
皆の目指すところは一つだった。この最前線の、ひとまずの指揮官となる敵を討つ。そのために敵陣をこじ開ける役割を果たしたのが、イレーナ、ケイジ、清柳寺、孫。
そして、切り拓かれた道を往き、司令官を討たんとするのが……――
「さて、刺し違えてもいいなら方法は幾らか、リスクを考えたら絞られるか、通じなかったら僕の剣もまだまだ、だったってことで行きましょうか、死ぬも生きるも己の腕次第」
ライガが呟きながら駆ける、その横をオウカが並走し、その前を行く馬に乗って駆けるミリアが、標的としたオーガに肉薄する。
ミリアが戦斧を振り上げる。考えることはただ一つ。己に出来る最大の、渾身の一撃を叩き込むこと。
攻め込むことに特化した構えから、注ぎ込めるマテリアルを全てつぎ込んだ一撃を振りかぶり。
――また一緒に、焼肉しましょう。
ふと聞こえてきた気がするのはそんな声だった。
こんなときに?
ふっと口元が緩み、だが、ああ、そうだ、と思った。また皆とご飯を食べて、皆と笑うために戦うのだ、と。
己の体とは違うところから力が湧いてくるのを感じて――そして、その一撃は、狙いをつけたオーガに叩き込まれた。敵の身に着けた鎧がメリメリと音を立て、腹部にその一撃を刻む。
『がっ……あ、女ぁぁああ!?』
オーガが、驚愕と、どこか歓喜の入り混じった視線でミリアを見下ろす。
だが、それがミリアに向き直るよりも早く、オウカの機導砲がその顔を叩いた。
兜に阻まれ、オーガの巨体にはまだそれほど決定的なダメージとはなっていない。が、オウカの表情は冷静だった。
「斃せるとは思わん……が、盛大にかき回すくらいなら、俺にもできるんでな……!」
彼が呟くその直後。オーガの足元に一つの影が走る。
「いいねえ、人間相手だとはるかにリスクの高い技でも的がデカイと狙いやすいぜ」
声はライガのもの。ヘッドスライディングかのように低い姿勢から懐へと飛び込み、手にした刀で相手が体重を駆ける脚を切り払う。
……本当は、ミリアの攻撃よりも前に狙いたかったのだが、馬でもってまっしぐらに向かわれては先手を譲らざるをえなかった。
渾身の力で切りつけた刀から返って来たのは、敵の具足と分厚い筋肉の硬い手ごたえ。ノーダメージではないが、一気に深手、とはいかなかったようだ。
『……はっ』
どこかまだ余裕のある表情で、オーガはその巨体から、立ち向かう三人を睥睨する。
流石に、一筋縄でいく存在ではないようだ。一瞬考えてオーガは、とりあえずという風に、一番近く、足元にいるライガに向けて無造作に足を振る。
……巨体。だが決して、愚鈍、というわけではなかった。やや無理な姿勢で飛び込んだライガは、その攻撃に反応しきれず、丸太のような脚から繰り出される強烈な蹴りをその身で受け止めることになった。
その攻撃が届く寸前、光の障壁がライガの眼前に現れ、そしてオーガの一撃の前に砕け散る。その衝撃を、多少なりと殺しながら。
オウカの防御障壁。
「はっ……こりゃかたじけない」
「背中は任せろ……だから、背中をまかせた、ぞ」
苦笑気味にやり取りを交わすライガとオウカ。だが、ライガの声にあまり余裕はない。防御障壁が防いでなお、敵の攻撃力は脅威だった。
その攻撃が、ハンター達の初撃がこの敵に対しては十分な効果を発していないと証明している。
ミリアの背後で、砲撃の衝撃音がはじけた。ケイジの機導砲。別方面からの敵を、イレーナのウィンドスラッシュが叩く。
清柳寺もまた、まだ指揮官を狙う味方には近づけさせまいと、刀を振るい奮戦していた。
「奴らに教えてやらんとね。蜂は蜂でも雀蜂は一刺しで終わらんって事をなぁ!」
その、清柳寺の叫びにミリアは再び剣を構えなおす。まだいける。指揮官を引き付けたおかげで周囲の敵の混乱はまだ収まっておらず、バラバラに動く敵を後衛が抑えてくれている。まだ攻撃の機は残されているというのは、決して焦りからの希望的観測ではないはずだ。
ミリアが、ライガが、オウカが、それぞれに得物を構えなおし、再びの攻撃に入る。
オウカは、怯ませる目的で目元を銃撃する。
ライガは失血を狙うべく、脚の動脈に狙いを定める。
そしてミリアは、再び無心に己の渾身の一撃を炸裂させた。
――が。
『なんだぁ、女。最初の一撃はまぐれか?』
ミリアの斧を篭手で受け止め、答えるオーガの声音には失望が含まれていた。
他の二人には、一瞥だけで何も言わない。
相手の体制が整わないうちに放った初撃と比べ、こちらを認識し反応してからのハンターの攻撃は、明らかに十分な効果を発揮していなかった。
……三人が三人とも、攻撃の意図と箇所が分散しているのだ。
全員、修練を積んだ戦士ではあったが、強大な敵に立ち向かうにはその力は足し算ではなく掛け算としなければならなかった。
相手の意識を逸らす攻撃もその意図が味方に伝わっていなければきちんと次に繋ぐことはできず、渾身の一撃は絶好の機に放たれることがなければ十全にその威力を発揮しない。別々の箇所に与えられた浅い攻撃は、限られた時間の中で相手を崩すには深刻なダメージとはなってくれない。
そして、オーガも勿論、黙って殴られてはくれない。
横殴りの一撃がミリアを襲う。吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる――その衝撃が、誰かの面影と共にふわりと和らげられる。
――激しい戦いだけど生き残る事が重要。だから余計に防御には気を使わなくちゃ
友人の言葉を噛み締めながら立ち上がるその視線の先で、オウカが、ライガもまた反撃を受けていた。
……ライガへのダメージが、このままでは危険か。
背後にうごめく敵たちがまた、どさどさと倒れる気配がした。イレーナが状況を見て、再びスリープクラウドを放ってくれたのだ。
ケイジ、清柳寺、孫も、相変らず奮戦してくれている。だが。
……認めるしかなかった。ただ倒すならばともかく、味方が稼いでくれるその時の間には、目の前の敵は倒しきれない。
「……仲間は全員生かして返す、そうだよな親父」
血を吐くような思いで呟いて、ミリアはオウカを見る。……オウカも同じ結論だったのだろう。ライガの間に割り込むように、オーガの前に立ちはだかり。
「俺を背にしてライガと共に離れろ!」
叫び、防御に専念すべく全身に力を込める。
オーガとの戦いの中、ミリアは馬を逃がしていた。ライガに近寄り傷の状態を確かめ、まだ自力で動ける範囲と判断すると、かばうように共に走り出す。
撤収の意図が伝わると、支援に徹していたものたちも動く。ケイジ、清柳寺がまずオウカを逃がすべくオーガへと射撃を開始する。孫とイレーナが、退路を塞ぎ後衛へと迫る敵を牽制すべく射撃とウィンドスラッシュを連発する。
後衛が必死で作った隙間、そこに皆が駆け込んできたところで……イレーナが、温存していたスリープクラウドを再び放ち、そして各々は、必死でその場を離れた。
●
そうして。
ざわめく歪虚たちが、傷ついた指揮官へと視線を向ける。
『あー……いいか、面倒くせえ』
逃げるハンター達。だがオーガは、それを追ってこれ以上部隊の隊列が収拾つかなくなることを厭い、怠惰よろしく、やる気なさげに指示を出す。
『面倒くせえ……面倒くせえ……』
呟きながら、その手を、ミリアから最初に受けた一撃に添えていた。
……真っ直ぐに、殺しに来た一撃。
結果を見れば、短時間で敵を討つという目的には、彼らの中ではその一撃が一番、効果を発揮していた。
『だりぃなくそ……だからんなこと……やってられっかってんだ……』
倒すことは適わなかったとはいえ、この時点で、この指揮官は「ヤクシーの姐さんに義理が立つ程度に適当に戦ってバックれよう」と考えるようになる。再三のスリープクラウドでかき回された隊列を真面目に立て直す気も奪っていた。
彼ら自身の目標としては満点とはいかなかったかもしれない。
だが、「敵の初動を乱す」という、課せられた目的に対しては、ひとまず結果を出したことになる。
ぼんやりとした輪郭に過ぎなかったそれが、少しずつ、敵の姿を模っていく。
奇襲作戦を任命された一行は、近づいてくるその姿を息を潜めながら穴が開くほど見つめていた。
いや。
穴は、開けるのだ。これから。
辺境の地に染み広がり始める、敵の軍勢。絶望をもたらす暗雲。
「奇襲ですか、アレだけの数を相手に、この戦力でなんて……デカイのばっかりなら骨は断てそうにないか、なら肉を斬ればいいか、さてうまくいくかな」
半ば祈るかのように、ライガ・ミナト(ka2153)が呟く。
眼前の大群に対し、今この場に居る人員は7名。確かに普通に考えて、無謀すぎる突撃だった。
……単純な勝利を目的とするならば。
「往こうか……奴らに、楔を穿つ」
湧き上がる不安を、恐怖を拭うように、低く、だが確りとした声で応えるのはオウカ・レンヴォルト(ka0301)。
暗雲を――今ここで、振り払う必要は、ない。
ただ一度、ただ一箇所、穿つことが出来れば。
希望の輝きを、一瞬でも垣間見せることが出来れば。
その目的を確かめるように、オウカの言葉に各々が頷くと。それが、合図となった。
隠れ潜んでいた陰から、意を決し、一行は奇襲を仕掛けるべく飛び出していく!
初めに動きを見せたのはイレーナ(ka0188)。
敵陣向かって駆ける一行、その中で唯一彼女が、まだ距離のあるそのうちに手綱を引き馬を止める。
変わらず前を行く皆の背中を見やりながら、彼女はその位置――まだ不意に飛び出してきた一行をどれほどが認識しているかも怪しい敵軍、それを射程に捕らえたギリギリの位置でスリープクラウドを発動させる!
進軍をする大集団、しかも全体が十分な知恵を保有するわけではないその一行に対しこの不意打ちは絶大な効果をもたらした。
意志の弱い獣、虫、知能の低い巨人たちが真っ先に昏倒し、眠らずとも咄嗟に動きを止められなかった別の敵がそれに脚を取られて躓く。蹴飛ばしたほうも蹴飛ばされたほうも互いに文句を言い合い、敵進軍、隊列はこれで一気に乱れた。
イレーナは己の術がもたらした効果を確認し、ひとまず満足すると、そのまま、その位置で待つ。あえて彼女自身は積極的に攻め入ることをせず、敵動向を監視する役割を己に課す。
「皆に武運を……と、祈りましょう……」
彼女の祈りに応じるように、敵陣に向けて真っ先に切り込んでいくのはケイジ・フィーリ(ka1199)だった。
混乱し、今は足並みを乱し連携もあったもんではない敵陣だが、それでも圧倒的多数、図体もでかいといった手合いに向けて突っ込んでいくのはかなりの勇気がいることだろう。
それでもケイジに迷う様子はない。その心は、開拓地も、CAM実験場も守るんだと気合十分。そして――
「背中は任せた!」
やはり、一片の疑いも見せずに放たれる信頼の言葉。
ケイジに続き動きを見せた孫 楽偉は、同じくらいの年端の少年が放つ純粋さに、まぶしいものでも見るかのように一瞬目を細める。
ケイジがまず標的としたのはイレーナのスリープクラウドで倒れなかった敵。オートマチックピストルで牽制しながら前進、更に敵陣に踏み込むべく前に出る。
孫も、与えられた役割には特に不平を見せる様子もなく、猟銃でケイジにひきつけられて前に出る敵を狙い撃ちその動きを援護する。
「……まあ、やれるだけのことは、やります、けどね」
どこかわざとらしく孫は呟いた。ケイジは孫に、二つ頼み事をしている。最初に敵陣を切り開く役割に孫も回ってほしいということ。それから、猟撃士ならば後衛として、敵陣の動きを良く見て欲しい、と。
不満はなかった。実際、自分に出来ること、やるべきことは、この面子と己の能力を考えればそんなところだろうと。だから彼は与えられた役割を淡々とこなそうとした。信じなければ同じ戦場には立てない。それだけのことだと言い聞かせるように、仏頂面を形作って。
そんな孫の顔は見えていないだろう、ケイジは向かってくる敵に向けて、迎撃するように刃を振るう。突き出された亜人の拳にケイジの刃がぶつかり、敵が痛みにのたうつ。
「悪いけど、急いでるんだよな!」
利き手にダメージを与え大幅に戦力を削いだと思われるそれを、ケイジは無視するように迂回して他の敵に回る。
倒すのが目的ではない、この状況ならば、倒すよりも無力化を狙うほうが早くいく可能性がある。そう目論み、ケイジは腕や脚、目を狙っての攻撃を試みる。
とはいえ、相手は巨体だ。混乱の中であれば腕や脚を切りつけるのはそこまで不可能ではないが、只でさえ小さい標的である目が高い位置にあるのを狙うのは上手くは行かなかった。
それでも、最初の混乱から立て直す隙を与えず飛び込んだケイジと孫の攻撃は、場を更にかき回すには十分だった。
スリープクラウドに倒れ、倒れた味方に脚を取られ、そこに現れた乱入者に怒りのまま飛び出してきた敵陣営は、一部の密度が極端にスカスカになる。
そんな中、奇襲部隊の皆が目を凝らし探すものは一つ。目的を一つにして探す複数の目が向かう先が一致して――確信を持ったミリア・コーネリウス(ka1287)が手綱を叩き、一気に走り抜ける!
右往左往する有象無象どもには目もくれず、隙間だらけとなった敵陣をこの機を逃すまいと走りぬけ……それでも、一瞬の後に立ち直り、ミリアに攻撃せんとする敵には、彼女と同時に馬を走らせた清柳寺 月羽(ka3121)が対応する。
「大きくなるだろう戦いだろうからね。序盤だろうと気合入れてくか」
景気づけに思いを言葉にすると、ミリアに狙いをつけた敵を更に背後から拳銃で狙い打ち、己に近寄る敵には日本刀で迎え討つ。
そうして――
『ああうぜぇ! なんなんだこれ! おまえら勝手に暴れるなっつーの!』
敵陣の中、苛立たしげに声をあげ周囲に向かって手を振るオーガ。
皆の目指すところは一つだった。この最前線の、ひとまずの指揮官となる敵を討つ。そのために敵陣をこじ開ける役割を果たしたのが、イレーナ、ケイジ、清柳寺、孫。
そして、切り拓かれた道を往き、司令官を討たんとするのが……――
「さて、刺し違えてもいいなら方法は幾らか、リスクを考えたら絞られるか、通じなかったら僕の剣もまだまだ、だったってことで行きましょうか、死ぬも生きるも己の腕次第」
ライガが呟きながら駆ける、その横をオウカが並走し、その前を行く馬に乗って駆けるミリアが、標的としたオーガに肉薄する。
ミリアが戦斧を振り上げる。考えることはただ一つ。己に出来る最大の、渾身の一撃を叩き込むこと。
攻め込むことに特化した構えから、注ぎ込めるマテリアルを全てつぎ込んだ一撃を振りかぶり。
――また一緒に、焼肉しましょう。
ふと聞こえてきた気がするのはそんな声だった。
こんなときに?
ふっと口元が緩み、だが、ああ、そうだ、と思った。また皆とご飯を食べて、皆と笑うために戦うのだ、と。
己の体とは違うところから力が湧いてくるのを感じて――そして、その一撃は、狙いをつけたオーガに叩き込まれた。敵の身に着けた鎧がメリメリと音を立て、腹部にその一撃を刻む。
『がっ……あ、女ぁぁああ!?』
オーガが、驚愕と、どこか歓喜の入り混じった視線でミリアを見下ろす。
だが、それがミリアに向き直るよりも早く、オウカの機導砲がその顔を叩いた。
兜に阻まれ、オーガの巨体にはまだそれほど決定的なダメージとはなっていない。が、オウカの表情は冷静だった。
「斃せるとは思わん……が、盛大にかき回すくらいなら、俺にもできるんでな……!」
彼が呟くその直後。オーガの足元に一つの影が走る。
「いいねえ、人間相手だとはるかにリスクの高い技でも的がデカイと狙いやすいぜ」
声はライガのもの。ヘッドスライディングかのように低い姿勢から懐へと飛び込み、手にした刀で相手が体重を駆ける脚を切り払う。
……本当は、ミリアの攻撃よりも前に狙いたかったのだが、馬でもってまっしぐらに向かわれては先手を譲らざるをえなかった。
渾身の力で切りつけた刀から返って来たのは、敵の具足と分厚い筋肉の硬い手ごたえ。ノーダメージではないが、一気に深手、とはいかなかったようだ。
『……はっ』
どこかまだ余裕のある表情で、オーガはその巨体から、立ち向かう三人を睥睨する。
流石に、一筋縄でいく存在ではないようだ。一瞬考えてオーガは、とりあえずという風に、一番近く、足元にいるライガに向けて無造作に足を振る。
……巨体。だが決して、愚鈍、というわけではなかった。やや無理な姿勢で飛び込んだライガは、その攻撃に反応しきれず、丸太のような脚から繰り出される強烈な蹴りをその身で受け止めることになった。
その攻撃が届く寸前、光の障壁がライガの眼前に現れ、そしてオーガの一撃の前に砕け散る。その衝撃を、多少なりと殺しながら。
オウカの防御障壁。
「はっ……こりゃかたじけない」
「背中は任せろ……だから、背中をまかせた、ぞ」
苦笑気味にやり取りを交わすライガとオウカ。だが、ライガの声にあまり余裕はない。防御障壁が防いでなお、敵の攻撃力は脅威だった。
その攻撃が、ハンター達の初撃がこの敵に対しては十分な効果を発していないと証明している。
ミリアの背後で、砲撃の衝撃音がはじけた。ケイジの機導砲。別方面からの敵を、イレーナのウィンドスラッシュが叩く。
清柳寺もまた、まだ指揮官を狙う味方には近づけさせまいと、刀を振るい奮戦していた。
「奴らに教えてやらんとね。蜂は蜂でも雀蜂は一刺しで終わらんって事をなぁ!」
その、清柳寺の叫びにミリアは再び剣を構えなおす。まだいける。指揮官を引き付けたおかげで周囲の敵の混乱はまだ収まっておらず、バラバラに動く敵を後衛が抑えてくれている。まだ攻撃の機は残されているというのは、決して焦りからの希望的観測ではないはずだ。
ミリアが、ライガが、オウカが、それぞれに得物を構えなおし、再びの攻撃に入る。
オウカは、怯ませる目的で目元を銃撃する。
ライガは失血を狙うべく、脚の動脈に狙いを定める。
そしてミリアは、再び無心に己の渾身の一撃を炸裂させた。
――が。
『なんだぁ、女。最初の一撃はまぐれか?』
ミリアの斧を篭手で受け止め、答えるオーガの声音には失望が含まれていた。
他の二人には、一瞥だけで何も言わない。
相手の体制が整わないうちに放った初撃と比べ、こちらを認識し反応してからのハンターの攻撃は、明らかに十分な効果を発揮していなかった。
……三人が三人とも、攻撃の意図と箇所が分散しているのだ。
全員、修練を積んだ戦士ではあったが、強大な敵に立ち向かうにはその力は足し算ではなく掛け算としなければならなかった。
相手の意識を逸らす攻撃もその意図が味方に伝わっていなければきちんと次に繋ぐことはできず、渾身の一撃は絶好の機に放たれることがなければ十全にその威力を発揮しない。別々の箇所に与えられた浅い攻撃は、限られた時間の中で相手を崩すには深刻なダメージとはなってくれない。
そして、オーガも勿論、黙って殴られてはくれない。
横殴りの一撃がミリアを襲う。吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる――その衝撃が、誰かの面影と共にふわりと和らげられる。
――激しい戦いだけど生き残る事が重要。だから余計に防御には気を使わなくちゃ
友人の言葉を噛み締めながら立ち上がるその視線の先で、オウカが、ライガもまた反撃を受けていた。
……ライガへのダメージが、このままでは危険か。
背後にうごめく敵たちがまた、どさどさと倒れる気配がした。イレーナが状況を見て、再びスリープクラウドを放ってくれたのだ。
ケイジ、清柳寺、孫も、相変らず奮戦してくれている。だが。
……認めるしかなかった。ただ倒すならばともかく、味方が稼いでくれるその時の間には、目の前の敵は倒しきれない。
「……仲間は全員生かして返す、そうだよな親父」
血を吐くような思いで呟いて、ミリアはオウカを見る。……オウカも同じ結論だったのだろう。ライガの間に割り込むように、オーガの前に立ちはだかり。
「俺を背にしてライガと共に離れろ!」
叫び、防御に専念すべく全身に力を込める。
オーガとの戦いの中、ミリアは馬を逃がしていた。ライガに近寄り傷の状態を確かめ、まだ自力で動ける範囲と判断すると、かばうように共に走り出す。
撤収の意図が伝わると、支援に徹していたものたちも動く。ケイジ、清柳寺がまずオウカを逃がすべくオーガへと射撃を開始する。孫とイレーナが、退路を塞ぎ後衛へと迫る敵を牽制すべく射撃とウィンドスラッシュを連発する。
後衛が必死で作った隙間、そこに皆が駆け込んできたところで……イレーナが、温存していたスリープクラウドを再び放ち、そして各々は、必死でその場を離れた。
●
そうして。
ざわめく歪虚たちが、傷ついた指揮官へと視線を向ける。
『あー……いいか、面倒くせえ』
逃げるハンター達。だがオーガは、それを追ってこれ以上部隊の隊列が収拾つかなくなることを厭い、怠惰よろしく、やる気なさげに指示を出す。
『面倒くせえ……面倒くせえ……』
呟きながら、その手を、ミリアから最初に受けた一撃に添えていた。
……真っ直ぐに、殺しに来た一撃。
結果を見れば、短時間で敵を討つという目的には、彼らの中ではその一撃が一番、効果を発揮していた。
『だりぃなくそ……だからんなこと……やってられっかってんだ……』
倒すことは適わなかったとはいえ、この時点で、この指揮官は「ヤクシーの姐さんに義理が立つ程度に適当に戦ってバックれよう」と考えるようになる。再三のスリープクラウドでかき回された隊列を真面目に立て直す気も奪っていた。
彼ら自身の目標としては満点とはいかなかったかもしれない。
だが、「敵の初動を乱す」という、課せられた目的に対しては、ひとまず結果を出したことになる。
依頼結果
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サポート一覧
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作戦会議室 ミリア・ラスティソード(ka1287) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/26 00:52:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/22 19:06:11 |