• 不動

【不動】防衛線中央。死守命令残り3時間

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/27 15:00
完成日
2015/03/05 22:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 対岸には巨人が林立している。
 背丈は人間の成人男性の3倍に達している。肩と肩がふれ合うほど密集し後ろが見えない。
 そんな巨人の群れが、一斉にナナミ河に踏み込んだ。
 水面が侵食されていく。
 緩やかな流れでは巨人を防ぐことはできず、平均3メートルに達する深さも巨人にとっては少し深いだけの水たまりにすぎない。
「発射」
 何の変哲もない投石機2基が動き出す。
 庭石に適した岩が川面と水平に飛び、トロルの上半身に当たって複数に砕けた。
 一抱えはある鉄塊が緩い放物線を描き、オーガの肩を粉砕して悲鳴をあげさせる。
「弓隊射撃開始」
 後方から十数の矢が飛来する。
 全身血だらけのトロルが矢でハリネズミのようになり、川の中に沈み込んでいく。
「王国野郎に大きな顔をさせるな。やれ!」
 魔導銃による一斉射撃。
 オーガの悲鳴を物理的に断ち切り沈黙させる。
 ハンターから見て左に配置された王国兵士と右に配置された帝国軍人は実によくやっている。
 が、敵戦力は圧倒的に多く、増援が途切れなく現れ続けている。
 再度投石機が動く。
 投石機としては限界近い頻度で敵前衛を狙い撃ち、川を赤く染める。
「すごい!」
 あなたの側でイコニア・カーナボン(kz0040)が目を輝かせている。
 確かに凄くはあるのだが、投石による援護は左右の友軍にのみ向けられあなた達の担当範囲には全く影響が無い。
 巨人達が陣形を組み替える。
 兵士達には比較的小柄な巨人を当て、あなた達の担当範囲には体格がよく分厚い筋肉で覆われたオーガ多数を差し向けるつもりらしい。
「食い止めなきゃ」
 イコニアが前に出ようとする。あなたは首根っこを掴んで後ろに放る。イコニアの腕では確実に挽肉にされてしまうのだからこういう扱いでも仕方がない。
 オーガの半数が首まで水に浸かる。淵に足をとられたのだろう。
 そろそろ銃や弓、あるいは術の間合いだ。
 あなたは敵前衛に意識を向け、その対岸でうごめく第二波に気づく。
「私もっ」
 実質外付けヒール装置にしかならない貧弱司祭のことはとりあえず無視をして、あなたは目の前の敵に攻撃を開始する。
 この防衛線が崩れたらCAM実験場まで放棄するととになりかねない。
 他部隊が歪虚を完全に包囲するか、あるいは歪虚が戦意を失い逃げ散るまで、何があってもここで防ぐしかないのだ。



●戦場地図(1文字縦横4メートル)

川川川川浅川川川川
川川川川浅川川川川
川川川川浅浅川川川
川川川川川浅川川川
川川川川川浅川川川
兵防防防防防防防軍
兵       軍
兵       軍
兵       軍
兵  投 投  軍
兵  石 石  軍

川。水深3メートル強。歪虚が川にいるときは回避が半減、毎ラウンド最大5メートル移動可能。
浅。浅瀬です。水深1メートル弱。回避にのみ微量のペナルティ有り。
兵。ここから左十数メートルが王国兵士の担当範囲です。投石機の援護がなくなれば、ハンターが援護しない限り十数分から数十分で全滅します。
軍。ここから右十数メートルが帝国軍人の担当範囲です。投石機の援護がなくなれば、ハンターが援護しない限り十数分から数十分で全滅します。
防。歪虚が川から上陸するのを防ぐのを目的で設置された障害物です。歪虚がこの地形を乗り越えるのに、ハンターの邪魔がない状態で1ラウンド必要です。歪虚が5ラウンド攻撃すると攻撃した箇所が平地に変わります。
投。投石機と技術者が2名います。
石。投石機用の岩が積まれています。
空白部分は平地です。

●敵第一波
5メートル級オーガ15体
 サイズ2。武装無し。生命力が優秀。近接威力が極めて優秀。射程1~2。移動力2。回避30。
横二列で突っ込んで来ます。圧倒的に不利になると後退しようとします。

●敵第二波
5メートル級トロル5体
 サイズ2。武装無し。近接威力と生命力が優秀。射程1~2。毎ラウンド、最大生命力の5~10パーセント生命力が回復。移動力2。回避20。
4メートル級オーガ10体
 サイズ2。武装無し。射程1~2。移動力2。回避20。5メートル級オーガより弱いです。
トロルが最前列。オーガがトロルを盾にして攻撃または防御施設の突破を狙います。圧倒的に不利になると後退しようとします。

●敵第三波
4メートル級オーガ15体
4メートル級トロル5体
 サイズ2。毎ラウンド、最大生命力の1~5パーセント生命力が回復。移動力2。回避10。5メートル級トロルより弱いです。
 命中50、射程5、弾数2の投擲攻撃を、投石機に対して行おうとします。投石機に1発当たれば中破、2発で再生不能になります。
第一波から第二波の生き残り全て
4メートル級トロルの護衛を重視し、4メートル級トロル全滅後は後退しようとします。

●敵第四波
第一波から第三波の生き残り全て。巨人サイズの棍棒や短剣を装備し射程が1~3に変わります。
他の戦場で向かわなかった歪虚の一部または大部分。他の戦場が人類側に不利なほど歪虚の戦力が増えます。
歪虚は全滅するまで後退しません。

●味方戦力1
イコニア
 ハンターの指示に従います。相反する指示を受けたときは人数が多い方に従い、同数の場合は自分の判断を優先します。
 スキルは全てヒールです。ハンターが指示をしない場合は自身の無謀を反省し、投石機の兵士の護衛、ハンターへのヒール、投石機操の補助、重体以上の負傷者の後送を行います。

●味方戦力2
投石機2基。3~5ラウンドに1回攻撃可能。投石機は数時間かけて分解しないと移動できません。操作は各2名の熟練兵が行っています。砲術に長けたハンターの方が上手に操作できるかもしれませんが、兵士もかなり上手なのでハンターが操作しても最大で1割程度の性能向上にしかなりません。

●味方戦力3
ハンター担当箇所の左右に兵士がそれぞれ十数名ずついます。協力を要請すれば応えてくれますが、ハンターより弱いので助けにならないかもしれません。

リプレイ本文


 聖導士にしてエクラ教司祭、イコニア・カーナボン(kz0040)が女の子がしちゃいけない顔をして固まってる。
「うん、イコニアちゃんが手で普通に銃を使って当たるとも思ってなかったしね」
 種族は違えどだいたい同年齢。女性的魅力の面ではイコニアに大差をつけて勝っているJyu=Bee(ka1681)が、慰めを込めた手でイコニアの背を撫でた。
「銃を固定しちゃいましょ。方向も固定されちゃうけど、敵の方から射線に入ってくれるわ」
 防御設備用補修資材の余りで作った台と支えを示す。
 頭を下げ、よろしくお願いしますと言って頭を上げた瞬間、今度は人間として駄目な驚愕顔で固まった。
 司祭の視線の先にいたのはシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)だ。
 分厚い全身重装甲は伝説の魔物を思わせる意匠であり、シルヴィアの戦意も加わり歪虚を蹂躙する荒御魂にも見える。
 注意力があれば兜と胸甲の合間から煌びやかな銀髪に気づき、魔物ではなく実力と美を兼ね備えた女性軍人と認識できるだろう。
「ぴぃ」
 残念ながらイコニアは注意力が優れた方ではなく、涙目でぷるぷる震えていた。
 シルヴィアはこほんと咳払いをして、怖くないよと身振りで司祭をあやしつつ仲間に合図を送った。
「二脚銃架ですね」
 J(ka3142)が台と支えを懐かしそうに観察する。
 それに気づいた老兵士、元名の知られた親方が、投石機から離れてがJに詰め寄った。
「はい」
 Jは敏腕営業なトークで銃架の詳細な説明を行う。
 老人は視線だけで人が殺せそうな目をしている。それだけ真剣なのだ。
 シルヴィアは銃架そのものではなく銃架を使用した射撃の仕方をイコニアに教えている。
「あれ持って来い!」
 老人が吼える。
 逞しい兵士が大慌て複数の部品を運び込み、老人とシルヴィアの指示に従い瞬く間に三脚銃架を形にした。
 なお、イコニアは体が硬くて伏射姿勢に苦戦していた。
「嬢ちゃ……あー」
 老人が己の薄い髪をかく。
「ジェーン、ジュディ、ジェニファー、どれでもどうぞ」
 Jがにこりと笑った。
 銃声が響き始める。劇的に改善されていはいるものの狙いはまだまだ甘く、しかも有効射程を勘違いしているので歪虚に被害は全くない。少なくとも物理的なダメージは全くなかった。
「いやー」
 アンフィス(ka3134)が、川辺の防御設備の上でつま先立ちになって対岸を覗き込む。
 怒り狂ったオーガが2体川の中に飛び込みこちらに向かってきている。正確な狙いで銃口を向けられ鉛玉を飛ばされ、それでもなお敵を無視するだけの精神的強靱さは持っていなかったようだ。
 歪虚側の予定では15体が一丸となって人類の防衛線に吶喊するはずだったのに、残る12体のうち5体は数十メートル後方、7体は2体を呼び止めようとするが全く効果が無い。
 イコニアが攻撃する浅瀬上空を避け、体長5メートルはある体格で深さ3メートルはある川を渡ろうと全力で足を動かす。
「怠惰が来たみたいだ、なんて?」
 意味が伝わるとはいえ日本語の洒落はあまり通じない。
 だが、アンフィスが圧倒的多数の敵を目の前にしても堂々としていることは伝わり、左の王国兵と右の帝国軍人達が心底からの笑いで答えた。
「失敬失敬、頑張って働くさー」
 短銃身ライフルを軽々と構え、銃架無しでイコニアを圧倒する精度で狙いをつける。
「こんにちは!」
 死ねとしか聞こえない挨拶であった。発射のたびに跳ね上がろうとするカービンを押さえ込む。傷の浅い方のオーガに複数の弾痕が刻まれ、綺麗だった川面が赤黒く変色していく。
「来たな巨人」
 シルヴィアが引き金を引く。引いたまま銃の向きだけを変えていく。銃口から鏃が放たれる。圧倒的威力の銃弾が皮を破り骨と筋を砕いて汚らしい汚水に変え吹き飛ばす。元は対人兵器とは思えないほどの威力だ。
 それほどの破壊をなしているのにシルヴィアの表情は動かない。紅に染まった瞳が、川面に沈むまでオーガを見据えていた。
「怖いわー。体格差でノックバック聞かないから接触されるとおしまいだわー」
 アンフィスの声は本当に怖がっているようにしか聞こえない。もっとも呼吸は乱れず汗もかかない。仲間の矢と銃弾を浴びたオーガに改めて狙いをつけ、眉間を撃ち抜き即死させた。
「イコニアさん、リロード」
 弾切れなのに引き金を引くイコニアを注意して、シルヴィアは対岸のオーガに狙いをつける。
 約5メートルの巨人。1体だけでも小村を潰すには十分過ぎる力を持つ歪虚。
「覚悟しろ、ここがお前たちの死地だ」
 大型の頭蓋に骨欠と体液からなる汚い花が咲く。シルヴィアをにらみ返すオーガの瞳には、悪意と殺意だけでなく恐れが濃厚に滲んでいた。
 イコニアの射撃が再開される。汗と土と埃で酷い有様だが本人は全く気付かず、ひたすら浅瀬に対して銃撃を続ける。相変わらず歪虚は射程外。だがオーガ達の精神はとっくに限界を超えていた。
 対岸のオーガの13体が怒号を発する。筋肉が限界まで隆起し、貯め込まれた力が爆発。十数メートルの体力を使い尽くす勢いで川に飛び込みハンターを目指す。
「ようこそ雑魔共。歓迎してあげるわ」
 浅瀬の終端、歪虚の大群を防ぐための障害としてはあまりにもちっぽけな段差の上で、セリス・アルマーズ(ka1079)が古の勇者の如く仁王立ちしいた。
「ついでに浄化できるだけ、浄化してあげる」
 清らかな光がセリスの頬と金の髪を照らす。光が彼女の胸元に集まり光弾となり、銃弾に負けない速度と純粋な光属性を伴い、歪虚戦闘の5メートル級オーガに直撃した。
 巨人の胸が焼け骨までさらされる。しかしオーガは痛みを感じさせない狂笑を浮かべている。シルヴィアの銃撃に比べると温すぎる。己の腕が届く距離まで近づけば、目障りな聖導士如き一撃で挽肉に出来る。そんな、甘すぎる予想をしてセリスの間近まで来てしまった。
 ほぼ呼び動作無しでセリスの上半身並みの大きさの拳が降ってくる。迎え撃つのは細く長く分厚い盾。支えるのは鍛えられているとはいえ細く優美な女性の腕。両者が接触した直後、歪虚の肌が吹き飛び骨がきしむ音だけが響いた。
「この防衛ラインを」
 オーガの上半身と盾を片腕だけで支え、利き腕でサーベルを抜く。
「薄汚い歪虚が超える事は許さない」
 半壊した上半身から切っ先を突き入れ、オーガの重要器官をまとめて切断。体液が噴き出すより速く盾を持った片腕だけでオーガを浅瀬から川に転落させた。
 聖導士はかすり傷ひとつ負っていない。運用によっては軍すら潰せる巨人の群れが、明らかに気圧されていた。


 オーガが悲鳴を上げて倒れた。血と泥で染まった川に沈むが水音は聞こえない。
 悲鳴と絶叫、銃声と金属音が満たされた戦場は、敵味方全ての近くを大幅に引き下げていた。
「温い」
 刃渡り数十センチ、全長は1メートルに達する純戦闘用斧が振りかぶられた。
 戦斧「アムタトイ」の重量と比べると、ボルディア・コンフラムス(ka0796)の体格も体重も圧倒的に不足しているように見える。
「クソ怠惰共ォ」
 オーガが足止め用の杭を踏みつぶす。古傷だらけの頭を振りかぶり、体長差3メートルのボルディアめがけて叩きつけた。
 金属と骨がぶつかる異様な音が響く。ボルディアは後退どころか体を揺らしもせず、オーガは額から大量の血を流し血塗れの歯をむき出し悲鳴をあげた。
「一匹残らず滅ぼしてやるぜェ!?」
 戦斧を握り直して受けから攻めの構えに変更。鋭く息を吐きながら斜めに振り下ろす。
 腰まで水に浸かったオーガの肩から胸、胸から股まで貫通する。分厚い筋肉が数秒痙攣し、砕けた骨と衝撃で液状になった内臓がこぼれた。
「ちっ」
 巨人の残骸を蹴り倒す。オーガの死骸は水面に落ちさえしない。既に多数の歪虚が沈んでいて、川の中に死骸による山が出来ているのだ。
 4メートル級のトロルが目を限界まで見開く。大重量の岩を両肩でそれぞれ抱えたまま、この場で投げるか予定通りに投石機を目指すが1秒にも満たない間迷う。
 一旦後退を決断したときには既に遅かった。
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の矢が水中の足に刺さってその動きを鈍らせ、Jyu=Bee達の銃撃が上半身を満遍なく砕いて絶命させた。
「3回目の攻撃もこれで終わりっと」
 ボルディアが戦斧を血震いして肩に担ぐ。目の前の川からは動くものが消え、対岸には新手の歪虚が、これまで以上に体格の良い巨人達が集まりつつある。
 右からは銃声が聞こえる。」
 ハンター受け持ち範囲に襲来した巨人と比べれば小さく弱いとはいえ、普通の感覚なら十分強敵なオーガと帝国軍が激しくやりあっているのだ。
 アルトは川から漂う異臭を無視して新たな獲物に狙いをつける。対岸の、銃では有効打を浴びせられないほど遠くにいる、一際体格の良い巨人を狙って矢を打ち込んだ。
 矢は分厚い筋肉を貫けずに終わる。ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が赤い弓から放った矢も、アルファス(ka3312)が大弓で放った矢も、大威力のライフルと比べると小さな威力しかない。
 しかし銃とは違ってハンターの腕がよければ超遠距離からでも当たり、ダメージは小さいとはいえ確実に巨人の防御を抜いている。
 銃声と銃火を向けただけのイコニアとは次元が違う。まとめ役らしき6メートル級オーガが苛立ちを強め、対岸に集合中の4メートル級に対する統制力が弱まり、アルトの矢が頬を貫いた時点で限界に達した。
 大気が震えた。
 4メートル級の群れが肩を震わせ、6メートル級を振り仰ぎ、最初は歩くように、急速に速度を上げて渡河を始める。足並みは全く揃っていない。戦力をまとめて1カ所にぶつけるという大原則を忘れた無様すぎる指揮だった。
 最も早く到達したのは浅瀬の一群だ。これまでの同じようにセリスが食い止め、しかし殲滅はしきれずにあぶれた巨人が左右に散る。
 ボルディアが両断しても追いつかない。オーガの拳が彼女の近くの防御設備を完全に押し潰した。
 新手のトロルが川底を蹴って跳躍、防御設備の残骸に着地する。しかしハンターの判断と行動の方が圧倒的に早い。
 ランアウトで飛び込み準備万端整えていたアイビス・グラス(ka2477)が、残骸を踏み不安定な巨人の足にワイヤーを絡めて全力で引っ張った。
 巨人の皮膚が深く刻まれる。歪虚の体液が大地を汚す。
 トロルが派手に上半身をふらつかせ、大きな両手で地面に手を突いた。
「どんな逆境だろうと私たちは退く訳には行かないの」
 アイビスは鮮やかな手つきで武器を持ち替える。
 中距離戦闘にも対応可能なワイヤーから、至近距離での戦いのためのナックルに。
「私たちの事」
 足下の堅い地面がアイビスの脚力に負けひび割れた。
 艶やかな緑の髪がまっすぐに後ろへ伸び、麗しい指からなる流星の如き拳がトロルの分厚い顔面を破壊した。
「甘くみないで」
 軽い足取りでバックステップ。絶息して前のめりに倒れる歪虚は、彼女を巻き込むこともできずに防御設備の代わりの障害物と化した。
 アイビスは油断無く周囲に気を配り、軽く跳躍してトロルの頭に着地する。敵第3波の生き残りは極少数。逃げだそうとした極少数も高威力の銃撃で文字取り砕け散った。
「なんて数」
 アイビスの額に汗が浮かぶ。
 対岸にいた敵戦力は7割方粉砕した。粉砕したのにそれ以上の数が左右と奥から集まって来ている。
「アルファス」
 エルフの少女が覚醒する。おそらく肉体的最盛期である20代の体格まで成長し、黒い雷のオーラを纏いエルフ伝統の構えで敵中心部に意識を集中する。
「了解。敵主力殲滅を開始……死んでもらうよ」
 熟練の技術士官が弓を構える。リアルブルーの伝統的弓術、その中でも威力優先難易度最高峰の形で弓を引く。
 構えは違っても発射の同期は完璧だ。比翼の鳥に似た間隔を保ち、川を越え、力はあっても知恵と練度に欠ける巨人群の頭上を通過し、7メートル近い巨人まで到達した。
 ユーリの着弾がわずかに早い。覚醒者の剣でも耐える肌を貫通し、前線指揮官の舌を切断したところで勢いが失われる。
 アルファスの矢はさらに凄まじかった。米神に着弾。良質かつ分厚いゴムに似た皮を貫通して米神を砕き、破片と共に歪虚の脳内を蹂躙する。
 前線指揮官の口から意味不明な音が垂れ流される。 トロルの域を超えつつある歪虚でも脳が半壊しては癒しきれないのだ。
 ユーリ達の射撃が続き、知恵のある歪虚複数が傷を負う。6メートル級に対する神業は再現されなかったけれども、冷静さを欠いた大戦力が無策で動き出すまで、数分もかからなかった。


 右の投石機が右斜め前方へ、左の投石機が左斜め前方に鉄塊を撃ちだした。水平に近い動きで歪虚の群れにぶつかり、巨人の腕や肩を砕いて血の雨を降らす。
 しかし投石機の援護は王国兵と帝国軍にしか与えられない。ハンター達は傷ついた防御設備と己だけを武器に、100近い歪虚に立ち向かう。
 防御設備の至近はオーガとトロルの死体で埋まっている。5メートル越えのオーガが3メートル近いナイフを振り回し、前傾したトロルが屍を壊しつつ防御設備を飛び越えようとした。
「悪いけど、ここから先は通行止めだ!」
 アルトは設備に飛び乗って盾で受け止める。受け止めたエネルギーを活かして45度回転し、オートMURAMASAをトロルの顎下から上に向かって突き入れる。
 頸骨と神経の束を破壊されると回復しようが無く、トロルは勢いを失いその場に転がり動かなくなる。
 アルトの盾が動く。今度はアルトを狙ってきた巨大ナイフをかわす。
 同属を押しのけ次のトロルがアルトの前に出る。アルトは敵が攻撃に移る前にMURAMASAで手首に切れ目を入れて、トロルの攻撃にあわせて得物ごと手首を切断する。
「アルト様」
 Jの声が聞こえる。アルトが一瞬横を見る。負傷は中程度でも戦闘能力に問題はない。が、そろそろJ担当の防御設備が限界だ。
「ここは抑える」
 オーガの足に一撃入れる。Jがうなずいて後退する。
 そして、巨体のオーガがバリケードを踏みつぶし人類の防衛戦を突破した。
「容易にひっかかり過ぎて罠を疑ってしまいますね」
 オーガはJに近づけない。背後からは同属が押し、左はアルトが守りを堅持し、右と行く手は歪虚の死体が塞いでいるからだ。
「ごめんマテヒと体力切れ」
 アンフィスの銃弾がオーガの脇を抉る。
「継戦能力に問題なし」
 シルヴィアの銃弾がオーガの喉を破壊する。
「これ、基本中の基本の戦術なんですよ」
 狙い澄ませたJの銃弾が、オーガの眼球を破壊し脳にまで届いた。
 Jは今倒した巨人の体をバリケードに加え、仲間と共に新たなキルゾーンをつくって敵戦力削減に邁進する。
 しかし体力は無限ではない。味方クルセイダーのヒールも数分前に品切れで、運動強化も今使っているので品切れだ。
「これ以上はサービス残業ですよ」
 現在、開戦から3時間と13分。今撤退しても誰からも文句が出ないのを理解した上で、Jは不敵に微笑み拳銃で至近の敵を撃つ。数十秒後に倒れるまで、彼女は常に最善手を指し続けていた。


「イコニアちゃん逃げる気ある?」
 Jyu=BeeのMURAMASAがトロルの片膝を切断する。反撃の拳はJyu=Beeにとっては止まっているも同然だ。
 が、前と左右から連携して攻撃されると完全に回避し続けるのは難しい。玉の肌には複数の傷が刻まれていた。
「ジュウベエちゃんが私より年上なら考えるくらいはしたかもっ」
 言葉を飾る余裕もない。巨人の拳の直撃だけは避けかわりに右手が力無く垂れる。
「生意気!」
 MURAMASAが最後の渾身撃で6メートル級オーガを切り捨てる。イコニアの援護にまわる余裕はない。Jyu=Beeは1人で防衛線10メートルを担当しているのだから。
「さあ、踊りましょう。死の舞踏を」
 ユーリもイコニア以上に不利な戦いを強いられている。
 戦果0のイコニアとは違ってこの場の上位3人に入るほど歪虚を倒している。が、防御設備は放棄済み、重傷を負った仲間の分も戦った結果加速度的に負傷が重なっている。
 今もまた鉄塊にしか見えない刃が激突。アルファスによる防御障壁によって辛うじて命を繋ぐ。
「君だけは、必ず守る」
 アルファスは超重防御と豊富な自己回復力で戦闘能力を保っている。Jyu=Beeと同様に広い範囲の敵を防いではいるが、最悪、他の全てよりユーリの救出を優先するつもりだった。
 エルフの美貌に清らかな白百合の如き微笑みが浮かぶ。視線だけで己の鞘に合図を送り、攻めの構えから時間稼ぎ優先の構えに切り替える。
 アルファスがはっとして、既に声も出せないユーリの代わりに叫ぶ。
「敵後方から味方が向かってきています!」
 対岸の方向から、微かではあるが人間の声と歪虚の悲鳴が聞こえた。
 巨人達が目に見えて動揺し腰が退ける。そんな巨大な隙を見逃すアルファス達ではない。容赦なく刃と銃弾を撃ち込み続け、歪虚の体以上に精神を削り切った。
 巨体が後ずさる。1体反転して駆け出すと後は雪崩のように崩れる。武器を捨て、川を埋め尽くす屍を踏み越え、たただだ逃げる。
「勝利だ!」
 左右の陣で歓声が爆発する。戦死者は無し。後方に通した歪虚の数は0。完璧な勝利であった。

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MVP一覧

重体一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌスka0239
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズka1079
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラスka2477
  • 名バッター
    アンフィスka3134
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベルka3142

参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • Beeの一族
    Jyu=Bee(ka1681
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 名バッター
    アンフィス(ka3134
    人間(紅)|18才|女性|霊闘士
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファス(ka3312
    人間(蒼)|20才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
Jyu=Bee(ka1681
エルフ|15才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/02/26 16:11:36
アイコン 相談卓
Jyu=Bee(ka1681
エルフ|15才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/02/27 06:50:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/23 00:33:32