ゲスト
(ka0000)
【王国展】Route:B 未来の英雄と茸
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2015/02/23 12:00
- 完成日
- 2015/03/05 09:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
システィーナ・グラハム(kz0020)王女の執務室。王城のほぼ中枢にあるそこは、この季節においても調度品や暖炉によって暖かく整えられている。そこに、ぽつり、と声が零れた。
「ハンターの皆さまに向けて、王国観光庁の設立……?」
「ええ」
システィーナ王女の声であった。応じた鈍く低い声は、セドリック・マクファーソン(kz0026)大司教。
「現状、復興が進んでいるとはいえ、先日のベリアルの侵攻の傷は、決して小さくはありません」
「そう、ですね。民も、傷ついています」
システィーナの理解に、セドリックは微かに笑みを浮かべた。
「その通りです、殿下。この国には余力がある。故に、土地も、経済も、時が経てば癒えましょう。ですが――民の心に刻まれた傷は、生半な事では癒えません」
「……そこで、観光庁、ですか? ハンターの皆さまが、どう関わるのです?」
「彼らの存在そのものが、王国の治安や防衛――そして経済に、深く関わります。安全の担保によって、民草に安堵を抱かせる。現状ですとその重要性は、言を俟ちません。その点でハンターに対して王国の内情を詳らかにし、また、国民が広くハンターの存在と意義を知ることは現状では十分に価値あることです」
「そう、ですね……ハンターの皆さまが、この国の民にとって救いになり得る」
手を合わせて、王女はにこやかに笑んだ。華やぐ声で、言う。
「作りましょう、王国観光庁!」
「ええ、ではそのように。ああ、それと――」
少女の喝采に、セドリックの聖人の笑みが返った。
「観光を扱う以上、民草にとっても近しい組織でなくてはなりません。そこで、システィーナ王女。貴女の出番となります」
「は、はい」
「貴女に、観光庁の代表をして頂きます」
「……ふぇ?」
「早速、催し物の段取りをしておきましょう。王女の名の下に各地に通達し、商会、職人、その他諸々の団体を応召し、展覧会を執り行う――」
「え、ぇ?」
「詳細は後日、識者を集めて会議を行いますので、それまでにお考えをお纏めください……それでは、私はこれで」
「え……?」
――戸を閉じたセドリックの背中を、少女のか細い悲鳴が叩いた。
●
王国展覧会の会場内。喧騒に包まれたその中では様々な声が飛び交っている。素種々のスペースに区切られてはいるが、その様相は混迷を極めていた。誰かとはぐれたか、迷子と思しい年幼い茶髪の少女が辺りを見回しながら何処かへと歩き去っていくその傍らで、老人が青年の鎧姿にケチをつけている。
あなたは、その展覧会を満喫していたかもしれないし、あるいは仕事で訪れていたのかもしれない。気の合う仲間達と訪れて、迷子になったかも、しれない。
――ふと。その足が止まった。王国内で絶大なシェアを誇るヘルメス情報局のスペースだ。
スペースは、ある。あるにはある、のだが、商売っ気剥き出しの他のスペースと異なる装いである。ブースの『中に』濃紺の天幕が張られており、看板が二つ建てられているだけである。
『局員は取材中につき期間中不在 バックナンバーあり〼』
『こちらで当通信局が発売した【占い】がうけられ〼』
なんとも適当極まる事この上ないのだが、成程、記者がこの機に座して待つわけも無い、ということか。
煩雑な会場の中、この一帯だけが喧騒から遠い。天幕の佇まいが、そう感じさせるのだろうか。音がはじかれ、何処かへと吸い込まれていっているような錯覚。
――あなたは、天幕の中に足を踏み入れてもいいし、踵を返してもいい。
●Pattern "B"
踵を返したあなたは、雑踏の中へと戻――ろうとした。
その時だ。
「スターップ!!!」
喧騒を貫く声が、響いた。尋常ではない熱量を孕んだ声に、あなたの足が止まった。明らかに、あなたへと向けられた声だったからだ。殺気に近しい気配が、それを知らせていた。
あたりを見渡すが、それらしい人影は見当たらない。
「何処を見ている!!」
近くから声がした。振り返って辺りを見渡すが、やはり、いない。
「ワシは此処だ!!」
――あなたの、足元から、声が響いた。
そこに居たのは、『キノコ』だった。ただ、通常のパルムとはやや様子が異なる。まず目に飛び込んでくるのはチョビヒゲ。上等な品では無かろうが、古風なスーツを身にまとっている。声は低く渋いが、豪胆にすぎ落ち着きは感じさせない。
なんというか。
「よく来たな! 見たところ貴様、ハンターだな!?」
熱い。熱すぎる。剥き出しの熱意に目が眩むほどであった。
「ワシはイェスパー! 見ての通りの文筆家だ!」
イェスパ―と名乗ったキノコはあなたの様子など気にも留めずに、続けた。
「ワシは書くぞ! そして描く! そのためにも正々堂々と――貴様に、取材を申し込む!!!!!!!!!!」
ビシィ、と何処からかとりだした黒羽のペンを手に、盛大に打ち上げた。
そして。
「……あ。む? アシスタントがいないではないか……まあいい! ワシはな、こういう記事を書いているぞ!」
折り目正しく差し出されたのは、『ヘルメス通信局』の号外記事だ。そこには、『未来の英雄達、その回顧録』と書かれている。
「さあ、いざ尋常に……取材だ!」
イェスパーと名乗った茸は、あなた達を取材に来たようだった。
あなたは取材を受けてもいいし、受けなくてもいい。
ただし、取材を受けなかった場合、この茸の熱情につきまとわれることは想像に難くないようであるが――。
システィーナ・グラハム(kz0020)王女の執務室。王城のほぼ中枢にあるそこは、この季節においても調度品や暖炉によって暖かく整えられている。そこに、ぽつり、と声が零れた。
「ハンターの皆さまに向けて、王国観光庁の設立……?」
「ええ」
システィーナ王女の声であった。応じた鈍く低い声は、セドリック・マクファーソン(kz0026)大司教。
「現状、復興が進んでいるとはいえ、先日のベリアルの侵攻の傷は、決して小さくはありません」
「そう、ですね。民も、傷ついています」
システィーナの理解に、セドリックは微かに笑みを浮かべた。
「その通りです、殿下。この国には余力がある。故に、土地も、経済も、時が経てば癒えましょう。ですが――民の心に刻まれた傷は、生半な事では癒えません」
「……そこで、観光庁、ですか? ハンターの皆さまが、どう関わるのです?」
「彼らの存在そのものが、王国の治安や防衛――そして経済に、深く関わります。安全の担保によって、民草に安堵を抱かせる。現状ですとその重要性は、言を俟ちません。その点でハンターに対して王国の内情を詳らかにし、また、国民が広くハンターの存在と意義を知ることは現状では十分に価値あることです」
「そう、ですね……ハンターの皆さまが、この国の民にとって救いになり得る」
手を合わせて、王女はにこやかに笑んだ。華やぐ声で、言う。
「作りましょう、王国観光庁!」
「ええ、ではそのように。ああ、それと――」
少女の喝采に、セドリックの聖人の笑みが返った。
「観光を扱う以上、民草にとっても近しい組織でなくてはなりません。そこで、システィーナ王女。貴女の出番となります」
「は、はい」
「貴女に、観光庁の代表をして頂きます」
「……ふぇ?」
「早速、催し物の段取りをしておきましょう。王女の名の下に各地に通達し、商会、職人、その他諸々の団体を応召し、展覧会を執り行う――」
「え、ぇ?」
「詳細は後日、識者を集めて会議を行いますので、それまでにお考えをお纏めください……それでは、私はこれで」
「え……?」
――戸を閉じたセドリックの背中を、少女のか細い悲鳴が叩いた。
●
王国展覧会の会場内。喧騒に包まれたその中では様々な声が飛び交っている。素種々のスペースに区切られてはいるが、その様相は混迷を極めていた。誰かとはぐれたか、迷子と思しい年幼い茶髪の少女が辺りを見回しながら何処かへと歩き去っていくその傍らで、老人が青年の鎧姿にケチをつけている。
あなたは、その展覧会を満喫していたかもしれないし、あるいは仕事で訪れていたのかもしれない。気の合う仲間達と訪れて、迷子になったかも、しれない。
――ふと。その足が止まった。王国内で絶大なシェアを誇るヘルメス情報局のスペースだ。
スペースは、ある。あるにはある、のだが、商売っ気剥き出しの他のスペースと異なる装いである。ブースの『中に』濃紺の天幕が張られており、看板が二つ建てられているだけである。
『局員は取材中につき期間中不在 バックナンバーあり〼』
『こちらで当通信局が発売した【占い】がうけられ〼』
なんとも適当極まる事この上ないのだが、成程、記者がこの機に座して待つわけも無い、ということか。
煩雑な会場の中、この一帯だけが喧騒から遠い。天幕の佇まいが、そう感じさせるのだろうか。音がはじかれ、何処かへと吸い込まれていっているような錯覚。
――あなたは、天幕の中に足を踏み入れてもいいし、踵を返してもいい。
●Pattern "B"
踵を返したあなたは、雑踏の中へと戻――ろうとした。
その時だ。
「スターップ!!!」
喧騒を貫く声が、響いた。尋常ではない熱量を孕んだ声に、あなたの足が止まった。明らかに、あなたへと向けられた声だったからだ。殺気に近しい気配が、それを知らせていた。
あたりを見渡すが、それらしい人影は見当たらない。
「何処を見ている!!」
近くから声がした。振り返って辺りを見渡すが、やはり、いない。
「ワシは此処だ!!」
――あなたの、足元から、声が響いた。
そこに居たのは、『キノコ』だった。ただ、通常のパルムとはやや様子が異なる。まず目に飛び込んでくるのはチョビヒゲ。上等な品では無かろうが、古風なスーツを身にまとっている。声は低く渋いが、豪胆にすぎ落ち着きは感じさせない。
なんというか。
「よく来たな! 見たところ貴様、ハンターだな!?」
熱い。熱すぎる。剥き出しの熱意に目が眩むほどであった。
「ワシはイェスパー! 見ての通りの文筆家だ!」
イェスパ―と名乗ったキノコはあなたの様子など気にも留めずに、続けた。
「ワシは書くぞ! そして描く! そのためにも正々堂々と――貴様に、取材を申し込む!!!!!!!!!!」
ビシィ、と何処からかとりだした黒羽のペンを手に、盛大に打ち上げた。
そして。
「……あ。む? アシスタントがいないではないか……まあいい! ワシはな、こういう記事を書いているぞ!」
折り目正しく差し出されたのは、『ヘルメス通信局』の号外記事だ。そこには、『未来の英雄達、その回顧録』と書かれている。
「さあ、いざ尋常に……取材だ!」
イェスパーと名乗った茸は、あなた達を取材に来たようだった。
あなたは取材を受けてもいいし、受けなくてもいい。
ただし、取材を受けなかった場合、この茸の熱情につきまとわれることは想像に難くないようであるが――。
リプレイ本文
●アレン=プレアール(ka1624)
筆者にとっては折よく、と言おうか。人と逸れた所に取材をする事が出来た赤毛の青年は、戸惑いを見せはしたものの、ぽつりぽつりと語り始めた。語調は柔らかいが、鍛えられた戦士特有の、深みのある声で。
――彼にとっては、覚醒者とは成るものではなく、至るものであった。
手を抜くことなく鍛錬に励んでいたというから、近年稀に見る筋金入りの戦士だったのだろう。
しかし、彼は精霊と契約をした。
時勢だった。歪虚が居て、彼には護るべきものが居たのだ。
雑魔の群れを相手に瀕死に至り、護るべきを護れる力が無いと理解した時、彼は覚醒者に『成る』事を決めた。
―・―
……ハンターになりたくは、なかった。姉と、離れる事になるかも知れなかったから。
ただ、護りたかった。そのために武技を磨き、身を鍛え……マテリアルの扱いを学んでいた。
でも。それでも護れないのならば……意味が無い。
――力が、欲しかった。ただ一人……大切な人を、護る為の。
―・―
回想にその時の感情が呼び起こされたか。青年の口調に、熱が籠もる。
それから彼は、自らの生い立ちを語った。その声色だけで彼の裡で姉君がどれだけの場所を占めているのかは知れたが――幼少の折から、その拠り所は姉君だけだったそうだ。生家にはいい思い出がなかった、と。
その思いの深さは、声を掛けた当所からは考えられないほどだ。柔らかな平穏と、どこか病的な執着が同居している青年は、その意味で歪んでいる。
だが。彼は少しずつ、変わってきても居るのだろう。ハンターになり、世界を知る日々の中で。
かつて、彼の世界は狭く姉君を通してしか見えなかったのかもしれない。
だが、今の彼は姉君以外にも価値を見出している。例えば――筆者の取材を受け容れたように。
●ラウリィ・ディバイン(ka0425)
「取材? いいよいいよー」
「おお! 物分かりが良いな青年!」
ラウリィは珍妙な呼び止めにも動じずに、そう応じた。彼のペットの柴犬はイェスパーの周りをウロついている。
「俺の雄姿が王国に広まっちゃうわけでしょ?」
「吾輩が書けば増刷間違いなしだ!」
「オッケーオッケー、どんどんやっちゃってー♪ あ。でも、わんこがいるから、このまま外で取材受けさせてね」
「構わ――ぬぅぉ!?」
動揺は揚々とイェスパーが掲げた手に反応した柴犬が咥え上げたが故のものだ。
「……」
咥えられたまま、目と口を大きく開いて固まるイェスパー。
「あ、その子茸が好きなんだよね……ごめんね?」
「……」
「おーい?」
固まった茸からはなんの応答もなかった。
「んー」
とりあえず、ラウリィはイェスパーのひげを引っ張りながら落ち着ける場所を探す事にした。
―・―
「それで、精霊と契約した時のことだっけ?」
「うむ!」
所改まり、柴犬から降ろされると調子が戻ったみたいだ。チビた鉛筆を取り出した彼の期待に応えるべく、かつての光景を思い出す。
「俺が、契約した、あの日」
「うむ!」
「なんていうか」
「うむ!」
「髪の長いきれいでスタイルのいいお姉さんに抱きしめられて、その豊満なバストに埋もれて気持ちよくなってたら覚醒してた感じ?」
「……それだけか?」
「うん」
「……」
途端につまらなそうな顔になった茸に、苦笑がこぼれた。
「まあ、俺もそういう風に感じたってだけだからね」
何か、添えようかな、と。言葉を探す。覚醒した時の話からはズレるけど。
「ただ、あのお姉さんは、俺が故郷の森に対して抱いてるイメージが具現化したものなんだと思ってる」
「それだ! それを待っていた!」
猛烈な勢いメモを始めた茸を他所に。
蕭、と。
雑踏を貫いて、風が鳴った。
その行く末に目を向けながら、こう添えた。
故郷、と思えば、言葉も積もるものだ。
「今はこうして森を出てるけど、いろんな経験をして、いつかはまたあの腕に抱かれに戻ろうかな、なんて」
「バストでなくか?」
「バストもだねー……あ、今のカットで」
―・―
「で、挿絵ってつけてくれるの?」
「つかないぞ?」
「え……俺の顔も一緒に王国中に広めてもらって、あわよくば行く先々の街で素敵な女性とらんでぶー、みたいな……」
「個人情報には配慮しているからな!」
「ええー……」
●リーリア・バックフィード(ka0873)
「初めまして、イェスパーさん」
「うむ!」
淑女然と礼をしたリーリアに、イェスパーは茸の矮躯で器用にも古式ゆかしき礼を返した。リーリアの目が、笑みの気配はそのままに僅かに細められる。
「確か、ヒカヤ紅茶の露店がありましたね……そちらでお話をしましょうか」
つ、と。イェスパーに道を示すと、茸は紳士的に歩を進めた。些か古風だが、エスコートのつもりなのだろう。
―・―
紅茶とケーキを注文し、席につきました。
――同様の取材は前にありました、けど。
「キノコが取材とは珍妙な事もあるんですね」
「我輩は文筆家だからな!」
「あ、ちなみに文筆家には見えませんよ」
「何ィ……? これを見ろ!」
差し出された鉛筆は無視して、イェスパーさんの全身を見回してみます。
うん。
「取材を受ける変わりに、貴方の事も教えて下さるのでしたら、お答えしますよ?」
「我輩の? 物好きな奴だな……」
貴方に言われるほどの事ではないですが。
許可を頂いた『ことにして』、土産話の為に調べさせて貰いましょう。
―・―
取材は礼節をもって適当に。
先ずはヒゲから攻めることにしました。
―・―
茸にヒゲ……珍妙です。
「我輩のヒゲが何か?」
「いえ、本当にエレガントなお髭ですね……」
「うむ。毎朝整えているからなぁ」
特に反応なし。触り心地も、普通のヒゲでした。
伸ばしたら痛がりました。
―・―
次の質問も礼節をもって適当に。
私は傘を攻めました。
―・―
黒系統の傘を捲ろうとすると。
「吾輩の髪が何か?」
髪?
「……髪ですか?」
「髪だが」
困惑げなイェスパーさんにむしろ困惑します、が。力を込めようとしたら「髪型が乱れる!」と拒絶されました。
―・―
「普段、何を食べられているのです?」
「僅かばかりのパンと水だな!」
「……質素、ですね」
「文筆業は儲からんからなぁ」
茸がパンを……。
「ちなみに貴方は美味しいのですか?」
「君は何を言っているんだ」
真顔で返されました。
……うん、そろそろ、満足ですね。
「あら、もう少しお話したかったのですが、そろそろ時間のようですわ」
立ち上がり、会釈と共に告げます。
「実に有意義な一日でした。またお会い出来る日を楽しみにしていますね」
「う。む……?」
小首を傾げるイェスパーさんを無視して、そのまま帰路へ付きました。
――うん。私、今、結構満足してますね!
●メトロノーム・ソングライト(ka1267)
此処では落ち着きませんから、と。少女はイェスパーを手に載せて移動し始めたのだが、「この雑踏では落ち着けようもないぞ! いつ喋るのだ? 今だろう!」と喧しい。
人目を引くことこの上なく、少女――メトロノームは咄々と、己の過去を語り始めた。
―・―
少女の話をしよう。少女は蒼い髪のエルフであった。筆者は種族に偏見をもたないが、無垢なる童女といった風情の少女だった。その声色は清水を想起させる澄みきったもの。人の身にはあり得ぬほどに透明な声で少女は自らの過去を語った。
―・―
始まりは、わたしが父母に連れられて訪れた洞窟。そこでわたしは、巨大な青水晶と出会いました。
『彼女』は――吸い込まれそうな程に澄んだ色をしていました。
足を踏み出せずにいたわたしの背を、父母は優しく押して、そして――気づけばわたしは、自室のベッドに居ました。
……あの場で起こったことは、殆ど覚えていません。
覚えているのはそれまで聴いたことも無いとても綺麗な歌声と、誘われるように――寄り添うように紡がれる、わたし自身の歌声。
夢か現かは定かではありません。
けれど、わたしはその時、青水晶の精霊の加護を受けたことは確かです。
それからわたしは、彼女と共に居ました。常に傍らにいた彼女と、歌を通して繋がっていた。
歌い会える彼女が居た、そのことがただ、嬉しかった……。
―・―
友達が出来ただけの事だった、と表した少女の言を思えばその親しさも伺い知れよう。少女は当時、真実幼かったのだから。
少女はもとより歌を好んでいた。それが、精霊との出会いでより深められたのだろう。
戦う為の力を求めての契約とは異なり、少女はただただ一人のエルフとして長じ、その生活の中で青水晶の精霊の加護を受けた。歌と、故郷での暮らしを通して、その絆を育んだのだ。
しかし今、少女は此処に居る。ハンターとして、外の世界に。
そのことを問いかけても少女は透明な表情を崩さなかった。
彼女は、ただ、こう告げた。
――わたしと彼女が、あの日に無くしたものを取り戻すため、と。
その言葉で、少女の透明さはかつての喪失ゆえのものだと、知れた。
そして、少女がその澄み切った声で紡いでくれた、儚げな旋律を思った。かつての、交歓の旋律を。
……あの歌声に籠められた哀切は、かつては違った色で紡がれていたのだろう。
●Holmes(ka3813)
古来より人は故事を通して自らを律し、あるいは糧にして長じて来た。力ある物語は人を動かし、世界に指向性を与え得る。
――彼女もそうした一人なのだろう。
だがこれが、ドワーフで、となると珍しい。彼らの生き様は極めて明快だ。それ故に、彼女の存在は――そう、『簡単な事』では、ない。
彼女はパイプを手にこう語った。
「契約した時の話、だったね。ふむ、一言で言うなら、『家出の為』だったかな?」
―・―
実は、ボクは青い血筋でね。当時は次期当主という肩書きが付く位には優秀だったのさ。
そんなボクは、ある日後学の為にとリアルブルーの書物に手を出したんだ。
……なんだい、その目は? まあ、いい。
当時はまだ物珍しいものばかりだったからね。新しい知識として糧にならないかと思ったのさ。
―・―
彼女が手に取ったのは、推理小説だったそうだ。
馴染みなどない世界で事件が起こり、未知の単語が踊り、散らばれた論理が、ただ一人の存在によってつなぎ合わされる。
魅せられた、と。彼女はその小さな手を握りしめて言った。
「自由だよ、自由」
言葉には興奮の色が滲んではいた、が。
「煩わしい肩書きを持たず、事件解決の為だけに生きる活動家……そう成りたいと思うのに、時間は掛からなかったよ」
成程、家出の為、というのが良く良く解る言い様であった。
―・―
当然の事ながら両親は猛反対。
手塩にかけて育ててきた娘が、家を出たいと言うんだ。無理からぬことさ。いやあ、凄かったね。
覚悟はしていたけれど、最後に両親から家名を名乗る事を禁止された時は、流石に頭が真っ白になった。
その時さ。
精霊の声を、聞いたのは。
精霊は、ただ一言だけ、こう言った。
「名乗れ」、とね。
何を、とは思わなかった。名乗るべき名前なんて、唯一つしか無かったからね。
『簡単な事』だったさ。だから、ボクは迷わずその名前を口にしたよ。
―・―
慣例に従い、その名は伏せさせていただこう。ただ、こうして彼女は晴れて探偵になった。ただ一人、身一つで事件に飛び込む存在に。
彼女に関して付記するべき事があるとしたら――残念ながらその容姿故かパイプ煙草が似合わない事と、この話がおよそ七十年前の出来事で、既に家督は弟君が継がれている、ということ、だろうか。
今では一切の憂いもなく探偵をしている彼女は、実にドワーフらしかった。
●フィーナ・ウィンスレット(ka3974)
――折角展覧会に行こうとしていたのに。私の足止めをするなど……。
「万死に値しますね。ぶち殺しましょう」
「ん?」
唐突に呼び止められたフィーナの口元から、呟きと共にドス黒い殺気が零れたが、キノコは気づかなかったようだ。
「いえ、何も……それで、何でしたっけ?」
「取材だ!」
「取材……まあ、いいですけど」
じ、とイェスパーを見下ろす瞳の奥では、一体如何なる光景が繰り広げられているのだろうか。酷く、冷たい色をしていた。
―・―
仕事柄変人奇人と相対することは少なくなく、取材の成果を記事に起こさぬのも勿体無い。しかし虚偽を記すのも主義に反する。
――懸命なる読者諸君。そして関係者各位にはこういう事もあるのだ、と暖かく受け止めて頂きたい。
彼女の契約は、雨の日に執り行われた。
―・―
丁度、ギルドの目の前辺りでしょうか。そこで一台の馬車とすれ違いまして――あろうことか私のドレスの裾を泥水で少し汚したのです。
私は強い殺意を抱いて契約に臨みました。
―・―
彼女はエルフだ。見栄え良く、身嗜みも美しい。ドレスを穢されたばかりの彼女の前に、精霊は顕れた。精霊は彼女の姿をしていたという。それが、二人。それぞれ純白の翼を有した天使と、漆黒の翼の悪魔をしていたそうだ。
「あれは私の良心と悪心だったのかもしれません」
彼女は、かつてのことをそう回顧した。
―・―
悪魔の私は、何度も何度も「殺っちまえよ……」と囁いていました。
そして天使も私に「殺っちまえよ……」と囁いていました。
つまり私は、裏表のない素直でキヨラカなエルフだという事です。
ん? 何ですかその目は。ぶち殺しますよ?
―・―
兎角、彼女は精霊と契約を結んだ。その精霊が何をしたかったのかは定かではないのだが、何事も無く契約が結べているということは、そういう事なのだろう。
彼女は、彼女にとっての『敵』は須らく『ぶち殺すべき存在』であり、『どさくさに紛れてぶち殺すリスト』に記載された者すべてをぶち殺すまで止まらない、と添えて薄く笑っていた。
お前のようなキヨラカエルフが居るか、という声は、飲み込んだ方が良いだろう。
理由として彼女の家訓をお教えする。社会安保の観点からも、読者諸君にはお見知り置き頂きたい。
『人を憎むより憎まれろ!
人を恨むよりも恨まれろ!
ぶち殺される前にぶち殺せ!』
●
「ハンターも、色々……か……」
取材した内容に衝撃を受けたか殺気にあてられたか。固まっているイェスパーを慰めるようにアレンは呟いた。自らの取材を終えた後、同道して見聞きしたことは――やはり、というべきか。彼にとってはどれも刺激的で興味深いことばかり。
「さて」
そうして、イェスパーの返事もないし、はぐれた姉でも探すか、と。彼もまた雑踏に消えていった。
土産話も出来たし、と。姉を探すその表情は明るい。
――ハンターになって変わったといえ、彼にとって最も大事なものは変わらないようだった。
めでたし、めでたし。
筆者にとっては折よく、と言おうか。人と逸れた所に取材をする事が出来た赤毛の青年は、戸惑いを見せはしたものの、ぽつりぽつりと語り始めた。語調は柔らかいが、鍛えられた戦士特有の、深みのある声で。
――彼にとっては、覚醒者とは成るものではなく、至るものであった。
手を抜くことなく鍛錬に励んでいたというから、近年稀に見る筋金入りの戦士だったのだろう。
しかし、彼は精霊と契約をした。
時勢だった。歪虚が居て、彼には護るべきものが居たのだ。
雑魔の群れを相手に瀕死に至り、護るべきを護れる力が無いと理解した時、彼は覚醒者に『成る』事を決めた。
―・―
……ハンターになりたくは、なかった。姉と、離れる事になるかも知れなかったから。
ただ、護りたかった。そのために武技を磨き、身を鍛え……マテリアルの扱いを学んでいた。
でも。それでも護れないのならば……意味が無い。
――力が、欲しかった。ただ一人……大切な人を、護る為の。
―・―
回想にその時の感情が呼び起こされたか。青年の口調に、熱が籠もる。
それから彼は、自らの生い立ちを語った。その声色だけで彼の裡で姉君がどれだけの場所を占めているのかは知れたが――幼少の折から、その拠り所は姉君だけだったそうだ。生家にはいい思い出がなかった、と。
その思いの深さは、声を掛けた当所からは考えられないほどだ。柔らかな平穏と、どこか病的な執着が同居している青年は、その意味で歪んでいる。
だが。彼は少しずつ、変わってきても居るのだろう。ハンターになり、世界を知る日々の中で。
かつて、彼の世界は狭く姉君を通してしか見えなかったのかもしれない。
だが、今の彼は姉君以外にも価値を見出している。例えば――筆者の取材を受け容れたように。
●ラウリィ・ディバイン(ka0425)
「取材? いいよいいよー」
「おお! 物分かりが良いな青年!」
ラウリィは珍妙な呼び止めにも動じずに、そう応じた。彼のペットの柴犬はイェスパーの周りをウロついている。
「俺の雄姿が王国に広まっちゃうわけでしょ?」
「吾輩が書けば増刷間違いなしだ!」
「オッケーオッケー、どんどんやっちゃってー♪ あ。でも、わんこがいるから、このまま外で取材受けさせてね」
「構わ――ぬぅぉ!?」
動揺は揚々とイェスパーが掲げた手に反応した柴犬が咥え上げたが故のものだ。
「……」
咥えられたまま、目と口を大きく開いて固まるイェスパー。
「あ、その子茸が好きなんだよね……ごめんね?」
「……」
「おーい?」
固まった茸からはなんの応答もなかった。
「んー」
とりあえず、ラウリィはイェスパーのひげを引っ張りながら落ち着ける場所を探す事にした。
―・―
「それで、精霊と契約した時のことだっけ?」
「うむ!」
所改まり、柴犬から降ろされると調子が戻ったみたいだ。チビた鉛筆を取り出した彼の期待に応えるべく、かつての光景を思い出す。
「俺が、契約した、あの日」
「うむ!」
「なんていうか」
「うむ!」
「髪の長いきれいでスタイルのいいお姉さんに抱きしめられて、その豊満なバストに埋もれて気持ちよくなってたら覚醒してた感じ?」
「……それだけか?」
「うん」
「……」
途端につまらなそうな顔になった茸に、苦笑がこぼれた。
「まあ、俺もそういう風に感じたってだけだからね」
何か、添えようかな、と。言葉を探す。覚醒した時の話からはズレるけど。
「ただ、あのお姉さんは、俺が故郷の森に対して抱いてるイメージが具現化したものなんだと思ってる」
「それだ! それを待っていた!」
猛烈な勢いメモを始めた茸を他所に。
蕭、と。
雑踏を貫いて、風が鳴った。
その行く末に目を向けながら、こう添えた。
故郷、と思えば、言葉も積もるものだ。
「今はこうして森を出てるけど、いろんな経験をして、いつかはまたあの腕に抱かれに戻ろうかな、なんて」
「バストでなくか?」
「バストもだねー……あ、今のカットで」
―・―
「で、挿絵ってつけてくれるの?」
「つかないぞ?」
「え……俺の顔も一緒に王国中に広めてもらって、あわよくば行く先々の街で素敵な女性とらんでぶー、みたいな……」
「個人情報には配慮しているからな!」
「ええー……」
●リーリア・バックフィード(ka0873)
「初めまして、イェスパーさん」
「うむ!」
淑女然と礼をしたリーリアに、イェスパーは茸の矮躯で器用にも古式ゆかしき礼を返した。リーリアの目が、笑みの気配はそのままに僅かに細められる。
「確か、ヒカヤ紅茶の露店がありましたね……そちらでお話をしましょうか」
つ、と。イェスパーに道を示すと、茸は紳士的に歩を進めた。些か古風だが、エスコートのつもりなのだろう。
―・―
紅茶とケーキを注文し、席につきました。
――同様の取材は前にありました、けど。
「キノコが取材とは珍妙な事もあるんですね」
「我輩は文筆家だからな!」
「あ、ちなみに文筆家には見えませんよ」
「何ィ……? これを見ろ!」
差し出された鉛筆は無視して、イェスパーさんの全身を見回してみます。
うん。
「取材を受ける変わりに、貴方の事も教えて下さるのでしたら、お答えしますよ?」
「我輩の? 物好きな奴だな……」
貴方に言われるほどの事ではないですが。
許可を頂いた『ことにして』、土産話の為に調べさせて貰いましょう。
―・―
取材は礼節をもって適当に。
先ずはヒゲから攻めることにしました。
―・―
茸にヒゲ……珍妙です。
「我輩のヒゲが何か?」
「いえ、本当にエレガントなお髭ですね……」
「うむ。毎朝整えているからなぁ」
特に反応なし。触り心地も、普通のヒゲでした。
伸ばしたら痛がりました。
―・―
次の質問も礼節をもって適当に。
私は傘を攻めました。
―・―
黒系統の傘を捲ろうとすると。
「吾輩の髪が何か?」
髪?
「……髪ですか?」
「髪だが」
困惑げなイェスパーさんにむしろ困惑します、が。力を込めようとしたら「髪型が乱れる!」と拒絶されました。
―・―
「普段、何を食べられているのです?」
「僅かばかりのパンと水だな!」
「……質素、ですね」
「文筆業は儲からんからなぁ」
茸がパンを……。
「ちなみに貴方は美味しいのですか?」
「君は何を言っているんだ」
真顔で返されました。
……うん、そろそろ、満足ですね。
「あら、もう少しお話したかったのですが、そろそろ時間のようですわ」
立ち上がり、会釈と共に告げます。
「実に有意義な一日でした。またお会い出来る日を楽しみにしていますね」
「う。む……?」
小首を傾げるイェスパーさんを無視して、そのまま帰路へ付きました。
――うん。私、今、結構満足してますね!
●メトロノーム・ソングライト(ka1267)
此処では落ち着きませんから、と。少女はイェスパーを手に載せて移動し始めたのだが、「この雑踏では落ち着けようもないぞ! いつ喋るのだ? 今だろう!」と喧しい。
人目を引くことこの上なく、少女――メトロノームは咄々と、己の過去を語り始めた。
―・―
少女の話をしよう。少女は蒼い髪のエルフであった。筆者は種族に偏見をもたないが、無垢なる童女といった風情の少女だった。その声色は清水を想起させる澄みきったもの。人の身にはあり得ぬほどに透明な声で少女は自らの過去を語った。
―・―
始まりは、わたしが父母に連れられて訪れた洞窟。そこでわたしは、巨大な青水晶と出会いました。
『彼女』は――吸い込まれそうな程に澄んだ色をしていました。
足を踏み出せずにいたわたしの背を、父母は優しく押して、そして――気づけばわたしは、自室のベッドに居ました。
……あの場で起こったことは、殆ど覚えていません。
覚えているのはそれまで聴いたことも無いとても綺麗な歌声と、誘われるように――寄り添うように紡がれる、わたし自身の歌声。
夢か現かは定かではありません。
けれど、わたしはその時、青水晶の精霊の加護を受けたことは確かです。
それからわたしは、彼女と共に居ました。常に傍らにいた彼女と、歌を通して繋がっていた。
歌い会える彼女が居た、そのことがただ、嬉しかった……。
―・―
友達が出来ただけの事だった、と表した少女の言を思えばその親しさも伺い知れよう。少女は当時、真実幼かったのだから。
少女はもとより歌を好んでいた。それが、精霊との出会いでより深められたのだろう。
戦う為の力を求めての契約とは異なり、少女はただただ一人のエルフとして長じ、その生活の中で青水晶の精霊の加護を受けた。歌と、故郷での暮らしを通して、その絆を育んだのだ。
しかし今、少女は此処に居る。ハンターとして、外の世界に。
そのことを問いかけても少女は透明な表情を崩さなかった。
彼女は、ただ、こう告げた。
――わたしと彼女が、あの日に無くしたものを取り戻すため、と。
その言葉で、少女の透明さはかつての喪失ゆえのものだと、知れた。
そして、少女がその澄み切った声で紡いでくれた、儚げな旋律を思った。かつての、交歓の旋律を。
……あの歌声に籠められた哀切は、かつては違った色で紡がれていたのだろう。
●Holmes(ka3813)
古来より人は故事を通して自らを律し、あるいは糧にして長じて来た。力ある物語は人を動かし、世界に指向性を与え得る。
――彼女もそうした一人なのだろう。
だがこれが、ドワーフで、となると珍しい。彼らの生き様は極めて明快だ。それ故に、彼女の存在は――そう、『簡単な事』では、ない。
彼女はパイプを手にこう語った。
「契約した時の話、だったね。ふむ、一言で言うなら、『家出の為』だったかな?」
―・―
実は、ボクは青い血筋でね。当時は次期当主という肩書きが付く位には優秀だったのさ。
そんなボクは、ある日後学の為にとリアルブルーの書物に手を出したんだ。
……なんだい、その目は? まあ、いい。
当時はまだ物珍しいものばかりだったからね。新しい知識として糧にならないかと思ったのさ。
―・―
彼女が手に取ったのは、推理小説だったそうだ。
馴染みなどない世界で事件が起こり、未知の単語が踊り、散らばれた論理が、ただ一人の存在によってつなぎ合わされる。
魅せられた、と。彼女はその小さな手を握りしめて言った。
「自由だよ、自由」
言葉には興奮の色が滲んではいた、が。
「煩わしい肩書きを持たず、事件解決の為だけに生きる活動家……そう成りたいと思うのに、時間は掛からなかったよ」
成程、家出の為、というのが良く良く解る言い様であった。
―・―
当然の事ながら両親は猛反対。
手塩にかけて育ててきた娘が、家を出たいと言うんだ。無理からぬことさ。いやあ、凄かったね。
覚悟はしていたけれど、最後に両親から家名を名乗る事を禁止された時は、流石に頭が真っ白になった。
その時さ。
精霊の声を、聞いたのは。
精霊は、ただ一言だけ、こう言った。
「名乗れ」、とね。
何を、とは思わなかった。名乗るべき名前なんて、唯一つしか無かったからね。
『簡単な事』だったさ。だから、ボクは迷わずその名前を口にしたよ。
―・―
慣例に従い、その名は伏せさせていただこう。ただ、こうして彼女は晴れて探偵になった。ただ一人、身一つで事件に飛び込む存在に。
彼女に関して付記するべき事があるとしたら――残念ながらその容姿故かパイプ煙草が似合わない事と、この話がおよそ七十年前の出来事で、既に家督は弟君が継がれている、ということ、だろうか。
今では一切の憂いもなく探偵をしている彼女は、実にドワーフらしかった。
●フィーナ・ウィンスレット(ka3974)
――折角展覧会に行こうとしていたのに。私の足止めをするなど……。
「万死に値しますね。ぶち殺しましょう」
「ん?」
唐突に呼び止められたフィーナの口元から、呟きと共にドス黒い殺気が零れたが、キノコは気づかなかったようだ。
「いえ、何も……それで、何でしたっけ?」
「取材だ!」
「取材……まあ、いいですけど」
じ、とイェスパーを見下ろす瞳の奥では、一体如何なる光景が繰り広げられているのだろうか。酷く、冷たい色をしていた。
―・―
仕事柄変人奇人と相対することは少なくなく、取材の成果を記事に起こさぬのも勿体無い。しかし虚偽を記すのも主義に反する。
――懸命なる読者諸君。そして関係者各位にはこういう事もあるのだ、と暖かく受け止めて頂きたい。
彼女の契約は、雨の日に執り行われた。
―・―
丁度、ギルドの目の前辺りでしょうか。そこで一台の馬車とすれ違いまして――あろうことか私のドレスの裾を泥水で少し汚したのです。
私は強い殺意を抱いて契約に臨みました。
―・―
彼女はエルフだ。見栄え良く、身嗜みも美しい。ドレスを穢されたばかりの彼女の前に、精霊は顕れた。精霊は彼女の姿をしていたという。それが、二人。それぞれ純白の翼を有した天使と、漆黒の翼の悪魔をしていたそうだ。
「あれは私の良心と悪心だったのかもしれません」
彼女は、かつてのことをそう回顧した。
―・―
悪魔の私は、何度も何度も「殺っちまえよ……」と囁いていました。
そして天使も私に「殺っちまえよ……」と囁いていました。
つまり私は、裏表のない素直でキヨラカなエルフだという事です。
ん? 何ですかその目は。ぶち殺しますよ?
―・―
兎角、彼女は精霊と契約を結んだ。その精霊が何をしたかったのかは定かではないのだが、何事も無く契約が結べているということは、そういう事なのだろう。
彼女は、彼女にとっての『敵』は須らく『ぶち殺すべき存在』であり、『どさくさに紛れてぶち殺すリスト』に記載された者すべてをぶち殺すまで止まらない、と添えて薄く笑っていた。
お前のようなキヨラカエルフが居るか、という声は、飲み込んだ方が良いだろう。
理由として彼女の家訓をお教えする。社会安保の観点からも、読者諸君にはお見知り置き頂きたい。
『人を憎むより憎まれろ!
人を恨むよりも恨まれろ!
ぶち殺される前にぶち殺せ!』
●
「ハンターも、色々……か……」
取材した内容に衝撃を受けたか殺気にあてられたか。固まっているイェスパーを慰めるようにアレンは呟いた。自らの取材を終えた後、同道して見聞きしたことは――やはり、というべきか。彼にとってはどれも刺激的で興味深いことばかり。
「さて」
そうして、イェスパーの返事もないし、はぐれた姉でも探すか、と。彼もまた雑踏に消えていった。
土産話も出来たし、と。姉を探すその表情は明るい。
――ハンターになって変わったといえ、彼にとって最も大事なものは変わらないようだった。
めでたし、めでたし。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 8人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/23 07:04:13 |