ゲスト
(ka0000)
【不動】GO AHEAD
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/28 19:00
- 完成日
- 2015/03/07 06:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ここが正念場だ! なんとしても死守しろ!」
ナナミ側を渡河しようとする無数の巨人型歪虚の軍勢。各国軍とハンターの混成部隊が戦闘を開始してから既に数時間が経過していた。
ただでさえ強力な巨人型が頭数を揃えて侵攻してくる。どの部隊もそれぞれの持ち場でよく戦っていたが、敵の攻撃に一人、また一人と倒れていく。
「次から次へと……いつになったら終わるんだ!」
「増援はまだなのか!?」
「どの陣営も持ち場の死守で手一杯です! 崩された地点を相互補助していますが……!」
中央陣地付近のこの戦場でも帝国軍とハンターの混成部隊が巨人と熾烈な闘いを繰り広げてきた。
だが体力はとっくに限界を超えている。巨人の攻撃をまともに喰らえば非覚醒者の兵などひとたまりもない。付近には何人もの兵士が倒れこんでいた。
「スキルがもう限界よ……魔法が撃てない!」
「こっちもそろそ覚醒限界だ! お前はもういい、まだ息のある兵士を拾って下がれ!」
巨人の振るう棍棒の一撃で重い鎧を身につけた帝国兵が薙ぎ払われるのを遠目に若い闘狩人が叫ぶ。
「あなたはどうするの!?」
「限界ギリギリまでやってみるさ。足止め……は無理だが、せいぜい逃げ周って翻弄してやらぁ」
魔術師の女に笑いかけ男は走り出した。それに続けと帝国兵も駆け出すが、巨人相手に出来る事はそう多くない。
唇を噛み締め、倒れた兵士を担いで歩き出す魔術師。その視界に荒野を疾走する一つの影が見えた。
それは砂煙を巻き上げながら真っ直ぐに突っ込んでくると魔術師を追い越し、更に闘狩人達も追い越して巨人に向かっていく。
「なんだありゃ!? バイク……か!?」
赤いマントをはためかせ、バイクは倒れた巨人の亡骸を台に見立て跳んだ。
跳び上がったバイクは回転しながら空を舞う。鋼鉄の馬に跨ったその女が振るったのは人が扱うには巨大すぎる槍。
青白くマテリアルの光を放つそれで巨人の首を切りつけると大地を滑るように着地し、今度は背後からすれ違いざま巨人の足に一撃、転倒させながら戻ってくる。
「ふむ……当たり前だが重いな」
ポカンとしている兵士達がふと、思い出したように指差し。
「……ヴィ、ヴィルヘルミナ皇帝陛下であらせられますか?」
全身を黄金の鎧で包んだ女の顔はアーメットヘルムで見えなかったが、彼女の戦装束にくらい覚えはある。
「うむ。増援を連れてきた。これまでよく堪えてくれたな。後は我らに任せ、撤退するが良い」
「それはいいけどよ……陛下、あんたのバイク、煙上げてるぞ」
ハンターの指摘に女はゆっくりバイクから降りる。確かに黒煙が立ち上っている。そして暫し時を置き、バイクは爆発した。
「無茶をさせすぎたか。ナサニエルに借りた試作品だったのだが、まあ良い」
いいのだろうか。それはともかく、後方からは無数の魔導トラックが接近しつつあった。
その荷台に固定された四本足の新型、量産型魔導アーマーがエンジンを唸らせる。
大勢の兵士達と共に歩き出した魔導アーマーを一瞥し、皇帝は長大な槍を肩に乗せ敵を仰ぐ。
「時間稼ぎ……いや。“敵戦力包囲”ご苦労。程よく敵は疲労し、そして傷つき一箇所に集中している」
無数の魔導アーマーと共に兵士達が隊列を組む。女は僅かに口元を緩め。
「ここまでは防衛戦だが、これからは違う。征くぞ。歪虚共を片っ端から“殲滅”する」
ナナミ河を怠惰の歪虚率いる軍勢が進軍開始したと連絡が入って直ぐ、皇帝は魔導アーマーの実戦投入を決定した。
「丁度まとまった数をカールスラーエの実験場に用意してあるではないか。ナナミ河などすぐそこだ、そっくりそのまま移動させれば良い」
「それは構いませんが、私は魔導型CAMの最終調整で手が離せませんよぉ?」
「わかっている。ヤン、魔導アーマー出撃の手配を任せる。出来るな?」
直前まで皇帝はリゼリオをほっつき歩いていたらしい。何をしていたのかまでナサニエルもヤンも突っ込まなかった。
「ブリジッタも今はアーマーユニット計画で手が離せないし……承知致しましたわ、陛下。こういう時くらい仕事をしなくっちゃね」
「あ。ついでなので、カールスラーエに運び込んでいる試作兵器とか、使えそうなのがあったら持って行って下さい。データさえ後で頂ければ壊しても構いません」
「壊しても構わんのか?」
「ええ。壊すなって言ってもどうせ壊すんでしょう?」
にっこりと少女のように微笑むヴィルヘルミナにナサニエルは眉を潜め笑った。
帝国領最北のカールスラーエ要塞に集められたハンター達。
ヴィルヘルミナは魔導アーマーを搭載した魔導トラックを前にハンター達へ向かい合う。
「今回の作戦では魔導アーマーも実戦投入される。先の事件で役に立たなかったポンコツとはもうわけが違う。これは立派な巨人相手の盾に成り得る」
四本足の巨大な鉄の塊。CAMのような美しい人型からは遠ざかったが、強度も出力もこれまでとは比較にならない程だ。
「何機かはハンターの諸君らにも貸し与える。操縦方法に少し癖があるので無理にとは言わんが、希望者は名乗り出る事。こうしている間にも既に前線では闘いが始まっている。準備が完了した部隊から出発するぞ」
帝国兵と共にハンター達もトラックに乗り込んでいく。そんな中一人のハンターが魔導アーマーのマニュアルを手に考えに耽っていた。
「どうした? 心配事か?」
マニュアルを閉じるハンター。これが魔導アーマーの真の初陣だというのなら、心配するのも無理もないが。
「先のマギア砦での闘い、多くの犠牲者を出してしまった。恐らくこの闘いでも同じ事が起こるだろう。だが、犠牲を恐れ足を止めれば、人は弱さに飲み込まれてしまう」
そう語りながら皇帝が手を伸ばしたのは魔導アーマー用の新型武装だった。大型の槍、それをむんずと掴み。
「誰にも死ぬなと言いながら、犠牲を恐れず突き進めと語る私の矛盾を君は笑うかね?」
ハンターへ目を向け、女は優しく笑う。それからハンターの肩を叩き。
「命は一つしかない。そしてその命は君だけのものだ。恐怖を消し去る事は出来ないし、それは正しくはない。だからこそ死を恐れ、いざとなれば逃げ帰れ。生き延びて恐怖と共存する事こそ、人類の強さなのだから――」
「総員抜刀! これより敵歪虚群を一掃する!」
皇帝は勇敢だ。その背中に、その力強さに兵達は士気をあげ、雄叫びを上げる。
剣を掲げて粋がっても、きっとこの中の何人かは生きて帰れない。もしかしたらそれは、全員なのかもしれない。
恐怖と共存し、生き残れ。優しくそう言った彼女と今の彼女、どちらが本物なのか。
マニュアルを閉じ握り締めた操縦桿。冷たい感触に汗を滲ませ、魔導アーマーが今、進軍を開始した。
ナナミ側を渡河しようとする無数の巨人型歪虚の軍勢。各国軍とハンターの混成部隊が戦闘を開始してから既に数時間が経過していた。
ただでさえ強力な巨人型が頭数を揃えて侵攻してくる。どの部隊もそれぞれの持ち場でよく戦っていたが、敵の攻撃に一人、また一人と倒れていく。
「次から次へと……いつになったら終わるんだ!」
「増援はまだなのか!?」
「どの陣営も持ち場の死守で手一杯です! 崩された地点を相互補助していますが……!」
中央陣地付近のこの戦場でも帝国軍とハンターの混成部隊が巨人と熾烈な闘いを繰り広げてきた。
だが体力はとっくに限界を超えている。巨人の攻撃をまともに喰らえば非覚醒者の兵などひとたまりもない。付近には何人もの兵士が倒れこんでいた。
「スキルがもう限界よ……魔法が撃てない!」
「こっちもそろそ覚醒限界だ! お前はもういい、まだ息のある兵士を拾って下がれ!」
巨人の振るう棍棒の一撃で重い鎧を身につけた帝国兵が薙ぎ払われるのを遠目に若い闘狩人が叫ぶ。
「あなたはどうするの!?」
「限界ギリギリまでやってみるさ。足止め……は無理だが、せいぜい逃げ周って翻弄してやらぁ」
魔術師の女に笑いかけ男は走り出した。それに続けと帝国兵も駆け出すが、巨人相手に出来る事はそう多くない。
唇を噛み締め、倒れた兵士を担いで歩き出す魔術師。その視界に荒野を疾走する一つの影が見えた。
それは砂煙を巻き上げながら真っ直ぐに突っ込んでくると魔術師を追い越し、更に闘狩人達も追い越して巨人に向かっていく。
「なんだありゃ!? バイク……か!?」
赤いマントをはためかせ、バイクは倒れた巨人の亡骸を台に見立て跳んだ。
跳び上がったバイクは回転しながら空を舞う。鋼鉄の馬に跨ったその女が振るったのは人が扱うには巨大すぎる槍。
青白くマテリアルの光を放つそれで巨人の首を切りつけると大地を滑るように着地し、今度は背後からすれ違いざま巨人の足に一撃、転倒させながら戻ってくる。
「ふむ……当たり前だが重いな」
ポカンとしている兵士達がふと、思い出したように指差し。
「……ヴィ、ヴィルヘルミナ皇帝陛下であらせられますか?」
全身を黄金の鎧で包んだ女の顔はアーメットヘルムで見えなかったが、彼女の戦装束にくらい覚えはある。
「うむ。増援を連れてきた。これまでよく堪えてくれたな。後は我らに任せ、撤退するが良い」
「それはいいけどよ……陛下、あんたのバイク、煙上げてるぞ」
ハンターの指摘に女はゆっくりバイクから降りる。確かに黒煙が立ち上っている。そして暫し時を置き、バイクは爆発した。
「無茶をさせすぎたか。ナサニエルに借りた試作品だったのだが、まあ良い」
いいのだろうか。それはともかく、後方からは無数の魔導トラックが接近しつつあった。
その荷台に固定された四本足の新型、量産型魔導アーマーがエンジンを唸らせる。
大勢の兵士達と共に歩き出した魔導アーマーを一瞥し、皇帝は長大な槍を肩に乗せ敵を仰ぐ。
「時間稼ぎ……いや。“敵戦力包囲”ご苦労。程よく敵は疲労し、そして傷つき一箇所に集中している」
無数の魔導アーマーと共に兵士達が隊列を組む。女は僅かに口元を緩め。
「ここまでは防衛戦だが、これからは違う。征くぞ。歪虚共を片っ端から“殲滅”する」
ナナミ河を怠惰の歪虚率いる軍勢が進軍開始したと連絡が入って直ぐ、皇帝は魔導アーマーの実戦投入を決定した。
「丁度まとまった数をカールスラーエの実験場に用意してあるではないか。ナナミ河などすぐそこだ、そっくりそのまま移動させれば良い」
「それは構いませんが、私は魔導型CAMの最終調整で手が離せませんよぉ?」
「わかっている。ヤン、魔導アーマー出撃の手配を任せる。出来るな?」
直前まで皇帝はリゼリオをほっつき歩いていたらしい。何をしていたのかまでナサニエルもヤンも突っ込まなかった。
「ブリジッタも今はアーマーユニット計画で手が離せないし……承知致しましたわ、陛下。こういう時くらい仕事をしなくっちゃね」
「あ。ついでなので、カールスラーエに運び込んでいる試作兵器とか、使えそうなのがあったら持って行って下さい。データさえ後で頂ければ壊しても構いません」
「壊しても構わんのか?」
「ええ。壊すなって言ってもどうせ壊すんでしょう?」
にっこりと少女のように微笑むヴィルヘルミナにナサニエルは眉を潜め笑った。
帝国領最北のカールスラーエ要塞に集められたハンター達。
ヴィルヘルミナは魔導アーマーを搭載した魔導トラックを前にハンター達へ向かい合う。
「今回の作戦では魔導アーマーも実戦投入される。先の事件で役に立たなかったポンコツとはもうわけが違う。これは立派な巨人相手の盾に成り得る」
四本足の巨大な鉄の塊。CAMのような美しい人型からは遠ざかったが、強度も出力もこれまでとは比較にならない程だ。
「何機かはハンターの諸君らにも貸し与える。操縦方法に少し癖があるので無理にとは言わんが、希望者は名乗り出る事。こうしている間にも既に前線では闘いが始まっている。準備が完了した部隊から出発するぞ」
帝国兵と共にハンター達もトラックに乗り込んでいく。そんな中一人のハンターが魔導アーマーのマニュアルを手に考えに耽っていた。
「どうした? 心配事か?」
マニュアルを閉じるハンター。これが魔導アーマーの真の初陣だというのなら、心配するのも無理もないが。
「先のマギア砦での闘い、多くの犠牲者を出してしまった。恐らくこの闘いでも同じ事が起こるだろう。だが、犠牲を恐れ足を止めれば、人は弱さに飲み込まれてしまう」
そう語りながら皇帝が手を伸ばしたのは魔導アーマー用の新型武装だった。大型の槍、それをむんずと掴み。
「誰にも死ぬなと言いながら、犠牲を恐れず突き進めと語る私の矛盾を君は笑うかね?」
ハンターへ目を向け、女は優しく笑う。それからハンターの肩を叩き。
「命は一つしかない。そしてその命は君だけのものだ。恐怖を消し去る事は出来ないし、それは正しくはない。だからこそ死を恐れ、いざとなれば逃げ帰れ。生き延びて恐怖と共存する事こそ、人類の強さなのだから――」
「総員抜刀! これより敵歪虚群を一掃する!」
皇帝は勇敢だ。その背中に、その力強さに兵達は士気をあげ、雄叫びを上げる。
剣を掲げて粋がっても、きっとこの中の何人かは生きて帰れない。もしかしたらそれは、全員なのかもしれない。
恐怖と共存し、生き残れ。優しくそう言った彼女と今の彼女、どちらが本物なのか。
マニュアルを閉じ握り締めた操縦桿。冷たい感触に汗を滲ませ、魔導アーマーが今、進軍を開始した。
リプレイ本文
●1
「総員突撃! 我に続け!」
パルスグレイブを掲げながら吼える皇帝の声に兵士達が戰く。
火蓋は切って落とされた。今まさに河を上がった巨人達へ向け、魔導アーマー部隊が前進を開始する。
「ハッハ、いやはや……殲滅とは豪気ですね」
魔導アーマーを操縦する米本 剛(ka0320)は誰よりも前を駆けるヴィルヘルミナの姿に笑みを浮かべる。
「この状況であの女、笑っていますわ」
「御大将自らがこんなぶっちぎりの最前線に居る事自体、もう豪気としか言えませんが……これで士気が上がらない方がおかしいですな」
剛のアーマーに同乗するエステル・L・V・W(ka0548)は鼻を鳴らし。
「本当、気に食わない女ですわ」
白い歯を見せ笑った。ここは最前線。先頭の巨人に飛び込んだヴィルヘルミナはグレイブを足首に叩きつけ、切断して見せる。
「うわー。ミナお姉さん凄すぎ?」
「追撃します! ユノさん、しっかり捕まって!」
砂煙を巻き上げ突進する魔導アーマー。三日月 壱(ka0244)は片足を切断され膝を着いた巨人へ、パイルバンカーを繰り出す。
「デカブツが……この前受けた傷の代償払ってもらうぜぇ!」
トリガーを引くと同時、巨大な杭が巨人の胸を貫通。蒸気を噴出しながら杭を引き抜くアーマーの操縦席からユノ(ka0806)は身を乗り出す。
「よっこいしょ。大型魔導銃、これなら流石に効くよね?」
壱のアーマーに同乗したユノは皇帝が持ち込んだ試作兵器である大型銃を構えると、パイクを受けてよろめいた敵へ引き金を引いた。
青白いマテリアル光が瞬き、轟音と共に銃は大きく真上にまで跳ね上がった。同時に錬金弾が敵の内側で爆発し、巨人の胸に大穴が開く。
「ぐ、おお……み、耳があ……っ」
「うわ~っ!? ちょっとちょっと、反動っていうかなにこれ!?」
塔のように真上でぐらつく銃身によろめくユノ。壱は耳が聞こえなくなっていたが、とりあえずユノを支える事にした。
「あんなに簡単に……巨人が倒れるなんて」
魔導アーマー兵に同乗するラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)が思わず零す。
皇帝も驚きだが、魔導アーマーや新型兵器の力は相当なものだ。上手く使えば、きっとこの最悪な戦場を打破出来る。
「ここには新兵器と、あれだけの力を持った皇帝、そして多数の銃兵がいます。殲滅は困難だとしても、戦術で道筋を示す事が出来れば、戦力差を覆す事は出来ます」
短伝と帝国軍用の無線を手に、摩耶(ka0362)はアーマー兵の隣で風に前髪を揺らす。
多数の魔導アーマーと共に帝国兵、そしてユニオンから動員されたハンター達は、それぞれ接近する巨人と衝突していく。
●3
「ふう……間に合ったか」
鎖で繋がれた鉄球を巻き戻し、腕に装着する。魔導アーマーに乗った鳳 覚羅(ka0862)は味方を狙う攻撃を目撃し、慌てて鉄球を放ったのだ。
「すまねェ、助かった!」
「どういたしまして。……大体操縦は把握した。さぁ、魔導アーマーとやらの性能を見せてもらうよ」
味方アーマー兵と共に盾を構えて前進する覚羅。友軍の攻撃で目潰しされた巨人を鉄球で殴り飛ばす。
「俺達を盾にしてくれて構わない! そのまま攻撃を続けてくれ!」
機導砲の光が巨人の顔に命中すると、アーマー兵がパイルバンカーを繰り出す。覚羅はそれに続いて鉄球を振り回し、巨体を薙ぎ倒す。
「状況、優勢です。歩兵はアーマーを盾に、敵を無力化して下さい」
「やはり手持ちの武器を投げてきましたか」
「遠距離武器を装備した巨人部隊は、概ね撃破されたと報告が入っています」
ゆっくり前進する摩耶を同乗させた魔導アーマーの横をメリエ・フリョーシカ(ka1991)は帝国兵を率いて走る。
「だとしても、岩や手持ちの武器を投げてくる可能性はあります」
「いざとなったらこいつを盾にしてくれ! 大丈夫だ、このお嬢ちゃんに怪我はさせんようにする!」
アーマー兵の声に頷くメリエ。正面には三体の巨人、そこへ放り投げたのはチョコレートを使ったマーキング弾だ。
「斉射は足を。数回試して効果薄なら、顔面をお願いします!」
膝をつき隊列を組む兵士達。ずらりと並んだ銃の側面でメリエは腕を振り上げる。
狙いはマーキングされた個体。右も左も敵だらけだが、どれにチョコがかかっているか位は見ればわかる。
「構え……撃てーッ!」
無数の銃弾が巨人を穿つ。銃弾の威力は低く精度も覚醒者には及ばないが、まとめれば十分な打撃力を持つ。
「次弾装填! 第二射構え!」
銃声が轟く。すると巨人の体がぐらついた。
メリエは斧を肩に乗せ走る。膝を着いた巨人の体を駆け上がり、マテリアルを込めた一撃を顔に叩き込んだ。
背後へ跳ぶメリエと入れ違いに駆け寄ったアーマーがパイルバンカーを打ち込み、横から走ってきた巨人の棍棒を盾で受け止める。
「次、あちらです……」
ラウィーヤを乗せた魔導アーマーは盾を構え、摩耶を乗せた機体を襲う巨人へ突進する。
体当たりで怯んだ巨人へ、衝撃のまま操縦席からラウィーヤが飛び出す。両手に構えた剣を顔に深く突き刺すと、首を蹴って刃を引き抜き、魔導アーマーに着地する。
「捕まってろ!」
アーマー兵はパイルバンカーをアッパー気味に打ち込むと、顎から後頭部まで吹っ飛ばす。
「これが魔導アーマーの、力……」
更に別の巨人が飛びかかってくるが、ラウィーヤは銃を構え発砲。至近距離で目を潰すと、アーマー兵は盾で巨人を打ち、回り込んだメリエが斧を打ち込む。
「帝国は力だ……それを示す! 陛下の御前で、無様な戦だけは……死んでもしない!」
●5
「ぬうううんっ!」
剛の登場する魔導アーマーは巨人の棍棒を盾で受け止めると、パイルバンカーを繰り出す。
貫いたのは巨人の膝。それと同時、搭乗席から跳躍したエステルが力任せに斧を振り下ろした。
狙いも何もあったものではないが、相手はデカブツ。とりあず距離さえ詰めとけばどこかしらかには当たるものだ。
「チッ! 顔を狙ったつもりが肩ですの!?」
反撃しようと試みる巨人、そこへ後方から銃弾と魔法が着弾する。
「あら、後方の歩兵? 追い付いてきたのですわ……ねッ!」
攻撃を阻害された敵を追撃し打ち倒すエステル。剛は視線を巡らせ。
「どうやら敵の数も随分減ったようです。御大将は……あちらですか」
見ればヴィルヘルミナは魔導アーマー用の武器で巨人とまともに打ち合っている。光を放つパルスグレイブで巨人を切り伏せ、悠々と河に足を踏み入れる。
「嵐のような御仁ですな」
「一人でいい格好はさせませんわ! 米本さん、全速前進です!」
「流石に魔導アーマーが悲鳴を上げてきたな……」
皇帝に続いて河での戦闘に入った壱とユノ。魔導アーマーは盾を装備した腕が耐久限界なのか、上手く動かせなくなってきた。
「壊れちゃったら予備機置いてあるんだし、乗り換えた方がいいね」
ハンター達は全ての魔導アーマーを一気に投入せず、予備機を用意していた。乗り換えればまた出撃出来るのだが……。
「大分前に出てきたし、誰かに持ってきてもらった方がいいかも」
そんな話をしながらユノは大型魔導銃を構え、引き金を引く。
耳を劈くような甲高い銃声と共に銃弾は光を帯びて巨人へ向かうが、狙いは大きく逸れ命中しない。
「この銃あまりにも扱い難しすぎるよ~。ミナお姉さんよくこんなの使うつもりだったなぁ」
「やっぱり接射するくらいしか使えませんか」
メリエは帝国兵を率いて浅瀬を駆け出す。覚羅とラウィーヤはそれぞれ左右から巨人の攻撃を抑え、兵達が前進、展開する時間を稼いだ。
「巨人殺しの伝承は……目を狙うか、転ばせるか、です」
「折角搭乗席が露出しているんだ。どうせなら利用させてもらう」
ラウィーヤと覚羅はそれぞれアーマーのコックピットから銃撃に加わる。メリエの指揮で銃を構えた兵士達も息を合わせ、一斉攻撃で巨人を退ける。
「陛下!」
叫ぶメリエ、しかし新たな巨人が襲いかかる。そこへ頭上を飛び越え、後方から飛来したハンターがアンカーで巨人へ取り付く。
「ここは俺達が引き受ける! きみ達は前へ!」
銃撃しつつ駆け寄る男。覚羅は鉄球を繰り出し、増援を守る様に巨人に立ち塞がる。
「俺はこっちに残るよ。彼らと一緒に敵を始末してから向かうから」
覚羅を残し皇帝の近くへ向かう一向。皇帝はまた一体、巨人を切り伏せた所だ。
「皇帝陛下……お一人でこれだけの戦闘力とは、規格外なお方ですね」
苦笑を浮かべる摩耶。巨人の増援はまだ止まない。渡河途中の敵は棍棒を手に次々に襲い掛かってくる。
次の瞬間、ユノの放ったスリープクラウドが巨人の顔に着弾。煙幕にもなって油断を誘う。
「ミナお姉さ~ん」
「好機と見ました! さあ、突撃です!」
手を振るユノ。壱のアーマーを追い越し、エステルを乗せた剛のアーマーが巨人へ突き進む。
ふらつく巨人へ跳躍し斬りかかるエステル。剛はそのまま巨人を押し倒し、パイルバンカーを打ち込む。
「Ghhhaaaaahh!!」
「さあ……悲鳴を上げて頂きますぞ!」
倒れた巨人に斧を振り下ろすエステル。剛がその体を何度も殴りつけると、巨人達は仲間の凄惨な様子に思わずたじろぐ。
「この仕打ちが『悪鬼羅刹』に見えますかね? ……大正解です」
壱は距離を詰めると別の巨人に突進し、ユノは銃口を突きつけ引き金を引く。魔導銃が吼え、巨体が大きく仰け反った。
「僕じゃこんな銃まともに構えて歩けないけど、アーマーに乗ってればなんとか」
「これもチームワークって奴ですよね! ……さあ、とっとと死に晒しやがれ!!」
倒れた巨人にパイルバンカーを打つ壱。ヴィルヘルミナはパルスグレイブに光を収束させ、腰溜めに構える。
「皆、私の後ろへ」
薙ぎ払うように繰り出されたのは光の斬撃。光波は複数の巨人を斬りつけ、吹き飛ばす。
「……無茶苦茶な人」
驚き目を開き、そして細める。膝を着いた皇帝の横顔にラウィーヤは呟いた。
今の攻撃は強力だが、明らかに大きな消耗を伴っている。それでも女はすぐ立ち上がった。
「そして……とても強い人」
――私とて正しくこの座を継いだわけではない。それでも名乗るのは、誓いのようなものだ。
道中、皇帝と交わした言葉を思い返す。彼女は強い言葉を選んで使う。まるで自分自身の弱さを否定し、誓いを立てる様に。
「行かなくちゃ。だって私も……メネル傭兵隊の、ラウィーヤなんだから」
パルスグレイブを開放した影響からか、ぐらりとヴィルヘルミナの体が傾いた。そこへ繰り出された巨人の一撃をメリエとエステル、二人の斧が交差し受け止める。
勿論意図したものではない。二人は顔を見合わせると同時にヴィルヘルミナの傍に跳んだ。
「あなたともあろうものが油断とはらしくありませんね!」
「陛下はお一人で多数の敵を屠っておられるのです。疲弊していて当然です!」
「勘違いなさらないで子犬ちゃん。例え昨日の仇としても、今日この良き戦場を笑って共に走れる。これでシビレずして何としましょう!」
斧の石突を大地に突き、エステルは胸に手を当て笑う。
「わたくし、護りますわ! 大概死ぬタマじゃありゃしないでしょうけれども……今この時は、あなたと共に!」
「ああ。頼りにさせてもらうよ、エステル」
にこりと笑った皇帝に少しだけメリエはむすっとした後、エステルを押しのけ。
「陛下は私がお護りします!」
「あなたに出来ますの? 子犬ちゃん!」
「騎士の誓いは論ずるにあらず! 我が技の冴えを見よ!」
二人は代わる代わる競うように攻撃し、巨人を薙ぎ倒す。何か少しかわいそうだ。
「何だか盛り上がってるみたいだね。俺も混ぜて貰うよ」
友軍を引き連れて駆けつけた覚羅が鉄球を飛ばし巨人をふっ飛ばしながら笑う。
「朗報です。どうやらCAM部隊が駆けつけ、戦況は一気に逆転したと」
アーマー兵に同乗しながら摩耶が笑みを浮かべる。皇帝は得物を振るい。
「このまま敵を殲滅する! 直に友軍も駆けつけるだろう! 一気に押しこむぞ!」
「作戦だったとはいえやられっぱなしは性に合わないからね……攻勢にでるというのならいくらでも協力するさ」
「やっぱりそれでこその戦よね! ヴィルヘルミナ・ウランゲル!!」
頷く覚羅。エステルは嬉しそうに声を上げる。
ヴィルヘルミナを先頭に、ハンター達は勢いの落ちた敵の殲滅を開始する。
●7A
渡河を中断し撤退した敵を追撃する作戦は、すぐに再開された。
「どうやら上手く行ったようですね」
摩耶が同乗する魔導アーマーは無数のボートに兵士を乗せ、浅瀬を渡っていく。
魔導アーマーの大きさなら消耗しない渡河も、人間の大きさでは苦戦する。ならば魔導アーマーを輸送に使えばいい。
このプランは大きく採用された。対岸から岩等を投げてくる巨人も居たが、魔導アーマーの盾で防ぐ事も出来、実に有用だったからだ。
「さあ米本さん! このまま奴らを撃滅しますわよ!」
剛の魔導アーマー、そして覚羅の魔導アーマーも渡河を完了し、増援のハンターや帝国兵と共に巨人へ向かっていく。
「まずは投石を阻止するよ! この場所を人類の橋頭堡とする!」
対岸で戦闘が再開されたのを遠巻きに眺めるヴィルヘルミナ。再び戦闘に参加するつもりではあったが、やはり先の戦いで大きく消耗していた。
「パルスグレイブ……やはり、危険な兵器なんですね」
あれは命を削る武器だ。皇帝だから扱えたが、ハンターが使うには危険すぎる。
そんなものを持ち出してまで戦おうとした彼女になんと声をかけたら良いのか。
「羊のフランソワって、ご存知ですか……?」
「え?」
「忘れて下さい……っ」
何を言っているのかとラウィーヤが頭を抱えていると。
「陛下、もう出発なされるのですか?」
近づいてきたのはメリエだ。心配そうに皇帝の前に立ち。
「陛下に無理をさせているとも気づかずに……申し訳ございません」
「好きでした無茶だよ」
「何時か必ず、陛下よりも強くなって、陛下も帝国も守れるぐらいになります。そしたら……」
拳を握り締め、少女は在りし日と同じ言葉を口にする。
「その時は、私を陛下の騎士にしてください」
女は目を丸くし。やはり在りし日と同じように少女の頭を撫で。
「ああ。きっと、待っているよ」
そう言った。
「ユノさん、代わりの魔導アーマー乗り換えたし、そろそろ行きますよ?」
「うにゅぅ……チョコ、溶けてる」
苦笑を浮かべる壱。
「魔導銃の排熱ハンパなかったですからね」
「折角ミナお姉さんと食べようと思ったのに……」
「見た目がどうあれ、チョコに違いはなかろう」
いつの間にか背後に立っていた皇帝はチョコを手に取り、包み紙を剥いで口に放り込む。
「行くぞ、ユノ」
ぱっと笑みを作るユノ。目指すは対岸。皇帝と共に、ハンター達はナナミ河を渡っていく。
「総員突撃! 我に続け!」
パルスグレイブを掲げながら吼える皇帝の声に兵士達が戰く。
火蓋は切って落とされた。今まさに河を上がった巨人達へ向け、魔導アーマー部隊が前進を開始する。
「ハッハ、いやはや……殲滅とは豪気ですね」
魔導アーマーを操縦する米本 剛(ka0320)は誰よりも前を駆けるヴィルヘルミナの姿に笑みを浮かべる。
「この状況であの女、笑っていますわ」
「御大将自らがこんなぶっちぎりの最前線に居る事自体、もう豪気としか言えませんが……これで士気が上がらない方がおかしいですな」
剛のアーマーに同乗するエステル・L・V・W(ka0548)は鼻を鳴らし。
「本当、気に食わない女ですわ」
白い歯を見せ笑った。ここは最前線。先頭の巨人に飛び込んだヴィルヘルミナはグレイブを足首に叩きつけ、切断して見せる。
「うわー。ミナお姉さん凄すぎ?」
「追撃します! ユノさん、しっかり捕まって!」
砂煙を巻き上げ突進する魔導アーマー。三日月 壱(ka0244)は片足を切断され膝を着いた巨人へ、パイルバンカーを繰り出す。
「デカブツが……この前受けた傷の代償払ってもらうぜぇ!」
トリガーを引くと同時、巨大な杭が巨人の胸を貫通。蒸気を噴出しながら杭を引き抜くアーマーの操縦席からユノ(ka0806)は身を乗り出す。
「よっこいしょ。大型魔導銃、これなら流石に効くよね?」
壱のアーマーに同乗したユノは皇帝が持ち込んだ試作兵器である大型銃を構えると、パイクを受けてよろめいた敵へ引き金を引いた。
青白いマテリアル光が瞬き、轟音と共に銃は大きく真上にまで跳ね上がった。同時に錬金弾が敵の内側で爆発し、巨人の胸に大穴が開く。
「ぐ、おお……み、耳があ……っ」
「うわ~っ!? ちょっとちょっと、反動っていうかなにこれ!?」
塔のように真上でぐらつく銃身によろめくユノ。壱は耳が聞こえなくなっていたが、とりあえずユノを支える事にした。
「あんなに簡単に……巨人が倒れるなんて」
魔導アーマー兵に同乗するラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)が思わず零す。
皇帝も驚きだが、魔導アーマーや新型兵器の力は相当なものだ。上手く使えば、きっとこの最悪な戦場を打破出来る。
「ここには新兵器と、あれだけの力を持った皇帝、そして多数の銃兵がいます。殲滅は困難だとしても、戦術で道筋を示す事が出来れば、戦力差を覆す事は出来ます」
短伝と帝国軍用の無線を手に、摩耶(ka0362)はアーマー兵の隣で風に前髪を揺らす。
多数の魔導アーマーと共に帝国兵、そしてユニオンから動員されたハンター達は、それぞれ接近する巨人と衝突していく。
●3
「ふう……間に合ったか」
鎖で繋がれた鉄球を巻き戻し、腕に装着する。魔導アーマーに乗った鳳 覚羅(ka0862)は味方を狙う攻撃を目撃し、慌てて鉄球を放ったのだ。
「すまねェ、助かった!」
「どういたしまして。……大体操縦は把握した。さぁ、魔導アーマーとやらの性能を見せてもらうよ」
味方アーマー兵と共に盾を構えて前進する覚羅。友軍の攻撃で目潰しされた巨人を鉄球で殴り飛ばす。
「俺達を盾にしてくれて構わない! そのまま攻撃を続けてくれ!」
機導砲の光が巨人の顔に命中すると、アーマー兵がパイルバンカーを繰り出す。覚羅はそれに続いて鉄球を振り回し、巨体を薙ぎ倒す。
「状況、優勢です。歩兵はアーマーを盾に、敵を無力化して下さい」
「やはり手持ちの武器を投げてきましたか」
「遠距離武器を装備した巨人部隊は、概ね撃破されたと報告が入っています」
ゆっくり前進する摩耶を同乗させた魔導アーマーの横をメリエ・フリョーシカ(ka1991)は帝国兵を率いて走る。
「だとしても、岩や手持ちの武器を投げてくる可能性はあります」
「いざとなったらこいつを盾にしてくれ! 大丈夫だ、このお嬢ちゃんに怪我はさせんようにする!」
アーマー兵の声に頷くメリエ。正面には三体の巨人、そこへ放り投げたのはチョコレートを使ったマーキング弾だ。
「斉射は足を。数回試して効果薄なら、顔面をお願いします!」
膝をつき隊列を組む兵士達。ずらりと並んだ銃の側面でメリエは腕を振り上げる。
狙いはマーキングされた個体。右も左も敵だらけだが、どれにチョコがかかっているか位は見ればわかる。
「構え……撃てーッ!」
無数の銃弾が巨人を穿つ。銃弾の威力は低く精度も覚醒者には及ばないが、まとめれば十分な打撃力を持つ。
「次弾装填! 第二射構え!」
銃声が轟く。すると巨人の体がぐらついた。
メリエは斧を肩に乗せ走る。膝を着いた巨人の体を駆け上がり、マテリアルを込めた一撃を顔に叩き込んだ。
背後へ跳ぶメリエと入れ違いに駆け寄ったアーマーがパイルバンカーを打ち込み、横から走ってきた巨人の棍棒を盾で受け止める。
「次、あちらです……」
ラウィーヤを乗せた魔導アーマーは盾を構え、摩耶を乗せた機体を襲う巨人へ突進する。
体当たりで怯んだ巨人へ、衝撃のまま操縦席からラウィーヤが飛び出す。両手に構えた剣を顔に深く突き刺すと、首を蹴って刃を引き抜き、魔導アーマーに着地する。
「捕まってろ!」
アーマー兵はパイルバンカーをアッパー気味に打ち込むと、顎から後頭部まで吹っ飛ばす。
「これが魔導アーマーの、力……」
更に別の巨人が飛びかかってくるが、ラウィーヤは銃を構え発砲。至近距離で目を潰すと、アーマー兵は盾で巨人を打ち、回り込んだメリエが斧を打ち込む。
「帝国は力だ……それを示す! 陛下の御前で、無様な戦だけは……死んでもしない!」
●5
「ぬうううんっ!」
剛の登場する魔導アーマーは巨人の棍棒を盾で受け止めると、パイルバンカーを繰り出す。
貫いたのは巨人の膝。それと同時、搭乗席から跳躍したエステルが力任せに斧を振り下ろした。
狙いも何もあったものではないが、相手はデカブツ。とりあず距離さえ詰めとけばどこかしらかには当たるものだ。
「チッ! 顔を狙ったつもりが肩ですの!?」
反撃しようと試みる巨人、そこへ後方から銃弾と魔法が着弾する。
「あら、後方の歩兵? 追い付いてきたのですわ……ねッ!」
攻撃を阻害された敵を追撃し打ち倒すエステル。剛は視線を巡らせ。
「どうやら敵の数も随分減ったようです。御大将は……あちらですか」
見ればヴィルヘルミナは魔導アーマー用の武器で巨人とまともに打ち合っている。光を放つパルスグレイブで巨人を切り伏せ、悠々と河に足を踏み入れる。
「嵐のような御仁ですな」
「一人でいい格好はさせませんわ! 米本さん、全速前進です!」
「流石に魔導アーマーが悲鳴を上げてきたな……」
皇帝に続いて河での戦闘に入った壱とユノ。魔導アーマーは盾を装備した腕が耐久限界なのか、上手く動かせなくなってきた。
「壊れちゃったら予備機置いてあるんだし、乗り換えた方がいいね」
ハンター達は全ての魔導アーマーを一気に投入せず、予備機を用意していた。乗り換えればまた出撃出来るのだが……。
「大分前に出てきたし、誰かに持ってきてもらった方がいいかも」
そんな話をしながらユノは大型魔導銃を構え、引き金を引く。
耳を劈くような甲高い銃声と共に銃弾は光を帯びて巨人へ向かうが、狙いは大きく逸れ命中しない。
「この銃あまりにも扱い難しすぎるよ~。ミナお姉さんよくこんなの使うつもりだったなぁ」
「やっぱり接射するくらいしか使えませんか」
メリエは帝国兵を率いて浅瀬を駆け出す。覚羅とラウィーヤはそれぞれ左右から巨人の攻撃を抑え、兵達が前進、展開する時間を稼いだ。
「巨人殺しの伝承は……目を狙うか、転ばせるか、です」
「折角搭乗席が露出しているんだ。どうせなら利用させてもらう」
ラウィーヤと覚羅はそれぞれアーマーのコックピットから銃撃に加わる。メリエの指揮で銃を構えた兵士達も息を合わせ、一斉攻撃で巨人を退ける。
「陛下!」
叫ぶメリエ、しかし新たな巨人が襲いかかる。そこへ頭上を飛び越え、後方から飛来したハンターがアンカーで巨人へ取り付く。
「ここは俺達が引き受ける! きみ達は前へ!」
銃撃しつつ駆け寄る男。覚羅は鉄球を繰り出し、増援を守る様に巨人に立ち塞がる。
「俺はこっちに残るよ。彼らと一緒に敵を始末してから向かうから」
覚羅を残し皇帝の近くへ向かう一向。皇帝はまた一体、巨人を切り伏せた所だ。
「皇帝陛下……お一人でこれだけの戦闘力とは、規格外なお方ですね」
苦笑を浮かべる摩耶。巨人の増援はまだ止まない。渡河途中の敵は棍棒を手に次々に襲い掛かってくる。
次の瞬間、ユノの放ったスリープクラウドが巨人の顔に着弾。煙幕にもなって油断を誘う。
「ミナお姉さ~ん」
「好機と見ました! さあ、突撃です!」
手を振るユノ。壱のアーマーを追い越し、エステルを乗せた剛のアーマーが巨人へ突き進む。
ふらつく巨人へ跳躍し斬りかかるエステル。剛はそのまま巨人を押し倒し、パイルバンカーを打ち込む。
「Ghhhaaaaahh!!」
「さあ……悲鳴を上げて頂きますぞ!」
倒れた巨人に斧を振り下ろすエステル。剛がその体を何度も殴りつけると、巨人達は仲間の凄惨な様子に思わずたじろぐ。
「この仕打ちが『悪鬼羅刹』に見えますかね? ……大正解です」
壱は距離を詰めると別の巨人に突進し、ユノは銃口を突きつけ引き金を引く。魔導銃が吼え、巨体が大きく仰け反った。
「僕じゃこんな銃まともに構えて歩けないけど、アーマーに乗ってればなんとか」
「これもチームワークって奴ですよね! ……さあ、とっとと死に晒しやがれ!!」
倒れた巨人にパイルバンカーを打つ壱。ヴィルヘルミナはパルスグレイブに光を収束させ、腰溜めに構える。
「皆、私の後ろへ」
薙ぎ払うように繰り出されたのは光の斬撃。光波は複数の巨人を斬りつけ、吹き飛ばす。
「……無茶苦茶な人」
驚き目を開き、そして細める。膝を着いた皇帝の横顔にラウィーヤは呟いた。
今の攻撃は強力だが、明らかに大きな消耗を伴っている。それでも女はすぐ立ち上がった。
「そして……とても強い人」
――私とて正しくこの座を継いだわけではない。それでも名乗るのは、誓いのようなものだ。
道中、皇帝と交わした言葉を思い返す。彼女は強い言葉を選んで使う。まるで自分自身の弱さを否定し、誓いを立てる様に。
「行かなくちゃ。だって私も……メネル傭兵隊の、ラウィーヤなんだから」
パルスグレイブを開放した影響からか、ぐらりとヴィルヘルミナの体が傾いた。そこへ繰り出された巨人の一撃をメリエとエステル、二人の斧が交差し受け止める。
勿論意図したものではない。二人は顔を見合わせると同時にヴィルヘルミナの傍に跳んだ。
「あなたともあろうものが油断とはらしくありませんね!」
「陛下はお一人で多数の敵を屠っておられるのです。疲弊していて当然です!」
「勘違いなさらないで子犬ちゃん。例え昨日の仇としても、今日この良き戦場を笑って共に走れる。これでシビレずして何としましょう!」
斧の石突を大地に突き、エステルは胸に手を当て笑う。
「わたくし、護りますわ! 大概死ぬタマじゃありゃしないでしょうけれども……今この時は、あなたと共に!」
「ああ。頼りにさせてもらうよ、エステル」
にこりと笑った皇帝に少しだけメリエはむすっとした後、エステルを押しのけ。
「陛下は私がお護りします!」
「あなたに出来ますの? 子犬ちゃん!」
「騎士の誓いは論ずるにあらず! 我が技の冴えを見よ!」
二人は代わる代わる競うように攻撃し、巨人を薙ぎ倒す。何か少しかわいそうだ。
「何だか盛り上がってるみたいだね。俺も混ぜて貰うよ」
友軍を引き連れて駆けつけた覚羅が鉄球を飛ばし巨人をふっ飛ばしながら笑う。
「朗報です。どうやらCAM部隊が駆けつけ、戦況は一気に逆転したと」
アーマー兵に同乗しながら摩耶が笑みを浮かべる。皇帝は得物を振るい。
「このまま敵を殲滅する! 直に友軍も駆けつけるだろう! 一気に押しこむぞ!」
「作戦だったとはいえやられっぱなしは性に合わないからね……攻勢にでるというのならいくらでも協力するさ」
「やっぱりそれでこその戦よね! ヴィルヘルミナ・ウランゲル!!」
頷く覚羅。エステルは嬉しそうに声を上げる。
ヴィルヘルミナを先頭に、ハンター達は勢いの落ちた敵の殲滅を開始する。
●7A
渡河を中断し撤退した敵を追撃する作戦は、すぐに再開された。
「どうやら上手く行ったようですね」
摩耶が同乗する魔導アーマーは無数のボートに兵士を乗せ、浅瀬を渡っていく。
魔導アーマーの大きさなら消耗しない渡河も、人間の大きさでは苦戦する。ならば魔導アーマーを輸送に使えばいい。
このプランは大きく採用された。対岸から岩等を投げてくる巨人も居たが、魔導アーマーの盾で防ぐ事も出来、実に有用だったからだ。
「さあ米本さん! このまま奴らを撃滅しますわよ!」
剛の魔導アーマー、そして覚羅の魔導アーマーも渡河を完了し、増援のハンターや帝国兵と共に巨人へ向かっていく。
「まずは投石を阻止するよ! この場所を人類の橋頭堡とする!」
対岸で戦闘が再開されたのを遠巻きに眺めるヴィルヘルミナ。再び戦闘に参加するつもりではあったが、やはり先の戦いで大きく消耗していた。
「パルスグレイブ……やはり、危険な兵器なんですね」
あれは命を削る武器だ。皇帝だから扱えたが、ハンターが使うには危険すぎる。
そんなものを持ち出してまで戦おうとした彼女になんと声をかけたら良いのか。
「羊のフランソワって、ご存知ですか……?」
「え?」
「忘れて下さい……っ」
何を言っているのかとラウィーヤが頭を抱えていると。
「陛下、もう出発なされるのですか?」
近づいてきたのはメリエだ。心配そうに皇帝の前に立ち。
「陛下に無理をさせているとも気づかずに……申し訳ございません」
「好きでした無茶だよ」
「何時か必ず、陛下よりも強くなって、陛下も帝国も守れるぐらいになります。そしたら……」
拳を握り締め、少女は在りし日と同じ言葉を口にする。
「その時は、私を陛下の騎士にしてください」
女は目を丸くし。やはり在りし日と同じように少女の頭を撫で。
「ああ。きっと、待っているよ」
そう言った。
「ユノさん、代わりの魔導アーマー乗り換えたし、そろそろ行きますよ?」
「うにゅぅ……チョコ、溶けてる」
苦笑を浮かべる壱。
「魔導銃の排熱ハンパなかったですからね」
「折角ミナお姉さんと食べようと思ったのに……」
「見た目がどうあれ、チョコに違いはなかろう」
いつの間にか背後に立っていた皇帝はチョコを手に取り、包み紙を剥いで口に放り込む。
「行くぞ、ユノ」
ぱっと笑みを作るユノ。目指すは対岸。皇帝と共に、ハンター達はナナミ河を渡っていく。
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目安箱(質問卓) メリエ・フリョーシカ(ka1991) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/27 23:54:03 |
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「ナナミ河撃滅戦」作戦相談 メリエ・フリョーシカ(ka1991) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/27 22:17:20 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/23 20:17:25 |