• 王国展

【王国展】食べまくれニャンシングフード

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/03/06 19:00
完成日
2015/03/16 00:01

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●『王国観光庁』展覧会・共通OP

大司教「貴女に展覧会の代表をしていただきます」
王女「えーっ?!!!」

(大幅に省略)



 王国の台所、といえば王国南部である。海があり、肥沃な土地があり、そして流通があった。
 そんな土地で育まれた料理の精髄は千年王国にふさわしく、長大な時の中で磨かれた料の理は食す人を選ばない。

 その道を極めた料理人の品は、とにかく、美味い。
 無論、味に限った話ではない。見た目も。香りも。食感も。ありとあらゆるものに思慮が巡らされ、受け継がれ、その上で試行が重ねられた果てに辿り着いた極地である。

 この王国全土を対象にした王国展覧会では、『食』もまた一つの軸になった。
 王国全土から名だたる料理人を集めての大料理会場が用意されると、これがまた連日大賑わい。王都イルダーナの民に限らず、王国全土から訪れた民や各国からの旅行者が、王国各地から集められた厳選食材をふんだんに用いられた料理の数々に舌鼓を打つ――までは良かった。
 一度訪れた客は、そのまま連日足を運ぶ客となった。評判が人を呼び、さらに脚が増えた。行列ができ、行列が人を呼んだ。各地からキャラバンが集まると、さらに脚が増えた。熟達の料理人とスタッフ達はその状況に湧きあがり、持てる技を尽くして彼らに料理を供した。
 そして。

 足りなくなったのだ。
 食材が。

 元より、展覧会中は王国全土から選りすぐりの作物や魚を供することとしていたのだ。そのための買い付けは十全にしていたし、必要に合わせて追加の注文をかけていた。
 それでも、足りなくなった。正確にはこのままではこの展覧会のフィナーレを飾る晩餐会の食材が確保できなくなった。
「え? あ。私はそんなに食べないので、いいですよ」
 そんな報告がなされたとき、システィーナ・グラハム(kz0020)は微笑んでこう言ったそうだ。
「民の皆さんに美味しいご飯を振る舞ってあげてください」
 と。


「それで通るワケねェだろアホ幼女ェ……」
 男は蒼天に吐き捨てた。今回、王国展覧会に際して食材供給を引き受けた『第六商会』の一員である。普段であれば、男は独り――あるいは、相棒の馬2頭と共に馬車で荷を運ぶ行商人をしている。
 彼に限らず、展覧会の為に多くの所属商人が彼方此方を馬車で走り回っているのだが、今日ばかりは平素と様相が異なった。
「まったく、なァ、おい、どう思う、ハンターのお方々?」
 彼が曳く荷馬車の荷台には、食材のほかに、ハンター達もまた乗っていた。身を隠すようにして、所狭しと座ったり梱包の間に横になったりと様々ではある、が。
「そんなんだから大きくなれねェ。育たねェ。王女ってやつはもっと、こう、なァ、大きくなくちゃ、な。どうだ。そう思わないかィ? いやまァ、アレはアレで王女! って感じがして、こう、奮い立つモノがねェでもねェンだが……っと。怪しい影はねェなあ……」
 言いながら、御者席に座る男は視線を巡らせていた。

 ――調べてみると、足りなくなる筈の食材に偏りがあったのだ。そして、足りない食材は決まってこのルートで輸送されていた。商品自体は届くのだが、『足りない』。とはいえ、自らが属する商会を誤魔化して荷を盗む行商人などいようはずもない。
 喫緊の事態だ。悠長に調査する時間はなく、すぐさま対応が取られる事となった。その結果が、ハンター達を使った囮調査だ。
 この経路には何かが存在し、何らかの手段で荷を奪っている――筈、と。

 だから、こうして行商人は馬車を引き、ハンター達は荷台に潜んでいる。悪目立ちをするわけにも行かず、さりとて寝るわけにも行かず、耳がタコになるほどに今回の経緯と王女に対するアレやコレを聞かされていた。
 それが。

「…………」

 唐突に、止んだ。




 少しだけ遡った、同じ場所。同じ草原でその尾が揺れた。
『また来たニャァ』
『また来たナァン』
 草原に潜んでいたユグディラ達の尾である。
 ユグディラ。小柄な身体で、まるでヒトのように器用に歩く猫である。時に人間たちの畑などを食い荒らし、時に亜人や雑魔や魔獣などに襲われる弱肉強食の世界の片隅でチンケな幻術とともに生きる幻獣。
 白色のユグディラと黒色のユグディラが二匹で仲良く尾を揺らして風下を進む馬車を見つめていた。
『オイ』
『ニャ!』『ナ!』
 その背に、声が降ってきた。細身な白ユグディラ、黒ユグディラとは違い、どこか粗野で乱暴な声音。
『あの話は本当だろうな?』
『ニャ! 本当ニャ!』
 声の主はユグディラにしては大柄で、固太りで虎柄のユグディラであった。背後には同じような雰囲気のユグディラ達が数匹いる。虎柄の配下であろう。
 背筋を伸ばした白ユグディラが、続けた。
『僕らが新しい花を育てている所に通りがかった馬車から物凄くいい匂いがしたからなんとなく荷台を覗いたら沢山食べ物があったからちょっとだけ貰ったらこれがまたこの世の物とは思えないくらい美味しかったんだニャ!』
『ピッタリ一〇〇文字で解りやすく述べたナァン……あ。それから何度も来たから、其の都度頂いたのナァン』
 うんうんと頷いて続ける黒ユグディラであったが、虎柄ユグディラは憎々しげに鼻を鳴らした。
『……どうしてもっと奪って来なかったんだ。アァァン? それなら俺らも喰えただろうが』
 言葉に、配下のユグディラ達も頷く。
『だってニャァ……毎回お腹が弾けるくらいはとってるしニャァ……』
『それ以上とり過ぎたら悪いしナァ……美味しいし……』
『……チ』
 虎柄ユグディラは舌を鳴らすと、そのまま配下のユグディラ達を振り返った。そうして、腰から抜いたナイフを抜いて、高らかに言った。
『行くぞ、ニャ郎ども!! 皆殺しだ!!!』
『『『ミ”ャ”ー!!!』』』




 奇妙に思ったハンター達が呼びかけても、行商人はカッと目を見開いたままなんの応答も返さなかった。
 すわ襲撃か、と慌ててその様子を伺うと。
『…………zzZ…………』
 青空を仰いで、爆睡していた。

 その時だ。
『『ミャァァァァ!!!』』
 と、声がしたのは。同時に、脳裏に何かが飛び込んで来た。

 ――溢れんばかりの瑞々しさを有した魚や木の実の、イメージが。

リプレイ本文


 真冬の寒空のはずだが、その日ばかりは春の陽気を感じさせる。
 青い空。千切れ雲を貫く陽射し。瑞々しさはなくとも深い緑の葉葉。なにより、その場を貫く、猫の嬌声。そこに殺気が籠っていることに、果たしてハンターたちは気づいただろうか。
 ――否、と言わざるを得まい。
 たとえば、ファティマ・シュミット(ka0298)はどうだろう。ユグディラたちの姿を認めた瞬間、「猫ちゃん!」と声をあげて荷台へと駆け込んでいった。食材の幻影を叩き込まれたリューリ・ハルマ(ka0502)は、頭を小さく振って幻影を振り払う。
「猫の鳴き声がしたよ!」
「あらあら。二足歩行の猫さんが8匹も」
 向かってくるユグディラたちを認めたエルフは巨大な戦斧を構えながら、「モフりたい!」と戦意抜群。かたや、エルウィング・ヴァリエ(ka0814)は珍客を前に笑顔を見せた。儚げな笑顔なのに凄みを感じるのは、なぜだろうか。
「本でしか見たことがありませんでしたが……ユグディラ、でしょうか。本当に二足歩行なんですね」
 フニャアア、と雄叫び風味の声を上げながら疾走するユグディラたちを見て、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)が言う。
「食料だけ盗んでいたのは、彼らだったのですね」
 状況を顧みてのヴァルナの言葉に。
「そう、だとは思うのですが……何故、行商人さんが即時熟睡しているのか」
 ぽつり、と。御者台を横目に、ルカ(ka0962)が言う。この場において、ヴァルナとこの女はまだ冷静だった。
「……何故、襲撃者が初夢の如く可愛らしいのか……不思議です」
 冷静、ではなかった。言葉の端々には溢れんばかりの猫愛。夢にまで見たというユグディラとの遭遇に弾んでいるようだった。
 趙 彩虹(ka3961)もそうだった。敵襲に反応し覚醒した彩虹はその身に虎柄の白い毛皮を顕現し、白虎の虎人の様相。棍を構え、最先を進む虎柄ユグディラを見据えた、のだが。
(と、虎柄の猫亜人……!!)
 キャッ、と目を見開いた彩虹。その尾は興奮を表しているのか激しく猛り揺れていた。
「……敵じゃなかったら、連れて帰りたかった!」
 おおよそ全員の胸中を代弁し、彩虹は踏み込んだ。ユグディラ達は、本気だった。彩虹にはそれが解ったから、先ずは往く。
 今は荷を守らねばならない。故に、ファティマ以外の面々も同時に動く。


 先手をとったのは、先に疾走していたユグディラ達――ではなく、ハンター達だった。
「さて、止まってくださいます?」
 疾、と。光弾が走った。エルウィングの放ったそれは、最前の虎柄の真横を抜けた。ヒゲを焼いた聖光に虎柄はしかし――嗤った。
「……あれは、絶対に解ってませんね」
「ですわね」
 苦笑したヴァルナに、エルウィングも同じ表情を浮かべる。
「止まらないと、危ないですよ?」
 剣を抜きながらヴァルナが言うが、やはり、ユグディラたちは止まらない。時折、ノイズのように食べ物の映像が脳裏にひらめいては、消えていく。距離が詰まる。歩を進めたリューリ、彩虹。そのやや後方にヴァルナが位置する形。
「よ、と」
 その瞳に霊呪を宿したリューリが、大きく大斧を掲げた。細身のエルフが、全長3メートルにも及ぶ大斧を掲げる姿は壮観極まる。ユグディラ達の目が、大きく見開かれる。
「ニァァッ!」
 虎柄が、何事かを叫ぶ、と同時。
「危ないよー」
 大斧が、風を貫いて落ちた。


 鈍い音と共に土砂が舞う中、「ンミャアア」と鈍い悲鳴が上がった。
「えっ!? 当ててないよ!?」
 慌てたリューリはユグディラ達を見回す。
「大丈夫です、皆さん無事です!」
「……だよ、ね!」
 殲撃の行方を見ていた彩虹の声に、安堵を抱く。もとより外すつもりの一撃だったが、ユグディラ達から突き刺さる視線に本気の畏れが見て取れる。
「効果は抜群、だね!」
 笑みを返すリューリをよそに、彩虹は眼前、虎柄を見据えた。土砂に塗れた虎柄から、『お前が俺の相手か』とでも言わんばかりの目線が返ってくる。
 ――一人の猫好きとしても、この場は丸く収めたいのですが。
 双剣を構える虎柄に、武人の礼儀として、構えを取る。
「……強奪をしなくても、他に方法はあるはずです」
「ニャァ」
「襲撃をして、討伐依頼が出たら皆さんが大変なことになりますよ!」
「……」
 フ、と。虎柄は嗤った。そうして、こう言った。
「ニャ」
 言葉に、彩虹は、目を閉じた。深く、息を吸うと、冷たい大気が肺腑に満ちた。
「残念です……っ!」
 動物愛ゆえか、あるいは、武人の性か。何かが通じあった二匹の虎が、今、その武を競い合う――!


 虎柄達を尻目に、取り巻き達はわらわらと荷台へと向かっていった。
「わ、ちょっと……!」
 露骨に避けられたリューリが声を上げるが、ユグディラ達は颯爽と無視。危うきには近づかない主義なのだろう。だが。
「止まらないのなら……仕方ないですね」
「ブニャァァっ!?」
 突っ込んできたユグディラのうち、一匹が高く、宙を舞った。ヴァルナの大剣がその腹を掬い上げるように振りぬかれた結果だった。
「ナイススウィングですわ」
 エルウィングがちぱちぱと手を鳴らす。その眼前ではふわふわと舞った妖精「アリス」とパルムにユグディラ達が手を伸ばしていた。とはいえ、いかにユグディラが野生の弱者とは言え、アリスとパルムでは分が悪い。二匹に必死さが漂い始めた頃。
「さて、さて」
 エルウィングはどこからか取り出した袋をユグディラ達の下から掬い上げると、曇った悲鳴が上がる。哀れっぽい悲鳴はまるっと無視して袋の口の紐を締めると、エルウィングはなにかに気づいたようだった。
「……あの、ヴァルナさん」
「はい?」
「飛んでいったユグディラ、逃げてません、か?」
「あら」
 見れば、片手でお腹を抑えたユグディラが離れようとしている。
「……少し飛ばしすぎましたね」
「私がいくよ! みんなはそっちを!」
 ギガースアックスを抱えたリューリが声と共に疾走。斧が重すぎて速度は出ないのだが、負傷したユグディラの足の方が遅い。リューリの足に、俄然、力が入る。
「待て~~!!」
「ニ、ァ、ァ……」
 振り返ったユグディラの目に浮かんだ絶望は、リューリには見えなかったようだった。満面の笑みで近づき、そして。

 この後めちゃくちゃモフモフした。


 一方。荷台に近しい最終防衛ラインでは、ルカが奮闘していた。
「ブニャァァー!」
「……っ!」
 軽装のルカを与しやすしと見たか、3匹のユグディラから同時に木の棒が振り降ろされた。ルカが左手で盾を構えた――瞬後だ。
 軽い、あまりに軽い音が、響いた。
「……え?」
「「「ンナァァ!!」」」
 3匹のユグディラ達は揃いもそろって木の棒を振り落とし、悲鳴をあげていた。
「これは……」
 望外の弱さに、驚愕のほうが勝った。涙目になって手を抑えている猫達の姿をルカがじっと見ていると――。
「フナァ……」
 哀れっぽい目線が、返ってきた。

 ――もふりたいけど、我慢!

 心を鬼にして、寝袋を取り出した。首根っこを掴むと、驚くほど素直に持ち上げられた。「ふなぁあ」と力無い声を聞きながら。
「ごめんなさい!」
 寝袋に、叩き込んだ。普段は内向的な少女はやると決めた時は、やる。



 外部の阿鼻叫喚をよそに、ファティマは荷台で息を潜めていた。
 仕掛けは上々。あとは結果を待つばかり――といったところだった、のだが。
(……外の様子が、激しすぎるような……?)
 少しばかり焦りを覚えていた。このままでは襲撃を前にただ荷台であれこれしていただけ、となってしまう。今からでも合流するか、どうか……と、懊悩し始めた、その時だ。かさり、と。音がした。かすかな音だ。気配は二つ。少女は息を潜め、物陰から様子を伺う。
 白色と黒色のユグディラだった。嬉しそうな顔をして、荷を見つめ――余所見が仇となったか、そのまま、並べられていた酒瓶達を盛大に蹴り倒してしまった。
「ニャッ!?」
「ナッ!?」
(第一関門でアウトとは……)
 野生としてどうかと思うが、ファティマはぐっとこらえた。面白そうだった。
(……まだ、まだ我慢……!)
 続いて、ユグディラ達の前に、大きく口を開けた袋があった。酒瓶を入れてきた袋だったが、それはファティマが仕込んだ対猫用罠――!
(猫ちゃんは、狭いところを見ると……入りたがります!)
 ワキワキと両手を構えた少女は電流をブチ込む準備をして、決定的瞬間を待っていた……のだが。
「ニャ?」
「ナァ」
 つ、と白いユグディラが指さしたのは積み荷。黒いユグディラは頷きを返している。
(これは……)
 落胆を抱きながらも、少女はかすかに驚きを得ていた。明らかに手馴れている。
 混乱を他所に、これ幸いと獲物を掻っ攫うつもりだったのだろう。
 となれば、するべきことは一つだけ。得物をすらり、と抜いて――終に、少女はその姿をユグディラ達へと晒す。
「ニャァ!」「ナア!?」
「ふっふっふ、数々のトラップを乗り越え……ましたよね、うん、乗り越えてよくぞやってきましたね勇ましきにゃんこ……いや勇者にゃん!」
 仁王立ちのファティマは、それはもうノリノリであった。
「いざ、尋常に……!」
 そのまま、逆袈裟に刃を振り抜く、と。
「に、ニャアア!?」
「な、ナアアァ!?」
 狂乱した猫の声が、荷台の中に木霊した。


 彼方此方でユグディラ達が悲しみに呑まれている頃、彩虹と虎柄は未だに相対していた。虎柄の顔には、深い焦りが刻まれている。
「解っていただけなかったみたいですね……残念です」
 余りに、実力差がありすぎた。
 攻撃は届かず、彩虹の加減された攻撃が、虎柄の体力を奪い続ける。
 だが、それも。

「そろそろ、終わりにしましょう」
 彩虹の決心の言葉と共に――闘心昂揚。霊呪を其の身に宿す、と。虎柄にも動きが生じた。
「ブナアアアアッ!」
「……!?」
 懇親の雄叫びにつづいて、虎柄は盛大に飛び上がる。同時、彩虹の渾身の一打が奔り――。
「……っと」
 ひたり、と止まった。旋棍の先には、虎柄の頭頂部があった。

「――――ッ!」
 虎柄が、土下座をしていた。


「跪きなさい」
 腕組み、見下ろしたエルウィングの周囲にはユグディラ達――とハンター達。言葉の意図を理解したかどうかは定かではないが、下っ端ユグディラ達は慌てふためいて伝統の正座スタイルをとった。しん、と。静寂が落ちる。何れともしれず、生唾を飲む音が、いやに大きく響いた。
「……食材が足りなくなった原因は貴方達ですか? もう二度と悪さはしないと誓ってください」
 一斉に互いを見合わせる下っ端ユグディラ達であったが、エルウィングのただならぬ雰囲気にそのまま頭を垂れた。
 長い物には巻かれることが彼らが掴んだ生存戦略の一つだ。故に、普通の野生や歪虚が相手だと容易に狩られるわけだが――兎角、エルウィングは満足したか、
「なら、よいのです」
 と、頷いていた。その柔らかい雰囲気に、ユグディラ達が息を吐きかけた、その時。
「でも、美味しいご飯は幸せになるよね。ちょっと気持わかるよ」
 リューリは自らが捕らえたユグディラを後ろから抱きとめながら、居並ぶユグディラ達に懇懇と語り聞かせ始めた。だが、ユグディラ達は頑なにリューリと目を合わせようとしなかった。
 よほど、最初の一打のインパクトが強すぎたのだろうか。
「知ってるかわからないけど、世の中には珍しい食材って言って雑魔を食べちゃう人もいるんだからね? あ。私もなんだけど。不思議とハズレがないんだよねー……ねえ、君たちも美味しいのかな?」
 ――否。その言動も十分ギルティーであった。
「運が悪いと討伐されちゃいますしね」
 モフモフと一匹の背を撫でまわしながら、満足気な表情をしたヴァルナが続いた。
「……うん、これはなかなか良いですね……」
「ウニァ……」
 ヴァルナの手は止むことなくオラオラとユグディラを攻め立てている。小刻みに震えるそのユグディラはふぉぉ、と手を伸ばしていた。
 その度にぺち、とはたき落とされているが、時折蜜漬された林檎を分けられては甘い声をあげていた。
「ふふふ……人間に挑むということはこういうことなのです。これに懲りたら、人にちょっかいを出すのは止めた方がいいですよ?」
「ウナァ……」

「食べませんか?」
 他方、虎柄のユグディラは、彩虹に差し出された果肉を頑なに固辞している。肉球たっぷりの手を向けられた彩虹は困惑げではあったが。
「私も食べますから、」
 ずい、ずい、と。虎柄はこれでもか、その手を押しとどめた。
「……分かりました」
 しばしの後、苦笑と共に、彩虹はそう言う。虎柄の口元に、淡いヨダレを見て取ったからだ。道筋が解った彩虹はまずは自らが果肉を食すことにした。

「……なんだこりゃ」
 爆睡していた商人は漸く目を覚ました。香りと音に、眠りが妨げられた彼は、目にしたものを前に呆然とつぶやいていた。
「ニャァァァ!」
「ナァァァァ!」
「ほーら、ほーら」
 眼前。ファティマは、ノリノリだった。少女が振るった剣の先には長く舞うリボン。黒と白のユグディラ達は荷台の中で振るわれた電気ショックも忘れ、無我夢中でリボンの先を追い掛け回している。
「あら、目覚められたのですね」
「……こんだけ騒がしけりゃな」
 調理に励んでいたルカは商人に気づくと微笑ましげに声をかける。
「首尾よく行ったみてェだが……」
 一体全体これはどういうことだ、と。そういう前に。
「まずは食事でも、いかがですか?」
 ルカの淡い笑みに、小さく息が零れたのだった。


 簡単な調理しかできなかったが、それでも豪勢な食卓となった。
 反省の意思を一応ながら見せたユグディラ達を見て、ルカは商人に対してこう言った。
「この子達……地域猫のように定時に特定の場所でご飯を上げた方が良いのでは?」
「さてな。コイツラはそうやって構うと調子に乗って大挙するし」
 ルカの言葉に、商人は言いながら、ちらり、と。ファティマの方を見やる。

「お仕事をすれば……こうしてお金をもらってご飯も貰えたりするのです……あなたがたもカタギニャンになっては……」
「ニャ」「ナァ」

「……気に入った場所に居付きはしても、役に立つこたァ殆どねェから、な」
「おねだりしたら、ご飯をくれる人もいるんじゃない?」
「そうだな、賢いユグディラはまず店先に立つもんだ」
 ユグディラに言い聞かせるように笑って言うリューリに商人は苦笑して言うとその意を汲んだ者から、笑いが溢れる。
「ま、あ。なんだ」
 咳払いを一つ残して、続ける。
「コイツラはアホだがバカじゃねェ。肝要なのは躾けて教えることだ。そういう意味では……」
 ハンター夫々が思い思いにユグディラを確保している様と、それらの表情を見回して、商人はこう締めた。
「上手いこと行ったんじゃないかね?」

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MVP一覧

  • 理の探求者
    ファティマ・シュミットka0298
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマka0502

重体一覧

参加者一覧

  • 理の探求者
    ファティマ・シュミット(ka0298
    人間(紅)|15才|女性|機導師
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 紫桃の令嬢
    エルウィング・ヴァリエ(ka0814
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 白虎闘士
    趙 彩虹(ka3961
    人間(蒼)|24才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
趙 彩虹(ka3961
人間(リアルブルー)|24才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/03/06 00:12:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/02 21:47:35