ゲスト
(ka0000)
辺境の森にて勇者さま
マスター:ラゑティティア

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/08 15:00
- 完成日
- 2015/03/15 22:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
オープニング
「ふ・ふ・ふ・ふ・ふ!」
黒髪を三つ編みおさげにした眼鏡少女が、不気味な笑い声を、辺境の湿った森に吐く。
その身なりは、小細工など一切されていない学生服姿。背中には学校指定のカバン。
黙っていれば優等生にみえるのだが、その手には辞書ではなく……漫画が握られている。
「おねぇたん、へんな笑い方しないでくれる?」
不気味に笑う眼鏡少女の隣には、三つ編みおさげの少女がもう一人。
ただしこちらは茶髪で短め。
眼鏡はなく、おしゃれの努力があまり感じられない無地の服&ジーパンの私服姿である。
背丈もぐっと低いので年齢差がありそうだ。
「だって見たでしょ! 体が浮いたでしょ!
間違いないわ。私たちは何者かの大いなる力で、この見知らぬ森へと召喚されたのよっっ」
「たぶんさっき吹いたのはプチ突風で、たまたまおねぇたんとあたぃが近くの森まで飛ばされただけ……」
「地球から召喚されたんだから、ここは異世界に決まっているわ!
そうっ、この漫画の主人公のように!!」
「…………」
目を輝かせて漫画を晴天に振り上げるその姿を見て、プチおさげ少女はため息をついた。
大興奮しているおねぇたんには太刀打ちできないらしい。
だがそんな中、プチおさげ少女の瞳は何かに囚われる。
数は4匹。無知な人間でも、目が赤く光っている時点でただの獣でないことはわかる。
口から牙をむき出し、鋭い爪が草を裂いてめり込む。
「おねぇたん! オオカ――!」
べしょ!!
獣の殺気に圧倒されて、足がうまく動かなかったようだ。
おねぇたんの制服をつかまえようとしていたが派手に転び、足首をすりむいてしまった。
この周囲の木々は間隔がひろく、茂みも少ない。
動き回れる広さは十分だが、逆に言えば、身を隠すことが難しい場所だった。
早く逃げたほうがいいと判断して、慌てて知らようとしたのだろう……が
「むいは相変わらず運動オンチね」
この状況をわかっているのかいないのか、おねぇたんは指摘なんぞしながら、転んだその身を起こしてやる。
そうしたあとでやっと獣へと視線を向けていたが、何故かフッと笑っただけだった。
「大丈夫よ。
こういうこともあろうかと、呪文はすでに覚えていたの」
「……」
静かに息を吸い込むおねぇたん
嫌な予感がする
「あ~ん、助けてぇ~! 勇者さま~~っ☆」
予感は的中した
「そ、それ……呪文じゃないし」
おねぇたんには、『危機感』とか『恐怖』とかいう文字は無いのだろうか。
愕然とこぼれた声をよそに、獣たちが2人をめがけて次々に地を蹴ってくる。
――それらとは別の方向から、土を散らして駆けてくる足音がした
「ふ・ふ・ふ・ふ・ふ!」
黒髪を三つ編みおさげにした眼鏡少女が、不気味な笑い声を、辺境の湿った森に吐く。
その身なりは、小細工など一切されていない学生服姿。背中には学校指定のカバン。
黙っていれば優等生にみえるのだが、その手には辞書ではなく……漫画が握られている。
「おねぇたん、へんな笑い方しないでくれる?」
不気味に笑う眼鏡少女の隣には、三つ編みおさげの少女がもう一人。
ただしこちらは茶髪で短め。
眼鏡はなく、おしゃれの努力があまり感じられない無地の服&ジーパンの私服姿である。
背丈もぐっと低いので年齢差がありそうだ。
「だって見たでしょ! 体が浮いたでしょ!
間違いないわ。私たちは何者かの大いなる力で、この見知らぬ森へと召喚されたのよっっ」
「たぶんさっき吹いたのはプチ突風で、たまたまおねぇたんとあたぃが近くの森まで飛ばされただけ……」
「地球から召喚されたんだから、ここは異世界に決まっているわ!
そうっ、この漫画の主人公のように!!」
「…………」
目を輝かせて漫画を晴天に振り上げるその姿を見て、プチおさげ少女はため息をついた。
大興奮しているおねぇたんには太刀打ちできないらしい。
だがそんな中、プチおさげ少女の瞳は何かに囚われる。
数は4匹。無知な人間でも、目が赤く光っている時点でただの獣でないことはわかる。
口から牙をむき出し、鋭い爪が草を裂いてめり込む。
「おねぇたん! オオカ――!」
べしょ!!
獣の殺気に圧倒されて、足がうまく動かなかったようだ。
おねぇたんの制服をつかまえようとしていたが派手に転び、足首をすりむいてしまった。
この周囲の木々は間隔がひろく、茂みも少ない。
動き回れる広さは十分だが、逆に言えば、身を隠すことが難しい場所だった。
早く逃げたほうがいいと判断して、慌てて知らようとしたのだろう……が
「むいは相変わらず運動オンチね」
この状況をわかっているのかいないのか、おねぇたんは指摘なんぞしながら、転んだその身を起こしてやる。
そうしたあとでやっと獣へと視線を向けていたが、何故かフッと笑っただけだった。
「大丈夫よ。
こういうこともあろうかと、呪文はすでに覚えていたの」
「……」
静かに息を吸い込むおねぇたん
嫌な予感がする
「あ~ん、助けてぇ~! 勇者さま~~っ☆」
予感は的中した
「そ、それ……呪文じゃないし」
おねぇたんには、『危機感』とか『恐怖』とかいう文字は無いのだろうか。
愕然とこぼれた声をよそに、獣たちが2人をめがけて次々に地を蹴ってくる。
――それらとは別の方向から、土を散らして駆けてくる足音がした
リプレイ本文
●遭遇
「あなた達の相手はこっちよ!」
切迫した状況下で形成されかけた『絶体絶命』の四文字に、どこからかの声と共にオートマチックピストルが一瞬で亀裂を入れた。
狼たちの襲撃の足がまばらに止まって音の方向をさがす。
「敵の気はいくらか引けたみたいね」
火薬の煙を吹く拳銃の手を一旦おろした八原 篝(ka3104)。
狼たちの場所を目指して走り続けるその足はまだ止まらない。
火薬のにおいは、八原の背後に位置する久延毘 大二郎(ka1771)のところへと風に乗って流れていた。
が、久延毘はとくにかまうことなく、ただ前方の光景を眺めてずれてきた眼鏡をマイペースに戻す。
「イレギュラーな事態は歓迎すべきだな」
「い、イレギュラー?」
その眼鏡の奥で久延毘が笑っていることに気づいてしまったティルクゥ(ka4314)。
久延毘のはためく白衣が火薬のにおいを周囲に軽くあしらっているためか、彼はどこか普通ではない男だと思わせる相乗効果が生まれていた。
「退屈な雑魔退治を面白き物に変えてくれるだろうさ」
「…………」
思わず沈黙。
そんなティルクゥの様子を見て、山田 勇三(ka3604)が彼の横へと並んだ。
山田が身につけているのはスーツや革靴。リアルブルーの出身者が見れば、これから会社にでも行くのかなと錯覚してしまうかもしれない。
しかし彼らが向かっているのは会社ではなく戦場だ。
各々の手に握られた本物の武器が現実であることを物語っている。
「少々顔色が優れんようだが」
「まあ……ハンターとして初めて受けた依頼だしな、まだ慣れねぇ」
なるほど、と山田は頷きを返す。
「私も、今でもなにかと理解できん。
ハンターの仕事も慣れるには時間が必要かもしれん。が、独りではない」
どうやら、がんばれという主旨の内容らしい。
堅物な父親が子供を励ますように、少々不器用ではあるが、気持ちは伝わってくれているはずである。
ティルクゥはすっかりいつもの調子で、狼に囲まれた少女たちのほうへ大きく息を吸った。
「そこの女二人! 危ねぇから動くんじゃね……っておい、さっそく無視すんなっ! 狼に食われるだろっ!」
「大丈夫、間に合いますよ」
2人の少女のうち、片方が動きだそうとしており、慌てたティルクゥをアレス=マキナ(ka3724)がなだめつつ、自身も狼を睨んで武器をその手にかまえた。
大きな鳥の羽があしらわれたフェザーハットがその魅力を高めてくれているようにもみえる。
彼にもエルフの耳がついていたが、彼のうしろを走っているチュニック姿の少女、ケイルカ(ka4121)にも同じ耳があった。
「二人のことは私に任せて」
ケイルカが申し出ると、八原も自分の意見を一同へと知らせる。
「二人と敵との間に割って入ろうと思っているから、わたしも走らないと」
彼女たちの発言に、アレスはすぐに反応をみせた。
「手前の敵は僕に任せて、攻撃している隙に行ってください。
くれぐれもお気をつけて」
気遣う言葉を付け足してから攻撃対象へと視線を戻し、右端にいた狼へと、祖霊の力を込めた白色の鞭を大きくしならせる。
グオオォゥ……ッ!
まさに白蛇が獲物を猛毒で仕留めたかのごとく。
敵の悲鳴が響き、それを合図にケイルカと八原はそれぞれの目的地へと飛び出していった。
「左手前の狼は俺がぶちかます! ウェルダンにしてやるよっ!!」
負けず嫌いなティルクゥの性格が、よいタイミングで雄叫びを上げてくれたらしい。気合いは十分だ。
「ティルクゥさんも、落ち着いて攻撃してください。
それでは僕は、お嬢さん方の所へ行ってきますね」
一言告げ、アレスは青い瞳をケイルカたちのほうへ向けて急いだ。
それを追おうとした狼の進路をすかさずティルクゥがふさぎ、誤射などに気をつけるように精神を集中させて、魔法攻撃の威力が高まった炎の矢を生みだす。
「あれなら本当に雑魔の肉をウェルダンに出来るかもしれん」
同じ単語でなければ伝わらないと考えたのか『ウェルダン』を採用し、後方にいた山田が真面目な顔で呟く。
久延毘は一瞬その横顔を見てしまったものの、今は戦闘に関することのほうが優先だ。
「悪くはないがね……」
何か言いかけていた久延毘の言葉をさえぎり、ティルクゥのファイアアローが威勢よく放たれた。
ザッッ!
「っ、やべ」
しかし、見た目そのものの動きで回避されてしまい、炎は地面へと花のように散ってしまう。
「そういうことも」
ある。と続けようとした久延毘だったが、まだ敵を睨み続けている彼の様子に気が変わり、別の対象へ黄金色のワンドを向ける。
山田も久延毘と同じ結論に至ったらしく、そうと決まれば動きも機敏になる。
「危機管理は慎重に、そして対応は迅速に」
そんなことを呟きながら走りはじめていた。
●説得
「もしもーし、ここにいると危険だから私と一緒に逃げよう?」
なんとか保護対象が移動する前にたどり着くことができたケイルカ。
するとさっそく眼鏡少女が、主人を待っていた犬のような勢いで走り寄ってきた。
「まさかこんなにたくさんの勇者さまが駆けつけてくれるなんて!
あっ、私は上村まやめ、小さいほうが妹のむいよ!」
自己紹介を簡単に済ませて、まやめは感動の声を上げながら、ケイルカの青い宝石が輝くワンドや、艶めかしい魔女の黒手袋を観察しまくり、目の輝きを増幅させている。
「お、おねぇたんっ、この人たち武器もってるし!」
一方、むいには、ケイルカたちが危険人物のように見えているようだ。
察したケイルカは、むいの視線に背を合わせてかがんだ。
「はじめまして。魔術師のケイルカよ。
むいちゃん、私達はこの武器で雑魔……狼を倒しにきたの。
私は勇者様って柄じゃないし、まだ駆け出しだから大して強くないのよ。
だけど、その怪我の応急手当はしてあげられると思うの」
ケイルカが優しく説明すると、むいはなんとか表情をやわらげてくれていた。
刃物関係の武器を持っていなかったことも幸いしたのかもしれない。
が、むいは急に焦った様子になり、ケイルカの服をぐいぐい。
「おねぇたんが!」
しまった――
だが、むいが知らせてくれたおかげで、まだ手が届く位置だ。
ケイルカは慌てて、まやめの手をつかむ。
このまま引きずっていきたいところだが、まやめが引く力も強い。
「あっちに赤い炎が出現したわ、勇者ケイルカさま!」
「まっ、魔法ならあっちで見せるよっ、だから一緒に行こ?
覚醒ってわかるかな、猫っぽい幻影が出てくるからそれも見せてあげ……」
「魔法! 是非とも他の勇者さまがたにもお願いしないと!!」
魔法とまやめは、火と油なのか。
まやめの勢いは増し、こんな状態の中でも狼が迫ってきているのが見えてしまった。
そんな絶妙なタイミングで久延毘のウィンドガストが発生してくれたのは、彼の計算だったりしたのだろうか。
鬱陶しそうに睨んでくる狼だが、それだけでは終わらない。
もう1つの心強い風が、両者のあいだに割って入った。
「篝ちゃん!」
ケイルカに呼ばれ、八原は伊達眼鏡からそちらの様子を確認する。
大変そうな状況であることはひと目でわかったものの、彼女たちを守るつもりで立ちはだかっているのに背を向けて突破されるわけにもいかない。
「こっちの事は考えなくていいから、あなたはその二人をなんとかお願い!」
攻撃してくる気配を感じ、八原はそれだけケイルカに言い残して狼のほうを睨んだ。
「わたしは絶対、地球に帰るの! こんなところじゃ倒れないからかかってきなさい!!」
八原から威圧を感じたのか、襲いかかろうとした狼の動きが急に止まる。
同じ頃、まやめも急に駆けだそうとするのをやめた。
そのわけはアレス……いや、勇者アレスが駆け寄ってきたためである。
「ケイルカさん、苦戦されていますね」
まさに救世主の登場。しかし今は涙を流す余裕はない。
「ううっ、私がむいちゃんをおんぶしていくから、まやめちゃんをお任せしてもいい?」
「わかりました。
お嬢さん、お手をどうぞ」
「ああっ、今の時代、勇者さまの武器は剣じゃなくて鞭でもアリよね!!」
「……」
リタイア寸前になっているケイルカの気持ちがすでにわかってしまいつつも、アレスは瞳が輝くその手をとり、安全な場所を目指してエスコートする。
アレスが彼女を担当してくれたことで、ケイルカも、むいをおんぶできた。
「二人とも武装してないし、まやめちゃんの格好も篝ちゃんのセーラー服と似てるのね」
ケイルカが鋭いところを指摘すると、アレスが一度ケイルカへ顔を向ける。
「珍しそうに僕らを見ていますし、おそらく転移者だと思うのですが、確認を取ってみましょうか?」
その問いにケイルカが頷いたため、アレスは改めてまやめへと視線を戻した。
「すみませんが、お二人はどちらから来られたのですか――?」
●道しるべ
スキルを発動し終えた久延毘の背後では、反撃してきた狼を、ティルクゥが魔術具の栄光の手で防ぐ。
そのあとすぐにファイアエンチャントを発生させた。
「なめんなっ!」
グォォォ……ッ!
ティルクゥの放った赤い蹴りは、今度こそ狼の体に命中する。
無事に倒せたものの、少々長引いて疲れたのかその場に座り込んでいた。
「その気力はどこからきているのか、聞かせてほしいものだな」
久延毘が問うと、ティルクゥは大きく深呼吸する。
「二人揃って無事じゃなきゃいけねぇんだ……そうだろ?」
彼は子供っぽい印象が強いものの、賢いところもあるのかもしれない。
そんなことを考えながら、久延毘は違う対象へと意識を向けた。
「悪いな。少しの間リハビリに付き合ってもらうよ、狼君」
ワンドの先を、八原と対峙している狼へと向け、石つぶてを出現させる。
その衝撃が命中して狼はあっというまに動かなくなり、久延毘は勝利の笑みを浮かべた。
一方、保護対象の安全が確保できたら攻勢に転じようとしていた八原は、次の攻撃対象をさがし始めたが、すぐ近くで刃の光が走った。
その正体は山田の日本刀で、素早い身のこなしで敵を成敗!
丁髷などの時代劇の衣装類も似合いそうだ。
狼を倒し終えると、山田は会社から帰ってきたかのように、ほっと息をついていた。
これで4匹目。依頼で聞いていた最後の狼だった。
「お疲れ様」
八原が歩み寄るが、山田はどこか遠くを見ている。
「危険人物を見たら手を出さず、先ずは警察を呼べ、などと子供に躾けた記憶がある。
まさか自身で光物を手に執り、自ら危険な代物に向かって行く事になろうとは。
……子供が見たら、何と言うのだろうな」
ずしりとくる言葉。
なんと返してよいものかと、八原が視線を地面に落としたとき、人影が増えたことに気づいた。
「助けてくれてありがとうだし」
討伐が終わり、避難していた一同が戻ってきたのだ。
発言者は、むいである。
ケイルカに丁寧に応急手当をしてもらったらしく、すでに自分の足で立っていた。
彼女の礼に山田が何を感じたかは不明だが、少なくともこの姉妹の命を守ることができ、感謝されているということは、事実である。
「皆、狼退治おつかれさま。ありがと~」
ケイルカはお礼を言いつつ、歩いてくる久延毘とティルクゥのほうも、怪我などがないか見て回っていた。
全員が集合し、ハンターたちと姉妹は改めて自己紹介を簡単に済ませる。
その流れで、姉妹について気になっていたことを切りだすことに。
「確認を取ってみたのですが、やはりお二人とも青の世界からの転移者のようですね。
突風のような力が吹いてきて体が浮き、この森の中へ飛ばされた、と」
「転移してきた直後という事ね」
アレスの説明に八原は頷き、姉妹へと顔を向けた。
「とりあえず勇者云々に関しては否定しておくわ」
そこからか!
仲間たちのツッコミの視線に、八原は咳払いする。
「わたしたちはハンター。
この森で雑魔っていう迷惑極まりないものが目撃されていたから、退治にきたの」
「私はマギア砦での傷も癒えたし、身体を動かしていなかった分のリハビリを兼ねて受けた仕事だったのだがね。まさかイレギュラー……」
「長口上になりそうだからストップ」
身振り手振りをはじめかけた久延毘に、早めにブレーキをかけた八原は、姉妹に自分のセーラー服を指して見せた。
「ここは地球じゃなくて異世界クリムゾンウェスト。わたしも転移してきたの。
わたしだけじゃなくて、久延毘さんと山田さんもね」
薄々気づいてはいたのだろうが、いざ真正面から言われてしまうと、むいは愕然。まやめは大感激。
「ということは、みなさんは地球から選ばれし勇者ということに……っ!」
勇者ではないという否定を、まやめに再度入れようとしたものの、各自が思いとどまる。
もはや無駄であろう。
「他にもリアルブルーから来た人いっぱいいるから安心してね」
ケイルカがさりげなく情報を付け足しておいた。
「元の世界に帰る方法は……まだ見つかっていないの。
だからあなた達もこの世界で生活していくことになると思うんだけど」
告げる八原の表情は暗かったが、まやめに怯む様子はない。
「勇者さま。私も召喚されたからには、立派な勇者になるまで帰らないわ!」
「……年寄りよりも若者の方が、柔軟に対応出来るのかもしれんな」
感心しているのかあきれているのか、山田がこぼす。
むいも姉の様子を見ると諦めがついたのか、ため息をついていた。
「我々もソサエティには戻らないといけませんし、一緒に行きましょうか」
アレスが言うと、みんなだいたい同じようなことを考えていたようで異論は出ない。
「他に質問が有るなら聞きたまえ。私も答えられる範囲で答えよう」
「行き先とかが決まるまで、たまには様子を見に来るからね」
久延毘の好奇心……もとい、親切な申し出や、ケイルカの気遣いに、姉妹はこくこく首を縦に振っていた。
その後も勇者さま連呼攻撃は続いていたが、ハンターたちは姉妹をソサエティに送り届け、珍客付き雑魔退治騒動は無事に解決となったのだった。
「あなた達の相手はこっちよ!」
切迫した状況下で形成されかけた『絶体絶命』の四文字に、どこからかの声と共にオートマチックピストルが一瞬で亀裂を入れた。
狼たちの襲撃の足がまばらに止まって音の方向をさがす。
「敵の気はいくらか引けたみたいね」
火薬の煙を吹く拳銃の手を一旦おろした八原 篝(ka3104)。
狼たちの場所を目指して走り続けるその足はまだ止まらない。
火薬のにおいは、八原の背後に位置する久延毘 大二郎(ka1771)のところへと風に乗って流れていた。
が、久延毘はとくにかまうことなく、ただ前方の光景を眺めてずれてきた眼鏡をマイペースに戻す。
「イレギュラーな事態は歓迎すべきだな」
「い、イレギュラー?」
その眼鏡の奥で久延毘が笑っていることに気づいてしまったティルクゥ(ka4314)。
久延毘のはためく白衣が火薬のにおいを周囲に軽くあしらっているためか、彼はどこか普通ではない男だと思わせる相乗効果が生まれていた。
「退屈な雑魔退治を面白き物に変えてくれるだろうさ」
「…………」
思わず沈黙。
そんなティルクゥの様子を見て、山田 勇三(ka3604)が彼の横へと並んだ。
山田が身につけているのはスーツや革靴。リアルブルーの出身者が見れば、これから会社にでも行くのかなと錯覚してしまうかもしれない。
しかし彼らが向かっているのは会社ではなく戦場だ。
各々の手に握られた本物の武器が現実であることを物語っている。
「少々顔色が優れんようだが」
「まあ……ハンターとして初めて受けた依頼だしな、まだ慣れねぇ」
なるほど、と山田は頷きを返す。
「私も、今でもなにかと理解できん。
ハンターの仕事も慣れるには時間が必要かもしれん。が、独りではない」
どうやら、がんばれという主旨の内容らしい。
堅物な父親が子供を励ますように、少々不器用ではあるが、気持ちは伝わってくれているはずである。
ティルクゥはすっかりいつもの調子で、狼に囲まれた少女たちのほうへ大きく息を吸った。
「そこの女二人! 危ねぇから動くんじゃね……っておい、さっそく無視すんなっ! 狼に食われるだろっ!」
「大丈夫、間に合いますよ」
2人の少女のうち、片方が動きだそうとしており、慌てたティルクゥをアレス=マキナ(ka3724)がなだめつつ、自身も狼を睨んで武器をその手にかまえた。
大きな鳥の羽があしらわれたフェザーハットがその魅力を高めてくれているようにもみえる。
彼にもエルフの耳がついていたが、彼のうしろを走っているチュニック姿の少女、ケイルカ(ka4121)にも同じ耳があった。
「二人のことは私に任せて」
ケイルカが申し出ると、八原も自分の意見を一同へと知らせる。
「二人と敵との間に割って入ろうと思っているから、わたしも走らないと」
彼女たちの発言に、アレスはすぐに反応をみせた。
「手前の敵は僕に任せて、攻撃している隙に行ってください。
くれぐれもお気をつけて」
気遣う言葉を付け足してから攻撃対象へと視線を戻し、右端にいた狼へと、祖霊の力を込めた白色の鞭を大きくしならせる。
グオオォゥ……ッ!
まさに白蛇が獲物を猛毒で仕留めたかのごとく。
敵の悲鳴が響き、それを合図にケイルカと八原はそれぞれの目的地へと飛び出していった。
「左手前の狼は俺がぶちかます! ウェルダンにしてやるよっ!!」
負けず嫌いなティルクゥの性格が、よいタイミングで雄叫びを上げてくれたらしい。気合いは十分だ。
「ティルクゥさんも、落ち着いて攻撃してください。
それでは僕は、お嬢さん方の所へ行ってきますね」
一言告げ、アレスは青い瞳をケイルカたちのほうへ向けて急いだ。
それを追おうとした狼の進路をすかさずティルクゥがふさぎ、誤射などに気をつけるように精神を集中させて、魔法攻撃の威力が高まった炎の矢を生みだす。
「あれなら本当に雑魔の肉をウェルダンに出来るかもしれん」
同じ単語でなければ伝わらないと考えたのか『ウェルダン』を採用し、後方にいた山田が真面目な顔で呟く。
久延毘は一瞬その横顔を見てしまったものの、今は戦闘に関することのほうが優先だ。
「悪くはないがね……」
何か言いかけていた久延毘の言葉をさえぎり、ティルクゥのファイアアローが威勢よく放たれた。
ザッッ!
「っ、やべ」
しかし、見た目そのものの動きで回避されてしまい、炎は地面へと花のように散ってしまう。
「そういうことも」
ある。と続けようとした久延毘だったが、まだ敵を睨み続けている彼の様子に気が変わり、別の対象へ黄金色のワンドを向ける。
山田も久延毘と同じ結論に至ったらしく、そうと決まれば動きも機敏になる。
「危機管理は慎重に、そして対応は迅速に」
そんなことを呟きながら走りはじめていた。
●説得
「もしもーし、ここにいると危険だから私と一緒に逃げよう?」
なんとか保護対象が移動する前にたどり着くことができたケイルカ。
するとさっそく眼鏡少女が、主人を待っていた犬のような勢いで走り寄ってきた。
「まさかこんなにたくさんの勇者さまが駆けつけてくれるなんて!
あっ、私は上村まやめ、小さいほうが妹のむいよ!」
自己紹介を簡単に済ませて、まやめは感動の声を上げながら、ケイルカの青い宝石が輝くワンドや、艶めかしい魔女の黒手袋を観察しまくり、目の輝きを増幅させている。
「お、おねぇたんっ、この人たち武器もってるし!」
一方、むいには、ケイルカたちが危険人物のように見えているようだ。
察したケイルカは、むいの視線に背を合わせてかがんだ。
「はじめまして。魔術師のケイルカよ。
むいちゃん、私達はこの武器で雑魔……狼を倒しにきたの。
私は勇者様って柄じゃないし、まだ駆け出しだから大して強くないのよ。
だけど、その怪我の応急手当はしてあげられると思うの」
ケイルカが優しく説明すると、むいはなんとか表情をやわらげてくれていた。
刃物関係の武器を持っていなかったことも幸いしたのかもしれない。
が、むいは急に焦った様子になり、ケイルカの服をぐいぐい。
「おねぇたんが!」
しまった――
だが、むいが知らせてくれたおかげで、まだ手が届く位置だ。
ケイルカは慌てて、まやめの手をつかむ。
このまま引きずっていきたいところだが、まやめが引く力も強い。
「あっちに赤い炎が出現したわ、勇者ケイルカさま!」
「まっ、魔法ならあっちで見せるよっ、だから一緒に行こ?
覚醒ってわかるかな、猫っぽい幻影が出てくるからそれも見せてあげ……」
「魔法! 是非とも他の勇者さまがたにもお願いしないと!!」
魔法とまやめは、火と油なのか。
まやめの勢いは増し、こんな状態の中でも狼が迫ってきているのが見えてしまった。
そんな絶妙なタイミングで久延毘のウィンドガストが発生してくれたのは、彼の計算だったりしたのだろうか。
鬱陶しそうに睨んでくる狼だが、それだけでは終わらない。
もう1つの心強い風が、両者のあいだに割って入った。
「篝ちゃん!」
ケイルカに呼ばれ、八原は伊達眼鏡からそちらの様子を確認する。
大変そうな状況であることはひと目でわかったものの、彼女たちを守るつもりで立ちはだかっているのに背を向けて突破されるわけにもいかない。
「こっちの事は考えなくていいから、あなたはその二人をなんとかお願い!」
攻撃してくる気配を感じ、八原はそれだけケイルカに言い残して狼のほうを睨んだ。
「わたしは絶対、地球に帰るの! こんなところじゃ倒れないからかかってきなさい!!」
八原から威圧を感じたのか、襲いかかろうとした狼の動きが急に止まる。
同じ頃、まやめも急に駆けだそうとするのをやめた。
そのわけはアレス……いや、勇者アレスが駆け寄ってきたためである。
「ケイルカさん、苦戦されていますね」
まさに救世主の登場。しかし今は涙を流す余裕はない。
「ううっ、私がむいちゃんをおんぶしていくから、まやめちゃんをお任せしてもいい?」
「わかりました。
お嬢さん、お手をどうぞ」
「ああっ、今の時代、勇者さまの武器は剣じゃなくて鞭でもアリよね!!」
「……」
リタイア寸前になっているケイルカの気持ちがすでにわかってしまいつつも、アレスは瞳が輝くその手をとり、安全な場所を目指してエスコートする。
アレスが彼女を担当してくれたことで、ケイルカも、むいをおんぶできた。
「二人とも武装してないし、まやめちゃんの格好も篝ちゃんのセーラー服と似てるのね」
ケイルカが鋭いところを指摘すると、アレスが一度ケイルカへ顔を向ける。
「珍しそうに僕らを見ていますし、おそらく転移者だと思うのですが、確認を取ってみましょうか?」
その問いにケイルカが頷いたため、アレスは改めてまやめへと視線を戻した。
「すみませんが、お二人はどちらから来られたのですか――?」
●道しるべ
スキルを発動し終えた久延毘の背後では、反撃してきた狼を、ティルクゥが魔術具の栄光の手で防ぐ。
そのあとすぐにファイアエンチャントを発生させた。
「なめんなっ!」
グォォォ……ッ!
ティルクゥの放った赤い蹴りは、今度こそ狼の体に命中する。
無事に倒せたものの、少々長引いて疲れたのかその場に座り込んでいた。
「その気力はどこからきているのか、聞かせてほしいものだな」
久延毘が問うと、ティルクゥは大きく深呼吸する。
「二人揃って無事じゃなきゃいけねぇんだ……そうだろ?」
彼は子供っぽい印象が強いものの、賢いところもあるのかもしれない。
そんなことを考えながら、久延毘は違う対象へと意識を向けた。
「悪いな。少しの間リハビリに付き合ってもらうよ、狼君」
ワンドの先を、八原と対峙している狼へと向け、石つぶてを出現させる。
その衝撃が命中して狼はあっというまに動かなくなり、久延毘は勝利の笑みを浮かべた。
一方、保護対象の安全が確保できたら攻勢に転じようとしていた八原は、次の攻撃対象をさがし始めたが、すぐ近くで刃の光が走った。
その正体は山田の日本刀で、素早い身のこなしで敵を成敗!
丁髷などの時代劇の衣装類も似合いそうだ。
狼を倒し終えると、山田は会社から帰ってきたかのように、ほっと息をついていた。
これで4匹目。依頼で聞いていた最後の狼だった。
「お疲れ様」
八原が歩み寄るが、山田はどこか遠くを見ている。
「危険人物を見たら手を出さず、先ずは警察を呼べ、などと子供に躾けた記憶がある。
まさか自身で光物を手に執り、自ら危険な代物に向かって行く事になろうとは。
……子供が見たら、何と言うのだろうな」
ずしりとくる言葉。
なんと返してよいものかと、八原が視線を地面に落としたとき、人影が増えたことに気づいた。
「助けてくれてありがとうだし」
討伐が終わり、避難していた一同が戻ってきたのだ。
発言者は、むいである。
ケイルカに丁寧に応急手当をしてもらったらしく、すでに自分の足で立っていた。
彼女の礼に山田が何を感じたかは不明だが、少なくともこの姉妹の命を守ることができ、感謝されているということは、事実である。
「皆、狼退治おつかれさま。ありがと~」
ケイルカはお礼を言いつつ、歩いてくる久延毘とティルクゥのほうも、怪我などがないか見て回っていた。
全員が集合し、ハンターたちと姉妹は改めて自己紹介を簡単に済ませる。
その流れで、姉妹について気になっていたことを切りだすことに。
「確認を取ってみたのですが、やはりお二人とも青の世界からの転移者のようですね。
突風のような力が吹いてきて体が浮き、この森の中へ飛ばされた、と」
「転移してきた直後という事ね」
アレスの説明に八原は頷き、姉妹へと顔を向けた。
「とりあえず勇者云々に関しては否定しておくわ」
そこからか!
仲間たちのツッコミの視線に、八原は咳払いする。
「わたしたちはハンター。
この森で雑魔っていう迷惑極まりないものが目撃されていたから、退治にきたの」
「私はマギア砦での傷も癒えたし、身体を動かしていなかった分のリハビリを兼ねて受けた仕事だったのだがね。まさかイレギュラー……」
「長口上になりそうだからストップ」
身振り手振りをはじめかけた久延毘に、早めにブレーキをかけた八原は、姉妹に自分のセーラー服を指して見せた。
「ここは地球じゃなくて異世界クリムゾンウェスト。わたしも転移してきたの。
わたしだけじゃなくて、久延毘さんと山田さんもね」
薄々気づいてはいたのだろうが、いざ真正面から言われてしまうと、むいは愕然。まやめは大感激。
「ということは、みなさんは地球から選ばれし勇者ということに……っ!」
勇者ではないという否定を、まやめに再度入れようとしたものの、各自が思いとどまる。
もはや無駄であろう。
「他にもリアルブルーから来た人いっぱいいるから安心してね」
ケイルカがさりげなく情報を付け足しておいた。
「元の世界に帰る方法は……まだ見つかっていないの。
だからあなた達もこの世界で生活していくことになると思うんだけど」
告げる八原の表情は暗かったが、まやめに怯む様子はない。
「勇者さま。私も召喚されたからには、立派な勇者になるまで帰らないわ!」
「……年寄りよりも若者の方が、柔軟に対応出来るのかもしれんな」
感心しているのかあきれているのか、山田がこぼす。
むいも姉の様子を見ると諦めがついたのか、ため息をついていた。
「我々もソサエティには戻らないといけませんし、一緒に行きましょうか」
アレスが言うと、みんなだいたい同じようなことを考えていたようで異論は出ない。
「他に質問が有るなら聞きたまえ。私も答えられる範囲で答えよう」
「行き先とかが決まるまで、たまには様子を見に来るからね」
久延毘の好奇心……もとい、親切な申し出や、ケイルカの気遣いに、姉妹はこくこく首を縦に振っていた。
その後も勇者さま連呼攻撃は続いていたが、ハンターたちは姉妹をソサエティに送り届け、珍客付き雑魔退治騒動は無事に解決となったのだった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/03/07 15:51:40 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/04 01:15:41 |