アンナの訓練日誌

マスター:のどか

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/03/13 22:00
完成日
2015/03/25 02:25

みんなの思い出

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オープニング

「アンナ=リーナ・エスト曹長、帰還いたしました」
 極彩色の街・ヴァリオスにある同盟軍本部の執務室で、アンナは眼前のデスクに着いた自らの上司にびしりと敬礼を示していた。
「ああ、ご苦労。なかなか大変だったようだな」
「いえ、大佐が手配して下さったハンター達のお陰で、無事に任務を終える事ができました」
 アンナがそう言うと、大佐は「それは良かった」と頷いて、イスに深く座り直した。
「戻ったところ早速で悪いが、曹長に1つ指令だ」
「はっ」
「おめでとう、キミに部下を付ける事になった」
「部下……ですか?」
 若干戸惑い気味のアンナを前に、大佐は3つの書類をデスクに広げ、彼女へと示してみせる。
「ここ最近、歪虚の動きが活発になっているのは曹長も知る所だろうと思う。災厄の十三魔の話も増えてきた。同盟軍もヤツらに対して傍観という訳にも行かない。少しずつでも、戦力の補強を進めなければならない」
「……訓練上がり、ですか」
 書類にざっと眼を通したアンナは、そう静かに呟いた。
 3つの書類にはそれぞれ別々の兵士のプロフィールや訓練成績が記されて居る。
 どれも、ここ最近に基礎訓練を終えたばかりの『新兵』達であった。
「とても優秀な子達だよ。まだ若いが、訓練記録も目を見張るものでね。上は早いところ、彼らを使い物にしたいようだ」
「なるほど、現場教育を兼ねてという事ですね」
「まぁ……その……そう言うことだ、うん」
 アンナの問いに、大佐はどこか口ごもるように答える。
「……大佐、『今度』は何が?」
「いや、別に何も無いんだ。本当だ」
 詰め寄られ、慌てて取り繕うも、アンナのじっとりとした視線に大佐は思わず目を逸らした。
 それを肯定と捉えたアンナは、もう一度新兵達の資料へと目を落とす。
「――バン・ブラージ、18歳。模擬戦成績1位。負け無しの大物ルーキー」
 そう口にしてから、確認を求めるように大佐の目を見据える。
 暫くの沈黙が流れた後、大佐は観念したように口を開いた。
「腕は確かなんだろうが、大剣を重さに任せて振り回す事しか知らなくてな……その成績も勢いによる所が大きい」
 そう、手を振りながら答える大佐を他所に、アンナは次の資料を読み上げる。
「ピーノ・ガルディーニ、19歳。頭脳明晰で身体能力も申し分ないオールラウンダー」
「だが、どれも突き抜けた能力は持っていない。そのうえ、自分の策や力を過信している所がある」
 アンナはなるほど、と頷くと次の資料を捲る。
「フィオーレ・スコッティ軍曹、18歳。優秀な狙撃手で、唯一階級を受け本隊入り」
「可愛いだろう、ウチの娘だ」
「残念ながら、似顔絵は付いておりません」
「そうか……」
 ひどく残念そうな大佐を一蹴しながら、アンナは言葉を続ける。
「で、この子はどのような問題を?」
「問題と言うな……人望が高く、同期の者達から慕われやすいようでね。模擬戦等の成績も良いんだが、被弾率も低い。おそらく、模擬戦の標的にされて居なかったんじゃないかと思っている。ほら、可愛いから」
 その言葉の何割が親馬鹿で盛ってあるのか分からないが、アンナは一通り話を聞き終えて、資料を閉じてその手に携えた。
「……私でどのくらいお役に立てるか分かりませんが、力は尽くします」
「ああ、頼んだ。方法は曹長に任せる。健闘を祈る」
 そう言って他人事のように敬礼する大佐に、アンナはため息混じりに敬礼で答えていた。
 
 その翌日、初めての訓練の日。
 訓練場にアンナを含む4人が、向かい合うように立ち並んでいた。
「今日からあなた達を預かる事となった、アンナ=リーナ・エスト曹長だ。よろしく頼む」
 そう礼を示すアンナに、3人は訓練校で習ったのだろう、形式ばかりの敬礼を示すとすぐにだらりとその体勢を崩した。
「曹長? そんなんで模擬戦で負け無しのオレの上司が務まるのかねぇ……せめて少佐とか中佐とか、その辺りが妥当じゃねぇの?」
 流石に面と向かってアンナに向けた言葉では無いのだろうが、あからさまに不満を漏らす青髪の少年。
 背負う大剣が特徴的な、バン。
「自分は何時でも戦場に出れますよ。これ以上の訓練など不要です」
 ビシリと、規律正しい姿で立ちながら眼鏡を正す少年。
 その過信に近い自信からそうであろう、ピーノ。
「同じ女の人なら分かってくれると思うけど~、髪が痛んじゃうから海辺の任務にだけは出さないで下さいね~?」
 どこか間延びした口調でウェーブがかったひらひらした髪を指先で弄ぶ少女。
 唯一の階級持ち、フィオーレ軍曹。
「しかし、何故チームなんて組まされて居るんだ。僕は一人の方が動きやすいのに」
「それは俺の台詞だ。お前みたいなモヤシ野郎、前線じゃ邪魔なんだよ」
「それを言うならば、君のそのムダにでかい剣のほうが邪魔だと思わないか?」
 ピーノの一言に食って掛かるように噛み付くバン。
 それにさらにピーノが嫌味交じりに返すものだから、二人の間に火花が散るのにそう時間は必要無い。
「私はただ後ろで撃ってれば当たるから、前は適当にお願いね~」
 そんな2人の喧嘩に全く興味が無い様子で、相変わらず髪の手入れに入念なフィオーレ。
「なるほど……こういう子達か」
 第一印象と資料とを照らし合わせて、アンナは確信めいたように頷いた。
「話を聞け。今日は模擬戦を行ってもらう」
 そう言ったアンナの言葉に、一番に反応したのはバン。
「ははん、俺の独壇場じゃねぇか。相手はどこの隊だ? それともアンタが相手してくれんのか?」
 そのバンの言葉にアンナは静かに首を振ると、彼女の後ろに控える人影を指し示す。
「あなた達の相手は彼ら、ハンターだ」
 アンナが指し示す先には、既に模擬戦装備も済ませた6人のハンター達が佇んでいた。
「ハンター? 半ば一般人なんかが、僕と対等に張り合える訳が……」
 ピーノは、模擬戦の相手を知るや否や、彼らを目の前にしながらもどこか見下した様子でそう答える。
「どうせ狙って撃てば当たるから、相手は誰でもいいかな~」
 一方、どうにも興味なさ気なフィオーレ。
「誰だって良い。なんせ、俺が最強だからな」
 そう早くも大剣を手に掲げるバン。
 三者三様の反応を前にして、アンナは小さくどこか満足げな笑みを浮かべて、彼らを一瞥した。
「想定通りの反応か……良い訓練になりそうだ」

 そうして、彼らの性根を叩き直す模擬戦訓練が始まろうとしていた――

リプレイ本文


 同盟軍の訓練場に6人の男女が向かい合うように立っていた。
 3人ずつ、フィールドの両端に立つその間を、風で舞った砂が吹き荒ぶ。
「今回もよろしくお願いします」
 ぺこりと、エルバッハ・リオン(ka2434)がアンナに向けて頭を下げた。
 それに対し、フィールドの側面中央で模擬戦の行方を見守るアンナもまた、応えるように頭を下げる。
「まーまー、やる事は簡単だな」
 両手の中でカービンを弄びながらlol U mad ?(ka3514)はヘラヘラと笑顔を浮かべて見せた。
 対岸では何やら宣言するように叫ぶ青髪の少年・バンの横で、うっとおしそうにメガネの汚れを拭き取るピーノ。
 その後方では心底興味なさげに、しきりに髪を気にするフィオーレの姿があった。
「新兵ってのは夢見るもんだからな……そう言うのは嫌いじゃないけど」
 ティーア・ズィルバーン(ka0122)はそんな彼らの様子を眺めながら、遠い日の過去にも思いを馳せたのだろうか。
 どこか含みのあるような口調で、剣斧を肩に担ぎ直す。
「『井の中の蛙大海を知らず』って言葉がぴったりな三人ね」
「若いうちは誰にだってそういう時はある。もっとも、たいていすぐに現実を思い知らされるのだが」
 フィールド外、アンナの隣で新兵達を眺めながら、ため息交じりにぼやいた白金 綾瀬(ka0774)をロニ・カルディス(ka0551)がやんわりと宥めた。
「その現実を訓練の中で示す事が、せめてもの老婆心というモノだろう」
 彼らはこの後の第2戦を担当するハンター達である。
 この1戦目は見学となるが、その分、外から新兵達の姿を目す事ができる。
「アンナ曹長も大変ですね……」
 そんな彼らの中で、水城もなか(ka3532)は苦笑交じりにアンナへと声を掛けていた。
「軍人なら、いつかは経験するものなのだろう。それはどの世界でも変わらない事だと、私は思っているよ」
「そうですね、軍は違えど、その本質は同じだと思います」
 蒼の世界では同じ役回りだったもなかにとってアンナの言葉にはどこか親近感のようなものを覚えながら、彼女と近しい目線で第1戦の行方を見守るのであった。


 開幕、バンは真正面からハンター達の方へとその身を躍らせた。
 彼は前方で剣斧を肩に担いだ隙だらけの様子で立つティーアへと目標を定めると、その自慢の大剣を天高く振りかぶる。
「これで、終わりだな……!」
 振り下ろした大剣に確かな手ごたえ。
 しかし、剣圧で巻き上がった砂塵の向こうから現れたのは、渾身の一撃を受け止める剣斧の姿であった。
「おいおい、こんなに簡単に止められて自慢がるなよ」
 ティーアはそのまま大剣を振り払うと、一時後方へと撤退。
 そんな彼に、バンもまた真正面から追いすがる。
 当然ながら彼の目には、目の前の『敵』であるティーアの姿しか映っていない。
 だからこそ、自身の周囲を漂う青白い煙の存在に、気づくわけも無かった。
「んだよ……これ……」
 煙に包まれたバンはよろよろと力を失ったようにその場に倒れ伏す。
「流石に、1発で眠るとは思いませんでしたよ」
 溜息交じりのティーアの隣に並ぶようにして、雲を発生させた諜報人・エルバッハは地面に突っ伏して気持ち良さそうに寝息を立てるバンを見下ろしていた。
「他の2人はフォローに……来る訳がありませんね」
 辺りを見渡しながら、エルバッハは想定通りといったように小さく頷く。
「俺はメガネを追うとするかね。しばらく子守りは任せたぜ」
 そう言い残して、ティーアは再び広大なフィールドへと消えて行った。

「軍曹! 祭りの射的で鍛えた腕前を、自分に見せてくださいませんでしょーか!」
 フィールドの中央でそう大手を振って声を張り上げるロル。
 そんな彼の頬を一発の銃声が掠めた。
 咄嗟に首を捻らなければ眉間に一発、貰っていたかもしれない。
 彼の視線の先には、気だるげに身を岩に預けたフィオーレの姿。
 緊張感のそれは全く無く、ただまっすぐ獲物へと銃口を構える狩人である。
「はい、おーわり」
 そう、あくび交じりに放った銃弾は確かにロルの額を捉えていた。
 が……曹長からのヒットコールは鳴り響かず。
 代わりに、そこには硝煙上がるライフルの銃口を向けて立つ彼の姿があるだけだった。
「弾が来ねぇな、レディ?」
 そう言いながら、ロルは再びライフルの狙いを付ける。
「どうした、今日はオヤスミか? それともわざと間違えたか?」
 タネを明かせば、放たれた銃弾を対する銃弾で撃ち弾いた、それだけである。
 目標が腕のある正確な弾筋を放つからこそ、真っ直ぐ相対すれば撃ち落とす事も事実、不可能ではない。
「も、もう一回――」
 そう言って引き金を引こうとしたその銃身が、不意に天高く跳ね上がった。
 まだ、引き金は引いていない。
 しかし、その銃身に伝う衝撃は、彼女の手から戦う術を奪い去った。
「銃が……!?」
 遥か後方へ弾き飛ばされた銃を取り戻そうと、振り返るフィオーレ。
 その背中を、容赦なく追撃の次弾が捕える。
「確かに、狙って撃てば当たるモンだなぁ?」
 風が吹き抜けるフィールドに、曹長のヒットコールが高々と鳴り響いていた。

「二人は何をしているんだ……まあ、邪魔は居なくなったか」
 岩影に隠れて様子を伺っていたピーノが、小さく舌打ちしながら拳銃へと弾を込める。
「こちらは相手の手の内が分かっているんだ。情報戦では一歩も二歩も優位にある」
「二歩で縮まる距離なら良いんだけどな」
 不意に背後から声を掛けられ、ピーノは飛び上がるようにして背後に銃を構えた。
 構えた銃口の先、ゆったりと構えるティーアの姿がその瞳に映る。
「よー、やっと見つけたぜ」
「くっ、先手の機会を取られたか!」
 牽制に引き金を引きながら、距離を取るピーノ。
 その銃弾を難なく回避しながら、ティーアは歩く速度で彼へ近づいてゆく。
「この状況で何も気づかない事は無いだろうよ。頭はキレるんだろ?」
 そのティーアの言葉で、咄嗟に彼は理解した。
 堂々と正面から相対する人間。その裏に隠された意味を。
 それを理解すると同時に、弾かれたように後ろを振り返る。
「大当たりってナ♪」
 背後で銃を突きつけるロルの笑みと、ヒットコールが鳴り響くのは、ほぼ同時の事であった。

「そろそろ起きてください。油断大敵ですよ」
 程なくして、眠りこけたバンの体をエルバッハが蹴り起こす。
 バンは寝ぼけ眼で周囲の状況を見渡すと、ガバリと跳ねるようにして飛び起きた。
 そうして、傍らに投げ捨ててあった大剣を構えて目の前のエルバッハへと対峙する。
「誰でも良いぜ、俺の前に立つのは全て敵だ!」
 それに対しエルバッハはあえて何も答えず、自らにマテリアルの風を纏わせる事で、返答と成した。
 直後に放たれる大振りの一振り。
 風の補助を受けたエルバッハは難なく避ける。
 次いで、大きく横薙ぎ。
 エルバッハはくるりと旋回し、その攻撃を避けて見せる。
 振るわれた切り上げの3撃目。
(これは、避けられない……!)
 目測以上に、彼の剣筋が鋭い。
 やられるか――そう思った時に、ティーアの剣斧がその大剣の一撃を遮った。
「悪かねぇがな……あくまで、そこまでだ」
「てめぇか……!」
 バンがニヤリとその口元を浮かべる。
「来いよ、教育の時間だ」
 剣斧を大斧モードへと可変させ、切っ先をバンへと向ける。
 そんなティーアへとバンは一気に詰め寄り、その剣を振りかざした。
「さっきよりも鋭いな……慣れ、いや、成長か?」
 大きく跳ね上がるように大剣の一撃を回避しながら、自らの斧を掲げ上げる。
 その一撃を受け止めようと大剣を頭上へ掲げるバン。
 しかし、刃は降り注がなかった。
「状況を良く見ろ、動きに変化を付けろ。そうで無ければ、君はただの的だ。こんな風にな」
 フェイント――下方から迫るティーアの大斧。
 ものの見事に引っかかったバンは、懐にモロに一撃を被る事となる。
 程なくして、3度目のヒットコールがフィールドに鳴り響いた。


 第1戦が終わり、メンバーが入れ替わる。
 ティーア、ロル、エルバッハの代わりにフィールドへと入るロニ、綾瀬、もなか。
「さて、どう変わるか見物だな」
 愛用の戦槍を模した模造槍を携えながら、ロニはまぶしそうに対岸の若者達を眺める。
 第1戦の疲れか否か、一同車座になって砂地へ腰掛ける3人の新兵達。
「クソッ、なんだってんだよ! 模擬戦じゃ一番の俺様がよ!」
 地面に拳を打ち付けるようにして、見るからに頭に血が上った様子のバンを他所に、ピーノとフィオーレは比較的落ち着いた様子……いや、正確には違うのだろうが、少なくとも外面的にはその感情を露にはしていない。
「……悔しい」
「あん……?」
 不意に口にしたピーノに、バンは訝しげに眉を顰める。
「正直な所、手も足も出なかった。至近距離での銃弾すら当たらず、2対1でいいようにやられただけだ」
「それは、お前が未熟だからだろうが」
 そうバンに言われ、珍しく返す言葉も無く押し黙るピーノ。
「君は悔しくないのか?」
 その問いにバンもまた、言い返せない。
 それを肯定の意と取ったピーノは、静かに話を切り出していた。
「僕に、一つだけ提案がある――」

 アンナの空砲と共に、第2戦が開始する。
「少しはマシになったかしら……?」
 真正面から新兵を迎え撃つつもりのロニの後方、岩陰に隠れつつ綾瀬はフィールドの様子を伺っていた。
 直線的ではあるが、フィオーレの射撃の腕は相応のもの。
 迂闊に身を晒す危険は冒さない。
 伺うフィールドに映る人影は2人分。
 一人はロニ、そしてもう一人は――第1戦同様に真正面から突っ切るバンの姿である。
 彼の突撃に備え、ロニが応じるように槍を構える。
「何も学んでないのかしら……?」
 岩陰から狙いを付ける綾瀬は、その鼻っ柱を撃ち抜くつもりでライフルのトリガーを引き絞った。
 直後、バンが取った行動は、その大剣を振りかぶるでもなく、腹を前面に押し出した、強固な護りの姿勢である。
「ほう……!」
 大剣の腹に弾かれる銃弾。振るったロニの槍もまた、その巨大な盾に阻まれる。
「1回っきりの貸しだからな!」
「十分だ、たった今返す」
 バンの背後から、不意に人影が躍り出た。
 巨大な剣に隠れるように、いつの間にか合流していたピーノである。
 バンの頭上を越えるように跳躍し、そのレイピアを抜き放ちながらロニの頭上へ襲い掛かる。
「文字通り、身を隠す盾としたか!」
 ロニはその一撃を盾でもって難なく受け止めると、そのまま押し返すようにピーノの体をかち上げた。
 ドワーフの腕っ節を前に、軽々とピーノの体は宙を舞う。
「これで……良い!」
 宙を舞いながら、細く笑うピーノ。
 その表情に何か不穏な空気を悟ったのか、ロニは反射的に盾を身構えていた。
 それは経験の差だろう。
 構えるとほぼ同時に、盾の表面を撫でるように、一発の銃弾がその身に降りかかる。
「そこね……!」
 弾の飛んできた方向へと放たれる綾瀬の強弾。
 それはビシリと岩の一角に当たるも、ヒットコールは無い。
 隠れたか……しかし、それを想定していないハンター達ではない。
「ちゃんと隠れるようになったのは、進歩だと思いますよ」
 岩陰にもぐりこんだフィオーレに先回りするように、もなかが既に彼女の背後を取っていた。
「も~、走るのは得意じゃないのに!」
 前回からの教訓か、少なくとも岩陰には隠れたつもりだったのだろう。
 慌てて別の岩場に移動しようとするも、猟撃士で全力の疾影士に脚の速さで叶うはずもない。
「こっち来ないでよ~!」
 この距離まで詰め寄られれば、もはや狙いを付けるドコロではない。
 乱れ撃たれた銃弾は明後日の方向へと向かい、避けるまでも無く、もなかの頭上を越えてゆく。
「まったく、もうちょっと緊張感を持ってもらいたいものです……ねっ!」
 そうして放たれた彼女の刀剣による一撃は的確にフィオーレの懐へと抉り込み、高々とヒットコールを響かせるのであった。

「さて、後衛はやられたようだな」
 改めて槍と盾を構えながらロニは眼前の2人を見渡す。
 バンとピーノ。2人の新兵を相対し、流石に迂闊にも動けない状況である。
「……ダメだ、やっぱり待ってるのは性にあわねぇ!」
 いの一番に痺れを切らしたのはバン。
 大剣を脇に抱え、振り回すように横になぎ払う。
 その一撃を盾で受け止めるロニ。
 装甲越しに、確かな衝撃が、その腕に伝わる。
「なるほど。当てさえすれば、中々のものだ」
「その隙に背後を……!」
 その間、ピーノがその疾影士ならではの足運びで一気にロニの背後へと躍り出る。
 そうして振り上げたレイピアであったが、綾瀬の放った銃弾がそれを弾き飛ばした。
「何……っ!?」
「俺達の目的は、最初からお前でね」
 銃弾の横槍に目を見開くピーノに、切り返した模造槍の穂先が迫った。
「くっ……」
 槍の一撃をまともに食らったピーノは、地面を転がるように弾き飛ばされ、ぐったりと動かなくなった。
「やりやがったな!」
 激高したバンが、その大剣を目の前のロニの頭をかち割らん勢いで振りかぶる。
 が、直後にその頬をひやりとした感覚が遮った。
「はい、そこまで。流石に3対1じゃ、勝ち目は無いですよ」
 合流したもなかの刃を頬に当てられ、その身動きが止まるバン。
 3人目のヒットコールが鳴り響くのに、そう時間は必要なかった。


「それまで!」
 アンナの掛け声と共に、今回の訓練は終了を告げる。
 新兵達は心身ともに疲れ切った様子で地面に身を投げ出し、大きく肩で息をした。
「畜生……次は負けねぇからな」
 額びっしょりと汗を噴出させながらバンはそう、搾り出すように口にする。
「ああ、次は刃の一つでも触れさせてみるこった」
 そんな彼に、ティーアは息一つ弾ませることも無く、代わりに不敵な笑みを浮かべてそう切り返す。
「あなたは比較的周りが見えているようだから、上手く二人の中継になれると良いけれど……でも、まだそれだけの技量は無いわね」
「……考えておきますよ」
 綾瀬の言葉にピーノはどこか不満げではあるが、一概に邪険にするわけでもなく、どこか含みのあるような返事で、彼女に応えていた。
「位置取りは大事ですよ。今日みたいに、敵は前から来るだけじゃないんですから」
「でも、あんまり激しく動くと髪がボサボサになっちゃうし~」
 相変わらずの様子のフィオーレに、もなかは思わず苦笑するほか無かったが、それでも先の様子を見ていれば改善の兆しは見えている。

 そんなハンター達と新兵達の様子を眺めながら、アンナは確信に近い感覚を抱いていた。
 この2戦を通してそれぞれの長所、短所を生かし、補いつつ、きっとこれからまた成長するに違いないと。
 彼らが本当の意味で戦士となるのには、そう時間は必要ない事だろう。

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MVP一覧

  • アックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」マイスター
    ティーア・ズィルバーンka0122
  • 特務偵察兵
    水城もなかka3532

重体一覧

参加者一覧

  • アックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」マイスター
    ティーア・ズィルバーン(ka0122
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • Two Hand
    lol U mad ?(ka3514
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士

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アイコン 相談卓
lol U mad ?(ka3514
人間(リアルブルー)|19才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/03/13 12:32:01
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/08 23:23:18