ゲスト
(ka0000)
牛を狙うゴブリン
マスター:江口梨奈

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/16 19:00
- 完成日
- 2015/03/24 20:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ゴブリンに襲われた、という報せが入って、急ぎハンター達が集められた。
4頭の牛を連れて歩いていた一行だった。
その牛は、隣村の花嫁のもとへ、いわゆる結納品として贈られるものであった。4頭とも全身を煌びやかに飾られ、花婿の家族が連れ添って手綱を持ち、しずしずと厳かに進んでいた最中のことだった。
6、7匹のゴブリンが道の脇の繁みから飛び出し、棍棒らしきものを振り上げて、一行から牛を奪い取ろうとしたのだ。小さなゴブリンといえど、花婿たちはまるきり油断していたし、武器になるようなものなど何も持っていなかったから、悲鳴を上げるしかなかった。
さあその悲鳴が災いして。
4頭の牛は驚いて興奮し、花婿らもゴブリンも蹴散らし、鼻息荒く逃げ出してしまったではないか! てんでバラバラに、道の脇の繁みの中へ、せっかくの飾り物を点々と落としながら。
ゴブリンは牛を追いかけて、キイキイわめきながらいなくなった。
後に残った花婿たちは、結納品が無くなって、ただただ呆然とするしかなかった。
「いや、呆けてる場合じゃないべ!」
取り戻さなければ、かわいい花嫁を貰うために丹誠込めて育てた大事な牛を。
ゴブリンに喰わせるためにここまで運んできたのではないのだから!!
4頭の牛を連れて歩いていた一行だった。
その牛は、隣村の花嫁のもとへ、いわゆる結納品として贈られるものであった。4頭とも全身を煌びやかに飾られ、花婿の家族が連れ添って手綱を持ち、しずしずと厳かに進んでいた最中のことだった。
6、7匹のゴブリンが道の脇の繁みから飛び出し、棍棒らしきものを振り上げて、一行から牛を奪い取ろうとしたのだ。小さなゴブリンといえど、花婿たちはまるきり油断していたし、武器になるようなものなど何も持っていなかったから、悲鳴を上げるしかなかった。
さあその悲鳴が災いして。
4頭の牛は驚いて興奮し、花婿らもゴブリンも蹴散らし、鼻息荒く逃げ出してしまったではないか! てんでバラバラに、道の脇の繁みの中へ、せっかくの飾り物を点々と落としながら。
ゴブリンは牛を追いかけて、キイキイわめきながらいなくなった。
後に残った花婿たちは、結納品が無くなって、ただただ呆然とするしかなかった。
「いや、呆けてる場合じゃないべ!」
取り戻さなければ、かわいい花嫁を貰うために丹誠込めて育てた大事な牛を。
ゴブリンに喰わせるためにここまで運んできたのではないのだから!!
リプレイ本文
●回収
「四手に分かれよう」
現場に到着して状況を聞くなり、Anbar(ka4037)は言った。大事な財産を取り返す、そのためにまごまごしてはいられないのだ。花嫁の元へ届ける牛はもちろん、あちこちに散らばって見える宝石の類も大事な結納品だ。
「これ、を……追えば……いい、か、な?」
シュメルツ(ka4367)は落ちている青い飾り石を見た。少し離れた先に、また似たようなものが。そして踏み荒らされた草や低木。
「こっちは私たちが行くとよ! 何か見つけたら、すぐ連絡すったい!」
魔導短伝話を掲げ、薬師神 円(ka3857)はトランシーバーを持つシュメルツの手を引いて青い飾り石を拾い進む。
「花婿さんは怪我せんようにしとかなんよ。気負うと顔に出るけんね。怪我なく嫁さんに会えるようにしちゃるけんね!」
依頼主を気遣う言葉を残し、円とシュメルツは繁みの奥へ消える。
「バイオレットさんは、短伝話はお持ちですか?」
上泉 澪(ka0518)に聞かれ、首を振るバイオレット(ka0277)。
「でしたら私と参りましょう。……あちらに、白い飾り石が落ちてます」
断る理由はなく、バイオレットは澪と走りだした。
「こちらは、かなり乱暴者が通り過ぎたようですけれど」
どうします、と、一際木々のなぎ倒された方角を指してラピリス・C・フローライト(ka3763)は、隣に立つバレル・ブラウリィ(ka1228)に尋ねてみた。
「上等だ」
これほど壊したのが牛なのかゴブリンなのかは分からないが、まさか怖じ気づくはずはない。落ちている黒い飾り石を見つけて、2人は進んでいく。
「残る俺たちで、組むことになったな」
「むさくるしい相棒で、申し訳ないね」
ひときわ不気味なマスカレードで顔を隠すチマキマル(ka4372)は、自嘲気味にAnbarに頭を下げた。
「お互い様だ」
2人が見つけたのは、赤い飾り石。
こうして四手に分かれ、それぞれの飾り石の持ち主を追いかけることとなった。
いちばんあっけなく見つけることが出来たのは、バレル達だ。なにせ分かりやすい、暴れた痕跡がくっきりと残っており、それを辿っていくと大きな黒い牛が、可哀想に角を木の幹の裂け目にすっぽりと嵌めて動けなくなった状態で、地面を踏み鳴らしていた。なんとか抜こうと、体を木に叩きつける、その度にせっかく梳いた毛並みが乱れ、体に傷を作っていく。
逃走中に草木を踏み倒したのはこの牛に間違いないようだ、巨体を構わずあちこちにぶつけて暴れる間じゅう、2人の足下が揺らぐほどの震動が響いた。
「大丈夫ですよ、大丈夫だから……」
ラピリスは努めて優しく声を掛ける。動物には好かれる質だが、これほど興奮した牛を相手にしたことはない。
「動けなくて怖かったでしょう、すぐに助けてあげますからね」
ナックルが牛の視界に入らないように注意し、角の刺さった裂け目を広げてやる。慎重な作業だ。その間、バレルは辺りを警戒し、厄介な小鬼がちょろちょろしていないか見張った。
助けられると分かったのか、牛は徐々に大人しくなっていた。角が外れた頃には、息は荒いものの、逃げ出すそぶりはなかった。一安心だ。
『黒い牛を回収した、怪我はない』
仲間に連絡を入れて、来た道を戻る。無事に引き渡せたなら、他の皆の応援に回ろう。
バレルの連絡を受けたシュメルツの足下には、息絶えた1匹のゴブリンが転がっていた。
「ぬるい、……ね」
ガントンファーを元の位置に納め、シュメルツは呟く。かつて特殊部隊にいたときの任務に比べ、なんとぬるい相手か。
「Eins、……」
ひとつ、と数えて、辺りをもう一度見回す。これ以上数える必要はないようだ。ここにいたゴブリンはたった1匹。牛から引き離すのは簡単だった。その牛は今頃、円に腹を撫でられているだろう。
「ええ子やね。もうゴブリンはおらんとよ、安心するったい」
牛より小さいゴブリンとはいえ、棍棒を振り回して襲いかかっていたのだ、牛の怯えはよほどだろう。けれどその嫌なヤツはシュメルツがやっつけた、円はこうして優しく擦ってくれる。それで牛は大人しく、手綱を引かれるままに付いてきた。
「ゴブリンから逃げる程の牛だけん、逆に縁起が良かかもしれん」
早く花婿さんに返してやろうと、円は思った。
さあ、他の仲間達の首尾はどうだろうか。
「どうだろうか、なあ……」
「似合わないか?」
「似合ってはいる」
首をかしげているのはAnbar、聞き返しているのはチマキマル、そして2人の前には、赤い飾り石の持ち主である牛が。
チマキマルは頭に、牛のかぶり物をし、更に手製だという牛笛をくわえている。ベーベーと、牛の鳴き声に似た音を出す笛で、これで仲間だと思わせて近づこうという作戦だ。
「……怒ってるぞ」
「これは計算外」
牛はこちらに向かい頭を低くし、前脚で地面を蹴っている。かと思うと、変な格好の牛もどきに向かって突進してきたではないか!
ブルルルルッと鼻を鳴らす牛から逃げようと踵を返した2人は、その視線の先に1匹のゴブリンがいるのを見つけた。
「あっ!!」
けれど、ゴブリンもまた、向かってくる牛に逆に怯え、背中を向けて逃げてしまった。
「逃げたか」
こちらの目的は牛を取り返すことだ、深追いする必要はないとAnbarは思った、しかしチマキマルはアッシュスタッフに手を掛ける。
「きっちり止めを刺して……ぶぎゅる」
追いついた牛に背中から突き倒され、かぶりものも笛もすっ飛んでしまった。その間にゴブリンはどこかへ消えた。牛もどきを自分で退治して気が済んだのか、牛は大人しくなり呑気に足下の草を喰み始めた。
「よしよし、綺麗にしてやるからな」
と、拾い集めた装飾品を直そうとしていたAnbarの魔導短伝話に、澪からの緊急連絡が入った。
『ゴブリンが5匹もいます、応援が欲しいですわ!』
●ゴブリン
「応援の到着を待ちたいところですけれど……」
そんな暇はない。牛を追いつめて取り囲んだゴブリンはいま正に、獲物を殴り仕留めようとしているのだ。牛は牛ですっかり興奮し、せわしなく頭を振っていた。
「失せろ」
覚醒したバイオレットの右腕から赤黒い瘴気が立ち上り、その手から手裏剣が投げ放たれる。一番近くにいたゴブリンの脚に当たり、「ギャッ」と短い悲鳴があがった。それに他の4匹が気付き、振り返る。
「離れなさい、その牛は大事な婚礼品なんですよ」
澪もまた手裏剣を構え、(言葉など通じないだろうが)命令した。脚から血を流したゴブリンはこちらを指さし、仲間と何やら騒がしくわめいている。かと思うと、5匹のゴブリンは目標を牛からハンターへと切り替え、棍棒をこちらに向けてきた。
「そうですよ、こちらにいらっしゃい……」
後ろへ下がり、ゴブリンを牛から引き離そうとする。ゴブリンは数の有利を分かってか、じりじりと間合いを詰めて、棍棒を振り上げた。
「舐めるな」
その一撃を、バイオレットはメタルシザーズで受け止めた。即座に刃を広げ、棍棒を持つ腕を挟む。
バチン!
鈍い音とはっきりした手応えがあり、まずゴブリンの腕を1本、落とした。腕と武器を同時に無くしたゴブリンはうずくまるが、その後ろから残るゴブリンがどおっと、まとまって襲いかかる。間合いを詰められながらも澪は大太刀を器用に操り、すばしこいゴブリンの動きを一つ一つ封じていく。
「伊達でこの様な得物を使っている訳ではありませんよ」
けれど、小さい敵ながら数があるのは厄介だ、攻撃を受け流しつつも、後ろに下がらされてしまう。と、背後にある繁みから、別のゴブリンが姿を現した。
(挟み撃ち? いつの間に!!)
全く予期していなかった、もう1体の存在だった。背後のゴブリンは、仲間が優勢なのを知るとニタリと笑い、棍棒を高々と振り上げた……が、更にその後ろから現れた光の矢によりゴブリンはよろける。体勢を崩したところを別の位置から現れた斧が、ギロチンの如き速さで弧を描き、首と胴体を分断した。
「あなた……!?」
「うむ、やはり止めを刺しに追って正解だった」
「ゴブリン共を生かしておく必要もないから、な。その汚い首を叩き落とさせて貰うぜ」
姿を見せたのは、チマキマルとAnbarだった。
「牛はこっちに任せったい」
円とシュメルツも到着した。円は騒ぎに興奮する牛を優しく撫でさすり、自身とAnbarらが連れていた牛の揃っている場所へ向けて手綱を引く。大人しく居る仲間の姿が見えたことで安心したか、ようやっとこの牛も落ち着きを取り戻した。
「証明、する。シュテルプリヒの、……強さを」
護り、戦う。両方が行えて初めて彼女たちが正義だと胸を張れるのだ。ガントンファーにマテリアルを注ぎ込み、渾身の『スラッシュエッジ』を叩きつける。
「Zwei!」
2匹目! しかし、まだまだゴブリンは生き残っている。
「さっさと始末しよう」
そしてバレルとラピリスも追いつき、ここで全てのハンターが揃い、形勢は逆転した。
「円さん、この先に私たちが連れてきた牛もいます、それも……」
とラピリスが言いかけた時。
ドドド、という地鳴りと、バキバキ、という草木が踏み倒される音。
繁みが揺れ、飛び出してきたのは、黒い飾り石で彩られた黒い牛だった。
●決着
「ちょ、ちょっと、こっちへ来ちゃダメよ!」
優しく制しようとしたラピリスを突き飛ばし、力で押さえ込もうとしたバレルを軽々と振り払い、牛は鼻息を荒げてゴブリンの群れへ突進した。さながらボウリングのピンのように綺麗に四方に吹き飛ぶゴブリン。牛の勢いは止まらず進路上にいるハンター達に向かってさらに直進するが、しかし大事な結納品を傷つけるわけにはいかず、為す術無く薙ぎ倒されるままになるしかなかった。
「この、暴れ牛め」
面倒なのは小鬼ではなく牛だったか、バレルは眉根を寄せる。
「そのまま、こっちまで追ってこい」
チマキマルは牛の興奮を逆手に取り、どす黒いローブをわざと大きくはためかせ、自分を追わせることでゴブリンのいる位置から遠ざけた。牛にとってはゴブリンもハンターも同じく『敵』なのか、牛はチマキマルをまっしぐらに追いかけ、その後ろをラピリス達が更に追いかける。蠢くローブへ納得のいく頭突きを喰らわせてから、牛の猛進は止まった。
「落ち着いて。あなたをいじめた連中は、私たちが懲らしめてあげますから」
「ラピリスさん、蹴られると危ないですわ、真横に立たないで」
「ええ、大丈夫」
澪のアドバイスに従い、少しずつ牛に近づくラピリス。
「そうそう、ええ子たい……」
円も徐々に距離を縮め、皆で牛の視界を隠すようにする。
何故ならこれから牛の目の前で、金色の炎が燃え上がるのだから。
「……そのまま、倒れてろ」
牛が味方してくれたのだ、この好機を逃す手はない。バレルは覚醒した姿でバスタードソードを振り上げる。『強打』が込められたゴブリンへの一撃は幻影の火花が飛び散らせ、受け止めようとした棍棒ごと、打ち砕く。
「逃がすか」
劣勢に逃げようとしたゴブリンを、バイオレットは執拗に追いかける。
「手を出したのは、そっちだ」
人間様の財産を奪えばどうなるか、この手癖の悪い連中には思い知らせてやらねば。メタルシザーズはゴブリンを、復活する可能性をゼロにするまで切り刻んだ。
立ち上がるゴブリンはいない。
全ての牛泥棒は駆逐され、大切な結納品は装飾品のおおかたを取り戻して花婿との元へ返されたのだった。
牛の脚が折れでもしたら、とハラハラしながら待っていた依頼主達だが、多少の傷や飾りの破損はありながらも無事に戻ってきた牛を見て、安堵の溜息をついた。
「……あとの、行程、は。大丈夫、なの?」
と、シュメルツが尋ねた。
花嫁のもとまで、自分たちが引き続き護衛をしてもよいというのだ。嬉しい申し出ではないか。花婿と親族はぜひに、と答えた。そして婚約の証人として立ち会って欲しいとも。
「そんな、重要な、席に、なんて……」
「畏まった席じゃないべ。要するに、オラの可愛い未来のヨメさんを、あんたらにも見てもらいたいんだべ」
ならば断る理由もない。ハンター達は最後まで付き合うことにした。
その結果、盛大な酒宴に巻き込まれてしまうとは、この時は誰も知らなかったのである……。
「四手に分かれよう」
現場に到着して状況を聞くなり、Anbar(ka4037)は言った。大事な財産を取り返す、そのためにまごまごしてはいられないのだ。花嫁の元へ届ける牛はもちろん、あちこちに散らばって見える宝石の類も大事な結納品だ。
「これ、を……追えば……いい、か、な?」
シュメルツ(ka4367)は落ちている青い飾り石を見た。少し離れた先に、また似たようなものが。そして踏み荒らされた草や低木。
「こっちは私たちが行くとよ! 何か見つけたら、すぐ連絡すったい!」
魔導短伝話を掲げ、薬師神 円(ka3857)はトランシーバーを持つシュメルツの手を引いて青い飾り石を拾い進む。
「花婿さんは怪我せんようにしとかなんよ。気負うと顔に出るけんね。怪我なく嫁さんに会えるようにしちゃるけんね!」
依頼主を気遣う言葉を残し、円とシュメルツは繁みの奥へ消える。
「バイオレットさんは、短伝話はお持ちですか?」
上泉 澪(ka0518)に聞かれ、首を振るバイオレット(ka0277)。
「でしたら私と参りましょう。……あちらに、白い飾り石が落ちてます」
断る理由はなく、バイオレットは澪と走りだした。
「こちらは、かなり乱暴者が通り過ぎたようですけれど」
どうします、と、一際木々のなぎ倒された方角を指してラピリス・C・フローライト(ka3763)は、隣に立つバレル・ブラウリィ(ka1228)に尋ねてみた。
「上等だ」
これほど壊したのが牛なのかゴブリンなのかは分からないが、まさか怖じ気づくはずはない。落ちている黒い飾り石を見つけて、2人は進んでいく。
「残る俺たちで、組むことになったな」
「むさくるしい相棒で、申し訳ないね」
ひときわ不気味なマスカレードで顔を隠すチマキマル(ka4372)は、自嘲気味にAnbarに頭を下げた。
「お互い様だ」
2人が見つけたのは、赤い飾り石。
こうして四手に分かれ、それぞれの飾り石の持ち主を追いかけることとなった。
いちばんあっけなく見つけることが出来たのは、バレル達だ。なにせ分かりやすい、暴れた痕跡がくっきりと残っており、それを辿っていくと大きな黒い牛が、可哀想に角を木の幹の裂け目にすっぽりと嵌めて動けなくなった状態で、地面を踏み鳴らしていた。なんとか抜こうと、体を木に叩きつける、その度にせっかく梳いた毛並みが乱れ、体に傷を作っていく。
逃走中に草木を踏み倒したのはこの牛に間違いないようだ、巨体を構わずあちこちにぶつけて暴れる間じゅう、2人の足下が揺らぐほどの震動が響いた。
「大丈夫ですよ、大丈夫だから……」
ラピリスは努めて優しく声を掛ける。動物には好かれる質だが、これほど興奮した牛を相手にしたことはない。
「動けなくて怖かったでしょう、すぐに助けてあげますからね」
ナックルが牛の視界に入らないように注意し、角の刺さった裂け目を広げてやる。慎重な作業だ。その間、バレルは辺りを警戒し、厄介な小鬼がちょろちょろしていないか見張った。
助けられると分かったのか、牛は徐々に大人しくなっていた。角が外れた頃には、息は荒いものの、逃げ出すそぶりはなかった。一安心だ。
『黒い牛を回収した、怪我はない』
仲間に連絡を入れて、来た道を戻る。無事に引き渡せたなら、他の皆の応援に回ろう。
バレルの連絡を受けたシュメルツの足下には、息絶えた1匹のゴブリンが転がっていた。
「ぬるい、……ね」
ガントンファーを元の位置に納め、シュメルツは呟く。かつて特殊部隊にいたときの任務に比べ、なんとぬるい相手か。
「Eins、……」
ひとつ、と数えて、辺りをもう一度見回す。これ以上数える必要はないようだ。ここにいたゴブリンはたった1匹。牛から引き離すのは簡単だった。その牛は今頃、円に腹を撫でられているだろう。
「ええ子やね。もうゴブリンはおらんとよ、安心するったい」
牛より小さいゴブリンとはいえ、棍棒を振り回して襲いかかっていたのだ、牛の怯えはよほどだろう。けれどその嫌なヤツはシュメルツがやっつけた、円はこうして優しく擦ってくれる。それで牛は大人しく、手綱を引かれるままに付いてきた。
「ゴブリンから逃げる程の牛だけん、逆に縁起が良かかもしれん」
早く花婿さんに返してやろうと、円は思った。
さあ、他の仲間達の首尾はどうだろうか。
「どうだろうか、なあ……」
「似合わないか?」
「似合ってはいる」
首をかしげているのはAnbar、聞き返しているのはチマキマル、そして2人の前には、赤い飾り石の持ち主である牛が。
チマキマルは頭に、牛のかぶり物をし、更に手製だという牛笛をくわえている。ベーベーと、牛の鳴き声に似た音を出す笛で、これで仲間だと思わせて近づこうという作戦だ。
「……怒ってるぞ」
「これは計算外」
牛はこちらに向かい頭を低くし、前脚で地面を蹴っている。かと思うと、変な格好の牛もどきに向かって突進してきたではないか!
ブルルルルッと鼻を鳴らす牛から逃げようと踵を返した2人は、その視線の先に1匹のゴブリンがいるのを見つけた。
「あっ!!」
けれど、ゴブリンもまた、向かってくる牛に逆に怯え、背中を向けて逃げてしまった。
「逃げたか」
こちらの目的は牛を取り返すことだ、深追いする必要はないとAnbarは思った、しかしチマキマルはアッシュスタッフに手を掛ける。
「きっちり止めを刺して……ぶぎゅる」
追いついた牛に背中から突き倒され、かぶりものも笛もすっ飛んでしまった。その間にゴブリンはどこかへ消えた。牛もどきを自分で退治して気が済んだのか、牛は大人しくなり呑気に足下の草を喰み始めた。
「よしよし、綺麗にしてやるからな」
と、拾い集めた装飾品を直そうとしていたAnbarの魔導短伝話に、澪からの緊急連絡が入った。
『ゴブリンが5匹もいます、応援が欲しいですわ!』
●ゴブリン
「応援の到着を待ちたいところですけれど……」
そんな暇はない。牛を追いつめて取り囲んだゴブリンはいま正に、獲物を殴り仕留めようとしているのだ。牛は牛ですっかり興奮し、せわしなく頭を振っていた。
「失せろ」
覚醒したバイオレットの右腕から赤黒い瘴気が立ち上り、その手から手裏剣が投げ放たれる。一番近くにいたゴブリンの脚に当たり、「ギャッ」と短い悲鳴があがった。それに他の4匹が気付き、振り返る。
「離れなさい、その牛は大事な婚礼品なんですよ」
澪もまた手裏剣を構え、(言葉など通じないだろうが)命令した。脚から血を流したゴブリンはこちらを指さし、仲間と何やら騒がしくわめいている。かと思うと、5匹のゴブリンは目標を牛からハンターへと切り替え、棍棒をこちらに向けてきた。
「そうですよ、こちらにいらっしゃい……」
後ろへ下がり、ゴブリンを牛から引き離そうとする。ゴブリンは数の有利を分かってか、じりじりと間合いを詰めて、棍棒を振り上げた。
「舐めるな」
その一撃を、バイオレットはメタルシザーズで受け止めた。即座に刃を広げ、棍棒を持つ腕を挟む。
バチン!
鈍い音とはっきりした手応えがあり、まずゴブリンの腕を1本、落とした。腕と武器を同時に無くしたゴブリンはうずくまるが、その後ろから残るゴブリンがどおっと、まとまって襲いかかる。間合いを詰められながらも澪は大太刀を器用に操り、すばしこいゴブリンの動きを一つ一つ封じていく。
「伊達でこの様な得物を使っている訳ではありませんよ」
けれど、小さい敵ながら数があるのは厄介だ、攻撃を受け流しつつも、後ろに下がらされてしまう。と、背後にある繁みから、別のゴブリンが姿を現した。
(挟み撃ち? いつの間に!!)
全く予期していなかった、もう1体の存在だった。背後のゴブリンは、仲間が優勢なのを知るとニタリと笑い、棍棒を高々と振り上げた……が、更にその後ろから現れた光の矢によりゴブリンはよろける。体勢を崩したところを別の位置から現れた斧が、ギロチンの如き速さで弧を描き、首と胴体を分断した。
「あなた……!?」
「うむ、やはり止めを刺しに追って正解だった」
「ゴブリン共を生かしておく必要もないから、な。その汚い首を叩き落とさせて貰うぜ」
姿を見せたのは、チマキマルとAnbarだった。
「牛はこっちに任せったい」
円とシュメルツも到着した。円は騒ぎに興奮する牛を優しく撫でさすり、自身とAnbarらが連れていた牛の揃っている場所へ向けて手綱を引く。大人しく居る仲間の姿が見えたことで安心したか、ようやっとこの牛も落ち着きを取り戻した。
「証明、する。シュテルプリヒの、……強さを」
護り、戦う。両方が行えて初めて彼女たちが正義だと胸を張れるのだ。ガントンファーにマテリアルを注ぎ込み、渾身の『スラッシュエッジ』を叩きつける。
「Zwei!」
2匹目! しかし、まだまだゴブリンは生き残っている。
「さっさと始末しよう」
そしてバレルとラピリスも追いつき、ここで全てのハンターが揃い、形勢は逆転した。
「円さん、この先に私たちが連れてきた牛もいます、それも……」
とラピリスが言いかけた時。
ドドド、という地鳴りと、バキバキ、という草木が踏み倒される音。
繁みが揺れ、飛び出してきたのは、黒い飾り石で彩られた黒い牛だった。
●決着
「ちょ、ちょっと、こっちへ来ちゃダメよ!」
優しく制しようとしたラピリスを突き飛ばし、力で押さえ込もうとしたバレルを軽々と振り払い、牛は鼻息を荒げてゴブリンの群れへ突進した。さながらボウリングのピンのように綺麗に四方に吹き飛ぶゴブリン。牛の勢いは止まらず進路上にいるハンター達に向かってさらに直進するが、しかし大事な結納品を傷つけるわけにはいかず、為す術無く薙ぎ倒されるままになるしかなかった。
「この、暴れ牛め」
面倒なのは小鬼ではなく牛だったか、バレルは眉根を寄せる。
「そのまま、こっちまで追ってこい」
チマキマルは牛の興奮を逆手に取り、どす黒いローブをわざと大きくはためかせ、自分を追わせることでゴブリンのいる位置から遠ざけた。牛にとってはゴブリンもハンターも同じく『敵』なのか、牛はチマキマルをまっしぐらに追いかけ、その後ろをラピリス達が更に追いかける。蠢くローブへ納得のいく頭突きを喰らわせてから、牛の猛進は止まった。
「落ち着いて。あなたをいじめた連中は、私たちが懲らしめてあげますから」
「ラピリスさん、蹴られると危ないですわ、真横に立たないで」
「ええ、大丈夫」
澪のアドバイスに従い、少しずつ牛に近づくラピリス。
「そうそう、ええ子たい……」
円も徐々に距離を縮め、皆で牛の視界を隠すようにする。
何故ならこれから牛の目の前で、金色の炎が燃え上がるのだから。
「……そのまま、倒れてろ」
牛が味方してくれたのだ、この好機を逃す手はない。バレルは覚醒した姿でバスタードソードを振り上げる。『強打』が込められたゴブリンへの一撃は幻影の火花が飛び散らせ、受け止めようとした棍棒ごと、打ち砕く。
「逃がすか」
劣勢に逃げようとしたゴブリンを、バイオレットは執拗に追いかける。
「手を出したのは、そっちだ」
人間様の財産を奪えばどうなるか、この手癖の悪い連中には思い知らせてやらねば。メタルシザーズはゴブリンを、復活する可能性をゼロにするまで切り刻んだ。
立ち上がるゴブリンはいない。
全ての牛泥棒は駆逐され、大切な結納品は装飾品のおおかたを取り戻して花婿との元へ返されたのだった。
牛の脚が折れでもしたら、とハラハラしながら待っていた依頼主達だが、多少の傷や飾りの破損はありながらも無事に戻ってきた牛を見て、安堵の溜息をついた。
「……あとの、行程、は。大丈夫、なの?」
と、シュメルツが尋ねた。
花嫁のもとまで、自分たちが引き続き護衛をしてもよいというのだ。嬉しい申し出ではないか。花婿と親族はぜひに、と答えた。そして婚約の証人として立ち会って欲しいとも。
「そんな、重要な、席に、なんて……」
「畏まった席じゃないべ。要するに、オラの可愛い未来のヨメさんを、あんたらにも見てもらいたいんだべ」
ならば断る理由もない。ハンター達は最後まで付き合うことにした。
その結果、盛大な酒宴に巻き込まれてしまうとは、この時は誰も知らなかったのである……。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
作戦相談卓 バレル・ブラウリィ(ka1228) 人間(リアルブルー)|21才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/03/15 23:53:04 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/14 16:48:05 |