• 不動

【不動】Queen's Gambit

マスター:cr

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/03/17 19:00
完成日
2015/03/25 03:18

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「ああ……面倒だわァ……」
 一人の女性が荒野を歩きながら、そう漏らしていた。気だるげな雰囲気を纏ったその女の姿は、ただ姿だけを見れば一瞬色気のある美女と思うかもしれない。
 その女の両脇にやや遅れて二人の男が付いていく。こちらは半裸に近い格好で、棍棒を手に歩いている。血なまぐさい匂いを漂わせ進むその姿は、この男達が只者ではないことを示していた。
 この三人の足元には何やら小さな生物が蠢いている。三人と同じく二本足で歩き、進行に付いていくためせわしなくその体を動かしている。
 一方、女が歩くところから100メートルばかり離れた位置。そこにはざっと二十人ばかりの人間が駆けていた。徒歩の者もいれば騎乗動物に乗ったものもいる。手には剣、槍、銃などまちまちの武器。
「ここでケリ付けちまおうぜ!」
 その内、最も前を走っていた者がそう叫び、一気に加速する。彼の視線の先にはここからでもはっきり見せる女の姿。美しく均整の取れた肉体だが、距離を考えるとどう見てもサイズが合わない。その身の丈は4メートルゆうにあろうか。それもそのはず、この女は怠惰の歪虚であった。


 先日行われたナナミ河撃滅戦の結果、人類側はCAMを投入した反撃により多大な成果を上げることに成功した。結果、多くの戦力を失った歪虚側は一度退いて再び力を溜めるべく後退を開始した。
 しかし、これをただ指をくわえて見守っている道理は無い。少しでも歪虚の戦力を削ぐべく、人類側は追撃を開始した。追いかけている二十人の方がそうだ。ハンター達と自由都市同盟海軍により構成されたこの追撃部隊は、敵を追い詰めるべく荒野を進んでいた。
「へへっ、グズグズしてると敵は全部俺のものだぜ!」
 先頭を走る海軍の男は、血気に逸り戦果を上げるべく真っ先に突っ込んでいこうとどんどん加速していく。
 一方の歪虚側にも変化があった。三人の足元を蠢いていた者――これはよく見ればゴブリンだ。それが少しずつ三人の前進に付いていけなくなっていた。
 結果、ゆっくりとだが両者の間合いは縮んで行く。
 そしてとうとう両者が交わることになった。
 海軍の男はその勢いのまま、最も後ろに居たゴブリンを追い抜くように走り、そのままご自慢の武器であるハルバートを振るう。ブン、という風を切る音と共に振るわれたそれは一瞬の内にゴブリンの首を捉え切り落とした。
「次はどいつだぁ?!」
 男は勢いのまま、更に先へ進んでいく。この部隊の戦力をできるだけ削り、あわよくば歪虚側の手札を開かせる。人類側の狙いは一つだ。男が一人抜けて進んでいる状況にはなっているが、考えていることは皆同じだった。


「本当に面倒だわァ……」
 一方の追いかけられる歪虚側は、この期に及んでまだ面倒臭がっていた。彼女らはご多分に漏れず恐ろしく怠け者であり、面倒臭がり屋が多い怠惰の歪虚でも一際面倒くさがりである。それを指してか、この女が歪虚の者から“破弓の女王”と呼ばれているのを人類側は知る由もない。
「面倒だからそろそろ逃げるのはやめにしなィ……?」
 そして女はとんでもないことを口走ったかと思うと、その動きを止めた。それに釣られるかのように、女を追随する巨人の男二人とゴブリン達も動きを止める。
 そして人類側は一瞬戸惑いながら、一気に間合いを詰める。いよいよ戦いの火蓋が切られるか、そう思われた時だった。

 先頭を走っていたはずの海軍の男が、こちら側に飛んできた。その胸に突き刺さっているのは一本の矢……のはずなのだが、矢にしては巨大、余りに巨大である。
 そして視線の先にあったのは、歪虚側のこちらから見て一番後ろに位置するのは“破弓の女王”、彼女が大きな弓を持った姿であった。
 弓の長さは5メートル。人類が一般的に使う長弓の実に3倍以上の大きさ。“女王”がいかに戦いにおいて怠けるか、を考えた結果、それがこの弓であった。決めた場所から動かず、強大かつ長射程な武器で持って敵を討ち滅ぼす。確かに動かなくて済むが、こんな芸当が出来るのは“女王”が持つ弓の技術が卓越しているからに他ならない。“女王”は、怠けるためならば努力は惜しまない者であった。

 そして戦いは始まった。始まってしまった。人類側は戦いを始めるコントロールを持っていると思っていたが、それは間違いであった。桁外れの武器はこの距離で既に交戦状態になったことを示していた。

リプレイ本文


「なんだよありゃあ……射撃戦を挑む気すら失せるぜ……」
 破弓の女王の繰り出した一矢がハンター達の間を貫き、その余裕を打ち砕く。追跡していた者の一人である藤堂研司(ka0569)も、そのあまりの威力に青ざめていた。
 だが、驚愕している暇は無い。女王は既に次の矢を放つ準備を始めていた。
「くそっ、全員散らばれ! 固まってるとまとめてやられるぞ!」
 それを見て鳴神 真吾(ka2626)が叫び、ハンター達は4人ずつ3つに分かれる。
「ゴブリンを頼む! 中央を中心に弾幕をはって排除してくれ! 機を見て、こちらで切り込む!」
 藤堂の言葉を聞き、海軍兵士たちは一歩下がって銃を構える。
 藤堂はそれを確認すると、馬を右に走らせつつ弓を構えた。だがそれより速く、藤堂の耳元で銃声が鳴った。
「……鼠に噛み付かれたか、鼠なんて可愛いものでも無いがな」
 銃声を鳴らしたのは、対崎 紋次郎(ka1892)。その視線の先には棍棒を振り回し、ズンズンと足音を鳴らして進むオーガ。弓使いに取って、最も警戒すべきことは懐に潜り込まれることである。それを防ぐため、オーガはその体を盾としてハンター達から女王を守る。さしずめ、オーガは女王にとってのルークと言ったところか。だが、チェスにおいて味方の駒を飛び越せないように、女王もオーガの体に隠れたハンター達を狙うことは出来ない。オーガを盾に前進し、仕留めてから一気に女王に接近する。それがハンター達の立てた作戦だった。そして対崎や藤堂の様に射撃を得意とするものは各々の武器でオーガに射掛ける。
 ならば藤堂のやるべきことは一つだ。弓を引き絞り、オーガに向かって放つ。その矢は女王のそれと比べると遥かに細く、一撃で仕留めるというわけには行かないだろう。だが、一点を狙えば話は別だ。視線をオーガの眼、そこに集中させ、呼吸を整え放つ。その矢は残念ながらわずかに逸れ、オーガの頭部をかすめただけに終わったが、戦いの流れを変える一手だった。顔を守ろうとしているのだろうか。振り回す棍棒が高くなる。
「やりやがったな!」
 一方、ジャック・エルギン(ka1522)の様に接近戦を狙うものは馬を走らせ、オーガに向かって真っ直ぐ突き進む。対崎の銃弾と藤堂の矢が懐に飛び込む余裕を作った。そのポケットめがけ、弾かれるように戦場を駆ける。
 先ほど女王に射抜かれた海軍兵士は、ジャックにとって同郷の仲間だ。それを傷つけられ、激昂してスピードを上げるジャック。だが、同時に彼は心のなかで仲間の無事を祈っていた。
 そしてジャックが駆け抜けるのに合わせて、一旦後ろに引いた海軍兵士たちが一斉に射撃を行う。戦場中央、ゴブリン達が広がって溜まっていた所に銃弾の雨霰が降り注ぐ。何体かのゴブリンは射抜かれ、何体かのゴブリンは慌てて左右に広がって銃弾を避けようとする。
 だが、外に散ったゴブリンの元には鳴神が居た。右側に出て行ったハンター達のミッションを遂行させるため、鳴神は露払いを務める。構えた拳銃から軽い音とともに銃弾が発射されると、ゴブリンは無様に踊りながら崩れた。


「ふははは、強敵との戦いこそ 我が人生なり! ゆくぞお!」
 一方、左側ではバルバロス(ka2119)が真っ先に戦場を駆けていた。その恐るべき強さを目にし、バルバロスの闘争本能は燃え上がる。赤褐色の肌の下で岩山のように筋肉が盛り上がったその姿は、オーガと対峙しても全く引けを取らない。その筋肉で全長3メートルにも上る巨大な斧を振り回し、近づく敵を薙ぎ払おうとする。海軍の銃弾から逃れようとして出てきたゴブリンがその刃の餌食となり、見るも無残に叩き潰された。
「一般部隊や思って追撃したら、えらい大物やったね」
 そしてそんなバルバロスを追うように、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)とイチカ・ウルヴァナ(ka4012)も馬を駆って走り抜ける。それを見てか、もう一体のオーガが突進を受け止めようと前に出てくる。みるみるうちに両者の距離は縮まり、その息遣いすら聞こえそうな距離になった時、一筋の矢がハンター達の間をかき分けるように飛び、オーガへと向かっていく。
 矢を放ったのはヒースクリフ(ka1686)。自分の敵はオーガのみ。その決意とともに放たれた矢は一瞬の内に戦場を縦断し、オーガの腹部に深々と突き刺さった。


「参った。流石にあの弓は危険すぎだね」
 三つに分かれたハンター達の最後の一つ、戦場中央ではアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が思わずそう漏らしていた。女王が見せた弓の威力、それは彼女を一旦立ち止まらせるに十分であった。目の前には遮るものが何もなく、多くのゴブリン達がハンター達を足止めせんと待ち構えている。ここに飛び出していけば、ただ弓の餌食になるだけ。勇気と無謀は違う。アルトは来るべき時を待ち、緊張感を保ちながら待機する。
 そしてその時はすぐにやって来た。ハンター達の背後に居た海軍兵士達の一斉射撃。その火蓋が切って落とされるか落とされないかのタイミングで、メル・アイザックス(ka0520)が飛び出した。銃弾を喰らい、のたうち回るゴブリン達の間を縫うようにメルは走る。ちらりと視界の端に弓を構えた女王が見える。恐らく女王は、この一帯に入るハンター達を狙ってくるだろう。そこでメルは狙いを定められないようにジグザグに走る。
「本当に歪虚ってとんでもないわね……」
 そして、メルと並ぶように前進するのはアイビス・グラス(ka2477)だ。決してどちらか一方が突出しないように注意しながら、メルと呼吸を合わせつつ戦場を駆ける。そこに、運良く銃弾の雨から逃れたゴブリンが襲いかかってきた!
 だが、アイビスは落ち着いて片足だけ鐙にかけると、体重を逆側に一気にかけた。馬の横に張り付くようにアイビスが立ち、ゴブリンの棍棒は虚しく空を切る。
「誰も死なせたくないの……だから、キミの力を貸して?」
 そして一瞬遅れて、自分の愛馬を撫でていたテトラ・ティーニストラ(ka3565)が飛び出す。テトラはそのまま一気に突き進み、アイビスを襲っていたゴブリンとすれ違うと同時に手裏剣を投げつける。その刃はクルクルと回転しながら風を切り、ゴブリンの眉間に深々と突き刺さった。一瞬の内に絶命し、後ろに倒れていくゴブリン。
 テトラはその様子を見て自信満々に勝ち誇ろうとした。だが次の瞬間、後ろに倒れようとしていたゴブリンの死体が跳ね上げられ、その体の中から巨大な矢が飛んでくる!
 しかし、テトラは気づいていた。耳の端に聞こえた嫌な風切り音。こちらに矢が向かってくる、その予感は的中する。どんなに正確無比な矢であろうと、分かってしまえば造作も無い。テトラが身をかがめるとその上を矢が飛んでいった。
「やははー! 美少女に敵なーしっ!!」
 今度こそテトラは勝ち誇り、そして再び馬を女王に向かって走らせる。


 戦場左側ではハンター4人がオーガに向けて突進を続けていた。だが、その速度は彼らの想定していたものと違う。戦場に広がるゴブリン達がハンター達に纏わりつき、その動きを止める。
「ぶるうぁっ!」
 バルバロスが憤怒の声と共に斧を振り回すが、その刃は虚しく空を切った。小さき体の雑魔は強くはないが、存在そのものが嫌らしくハンター達の障害となる。例えるなら、チェスにおけるポーンの様なものか。
「真っ向勝負とは言いません。どんな手を使っても、勝利を」
 だが、ハンター達は決して無策ではなかった。ユキヤの手から伸びた鋼の糸がゴブリンの脚に絡みつく。そしてスイッチを入れるとワイヤーは勢い良く手元に引き込まれ、そのままゴブリンの体がひっくり返った。
 後はとどめの一撃を食らわせるのみ。イチカが走りこみ、祖霊の力を棍に込め叩きつける。哀れな犠牲者は地面との間で叩き潰され絶命した。
 だが、そこにオーガが襲い来る。突進するその勢いを食い止めるべく、後ろからヒースクリフが矢を浴びせかけるがオーガの動きは抑えきれない。そのまま敵は一番矢面に居たバルバロス目掛けて力任せに棍棒を叩きつける。咄嗟にバルバロスは受け切ろうとするが、その勢いは止められず、獲物は胴を横薙ぎに打ち据えた。
 バルバロスの口から血が吹き出す。だが、その赤い染みを見て、狂戦士の闘争本能はさらに滾っていた。


 中央では機と見たアルトが一気に踏み込む。理想は戦場に穴が開いた瞬間に、一直線に女王目掛けて駆け抜けることだったが、敵もそれを想定していたのだろう。ゴブリンが雑魔と思えぬ動きでそれを食い止める。海軍兵士たちはよくやってくれた。ある程度数が減れば、自分が穴を開ければいい。
 馬を走らせ、真っ直ぐ突き進む。その勢いのまま行き掛けの駄賃とばかりに刀を横に薙ぐと、振動と共に振るわれた白刃は稲妻の様にゴブリンの肉体をえぐり、一瞬の内にその命を奪った。
「さて、怠惰の名の割に勤勉な指揮官か」
 その少し先をメルが走る。匠に馬を操り、女王の弓に狙わせないように、ゴブリンに妨げられぬように迫っていく。
「だが……怠ける為たぁ情けない。本当の努力ってのは、常に進化し続けるものさ!」
 その華麗な動きはメルの進化と蓄積の賜物だった。
 そして中央、残す二人は鏡写しのように動き、残ったゴブリンを片付けていく。
「やはっ♪ あたしの相手はめんどくさいよー!」
 テトラが投げつけた手裏剣は深々とゴブリンの胴に突き刺さり、その動きを永遠に縫い止める。
「強気に攻めていかないと長期戦は不利になる……一気に詰めていくわ!」
 逆側ではアイビスが手裏剣を投げる。高速回転した鉄の星はその勢いのままゴブリンの首筋をえぐり噴水のように血を吹き上げさせた。
 だがその時、女王が動いた。一瞬の内に弓を引き絞り、放たれる死を告げる一矢。
「アイビスさん! 避けて!」
 アルトはその動きを見逃さず、全身全霊をかけて叫ぶ。その声にアイビスが反応した。咄嗟に全体重を片側にかける。馬ごと倒れんばかりに姿勢を傾ける。
 そして次の瞬間強い衝撃。脚が引きちぎれんばかりの力に一瞬意識を失いそうになるアイビス。だが、幸運の女神は彼女に微笑んだ。見れば太ももから突き立つ太い、太い矢。しかしそれは致命傷にはならなかった。馬上にいる彼女の動きはこれで止まらない。激しい痛みが襲い来るが、戦えないわけではない。まだいける。奥歯を食いしばり、ゴブリンを避け再び女王を目指す。
 その時、女王が一瞬顔をしかめたのを、アルトはその鋭敏な知覚で見逃さなかった。


 戦場の右側でも、オーガとハンター達がぶつかり合っていた。一番に駆け抜けたジャックと棍棒を振り上げたオーガが正面からぶつかる。一回り小さいジャックを叩き潰すべく振り下ろされた棍棒は、しかしその体を捉えることはない。
「危ねー危ねー。まさにジンバイッタイってやつだな!」
 馬上の体を大きくひねって反らし、そのまま剣を棍棒に沿わせるジャック。力任せに振り下ろされた棍棒も、横からのほんの少しの力で逸らされる。地面に深く突き刺さるそれは当たっていれば大きな痛手となっただろうが、外れてしまえばただの隙に他ならない。
「足元が、お留守だぜ!」
 その勢いと体制のまま、ジャックは地面すれすれで剣を振るう。ハンターたちの何倍もの体重があろうオーガとはいえ、的確にバランスを崩されてしまっては立っていられない。ぐらりと体が揺れたところに、さらなる追撃が襲う。
 まず最初に襲いかかったのは二発の銃弾。一発は対崎の者、そしてもう一発は、弓を銃に持ち替えた藤堂のもの。二発の弾丸がオーガの頬をかすめ、二筋の傷を作る。
「マテリアルセイバー! スタンモード!!」
 そしてワンドに持ち替えた鳴神がその先端をオーガの体に触れさせ、一気にマテリアルを放出する。一瞬眩い光があたりを包み、轟く雷鳴の様な大きな音が戦場に響き渡る。そしてその光が晴れた時、そこには通り抜けた強烈な電撃にブルブルと体を触らわせる無残なオークの姿があった。


 一方、左側では、オーガとハンター達の間で一進一退の攻防が繰り広げられていた。オーガはただ棍棒を振り回しているだけなのだが、まともに食らっていい攻撃でもない。それほどまでにその質量がもたらす力は大きい。だが、ハンターたちには知恵と連携がある。
 まずバルバロスとすれ違うようにイチカが前に出る。そのまま体を回転させ、八角棍を横から叩きつける。狙うは足元、弁慶の泣き所と呼ばれる場所だ。強烈な衝撃を受けたからか、オーガの注意がそちらに引き付けられる。
 次にヒースクリフの弓が、イチカの頭越しに飛んで行く。その矢は山なりの軌道を描きオーガの肩口に深々と突き刺さった。下から見上げると、オーガの苦悶の表情がはっきりと見える。
 だが、その表情は一瞬のうちに見えなくなった。オーガが耐えぬいたからではない。その顔めがけ光の弾が飛び、爆発して覆い尽くしたからだ。光の弾を放ったのは、ユキヤ。衝撃がオーガを襲い、眼を眩ませる。
 しかしこの3つの攻撃は、全て次の一撃への伏線であった。山が動く。盛り上がった筋肉にマテリアルが注ぎ込み、さらに肥大させる。狂戦士の雄叫びとともに、唸りを上げて凶悪な刃が振るわれる。
 バルバロスが全身の力で振り回した斧が、3人の攻撃によるお膳立てをもって、深々とオーガの胸に突き刺さった。血しぶきが飛び、赤い霧が辺りを覆う。バルバロスの赤褐色の肌が更に紅潮したのは、興奮からか、それとも別の理由があるのか。確かな手応えを感じるハンター達。
 だが――それでもまだオーガは倒れなかった。女王の寵愛を受けたからか、壁となってハンター達の前に立ちはだかる。この壁を超えねば女王の元へ辿りつけない。
 これしきのことで諦めるわけには行かない。再びハンター達は構え直し、次の攻めに移ろうとしていた。


「くたばれぇぇっ!!」
 藤堂が裂帛の気合とともにマテリアルを銃弾に込め、トリガーを引く。銃声が響き、弾丸が発射される。一つの銃声から発射される二発の弾丸。並び立つ対崎が呼吸を合わせ、同時に放つ。そしてその二発の弾丸は、一点を目掛けて飛んでいった。その場所はオーガの両目。
 同時に襲い来る二発の弾丸は、振り回される棍棒を掻い潜り、2つの窪みへと吸い込まれていった。次の刹那、轟き渡るオーガの絶叫。顔を抑えのたうち回る。だが、まだ倒れない。
 そこでとどめの一撃を食らわせるため、ジャックが動いた。正面を避け一気に後ろに回り込み、渾身の一撃をオーガに喰らわせるべく剣を振り上げる。チェックメイトへとつなげる最後の一手が指されようとしてた。
 だが、オーガにとどめを刺したのはジャックでは無かった。他のハンターでも無い。
「それは……悪手だったわねェ……」
 舌なめずりをしながら、女王は弓を向けていた。
「右翼、弓くるよ、気ぃつけて!」
 気づいたイチカがありったけの声でトランシーバー目掛けて叫ぶ。だが、もう間に合わなかった。
 女王の大弓にはあまりにも短い距離を矢が走る。その矢は剣を振り上げたジャックの背中に一瞬のうちに突き刺さり、その体をオーガへと吹き飛ばした。そしてジャックの腹部を突き破った矢の先端が、瀕死のオーガの体を貫く。
 一本の矢に縫い止められるように、二人の肉体が重なりあって倒れていった。
 それが体を張って自らを守ってくれる城壁たる存在だとしても、女王には関係ない。もはや持たないと冷徹に判断すれば、敵を一人仕留めるための捨て駒として切り捨てる。そこで起きた信じられない光景に、一瞬戦場は沈黙に包まれる。そしてハンター達が状況を把握した時、女王は大きな歩幅で逃走を開始していた。
「このォっ!」
 深追いは禁物……そうは思っていたが、メルはもう止まれなかった。たとえ刺し違えてでも、女王を討つ。中央を駆け抜けたメルは手から光り輝く剣を出し、真っ直ぐ女王の背中目掛け突き出す。その剣は女王の脇腹をかすめ、ぱっと血が飛び散らせ、女王の足を一瞬止めた。二人の仲間を戦闘不能に追い込んだ敵への、せめてもの反撃の一太刀。
 だが、次の瞬間メルの小さな体が吹き飛ばされた。戦場左側でやりあっていたオーガが、この期に及んで女王を守るため、今戦っているハンター達を無視してメル目掛けて棍棒をフルスイングしたのだ。ハンター達もその隙を逃すわけは無い。バルバロスの斧が、ユキヤの光弾が、ヒースの矢が、そしてイチカの八角棍が次々に叩きつけられ、もう一体のオーガも血の海へと沈んだ。


「ちっ、あのデカ女め。怠惰とか言うワリに逃げの決断は早いじゃねーか」
 ゴブリン14体とオーガ2体、戦果としては十分。だが、女王は逃してしまった。見せつけられたあまりにも危険な武器に、対崎は忌々しげに吐き捨てる。
 だが、戦いはこれで終わりではない。こうやって追撃することで追い詰めた歪虚達を、次こそ潰す。その時はもうすぐそこまで迫っている。
「人みたいな相手も増えて、本当に戦争みたいになってきちまったな」
 その時のことを思い、鳴神はそう呟くのであった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 龍盟の戦士
    藤堂研司ka0569
  • 光凛一矢
    対崎 紋次郎ka1892
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラスka2477
  • 飴玉お姉さん
    テトラ・ティーニストラka3565

重体一覧

  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギンka1522

参加者一覧

  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • 「ししょー」
    岩井崎 メル(ka0520
    人間(蒼)|17才|女性|機導師
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 絆の雷撃
    ヒースクリフ(ka1686
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 光凛一矢
    対崎 紋次郎(ka1892
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • ヒーローを目指す者
    鳴神 真吾(ka2626
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 飴玉お姉さん
    テトラ・ティーニストラ(ka3565
    エルフ|14才|女性|疾影士
  • ドーントレス・トライブ
    イチカ・ウルヴァナ(ka4012
    人間(紅)|17才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/03/13 02:16:08
アイコン 作戦相談卓
藤堂研司(ka0569
人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/03/17 18:02:37
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/15 19:43:38