ゲスト
(ka0000)
一足遅いひな祭り?
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/19 12:00
- 完成日
- 2015/03/31 06:37
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「あーっ!?」
そう叫んだのはジーク・真田(kz0090)、辺境ユニオン『ガーディナ』の補佐役である。
突然の大声に、ユニオンにいたメンバーたちは一瞬怪訝そうな顔を浮かべたが、まあジークのことなので仕方ないかー、なんて思ってもいた。
もともと彼がいまの立場にいるのも、ハンターたちの協力あってのこと。もともと内向的な性格で、人の前で話をするのも苦手というタイプなのだ。
「……どうしたんですかジークさん」
とはいえ、誰かがとりあえず尋ねてみる。
「ああいえ。故郷のリアルブルーではこの時期女性の成長を祝う行事があるんですけど、すっかり忘れていたなと」
リアルブルーの一部で行われているもので、ひな祭り――と言うのだそうだ。
未婚の少女たちが花嫁御寮に見立てた人形を飾り、花の下で祝う。
最近ではずいぶん簡略化されているらしいが、それでも少女たちは毎年この行事を祝い、楽しむのだという。
「もう少し余裕のある時なら、リムネラ(kz0018)さんにも楽しんでいただきたかったんですけど……何しろこんなご時世ですから」
聖地奪還の旗印として彼女が立ち上がったのはまだ記憶に新しい。
「でも、きっと疲れていると思うんです。今までよりもずっとずっと。そう言う時に、こんな行事で心安まれば――」
ジークはちょっと考え、そしてぽんと手をたたいた。
「じゃあ、またサプライズでもしますか? それらしい何かってだけでも、きっと楽しんでくれると思いますからね」
花と人形を愛でながら、料理を食べる。なんだかとても魅力的に思えて、ハンターたちも賛同したのだった。
「あーっ!?」
そう叫んだのはジーク・真田(kz0090)、辺境ユニオン『ガーディナ』の補佐役である。
突然の大声に、ユニオンにいたメンバーたちは一瞬怪訝そうな顔を浮かべたが、まあジークのことなので仕方ないかー、なんて思ってもいた。
もともと彼がいまの立場にいるのも、ハンターたちの協力あってのこと。もともと内向的な性格で、人の前で話をするのも苦手というタイプなのだ。
「……どうしたんですかジークさん」
とはいえ、誰かがとりあえず尋ねてみる。
「ああいえ。故郷のリアルブルーではこの時期女性の成長を祝う行事があるんですけど、すっかり忘れていたなと」
リアルブルーの一部で行われているもので、ひな祭り――と言うのだそうだ。
未婚の少女たちが花嫁御寮に見立てた人形を飾り、花の下で祝う。
最近ではずいぶん簡略化されているらしいが、それでも少女たちは毎年この行事を祝い、楽しむのだという。
「もう少し余裕のある時なら、リムネラ(kz0018)さんにも楽しんでいただきたかったんですけど……何しろこんなご時世ですから」
聖地奪還の旗印として彼女が立ち上がったのはまだ記憶に新しい。
「でも、きっと疲れていると思うんです。今までよりもずっとずっと。そう言う時に、こんな行事で心安まれば――」
ジークはちょっと考え、そしてぽんと手をたたいた。
「じゃあ、またサプライズでもしますか? それらしい何かってだけでも、きっと楽しんでくれると思いますからね」
花と人形を愛でながら、料理を食べる。なんだかとても魅力的に思えて、ハンターたちも賛同したのだった。
リプレイ本文
●
ひな祭り、といえばリアルブルーの一部で伝統的に行われる祝い事の一つである。
しかしながらクリムゾンウェストでは馴染みの薄いイベントであるため、詳しいことを知っている参加者は――春日 啓一(ka1621)や屋外(ka3530)くらいのもので、リアルブルー出身といってもエリアの異なるエリオット・ウェスト(ka3219)などはうっすら聞き覚えがある程度。となればクリムゾンウェスト出身者も当然と言えば当然だがほとんど知るわけがなく――
「とりあえず、俺たちにも詳しく教えてくれないか。リムネラ(kz0018)嬢もここのところ働きづめらろう、楽しんでもらえるのならそれに力は惜しまんつもりだからな」
発案人のジーク・真田(kz0090)にそう持ちかけているのは、レイス(ka1541)だ。無論ジークもその気持ちがあってこそのアイデアであるため、頷いていろいろと教えはじめる。
「そうだ、雛壇とかの材料は準備出来るか?」
啓一はジークに尋ねると、それは問題ない、という返答が出た。まあ、階段タイプの飾り棚みたいなものに緋毛氈をかければそれらしくみえるので、確かに日曜大工が得意な啓一であれば作ることもではないだろう。
チョココ(ka2449)は元気いっぱいに手を振り上げる。
「ひな祭りというのはわたくしも知りませんが、楽しいイベントなら全力で楽しむ、それに限りますの!」
頭にはパルムのパルパルを乗せ、いかにも楽しそうな笑顔を振りまく。エイル・メヌエット(ka2807)もそれに頷いて、
「桜の樹の下でパーティなんて、とても素敵。アットホームで静かなひとときを、リムネラさんにも楽しんでもらえますように」
エイルの脳裏にかすかによぎる、リムネラの笑顔。そして、彼女が頑張って築こうとしている開拓地、ホープ。考えてみれば、この聖地奪還を号令にした作戦が展開されると言うことは、きっとリムネラにとって胸の痛むことも多くあるだろう。いつも気丈に微笑んでいるが、その心中は辛いに違いない。しかも、彼女は旗印のような存在として今回あるのだから。
「んっんー、辺境は大変だったし、まだこれからも大変だもんねー。こういう息抜きって大事よね」
ダガーフォール(ka4044)もうんうんと頷いた。ちなみに彼はジークのことを『ホサ』と呼ぶつもりらしい。本人曰く『かっこいいよね謎の助っ人外国人指名打者みたいで』だが、そもそもそんなネタをどこで知ったのか、こちらが聞きたいとジークは心中で思っていたりする。
「まずは準備ですね! すっごく楽しみです!」
そう笑顔を浮かべているのは父親がリアルブルー出身らしいミネット・ベアール(ka3282)。もっとも、本人は辺境出身だし、リアルブルー人らしい見目ではないので直ぐにはわからないのだけれど。
「とはいえ、物品の準備はジーク殿になるべく頼みたいです。一寸多いのですが、かまいませんか」
屋外が尋ねると、ジークはそのくらいかまわないと応じた。義手や義足、義眼などと言ったハンデはあるものの動きは平均的なハンター以上という屋外は、なかなかに心配りが多い。ジークの方も、皆の好意的な態度に感謝をするばかりであった。
●
準備と言うことで相談するのは、まずは料理。
これは基本的には一人一品を目安に作ることで合意に達した。無論得意な物はもっと作ってもかまわないし、苦手な者はそれ以外で力を発揮してもかまわない。適材適所という言葉が脳裏をよぎる。
折角ならジャポンのキモノを着るのも良いですよね、という提案で、それらしきものを縫い上げてみる。といってもジークとて詳しいわけではないので、リアルブルーの関連書籍やおぼろげな記憶、はたまた他のハンターへの聞き込みなどで作った、あくまで『なんちゃって』感のつよいものだが。生地はエイルの探してきた、上品な桜色のものをリムネラのために使う。他の仲間のぶんよりも、特に綺麗なものを探すのには苦労したのよと、あとで彼女は苦笑していた。
啓一は準備された材料を、雛壇やら会場用の長いすやらにしていく。特に雛壇はなかなかの出来で、壊すのも勿体ない感じだ。
それから、雛人形。
雛祭りのもう一つの主役ともいえるそれは、当然ながらクリムゾンウェストでは入手困難な代物である。ということで、木彫りやらで丁寧に拵えていくことになった。難しいものではないが、折角なら見目の良いものを、ということで、全員で手分けして作っていく。レイスは折角ならばと雛人形の顔をリムネラや仲間たちにどことなく似せたものにする。なかなかに可愛らしい出来で、特にリムネラ人形は愛嬌のあるできばえだ。それこそリムネラに好意的感情を持つファン垂涎の品と言えよう。
「ジーク、これはそれこそファンクラブの資金源にもなるだろうから」
人形の型は後々ジークが預かることになる。
ちなみにミネットがこしらえたものは、父親の影響――という本人の弁だが、どこか萌えキャラ風の造形の人形になっていた。
「そういえば、ジークさんの言っていた、流し雛? それも実践したいけれど」
エイルはそう言って、近くに川がないかを確認。もともとは川に自分の厄を移した、自分に似せた人形を流すという行事の延長が雛祭りなのだと聞いてから、これはやっておきたいと思ったのだそうだ。
今リムネラが背負っているものを少しでも軽く出来るのなら、それにこしたことはないから。
「でも辺境に行くのは初めてだから楽しみだよ」
エリオットが言うと、ジークが目をぱちくり。
「いえ、その、今回はリゼリオで開催するんですが」
言われたエリオットもミスに気づいたようで苦笑するしかない。
「でもキツケって、こうでいいのかな」
着物慣れしていない面々が、独自に着付けの勉強をしている。啓一が一応確認をすると、あわせが左右逆だった。
「これだと死に装束になっちまうぞ」
「そうなんだ、なかなか面白いね」
知識欲と好奇心の旺盛なエリオットはそんな言葉も一つ一つ頭に焼き付けていく。
「セッティングの手伝いは任せて? あと本番ではBGM演奏したりしても良いよね」
そんなことを言いながら、ダガーフォールはニコニコ笑顔。身軽な身体のこなしをめいいっぱい活用して、雑用に徹するつもりらしい。また、ひな祭りにちなんだ曲やリアルブルーの春にまつわる曲などを、ジークに教わって耳から旋律を覚える。いわゆる耳コピという奴だ。
「うん、それらしくなっています」
ジークの言葉に、ダガーフォールも満足気味。メロディを覚えたら少しばかりアレンジを加えるつもりらしく、いろいろと頭を巡らせている模様だった。
やがて、その日がくる。
●
――その日も、リムネラはどこかぼんやりしていた。
おそらく先日の一世一代の大演説で疲れ果ててしまったというのもあるかも知れない。そのくらい、彼女にとっては難しい演説であったのだ。もともと巫女としての学習を受けたリムネラはああいった場に慣れていないこともあって、緊張しっぱなしだったのだ。
それからしばらくは放心状態。
だから、ハンターたちの思惑に、まったく気づいていなかったのだ。
「リムネラ嬢」
声をかけたのは、レイスだった。脇にエイルをつれているが、二人ともガーディナ側からの呼びかけなどに応じた依頼を受けてくれていることもあって、リムネラからするととても頼りになるハンターたちの中の二人、という印象を持っていた。
「ドウ……しまシタ、か?」
ぽかんとしていると、リムネラに伸ばされた掌。
「一緒に来てくれないか?」
レイスがいうと、傍でエイルがクスクスと笑った。リムネラはここで二人の服装にちりっと違和感を持つ。ああ、これはかつてリアルブルーの書物で見たものによく似ている――
「迎えにきたんです。行きましょう」
エイルがいうと、リムネラはまたわずかに呆然とした表情で、そのままガーディナの一室に連れ込まれた。
「ああ、やっぱりよく似合ってる。サイズもちょうど良くて、良かったわ……ふふ、リムネラさん、凄く綺麗。おひな様みたい」
桜色の着物は、リムネラの白い膚によく映える。結い髪に簪を挿したその姿は、普段よりもどこかあでやかにみえる。
「おひな様……デスか?」
それは確かリアルブルーの行事で使われる単語だとぼんやり思い出して、そこではたと気づいた。
これはリムネラ自身のために、ハンターたちが気遣ってくれている「イベント」なのだと。
場所はガーディナの一角に咲く桜の樹。
屋外が丁寧にも、靴を脱いでくつろげるようにと地面に布と絨毯の二枚重ねにしてあり、更にその上には啓一の拵えた机や椅子が並ぶ。
ダガーフォールは軽やかにギターを鳴らして彼女を歓迎する。
ハンターたちは手作りの着物を身に纏い、そして――
その周囲の、多くの、人、人、人。
リムネラを慕っている人たちが、ジークとレイスの呼びかけに応じて集まってくれたのだ。
流石にこれには、リムネラも声が出ない。
「みんなリムネラさんを心配しているんですよ」
ジークの言葉に、リムネラは肩が震える。
頬に湿り気を感じてはたと触れてみれば、知らずの内に一粒涙をこぼしていた。
緊張で張り詰めていた糸が、ようやく緩んだのだ。
レイスが小さく、小さく微笑む。
「リムネラ嬢、今は立場や責務のためではなく、一人の少女として遊んでくれ。巫女もリーダーも女の子も、すべて貴女なのだからな。どれかを犠牲にして硬直しないように、たまには息抜きを忘れないでくれ」
その言葉が、リムネラの心にじんわりとしみこんだ。
●
「もともとひな祭りは父の故郷の行事ですからね」
ジークが言うと、チョココはおずおずと、しかしそわそわと、前に出てきた。相変わらず頭の上にパルパルをのせているその姿は、幼く愛らしい。
「ようこそお姫様、ですわ♪ わたくしはチョココ、こちらはパルムのパルパルですの」
丁寧で可愛らしいあいさつに、思わずリムネラも涙が引っ込む。
「フフ、可愛らしいあいさつ、ありがとうデス」
一人と一体にリムネラもあいさつをすると、パルパルによく似た形のクッキーを差し出される。
「手作りですの。みなさまで食べましょう」
その言葉で、宴の空気が一気に和んだ。
よく見れば、可愛らしい雛壇と雪洞まで用意されている。更にその上には多くの人形。一番上にある人形は、リムネラの来ている着物の共布で作られた着物を身に纏っているようだ。
「コレ、ワタシ……デスか?」
その問いに是と答えるように頷く啓一と屋外。
「あいさつが遅れた。僕はエリオット・ウェスト。よろしく、だね。……それにしてもヒナマツリというのはなかなかに面白いね。こういうパーティはなかなか現地に行かないと味わえないものだけれど」
エリオットが苦笑しながら、ミネットの特製スープを頬張る。エプロン姿の屋外が、外に置いた簡易竈で適度にあたためつつ、料理を回していたのだ。
「うん、……おいしいね、これ。野趣に溢れてて」
言われたミネットもまんざらではないらしく、慣れない着物姿で嬉しそうに笑う。ただ、慣れない着物姿というのがやはり厄介で、時折あちらこちらがきわどいことになってしまうのだが、まあそれも仕方ないのかも知れない。
「私はミネットです! 狩猟部族の出身で、今は一人前のハンターになるために修行中なんです」
そう言っているが、彼女のいう「ハンター」は文字通りの猟師のことだから、微妙に会話がちぐはぐ。しかも料理を思い切り満喫しているので言葉が微妙に伝わりにくい。ただ、それはそれでミネットが『満足』しているという証拠でもある。その満ち足りた笑顔がリムネラの心を和ませているのは、本人のあずかり知らぬところであろうが。
「リムネラ殿も、お熱いですので、少しずつお楽しみ下さい」
そう言われて渡されたスープを、彼女は楽しそうに少しずつ口に含む。料理の味もしないような日々が続いていたせいか、ダイレクトに脳を刺激しているのだろう、本当に楽しそうに。
「菓子やスシなどの、リアルブルーの雛祭りで食されるものも用意してみた。無論、本場の味にはとうていかなわないかも知れないが」
レイスが言いながらそれを示すが、その本場から来た啓一やジークが無言でグッジョブ、と目で訴える。十分おいしいと言うことらしい。
と、それまで余り言葉を発しなかった啓一が、リムネラにそっと近づいた。
「……俺はみんなみたいに料理が出来る若えも、楽器が扱えるわけでもねぇ。俺にはこれくらいしか出来ねぇが、良ければ思い出作りの一つとして受け取ってくれ」
それは桜の花弁を刻んだブレスレット。啓一自らの手でついさっき彫り込んだものだった。
「マァ……こんなモノも、ホントウに、ありがとう」
リムネラは受け取ってそのままそれを腕に通す。きらりと輝くそのブレスレットは、金属製だがどこか暖かみを感じられた。
ダガーフォールは食べものをちょこちょこ食べつつも、演奏を断続的に続けている。
ミネットがその音楽にあわせて、緩やかに踊り出した。決して上手なものではないが、それは彼女の故郷の『厄除けの舞』のアレンジなのだという。ふわりゆらりと舞い踊る様は、それまでの彼女とはどこか異なる、不思議な感じがした。
●
日が大分傾いてきた頃、チラ、とエイルがレイスを見やる。
「ああ、……そろそろ少し行かないか」
促されて、ハンターたちはぞろぞろと移動をはじめた。目的地は、近くの小川。まだ整備されきっていないそこは、河原に春の小さな花たちが咲いている。
「流し雛というんですが、リアルブルー式の厄落としの方法です」
ジークが再度そう説明して、自分の名前を書いたヒトガタ――依代をそっと草船に浮かべ、川に流す。
「こうやると、自分の身体の厄も川の流れとともに流れるんだそうです」
言われたとおり、ハンターたちも実践する。
――リムネラも。
その横顔は、いつものガーディナリーダーでも、巫女でもなく、ただの少女のモノだった。
「わるいモノが、コレで流れていくと、イイですネ」
少女は、緩やかに笑んでいる。
ただのリムネラが、そこにいた。
少女は改めて礼を言う。
「トテモ楽しかった……ホントウに、アリガトウ」
その笑顔をみて、誰もが笑う。
――だって、貴女のその笑顔が見たいから。
だから、皆は集まったのだから。
ひな祭り、といえばリアルブルーの一部で伝統的に行われる祝い事の一つである。
しかしながらクリムゾンウェストでは馴染みの薄いイベントであるため、詳しいことを知っている参加者は――春日 啓一(ka1621)や屋外(ka3530)くらいのもので、リアルブルー出身といってもエリアの異なるエリオット・ウェスト(ka3219)などはうっすら聞き覚えがある程度。となればクリムゾンウェスト出身者も当然と言えば当然だがほとんど知るわけがなく――
「とりあえず、俺たちにも詳しく教えてくれないか。リムネラ(kz0018)嬢もここのところ働きづめらろう、楽しんでもらえるのならそれに力は惜しまんつもりだからな」
発案人のジーク・真田(kz0090)にそう持ちかけているのは、レイス(ka1541)だ。無論ジークもその気持ちがあってこそのアイデアであるため、頷いていろいろと教えはじめる。
「そうだ、雛壇とかの材料は準備出来るか?」
啓一はジークに尋ねると、それは問題ない、という返答が出た。まあ、階段タイプの飾り棚みたいなものに緋毛氈をかければそれらしくみえるので、確かに日曜大工が得意な啓一であれば作ることもではないだろう。
チョココ(ka2449)は元気いっぱいに手を振り上げる。
「ひな祭りというのはわたくしも知りませんが、楽しいイベントなら全力で楽しむ、それに限りますの!」
頭にはパルムのパルパルを乗せ、いかにも楽しそうな笑顔を振りまく。エイル・メヌエット(ka2807)もそれに頷いて、
「桜の樹の下でパーティなんて、とても素敵。アットホームで静かなひとときを、リムネラさんにも楽しんでもらえますように」
エイルの脳裏にかすかによぎる、リムネラの笑顔。そして、彼女が頑張って築こうとしている開拓地、ホープ。考えてみれば、この聖地奪還を号令にした作戦が展開されると言うことは、きっとリムネラにとって胸の痛むことも多くあるだろう。いつも気丈に微笑んでいるが、その心中は辛いに違いない。しかも、彼女は旗印のような存在として今回あるのだから。
「んっんー、辺境は大変だったし、まだこれからも大変だもんねー。こういう息抜きって大事よね」
ダガーフォール(ka4044)もうんうんと頷いた。ちなみに彼はジークのことを『ホサ』と呼ぶつもりらしい。本人曰く『かっこいいよね謎の助っ人外国人指名打者みたいで』だが、そもそもそんなネタをどこで知ったのか、こちらが聞きたいとジークは心中で思っていたりする。
「まずは準備ですね! すっごく楽しみです!」
そう笑顔を浮かべているのは父親がリアルブルー出身らしいミネット・ベアール(ka3282)。もっとも、本人は辺境出身だし、リアルブルー人らしい見目ではないので直ぐにはわからないのだけれど。
「とはいえ、物品の準備はジーク殿になるべく頼みたいです。一寸多いのですが、かまいませんか」
屋外が尋ねると、ジークはそのくらいかまわないと応じた。義手や義足、義眼などと言ったハンデはあるものの動きは平均的なハンター以上という屋外は、なかなかに心配りが多い。ジークの方も、皆の好意的な態度に感謝をするばかりであった。
●
準備と言うことで相談するのは、まずは料理。
これは基本的には一人一品を目安に作ることで合意に達した。無論得意な物はもっと作ってもかまわないし、苦手な者はそれ以外で力を発揮してもかまわない。適材適所という言葉が脳裏をよぎる。
折角ならジャポンのキモノを着るのも良いですよね、という提案で、それらしきものを縫い上げてみる。といってもジークとて詳しいわけではないので、リアルブルーの関連書籍やおぼろげな記憶、はたまた他のハンターへの聞き込みなどで作った、あくまで『なんちゃって』感のつよいものだが。生地はエイルの探してきた、上品な桜色のものをリムネラのために使う。他の仲間のぶんよりも、特に綺麗なものを探すのには苦労したのよと、あとで彼女は苦笑していた。
啓一は準備された材料を、雛壇やら会場用の長いすやらにしていく。特に雛壇はなかなかの出来で、壊すのも勿体ない感じだ。
それから、雛人形。
雛祭りのもう一つの主役ともいえるそれは、当然ながらクリムゾンウェストでは入手困難な代物である。ということで、木彫りやらで丁寧に拵えていくことになった。難しいものではないが、折角なら見目の良いものを、ということで、全員で手分けして作っていく。レイスは折角ならばと雛人形の顔をリムネラや仲間たちにどことなく似せたものにする。なかなかに可愛らしい出来で、特にリムネラ人形は愛嬌のあるできばえだ。それこそリムネラに好意的感情を持つファン垂涎の品と言えよう。
「ジーク、これはそれこそファンクラブの資金源にもなるだろうから」
人形の型は後々ジークが預かることになる。
ちなみにミネットがこしらえたものは、父親の影響――という本人の弁だが、どこか萌えキャラ風の造形の人形になっていた。
「そういえば、ジークさんの言っていた、流し雛? それも実践したいけれど」
エイルはそう言って、近くに川がないかを確認。もともとは川に自分の厄を移した、自分に似せた人形を流すという行事の延長が雛祭りなのだと聞いてから、これはやっておきたいと思ったのだそうだ。
今リムネラが背負っているものを少しでも軽く出来るのなら、それにこしたことはないから。
「でも辺境に行くのは初めてだから楽しみだよ」
エリオットが言うと、ジークが目をぱちくり。
「いえ、その、今回はリゼリオで開催するんですが」
言われたエリオットもミスに気づいたようで苦笑するしかない。
「でもキツケって、こうでいいのかな」
着物慣れしていない面々が、独自に着付けの勉強をしている。啓一が一応確認をすると、あわせが左右逆だった。
「これだと死に装束になっちまうぞ」
「そうなんだ、なかなか面白いね」
知識欲と好奇心の旺盛なエリオットはそんな言葉も一つ一つ頭に焼き付けていく。
「セッティングの手伝いは任せて? あと本番ではBGM演奏したりしても良いよね」
そんなことを言いながら、ダガーフォールはニコニコ笑顔。身軽な身体のこなしをめいいっぱい活用して、雑用に徹するつもりらしい。また、ひな祭りにちなんだ曲やリアルブルーの春にまつわる曲などを、ジークに教わって耳から旋律を覚える。いわゆる耳コピという奴だ。
「うん、それらしくなっています」
ジークの言葉に、ダガーフォールも満足気味。メロディを覚えたら少しばかりアレンジを加えるつもりらしく、いろいろと頭を巡らせている模様だった。
やがて、その日がくる。
●
――その日も、リムネラはどこかぼんやりしていた。
おそらく先日の一世一代の大演説で疲れ果ててしまったというのもあるかも知れない。そのくらい、彼女にとっては難しい演説であったのだ。もともと巫女としての学習を受けたリムネラはああいった場に慣れていないこともあって、緊張しっぱなしだったのだ。
それからしばらくは放心状態。
だから、ハンターたちの思惑に、まったく気づいていなかったのだ。
「リムネラ嬢」
声をかけたのは、レイスだった。脇にエイルをつれているが、二人ともガーディナ側からの呼びかけなどに応じた依頼を受けてくれていることもあって、リムネラからするととても頼りになるハンターたちの中の二人、という印象を持っていた。
「ドウ……しまシタ、か?」
ぽかんとしていると、リムネラに伸ばされた掌。
「一緒に来てくれないか?」
レイスがいうと、傍でエイルがクスクスと笑った。リムネラはここで二人の服装にちりっと違和感を持つ。ああ、これはかつてリアルブルーの書物で見たものによく似ている――
「迎えにきたんです。行きましょう」
エイルがいうと、リムネラはまたわずかに呆然とした表情で、そのままガーディナの一室に連れ込まれた。
「ああ、やっぱりよく似合ってる。サイズもちょうど良くて、良かったわ……ふふ、リムネラさん、凄く綺麗。おひな様みたい」
桜色の着物は、リムネラの白い膚によく映える。結い髪に簪を挿したその姿は、普段よりもどこかあでやかにみえる。
「おひな様……デスか?」
それは確かリアルブルーの行事で使われる単語だとぼんやり思い出して、そこではたと気づいた。
これはリムネラ自身のために、ハンターたちが気遣ってくれている「イベント」なのだと。
場所はガーディナの一角に咲く桜の樹。
屋外が丁寧にも、靴を脱いでくつろげるようにと地面に布と絨毯の二枚重ねにしてあり、更にその上には啓一の拵えた机や椅子が並ぶ。
ダガーフォールは軽やかにギターを鳴らして彼女を歓迎する。
ハンターたちは手作りの着物を身に纏い、そして――
その周囲の、多くの、人、人、人。
リムネラを慕っている人たちが、ジークとレイスの呼びかけに応じて集まってくれたのだ。
流石にこれには、リムネラも声が出ない。
「みんなリムネラさんを心配しているんですよ」
ジークの言葉に、リムネラは肩が震える。
頬に湿り気を感じてはたと触れてみれば、知らずの内に一粒涙をこぼしていた。
緊張で張り詰めていた糸が、ようやく緩んだのだ。
レイスが小さく、小さく微笑む。
「リムネラ嬢、今は立場や責務のためではなく、一人の少女として遊んでくれ。巫女もリーダーも女の子も、すべて貴女なのだからな。どれかを犠牲にして硬直しないように、たまには息抜きを忘れないでくれ」
その言葉が、リムネラの心にじんわりとしみこんだ。
●
「もともとひな祭りは父の故郷の行事ですからね」
ジークが言うと、チョココはおずおずと、しかしそわそわと、前に出てきた。相変わらず頭の上にパルパルをのせているその姿は、幼く愛らしい。
「ようこそお姫様、ですわ♪ わたくしはチョココ、こちらはパルムのパルパルですの」
丁寧で可愛らしいあいさつに、思わずリムネラも涙が引っ込む。
「フフ、可愛らしいあいさつ、ありがとうデス」
一人と一体にリムネラもあいさつをすると、パルパルによく似た形のクッキーを差し出される。
「手作りですの。みなさまで食べましょう」
その言葉で、宴の空気が一気に和んだ。
よく見れば、可愛らしい雛壇と雪洞まで用意されている。更にその上には多くの人形。一番上にある人形は、リムネラの来ている着物の共布で作られた着物を身に纏っているようだ。
「コレ、ワタシ……デスか?」
その問いに是と答えるように頷く啓一と屋外。
「あいさつが遅れた。僕はエリオット・ウェスト。よろしく、だね。……それにしてもヒナマツリというのはなかなかに面白いね。こういうパーティはなかなか現地に行かないと味わえないものだけれど」
エリオットが苦笑しながら、ミネットの特製スープを頬張る。エプロン姿の屋外が、外に置いた簡易竈で適度にあたためつつ、料理を回していたのだ。
「うん、……おいしいね、これ。野趣に溢れてて」
言われたミネットもまんざらではないらしく、慣れない着物姿で嬉しそうに笑う。ただ、慣れない着物姿というのがやはり厄介で、時折あちらこちらがきわどいことになってしまうのだが、まあそれも仕方ないのかも知れない。
「私はミネットです! 狩猟部族の出身で、今は一人前のハンターになるために修行中なんです」
そう言っているが、彼女のいう「ハンター」は文字通りの猟師のことだから、微妙に会話がちぐはぐ。しかも料理を思い切り満喫しているので言葉が微妙に伝わりにくい。ただ、それはそれでミネットが『満足』しているという証拠でもある。その満ち足りた笑顔がリムネラの心を和ませているのは、本人のあずかり知らぬところであろうが。
「リムネラ殿も、お熱いですので、少しずつお楽しみ下さい」
そう言われて渡されたスープを、彼女は楽しそうに少しずつ口に含む。料理の味もしないような日々が続いていたせいか、ダイレクトに脳を刺激しているのだろう、本当に楽しそうに。
「菓子やスシなどの、リアルブルーの雛祭りで食されるものも用意してみた。無論、本場の味にはとうていかなわないかも知れないが」
レイスが言いながらそれを示すが、その本場から来た啓一やジークが無言でグッジョブ、と目で訴える。十分おいしいと言うことらしい。
と、それまで余り言葉を発しなかった啓一が、リムネラにそっと近づいた。
「……俺はみんなみたいに料理が出来る若えも、楽器が扱えるわけでもねぇ。俺にはこれくらいしか出来ねぇが、良ければ思い出作りの一つとして受け取ってくれ」
それは桜の花弁を刻んだブレスレット。啓一自らの手でついさっき彫り込んだものだった。
「マァ……こんなモノも、ホントウに、ありがとう」
リムネラは受け取ってそのままそれを腕に通す。きらりと輝くそのブレスレットは、金属製だがどこか暖かみを感じられた。
ダガーフォールは食べものをちょこちょこ食べつつも、演奏を断続的に続けている。
ミネットがその音楽にあわせて、緩やかに踊り出した。決して上手なものではないが、それは彼女の故郷の『厄除けの舞』のアレンジなのだという。ふわりゆらりと舞い踊る様は、それまでの彼女とはどこか異なる、不思議な感じがした。
●
日が大分傾いてきた頃、チラ、とエイルがレイスを見やる。
「ああ、……そろそろ少し行かないか」
促されて、ハンターたちはぞろぞろと移動をはじめた。目的地は、近くの小川。まだ整備されきっていないそこは、河原に春の小さな花たちが咲いている。
「流し雛というんですが、リアルブルー式の厄落としの方法です」
ジークが再度そう説明して、自分の名前を書いたヒトガタ――依代をそっと草船に浮かべ、川に流す。
「こうやると、自分の身体の厄も川の流れとともに流れるんだそうです」
言われたとおり、ハンターたちも実践する。
――リムネラも。
その横顔は、いつものガーディナリーダーでも、巫女でもなく、ただの少女のモノだった。
「わるいモノが、コレで流れていくと、イイですネ」
少女は、緩やかに笑んでいる。
ただのリムネラが、そこにいた。
少女は改めて礼を言う。
「トテモ楽しかった……ホントウに、アリガトウ」
その笑顔をみて、誰もが笑う。
――だって、貴女のその笑顔が見たいから。
だから、皆は集まったのだから。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/18 12:08:11 |
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うれしいひなまつり【相談卓】 エイル・メヌエット(ka2807) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/03/19 01:13:28 |