ゲスト
(ka0000)
桜の下で
マスター:岡本龍馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/26 12:00
- 完成日
- 2015/04/01 13:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
景色が淡い桃色に包まれる。
春を感じさせるその情景はこの季節の風物詩。
舞い散る桜の花弁。
その花に集まってくるのは虫たちではなく、酒を手にした大人たち。
飲んでは騒ぎ、飲んでは騒ぎ。日々の疲れやしがらみを忘れて、ただその時を楽しむ。
……ともなれば儲かるのは出店である。
多少ふっかけたところで酔いが回ってしまっていては気づく由もない。
そもそも花見シーズンだというのに仕事に励んでいるのだ。利益をちょっと多めに出させてもらっても罰は当たらないだろう。
サービス業の光と影である。
●
「ゆゆしき事態ね……」
大衆食堂『我が家』の店主、松原静は頭を抱えていた。
いつもは客でごった返す店内。しかしそれがお昼時だというのに閑古鳥が鳴いているのだ。
店主としては対策を講じなければならないだろう。
しかしその原因と理由は明白であった。
……お花見。
それぞれ食事を持ち寄って桜の下でどんちゃん騒ぎ。
そんな状況、わざわざ『我が家』に足を運ぶまでもない。
けれど……
「よしっ!」
こんな時こそ頼りになる存在がいることを静は忘れていなかった。
またあの時のように力を借りれば……。
「出張だー!」
静は店先の看板に一言二言書き込むと、意気揚々と「OPEN」の札を「CLOSE」へと裏返した。
景色が淡い桃色に包まれる。
春を感じさせるその情景はこの季節の風物詩。
舞い散る桜の花弁。
その花に集まってくるのは虫たちではなく、酒を手にした大人たち。
飲んでは騒ぎ、飲んでは騒ぎ。日々の疲れやしがらみを忘れて、ただその時を楽しむ。
……ともなれば儲かるのは出店である。
多少ふっかけたところで酔いが回ってしまっていては気づく由もない。
そもそも花見シーズンだというのに仕事に励んでいるのだ。利益をちょっと多めに出させてもらっても罰は当たらないだろう。
サービス業の光と影である。
●
「ゆゆしき事態ね……」
大衆食堂『我が家』の店主、松原静は頭を抱えていた。
いつもは客でごった返す店内。しかしそれがお昼時だというのに閑古鳥が鳴いているのだ。
店主としては対策を講じなければならないだろう。
しかしその原因と理由は明白であった。
……お花見。
それぞれ食事を持ち寄って桜の下でどんちゃん騒ぎ。
そんな状況、わざわざ『我が家』に足を運ぶまでもない。
けれど……
「よしっ!」
こんな時こそ頼りになる存在がいることを静は忘れていなかった。
またあの時のように力を借りれば……。
「出張だー!」
静は店先の看板に一言二言書き込むと、意気揚々と「OPEN」の札を「CLOSE」へと裏返した。
リプレイ本文
●桜の下で
「……うん。こんなもんかな」
即席とはいえ、なかなか見た目の整った二つの屋台。その屋根に『我が家』の看板を取り付けた静が満足げにうなづく。
時刻は午前七時。まだ少し早い時間ではあるが、すでに場所取り合戦が始まっており、昼のにぎやかさを予感させる。
「それじゃあ今日はよろしくお願いします」
集まった八人のハンターたちへ向けて静が笑顔でお辞儀した。
「いやー、桜って話には聞いてましたけど、キレイですねぇー」
「お花見か……うん、風情があっていいね」
「花なんか見て何か楽しいのかなー?」
出店の準備をしながら桜色の世界に目を向けたメリエ・フリョーシカ(ka1991)がつぶやくと、徐々に増えつつあった花見客を見ていたクィーロ・ヴェリル(ka4122)が首肯を返す。
しかし、ロイ・J・ラコリエス(ka0620)には理解の及ばないことだったようだ。
「どっちの世界でも、考えることは同じなのね」
「でも結局、大人は酒を飲むだけなんだけどね」
午前中から酒を飲んでいる人々を見る柏部 狭綾(ka2697)に、静が苦笑交じりに答えた。
「狼藉を働く人がいなければいいですね」
酒、という言葉からその先に起こりうる可能性を考えて、ペル・ツェ(ka4435)が対策を考え始める。
「静さん、そろそろはじめないのかな?」
「おっとっと、そうだね。始めよっか」
「接客は、多少は心得もありますっ。売り子任されまして大丈夫ですっ」
クィーロの指摘を受けた静がエプロンを締め直すと、メリエはぐぐっと拳を握る。
各々がやるべきことに取り掛かり始め、クィーロが料理していると、その隣に来た静が、
「クィーロ君にはまたお世話になるね」
と、口にした。
主に主食を提供する屋台の隣、もう一つの屋台では落葉松 鶲(ka0588)を中心とした面々によって甘味を出す準備が進められていた。
「今日はお外出たくないって言ったのに……お姉ちゃんのばか……」
「ほら、ちゃんとご挨拶しなさい」
鶲はその背中に隠れた落葉松 日雀(ka0521)を、今日一日一緒に仕事をする鮫島 寝子(ka1658)の前へ引っ張り出した。
「ひがらんは初めまして! 君が噂の妹さんだね! 僕は猫鮫の寝子だよ!」
「何でも食べる強い鮫っ子だけど、友達は食べないから安心してね!」
ビクッと体を震わせた日雀に、寝子が慌てて付け加える。
「あ、えと……落葉松日雀です……よろしくおねがいします……」
ぎりぎり聞こえる位の声量で挨拶すると、日雀は瞬時に鶲の背中へ引っ込んでしまう。
その様子を見ていた鶲がクスッとほほえむ。
「それでは始めましょう」
鶲は蒸してあったもち米を取り出し、それを潰してこねつつ食紅をくわえて色付けをしていき、その横では日雀と寝子があんこを包んで俵型に整える。そしてそれに葉を巻きつければ桜餅の完成だ。
「桜って食べられるんだねぇ」
「これも、お米とは違うもち米や白玉粉というものを使うんですよ」
目をキラキラさせる寝子に、材料についての説明を鶲が加える。
「形はこんなもんでいいかなぁ?」
話をしつつ、最初に鶲が作ったものと自分の作った物を、見様見真似でやっていた寝子が並べて比べていく。
その横で包んでいる……ふりをしてサボりを決め込む日雀。
「日雀?」
ばれた。
「私は作るより食べる方がいいなー」
鶲の笑顔の圧力の前に、ボヤキつつも大人しくお手伝いを始める。しかしその言葉とは裏腹に、丁寧に包まれた、きれいな形のものが店先に並べられていった。
時は次第にお昼時へと迫っていき、準備中にもかかわらず誰からともなく屋台のまわりには人が集まり始めていた。
●花より団子
「いらっしゃいませー! おにぎり、サンドイッチ。ジュースにお酒はいかがですかぁーー!」
「筍の炊き込みご飯三つと豚汁二杯ください」
「まいどありがとうございまーすっ! よい一時をー!」
お昼時になり、客足は一層伸びている。接する客の数は相当なものになっているが、全員に対して元気に接客をしていくメリエ。
「静さん、さすがね」
客の入りに比例して飛ぶように売れていくおにぎりやサンドイッチの数々を前にして、多すぎるんじゃないかという声の上がる中、たくさん用意させた静に、狭綾が感嘆の声をもらす。
かくいう狭綾も、夜を見据えて豚汁の量をセーブしようとしたのだが、最初に提示した量では足りないと言われ、多く作っている。
思いの他、おにぎりとセットでの需要が高かったようだ。
豚汁だけじゃない。他の商品も次から次へと売れていく。
「ささ、追加作るわよ」
「何を作ればいいのかな?」
「全体的に、と言いたいところだけど……稲荷ずしと桜おにぎりをお願いしようかな」
指示された、特に減りの激しい二種類の調理にクィーロが着手する。
半分に切った油揚げを広げ、砂糖としょうゆを加えて一煮立ち。そしてその中にホカホカのご飯を手際よく詰めていくクィーロ。そして最後に形を整えて完成。
稲荷ずしは、砂糖としょうゆの加減でその人の味が出る料理でもある。
完成したものをトレイにのせて、売り子をしているメリエのところへと運ぶ。
「ヴェリルさん、そこにお願いしますっ」
言われた場所、空になったトレイと入れ替えて置く。
「稲荷ずし出来立てですよー! 花見のお供に、お一ついかがでしょうっ」
補充した傍から飛んでいくのを見ているのは小気味よいものがあった。
これだけを見れば商品の質や立地による売り上げだけのようにも見えるが、内実はそうじゃない。
「暇だったら見てってよ。ついでに何か食べつつ、ね?」
屋台の隣で手品を披露するロイが一役買っているのだ。
花見で一番怖いもの。それは話題が尽きることだ。花見において何にも勝る酒の肴は会話である。
そんな花見において、ロイの手品はいい余興となっていた。
ロイの手ににぎられるただの枝が、たちまちのうちに満開の桜をつけると、
「おぉ~」
という歓声と拍手が巻き起こる。
「それじゃあ次はカードを使うよ。一枚選んでくれるかな?」
一番前で見ていた客にカードを選んでもらい、その数字を見事に当てて見せるロイ。
またしても歓声と拍手が巻き起こる。
「花より……なんだっけ。よくわかんないけど俺の手品は花に勝つかな?」
最初のうちはそんなことを言っていたロイだったが、その集客力は桜のそれをはるかに上回っていた。
……が。
ただでさえ酔っている人が大勢集まれば、大抵ろくなことにならない。
「おい、にーちゃん見えねぇよ! もっとこっち来てやってくれ!」
後方の客が声を荒げて叫ぶ。すると、今まで黙っていた人もそれに続けと声をあげ始める。
「そうだそうだ!」
「前のやつらどけよ!」
「邪魔なんだよ!」
広がり続ける流れにロイがどうしようか考えあぐねていると、
「はぁ……ほかの人の迷惑になってます。ほら」
ペルが特に酔いのひどい人をピックアップしていく。
「んぁ? なんだよ、ねーちゃんも何かやってくれんのか?」
「そうですね……一緒に掃除でもしましょうか」
人がいる、騒ぐ、飲食する、ゴミが出る。そして悲しいことに、人間というのは汚いところをさらに汚すことには抵抗を感じないのだ。
そうならないためにも、掃除は有効な対策である。
ゴミ袋を渡されて、いまだにポケーっとしている酔っ払いたちを、
「はいはい、働く働く」
と促す形でゴミ拾いを開始する。
幸いなことにいざやろうと思えば、拾う物には困らない。
しばらくは言われるままにゴミを拾っていた酔っ払いたちも、一人また一人とその酔いから冷めていくと、ペルに一言詫びを入れてから自分たちの場所へと帰っていった。
酔っ払いたちの活躍もあり、目につくゴミは大方拾い終えた。拾おうと思えばまだまだキリがないのだが。
ペルが屋台へと戻ってくると、ちょうどロイが桜餅を作っているところだった。
さっきまでは手品をしていたはずでは? と疑問に思ったペルが疑問を投げかける。
「それは?」
「これ? ロシアン桜餅だよ」
嬉々としてわさびを詰め込んでいる姿は、ザ・いたずらっ子だ。
それを引き当てた人のことを察したペルは顔を無意識のうちに顔をしかめていた。
しかし、よくよく見てみれば準備が間に合っていない様子。
「手伝います」
「本当? ありがとう!」
ロイの横に立ち、ペルは通常のあんこ入りを包み始める。
あんこ入りを包む必要がなくなり、ロイの作業がことのほかはかどってしまった結果はあえて記述するまでもないだろう。
お昼時が過ぎ、少しばかり空気が落ちつき始める。
となれば、人々が求めるようになるのはお菓子の類。
主食類を出す屋台から客足が減っていくと、反比例して甘味類の屋台が伸びていった。
昼時のうちに用意しておいたことが功を奏し、不足に困ることはなさそうだ。
「いらっしゃいませ! とっても美味しい春の甘味だよ!」
メニューに追加した緑茶もなかなか好評である。やはり和菓子には酒ではなく緑茶ということなのだろうか。
それからしばらくの間は客が途切れず、会話をする間もなく時間が過ぎていった。
かれこれ二時間くらいが立った頃。次第に帰り支度を始める花見客も見受けられるようになり、店への客足もだいぶ落ち着きを取り戻しつつあった。
「売り歩きをしようよ!」
「そうですね」
名案、とばかりに寝子が提案すると、鶲もそれに同意する。
「桜の下で桜色のお菓子をどうぞ!」
元気に笑顔で売り込みをする寝子があることに気づく。
「ほらひがらんも笑って笑って、看板娘なんだから!」
そう言われつつも日雀は姉の鶲の背中にくっついている。
そして、
「つーかーれーたー。もう帰ろうよお姉ちゃん……ゲームしたい……」
と言いながら、帰路につこうとする。が。
「ほら、日雀。逃げ出さないの」
首根っこをつかまれてしまってはどうしようもない。
しばらくズルズルと引きずられていたものの、仕事がそれを許さない。
「お姉さーん。こっちお願い」
「今行きます」
日雀の願いが届くには、もうしばらくかかりそうだった。
昼と夜の境目。空が茜色に色づく時間。そのわずかな時間は客足も途絶え、休憩時間となった。
朝のうちに静が用意していた賄弁当を食べつつ、故郷にはなかったこともあり、メリエにとってはこれが初めてである桜を眺める。
その感動的な景色の中舞い散る桜を眺めていると、メリエはふとあることを思い付く。
「そーだ、押し花作ってお父さんにあげよっと。鉄ばっかじゃなくて、偶にはこうゆうのも見ないとね」
散った花弁のなかから、いまだにその美しさを残しているものを拾い上げ、押し花用に回収する。
けれど日が沈んでいくにつれて今度は夜桜見物の客がやってくる。
もう少し、と後ろ髪を引かれる思い出はあったが、メリエは屋台へと歩を向けた。
夜、いろんな集団が持ち込んだたいまつの光でライトアップされる桜はなかなかに幻想的な光景ではある。
しかし季節は春先。夜はまだまだ冷え込む季節だ。
なにか暖かいものが欲しくなる。そんな狭綾の推測は的中した。
とある一つの屋台。
暖かそうな湯気がその軒先からあがっている。おいしそうな匂いをまといながら。
「豚汁四杯もらえる?」
「まいどありがとうございまーすっ!」
「三杯ちょうだい」
「よい一時をー!」
立て続けの客にも滞りなく対応するメリエの客さばきは、今日一日でかなりの成長を見せていた。
そうして売れていく豚汁。
だがそれには客に食べてもらう、ということ以上に大きな役割があった。
それは、弁当には決して超えることのできない壁。そう、温度である。
持ち寄ったものを食べていてふと隣の組を見てみると、なにやらおいしそうなものを食べている。あれはどこで手に入るのだろうか。
こうして豚汁を客が食べてくれるだけで大きな宣伝効果をもたらすのだ。
「柏部さん売れ行き好調ですよ。追加お願いしますっ」
「もうできてるわよ」
大きな鍋をメリエのところへ持っていく。
その鍋から小さめのカップに移して販売しているのだ。
売り手としても大助かりな、一度に大量生産が可能という点でも豚汁はその力を発揮していた。
さらには、鍋に具材と水を入れ茹でる。味噌を溶く。これだけで完成することもすばらしい。
行列は具材がなくなるまで途切れることはなかった。
●夜桜はひらひらと
一日の営業を終え、ペルが予めとっておいたところに集まって座る。
「みんなお疲れ様でした!」
「お疲れ様。折角だしちょっと食べて貰えるかな? 春らしさを出せていればいいけど」
静の掛け声に合わせるように、予めよけておいた材料で作った夜食をクィーロが並べる。
「はい、お疲れ様でした。わたしのも食べてもらえるかしら?」
そこに狭綾の豚汁も加えられ、皆思い思いに料理に口をつけ始めた。
……しばしの時がたち、食後の余韻で夜桜を眺める。
「桜ってひらひらして、きれーだねぇ。リアルブルーにはいっぱい咲いているの?」
「桜は元の世界にもいたんですよ。とても繊細な木で、『桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿』という諺もある位で……でも、大事に扱えばとても長生きなんですよ」
寝子の問いかけに、鶲が丁寧に答えを返す。
「へええ、じゃあとっても大事にされているんだね。いつか向こうの桜も見たいなぁ……」
「一年にちょっとしか観れないなんて、贅沢は花ですね。ずっと観れればいいのに」
「その時その季節だけにみれるからこそいいのじゃないかしら?」
「季節感、ってやつですか。まぁ、ちょっとの間しか観れないから、特別な感じもするのかも知れないですねぇ……」
メリエと狭綾の間に、しみじみ、といった雰囲気で会話が展開されていく。
「うん、好いと思いますっ。素敵じゃないですかっ。来年も、また観たいって気になりますよ!」
桜。その花言葉は精神の美。
桜を見た人の心には何かしらの変化がある……かもしれない。
「……うん。こんなもんかな」
即席とはいえ、なかなか見た目の整った二つの屋台。その屋根に『我が家』の看板を取り付けた静が満足げにうなづく。
時刻は午前七時。まだ少し早い時間ではあるが、すでに場所取り合戦が始まっており、昼のにぎやかさを予感させる。
「それじゃあ今日はよろしくお願いします」
集まった八人のハンターたちへ向けて静が笑顔でお辞儀した。
「いやー、桜って話には聞いてましたけど、キレイですねぇー」
「お花見か……うん、風情があっていいね」
「花なんか見て何か楽しいのかなー?」
出店の準備をしながら桜色の世界に目を向けたメリエ・フリョーシカ(ka1991)がつぶやくと、徐々に増えつつあった花見客を見ていたクィーロ・ヴェリル(ka4122)が首肯を返す。
しかし、ロイ・J・ラコリエス(ka0620)には理解の及ばないことだったようだ。
「どっちの世界でも、考えることは同じなのね」
「でも結局、大人は酒を飲むだけなんだけどね」
午前中から酒を飲んでいる人々を見る柏部 狭綾(ka2697)に、静が苦笑交じりに答えた。
「狼藉を働く人がいなければいいですね」
酒、という言葉からその先に起こりうる可能性を考えて、ペル・ツェ(ka4435)が対策を考え始める。
「静さん、そろそろはじめないのかな?」
「おっとっと、そうだね。始めよっか」
「接客は、多少は心得もありますっ。売り子任されまして大丈夫ですっ」
クィーロの指摘を受けた静がエプロンを締め直すと、メリエはぐぐっと拳を握る。
各々がやるべきことに取り掛かり始め、クィーロが料理していると、その隣に来た静が、
「クィーロ君にはまたお世話になるね」
と、口にした。
主に主食を提供する屋台の隣、もう一つの屋台では落葉松 鶲(ka0588)を中心とした面々によって甘味を出す準備が進められていた。
「今日はお外出たくないって言ったのに……お姉ちゃんのばか……」
「ほら、ちゃんとご挨拶しなさい」
鶲はその背中に隠れた落葉松 日雀(ka0521)を、今日一日一緒に仕事をする鮫島 寝子(ka1658)の前へ引っ張り出した。
「ひがらんは初めまして! 君が噂の妹さんだね! 僕は猫鮫の寝子だよ!」
「何でも食べる強い鮫っ子だけど、友達は食べないから安心してね!」
ビクッと体を震わせた日雀に、寝子が慌てて付け加える。
「あ、えと……落葉松日雀です……よろしくおねがいします……」
ぎりぎり聞こえる位の声量で挨拶すると、日雀は瞬時に鶲の背中へ引っ込んでしまう。
その様子を見ていた鶲がクスッとほほえむ。
「それでは始めましょう」
鶲は蒸してあったもち米を取り出し、それを潰してこねつつ食紅をくわえて色付けをしていき、その横では日雀と寝子があんこを包んで俵型に整える。そしてそれに葉を巻きつければ桜餅の完成だ。
「桜って食べられるんだねぇ」
「これも、お米とは違うもち米や白玉粉というものを使うんですよ」
目をキラキラさせる寝子に、材料についての説明を鶲が加える。
「形はこんなもんでいいかなぁ?」
話をしつつ、最初に鶲が作ったものと自分の作った物を、見様見真似でやっていた寝子が並べて比べていく。
その横で包んでいる……ふりをしてサボりを決め込む日雀。
「日雀?」
ばれた。
「私は作るより食べる方がいいなー」
鶲の笑顔の圧力の前に、ボヤキつつも大人しくお手伝いを始める。しかしその言葉とは裏腹に、丁寧に包まれた、きれいな形のものが店先に並べられていった。
時は次第にお昼時へと迫っていき、準備中にもかかわらず誰からともなく屋台のまわりには人が集まり始めていた。
●花より団子
「いらっしゃいませー! おにぎり、サンドイッチ。ジュースにお酒はいかがですかぁーー!」
「筍の炊き込みご飯三つと豚汁二杯ください」
「まいどありがとうございまーすっ! よい一時をー!」
お昼時になり、客足は一層伸びている。接する客の数は相当なものになっているが、全員に対して元気に接客をしていくメリエ。
「静さん、さすがね」
客の入りに比例して飛ぶように売れていくおにぎりやサンドイッチの数々を前にして、多すぎるんじゃないかという声の上がる中、たくさん用意させた静に、狭綾が感嘆の声をもらす。
かくいう狭綾も、夜を見据えて豚汁の量をセーブしようとしたのだが、最初に提示した量では足りないと言われ、多く作っている。
思いの他、おにぎりとセットでの需要が高かったようだ。
豚汁だけじゃない。他の商品も次から次へと売れていく。
「ささ、追加作るわよ」
「何を作ればいいのかな?」
「全体的に、と言いたいところだけど……稲荷ずしと桜おにぎりをお願いしようかな」
指示された、特に減りの激しい二種類の調理にクィーロが着手する。
半分に切った油揚げを広げ、砂糖としょうゆを加えて一煮立ち。そしてその中にホカホカのご飯を手際よく詰めていくクィーロ。そして最後に形を整えて完成。
稲荷ずしは、砂糖としょうゆの加減でその人の味が出る料理でもある。
完成したものをトレイにのせて、売り子をしているメリエのところへと運ぶ。
「ヴェリルさん、そこにお願いしますっ」
言われた場所、空になったトレイと入れ替えて置く。
「稲荷ずし出来立てですよー! 花見のお供に、お一ついかがでしょうっ」
補充した傍から飛んでいくのを見ているのは小気味よいものがあった。
これだけを見れば商品の質や立地による売り上げだけのようにも見えるが、内実はそうじゃない。
「暇だったら見てってよ。ついでに何か食べつつ、ね?」
屋台の隣で手品を披露するロイが一役買っているのだ。
花見で一番怖いもの。それは話題が尽きることだ。花見において何にも勝る酒の肴は会話である。
そんな花見において、ロイの手品はいい余興となっていた。
ロイの手ににぎられるただの枝が、たちまちのうちに満開の桜をつけると、
「おぉ~」
という歓声と拍手が巻き起こる。
「それじゃあ次はカードを使うよ。一枚選んでくれるかな?」
一番前で見ていた客にカードを選んでもらい、その数字を見事に当てて見せるロイ。
またしても歓声と拍手が巻き起こる。
「花より……なんだっけ。よくわかんないけど俺の手品は花に勝つかな?」
最初のうちはそんなことを言っていたロイだったが、その集客力は桜のそれをはるかに上回っていた。
……が。
ただでさえ酔っている人が大勢集まれば、大抵ろくなことにならない。
「おい、にーちゃん見えねぇよ! もっとこっち来てやってくれ!」
後方の客が声を荒げて叫ぶ。すると、今まで黙っていた人もそれに続けと声をあげ始める。
「そうだそうだ!」
「前のやつらどけよ!」
「邪魔なんだよ!」
広がり続ける流れにロイがどうしようか考えあぐねていると、
「はぁ……ほかの人の迷惑になってます。ほら」
ペルが特に酔いのひどい人をピックアップしていく。
「んぁ? なんだよ、ねーちゃんも何かやってくれんのか?」
「そうですね……一緒に掃除でもしましょうか」
人がいる、騒ぐ、飲食する、ゴミが出る。そして悲しいことに、人間というのは汚いところをさらに汚すことには抵抗を感じないのだ。
そうならないためにも、掃除は有効な対策である。
ゴミ袋を渡されて、いまだにポケーっとしている酔っ払いたちを、
「はいはい、働く働く」
と促す形でゴミ拾いを開始する。
幸いなことにいざやろうと思えば、拾う物には困らない。
しばらくは言われるままにゴミを拾っていた酔っ払いたちも、一人また一人とその酔いから冷めていくと、ペルに一言詫びを入れてから自分たちの場所へと帰っていった。
酔っ払いたちの活躍もあり、目につくゴミは大方拾い終えた。拾おうと思えばまだまだキリがないのだが。
ペルが屋台へと戻ってくると、ちょうどロイが桜餅を作っているところだった。
さっきまでは手品をしていたはずでは? と疑問に思ったペルが疑問を投げかける。
「それは?」
「これ? ロシアン桜餅だよ」
嬉々としてわさびを詰め込んでいる姿は、ザ・いたずらっ子だ。
それを引き当てた人のことを察したペルは顔を無意識のうちに顔をしかめていた。
しかし、よくよく見てみれば準備が間に合っていない様子。
「手伝います」
「本当? ありがとう!」
ロイの横に立ち、ペルは通常のあんこ入りを包み始める。
あんこ入りを包む必要がなくなり、ロイの作業がことのほかはかどってしまった結果はあえて記述するまでもないだろう。
お昼時が過ぎ、少しばかり空気が落ちつき始める。
となれば、人々が求めるようになるのはお菓子の類。
主食類を出す屋台から客足が減っていくと、反比例して甘味類の屋台が伸びていった。
昼時のうちに用意しておいたことが功を奏し、不足に困ることはなさそうだ。
「いらっしゃいませ! とっても美味しい春の甘味だよ!」
メニューに追加した緑茶もなかなか好評である。やはり和菓子には酒ではなく緑茶ということなのだろうか。
それからしばらくの間は客が途切れず、会話をする間もなく時間が過ぎていった。
かれこれ二時間くらいが立った頃。次第に帰り支度を始める花見客も見受けられるようになり、店への客足もだいぶ落ち着きを取り戻しつつあった。
「売り歩きをしようよ!」
「そうですね」
名案、とばかりに寝子が提案すると、鶲もそれに同意する。
「桜の下で桜色のお菓子をどうぞ!」
元気に笑顔で売り込みをする寝子があることに気づく。
「ほらひがらんも笑って笑って、看板娘なんだから!」
そう言われつつも日雀は姉の鶲の背中にくっついている。
そして、
「つーかーれーたー。もう帰ろうよお姉ちゃん……ゲームしたい……」
と言いながら、帰路につこうとする。が。
「ほら、日雀。逃げ出さないの」
首根っこをつかまれてしまってはどうしようもない。
しばらくズルズルと引きずられていたものの、仕事がそれを許さない。
「お姉さーん。こっちお願い」
「今行きます」
日雀の願いが届くには、もうしばらくかかりそうだった。
昼と夜の境目。空が茜色に色づく時間。そのわずかな時間は客足も途絶え、休憩時間となった。
朝のうちに静が用意していた賄弁当を食べつつ、故郷にはなかったこともあり、メリエにとってはこれが初めてである桜を眺める。
その感動的な景色の中舞い散る桜を眺めていると、メリエはふとあることを思い付く。
「そーだ、押し花作ってお父さんにあげよっと。鉄ばっかじゃなくて、偶にはこうゆうのも見ないとね」
散った花弁のなかから、いまだにその美しさを残しているものを拾い上げ、押し花用に回収する。
けれど日が沈んでいくにつれて今度は夜桜見物の客がやってくる。
もう少し、と後ろ髪を引かれる思い出はあったが、メリエは屋台へと歩を向けた。
夜、いろんな集団が持ち込んだたいまつの光でライトアップされる桜はなかなかに幻想的な光景ではある。
しかし季節は春先。夜はまだまだ冷え込む季節だ。
なにか暖かいものが欲しくなる。そんな狭綾の推測は的中した。
とある一つの屋台。
暖かそうな湯気がその軒先からあがっている。おいしそうな匂いをまといながら。
「豚汁四杯もらえる?」
「まいどありがとうございまーすっ!」
「三杯ちょうだい」
「よい一時をー!」
立て続けの客にも滞りなく対応するメリエの客さばきは、今日一日でかなりの成長を見せていた。
そうして売れていく豚汁。
だがそれには客に食べてもらう、ということ以上に大きな役割があった。
それは、弁当には決して超えることのできない壁。そう、温度である。
持ち寄ったものを食べていてふと隣の組を見てみると、なにやらおいしそうなものを食べている。あれはどこで手に入るのだろうか。
こうして豚汁を客が食べてくれるだけで大きな宣伝効果をもたらすのだ。
「柏部さん売れ行き好調ですよ。追加お願いしますっ」
「もうできてるわよ」
大きな鍋をメリエのところへ持っていく。
その鍋から小さめのカップに移して販売しているのだ。
売り手としても大助かりな、一度に大量生産が可能という点でも豚汁はその力を発揮していた。
さらには、鍋に具材と水を入れ茹でる。味噌を溶く。これだけで完成することもすばらしい。
行列は具材がなくなるまで途切れることはなかった。
●夜桜はひらひらと
一日の営業を終え、ペルが予めとっておいたところに集まって座る。
「みんなお疲れ様でした!」
「お疲れ様。折角だしちょっと食べて貰えるかな? 春らしさを出せていればいいけど」
静の掛け声に合わせるように、予めよけておいた材料で作った夜食をクィーロが並べる。
「はい、お疲れ様でした。わたしのも食べてもらえるかしら?」
そこに狭綾の豚汁も加えられ、皆思い思いに料理に口をつけ始めた。
……しばしの時がたち、食後の余韻で夜桜を眺める。
「桜ってひらひらして、きれーだねぇ。リアルブルーにはいっぱい咲いているの?」
「桜は元の世界にもいたんですよ。とても繊細な木で、『桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿』という諺もある位で……でも、大事に扱えばとても長生きなんですよ」
寝子の問いかけに、鶲が丁寧に答えを返す。
「へええ、じゃあとっても大事にされているんだね。いつか向こうの桜も見たいなぁ……」
「一年にちょっとしか観れないなんて、贅沢は花ですね。ずっと観れればいいのに」
「その時その季節だけにみれるからこそいいのじゃないかしら?」
「季節感、ってやつですか。まぁ、ちょっとの間しか観れないから、特別な感じもするのかも知れないですねぇ……」
メリエと狭綾の間に、しみじみ、といった雰囲気で会話が展開されていく。
「うん、好いと思いますっ。素敵じゃないですかっ。来年も、また観たいって気になりますよ!」
桜。その花言葉は精神の美。
桜を見た人の心には何かしらの変化がある……かもしれない。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 5人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
お花見出店相談卓 柏部 狭綾(ka2697) 人間(リアルブルー)|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/03/25 23:02:44 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/24 00:04:37 |