ゲスト
(ka0000)
氷と花と揺らめく灯
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2015/03/30 12:00
- 完成日
- 2015/04/01 03:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●氷の中に閉じ込めるのは
日の出ている時間はゆっくりと、しかし確実に長くなり。季節は日ごと春めいて、極寒の冬が纏わせた氷と雪の衣が花の衣に変わり始めるころ。
山間のある村で、村おこしの一環として祭りの準備が進められていた。
「氷室の氷は何人来ても大丈夫なくらい余裕はあるのか?」
「大丈夫。花はちゃんと咲いてる?」
「まだつぼみが多いが祭りの当日には花が開くと思う」
村人たちは最終チェックの真っただ中。
「蝋燭の数は足りてる?」
「色々材料を集めた」
「あとは招待状を送ったハンターの人たちが何人来てくれるか、かなぁ」
「お世話になってるからお礼をしたいんだが……楽しんでもらえるかな」
「そのためにも用意を抜かりなく、だね」
●思い、花弁、そして灯
「以前何度か関わりを持った村……小夜子という覚醒者が関わった一連の事件のあった村、といった方が分かる人は分かるかな。
あの村がね、村おこしの一環として祭りに招待してくれたんだよ」
九尾の狐の雑魔退治から結構ごたごたあったし、それを吹っ切っていい流れを作りたい、という思いもあるんだろうね。そう言いながらルカ・シュバルツエンド(kz0073)は招待状を開いて読み上げる。
「氷室に貯蔵されてる氷をくり抜いて、中に花びらやつぼみのついた枝、他にも入れたいものがあったらそれを入れて、もう一度氷室に戻して凍らせて世界にたった一つのキャンドルポッドを作ろうって催しらしいね。
氷で作ったものだし、中で蝋燭とはいえ火を灯してしまえばすぐ溶けてしまうのだけれど……それを人と人との出会いは一瞬のものになぞらえるみたいだ。
キャンドルポッド作りは昼間、火を灯すのは夜間になるみたいだね。蝋燭も、色を付けたり香料を混ぜて成型したりといったアレンジをできる用意があると書いてあるよ」
器も蝋燭も自分なりに託す思いを込めて作り上げる世界でたった一つの、儚いと言えるほど一瞬のアイスキャンドル。
けれどだからこそ見出せる美しさもあるのだろう。
「運が良ければ山から様子を見に降りてきた小夜子に会ったりもできるかもしれないね。それを抜きにしても冬と春の境目だからこそ楽しめそうな催しだ。折角だし、一緒にどうだい?」
幽玄の夜に、何を見出すかは貴方次第。何を託すかも、誰に伝えるのかも、思いのままに。
日の出ている時間はゆっくりと、しかし確実に長くなり。季節は日ごと春めいて、極寒の冬が纏わせた氷と雪の衣が花の衣に変わり始めるころ。
山間のある村で、村おこしの一環として祭りの準備が進められていた。
「氷室の氷は何人来ても大丈夫なくらい余裕はあるのか?」
「大丈夫。花はちゃんと咲いてる?」
「まだつぼみが多いが祭りの当日には花が開くと思う」
村人たちは最終チェックの真っただ中。
「蝋燭の数は足りてる?」
「色々材料を集めた」
「あとは招待状を送ったハンターの人たちが何人来てくれるか、かなぁ」
「お世話になってるからお礼をしたいんだが……楽しんでもらえるかな」
「そのためにも用意を抜かりなく、だね」
●思い、花弁、そして灯
「以前何度か関わりを持った村……小夜子という覚醒者が関わった一連の事件のあった村、といった方が分かる人は分かるかな。
あの村がね、村おこしの一環として祭りに招待してくれたんだよ」
九尾の狐の雑魔退治から結構ごたごたあったし、それを吹っ切っていい流れを作りたい、という思いもあるんだろうね。そう言いながらルカ・シュバルツエンド(kz0073)は招待状を開いて読み上げる。
「氷室に貯蔵されてる氷をくり抜いて、中に花びらやつぼみのついた枝、他にも入れたいものがあったらそれを入れて、もう一度氷室に戻して凍らせて世界にたった一つのキャンドルポッドを作ろうって催しらしいね。
氷で作ったものだし、中で蝋燭とはいえ火を灯してしまえばすぐ溶けてしまうのだけれど……それを人と人との出会いは一瞬のものになぞらえるみたいだ。
キャンドルポッド作りは昼間、火を灯すのは夜間になるみたいだね。蝋燭も、色を付けたり香料を混ぜて成型したりといったアレンジをできる用意があると書いてあるよ」
器も蝋燭も自分なりに託す思いを込めて作り上げる世界でたった一つの、儚いと言えるほど一瞬のアイスキャンドル。
けれどだからこそ見出せる美しさもあるのだろう。
「運が良ければ山から様子を見に降りてきた小夜子に会ったりもできるかもしれないね。それを抜きにしても冬と春の境目だからこそ楽しめそうな催しだ。折角だし、一緒にどうだい?」
幽玄の夜に、何を見出すかは貴方次第。何を託すかも、誰に伝えるのかも、思いのままに。
リプレイ本文
●幽玄の光に誘われて
氷の中に花や小物など、自分で選んだものを閉じ込め、香りや色や絵柄をつけた蝋燭を灯すという祭りの当日。
村興しとして新しい催しを考え、かつて歪虚によって奪われた山の動物たちの慰霊の意味も込めてしめやかに行える祭りを、と村人たちが知恵を寄せ合い、食べ物の保存などに主に使っていた氷室の氷が潤沢であることと、今の季節は雪と氷の季節から花と陽光の季節に移り変わることから、キャンドルポッドに冬と春を閉じ込めようという内容でこの案が選ばれたのだった。
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が作るのはゴシック風のもの。
「滅多にない体験ってのはやればやった分だけ、人生に潤いを与えてくれるってもんよ。
余計な荷物にならず、一期一会を味あわせてくれるところも潔くて気に入った」
儚く消えていくものだからこそ、気合入れて作らなきゃ嘘だろう、と基調になる色を黒に、蝋燭には蜘蛛や蝙蝠をモチーフにしたものを。
小物や花も黒や濃い青系で纏め、リアルブルーのハロウィンのようなテイストのデスドクロだけのキャンドルポッドが出来上がったのだった。
レイ=フォルゲノフ(ka0183)と黒の夢(ka0187)はレイお手製の大量のお弁当を持って祭りに参戦。
「祭りはやっぱ楽しまんとな~しんみりしてもしゃーないやろ」
そう主張するレイが持ち込んだのは花火セットと火薬。
いわく「普通の物じゃつまらない」という思考のもと、キャンドルの芯を導火線に、それを細工すれば時間差爆破ができるのでは、と算段中。
黒の夢は頬をぱんぱんにしたまま新しいおかずを口に運ぶ。食べる量とスピードが桁外れなその様子に、近くを通りかかった村人が二度三しているが二人は気にする素振りすら見せない。
キャンドルポッドにはご飯を入れようかと考えたものの胃袋の方に収めることにし、歯車と葉っぱの模様を入れたものが出来上がったが……レイの影響か彼の倍の花火と火薬入り。
「折角だからこれも皆のと一緒に灯してて欲しいのな……」
物騒なキャンドルポッドを置き土産に、はしゃぎ疲れた黒の夢を負ぶって帰るレイだった。
帰る途中、二人の背後から花火でも上がるような音が聞こえたのはきっと何も知らない人が不用意に点火したからだろう。
どの程度騒ぎが大きくなったのかは不明だがサプライズになったことは確かである。
岩井崎 旭(ka0234)は友人のシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)と一緒にキャンドルポッド作り。
旭はポッド作りが始まるまで散歩と趣味を兼ねて山菜などを集めてきていたので、中にそれを入れようとしたがふと妙案を思いつく。
採ってきたつくしと、傍に生えていたスギナ。上の方に桜の花びらを散らして春のの山のイメージを閉じ込めた。
「お、我ながら上手いことできたな」
ご満悦の旭にシルヴィアが横から声をかけた。
「旭さん、少し覚醒して頂いても宜しいですか?」
首を傾げながら旭が覚醒状態になるとシルヴィアは問答無用とばかりにミミズク姿の旭の羽根を数枚ブチブチと引っこ抜く。
「あ、何枚か貰いますね」
その羽根をキャンドルポッドに入れるのを見て痛がりながら自分の羽根を入れるのか、と突っ込む旭。
事後承諾になった事に対しては突っ込まなくていいのだろうか、と彼に聞くのはきっと野暮なのだろう。
「ほら、うまくいきましたよ。綺麗です」
シルヴィアが満足げに謎のサムズアップするのをみて旭はやれやれ、と苦笑交じりに肩をすくめたのだった。
(ああ、今日も可愛いなぁ)
そんなことを思いながら妹が楽しいだけで無条件に自分も楽しめる、という仲の良さで天竜寺 舞(ka0377)は天竜寺 詩(ka0396)と山に入り花を探す。
舞は赤い花を、詩は黄色い花をそれぞれ摘んでキャンドルポッドを作るために戻ろうかと視線を移した先に緋色の袴。
「小夜子さん?」
かつて家族同然の存在を雑魔化され、自身も歪虚に狙われた覚醒者の女性、小夜子は舞の呼び声に振り返る。
狐の面に隠され表情はうかがい知れないが首を傾げた仕草から微かに伝わるのは驚きだろうか。
今日は祭りがあるから一緒に行こうよ、と詩を紹介した後小夜子を誘う。
「せめて詩の歌は聞いてって欲しいな。本当に綺麗な歌だから」
「リアルブルーの歌……今様を家で習ってたの。それでよかったら歌うよ?」
「今様か……懐かしいな。昨日村の人が差し入れと一緒に祭りの説明をしてくれたのだが……雑魔にされた動物たちの慰安の意味もあると聞いている。
私もこの山に生かされる者。そして魂を慰撫したい存在がいる。天竜寺殿が構わないなら、ご一緒させて頂こう」
三人に増えた一行は村へと戻り、麻衣は黄色い蝋燭、詩は赤い蝋燭と入れた花と蝋燭の色がお互いの対になるキャンドルポッドを作り上げて夜を待ったのだった。
「激戦の前にゆっくりするかねえ」
春日 啓一(ka1621)はシャルア・レイセンファード(ka4359)と休日を満喫しようと氷のキャンドルポッドを作りにやってきた。
リアルブルーでよく見かける、シロツメクサとクローバーに似た花を何種類か事前に調達していた啓一はそれらを押し花にして持ってきている。
ポッドはスタンダードな楕円形、表面に押し花にした花と緑をあしらって小さな春をイメージしたもの。
シャルアは香りづけと着色ができるように、とラベンダーを用意しておいたのだがどうやら家に忘れてきたようで。
「おめーは本当に要領良い割にどっか抜けてんな」
ここにはない、こっちにもない、とラベンダーを探して荷物をごそごそと漁るものの置き忘れた、ということが確定してしょんぼりするシャルアに啓一は呆れながら自分の押し花を差し出す。
「俺は終わったから残りは好きに使いな」
「はわわ、助かったのですよ! 感謝感謝なのです~…っ!」
お礼として出来たキャンドルポッドは啓一にプレゼントすることにして、けれど持ち帰ることはできない氷製のポッドなため、二人は灯りが一番よく映える時間を待つのだった。
海堂 紅緒(ka1880)は色々なものを詰め込んだビックリ箱のようなものもいいかな、と思いつつやはりシンプルな方がいいだろう、とシロツメクサに似た植物と端切れ布で作ったリボンを氷の中に閉じ込める。
蝋燭は爽やかにグレープフルーツの香りを香らせ、表面には前衛的になった猫の絵を描いて可愛らしく仕立てた。
点灯式まで、あと少し。その間村人や自分と同じく一人で参加している様子のハンターに声をかけて交流を深めるのだった。
「一瞬で消えてしまう、だからこそ素敵なものを作りたいです。全力で楽しませて頂きます!」
エテ(ka1888)が目指すキャンドルポッドは蓮の花をモチーフにしたもの。
デザインは決まったものの、花弁の形がなかなかうまく造形できないまま時間ばかりが過ぎていく。
「作るのならば拘って、あぁでも日暮れが……日が沈むまでには、必ず……!」
蝋燭は淡いピンク色に梅の香油を混ぜ、側面に紅梅と、桃の絵をさらりと描いて。
拘りぬいたキャンドルポッドも空がオレンジ色になる頃になんとか完成。
「誰かの心に残るものに、なりますように!」
形が残らない分、記憶に残って欲しいと願いを託したキャンドルポッドは夕日を受けて煌めいていた。
「んむむ、ポッド作りって難しいかも! 氷だからすぐ割れちゃうし……あわわ、またヒビが。
誰かコツを教えてくれないかなぁ……」
そんなテトラ・ティーニストラ(ka3565)がターゲット・ロックオンしたのはルカ・シュバルツエンド(kz0073)だった。
「綺麗なコップみたくしたいの! ルカさんあたしをたすけて~」
蝋燭はすでに完成済み、桜色の小さな物で春らしさが出ている。
蝋燭の火が小さければそれだけポッドも溶けにくいから、夜にじっくり見られるという算段だ。
「コップ、ねぇ。こんな感じでいいのかい?」
料理の腕は壊滅的だがどうやら手先は器用らしく、ルカはテトラの要望を受けて試しに一つコップ型に氷を削ってみせる。
「ありがと~! 折角だから、このポッドはルカさんへの感謝を込めたものにしちゃおうか。
いつも依頼でお世話になってるし……このポッドも、ルカさんのお陰だし、ねっ♪」
「お祭りは大好きです! 騒げるし食べれるし、良いことづくしですね!」
山菜や動物など、村の近くで食材を調達したミネット・ベアール(ka3282)はキャンドルポッドづくりに勤しんでいたダークマターの生成者もといルカの隣でポッドを作りはじめながら熱く語りだす。
「今回は村おこしってことなので、村の繁栄を願うお祭りなわけですよね。……作りませんか? 村の繁栄をテーマにした料理を!」
ルカを焚きつけるが彼が作ったら村の繁栄というより村の滅亡がテーマになるのは確実。
「きっと喜んでくれると思うんです。名物料理になるかもしれませんし、手伝いますよ!
材料も活きがいいのが揃ってます! さぁ!!」
以前ダークマターの生成を手伝って大変な目にあったはずなのだが実は気に入ってしまったのだろうか、それとも強烈過ぎて記憶が飛んでいるのか。
キャンドルポッドを作り上げた二人は日が暮れるまでまだ時間があるから、とダークマターをここでも精製、村人たちと参加したハンターたちを「村興と慰霊の祭りに悪魔がやってきた」と戦慄させたのだった。
「さて、たまにはのんびり、こういうのもいいかな?」
シェラリンデ(ka3332)はふらりと、そしてのんびりと一人で休暇を楽しみにこの村へ。
「なるほど、これは楽しそうだね? せっかくだからボクもいろいろチャレンジしてみることにしようかな?」
氷の中に閉じ込めるのは菖蒲によく似た花。
蝋燭は下の方を薄く緑に染め、菖蒲の葉に似た香りのエキスを入れ、上の方は薄く紫色に。葉のエキスが入った部分が固まったら花のエキスを入れた部分を接合し、側面に濃い目の色で鮮やかに花を描く。
「……うん、こんな感じかな? これでひと段落、と」
自分にとっていろいろな意味でゆかりのある花なので、これからも良き日々が続くようにと祈りを込めて作り上げた蝋燭とキャンドルポッドを満足げに眺めるのだった。
四楽星 瑞琴(ka3509)と優月・詩音(ka3929)、真白・祐(ka2803) は三人人並んでキャンドルポッド作り。
瑞琴が見守る中、詩音は何度も失敗して涙目に。
大きな戦いにも参加しているので今回はその息抜きに、とやってきた裕は手先に自身があったため教えてくれる人からアドバイスを聞いて見栄えのするものを作り上げた。
(これなら言うとおりにやってればそうそう下手なものはできないだろう……)
そこまで考えてから不安になって振り返れば失敗に涙目になっている詩音の姿。
そんな詩音を励ましながら自分なりのアドバイスも交え、詩音が楽しめれば自分もそれが一番うれしい、と考えている友人思いの瑞琴の助力と裕のアドバイスを得て、詩音のキャンドルポッドも何とか完成。
あとは夜の点灯式を待つばかりだ。
そして日が完全に暮れ、キャンドルポッドに火が灯される時間がやってきた。
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は『幸せな未来』という花言葉を持つ花を閉じ込めたキャンドルポッドに火を灯す。
アルファス(ka3312)の膝の間に座り、後ろから抱きしめてもらっているため花冷えの寒さも二人には無縁の様子。
「花言葉は幸せな未来か……出逢ったころのユーリは抜身の刃物みたいで、無鉄砲でもあったね」
くすくすと笑いながら当時を思い出すアルファスに身体を預けてユーリは揺らめく炎を眺める。
「アルと出会うまでは、ひたすら戦い抜くばかりで、自分の幸せなんて考えたこともなかったからね。でも、こうしてアルの温もりを感じている……それだけでも幸せすぎるよ。
アルはこの戦いが終わったら、リアルブルーに帰っちゃうのかな……? もしそうなら、私はどんな手段を使ってでもついていきたいよ」
「『鞘と刃』だけじゃなく、未来を思い描くとしたら……か。リアルブルーのことを思い出さないわけではないけどね。
未練自体はないし、こっちでの『夢』もあるからね。
でも、そういってくれるのは嬉しい。どっちの世界でも二人なら楽しいだろうからね」
ささやかだけれど、きっと幸せになれる。そんな夢のために、この戦いを終わらせよう、と誓いを新たにするユーリを、アルファスは静かに見守っていた。
知り合いの様子を見に行ったり、そのまま少しの間会話を楽しんだあと、オウカ・レンヴォルト(ka0301)は昼の間に作ったキャンドルポッドに火を灯した。
桜色の花を閉じ込めたポッドと、主張しすぎない、仄かに甘く香る香油を混ぜた蝋燭は春の夜を具現化したような幻想世界を見せてくれる。
「……こういうのも、たまにはありかも、な」
ゆらゆらと風に揺れる炎をぼんやりと眺めながらひっそりと呟き、夜は更けていった。
シェリル・マイヤーズ(ka0509)は独り、様々な思いの託されたポッドとその中で揺らめく灯を眺め、両親のことを思い出して涙していた。
出会い、分かれ、一瞬で消える命は儚い。
腹部の傷を撫で、随分無茶をしているが大事な約束があるから死ぬ気はない、と再確認。
死んではいけないのであって、本当に生きたいわけではないのかもしれない、という疑問が泡のように心に浮かんだ。
これ以上考えてはいけない、謝る事も出来ない、だから約束通りに生き続ける。
そう思いながらも涙は止まらず、フードで顔を隠しているシェリルの頭を撫でるヴァイス(ka0364)はシェリルが顔をあげればただ優しく微笑みかけて。
その微笑みにどこか切なさを見出し、彼も何かを想っているのか、と思いながら言葉にはせず寄り添えばマントが二人を包み込む。
寂しさと寒さが、少し緩んだ気がした。
シンプルなボックス型のポッドに、バニラエッセンスで香り付けした蝋燭を点灯した十色 エニア(ka0370)は灯りを眺めながら少し感傷的な気分になっていた。
とある歪虚にいわれた言葉をいくら考えても分からず、覚醒し、変化した自分を見つめ、確かめて更に分からなくなる。
「何年も、未来なんて、考えたことなかった。ずっと、繰り返してただけだったし……」
思考の海に沈んでいる間にキャンドルは既にほとんど溶けてしまい、バニラの香りが微かに香るだけ。
その香りと頭に渦巻く思想を振り払うように立ち上がる。
今は友人のもとへ向かい、楽しく過ごせればそれでいい、そんな気がしたから。
ジョン・フラム(ka0786) は恋人の叉(ka3525)の頭をそっと撫でながら、蝋燭の火によって徐々に溶けていく氷のキャンドルポッドを眺めていた。
「万象は移ろい、消えゆくもの。私もあなたも、明日をも知れぬ身だ。それでも……消え去った後にも残り続けるものは、きっとある」
氷の中に閉じ込めておいた指輪を手のひらで受け止め、用意しておいたチェーンに通して叉の首にかける。
叉が閉じ込めたのは小さなクリスタルがついたネックレス。
「これ、……安物だけど。日ごろのお礼」
ジョンからのプレゼントに涙ぐみながらネックレスを差し出す叉にジョンは語り掛ける。
「そういうなにかを見つけてください、ラティ、私だけでなく、たくさんの人々と」
泣いている顔はあまり見せたくないから、笑顔を作って、大好きだと告げた。
「生きる術」を伝えていく今の関係が偽りだったとしても、あるいはいずれ、変わる日が来るのかもしれない。
叉の涙の跡のついた笑顔を見ながらジョンはひっそりと思いをめぐらすのだった。
超級まりお(ka0824)が昼間作ったのは簡単な構造の小型キャンドルポッド、それをできる限りたくさん。
そんなにたくさんどうするのか、と聞かれた時にニヤリと笑って「センスの欠片もないツマンナイことしてるように見える? さーて、それはどうだろうねー」と意味深に返したのだが。
「あぁ、やっぱりコレだけ数が揃うとさー、なんか吸い込まれそうな非現実感がもう半端ないよねぇ……単純に量を揃えただけでも一斉に灯せば独特の趣が生じていい感じじゃない?」
っていうか良いよねー、と炎を瞳に移しながら楽しげに笑ってみせるのだった。
クリスティン・ガフ(ka1090)が作ったのは『今後の展開を希望的観測なしで冷静に試行し、全力で己の本質をイメージしたキャンドルポッド』だという。
強欲に身を焦がし、人も歪虚も英雄も例外なく対象にし、理屈の上で闘争し奪うことと殺すことを繰り返す己は、いったいどのように燃え、香り、蠢き、何処へたどり着くのか。
その先を見定めるようにクリスティンは無言で炎を眺め続けていた。
「シュバルツエンド君に聞いたのですがこのお祭りは今年が初めて開催だそうで、村おこしの一面の他に最近歪虚によって大量に雑魔化され、ハンターが討伐した山の動物たちの慰霊も兼ねているんだそうだ」
久延毘 大二郎(ka1771)が八雲 奏(ka4074)にそう語りかける。
「村興しに、慰霊ですか。それでしめやかなお祭りなのですね。
ふさわしいかどうかは分かりませんが、何か願掛けでも致しましょうか? この桜色の小さな花は、純粋な願いという花言葉だそうですよ」
奏が自身が作ったキャンドルポッドに閉じ込めた花を示し、そう提案すれば大二郎は少し考えて是と答えた。
「八雲君の方は何を願うつもりだ?」
「わたくしは特にありませんね。今在るもので十分に満たされていますので。
ただ、即物的なものでいいなら男性の可愛い姿がみたいですねぇ。殿方の可愛いところを見ると嬉しくなってしまうというか」
そう言いながら正座した膝の上をポンポンと叩き、無言の笑顔で威圧する奏の迫力に負けて膝枕タイムが始まった。
「さあ、わたくしの願いは叶ってしまいました。大二郎様は何を願われるのですか?」
「私の願いか……世界の解明、研究者としての大成……挙げればキリがない。だが一番の願いは……今日のような面白き日々が、なるべく長く続くことかね」
「それは素敵な願いですね。なら、明日も明後日もこの新しい世界で発見と冒険がありますように。
ぜひお供させてくださいね♪」
大二郎の返答に奏は楽しそうに笑いながらそう答えたのだった。
一瞬で溶けてしまう、その儚さに誘発されていつか来る別れ……戦場での自分の死は覚悟しておいてほしい、と周りの幻想的な光景と雰囲気に合わないことを口走りそうになり、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)は開きかけた口を閉じる。
セレスティア(ka2691) は漸く心が通じ合って恋人となったラシュディアがいまだに悔恨に囚われ、死に取り憑かれていることを踏まえたうえで、完全に振り向かせると決意していた。
「……離さないから。ラシュディア……」
そんな思いを込めて呟けば、罪悪感に襲われたラシュディアはただ手を握って。
「その時が来るまで、それまでずっと傍にいるからな」
かけたい言葉は他にあるはずなのに、口にできるのはそんなセリフ。
自分への自己嫌悪を覚えつつ、ただ燃え尽きたキャンドルポッドを見つめ続ける。
繋いだ手の温もりが、ただひたすらに愛おしい。そう感じながら。
アイビス・グラス(ka2477)は昼間から滞在を続け居たらしい小夜子に声をかけ、共にキャンドルポッドの光を眺めてポツリポツリと語り合っていた。
話がリアルブルーに関してのものになり、自然と思い出されるのは向こうにいる母のこと。
再会するためにもいつかリアルブルーへ帰る、という誓いを新たにし、それと同時にこれまでの出会いに感謝を込めてキャンドルに火を灯す。
「いつか皆でリアルブルーに帰れるといいな……」
あちらの世界はどれくらい変わったのだろうか。それとも変わっていないのだろうか。
二人はそれからしばらく、無言で蝋燭が燃え尽きるまでの時を過ごした。
沈黙は、不思議と気詰まりではなく、ただ静かに望郷の念に浸ることができる時間が流れていった。
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)は必ず来る幸福、という花言葉を持つ花を氷に閉じ込めたキャンドルポッドに青い蝋燭を設置し、静かに火を灯した。
「必ず来る幸福……亡くなった者の分まで幸せにならねばのぅ。待っているだけでは性に合わぬ、日々楽しく、幸せを探して生きたいものじゃ」
灯の輝きを肴にワインを飲んでいると厨房で大惨事を引き起こしたルカが視界に入る。
「いつも面白い依頼をあっせんしてくるそなたも来ておったのかえ? いける口ならいつもの礼に一杯どうじゃ?」
「これは嬉しいお誘いだね。童顔のせいか成人していると言っても未成年に間違われて酒場から追い出されることが結構あるんだよ」
今日は酒場じゃなく台所から追い出されたけどね、と飄々と語りながらルカは礼をいってグラスを受け取り、ひそやかに乾杯するのだった。
ジオラ・L・スパーダ(ka2635)は姉のシエラ・R・スパーダ(ka3139)に誘われるままにこの祭りへとやってきた。
思考が読めず、無表情なことから少しだけ怖い印象のある姉だが、自分を追ってきたということもありないがしろにはしたくない。
照れくさいし、伝わるかどうかは分からなかったがそんな思いを込めてポッドに閉じ込めたのは自分のミドルネームの百合に似た花と、姉のミドルネームの薔薇に似た花。色は白と赤。
火を灯せばほとんど相槌しか打ってこなかったシエラが「素敵ね」と感嘆の言葉を漏らす。
シエラが作ったポッドに閉じ込められたのは姉妹の髪の色であり、風にまつわる物語を持つ花。
妹にぴったりだと思い選んで、二輪なのは自分とジオラ、二人の意味を込めた。
妹同様、選んだ花とその理由について深く語ることはなかったが、灯を眺めながら姉妹はポツリポツリと語り合うのだった。
イブリス・アリア(ka3359)はメイ=ロザリンド(ka3394)に誘われるままついてきたものの、キャンドルポッド作りに参加するでもなく、その後の幽玄な景色に心奪われるでもなく、淡々と持ち込んだ酒を口にしていた。
『イブリスさんは私の大切な人、です。これまでも、これからもずっと。
だから……少しでも貴方に幸せが訪れますように』
そうメイがスケッチブックに綴る。メイが作ったキャンドルポッドに閉じ込められたのは小さな幸せ、という花言葉を持つ春の花。
勇気を出して誘い、今日だけはと修道服とベールを脱いで可愛らしいフリルのついたワンピースとパンプスを身に纏ったメイだったが、ただ一緒にいるだけ。今回はそれだけで十分、と考えていたイブリスはただ黙って肩をすくめるばかりだった。
変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。そんな二人の様子を、キャンドルポッドの光は静かに照らす。
シンプルな形のポッドに青い蝋燭を立て、灯した灯りを眺めながらこれまでに起きた物事に思いを馳せる壬生 義明(ka3397)が初めに思い出したのはクリムゾンウェストに転移したばかりのころ。
右も左もわからず慌てていたが、ハンターとして活動するようになってからは仕事にも、人にも恵まれて自分は幸せだ、と感傷に浸る。
リアルブルーである男性に教わった色々なことがここでの生活で活きていることに感謝し、もっと多くのことを糧にして、より強く人の支えになれる存在を目指して頑張る、と心の内で世話になった男性に語りかけながらゆったりとした時間は過ぎていった。
周りから世界に馴染んでいる、といわれているものの心情的には複雑な思いを抱いている城戸 慶一郎(ka3633)、その原因は帰りたい、という思いがある事に起因するのだろう。
関わった人は親切だし、解決に協力できた仕事も増えてきた。
けれど歪虚や雑魔といった脅威を前にすると平穏な生活が恋しくなる。
華やかなキャンドルポッドを眺めながら願う。元の世界に帰れるように、と。
見知った顔はいくつかあるが、今日は一人で静かに故郷を想うことを選んだ慶一郎だった。
エステル・ソル(ka3983)は待ち合わせの一時間前に来て、兄のアルバ・ソル(ka4189)がくるまでずっと心配そうにしていた。
アルバがやってくるのを見つけた途端泣きながら抱き付き、来ないかと思ったとぐずる。
「安心していいよ、エステル。ボクはいつだってお前の傍にいて、お前を思っているよ」
寂しがり屋の妹を強く抱きしめ、額に口づけるアルバ。
作ったキャンドルポッドは最愛の妹へ。
エステルは可愛らしくしようと一生懸命に作った自分のキャンドルポッドよりアルバの作ったものの方が上手に見えて少し頬を膨らませたが、褒められれば無邪気に笑って喜んで。
「お兄様。お兄様。まるで星のよう!」
蝋燭に火を灯すことを躊躇したものの来年も作る、という条件を付けて点火。
周りのキャンドルポッドの灯りも合わさって幻想的な世界が広がり、エステルがはしゃぐのをアルバは微笑んで眺めるのだった。
「さーて、何を作ったものかね」
ティルクゥ(ka4314)が思案しているときに視界に入ったのは人の手を模した燭台である自分の武器。
「ああそうだ、いっそのことこいつをもとに『あまり趣味が良くない』ものを作ろう!」
目指すのはみんなが驚くようなもの、と悪戯っぽく笑いながら造形開始。
出来上がったのは名づけてシャレコウベキャンドルポッド、つまり頭蓋骨を模したキャンドルポッドだ。
「口をパカッと開けて中に蝋燭を入れて、火をつけると目からビームが出てるように見えるんだぜ! ほら、見てみろよ。どうだすげぇだろ!?」
本当に恐ろしいのは見た目ではなく、ほぼ直感のみで上手く目から光が出るような屈折率に内部が仕上がっていることだということに、おそらく作った本人も気づいていないこと、なのかもしれない。
精巧な水晶髑髏のようにもみえるキャンドルポッドは点灯直後から溶けている最中、消えるまでありとあらゆる人をギョッとさせたのだった。
ヴィヴィオ・メルロー(ka4512)はクリムゾンウェストにもリアルブルーと同じく自然があり、人々の生活があることにほっとする。
実は不安もあったものだが、そんな不安も灯りを見ているといつの間にか消え去り、心に温かい灯がともったように思えてくる。
それはこのキャンドルポッドたちの多くが誰かが誰かを想って作った、思いの結晶ともいうべきものだからなのかもしれない。
「私……こっちで頑張ってみるよ」
自分にしか聞こえない声で呟き、ヴィヴィオはそっと天を仰いだ。
地上の星と、天上の星が人々の営みを照らしていた。
森に生まれ、森と共に生き、森の地へと還るエルフであるはずだったルース・L・スパーダ(ka4513)が森を出たのは家族を探す為だった。
子供たちが相次いで森を離れ、妻も子供を追って旅立った。
ルースには『留守番していろ』とだけ言い残し、家族と離れ離れになり、いつまで待っても帰らない家族を見つけ出すためにルース自身も旅立つことを選んだが、人間の文化にはなじめず、家族が何処にいるのかもわからない。
手がかりすらなく、此処へ来たのは願掛けの意味も込めてだった。
閉じ込めたのは女系家族が持つ髪の色と同じ紫の花。
一人灯りを眺めながらルースは行方の知れぬ妻と子供たちに心の中で呼びかける。何処にいるのだ、と。
アリス・ブラックキャット(ka2914)が昼の間に作ったキャンドルポッドは四葉のクローバーを入れたもの。
夜になってから他の参加者が作ったものを一つ一つ見て歩く。
「綺麗だね……これなら眩しくないかも」
自分の作ったキャンドルポッドのもとに戻り思いを馳せるのはある恋の行方。
「この氷みたいに、この思いも溶けてしまったりしないかなあ……」
依頼で知ったその恋に自らも思うところがあるようで。それでも。
「ずっとずっと、一緒にいられるとは思ってないよ。……でも、傍にいたいって思うのは、やっぱりわがままかなあ」
迷う心を慰撫するようにキャンドルポッドの灯りは揺らめいていた。
風花・メイフィールド(ka2848) は出会いや恋の花言葉を持っている花をポッドに閉じ込め、蝋燭はピンク色に。
夜になって灯したキャンドルの美しさに目を奪われつつ必死に願うのは。
「出会いが欲しい、出会いが欲しい、出会いが欲しい」
呪いと取れそうなレベルの必死さに声をかけるのを躊躇う、風花の周囲。
結果的に出会いを自分で遠ざけてしまっていることに風花は果たして気づくのだろうか?
シガレット=ウナギパイ(ka2884) は小夜子が元気でやっているかどうかを知るために昼間顔を合わせていた。
目的はもう一つ、夜に草花をキャンドルで照らしつつ花見酒をしたかったため、彼女に良い場所がないか聞き出そうと思ったのだ。
この山を庭同然に過ごしていた小夜子に再会の挨拶を済ませた後教わった花見スポットでのんびり酒を呷るシガレット。
次の戦い、その次の戦いのために今は休息を。
一つまた一つとキャンドルポッドは束の間の生を終え、水へと還っていく。
しかし込められた思いは、託された願いは確かに人々の心に刻み込まれた。
幻想的な世界は終わりを告げ、日常が戻ってきても、その思いは色あせることなく記憶の一ページを彩り続けることだろう。
氷の中に花や小物など、自分で選んだものを閉じ込め、香りや色や絵柄をつけた蝋燭を灯すという祭りの当日。
村興しとして新しい催しを考え、かつて歪虚によって奪われた山の動物たちの慰霊の意味も込めてしめやかに行える祭りを、と村人たちが知恵を寄せ合い、食べ物の保存などに主に使っていた氷室の氷が潤沢であることと、今の季節は雪と氷の季節から花と陽光の季節に移り変わることから、キャンドルポッドに冬と春を閉じ込めようという内容でこの案が選ばれたのだった。
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が作るのはゴシック風のもの。
「滅多にない体験ってのはやればやった分だけ、人生に潤いを与えてくれるってもんよ。
余計な荷物にならず、一期一会を味あわせてくれるところも潔くて気に入った」
儚く消えていくものだからこそ、気合入れて作らなきゃ嘘だろう、と基調になる色を黒に、蝋燭には蜘蛛や蝙蝠をモチーフにしたものを。
小物や花も黒や濃い青系で纏め、リアルブルーのハロウィンのようなテイストのデスドクロだけのキャンドルポッドが出来上がったのだった。
レイ=フォルゲノフ(ka0183)と黒の夢(ka0187)はレイお手製の大量のお弁当を持って祭りに参戦。
「祭りはやっぱ楽しまんとな~しんみりしてもしゃーないやろ」
そう主張するレイが持ち込んだのは花火セットと火薬。
いわく「普通の物じゃつまらない」という思考のもと、キャンドルの芯を導火線に、それを細工すれば時間差爆破ができるのでは、と算段中。
黒の夢は頬をぱんぱんにしたまま新しいおかずを口に運ぶ。食べる量とスピードが桁外れなその様子に、近くを通りかかった村人が二度三しているが二人は気にする素振りすら見せない。
キャンドルポッドにはご飯を入れようかと考えたものの胃袋の方に収めることにし、歯車と葉っぱの模様を入れたものが出来上がったが……レイの影響か彼の倍の花火と火薬入り。
「折角だからこれも皆のと一緒に灯してて欲しいのな……」
物騒なキャンドルポッドを置き土産に、はしゃぎ疲れた黒の夢を負ぶって帰るレイだった。
帰る途中、二人の背後から花火でも上がるような音が聞こえたのはきっと何も知らない人が不用意に点火したからだろう。
どの程度騒ぎが大きくなったのかは不明だがサプライズになったことは確かである。
岩井崎 旭(ka0234)は友人のシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)と一緒にキャンドルポッド作り。
旭はポッド作りが始まるまで散歩と趣味を兼ねて山菜などを集めてきていたので、中にそれを入れようとしたがふと妙案を思いつく。
採ってきたつくしと、傍に生えていたスギナ。上の方に桜の花びらを散らして春のの山のイメージを閉じ込めた。
「お、我ながら上手いことできたな」
ご満悦の旭にシルヴィアが横から声をかけた。
「旭さん、少し覚醒して頂いても宜しいですか?」
首を傾げながら旭が覚醒状態になるとシルヴィアは問答無用とばかりにミミズク姿の旭の羽根を数枚ブチブチと引っこ抜く。
「あ、何枚か貰いますね」
その羽根をキャンドルポッドに入れるのを見て痛がりながら自分の羽根を入れるのか、と突っ込む旭。
事後承諾になった事に対しては突っ込まなくていいのだろうか、と彼に聞くのはきっと野暮なのだろう。
「ほら、うまくいきましたよ。綺麗です」
シルヴィアが満足げに謎のサムズアップするのをみて旭はやれやれ、と苦笑交じりに肩をすくめたのだった。
(ああ、今日も可愛いなぁ)
そんなことを思いながら妹が楽しいだけで無条件に自分も楽しめる、という仲の良さで天竜寺 舞(ka0377)は天竜寺 詩(ka0396)と山に入り花を探す。
舞は赤い花を、詩は黄色い花をそれぞれ摘んでキャンドルポッドを作るために戻ろうかと視線を移した先に緋色の袴。
「小夜子さん?」
かつて家族同然の存在を雑魔化され、自身も歪虚に狙われた覚醒者の女性、小夜子は舞の呼び声に振り返る。
狐の面に隠され表情はうかがい知れないが首を傾げた仕草から微かに伝わるのは驚きだろうか。
今日は祭りがあるから一緒に行こうよ、と詩を紹介した後小夜子を誘う。
「せめて詩の歌は聞いてって欲しいな。本当に綺麗な歌だから」
「リアルブルーの歌……今様を家で習ってたの。それでよかったら歌うよ?」
「今様か……懐かしいな。昨日村の人が差し入れと一緒に祭りの説明をしてくれたのだが……雑魔にされた動物たちの慰安の意味もあると聞いている。
私もこの山に生かされる者。そして魂を慰撫したい存在がいる。天竜寺殿が構わないなら、ご一緒させて頂こう」
三人に増えた一行は村へと戻り、麻衣は黄色い蝋燭、詩は赤い蝋燭と入れた花と蝋燭の色がお互いの対になるキャンドルポッドを作り上げて夜を待ったのだった。
「激戦の前にゆっくりするかねえ」
春日 啓一(ka1621)はシャルア・レイセンファード(ka4359)と休日を満喫しようと氷のキャンドルポッドを作りにやってきた。
リアルブルーでよく見かける、シロツメクサとクローバーに似た花を何種類か事前に調達していた啓一はそれらを押し花にして持ってきている。
ポッドはスタンダードな楕円形、表面に押し花にした花と緑をあしらって小さな春をイメージしたもの。
シャルアは香りづけと着色ができるように、とラベンダーを用意しておいたのだがどうやら家に忘れてきたようで。
「おめーは本当に要領良い割にどっか抜けてんな」
ここにはない、こっちにもない、とラベンダーを探して荷物をごそごそと漁るものの置き忘れた、ということが確定してしょんぼりするシャルアに啓一は呆れながら自分の押し花を差し出す。
「俺は終わったから残りは好きに使いな」
「はわわ、助かったのですよ! 感謝感謝なのです~…っ!」
お礼として出来たキャンドルポッドは啓一にプレゼントすることにして、けれど持ち帰ることはできない氷製のポッドなため、二人は灯りが一番よく映える時間を待つのだった。
海堂 紅緒(ka1880)は色々なものを詰め込んだビックリ箱のようなものもいいかな、と思いつつやはりシンプルな方がいいだろう、とシロツメクサに似た植物と端切れ布で作ったリボンを氷の中に閉じ込める。
蝋燭は爽やかにグレープフルーツの香りを香らせ、表面には前衛的になった猫の絵を描いて可愛らしく仕立てた。
点灯式まで、あと少し。その間村人や自分と同じく一人で参加している様子のハンターに声をかけて交流を深めるのだった。
「一瞬で消えてしまう、だからこそ素敵なものを作りたいです。全力で楽しませて頂きます!」
エテ(ka1888)が目指すキャンドルポッドは蓮の花をモチーフにしたもの。
デザインは決まったものの、花弁の形がなかなかうまく造形できないまま時間ばかりが過ぎていく。
「作るのならば拘って、あぁでも日暮れが……日が沈むまでには、必ず……!」
蝋燭は淡いピンク色に梅の香油を混ぜ、側面に紅梅と、桃の絵をさらりと描いて。
拘りぬいたキャンドルポッドも空がオレンジ色になる頃になんとか完成。
「誰かの心に残るものに、なりますように!」
形が残らない分、記憶に残って欲しいと願いを託したキャンドルポッドは夕日を受けて煌めいていた。
「んむむ、ポッド作りって難しいかも! 氷だからすぐ割れちゃうし……あわわ、またヒビが。
誰かコツを教えてくれないかなぁ……」
そんなテトラ・ティーニストラ(ka3565)がターゲット・ロックオンしたのはルカ・シュバルツエンド(kz0073)だった。
「綺麗なコップみたくしたいの! ルカさんあたしをたすけて~」
蝋燭はすでに完成済み、桜色の小さな物で春らしさが出ている。
蝋燭の火が小さければそれだけポッドも溶けにくいから、夜にじっくり見られるという算段だ。
「コップ、ねぇ。こんな感じでいいのかい?」
料理の腕は壊滅的だがどうやら手先は器用らしく、ルカはテトラの要望を受けて試しに一つコップ型に氷を削ってみせる。
「ありがと~! 折角だから、このポッドはルカさんへの感謝を込めたものにしちゃおうか。
いつも依頼でお世話になってるし……このポッドも、ルカさんのお陰だし、ねっ♪」
「お祭りは大好きです! 騒げるし食べれるし、良いことづくしですね!」
山菜や動物など、村の近くで食材を調達したミネット・ベアール(ka3282)はキャンドルポッドづくりに勤しんでいたダークマターの生成者もといルカの隣でポッドを作りはじめながら熱く語りだす。
「今回は村おこしってことなので、村の繁栄を願うお祭りなわけですよね。……作りませんか? 村の繁栄をテーマにした料理を!」
ルカを焚きつけるが彼が作ったら村の繁栄というより村の滅亡がテーマになるのは確実。
「きっと喜んでくれると思うんです。名物料理になるかもしれませんし、手伝いますよ!
材料も活きがいいのが揃ってます! さぁ!!」
以前ダークマターの生成を手伝って大変な目にあったはずなのだが実は気に入ってしまったのだろうか、それとも強烈過ぎて記憶が飛んでいるのか。
キャンドルポッドを作り上げた二人は日が暮れるまでまだ時間があるから、とダークマターをここでも精製、村人たちと参加したハンターたちを「村興と慰霊の祭りに悪魔がやってきた」と戦慄させたのだった。
「さて、たまにはのんびり、こういうのもいいかな?」
シェラリンデ(ka3332)はふらりと、そしてのんびりと一人で休暇を楽しみにこの村へ。
「なるほど、これは楽しそうだね? せっかくだからボクもいろいろチャレンジしてみることにしようかな?」
氷の中に閉じ込めるのは菖蒲によく似た花。
蝋燭は下の方を薄く緑に染め、菖蒲の葉に似た香りのエキスを入れ、上の方は薄く紫色に。葉のエキスが入った部分が固まったら花のエキスを入れた部分を接合し、側面に濃い目の色で鮮やかに花を描く。
「……うん、こんな感じかな? これでひと段落、と」
自分にとっていろいろな意味でゆかりのある花なので、これからも良き日々が続くようにと祈りを込めて作り上げた蝋燭とキャンドルポッドを満足げに眺めるのだった。
四楽星 瑞琴(ka3509)と優月・詩音(ka3929)、真白・祐(ka2803) は三人人並んでキャンドルポッド作り。
瑞琴が見守る中、詩音は何度も失敗して涙目に。
大きな戦いにも参加しているので今回はその息抜きに、とやってきた裕は手先に自身があったため教えてくれる人からアドバイスを聞いて見栄えのするものを作り上げた。
(これなら言うとおりにやってればそうそう下手なものはできないだろう……)
そこまで考えてから不安になって振り返れば失敗に涙目になっている詩音の姿。
そんな詩音を励ましながら自分なりのアドバイスも交え、詩音が楽しめれば自分もそれが一番うれしい、と考えている友人思いの瑞琴の助力と裕のアドバイスを得て、詩音のキャンドルポッドも何とか完成。
あとは夜の点灯式を待つばかりだ。
そして日が完全に暮れ、キャンドルポッドに火が灯される時間がやってきた。
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は『幸せな未来』という花言葉を持つ花を閉じ込めたキャンドルポッドに火を灯す。
アルファス(ka3312)の膝の間に座り、後ろから抱きしめてもらっているため花冷えの寒さも二人には無縁の様子。
「花言葉は幸せな未来か……出逢ったころのユーリは抜身の刃物みたいで、無鉄砲でもあったね」
くすくすと笑いながら当時を思い出すアルファスに身体を預けてユーリは揺らめく炎を眺める。
「アルと出会うまでは、ひたすら戦い抜くばかりで、自分の幸せなんて考えたこともなかったからね。でも、こうしてアルの温もりを感じている……それだけでも幸せすぎるよ。
アルはこの戦いが終わったら、リアルブルーに帰っちゃうのかな……? もしそうなら、私はどんな手段を使ってでもついていきたいよ」
「『鞘と刃』だけじゃなく、未来を思い描くとしたら……か。リアルブルーのことを思い出さないわけではないけどね。
未練自体はないし、こっちでの『夢』もあるからね。
でも、そういってくれるのは嬉しい。どっちの世界でも二人なら楽しいだろうからね」
ささやかだけれど、きっと幸せになれる。そんな夢のために、この戦いを終わらせよう、と誓いを新たにするユーリを、アルファスは静かに見守っていた。
知り合いの様子を見に行ったり、そのまま少しの間会話を楽しんだあと、オウカ・レンヴォルト(ka0301)は昼の間に作ったキャンドルポッドに火を灯した。
桜色の花を閉じ込めたポッドと、主張しすぎない、仄かに甘く香る香油を混ぜた蝋燭は春の夜を具現化したような幻想世界を見せてくれる。
「……こういうのも、たまにはありかも、な」
ゆらゆらと風に揺れる炎をぼんやりと眺めながらひっそりと呟き、夜は更けていった。
シェリル・マイヤーズ(ka0509)は独り、様々な思いの託されたポッドとその中で揺らめく灯を眺め、両親のことを思い出して涙していた。
出会い、分かれ、一瞬で消える命は儚い。
腹部の傷を撫で、随分無茶をしているが大事な約束があるから死ぬ気はない、と再確認。
死んではいけないのであって、本当に生きたいわけではないのかもしれない、という疑問が泡のように心に浮かんだ。
これ以上考えてはいけない、謝る事も出来ない、だから約束通りに生き続ける。
そう思いながらも涙は止まらず、フードで顔を隠しているシェリルの頭を撫でるヴァイス(ka0364)はシェリルが顔をあげればただ優しく微笑みかけて。
その微笑みにどこか切なさを見出し、彼も何かを想っているのか、と思いながら言葉にはせず寄り添えばマントが二人を包み込む。
寂しさと寒さが、少し緩んだ気がした。
シンプルなボックス型のポッドに、バニラエッセンスで香り付けした蝋燭を点灯した十色 エニア(ka0370)は灯りを眺めながら少し感傷的な気分になっていた。
とある歪虚にいわれた言葉をいくら考えても分からず、覚醒し、変化した自分を見つめ、確かめて更に分からなくなる。
「何年も、未来なんて、考えたことなかった。ずっと、繰り返してただけだったし……」
思考の海に沈んでいる間にキャンドルは既にほとんど溶けてしまい、バニラの香りが微かに香るだけ。
その香りと頭に渦巻く思想を振り払うように立ち上がる。
今は友人のもとへ向かい、楽しく過ごせればそれでいい、そんな気がしたから。
ジョン・フラム(ka0786) は恋人の叉(ka3525)の頭をそっと撫でながら、蝋燭の火によって徐々に溶けていく氷のキャンドルポッドを眺めていた。
「万象は移ろい、消えゆくもの。私もあなたも、明日をも知れぬ身だ。それでも……消え去った後にも残り続けるものは、きっとある」
氷の中に閉じ込めておいた指輪を手のひらで受け止め、用意しておいたチェーンに通して叉の首にかける。
叉が閉じ込めたのは小さなクリスタルがついたネックレス。
「これ、……安物だけど。日ごろのお礼」
ジョンからのプレゼントに涙ぐみながらネックレスを差し出す叉にジョンは語り掛ける。
「そういうなにかを見つけてください、ラティ、私だけでなく、たくさんの人々と」
泣いている顔はあまり見せたくないから、笑顔を作って、大好きだと告げた。
「生きる術」を伝えていく今の関係が偽りだったとしても、あるいはいずれ、変わる日が来るのかもしれない。
叉の涙の跡のついた笑顔を見ながらジョンはひっそりと思いをめぐらすのだった。
超級まりお(ka0824)が昼間作ったのは簡単な構造の小型キャンドルポッド、それをできる限りたくさん。
そんなにたくさんどうするのか、と聞かれた時にニヤリと笑って「センスの欠片もないツマンナイことしてるように見える? さーて、それはどうだろうねー」と意味深に返したのだが。
「あぁ、やっぱりコレだけ数が揃うとさー、なんか吸い込まれそうな非現実感がもう半端ないよねぇ……単純に量を揃えただけでも一斉に灯せば独特の趣が生じていい感じじゃない?」
っていうか良いよねー、と炎を瞳に移しながら楽しげに笑ってみせるのだった。
クリスティン・ガフ(ka1090)が作ったのは『今後の展開を希望的観測なしで冷静に試行し、全力で己の本質をイメージしたキャンドルポッド』だという。
強欲に身を焦がし、人も歪虚も英雄も例外なく対象にし、理屈の上で闘争し奪うことと殺すことを繰り返す己は、いったいどのように燃え、香り、蠢き、何処へたどり着くのか。
その先を見定めるようにクリスティンは無言で炎を眺め続けていた。
「シュバルツエンド君に聞いたのですがこのお祭りは今年が初めて開催だそうで、村おこしの一面の他に最近歪虚によって大量に雑魔化され、ハンターが討伐した山の動物たちの慰霊も兼ねているんだそうだ」
久延毘 大二郎(ka1771)が八雲 奏(ka4074)にそう語りかける。
「村興しに、慰霊ですか。それでしめやかなお祭りなのですね。
ふさわしいかどうかは分かりませんが、何か願掛けでも致しましょうか? この桜色の小さな花は、純粋な願いという花言葉だそうですよ」
奏が自身が作ったキャンドルポッドに閉じ込めた花を示し、そう提案すれば大二郎は少し考えて是と答えた。
「八雲君の方は何を願うつもりだ?」
「わたくしは特にありませんね。今在るもので十分に満たされていますので。
ただ、即物的なものでいいなら男性の可愛い姿がみたいですねぇ。殿方の可愛いところを見ると嬉しくなってしまうというか」
そう言いながら正座した膝の上をポンポンと叩き、無言の笑顔で威圧する奏の迫力に負けて膝枕タイムが始まった。
「さあ、わたくしの願いは叶ってしまいました。大二郎様は何を願われるのですか?」
「私の願いか……世界の解明、研究者としての大成……挙げればキリがない。だが一番の願いは……今日のような面白き日々が、なるべく長く続くことかね」
「それは素敵な願いですね。なら、明日も明後日もこの新しい世界で発見と冒険がありますように。
ぜひお供させてくださいね♪」
大二郎の返答に奏は楽しそうに笑いながらそう答えたのだった。
一瞬で溶けてしまう、その儚さに誘発されていつか来る別れ……戦場での自分の死は覚悟しておいてほしい、と周りの幻想的な光景と雰囲気に合わないことを口走りそうになり、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)は開きかけた口を閉じる。
セレスティア(ka2691) は漸く心が通じ合って恋人となったラシュディアがいまだに悔恨に囚われ、死に取り憑かれていることを踏まえたうえで、完全に振り向かせると決意していた。
「……離さないから。ラシュディア……」
そんな思いを込めて呟けば、罪悪感に襲われたラシュディアはただ手を握って。
「その時が来るまで、それまでずっと傍にいるからな」
かけたい言葉は他にあるはずなのに、口にできるのはそんなセリフ。
自分への自己嫌悪を覚えつつ、ただ燃え尽きたキャンドルポッドを見つめ続ける。
繋いだ手の温もりが、ただひたすらに愛おしい。そう感じながら。
アイビス・グラス(ka2477)は昼間から滞在を続け居たらしい小夜子に声をかけ、共にキャンドルポッドの光を眺めてポツリポツリと語り合っていた。
話がリアルブルーに関してのものになり、自然と思い出されるのは向こうにいる母のこと。
再会するためにもいつかリアルブルーへ帰る、という誓いを新たにし、それと同時にこれまでの出会いに感謝を込めてキャンドルに火を灯す。
「いつか皆でリアルブルーに帰れるといいな……」
あちらの世界はどれくらい変わったのだろうか。それとも変わっていないのだろうか。
二人はそれからしばらく、無言で蝋燭が燃え尽きるまでの時を過ごした。
沈黙は、不思議と気詰まりではなく、ただ静かに望郷の念に浸ることができる時間が流れていった。
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)は必ず来る幸福、という花言葉を持つ花を氷に閉じ込めたキャンドルポッドに青い蝋燭を設置し、静かに火を灯した。
「必ず来る幸福……亡くなった者の分まで幸せにならねばのぅ。待っているだけでは性に合わぬ、日々楽しく、幸せを探して生きたいものじゃ」
灯の輝きを肴にワインを飲んでいると厨房で大惨事を引き起こしたルカが視界に入る。
「いつも面白い依頼をあっせんしてくるそなたも来ておったのかえ? いける口ならいつもの礼に一杯どうじゃ?」
「これは嬉しいお誘いだね。童顔のせいか成人していると言っても未成年に間違われて酒場から追い出されることが結構あるんだよ」
今日は酒場じゃなく台所から追い出されたけどね、と飄々と語りながらルカは礼をいってグラスを受け取り、ひそやかに乾杯するのだった。
ジオラ・L・スパーダ(ka2635)は姉のシエラ・R・スパーダ(ka3139)に誘われるままにこの祭りへとやってきた。
思考が読めず、無表情なことから少しだけ怖い印象のある姉だが、自分を追ってきたということもありないがしろにはしたくない。
照れくさいし、伝わるかどうかは分からなかったがそんな思いを込めてポッドに閉じ込めたのは自分のミドルネームの百合に似た花と、姉のミドルネームの薔薇に似た花。色は白と赤。
火を灯せばほとんど相槌しか打ってこなかったシエラが「素敵ね」と感嘆の言葉を漏らす。
シエラが作ったポッドに閉じ込められたのは姉妹の髪の色であり、風にまつわる物語を持つ花。
妹にぴったりだと思い選んで、二輪なのは自分とジオラ、二人の意味を込めた。
妹同様、選んだ花とその理由について深く語ることはなかったが、灯を眺めながら姉妹はポツリポツリと語り合うのだった。
イブリス・アリア(ka3359)はメイ=ロザリンド(ka3394)に誘われるままついてきたものの、キャンドルポッド作りに参加するでもなく、その後の幽玄な景色に心奪われるでもなく、淡々と持ち込んだ酒を口にしていた。
『イブリスさんは私の大切な人、です。これまでも、これからもずっと。
だから……少しでも貴方に幸せが訪れますように』
そうメイがスケッチブックに綴る。メイが作ったキャンドルポッドに閉じ込められたのは小さな幸せ、という花言葉を持つ春の花。
勇気を出して誘い、今日だけはと修道服とベールを脱いで可愛らしいフリルのついたワンピースとパンプスを身に纏ったメイだったが、ただ一緒にいるだけ。今回はそれだけで十分、と考えていたイブリスはただ黙って肩をすくめるばかりだった。
変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。そんな二人の様子を、キャンドルポッドの光は静かに照らす。
シンプルな形のポッドに青い蝋燭を立て、灯した灯りを眺めながらこれまでに起きた物事に思いを馳せる壬生 義明(ka3397)が初めに思い出したのはクリムゾンウェストに転移したばかりのころ。
右も左もわからず慌てていたが、ハンターとして活動するようになってからは仕事にも、人にも恵まれて自分は幸せだ、と感傷に浸る。
リアルブルーである男性に教わった色々なことがここでの生活で活きていることに感謝し、もっと多くのことを糧にして、より強く人の支えになれる存在を目指して頑張る、と心の内で世話になった男性に語りかけながらゆったりとした時間は過ぎていった。
周りから世界に馴染んでいる、といわれているものの心情的には複雑な思いを抱いている城戸 慶一郎(ka3633)、その原因は帰りたい、という思いがある事に起因するのだろう。
関わった人は親切だし、解決に協力できた仕事も増えてきた。
けれど歪虚や雑魔といった脅威を前にすると平穏な生活が恋しくなる。
華やかなキャンドルポッドを眺めながら願う。元の世界に帰れるように、と。
見知った顔はいくつかあるが、今日は一人で静かに故郷を想うことを選んだ慶一郎だった。
エステル・ソル(ka3983)は待ち合わせの一時間前に来て、兄のアルバ・ソル(ka4189)がくるまでずっと心配そうにしていた。
アルバがやってくるのを見つけた途端泣きながら抱き付き、来ないかと思ったとぐずる。
「安心していいよ、エステル。ボクはいつだってお前の傍にいて、お前を思っているよ」
寂しがり屋の妹を強く抱きしめ、額に口づけるアルバ。
作ったキャンドルポッドは最愛の妹へ。
エステルは可愛らしくしようと一生懸命に作った自分のキャンドルポッドよりアルバの作ったものの方が上手に見えて少し頬を膨らませたが、褒められれば無邪気に笑って喜んで。
「お兄様。お兄様。まるで星のよう!」
蝋燭に火を灯すことを躊躇したものの来年も作る、という条件を付けて点火。
周りのキャンドルポッドの灯りも合わさって幻想的な世界が広がり、エステルがはしゃぐのをアルバは微笑んで眺めるのだった。
「さーて、何を作ったものかね」
ティルクゥ(ka4314)が思案しているときに視界に入ったのは人の手を模した燭台である自分の武器。
「ああそうだ、いっそのことこいつをもとに『あまり趣味が良くない』ものを作ろう!」
目指すのはみんなが驚くようなもの、と悪戯っぽく笑いながら造形開始。
出来上がったのは名づけてシャレコウベキャンドルポッド、つまり頭蓋骨を模したキャンドルポッドだ。
「口をパカッと開けて中に蝋燭を入れて、火をつけると目からビームが出てるように見えるんだぜ! ほら、見てみろよ。どうだすげぇだろ!?」
本当に恐ろしいのは見た目ではなく、ほぼ直感のみで上手く目から光が出るような屈折率に内部が仕上がっていることだということに、おそらく作った本人も気づいていないこと、なのかもしれない。
精巧な水晶髑髏のようにもみえるキャンドルポッドは点灯直後から溶けている最中、消えるまでありとあらゆる人をギョッとさせたのだった。
ヴィヴィオ・メルロー(ka4512)はクリムゾンウェストにもリアルブルーと同じく自然があり、人々の生活があることにほっとする。
実は不安もあったものだが、そんな不安も灯りを見ているといつの間にか消え去り、心に温かい灯がともったように思えてくる。
それはこのキャンドルポッドたちの多くが誰かが誰かを想って作った、思いの結晶ともいうべきものだからなのかもしれない。
「私……こっちで頑張ってみるよ」
自分にしか聞こえない声で呟き、ヴィヴィオはそっと天を仰いだ。
地上の星と、天上の星が人々の営みを照らしていた。
森に生まれ、森と共に生き、森の地へと還るエルフであるはずだったルース・L・スパーダ(ka4513)が森を出たのは家族を探す為だった。
子供たちが相次いで森を離れ、妻も子供を追って旅立った。
ルースには『留守番していろ』とだけ言い残し、家族と離れ離れになり、いつまで待っても帰らない家族を見つけ出すためにルース自身も旅立つことを選んだが、人間の文化にはなじめず、家族が何処にいるのかもわからない。
手がかりすらなく、此処へ来たのは願掛けの意味も込めてだった。
閉じ込めたのは女系家族が持つ髪の色と同じ紫の花。
一人灯りを眺めながらルースは行方の知れぬ妻と子供たちに心の中で呼びかける。何処にいるのだ、と。
アリス・ブラックキャット(ka2914)が昼の間に作ったキャンドルポッドは四葉のクローバーを入れたもの。
夜になってから他の参加者が作ったものを一つ一つ見て歩く。
「綺麗だね……これなら眩しくないかも」
自分の作ったキャンドルポッドのもとに戻り思いを馳せるのはある恋の行方。
「この氷みたいに、この思いも溶けてしまったりしないかなあ……」
依頼で知ったその恋に自らも思うところがあるようで。それでも。
「ずっとずっと、一緒にいられるとは思ってないよ。……でも、傍にいたいって思うのは、やっぱりわがままかなあ」
迷う心を慰撫するようにキャンドルポッドの灯りは揺らめいていた。
風花・メイフィールド(ka2848) は出会いや恋の花言葉を持っている花をポッドに閉じ込め、蝋燭はピンク色に。
夜になって灯したキャンドルの美しさに目を奪われつつ必死に願うのは。
「出会いが欲しい、出会いが欲しい、出会いが欲しい」
呪いと取れそうなレベルの必死さに声をかけるのを躊躇う、風花の周囲。
結果的に出会いを自分で遠ざけてしまっていることに風花は果たして気づくのだろうか?
シガレット=ウナギパイ(ka2884) は小夜子が元気でやっているかどうかを知るために昼間顔を合わせていた。
目的はもう一つ、夜に草花をキャンドルで照らしつつ花見酒をしたかったため、彼女に良い場所がないか聞き出そうと思ったのだ。
この山を庭同然に過ごしていた小夜子に再会の挨拶を済ませた後教わった花見スポットでのんびり酒を呷るシガレット。
次の戦い、その次の戦いのために今は休息を。
一つまた一つとキャンドルポッドは束の間の生を終え、水へと還っていく。
しかし込められた思いは、託された願いは確かに人々の心に刻み込まれた。
幻想的な世界は終わりを告げ、日常が戻ってきても、その思いは色あせることなく記憶の一ページを彩り続けることだろう。
依頼結果
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キャンドル祭り ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/03/28 23:41:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/30 02:18:36 |