ゲスト
(ka0000)
教会の大掃除!
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2015/03/28 12:00
- 完成日
- 2015/03/28 23:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●借りるなら猫の手より人の手ですよね
帝国にある、とある寂れた教会。最後にシスターや神父がいたのは随分昔の話。
次に赴任してくる後任がなかなか決まらず、神父がいない教会からシスターたちが去っていき、教えを説いてくれる存在を失ってから人々の来訪も絶えてしまった祈りの場。
十数年ぶりに新しい主を迎えることになったのは教会にとって喜ばしいことと言えるだろう。
――どこから手を付けていいか分からないレベルで掃除が行き届いていないことを除けば、だが。
信心深い人たちがいなかったわけではない。だが彼らは教えを説いてくれる存在を求めて他所の教会に移ってしまった。
顧みられることのなかった場所は、たとえ神聖な場所でも荒れるのが必定。
以前荒れ果てた資料館の掃除をハンターオフィス経由でハンターたちが受け付けたと又聞きした教会の管理人は、後任が来る前になんとか取り繕えるレベルまで修復するのに手を貸してほしい、とオフィスに泣きついたのだった。
「……雑魔が出ないのは平和なことだけどさ。掃除の依頼がこうも舞い込んでくるとハンターとは、って考えちゃうよね。まぁ、依頼が来たら斡旋するのが僕の仕事でもあるんだけどさ」
資料館、公園に引き続いて今回は教会だって、とルカ・シュバルツエンド(kz0073)がなんとも微妙な顔で切り出した。
「えーと、像とか、そういうのは残ってる。でも床とか壁とかがこの前の資料館みたいに荒れ果ててる。ハンターに依頼するのは残ってる十字架とかが結構歴史的に価値があるものらしくて盗難を防ぐ意味合いもあるみたい。
その点も対象は違うけど資料館の時と似てるかな。聖遺物ってほど大層なものではないみたいだけど盗まれると世間体が悪いっていうのもあるだろうね。
掃除用具は向こうが用意してくれるから、君たちはとりあえず埃まみれになっていい格好で、筋肉痛になる覚悟を決めて、こだわりの掃除用具があるならそれを持って現場に行ってくれるかい?
路銀に困ってるけど戦いは面倒くさいって人にはいいかもね。どっちが楽な結果なのかは知らないけどさ」
人出は多いほうがいいだろうから僕も手伝うよ。終わったら皆でお弁当を食べてもいいかもしれないね。
そう言いながらルカが飲むのは鮮紅色の『何か』だったので食事会をするなら誰かまともな食料を持ち込まないと大惨事になりそうな予感のするハンターたちだった。
帝国にある、とある寂れた教会。最後にシスターや神父がいたのは随分昔の話。
次に赴任してくる後任がなかなか決まらず、神父がいない教会からシスターたちが去っていき、教えを説いてくれる存在を失ってから人々の来訪も絶えてしまった祈りの場。
十数年ぶりに新しい主を迎えることになったのは教会にとって喜ばしいことと言えるだろう。
――どこから手を付けていいか分からないレベルで掃除が行き届いていないことを除けば、だが。
信心深い人たちがいなかったわけではない。だが彼らは教えを説いてくれる存在を求めて他所の教会に移ってしまった。
顧みられることのなかった場所は、たとえ神聖な場所でも荒れるのが必定。
以前荒れ果てた資料館の掃除をハンターオフィス経由でハンターたちが受け付けたと又聞きした教会の管理人は、後任が来る前になんとか取り繕えるレベルまで修復するのに手を貸してほしい、とオフィスに泣きついたのだった。
「……雑魔が出ないのは平和なことだけどさ。掃除の依頼がこうも舞い込んでくるとハンターとは、って考えちゃうよね。まぁ、依頼が来たら斡旋するのが僕の仕事でもあるんだけどさ」
資料館、公園に引き続いて今回は教会だって、とルカ・シュバルツエンド(kz0073)がなんとも微妙な顔で切り出した。
「えーと、像とか、そういうのは残ってる。でも床とか壁とかがこの前の資料館みたいに荒れ果ててる。ハンターに依頼するのは残ってる十字架とかが結構歴史的に価値があるものらしくて盗難を防ぐ意味合いもあるみたい。
その点も対象は違うけど資料館の時と似てるかな。聖遺物ってほど大層なものではないみたいだけど盗まれると世間体が悪いっていうのもあるだろうね。
掃除用具は向こうが用意してくれるから、君たちはとりあえず埃まみれになっていい格好で、筋肉痛になる覚悟を決めて、こだわりの掃除用具があるならそれを持って現場に行ってくれるかい?
路銀に困ってるけど戦いは面倒くさいって人にはいいかもね。どっちが楽な結果なのかは知らないけどさ」
人出は多いほうがいいだろうから僕も手伝うよ。終わったら皆でお弁当を食べてもいいかもしれないね。
そう言いながらルカが飲むのは鮮紅色の『何か』だったので食事会をするなら誰かまともな食料を持ち込まないと大惨事になりそうな予感のするハンターたちだった。
リプレイ本文
●大掃除、開幕
荒れ果てた資料館の掃除の手伝いを皮切りに、ゴミだらけの観光名所的な公園の掃除が続き、今回は信徒がいなくなって廃墟同然になった教会の掃除の依頼がハンターオフィスに舞い込んできた。
ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は折角だから動きやすい作業着を、と掃除向きの格好をしてきたが彼女の持つ華やかな雰囲気は作業着を着ても尚健在のようだ。
現地集合で顔を合わせた今回の参加者の中にユキヤ・S・ディールス(ka0382)の姿を認めてケイの表情がパッと輝く。
「……あら。ユキヤ! また会ったわね」
微笑を浮かべながら挨拶をすればユキヤの方もケイに気づいて穏やかに笑って挨拶を返してくれる。
「あ、ケイさんもいらっしゃったのですね。ふふ、こんなところでも出会えるのは、やはり運命でしょうか」
教会には何故か心惹かれるユキヤは普段も廃墟に近い教会によくいくのだそうだ。
特にステンドグラスから差す、空の色が様々な色彩を帯びていて好きなのだと語る。
何故かお互いに不思議な縁を感じる二人は何処を掃除しようかと考えていた場所も同じで、せっかくだからと一緒に掃除をすることに。
ケイとユキヤが掃除場所に選んだのは信徒が集まって使う場所も大事だけれど、シスターたちが使う場所も重要、ということで炊事場と入口。
どちらも綺麗にしておいて損はないし、炊事場が綺麗になるならそこでお昼や休憩の差し入れを作ることもできるだろうという算段だ。
この依頼を持ち掛けたギルドの斡旋者、ルカ・シュバルツエンド(kz0073)曰く以前はシスターの食事の他に炊き出しにも使われていたそうで炊事場は中々に広い。そして予想以上に汚れている。
「これは……やりがいがありそうね」
「頑張りましょうね、ケイさん」
「そうね。入口の方まで手が回るといいのだけれど……入口が綺麗なら、これから信徒の皆さんが来るときに気持ちいい気分で来られるもの」
教会は好きか、とユキヤに問われケイはしばらく考えると荘厳さと静謐さが独特で、自分が綺麗になっていく感覚が好きだと答えた。
もっとも、今回に限っては綺麗にするのは自分の内面ではなく、まず教会の方なのだったが。
「ケイさんの綺麗な手が荒れそうで、なんだかもったいない気もしますね」
埃や蜘蛛の巣を払い、拭き掃除をしながらユキヤが心配そうにケイの手に目をやる。
「何か祈るなら、何を祈るのでしょうか……。ケイさんは、たくさんの綺麗なモノを持ってらっしゃるから、祈りはないかも、ですね」
微笑して言葉を続けたユキヤにケイは緩く首を振って否定の意を示す。
「どこまでもあたしの歌が届きますように……かしら?
エゴかもしれない。でも。誰かの心の支えになれれば、と思うの」
青の世界ではプロ顔負けの歌姫として生きてきたケイの言葉にユキヤは柔らかく笑って、素敵な祈りだと思います、と答えた。
大聖堂で十字架などに煤除けの布をかぶせた後、高いところから順番に煤落としを行っていくシリル・ド・ラ・ガルソニエール(ka3820)は聖導士だから荒れた教会を清める依頼に遭遇するのも導きだろうか、と思いながら黙々と掃除を続ける。
一番高いところが終わった後はステンドグラスの周辺を先に行って、ステンドグラスを磨く組の仕事がしやすいようにと気配りを見せるが基本的には無言。
話しかけられても最低限の返事のみだが掃除を行う手つきは丁寧そのものなシリルだった。
雪ノ下正太郎(ka0539)と屋外(ka3530)は協力して外の壁の掃除を担当。
使わなくなった毛布をナイフで切り出して大量の雑巾を作り、ルカへはデッキブラシとバケツ、高い梯子、掃除用水の調達を頼んでいざ勝負。
屋根から降ろしたロープを使って壁を昇りながらバケツに入れた水とデッキブラシで外壁を磨く屋外。
彼に要請を受けた正太郎が適宜屋根から浮いた汚れを落とす水を流し、外壁が一通り綺麗さを取り戻したら次はステンドグラスを拭く作業。
屋外は梯子の設置移動を担当し、倒れないように根元をしっかり押さえ、正太郎がライトでレティシア・キノーレル(ka4440)が拭くステンドグラスに光を当てて汚れている部分が良く分かるように。
想像以上の汚れ具合に何故か笑いがこみあげてくるレティシアだったがそれはひょっとしてランナーズハイのような心境に陥ったせいなのだろうか。
原因不明の乾いた笑いを顔に貼りつけながら、保護者に勝手に申し込まれた依頼でもきちんとこなす。
身軽なので高いところも平気なレティシアが梯子や脚立、掃除用具を駆使して、屋外と正太郎の協力も得ててきぱき掃除。
「ありがとうございますー。助かっちゃいましたっ」
ステンドグラスを磨きながら地上にいる二人に声をかければお安い御用、と応えが返ってくる。
全てのステンドグラスを磨き終え、離れて眺めてみると汚れが落ちた分輝きを増して美しい眺めがあった。
「ステンドグラスの輝きが増しましたね! 光が入ると神々しい」
レティシアはその後ピアノの拭き掃除も担当し、試しにいくつか音を鳴らしてみて。
「……調律が必要ですよって後で神父さまに伝えないと駄目そうだなぁ。あとで弾きに来てもいいかな。
なにか壊れたものはない? 僕、少しなら機械修理できるから直せそうなら受け持つよ」
教会内部を掃除していた面子にそう声をかけて回って、直せるものは邪魔にならない場所に移動して直していく。
「寂れてんのも乙……だと思うんだがねぇ。使うってなら話は別か」
身軽に動き回るレティシアを視界に収めながら西空 晴香(ka4087)はマスクと掃除用エプロン着用で床掃除を担当。
フローリング部分はモップを、石の床などは箒で掃いて。
濡らしたモップで奥から手前の順に拭いたあとは乾拭きを同じ手順で。ワックスが剥げていたのでワックスがけも行って作業をしているメンバーに乾くまで入らないよう注意する。
石床は隅を掃く際に汚れを掻き出すように箒を動かす。
此方にも巣を張っていた蜘蛛の巣は床掃除をする前に取り除き、黒光りする嫌われ者の虫は率先して潰して。
「クラエ」
なるべく女性陣に見せないように処理はしてます、はい。それにしてもイイ笑顔である。
ユーリィ・リッチウェイ(ka3557)はワンピースでは掃除に不向きだろう、と現場についてから作業用のつなぎに着替え、髪もポニーテールにして動きやすい格好になるとどこを掃除しようかと考え込む。
「んー……皆、役割分担がちゃんとできてるし……ボクは背が低いからあんまり高所のお掃除は向いてないし……。
そうだ! じゃあ教会周りの雑草処理や木の剪定をしようかな♪」
やはり教会なのだから信徒やその他の人が「また来たい」と思える場所にしたいし、雑草だらけの教会ではその気持ちが目減りしてしまうだろう。
枯葉を集め、表面上のゴミを取って、木を綺麗な形に剪定……する前に。
「ちゃんとお祈りしてからじゃないとね。これから綺麗にさせて頂きます、って」
祈りを捧げた後は伸び放題だった木の枝を綺麗に剪定、落とした枝で燃料として使えそうなものは乾かす場所を作って一纏めに。
その後は草刈りを始めたユーリィだが、随分長い間放置されていた弊害でほとんどが雑草というありさま。
雑草でも綺麗な花の咲く物はわざと残して、花壇があったので花を植えてみることに。
「一年通して、明るい雰囲気といい匂いがすれば気持ちいいもんね」
クガキ(ka3516)は教会を構成する部屋の一つを担当することにして、普段あまり来ないから、と物珍しげに教会を見渡す。
「あまり教会に来たことはないのですが、なかなか雰囲気のあるところですね……何か出てきそうです」
ふと怪談話を思い出してしまってそんなセリフが口を突く。
「生憎私はここの信者ではありませんが、信仰の場が荒れているとは悲しいものです。是非お手伝いさせて頂きます」
見えない神に宣言するように呟くとさっそく掃除開始。
家事スキルを活用して掃除するが、初めは落ちているものや壊れているものを確認するところから。
壊れているもので今後使えそうなものは多少は修理ができるというレティシアに修理を頼み、目利きスキルで宗教的に大事なものなもちろん、そうでなくとも金銭的に価値のある物も残しておいて後で依頼主に渡す算段だ。
「悲しいですが運営は信仰心だけでは賄えませんからね」
苦笑しながら大きなゴミは拾って床掃除担当の晴香に後を任せる。
クガキ自身はその後は屋内の壁掃除を担当することに。
借りた掃除用具と鋭敏視覚スキルを使って汚れが目立つところを重点的に掃除していくのだった。
「……やはり顧みられなくなった場所は教会と言っても荒れ果ててしまうのですね。わたしがこの依頼と巡り合ったのも主の御導きかもしれません。真剣に取り組むとしましょう」
敬虔な信者である事から、熱心に大掃除に取り組むHollow(ka4450)は特に神像や十字架については埃一つ残さぬよう丹念に磨き上げていた。
神像に汚れなどがついていては主をはじめとする精霊たちの尊厳を穢すことになり、すこしでも往時の姿を取り戻さなくてはいけない、というのがその理由だ。
「……いずれ、この教会が信仰の場となった時、その復興の手助けをした信者が確かにいた、そんな逸話でも後世に残せたならば、望外の誉ですね」
せっせと神像を丁寧な手つきで磨きながらそんな独り言を漏らす。
直接的に進行に関わらない部分については他の人に任せ、Hollow自身は後回しにしていた。
「……本来ならばここもキレイにしたいところですが……依頼とは別に機会を設けてお手伝いに参りますので今回はご寛恕を」
そうしてハンターたちがチームワークと単独プレイを生かしながら掃除を続けた結果、見違えるように綺麗になった教会。
昼食をとるのを後回しにしたため、午後のお茶と一緒にみんなで昼食を取ろうということになりケイとユキヤが綺麗にした炊事場で料理の出来るメンバーが料理を担当することに。
「……オフィスの方の手を煩わせるのは流石に気が引けます。わたし自身は簡単な物しか作れませんが、わたしたちの方で何とかしますので、ルカ殿はどうぞ本来の任務にお戻りください」
Hollowがそういってダークマターを作り始めていたルカを止める。
気が引けるのもあっただろうが匂いも味も強烈なダークマターを一緒の場所で作られると折角の料理が台無しになるという一面もあるため正しい判断だったと言えるだろう。
Hollowが作ったのは黒パンに干し肉、野菜や肉の切れ端主体のスープという清貧を形にしたと表現できそうな料理。
他にもレティシアが作ったハムとチーズのサンドウィッチ、珈琲とお気に入りの店で買ったチョコレート。
ユーリィ手製のマカロンやクッキー。水筒に入れて持ってきた紅茶。
屋外が作った照り焼きソースを使ったバーガーとバーガーを作るときに余ったチーズを薄く切って鉄板でカリカリに焼いたもの。
クガキは依頼の説明を聞きに行った時に嫌な予感がしたのでお握りを様々な具を入れて握ってきていた。
正太郎は手軽にできるように作られた麺類とパン、ユキヤは紅茶を淹れてお菓子のお供に一花添える。
ケイは季節の野菜を使ったキッシュとデザートには苺の季節だからと苺のタルトを作ったため食事会は鮮やかで彩り豊かな豪勢なものとなった。
ルカが作ったダークマター的な何かに晴香がラクレットをかけて「これ、チーズ系の物をかける料理じゃないんだけど」と本人にしか分からない違いを理由に軽く苦情を申し立てれば。
「きっとチーズならダークマターですら優しく包み込んでくれるって。大丈夫大丈夫」
そんな風に軽やかに返して他の人たちの料理で出た食材の残りにもラクレットをかけていく晴香。
「ダークマターって失礼な。これでもれっきとした食べ物だよ。……君、食欲旺盛だね。若い子はたくさん食べないとね。そうだ、これも食べてみるかい?」
これも本人以外は否定するに違いない『料理だ』という主張のもとルカが小さい体で大食いのレティシアに白羽の矢を立てる。
「いや、ごめん、僕なんでも食べる方なんだけど……これは無理」
引きつった顔でレティシアと残念そうなルカの様子に一同から笑いが起こる。
「この料理の良さを分かってくれる人と巡り合ってみたいものだなぁ……」
「いや、どうみても料理じゃないっていうかむしろ毒物っていうか汚染物質っていうか」
かつて雑魔が怯んだほどの刺激物であるからその表現の方が料理よりは正しいことは確か。わかっていないのは常用食としている本人ばかりといったところだろう。
果たして原形をとどめる程度には雑魔となっていた時間が短い動物の肉が時折引き起こす状態異常とどちらがマシなのか。
……調理法によっては珍味として美味しく頂ける分、雑魔の肉の方に軍配が上がりそうである。
昼食会兼お茶会を楽しみながら一同は交流を深め、後片付けをしたあと残っていた細々とした掃除をして解散。
すべてが終わった後、皆が帰ってからも一人残っていたケイはリアルブルーの物だったが讃美歌を誰もいない教会の大聖堂で一人歌った。
新しい命を吹き込むイメージを頭に描き、ステンドグラスに照らされながら。
(ケイさんの声は、凄く透明……何処までも何処までも続く、空のような音色……ですね)
帰り際にそれを耳にしたユキヤは不思議な縁を感じるケイときっとまた会えるだろう、と理由もなく確信めいた思いを抱いてその場を後にしたのだった。
朽ち果てかけた教会は、新たな息吹を吹き込まれてそこにたたずみ、新たな信徒たちの訪れを待つのだった。
今は別の世界の讃美歌に包まれているが、近いうちにこの世界での讃美歌が大聖堂で歌われることになるだろう。
荒れ果てた資料館の掃除の手伝いを皮切りに、ゴミだらけの観光名所的な公園の掃除が続き、今回は信徒がいなくなって廃墟同然になった教会の掃除の依頼がハンターオフィスに舞い込んできた。
ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は折角だから動きやすい作業着を、と掃除向きの格好をしてきたが彼女の持つ華やかな雰囲気は作業着を着ても尚健在のようだ。
現地集合で顔を合わせた今回の参加者の中にユキヤ・S・ディールス(ka0382)の姿を認めてケイの表情がパッと輝く。
「……あら。ユキヤ! また会ったわね」
微笑を浮かべながら挨拶をすればユキヤの方もケイに気づいて穏やかに笑って挨拶を返してくれる。
「あ、ケイさんもいらっしゃったのですね。ふふ、こんなところでも出会えるのは、やはり運命でしょうか」
教会には何故か心惹かれるユキヤは普段も廃墟に近い教会によくいくのだそうだ。
特にステンドグラスから差す、空の色が様々な色彩を帯びていて好きなのだと語る。
何故かお互いに不思議な縁を感じる二人は何処を掃除しようかと考えていた場所も同じで、せっかくだからと一緒に掃除をすることに。
ケイとユキヤが掃除場所に選んだのは信徒が集まって使う場所も大事だけれど、シスターたちが使う場所も重要、ということで炊事場と入口。
どちらも綺麗にしておいて損はないし、炊事場が綺麗になるならそこでお昼や休憩の差し入れを作ることもできるだろうという算段だ。
この依頼を持ち掛けたギルドの斡旋者、ルカ・シュバルツエンド(kz0073)曰く以前はシスターの食事の他に炊き出しにも使われていたそうで炊事場は中々に広い。そして予想以上に汚れている。
「これは……やりがいがありそうね」
「頑張りましょうね、ケイさん」
「そうね。入口の方まで手が回るといいのだけれど……入口が綺麗なら、これから信徒の皆さんが来るときに気持ちいい気分で来られるもの」
教会は好きか、とユキヤに問われケイはしばらく考えると荘厳さと静謐さが独特で、自分が綺麗になっていく感覚が好きだと答えた。
もっとも、今回に限っては綺麗にするのは自分の内面ではなく、まず教会の方なのだったが。
「ケイさんの綺麗な手が荒れそうで、なんだかもったいない気もしますね」
埃や蜘蛛の巣を払い、拭き掃除をしながらユキヤが心配そうにケイの手に目をやる。
「何か祈るなら、何を祈るのでしょうか……。ケイさんは、たくさんの綺麗なモノを持ってらっしゃるから、祈りはないかも、ですね」
微笑して言葉を続けたユキヤにケイは緩く首を振って否定の意を示す。
「どこまでもあたしの歌が届きますように……かしら?
エゴかもしれない。でも。誰かの心の支えになれれば、と思うの」
青の世界ではプロ顔負けの歌姫として生きてきたケイの言葉にユキヤは柔らかく笑って、素敵な祈りだと思います、と答えた。
大聖堂で十字架などに煤除けの布をかぶせた後、高いところから順番に煤落としを行っていくシリル・ド・ラ・ガルソニエール(ka3820)は聖導士だから荒れた教会を清める依頼に遭遇するのも導きだろうか、と思いながら黙々と掃除を続ける。
一番高いところが終わった後はステンドグラスの周辺を先に行って、ステンドグラスを磨く組の仕事がしやすいようにと気配りを見せるが基本的には無言。
話しかけられても最低限の返事のみだが掃除を行う手つきは丁寧そのものなシリルだった。
雪ノ下正太郎(ka0539)と屋外(ka3530)は協力して外の壁の掃除を担当。
使わなくなった毛布をナイフで切り出して大量の雑巾を作り、ルカへはデッキブラシとバケツ、高い梯子、掃除用水の調達を頼んでいざ勝負。
屋根から降ろしたロープを使って壁を昇りながらバケツに入れた水とデッキブラシで外壁を磨く屋外。
彼に要請を受けた正太郎が適宜屋根から浮いた汚れを落とす水を流し、外壁が一通り綺麗さを取り戻したら次はステンドグラスを拭く作業。
屋外は梯子の設置移動を担当し、倒れないように根元をしっかり押さえ、正太郎がライトでレティシア・キノーレル(ka4440)が拭くステンドグラスに光を当てて汚れている部分が良く分かるように。
想像以上の汚れ具合に何故か笑いがこみあげてくるレティシアだったがそれはひょっとしてランナーズハイのような心境に陥ったせいなのだろうか。
原因不明の乾いた笑いを顔に貼りつけながら、保護者に勝手に申し込まれた依頼でもきちんとこなす。
身軽なので高いところも平気なレティシアが梯子や脚立、掃除用具を駆使して、屋外と正太郎の協力も得ててきぱき掃除。
「ありがとうございますー。助かっちゃいましたっ」
ステンドグラスを磨きながら地上にいる二人に声をかければお安い御用、と応えが返ってくる。
全てのステンドグラスを磨き終え、離れて眺めてみると汚れが落ちた分輝きを増して美しい眺めがあった。
「ステンドグラスの輝きが増しましたね! 光が入ると神々しい」
レティシアはその後ピアノの拭き掃除も担当し、試しにいくつか音を鳴らしてみて。
「……調律が必要ですよって後で神父さまに伝えないと駄目そうだなぁ。あとで弾きに来てもいいかな。
なにか壊れたものはない? 僕、少しなら機械修理できるから直せそうなら受け持つよ」
教会内部を掃除していた面子にそう声をかけて回って、直せるものは邪魔にならない場所に移動して直していく。
「寂れてんのも乙……だと思うんだがねぇ。使うってなら話は別か」
身軽に動き回るレティシアを視界に収めながら西空 晴香(ka4087)はマスクと掃除用エプロン着用で床掃除を担当。
フローリング部分はモップを、石の床などは箒で掃いて。
濡らしたモップで奥から手前の順に拭いたあとは乾拭きを同じ手順で。ワックスが剥げていたのでワックスがけも行って作業をしているメンバーに乾くまで入らないよう注意する。
石床は隅を掃く際に汚れを掻き出すように箒を動かす。
此方にも巣を張っていた蜘蛛の巣は床掃除をする前に取り除き、黒光りする嫌われ者の虫は率先して潰して。
「クラエ」
なるべく女性陣に見せないように処理はしてます、はい。それにしてもイイ笑顔である。
ユーリィ・リッチウェイ(ka3557)はワンピースでは掃除に不向きだろう、と現場についてから作業用のつなぎに着替え、髪もポニーテールにして動きやすい格好になるとどこを掃除しようかと考え込む。
「んー……皆、役割分担がちゃんとできてるし……ボクは背が低いからあんまり高所のお掃除は向いてないし……。
そうだ! じゃあ教会周りの雑草処理や木の剪定をしようかな♪」
やはり教会なのだから信徒やその他の人が「また来たい」と思える場所にしたいし、雑草だらけの教会ではその気持ちが目減りしてしまうだろう。
枯葉を集め、表面上のゴミを取って、木を綺麗な形に剪定……する前に。
「ちゃんとお祈りしてからじゃないとね。これから綺麗にさせて頂きます、って」
祈りを捧げた後は伸び放題だった木の枝を綺麗に剪定、落とした枝で燃料として使えそうなものは乾かす場所を作って一纏めに。
その後は草刈りを始めたユーリィだが、随分長い間放置されていた弊害でほとんどが雑草というありさま。
雑草でも綺麗な花の咲く物はわざと残して、花壇があったので花を植えてみることに。
「一年通して、明るい雰囲気といい匂いがすれば気持ちいいもんね」
クガキ(ka3516)は教会を構成する部屋の一つを担当することにして、普段あまり来ないから、と物珍しげに教会を見渡す。
「あまり教会に来たことはないのですが、なかなか雰囲気のあるところですね……何か出てきそうです」
ふと怪談話を思い出してしまってそんなセリフが口を突く。
「生憎私はここの信者ではありませんが、信仰の場が荒れているとは悲しいものです。是非お手伝いさせて頂きます」
見えない神に宣言するように呟くとさっそく掃除開始。
家事スキルを活用して掃除するが、初めは落ちているものや壊れているものを確認するところから。
壊れているもので今後使えそうなものは多少は修理ができるというレティシアに修理を頼み、目利きスキルで宗教的に大事なものなもちろん、そうでなくとも金銭的に価値のある物も残しておいて後で依頼主に渡す算段だ。
「悲しいですが運営は信仰心だけでは賄えませんからね」
苦笑しながら大きなゴミは拾って床掃除担当の晴香に後を任せる。
クガキ自身はその後は屋内の壁掃除を担当することに。
借りた掃除用具と鋭敏視覚スキルを使って汚れが目立つところを重点的に掃除していくのだった。
「……やはり顧みられなくなった場所は教会と言っても荒れ果ててしまうのですね。わたしがこの依頼と巡り合ったのも主の御導きかもしれません。真剣に取り組むとしましょう」
敬虔な信者である事から、熱心に大掃除に取り組むHollow(ka4450)は特に神像や十字架については埃一つ残さぬよう丹念に磨き上げていた。
神像に汚れなどがついていては主をはじめとする精霊たちの尊厳を穢すことになり、すこしでも往時の姿を取り戻さなくてはいけない、というのがその理由だ。
「……いずれ、この教会が信仰の場となった時、その復興の手助けをした信者が確かにいた、そんな逸話でも後世に残せたならば、望外の誉ですね」
せっせと神像を丁寧な手つきで磨きながらそんな独り言を漏らす。
直接的に進行に関わらない部分については他の人に任せ、Hollow自身は後回しにしていた。
「……本来ならばここもキレイにしたいところですが……依頼とは別に機会を設けてお手伝いに参りますので今回はご寛恕を」
そうしてハンターたちがチームワークと単独プレイを生かしながら掃除を続けた結果、見違えるように綺麗になった教会。
昼食をとるのを後回しにしたため、午後のお茶と一緒にみんなで昼食を取ろうということになりケイとユキヤが綺麗にした炊事場で料理の出来るメンバーが料理を担当することに。
「……オフィスの方の手を煩わせるのは流石に気が引けます。わたし自身は簡単な物しか作れませんが、わたしたちの方で何とかしますので、ルカ殿はどうぞ本来の任務にお戻りください」
Hollowがそういってダークマターを作り始めていたルカを止める。
気が引けるのもあっただろうが匂いも味も強烈なダークマターを一緒の場所で作られると折角の料理が台無しになるという一面もあるため正しい判断だったと言えるだろう。
Hollowが作ったのは黒パンに干し肉、野菜や肉の切れ端主体のスープという清貧を形にしたと表現できそうな料理。
他にもレティシアが作ったハムとチーズのサンドウィッチ、珈琲とお気に入りの店で買ったチョコレート。
ユーリィ手製のマカロンやクッキー。水筒に入れて持ってきた紅茶。
屋外が作った照り焼きソースを使ったバーガーとバーガーを作るときに余ったチーズを薄く切って鉄板でカリカリに焼いたもの。
クガキは依頼の説明を聞きに行った時に嫌な予感がしたのでお握りを様々な具を入れて握ってきていた。
正太郎は手軽にできるように作られた麺類とパン、ユキヤは紅茶を淹れてお菓子のお供に一花添える。
ケイは季節の野菜を使ったキッシュとデザートには苺の季節だからと苺のタルトを作ったため食事会は鮮やかで彩り豊かな豪勢なものとなった。
ルカが作ったダークマター的な何かに晴香がラクレットをかけて「これ、チーズ系の物をかける料理じゃないんだけど」と本人にしか分からない違いを理由に軽く苦情を申し立てれば。
「きっとチーズならダークマターですら優しく包み込んでくれるって。大丈夫大丈夫」
そんな風に軽やかに返して他の人たちの料理で出た食材の残りにもラクレットをかけていく晴香。
「ダークマターって失礼な。これでもれっきとした食べ物だよ。……君、食欲旺盛だね。若い子はたくさん食べないとね。そうだ、これも食べてみるかい?」
これも本人以外は否定するに違いない『料理だ』という主張のもとルカが小さい体で大食いのレティシアに白羽の矢を立てる。
「いや、ごめん、僕なんでも食べる方なんだけど……これは無理」
引きつった顔でレティシアと残念そうなルカの様子に一同から笑いが起こる。
「この料理の良さを分かってくれる人と巡り合ってみたいものだなぁ……」
「いや、どうみても料理じゃないっていうかむしろ毒物っていうか汚染物質っていうか」
かつて雑魔が怯んだほどの刺激物であるからその表現の方が料理よりは正しいことは確か。わかっていないのは常用食としている本人ばかりといったところだろう。
果たして原形をとどめる程度には雑魔となっていた時間が短い動物の肉が時折引き起こす状態異常とどちらがマシなのか。
……調理法によっては珍味として美味しく頂ける分、雑魔の肉の方に軍配が上がりそうである。
昼食会兼お茶会を楽しみながら一同は交流を深め、後片付けをしたあと残っていた細々とした掃除をして解散。
すべてが終わった後、皆が帰ってからも一人残っていたケイはリアルブルーの物だったが讃美歌を誰もいない教会の大聖堂で一人歌った。
新しい命を吹き込むイメージを頭に描き、ステンドグラスに照らされながら。
(ケイさんの声は、凄く透明……何処までも何処までも続く、空のような音色……ですね)
帰り際にそれを耳にしたユキヤは不思議な縁を感じるケイときっとまた会えるだろう、と理由もなく確信めいた思いを抱いてその場を後にしたのだった。
朽ち果てかけた教会は、新たな息吹を吹き込まれてそこにたたずみ、新たな信徒たちの訪れを待つのだった。
今は別の世界の讃美歌に包まれているが、近いうちにこの世界での讃美歌が大聖堂で歌われることになるだろう。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 4人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/26 13:10:39 |
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教会-お掃除し隊-(相談卓) 屋外(ka3530) 人間(リアルブルー)|25才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/03/27 22:31:03 |