ゲスト
(ka0000)
【偽夜】偶像の79
マスター:cr

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/12 19:00
- 完成日
- 2015/04/20 10:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ここは極彩色の街、ヴァリオス。普段から賑やかなこの街は、ここ数日異様な熱気に包まれていた。
いや、ヴァリオスだけでない。このクリムゾンウェスト全体がそうであった。
それもこれも理由はただ一つ。もうすぐこのヴァリオスが誇るベルカント大劇場でコンサートが開かれるのだ。
それもただのコンサートではない。出演者、それがポイントであった。
今回のコンサートの出演者、それは今をときめく超クリムゾンウェスト級アイドル、ナナ・ナインだったのだ!
●
ナナ・ナインのヒストリーについてはファンの間では有名だ。元々彼女は旅芸人の一座に生まれ、生まれた直後から舞台に立ちお客さんを楽しませてきた。
そんな彼女の天性の才能に目をつけた者が彼女をプロデュースしたのだ。
さらに運も彼女の味方をした。ちょうどその時発生したのがサルヴァトーレ・ロッソの転移、及びそれに伴うリアルブルー経由の技術の流入が彼女を押し上げた。
その結果がこれである。文字通り、彼女は一夜の上にスーパーアイドルの階段を駆け上がったのだった。
●
ヴァリオス、いや自由都市同盟、いやいやクリムゾンウェストでも最も規模の大きな劇場であるベルカント大劇場ですら、今の彼女の人気には釣り合わない。当然そのチケットは超がいくつも付くほどのプレミアムチケットとなった。それでもどうしても一目彼女のことを見たいと思った者の中には、チケットと家を交換したものまで居たらしい。チケットを持たない者の中にもせめてこの雰囲気を味わいたい、同じ空気を吸いたいとヴァリオスにやって来た者も多い。
そんな中、君たちは運良くこの会場に入る権利を得た者達だ。コンサートが始まるまであと少し。今日は普段の生活を忘れて、存分にライブを楽しんで欲しい。
ここは極彩色の街、ヴァリオス。普段から賑やかなこの街は、ここ数日異様な熱気に包まれていた。
いや、ヴァリオスだけでない。このクリムゾンウェスト全体がそうであった。
それもこれも理由はただ一つ。もうすぐこのヴァリオスが誇るベルカント大劇場でコンサートが開かれるのだ。
それもただのコンサートではない。出演者、それがポイントであった。
今回のコンサートの出演者、それは今をときめく超クリムゾンウェスト級アイドル、ナナ・ナインだったのだ!
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ナナ・ナインのヒストリーについてはファンの間では有名だ。元々彼女は旅芸人の一座に生まれ、生まれた直後から舞台に立ちお客さんを楽しませてきた。
そんな彼女の天性の才能に目をつけた者が彼女をプロデュースしたのだ。
さらに運も彼女の味方をした。ちょうどその時発生したのがサルヴァトーレ・ロッソの転移、及びそれに伴うリアルブルー経由の技術の流入が彼女を押し上げた。
その結果がこれである。文字通り、彼女は一夜の上にスーパーアイドルの階段を駆け上がったのだった。
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ヴァリオス、いや自由都市同盟、いやいやクリムゾンウェストでも最も規模の大きな劇場であるベルカント大劇場ですら、今の彼女の人気には釣り合わない。当然そのチケットは超がいくつも付くほどのプレミアムチケットとなった。それでもどうしても一目彼女のことを見たいと思った者の中には、チケットと家を交換したものまで居たらしい。チケットを持たない者の中にもせめてこの雰囲気を味わいたい、同じ空気を吸いたいとヴァリオスにやって来た者も多い。
そんな中、君たちは運良くこの会場に入る権利を得た者達だ。コンサートが始まるまであと少し。今日は普段の生活を忘れて、存分にライブを楽しんで欲しい。
リプレイ本文
●
いよいよ多くの人々が待ち望んだ、ナナ・ナインのコンサート当日がやって来た。自由都市同盟の中心として数々の店舗により賑わいを見せるこの街も、この日だけはどこを向いてもナナ・ナイン一色だった。
そんな中、一人だけこの喧騒とは無縁の人間が居た。メリーベル(ka4352)である。普段は歓声に包まれるベルカント大劇場も、人が居ない現在は実に静かなものだ。その中で彼女は機材の最終チェックを行っていた。
彼女の職業は音響担当者、俗に言うPAだ。正直言えば、ナナの音楽は彼女の好みではない。彼女はただプロとして、自分の領分を全うしようとしていた。Public Address、つまり人々にナナの音が伝わるかは彼女の両肩に架かっていた。
「お茶をどうぞ」
一方、控室の方は関係者でごった返していた。そんな中忙しく動きまわり、客人にお茶を出している少女が居た。彼女の名前はメトロノーム・ソングライト(ka1267)。彼女はナナの付き人を務めている。
そしてお茶を受け取った女性は、軽く会釈をしてから一口含み、目の前に座るナナに質問を投げかけた。
「早速ですけど一つ……ベルカント大劇場で一人コンサートを開ける歌手は片手で数えられるほどですけど、そんな一人になったお気持ち、人気アイドルとなった自分についてどう思われます?」
尋ねたのは、ジオラ・L・スパーダ(ka2635)。彼女はヴァリオス・スタイルという音楽雑誌の記者である。そのため、コンサートの前と後に取材の時間を貰っていた。
そんなジオラの様子を見つつ、メトロノームは内心冷や冷やしていた。気さくに話し掛けながらも、いつか自分の記事で世界に出ようと野望を滲ませたジオラ、そんな彼女と相対するとナナがどういう反応をするのか、付き人としてナナと四六時中一緒に居るメトロノームには、わかっていた。
一方ナナの後ろでは、黒いスーツを着込みサングラスを掛けた女が剣呑な雰囲気を漂わせていた。腰には刀を差し、殺気をムンムンに漂わせいつでも抜ける体勢になっているのは、星輝 Amhran(ka0724)。ナナほどの人気者になると、何を考えているのかわからないが不埒な事を働こうとするものも現れる。キララはそのような者に対するボディガードを務めている。そして彼女のサングラスの奥の瞳はジオラを見つめていた。
しかしキララがマークしていたのはジオラではない。ジオラの隣に座っていた城戸 慶一郎(ka3633)だ。城戸はジオラの後輩記者である。後輩らしく、ジオラの質問に対しせわしなくペンを動かしメモを取っている。が、キララには分かる。この男、恐らくナナの大ファンだ。表さずとも、その出す雰囲気を見れば分かる。もしかしたら記者というのは騙りで、ただナナに少しでも近づきたいがためにこうやって潜り込んだのではなかろうか。キララはもしものときはいつでも斬れるように、腰に手をやっていた。
そんな緊張感が張り詰めていることにも構わず、ナナはいつもの様にアゴに指を当て、小首を傾げて考え、そしてこう答えた。
「ナナ、よくわかんないけど、ナナの歌でみんなが元気になってくれるのならとっても嬉しいな☆」
「ありがとうございます……で、お前は何をやっているんだ」
ジオラがそう問いかけた城戸は、ナナの言葉を全肯定すべくコクコクと凄い勢いで頷いていた。
「ぐへへ~~、美味しいものいっぱいですね~~」
そんな時、部屋の片隅でミネット・ベアール(ka3282)がヨダレを垂らしていた。彼女の前には山盛りに積み上げられた各種食べ物、これはファンからの贈り物、差し入れである。
プレゼントの食べ物が一杯。
↓
しかし体型維持の為に全てを食べれない。
↓
でも全てのファンに感謝を示し、好意を粗末にしてはならない。
↓
だから食べられない分を感謝を込めて食べる処理係が必要。
という理屈により、ほぼ押しかけで処理係に就任したミネット。
「このクッキーも絶品ですね! アールグレイの香り……リアルブルーの紅茶って高いんじゃないですか?」
と早速今日もプレゼントを口に入れながら、そう感想を漏らしつつ食べた感想のメモを取っていた。
控室の方がそんな喧騒に包まれている頃、劇場内も騒がしくなってきた。とうとう開場され、どんどんと観客たちが入ってくる。
「まさかナナちゃんのコンサートチケットが手に入るなんて……やった、やったわ!」
その幸運な観客の一人が、ノイ・ヴァンダーファルケ(ka4548)である。彼女のようにこのコンサートに来たいと思ったものは、どう少なく見積もっても万の単位でいる。そんな中から運良く生で見ることのできる一人になったのだ。これで冷静でいられるはずがない。普段は気取っている彼女だが、今日ばかりは素にもどりはっちゃけている。
「日頃歪虚退治とかに精を出してたし、神様からのご褒美かしらね。今日は思いっっっきり楽しむわ!」
そう幸運に感謝しつつ、もうすぐ始まるコンサートに思いを巡らせていた。
「プラチナチケットを偶然手に入れたからきたものの、ライブとはどんな感じなのかのぅ? わくわくするのじゃ」
どんなにファンでも中に入れない者がいる一方、よくわからなくても幸運に恵まれてここに入る機会を得たものもいる。ヴィルマ・ネーベル(ka2549)もそんな一人だった。彼女はナナのコンサートが初めてどころか、そもそもコンサートに来たことが無い。とりあえずどうすればいいかを周りに相談した結果、サイリウムとタオルを一本づつ手に入場してきた。するとそこに広がっていたのは、だだっ広いベルカント大劇場と、そんな劇場を埋め尽くす人、人、人。
とりあえず自分の席を探し出し、座ったヴィルマだったが、こうやって座るといったいどんなコンサートが始まるのかドキドキしてくる。落ち着かない自分の心を落ち着けるため、周りの席の人々に話しかけることにした。
「す、凄い人ですね……私、浮いてませんかね?」
と隣であわあわしていたのはアキホ・リリンジュリー(ka4603)。ヴィルマが話しかけたのだが、初めてのコンサートにドキドキしているヴィルマと世間に出て初めて大きなイベントに出くわしてあわあわしているアキホでは、ずっとふたりでわたわたしているのが関の山だ。
「え、えっとどうすればいいんですかね?」
「お、落ち着くのじゃ」
などとトンチンカンな会話を繰り広げている二人の隣に、マントを羽織りフードで顔を隠した人間が座る。思わずドキリとする二人だったが、ヴィルマは勇気を持って話しかけようとする。だがヴィルマはそのフードの中の顔を覗いてパニックになっていた。
なぜなら彼女、アイビス・グラス(ka2477)は先日大怪我をしており、全身に包帯が巻かれた状態、こうやってマントを羽織っているのもその姿を見られて無用な気遣いを産まないためであった。
ふるふると震える二人を尻目に、アイビスは、
(療養中だけどそのおかげかナナさんのコンサートに行けるから運が良かったかも)
と思っていた。
「アイドルコンサート、ねえ。どんなものかしら。ちょっと覗いてみましょうか」
そんな騒動が起こっていたことなども知る由もないフェリア(ka2870)は、気軽な気持ちで客席に座っていた。彼女は帝国の名家に連なる人間であり、一般人にとってはプレミアムチケットでも、彼女にとっては自分のバルコニー席に入るだけで終わる。今日も今日とてどんなものかと値踏みするように入ってきた彼女は、下に見える観客席の様子に
「すごい熱気……コンサートって歌を聞くもの、なのよね?」
と驚きつつ、音楽は静かに聞くほうが好きなのだけど、と独り言ちた。
「……たのしみだ、な」
一方、その隣のバルコニーには、ひときわ大きな男が入ってきた。続けてもう一人、ド派手な赤い服に身を包んだ男が入ってくる。バルコニー席に来るのはフェリアのように席を所有している者か、この二人、オウカ・レンヴォルト(ka0301)と天ヶ瀬 焔騎(ka4251)のように関係者席として割り当てられた者かのどちらかだ。彼らは今回のコンサートに出演する者の友人である。友人の応援としてやって来た二人だが、彼らがバルコニーに来ると否が応でも目立つ。そもそもバルコニー席は見られる席でもあるのだ。その様子を見た観客たちが、ざわざわとし始めていた。
そして観客席最前列、ここにはナナファンの中でも一際濃い者達が集まっていた。
(私、あくまで純粋にその歌唱力のファンなのですけど……)
そんな中、ミオレスカ(ka3496)は一人とんでもない所に放り込まれたと思っていた。断っておくとミオはれっきとした、いや、かなり熱量の高いナナファンである。だが、周りがあまりに濃すぎた。特に隣が濃すぎる。
「ナナちゃんファンクラブ隊長、フェリル・L・サルバ。推して参る! うおおおーっ! よっしゃお前ら行くぞー!」
と、隣でフェリル・L・サルバ(ka4516)が巨大なサイリウムを振り回していた。最前列にはナナ親衛隊というべき者達が固まっていたのだ。
「その神ボイスを鼓膜に永久保存だー! うおおおおーっ!」
と振り回すサイリウムをよく見ると、それは剣。いわゆる妖剣の類である。それが発するオーラを光らせ、サイリウムとしていたのだ。
しかしこれは危険である。すかさずキララが手裏剣を投げて動きを止め(当ててはいませんあしからず)、空気投げで倒してから首筋に振動刀を突きつけて没収。そのままゴミ箱に放り込んで封印である。
フェリルはそれにもめげず普通のサイリウムを両手に爪のように挟み込み、ぶんぶんと振り回していたのだった。
●
そんなことをしている間に、会場の照明は落とされていた。そして聴くだけで元気になるような音楽が流れ始める。いよいよコンサートの開幕だ。
だが観客席の盛り上がりは半分といった所だった。それもそのはず、まだ本番では無かったからだ。
「あこがれのナナ姉様と一緒の舞台に立てるなんて、ファリス、嬉しいの! 姉様に恥ずかしくない舞台を務めるの」
舞台袖にはナナの姿は見えず、代わりにピンク色の可愛らしい衣装に身を包んだファリス(ka2853)が居た。今から始まるのはナナのコンサートではなく、その前座。『79シスターズ』というナナの妹分という触れ込みで結成されたグループによるコンサートなのである。
「私、ナナちゃん……いえ、ナナ姉さまみたいなあいどるさんになりたいんですっ」
そしてその隣で目をキラキラと輝かせているのは、Uisca Amhran(ka0754)だ。彼女もナナに憧れてナナの妹分募集との案内に一も二もなく飛びついたのだ。彼女の心のなかは、今やナナのような皆から好かれるアイドル、いやあいどるになりたいという気持ちで埋め尽くされていた。
一方、クールに佇んているのはイーディス・ノースハイド(ka2106)だ。彼女は元王国騎士団員という異色の経歴の持ち主である。そんな彼女が騎士の座を投げ打ってアイドルに転身したのだ。一見クールに見えるスカイブルーの衣装を着ているが、彼女の心のなかは赤い炎より熱い青い炎の様に燃えていた。
「いいですか? 私達はあくまで前座なんですよ。私達の仕事はナナさんのステージに向かって客席を盛り上げること。わかってますね」
そんな三人をまとめるべく、シスターズのリーダーであるリリティア・オルベール(ka3054)が動く。普段は明るくのんびりした性格の彼女だが、いざ本番となれば手品師の祖母に付いてステージに上った経験がある分他のメンバーより舞台というものを理解している。自分たちに求められた仕事はきっちりとこなしたい、そう思う心が彼女にこうさせていた。
そんなリリティアの声に反応して、三人が手を出す。リリティアが手を重ねて声を出し、そしてステージに飛び出していった。
「みんな~! 今日はナナ姉様のコンサートにようこそ、なの! ナナ姉様の出番まで、シスターズの舞台を楽しんで欲しいの!」
真っ先にステージに飛び出していったのはファリスだ。メンバー最年少としてあふれる元気とあふれる可愛らしさをアピールしつつ、舞台を上に下に走り回る。
そこにイスカとイーディスのツインボーカルが乗る。イスカの声は可愛らしく、甘く透き通った歌声、その声は彼女が憧れるナナと同じく、天性のアイドルのものと言えた。
一方、イーディスの声はややハスキー。アイドルにはあまり合わない声質だが、高音のイスカと組み合わさると美しいハーモニーとなる。衣装にも元騎士であることを示すかのように、紋章が施され剣のアイコンがあしらわれている。
そして二人のボーカルに合わせてメンバー達が踊る。79人いるシスターズだが、この舞台に立っているのはそこから選抜された僅かな数。だからこそここに立つ皆が一騎当千とも言うべきスキルを持っている。特に、リリティアはリーダーらしく他メンバーをフォローしつつ踊る。くるりと一回転し、ふわりとスカートが舞い上がる。紫がかった青色の衣装が落ちると、一瞬の内に東方の影響を受けた赤と黒の衣装に変わっていた。気付けば、他メンバーも彼女と同じ衣装に変わっている。ステージ上での早変わり、これは手品の才を持つリリティアのとっておきのマジックだった。
「この後はいよいよナナ姉さまのステージです! みんな、もっと盛り上がってくださいね」
リリティアのかけた魔法も、いつか解ける時が来る。今日の主役は彼女達ではない。時間が来れば引かなければならない。
「中々頑張ってますね」
とは、ミオの評価。
「シスターズも、まぁまぁ頑張ってるわよね……」
とノイが思ったように、このステージでほんの少しでも彼女達のファンが増えたのだろう。いつかナナの様なアイドルを夢見て、彼女達は踊り続ける。
●
いよいよナナの出番、その直前の舞台袖ではナナでは無い者達が円陣を組んでいた。
「風の妖精の名前、それがシルフィードです。風と共に舞うように、可憐に踊ってくれるでしょう」
その中で一人背の高い男が居た。彼の名は音桐 奏(ka2951)である。
ナナがスーパーアイドルと成って以降、クリムゾンウェストには第二のナナを目指し多くのアイドルが現れた。彼もそのようなアイドルのプロデューサーの一人である。
そしてその前で二人、音桐の話を聞いているのがシルフィードのメンバー、シェリル・マイヤーズ(ka0509)とヒヨス・アマミヤ(ka1403)である。
駆け出しアイドルの二人の立つ舞台を音桐が東奔西走して探した結果、なんとこのナナのステージのバックダンサーとして上がることができることになった。
だが、その代償は大きかった。シェリルが着ているのは猫の着ぐるみ、そしてヒヨが着ているのは犬の着ぐるみ。顔も見せられない姿でのステージ。それでも音桐は構わないと思っていた。二人の内に秘めたモノ。それを見てしまったのだ。ならばもう正気ではいられない。あとは彼女達を信じ、ステージに送り出すのみ。
そこにフラフラとした足取りで十色 エニア(ka0370)がやって来た。ナナの大ファンであるエニアはなんとか会場に潜り込もうとし、楽屋側に来てしまっていた。
だが、その姿を見て音桐はティンと来たのか、とんでも無いことを言い放った。
「今日からシルフィードは3人です。あなたも出来るはずです」
そうエニアの肩を掴んで言い放つ。結果、エニアは3人目のメンバーとしてバックダンサーになることになった。
そこであわててうさぎの着ぐるみを着るエニア。突如として叶ったナナのすこしでも近くに行くという願いに夢見心地だ。
だが、これは現実だ。ライブの始まりを告げる音楽が流れ始め、止まらないショーが始まった。
●
「うおおおーっ! よっしゃ行くぞー!」
音が流れると同時に会場中に響き渡る声を上げたのはフェリルだ。彼の長く伸ばした声が合図となり、最前列に待機していたナナ親衛隊が声を合わせる。
\ナナ! ナナ! ナナ! ナナ! ナナ! ナナ! ナーナー!/
これが親衛隊がライブ開始時に息を合わせるために行うナナMIXである。
そしてその声が誘うように会場が一瞬暗転、七色の光によりステージが照らされ、目まぐるしく変わる光の渦の中心から今日の主役が登場する。
その時、火薬に火がついたように客席の空気が爆発した。その観客の思いをさらに盛り上げるべく、レーザー光線が放たれステージのナナに当たる。
「うまくいきましたね」
屋外(ka3530)は客席の一番奥で、その様子を一人眺めていた。この演出を仕掛けたのは彼だ。ロッソと掛けあって借りてきた装置を用い、今リアルブルーでできる最高の演出を施す。それもこれも、ナナならこの演出に答えてくれるという確信があるからできることだ。屋外は一観客として自分の演出で始まったライブを楽しんでいた。
アッパーなチューンが火の着いた観客たちの心を縦に弾ませる。可愛らしく印象的な振りでナナが踊り始めると、ノイはピョンピョンと飛び跳ねながら振りをコピーしていた。
そしていよいよナナの歌声が流れ始める。
キミからもらった大切なもの \ナナちゃーん!/
ナナの弾むような歌声に合わせ、親衛隊のみならず会場中がナナに向けてコールを打つ。巻き込まれた形のミオも何故かバッチリ声を合わせていた。
いつまでも僕の胸の中に 「超絶カワイイ!」 \ナナちゃーん!/
フェリルが激しくサイリウムを振りながら歌詞に食い気味にコールを被せ、それに合わせて会場が一体となってナナの名前を叫ぶ。
その頃、モニター室に詰めていたメリーベルは祈るような気持ちで、画面に映るナナの姿を見つめていた。いつもみたいに音を楽しめているのだろうか。つまらないトラブルに巻き込まれ、哀しそうに歌う彼女の姿は見たくない。何も起こらない事を一人、彼女は祈っていた。
一方アキホは客席で周囲の余りの活気に戸惑っていた。そしてその隣ではヴィルマがあまりの熱気にたじろいでいた。場違いな場所に着てしまったのではないか。不安な気持ちが心に広がる。
だが、曲のリズムが、ナナの歌声が二人の心を跳ねさせていく。不安な気持ちはいつの間にかどこかに飛んでいっていた。
「これだけの者たちが集まるのも頷けるのぅ、ファンに愛されているというのはまさにこういうことなのじゃな」
「アイドルってこんなにたくさんの人を元気に出来るんですね、とても凄いです!」
アイドルは不安な気持ち、つらい気持ちを吹き飛ばしてくれる。その感謝の意を込めて観客たちは盛り上がる。ナナはその気持ちを受け止め、最高のパフォーマンスを返してくれる。ナナというアイドルを理解した二人は少し遅れながら、盛り上がり感情を爆発させていた。
対して舞台袖では、メトロノームが憧れの視線をナナに向けて送っていた。付き人とアイドルの関係であるが、あこがれの対象でもある。
「……いつかわたしも」
そう心に秘めて、彼女は特等席からナナを見つめていた。
楽しい時間は過ぎていくのが早い。一曲目があっという間に流れ終える。曲が終わると観客たちは思い思いにナナの名前を叫ぶ。だが、
「正直こんなものなのかしら。未完成な音楽ね」
フェリアは一人、遠慮忌憚無い意見を述べていた。
「次の曲、楽しいの行っくよー☆」
ナナの合図と共に、どことなくおかしくて、底抜けに明るいナンバーが流れ始める。そしてその音と共にステージに三つの着ぐるみが飛び出してきた。ナナとシルフィードによるステージの始まりだ。
(とりあえず楽しもう! 79さんよりも楽しもう! わんっ!)
犬の着ぐるみの中、ヒヨは一人決意を固めていた。そして弾けるようにジャンプ。着地と同時にパンチ、キック、パンチ、キック。ワン、ツー、スリー。コミカルなダンスに客席の人々の顔は、自然とほころんでいた。
(ダンスって難しいけど楽しいね!!)
そう、笑顔を受けて自分の心まで楽しくさせながら、ヒヨは踊っていた。
一方のシェリルの考えは違っていた。例えトップアイドルと駆け出しの差があっても、同じ舞台に上がったのなら対等。それが彼女の考えだった。
(2人のダンスで、この瞬間だけは……私達が、ナナを喰う!)
ギラギラした思いを胸の内に秘め、黒猫の着ぐるみが踊っていた。
そして3人目のメンバー、うさぎの着ぐるみのエニアは、不思議な感覚に襲われていた。すぐ前にナナが居る。その状況に心を踊らせながら、音楽が流れ始めると体が勝手に動いていた。いつダンスを覚えたんだろう。そう戸惑いながら体だけは動き続ける。夢の様な状況に体を任せ、エニアは踊り続けていた。
そんな3人の様子をじっと音桐が見つめている。
「例え歌う事が苦手でも、別の形で観客を喜ばせる事は出来るでしょう」
見た目より技術より、何より大切なアイドルとしての気持ち。それを着ぐるみの下で表現しようとしている彼女達に、これなら大丈夫と優しい眼差しを注ぐ音桐。
(プロデューサーさん! どうです??? ヒヨたち、歌えなくてもいけるのかな??)
着ぐるみの下から投げかけられるメッセージ、それに対し
「歌は……これから上手くなっていけば大丈夫です」
今の技術でできることがある。それをこのステージで見せてくれれば良い。それが彼の思いであった。
一方普段持っている槍の代わりにサイリウムを何本も持ち、巧みにブンブンと振り回しながらバルコニー席で一人盛り上がっている天ヶ瀬を尻目に、オウカは目を皿のようにして舞台の少しの変化も見逃さないと集中する。観客席のほぼすべての視線がナナに向かって注がれる中、オウカと天ヶ瀬だけは違っていた。二人のお目当てはナナではなく、自分にこの場所のチケットをくれた者。それがどこに居るのか、じーっとステージを見つめ、そして
「……がんばれ」
オウカは黒猫に向かって、小さくそうつぶやいていた。少し時間がかかったが、二人には分かった。あの猫の着ぐるみの下には二人の親友、シェリルが居る。二人はそこへ向かって、かき消されそうな祈りを捧げる。
(みてて……プロデューサー、それにオウカ、天ヶ瀬! 私達……やるわ!)
その思いは確かに届いた。シェリルは少し飛び出して踊りながら、客席の一番後ろに居る二人に向かって全力でアピールする。
「まるで夢みたい……」
その時、エニアは思わずそう漏らしていた。ステージから見えるのは客席に広がっていく光の海。それは客席で振られるサイリウムだけではない。入場時、観客たちに配られたリストバンド。それが光り輝く姿であった。
そして曲がサビに掛かると、白く輝いていた光の海は虹色に変化していく。やがて光には消える場所が出てきて、最後に観客席に9つのハートが浮かび上がった。色は虹の七色。7と9がもたらす光の魔法。
この光の魔法を掛けたのも、また屋外であった。スイッチを巧みに動かし、客席に光の絵を描いていく。そして彼は最後の魔法をかけようとしていた。
屋外がスイッチを入れる。するとイルダーナで、バルトアンデルスで、ノアーラ・クンタウで、ピースホライズンで、リゼリオで、この世界のあちこちにナナの姿が浮かび上がった。ロッソの通信システムを使い、この世界の人々にナナの姿を届ける。映しだされたナナの姿が、世界の人々に生きる勇気を与えていた。
コンサートは終盤に入っていた。賑やかだったステージは一変。青い光に照らされてナナが一人歌い始める。フェリアはそんなナナに向かって、下から上へ腕を動かす。その動きはやがて客席に広がっていき、波打つように客席が動き始める。ケチャと呼ばれるフェリアの動きに合わせ、客席から波がナナに向かって捧げられる。
ミオはその思いを受けて歌うナナの姿に心を震わせていた。東方で身に付けたと噂される、波立つように震える声。それを支えるしっかりとした声量。やっぱり自分が好きなのはナナのこの歌唱力なんだ。そう再確認した時
「ナナさまー!」
ミオは思わず叫んでいた。
そして奇跡が起こった。ぼんやりと、やがてはっきりと輝き始める客席。それはナナの歌声が人々の胸の奥底にある思いを奮い立たせたからだった。奮い立った心が、人が誰しも持つマテリアルを花開かせ始める。体からあふれだす思いと、それに合わせるように漏れだすマテリアルの輝き。
メリーベルはその様子を見てアイドルというものの力を理解していた。この時、一人ナナのファンが増えていた。
「先に出ていた、駆けだしの方には申し訳ないのですが……」
やっぱり格が違う。そうミオは再確認していた。
その時アイビスは傷の痛みが消えていくのを感じていた。ナナの起こした熱気に触れ、フードの下で思わず微笑む。
「これがアイドル……」
そしてフェリアは呆然としていた。未完成な音楽、その思いは変わらない。だが、完成には足りない何かをナナは客席と共に作り上げてみせる。これがアイドルの力。それがわかればもう黙っていられない。
「ブラボー!」
フェリアはそう叫んでいた。
●
夢の時間が終わり、舞台袖にはけてくるナナ。
「お疲れ様です」
メトロノームが冷えたタオルを渡そうとするが、そこに割りこむように飛びついてくる影があった。
「……ナナ姉様! ファリス達、みんな頑張ったの! ファリス達の舞台、どうだった?」
「……ぜーんぜん、ダメ!」
思いもよらぬナナの言葉に固まるシスターズ。だが、しばらくの間があってナナが言葉を続ける。
「だってー、このままだとナナ、すぐにみんなに追いぬかれそうなんだもん☆」
いたずらっぽく微笑むナナにタオルを改めて渡しながら、メトロノームは相変わらずだな、と思っていた。
一方、ナナの人をドキリとさせる物言いに笑い声が起こるシスターズ達。その中から、一人がナナの前に出てきた。
「あ、あのっ、私、Uisca Amhranっていいますっ」
イスカは強い眼差しでナナを見つめ、はっきりと宣言するようにこう言った。
「ウィスカって私の名前、絶対絶対、忘れないでくださいね」
「……もう覚えてるよ☆」
サラリと流して次の場所に向かうナナの背中を、震えながらイスカは見送っていた。
一方、壁を背もたれにして立つ音桐の元へヒヨが走ってきた。そのまま音桐と、合わせてシェリルに飛びつこうとする。それをさらりとかわす音桐。
結果空を切ってそのまま地面にスッテンコロリン、廊下をズササーーっと滑っていくヒヨ。
対してシェリルの元には、オウカと天ヶ瀬が向かってくる。
「おつかれ。頑張った、な」
オウカはねぎらいの言葉をかけ、天ヶ瀬はタオルを渡す。
受け取ったシェリルが汗を拭いていると、横をナナが通り過ぎて行く。その後ろから、色紙を持ってふらふらと近づいていくエニア。そんなエニアをシェリルは止めた。
「……ナナには……まだまだ敵わない」
息が上がっている自分と、表情一つ変わらないナナ。何より目の前でその背中を見れば、自分とナナとの違いは否応なしにわかる。
「でも絶対、追い越してやる!」
そう強く思うシェリルであった。
「遠くからだったけどナナさんの歌凄く良かったよ」
通路を小走りするナナを、アイビスが止める。上着を脱いで話しかけるアイビスの姿に
「アイビス……大丈夫?」
初めて笑顔を絶やさないアイドルの皮を脱ぎ捨て、歳相応の少女の姿になるナナ。
心配を掛けてしまったことに気づき苦笑いになりながら、アイビスはプレゼントを差し出す。
「私は平気だよ。歌を聞いてたら痛いのも無くなっちゃった。ところで……もし良かったら一緒にお茶とかどうかな? お菓子もあるし、甘いのが欲しかったら蜂蜜もあるよ」
だが、ナナは困った表情で断りを入れる。
「ごめん! 今から取材が入っちゃっていて……」
謝るナナを笑顔で送り出すアイビス。ナナの背中を見ながら、やはり彼女はスーパースターなのだと再確認するのであった。
「それでは改めてインタビューを……」
再びジオラの取材が始まる。幾つかの当たり障りの無い質問のやりとりが行われた後、ジオラはさらりと爆弾を投げ込んだ。
「それで、今恋人はいるんですか?」
危険な質問にその場の雰囲気が変わる。キララはいつでも抜けるように鍔に手をやり、メトロノームも止められるよう身構える。そんな中ナナが答える。
「いますよ☆」
「え? だ、誰何ですか?!」
「何でお前が動揺してるんだ!」
思わず口を挟んだ城戸にジオラがすかさずツッコミを入れる。そこにナナが言葉を続ける。
「やっぱり、こうやって応援してくれるみんなが恋人です☆」
「ありがとうございました……なんで泣いてんだ?」
感涙にむせぶ城戸。そんな彼は編集部に戻った際、まともにメモを取ってないことがばれジオラにこっぴどくシメられたそうだがまた別の話である。
会場に入る前はニュートラルだったアキホも、終わってしまえばすっかり虜になった一人だ。グッズ売り場でお小遣いを全部使い、腕いっぱいにタオルやらシャツやらを抱え満面の笑みで帰宅の途につく。
「愛してるよナナちゃあああああああああん!!」
一方会場では最後まで残っていたフェリルが叫んでいた。今日のライブの内容を思い出し、感動の余り号泣しながら、またチケットを入手すべく明日からもハンターとして頑張ろう、そう誓うフェリルであった。
いよいよ多くの人々が待ち望んだ、ナナ・ナインのコンサート当日がやって来た。自由都市同盟の中心として数々の店舗により賑わいを見せるこの街も、この日だけはどこを向いてもナナ・ナイン一色だった。
そんな中、一人だけこの喧騒とは無縁の人間が居た。メリーベル(ka4352)である。普段は歓声に包まれるベルカント大劇場も、人が居ない現在は実に静かなものだ。その中で彼女は機材の最終チェックを行っていた。
彼女の職業は音響担当者、俗に言うPAだ。正直言えば、ナナの音楽は彼女の好みではない。彼女はただプロとして、自分の領分を全うしようとしていた。Public Address、つまり人々にナナの音が伝わるかは彼女の両肩に架かっていた。
「お茶をどうぞ」
一方、控室の方は関係者でごった返していた。そんな中忙しく動きまわり、客人にお茶を出している少女が居た。彼女の名前はメトロノーム・ソングライト(ka1267)。彼女はナナの付き人を務めている。
そしてお茶を受け取った女性は、軽く会釈をしてから一口含み、目の前に座るナナに質問を投げかけた。
「早速ですけど一つ……ベルカント大劇場で一人コンサートを開ける歌手は片手で数えられるほどですけど、そんな一人になったお気持ち、人気アイドルとなった自分についてどう思われます?」
尋ねたのは、ジオラ・L・スパーダ(ka2635)。彼女はヴァリオス・スタイルという音楽雑誌の記者である。そのため、コンサートの前と後に取材の時間を貰っていた。
そんなジオラの様子を見つつ、メトロノームは内心冷や冷やしていた。気さくに話し掛けながらも、いつか自分の記事で世界に出ようと野望を滲ませたジオラ、そんな彼女と相対するとナナがどういう反応をするのか、付き人としてナナと四六時中一緒に居るメトロノームには、わかっていた。
一方ナナの後ろでは、黒いスーツを着込みサングラスを掛けた女が剣呑な雰囲気を漂わせていた。腰には刀を差し、殺気をムンムンに漂わせいつでも抜ける体勢になっているのは、星輝 Amhran(ka0724)。ナナほどの人気者になると、何を考えているのかわからないが不埒な事を働こうとするものも現れる。キララはそのような者に対するボディガードを務めている。そして彼女のサングラスの奥の瞳はジオラを見つめていた。
しかしキララがマークしていたのはジオラではない。ジオラの隣に座っていた城戸 慶一郎(ka3633)だ。城戸はジオラの後輩記者である。後輩らしく、ジオラの質問に対しせわしなくペンを動かしメモを取っている。が、キララには分かる。この男、恐らくナナの大ファンだ。表さずとも、その出す雰囲気を見れば分かる。もしかしたら記者というのは騙りで、ただナナに少しでも近づきたいがためにこうやって潜り込んだのではなかろうか。キララはもしものときはいつでも斬れるように、腰に手をやっていた。
そんな緊張感が張り詰めていることにも構わず、ナナはいつもの様にアゴに指を当て、小首を傾げて考え、そしてこう答えた。
「ナナ、よくわかんないけど、ナナの歌でみんなが元気になってくれるのならとっても嬉しいな☆」
「ありがとうございます……で、お前は何をやっているんだ」
ジオラがそう問いかけた城戸は、ナナの言葉を全肯定すべくコクコクと凄い勢いで頷いていた。
「ぐへへ~~、美味しいものいっぱいですね~~」
そんな時、部屋の片隅でミネット・ベアール(ka3282)がヨダレを垂らしていた。彼女の前には山盛りに積み上げられた各種食べ物、これはファンからの贈り物、差し入れである。
プレゼントの食べ物が一杯。
↓
しかし体型維持の為に全てを食べれない。
↓
でも全てのファンに感謝を示し、好意を粗末にしてはならない。
↓
だから食べられない分を感謝を込めて食べる処理係が必要。
という理屈により、ほぼ押しかけで処理係に就任したミネット。
「このクッキーも絶品ですね! アールグレイの香り……リアルブルーの紅茶って高いんじゃないですか?」
と早速今日もプレゼントを口に入れながら、そう感想を漏らしつつ食べた感想のメモを取っていた。
控室の方がそんな喧騒に包まれている頃、劇場内も騒がしくなってきた。とうとう開場され、どんどんと観客たちが入ってくる。
「まさかナナちゃんのコンサートチケットが手に入るなんて……やった、やったわ!」
その幸運な観客の一人が、ノイ・ヴァンダーファルケ(ka4548)である。彼女のようにこのコンサートに来たいと思ったものは、どう少なく見積もっても万の単位でいる。そんな中から運良く生で見ることのできる一人になったのだ。これで冷静でいられるはずがない。普段は気取っている彼女だが、今日ばかりは素にもどりはっちゃけている。
「日頃歪虚退治とかに精を出してたし、神様からのご褒美かしらね。今日は思いっっっきり楽しむわ!」
そう幸運に感謝しつつ、もうすぐ始まるコンサートに思いを巡らせていた。
「プラチナチケットを偶然手に入れたからきたものの、ライブとはどんな感じなのかのぅ? わくわくするのじゃ」
どんなにファンでも中に入れない者がいる一方、よくわからなくても幸運に恵まれてここに入る機会を得たものもいる。ヴィルマ・ネーベル(ka2549)もそんな一人だった。彼女はナナのコンサートが初めてどころか、そもそもコンサートに来たことが無い。とりあえずどうすればいいかを周りに相談した結果、サイリウムとタオルを一本づつ手に入場してきた。するとそこに広がっていたのは、だだっ広いベルカント大劇場と、そんな劇場を埋め尽くす人、人、人。
とりあえず自分の席を探し出し、座ったヴィルマだったが、こうやって座るといったいどんなコンサートが始まるのかドキドキしてくる。落ち着かない自分の心を落ち着けるため、周りの席の人々に話しかけることにした。
「す、凄い人ですね……私、浮いてませんかね?」
と隣であわあわしていたのはアキホ・リリンジュリー(ka4603)。ヴィルマが話しかけたのだが、初めてのコンサートにドキドキしているヴィルマと世間に出て初めて大きなイベントに出くわしてあわあわしているアキホでは、ずっとふたりでわたわたしているのが関の山だ。
「え、えっとどうすればいいんですかね?」
「お、落ち着くのじゃ」
などとトンチンカンな会話を繰り広げている二人の隣に、マントを羽織りフードで顔を隠した人間が座る。思わずドキリとする二人だったが、ヴィルマは勇気を持って話しかけようとする。だがヴィルマはそのフードの中の顔を覗いてパニックになっていた。
なぜなら彼女、アイビス・グラス(ka2477)は先日大怪我をしており、全身に包帯が巻かれた状態、こうやってマントを羽織っているのもその姿を見られて無用な気遣いを産まないためであった。
ふるふると震える二人を尻目に、アイビスは、
(療養中だけどそのおかげかナナさんのコンサートに行けるから運が良かったかも)
と思っていた。
「アイドルコンサート、ねえ。どんなものかしら。ちょっと覗いてみましょうか」
そんな騒動が起こっていたことなども知る由もないフェリア(ka2870)は、気軽な気持ちで客席に座っていた。彼女は帝国の名家に連なる人間であり、一般人にとってはプレミアムチケットでも、彼女にとっては自分のバルコニー席に入るだけで終わる。今日も今日とてどんなものかと値踏みするように入ってきた彼女は、下に見える観客席の様子に
「すごい熱気……コンサートって歌を聞くもの、なのよね?」
と驚きつつ、音楽は静かに聞くほうが好きなのだけど、と独り言ちた。
「……たのしみだ、な」
一方、その隣のバルコニーには、ひときわ大きな男が入ってきた。続けてもう一人、ド派手な赤い服に身を包んだ男が入ってくる。バルコニー席に来るのはフェリアのように席を所有している者か、この二人、オウカ・レンヴォルト(ka0301)と天ヶ瀬 焔騎(ka4251)のように関係者席として割り当てられた者かのどちらかだ。彼らは今回のコンサートに出演する者の友人である。友人の応援としてやって来た二人だが、彼らがバルコニーに来ると否が応でも目立つ。そもそもバルコニー席は見られる席でもあるのだ。その様子を見た観客たちが、ざわざわとし始めていた。
そして観客席最前列、ここにはナナファンの中でも一際濃い者達が集まっていた。
(私、あくまで純粋にその歌唱力のファンなのですけど……)
そんな中、ミオレスカ(ka3496)は一人とんでもない所に放り込まれたと思っていた。断っておくとミオはれっきとした、いや、かなり熱量の高いナナファンである。だが、周りがあまりに濃すぎた。特に隣が濃すぎる。
「ナナちゃんファンクラブ隊長、フェリル・L・サルバ。推して参る! うおおおーっ! よっしゃお前ら行くぞー!」
と、隣でフェリル・L・サルバ(ka4516)が巨大なサイリウムを振り回していた。最前列にはナナ親衛隊というべき者達が固まっていたのだ。
「その神ボイスを鼓膜に永久保存だー! うおおおおーっ!」
と振り回すサイリウムをよく見ると、それは剣。いわゆる妖剣の類である。それが発するオーラを光らせ、サイリウムとしていたのだ。
しかしこれは危険である。すかさずキララが手裏剣を投げて動きを止め(当ててはいませんあしからず)、空気投げで倒してから首筋に振動刀を突きつけて没収。そのままゴミ箱に放り込んで封印である。
フェリルはそれにもめげず普通のサイリウムを両手に爪のように挟み込み、ぶんぶんと振り回していたのだった。
●
そんなことをしている間に、会場の照明は落とされていた。そして聴くだけで元気になるような音楽が流れ始める。いよいよコンサートの開幕だ。
だが観客席の盛り上がりは半分といった所だった。それもそのはず、まだ本番では無かったからだ。
「あこがれのナナ姉様と一緒の舞台に立てるなんて、ファリス、嬉しいの! 姉様に恥ずかしくない舞台を務めるの」
舞台袖にはナナの姿は見えず、代わりにピンク色の可愛らしい衣装に身を包んだファリス(ka2853)が居た。今から始まるのはナナのコンサートではなく、その前座。『79シスターズ』というナナの妹分という触れ込みで結成されたグループによるコンサートなのである。
「私、ナナちゃん……いえ、ナナ姉さまみたいなあいどるさんになりたいんですっ」
そしてその隣で目をキラキラと輝かせているのは、Uisca Amhran(ka0754)だ。彼女もナナに憧れてナナの妹分募集との案内に一も二もなく飛びついたのだ。彼女の心のなかは、今やナナのような皆から好かれるアイドル、いやあいどるになりたいという気持ちで埋め尽くされていた。
一方、クールに佇んているのはイーディス・ノースハイド(ka2106)だ。彼女は元王国騎士団員という異色の経歴の持ち主である。そんな彼女が騎士の座を投げ打ってアイドルに転身したのだ。一見クールに見えるスカイブルーの衣装を着ているが、彼女の心のなかは赤い炎より熱い青い炎の様に燃えていた。
「いいですか? 私達はあくまで前座なんですよ。私達の仕事はナナさんのステージに向かって客席を盛り上げること。わかってますね」
そんな三人をまとめるべく、シスターズのリーダーであるリリティア・オルベール(ka3054)が動く。普段は明るくのんびりした性格の彼女だが、いざ本番となれば手品師の祖母に付いてステージに上った経験がある分他のメンバーより舞台というものを理解している。自分たちに求められた仕事はきっちりとこなしたい、そう思う心が彼女にこうさせていた。
そんなリリティアの声に反応して、三人が手を出す。リリティアが手を重ねて声を出し、そしてステージに飛び出していった。
「みんな~! 今日はナナ姉様のコンサートにようこそ、なの! ナナ姉様の出番まで、シスターズの舞台を楽しんで欲しいの!」
真っ先にステージに飛び出していったのはファリスだ。メンバー最年少としてあふれる元気とあふれる可愛らしさをアピールしつつ、舞台を上に下に走り回る。
そこにイスカとイーディスのツインボーカルが乗る。イスカの声は可愛らしく、甘く透き通った歌声、その声は彼女が憧れるナナと同じく、天性のアイドルのものと言えた。
一方、イーディスの声はややハスキー。アイドルにはあまり合わない声質だが、高音のイスカと組み合わさると美しいハーモニーとなる。衣装にも元騎士であることを示すかのように、紋章が施され剣のアイコンがあしらわれている。
そして二人のボーカルに合わせてメンバー達が踊る。79人いるシスターズだが、この舞台に立っているのはそこから選抜された僅かな数。だからこそここに立つ皆が一騎当千とも言うべきスキルを持っている。特に、リリティアはリーダーらしく他メンバーをフォローしつつ踊る。くるりと一回転し、ふわりとスカートが舞い上がる。紫がかった青色の衣装が落ちると、一瞬の内に東方の影響を受けた赤と黒の衣装に変わっていた。気付けば、他メンバーも彼女と同じ衣装に変わっている。ステージ上での早変わり、これは手品の才を持つリリティアのとっておきのマジックだった。
「この後はいよいよナナ姉さまのステージです! みんな、もっと盛り上がってくださいね」
リリティアのかけた魔法も、いつか解ける時が来る。今日の主役は彼女達ではない。時間が来れば引かなければならない。
「中々頑張ってますね」
とは、ミオの評価。
「シスターズも、まぁまぁ頑張ってるわよね……」
とノイが思ったように、このステージでほんの少しでも彼女達のファンが増えたのだろう。いつかナナの様なアイドルを夢見て、彼女達は踊り続ける。
●
いよいよナナの出番、その直前の舞台袖ではナナでは無い者達が円陣を組んでいた。
「風の妖精の名前、それがシルフィードです。風と共に舞うように、可憐に踊ってくれるでしょう」
その中で一人背の高い男が居た。彼の名は音桐 奏(ka2951)である。
ナナがスーパーアイドルと成って以降、クリムゾンウェストには第二のナナを目指し多くのアイドルが現れた。彼もそのようなアイドルのプロデューサーの一人である。
そしてその前で二人、音桐の話を聞いているのがシルフィードのメンバー、シェリル・マイヤーズ(ka0509)とヒヨス・アマミヤ(ka1403)である。
駆け出しアイドルの二人の立つ舞台を音桐が東奔西走して探した結果、なんとこのナナのステージのバックダンサーとして上がることができることになった。
だが、その代償は大きかった。シェリルが着ているのは猫の着ぐるみ、そしてヒヨが着ているのは犬の着ぐるみ。顔も見せられない姿でのステージ。それでも音桐は構わないと思っていた。二人の内に秘めたモノ。それを見てしまったのだ。ならばもう正気ではいられない。あとは彼女達を信じ、ステージに送り出すのみ。
そこにフラフラとした足取りで十色 エニア(ka0370)がやって来た。ナナの大ファンであるエニアはなんとか会場に潜り込もうとし、楽屋側に来てしまっていた。
だが、その姿を見て音桐はティンと来たのか、とんでも無いことを言い放った。
「今日からシルフィードは3人です。あなたも出来るはずです」
そうエニアの肩を掴んで言い放つ。結果、エニアは3人目のメンバーとしてバックダンサーになることになった。
そこであわててうさぎの着ぐるみを着るエニア。突如として叶ったナナのすこしでも近くに行くという願いに夢見心地だ。
だが、これは現実だ。ライブの始まりを告げる音楽が流れ始め、止まらないショーが始まった。
●
「うおおおーっ! よっしゃ行くぞー!」
音が流れると同時に会場中に響き渡る声を上げたのはフェリルだ。彼の長く伸ばした声が合図となり、最前列に待機していたナナ親衛隊が声を合わせる。
\ナナ! ナナ! ナナ! ナナ! ナナ! ナナ! ナーナー!/
これが親衛隊がライブ開始時に息を合わせるために行うナナMIXである。
そしてその声が誘うように会場が一瞬暗転、七色の光によりステージが照らされ、目まぐるしく変わる光の渦の中心から今日の主役が登場する。
その時、火薬に火がついたように客席の空気が爆発した。その観客の思いをさらに盛り上げるべく、レーザー光線が放たれステージのナナに当たる。
「うまくいきましたね」
屋外(ka3530)は客席の一番奥で、その様子を一人眺めていた。この演出を仕掛けたのは彼だ。ロッソと掛けあって借りてきた装置を用い、今リアルブルーでできる最高の演出を施す。それもこれも、ナナならこの演出に答えてくれるという確信があるからできることだ。屋外は一観客として自分の演出で始まったライブを楽しんでいた。
アッパーなチューンが火の着いた観客たちの心を縦に弾ませる。可愛らしく印象的な振りでナナが踊り始めると、ノイはピョンピョンと飛び跳ねながら振りをコピーしていた。
そしていよいよナナの歌声が流れ始める。
キミからもらった大切なもの \ナナちゃーん!/
ナナの弾むような歌声に合わせ、親衛隊のみならず会場中がナナに向けてコールを打つ。巻き込まれた形のミオも何故かバッチリ声を合わせていた。
いつまでも僕の胸の中に 「超絶カワイイ!」 \ナナちゃーん!/
フェリルが激しくサイリウムを振りながら歌詞に食い気味にコールを被せ、それに合わせて会場が一体となってナナの名前を叫ぶ。
その頃、モニター室に詰めていたメリーベルは祈るような気持ちで、画面に映るナナの姿を見つめていた。いつもみたいに音を楽しめているのだろうか。つまらないトラブルに巻き込まれ、哀しそうに歌う彼女の姿は見たくない。何も起こらない事を一人、彼女は祈っていた。
一方アキホは客席で周囲の余りの活気に戸惑っていた。そしてその隣ではヴィルマがあまりの熱気にたじろいでいた。場違いな場所に着てしまったのではないか。不安な気持ちが心に広がる。
だが、曲のリズムが、ナナの歌声が二人の心を跳ねさせていく。不安な気持ちはいつの間にかどこかに飛んでいっていた。
「これだけの者たちが集まるのも頷けるのぅ、ファンに愛されているというのはまさにこういうことなのじゃな」
「アイドルってこんなにたくさんの人を元気に出来るんですね、とても凄いです!」
アイドルは不安な気持ち、つらい気持ちを吹き飛ばしてくれる。その感謝の意を込めて観客たちは盛り上がる。ナナはその気持ちを受け止め、最高のパフォーマンスを返してくれる。ナナというアイドルを理解した二人は少し遅れながら、盛り上がり感情を爆発させていた。
対して舞台袖では、メトロノームが憧れの視線をナナに向けて送っていた。付き人とアイドルの関係であるが、あこがれの対象でもある。
「……いつかわたしも」
そう心に秘めて、彼女は特等席からナナを見つめていた。
楽しい時間は過ぎていくのが早い。一曲目があっという間に流れ終える。曲が終わると観客たちは思い思いにナナの名前を叫ぶ。だが、
「正直こんなものなのかしら。未完成な音楽ね」
フェリアは一人、遠慮忌憚無い意見を述べていた。
「次の曲、楽しいの行っくよー☆」
ナナの合図と共に、どことなくおかしくて、底抜けに明るいナンバーが流れ始める。そしてその音と共にステージに三つの着ぐるみが飛び出してきた。ナナとシルフィードによるステージの始まりだ。
(とりあえず楽しもう! 79さんよりも楽しもう! わんっ!)
犬の着ぐるみの中、ヒヨは一人決意を固めていた。そして弾けるようにジャンプ。着地と同時にパンチ、キック、パンチ、キック。ワン、ツー、スリー。コミカルなダンスに客席の人々の顔は、自然とほころんでいた。
(ダンスって難しいけど楽しいね!!)
そう、笑顔を受けて自分の心まで楽しくさせながら、ヒヨは踊っていた。
一方のシェリルの考えは違っていた。例えトップアイドルと駆け出しの差があっても、同じ舞台に上がったのなら対等。それが彼女の考えだった。
(2人のダンスで、この瞬間だけは……私達が、ナナを喰う!)
ギラギラした思いを胸の内に秘め、黒猫の着ぐるみが踊っていた。
そして3人目のメンバー、うさぎの着ぐるみのエニアは、不思議な感覚に襲われていた。すぐ前にナナが居る。その状況に心を踊らせながら、音楽が流れ始めると体が勝手に動いていた。いつダンスを覚えたんだろう。そう戸惑いながら体だけは動き続ける。夢の様な状況に体を任せ、エニアは踊り続けていた。
そんな3人の様子をじっと音桐が見つめている。
「例え歌う事が苦手でも、別の形で観客を喜ばせる事は出来るでしょう」
見た目より技術より、何より大切なアイドルとしての気持ち。それを着ぐるみの下で表現しようとしている彼女達に、これなら大丈夫と優しい眼差しを注ぐ音桐。
(プロデューサーさん! どうです??? ヒヨたち、歌えなくてもいけるのかな??)
着ぐるみの下から投げかけられるメッセージ、それに対し
「歌は……これから上手くなっていけば大丈夫です」
今の技術でできることがある。それをこのステージで見せてくれれば良い。それが彼の思いであった。
一方普段持っている槍の代わりにサイリウムを何本も持ち、巧みにブンブンと振り回しながらバルコニー席で一人盛り上がっている天ヶ瀬を尻目に、オウカは目を皿のようにして舞台の少しの変化も見逃さないと集中する。観客席のほぼすべての視線がナナに向かって注がれる中、オウカと天ヶ瀬だけは違っていた。二人のお目当てはナナではなく、自分にこの場所のチケットをくれた者。それがどこに居るのか、じーっとステージを見つめ、そして
「……がんばれ」
オウカは黒猫に向かって、小さくそうつぶやいていた。少し時間がかかったが、二人には分かった。あの猫の着ぐるみの下には二人の親友、シェリルが居る。二人はそこへ向かって、かき消されそうな祈りを捧げる。
(みてて……プロデューサー、それにオウカ、天ヶ瀬! 私達……やるわ!)
その思いは確かに届いた。シェリルは少し飛び出して踊りながら、客席の一番後ろに居る二人に向かって全力でアピールする。
「まるで夢みたい……」
その時、エニアは思わずそう漏らしていた。ステージから見えるのは客席に広がっていく光の海。それは客席で振られるサイリウムだけではない。入場時、観客たちに配られたリストバンド。それが光り輝く姿であった。
そして曲がサビに掛かると、白く輝いていた光の海は虹色に変化していく。やがて光には消える場所が出てきて、最後に観客席に9つのハートが浮かび上がった。色は虹の七色。7と9がもたらす光の魔法。
この光の魔法を掛けたのも、また屋外であった。スイッチを巧みに動かし、客席に光の絵を描いていく。そして彼は最後の魔法をかけようとしていた。
屋外がスイッチを入れる。するとイルダーナで、バルトアンデルスで、ノアーラ・クンタウで、ピースホライズンで、リゼリオで、この世界のあちこちにナナの姿が浮かび上がった。ロッソの通信システムを使い、この世界の人々にナナの姿を届ける。映しだされたナナの姿が、世界の人々に生きる勇気を与えていた。
コンサートは終盤に入っていた。賑やかだったステージは一変。青い光に照らされてナナが一人歌い始める。フェリアはそんなナナに向かって、下から上へ腕を動かす。その動きはやがて客席に広がっていき、波打つように客席が動き始める。ケチャと呼ばれるフェリアの動きに合わせ、客席から波がナナに向かって捧げられる。
ミオはその思いを受けて歌うナナの姿に心を震わせていた。東方で身に付けたと噂される、波立つように震える声。それを支えるしっかりとした声量。やっぱり自分が好きなのはナナのこの歌唱力なんだ。そう再確認した時
「ナナさまー!」
ミオは思わず叫んでいた。
そして奇跡が起こった。ぼんやりと、やがてはっきりと輝き始める客席。それはナナの歌声が人々の胸の奥底にある思いを奮い立たせたからだった。奮い立った心が、人が誰しも持つマテリアルを花開かせ始める。体からあふれだす思いと、それに合わせるように漏れだすマテリアルの輝き。
メリーベルはその様子を見てアイドルというものの力を理解していた。この時、一人ナナのファンが増えていた。
「先に出ていた、駆けだしの方には申し訳ないのですが……」
やっぱり格が違う。そうミオは再確認していた。
その時アイビスは傷の痛みが消えていくのを感じていた。ナナの起こした熱気に触れ、フードの下で思わず微笑む。
「これがアイドル……」
そしてフェリアは呆然としていた。未完成な音楽、その思いは変わらない。だが、完成には足りない何かをナナは客席と共に作り上げてみせる。これがアイドルの力。それがわかればもう黙っていられない。
「ブラボー!」
フェリアはそう叫んでいた。
●
夢の時間が終わり、舞台袖にはけてくるナナ。
「お疲れ様です」
メトロノームが冷えたタオルを渡そうとするが、そこに割りこむように飛びついてくる影があった。
「……ナナ姉様! ファリス達、みんな頑張ったの! ファリス達の舞台、どうだった?」
「……ぜーんぜん、ダメ!」
思いもよらぬナナの言葉に固まるシスターズ。だが、しばらくの間があってナナが言葉を続ける。
「だってー、このままだとナナ、すぐにみんなに追いぬかれそうなんだもん☆」
いたずらっぽく微笑むナナにタオルを改めて渡しながら、メトロノームは相変わらずだな、と思っていた。
一方、ナナの人をドキリとさせる物言いに笑い声が起こるシスターズ達。その中から、一人がナナの前に出てきた。
「あ、あのっ、私、Uisca Amhranっていいますっ」
イスカは強い眼差しでナナを見つめ、はっきりと宣言するようにこう言った。
「ウィスカって私の名前、絶対絶対、忘れないでくださいね」
「……もう覚えてるよ☆」
サラリと流して次の場所に向かうナナの背中を、震えながらイスカは見送っていた。
一方、壁を背もたれにして立つ音桐の元へヒヨが走ってきた。そのまま音桐と、合わせてシェリルに飛びつこうとする。それをさらりとかわす音桐。
結果空を切ってそのまま地面にスッテンコロリン、廊下をズササーーっと滑っていくヒヨ。
対してシェリルの元には、オウカと天ヶ瀬が向かってくる。
「おつかれ。頑張った、な」
オウカはねぎらいの言葉をかけ、天ヶ瀬はタオルを渡す。
受け取ったシェリルが汗を拭いていると、横をナナが通り過ぎて行く。その後ろから、色紙を持ってふらふらと近づいていくエニア。そんなエニアをシェリルは止めた。
「……ナナには……まだまだ敵わない」
息が上がっている自分と、表情一つ変わらないナナ。何より目の前でその背中を見れば、自分とナナとの違いは否応なしにわかる。
「でも絶対、追い越してやる!」
そう強く思うシェリルであった。
「遠くからだったけどナナさんの歌凄く良かったよ」
通路を小走りするナナを、アイビスが止める。上着を脱いで話しかけるアイビスの姿に
「アイビス……大丈夫?」
初めて笑顔を絶やさないアイドルの皮を脱ぎ捨て、歳相応の少女の姿になるナナ。
心配を掛けてしまったことに気づき苦笑いになりながら、アイビスはプレゼントを差し出す。
「私は平気だよ。歌を聞いてたら痛いのも無くなっちゃった。ところで……もし良かったら一緒にお茶とかどうかな? お菓子もあるし、甘いのが欲しかったら蜂蜜もあるよ」
だが、ナナは困った表情で断りを入れる。
「ごめん! 今から取材が入っちゃっていて……」
謝るナナを笑顔で送り出すアイビス。ナナの背中を見ながら、やはり彼女はスーパースターなのだと再確認するのであった。
「それでは改めてインタビューを……」
再びジオラの取材が始まる。幾つかの当たり障りの無い質問のやりとりが行われた後、ジオラはさらりと爆弾を投げ込んだ。
「それで、今恋人はいるんですか?」
危険な質問にその場の雰囲気が変わる。キララはいつでも抜けるように鍔に手をやり、メトロノームも止められるよう身構える。そんな中ナナが答える。
「いますよ☆」
「え? だ、誰何ですか?!」
「何でお前が動揺してるんだ!」
思わず口を挟んだ城戸にジオラがすかさずツッコミを入れる。そこにナナが言葉を続ける。
「やっぱり、こうやって応援してくれるみんなが恋人です☆」
「ありがとうございました……なんで泣いてんだ?」
感涙にむせぶ城戸。そんな彼は編集部に戻った際、まともにメモを取ってないことがばれジオラにこっぴどくシメられたそうだがまた別の話である。
会場に入る前はニュートラルだったアキホも、終わってしまえばすっかり虜になった一人だ。グッズ売り場でお小遣いを全部使い、腕いっぱいにタオルやらシャツやらを抱え満面の笑みで帰宅の途につく。
「愛してるよナナちゃあああああああああん!!」
一方会場では最後まで残っていたフェリルが叫んでいた。今日のライブの内容を思い出し、感動の余り号泣しながら、またチケットを入手すべく明日からもハンターとして頑張ろう、そう誓うフェリルであった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 16人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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![]() |
楽屋裏 ファリス(ka2853) 人間(クリムゾンウェスト)|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/04/11 23:07:37 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/10 16:02:03 |
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![]() |
質問卓 Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/04/11 03:45:43 |