ゲスト
(ka0000)
【偽夜】Turned into Void
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/11 07:30
- 完成日
- 2015/04/16 23:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
あなたは、全ての清浄なるものの敵だ。
●
大切な人を守れなかった。絶望がその身を染め上げた。
人と人の悪意のやりとりに嫌気が差した。
ただ社会が憎かった。
変化の理由は様々だろう。
恨みつらみ、敗北、力の渇望、偶然……。
かつては正しい人だったかもしれない。あるいは道を踏み外していたのかもしれない。
けれどあなたは変わってしまった。世界を滅ぼす存在に。
いや、智慧を得たその時から既にそうだったかもしれない。
人間を虐げ、世界を汚染していたのかもしれない。
何れにせよ、あなたの中にあるのは人ならざる理念だけ。
あるいは、己の権威を知らしめるべく。
あるいは、ひたすらに滅びを求めて。
あるいは、満ちぬ胸中を享楽で埋めるため。
あるいは、尽きせぬ怒りの赴くまま。
あるいは、内に巣食った狂気に操られ。
あるいは、力の種を貪り食らわんと。
あるいは、ただ思考を止め、自暴自棄に。
あなたは全てを滅ぼしに征く。
辺境の要塞ノアーラ・クンタウに。
ゾンネンシュトラール帝国の首都、バルトアンデルスに。
グラズヘイム王国の首都、イルダーナに。
自由都市同盟の首魁、ヴァリオスに。
冒険者の根城、リゼリオに。
青き世界の戦士の船、サルヴァトーレ・ロッソに。
これは、世界が滅んだ最後の日のお話。
あなたは、全ての清浄なるものの敵だ。
●
大切な人を守れなかった。絶望がその身を染め上げた。
人と人の悪意のやりとりに嫌気が差した。
ただ社会が憎かった。
変化の理由は様々だろう。
恨みつらみ、敗北、力の渇望、偶然……。
かつては正しい人だったかもしれない。あるいは道を踏み外していたのかもしれない。
けれどあなたは変わってしまった。世界を滅ぼす存在に。
いや、智慧を得たその時から既にそうだったかもしれない。
人間を虐げ、世界を汚染していたのかもしれない。
何れにせよ、あなたの中にあるのは人ならざる理念だけ。
あるいは、己の権威を知らしめるべく。
あるいは、ひたすらに滅びを求めて。
あるいは、満ちぬ胸中を享楽で埋めるため。
あるいは、尽きせぬ怒りの赴くまま。
あるいは、内に巣食った狂気に操られ。
あるいは、力の種を貪り食らわんと。
あるいは、ただ思考を止め、自暴自棄に。
あなたは全てを滅ぼしに征く。
辺境の要塞ノアーラ・クンタウに。
ゾンネンシュトラール帝国の首都、バルトアンデルスに。
グラズヘイム王国の首都、イルダーナに。
自由都市同盟の首魁、ヴァリオスに。
冒険者の根城、リゼリオに。
青き世界の戦士の船、サルヴァトーレ・ロッソに。
これは、世界が滅んだ最後の日のお話。
リプレイ本文
●
「力を、手に入レタノ」
暴食の剣機であるそれは、かつてはノアール=プレアール(ka1623)と呼ばれていたらしい。
姿形は白衣の女性だが、構成物は屍肉と機械。武器で織られた歪な肉人形だ。
彼女は文字通り、歩み一つで大地を割る。
「今の私のカラダは、武器そのものヨ。まるで、かの剣機、リンドヴルムのよう」
かつて帝国が確認していた不壊の剣機とは比べるべくもない。
「フフッ、意ノママに力を操れるワ」
王都イルダーナは、既にしてその栄華の七割以上を失っていた。
覚醒者の男の頭を刃で貫く。ケーブルを突き立て血肉を啜り、死骸を引きずりながら次の獲物を探す。
――彼女の後ろには、無数の死骸が繋がれていた。
白衣の裾が長く伸びたかのように、まるで縋るようにしてケーブルに繋がれた蒼白な死者の、群れ、群れ、群れ。
死葬の行列が止まることはない。割れた石畳で頭蓋が跳ねる音が、荘厳な打楽器のように響く。
「そこで止まれ、剣機」
その歩みに、青い目の青年が一人立ち塞がった。
「無駄ヨ!」
踏み鳴らした足が重機のように大地を割った。
腕から伸びた刃が、家屋三つを輪切りにしながら青年へと向かう。辛うじて躱した彼の腕が宙を舞う。
一挙手一投足が破壊を齎すこの感覚、底の見えない力。彼女はただその深淵を見たかった。
気丈に立ち上がる青目の青年に、彼女は両腕を広げて吠えた。
「ワタシが喰らってあげるワ!」
その刃をどうにか振り払い、青い目を真っ直ぐ彼女に向けて、青年は一歩踏み込んでくる。
青い、どこか懐かしい目を。
「……私と、同ジ目」
そんな訳がない、と彼女は否定する。その身は剣機。破壊の化身。滅ぶ運命の人の子などと同一であるわけがない。
そう自分に言い聞かせる彼女は、青年の一撃に気付き、反射的にその剣を伸ばした。
二つの刃がすれ違った。
「――さよなら、姉さん」
崩れ落ちる青年を見ながら、彼女は呆然と膝をつく。
「嗚呼、スッカリ忘レテタワ」
青かった目が瞼に隠されると、ぶつん、と背のケーブルが弾け飛んだ。
「私も死ヌノハ2回目……だったワネ……」
●
外の喧騒とは裏腹に、玉座は静かだった。
そこにあるべき王女の姿はどこにもなく、また座る者も、最早なかった。
ユージーン・L・ローランド(ka1810)はその身に花を咲かせた従者を傍に控えさせると、主を失った玉座の手前、倒れ伏す少女が灰と化すのを見送った。
「……僕は王国を愛していました。愛しています」
年の頃は12ほどに見える。細く、小さな子のようだ。かつて彼は王国貴族の子だったが、五年前のイスルダ島における騒乱にて堕落した。
炯々と光る赤い目を伏せ、彼は訥々と言葉を捧ぐ。
「でも、死んでいった兄様や部下達の無念も忘れられなかった」
皆死んだ。彼の乳兄弟も死んだ。果たしてそれが誰のせいであったかは分からない。もし彼が生き残ったならどうなったかも分からない。
ただ、狂ってしまった彼にとっては、それは王国のせいであった。国家の破綻が所以だと彼は信じていた。
「さようなら王女様。さようなら、王国。安心してください、後は僕が引き継ぎます」
最早物事を正しく測る物差しは彼の胸中にはない。ただ他者の振る舞いを己の理想と挿げ替えるのみ。
故に。
「――まこと至福千年の国を築いて見せましょう」
彼の望みとは、誰も死なぬ国である。
吸い上げたマテリアルの蕾が花開いた。夜闇のような黒薔薇である。彼はその一輪を摘み取った。
彼は人の命を花弁に変える力を持つ。従者の身を割って咲くそれも然り。そして当然それは、国民や家臣で作った花だった。
玉座にそっと添えられた一輪の黒薔薇。花言葉は、憎しみ、不滅の愛、「あなたはあくまで私のもの」。
長く黙祷を捧げた彼は、臣下の礼を緩やかに解いて、その両腕を広げた。
「さあ、僕らの国の糧となって下さい」
――そして、王城は薔薇に埋もれて消えた。
建材を茨が這い回り、床を破り窓を割り、巡り巡る。そこかしこで黒い花弁が咲き誇る。
その屋上、大輪の黒薔薇の上で、いつものように従者の肩に腰掛けた。
「次は帝国だね。帝国は何にしようかな。ジルがいつもくれる白百合でもいいけど、黒百合も綺麗だと思うんだ」
夢見心地に彼は呟きながら、玉座で摘み取った黒薔薇の、もう一輪を口にした。
「ジルは何がいい?」
従者の口元に赤薔薇を運び、彼はくすくすと笑っていた。
いつまでも。
●
フィオ(ka1854)。蝙蝠の羽と耳を持ち、両足を繋がれた堕落者。
指図を嫌う孤独な蝙蝠は、辺境要塞ノアーラ・クンタウの上空を飛んでいた。
「私達を見捨てた引きこもりは、さっさと引きずり出してあげなくちゃいけませんからね」
彼女はかつて辺境の砂漠地帯で暮らしていたが、彼女のいた集落は救援を受けることが出来ずに滅んだ。その恨みを晴らそうというのだ。
彼女は偵察に出た先遣隊だが、最早辺境に抵抗する気力は残されていない。偵察というのも名目だ。後詰の連中がやって来ればすぐ瓦解するだろう。
「人が滅ぶ事は至極当然な流れ、ですね。今日は私の占った通り、世界を壊すには最適な日ね」
星の導く侭に、と呟きながら、降下していく。
ラッキーアイテムと称して連れてきた蝙蝠歪虚をけしかけ、随分数の減った部族の長やその副官など、要人を攫わせる。その他の連中は皆殺しだ。
所詮はお遊び、手慰み。
要塞の一角を占拠すると、彼女は拉致した連中の一人を縛り上げて跪かせる。
その爪を刃物のように鋭く伸ばし、連中の体に傷を刻みつけた。
嬲るように、執拗に、かつての恨みを込めて。
「私の占いによると、貴方は今日命を散らすのです」
腕の骨が見えるまで肉をこそぎ落とした頃に、彼女はそう口にした。
「命乞いをすれば多少考慮はしてあげますけど――」
「た、助けて! 助けてくれ! 死にたくな」
「まぁ、考えるだけですから」
当然、飽きただけだ。
「願っても援けの来ない瞬間っていうのを、是非教えないと……」
転がった首を蹴飛ばして、彼女は次のおもちゃを待つ。
遠く聞こえる巨人の足音を聞きながら。
●
辺境要塞をやや離れた地にて、ティアナ(ka2639)は傷ついた兵士を見つけた。
「あらあら」
見ればそこは戦場だったらしく、多くの人が転がっている。どうやら生きているものもいるようだ。
彼女はそっと手を翳して、その力を行使した。
近くにあった木が枯れ腐り、ぐずぐずと崩れ落ちる。代わりに、彼女の目の前で倒れる兵士の傷が瞬く間に塞がった。
「う、あ……」
「目が覚めましたかぁ?」
瞼を持ち上げた兵士を見て、彼女はにこやかに男の額を撫でた。
赤黒い髪はともかく羊のような巻角は明らかに異質だったが、死の淵から生還したという事実にはそれらを見落とさせるだけの力があった。
「あ、あなたが……助けてくれたのか?」
「はい、勿論」
「おお……ありがとう、ありがとう……」
兵士は涙を流して目を閉じた。それを他所に、彼女はいつも通りに問いかけを行う。
「ねぇ、あなたにとって、愛ってなにかしら~?」
「は……?」
にこにこと場違いな問いかけを発した彼女を兵士は暫く呆けた顔で見ていたが、やがてぽつぽつと、月並みな答えを口にした。
「つまらない答えですねぇ」
彼女の顔から笑みが抜けた。
兵士がそれを認識した時には、彼女はその踵を振り上げていた。死の理由も彼女の行動も理解できないまま、男は頭を破裂させて死んだ。
彼女は次の兵士に近寄っていき、またその手を翳した。回りの大地が腐って澱み、兵士の傷が癒える。
彼女の能力、治癒というのはあくまで見かけ。実際は収奪と汚染である。
「正義と悪って、なんなのでしょう~?」
「これから人々はどうなるのでしょうねぇ」
彼女は次々と質問を口にしては、頭部を踏み潰して次の患者へと向かう。質問の答えなど端からどうでもよいのだ。気に入らない答えが出たなら、殺すのみ。
彼女は傲慢な論理を振りかざす。
「私の問いは全て至極真っ当な物よぉ? でもそれを適当に答えるから――」
そして、頭を踏み潰した。
●
ネイハム・乾風(ka2961)は、遥か眼下に極彩色の町並みを捉えていた。
自由都市同盟の事実上の首都、ヴァリオス。
彼は狙撃銃を覗き込み、溜息を吐いた。生気を感じさせぬ青白い肌。
「終わってしまうのか……つまんないな、まだまだ撃ち足りないのにね」
遠く離れた山の上だ。彼の目は最早人のものではない。そして、彼が手にする銃もまた。
「まぁ、いいや。残りも余さず撃ち抜こう」
この飢餓を満たすために。
その赤紫の瞳が、スコープ越しに一人の男を捉えた。街の一般人らしい。次は子供。その母親。通りに出て、無数の人々。
「誰でもいい、そうだね、元気なものから狙っていこう」
ひとつふたつと数えながら、彼は引き金を引いた。パン、と間抜けに男の腕が爆ぜ、吹き飛んだ。
どよめきを目にしつつ、続けて引き金を弾く。次は足。そして胴体に三つ穴を開け、喉をぶち抜き、宙を舞った頭を空中で破裂させた。
その頃ようやく街道を恐慌が覆い尽くした。それに合わせて他の歪虚たちも侵攻を始めたらしい。
引き金をひとつ引く度に周囲の人間が大口を開け、大地を転がり、逃げ惑う。そうこうしているうちに他の歪虚が街中へと雪崩れ込む。
「邪魔だね……」
だが彼は、気にも留めずに歪虚ごと人間をぶち抜いた。
「これで、柘榴が四十と七つ」
なぜそうするかと言われれば、単純に本能故だ。空腹を満たす為に食事をするのと同じこと。
――餓えていたのは、果たしていつからだろうか。それは本当に、堕落した故の欲望だろうか?
彼は引いた引き金を戻す一瞬でそれを思考し、引き金が戻りきった音でそれを忘れた。
一つ。また、一つ。
ついぞヴァリオスからは、穴の開かないものはなくなった。
終わってしまった、とふと気付く。
「世界に引導を――ならそれが終わったら?」
結論はすぐに出た。
「あぁ、違う、最後に残ったのは誰だっけ?」
彼は未だこの場で動いているものへ向けて、引き金を引いた。
●
かつて、J(ka3142)は述懐した。
「そういえば、こういう手もありましたね。歪虚のチカラを取り込んで、人を管理すればいい」
彼女は両手を広げて、己に満ちていく負のマテリアルを感じ取った。
「いずれは、歪虚の中での一大勢力として人のチカラを知らしめましょう」
内側から作り替えられていく自分の体を感じ、機械化していく夢想の中で、彼女は天高くに両腕を突き出した。
「歪虚、ヒトのチカラで内部から食い散らかして差し上げますよ」
――そしてリゼリオにて。
彼女だったものは前線の一角にて歪虚たちを指揮していた。
有能な敵を捕縛し、マテリアルで侵食し、歪虚に変える。
可能な限りでえ被害を抑えつつ、機械化された人間の歪虚を配下に、彼女だったものは淡々と戦場を攻略していく。
街の最も高い位置にて、広く名の知れたある歪虚は、問いかけにこう答えた。
「……ああ、あやつか。便利な人形よ。転がっていたから拾ってきた」
滅び行くリゼリオを眼下に捉えながら答える様は、つまらない玩具を見るそれだった。
「堕落者? 歪虚? それは冗句か?」
歪虚は鼻を鳴らした。
「あれは雑魔だ。誰の導きもなくこちら側を選んだ人間は、概ねそこに行き着く。己の悪徳も宣じれぬようではな」
機敏に働き、優れた戦術を披露し、兵站と人材を管理する彼女は、知性のない雑魔とは思えない。
「……人材を奪って勢力を拡大しているように見えるか。その通りだ。戦力を溜め込み、管理する雑魔なのだよ。便利だろう?」
歪虚は一頻り笑うと、また鼻を鳴らした。
「我らの内に潜り込み、戦力を溜めて反攻する腹積もりらしい。全く面白い話だと思わんか」
歪虚は興味が失せたらしく、踵を返した。
「奴はもう、自分が何を滅ぼしたかも分からんのだよ」
●
牧野(ka4347)はふらふらと、サルヴァトーレ・ロッソへと乗り込んだ。
へらへら笑う男だが、強欲の眷属らしく龍の鱗を貼り付け、その手に歪なチェーンソーを手にしている。
何よりその目は至って冷淡。
応戦に出たロッソの乗船員を、彼は手始めに十分割した。
「……ふふ、まさかこんなにもバラせるとは思いませんでしたよ」
チェーンソーを振るい、振るい、人間をブロック状に解体していく。
「向こうでは綺麗なモノしかバラしてなかったですからねぇ……」
元の世界では遺体処理を担当していた。つまり人を解体し、業務用ミキサーで砕いて流すといった作業だ。
彼の欲望はそこに端を発している。
生物をバラバラにしたい。
死体ですらもバラバラに。
それが彼の全てだった。
「ですが、こんなにバラせるのなら美しさなど関係ないですね」
彼がぼそりと術を唱えると、バラバラになった死骸は独りでに縫合され、ブロックで作った歪な肉人形が誕生する。
彼が人をバラす度に、組み合わさって新たな人形が生まれる。
それはすぐさま軍勢となった。
彼はもう生者を解体することもない。異形の軍勢が踏み荒らした死骸を見つけては、嬉々としてチェーンソーを振り上げる。
増えすぎて通行に邪魔な肉の物体をも解体しながら、彼は薄く笑った。
「さぁ、もっとバラバラにさせて下さいよ。僕を満足させて下さい……」
●
そして、ついにチマキマル(ka4372)は辿り着いた。
「ここが、神霊樹」
彼の見上げる先では、この世界の最後の拠り所が、外の惨状を押しのけるようにして枝葉を広げていた。
「ようやく見つけた」
長い旅路だった。
「なんとか終末に間に合った」
世界中ありとあらゆる人間の圏内にて巻き起こった死と殺戮、歪虚たちが削ぎ集めたマテリアルが彼の手へと宿る。
収穫の能力。
この時世界中で散逸しようとした膨大なマテリアルが、彼の呼びかけに答え、集った。死者の想念をかき集める死神の如くに。
「さあ、はじめよう……私の可愛い七眷属の子供たちのために」
彼はただ歪虚の繁栄を望む者。
数多の精霊も、怯える茸の化生も、そして手を広げる聖なる樹木も、全てはそのための儀式の生贄にすぎない。
その規模を指して、世界魔法と呼ぶ。
集められたマテリアルが澱み、朽ち果て、神霊樹を飲み込んでいく。
そうして生まれたのは、天を衝く樹木であった。
骨の幹に肉の梢、血を流し、脂を滴らせ、爪と指先の葉を広げる、瘴気でできた奇形の大樹。
死体と巨樹のカリカチュア。
「天を見上げよ、私はお前たちの道だ……」
彼はその樹木の前で両手を広げた。
奈落より深い黒のローブを翻し、骨の王は高らかに告げる。
「そして喝采せよ、我等の永遠の繁栄に……!」
黄の林檎が実って落ちる。
腐臭をまき散らすそれは、地に落ちては砕けて散った。
●
そして、誰もいなくなった。
「力を、手に入レタノ」
暴食の剣機であるそれは、かつてはノアール=プレアール(ka1623)と呼ばれていたらしい。
姿形は白衣の女性だが、構成物は屍肉と機械。武器で織られた歪な肉人形だ。
彼女は文字通り、歩み一つで大地を割る。
「今の私のカラダは、武器そのものヨ。まるで、かの剣機、リンドヴルムのよう」
かつて帝国が確認していた不壊の剣機とは比べるべくもない。
「フフッ、意ノママに力を操れるワ」
王都イルダーナは、既にしてその栄華の七割以上を失っていた。
覚醒者の男の頭を刃で貫く。ケーブルを突き立て血肉を啜り、死骸を引きずりながら次の獲物を探す。
――彼女の後ろには、無数の死骸が繋がれていた。
白衣の裾が長く伸びたかのように、まるで縋るようにしてケーブルに繋がれた蒼白な死者の、群れ、群れ、群れ。
死葬の行列が止まることはない。割れた石畳で頭蓋が跳ねる音が、荘厳な打楽器のように響く。
「そこで止まれ、剣機」
その歩みに、青い目の青年が一人立ち塞がった。
「無駄ヨ!」
踏み鳴らした足が重機のように大地を割った。
腕から伸びた刃が、家屋三つを輪切りにしながら青年へと向かう。辛うじて躱した彼の腕が宙を舞う。
一挙手一投足が破壊を齎すこの感覚、底の見えない力。彼女はただその深淵を見たかった。
気丈に立ち上がる青目の青年に、彼女は両腕を広げて吠えた。
「ワタシが喰らってあげるワ!」
その刃をどうにか振り払い、青い目を真っ直ぐ彼女に向けて、青年は一歩踏み込んでくる。
青い、どこか懐かしい目を。
「……私と、同ジ目」
そんな訳がない、と彼女は否定する。その身は剣機。破壊の化身。滅ぶ運命の人の子などと同一であるわけがない。
そう自分に言い聞かせる彼女は、青年の一撃に気付き、反射的にその剣を伸ばした。
二つの刃がすれ違った。
「――さよなら、姉さん」
崩れ落ちる青年を見ながら、彼女は呆然と膝をつく。
「嗚呼、スッカリ忘レテタワ」
青かった目が瞼に隠されると、ぶつん、と背のケーブルが弾け飛んだ。
「私も死ヌノハ2回目……だったワネ……」
●
外の喧騒とは裏腹に、玉座は静かだった。
そこにあるべき王女の姿はどこにもなく、また座る者も、最早なかった。
ユージーン・L・ローランド(ka1810)はその身に花を咲かせた従者を傍に控えさせると、主を失った玉座の手前、倒れ伏す少女が灰と化すのを見送った。
「……僕は王国を愛していました。愛しています」
年の頃は12ほどに見える。細く、小さな子のようだ。かつて彼は王国貴族の子だったが、五年前のイスルダ島における騒乱にて堕落した。
炯々と光る赤い目を伏せ、彼は訥々と言葉を捧ぐ。
「でも、死んでいった兄様や部下達の無念も忘れられなかった」
皆死んだ。彼の乳兄弟も死んだ。果たしてそれが誰のせいであったかは分からない。もし彼が生き残ったならどうなったかも分からない。
ただ、狂ってしまった彼にとっては、それは王国のせいであった。国家の破綻が所以だと彼は信じていた。
「さようなら王女様。さようなら、王国。安心してください、後は僕が引き継ぎます」
最早物事を正しく測る物差しは彼の胸中にはない。ただ他者の振る舞いを己の理想と挿げ替えるのみ。
故に。
「――まこと至福千年の国を築いて見せましょう」
彼の望みとは、誰も死なぬ国である。
吸い上げたマテリアルの蕾が花開いた。夜闇のような黒薔薇である。彼はその一輪を摘み取った。
彼は人の命を花弁に変える力を持つ。従者の身を割って咲くそれも然り。そして当然それは、国民や家臣で作った花だった。
玉座にそっと添えられた一輪の黒薔薇。花言葉は、憎しみ、不滅の愛、「あなたはあくまで私のもの」。
長く黙祷を捧げた彼は、臣下の礼を緩やかに解いて、その両腕を広げた。
「さあ、僕らの国の糧となって下さい」
――そして、王城は薔薇に埋もれて消えた。
建材を茨が這い回り、床を破り窓を割り、巡り巡る。そこかしこで黒い花弁が咲き誇る。
その屋上、大輪の黒薔薇の上で、いつものように従者の肩に腰掛けた。
「次は帝国だね。帝国は何にしようかな。ジルがいつもくれる白百合でもいいけど、黒百合も綺麗だと思うんだ」
夢見心地に彼は呟きながら、玉座で摘み取った黒薔薇の、もう一輪を口にした。
「ジルは何がいい?」
従者の口元に赤薔薇を運び、彼はくすくすと笑っていた。
いつまでも。
●
フィオ(ka1854)。蝙蝠の羽と耳を持ち、両足を繋がれた堕落者。
指図を嫌う孤独な蝙蝠は、辺境要塞ノアーラ・クンタウの上空を飛んでいた。
「私達を見捨てた引きこもりは、さっさと引きずり出してあげなくちゃいけませんからね」
彼女はかつて辺境の砂漠地帯で暮らしていたが、彼女のいた集落は救援を受けることが出来ずに滅んだ。その恨みを晴らそうというのだ。
彼女は偵察に出た先遣隊だが、最早辺境に抵抗する気力は残されていない。偵察というのも名目だ。後詰の連中がやって来ればすぐ瓦解するだろう。
「人が滅ぶ事は至極当然な流れ、ですね。今日は私の占った通り、世界を壊すには最適な日ね」
星の導く侭に、と呟きながら、降下していく。
ラッキーアイテムと称して連れてきた蝙蝠歪虚をけしかけ、随分数の減った部族の長やその副官など、要人を攫わせる。その他の連中は皆殺しだ。
所詮はお遊び、手慰み。
要塞の一角を占拠すると、彼女は拉致した連中の一人を縛り上げて跪かせる。
その爪を刃物のように鋭く伸ばし、連中の体に傷を刻みつけた。
嬲るように、執拗に、かつての恨みを込めて。
「私の占いによると、貴方は今日命を散らすのです」
腕の骨が見えるまで肉をこそぎ落とした頃に、彼女はそう口にした。
「命乞いをすれば多少考慮はしてあげますけど――」
「た、助けて! 助けてくれ! 死にたくな」
「まぁ、考えるだけですから」
当然、飽きただけだ。
「願っても援けの来ない瞬間っていうのを、是非教えないと……」
転がった首を蹴飛ばして、彼女は次のおもちゃを待つ。
遠く聞こえる巨人の足音を聞きながら。
●
辺境要塞をやや離れた地にて、ティアナ(ka2639)は傷ついた兵士を見つけた。
「あらあら」
見ればそこは戦場だったらしく、多くの人が転がっている。どうやら生きているものもいるようだ。
彼女はそっと手を翳して、その力を行使した。
近くにあった木が枯れ腐り、ぐずぐずと崩れ落ちる。代わりに、彼女の目の前で倒れる兵士の傷が瞬く間に塞がった。
「う、あ……」
「目が覚めましたかぁ?」
瞼を持ち上げた兵士を見て、彼女はにこやかに男の額を撫でた。
赤黒い髪はともかく羊のような巻角は明らかに異質だったが、死の淵から生還したという事実にはそれらを見落とさせるだけの力があった。
「あ、あなたが……助けてくれたのか?」
「はい、勿論」
「おお……ありがとう、ありがとう……」
兵士は涙を流して目を閉じた。それを他所に、彼女はいつも通りに問いかけを行う。
「ねぇ、あなたにとって、愛ってなにかしら~?」
「は……?」
にこにこと場違いな問いかけを発した彼女を兵士は暫く呆けた顔で見ていたが、やがてぽつぽつと、月並みな答えを口にした。
「つまらない答えですねぇ」
彼女の顔から笑みが抜けた。
兵士がそれを認識した時には、彼女はその踵を振り上げていた。死の理由も彼女の行動も理解できないまま、男は頭を破裂させて死んだ。
彼女は次の兵士に近寄っていき、またその手を翳した。回りの大地が腐って澱み、兵士の傷が癒える。
彼女の能力、治癒というのはあくまで見かけ。実際は収奪と汚染である。
「正義と悪って、なんなのでしょう~?」
「これから人々はどうなるのでしょうねぇ」
彼女は次々と質問を口にしては、頭部を踏み潰して次の患者へと向かう。質問の答えなど端からどうでもよいのだ。気に入らない答えが出たなら、殺すのみ。
彼女は傲慢な論理を振りかざす。
「私の問いは全て至極真っ当な物よぉ? でもそれを適当に答えるから――」
そして、頭を踏み潰した。
●
ネイハム・乾風(ka2961)は、遥か眼下に極彩色の町並みを捉えていた。
自由都市同盟の事実上の首都、ヴァリオス。
彼は狙撃銃を覗き込み、溜息を吐いた。生気を感じさせぬ青白い肌。
「終わってしまうのか……つまんないな、まだまだ撃ち足りないのにね」
遠く離れた山の上だ。彼の目は最早人のものではない。そして、彼が手にする銃もまた。
「まぁ、いいや。残りも余さず撃ち抜こう」
この飢餓を満たすために。
その赤紫の瞳が、スコープ越しに一人の男を捉えた。街の一般人らしい。次は子供。その母親。通りに出て、無数の人々。
「誰でもいい、そうだね、元気なものから狙っていこう」
ひとつふたつと数えながら、彼は引き金を引いた。パン、と間抜けに男の腕が爆ぜ、吹き飛んだ。
どよめきを目にしつつ、続けて引き金を弾く。次は足。そして胴体に三つ穴を開け、喉をぶち抜き、宙を舞った頭を空中で破裂させた。
その頃ようやく街道を恐慌が覆い尽くした。それに合わせて他の歪虚たちも侵攻を始めたらしい。
引き金をひとつ引く度に周囲の人間が大口を開け、大地を転がり、逃げ惑う。そうこうしているうちに他の歪虚が街中へと雪崩れ込む。
「邪魔だね……」
だが彼は、気にも留めずに歪虚ごと人間をぶち抜いた。
「これで、柘榴が四十と七つ」
なぜそうするかと言われれば、単純に本能故だ。空腹を満たす為に食事をするのと同じこと。
――餓えていたのは、果たしていつからだろうか。それは本当に、堕落した故の欲望だろうか?
彼は引いた引き金を戻す一瞬でそれを思考し、引き金が戻りきった音でそれを忘れた。
一つ。また、一つ。
ついぞヴァリオスからは、穴の開かないものはなくなった。
終わってしまった、とふと気付く。
「世界に引導を――ならそれが終わったら?」
結論はすぐに出た。
「あぁ、違う、最後に残ったのは誰だっけ?」
彼は未だこの場で動いているものへ向けて、引き金を引いた。
●
かつて、J(ka3142)は述懐した。
「そういえば、こういう手もありましたね。歪虚のチカラを取り込んで、人を管理すればいい」
彼女は両手を広げて、己に満ちていく負のマテリアルを感じ取った。
「いずれは、歪虚の中での一大勢力として人のチカラを知らしめましょう」
内側から作り替えられていく自分の体を感じ、機械化していく夢想の中で、彼女は天高くに両腕を突き出した。
「歪虚、ヒトのチカラで内部から食い散らかして差し上げますよ」
――そしてリゼリオにて。
彼女だったものは前線の一角にて歪虚たちを指揮していた。
有能な敵を捕縛し、マテリアルで侵食し、歪虚に変える。
可能な限りでえ被害を抑えつつ、機械化された人間の歪虚を配下に、彼女だったものは淡々と戦場を攻略していく。
街の最も高い位置にて、広く名の知れたある歪虚は、問いかけにこう答えた。
「……ああ、あやつか。便利な人形よ。転がっていたから拾ってきた」
滅び行くリゼリオを眼下に捉えながら答える様は、つまらない玩具を見るそれだった。
「堕落者? 歪虚? それは冗句か?」
歪虚は鼻を鳴らした。
「あれは雑魔だ。誰の導きもなくこちら側を選んだ人間は、概ねそこに行き着く。己の悪徳も宣じれぬようではな」
機敏に働き、優れた戦術を披露し、兵站と人材を管理する彼女は、知性のない雑魔とは思えない。
「……人材を奪って勢力を拡大しているように見えるか。その通りだ。戦力を溜め込み、管理する雑魔なのだよ。便利だろう?」
歪虚は一頻り笑うと、また鼻を鳴らした。
「我らの内に潜り込み、戦力を溜めて反攻する腹積もりらしい。全く面白い話だと思わんか」
歪虚は興味が失せたらしく、踵を返した。
「奴はもう、自分が何を滅ぼしたかも分からんのだよ」
●
牧野(ka4347)はふらふらと、サルヴァトーレ・ロッソへと乗り込んだ。
へらへら笑う男だが、強欲の眷属らしく龍の鱗を貼り付け、その手に歪なチェーンソーを手にしている。
何よりその目は至って冷淡。
応戦に出たロッソの乗船員を、彼は手始めに十分割した。
「……ふふ、まさかこんなにもバラせるとは思いませんでしたよ」
チェーンソーを振るい、振るい、人間をブロック状に解体していく。
「向こうでは綺麗なモノしかバラしてなかったですからねぇ……」
元の世界では遺体処理を担当していた。つまり人を解体し、業務用ミキサーで砕いて流すといった作業だ。
彼の欲望はそこに端を発している。
生物をバラバラにしたい。
死体ですらもバラバラに。
それが彼の全てだった。
「ですが、こんなにバラせるのなら美しさなど関係ないですね」
彼がぼそりと術を唱えると、バラバラになった死骸は独りでに縫合され、ブロックで作った歪な肉人形が誕生する。
彼が人をバラす度に、組み合わさって新たな人形が生まれる。
それはすぐさま軍勢となった。
彼はもう生者を解体することもない。異形の軍勢が踏み荒らした死骸を見つけては、嬉々としてチェーンソーを振り上げる。
増えすぎて通行に邪魔な肉の物体をも解体しながら、彼は薄く笑った。
「さぁ、もっとバラバラにさせて下さいよ。僕を満足させて下さい……」
●
そして、ついにチマキマル(ka4372)は辿り着いた。
「ここが、神霊樹」
彼の見上げる先では、この世界の最後の拠り所が、外の惨状を押しのけるようにして枝葉を広げていた。
「ようやく見つけた」
長い旅路だった。
「なんとか終末に間に合った」
世界中ありとあらゆる人間の圏内にて巻き起こった死と殺戮、歪虚たちが削ぎ集めたマテリアルが彼の手へと宿る。
収穫の能力。
この時世界中で散逸しようとした膨大なマテリアルが、彼の呼びかけに答え、集った。死者の想念をかき集める死神の如くに。
「さあ、はじめよう……私の可愛い七眷属の子供たちのために」
彼はただ歪虚の繁栄を望む者。
数多の精霊も、怯える茸の化生も、そして手を広げる聖なる樹木も、全てはそのための儀式の生贄にすぎない。
その規模を指して、世界魔法と呼ぶ。
集められたマテリアルが澱み、朽ち果て、神霊樹を飲み込んでいく。
そうして生まれたのは、天を衝く樹木であった。
骨の幹に肉の梢、血を流し、脂を滴らせ、爪と指先の葉を広げる、瘴気でできた奇形の大樹。
死体と巨樹のカリカチュア。
「天を見上げよ、私はお前たちの道だ……」
彼はその樹木の前で両手を広げた。
奈落より深い黒のローブを翻し、骨の王は高らかに告げる。
「そして喝采せよ、我等の永遠の繁栄に……!」
黄の林檎が実って落ちる。
腐臭をまき散らすそれは、地に落ちては砕けて散った。
●
そして、誰もいなくなった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/09 16:39:29 |