ゲスト
(ka0000)
魔弾の射手
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/04/13 12:00
- 完成日
- 2015/04/14 05:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●射る先にあるモノ
その人形は、元は求愛の証としてとある貴族の令嬢に捧げるために作らせたものだった。
恋を成就させる妖精の人形と、その弓矢によって恋に落ちる男女と、その周りの人間を象った精巧な人形たち。
ほぼ実寸大で作られたその人形たちはしかし捧げられる前に依頼人の死によって舞台に上がる資格を奪われる。
人形師は青年と懇意だったため、完成した人形をせめて、と青年が求愛した令嬢へ贈ろうとしたが「死者から贈り物をもらうようで気味が悪い」と突っぱねられ、そこで物語は終わるはずだった。
親友の思いを受け入れないどころか蔑んだ令嬢に対し激しい怨嗟を抱いてしまった人形師がその激情の果てに命を絶ち、長い間発見されなかった人形たちが雑魔となってさえいなければ。
「人形が雑魔化っていうのは結構あるみたいだね。去年の秋ごろお願いした菊を纏った人形退治もそうだったし、最近は人形館でたくさんの人形の討伐をお願いしたっけ。
今回は物語を元に作られた人形たちが揃って雑魔化してたっていう依頼。
どうも人形師が人嫌いで、唯一交流していた依頼人であり友人である青年の頼みで作った人形を、青年が捧げたかった相手に気味が悪い、といわれたことを恨んで、それが長い間残留思念のように残っていたらしい。
それにさらされ続けた人形が雑魔化したって経緯みたいだね。
物語は妖精の悪戯によって恋に落ちた男女と、その周りを描く古典劇のワンシーンなんだけど……雑魔化したせいか殺戮人形と化してる。
恋を成就させる弓矢は強制的に魅了させる、殺傷力付きの弓矢に、男女は怨念を宿した剣や鉈を、周囲の人を象った人形もそれぞれ武装してる。
今回も残念ながら雑魔化して長い間が経っているから形として残るのは衣類の一部程度だろうね。
手入れして普通の人形として扱うことは不可能な状態まで雑魔が侵食している。
場所は山の中にある人形師の工房兼住居。こちらから出向かない限りは人形たちはでてこないそうだ」
人形絡みの依頼はどうもやるせないね。ルカ・シュバルツエンド(kz0073)はそういってファイルを閉じたのだった。
その人形は、元は求愛の証としてとある貴族の令嬢に捧げるために作らせたものだった。
恋を成就させる妖精の人形と、その弓矢によって恋に落ちる男女と、その周りの人間を象った精巧な人形たち。
ほぼ実寸大で作られたその人形たちはしかし捧げられる前に依頼人の死によって舞台に上がる資格を奪われる。
人形師は青年と懇意だったため、完成した人形をせめて、と青年が求愛した令嬢へ贈ろうとしたが「死者から贈り物をもらうようで気味が悪い」と突っぱねられ、そこで物語は終わるはずだった。
親友の思いを受け入れないどころか蔑んだ令嬢に対し激しい怨嗟を抱いてしまった人形師がその激情の果てに命を絶ち、長い間発見されなかった人形たちが雑魔となってさえいなければ。
「人形が雑魔化っていうのは結構あるみたいだね。去年の秋ごろお願いした菊を纏った人形退治もそうだったし、最近は人形館でたくさんの人形の討伐をお願いしたっけ。
今回は物語を元に作られた人形たちが揃って雑魔化してたっていう依頼。
どうも人形師が人嫌いで、唯一交流していた依頼人であり友人である青年の頼みで作った人形を、青年が捧げたかった相手に気味が悪い、といわれたことを恨んで、それが長い間残留思念のように残っていたらしい。
それにさらされ続けた人形が雑魔化したって経緯みたいだね。
物語は妖精の悪戯によって恋に落ちた男女と、その周りを描く古典劇のワンシーンなんだけど……雑魔化したせいか殺戮人形と化してる。
恋を成就させる弓矢は強制的に魅了させる、殺傷力付きの弓矢に、男女は怨念を宿した剣や鉈を、周囲の人を象った人形もそれぞれ武装してる。
今回も残念ながら雑魔化して長い間が経っているから形として残るのは衣類の一部程度だろうね。
手入れして普通の人形として扱うことは不可能な状態まで雑魔が侵食している。
場所は山の中にある人形師の工房兼住居。こちらから出向かない限りは人形たちはでてこないそうだ」
人形絡みの依頼はどうもやるせないね。ルカ・シュバルツエンド(kz0073)はそういってファイルを閉じたのだった。
リプレイ本文
●悲しき人形劇
若い娘に恋をする青年。恋を成就させる妖精。恋敵の青年に恋愛模様を見守る老夫婦。
そんな人間模様で織りなされる古典劇のワンシーンを、人間とほぼ同じ大きさで人形で再現しようという依頼と、それを受けて人形を作り上げた人形師。
求愛の品として華々しく令嬢のもとへと届けられるはずだったその人形たちは、しかし今も工房にいる。
依頼主の青年が完成を待たずに命を落とし、令嬢は死人からのプレゼントを受け取るようで気味が悪い、とせめて青年の遺志を届けようとした人形師を突っぱねたためだ。
見る者のいない人形劇はそこで終わりを告げるはずだった。
人形師の執念が凝り、人形たちに雑魔としての偽りの命が宿って工房に訪れる人の命を奪う殺戮人形として悲劇を生み出す結果にさえならなければ、或いは人形を取り扱う美術館や博物館で別の形の未来があったのかもしれないけれど。
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)はそんな悲しい物語を終わらせるために殺戮人形の討伐にやってきたハンターの一人。
「人形の作成を依頼した男性はどんな気持ちでこの世を去ったのでしょうか……彼の友人だったという、人形師の方も」
今際の時、二人の青年は何を想ってこの世を去ったのだろう。今となっては知る術もない。
「人形に恨みはねーけどよ。お仕事なのよね、これ」
人形師の家に入る前に少し離れた位置から家の周囲を回って構造を観察した後、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)はやれやれ、と扉の向こうにいるであろう雑魔に対して呟いた。
「等身大の人形だって話だから作業部屋近くに搬出口でもありそうなんだけど……っと、あれか?」
武骨な鉄製の、大きな扉が視界に入ってヴォーイはその搬出口がすぐに中から開けられるものなのか、それとも開けるのには多少なりとも時間がかかるものなのかを見定めるように目を眇める。
「……ははぁ。なるほど。人形が……。人形よりも放置された工房の方が気になりますね……。
雑魔になったとはいえ、せっかく身体があるのですから、自分たちが住まう場所くらいは清掃すればよかったでしょうに……」
どこかずれた感想を漏らしたのはレイ・T・ベッドフォード(ka2398)、この場合、彼が気にしているのは人形が雑魔化するほど負の念が渦巻いている工房へ踏み入る危険というよりは衛生的かどうかという意味合いらしい。
今は雑魔、それより以前は身だしなみは整えられるのが当然の、というより自分では整える術を持たない無機物だった人形たちが清掃が必要だと気を回す可能性はどう控えめに考えてもゼロに近いだろうが、レイにとっては部屋は掃除して居心地よくするのが当たり前、のようだ。
「人形と頻繁に関わるものとして、堕ちてしまった人形を処分する義務があります……今回はがんばりますよ」
人形と自分が別々の行動を同時に取るようなマリオネット操作や、呼吸数を抑えて、仮面を使って人形に成りすますなどの人形に関わる芸を得意とするハーレキン(ka3214)が眉を寄せながらも青い瞳に決意の色を宿す。
「くたばりぞこないのお人形ちゃんは俺様ちゃんがあの世に送ってやるぜい」
精緻に作られた人形は好む者と、気味が悪いと思う者とに分かれることがしばしばあるがゾファル・G・初火(ka4407)はどうやら後者のタイプの様子。
拒否した令嬢の感性が理由は違えども一番共感できるが、作り出された目的自体を否定される人形に同情も欠片程度にはする。
「ま、戦えれば何でもいいけどな。すべてがフレーバー、どーでもいい話だ」
ゾファルにとっては倒すべき敵か一時的にでも味方になる存在か、戦う時に重要視するのはそれだけでよかった。
戦うための理由があればそれで良しとしてきた彼女にとって戦いの背景にある心情や理由はなくていい、むしろない方がいい。自分にとっての敵を打ち砕く。そんなシンプルなものほど分かりやすくて向いていると考えるタイプだ。
「こういうの、トラジェディーっていうのよね? 嫌いじゃないわよ」
アルベルト・レベッカ・ベッカー(ka4418)はそう言いながら僅かに笑みをこぼす。
男性二人の人生も、残された人形の辿った道も確かに悲劇といえるだろう。
観客に死をもたらす、連鎖する悲劇。
「……人形師の負の想いが凝り固まって雑魔化したと聞きましたが……どれほどの闇を抱えていたのでしょうか。悲しいことですね。
……ですが、雑魔となった以上退治するのにためらいなどありません。わたしも尽力させていただきます」
Hollow(ka4450)は気持ちを切り替えるように一度目を閉じた後で扉へと意識を集中させる。
「ひとりでに動く人形。気味が悪いと捉えるか、童話のようだと捉えるかは人次第だと思いますが……私は、できれば童話の方であってほしかったです」
リアルブルーでも呪いの人形の話はよく聞いていた八代 遥(ka4481)にとって、怨念がこもれば人形でも雑魔となるという事自体には違和感を感じないが、こんな話は悲しすぎる、と小さく呟く。
「悲劇に幕引きを、人形たちに終わりを告げなくては」
望まれる形で始まる事も出来なかった物語の幕を引くために自分たちはやってきたのだから。
●始まらなかった物語に幕引きを
ハンターたちが工房の入り口をくぐると薄暗い室内で、カーテンのかかっていない窓から差し込む陽光に鈍く光る刃物。
殺戮劇を演じる役者と化した人形たちが手にした彼らの武器だ。
「悲劇を連鎖させないためにも……ごめんね、貴方たちだってこんな風になるために作られたわけじゃないのに……!」
遥は人形たちに詫びながら、一番厄介だと思われる魅了の矢を武器とする妖精の姿を象った人形へ向けてウィンドスラッシュを放つ。
Hollowはヴォーイ、ソファル、レイの三人に防性強化をかけてサポート、自身には攻性強化を施した。
彼女が狙いを定めるのは物語の脇役となる三体の人形。
「できれば、違う形で対面したかったですね……」
Hollowが補助の行動を取っている間、彼女同様脇役三体に狙いを定めていたアルベルトは足元、特に膝の関節の破壊を狙って攻撃していた。
膝の関節が砕かれてもそのままハンターたちへ向かって歩みを進める人形たちの精緻だが虚ろな表情。
生物ならば歩行に支障を来すはずの損壊にも拘わらず動き続ける人形の様子を見て、アルベルトは狙いを膝関節から頭部へと変更する。
「歩けなくなってくれればその分楽にあの世への引導を渡してあげられたんだけれど……残念だわ」
脇役三体を、こちらは前衛として相手取るゾファル。
巨人が用いるという手斧に持ち手を付けて整えた巨大な斧を大きく振り回せば、勢いと力が人形たちを蹂躙する。
ハーレキンは中距離に陣取りながら主役の二人に向けてチャクラムを投げつける。
それを鬱陶しく思ったらしい男性型の人形が近づいてくれば鞭で応戦はするものの。
「うわああ――こないでこないで!」
近距離戦をあまり得意としないためか、大分必死な様子だ。
「処分する義務はありますけど僕、接近戦はあまり得意じゃ……来ないでってば!」
青白い茨の蔓に似た、無数の棘のある鞭が男性型の人形の足元に絡まり引き倒す形になると同時に改めて距離を取り直すハーレキン。
「鞭持ってきてよかった……っ!」
「妖精が恋を唆した――ということですが。
……どう、なったのでしょうね、この二人の恋の結末は」
物語を擬えているとはいえ、意中の相手に送る人形としては不適切さを感じながらもレイは止まることなく魅了の矢を放つ人形に攻撃を叩き込む。
「貴方がたには、人を襲ったこと以外、罪はないのでしょうね。
生い立ちが悲しいものではありますが……」
何を想って青年がこの物語を人形に仕立てることを選んだのか、当事者が全員この世を去った今となっては分からない。
妖精の力を借りてでも恋を成就させたいと願うほど夢中だということを令嬢に伝えたかったのかもしれないし、令嬢がこの物語を好んでいたのかもしれない。
或いはまったく別の想いをこの人形に仮託したのかもしれない。
いずれにせよ、こんな結末になるはずではなかった。しかし悲劇として誰も望まない形で幕が上がった以上、なにがしかの形で幕は降ろさなければならなかった。雑魔が関わっているなら、特に。
妖精の姿を象った人形が蓄積したダメージに耐え切れずに砕け散る。それとほぼ時を同じくして老人の姿をした人形も崩れ去った。
ハーレキンが相手取っていた男性型と、男性型の人形に庇われながら攻撃を繰り出していた女性型の人形をノックバックで弾き飛ばしながら屋外に追い立てるとヴォーイは男性型の人形に向かって祖霊の力を込めた武器を大きく振りぬいた。
近接攻撃を仕掛けてくる敵は前衛の仲間に任せ、遠距離からもう一体の妖精型の人形を射撃するシルヴィア。
造花で作られた茨と蔦薔薇が意志を持った生き物のように部屋中を縦横無尽に駆け巡る。操っているのはシルヴィアが相手取っている人形だ。
脇役三体を全て塵に帰したハンターたちも加わって男女の人形と妖精型の片割れは追い込まれていく。
「魔弾を撃てるような、そんな、強い人間になりたいです」
これから助けることのできる誰かのために求める強さ。
シルヴィアはせめて悲劇から解放されるようにと願いを込めて銃弾で妖精の頭部を射抜いた。
「人の勝手に感情に振り回されて災難だったな。今、終わらせてやる」
ヴォーイが最後まで女性を庇うことに重きを置いた男性の人形の首を薙ぎ払うと、それが致命傷となった。
最後に残った女性型の人形も程なくして他の人形たちの後を追う形で割れた窓から吹き込んだ風に塵となった体を散らしていった。
「……終わりましたね。これで任務は終了ですが……後片付けをさせてください!
残留思念とやらも、健やかな環境でなら静まるのでは」
開戦前から工房の衛生環境が気になり続けていたレイは戦いが終わると真っ先にそんなセリフを口にした。
「俺はさっさと帰らせてもらうぜ。……切り替えが早すぎるって?
俺も人間だからな、勝手なイキモノなのさ」
ヴォーイは数分前に見せた感傷的な態度をあっさりと捨て去りさっさと帰る準備。
「人形の衣服だけでも、埋葬させてください。弔ってあげたいのです。
少しでも彼の心が安らぐように」
シルヴィアが掃除はレイに任せ、自分は人形たちの衣服だけでも弔いたいと申し出る。
「後片付けとお葬式はやりたい奴に任せるぜ。俺様ちゃんはさっさと帰るわ。弔意がない奴に弔われても嬉しくないじゃん?」
ゾファルもそういってヴォーイと同じく帰り支度を始める。
ハーレキンは人形たちの未来のなさにかつての自分を重ねたのか、それとも弔いも義務の一環と考えたのかシルヴィアを手伝っていくと名乗りを上げた。
アルベルトも悲劇は最後まで見届ける、と手伝っていくことを選び、Hollowは人形師と人形たちの魂が安らぐようにとエクラ教の鎮魂の言葉を墓に捧げるためにその場に残った。
「……わたしにはこれくらいしかできませんが」
遥は何か隠れて、あるいは隠されていないかを確認するためにレイを手伝いがてら工房の内部を改めた後で消滅してしまった人形たちの残滓の供養を手伝った。
こうして舞台は幕を下ろし、古典劇として恋愛模様を演じるはずだった人形たちは殺戮人形としての偽りの生を終え、今は静かに眠っている。
先に黄泉路へと旅立った三人の負の遺物は長い時を経てようやく解放されたのだった。
若い娘に恋をする青年。恋を成就させる妖精。恋敵の青年に恋愛模様を見守る老夫婦。
そんな人間模様で織りなされる古典劇のワンシーンを、人間とほぼ同じ大きさで人形で再現しようという依頼と、それを受けて人形を作り上げた人形師。
求愛の品として華々しく令嬢のもとへと届けられるはずだったその人形たちは、しかし今も工房にいる。
依頼主の青年が完成を待たずに命を落とし、令嬢は死人からのプレゼントを受け取るようで気味が悪い、とせめて青年の遺志を届けようとした人形師を突っぱねたためだ。
見る者のいない人形劇はそこで終わりを告げるはずだった。
人形師の執念が凝り、人形たちに雑魔としての偽りの命が宿って工房に訪れる人の命を奪う殺戮人形として悲劇を生み出す結果にさえならなければ、或いは人形を取り扱う美術館や博物館で別の形の未来があったのかもしれないけれど。
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)はそんな悲しい物語を終わらせるために殺戮人形の討伐にやってきたハンターの一人。
「人形の作成を依頼した男性はどんな気持ちでこの世を去ったのでしょうか……彼の友人だったという、人形師の方も」
今際の時、二人の青年は何を想ってこの世を去ったのだろう。今となっては知る術もない。
「人形に恨みはねーけどよ。お仕事なのよね、これ」
人形師の家に入る前に少し離れた位置から家の周囲を回って構造を観察した後、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)はやれやれ、と扉の向こうにいるであろう雑魔に対して呟いた。
「等身大の人形だって話だから作業部屋近くに搬出口でもありそうなんだけど……っと、あれか?」
武骨な鉄製の、大きな扉が視界に入ってヴォーイはその搬出口がすぐに中から開けられるものなのか、それとも開けるのには多少なりとも時間がかかるものなのかを見定めるように目を眇める。
「……ははぁ。なるほど。人形が……。人形よりも放置された工房の方が気になりますね……。
雑魔になったとはいえ、せっかく身体があるのですから、自分たちが住まう場所くらいは清掃すればよかったでしょうに……」
どこかずれた感想を漏らしたのはレイ・T・ベッドフォード(ka2398)、この場合、彼が気にしているのは人形が雑魔化するほど負の念が渦巻いている工房へ踏み入る危険というよりは衛生的かどうかという意味合いらしい。
今は雑魔、それより以前は身だしなみは整えられるのが当然の、というより自分では整える術を持たない無機物だった人形たちが清掃が必要だと気を回す可能性はどう控えめに考えてもゼロに近いだろうが、レイにとっては部屋は掃除して居心地よくするのが当たり前、のようだ。
「人形と頻繁に関わるものとして、堕ちてしまった人形を処分する義務があります……今回はがんばりますよ」
人形と自分が別々の行動を同時に取るようなマリオネット操作や、呼吸数を抑えて、仮面を使って人形に成りすますなどの人形に関わる芸を得意とするハーレキン(ka3214)が眉を寄せながらも青い瞳に決意の色を宿す。
「くたばりぞこないのお人形ちゃんは俺様ちゃんがあの世に送ってやるぜい」
精緻に作られた人形は好む者と、気味が悪いと思う者とに分かれることがしばしばあるがゾファル・G・初火(ka4407)はどうやら後者のタイプの様子。
拒否した令嬢の感性が理由は違えども一番共感できるが、作り出された目的自体を否定される人形に同情も欠片程度にはする。
「ま、戦えれば何でもいいけどな。すべてがフレーバー、どーでもいい話だ」
ゾファルにとっては倒すべき敵か一時的にでも味方になる存在か、戦う時に重要視するのはそれだけでよかった。
戦うための理由があればそれで良しとしてきた彼女にとって戦いの背景にある心情や理由はなくていい、むしろない方がいい。自分にとっての敵を打ち砕く。そんなシンプルなものほど分かりやすくて向いていると考えるタイプだ。
「こういうの、トラジェディーっていうのよね? 嫌いじゃないわよ」
アルベルト・レベッカ・ベッカー(ka4418)はそう言いながら僅かに笑みをこぼす。
男性二人の人生も、残された人形の辿った道も確かに悲劇といえるだろう。
観客に死をもたらす、連鎖する悲劇。
「……人形師の負の想いが凝り固まって雑魔化したと聞きましたが……どれほどの闇を抱えていたのでしょうか。悲しいことですね。
……ですが、雑魔となった以上退治するのにためらいなどありません。わたしも尽力させていただきます」
Hollow(ka4450)は気持ちを切り替えるように一度目を閉じた後で扉へと意識を集中させる。
「ひとりでに動く人形。気味が悪いと捉えるか、童話のようだと捉えるかは人次第だと思いますが……私は、できれば童話の方であってほしかったです」
リアルブルーでも呪いの人形の話はよく聞いていた八代 遥(ka4481)にとって、怨念がこもれば人形でも雑魔となるという事自体には違和感を感じないが、こんな話は悲しすぎる、と小さく呟く。
「悲劇に幕引きを、人形たちに終わりを告げなくては」
望まれる形で始まる事も出来なかった物語の幕を引くために自分たちはやってきたのだから。
●始まらなかった物語に幕引きを
ハンターたちが工房の入り口をくぐると薄暗い室内で、カーテンのかかっていない窓から差し込む陽光に鈍く光る刃物。
殺戮劇を演じる役者と化した人形たちが手にした彼らの武器だ。
「悲劇を連鎖させないためにも……ごめんね、貴方たちだってこんな風になるために作られたわけじゃないのに……!」
遥は人形たちに詫びながら、一番厄介だと思われる魅了の矢を武器とする妖精の姿を象った人形へ向けてウィンドスラッシュを放つ。
Hollowはヴォーイ、ソファル、レイの三人に防性強化をかけてサポート、自身には攻性強化を施した。
彼女が狙いを定めるのは物語の脇役となる三体の人形。
「できれば、違う形で対面したかったですね……」
Hollowが補助の行動を取っている間、彼女同様脇役三体に狙いを定めていたアルベルトは足元、特に膝の関節の破壊を狙って攻撃していた。
膝の関節が砕かれてもそのままハンターたちへ向かって歩みを進める人形たちの精緻だが虚ろな表情。
生物ならば歩行に支障を来すはずの損壊にも拘わらず動き続ける人形の様子を見て、アルベルトは狙いを膝関節から頭部へと変更する。
「歩けなくなってくれればその分楽にあの世への引導を渡してあげられたんだけれど……残念だわ」
脇役三体を、こちらは前衛として相手取るゾファル。
巨人が用いるという手斧に持ち手を付けて整えた巨大な斧を大きく振り回せば、勢いと力が人形たちを蹂躙する。
ハーレキンは中距離に陣取りながら主役の二人に向けてチャクラムを投げつける。
それを鬱陶しく思ったらしい男性型の人形が近づいてくれば鞭で応戦はするものの。
「うわああ――こないでこないで!」
近距離戦をあまり得意としないためか、大分必死な様子だ。
「処分する義務はありますけど僕、接近戦はあまり得意じゃ……来ないでってば!」
青白い茨の蔓に似た、無数の棘のある鞭が男性型の人形の足元に絡まり引き倒す形になると同時に改めて距離を取り直すハーレキン。
「鞭持ってきてよかった……っ!」
「妖精が恋を唆した――ということですが。
……どう、なったのでしょうね、この二人の恋の結末は」
物語を擬えているとはいえ、意中の相手に送る人形としては不適切さを感じながらもレイは止まることなく魅了の矢を放つ人形に攻撃を叩き込む。
「貴方がたには、人を襲ったこと以外、罪はないのでしょうね。
生い立ちが悲しいものではありますが……」
何を想って青年がこの物語を人形に仕立てることを選んだのか、当事者が全員この世を去った今となっては分からない。
妖精の力を借りてでも恋を成就させたいと願うほど夢中だということを令嬢に伝えたかったのかもしれないし、令嬢がこの物語を好んでいたのかもしれない。
或いはまったく別の想いをこの人形に仮託したのかもしれない。
いずれにせよ、こんな結末になるはずではなかった。しかし悲劇として誰も望まない形で幕が上がった以上、なにがしかの形で幕は降ろさなければならなかった。雑魔が関わっているなら、特に。
妖精の姿を象った人形が蓄積したダメージに耐え切れずに砕け散る。それとほぼ時を同じくして老人の姿をした人形も崩れ去った。
ハーレキンが相手取っていた男性型と、男性型の人形に庇われながら攻撃を繰り出していた女性型の人形をノックバックで弾き飛ばしながら屋外に追い立てるとヴォーイは男性型の人形に向かって祖霊の力を込めた武器を大きく振りぬいた。
近接攻撃を仕掛けてくる敵は前衛の仲間に任せ、遠距離からもう一体の妖精型の人形を射撃するシルヴィア。
造花で作られた茨と蔦薔薇が意志を持った生き物のように部屋中を縦横無尽に駆け巡る。操っているのはシルヴィアが相手取っている人形だ。
脇役三体を全て塵に帰したハンターたちも加わって男女の人形と妖精型の片割れは追い込まれていく。
「魔弾を撃てるような、そんな、強い人間になりたいです」
これから助けることのできる誰かのために求める強さ。
シルヴィアはせめて悲劇から解放されるようにと願いを込めて銃弾で妖精の頭部を射抜いた。
「人の勝手に感情に振り回されて災難だったな。今、終わらせてやる」
ヴォーイが最後まで女性を庇うことに重きを置いた男性の人形の首を薙ぎ払うと、それが致命傷となった。
最後に残った女性型の人形も程なくして他の人形たちの後を追う形で割れた窓から吹き込んだ風に塵となった体を散らしていった。
「……終わりましたね。これで任務は終了ですが……後片付けをさせてください!
残留思念とやらも、健やかな環境でなら静まるのでは」
開戦前から工房の衛生環境が気になり続けていたレイは戦いが終わると真っ先にそんなセリフを口にした。
「俺はさっさと帰らせてもらうぜ。……切り替えが早すぎるって?
俺も人間だからな、勝手なイキモノなのさ」
ヴォーイは数分前に見せた感傷的な態度をあっさりと捨て去りさっさと帰る準備。
「人形の衣服だけでも、埋葬させてください。弔ってあげたいのです。
少しでも彼の心が安らぐように」
シルヴィアが掃除はレイに任せ、自分は人形たちの衣服だけでも弔いたいと申し出る。
「後片付けとお葬式はやりたい奴に任せるぜ。俺様ちゃんはさっさと帰るわ。弔意がない奴に弔われても嬉しくないじゃん?」
ゾファルもそういってヴォーイと同じく帰り支度を始める。
ハーレキンは人形たちの未来のなさにかつての自分を重ねたのか、それとも弔いも義務の一環と考えたのかシルヴィアを手伝っていくと名乗りを上げた。
アルベルトも悲劇は最後まで見届ける、と手伝っていくことを選び、Hollowは人形師と人形たちの魂が安らぐようにとエクラ教の鎮魂の言葉を墓に捧げるためにその場に残った。
「……わたしにはこれくらいしかできませんが」
遥は何か隠れて、あるいは隠されていないかを確認するためにレイを手伝いがてら工房の内部を改めた後で消滅してしまった人形たちの残滓の供養を手伝った。
こうして舞台は幕を下ろし、古典劇として恋愛模様を演じるはずだった人形たちは殺戮人形としての偽りの生を終え、今は静かに眠っている。
先に黄泉路へと旅立った三人の負の遺物は長い時を経てようやく解放されたのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
質問卓 ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613) 人間(クリムゾンウェスト)|27才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/04/10 19:51:17 |
|
![]() |
人形の館(相談はこちら) レイ・T・ベッドフォード(ka2398) 人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/04/13 11:16:46 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/10 05:38:07 |