ゲスト
(ka0000)
命の次に大事な物
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/17 07:30
- 完成日
- 2015/04/25 14:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●緊急要請
その日、同盟軍報道官であるメリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は、密かにハンター達を呼び集めた。
「お忙しい所、急な要請にお応えいただき有難うございます」
その表情は真剣そのもの。
「事は余り公にはできません。ですので、今回はどうしてもハンターの皆様のお力をお借りしなくてはならないんです」
ぐっと身を乗り出すメリンダに、思わずハンターも身を乗り出す。
「実は、皆様にお願いしたいのは、探し物なのです」
少し前の事、大きな戦いがあった。
同盟軍からも戦力が投入され、物資の搬送や怪我人の保護、その他様々な任務を遂行したのだが。
その一隊の指揮官が任務を終えて戻ったところ、大事な物を戦場に落としてきたことに気付いたのだ。
「それは一体……」
ハンターがごくりと唾を飲み込んだ。
「……それは……」
メリンダの目が泳ぐ。
「カツラです」
……しーん。
場が静まり返る。
「本人にとっては命の次に大事なアイテムなんですけど。まあ正直言って、もう年も年なんだから、ありのままの姿で生きれば良いじゃないって思うんですけど」
メリンダが半ば自棄で怒涛のように語り出す。
その指揮官はかなりの高級将校だった。本人は流石にカツラをなくしたとは言えず、それ以来不自然な帽子を被り続けている。彼の部下たちは気を使って何も見ないふりを続けており、異様な緊張感が隊に漲っているという。
ただでさえ精神的にきつい戦場で、いや増すストレス。数人が胃痛を訴えてきたところで、ついに軍医が同盟軍本部にこっそりと内情を知らせて来たのだ。
「その隊はまだ警戒任務についていますので、戻ることもできないのです。まさかカツラが原因で、他の部隊と入れ替えるわけにもいかず……」
メリンダが両手を拝むように合わせた。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい! カツラを探して来て下さい!!!」
その日、同盟軍報道官であるメリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は、密かにハンター達を呼び集めた。
「お忙しい所、急な要請にお応えいただき有難うございます」
その表情は真剣そのもの。
「事は余り公にはできません。ですので、今回はどうしてもハンターの皆様のお力をお借りしなくてはならないんです」
ぐっと身を乗り出すメリンダに、思わずハンターも身を乗り出す。
「実は、皆様にお願いしたいのは、探し物なのです」
少し前の事、大きな戦いがあった。
同盟軍からも戦力が投入され、物資の搬送や怪我人の保護、その他様々な任務を遂行したのだが。
その一隊の指揮官が任務を終えて戻ったところ、大事な物を戦場に落としてきたことに気付いたのだ。
「それは一体……」
ハンターがごくりと唾を飲み込んだ。
「……それは……」
メリンダの目が泳ぐ。
「カツラです」
……しーん。
場が静まり返る。
「本人にとっては命の次に大事なアイテムなんですけど。まあ正直言って、もう年も年なんだから、ありのままの姿で生きれば良いじゃないって思うんですけど」
メリンダが半ば自棄で怒涛のように語り出す。
その指揮官はかなりの高級将校だった。本人は流石にカツラをなくしたとは言えず、それ以来不自然な帽子を被り続けている。彼の部下たちは気を使って何も見ないふりを続けており、異様な緊張感が隊に漲っているという。
ただでさえ精神的にきつい戦場で、いや増すストレス。数人が胃痛を訴えてきたところで、ついに軍医が同盟軍本部にこっそりと内情を知らせて来たのだ。
「その隊はまだ警戒任務についていますので、戻ることもできないのです。まさかカツラが原因で、他の部隊と入れ替えるわけにもいかず……」
メリンダが両手を拝むように合わせた。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい! カツラを探して来て下さい!!!」
リプレイ本文
●
依頼を受けたハンター達が、駐屯地に到着した。
待ち受けていたメリンダ・ドナーティ(kz0041)が直ぐに出て来る。
「お早うございます、今日はお忙しい中すみませんが、宜しくお願い致します」
コランダム(ka0240)が気遣う様に穏やかな表情を見せた。
「プライドや沽券が、人生において大きな割合も占める方もいらっしゃいますし。そういったことが命の次に大切と言っても差し支えないのでしょうね……」
「わかるっすよ! 師匠の命の次に大切なのって俺っすよね! いやー言わなくてもわかってるっす! モテる男はつr……うおっ!?」
割り込んで来た役犬原 昶(ka0268)はそこまで行ったところで、コランダムのハリセンを喰らった。
「あ、コレのことはお気になさらず。とにかくきちんと見つけて差し上げないと……」
「有難うございます、どうぞ宜しくお願いします」
「おはようございます、メリンダ中尉」
メリンダの前でシバ・ミラージュ(ka2094)がぺこりと頭を下げた。
「あら、おは……」
言葉はそこで途切れ、響き渡る悲鳴。
お辞儀したシバの頭頂部が突然分離したのだ。……正確には、ひと束の銀髪が。
「ど、ど、ど……!」
メリンダが剥き出しになったシバの頭皮をぺたぺたと撫でまわした。何か心当たりがあるのかもしれない。
「同じ立場に立ってこそ分かる事があるかも知れないと思いまして」
「それで剃ったんか……思い切りのええ行動やな」
ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)が何とも言えない表情になる。
勿論、まだ若いシバだからこそできたこと。元気な毛根からはまたすぐにまた元気な髪が生えて来る。
だが成長を止めてしまった毛根は……。
ラィルは自分の髪に触れる。今はふさふさだが、いつ荒れ果てるとも分からないと思えば、件の将校の事を笑い飛ばすこともできない。
(もしもその時がきたら、僕はどうするやろうか……大事にせなあかんな……)
シバは元の通りに頭頂部に髪を乗せると、淡々と依頼の話を進めていく。
「今回は、僕達を『現地の歪虚の調査依頼を受けたハンター』と周知して頂けますか。それから隊員の皆さんにご挨拶を兼ねて、駐屯地を見学させて頂けると有難いのですが」
「ああ、そうですね。ではこちらへどうぞ」
「有難うございます」
最敬礼の角度でシバがお辞儀をすると、またぱさりと銀髪が落ちた。
シバはその髪を見つめる。剃毛して一週間、これはかなりツライことだとよくわかった。痛む胸を押さえながら、それでもこの駐屯地の人々の気持ちを楽にしてあげられるなら、自分が犠牲になろうと思ったのだ。
だがメリンダは拾い上げた髪をぎゅうぎゅうと頭に押さえつける。
「こ、これは、皆かなりナーバスになっていますので、危険ですっ!」
触れないようにしている出来事を目前で繰り返されては、隊員の胃に穴が開きかねない。
一通り駐屯地を見回り、ついでに依頼の為と称して付近の地図などを入手する。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)はその地図を覚え込もうとするようにじっと見つめながら、無意識のうちに首に下げた単語帳を握り締めていた。
(大事な物……私ならそうね、やっぱり画材と、これかしら?)
スケッチブックや単語帳がなければ、他人とのコミュニケーションに困る。もしもこれをなくしたら誰にも相談できず、一人で探し回らなければならないかもしれない。それを想像するだけで悲しくなる。
(きっとその将校さんも、誰にも相談できず困ってる。早めに探し出してあげないとね!)
エヴァはふと思いつき、スケッチブックにペンを走らせ、メリンダの袖を引っ張った。
「当人の持ち物、ですか?」
エヴァはこくこくと頷く。連れて来た犬に匂いを覚えさせれば、ひょっとしたら見つけ出すかもしれないと思ったのだ。
だがメリンダは暫く考え込んだ後、首を振った。
「ごめんなさいね、ご本人の匂いがついている程の物を私が持ち出すのは難しいわ」
それを聞いて、ラィルは少しがっかりしたようなエヴァの肩を軽くぽんぽんと叩いた。
「それもそうかも知れんね。ほなちょっと別のお願いがあるんやけど」
耳打ちされた内容にメリンダの眉間に皺が寄るが、それは何とかしてみようということになった。
「では行ってきます」
シバがお辞儀をすると、またぱさりと髪が落ちた。
●
駐屯地を後にしたクリス(ka4605)が、小さく嘆息する。
「髪を隠す金があるなら全部剃ってしまえば楽なのにな。その方がこうやって無様なことにならんだろう」
面倒なことだが、依頼とあればベストを尽くす。だが周囲に迷惑をかけているらしい将校に対して辛辣になるのはどうしようもない。
「命の次に大事な物らしいが、随分と安い命だな」
「まあそう言ってやるな、女性には分からない悩みではあるだろうがな」
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)が苦笑いした。
男には、譲れない拘りや、守らなければならない一線が存在する。それは理解できるのだ。
ひょっとしたら執着を手放してみれば、身軽になることもあるだろうが……。
(強制はできんしな。当人が自発的にそう思ってくれれればいいのだが)
荒野を抜ける一陣の風がルトガーの豊かな髪を乱して吹き抜けていく。そこに在るべき物が在ることの有難みを噛み締めつつ、ルトガーは乱れを直すのだった。
エリオ・アルファーノ(ka4129)は心に誓う。
(ああ、俺は禿げないぞ、何が何でも禿げないからな……!)
それで禿げないで済むなら誰も苦労はしないのだが。
相談の結果、騎乗組一班と徒歩組二班に分かれることになった。
将校が騎乗していたなら、そのルートを通ることで障害物に気付くかもしれない。また何処かに飛ばされたりしないうちに、急いで探索するという目的もある。馬上からなら遠くも見渡せるだろう。そして徒歩組は、地上を丹念に見て回るのだ。
魔導短伝話を所持しているメンバーが拡販に分散し、互いに連絡を取れるようにする。
騎乗したエリオがエヴァに声を掛けた。
「範囲が広いからな、ある程度は当たりをつける必要があるだろう」
エヴァが心得たという顔で地図上の将校が通ったルートを示して見せる。エリオは頷き、遠見の眼鏡を取り出す。
「思うんだが、戦場でカツラをするのだから、普通は簡単に取れないようにしてるんじゃないか? だったら残った毛にピンを引っ掛けて留めるタイプだろう」
エリオが随分とカツラに詳しいが、恐らくこれまでの人生で色んな物を見聞きして来たのだろう。
「馬は結構高さがあるからな、木の枝に引っ掛けた可能性もあると思うんだ」
それに頷き、エヴァはスケッチブックを見せた。
『その後、風に飛ばされたかもしれないから、私は風下に注意します』
「よしそれで行こう」
騎馬の二人が先行する。
コランダムと昶、そしてクリスがその後を追う。
「赤いカツラならば目立ちそうなものですが……」
コランダムが地図と周囲の地形を睨む。
それぞれの班の捜索範囲の割り当ては既に決まっている。周囲には荒野とはいえ低い灌木の茂みや草むらがあり、落し物を探すにはなかなか厄介だった。
「師匠、俺の視力は8.0っすよ! 泥船に乗ったつもりで任せて欲しいっす!」
「それを言うなら大船だろう」
クリスが冷静に突っ込む。
「はっはっはー、そうとも言うっすね! なあに、野生の瞳でヅラだろうが何だろうが俺が見つけてやるよっすよ!!」
「ゴミと間違えないようにしてくださいね、役犬原」
コランダムと昶が地面を睨み、クリスが少し遅れて続いていく。
ルトガーとシバ、ラィルの班も捜索を始める。
「小さなカツラの様だ、風に飛ばされているかもしれないな。横に広がって見落としのないようにしよう」
「分かりました。では少し間隔を開けて探しましょう」
シバが目をカッと見開くと、ラィルも少し離れて歩き出す。
「赤毛やと、荒野で保護色になっとるかもわからんね。面倒なことやけど……」
そこでラィルが言葉を切った。起こって欲しくないことは起こるものだ。
「雑魔が……」
すぐ傍の茂みに、二体のコボルトが現れた。
向こうはまだこちらに気付いていない。連中は、もじゃもじゃの赤い変な物体で遊ぶことに夢中になっていた。
●
連絡を受けたエリオとエヴァが首を傾げた。
「じゃあこれはなんだ?」
木に引っ掛かっていた赤いもじゃもじゃがエリオの手に乗っている。
エヴァが少し考えると、スケッチブックを見せた。
『掌二つ分だと聞いていましたけど、少し小さいと思います』
成程、では木に引っ掛かった後、何かの事情で千切れたのだろう。あるいは雑魔が引っ張って千切れたのかもしれない。
「最悪、これだけでも確保できたのはまだましか」
だがとりあえずは馬を急がせる。
駆けつけたクリスが赤い銃身の魔導拳銃を構えた。
ラィルはコボルトを囲むように移動しつつ叫ぶ。
「カツラに被害が出んようにな!」
「わかっている」
エイミングを使って狙いを定めるが、単に倒すのと違ってなかなか面倒だ。
突然、ルトガーが低く唸った。
「もしも、だ。もしもカツラが取り返せなかった時は……どうする?」
しん。
ラィルもシバも黙りこむ。
「どうすれば将校を、隊員を、救えるだろう。頭シラミが流行ったと、皆で髪を切ったり……」
ルトガーがうわ言のように恐ろしいことを言い出す。
「気合いを入れるためにと、皆で頭を剃ったり……皆で自身のコンプレックスを晒したり……」
「大丈夫です」
きっぱりとシバが言い切った。
「僕が大事な毛を(自ら)失くした時、正直言って不安でした。でも、ありのままの自分を受け入れようと思ったんです」
少女のようにも見える優しい面差しに、決意が宿る。
「そのとき自由になり、なんでも出来る気持になりました。将校にもありのままの自分を受け入れてもらえれば、きっと僕のように何も怖くなくなるはずです。何も怖くない、風よ吹けという気持ちに……」
そこにタイミング良く風が吹いた。空気を読んだのだろうか。
「あ」
風はシバの頭頂部から、銀のひと房をさらう。
コボルトは新しい玩具の出現に、気を逸らした。
「今だ!」
新しい綺麗な髪束を見つけたコボルトは、赤いもじゃもじゃを放り出したのだ。
これでハンター達に怖いものはない。
「人の大事な物で悪戯するのはいけません」
シバが怒りのウォーターシュートを叩きつけると、一体のコボルトが吹っ飛んだ。
「役犬原!」
「やっぱいざというときは俺の出番っすよね!」
コランダムが逃げようとする残り一体を機導砲で牽制する隙に、昶が突進、ヴァリアブル・デバイドで食らいつく。
またたく間にコボルトは退治された。
●
クリスが赤い毛玉を拾い上げる。
「すまないが、ちょっといいか?」
エリオの見つけた分も受け取り、並べてみた。
「鳥の巣にでもされなかったのは良かったかもしれんが。このまま被るのは無理だろうな」
軽くはたいて埃を落とし、思案する。
「さて、これをどうやって返すかだが……洗って返すとして、犬にでも運ばせるか?」
匂いを覚えさせて咥えて持って行かせることはできるかもしれない。
「馬に乗ってて無くしたんなら、馬小屋に落としておくんはどうやろ?」
ラィルの提案だ。偶々そこに落ちていたという言い訳はできそうな気もする。
ルトガーが腕組みしつつ深い息を吐いた。
「事が事だけに、本人のプライドを傷つけない方法が望ましいか。どう見てもばれてはいても、誰かによって置かれたという事実はなるべく伏せた方がいいだろう」
それでシバのように執着を手放す可能性もなくはないのだが。
昶が元気よく挙手した。
「師匠はこういうちょっと気を使う系はてんで疎いっすから俺に任せておくっす!」
「……どういう意味ですか役犬原」
すぱぁん! ハリセンが昶を襲う。
「てて……俺が被るっすよ! 師匠どうっすか!! この案どうっすか! 名案じゃないっすか! もう俺が被って基地内歩くっt」
すぱぁん!
「……あ、コレのことはお気になさらず」
皆に愛想笑いを向けるコランダム。不肖の弟子がやる気を出したと思えばこれだ。
「冗談、冗談っすよ! えーと、人通りが少なくカツラの持ち主がよく通る場所の見つけやすい所に置いておくのがいいと思うっす!」
『本人に見つけてもらうのが一番だと私も思うわ』
エヴァが忙しくペンを走らせる。
『指揮官の部屋から見える場所にひっかけておく、とかが現実的かしら』
暫く考え込んでいたエリオが頷いた。
「その役は俺に任せてくれないか?」
一同が駐屯地に戻った。
ラィルがメリンダを手招きする。
「どう? 上手いこと行った?」
「うーん、どうでしょう?」
メリンダは苦笑いを浮かべた。ラィルの頼み事は、カツラが見つからなかった場合に備えての予備策だった。
「一応やってみました。お芝居が余り上手ではなかったかもしれませんが」
つまりメリンダともう一人の女性兵士が、将校の耳に届くように噂話を聞かせるという策だった。
『ねえねえ、○○大佐ってなんだか素敵になったと思わない?』
『そうね、ワイルドでカッコいいわよね』
という具合に、荒野を完璧なスキンヘッドにした他の軍人をポジティブに評価する訳である。
他のメンバーがメリンダに経過の報告をしている間に、エリオは馬小屋から門に至る通路をチェックしていた。
「この辺りかな」
丁度馬に乗った時に頭上スレスレになりそうな木の枝に、件の赤い毛の塊をひっかける。
これで次の出動の時に、自分で見つけるだろう。他の隊員には教えておかなければならないが。
コランダムが少し離れて見え方を確認し、OKサインを送る。
「これで上手く行けばいいですね」
「師匠」
昶が真面目な顔でコランダムを見る。
「なんですか」
「俺は師匠がつるっぱげになっても大丈夫っす!!」
すぱぁん!
いい音が通路に響いた。
「では後はお任せください。色々とお気遣いいただいて、本当にありがとうございました」
メリンダが頭を下げると、エヴァがにっこり笑ってスケッチブックを見せた。
『もしみんなの胃が限界に達したら、また依頼出せばいいわ。今度はその指揮官の残った髪、カツラごと全部切りに行ってあげる。そしたら丸はげになったのはハンターのせいってことにできるし、恥ずかしさも薄れるわよ!!』
イラスト入りで描かれた恐ろしいメッセージを掲げ、エヴァはウィンクして見せる。
こうして駐屯地に一応の平和が訪れた。
思いの外すぐにカツラは持ち主の元に戻り、ハンター達は見事な赤ひげを蓄えた大柄な将校が駐屯地を闊歩するところを目撃することとなったのだ。
「髭はあんなにふさふさなのか……理不尽な物だな」
ルトガーは自分と年の変わらぬ男の物悲しさに、やはり同情を禁じ得なかった。
<了>
依頼を受けたハンター達が、駐屯地に到着した。
待ち受けていたメリンダ・ドナーティ(kz0041)が直ぐに出て来る。
「お早うございます、今日はお忙しい中すみませんが、宜しくお願い致します」
コランダム(ka0240)が気遣う様に穏やかな表情を見せた。
「プライドや沽券が、人生において大きな割合も占める方もいらっしゃいますし。そういったことが命の次に大切と言っても差し支えないのでしょうね……」
「わかるっすよ! 師匠の命の次に大切なのって俺っすよね! いやー言わなくてもわかってるっす! モテる男はつr……うおっ!?」
割り込んで来た役犬原 昶(ka0268)はそこまで行ったところで、コランダムのハリセンを喰らった。
「あ、コレのことはお気になさらず。とにかくきちんと見つけて差し上げないと……」
「有難うございます、どうぞ宜しくお願いします」
「おはようございます、メリンダ中尉」
メリンダの前でシバ・ミラージュ(ka2094)がぺこりと頭を下げた。
「あら、おは……」
言葉はそこで途切れ、響き渡る悲鳴。
お辞儀したシバの頭頂部が突然分離したのだ。……正確には、ひと束の銀髪が。
「ど、ど、ど……!」
メリンダが剥き出しになったシバの頭皮をぺたぺたと撫でまわした。何か心当たりがあるのかもしれない。
「同じ立場に立ってこそ分かる事があるかも知れないと思いまして」
「それで剃ったんか……思い切りのええ行動やな」
ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)が何とも言えない表情になる。
勿論、まだ若いシバだからこそできたこと。元気な毛根からはまたすぐにまた元気な髪が生えて来る。
だが成長を止めてしまった毛根は……。
ラィルは自分の髪に触れる。今はふさふさだが、いつ荒れ果てるとも分からないと思えば、件の将校の事を笑い飛ばすこともできない。
(もしもその時がきたら、僕はどうするやろうか……大事にせなあかんな……)
シバは元の通りに頭頂部に髪を乗せると、淡々と依頼の話を進めていく。
「今回は、僕達を『現地の歪虚の調査依頼を受けたハンター』と周知して頂けますか。それから隊員の皆さんにご挨拶を兼ねて、駐屯地を見学させて頂けると有難いのですが」
「ああ、そうですね。ではこちらへどうぞ」
「有難うございます」
最敬礼の角度でシバがお辞儀をすると、またぱさりと銀髪が落ちた。
シバはその髪を見つめる。剃毛して一週間、これはかなりツライことだとよくわかった。痛む胸を押さえながら、それでもこの駐屯地の人々の気持ちを楽にしてあげられるなら、自分が犠牲になろうと思ったのだ。
だがメリンダは拾い上げた髪をぎゅうぎゅうと頭に押さえつける。
「こ、これは、皆かなりナーバスになっていますので、危険ですっ!」
触れないようにしている出来事を目前で繰り返されては、隊員の胃に穴が開きかねない。
一通り駐屯地を見回り、ついでに依頼の為と称して付近の地図などを入手する。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)はその地図を覚え込もうとするようにじっと見つめながら、無意識のうちに首に下げた単語帳を握り締めていた。
(大事な物……私ならそうね、やっぱり画材と、これかしら?)
スケッチブックや単語帳がなければ、他人とのコミュニケーションに困る。もしもこれをなくしたら誰にも相談できず、一人で探し回らなければならないかもしれない。それを想像するだけで悲しくなる。
(きっとその将校さんも、誰にも相談できず困ってる。早めに探し出してあげないとね!)
エヴァはふと思いつき、スケッチブックにペンを走らせ、メリンダの袖を引っ張った。
「当人の持ち物、ですか?」
エヴァはこくこくと頷く。連れて来た犬に匂いを覚えさせれば、ひょっとしたら見つけ出すかもしれないと思ったのだ。
だがメリンダは暫く考え込んだ後、首を振った。
「ごめんなさいね、ご本人の匂いがついている程の物を私が持ち出すのは難しいわ」
それを聞いて、ラィルは少しがっかりしたようなエヴァの肩を軽くぽんぽんと叩いた。
「それもそうかも知れんね。ほなちょっと別のお願いがあるんやけど」
耳打ちされた内容にメリンダの眉間に皺が寄るが、それは何とかしてみようということになった。
「では行ってきます」
シバがお辞儀をすると、またぱさりと髪が落ちた。
●
駐屯地を後にしたクリス(ka4605)が、小さく嘆息する。
「髪を隠す金があるなら全部剃ってしまえば楽なのにな。その方がこうやって無様なことにならんだろう」
面倒なことだが、依頼とあればベストを尽くす。だが周囲に迷惑をかけているらしい将校に対して辛辣になるのはどうしようもない。
「命の次に大事な物らしいが、随分と安い命だな」
「まあそう言ってやるな、女性には分からない悩みではあるだろうがな」
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)が苦笑いした。
男には、譲れない拘りや、守らなければならない一線が存在する。それは理解できるのだ。
ひょっとしたら執着を手放してみれば、身軽になることもあるだろうが……。
(強制はできんしな。当人が自発的にそう思ってくれれればいいのだが)
荒野を抜ける一陣の風がルトガーの豊かな髪を乱して吹き抜けていく。そこに在るべき物が在ることの有難みを噛み締めつつ、ルトガーは乱れを直すのだった。
エリオ・アルファーノ(ka4129)は心に誓う。
(ああ、俺は禿げないぞ、何が何でも禿げないからな……!)
それで禿げないで済むなら誰も苦労はしないのだが。
相談の結果、騎乗組一班と徒歩組二班に分かれることになった。
将校が騎乗していたなら、そのルートを通ることで障害物に気付くかもしれない。また何処かに飛ばされたりしないうちに、急いで探索するという目的もある。馬上からなら遠くも見渡せるだろう。そして徒歩組は、地上を丹念に見て回るのだ。
魔導短伝話を所持しているメンバーが拡販に分散し、互いに連絡を取れるようにする。
騎乗したエリオがエヴァに声を掛けた。
「範囲が広いからな、ある程度は当たりをつける必要があるだろう」
エヴァが心得たという顔で地図上の将校が通ったルートを示して見せる。エリオは頷き、遠見の眼鏡を取り出す。
「思うんだが、戦場でカツラをするのだから、普通は簡単に取れないようにしてるんじゃないか? だったら残った毛にピンを引っ掛けて留めるタイプだろう」
エリオが随分とカツラに詳しいが、恐らくこれまでの人生で色んな物を見聞きして来たのだろう。
「馬は結構高さがあるからな、木の枝に引っ掛けた可能性もあると思うんだ」
それに頷き、エヴァはスケッチブックを見せた。
『その後、風に飛ばされたかもしれないから、私は風下に注意します』
「よしそれで行こう」
騎馬の二人が先行する。
コランダムと昶、そしてクリスがその後を追う。
「赤いカツラならば目立ちそうなものですが……」
コランダムが地図と周囲の地形を睨む。
それぞれの班の捜索範囲の割り当ては既に決まっている。周囲には荒野とはいえ低い灌木の茂みや草むらがあり、落し物を探すにはなかなか厄介だった。
「師匠、俺の視力は8.0っすよ! 泥船に乗ったつもりで任せて欲しいっす!」
「それを言うなら大船だろう」
クリスが冷静に突っ込む。
「はっはっはー、そうとも言うっすね! なあに、野生の瞳でヅラだろうが何だろうが俺が見つけてやるよっすよ!!」
「ゴミと間違えないようにしてくださいね、役犬原」
コランダムと昶が地面を睨み、クリスが少し遅れて続いていく。
ルトガーとシバ、ラィルの班も捜索を始める。
「小さなカツラの様だ、風に飛ばされているかもしれないな。横に広がって見落としのないようにしよう」
「分かりました。では少し間隔を開けて探しましょう」
シバが目をカッと見開くと、ラィルも少し離れて歩き出す。
「赤毛やと、荒野で保護色になっとるかもわからんね。面倒なことやけど……」
そこでラィルが言葉を切った。起こって欲しくないことは起こるものだ。
「雑魔が……」
すぐ傍の茂みに、二体のコボルトが現れた。
向こうはまだこちらに気付いていない。連中は、もじゃもじゃの赤い変な物体で遊ぶことに夢中になっていた。
●
連絡を受けたエリオとエヴァが首を傾げた。
「じゃあこれはなんだ?」
木に引っ掛かっていた赤いもじゃもじゃがエリオの手に乗っている。
エヴァが少し考えると、スケッチブックを見せた。
『掌二つ分だと聞いていましたけど、少し小さいと思います』
成程、では木に引っ掛かった後、何かの事情で千切れたのだろう。あるいは雑魔が引っ張って千切れたのかもしれない。
「最悪、これだけでも確保できたのはまだましか」
だがとりあえずは馬を急がせる。
駆けつけたクリスが赤い銃身の魔導拳銃を構えた。
ラィルはコボルトを囲むように移動しつつ叫ぶ。
「カツラに被害が出んようにな!」
「わかっている」
エイミングを使って狙いを定めるが、単に倒すのと違ってなかなか面倒だ。
突然、ルトガーが低く唸った。
「もしも、だ。もしもカツラが取り返せなかった時は……どうする?」
しん。
ラィルもシバも黙りこむ。
「どうすれば将校を、隊員を、救えるだろう。頭シラミが流行ったと、皆で髪を切ったり……」
ルトガーがうわ言のように恐ろしいことを言い出す。
「気合いを入れるためにと、皆で頭を剃ったり……皆で自身のコンプレックスを晒したり……」
「大丈夫です」
きっぱりとシバが言い切った。
「僕が大事な毛を(自ら)失くした時、正直言って不安でした。でも、ありのままの自分を受け入れようと思ったんです」
少女のようにも見える優しい面差しに、決意が宿る。
「そのとき自由になり、なんでも出来る気持になりました。将校にもありのままの自分を受け入れてもらえれば、きっと僕のように何も怖くなくなるはずです。何も怖くない、風よ吹けという気持ちに……」
そこにタイミング良く風が吹いた。空気を読んだのだろうか。
「あ」
風はシバの頭頂部から、銀のひと房をさらう。
コボルトは新しい玩具の出現に、気を逸らした。
「今だ!」
新しい綺麗な髪束を見つけたコボルトは、赤いもじゃもじゃを放り出したのだ。
これでハンター達に怖いものはない。
「人の大事な物で悪戯するのはいけません」
シバが怒りのウォーターシュートを叩きつけると、一体のコボルトが吹っ飛んだ。
「役犬原!」
「やっぱいざというときは俺の出番っすよね!」
コランダムが逃げようとする残り一体を機導砲で牽制する隙に、昶が突進、ヴァリアブル・デバイドで食らいつく。
またたく間にコボルトは退治された。
●
クリスが赤い毛玉を拾い上げる。
「すまないが、ちょっといいか?」
エリオの見つけた分も受け取り、並べてみた。
「鳥の巣にでもされなかったのは良かったかもしれんが。このまま被るのは無理だろうな」
軽くはたいて埃を落とし、思案する。
「さて、これをどうやって返すかだが……洗って返すとして、犬にでも運ばせるか?」
匂いを覚えさせて咥えて持って行かせることはできるかもしれない。
「馬に乗ってて無くしたんなら、馬小屋に落としておくんはどうやろ?」
ラィルの提案だ。偶々そこに落ちていたという言い訳はできそうな気もする。
ルトガーが腕組みしつつ深い息を吐いた。
「事が事だけに、本人のプライドを傷つけない方法が望ましいか。どう見てもばれてはいても、誰かによって置かれたという事実はなるべく伏せた方がいいだろう」
それでシバのように執着を手放す可能性もなくはないのだが。
昶が元気よく挙手した。
「師匠はこういうちょっと気を使う系はてんで疎いっすから俺に任せておくっす!」
「……どういう意味ですか役犬原」
すぱぁん! ハリセンが昶を襲う。
「てて……俺が被るっすよ! 師匠どうっすか!! この案どうっすか! 名案じゃないっすか! もう俺が被って基地内歩くっt」
すぱぁん!
「……あ、コレのことはお気になさらず」
皆に愛想笑いを向けるコランダム。不肖の弟子がやる気を出したと思えばこれだ。
「冗談、冗談っすよ! えーと、人通りが少なくカツラの持ち主がよく通る場所の見つけやすい所に置いておくのがいいと思うっす!」
『本人に見つけてもらうのが一番だと私も思うわ』
エヴァが忙しくペンを走らせる。
『指揮官の部屋から見える場所にひっかけておく、とかが現実的かしら』
暫く考え込んでいたエリオが頷いた。
「その役は俺に任せてくれないか?」
一同が駐屯地に戻った。
ラィルがメリンダを手招きする。
「どう? 上手いこと行った?」
「うーん、どうでしょう?」
メリンダは苦笑いを浮かべた。ラィルの頼み事は、カツラが見つからなかった場合に備えての予備策だった。
「一応やってみました。お芝居が余り上手ではなかったかもしれませんが」
つまりメリンダともう一人の女性兵士が、将校の耳に届くように噂話を聞かせるという策だった。
『ねえねえ、○○大佐ってなんだか素敵になったと思わない?』
『そうね、ワイルドでカッコいいわよね』
という具合に、荒野を完璧なスキンヘッドにした他の軍人をポジティブに評価する訳である。
他のメンバーがメリンダに経過の報告をしている間に、エリオは馬小屋から門に至る通路をチェックしていた。
「この辺りかな」
丁度馬に乗った時に頭上スレスレになりそうな木の枝に、件の赤い毛の塊をひっかける。
これで次の出動の時に、自分で見つけるだろう。他の隊員には教えておかなければならないが。
コランダムが少し離れて見え方を確認し、OKサインを送る。
「これで上手く行けばいいですね」
「師匠」
昶が真面目な顔でコランダムを見る。
「なんですか」
「俺は師匠がつるっぱげになっても大丈夫っす!!」
すぱぁん!
いい音が通路に響いた。
「では後はお任せください。色々とお気遣いいただいて、本当にありがとうございました」
メリンダが頭を下げると、エヴァがにっこり笑ってスケッチブックを見せた。
『もしみんなの胃が限界に達したら、また依頼出せばいいわ。今度はその指揮官の残った髪、カツラごと全部切りに行ってあげる。そしたら丸はげになったのはハンターのせいってことにできるし、恥ずかしさも薄れるわよ!!』
イラスト入りで描かれた恐ろしいメッセージを掲げ、エヴァはウィンクして見せる。
こうして駐屯地に一応の平和が訪れた。
思いの外すぐにカツラは持ち主の元に戻り、ハンター達は見事な赤ひげを蓄えた大柄な将校が駐屯地を闊歩するところを目撃することとなったのだ。
「髭はあんなにふさふさなのか……理不尽な物だな」
ルトガーは自分と年の変わらぬ男の物悲しさに、やはり同情を禁じ得なかった。
<了>
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/15 21:26:08 |
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カツラを探そう作戦卓 エリオ・アルファーノ(ka4129) 人間(クリムゾンウェスト)|40才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/04/17 02:56:01 |
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質問卓 エリオ・アルファーノ(ka4129) 人間(クリムゾンウェスト)|40才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/04/14 23:10:33 |