• 不動

【不動】変わらざる者2

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/16 07:30
完成日
2015/04/17 14:43

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 聖地奪還を巡る辺境での戦いは続く。
 国外での作戦とは言え、皇帝ヴィルヘルミナが参戦を決定した以上、帝国軍もまた兵力を辺境へと向かわせる。
 今回の作戦ではガエル・ソトと戦う皇帝の実弟、カッテ・ウランゲルが。そして試練の山では帝国軍要塞であるノアーラ・クンタウ兵力と、その指揮官であるヴェルナー・ブロスフェルトが出向く事になっている。
 帝国軍として主に支援すべきはこの二つの戦場であり、共に実戦配備されたばかりの魔導アーマーを多数必要としている。
 勿論、必要なのは機導兵器だけではなく、歩兵の増援、補給物資も不可欠である。
 来る作戦開始に備え、帝国軍はノアーラ・クンタウを経由しそれぞれの戦場に追加の物資と兵力を送り込む事になった。
「更に魔導アーマーを増産するなんて、流石はナサニエル・カロッサね」
「先の戦いで損傷した機体の修理や補充も必要ですから。戦いはまだまだこれからですからね」
 無数の魔導トラックが連なる輸送部隊。その一台の荷台にてハイデマリー・アルムホルムはタングラムと肩を並べていた。
「現地についたらハイデマリーには調整と修理をお願いするですよ」
 頷きながらもハイデマリーは心ここにあらず。自作の魔導ガントレッドを見つめながら考えに耽っている。
「それは新型ですか?」
「ええ。ペイン・ディフューザー。試作型の“浄化武装”よ」
 白い機械の腕を見つめるハイデマリー。その時、同乗する帝国兵が声を上げた。
「タングラム殿、先頭車両より報告。進行方向上に人影が立ち往生していると……」

「おい貴様! そんな所で何をしている!」
 先頭車両から降りた複数人の兵士が魔導銃を手に歩み寄る。荒野にはポツンと一人、黒いローブに身を包んだ女が立っていた。
 近づく兵士の一人が違和感に足を止める。女は僅かにだが地面から浮遊していた。次の瞬間、突き出した銃身を掴むと、女は素手でそれをぐにゃりと曲げて見せた。
「ひっ」
「こいつ……離れろ! 総員一斉射撃!」
 並んだ兵達が次々と引き金を引き、銃声が轟く。鉛球は間違いなく女の身体を貫いた。血を撒き散らしながら倒れた亡骸に兵達は肩を上下させる。
「な、なんだったんだ?」
「こいつの血……青くないか?」
 返り血にぽつりと呟いた直後、目の前に起き上がった女の姿があった。
 悲鳴を上げるより早く女は笑みを浮かべ、手にした杖で兵士の胸を貫くのであった。

「……先頭車両より報告! 歪虚の襲撃を受けています! 過去の戦闘データと照合した結果……し、四霊剣オルクスと……!」
 驚き立ち上がるハイデマリー。タングラムは舌打ちを一つ、通信兵に指示を下す。
「現時点を以って輸送プランを変更! 輸送部隊を四つに分割、それぞれルートプランBにて補給地へ向かう! 後続部隊にルート変更の指示を!」
「タングラム殿は!?」
「腕の立つ者だけを連れ、遭遇部隊の撤退支援に向かいます。増援は決して向かわせないでください」
「しかしハンターだけでは……!」
「一般兵を奴の前に出した所で“残弾”を与えるだけです。必ず指示に従い、迂回するよう通達しなさい!」
「一部の輸送隊には、まだ通信が……」
「だったら走れ!」
 叫びながら荷台から飛び降りたタングラム。続いて数名のハンターを下ろすと同時、輸送隊は進路を変更する。
「これから先頭の撤退支援に向かいます。危険な相手です、覚悟のある者だけついてきなさい!」



「はぁん。ぶっちゃけてしまうと退屈だわぁ」
 正直な所、ヤクシーやらガエルやらを支援してやる義理はない。ので、今回の作戦に堂々と出張るつもりはそもそもなかった。
 アイゼンハンダーはクソ真面目なので人類殲滅、もとい革命軍鎮圧に必死だが、オルクスはそうではない。
 ではなぜやってきたのか。単なる暇潰し、というのもある。一応他の目的もある。が、ともあれ今は前線への補給路を絶ち、自分達にとっての直接的な敵である帝国軍の兵力を削る。
 帝国領には師団とそれらが管理する師団都市があり、少しつついただけで大反撃を受ける。が、ここならそうはいかない。
「ちょ~っとちょっかい出して、食い散らかしてもいいわよねぇ?」
 息絶えた兵士の亡骸から血を吸い尽くし、ついでに血を吸った兵士を操ってみる。
 吸血鬼ならば大なり小なり魅了を使える物だが、オルクスのそれは桁外れ。精霊の加護を持たない一般人ではまるで対抗出来ない。
「障害の排除に送り込んだ兵士が、こちらに攻撃を!」
 兵士は青い血の鎧に覆われ、ゆっくりと引き返してくる。彼らは操られてはいるが、まだ自我はハッキリ残されていた。
「ま、待ってくれ……撃たないで……」
「……まだ生きてます! 助けられる筈です!」
「よせっ!!」
 剣を手に駆け寄る帝国兵。血の鎧を剥がそうと攻撃するが文字通り歯が立たない。
 そして操られた兵士の手から伸びた血の剣が同胞の胸を刺す。そうなっては互いに攻撃しあうしかない。
「魔導アーマーを出せ! 撤退の時間を稼ぐ!」
 荷台に眠っていた魔導アーマーが布を取り払い立ち上がる。そこへ遅れ、ハンター達が駆けつけた。
「剣妃オルクス……こんな時に!」
 オルクスは自らの周囲に展開した無数の血の槍を一斉に放つ。そんなハンター達を庇い、盾を構えた魔導アーマーが壁となる。
「ほー。魔導アーマー、中々使えるじゃねぇか」
 ふと、聞き覚えのある声に振り返るタングラム。そこには何故かハンターに紛れ、エルフハイムの執行者が立っていた。
「ハジャ……なぜここに……」
「輸送隊の任務を受けたハンターに紛れてずっとお前らの二つ後ろの車両にいたんです」
「だから、なぜ……」
「まあいいじゃないの。俺達にとっても奴は興味深い。ここは一つ共闘と行こうじゃない」
 冷や汗を流すタングラム。しかし今はふざけている場合ではない。
「輸送部隊は撤退の準備を! 奴は我々で食い止めます! 本来こんな所でどうにかする相手ではありません。各員、連携を密に生存を優先して下さい!」
「魔導アーマーなら力になれる筈だ! 俺達も手を貸す!」
 二機の魔導アーマー兵がハンター達と並ぶ。それぞれが武器を構え、進路に立ちはだかる敵を睨んだ。
「剣妃オルクス……あれが……“器”の……」
 迷いを振り切るように首を振るハイデマリー。吸血鬼は余裕たっぷりの笑みで自らの首を引き裂くと、青い血飛沫を空に舞い上げた。
 それらは形を無し、巨大な結晶の蛇となりオルクスに寄り添った。
「――さぁて。あれからどれくらい美味しくなったのか……試してあげようかしらぁ?」
 無邪気に笑みを零し、挑発するように手招きする。空に浮かび上がった無数の血は槍を成し、戦士達を迎え撃とうとしていた。

リプレイ本文

●選択
 不変の剣妃オルクス。
 輸送隊の妨害に現れた割に、女はふわふわ浮いたままぼんやりしていた。
「剣妃……相変わらず人間を舐めきっているな」
「吸血鬼系最強と聞いていたが……こうしているとそうは見えんな」
 遠く敵を睨むレイス(ka1541)。弥勒 明影(ka0189)の言う通り、今の所アレがそこまで驚異的な存在だとは思えない。
 確かに高位の歪虚なのだろう。肌に刺すような強烈な負のマテリアルは感じる。
 だがそれも覚醒者ならば耐えられない程ではない。
「恐らく今はこちらにあまり意識を向けていないのだろう……多分」
 以前やりあった経験を持つレイスだが、自信はなかった。奴が何を考えているのかは正直良くわからない。
「ただのドS女王様系オネーサマじゃないんですかねぇ? すんごい格好してますけど」
「見た目はどうあれ、四霊剣に指定されるだけの根拠はある筈だ。油断せず観察させてもらうとしよう」
 瞳を輝かせる加茂 忠国(ka4451)。ロイド・ブラック(ka0408)は眼鏡のブリッジを持ち上げる。
「ハイデマリー女史、浄化武装で操られた兵士を開放出来るかね?」
「やってみないとなんとも」
「是非協力を願いたい。働かなくても敵は狙ってくるだろうし、強敵故にこちらもカバーしきれるとは限らん。浄化武装を使うのみで済むはずだ。楽だと思うが?」
「エルフハイム式浄化術は術者の負担が凄まじいんだから、楽ではないけど。私が駄目になったらあなたにお願いするわ」
 頬を掻きながら無表情にそんな事を呟くハイデマリー。ヴァイス(ka0364)は仲間達へ目を向け。
「浄化武装で血の鎧の強度を下げ、破壊する。上手く行けば開放できる筈だ」
 希望が見えた事に歓声を上げる帝国兵に明影は目を向け。
「助けたいと願う気持ちは理解出来るが、目的を間違えるな。尤も、それでも尚と言うなら止めはせんがね」
「ハジャさんにも兵士の救助をお願い出来るかな?」
「ああ、いいぜ」
 ジェールトヴァ(ka3098)に即答するハジャ。リサ=メテオール(ka3520)は脱力し。
「ほんっとアンタ、ある意味わかりやすいっていうか……」
「こんなお爺さんからのお願いを聞いてくれてありがとう。ハジャさんは親切だね」
「親切……うーん、親切……」
 頭を悩ませるリサ。ハジャは親切……なのだろうか。そうなのかもしれない。そうでない気もする。
 確かなのは、自分の目的の為なら手段は選ばず、かつ正直であるという事。
 そうでなかったらこんな所に忍び込む筈がない。
「とりあえず、可愛い子は守ってくれるんでしょ? 頑張って守ってよね」
「おう! リサちゃんの為にも頑張るぜ!」
 いい笑顔で親指を立てるハジャ。なんか微妙に腹立つ。
「タングラム、浄化術の補助は出来るか?」
「私は巫女ではなかった上に術がオートメーション化されているので、私の介在する余地はないかもしれませんね」
 返答に「そうか」と頷くレイス。どちらにせよ、あの技術がどれほどの物かは使ってみなければわからない。
「今は彼等の救出を頼む。助けられるかもしれない命は見捨てたくない。剣妃は俺達で抑える!」
「そろそろ準備はいいかしらぁ~?」
「待っていてくれたの? 案外気が長いのね」
 雲類鷲 伊路葉 (ka2718)にふっと笑みを返す。
「私ってば長生きだから、少し待つくらいなんてことないのよぉ」
 そうして指を鳴らすと血の大蛇がうねり、猛スピードで飛び出していく。
「直ぐに死んじゃわないでねぇ。待った分くらいは、味わわせてよ?」

 大蛇の移動速度は尋常ではなく早い。光の残像にしか見えないそれは一瞬で距離を詰め、ハンター達へ襲いかかった。
 尾で薙ぎ払う攻撃を跳躍し飛び越すレイス。明影へ剣で受けるも背後へ弾かれ、Celestine(ka0107)は直撃を受け大地を転がる。
「ふわっ!? 瞬間移動ですか!?」
 伊路葉は連続して引き金を引くが、弾丸は蛇を素通りする。霧状に変化した半身が解け、伊路葉の背後に大口が開く。
 ロイドはその瞬間雷撃を放った。今度は蛇にも効果があったのか、のけぞった後再び霧へと消える。
「固体化した瞬間にカウンターを合わせるしかないようだ」
「カウンターって……どこから出てくるかもわからないのに?」
 ロイドと背を合わせ震動刀を抜くリサ。Celestineは幸いかすり傷程度で、まだ回復は不要だろう。
 青い霧はハンター達を取り囲んでいる。どこから実体化するかも、誰が狙われるかも予測できなかった。
「それにしても……剣妃が攻撃してこないのね?」
 銃を構えたままちらりと視線を送ると、剣妃はただこちらを見ているだけだ。
 伊路葉は直ぐに槍を飛ばしてくると予想していたが……。
「攻めに出られてからでは遅い。今の内に距離を詰め、範囲攻撃を封じるぞ」
「こちらはなんとかしよう。行きたまえ」
 剣妃は基本的には後衛タイプ。遠距離攻撃が得意分野であり、槍撃が始まれば手がなくなる。
 近接戦闘に追い込めば、長大な槍を投擲される事は防げると判明している。ロイドに頷き返し、レイスは駆け出した。
「さて……最初から全力……楽しませてくれよ」
 飛び出したクィーロ・ヴェリル(ka4122)が刀を手に剣妃に迫る。胸の刺青を、そして瞳を赤く染め、マテリアルを込めた一撃を振り下ろした。
 しかし、刃は剣妃に届かない。薄氷のような血の壁が攻撃を防いで居る。
 すぐさま第二撃を繰り出すが、これも別の壁に止められる。
 剣妃はクィーロを見ても居ない。ただ薄っすらと笑みを浮かべているだけだ。
「血の結晶化による障壁……」
「防がれても攻撃を続けろ! 多方から圧力を掛け、遠距離攻撃を出させるな!」
 側面に回り込んだレイスが槍を繰り出すが、その矛先を壁が阻む。明影の銃撃も、銃弾一発一発に丁寧に壁が出現する。
 三人は別方向から断続的に入れ替わり攻撃するが、剣妃には届かない。しかし剣妃も反撃を繰り出す様子はなかった。
「視界外からの攻撃にも完全反応している……これは」
 目を細める明影。三人の攻撃では障壁を突破出来ない。と、その時。
「剣姫オルクス! 私を、私を貴女の姉妹にしてくださいません?」
 声の主はCelestineだ。驚く男達だが、オルクスもきょとんとしている。
「エルフの寿命は私には長過ぎます。不変とされる剣妃オルクスがお姉様になってくだされば、きっと退屈しないと思うんです!」
 両手を胸の前で組み、キラキラと瞳を輝かせるCelestine。男達の目はハイライトを失い、戦闘の構えのまま固まった。

「うわ! 遠くてよくわかんないけど、なんか先を越された予感がする!」
 両手で頭を抱える忠国。血の鎧で操られる兵士達を救おうとヴァイスを中心に布陣している。
 血の鎧による身体強化、というより強制操作は想像以上であり、覚醒者ばりの速度で接近し、血の剣で襲い掛かってくる。
 ヴァイスは二体の攻撃を剣で捌くが、敵の動きは素早く、動きを止められないでいた。
「生きたいと強く意識しろ。死ぬほど痛いが死ぬなよ!」
 兵士たちは攻撃の度に自らの身体を傷つけていく。筋肉は断裂し、骨は砕け、鎧の隙間からは血が迸る。
「本当に助けられるのか!?」
「御心配なさらずとも僕達"覚醒者"が全力を以て助け出します。此方には美少女APVリーダー様もいるんですから楽勝ですよ☆」
 忠国の言葉に疑心暗鬼な兵士達。忠国は溜息を零し、びしりと指差す。
「いいですか。野郎を庇うとかホントは超嫌なんですけど、襲われたらそうしなきゃいけなくなるんです。今は撤退して下さい!」
 精霊の加護を受けない兵士達はどちらにせよオルクスの圧力に耐え切れない。悔しげに拳を握り、兵士達は走り出す。
「仲間を……頼む!」
 ハイデマリーは浄化武装の準備を終えたが、素早い敵を相手に狙いを定められずにいた。
「この四体を一箇所に集めるなんて出来るの?」
 ハジャは兵士の剣を白羽取りし、武器を奪うと同時に蹴り飛ばす。
「ヴァイス行ったぞ!」
 タングラムも一体の敵を誘導しヴァイスの側へ。そしてヴァイスも二体の敵の攻撃を同時に受け止める。
「ハイデマリー、今だ!」
 左腕に装備した魔導ガントレットを起動すると、空中に魔法陣が浮かび上がる。
 掌に光は吸い込まれ、兵を包む青い鎧もそこへ吸収されていく……。
「……駄目、効果が薄い!」
 だが、纏めて四体を浄化するには出力が足りない。蒸気と共に楔を排出すると、動きの止まっていた兵達が動き出す。
「血の鎧が……!」
 解けかけた血の鎧が再生を開始する。リロードし、再び浄化を発動する前に元通りになってしまうだろう。
 ヴァイスは咄嗟に血の鎧の隙間に剣を差し込もうとするが間に合わない。
「これならどうですかねぇ!?」
 忠国はピュアウォーターを発動。青い光が兵士を包む……が、効果は見られない。
「あれ? 駄目ですか?」
 鎧は完全に再生。状況は振り出しに戻ってしまった。
「お前今何したんだ?」
「水を浄化しようとしたんですよぉ! 普通の水なら綺麗になるんですぅ!」
 呆れた様子のハジャに地団駄踏む忠国。ヴァイスはそれを険しい表情で聞いていた。
「再生する鎧……水ではない何か……」
 血は基本的には水分だ。ピュアウォーターは魔力を帯びた液体は浄化できない事もあるが、基本的には飲水に変化出来るはず。
 剣妃の血は強力な汚染物質だから浄化できなかったのか?
 そうかもしれない。だがヴァイスの脳裏には別の可能性が過っていた。
「た、助けて……くれ……」
「余り考えている時間はなさそうですね」
 兵士はこうしている間にも弱っていく。だが浄化カートリッジは残り二回分。
「もう一度広域浄化で……駄目だ、この面子で間に合わないのなら何度やっても……一人一人に使うか……?」
 上手く行っても二人は見殺しにする事になる。だが、やらねば全員が死んでしまう。
 ヴァイスは選択を迫られていた。



●不死者
「ったく、ちょこまか鬱陶しい!」
 リサの刀は空振りに終わった。厳密には命中しているが、途中で液化されたのだ。
 超スピードで移動と奇襲を繰り返す蛇を相手に三人は健闘していたが、リサの斬撃や伊路葉の銃撃はあまり効果的ではない。
 ロイドの放つ雷撃が唯一攻撃の起点を作れる。
 雷撃には麻痺効果があり、それを受けた直後は蛇も一瞬形態変化が不能になると分かったからだ。
「いつまでもこれにかかずらわっているわけにもいかないわね」
「ああ。そろそろ終わりにさせてもらおう」
 リサはロイドにプロテクションを施す。敵もロイドが脅威なのは理解しているはずだ。故にロイドを狙ってくる事は予測できた。
 駆け巡る影はロイドの背後にやはり牙を向いた。伊路葉の銃撃は霧を貫通し散らしただけに終わったが、ロイドが振り向き雷撃を放つ時間は稼げた。
 光が迸ると蛇が仰け反る。その瞬間に再び伊路葉は引き金を引き、リサは刀を振るう。
 蛇は形を失い、べしゃりと大量の血となって地べたに広がると霧散した。そこへヴァイスと忠国が走ってくる。
「兵士達は?」
 リサの問いにハジャは首を横に振る。
「救えたのは一人だけだった。今は亡骸も一緒に魔導アーマーで撤収させた……すまない」
「謝る事ではないわ。全力を尽くしたのでしょう?」
 伊路葉の言葉に悔しげに頷くヴァイス。忠国も流石に後味の悪さに溜息を零した。
「だが、犠牲を無駄にはしない。……ロイド、手短でいい。確認したい事がある」

「正気か……?」
 クィーロの言う通り、Celestineの行動はあまりに突飛だ。
 剣妃は口元に手をやり、くすくすと笑い。
「私って人気者よねぇ。モテ過ぎて困っちゃうわぁ♪」
「確かにあなたは魅力的だね。きれいなお嬢さん。耳を隠しているけれど、耳を出した方が美貌が際立つんじゃないかな。あなたは死ぬ前はエルフだったのかな?」
 笑顔で切り出したジェールトヴァの言葉に仲間達も気を取り直す。
 どうも話を聞いているようだし、情報を聞き出す好機なのかもしれない。
「思わせぶりな言動に似たような術……。推測するに、元器の巫女かそれが溜め込んだ不浄、もしくはそれを核にしたのが貴様の正体か? 情報が無いのもそれが消されたから、か?」
 剣妃は目を瞑り、フードに手をかける。長い髪と共に露わになったのはエルフの特徴である長耳だ。
「お姉様もやっぱりエルフだったのですね!」
「再生能力があるようなのに、お腹の傷跡を治さない理由は……それが何らかの力の源なのか、それとも死んだ原因を忘れずに刻み付けておくためとか……?」
「後者よ。人生に置いて死はそう何度も訪れるものじゃないわぁ。だからこうして、死の痕跡を残してるのよぉ」
 空中で膝を抱え女はニコリと笑う。やはりか、とジェールトヴァは確信した。
 そも、剣妃の目的もきっと時間稼ぎなのだ。
 帝国軍を深追いする気配もなければ、直ぐに戦闘を切り上げる様子もない。
 剣妃にとって会話は暇潰し足りえるのだろう。でなければ、こんな風に付き合ったりはしない。
「私……オルクス・エルフハイムの記録がどこにも残っていないのは、それをあなた達が望んだから。人もエルフも、私の存在を否定したかったのねぇ」
「貴様が何かをしたのではないと?」
「そう。あなたは私を躍起になって追ってるけど、意味あるのかしらぁ? 帝国軍もエルフハイムも、きっとあなたに真実を隠しているだけなのに」
 嘲笑に目を細めるレイス。空中を縦にくるくる周り、女は目を瞑る。
「あなた、なんだったかしらぁ?」
「Celestinです、お姉様」
「セレスちゃんねぇ。お姉様になってあげるのは構わないけれど……私はねぇ、誰にも触れられないの。“器”ってそういうものなのよ」
 首を傾げるCelestin。女は息をつき、ゆっくりと地に足をつけた。
 次の瞬間、大地が陥没し、亀裂が四方に走る。
 何かをしたわけではない。力を解き放ったわけでもない。ただ、地面が崩れたのだ。
「遠距離攻撃を封じるのに距離を詰めてるのよねぇ。ふふっ、近づいたらどうにか出来ると思った?」
 にこりと微笑み、片足で地べたを叩く。次の瞬間足場がめくれ上がり、上に乗っていたジェールトヴァとCelestinが空に舞い上がった。
「お、お姉様酷いですー!?」
 クィーロはその隙に側面から斬りかかるが、やはり目も向けずに壁に止められる。そして剣妃は軽く腕で払うような仕草を見せた。
 汗が吹き出したのは、それがどうにもただの腕に思えなかったからだ。巨大な鈍器を繰り出されたような、強烈な威圧感があった。
「力が強い……? いや、違う……何だこの感覚は……?」
 その時、遠方より銃弾が飛来した。剣妃の眼前で弾かれた一撃は伊路葉が放ったものだ。
「蛇は始末したけど……全員無傷って、まだ始まってもいないの?」
 驚いた様子のリサ。ヴァイスは大剣を構え、剣妃を睨む。
「遅かったわねぇ。結局助けられたのは一人だけ……でも、良く頑張ったわね?」
 剣妃の言葉に仲間達の表情が変わる。ヴァイスは否定しなかった。それが答えでもあったのだ。
「……何故知っている?」
 明影の疑問に女は答えない。
 オルクスはずっと自分達に攻撃を受けていたし、あらぬ方を向いて呆けていた筈。
 離れていたヴァイス達の様子を知っているというのは辻褄が合わない。
「これだけ人数が居れば少しはヤれるでしょう? さぁ、掛かっていらっしゃいな」

 オルクスは左右の手に血の剣を作り、再びふわりを浮かび上がる。
「各員、連携し攻撃を重ねろ! 火力が足りなければ障壁を突破できん!」
 レイスの掛け声でハンター達は一斉攻撃を開始する。
 オルクスの目の前には次々に血の壁が出現しては消え、また出現しては消えていく。
 しかし先程までとは人数が違う。障壁の展開が追いつかなければ、或いは障壁を砕かれればオルクス本体へ攻撃を届ける事は不可能ではなかった。
 明影とジェールトヴァが銃撃を重ね、クィーロ、レイスが入れ替わりに攻撃。
 Celestineが魔法を放ち、ヴァイスが大剣を叩きつけ、ハジャが拳を打ち込み、ロイドの電撃が迸り……全方位からの多段攻撃が剣妃を襲う。
 剣妃は反撃と言わんばかりに左右の剣で回転しながら周囲を薙ぐ。
 切っ先が触れた地べたは溶けるように割かれ、風が舞い上がった。
「出し惜しみしてたってわけか……いいぜ、ここからが本番だ!」
 牙を剥くように笑うクィーロ。攻撃は更に加速し、遂に伊路葉の弾丸がオルクスの頬を抉った。
「読んでいるわ、その向き、その行動。この攻撃、読んでいるかしら?」
 更にもう一発。弾丸は障壁をすり抜け、オルクスの顔面、左目辺りを貫通。青い血をぶちまけ、女の体は地べたに倒れこむ。
 その瞬間、倒れたオルクスを中心に地面が陥没する。女はまるで地面に埋もれるように、身体を痙攣させながら起き上がろうとする。
「ねぇ、さっきからなんで足元がぶっとんだりしてるの?」
「わからん。能力を使っているようには見えないが」
 リサの問いにロイドが答える間に女は起き上がる。
 顔は大きく抉れ、人間で言うのなら脳に該当する部分も吹き飛んでいるが、平然と浮かび上がっている。
「ほう……? 急所を撃ち抜かれたというのに。不死者の名に違いはないと見える」
「いいわ。不死の命がどれ程の物か試させてもらいましょう。死ぬまで撃ち潰してあげるわ」
 笑みを浮かべる明影。伊路葉が銃を構えた時、ヴァイスが声を上げた。
「やはりそうか……皆、聞いてくれ! オルクスについてわかったことがある!」
 全員の注目が集まる。その間、オルクスは頭部を半分損失したまま、上着のポケットに両手を突っ込んでいる。
「結論から言う。オルクスの本体は――奴の“血液”である可能性が高い」
 アレが血ではなく、血の形をした歪虚だとしたら。
 血の鎧や蛇の消滅は、まるきり歪虚が消える時と同じだった。そしてオルクスの傷口からぶちまけられた血も同じ。
 形状変化も。自動防御も。遠くの戦闘を把握する事も、肉体が破損しても平然としている事も、全てに説明がつく。
「じゃあ、僕の魔法で血を浄化出来なかったのも?」
「血じゃないんだ。アレそのものが歪虚なんだよ」
 呆然とする忠国に応えるヴァイス。だがその仮説が正しいのなら……。
「ちょ、ちょっと待ってよ。血が本体って……それ、どうやって倒せばいいの?」
 リサが青ざめるのも無理はない。一体奴の身体の中に何リットルの本体が詰まっているというのか。
 明らかに自らの体積の数倍は血を放出しているのに、全く平然としている。
 まだちゃんと頭がふっ飛べば血が出てくるではないか。
「質量……」
 ぽつりと、ロイドが呟く。
「奴の足元が陥没しているのも、奴の物理攻撃に異常な威力が秘められているのも、奴の体内に驚異的な質量の血液が凝縮されていると考えれば、どうだろうか?」
 一見すると成人女性程度の体格だが、そうではないのだ。アレはただの入れ物。
 薄い剣に見えるそれが、例えばそう。高層ビルのような重量を秘めていたとしたらどうだろう。
 ヴァイスの仮説はハンター達の中にすんなりと落ちた。だがそれは同時に、絶望的な考えを過ぎらせる。
「はへ」
 顔が引き裂かれた女は小刻みに震える。
「ふ、ふ、はふ……はへ……」
 それが笑っているのだと理解出来るまで、少し時間を要した。
「いひゃひゃ、あふははは……あひゃははははっ!!」
 ぶちまけられた血液が渦巻き、オルクスの周囲に流れ込む。
 それらはびっしりと、おびただしい数の瞳を作り、怨念と共にハンター達を睨みつけた。



●“エンブリヲ”
「へいはい、へいはい、らいへいはい~!」
 女は手を叩きはしゃぐようにくるりと回る。傷口から伸びた青い闇はぎょろりと瞳を作り、ハンター達を見つめている。
「ひゃへりひふい……」
 女は自らの首を両手で掴むと強引に引きちぎり、自らの頭だったものを握り潰した。
 首から上には炎のように舞い上がった血しぶきがあり、そこから音が聞こえてくる。
『新しい頭を新調しなくっちゃ……。それにしても良くわかったわねぇ? ヴァイス……だったかしら? あなた、中々素敵よぉ♪』
「あああっ!? 綺麗なオネーサマの顔があ!?」
「お姉様っ、頭がっ!?」
 忠国とCelestineが同時に悲鳴を上げた。そりゃそうだ。
『セレスちゃんだったかしらぁ? ごめんなさいねぇ。できれば綺麗な姿で居てあげたかったんだけどぉ……これはこれでイイものなのよぉ?』
 両腕を広げる。青い血は渦巻く風に乗り場を包み込む。
 剣妃を中心にまるで竜巻が起きたようだ。しかしハンター達の周囲は、嵐の中心のように凪いでいる。そして頭上には静かに青い月が浮かび……。
「……待て。月だと?」
 明影が驚き頭上を見上げる。確かにそこにあった筈の太陽が消え、代わりに満月が浮かんでいた。
『知ってたぁ? 吸血鬼はね、自分の城の中でこそ初めて本領を発揮出来るの。だから高位の吸血鬼はみぃんな自分の城を持っているのよぉ。勿論、私もね』
 そう言って女が指差したのは自らの肉体。
『これが私のお城。私の内側には私だけの世界がある。こんなに早く正解を当てられるとは思わなかったから、ご褒美に見せてあげるわねぇ♪』
 両手の詰めを腹に突き刺し、力任せに引き裂く。そこには内臓は存在しない。ただ滝のように血が溢れ、魔法陣が浮かび上がっている。
『さあ、お還りなさい……私の世界へ。あらゆる生を虚無に溶かす、永遠の理想郷……!』
 杖を大地に突き刺すと、足元に光が広がっていく。

『零式浄化血界。ブラッドフォート……“エンブリヲ”――ッ!』

 眩い光から目を覚ますと、周囲の景観は様変わりしていた。
 昼は夜に代わり、荒野は氷の大地へ。そしてハンター達を取り囲むように青い血霧の壁が渦巻いている。
「えっ、えー……?」
「力の規模が……デタラメすぎる……」
 唖然とするリサ。ロイドもこれには驚きを隠せない。
「空間を書き換えたとでもいうのか……?」
 周囲を見渡すクィーロ。すると、頭上からオルクスが降りてくるのが見えた。
 首から上の部分が膨張すると、まるで檻から這い出る獣のように、血は腕を作り、牙を作り、得体の知れぬ咆哮を上げた。
「これが不変の剣妃……お目にかかれて光栄だ。ああ、実に恐懼感激の極みだとも」
 構え直す明影。怪物が大地に手を振り下ろすと、隆起した結晶の足場が剣となってハンター達を襲う。
「その強さ、至上の試練であり不足はない。俺の辞書に――諦め等という言葉は存在せんのでな!」
 刃に切り裂かれながらも銃で反撃する明影。クィーロも瞳を見開き前に進む。
「たまらねえな……この感覚!」
 怪物を斬りつけるも、振り上げるような爪の一撃に吹き飛ぶクィーロ。一撃で血まみれになり、立っているだけでもやっとだ。
「ははは! 流石だな! いいぜこの感覚だ……最高だ!」
「言ってる場合じゃないでしょ!」
 ヒールを施すリサとジェールトヴァ。もう無傷での勝利など不可能だ。可能な限り全員にプロテクションを施す。
 怪物が口を開くと、そこからあふれんばかりに無数の槍がせり出す。それはショットガンのように発射され、ハンター達を薙ぎ払った。
「これがオルクスお姉様の本当の……! 風の加護よ! was yea ra accrroad oz fhyu yor !」
 額から血を流しながらCelestineはウィンドガストを仲間へ施す。が、それを待たずに再び槍が降り注いだ。
 衝撃に吹き飛ぶハンター達。なんとか立ち上がるが、無傷でやり過ごせた者は居なかった。
「ち、治療が……全然追いつかない……」
「もう十分です! 戦闘よりも撤退を優先しなさい!」
「逃げるって、どこからですか!?」
 タングラムの声に忠国が返す。そう、見た限り何処が出口かもわからない。
「杖……。発動の時、彼女は杖を地に刺していた。そして今も……」
 脇腹の傷を押さえながらジェールトヴァが指差す。怪物を吐き出す首から下、オルクスの身体はまだ地面に楔を刺し続けている。
「結界術の起点は楔だから……あれを何とかすれば……」
「やるしかないわね」
 ハイデマリーの声に伊路葉が弾薬を再装填し立ち上がる。
 次の瞬間、怪物が咆哮を上げると、ハンター達の身体に強い威圧感が振り注いだ。
 スキルが使えなくなった……のではない。全員の覚醒そのものが切れたのだ。
「うそっ!? 精霊の力が……!?」
「いやいや無理ですよ、非覚醒状態であれの下にある楔壊しにいくんですか!?」
 リサの声に猛然と首を横に振る忠国。レイスは口元の血を拭い槍を振るう。
「だとしてもやるしかない。俺は諦めない……そして奴に示して見せる。“ヒト”の持つ力を!」
「援護するわ。行きなさい!」
 伊路葉の銃声を合図にハンター達は駆け出した。
 誰かがあそこに辿り着き、楔をどうにかすれば活路が開けるかもしれない。
 怪物は自らの身体から無数の腕を伸ばす。蛇のように蠢くそれらは、無数の光となってハンター達へ降り注ぐ。
 明影は足を止め、仲間へ迫る腕を刃で引き裂く。
「行け! なあに、訓練は積んでいる。生身でも時間稼ぎくらいは出来よう!」
 身体は重い。力も出ない。それでも男は仲間達を見送る。
「――任せたぞ。お前達の輝き、俺にも見せてくれ」
 束になった蛇が明影を飲み込み、そこからはぐれた幾つかが背後から迫る。
「うぅ、せめてお姉様にいやらしいそよ風を送ってから倒れたかったですわー……っ」
「あのオネーサン、スカート……っていうかパンツも履いてないんじゃないですか!?」
 涙目になるCelestineと忠国。迫る蛇の牙を盾で受け止めたのはロイドだ。
「こんなものは下の下だが……目的の達成に必要な策でもある。行け、こいつはなんとかする!」
 蛇を掴んで動きを止めるが、思い切り空に放り上げられる。そんなロイドへ怪物の放った血の槍が迫る。
「……すまん、皆……っ」
 死を覚悟したその時、ロイドの身体を温かい光が包んだ。
 それは槍の矛先をずらし、ロイドの肩を引き裂くに終えた。
 怪物が腕を振るうと、隆起した結晶の剣が行く手を阻む。クィーロはその中を掻い潜り、怪物の前に出る。
「おいおい浮気とは関心出来ねぇな! よそ見するくれぇなら俺と踊ってくれよ、命を掛けたダンスをな!」
 薙ぎ払う爪を刀で受けるが、体中が軋み、断裂した筋肉が血を吹き上げる。
 覚醒状態ならば兎も角、今のクィーロに止められるはずはなかった。ごきりと骨が砕ける音が響き、身体は空を舞う。
「もう少し!」
 怪物は振り返るようにしてすり抜けたハンター達へ目を向ける。その口にたんまりと槍を犇めかせ、無数の光を瞬かせた。
「リサちゃん!」
 無数の軌跡を残し槍が降り注ぐ。リサを抱きしめたハジャはその背に槍を受け、血を吐きながら倒れた。
「ちょっと……ハジャ!? なんで……!」
「約束したろ? 可愛い女の子は…………そして爺さん、すまねぇ……」
「いや、仕方ないね……適切な判断……だよ」
 庇われなかったジェールトヴァも血まみれで倒れた。ハジャも既に意識はなく、リサを抱いたまま項垂れた。
「僕なんでまだ無事なんでしょう!?」
 必死に走る忠国が叫ぶ。怪物は巨大な腕を振り上げ、ハンターへ振り下ろす。
 その一撃をレイスとヴァイスが受け止める。足元の結晶が陥没し、二人の身体が潰れる。
「ぐ、お……!」
「こんな所で……。こんな所で、死ぬわけには行かない!」
 瞳を見開くと、二人の身体を光が覆う。槍と大剣を重ね、二人は息を合わせる。
「「 うおおおおおおおっ!! 」」
 光が爆ぜ、怪物の身体が仰け反った。その間にCelestinはオルクスの首から下に飛びつく。
「お姉様、ごめんなさいっ」
「どうせなら僕もそっちがよかった……!」
 押し倒すようにして楔から手を退かすと、忠国が楔を引きぬいた。
 その瞬間、周囲を封鎖する霧が薄くなる。が、同時に怪物の尾のような部分が忠国とCelestinを派手に吹き飛ばした。
「走って!」
 伊路葉の声に傷だらけのハンター達が僅かに反応を示す。
 ロイドは明影に肩を貸し、リサは泣きそうになりながらハジャとジェールトヴァを引きずる。
 ヴァイスは大量の血を吐きながら倒れているレイスの服を掴み移動させようとするが、力が入らない。
「しっかりしなさい!」
 仮面が砕け、素顔が露わになったタングラムがレイスを共に掴む。
「俺、は……」
「生きて帰るんだ! そう願ってくれた皆がいるから、俺達はまだ生きてるんだろう!?」
 ヴァイスの声に力なく頷くレイス。ハンター達は霧の壁に逃げ込むが、まだ霧は完全に消えていない。
「向こう側は見えてるのにっ!!」
 悔しげに叫ぶリサ。クィーロを背負っていたハイデマリーは壁に魔導ガントレットを当てる。
「浄化武装で穴を開けてみる」
「もうカートリッジが切れているのではなかったのか……?」
 ロイドの声に頷き、ハイデマリーは振り返り。
「だから、自分の身体で使う」
 蒸気を吹き上げ、魔法陣が浮かび上がる。
「よせっ」
 ロイドが止める間はなかった。発動した浄化武装はバチバチとマテリアルを放電し、霧の壁を吸い込む。
 そして次の瞬間、ガントレットごと爆発した。ハイデマリーの腕の肉が血と共に飛び散り、ロイドの頬に付着する。
「なんて事を……!」
「行って……早く行って!!」
 らしくないハイデマリーの大声にハンター達は転がり出るように結界の外へ走った。
 眩い光が差し込んでいる。闇に塗り替えられた世界の外へ、生を渇望するようにハンター達は腕を伸ばした。


●矛盾
「生きてますかぁ~?」
 血の結界は解かれ、新品に交換したような綺麗な顔のオルクスが姿を見せた。
 荒野には血まみれのハンター達が倒れている。最早まともに起き上がれる者はいなかった。
 女は上着のポケットに両手を入れ、少しだけ寂しそうにハンター達を見つめる。
「敵わないと知りながら、無駄であると承知の上で、それでも生を手放さない。何故なのかしらねぇ? 闇と一つになってしまえば、痛みも苦しみもなくなるのに」
 ハンターの中にはまだ意識が残っている者も居た。そんな者達の視線を受け、女は微笑む。
「それでもと抗い、命の輝きを溜め込むあなた達だからこそ、いずれ摘み取られる花だからこそ美しい」
 パチンと指を鳴らすと、青い血の霧がハンター達を包む。
 それらはまるで意志を持つかさぶたのように、結晶となって傷口を塞いだ。
「血を流しすぎると死んじゃうなんて不便ねー。“城”を展開したからには遠目に見ても救援が来そうなものだけど……ま、運が良かったら助かるでしょ」
「まさか……俺達を助けるというのか?」
 ヴァイスの言葉に振り返り、コクコクと頷く。
「何故だ……?」
「何故って言われても……あなたは蜘蛛の巣に掛かっている蝶を助けないの? ペットにエサは? 生花に水は?」
 お前たちはその程度の存在だと、邪気のない眼差しが心底正直に語っていた。
「じゃあね、ヴァイス。言っておくけど超手加減してあげたんだから、私の全部をわかったつもりにならないでよねぇ?」
 血の翼を広げるとそれをマントのように纏い、女は空に浮かび上がった。
 青空を飛んで行く影を見送る前に、ヴァイスの意識は途切れた。
「――そこそこ楽しかったわ。命があれば、いずれまたね」



「ハイデマリーさんの様子は?」
「……左腕は切除する事になるかもしれないと」
 救助は直ぐには来なかった。だからハンター達が生き残れたのはたまたまだった。
 伊路葉に応えながら、ハイデマリーを乗せたトラックが走り去るのをロイドはただ見つめていた。
 最終的にまともに動けたのはロイドと伊路葉、そしてリサとタングラムだけ。残りのメンバーは重傷を負ったか、気絶したまま搬送された。
「ハジャ……まさか死なないよね?」
「しぶとい奴ですから、きっと大丈夫ですよ」
 半分にかけた仮面から優しい目を向け頷くタングラム。リサは砂の上で膝を抱える。
「器を追いかけたら、いずれまたアレにぶつかるのかな。あんな、どうしようもない化け物に……」
 一体どんな悪夢がアレを創り出したというのだろう。アレに対し、人間に出来る事などあるのだろうか。
「くやしいよ……」
 俯いたリサ。その背中を抱き、タングラムは空を見上げた。
 幻のような夜は消え、皮肉なほどに空は晴れ渡っている。

 人知を超越した怪物との戦いは、未だ始まったばかりであった――。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 22
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧


  • ヴァイス・エリダヌスka0364
  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラックka0408
  • 愛しい女性と共に
    レイスka1541
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァka3098

重体一覧

  • 輝きを求める者
    弥勒 明影ka0189
  • 愛しい女性と共に
    レイスka1541
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァka3098
  • 差し出されし手を掴む風翼
    クィーロ・ヴェリルka4122

参加者一覧

  • 暁風の出資者
    Celestine(ka0107
    エルフ|21才|女性|魔術師
  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラック(ka0408
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士

  • 雲類鷲 伊路葉 (ka2718
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァ(ka3098
    エルフ|70才|男性|聖導士
  • 運命の回答者
    リサ=メテオール(ka3520
    人間(紅)|16才|女性|聖導士
  • 差し出されし手を掴む風翼
    クィーロ・ヴェリル(ka4122
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • それでも尚、世界を愛す
    加茂 忠国(ka4451
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ヴァイス・エリダヌス(ka0364
人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/04/15 05:26:34
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/11 21:44:56
アイコン 相談卓
リサ=メテオール(ka3520
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/05/11 19:34:10