ゲスト
(ka0000)
Death Song
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/22 19:00
- 完成日
- 2015/04/30 23:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
セイレーン、という海の魔物がいる。
波打ち際の岩場に腰掛けて、美しい歌声で船人を狂わせ、海に沈めるという。
とある港町でも、似たような? 現象が起き始めたと、ハンターオフィスに依頼が舞い込んできた。
「依頼です。ある雑魔……だと思うのですが、退治して来て下さい」
……何やら歯切れ悪そうにそう、説明係の女性は言った。
「場所はこの街から南へ行った港町です。その砂浜に、セイレーン? のような雑魔が出たというのですが……」
眉間にしわを寄せたまま、レポートを片手に彼女は言い淀む。
「実際に誰かが殺された、とかいう被害はまだ出ていません」
それは不幸中の幸いである。早く解決に向かえば被害ゼロのまま終われるかも知れない。
「近隣住民からの依頼内容をそのまま読み上げますね」
彼女は小さな咳払いの後、突然声色を変えて読み始めた。
『私の町に出た、あの勘違い雑魔を退治して下さい。あの雑魔は朝も昼も夜も雨の日も風の日も晴天の日も関係無く、ずっと鳴き続けています。これが小鳥のさえずりのように美しければ、伝説の歌姫のように可憐であれば、酒場の吟遊詩人のように時に切なく、時に面白く歌い上げてくれるのであれば、我々も我慢しましょう。しかし、ヤツは違うのです。ヤツは、醜悪な姿で、ただただけたたましく鳴き、我々は静かに眠る事も出来ません。どうか、退治して下さい』
まるで中年の男性が話し出したかのような声をで手紙を読み上げていた彼女は、こほん、と小さな咳払いをもう一度して声を戻すと、あなたたちを見渡して、続けた。
「こちらが、同封されていた、雑魔の姿をスケッチしたもの、だそうです」
テーブルの上に一枚の紙が置かれた。
そこに書かれていたのは……
「くま……? いや、蝉?」
「……のように見えますね」
そのイラストは、ギチギチと線が曲がったり、黒く塗りつぶしてある部分があったりしたが、かろうじて、蝉のように見えた。
「どうやらその鳴き声を聞いていると徐々に集中力を欠いてイライラしてしまうようです。そして八つ当たりしたくなるのだと。そのイラストも町で一番絵心がある人物が何枚も描き直して漸く見せられるものになった、と注訳がついていました」
再びそのイラストを見ると、確かに、何度かペン先をグッと押しつけた跡や、筆先を折ったような跡が見える。
「また、町で一番歌が上手い娘が、対抗意識から歌ってみたのだそうです」
その対抗意識の意味がわかない! とツッコミたくなったのをぐっと堪えてあなたは話しの続きを促した。
「すると、その雑魔はその娘の側まで駆け寄って」
え!? と上がる声を黙殺して彼女は淡々と話しを続ける。
「対抗するようにさらにけたたましく鳴いたのだそうです」
……一同沈黙。そういえば被害はまだ出ていないと言っていたか。
「そして、少女が歌うのを止めて暫くすると、満足そうに元の砂浜まで帰っていったそうです」
どうやらその砂浜で鳴く事に雑魔はこだわっているようだという。
「何の為に鳴き続けているのかわかりませが、憶測の話しをするなら、仲間を呼んでいるのではないか、という意見がありました」
……このけたたましいのが大量発生したのを想像しただけで、頭が痛くなる。
「何にせよ、間もなく潮干狩りの時期になります。この港町では大切な収入の一つになっています。このような雑魔がいては潮干狩りに人を呼ぶ事も出来ませんし、何より、睡眠時間が取れていない住民達が体調を崩し出すのも時間の問題でしょう。どうぞ、解決をお願いします」
そう言うと、彼女は人数分の耳栓を机の上に置いてから、深々と頭を下げた。
波打ち際の岩場に腰掛けて、美しい歌声で船人を狂わせ、海に沈めるという。
とある港町でも、似たような? 現象が起き始めたと、ハンターオフィスに依頼が舞い込んできた。
「依頼です。ある雑魔……だと思うのですが、退治して来て下さい」
……何やら歯切れ悪そうにそう、説明係の女性は言った。
「場所はこの街から南へ行った港町です。その砂浜に、セイレーン? のような雑魔が出たというのですが……」
眉間にしわを寄せたまま、レポートを片手に彼女は言い淀む。
「実際に誰かが殺された、とかいう被害はまだ出ていません」
それは不幸中の幸いである。早く解決に向かえば被害ゼロのまま終われるかも知れない。
「近隣住民からの依頼内容をそのまま読み上げますね」
彼女は小さな咳払いの後、突然声色を変えて読み始めた。
『私の町に出た、あの勘違い雑魔を退治して下さい。あの雑魔は朝も昼も夜も雨の日も風の日も晴天の日も関係無く、ずっと鳴き続けています。これが小鳥のさえずりのように美しければ、伝説の歌姫のように可憐であれば、酒場の吟遊詩人のように時に切なく、時に面白く歌い上げてくれるのであれば、我々も我慢しましょう。しかし、ヤツは違うのです。ヤツは、醜悪な姿で、ただただけたたましく鳴き、我々は静かに眠る事も出来ません。どうか、退治して下さい』
まるで中年の男性が話し出したかのような声をで手紙を読み上げていた彼女は、こほん、と小さな咳払いをもう一度して声を戻すと、あなたたちを見渡して、続けた。
「こちらが、同封されていた、雑魔の姿をスケッチしたもの、だそうです」
テーブルの上に一枚の紙が置かれた。
そこに書かれていたのは……
「くま……? いや、蝉?」
「……のように見えますね」
そのイラストは、ギチギチと線が曲がったり、黒く塗りつぶしてある部分があったりしたが、かろうじて、蝉のように見えた。
「どうやらその鳴き声を聞いていると徐々に集中力を欠いてイライラしてしまうようです。そして八つ当たりしたくなるのだと。そのイラストも町で一番絵心がある人物が何枚も描き直して漸く見せられるものになった、と注訳がついていました」
再びそのイラストを見ると、確かに、何度かペン先をグッと押しつけた跡や、筆先を折ったような跡が見える。
「また、町で一番歌が上手い娘が、対抗意識から歌ってみたのだそうです」
その対抗意識の意味がわかない! とツッコミたくなったのをぐっと堪えてあなたは話しの続きを促した。
「すると、その雑魔はその娘の側まで駆け寄って」
え!? と上がる声を黙殺して彼女は淡々と話しを続ける。
「対抗するようにさらにけたたましく鳴いたのだそうです」
……一同沈黙。そういえば被害はまだ出ていないと言っていたか。
「そして、少女が歌うのを止めて暫くすると、満足そうに元の砂浜まで帰っていったそうです」
どうやらその砂浜で鳴く事に雑魔はこだわっているようだという。
「何の為に鳴き続けているのかわかりませが、憶測の話しをするなら、仲間を呼んでいるのではないか、という意見がありました」
……このけたたましいのが大量発生したのを想像しただけで、頭が痛くなる。
「何にせよ、間もなく潮干狩りの時期になります。この港町では大切な収入の一つになっています。このような雑魔がいては潮干狩りに人を呼ぶ事も出来ませんし、何より、睡眠時間が取れていない住民達が体調を崩し出すのも時間の問題でしょう。どうぞ、解決をお願いします」
そう言うと、彼女は人数分の耳栓を机の上に置いてから、深々と頭を下げた。
リプレイ本文
●爽やかな春風と夏の声と
その港町に着く前から、違和感……というより、耳にダイレクトに届く、蝉の声。
「うたう魔物は、此処にもいるのな」
どんな魔物なのだろうと黒の夢(ka0187)が楽しそうに町を見る。
「……聞きしに勝る騒々しさです。こんなものを聞き続けていたら、おかしくなりそうですね」
柳眉を顰めたHollow(ka4450)が思わず呟く。
「町の人の精神安定のためにも、ちゃっちゃと倒しちゃおうか!」
どれほどの五月蠅さなのか、その興味から参加を決めたレティシア・キノーレル(ka4440)が今はまだ、明るく声をかける。
……リアルブルー出身者がいたら『好奇心は猫を殺す』という格言を思い出したかもしれないが、今回は全員がクリムゾンウェスト出身者という奇跡が起きていた。しかも、参加者が全員女性。お陰で道中は大変華やかに姦しく、ここまで楽しく来る事が出来ていた。
しかし、町に入った一行は、既に大声で話さなければ互いの声が聞こえないという状況になっていた。
「とりあえず、網を借りに行きましょう」
Hollowの先導で、騒音の中心へと向かって行く。しかし、この音をたった1匹が奏でていると言うのだから、本当に酷い。
「はぅ……ほんとに……五月蝿いのです……」
げんなりとした様子でネプ・ヴィンダールヴ(ka4436)が思わず呟きながら後に続く。
船着き場に行くと、丁度漁から帰ってきたらしい漁師を発見し、網を貸してもらえるように交渉に出た。
挨拶から入り、最初こそ丁寧に話していたが、それはすぐにまるで怒鳴り合うような形に変わり、レティシアはラチがあかないと判断して紙とペンを取り出した。
『あの蝉を退治するのに、網を貸して下さい』
『あの蝉を捕まえるのは無理だ。俺たちが試した。網を切って逃げられる』
眉間にしわを寄せた漁師曰く、最初はちょっとデカイ蝉だと思っていたので、町人一丸で追い払おうとしたらしい。
しかし、網を投げれば切って逃げる。硬い鍋などで捕まえようとすると華麗に避ける。そして何より何かちょっかいをかける度にけたたましく鳴くので、徐々に皆がイライラを募らせ、小さな小競り合いが増えるようになった。どうにもおかしいと調査を依頼したらどうやら雑魔らしいという事が分かり、以来ハンターが来るまで『触らぬ神に祟りなし』と静観することにしたらしい。
町の入口より海側の方がより煩いが、徐々にその音になれてきた一行は、大声を張り上げれば大体個々が何を言っているのかはわかるようになってきたので、その場で作戦会議を開始する。
「まぁ、確かに蝉のような外見で、被害もなければ、まずは自分達でどうにかしようと思いますよね……」
マナ・ブライト(ka4268)が事の成り行きを理解して、困り顔で溜息を吐いた。
「んーんー。蝉取りしてー、串焼きにしたかったのー、ざーんねん」
黒の夢が深刻さを感じさせないふわふわとした笑顔で言うと、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が腕組みをしたまま、大きく頷いた。
「オフィスで聞いただけでは分からぬ情報も得られた事だし、蝉取りは出来ずとも、作戦に支障はないだろう。早く排除してやろう」
一行は漁師に礼を告げると、蝉がいるという砂浜へと向かうのだった。
●砂浜と春の陽気と蝉時雨
レティシアは戦闘前の準備として耳栓の上からイヤーマフをして耳を覆った。
それによって漸く訪れた静寂も、しかし戦闘状態になるとどうなるか分からない。
同じくディアドラも耳栓を装備。
仲間が何を話しているのかが分からなくても、事前にハンドサインの打ち合わせは終わっているので、戦闘には支障がない……と願いたかった。
他4人は結局耳栓を使わない事にして、今、砂浜で蝉……らしき雑魔と対峙していた。
「あー……確かに蝉っぽい」
「イラストじゃ分からなかったけど、確かに、蝉っぽい何かと掛け合わせた感じ?」
「……あれでは大きさが分からなかったが、明らかに蝉より大きいでは無いか」
「どんなに喧しくても楽しい声なのなー、元気ゲンキー♪」
ネプとレティシア、ディアドラがそれぞれ思わず感想を口にする。
黒の夢はキャンディーをもこもこと口腔内で転がしながらにこにこしている。
もっとも、思わず出た言葉だから、自分以外の誰に届く事もない。
そして何より蝉っぽい雑魔から発せられる鳴き声で周囲の音は完全にかき消されている。
ちなみにその蝉っぽい雑魔は、確かに蝉に似た外見だった。
全長30cm程度だろうか。小さいと言えば小さいが、蝉としては明らかに大きい。むしろあんな大きさの蝉がいたら怖い。女子じゃなくてもあの大きさが飛んできたら、悲鳴を上げて逃げるのでは無いだろうか。
全体が黒っぽく、ずんぐりむっくりした全身。そして、腹部を激しく振るわせて音を出しているのだが、その様は、スピーカーを想像させる。
そして大音量でジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカと鳴いている。
大音量過ぎて、ジャカジャカなのかジャンジャンバリバリなのか分からない。
頭が痛くなる程、全身を音の波が打つのが分かる程に煩いのだ。
「うなー……集中集中、深呼吸してひっひっふーなのなっ」
上着を脱いでマイクロビキニ姿になった黒の夢が呪文を歌にして詠唱を始める。
覚醒により、髪と肌の黒みが増して、金色の紋様と眼光が一層際立つ中、彼女自身を表すような朗々とした歌声は、この騒音の中でも雑魔の耳に届いたらしい。
途端に、音量が倍量になった。
「耳栓しても聞こえてくるの?! なにこの五月蠅さ!」
レティシアが思わず両耳を押さえた。
「こんな騒音ではない、皆が楽しめる歌を奏でましょう。黒の夢さん、宜しくお願いします」
光のオーラに身を包んだマナは黒の夢をサポートするためにレジストを唱える。
ネプもマテリアルエネルギーを黒の夢へと流入させる。
「‥‥騒音をまき散らす存在を許容するわけにはいきませんから。早々に退治することとしましょう」
静かにHollowも防性強化を己に施し、戦う準備を整える。
ディアドラはいつでも攻撃出来るよう、太陽の白光を纏いローレル・ラインを構えた。
騒音の中にあっても黒の夢の歌は途切れる事無く音を紡ぎ続けた。
その効果あってか、ついに雑魔が黒の夢目がけて羽を激しく羽ばたかせて『走り寄ってきた』。
「飛ばないのか!?」
思わずディアドラがツッコミながら、走り寄る雑魔に剣を振り下ろす。
……そういえば、歌う娘の側まで『駆け寄って』対抗するように鳴いたと言っていたか。
動揺するディアドラの攻撃を避けた雑魔は黒の夢に向かって突進していく。
黒の夢はそれを見てにこりと微笑み、豊満な胸を揺らして体当たりを躱すと、眠りを誘うガスを発生させた。
周囲一体が蒼白い雲状のガスに覆われる。
……しかし、蝉の声が止む事は無かった。
「はぅ! 音と一緒に地の果てまで吹っ飛ぶといいのですー!」
ガスが晴れるのと同時にネプがパイルバンカーを構え、杭を発射する。
それも華麗に避けると、一層煩く鳴いた。
「ああもう我慢できない!」
イライラが頂点に達したレティシアがグーパンチで蝉に殴りかかった。
当然、その攻撃もひらりと躱され、レティシアはつんのめって前のめりに転んだ。
「大丈夫ですか?!」
マナが転んだレティシアを抱えて起こそうとするが、その手を払いのけると、レティシアはマナの豊満な胸をぽふぽふと叩く。
……男性が見たら羨ましい光景かも知れないが、残念……もとい、幸いにもここには女性しかいない。
キィー! っと半狂乱になっているレティシアを見て、マナはレジストを唱えてレティシアの回復を支援する。
Hollowは騒音にこめかみを押さえつつ、さらに攻性強化を自分へ施してから魔導銃を撃った。
流石に雑魔もそれは避けきれず、一瞬鳴き声が止んだ。
――しかし、再び更に音量を増して鳴きだした。
「いい加減、鼓膜が破れる!!」
ネプがギリギリとパイルバンカーのグリップを握り締め、杭を放つ。
その杭は羽を傷付けたが、鳴き声が止む事は無い。
ディアドラも耳栓の恩恵が全く無くなっている事に辟易しながら盾を構えて、再び雑魔に斬りかかると、その腹部に浅い傷を付ける事に成功した。
再び蝉の声が止んだ……が、再び音量は変わらず鳴き始める。
……どうやら、身体に攻撃が当たった時だけ一瞬ではあるが鳴き声が止まるらしい。
スリープクラウドを放った後も、楽しそうに歌いながら、詠唱をしていた黒の夢がファイアアローで蝉の全身を焼く。
ジャジャジャッジャジャジャッジャ!
その鳴き声は悲鳴じみてマナの耳に届いた。
「うわぁ! 叩いちゃって御免ね」
正気に戻ったレティシアがマナに両手を合わせて謝罪すると、マナは笑顔で親指と人差し指で輪を作り、OKサインをして見せた。
それを見たレティシアが頷いて、もう一度両手を合わせて謝罪した後、雑魔へと向き直った。
「静かに! して! して! してーっ!」
叫びと共に自身の身長よりも大きな弓弦を引き絞り、雑魔を砂浜に縫い付けんと射る。
しかし、それを華麗に躱すとレティシアとマナの方へと向かって走ってきた。
「歪虚め、光の前に滅しなさい!」
目の前で光が弾けた感覚がして、マナは叫びながら一番近くにいたレティシアに殴りかかる。
雑魔の体当たりを受けて、弾き転がされたところを、背後からマナにぽかぽかと殴られて、レティシアは驚きながらもその手を取って、マナに呼びかけた。
「ちょっ、痛いって、マナさんしっかりしてー!?」
レティシアの想いが届いたのか、マナはすぐに正気に戻ると、ぎょっとしたようにレティシアから距離を取って、深々と何度も謝罪をした。
その様子を見て、今度はレティシアが笑顔でOKサインを作ってみせると、マナは少しほっとしたように微笑って、もう一度深々と頭を下げた。
●そして春の夏日は終わる
徐々に傷が増えてきた雑魔は、遂に羽を強く振るわせると空気の刃を生み出し、ディアドラを襲った。
それを盾でしっかりとガードすると、ディアドラは反撃へと転じた。
力強く踏み込み、大きく剣を振ってその勢いのままに雑魔の腹部を横から薙ぎ払う。
雑魔は蹈鞴を踏んだ後、脚を縺れさせて転んだ。
訪れる静寂。
しかし、騒音に晒され続けた両耳は歌い続ける黒の夢自身の声さえも拾わない。
それでも、Hollowもいつからか歌を口ずさんでいた。
レティシアも、弓を射ながら大声で、蝉の声を打ち消すように歌っていた。
マナも光弾で攻撃しながら、口ずさむのは聖歌。
負けじと再び鳴き始め、羽を振るわせながら雑魔が動き始めたのを見たネプが機導砲を放った。
「その考え、おまんじゅうよりも甘いのですよ!」
またHollowもエレクトリックショックで雑魔の動きを止める。
その好機を逃すまいと、黒の夢がファイアアローで砂浜に縫い付けて焼き、ディアドラが腹部を貫通する一撃を放つ。
何度か痙攣するように小刻みに手足を振るわせた後、遂に雑魔は沈黙した。
消失が始まった雑魔を見て、全員が砂浜に膝を着き、誰も口を開く事無く座り込んだ。
「……終わり、ました……?」
完全に雑魔の形が消えて、暫くしてマナがぽつりと呟く。
レティシアはイヤーマフを外し、耳栓を抜いた。
「あー! 波の音が、心に染み入るー!」
自分の声が声で聞こえる、そんな当たり前の事に涙が出そうなくらい嬉しくなった。
ディアドラも耳栓を抜いたが、まだ聴覚は完全には戻らず、ぼーんとした感覚がして顔をしかめた。
黒の夢は仰向けに寝っ転がると、キャンディを一つ口に放り込み、再び歌い出した。
何を思ってあの雑魔が鳴き続けていたのかは分からないが、元気いっぱいで好きだったよ、と音に乗せて、風に運んで貰う為に。
「歌う事は楽しい事なのな♪ どんなに歌っても苦になんてならないのなー」
「はぅ~……まだ、音が響いてる気がするのです~……」
ネプが頭を抱えながら、あーあー、と声を出して聞こえ方を確認する横で、レティシアがほぅ、と息を吐いた。
「ほんとひどい雑魔だったよね。静寂が落ち着くー……」
その声に突如姿勢を正したマナがレティシアに向かって深々と頭を下げた。
「本当に申し訳ありません。私で出来ることは何でもします。叩いてしまった箇所が痛むようでしたら言ってくださいね」
「あれは仕方ない。仕方ないよ。僕もマナさん殴っちゃったし、おあいこだよ。ってかマナさんこそ痛くない? 大丈夫?」
ごめんね? とお互いに謝って、2人は笑い合った。
早すぎる夏の声が止んで、久方振りに静寂を取り戻した砂浜をHollowは見る。
これで無事潮干狩りには間に合うだろうか?
時季外れの蝉の声ではなく、潮干狩りを楽しむ人々の声で賑わう海辺を想像して、Hollowはふわりと微笑んだ。
涼やかな波音が響く砂浜で、まだ少し冷たい春風が6人の間を吹き抜けていった。
その港町に着く前から、違和感……というより、耳にダイレクトに届く、蝉の声。
「うたう魔物は、此処にもいるのな」
どんな魔物なのだろうと黒の夢(ka0187)が楽しそうに町を見る。
「……聞きしに勝る騒々しさです。こんなものを聞き続けていたら、おかしくなりそうですね」
柳眉を顰めたHollow(ka4450)が思わず呟く。
「町の人の精神安定のためにも、ちゃっちゃと倒しちゃおうか!」
どれほどの五月蠅さなのか、その興味から参加を決めたレティシア・キノーレル(ka4440)が今はまだ、明るく声をかける。
……リアルブルー出身者がいたら『好奇心は猫を殺す』という格言を思い出したかもしれないが、今回は全員がクリムゾンウェスト出身者という奇跡が起きていた。しかも、参加者が全員女性。お陰で道中は大変華やかに姦しく、ここまで楽しく来る事が出来ていた。
しかし、町に入った一行は、既に大声で話さなければ互いの声が聞こえないという状況になっていた。
「とりあえず、網を借りに行きましょう」
Hollowの先導で、騒音の中心へと向かって行く。しかし、この音をたった1匹が奏でていると言うのだから、本当に酷い。
「はぅ……ほんとに……五月蝿いのです……」
げんなりとした様子でネプ・ヴィンダールヴ(ka4436)が思わず呟きながら後に続く。
船着き場に行くと、丁度漁から帰ってきたらしい漁師を発見し、網を貸してもらえるように交渉に出た。
挨拶から入り、最初こそ丁寧に話していたが、それはすぐにまるで怒鳴り合うような形に変わり、レティシアはラチがあかないと判断して紙とペンを取り出した。
『あの蝉を退治するのに、網を貸して下さい』
『あの蝉を捕まえるのは無理だ。俺たちが試した。網を切って逃げられる』
眉間にしわを寄せた漁師曰く、最初はちょっとデカイ蝉だと思っていたので、町人一丸で追い払おうとしたらしい。
しかし、網を投げれば切って逃げる。硬い鍋などで捕まえようとすると華麗に避ける。そして何より何かちょっかいをかける度にけたたましく鳴くので、徐々に皆がイライラを募らせ、小さな小競り合いが増えるようになった。どうにもおかしいと調査を依頼したらどうやら雑魔らしいという事が分かり、以来ハンターが来るまで『触らぬ神に祟りなし』と静観することにしたらしい。
町の入口より海側の方がより煩いが、徐々にその音になれてきた一行は、大声を張り上げれば大体個々が何を言っているのかはわかるようになってきたので、その場で作戦会議を開始する。
「まぁ、確かに蝉のような外見で、被害もなければ、まずは自分達でどうにかしようと思いますよね……」
マナ・ブライト(ka4268)が事の成り行きを理解して、困り顔で溜息を吐いた。
「んーんー。蝉取りしてー、串焼きにしたかったのー、ざーんねん」
黒の夢が深刻さを感じさせないふわふわとした笑顔で言うと、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が腕組みをしたまま、大きく頷いた。
「オフィスで聞いただけでは分からぬ情報も得られた事だし、蝉取りは出来ずとも、作戦に支障はないだろう。早く排除してやろう」
一行は漁師に礼を告げると、蝉がいるという砂浜へと向かうのだった。
●砂浜と春の陽気と蝉時雨
レティシアは戦闘前の準備として耳栓の上からイヤーマフをして耳を覆った。
それによって漸く訪れた静寂も、しかし戦闘状態になるとどうなるか分からない。
同じくディアドラも耳栓を装備。
仲間が何を話しているのかが分からなくても、事前にハンドサインの打ち合わせは終わっているので、戦闘には支障がない……と願いたかった。
他4人は結局耳栓を使わない事にして、今、砂浜で蝉……らしき雑魔と対峙していた。
「あー……確かに蝉っぽい」
「イラストじゃ分からなかったけど、確かに、蝉っぽい何かと掛け合わせた感じ?」
「……あれでは大きさが分からなかったが、明らかに蝉より大きいでは無いか」
「どんなに喧しくても楽しい声なのなー、元気ゲンキー♪」
ネプとレティシア、ディアドラがそれぞれ思わず感想を口にする。
黒の夢はキャンディーをもこもこと口腔内で転がしながらにこにこしている。
もっとも、思わず出た言葉だから、自分以外の誰に届く事もない。
そして何より蝉っぽい雑魔から発せられる鳴き声で周囲の音は完全にかき消されている。
ちなみにその蝉っぽい雑魔は、確かに蝉に似た外見だった。
全長30cm程度だろうか。小さいと言えば小さいが、蝉としては明らかに大きい。むしろあんな大きさの蝉がいたら怖い。女子じゃなくてもあの大きさが飛んできたら、悲鳴を上げて逃げるのでは無いだろうか。
全体が黒っぽく、ずんぐりむっくりした全身。そして、腹部を激しく振るわせて音を出しているのだが、その様は、スピーカーを想像させる。
そして大音量でジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカと鳴いている。
大音量過ぎて、ジャカジャカなのかジャンジャンバリバリなのか分からない。
頭が痛くなる程、全身を音の波が打つのが分かる程に煩いのだ。
「うなー……集中集中、深呼吸してひっひっふーなのなっ」
上着を脱いでマイクロビキニ姿になった黒の夢が呪文を歌にして詠唱を始める。
覚醒により、髪と肌の黒みが増して、金色の紋様と眼光が一層際立つ中、彼女自身を表すような朗々とした歌声は、この騒音の中でも雑魔の耳に届いたらしい。
途端に、音量が倍量になった。
「耳栓しても聞こえてくるの?! なにこの五月蠅さ!」
レティシアが思わず両耳を押さえた。
「こんな騒音ではない、皆が楽しめる歌を奏でましょう。黒の夢さん、宜しくお願いします」
光のオーラに身を包んだマナは黒の夢をサポートするためにレジストを唱える。
ネプもマテリアルエネルギーを黒の夢へと流入させる。
「‥‥騒音をまき散らす存在を許容するわけにはいきませんから。早々に退治することとしましょう」
静かにHollowも防性強化を己に施し、戦う準備を整える。
ディアドラはいつでも攻撃出来るよう、太陽の白光を纏いローレル・ラインを構えた。
騒音の中にあっても黒の夢の歌は途切れる事無く音を紡ぎ続けた。
その効果あってか、ついに雑魔が黒の夢目がけて羽を激しく羽ばたかせて『走り寄ってきた』。
「飛ばないのか!?」
思わずディアドラがツッコミながら、走り寄る雑魔に剣を振り下ろす。
……そういえば、歌う娘の側まで『駆け寄って』対抗するように鳴いたと言っていたか。
動揺するディアドラの攻撃を避けた雑魔は黒の夢に向かって突進していく。
黒の夢はそれを見てにこりと微笑み、豊満な胸を揺らして体当たりを躱すと、眠りを誘うガスを発生させた。
周囲一体が蒼白い雲状のガスに覆われる。
……しかし、蝉の声が止む事は無かった。
「はぅ! 音と一緒に地の果てまで吹っ飛ぶといいのですー!」
ガスが晴れるのと同時にネプがパイルバンカーを構え、杭を発射する。
それも華麗に避けると、一層煩く鳴いた。
「ああもう我慢できない!」
イライラが頂点に達したレティシアがグーパンチで蝉に殴りかかった。
当然、その攻撃もひらりと躱され、レティシアはつんのめって前のめりに転んだ。
「大丈夫ですか?!」
マナが転んだレティシアを抱えて起こそうとするが、その手を払いのけると、レティシアはマナの豊満な胸をぽふぽふと叩く。
……男性が見たら羨ましい光景かも知れないが、残念……もとい、幸いにもここには女性しかいない。
キィー! っと半狂乱になっているレティシアを見て、マナはレジストを唱えてレティシアの回復を支援する。
Hollowは騒音にこめかみを押さえつつ、さらに攻性強化を自分へ施してから魔導銃を撃った。
流石に雑魔もそれは避けきれず、一瞬鳴き声が止んだ。
――しかし、再び更に音量を増して鳴きだした。
「いい加減、鼓膜が破れる!!」
ネプがギリギリとパイルバンカーのグリップを握り締め、杭を放つ。
その杭は羽を傷付けたが、鳴き声が止む事は無い。
ディアドラも耳栓の恩恵が全く無くなっている事に辟易しながら盾を構えて、再び雑魔に斬りかかると、その腹部に浅い傷を付ける事に成功した。
再び蝉の声が止んだ……が、再び音量は変わらず鳴き始める。
……どうやら、身体に攻撃が当たった時だけ一瞬ではあるが鳴き声が止まるらしい。
スリープクラウドを放った後も、楽しそうに歌いながら、詠唱をしていた黒の夢がファイアアローで蝉の全身を焼く。
ジャジャジャッジャジャジャッジャ!
その鳴き声は悲鳴じみてマナの耳に届いた。
「うわぁ! 叩いちゃって御免ね」
正気に戻ったレティシアがマナに両手を合わせて謝罪すると、マナは笑顔で親指と人差し指で輪を作り、OKサインをして見せた。
それを見たレティシアが頷いて、もう一度両手を合わせて謝罪した後、雑魔へと向き直った。
「静かに! して! して! してーっ!」
叫びと共に自身の身長よりも大きな弓弦を引き絞り、雑魔を砂浜に縫い付けんと射る。
しかし、それを華麗に躱すとレティシアとマナの方へと向かって走ってきた。
「歪虚め、光の前に滅しなさい!」
目の前で光が弾けた感覚がして、マナは叫びながら一番近くにいたレティシアに殴りかかる。
雑魔の体当たりを受けて、弾き転がされたところを、背後からマナにぽかぽかと殴られて、レティシアは驚きながらもその手を取って、マナに呼びかけた。
「ちょっ、痛いって、マナさんしっかりしてー!?」
レティシアの想いが届いたのか、マナはすぐに正気に戻ると、ぎょっとしたようにレティシアから距離を取って、深々と何度も謝罪をした。
その様子を見て、今度はレティシアが笑顔でOKサインを作ってみせると、マナは少しほっとしたように微笑って、もう一度深々と頭を下げた。
●そして春の夏日は終わる
徐々に傷が増えてきた雑魔は、遂に羽を強く振るわせると空気の刃を生み出し、ディアドラを襲った。
それを盾でしっかりとガードすると、ディアドラは反撃へと転じた。
力強く踏み込み、大きく剣を振ってその勢いのままに雑魔の腹部を横から薙ぎ払う。
雑魔は蹈鞴を踏んだ後、脚を縺れさせて転んだ。
訪れる静寂。
しかし、騒音に晒され続けた両耳は歌い続ける黒の夢自身の声さえも拾わない。
それでも、Hollowもいつからか歌を口ずさんでいた。
レティシアも、弓を射ながら大声で、蝉の声を打ち消すように歌っていた。
マナも光弾で攻撃しながら、口ずさむのは聖歌。
負けじと再び鳴き始め、羽を振るわせながら雑魔が動き始めたのを見たネプが機導砲を放った。
「その考え、おまんじゅうよりも甘いのですよ!」
またHollowもエレクトリックショックで雑魔の動きを止める。
その好機を逃すまいと、黒の夢がファイアアローで砂浜に縫い付けて焼き、ディアドラが腹部を貫通する一撃を放つ。
何度か痙攣するように小刻みに手足を振るわせた後、遂に雑魔は沈黙した。
消失が始まった雑魔を見て、全員が砂浜に膝を着き、誰も口を開く事無く座り込んだ。
「……終わり、ました……?」
完全に雑魔の形が消えて、暫くしてマナがぽつりと呟く。
レティシアはイヤーマフを外し、耳栓を抜いた。
「あー! 波の音が、心に染み入るー!」
自分の声が声で聞こえる、そんな当たり前の事に涙が出そうなくらい嬉しくなった。
ディアドラも耳栓を抜いたが、まだ聴覚は完全には戻らず、ぼーんとした感覚がして顔をしかめた。
黒の夢は仰向けに寝っ転がると、キャンディを一つ口に放り込み、再び歌い出した。
何を思ってあの雑魔が鳴き続けていたのかは分からないが、元気いっぱいで好きだったよ、と音に乗せて、風に運んで貰う為に。
「歌う事は楽しい事なのな♪ どんなに歌っても苦になんてならないのなー」
「はぅ~……まだ、音が響いてる気がするのです~……」
ネプが頭を抱えながら、あーあー、と声を出して聞こえ方を確認する横で、レティシアがほぅ、と息を吐いた。
「ほんとひどい雑魔だったよね。静寂が落ち着くー……」
その声に突如姿勢を正したマナがレティシアに向かって深々と頭を下げた。
「本当に申し訳ありません。私で出来ることは何でもします。叩いてしまった箇所が痛むようでしたら言ってくださいね」
「あれは仕方ない。仕方ないよ。僕もマナさん殴っちゃったし、おあいこだよ。ってかマナさんこそ痛くない? 大丈夫?」
ごめんね? とお互いに謝って、2人は笑い合った。
早すぎる夏の声が止んで、久方振りに静寂を取り戻した砂浜をHollowは見る。
これで無事潮干狩りには間に合うだろうか?
時季外れの蝉の声ではなく、潮干狩りを楽しむ人々の声で賑わう海辺を想像して、Hollowはふわりと微笑んだ。
涼やかな波音が響く砂浜で、まだ少し冷たい春風が6人の間を吹き抜けていった。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 5人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
みーんみんみん(相談卓) 黒の夢(ka0187) エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/04/20 20:44:33 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/20 18:53:37 |