山まるごとパン

マスター:月宵

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/22 15:00
完成日
2015/04/30 06:39

みんなの思い出

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オープニング

 辺境の地。とある集落では、明日精霊を崇める祭が行われる。各々が花びらを纏った衣で着飾り、自然の恵みを受けたパンやパイを食す、と言うものだ。
 冬の内に専用の倉庫に貯めておいた、ナッツやドライレーズン、干し肉を使い、盛大な食事を作る予定だ。
 この祭事を執り行うに辺り、準備は万端。残すは、早朝の仕込みを残すばかりであった……
 族長自らより今回の料理係に任命された男は、漸く就寝を決め込む所だった。
「たたた、タイヘン! 倉庫が」
 男は、急ぎ飛び起き、素早く倉庫に向かう……が後の祭である。

 ピィ ピィ

 倉庫の戸締まりが甘かったのか中を覗くと、何羽にもなる小鳥達が材料を啄んでいた。
「うおぉぉ!」
 男が追い払うも、羽音の後に残るは食べカスばかり。
 とてもではないが、具材に使えそうには、ない。
「あばばばば」
 顔を真っ青に、わかりやすく動揺を表現する男。
「あ、パンの材料は無事だったみたいです」
 別途で鍵を掛けておいた一室にある、小麦粉や卵、イースト等は無事であった。あったが……
「具もない。パンや、パイでは味気なさすぎるだろ!!」
 悲痛な叫び。
 族長も来るのに、祭の席にこんな食事内容が喜ばれるワケもない。終わった。俺の人生ここで終わった。現在、深夜。他の倉庫から材料を借りる訳にもいかないのだ。
 もう何も考えたくない。ふと、倉庫の扉を開けて、外へ出て遠くを眺めた。今日は、満月だ。
 ああ、キレイだな。
 月光に照らされて、山の桜がやんわりと発光しているように見え……
(……やま?)

「そうか! 山だ!」
「はい。ヤ・マダです」
「いや、そうじゃなくてだな」
 男はこう言い出した。『具材が無いなら、取ってくれば良いじゃないか』と豪語。マダ、と呼ばれた男は驚嘆し、反論する。
「今から!? 月明かりがあっても、真っ暗ですよ! あぶないですって」
 現在、草木も眠る丑三つ時より、ちょっと前の午前1時。
「ハンターなら、ハンターならやってくれる!!」
「今から、ひとっ走り行ってこい!」

 こうして、ハンター達の自然一杯パン作りが始まったのだ。

リプレイ本文


 依頼を頼まれた開拓者達は各々が何処へ行き、何を採るべきか相談をしていた。中でも一段とこの依頼に熱心なのは、アーリフラヴィア・エクスドミナ(ka4484)だ。異文化に興味があり、今回の件を自ら経験に加えたいようだ。折角の祭を食材の不手際で中止になどさせはしない、と暗に語っていた。

「小生は…パンが大好きです…ふわふわふわふわ…柔らかふっくらパンは幸せになれます…だけど、小生が作ると…硬くて…こげこげなパンしか出来ません…」
 材料を眺めながらステラ(ka4327)は、焼きたてのパンと変わらぬやわらかさで語る。皆でのパン作りを結構楽しみにしているようだ。
「何時までに戻れば間に合うかな?」
 依頼者に確認をとり、一人分の材料の量を計算するのはシグレ・キノーレル(ka4420)だ。
 他に釣りのポイントも聞いてみる。川の流れも程よく、天候も悪く静かで釣りには最適だ、と依頼主も語った。
 釣り道具も同時に貸し出してくれた。

「さ、夜釣りといこうか」
 そう、満月を仰ぎながら彼は笑う。

「事情を話せば族長も理解ってくれそうなものじゃが、の」
「それだけじゃ、のっぴきならないことがあるんです」
 そうマダは、苦笑いを浮かべつつもハンター達を見送ったのである。


●採って釣って狩って
 山に入り最初に行動したのは、ロラン・ラコート(ka0363)だ。彼の狙いは蜂蜜。この時期ならアカシアだろうか。
 ロランは身を潜めて蜂の巣がある木に登る、そして借り物のナイフを取り出した。
 上部蓋に素早く切り込みを入れ、木から降りる。蜂に刺す暇を与えない。そして、蜂の巣の下に陶器の深めの器を置いた。
 これで暫くすれば、巣から蜂蜜が垂れて器に溜まる筈だ。この方法は垂れ蜜といわれる。実際、巣をすり潰す方が手っ取り早いが、今回はそれなりの量があればいい。更にこちらの採り方の方が、蜜の質もよいのだ。
 後は、香草だろうか。この辺りにはヨモギが豊富そうだ。
 そうしゃがみながら作業をしていると、彼のポケットに入れていたトランシーバーから連絡がきた。
『ロランさん、応答願います』
『此方、ロラン。アーリフラヴィア、どうぞ』
 相手はアーリフラヴィアだ。彼女は光源の無い者の補助に同行する予定だったが、全員光源が充分な為、単独で行動をしている。
 そこでロランが、連絡、集合用にトランシーバーを渡したのだ。
『そちらは何が採れましたか?』
『ヨモギ、だ。そっちは?』
『キイチゴがありましたから、ジャムにでもしようかと』
『了解。くれぐれも気を付けろ』

 手短な連絡が終わった。彼女が心配、ではある。作業相手として。
 だが、それ以上に、ド天然な知り合いの方が、かなり心配なロランであった。


「わぁ、綺麗ですわ」
 手を伸ばし花弁と葉を採取しながら、暢気に桜を眺めるのはロジー・ビィ(ka0296)である。
 ロランと知り合いのエルフだ。
 ある程度を集めると木を降り、狩り用の罠を作り始める。とはいっても、知識があるわけじゃない。草を結んで引っ掛けるだけの見様見真似の罠だ。
「これもおいし……って、痛いわぁ……」
 フランソワーズ・ガロッテ(ka4590)は、木の実を摘まみ食いしていた所、植物からのしっぺ返しを食らった。
 かごには既に、ふきのとうや、タラの芽等が溢れていた。

「おぬしら、少し静かにせぬか」
 そんな二人を余所に、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)は草を踏み荒らした獣道を見付けて見張る。誤射の可能性も高い為、あまり夜場の狩猟はやりたくないが、そんなことは言ってられない。
 夜行性の鹿、いや野うさぎでも見つければ儲けものだろう。ハンターとて人の子。自然の力には逆らえない。

 視界で獲物を追える程度光量を抑え、その時を待った……

 ガサッ。

 小さな影が動く。兎だ。レーヴェが距離を詰め、矢を射る。見事兎の足を撃ち抜き、目標は悲痛な声をあげる。更にレーヴェは距離を詰め、仕込み傘からの一撃。
「くっ、外したか」
 が、向こうも文字通り命懸けだ。最期の力を振り絞り、飛び退き避けてレーヴェとの間を抜けていく。

「えいっ」
 が、その先にはロープを引くロジー。それに運良く、ウサギが引っ掛かり……
「ごめんなさい!」
 サクッ
 ショートソードで、漸く仕留めたのだ。
「手を煩わせた。すまぬな」
 そう言って他に見せぬ様に、レーヴェは兎を解体し始めた。兎にとどめを刺したロジーの表情が、酷く悲しげだった為の気遣いだ。後は、血の匂いを残さないように地面に埋めるのみ。危険な獣が来ては大変だ。
(魂の糧に感謝)

 そこにフランソワーズが、二人の元へと戻ってくる。レーヴェがかごの中身を一見。そして、一言。
「……よもや、毒味はしておらぬな?」
 詳しく調べてもないのに、とジトリとフランソワーズを見つめる。
「そ、そんなはずないじゃない……あ、あれステラはどこ?」
 わかりやすい気の反らし方だ。疑い向けつつも、レーヴェは説明をする。
「あの者なら、向こうで干し肉を餌に……!?」
 レーヴェの指で示す方向。確かに、ステラはいた。そして対峙する様にステラを覆い隠す程の大きさの猪も……
 ステラへ走り出す猪。友好的になんぞ、見えはしない。
「危ない!」
 助ける為、急ぎ矢を構えるレーヴェと、ステラに声をかける警告する二人。
 遠すぎる、間に合わない。

「せいやっ!」
 軽い掛け声の後、突進する猪の前足をひっつかみ背負い……投げ飛ばした。

 ズシン。

 大音量に、三人の鼓膜が震える。そのまま、脳震盪を起こして猪は呆気ないほどに気絶。
「ステラ、すっごいですわぁ!」
「ふわ、や……やった」

 一方大忙しな狩猟組と違い、釣り組はただ糸を垂らして川のせせらぎを聴いた。
 ランタン傍らに釣りを行うのは、シグレと中務 夏葵(ka1085)だ。シグレは試しに、とエレクトリックショックを狭い川に撃ち、感電して魚が浮いてこないかを試した。
 結果、魔法が直接当たった魚一匹が気絶。どうやら水に感電はしないらしい。
 ズルをせず、地道に釣るしかないようだ。
 僅かに夏葵の竿が動く。しかし、彼は竿を引く気もない。
「アブラハヤ、ね。リリース」
 わざと揺り竿を動かして、魚を逃がした。どうせ狙うなら、大物が良い。その方が、お腹一杯食べられる。それには、今の魚は少々小ぶりすぎる。
「おや?何を狙っているんだい?」
「んーイトウとか?」
「あー確かあっちじゃ、食べられなかったね」
 そんな雑談、釣りの醍醐味である。リアルブルー同士なのか、周りの景色同様話にも花が咲く。
 場所を動いたシグレ。夏葵を横目で見ると、大物が釣れて大はしゃぎだ。それでも、足音をたてないのは流石というべきか。

 暫し時間が流れる。水流が穏やかなのか、水面に散った桜が浮いてその様はまるで絨毯だ。
「こういうところは、どこも変わらないよね」
 ゆらり、ゆらり。広がる波紋は彼に何も考えさせない様にするのは充分だ。
 記憶はなくも、釣りの腕だけは身体に残っている。
(そう言えば、あの時も釣れてかれて俺は釣りをしてた。それで、その傍らには―――)

「シグレ君! 引いてる、引いてる!」
 何かが揺蕩う一時は、その一言に消えた。
「へ? うわ!」
 すっかり崩れた桜の絨毯。引き上げた魚は、その代償に見あうだけのニジマスだった。
「わぁ、大きくて美味しそうだな。塩焼きにしましょうよ」
「駄目だよ、材料だからね」
「冗談ですって」
 こうして、二人の釣果は万々歳。材料には申し分ない量を釣り上げた頃。ロランとアーリフラヴィアが、リトルファイヤを灯しながらこちらへ。
 甘い香りと、独特の鼻をつく匂いに、こっちの成果も上々と視覚より早く理解出来た。

●折って捏ねて焼いて。
 山から採ってきた材料はとても膨大で、依頼主も充分な料だと太鼓判を押してくれた。それで、早速パン作りに入ったのだが。
「ダメだね」
「ロラン酷いですわぁ」
「ダメなものは、だめだからね」
 言い争いの原因は、桜の塩漬けであった。
 実は、桜の塩漬けは塩に数日漬けなければならない。当然だが今、そんな時間はない。
「兎に角、飾り付けに使うしかないな」
 ロランは、どうにかロジーの意見をおしとどめた。が、すぐ次の問題だ。
「ロラン味見して下さいましー♪」
 ほら、やってきた。何度もロジーの実験体(味見)をしてきたのだ。覚悟はもう、出来ている。
 胃を決して(誤字ではない)料理を口に運ぶ。噛む、飲む。
「おいしい…やれば出来るじゃないか…」
 これは何だ、精霊の加護か。神の気紛れか、はたまた歪虚と契約でもしたのか、パイの中身に使う野うさぎのシチューは美味しかったのだ。
(普通で良いんだよ普通で)

「猪の挽き肉、出来……ました」
 こちらでは、ステラが肉を加工してレーヴェを手伝っていた。ミートパイの材料だ。これは、依頼主が造ってくれるらしい。
「うむ。此方ももう少しじゃな」
 豪快な烏の直火焼きである。これに、アーリフラヴィアが採ってきたナスタチウムを塗る。ナスタチウムは橙の綺麗な花だが、見た目に反してかなり辛味が強い。
 そして茹でたわらびと前以て作ってくれていた食パンで挟み、サンドイッチの完成だ。

 こちらでは菓子パンを作るため、シグレ、夏葵、アーリフラヴィア、フランソワーズが奮闘している。
 夏葵は、幾つかパイの候補を書き出し、魚型のパイ『ポワソンダブリル』を造ることにした。メモを眺めていたシグレが一言。
「このパイは、どうかな?スターゲイ――」
「却下」
「まだ途中なのに」
 そう言いきって、ニジマスのパイ包みの準備を始めた。

 コトコトコト。

 こっちでは、フランソワーズとアーリフラヴィアの採ってきたキイチゴを煮込みジャムを作っている。
「ふんふんふ~ん。人と一緒にパンとか作るのは初めてだから、楽しいわ~」
 鼻歌もそこそこ、弱火で煮込み続けたキイチゴは、鮮やかな赤がくすみ始めてきた。もうすぐ、完成だ。
「歌もよろしいですが、焦がさないようにしましょうね」
「は~い♪」

 それからは、材料が窯で焼けるまで休憩。もう朝日が山から顔を覗かせた。
 香ばしい香りが漂う石窯から、それらは出てきた。
 野うさぎのシチューパイ。
 ニジマスのパイ包み。
 ふきのとうとタラの芽の香草パン。
 ボタン肉のミートパイ。
 そして、ヨモギパンだ。
「どれもおいしそうだから、お腹がすいちゃうわね!」

 夏葵は、ポワソンダブリルの仕上げに、中に切り込みを入れて中に生クリーム、キイチゴを入れてから、ロランの蜂蜜を上からかけて完成させた。

 桜の花で、パイを飾り付けていたロジー。
 と、ここで彼女はなにか物足りなげと思い…………

 ザクッ
「え゛」
 なんと、桜の枝をパンにぶっ刺しやがったのだ。
「ね、こうすれば、見目も鮮やか、艶やか、派手、ですわ~♪」
(褒めたと思ったらこれだよ……これがエルフの通常なのか…?否、だよな。これは、特殊すぎる)

 嬉々とする彼女の暴走を止められず、ただ項垂れるロランであった。

●踊れ、飲め、食べれ。
 こうして、紆余曲折ありながらも祭は始まった。
 若干目にクマを作りながらも、主催者である依頼者が高らかに言う。

「さぁ。共に精霊の恵みを祝いましょうぞ!」
 皆が簡易的なポンチョを着て思い思いに回り踊るのだ。その衣装には色とりどりの花びらが貼り付けられ、回るたびに散って、会場に花吹雪が舞うのだ。
 実際に参加していたシグレとアーリフラヴィアもただ、ただ、回り、互いに笑いあった。
「は、はは。目回っちゃったな」
「良い経験になりました」

 そして、ここからが本番、食事の時間だ。
 皆からの評価は、はっきりと言えば好評であった。
「いつもの祭より豪華じゃないか?」
「美味しい、これイノシシじゃない」
「見て、このパイお魚の形してる!!」

 ハンター達の間でもご馳走の美味しさは一緒で、特にステラと夏葵は、ジャムパンとサンドイッチにかじりついていた。

「おかわり!」
「は、早い……です」
 のわりに、夏葵の皿には綺麗にタラの芽が残されているわけだが……

「乾杯!お疲れ様!」

 そんな楽しそうな祭り中で、一人複雑そうな顔をしていたのはロランである。
「いやぁ、うまい。実にうまい」
「嬢ちゃん才能ありますよ」
「ロラン誉められましたの! 嬉しいですの」

 ロジーがべた褒めされている。見たところ、この集落の族長らしき人も混ざっている。
 別に嫉妬とか、そう言う感情じゃない。いや、寧ろそっちならよかった。
「本当に風情があるわね。このオブジェ」
 そう、あの『前衛的桜パイ』は、完璧にオブジェに見られていたのだった。作った本人もまた満更ではない。

「やれやれ」

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  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバスka0276
  • ハイリョニスト
    シグレ・キノーレルka4420

重体一覧

参加者一覧

  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバス(ka0276
    ドワーフ|13才|女性|猟撃士
  • もふもふ もふもふ!
    ロジー・ビィ(ka0296
    エルフ|25才|女性|闘狩人
  • お茶会の魔法使い
    ロラン・ラコート(ka0363
    人間(紅)|23才|男性|闘狩人

  • 中務 夏葵(ka1085
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士

  • ステラ(ka4327
    人間(紅)|13才|女性|闘狩人
  • ハイリョニスト
    シグレ・キノーレル(ka4420
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 自由騎士
    アーリフラヴィア・エクスドミナ(ka4484
    人間(紅)|19才|女性|魔術師
  • 強がりな祝杯
    フランソワーズ・ガロッテ(ka4590
    人間(紅)|21才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
シグレ・キノーレル(ka4420
人間(リアルブルー)|26才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/04/22 10:43:43
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/21 09:48:13