ゲスト
(ka0000)
【不動】汚染戦域
マスター:植田誠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/20 07:30
- 完成日
- 2015/04/28 21:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「今回の読み合いはこちらの勝ちだな」
2体のリンドヴルム。その1体に乗ったフリッツ・バウアーは地上を眺めながら呟いた。
視線の先に見えるのはコンテナを載せた魔導トラック。前線へ向かう補給部隊だ。周辺には馬とともに幾人かの護衛が見られる。だが、空の方はというと……フリッツの行動を妨げる者はいない。
リンドヴルムの存在自体は第5師団でも確認していた。だが、それらの戦力は主戦場に投入されるだろうとの予測から、師団もまた主戦場に向かっていた。グリフォンの数が揃っていれば補給護衛にも戦力を回すことが出来たのだろうが……
「そこそこ減らしてやったからな。やはり数が揃えられていないと見える……なぁ、どう思う?」
笑みを浮かべながら、フリッツはもう1体のリンドヴルムに乗った歪虚……甲冑を付けたミイラの方を向いた。だが、ミイラはその言葉に何か反応するでもなく正面を向いたままだ。
「……まぁいい。貴様はそのまま待機していろ。攻撃は反撃のみ許可する。分かったな」
そう言うとミイラはライフルを構え小さく頷いた。
●
「離れろ!」
誰が言ったのかは分からないが、とにかくハンターの一人が最初にこう発した。
訓練された帝国兵たちはその言葉にすぐさま反応し離れる。だが、魔導トラックの運転を行っていた兵はそうもいかなかった。
積荷の少し上で爆ぜたコンテナ。その中から飛び出してきたゾンビたちとともに煙が広がる。その煙に撒かれた帝国兵はビクビクと痙攣しだし、白目を剥いて倒れた。その姿もすぐに煙の向こうに消える。
煙の中心、トラック上部に降り立つリンドヴルム。その上から飛び降りたフリッツが告げる。
「先に言っておいてやる。この煙は神経系に干渉する毒だ。只の人間なら5秒と持たず全神経がマヒし死に至るだろう」
只の人間なら……ということは、恐らく覚醒者であればあの毒の中でも行動が可能なはずだ。また、リンドヴルムは低空で止まるではなくトラック上部に降りた。翼を羽ばたかせていたら煙を吹き飛ばしてしまうからだろう。であれば、多少の時間が立てばあの煙。いや毒ガスと言った方がいいだろう。それも薄くなっていき影響が弱くなるかもしれない。
だが……リンドヴルムがいるあたりからガシャガシャと機械音が聞こえてくる。コンテナを回収しようとしているのだろうか。あまり多くの時間は無いのかもしれない。
「さて、死にたくなければさっさと逃げることだ。今回はこれの奪取のみが目的なのでな」
「今回の読み合いはこちらの勝ちだな」
2体のリンドヴルム。その1体に乗ったフリッツ・バウアーは地上を眺めながら呟いた。
視線の先に見えるのはコンテナを載せた魔導トラック。前線へ向かう補給部隊だ。周辺には馬とともに幾人かの護衛が見られる。だが、空の方はというと……フリッツの行動を妨げる者はいない。
リンドヴルムの存在自体は第5師団でも確認していた。だが、それらの戦力は主戦場に投入されるだろうとの予測から、師団もまた主戦場に向かっていた。グリフォンの数が揃っていれば補給護衛にも戦力を回すことが出来たのだろうが……
「そこそこ減らしてやったからな。やはり数が揃えられていないと見える……なぁ、どう思う?」
笑みを浮かべながら、フリッツはもう1体のリンドヴルムに乗った歪虚……甲冑を付けたミイラの方を向いた。だが、ミイラはその言葉に何か反応するでもなく正面を向いたままだ。
「……まぁいい。貴様はそのまま待機していろ。攻撃は反撃のみ許可する。分かったな」
そう言うとミイラはライフルを構え小さく頷いた。
●
「離れろ!」
誰が言ったのかは分からないが、とにかくハンターの一人が最初にこう発した。
訓練された帝国兵たちはその言葉にすぐさま反応し離れる。だが、魔導トラックの運転を行っていた兵はそうもいかなかった。
積荷の少し上で爆ぜたコンテナ。その中から飛び出してきたゾンビたちとともに煙が広がる。その煙に撒かれた帝国兵はビクビクと痙攣しだし、白目を剥いて倒れた。その姿もすぐに煙の向こうに消える。
煙の中心、トラック上部に降り立つリンドヴルム。その上から飛び降りたフリッツが告げる。
「先に言っておいてやる。この煙は神経系に干渉する毒だ。只の人間なら5秒と持たず全神経がマヒし死に至るだろう」
只の人間なら……ということは、恐らく覚醒者であればあの毒の中でも行動が可能なはずだ。また、リンドヴルムは低空で止まるではなくトラック上部に降りた。翼を羽ばたかせていたら煙を吹き飛ばしてしまうからだろう。であれば、多少の時間が立てばあの煙。いや毒ガスと言った方がいいだろう。それも薄くなっていき影響が弱くなるかもしれない。
だが……リンドヴルムがいるあたりからガシャガシャと機械音が聞こえてくる。コンテナを回収しようとしているのだろうか。あまり多くの時間は無いのかもしれない。
「さて、死にたくなければさっさと逃げることだ。今回はこれの奪取のみが目的なのでな」
リプレイ本文
●
「空から等と……厄介な」
ダーヴィド・ラウティオ(ka1393)は舌打ちしながら降りてきたフリッツたちを見据える。
「毒ガスが厄介ね。行動阻害だけじゃなく煙幕も兼ねてるなんて」
月影 夕姫(ka0102)はそう言いながら持っていた水で濡らしたハンカチを、口元を覆うように巻き付ける。
「うげ、毒っすか。えげつないっす」
神楽(ka2032)は服の端を裂くと、夕姫同様水をしみこませ口元を覆う。他のハンターたちも似たような対策……濡れた布を口元に当てるという方法を取っているようだ。歪虚の毒に対しどの程度の効果があるのかは分からないが、やらないよりはやった方がましだろう。
「……?」
水筒に入っていたおしぼりを広げつつ、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は自身の口をついて出てきた「離れろ」という言葉に驚いていた。普段ならするはずのない言葉づかいだったからだ。
(心を静めなくては……しかし……)
依頼失敗。それすなわちレイの家計の損失に直結する。
「それだけは、赦すわけにはいきません!」
「……まぁ、何だ。後方の護衛依頼で楽できると思ってたんだがね……」
……何かしょうもないところで気合いが入ったレイ。それを横目に溜息を吐きながら敵を見据えるのはジャンク(ka4072)だ。その視線は降りてきたリンドヴルムに向けられていた。
(すぐにガスに隠れちまったが、あの見慣れない部分。そして奴の目的……)
目的……それが輸送中の魔導アーマー奪取であることは間違いなかった。
「フリッツ・バウアー……」
その姿を目視したシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)は、以前戦った時の記憶を思い出していた。
(前回はあなたに手も足も出ませんでした。だから、頑張ってたくさん考えました)
シルヴィアには秘策があった。それが上手くいくかどうかはまだ分からないが……
「ともあれ、此処は私達が抑えなければなりませんね」
武器である鞭を手に、アンバー・ガルガンチュア(ka4429)が言った。
「歪虚化しているとはいえあの者達は、元は民草の屍。このまま罪を重ねさせるのは不憫……私が屠り、土に還して見せましょう」
こうして、ハンターたちの魔導アーマー防衛戦が開戦した。
●
「躊躇して時を費やせば相手の利となります……如何な障害であろうとも切り開いていくしかありません」
「あぁ。そしてこの敵……是が非でも討ち取らねばならん。行くぞ!」
アンバーに続きダーヴィドもガスの中に突っ込んでいく。どちらも考えているのは、仲間がそれぞれの動きを達成するためにゾンビたちを引き付けるということだ。
「ゾンビの数が多いわ。囲まれないようにね」
その間、夕姫は防性強化を自身に施し耐性を高める。
「……少し遅れましたか」
「といっても、素のままで毒につっこむのはやばいっす……精霊様助けて~っす!」
レイと神楽も同様に闘心昂揚を使用。抵抗力を高める策だ。
「毒、か……」
その間に、筱崎あかね(ka3788)は距離を取る。今回身軽な装備を選んでいる為接近戦になるとやや厳しい。だが、そもそも接近されなければいい話だ。それにこうすれば毒も気にする必要が無い。一石二鳥だ。そして……
「遠距離攻撃が出来る私が真っ先に狙うべきは……やはりあのリンドヴルムね」
狙うのは翼膜、そして羽を動かす筋肉などの急所となる部分。だが、降りてきてすぐにリンドヴルムの姿はガスに包まれてしまった。それらの部位を正確に測るのは難しい。
「いっそ拳銃でトラックを撃って爆発させたら……」
「おいおい、止めとけって。味方も一緒に吹っ飛んじまうぜ?」
あかねが呟いた策。あるいは最初からその前提で動いていたのであれば魔導アーマーの損傷は置いておくとしもガスごとゾンビやリンドヴルム、フリッツにダメージを与えられる可能性があり有効だったかもしれない。だが、すでにガス内にアンバーやダーヴィドが入り込んでいる。
「ま、手としては悪くなさそうなんだけどな」
ジャンクはそう言って肩を竦めると、魔導銃を構える。こちらの狙いは剣機の腹部。
(あの見慣れないパーツは、多分回収に使うためのパーツだろう。あれを攻撃すれば……)
倒すことはできないにしても、その目的を妨害することは出来るだろう。
ジャンクはそう考えガスが包み込む直前の様子と自身の感覚を照らし合わせながら銃撃を行っていく。
これらの射撃攻撃を背に、レイ、神楽、夕姫もガス内に突入する。この時夕姫はやや迂回してガスへ入っていく。
「こちらも仕掛けます」
二人よりもややガスに近い位置から、シルヴィアは手裏剣を投擲していく。元狙撃兵……でありながらあえて手裏剣を使うのには違和感があった。
その上、ガスに入っていった仲間を気遣ってか、あるいはフリッツに弾かれるのを警戒してか、狙いも若干甘い……そう言う風に見えた。
それから、3人による射撃攻撃がしばらく続いた。
「撃ち返しては……来ませんね」
鞭で射撃攻撃を跳ね返してくるという話だったが、その割にはガス外への攻撃が飛んできていないことをあかねは若干怪しんでいる。
「それに、外に誰も出てこねぇ……まずいか、こいつは」
魔導銃をリロードしたジャンクは、そう言いながら口元にガスを防ぐための布を巻いていた。トラックの運転席に向かい、たどり着いたらトラックを操縦。ガスからの脱出を図るつもりだ。
「駄目でも、転倒させちまえば回収は難しくなるだろうしな」
「とはいえ……もうすぐガス自体晴れそうではありますけどね」
すでにガスは薄くなってきており、地面に倒れている人影や立っている人影も見受けられるようになっていた。すべての手裏剣を投擲したシルヴィアはライフルに持ち替え、その時を待つ。
そして、ジャンクがガスに突入してから10秒もすると……ガスは完全に消え去った。
●
時間は少し遡る。ガス内に突入したアンバー、ダーヴィドはそれぞれ戦闘を開始していた。
「さて……この毒霧、私の体がいつまでもつか……」
装備してきたバブルヘルムの気密性を信じ突っ込んできたものの、やはり不安は隠しきれない。だがアンバーは気丈に振る舞い、鞭を振るう。輝く鞭はその光で煙幕の中でも多少視界の確保に寄与してくれている。お陰でこちらの初撃は抵抗なくゾンビに命中する。
「よし……このまま……」
ゾンビもその攻撃でこちらを察知したか、アンバーへ向かってくる。尤も、距離を取った攻撃だ。
(このまま間合いを取って戦えば一方的に叩ける)
……そのはずだった。
だが、その動きは真後ろから掴みかかったゾンビに阻止される。
「後ろ!? しまった!」
そう思った時にはもう遅い。腕ごと抱きかかえられ動きを拘束される。輝く鞭は、敵に自身の位置を知らせることにもなったのか。1体、また1体とゾンビがアンバーにのしかかり、毒の息を吐き出していく。気密性が高い兜とはいえ、完全密閉というわけではない。隙間から高濃度のガスを吸い、やがてその動きは止まった。
「そこにいたか! 喰らえ!」
ガス内に見つけたゾンビに、ダーヴィドは戦斧を振りかざし突っ込む。半ば不意を突かれたか、ゾンビは戦斧による一撃をまともに受け、肩口から大きく切り裂かれる。
「手応えあり……が、浅いか?」
いや、まともに入ったのは間違いない。それでもまだ動いている様子が見られる辺り耐久力は高そうだ。さすがゾンビと言ったところだろうか。
「倒れなければ、何度でも撃ち込むのみ。覚悟してもらおう!」
ダーヴィドはそのまま追撃しようとする。が、それは叶わなかった。
「っ! 何を……!」
切り裂かれたゾンビが、倒れ込むようにしてダーヴィドに抱きついてきた。そのまま押されるようにダーヴィドは倒される。
ダーヴィドはすぐさまゾンビを振り払おうとしたが、そこに別のゾンビがのしかかってくる。
「くっ……この程度で……」
やられるわけにはいかない。そう啖呵を切ろうとしたが、直前で思いとどまる。側のゾンビの口から毒ガスが漏れ出していたからだ。
(毒の息……!)
すぐにダーヴィドは息を止め、ガスを吸わないようにするが……戦闘中かつ抑えつけられている状態でもありすぐに息が持たなくなる。
それでなくともすでにガスは回っていたのだろう。ゾンビたちが離れだす時には体中がマヒし、アンバーと同じ結末を辿ることになった。
●
「こんにちは。私はレイ、と申します」
「ん? この状況でお喋りとは余裕があるな」
ガスの向こう側にオボロゲデはあるがフリッツを確認したレイは斧を構えながら接近してきた。それに対しフリッツは攻撃する素振りを見せない。他の事に集中している様子だ。
(でも、だからと言って隙があるわけでもありませんか……少しでも注意を引きたいですね……)
「余裕があるわけではありませんが……当ベッドフォード家では『招かれざる客は撃滅せよ』という教えがありまして」
「ほぉ……ならそうすればいい」
それでもなお攻撃を仕掛けてこないフリッツ。レイはじりじりと近づいていき……
「……ちっ」
不意にフリッツの手が動く。ガスの外側からリンドヴルムに対する射撃攻撃。フリッツが攻撃してこなかったのはこれらに対しての防御行動を優先していたからだ。普段であればこちらに攻撃しつつ防御もこなしただろう。だが、そうせず防御に専念していたのは視界の悪さがレイ達だけではなくフリッツにも多少悪影響を与えているからだろう。
これにより初めてフリッツに隙が生まれた。それを見逃さずレイはノックバックを叩き込むためにフリッツへ向かう……
「え?」
……ことは、できなかった。
ゾンビが足元にしがみついて来ていた。フリッツに向かって集中していたことに加えこのガスが敵の接近を気付かせなかったのだ。
「おしゃべりが過ぎたな。あー……レイとか言ったか。そこで黙って死んでいろ」
すぐに足を振ってゾンビを振り払おうとしたレイだったが、すぐに他のゾンビがしがみついてきて引き倒される。そしてそのまま毒の息を吸わされ、ガスの効力も相まって気を失った。
一方、トラックの運転席へ向かっていた神楽もゾンビに遭遇。
「出会ったなら仕方ないっす。神楽さんが相手をしてやるからかかってこいっす~!」
このまま、派手な動きを取ってゾンビたちの注意を引こうと考えていた神楽だったが、そんなことをせずともゾンビは向かってきた。
「そんな動き甘いっすよ!」
しがみついて拘束しようとするゾンビを、神楽は身を翻し躱す。ガスで視界が悪いとはいえこの程度は容易だ。だが、この時神楽はすでにガスに入っていたアンバー、ダーヴィドが倒されていることを知らない。知っていれば、それなりの数のゾンビが自身に向かってきていることに気づけたかもしれないが……
「……まだ来るんすか!?」
ついに4体目のゾンビを躱し切れず盾で突進を受け止めるが、そのまま盾ごと抱きかかえられるように倒される。
「うわっ!」
そこに先程攻撃を躱したゾンビが群がって毒の息を吐きかける。闘心昂揚で抵抗力を高めていたとはいえ、神楽もこれではひとたまりもなかった。
こうしてレイ、神楽にゾンビの攻撃が集中したお陰で自由に動ける者がいた。夕姫だ。
「敵がこない……迂回したのが良かったかしら」
迂回によるタイムラグによって夕姫が狙われることは無かった。尤も、その結果2人に攻撃が集中しているのは皮肉ではあったが。
ここで夕姫はゾンビの上半身を狙って攻撃を行うつもりだったが、ガス内で立っているのが味方か敵か判別する手段がなかった。
ならばと、夕姫は武器を機杖へと持ち替える。
(コンテナを奪取する目的なら、場所はそんなに動かないはずよね。それなら、狙うのは簡単!)
夕姫は杖を予測地点に向け、機導砲を発射する。光条がガスを切り裂き、その先に一瞬リンドヴルムの巨体が映った。
「予測通り……このまま攻撃を続ける!」
ガスが晴れたのは、夕姫が2発目の機導砲を撃ち込んだ直後だった。
●
ガスが晴れた時、そこには倒れたダーヴィド、神楽、レイ、アンバーの姿があった。
ガスに突入した中で残っていたのは夕姫と、ガスが晴れる直前に入ったジャンクだけだ。では敵のゾンビはというと、手負いではあったが8体すべてのゾンビが残っており、夕姫とジャンクにそれぞれ向かってるところだった。
ガスに突入するのが散発的になったのがまずかった。結果ゾンビの狙いが集中することになり、入った先から毒の息を受け倒されることになっていた。
「この調子なら、このまま全て回収できそうだな。そう思わないか、ハンター諸君?」
フリッツが不敵に笑う。だが、そうはさせまいと叫んだのはシルヴィアだ。
「いいえ、そうはさせません!」
そう言うとシルヴィアはライフルをフリッツに向け……その銃口を横にずらす。
「すでに舞台は出来上がっています……!」
発砲。しかし、それはまっすぐフリッツには向かわない。向かうのは……地面に突き刺さっている、シルヴィア自身が投げていた手裏剣。外しているように見えた手裏剣は、その実あえて地面に刺すことで跳弾を起こすための壁代わりにしていたのだ。手裏剣に当たった弾はシルヴィアの狙い通り反射し、フリッツへ向かう。
だが、その弾は……フリッツの持つ鞭によって、叩き落とされた。
「……狙いは良かったな。だが、それは前に見たことがある。何度も当たってはやれん」
前に見た……シルヴィアが以前フリッツと戦闘した際にも、別のハンターが跳弾でフリッツに大きなダメージを与えていた。フリッツはその時のことを覚えていた。
「だが……やってくれたな」
フリッツにダメージを与えることは出来なかったシルヴィアの攻撃だったが、それでも時間を多少稼ぐことが出来た。その間に、あかねの弓がリンドヴルムのアーム部分を撃ち抜き、機能を停止させた。あかねだけでなく、ここまでリンドヴルムへ攻撃を蓄積させてきた成果だろう。
「……まぁいい。想定内の結果にはなった」
そう言うが早いか、フリッツは大きく跳び上がりリンドヴルムの上へ。同時にリンドヴルムが羽ばたき、すぐに上昇する。リンドヴルムの腹部には2つのコンテナがすでに回収されていた。
ハンターたちは逃亡するフリッツの追撃を行わなかった。否、行えなかったというのが正しい。地上に取り残されたゾンビたちの相手をしなければならなかったからだ。とはいえ、このゾンビたちは遠距離攻撃手段を持っておらず、残されたハンターたちの方が数に劣ったものの、ガスという不利な状況が無くなった今では大して強力な相手ではなかった。
こうして、ハンターたちはフリッツ・バウアーを撃退した。奪われた魔導アーマーは2台。敵からの奇襲を受けたにも関わらず、良く守った方であったと言えよう。
「空から等と……厄介な」
ダーヴィド・ラウティオ(ka1393)は舌打ちしながら降りてきたフリッツたちを見据える。
「毒ガスが厄介ね。行動阻害だけじゃなく煙幕も兼ねてるなんて」
月影 夕姫(ka0102)はそう言いながら持っていた水で濡らしたハンカチを、口元を覆うように巻き付ける。
「うげ、毒っすか。えげつないっす」
神楽(ka2032)は服の端を裂くと、夕姫同様水をしみこませ口元を覆う。他のハンターたちも似たような対策……濡れた布を口元に当てるという方法を取っているようだ。歪虚の毒に対しどの程度の効果があるのかは分からないが、やらないよりはやった方がましだろう。
「……?」
水筒に入っていたおしぼりを広げつつ、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は自身の口をついて出てきた「離れろ」という言葉に驚いていた。普段ならするはずのない言葉づかいだったからだ。
(心を静めなくては……しかし……)
依頼失敗。それすなわちレイの家計の損失に直結する。
「それだけは、赦すわけにはいきません!」
「……まぁ、何だ。後方の護衛依頼で楽できると思ってたんだがね……」
……何かしょうもないところで気合いが入ったレイ。それを横目に溜息を吐きながら敵を見据えるのはジャンク(ka4072)だ。その視線は降りてきたリンドヴルムに向けられていた。
(すぐにガスに隠れちまったが、あの見慣れない部分。そして奴の目的……)
目的……それが輸送中の魔導アーマー奪取であることは間違いなかった。
「フリッツ・バウアー……」
その姿を目視したシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)は、以前戦った時の記憶を思い出していた。
(前回はあなたに手も足も出ませんでした。だから、頑張ってたくさん考えました)
シルヴィアには秘策があった。それが上手くいくかどうかはまだ分からないが……
「ともあれ、此処は私達が抑えなければなりませんね」
武器である鞭を手に、アンバー・ガルガンチュア(ka4429)が言った。
「歪虚化しているとはいえあの者達は、元は民草の屍。このまま罪を重ねさせるのは不憫……私が屠り、土に還して見せましょう」
こうして、ハンターたちの魔導アーマー防衛戦が開戦した。
●
「躊躇して時を費やせば相手の利となります……如何な障害であろうとも切り開いていくしかありません」
「あぁ。そしてこの敵……是が非でも討ち取らねばならん。行くぞ!」
アンバーに続きダーヴィドもガスの中に突っ込んでいく。どちらも考えているのは、仲間がそれぞれの動きを達成するためにゾンビたちを引き付けるということだ。
「ゾンビの数が多いわ。囲まれないようにね」
その間、夕姫は防性強化を自身に施し耐性を高める。
「……少し遅れましたか」
「といっても、素のままで毒につっこむのはやばいっす……精霊様助けて~っす!」
レイと神楽も同様に闘心昂揚を使用。抵抗力を高める策だ。
「毒、か……」
その間に、筱崎あかね(ka3788)は距離を取る。今回身軽な装備を選んでいる為接近戦になるとやや厳しい。だが、そもそも接近されなければいい話だ。それにこうすれば毒も気にする必要が無い。一石二鳥だ。そして……
「遠距離攻撃が出来る私が真っ先に狙うべきは……やはりあのリンドヴルムね」
狙うのは翼膜、そして羽を動かす筋肉などの急所となる部分。だが、降りてきてすぐにリンドヴルムの姿はガスに包まれてしまった。それらの部位を正確に測るのは難しい。
「いっそ拳銃でトラックを撃って爆発させたら……」
「おいおい、止めとけって。味方も一緒に吹っ飛んじまうぜ?」
あかねが呟いた策。あるいは最初からその前提で動いていたのであれば魔導アーマーの損傷は置いておくとしもガスごとゾンビやリンドヴルム、フリッツにダメージを与えられる可能性があり有効だったかもしれない。だが、すでにガス内にアンバーやダーヴィドが入り込んでいる。
「ま、手としては悪くなさそうなんだけどな」
ジャンクはそう言って肩を竦めると、魔導銃を構える。こちらの狙いは剣機の腹部。
(あの見慣れないパーツは、多分回収に使うためのパーツだろう。あれを攻撃すれば……)
倒すことはできないにしても、その目的を妨害することは出来るだろう。
ジャンクはそう考えガスが包み込む直前の様子と自身の感覚を照らし合わせながら銃撃を行っていく。
これらの射撃攻撃を背に、レイ、神楽、夕姫もガス内に突入する。この時夕姫はやや迂回してガスへ入っていく。
「こちらも仕掛けます」
二人よりもややガスに近い位置から、シルヴィアは手裏剣を投擲していく。元狙撃兵……でありながらあえて手裏剣を使うのには違和感があった。
その上、ガスに入っていった仲間を気遣ってか、あるいはフリッツに弾かれるのを警戒してか、狙いも若干甘い……そう言う風に見えた。
それから、3人による射撃攻撃がしばらく続いた。
「撃ち返しては……来ませんね」
鞭で射撃攻撃を跳ね返してくるという話だったが、その割にはガス外への攻撃が飛んできていないことをあかねは若干怪しんでいる。
「それに、外に誰も出てこねぇ……まずいか、こいつは」
魔導銃をリロードしたジャンクは、そう言いながら口元にガスを防ぐための布を巻いていた。トラックの運転席に向かい、たどり着いたらトラックを操縦。ガスからの脱出を図るつもりだ。
「駄目でも、転倒させちまえば回収は難しくなるだろうしな」
「とはいえ……もうすぐガス自体晴れそうではありますけどね」
すでにガスは薄くなってきており、地面に倒れている人影や立っている人影も見受けられるようになっていた。すべての手裏剣を投擲したシルヴィアはライフルに持ち替え、その時を待つ。
そして、ジャンクがガスに突入してから10秒もすると……ガスは完全に消え去った。
●
時間は少し遡る。ガス内に突入したアンバー、ダーヴィドはそれぞれ戦闘を開始していた。
「さて……この毒霧、私の体がいつまでもつか……」
装備してきたバブルヘルムの気密性を信じ突っ込んできたものの、やはり不安は隠しきれない。だがアンバーは気丈に振る舞い、鞭を振るう。輝く鞭はその光で煙幕の中でも多少視界の確保に寄与してくれている。お陰でこちらの初撃は抵抗なくゾンビに命中する。
「よし……このまま……」
ゾンビもその攻撃でこちらを察知したか、アンバーへ向かってくる。尤も、距離を取った攻撃だ。
(このまま間合いを取って戦えば一方的に叩ける)
……そのはずだった。
だが、その動きは真後ろから掴みかかったゾンビに阻止される。
「後ろ!? しまった!」
そう思った時にはもう遅い。腕ごと抱きかかえられ動きを拘束される。輝く鞭は、敵に自身の位置を知らせることにもなったのか。1体、また1体とゾンビがアンバーにのしかかり、毒の息を吐き出していく。気密性が高い兜とはいえ、完全密閉というわけではない。隙間から高濃度のガスを吸い、やがてその動きは止まった。
「そこにいたか! 喰らえ!」
ガス内に見つけたゾンビに、ダーヴィドは戦斧を振りかざし突っ込む。半ば不意を突かれたか、ゾンビは戦斧による一撃をまともに受け、肩口から大きく切り裂かれる。
「手応えあり……が、浅いか?」
いや、まともに入ったのは間違いない。それでもまだ動いている様子が見られる辺り耐久力は高そうだ。さすがゾンビと言ったところだろうか。
「倒れなければ、何度でも撃ち込むのみ。覚悟してもらおう!」
ダーヴィドはそのまま追撃しようとする。が、それは叶わなかった。
「っ! 何を……!」
切り裂かれたゾンビが、倒れ込むようにしてダーヴィドに抱きついてきた。そのまま押されるようにダーヴィドは倒される。
ダーヴィドはすぐさまゾンビを振り払おうとしたが、そこに別のゾンビがのしかかってくる。
「くっ……この程度で……」
やられるわけにはいかない。そう啖呵を切ろうとしたが、直前で思いとどまる。側のゾンビの口から毒ガスが漏れ出していたからだ。
(毒の息……!)
すぐにダーヴィドは息を止め、ガスを吸わないようにするが……戦闘中かつ抑えつけられている状態でもありすぐに息が持たなくなる。
それでなくともすでにガスは回っていたのだろう。ゾンビたちが離れだす時には体中がマヒし、アンバーと同じ結末を辿ることになった。
●
「こんにちは。私はレイ、と申します」
「ん? この状況でお喋りとは余裕があるな」
ガスの向こう側にオボロゲデはあるがフリッツを確認したレイは斧を構えながら接近してきた。それに対しフリッツは攻撃する素振りを見せない。他の事に集中している様子だ。
(でも、だからと言って隙があるわけでもありませんか……少しでも注意を引きたいですね……)
「余裕があるわけではありませんが……当ベッドフォード家では『招かれざる客は撃滅せよ』という教えがありまして」
「ほぉ……ならそうすればいい」
それでもなお攻撃を仕掛けてこないフリッツ。レイはじりじりと近づいていき……
「……ちっ」
不意にフリッツの手が動く。ガスの外側からリンドヴルムに対する射撃攻撃。フリッツが攻撃してこなかったのはこれらに対しての防御行動を優先していたからだ。普段であればこちらに攻撃しつつ防御もこなしただろう。だが、そうせず防御に専念していたのは視界の悪さがレイ達だけではなくフリッツにも多少悪影響を与えているからだろう。
これにより初めてフリッツに隙が生まれた。それを見逃さずレイはノックバックを叩き込むためにフリッツへ向かう……
「え?」
……ことは、できなかった。
ゾンビが足元にしがみついて来ていた。フリッツに向かって集中していたことに加えこのガスが敵の接近を気付かせなかったのだ。
「おしゃべりが過ぎたな。あー……レイとか言ったか。そこで黙って死んでいろ」
すぐに足を振ってゾンビを振り払おうとしたレイだったが、すぐに他のゾンビがしがみついてきて引き倒される。そしてそのまま毒の息を吸わされ、ガスの効力も相まって気を失った。
一方、トラックの運転席へ向かっていた神楽もゾンビに遭遇。
「出会ったなら仕方ないっす。神楽さんが相手をしてやるからかかってこいっす~!」
このまま、派手な動きを取ってゾンビたちの注意を引こうと考えていた神楽だったが、そんなことをせずともゾンビは向かってきた。
「そんな動き甘いっすよ!」
しがみついて拘束しようとするゾンビを、神楽は身を翻し躱す。ガスで視界が悪いとはいえこの程度は容易だ。だが、この時神楽はすでにガスに入っていたアンバー、ダーヴィドが倒されていることを知らない。知っていれば、それなりの数のゾンビが自身に向かってきていることに気づけたかもしれないが……
「……まだ来るんすか!?」
ついに4体目のゾンビを躱し切れず盾で突進を受け止めるが、そのまま盾ごと抱きかかえられるように倒される。
「うわっ!」
そこに先程攻撃を躱したゾンビが群がって毒の息を吐きかける。闘心昂揚で抵抗力を高めていたとはいえ、神楽もこれではひとたまりもなかった。
こうしてレイ、神楽にゾンビの攻撃が集中したお陰で自由に動ける者がいた。夕姫だ。
「敵がこない……迂回したのが良かったかしら」
迂回によるタイムラグによって夕姫が狙われることは無かった。尤も、その結果2人に攻撃が集中しているのは皮肉ではあったが。
ここで夕姫はゾンビの上半身を狙って攻撃を行うつもりだったが、ガス内で立っているのが味方か敵か判別する手段がなかった。
ならばと、夕姫は武器を機杖へと持ち替える。
(コンテナを奪取する目的なら、場所はそんなに動かないはずよね。それなら、狙うのは簡単!)
夕姫は杖を予測地点に向け、機導砲を発射する。光条がガスを切り裂き、その先に一瞬リンドヴルムの巨体が映った。
「予測通り……このまま攻撃を続ける!」
ガスが晴れたのは、夕姫が2発目の機導砲を撃ち込んだ直後だった。
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ガスが晴れた時、そこには倒れたダーヴィド、神楽、レイ、アンバーの姿があった。
ガスに突入した中で残っていたのは夕姫と、ガスが晴れる直前に入ったジャンクだけだ。では敵のゾンビはというと、手負いではあったが8体すべてのゾンビが残っており、夕姫とジャンクにそれぞれ向かってるところだった。
ガスに突入するのが散発的になったのがまずかった。結果ゾンビの狙いが集中することになり、入った先から毒の息を受け倒されることになっていた。
「この調子なら、このまま全て回収できそうだな。そう思わないか、ハンター諸君?」
フリッツが不敵に笑う。だが、そうはさせまいと叫んだのはシルヴィアだ。
「いいえ、そうはさせません!」
そう言うとシルヴィアはライフルをフリッツに向け……その銃口を横にずらす。
「すでに舞台は出来上がっています……!」
発砲。しかし、それはまっすぐフリッツには向かわない。向かうのは……地面に突き刺さっている、シルヴィア自身が投げていた手裏剣。外しているように見えた手裏剣は、その実あえて地面に刺すことで跳弾を起こすための壁代わりにしていたのだ。手裏剣に当たった弾はシルヴィアの狙い通り反射し、フリッツへ向かう。
だが、その弾は……フリッツの持つ鞭によって、叩き落とされた。
「……狙いは良かったな。だが、それは前に見たことがある。何度も当たってはやれん」
前に見た……シルヴィアが以前フリッツと戦闘した際にも、別のハンターが跳弾でフリッツに大きなダメージを与えていた。フリッツはその時のことを覚えていた。
「だが……やってくれたな」
フリッツにダメージを与えることは出来なかったシルヴィアの攻撃だったが、それでも時間を多少稼ぐことが出来た。その間に、あかねの弓がリンドヴルムのアーム部分を撃ち抜き、機能を停止させた。あかねだけでなく、ここまでリンドヴルムへ攻撃を蓄積させてきた成果だろう。
「……まぁいい。想定内の結果にはなった」
そう言うが早いか、フリッツは大きく跳び上がりリンドヴルムの上へ。同時にリンドヴルムが羽ばたき、すぐに上昇する。リンドヴルムの腹部には2つのコンテナがすでに回収されていた。
ハンターたちは逃亡するフリッツの追撃を行わなかった。否、行えなかったというのが正しい。地上に取り残されたゾンビたちの相手をしなければならなかったからだ。とはいえ、このゾンビたちは遠距離攻撃手段を持っておらず、残されたハンターたちの方が数に劣ったものの、ガスという不利な状況が無くなった今では大して強力な相手ではなかった。
こうして、ハンターたちはフリッツ・バウアーを撃退した。奪われた魔導アーマーは2台。敵からの奇襲を受けたにも関わらず、良く守った方であったと言えよう。
依頼結果
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相談卓 ジャンク(ka4072) 人間(クリムゾンウェスト)|53才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/04/20 01:01:36 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/16 08:03:56 |