ゲスト
(ka0000)
不完全な料理本
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/21 07:30
- 完成日
- 2015/04/29 11:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ここはグラズヘイム王国・港街【ガンナ・エントラータ】。
十六歳の若者、エレス・ミューゲルは路地裏に置かれた樽の上に座っていた。持っていた手記に目を通しながら首を傾げる。
「三枚下ろしってどうやるんだ? カツラムキ? う~ん、わからん‥‥」
手記はリアルブルーからの来訪者が書いたもので様々な料理が紹介されていた。
眺めているだけでお腹が空いてくるほど料理の挿絵はどれも素晴らしい。だがレシピや調理法の記述がお粗末だった。
文章全体が酷く、手順の飛躍や使う調味料、食材の分量が所々省かれている。これを参考にして料理を作れる者はまずいない。
それでもエレスは味噌や醤油、鰹節などを苦労して手に入れて調理を試みていた。残念ながら、そのすべてが失敗に終わっている。
「どうしたの? エレス」
「なっ! なんだ、ミヤーナか」
知らぬ間に幼なじみの少女、ミヤーナ・ロットが側に立っていた。
「ああ、これね。パン屋のお給金注ぎ込んで、変な調味料を買うようになっちゃった原因の本」
「失礼だな。ほら、見てみろよ。このカツ丼とかうまそうだろ?」
「でも作り方がハンパで再現できないんでしょ? ちなみにこのカツ丼って何の肉を使うの?」
「そ、それは……」
「すぐにそうやって視線逸らして誤魔化すんだから」
エレスは言い返せずに不機嫌な表情を浮かべる。
「それを書いた本人に会えれば解決するのにね」
「市でたまたま手に入れたもんだから無理だよ」
「じゃあ、リアルブルーの人に訊ねてみればいいのに」
「……ミヤーナ、今なんて言った?」
エレスがミヤーナの両肩を掴んで顔を近づける。
「り、リアルブルーの人に聞いたらいいんじゃないかって」
「それだよ、それ!」
光明が見えたエレスは樽から勢いよく飛び降りて駆けだした。目指したのはハンターズソサエティの支部である。
リアルブルーの料理をだす店の噂はいくつか知っていた。だが調理の仕方を教えてもらうのは厚かましいと控えて今日に至る。
依頼としてリアルブルーの出身者に訊くのであれば遠慮する必要はない。
「お願いします。実は――」
受付で料理に詳しいハンターを紹介して欲しいと頼むエレスであった。
ここはグラズヘイム王国・港街【ガンナ・エントラータ】。
十六歳の若者、エレス・ミューゲルは路地裏に置かれた樽の上に座っていた。持っていた手記に目を通しながら首を傾げる。
「三枚下ろしってどうやるんだ? カツラムキ? う~ん、わからん‥‥」
手記はリアルブルーからの来訪者が書いたもので様々な料理が紹介されていた。
眺めているだけでお腹が空いてくるほど料理の挿絵はどれも素晴らしい。だがレシピや調理法の記述がお粗末だった。
文章全体が酷く、手順の飛躍や使う調味料、食材の分量が所々省かれている。これを参考にして料理を作れる者はまずいない。
それでもエレスは味噌や醤油、鰹節などを苦労して手に入れて調理を試みていた。残念ながら、そのすべてが失敗に終わっている。
「どうしたの? エレス」
「なっ! なんだ、ミヤーナか」
知らぬ間に幼なじみの少女、ミヤーナ・ロットが側に立っていた。
「ああ、これね。パン屋のお給金注ぎ込んで、変な調味料を買うようになっちゃった原因の本」
「失礼だな。ほら、見てみろよ。このカツ丼とかうまそうだろ?」
「でも作り方がハンパで再現できないんでしょ? ちなみにこのカツ丼って何の肉を使うの?」
「そ、それは……」
「すぐにそうやって視線逸らして誤魔化すんだから」
エレスは言い返せずに不機嫌な表情を浮かべる。
「それを書いた本人に会えれば解決するのにね」
「市でたまたま手に入れたもんだから無理だよ」
「じゃあ、リアルブルーの人に訊ねてみればいいのに」
「……ミヤーナ、今なんて言った?」
エレスがミヤーナの両肩を掴んで顔を近づける。
「り、リアルブルーの人に聞いたらいいんじゃないかって」
「それだよ、それ!」
光明が見えたエレスは樽から勢いよく飛び降りて駆けだした。目指したのはハンターズソサエティの支部である。
リアルブルーの料理をだす店の噂はいくつか知っていた。だが調理の仕方を教えてもらうのは厚かましいと控えて今日に至る。
依頼としてリアルブルーの出身者に訊くのであれば遠慮する必要はない。
「お願いします。実は――」
受付で料理に詳しいハンターを紹介して欲しいと頼むエレスであった。
リプレイ本文
●
ある晴れた日。ハンター一行はガンナ・エントラータにあるエレスの家を来訪した。
「どうぞあがってください」
エレスとの挨拶もそこそこにハンター達は手記を見せてもらう。卓の中央に置かれた手記の頁をエレスが捲った。
「これがリアルブルーの料理か。そうだ、依頼にあったカツ丼、味噌汁、お吸い物を先に見せてもらえるか?」
ヴァイス(ka0364)の希望に合わせてエレスがカツ丼の頁を開く。
「キツネ色の衣つきお肉とふわふわの卵がのった丼。これがカツ丼でシュね」
椅子の上に立っていたシュマ・グラシア(ka1907)が、さらに背伸びをして手記に顔を近づけた。
「リアルブルーのごはんはおいしそうですよね、食べたくなるのもわかります」
うんうんと頷いたヘザー・S・シトリン(ka0835)はリアルブルーの出身者である。
「俺はカツ丼も含めて和食には詳しいぜ! エレスさん、よろしくな」
藤堂研司(ka0569)があらためてエレスと握手を交わす。
「おいおい、俺も忘れちゃ困るぜ。料理なら任せろ! って言いたいところだけど、こちらの生まれだからな。ブルーのはよくわからん。その分、食材集めは任せてくれ」
フェリル・L・サルバ(ka4516)はエレスの背中を軽く叩いた。
「カツ丼は故郷の料理、和食になります。興味を持ってもらえるなんて嬉しいです!」
松瀬 柚子(ka4625)は瞳を輝かせてエレスを真っ直ぐに見つめる。
「カツ丼はよいとして他は味噌汁、お吸い物ですよね? どうして汁物といった似た二品を?」
カディス・ヴァントーズ(ka4674)の疑問は多くのハンターが抱いたものと同じである。
「私、スープが大好きなんです。それでつい……」
手記には料理レシピが多数載っている。相談の上、いくつか選んで丸一日分の献立を考えることになった。
話し合いの途中でドアがノックされる。
「お裾分けでこれ……あらお客様?」
間髪空けずにエレス宅に入ってきたのはミヤーナだった。
「えっ? ち、違いますっ!」
ハンター達にエレスの恋人だと間違われたミヤーナは全否定する。大きな籠ごと鶏卵をエレスに渡すとそこら中にぶつかりながら去っていく。
「おいしそうな卵でシュ」
シュマはエレスが持つ籠の中を覗き込む。ともあれミヤーナのおかげでカツ丼に使う鶏卵を探す手間が省けるのだった。
●
「今日は準備だ。本番は明日の朝昼晩三食で、エレスさん希望の料理を含めて和食を存分に味わおうぜ!」
藤堂研司が仲間達の意見をまとめて献立を作成する。
「明日の朝食は白米のご飯、味噌汁、魚のひらき、きんぴら、卵焼きでシュ。昼はエレス待望のカツ丼でシュ! ほかには、ほうれん草のおひたしとお新香、お吸い物、干し柿なのでシュよ。晩御飯はご飯にお刺身、若竹煮、白和え……それにとっても大きく書かれてあるプリン各種類でシュ!!」
シュマがそれを読み上げた。
レシピとして不足している情報を補ったのがリアルブルー出身者の藤堂研司、ヘザー、松瀬柚子である。
「調味料はこちらに揃えられているので足ります。それにしてもよく揃えましたね」
「リゼリオに出向く用事があった商人に融通してもらったんです」
松瀬柚子が味噌、醤油、鰹節、煮干し、味醂等を確かめた。買いすぎなぐらいの品揃えで品質にも問題はない。
「カツ丼のカツはフライと同じで衣を付け揚げた物なんです。カツ丼で使われるのは基本、豚肉ですけれど、鶏肉や牛肉で作っても美味しいんですよ!」
「確かに抜けが多いレシピですね。カツは豚肉だけではなく、応用として、豆腐で豆腐カツ、鶏肉でとりカツを作ることも悪くはありません。バラエティを増やして損はないと思います」
エレスは松瀬柚子とヘザーからとんかつの話しを聞いて、一般的なカツ丼に使われている肉が豚のものだと知った。
手記にはカスタードプリンのレシピも載っている。
「プリンなら俺も作ったことがあるからな。桜プリンと抹茶プリン、どちらも材料揃うといいんだけどな」
フェリルはレシピと違うやり方でプリンを作ろうとしていた。
「抹茶、抹茶プリン……いいよなぁ」
藤堂研司はフェリルの抹茶プリンに多大な期待を寄せる。
「プリンはゼラチンで固めるのと、蒸すのと、オーブンで蒸し焼きの3種類ありますね」
ヘザーは手記にあったオーブンによるカスタードプリンを再現するつもりだ。
「リゼリオじゃないと手に入らない食材もありそうだ」
ヴァイスはレシピにある食材一覧を別紙に書きだしていく。
「お刺身は自分が言い出したものなので、やらせてもらいます。魚の買い出しも任せて下さい」
魚介全般の入手はカディスの役目となった。
まもなく買い出しの時間となる。
一番早くに戻ってきたのはカディスである。次に戻ってきたエレスと一緒に魚の一夜干しに取りかかった。
カディスが開き用として入手したのは鰺、カレイ、秋刀魚である。
包丁の背で鱗を取り除いた後、背開きにする。ワタを取ってから一時間ほど塩水に浸けておく。日陰に干し、鳥や虫避けに網を被せた。
「これでできるんですか?」
「……我ながらすごい量ですね……」
秋刀魚の場合は塩水ではなく味醂を含んだ調味液に漬けてから干す。明日の朝には完成しているはずである。
お新香の作り方は藤堂研司が教えた。
「お新香は蕪の酢漬けでいいかな、これは漬けるだけ」
「蕪は四つ切りしてから――」
蕪を薄い一枚ずつに切り、塩を振って水気を抜く。酢に赤唐辛子に切った昆布、好みで砂糖を加えた液に蕪を投入する。こちらも一晩待てば出来上がりであった。
●
翌朝。夜明けの直前から全員が早起きして取りかかる。
フェリルは昼用の豚肉を手に入れようと市に出かけた。
「肉は筋目の少ない厚めの豚ロースが良いんじゃねぇかな。これがいいか」
肉はこれでよいとしてエレス宅に冷蔵庫はなかった。冷凍パンを削ってパン粉にする方法は使えない。そこで硬めのパンを入手しておく。
エレス宅では炊飯が始まろうとしていた。
「横着せず、一合分ずつちゃんと測る。水を加えたら混ぜてすぐ水切りだ」
「は、はい!」
藤堂研司の作業をエレスが手伝う。
「米をかき回すように研ぎ! 砥ぎ汁捨て! そして水の量はこれぐらい。三十から六十分と漬けるんだ。暑い日は短くていいぞ」
待ち時間に牛蒡や人参を切ってきんぴらの用意を整えておく。
頃合いに米の鍋を火に掛ける。沸騰するのを待つ間に食材を炒めた。砂糖、醤油、味醂、酒で味付けしてきんぴらを完成させる。
「ここからが勝負だ。沸騰して二分! 弱めて三分。さらに弱火で六分6分! そして蒸らす! これで完成だ! 絶対うめぇ!」
御飯が炊けるにおいで腹の虫を鳴かせた二人であった。
ヴァイスとヘザーは炊飯の隣で味噌汁造りに挑戦する。
「味噌汁には出汁を入れないと悲惨なことになるらしいですよね」
「修正レシピ通りにやってみようか」
戻ってきたフェリルも味噌汁作りに参加。ジャガイモと玉葱を切ってくれた。
「あ、鍋が沸騰してまシュよ。鰹だしは沸騰させたら台無しでシュから、気をつけてください、でシュ」
シュマはシレピの注意点を仲間達に伝える。
初めての出汁とりは今一。やり直して次はうまくいく。
御飯の蒸らし以降は藤堂研司に任せて、エレスはカディスを手伝う。七輪で魚の開きを焼いていった。
「いいにおいですね」
「そうでしょう。どんなときでもうまい飯さえあれば、戦いに勝てるんです!」
同時に前準備をしてあった卵焼きにも取りかかる。
「卵焼きは、甘いものこそが正義!」
「和食では、旬を凄く大事にしてるんです」
カディスと松瀬柚子が振るうフライパンの上で卵焼きが完成していく。
「焦げやすい材料だから気をつけて」
「こ、こうかな? あちゃ!」
エレスも卵焼きに挑戦した。形は崩れてしまったが何とか完成させる。
すべてが完成。冷めないうちに朝食の時間となった。
「秋刀魚の味醂干し、おいしいでシュ♪」
「それ、私が焼いたんですよ」
ご飯と一緒にモグモグと食べるシュマ。エレスも秋刀魚の味醂干しを口に含んだ。
「これが和食ですか……」
さらにご飯の美味さ。味噌汁、きんぴら、卵焼きも。どれも以前に挑戦したときと雲泥の差がある。
御飯と味噌汁をお替わりしてすべてを食べ尽くす。満足げなエレスの表情にハンター一同は笑みを浮かべるのだった。
●
昼は待望のカツ丼だ。
「カツは八割火が通ったところであげて、最後の卵や液と絡める行程で完全に火を通した方がいいらしい」
「卵は強火で三十秒ですか、外側は固めて中は程よくトロっとした感じに――」
エレスとフェリルはパンを削りながらカツ丼の作り方を復習した。
炊飯は藤堂研司が担当。蕪のお新香もばっちりである。
「んー、豚肉がずいぶん大きいでシュね。二度揚げした方がいいかも。最初に低温の油で中まで火を通して、次に高温の油で表面をカラッと揚げるんでシュ」
シュマが注意点を仲間に伝える。
エレスは是非自分でカツを揚げたいと望んだ。そこで松瀬柚子が補佐につく。
塩胡椒した豚肉を溶いた卵の中に入れ、パン粉をつけて油の中へ。ハンターの全員がエレスの調理を見守る。
フェリルとヴァイスは窓から覗き込んでいるミヤーナに気づいた。外に出て声をかけて家の中に招く。
「ちょうどよかった。お昼、食べていってよ」
「う、うん」
「卵、たくさんありがとう」
「うん……この間はごめんなさい」
丼として完成させる前に全員で他の調理に取りかかった。
「お吸い物にはお麩を入れて、三つ葉を散らして」
「こうすればいいのか」
お吸い物を作ったのは松瀬柚子とフェリルである。
「……ふむ、吸い物はもうすこーしだけ塩がほしいでシュかね。あ、醤油はあんまり入れたらダメでシュよ。香りと色が付く程度でいいでシュ」
シュマは相変わらずの味見係だ。
「おひたしは、ゆがいて水切りして出汁漬けにするんだ。吸い物の出汁を使おう」
「この鍋の出汁ですね」
藤堂研司とエレスは水切り済みのほうれん草をだし汁に漬す。炊飯は蒸らすだけだ。
「だし汁はこんなものだろう」
「よい思います。卵は半熟を心がけましょう」
ヴァイスとヘザーがカツと玉葱と煮込んだ。卵をかけてカツ丼に仕上げてくれる。
「丼を運んでもらえますか?」
ミヤーナがエレスの横に座れるよう配慮したのはヘザーである。
「こんなに美味い物がこの世にあったとは!」
あまりのカツ丼の旨さに興奮したエレスが咽せた。ミヤーナが差しだした水を飲んでようやく落ち着く。
ほうれん草のおひたし、お新香、お吸い物のおかげでカツ丼の味が引き立つ。
「さて、仕入れついでに買ってきたんだ、干し柿!」
藤堂研司が嬉々としながら干し柿を分けた。
「……俺自身は一体、どんな生活をしてたんだろうな。自分のことは分からないけど、あちらのことは分かってる……おかしいよな」
カディスの舌は干し柿の味を覚えている。しかし自身の記憶は未だ忘却の彼方だった。
●
「この白い固まりが豆腐なんですね」
藤堂研司の指示通り、エレスは木綿豆腐を潰して味を調えた。茹で野菜と和えて白和えを完成させる。さらにアク抜きが終わった筍とワカメをだし汁で煮て若竹煮を作った。
保存のためにはミヤーナ宅の魔導冷蔵庫を借りる。
その後、プリンの調理が行われた。
「水でお砂糖をとかして火に掛けます。ゆっくりと待つのがコツですね。ちゃんと見ないと焦げ付きますから、ご注意ください」
ヘザーがエレスに教えながら作業を進めていく。
キャラメルは熱いうちに容器の底へ。同じ鍋に牛乳とグラニュー糖を入れて温め、泡立てた卵を足してプリン液を作っていく。容器にプリン液も注いでオーブンで焼けばできあがりである。
「材料が揃ってよかったな」
続いてエレスはフェリルと一緒に桜プリンと抹茶プリンに手を掛けた。
食材の分量を正確に計る。ゼラチンを水で溶かして牛乳、砂糖、生クリームを混ぜ合わせていく。
桜リキュールを加えたものが桜プリン。濾した抹茶を混ぜたものが抹茶プリンとなる。固めるのはミヤーナ宅の魔導冷蔵庫を利用させてもらう。冷やしてる間に砂糖を混ぜた桜ペーストと生クリームを混ぜ合わせておく。
「とても綺麗ですね」
「リアルブルーにはこういった洒落たデザートがいっぱいあるもんなぁ」
固まった桜プリンに桜リキュール入り生クリームを乗せて完成。抹茶プリンには生クリームを盛ってから抹茶を振りかけた。後は食卓に並べるのを待つだけだ。
昼過ぎから出かけていたカディスが戻ってくる。手に入れた大きな鮪の身を丁寧に切って刺身へと仕上げていく。
日が暮れて晩御飯時。卓にはミヤーナも招かれた。
「生で魚を食べるなんて初めてです」
「わたしも……」
エレスとミヤーナがフォークで刺身を突き刺す。山葵と醤油をつけて恐る恐る口の中へ。
最初、二人ともどう表現したらよいのかわからない表情を浮かべる。だが不味くはなかった。何度も食べているうちに美味しさがわかってきた。
「筍のアク抜きは俺が手伝ったんだ。米のとぎ汁を使ってな」
「それでは……」
ヴァイスとエレスが若竹煮の感想を言い合う。今までに食べたことがない歯ごたえがとても面白い。
「豆腐のほろほろがよい具合いでシュ」
白和えを食べたシュマは次にプリンに手を付ける。
「一人につき一種類ずつあるでシュ♪」
あまりの美味しさにシュマはつい鼻歌が出てしまう。
御飯を食べ終えたカディスがプリン三種を抱えて立ち上がった。
「どちらへ?」
「甘味を食べる時はね、誰にも邪魔されず 自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで――」
エレスに訊ねられたカディスは笑顔で庭へと出て行く。
彼は独特の哲学を持っていた。庭で夜空の月と星を眺めながらプリンをゆっくりと味わう。
「よいプリンに仕上がりました♪ おいしい♪」
「あ、あの……」
ヘザーは自作のカスタードプリンを食べている最中にミヤーナから耳打ちされる。
エレスのためにこのプリンの作り方を覚えたいという。帰り際、ヘザーは事細かに解説したプリンレシピをミヤーナにあげた。
「和風プリン、どちらもうまくできたな」
「うまいっ! この余っている抹茶プリン、もう一個もらっていいか?」
藤堂研司はフェリルが作った抹茶プリンが特にお気に入りのようである。
「緑茶は和食にはかかせないんです。渋みがあって、食事に合うんですよ。デザートにもそうなんです」
「本当ですね。プリンの味が引き立ちます」
エレスは松瀬柚子が用意したお茶で舌休めをしながらプリンを存分に味わった。
ハンター一行はもう一晩エレス宅に泊まってから帰路に就く。笑顔のエレスとミヤーナに見送られながら転移門へと向かうのだった。
ある晴れた日。ハンター一行はガンナ・エントラータにあるエレスの家を来訪した。
「どうぞあがってください」
エレスとの挨拶もそこそこにハンター達は手記を見せてもらう。卓の中央に置かれた手記の頁をエレスが捲った。
「これがリアルブルーの料理か。そうだ、依頼にあったカツ丼、味噌汁、お吸い物を先に見せてもらえるか?」
ヴァイス(ka0364)の希望に合わせてエレスがカツ丼の頁を開く。
「キツネ色の衣つきお肉とふわふわの卵がのった丼。これがカツ丼でシュね」
椅子の上に立っていたシュマ・グラシア(ka1907)が、さらに背伸びをして手記に顔を近づけた。
「リアルブルーのごはんはおいしそうですよね、食べたくなるのもわかります」
うんうんと頷いたヘザー・S・シトリン(ka0835)はリアルブルーの出身者である。
「俺はカツ丼も含めて和食には詳しいぜ! エレスさん、よろしくな」
藤堂研司(ka0569)があらためてエレスと握手を交わす。
「おいおい、俺も忘れちゃ困るぜ。料理なら任せろ! って言いたいところだけど、こちらの生まれだからな。ブルーのはよくわからん。その分、食材集めは任せてくれ」
フェリル・L・サルバ(ka4516)はエレスの背中を軽く叩いた。
「カツ丼は故郷の料理、和食になります。興味を持ってもらえるなんて嬉しいです!」
松瀬 柚子(ka4625)は瞳を輝かせてエレスを真っ直ぐに見つめる。
「カツ丼はよいとして他は味噌汁、お吸い物ですよね? どうして汁物といった似た二品を?」
カディス・ヴァントーズ(ka4674)の疑問は多くのハンターが抱いたものと同じである。
「私、スープが大好きなんです。それでつい……」
手記には料理レシピが多数載っている。相談の上、いくつか選んで丸一日分の献立を考えることになった。
話し合いの途中でドアがノックされる。
「お裾分けでこれ……あらお客様?」
間髪空けずにエレス宅に入ってきたのはミヤーナだった。
「えっ? ち、違いますっ!」
ハンター達にエレスの恋人だと間違われたミヤーナは全否定する。大きな籠ごと鶏卵をエレスに渡すとそこら中にぶつかりながら去っていく。
「おいしそうな卵でシュ」
シュマはエレスが持つ籠の中を覗き込む。ともあれミヤーナのおかげでカツ丼に使う鶏卵を探す手間が省けるのだった。
●
「今日は準備だ。本番は明日の朝昼晩三食で、エレスさん希望の料理を含めて和食を存分に味わおうぜ!」
藤堂研司が仲間達の意見をまとめて献立を作成する。
「明日の朝食は白米のご飯、味噌汁、魚のひらき、きんぴら、卵焼きでシュ。昼はエレス待望のカツ丼でシュ! ほかには、ほうれん草のおひたしとお新香、お吸い物、干し柿なのでシュよ。晩御飯はご飯にお刺身、若竹煮、白和え……それにとっても大きく書かれてあるプリン各種類でシュ!!」
シュマがそれを読み上げた。
レシピとして不足している情報を補ったのがリアルブルー出身者の藤堂研司、ヘザー、松瀬柚子である。
「調味料はこちらに揃えられているので足ります。それにしてもよく揃えましたね」
「リゼリオに出向く用事があった商人に融通してもらったんです」
松瀬柚子が味噌、醤油、鰹節、煮干し、味醂等を確かめた。買いすぎなぐらいの品揃えで品質にも問題はない。
「カツ丼のカツはフライと同じで衣を付け揚げた物なんです。カツ丼で使われるのは基本、豚肉ですけれど、鶏肉や牛肉で作っても美味しいんですよ!」
「確かに抜けが多いレシピですね。カツは豚肉だけではなく、応用として、豆腐で豆腐カツ、鶏肉でとりカツを作ることも悪くはありません。バラエティを増やして損はないと思います」
エレスは松瀬柚子とヘザーからとんかつの話しを聞いて、一般的なカツ丼に使われている肉が豚のものだと知った。
手記にはカスタードプリンのレシピも載っている。
「プリンなら俺も作ったことがあるからな。桜プリンと抹茶プリン、どちらも材料揃うといいんだけどな」
フェリルはレシピと違うやり方でプリンを作ろうとしていた。
「抹茶、抹茶プリン……いいよなぁ」
藤堂研司はフェリルの抹茶プリンに多大な期待を寄せる。
「プリンはゼラチンで固めるのと、蒸すのと、オーブンで蒸し焼きの3種類ありますね」
ヘザーは手記にあったオーブンによるカスタードプリンを再現するつもりだ。
「リゼリオじゃないと手に入らない食材もありそうだ」
ヴァイスはレシピにある食材一覧を別紙に書きだしていく。
「お刺身は自分が言い出したものなので、やらせてもらいます。魚の買い出しも任せて下さい」
魚介全般の入手はカディスの役目となった。
まもなく買い出しの時間となる。
一番早くに戻ってきたのはカディスである。次に戻ってきたエレスと一緒に魚の一夜干しに取りかかった。
カディスが開き用として入手したのは鰺、カレイ、秋刀魚である。
包丁の背で鱗を取り除いた後、背開きにする。ワタを取ってから一時間ほど塩水に浸けておく。日陰に干し、鳥や虫避けに網を被せた。
「これでできるんですか?」
「……我ながらすごい量ですね……」
秋刀魚の場合は塩水ではなく味醂を含んだ調味液に漬けてから干す。明日の朝には完成しているはずである。
お新香の作り方は藤堂研司が教えた。
「お新香は蕪の酢漬けでいいかな、これは漬けるだけ」
「蕪は四つ切りしてから――」
蕪を薄い一枚ずつに切り、塩を振って水気を抜く。酢に赤唐辛子に切った昆布、好みで砂糖を加えた液に蕪を投入する。こちらも一晩待てば出来上がりであった。
●
翌朝。夜明けの直前から全員が早起きして取りかかる。
フェリルは昼用の豚肉を手に入れようと市に出かけた。
「肉は筋目の少ない厚めの豚ロースが良いんじゃねぇかな。これがいいか」
肉はこれでよいとしてエレス宅に冷蔵庫はなかった。冷凍パンを削ってパン粉にする方法は使えない。そこで硬めのパンを入手しておく。
エレス宅では炊飯が始まろうとしていた。
「横着せず、一合分ずつちゃんと測る。水を加えたら混ぜてすぐ水切りだ」
「は、はい!」
藤堂研司の作業をエレスが手伝う。
「米をかき回すように研ぎ! 砥ぎ汁捨て! そして水の量はこれぐらい。三十から六十分と漬けるんだ。暑い日は短くていいぞ」
待ち時間に牛蒡や人参を切ってきんぴらの用意を整えておく。
頃合いに米の鍋を火に掛ける。沸騰するのを待つ間に食材を炒めた。砂糖、醤油、味醂、酒で味付けしてきんぴらを完成させる。
「ここからが勝負だ。沸騰して二分! 弱めて三分。さらに弱火で六分6分! そして蒸らす! これで完成だ! 絶対うめぇ!」
御飯が炊けるにおいで腹の虫を鳴かせた二人であった。
ヴァイスとヘザーは炊飯の隣で味噌汁造りに挑戦する。
「味噌汁には出汁を入れないと悲惨なことになるらしいですよね」
「修正レシピ通りにやってみようか」
戻ってきたフェリルも味噌汁作りに参加。ジャガイモと玉葱を切ってくれた。
「あ、鍋が沸騰してまシュよ。鰹だしは沸騰させたら台無しでシュから、気をつけてください、でシュ」
シュマはシレピの注意点を仲間達に伝える。
初めての出汁とりは今一。やり直して次はうまくいく。
御飯の蒸らし以降は藤堂研司に任せて、エレスはカディスを手伝う。七輪で魚の開きを焼いていった。
「いいにおいですね」
「そうでしょう。どんなときでもうまい飯さえあれば、戦いに勝てるんです!」
同時に前準備をしてあった卵焼きにも取りかかる。
「卵焼きは、甘いものこそが正義!」
「和食では、旬を凄く大事にしてるんです」
カディスと松瀬柚子が振るうフライパンの上で卵焼きが完成していく。
「焦げやすい材料だから気をつけて」
「こ、こうかな? あちゃ!」
エレスも卵焼きに挑戦した。形は崩れてしまったが何とか完成させる。
すべてが完成。冷めないうちに朝食の時間となった。
「秋刀魚の味醂干し、おいしいでシュ♪」
「それ、私が焼いたんですよ」
ご飯と一緒にモグモグと食べるシュマ。エレスも秋刀魚の味醂干しを口に含んだ。
「これが和食ですか……」
さらにご飯の美味さ。味噌汁、きんぴら、卵焼きも。どれも以前に挑戦したときと雲泥の差がある。
御飯と味噌汁をお替わりしてすべてを食べ尽くす。満足げなエレスの表情にハンター一同は笑みを浮かべるのだった。
●
昼は待望のカツ丼だ。
「カツは八割火が通ったところであげて、最後の卵や液と絡める行程で完全に火を通した方がいいらしい」
「卵は強火で三十秒ですか、外側は固めて中は程よくトロっとした感じに――」
エレスとフェリルはパンを削りながらカツ丼の作り方を復習した。
炊飯は藤堂研司が担当。蕪のお新香もばっちりである。
「んー、豚肉がずいぶん大きいでシュね。二度揚げした方がいいかも。最初に低温の油で中まで火を通して、次に高温の油で表面をカラッと揚げるんでシュ」
シュマが注意点を仲間に伝える。
エレスは是非自分でカツを揚げたいと望んだ。そこで松瀬柚子が補佐につく。
塩胡椒した豚肉を溶いた卵の中に入れ、パン粉をつけて油の中へ。ハンターの全員がエレスの調理を見守る。
フェリルとヴァイスは窓から覗き込んでいるミヤーナに気づいた。外に出て声をかけて家の中に招く。
「ちょうどよかった。お昼、食べていってよ」
「う、うん」
「卵、たくさんありがとう」
「うん……この間はごめんなさい」
丼として完成させる前に全員で他の調理に取りかかった。
「お吸い物にはお麩を入れて、三つ葉を散らして」
「こうすればいいのか」
お吸い物を作ったのは松瀬柚子とフェリルである。
「……ふむ、吸い物はもうすこーしだけ塩がほしいでシュかね。あ、醤油はあんまり入れたらダメでシュよ。香りと色が付く程度でいいでシュ」
シュマは相変わらずの味見係だ。
「おひたしは、ゆがいて水切りして出汁漬けにするんだ。吸い物の出汁を使おう」
「この鍋の出汁ですね」
藤堂研司とエレスは水切り済みのほうれん草をだし汁に漬す。炊飯は蒸らすだけだ。
「だし汁はこんなものだろう」
「よい思います。卵は半熟を心がけましょう」
ヴァイスとヘザーがカツと玉葱と煮込んだ。卵をかけてカツ丼に仕上げてくれる。
「丼を運んでもらえますか?」
ミヤーナがエレスの横に座れるよう配慮したのはヘザーである。
「こんなに美味い物がこの世にあったとは!」
あまりのカツ丼の旨さに興奮したエレスが咽せた。ミヤーナが差しだした水を飲んでようやく落ち着く。
ほうれん草のおひたし、お新香、お吸い物のおかげでカツ丼の味が引き立つ。
「さて、仕入れついでに買ってきたんだ、干し柿!」
藤堂研司が嬉々としながら干し柿を分けた。
「……俺自身は一体、どんな生活をしてたんだろうな。自分のことは分からないけど、あちらのことは分かってる……おかしいよな」
カディスの舌は干し柿の味を覚えている。しかし自身の記憶は未だ忘却の彼方だった。
●
「この白い固まりが豆腐なんですね」
藤堂研司の指示通り、エレスは木綿豆腐を潰して味を調えた。茹で野菜と和えて白和えを完成させる。さらにアク抜きが終わった筍とワカメをだし汁で煮て若竹煮を作った。
保存のためにはミヤーナ宅の魔導冷蔵庫を借りる。
その後、プリンの調理が行われた。
「水でお砂糖をとかして火に掛けます。ゆっくりと待つのがコツですね。ちゃんと見ないと焦げ付きますから、ご注意ください」
ヘザーがエレスに教えながら作業を進めていく。
キャラメルは熱いうちに容器の底へ。同じ鍋に牛乳とグラニュー糖を入れて温め、泡立てた卵を足してプリン液を作っていく。容器にプリン液も注いでオーブンで焼けばできあがりである。
「材料が揃ってよかったな」
続いてエレスはフェリルと一緒に桜プリンと抹茶プリンに手を掛けた。
食材の分量を正確に計る。ゼラチンを水で溶かして牛乳、砂糖、生クリームを混ぜ合わせていく。
桜リキュールを加えたものが桜プリン。濾した抹茶を混ぜたものが抹茶プリンとなる。固めるのはミヤーナ宅の魔導冷蔵庫を利用させてもらう。冷やしてる間に砂糖を混ぜた桜ペーストと生クリームを混ぜ合わせておく。
「とても綺麗ですね」
「リアルブルーにはこういった洒落たデザートがいっぱいあるもんなぁ」
固まった桜プリンに桜リキュール入り生クリームを乗せて完成。抹茶プリンには生クリームを盛ってから抹茶を振りかけた。後は食卓に並べるのを待つだけだ。
昼過ぎから出かけていたカディスが戻ってくる。手に入れた大きな鮪の身を丁寧に切って刺身へと仕上げていく。
日が暮れて晩御飯時。卓にはミヤーナも招かれた。
「生で魚を食べるなんて初めてです」
「わたしも……」
エレスとミヤーナがフォークで刺身を突き刺す。山葵と醤油をつけて恐る恐る口の中へ。
最初、二人ともどう表現したらよいのかわからない表情を浮かべる。だが不味くはなかった。何度も食べているうちに美味しさがわかってきた。
「筍のアク抜きは俺が手伝ったんだ。米のとぎ汁を使ってな」
「それでは……」
ヴァイスとエレスが若竹煮の感想を言い合う。今までに食べたことがない歯ごたえがとても面白い。
「豆腐のほろほろがよい具合いでシュ」
白和えを食べたシュマは次にプリンに手を付ける。
「一人につき一種類ずつあるでシュ♪」
あまりの美味しさにシュマはつい鼻歌が出てしまう。
御飯を食べ終えたカディスがプリン三種を抱えて立ち上がった。
「どちらへ?」
「甘味を食べる時はね、誰にも邪魔されず 自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで――」
エレスに訊ねられたカディスは笑顔で庭へと出て行く。
彼は独特の哲学を持っていた。庭で夜空の月と星を眺めながらプリンをゆっくりと味わう。
「よいプリンに仕上がりました♪ おいしい♪」
「あ、あの……」
ヘザーは自作のカスタードプリンを食べている最中にミヤーナから耳打ちされる。
エレスのためにこのプリンの作り方を覚えたいという。帰り際、ヘザーは事細かに解説したプリンレシピをミヤーナにあげた。
「和風プリン、どちらもうまくできたな」
「うまいっ! この余っている抹茶プリン、もう一個もらっていいか?」
藤堂研司はフェリルが作った抹茶プリンが特にお気に入りのようである。
「緑茶は和食にはかかせないんです。渋みがあって、食事に合うんですよ。デザートにもそうなんです」
「本当ですね。プリンの味が引き立ちます」
エレスは松瀬柚子が用意したお茶で舌休めをしながらプリンを存分に味わった。
ハンター一行はもう一晩エレス宅に泊まってから帰路に就く。笑顔のエレスとミヤーナに見送られながら転移門へと向かうのだった。
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相談卓 カディス・ヴァントーズ(ka4674) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/04/21 00:51:29 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/17 18:56:36 |