似紫のウーズ

マスター:惇克

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/07 07:30
完成日
2014/07/13 12:05

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 都市と都市とを繋ぐ動脈、街道を東に外れること少し。
 そこにまた道がある。
 旅籠や茶屋、土産物屋が並ぶような賑やかな通りではなく、地元の人間が平素の生活において行き来する道だ。
 両脇には田園が広がっており、続く道の端、所々にポプラがひょろりと生え、少しの彩りを添えている。
 取り立てて語るほどもない、典型的な田舎道。

 ある日の早朝、畑に蒔いたばかりの夏野菜の様子を見に来た農夫がそこで異変と出会った。
 
 朝の光に照らされ白みがかった淡い色彩の中、何かの間違いのように、濁った紫色の汚れが地上に転々と落ちていた。
 澱み蠢く、不定形の軟体。スライムと呼ばれる種類の雑魔だ。
 スライムはだらしなく広がり、道を塞ぎ、のっそりと目的もなく動き、時折、思い出したように強酸を滲ませ、地面を焼いていた。

 昨晩まで何の変哲もなかった道に降って湧いた災厄。
 この道が使えなくなれば、近隣の村の住民は町に出るのに何倍もの時間をかけて迂回路を行かなくてはならなくなる。
 また、スライムが動き回り、汚染を広げれば、両脇に広がる畑に植えられた作物も無事では済まない。村の食卓は勿論、野菜作りにて生計を立てている人々への影響は深刻なものとなるだろう。
 農夫は忌々しげに舌を打ち、来た道を足早に戻ると、雑魔の出現を告げるべくハンターズソサエティの門を叩いた。

リプレイ本文


 現場へと向かう途次。
 出現した雑魔について神凪 宗(ka0499)が眉をひそめ溜息交じりに呟く。
「酸を吐くスライムか。また面倒な敵が現れたものだな」
「スライム、ですか。よく物語とかで出てくるものだと、大きな単細胞生物的だったり、ナメクジとかウミウシ的だったり、小さな生物が集まった群体的だったりしますが、これはどれなんでしょうね……」
 元いた世界では空想上の怪物でしかなかったスライムという雑魔について、古川 舞踊(ka1777)は思いを巡らせた。
(塩をかけたらナメクジみたいに体内の水分が抜けて死ぬのでしょうか……色々と疑問は尽きませんね……)
 軟体であるようだし、塩をかけてみれば何らかの効果が期待できそうだ、とも考えたが、道を塞ぐほどの大きさのスライムどうこうするような量の塩を撒いては、畑に悪影響が出るだろうと、即座にそれを否定した。
「なぁ、向こう(リアルブルー)じゃスライムは合体してキングになるって聞いたんだが、ありゃマジ?」
 ジャック・エルギン(ka1522)が興味津々、といった様子で尋ねる。
 雑魔との戦いを目的として依頼を引き受けた彼だったが、自分以外の全員がリアルブルーの人間ということに気がつき、見知らぬ外国に憧れを示す少年のような無邪気さで、事実から根も葉もない噂についてまで話題をふる。
 束の間、世界の垣根を越えた交流に和気藹々となる中、ロイド・ブラック(ka0408)は涼しげな顔で思案していた。
(さて、此度の相手に知能はあるのやら、ないのやら。あれば知恵比べを楽しませてもらおう。……無ければ、この世界の戦い方に慣れるための、『実験材料』とさせて頂こう)
 ただ勝つだけでは面白くない。どうせなら面白おかしく勝ちたい所だ、と。



 やがてハンター達は現場へと到着する。
 雑魔の出現を受け、道はすでに通行止めの看板と柵とで封鎖されていた。
 村役場の職員がその前に立ち、やってきた人々に説明と案内を続けている。
 その誰もがうんざりとした表情すら浮かべず、淡々と来た道を引き返して行った。
 降ってわいた不都合、災いに諦めなれた人々の姿。

 それを目にしたサーシャ・V・クリューコファ(ka0723)は、胸に抱いていた決意を強くしていた。
「軍人ってのはさ。戦う力を持たない人々の、信頼できる盾でないとならないんだ」
(私はあくまでその候補にすぎなかったが……それでも矜持は、多少ある)
「道も畑も、田舎にとっては生命線なんだろう? なら、守らなきゃならないさ」
「ええ。なぜこのような場所に発生したのかは兎も角、いつまでも雑魔の跋扈を許すわけにも参りません。きちんと討ち取ってみせましょう」
 摩耶(ka0362)が穏やかながらも力強く頷いた。



「お、アレか。雑魔としちゃ良く聞くけど、お目にかかるのは初めてだな」
 どこか暢気な声色で呟くジャックの目線の先で、くすんだ色の軟体がのろのろと這いずり回っていた。
「兎に角、畑を荒らされる前に仕留める必要がある」
「ああ。できるだけ畑に被害がないように倒したい所だな」
 宗の言葉に、柊 真司(ka0705)が同意する。
「さっさと掃除を終わらせる事に致しましょう」
 アルケミストクローを手に表情をきりりと引き締める舞踊。
「俺も、今回は最初から全力でいくぜ」
 平素、奇術士を自称し、工夫として魔術師本来の術は奥の手として隠している神代 廼鴉(ka2504)だったが、この度はその方針を変えて事に臨む。
「スライムを一体ずつ集中攻撃して、分裂する隙を与えず撃破する。数が増えると厄介だ。頼むぞ、魔法職連中。また、畑を荒らすのも、荒らされるのもご法度だ」
 サーシャが予め話し合ってきていた作戦の念を押す。
 この雑魔は分裂もする。増殖を防ぐためには前衛と後衛との分かれて連携をとりつつ、火力を集中させ1体1体を速攻で倒すことが要であると。
 作戦を確認し、各々が装備の準備を終えると、顔を見合わせて一度深く頷く。
「さて、スライム退治といきますか」
 真司の一声にハンター達が戦闘の火蓋を切って落とした。
 
「んじゃ、気張って行くぜ! ヒャッホウ!」
 ジャックが颯爽と走り出す。
 前衛として摩耶と協力し、雑魔の牽制と畑への侵入妨害を行う心積もりであった。
 摩耶は猟銃を手に慎重に砂利を踏む。
 見通しのよい道路上、雑魔とは真正面からぶつかることになるが、雑魔がどの程度の距離に入ったら臨戦態勢となるのか、どういった動きをするのか不明であったため、それらを見定めようと摩耶は猟銃の最大射程に入った雑魔を攻撃する。
 響く銃声。
 狙い過たず着弾。
 この攻撃に対して雑魔の反応は如何なるものか、接近してくるのか、その場に留まるのか。
 確認するため摩耶は先を見据え瞳を細めた。
 
 戦況に応じて行動する役割を選択した宗は道から逸れ、畑へと踏み込んでいた。
 雑魔は今のところまだ道に留まっているが、どう動くか知れたものではない。
 畑に入り込まないよう、道から出て来ないように、真正面だけではなく、横合いからも抑える必要があるだろうとの考えがあった。
 仲間の動きを伺いつつ、植えられた野菜を傷つけないよう、支柱を倒さないよう気を配りながら、畝と畝の間を走る。
 その動きをカバーするように、真司は正面からわざと大仰な動きをつけ、雑魔の注意を引きつけながら接近を開始。
 廼鴉、舞踊、ロイド、サーシャらも雑魔を射程内に捉えようと走り出す。

 ハンター達の動きに雑魔がようやく反応を示した。
 迎撃の意図でもあるのか、2体が道を塞ぐようにもぞもぞと前進し、遅れて1体が続く。
 そして、銃撃を受けた1体は身を隠す場所を求めて、意外なほどの素早さでもって畑の中へと滑り込んでいった。

「ああっ! 一匹畑に入ってしまいました!」
 比較的、視界を広く取ることのできる後衛にいた舞踊が、真っ先にそれに気が付き、声を上げ、対処を願う。
「確認した、俺が行く!」
 舞踊の声に宗が応えた。
「クッソ、あんのスライム!」
 悪態をつきながらジャックは足を速める。
 摩耶もこの事態に些か面食らい、小走りに駆け出した。
 雑魔が1体ずつ反応し移動してくるのであれば、魔法を得意とする仲間の前に誘導し、集中攻撃の的にしてもらおうと考えていたのだが、雑魔は一斉に動き出し、そうにはならなかった。
 前衛として立ち回る予定であったので接近用にデリンジャーも用意してきてはいたが、装備の重さに足を取られ、前衛に合流するのに一手間かかる。
 宗が畑に入った1体を追うが、荒らさないようにという心配りもあっって、直ぐに距離を縮めることはできない。
「撃つぞ、当たんなよ!」
 焦りの色が濃くなる中、真司は先を行くジャックの背中へと声をかけると、迎撃に出てきた雑魔を狙い、機導砲を放つ。
 一条の光が雑魔を撃つ。
 可能な限り攻撃の手を休めないように、と廼鴉がそれに続き、舞踊も続く。
「まず狙うのは、あの手前の奴でいいな?」
 仲間の攻撃とタイミングを合わせつつも、サーシャは怠ることなく、対象の確認作業を行う。
(違う敵に手を出して、分裂されたら目も当てられない)
 同一の敵を狙うとなると、どうしても射線確保が難しくなる。逡巡のうちに、サーシャは細心の注意を払いながら一時的に畑に入ることを選択。
「射撃砲撃の成績、悪かったんだよなぁ」
 と呟きつつも、見事に機導砲を目標に着弾させていた。
 冷静に仲間の様子を見ていたロイドは自身に攻性強化をかけ、次の一手に備えていた。

 ハンター達の放った強烈な光の暴威に晒されながらも、まだかろうじて形を保っている雑魔は接近していたジャックへと液体を吐きかける。
「なんか吐き出――ッ」
 とっさに目を庇うように剣を挟み、直撃を避けようとはしたものの、飛沫が腕にかかり、衣服共々ジャックの身体を焼いた。
「痛ってこりゃ……酸かよ! 気ぃつけろよっ」
 繊維と肉を焼く異臭、そして痛みに顔を顰めながら、ジャックは警告する。
 負傷はまだともかくとして、女性達に顔でも火傷されては、勝ったとしても後味が悪くなる。
「強酸か。だが、被害は拡大させん」
 ロイドはあえて回避を行わず、シールドを構えて受け止める姿勢をとった。
 もう1体の雑魔が不気味にぐねぐねと動き、構えられたシールドめがけて強酸を吐きかける。
 畑に入った1体も強酸を吐いたのか、青菜と土を焼く異臭が立ち上った。

「く、急がないと畑が!」
「速攻で行くぜ!」
 地面にへばりつくようにして動き出そうとしていた雑魔へと、ジャックが強烈な刺突を放つ。
 これが止めとなり1体の雑魔が活動を停止した。
「斬っても突いても反応が薄いのはやりにく――なんか数増えてね?」
 刃が軟体に食い込む何とも言いようのない手応えにぼやきつつ、ジャックが顔を上げれば、雑魔が分裂していた。
「厄介ですこと!」
 移動よりも攻撃をと判断した摩耶はその場から銃撃を行い、残る雑魔を撃ち貫く。

 それと同じ頃、宗は畑の中に入り込んだ雑魔に追いつき、対峙していた。
 分裂を警戒しつつ、道へと押し戻そうと方向を計算した牽制攻撃を加える。

「これでも食らいやがれ!」
 決着を急ぐ必要があると、真司は最も近くにいた雑魔へと機導剣を振るう。
 その横で動き出そうとしていた雑魔を廼鴉が牽制し、畑への侵入を阻害する。
(手詰まりに見えたって、出来ることは幾らでもあるはずだよな)
 さらに舞踊とサーシャが畳みかけ、ロイドが立ち塞がった。
「こちらは、通行止めである。さて、追撃させてもらう。卑怯とは言うまい? これは戦争なのだから」
 厳粛に言い渡し、機導剣で一撃。
 光の剣は雑魔を切り裂き、その活動を停止させた。
「便利な物だ。エネルギーを固形化して、武装とする、か」
 術の手応えにロイドは微かに笑む。実戦の『実験材料』としては上々であった。

 次々に仲間を仕留められ、やけくそに強酸を吐き出す雑魔。
 目標を定めてすらいないような強酸が放物線を描いて畑の方へと流れるが、サーシャが咄嗟に身を挺してそれを止めた。
 攻撃の矛先が雑魔に接近していた真司にも向いたが、彼は己の背後にある畑を思い、回避せずに攻撃を受け止める。
「こんな攻撃、何ともないぜ!」
 彼らは痛みを堪え不敵に笑ってみせた。

 残る雑魔は3体。
 そのうち畑に入っていた1体は、宗の牽制に怯み、道の上へと再び戻って来ていた。
「よし、一気に押し込もうぜ!」
 ハンター達の素早い連係、集中攻撃が功を奏し雑魔はあっという間に殲滅された。
 分裂し、数こそは増えたものの、元よりも弱体化した雑魔は最早ハンター達の敵ではなかったのだ。



 道の端で事態の収束を待っていた農夫は、雑魔の排除が完了し、安全が確保されたことを告げられると、安堵の表情を浮かべほっと息をついた。
「なぁ、何かそのまま食えそーなのねぇ? 俺、腹減っちまってさ」
 その言葉に首を傾げる農夫。ジャックは小声で真意を伝えた。
「あいつら、リアルブルーの奴らでさ。こっちのうまいもん味わせてやりてぇんさ」
 農夫は合点がいったと笑顔で頷くと、ハンター達を手招きして、すぐ近くの早植えの野菜畑へと導き、撓わに実ったトマトをもぎ取って、それぞれに手渡した。
 小振りだがつややかな、しっかりとした手触りと重量感のあるトマト。
 口に入れれば、瑞々しく爽やかな風味とうまみがさっと広がり、喉をすぎれば後味はさっぱりと、清涼感さえ感じさせる。野菜好きにはたまらない、野菜嫌いでも抵抗なしに食べられるような逸品だった。 手間と時間をかけ、丹誠込めて作られた農作物だというのが、説明されなくともわかる。
「……すみません。畑を荒らしちまって」
 振る舞われたトマトを食べ終えたところで、宗が謝罪を伝え、畑の修復を申し出た。
「わたくしもお手伝いいたします」
 畑への被害を考慮し、急拵えではあったが事前に園芸を学んできていた舞踊も同じく。
 真司は被害の範囲の確認と、雑魔の生き残りが潜んでいないかを調べようと、歩き出していた。
 ハンターたちはもう一仕事と、武器を農具に持ち替え一汗流す。
 雑魔が踏み荒らして倒れた支柱や野菜苗を片づけ、酸に汚染された土を削り、運び出す。
「美味しい野菜のできる、いい土なんだ、汚染は残したくないよな」
 廼鴉は雑魔の残骸やゴミの類いが残っていないか丁寧に畑を確認していった。

 一通りの作業が完了する頃には日が傾き始めていた。
「こんなことまでしてくださって、本当になんとお礼を申し上げたらよいやら」
 ハンター達に深々と頭を下げる農夫。多少の畑の被害は覚悟していたが、まさか後処理までハンターが手伝ってくれるとは思っていなかったのだそうだ。
 被害が最小限にとどまり、修復も行われた畑には、またすぐにでも新たな種が撒かれ、育てられるだろう。
 封鎖が解かれた道も元通り、人々がそれぞれの用事を持って行き交い歩いている。

 こうして、人々の生活を守ったハンター達は、晴れやかな心持ちで帰路についた。
 彼らを見送るように、両脇の畑では健やかに育った夏野菜の葉が緩やかな風に揺れていた。

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MVP一覧


  • 神凪 宗ka0499
  • 咄嗟の護り手
    古川 舞踊ka1777

  • 神代 廼鴉ka2504

重体一覧

参加者一覧

  • 光の水晶
    摩耶(ka0362
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士
  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラック(ka0408
    人間(蒼)|22才|男性|機導師

  • 神凪 宗(ka0499
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • まないた(ほろり)
    サーシャ・V・クリューコファ(ka0723
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 咄嗟の護り手
    古川 舞踊(ka1777
    人間(蒼)|22才|女性|機導師

  • 神代 廼鴉(ka2504
    人間(蒼)|18才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談はこちらへ
古川 舞踊(ka1777
人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/07/06 16:37:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/02 06:51:41