• 不動

【不動】悪徳のラスト

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/04/28 12:00
完成日
2015/05/06 19:51

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 城内の執務室に呼ばれた時は大概において面倒事。兵長オイヴァの予感は悪い方向で当たっていた。彼を呼び出したハロルド・ブラックバーン伯爵は、封をきったばかりの手紙をオイヴァに手渡した。領主に宛てられた手紙を読んでいいのかと疑問にも思ったが、渡された以上は許可されたものと腹を括った。内容はそう難しいものではなかった。近頃領内で盗賊が跋扈し治安の悪化するブラックバーン伯爵領に、隣接する所領を持つ伯爵が兵士を出すなどの援助を申し出る手紙だった。所領の責任が領主にある為、出兵には許可が必要であり、許可が欲しいと書いてある。現在都市内部の治安維持の任に当たるオイヴァにとって、手紙に記された援助は非常に魅力的だった。オイヴァにはこれのどこに、ハロルドを怒らせる要因があるのかと首を傾げる。朝から執務室にこもっていたハロルドの機嫌は非常に悪い。いや、機嫌が悪いのはここ最近ずっとだが、この手紙を読んでからはなおさらひどかった。普段は眉間に皺を寄せている程度だが、一周回って目が据わっている。黙っていれば美男の類のはずなのに、それを台無しにする目付きの悪さが今日は3割増しだ。
「わからんか?」
「……はい。まったく」
「その手紙の主は、よその所領のことを妙に良く知っていると思わんか?」
 言われて読み返せば確かにそうだ。領内のどこで何が必要なのか、現場指揮官の自分よりも詳しいようにも見える。「これを機に恩を着せようとしてるのだろう」
「それはまずいんですかい?」
「そいつがマーロウ派だからな。中立の我々を取り込みたいと思っているはずだ」
 円卓会議以降、この手の派閥争いに関する話題は増えた。政治にかかわりの無いオイヴァも、何度もこの派閥の名前を聞いている。オイヴァにとってのそれは一々理不尽の延長でもあった。ブラックバーン家の総意では王国への積極的な支持は表明しないものの、王国政府の対応に不満を持つマーロウに同調するわけでもなかった。それでも王国には協力的で今回の辺境への増援も快諾している。ハロルドが今回怒りを露にしているのは、今回の騒ぎで増援軍の編成を妨害されたためだ。ハロルドは冷徹な男だが身内には甘く、特に立場の違う弟ジェフリーへ十分な支援ができないことを普段から気に病んでいた。今回の件程度では本来感情を露にすることはないが、家族の安全に関わるとあり、派兵を邪魔されたハロルドの怒りは尋常ではなかった。オイヴァへの指令は日を追うごと苛烈さを増しており、貧民街を焼き払え、と言い出してもおかしくない空気すらあった。一度などは切り刻んだ賊の死体を仲間の居る砦に投石器で投げ込んだこともある。
「この領主が噛んでいるのなら別の話もみえてくる。最近の盗賊ギルドのやり口は目に余るが、どうにも手際が良すぎると思わないか?」
「……まさか」
「有り得ない話ではない」
 この領主が盗賊を扇動し、その討伐を自ら名乗り出ている。そうであればこちらの現状に詳しい理由もよくわかる。盗賊の仲間なら盗賊の情報は筒抜けだろう。
「オイヴァ。もはやこの件でこれ以上時間はかけられん。ハンターの召集を許可する。早急に盗賊ギルドを潰し、ギルドの長とギルドを煽る者を捕らえよ。首謀者が見つかればここに引き出せ」
「捕まえても口を割るとは思えませんが」
「かまわん。利用価値などいくらでもある。この私に逆らったらどうなるか、思い知らせてやる」
「了解しました」
 一ヶ月前の賊討伐でハロルドが情け容赦無い手腕を発揮したのは記憶に新しい。必要とあれば拷問も辞さず、相手の親兄弟を傷つけることすら厭わない男だ。オイヴァはそれ以上ハロルドを刺激せぬよう、急いでその場を後にした。



 盗賊ギルドなどと言っても所詮は地方の犯罪者の寄り合い所帯。贅沢な建物を用意できるわけもなく、集会に使う家もぼろさが目立った。とはいえ最低限の補修をしているため、暖炉さえ整えば住むには困らない。広いボロ机の前にはソファーがあり、痩身の剣呑な男―ギルド長のバルブロ―が腰掛けていた。両脇にはこれみよがしに半裸に近い衣装の美しい女性を侍らせている。対面にはフードを目深に被った男が1人。男は気軽な動作で袋を机の上に置く。中には大量の金貨が詰まっていた。護衛でもあるバルブロの部下達は、金貨を前にして動揺を隠せずに居た。
「約束の残りの報酬だ。よくやってくれた」
 バルブロは足を組んでソファーに身体を預けたまま、部下達に視線で合図した。金貨は直接ギルド長が触ることは無く、部下の男達が中身を机の上に開けて2人の目の前で検分した。これも用心のためだった。女性を侍らせているのも同じこと。肉の壁は多いほど良い。無くして惜しいものであれば、こんな正体不明の男との会談に連れて来ることはない。そこで男の壁でなく女を使っているのは、彼がそれ以上に欲望に忠実であるからだが。
「あんたの手際のおかげさ」
 バルブロの言葉は謙遜ではなく正直な賞賛であった。白昼堂々と商人の馬車を襲った手際は普段強盗を生業にする者が感嘆するほどだった。兵士が到着するまでに必要なだけ物を奪い、脅しに必要なだけ殺し、荷物を持ち出させる分だけ生かした。追撃を防ぐために商人の子供をさらい、荷運びをさせた使用人は邪魔になると全て切り殺した。全ての手際が良すぎて、強盗仲間から笑いが起こるほどだった。
「で、いつまでやるんだ? そろそろ領主が頭に来てる。逃げたほうが賢いぜ」
 金を数えていた男達も、目を伏せて聞かない振りをしながら聞き耳は立てていた。危ない橋となれば自分達の命にも関わる。だというのにフードの男は、自分の命など興味ないかのように平然としていた。
「これからが本番だ」
 男の口元で笑みが深くなる。これから流れる血を想像して興奮しているかのようだった。流石のギルド長も呆れ果て、苦笑しながら男を見返した。
「あんた、頭いかれてるのか?」
「至って正常さ。俺も元は、あんたと同じ人種だからな」
「そりゃ結構。金がでるうちはあんたは俺の客だ。で、次は何をやるんだ?」
 ギルドの長は獰猛且つ下卑た笑みを浮かべる。この街の暗い夜は、まだ終わりそうにはなかった。

リプレイ本文

 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は甚だ不本意な状況にあった。鋭利なナイフのような尖った風貌の男に連れられて付いた先は、この地区で一番大きいと噂の妓館であったからだ。照明の落とされた大ホールは妖しい香でもたいているのかと思えるほど、名状しがたい蠱惑な香りが漂っていた。
「いやあ、助かったよ。用心棒に立てられるほど信用おける男がいなくてね」
 アルト自身もギルド関係者を名乗るこの人物の人選は間違っていないと思う。同性ならば手を出さない。正確には出しても問題にはならない。だがアルトが最初に望んだのは暗殺を始めとする非合法の仕事。それを考えればこの仕事はぬるいと言えた。見たところこの地域は騒乱の気配が無い。ギルドの影響力の賜物であろうが、それでは功績を作る余地もない。失望が顔に出ていただろうか。男は振り返ると、小さくため息を吐いてアルトの肩に手を置いた。
「ま、これが相場って奴だ。真面目にお勤めしてりゃそのうち…な?」
 非合法な面々が『真面目にお勤め』というのもおかしな話だが、法に守られない分信用こそが第一なのだろう。見ず知らずの余所者には破格の待遇ともいえる。アルトは諦めて周囲を見回した。そろそろ遅い時間なため客は増えつつある。至るところに配されたソファーでは身なりが良さそうな――しかし堅気でなさそうな――人々が、テーブルの間を歩く女性達を品定めをしている。本来の予定でのギルド接触は無理だったが、ここは人の出入りが多い。情報収集としては悪くない場所だ。そう思いなおし仕事をするべく部屋の端に立とうとしたアルトだが、客の中に見知った顔を見つけた。
「……」「……」
 言いたいことは山ほどあったが、仕事のうちと思いアルトは目を逸らす。一方の トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)は何事もなかったように、酒を注ぐ見目麗しい女性に視線を戻した。淑女然と澄ましているが、その視線は強烈な色香を含んでいる。流れるような黒い髪は、薄暗がりの中でそれ自体が人を惑わす悪魔にも見えた。
「気になる子でも居ました?」
「可愛い子ばかりで目移りしそうだよ」
 トライフは満更演技でもない笑顔でワイングラスを受け取った。アルトよりも早く現地に潜り込んだトライフは、同業を装って手持ちの宝石を売り、妓女相手の遊びに耽っていた。もちろん情報の為である。
(実益もあるけどな)
 と、仲間に打ち明けないだけの品性はある。トライフは流れ者だが金を持っていて外見もまずまずとあり、女性達に好意的に受け入れられていた。館の主から言い含められているのか、上客を逃すまいと店員の中でも選りすぐった美人ばかりが彼についた。それはトライフの仕事にも好都合であった。
「俺さ、この街のことよくわかんないんだよね。時間作るから教えてほしいんだ」
 言いながらもトライフは対面する女性のふとももに手を這わせ、彼女に今夜の仕事を約束した。トライフはこうして何日も通い詰めては、複数の女性の閨で同じ質問をした。この街のルールと力関係、そして触るべきでない場所を。金が減るわけでもなく話してまずい話題でもなく、そして上客が固定客となるとなれば彼女達の口は軽かった。



 この二人と後述する青山 りりか(ka4415)の調査は上手くいったほうだが、他のメンバーの調査は今一つ捗らなかった。理由はアルトと同じく、信用の壁にあった。ミオレスカ(ka3496)はオイヴァが持っていた情報を元に、まず対象のギルドと敵対する人物や組織との接触を試みた。広くない街の複雑でもない勢力図では、目当ての人物を探すのに苦労はしなかった。問題はそこから先である。
「それを喋って俺はどう得をするんだ?」
 人目につかない路地の裏。不相応に良い仕立てのコートを着た男は油断のない目つきでミオレスカを睨みつけている。
「貴方の嫌いな組織が消えるかもしれませんよ。情報料も払います」
 ミオレスカの手には金貨の詰まった袋が握られていた。情報料としては妥当な額のはずだ。しかし男はミオレスカに近寄ろうとしなかった。
「ちょっと話ぐらいは聞いてやりたいがな、ギルドのだいたいの場所ぐらいしか知らねえんだよ。それにな…」
 男は鋭い視線でミオレスカを見据えた。
「お前は誰なんだ? この街のボスがいなくなって一番喜ぶのは領主だ。
 そうなった時お前はどうするつもりだ?」
 その先のビジョンがなければ利用されるだけ。得体の知れない相手の都合の良い話に乗っかるほど、この街の住人は無邪気ではなかった。
「処罰を免れるよう、口添えしますよ?」
「……………」
 男は無言で背を向け去って行った。彼女の言葉に誠意が感じられなかったわけではない。彼らにとっては苛烈で知られるブラックバーン伯爵が、それ以上に恐ろしかったのだ。十分な結果を得られなかったのは、アメリア・フォーサイス(ka4111)も同様だった。アメリアはギルドに組すると見られる盗品商に接触した。奪われた商品のリストをオイヴァより受け取り、最も大口の商いをする者を選んで声をかける。直接の買い付けという大口取引を持ちかけた彼女だが、ここで投げかけられた問いも全く同じだった。
「あんた、誰の手下なんだい?」
 それがこの街で一番大事なこと。天幕の下に商品を広げる小太りの男の視線に緊張が見て取れる。目先の利益に容易く釣られる者は軽んじられ重要な地位をもたない。重要な地位を持つ者は誰ともわからない者とは簡単に取り引きしない。流石にアメリアは領主の名をちらつかせることはできなかった。
「十分に儲けは出ると思うわよ?」
「そんな旨い話、信用できねえな」
 結局はそこに戻る。旨い話は危ない橋と相場が決まっている、が彼らの認識だった。その仕事はこの町でして良い仕事なのか、本当に儲けになるのか、騙そうとしていないのか。目の前の人物が信用に足る何かを提示しない限り、その話はそれ以上進まない。彼らが一番大事にするのは命であって金ではない。
「帰りな嬢ちゃん。どこの誰ともわからん奴を上に紹介なんぞしたら、俺の首が危なくなるんだ。悪く思うなよ」
 アメリアはそれ以上引き下がることはできなかった。成果は以上の通り。同じ交渉を続けて釣れる者も居たが、思慮の無い人物がもつ情報はそれ相応の物でしかなかった。



 神保 寂音(ka4365)も同じく調査に行き詰まっていた。寂音は他の6名に比べて暴力一辺倒で、自分の外見に与し易しと見て襲ってくる強盗を片っ端から尋問していた。釣りの成果は十分、暴力による会話も十分に効果は発揮した。だが、肝心の情報はさっぱりだった。路地裏から逃げていく悪漢達を眺めながら、寂音は小さくため息をついた。
「困りました……」
 彼らは程度に相応しい量の情報しか持ち合わせていなかった。何人に聞いてもギルドに恐怖を感じていること、ギルドに触れたくなくて必要以上には知らないことしかわからなかった。寂音は方針転換を迫られていた。このまま続けても成果が上がらないことは明白だが、かといって同じ方針のまま上役を狙うわけにもいかない。派手な情報収集は敵の目を引いてしまう。寂音は違う方面の通路からその場を後にすると、建物の陰で座り込む物乞いの隣に腰を下ろした。物乞いに見えたのは逢見 千(ka4357)であった。寂音は千の進捗を訪ねようとして、一言目を言う前に鼻をつまんだ
「…………ごめん」
 千は情けない顔で体を覆うローブをひっ被った。彼女の体からは糞尿の匂いがした。話は出発前に遡る。千とりりかはオイヴァに厩舎裏に呼び出されていた。そこで二人はあろうことか馬糞を顔に塗れと命令された。最初二人は拒否していたが……。
「貞操の危機に陥るのとどっちが良い?」
 と言われたら従うほかない。覚醒者である二人は、一般人に襲われても切り抜けるのは容易い。だが今回は物乞いの振りをする。下手に抵抗すればその場で予定が瓦解するだろう。かといって無抵抗で好きにさせるわけにもいかない。結局、誰も身向きしないような悪臭を身につける他無かった。
「りりか様は?」
「怖いおじさんに連れて行かれました」
 それは即ち成功を意味していた。りりかは千と同じ方針で街に潜入した。ギルドにとって便利なコマとして、幹部達に拾ってもらうことを画策した。二人の結果を分けたのは実際の行動だった。千は首尾よく幹部と出会ったときにこう言った。
「お金に困ってるんです。殺しでも盗みでも何でもしますから、仕事をください」
 鉄砲玉として拾ってもらえれば御の字だったが、幹部もそう甘くなかった。
「わかった。じゃ、度胸があるか見るから1人殺してきて」
 何でもするという言葉に対して当然の反応だったが、殺しも盗みも覚悟の出来てなかった千はそれに答えられなかった。千は機会を逃した。対してりりかは実際に盗みを働いた。食べるに困っていることに信憑性を増すために、実際に金品を強盗した。良心に痛みを覚えないわけではないが、信用してもらうにはそれしかなかった。おかげで幹部は彼女の嘘の来歴を全て信じ、身寄りの無い転移者を便利な駒として拾っていった。
「今のところ疑われてないみたいだけど……」
 千は言葉を不自然に濁しながら預かった紙片を寂音に渡した。不審に思って紙片を開いた寂音はすぐに得心が行く。メモは崩れに崩れたギャル文字で書かれている。彼女達自身も読解には苦心したが、ひとまず情報漏洩の心配はなさそうだった。
 



 りりかがギルドの幹部に連れられて1週間。彼女はギルドの中に住まいを用意された。身綺麗にされ服も与えられ、食事もそこそこまともな物が配される。ギルドは彼女の思惑通り、彼女を壁として評価して拾い上げた。しかしギルド長の盾として配されることはなかった。鉄火場で本当に使い物になるのかと、彼女の素養を計りかねていたのだ。結果として拾った幹部が代わりに使ってみて良ければギルド長が使う、という方針では固まっていた。ただ、それを待つことは出来なかった。
「領主の手先がうろついてるのは間違いないな」
 りりかを拾った幹部は目の前の少女がそうであると露知らずにそう言った。りりかは内心ぎくりとしながらも、幹部が疲れて天井を仰ぐ様を見て、耳を傾けるような演技に切り替える。彼らの組織にも当然諜報の部門がある。無関係を装い潜入する者、物乞いとなって観察に徹する者、そして、調査する対象に密かに張り付く者。質もさることながら彼らには数の利がある。ハンターの動きを正確に掴んではいないものの、露見するのは時間の問題だろう。ハンターの側は調査能力にムラがあり、方法も多彩ではない。りりかは物乞いの時の友達と会うという名目で千に情報を流していたが、それも最近では監視の目が厳しい。ハンター達は手詰まりとなる前に、行動に出ることに決定した。
「……なんだ?」
 横に広いギルドの建物の一角で火の手が上がる。腰を浮かせた幹部は、その建物に領主の兵士が殺到しているのを見つけた。見張りだった者達が襲撃の知らせを伝えに廊下を走り回ってる。
「ちっ、まずいことになったな。おい、逃げ……」
 りりかの手を引っ張ろうとして、幹部は一本背負いの要領で投げ飛ばされた。
「ぐ……てめえ……」
 体を押さえつけられ、幹部はようやく事態を把握する。抵抗をしようとしたがその前にりりかの手が幹部の顔の前にかざされた。手は白く光り、魔力が収縮していることをわかりやすく伝えている。直撃すればただではすまない。助けを待とうにも、散らばるように逃げた仲間は誰一人助けにはこなかった。
「二人が逃げました。一人は東に。一人が南へ」
『了解』
 事前に隠し持っていたトランシーバーに呼びかけると仲間の頼もしい声が聞こえる。だがりりかは内心上手くいかないだろうと感じていた。露見する前に先制攻撃を余儀なくされたため、ギルド内の間取り調査は完璧ではなかった。彼女の予想は覆ることなく、襲撃から二人の首謀者はまんまと逃げおおせたのだった。




 芳しくない結果報告にハロルドの渋面は更に深くなる。上位の幹部を捕縛した為にギルドの動きは鈍くなったが、時間があれば再建は可能だろう。騎士団さえ戻ればひとまず騒動は収まると思われるが、いつかまた同じような状況になれば問題は再発するだろう。
「ひとまずは凌げたと言って良いが、問題を先送りにしただけだな」
 あの日、全ての戸口から同時に強襲したハンター達だが、首謀者である二人とは接触することがなかった。後の調査で判明したことだが、地下に隠し通路があり、それを利用して脱出したと思われる。結果は芳しくないが、逃げられてギルドを移転されたり、何の成果もなく終わるよりはマシだった。調査が進まず、調査が露呈したその時のハンター達に選択肢は無かった。
「元から無理のある話だ。ああいう連中は減ったりしないからな」
 ギルド襲撃には不参加だったトライフが口を開く。重苦しい空気の中で、彼だけが平然としていた。
「口はよく回るようだな」
 ハロルドの視線は凄みを増す。トライフはまともに当たらぬよう視線を外の景色にそらした。
「潰すのは効率が良くない。部下を送り込んでコントロールしたほうが賢いぜ」
「ほう……。……で、貴様をそこに使えと言いたいのか? 領主の金で女と遊べると思っているなら考えを改めたほうが良い」
 トライフは肩をすくめた。仕事に対して報酬や役得はあってしかるべきと考えている為か、彼の所作には悪びれる様子が欠片もない。ハロルドは面白くなさそうだが、その態度を咎めることはなかった。
「俺は出自や能力で人を差別しない。利用価値があれば使ってやる。まずは結果を出せ」
 それは個人としてではない。ハロルドは7名を見渡してチームに対してそう言い放った。言い換えれば彼の思想を明言する意味もある。りりかはふと思い立ち、領主と正対したまま口を開いた。
「盗賊ギルドに利用価値はないということですか?」
「……少なくとも俺は見出せない。より良い処遇があるというなら、その話はまた聞こう」
 やりとりが終わり椅子に深く腰掛けると、ハロルドはハンターに退室するように命じた。



 伯爵領の盗賊ギルドはそれきり大人しくはなった。騎士団の帰還までの時間稼ぎには成功したが、将来に禍根を残す結果となった。本当の敵は誰だったのか。敵の姿には靄がかかり見通せない。悪意は伯爵領に暗い影を落とす。ハロルド伯爵は以後も多くのコストを払いながら、不透明な敵と戦う事をを強いられた。

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MVP一覧

  • 大口叩きの《役立たず》
    トライフ・A・アルヴァインka0657
  • 藤光癒月
    青山 りりかka4415

重体一覧

参加者一覧

  • 大口叩きの《役立たず》
    トライフ・A・アルヴァイン(ka0657
    人間(紅)|23才|男性|機導師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • エルブン家の知人
    ウル=ガ(ka3593
    エルフ|25才|男性|疾影士
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 心に鉄、槍には紅炎
    逢見 千(ka4357
    人間(蒼)|14才|女性|闘狩人
  • スナイプシューター
    神保 寂音(ka4365
    人間(蒼)|17才|女性|猟撃士
  • 藤光癒月
    青山 りりか(ka4415
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/23 21:31:37
アイコン 作戦相談
青山 りりか(ka4415
人間(リアルブルー)|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/04/27 23:21:34