ゲスト
(ka0000)
月夜の藤
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2015/04/28 19:00
- 完成日
- 2015/04/29 14:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●それは幽玄の世界
夜の森に月の光が朧に差し込む。時間帯の割には思いの外明るい景色の中でほろほろと散り行く薄紫。
リアルブルーでは不死とも不散とも名前の由来を語られる藤の花によく似たその花は月光に薄らと光っていた。
精霊が多く住むと噂されるその森で、月の光だけでなく自身も発光する花がある光景。
それはどこまでも幻想的で幽玄な眺めだった。
夜の森。その中にあるのはただひたすらの静寂。耳が痛くなるほどの静けさの中、観客のいない舞台は静かにそこにある。
●幽玄の世界への招待状
ちょっと面白い場所のうわさを聞いたんだ。ルカ・シュバルツエンド(kz0073)は珍しくダークマター的何かのお供をデスクに乗せてはいなかった。
といっても残り香というか移り香は染みついていたが。彼がこのオフィスの一室を去った後は清掃がさぞかし大変な事だろう。
「リアルブルーにある藤の花によく似た花が見られるらしいんだけどね、クリムゾンウェストで独自に進化したのか、精霊が多く住まう森に根付いたのが原因かは探求中らしいんだけど、光をため込んで夜になると朧に光るんだってさ。
新種の植物なのか特別変異なのかは分からないけど、月の光の中で薄紫の房が静かに光るなんて雅だと思わないかい?
場所は聞いてあるから、戦いの息抜きに一緒に見に行こうよ」
綺麗なものは独り占めするよりみんなで見た方が楽しいからね。
そう言ってルカは薄く笑って集合日時の書いた紙を配りだしたのだった。
夜の森に月の光が朧に差し込む。時間帯の割には思いの外明るい景色の中でほろほろと散り行く薄紫。
リアルブルーでは不死とも不散とも名前の由来を語られる藤の花によく似たその花は月光に薄らと光っていた。
精霊が多く住むと噂されるその森で、月の光だけでなく自身も発光する花がある光景。
それはどこまでも幻想的で幽玄な眺めだった。
夜の森。その中にあるのはただひたすらの静寂。耳が痛くなるほどの静けさの中、観客のいない舞台は静かにそこにある。
●幽玄の世界への招待状
ちょっと面白い場所のうわさを聞いたんだ。ルカ・シュバルツエンド(kz0073)は珍しくダークマター的何かのお供をデスクに乗せてはいなかった。
といっても残り香というか移り香は染みついていたが。彼がこのオフィスの一室を去った後は清掃がさぞかし大変な事だろう。
「リアルブルーにある藤の花によく似た花が見られるらしいんだけどね、クリムゾンウェストで独自に進化したのか、精霊が多く住まう森に根付いたのが原因かは探求中らしいんだけど、光をため込んで夜になると朧に光るんだってさ。
新種の植物なのか特別変異なのかは分からないけど、月の光の中で薄紫の房が静かに光るなんて雅だと思わないかい?
場所は聞いてあるから、戦いの息抜きに一緒に見に行こうよ」
綺麗なものは独り占めするよりみんなで見た方が楽しいからね。
そう言ってルカは薄く笑って集合日時の書いた紙を配りだしたのだった。
リプレイ本文
●ようこそ、幽玄世界へ
月明かりの下、朧に光る薄紫の藤に似た花。
けれどそれは決して藤ではありえない。
リアルブルーの藤の花は自ら発光したりなどしないのだから。
クリムゾンウェストに転移した時の変異種化、それとも両世界でたまたま似た花の形状を持っていた花なのか、はたまたこの森に多く住むという精霊の影響か。
謎は尽きないが美しい景色に理由を求めるのは野暮というもの。
ハンターたちは親しい人と連れだって、或いは一人でこの幽玄な世界にやってきたのだった。
「藤見は不死身に通じるからな。フジの花を見るってのはハンターにとっちゃ縁起のいい話だ」
夜の帳が降りて、闇の香りが濃密になってくるこの時間帯に光る薄紫にデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は間違いなく魔力を秘めているだろうと彼の中で確信する。
実際のところ魔力の有無は不明だが魔力が関わっていてもおかしくない、魂を攫われそうな美しい景色がそこにはあった。
花弁を目で楽しみ、香りを鼻で嬉しみ、そして静寂を耳で愉しむ。
存分に夜を、花を慈しんで心ゆくまで味わい、光差し込む天上の月も眺めながらこの時間を堪能するのだった。
弥勒 明影(ka0189)はナイトメア(ka2259)とともにほろほろと舞い散る薄紫の中をただ無言で歩いていた。
ナイトメアは自分は芸術は分からないし風情という者にも疎い、と思っていたが、夜に微かに輝く夢のような花には美しく惹きつけられるものがある、と感じて薄紫の花弁を見やる。
弥勒と共に過ごしたギルドから一時的に離れ、外を見るためにしばしの別れ。今日は旅立つナイトメアを弥勒が見送る夜でもあった。
止めていた歩みを進めるための旅路なら、それを止める必要などどこにもない。
そして親しい物との別れは笑ってと決めている。
そもそもこれが今生の別れでもない。
そこまで考えて弥勒は口を開いた。
「止めていた歩み、進めようと踏み出したことを俺は嬉しく思う。
逢いたい者、逢わねばならぬ者、その邂逅のために邁進するといい。
止めはせんよ、存分に果たせ。そしていつか、その旅路で得たものを俺に示してくれよ。
俺はそれで十分だよ」
「感謝を。……いつになるかは分からないけれど、必ず帰ってくる。
楽しかった」
別れの夜である今日のことなのか、それとも今まで過ごした日々に対する想いか。
たった一言告げるとナイトメアは弥勒が返る方向とは逆方向に帰っていく。
弥勒はそんなナイトメアを姿が闇夜に消えて見えなくなっても見送っていた。
岩井崎 旭(ka0234)とシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)は二人で不思議な花の見物に。
「光る花か。光るコケとかなら見たことあるけどなー」
「光る花ですか……少々興味がありますね」
そうして藤棚のようなものに近づけばいくつとも知れない数の藤に似た花が咲き乱れ、微かな風に一枚、また一枚と花を散らしている。
地には花が発する光、空には満月。
「こりゃすげーな。こう、別の世界に来た! って感じがするなー」
クリムゾンウェストに来てもう一年たつ旭だが、こういう発見は楽しい。
シルヴィアと一緒に夜の散策に出かけたはいいものの、案の定迷子になる二人。
「また迷子……といいたいところですが、今回はこんなこともあろうかとGPSを持ってきました」
シルヴィアが得意げに見せたのはリアルブルー時代使用していた機器。
だがここはクリムゾンウェスト。人工衛星はない。
「さてはお前天才だな!? 文明の利器バンザイだな!」
「……あれ、動かない。……あ。そういえば人工衛星がなければ意味がないのですよね……そうですよね……」
「結局どこだよここー!」
喜んだのもつかの間、いつも通り本能と運で帰り道を見つけなければならない。
「なーんかもうちょいで開けたところに出そうな気がするんだよなー」
二人はなぜか海で日の出を見て、漁村の人にかなり細やかに道を教えてもらってなんとか帰るという相当大規模な遭難をやらかしたのだったが、いつものこと、と割り切っていたため二人自身に驚きはないようだった。
むしろ大体の位置を知らせて、それからここへ行きたかったのだけれど漁村についた、と知らされた村人の方が驚いたに違いない。
迷子とは時として奇跡を起こすものである。
「仄かに光る花の房……幻想的ですわね。なんとなく……命を思わせるような……そんな煌めき。幻想的すぎてどこかへ連れていかれそうですわ。
こんな夜は……何かが起こるかもしれません、わね」
不思議な光景に目を奪われつつロジー・ビィ(ka0296) は微笑をこぼす。
薄紫の光はとても柔らかで、そして不思議で。この世のモノとは思えないほど。
触れたら消えてしまう幻のような現実感の希薄さ。
ロジーはゆっくりと息を吸って芳しい夜を楽しむのだった。
ロラン・ラコート(ka0363)は皆から少し離れて一人で煙草をふかしながら花を眺めていた。
「月夜に光る藤か。中々珍しいモノもあるもんだね。ま、藤が俺に似合うとは思わないが、ね。
こういう夜もたまにはいいもんだね。煙草がすすむ。
紫煙と藤か。いつかは消える光……ま、似てはいるが、全然違うモノなんだろうね」
それにしても不思議な光景だ、と頭上を覆う藤棚を見上げるロラン。
月明かりにも負けない、いや、負けているのかもしれないが確かにそこにある藤の光。
「アイツらは……旅に出た幼い友人とエルフは、元気でやってるかな。ま、こっちは元気だ。向こうも元気だろうさ。
もう、俺には関係のないことだがね」
緩く首を振り、ロランは大分短くなった煙草から紫煙をゆったりと吸い込んだのだった。
米本 剛(ka0320)は最近の疲れを取るべく、場の空気を味わいながら酒を飲んでいた。
他の人が迷惑に思うような飲み方や泥酔するような飲み方ではなく、しっとりとじんわりと、夜と花を楽しむ飲み方。
「我等ハンターは一般人よりタフといわれていますが絶対はないのでしょうからな、休める時は休みましょうて」
日ごろの戦いを忘れて静かに酒を飲める至高の時間が過ぎていく。
「こんな見事な場所で……景色を肴に飲めるなんて滅多にないですからな」
ほろり、はらり。舞い散る花弁が酒杯に落ちた。酒の水面には空の月が降りてきている。
この上なく、贅沢な時間だった。
「へぇ、確かに藤に似てるね。それにしても綺麗」
薄紫に淡く光る花を見てご機嫌の様子の天竜寺 舞(ka0377)は早速踊りの準備。
一緒にやってきていた妹の天竜寺 詩(ka0396)が音を出して他の人の迷惑にならないか、と懸念する言葉を聞いて少し離れた場所に移動する。
「日本じゃみられない、この世界ならではの光景だね」
踊りの準備をする姉の傍らで詩は三味線を包みから取り出す。
楽しそうに舞う姉に、自分は家の修行はそれほど好きではなかったが姉は踊るのが本当に好きなのだな、とうらやましい気持ちを感じる。
詩は三味線をお供に長唄を演奏し、二人の踊りと演奏が終わって静かな夜が戻ってきた。
「それじゃ今度は食事にしよ?」
詩ができるだけ和食に近いものを詰めた弁当を見せると舞は嬉しそうに笑って頷くのだった。
「月明かりに淡く光る藤……幻想的でとても綺麗ですね。
あの花は、太陽の光を溜めているのでしょうか……それとも月明かりを?
……空の力は偉大、ですね」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)は淡く輝く藤と藤棚越しに見える満月に薄らと微笑む。
昼の空も好きだが、夜空ももちろん好ましい。
あの空から来た、自分たち……蒼の世界からきた自分。
けれど空は変わりなく。
あの空に手を伸ばしたいのかもしれない、という衝動にユキヤはふいに気づく。
何かが掴めるのかもしれない。何が、かは分からないけれど。
遠く、けれど確かにそこに在るもの。
自分がいてもいなくなっても、変わらずにそこに在るもの。
「あこがれなのかな、この幻想的な藤も、光を受けて光を放って……僕もそう在れればいい……なんて勘違いをしてしまいそうで……不思議な気分です」
願わくば、この幻想的な景色を、思いを、いつまでも壊さないように。壊れないように、と。ただそれだけ。
「手なんか繋がなくても、自分は子供じゃないんですから、迷子にはなりませんよ」
静架(ka0387)はスグル・メレディス(ka2172)に握られた手を振りほどけずに上目づかいでにらむがスグルは頓着する素振りすら見せない。
「今日は誘いを受けてくれてありがとうね」
「感謝するなら手を離して下さい。
……此方に来てからいろいろ見てきましたが……燐光というより蛍火でしょうか?」
それでも解かれることのない手にため息を一つ付きながら、自由な手を花へと伸ばし興味津々な様子な静架。
思い出すのは契約を交わしてから傍らに気配を感じてはいるが、滅多に姿を見せぬ己の精霊の姿。
「この花より青みの強い……氷細工のような翼が綺麗でした……」
無意識に静架が漏らした言葉に精霊のことを考えているのだと悟ったスグルは握った手に少しだけ力を込める。
「俺のは蝶だったよ。アゲハみたいなの」
静と契約できる相手が俺だったらよかったのに。そう小さく呟いたスグルだったが、静架は返答に困ったので聞こえないふりをした。
「それにしても、ほんとに藤に似てるんだね。凄く綺麗だ……精霊もたくさんいるみたいだし、まさに幽玄ってやつだね」
困らせないように、とすぐに話題を変えたスグルの言葉に今度は静架も同意を示したのだった。
日高・明(ka0476)はハンターオフィスで話を聞いて、よかったら、と駄目もとで誘ったデートに案外すんなり応じてくれたことを嬉しく思いつつ、金刀比良 十六那(ka1841) が自分を「ヤキソバパ……じゃなかった」とあだ名のような何かで呼ぶことには物申したい気分もある、という複雑な心境で藤に似た花を眺めていた。
十六那はリアルブルーの藤の花を画像で見たことがそれについて聞いてみたりとそれなりにこの時間を楽しんでいるようだ。
「あ、そうだ……ためしにまたちょっとお料理作ってみたんだけど……食べる?」
「え、イザヤの弁当?」
料理ができるとは聞いていたものの作ってきてくれるとは思わなかったので素直に喜ぶ明。
「ありがと! いただきまーす」
前回は失神者が出た腕前は今回も変わっておらず。
一口食べてぱたりと倒れた明に疲れたのかしら、と不思議そうに眺める十六那。
「……もしかして、私のせい……?」
自分が作った料理を見て少し考えた後、彼女が出した結論はなかったことにしよう、だった。
それでも罪悪感は感じて頭が岩にぶつかってそうなので膝枕をして介抱するのだった。
「……夜に出かけるのもたまにはいいですよ、ね」
瀬織 怜皇(ka0684)はUisca Amhran(ka0754)と連れだって歩いていた。
「夜の森に、レオとデートかぁ。なんだか、ドキドキするね♪」
Uiscaはふわりと微笑む。
「ここは、精霊さまとマテリアルに満ちてるねっ。私、巫女だから、精霊さまの強い力を感じるよ」
「イスカは巫女だから、精霊の力も感じやすいのですね。
月明かりと花の明かりがあるとはいえ、位ですから転ばないように気を付けてゆっくり歩くんです、よ」
怜皇がUiscaをエスコートするように手を繋いで藤に似た花が藤棚のような物に広がって淡く光り輝く幻想的な眺めを楽しむ。
「この花、淡く光ってとってもキレイだね」
綺麗な景色を見て自然と歌を口ずさむUiscaのほうが綺麗だな、と内心思いつつ同意を示し、歌っている間は静かに聞き入る。
「……イスカの歌を聴いていると心安らぎます、ね」
頭をポンポンと撫でつつ呟かれた言葉への返事は満面の笑顔だった。
「なんだか歌を歌いたい気分だったの。だってここは静かな幸せに溢れてるよ。この嬉しい気持ちをみんなにも伝えたい……そう思ったんだよ」
「ジョンさん、花……綺麗だな」
叉(ka3525)は傍らのジョン・フラム(ka0786)に話しかける。
「アンタが何言うか、いつも想像がつかねぇ。だから楽しくもある。
……前にもらった指輪だって、まさか貰えるなんて思ってなかった」
チェーンに通して首にかけた指輪は二人で出かけた先でジョンが作ったキャンドルポッドに忍ばせてあったもの。
それをもてあそびながらこの指輪が指にはめられた時、自分たちはどうなっているのだろう、ジョンは自分をきちんと愛してくれるのだろうか。
……自分を、一人にしないでくれるだろうか。
そんなことを考える叉。
ジョンはただ無言で、傍らを歩く。寄りかかってみてもそれは変わらない。
「ジョンさん、……俺、アンタが好きだ。……何があっても」
誓うように叉がそっと呟き、頬に口づけが落とされた。
(月夜の花見なんて、風情があるね……ふふ、悪くないな)
そういえば、故郷の村の裏の森にも月光を浴びると蓄光してボンヤリ光る苔があったな、とカフカ・ブラックウェル(ka0794) は昔見た景色を思い出す。
夜風に身を任せ、月の光や星の光、花が発する淡い光とふんわりと漂う花の香りを楽しむ。
静けさを楽しんでいる様子の人たちから少し離れた場所で、夜想曲や子守唄を持参の楽器で爪弾いて。
最近は依頼や戦いで寂しい思いをさせたペットのフェレットと戯れてみたりもして。
「ふふ、くすぐったいよ、ヴィー……お前は元気だな」
いつか双子の妹ともここに来ようと計画を立てるカフカ。
この世で唯一の対である彼女も、きっとこの場所を気に入る事だろう。
「マンマ・ミーア……」
超級まりお(ka0824)は月と星の光、森の影、そして薄紫の仄かな光が発する夜の奏でる静寂が質量を伴って全身を包み込んでくるような錯覚を感じつつ、情景に圧倒されて放心していた。
何をもってこの景色を言葉にすればいいか分からないまま、それでも言葉にしたい気もするし、無理に言葉を見つけずこの薄闇に漂っていたい気もする。
ただ一つ確かなのは、この景色を穏やかにいつまでも眺め続けていたいという気持ちだった。
ヘザー・S・シトリン(ka0835) はクリムゾンウェストに数ある花の中で、どの花が喫茶店に飾るのにあいそうで、どの花がパンに練り込んだり、ケーキに飾るのにも使える食用種なのか探している最中。
今回の藤に似た花の情報も、その辺りを確かめる意味もかねて見学気分でやってきた。
できれば幼馴染と喫茶店の店長と一緒に来たかったけれど、来れなかったものは仕方がない。
「あたしがいっぱい見て、いっぱい楽しんで、いっぱい土産話を持って帰りましょう。
にしても、リアルブルーにいる両親や、幼馴染んちのおばさんとお姉さんたちにもお見せしたいですね。
この素敵な、異世界な光景」
たまに、もう会えなくなるんじゃないかという気もする。
でもきっと自分たちと同じように元気でやっているに違いないとも思う。
少なくともヘザーはそう信じて異世界での一日一日を大切に生きるのだった。
浪風 白露(ka1025)と浪風悠吏(ka1035) は兄妹で夜の散歩。
いつもは家でごろごろしている兄と藤に似た花の観察に出かけている今の時間に戸惑いながらも、散歩するのが好きな白露は満更でもない。
もっとも、悠吏にエスコートされるのが恥ずかしくて足を軽く蹴る一幕もあったが。
他の兄弟姉妹に内緒で来ていることもありワクワクして目を輝かせて周りを見渡しながら歩く白露。
悠吏はそんな妹を見守りながら、藤の花なら見慣れている植物だが、発光するものは見たことがないのでその点についてポツリポツリと話をしていた。
「綺麗だよなぁ」
白露が藤に似た花に釘付けになる様子に、クリムゾンウェストに来てから素っ気ない妹を心配していたが、年相応の表情やしっかりやれているであろう様子を確認できて安心した悠吏はホッと一息。
「何かあったら頼れよ」
ついそんな風に諭してしまいながら不思議な花見を堪能するのだった。
クリスティン・ガフ(ka1090)は軽食に鶏を加工したサンドウィッチを持ってやってきていた。
意中の相手である春日 啓一(ka1621)が見たいと言っていたドレスに身を包み、寒いとさりげなくくっついて反応を窺う。
「しかしいい機会に恵まれたもんだ。クリスと一緒の時は大体戦場だからな、落ち着いて話す暇もねえ」
「確かに、常に戦場だったもの、な」
「クリスはつえーし頭もいいが、時々危うさを感じる。なんつーかね……戦いに生きる者の危うさだ」
「危うい、か。戦っていないと渇く故。すまんな、啓一」
他愛もない会話をとりとめなく続けた後、クリスティンは意を決して口を開く。
「あー、その……。万が一はないよう動くが、突然だがこの際言っておく。好きだ」
「好き……ねえ。今まで色恋なんて縁がなかったからよくわからねぇ。俺もクリスのことは好きだがそれがどの程度かわからねぇ。
だからお互い生きて帰ってこようぜ、んでまた話そう。答えはちゃんと出すからさ」
「ああ、また話そう」
その後は口をつぐんだ二人は舞い散る薄紫の花弁と、花の房が宿す淡い光を静かに眺め続けるのだった。
「こうしてゆっくり二人で、ってのは久し振りじゃないかと思ってな」
少し話をするためにとリュンルース・アウイン(ka1694)を連れ出したソレル・ユークレース(ka1693)だったがどう切り出すのか、いまだに悩んでいた。
リュンルースはその様子に首を傾げながら、ソレルが口を開くまでただじっと待つ。
「俺がルースの集落を護りきれずに逃げたことについて、今更なんだが話をしたくてな。
俺が生きてたことをルースは喜んでくれたが……正直、気まずかったんだ。
俺が謝ったところで失ったものは戻らないのは分かっているんだが、それでもな。
もしルースが許さないというのであれば許さなくていい」
「……なんとなくそうじゃないかと思っていたよ。
確かにわたしのいた集落はヴォイドに襲われてなくなってしまったわけだけれど、それでソルを責めるということはしたくないな。
大切なものをすべてなくすより、こうしてソルが生きていて、今も話ができるということが嬉しいんだ。
それでも納得しないのなら、私と生きることを約束して欲しい」
ふふ、なんだか告白みたいだね、とリュンルースは笑みをこぼすが目は真剣だった。
「私が言いたいことは、過去を気にしなくてもいいし、これからも一緒にいようということかな。
ソルのことはかけがえのない親友で、相棒だと思っているからね」
「そうか……俺もルースと共にありたい」
二人は本音を伝え合うと微かに笑い合い、並んで藤に似た花を眺めた。
言葉はそれ以上、今は必要なかったから。
「騒がしい方が好きだけど、たまには静かに過ごすのも悪くないか。
さすがは魔法のあるファンタジーな世界だ。リアルブルーには発光する花なんてないから興味深いな。
それにしても月夜に慎ましく光る花か。たしかにこれは一見の価値ありだな」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)はリアルブルーで光る植物なんて苔と、菌類だがキノコ位だし流石に愛でるにしても華がない、と付け加えて一人で軽く肩をすくめた。
持ち込んだ清酒を静かに飲み始める。
「つまみも用意してたんだが……この風景だけで十分肴になりそうだ」
満たした杯に花と月の光を浮かべて飲む一杯は、格別美味い気がした。
「美しい光景ですね……心が洗われるようです……」
Gacrux(ka2726)は抒情的で幻想的な景色に感動を求め、馬に乗ってやってきていた。
新しい馬だったため、今宵は慣らすための散歩も兼ねている。
「夜露に濡れた草……冷えた外気に溶ける花の香は、華やかに透き通っていて、今宵は満月。
藤波の咲く春の野に延ふ葛の下……よし恋ひば久しくもあらむ……」
リアルブルーの古い詩を思いだし目を閉じ口ずさむ。
知らない国の詩。あの人の住んでいた世界の詩。
煌々と闇夜を照らす月の鋭く冷たい光は、あの人のまなざしに似ている気がして、Gacruxは目を伏せた。
「こうやって一緒に出掛けるのって、初めてかもな」
「何故この歳になって手を繋がねばならないんだ」
これで迷子の心配はないし繋いだ手が暖かいと幸せを噛みしめるフェリル・L・サルバ(ka4516)に対し、常胎ギィ(ka2852)はため息をつきつつも手を振りほどきはしなかった。
そして視界に入ったのは、月明かりと花が宿す光で淡く彩られた幻想的な景色。
「なんと素晴らしい……! 月夜に見る花とはこうも美しいものだったのか。
今のうちにこの光景を目に焼き付けておかねばな。
あと何度見れるかもわからん」
そう言いながら何気なくフェリルへと視線を転じれば泣いている姿に思わずぎょっとする。
どうやら周りの幻想的な風景と、ギィの言葉の中で寂しさが頂点に達してしまったようだ。
「俺を独りにしないで……」
「ええい大の男がめそめそ泣きおって!
こんな泣き虫を放っておけるほど冷酷な人間じゃないぞ、私は」
ここにいる。その証明のようにつないだ手に少し力を籠めて歩き出すギィ。
泣きながらフェリルはギィに連れられて歩くのだった。
「綺麗ですね……素敵すぎて、言葉が続かないです」
「花見で息抜きってのも乙なもんだな。桜じゃねーのが残念だけど。
ってことで。ビール、飲んでもいいよな?」
リリティア・オルベール(ka3054) は鹿島 雲雀(ka3706)の言葉に止めても聞かないじゃないですか、と苦笑交じりに許可を出す。
「ブルーでは見られない景色……私、やっぱりこっちに来れてよかったなぁ」
「こう、吸い込まれるような感じがするよな。いつまでも見ていられるっつーか」
「こんな景色を守るために戦っている、とか言えたらいいんですけどね」
「なんだかんだで、こういうまったりとした時間に飢えてるのかねぇ。普段が普段なだけに」
とりとめのない話をしながらもリリティアの心はかの柳都の再戦に焦がれる。
「んふー、疲れてんのかな。たった二缶なのに、少し酔ってきちまった。それとも酔っているのはこの景色に、かね」
「雲雀さんが二缶でとは珍しい」
「なぁ、リリティアー。膝枕してくれよぅ」
にへら、と笑いながらすり寄ってねだる雲雀にリリティアは微笑んで膝を叩いて手招き。
「甘えんぼさんですねー……いいですよ、帰る時間になったら起してあげますから」
雲雀は嬉しそうに膝を占拠すると気持ちよさそうに眠りはじめるのだった。
「ルカさんと色々なところを回れて、私は嬉しいです……だって……」
「そこには食材の可能性を秘めたものが必ずあるから、かい?」
もじもじしながら言葉を紡ぐミネット・ベアール(ka3282)にルカ・シュバルツエンドは白衣に包まれた肩をすくめた。
「流石ルカさん、分かってますね。今回はダークマター改めシャイニングマターです」
「シャイニングマターとかどこの言葉だい……材料がこの花だってことは分かるけどさ、響き的に」
事前に少し摘み取っておいた、下ごしらえをした藤に似た花が今回の材料。
「ぐへぇ~。光ってます。これを完成させて食べたら私たちも光るかもしれません!」
喜んでいるのか、光る花に不気味さを感じているのかその部分だけだとちょっと分からない声を上げながら二人で調理開始。
匂いで他のハンターたちが失神しないように一番風下に陣取る事だけは忘れなかった。
「輝くのはちょっと嫌だな、僕。髪が抜け落ちて頭が、とかだったら余計に」
恒例となりつつある料理というより食の限界に対する挑戦というか何かの研究のような時間は過ぎ、いざ実食。
「うっ……ぬふふ、なんのこれしき! どうですかっ! 私今、輝いてますかっ!?」
「またなんとも形容しがたいものが出来たね。混沌としながら内部から薄ら光が……。
うーん、そうだな、食べ物を食べて幸せ、という意味ではある意味輝いてるかな。
相変わらず物好きだよね、君」
「食の可能性は無限大ですから!」
この二人、縁と命が続く限りは行く先々で道の食物と呼んでいいのかどうかすらはばかるモノづくりに励みそうな勢いである。
イブリス・アリア(ka3359)は恋愛対象としてではなく、単純に面白い存在として気に入っているメイ=ロザリンド(ka3394) の誘いを受けてやってきていた。
光る花に興味を示す様子もなく、楽しむのはあくまでロザリンドに対してのみ。
ロザリンドが初めて来た着物を着てのんびりと藤の花を眺め、手を繋ぐことはイブリスも拒まなかったので手を繋いで興味深そうに花を見て歩く姿を眺めていた。
もともとは桜を見に行く約束だったがそれは叶わず、代わりに今回の花見に来ることになった。
『イブリスさん、大好き、です……! 約束を守ってくれて……とても、とても嬉しいの』
誰より大切で、大好きなイブリスに少しでも近づけるようにと思いを込めてスケッチブックに綴る。
「お前を見ているのは面白い。だから約束を果たす気にもなる」
素っ気ないあしらいにもロザリンドはいつも以上にころころと表情を変えて楽しそうに過ごすのだった。
「紫の花ですか、私たちハンターの、マテリアルにも、似ていますね」
藤の花の由来や、リアルブルーの様子を同行したリアルブルー出身者が語るのに耳を傾けながらミオレスカ(ka3496) は自身が抱いた感想を漏らす。
「綺麗なものの話は、嬉しいです。ちょっと暖かいですし、お昼寝ではありませんが、少し休憩しましょう。
ここ最近、戦いが多く、少し疲れました」
藤の花にまつわる昔話や伝承を子守唄代わりに、ミオレスカはすやすやと眠り始め、語っていたハンターは寝冷えしないようにと彼女に自分の上着を毛布代わりに欠けてやるのだった。
「とても美しい花ですね……ですが私にとってはロロ様、貴女こそが最も美しい花なのですよ?」
「あー、あー、あー! 綺麗だよ確かにな! お前さえいなけりゃ最高だよクソ野郎! なんでいんだよ……!」
憎々しげにディードリヒ・D・ディエルマン(ka3850)を睨み付けるロロ・R・ロベリア(ka3858) の権幕にもディードリヒは動じる様子も見せず極上の笑み。
「……おや、心地よいほどの殺気ですね。流石私のロロ様です」
「だああああ鳥肌が立つ! そのクソ寒い台詞やめろ!」
投げられるもの、攻撃を全てマルチステップで回避しつつディードリヒは静かに花見を楽しむ他の人たちの迷惑にならないように人気のない場所に誘い込む。
追い詰められた振りをしつつ回避して立ち位置を入れ替えると木の幹に壁ドン。
「ロロ様、また無茶をされましたね……マテリアルの力により治りが早いとはいえ……やはり多少は傷が残ってしまっておりますよ?」
壁ドンに一瞬呆気にとられるが、すぐに美きりと青筋を額に浮かべて股間を蹴りあげるロロと、全力で回避するディードリヒ。
「余計なお世話だ変態野郎! テメーに心配される筋合いはねぇよ……! 傷が残る? ッハ上等じゃねぇか。
いいか!今日は花に免じて武器は仕舞っておいてやる。散らすのは勿体ねぇからな。
だが次はその首切り飛ばす」
「ふふ、ロロ様は本当に奥ゆかしく愛らしい……またお会いできるのを楽しみにしておりますよ」
殺人宣言にも動じず楽しげにロロのそばを離れないディードリヒを、ロロは舌打ちして視界から追い出した。
「あちらにいたのでは見られなかったもの、できなかったこと……この世界は私にいろんな初めてをくれますね……」
八代 遥(ka4481)はただ一人、幻想に身を任せて思案する。
さまざまなものをくれた世界だからこそ、生まれ故郷ではないとしても守らなくては、と思う。
「たった一人の小さな力でも、私はこの幻想を守るために使いたい……。
いい思い出が出来ました、また来たいですね」
決意を新たにしてそっとその場にたたずみ続けるのだった。
素敵なものが見られると聞いてどきどきし、夜の散策と聞いてわくわくしていた来未 結(ka4610)は現地についたらランタンを消して、打ち震える衝動のままに、月明かりと花の光を頼りに黙々と花の絵を描き始めた。
自らの立てる音を最小限に抑え、遠くの微かな虫の音まで絵に落とし込めるように。
最近相棒になった梟に周囲の警戒を任せて、一心不乱に描く。
作品を描き終えたら、月を見上げて遥か遠くのリアルブルーへと思いをはせる。
「お父さん……お母さん……」
呟きは芳しい夜に溶けて消えていった。
「ふむ、仄かに光る薄紫の花か……風流な物じゃ。
枝ごと手折れば提灯の代わりになりそうじゃが、さすがに無粋かのう」
紅薔薇(ka4766)はそんなことを思案しつつ故郷の風景を思い出していた。
もしかすると向こうにも似た景色が、自分が知らないだけであったかもしれない。
茣蓙を敷いてその上でお茶を飲みながらの鑑賞会。
水筒にいれてきた、ごくごく一般的なお茶だ。
茶菓子は手に入れやすかったという理由でクッキー。
通りかかった人で欲しそうな相手には勧めてみる。
「ほれ。遠慮せずともよい。お主らに勧める程度の量ならば、まだ少し残っている。
一人でこうして花を見ているのも、つまらぬものなのじゃ」
そう言って茶席に招いて共に花を眺める。
月と星の灯り、そして花の朧な光は夜の森を幽玄にライトアップし、夜更けまでひそやかな花見は続いたのだった。
月明かりの下、朧に光る薄紫の藤に似た花。
けれどそれは決して藤ではありえない。
リアルブルーの藤の花は自ら発光したりなどしないのだから。
クリムゾンウェストに転移した時の変異種化、それとも両世界でたまたま似た花の形状を持っていた花なのか、はたまたこの森に多く住むという精霊の影響か。
謎は尽きないが美しい景色に理由を求めるのは野暮というもの。
ハンターたちは親しい人と連れだって、或いは一人でこの幽玄な世界にやってきたのだった。
「藤見は不死身に通じるからな。フジの花を見るってのはハンターにとっちゃ縁起のいい話だ」
夜の帳が降りて、闇の香りが濃密になってくるこの時間帯に光る薄紫にデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は間違いなく魔力を秘めているだろうと彼の中で確信する。
実際のところ魔力の有無は不明だが魔力が関わっていてもおかしくない、魂を攫われそうな美しい景色がそこにはあった。
花弁を目で楽しみ、香りを鼻で嬉しみ、そして静寂を耳で愉しむ。
存分に夜を、花を慈しんで心ゆくまで味わい、光差し込む天上の月も眺めながらこの時間を堪能するのだった。
弥勒 明影(ka0189)はナイトメア(ka2259)とともにほろほろと舞い散る薄紫の中をただ無言で歩いていた。
ナイトメアは自分は芸術は分からないし風情という者にも疎い、と思っていたが、夜に微かに輝く夢のような花には美しく惹きつけられるものがある、と感じて薄紫の花弁を見やる。
弥勒と共に過ごしたギルドから一時的に離れ、外を見るためにしばしの別れ。今日は旅立つナイトメアを弥勒が見送る夜でもあった。
止めていた歩みを進めるための旅路なら、それを止める必要などどこにもない。
そして親しい物との別れは笑ってと決めている。
そもそもこれが今生の別れでもない。
そこまで考えて弥勒は口を開いた。
「止めていた歩み、進めようと踏み出したことを俺は嬉しく思う。
逢いたい者、逢わねばならぬ者、その邂逅のために邁進するといい。
止めはせんよ、存分に果たせ。そしていつか、その旅路で得たものを俺に示してくれよ。
俺はそれで十分だよ」
「感謝を。……いつになるかは分からないけれど、必ず帰ってくる。
楽しかった」
別れの夜である今日のことなのか、それとも今まで過ごした日々に対する想いか。
たった一言告げるとナイトメアは弥勒が返る方向とは逆方向に帰っていく。
弥勒はそんなナイトメアを姿が闇夜に消えて見えなくなっても見送っていた。
岩井崎 旭(ka0234)とシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)は二人で不思議な花の見物に。
「光る花か。光るコケとかなら見たことあるけどなー」
「光る花ですか……少々興味がありますね」
そうして藤棚のようなものに近づけばいくつとも知れない数の藤に似た花が咲き乱れ、微かな風に一枚、また一枚と花を散らしている。
地には花が発する光、空には満月。
「こりゃすげーな。こう、別の世界に来た! って感じがするなー」
クリムゾンウェストに来てもう一年たつ旭だが、こういう発見は楽しい。
シルヴィアと一緒に夜の散策に出かけたはいいものの、案の定迷子になる二人。
「また迷子……といいたいところですが、今回はこんなこともあろうかとGPSを持ってきました」
シルヴィアが得意げに見せたのはリアルブルー時代使用していた機器。
だがここはクリムゾンウェスト。人工衛星はない。
「さてはお前天才だな!? 文明の利器バンザイだな!」
「……あれ、動かない。……あ。そういえば人工衛星がなければ意味がないのですよね……そうですよね……」
「結局どこだよここー!」
喜んだのもつかの間、いつも通り本能と運で帰り道を見つけなければならない。
「なーんかもうちょいで開けたところに出そうな気がするんだよなー」
二人はなぜか海で日の出を見て、漁村の人にかなり細やかに道を教えてもらってなんとか帰るという相当大規模な遭難をやらかしたのだったが、いつものこと、と割り切っていたため二人自身に驚きはないようだった。
むしろ大体の位置を知らせて、それからここへ行きたかったのだけれど漁村についた、と知らされた村人の方が驚いたに違いない。
迷子とは時として奇跡を起こすものである。
「仄かに光る花の房……幻想的ですわね。なんとなく……命を思わせるような……そんな煌めき。幻想的すぎてどこかへ連れていかれそうですわ。
こんな夜は……何かが起こるかもしれません、わね」
不思議な光景に目を奪われつつロジー・ビィ(ka0296) は微笑をこぼす。
薄紫の光はとても柔らかで、そして不思議で。この世のモノとは思えないほど。
触れたら消えてしまう幻のような現実感の希薄さ。
ロジーはゆっくりと息を吸って芳しい夜を楽しむのだった。
ロラン・ラコート(ka0363)は皆から少し離れて一人で煙草をふかしながら花を眺めていた。
「月夜に光る藤か。中々珍しいモノもあるもんだね。ま、藤が俺に似合うとは思わないが、ね。
こういう夜もたまにはいいもんだね。煙草がすすむ。
紫煙と藤か。いつかは消える光……ま、似てはいるが、全然違うモノなんだろうね」
それにしても不思議な光景だ、と頭上を覆う藤棚を見上げるロラン。
月明かりにも負けない、いや、負けているのかもしれないが確かにそこにある藤の光。
「アイツらは……旅に出た幼い友人とエルフは、元気でやってるかな。ま、こっちは元気だ。向こうも元気だろうさ。
もう、俺には関係のないことだがね」
緩く首を振り、ロランは大分短くなった煙草から紫煙をゆったりと吸い込んだのだった。
米本 剛(ka0320)は最近の疲れを取るべく、場の空気を味わいながら酒を飲んでいた。
他の人が迷惑に思うような飲み方や泥酔するような飲み方ではなく、しっとりとじんわりと、夜と花を楽しむ飲み方。
「我等ハンターは一般人よりタフといわれていますが絶対はないのでしょうからな、休める時は休みましょうて」
日ごろの戦いを忘れて静かに酒を飲める至高の時間が過ぎていく。
「こんな見事な場所で……景色を肴に飲めるなんて滅多にないですからな」
ほろり、はらり。舞い散る花弁が酒杯に落ちた。酒の水面には空の月が降りてきている。
この上なく、贅沢な時間だった。
「へぇ、確かに藤に似てるね。それにしても綺麗」
薄紫に淡く光る花を見てご機嫌の様子の天竜寺 舞(ka0377)は早速踊りの準備。
一緒にやってきていた妹の天竜寺 詩(ka0396)が音を出して他の人の迷惑にならないか、と懸念する言葉を聞いて少し離れた場所に移動する。
「日本じゃみられない、この世界ならではの光景だね」
踊りの準備をする姉の傍らで詩は三味線を包みから取り出す。
楽しそうに舞う姉に、自分は家の修行はそれほど好きではなかったが姉は踊るのが本当に好きなのだな、とうらやましい気持ちを感じる。
詩は三味線をお供に長唄を演奏し、二人の踊りと演奏が終わって静かな夜が戻ってきた。
「それじゃ今度は食事にしよ?」
詩ができるだけ和食に近いものを詰めた弁当を見せると舞は嬉しそうに笑って頷くのだった。
「月明かりに淡く光る藤……幻想的でとても綺麗ですね。
あの花は、太陽の光を溜めているのでしょうか……それとも月明かりを?
……空の力は偉大、ですね」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)は淡く輝く藤と藤棚越しに見える満月に薄らと微笑む。
昼の空も好きだが、夜空ももちろん好ましい。
あの空から来た、自分たち……蒼の世界からきた自分。
けれど空は変わりなく。
あの空に手を伸ばしたいのかもしれない、という衝動にユキヤはふいに気づく。
何かが掴めるのかもしれない。何が、かは分からないけれど。
遠く、けれど確かにそこに在るもの。
自分がいてもいなくなっても、変わらずにそこに在るもの。
「あこがれなのかな、この幻想的な藤も、光を受けて光を放って……僕もそう在れればいい……なんて勘違いをしてしまいそうで……不思議な気分です」
願わくば、この幻想的な景色を、思いを、いつまでも壊さないように。壊れないように、と。ただそれだけ。
「手なんか繋がなくても、自分は子供じゃないんですから、迷子にはなりませんよ」
静架(ka0387)はスグル・メレディス(ka2172)に握られた手を振りほどけずに上目づかいでにらむがスグルは頓着する素振りすら見せない。
「今日は誘いを受けてくれてありがとうね」
「感謝するなら手を離して下さい。
……此方に来てからいろいろ見てきましたが……燐光というより蛍火でしょうか?」
それでも解かれることのない手にため息を一つ付きながら、自由な手を花へと伸ばし興味津々な様子な静架。
思い出すのは契約を交わしてから傍らに気配を感じてはいるが、滅多に姿を見せぬ己の精霊の姿。
「この花より青みの強い……氷細工のような翼が綺麗でした……」
無意識に静架が漏らした言葉に精霊のことを考えているのだと悟ったスグルは握った手に少しだけ力を込める。
「俺のは蝶だったよ。アゲハみたいなの」
静と契約できる相手が俺だったらよかったのに。そう小さく呟いたスグルだったが、静架は返答に困ったので聞こえないふりをした。
「それにしても、ほんとに藤に似てるんだね。凄く綺麗だ……精霊もたくさんいるみたいだし、まさに幽玄ってやつだね」
困らせないように、とすぐに話題を変えたスグルの言葉に今度は静架も同意を示したのだった。
日高・明(ka0476)はハンターオフィスで話を聞いて、よかったら、と駄目もとで誘ったデートに案外すんなり応じてくれたことを嬉しく思いつつ、金刀比良 十六那(ka1841) が自分を「ヤキソバパ……じゃなかった」とあだ名のような何かで呼ぶことには物申したい気分もある、という複雑な心境で藤に似た花を眺めていた。
十六那はリアルブルーの藤の花を画像で見たことがそれについて聞いてみたりとそれなりにこの時間を楽しんでいるようだ。
「あ、そうだ……ためしにまたちょっとお料理作ってみたんだけど……食べる?」
「え、イザヤの弁当?」
料理ができるとは聞いていたものの作ってきてくれるとは思わなかったので素直に喜ぶ明。
「ありがと! いただきまーす」
前回は失神者が出た腕前は今回も変わっておらず。
一口食べてぱたりと倒れた明に疲れたのかしら、と不思議そうに眺める十六那。
「……もしかして、私のせい……?」
自分が作った料理を見て少し考えた後、彼女が出した結論はなかったことにしよう、だった。
それでも罪悪感は感じて頭が岩にぶつかってそうなので膝枕をして介抱するのだった。
「……夜に出かけるのもたまにはいいですよ、ね」
瀬織 怜皇(ka0684)はUisca Amhran(ka0754)と連れだって歩いていた。
「夜の森に、レオとデートかぁ。なんだか、ドキドキするね♪」
Uiscaはふわりと微笑む。
「ここは、精霊さまとマテリアルに満ちてるねっ。私、巫女だから、精霊さまの強い力を感じるよ」
「イスカは巫女だから、精霊の力も感じやすいのですね。
月明かりと花の明かりがあるとはいえ、位ですから転ばないように気を付けてゆっくり歩くんです、よ」
怜皇がUiscaをエスコートするように手を繋いで藤に似た花が藤棚のような物に広がって淡く光り輝く幻想的な眺めを楽しむ。
「この花、淡く光ってとってもキレイだね」
綺麗な景色を見て自然と歌を口ずさむUiscaのほうが綺麗だな、と内心思いつつ同意を示し、歌っている間は静かに聞き入る。
「……イスカの歌を聴いていると心安らぎます、ね」
頭をポンポンと撫でつつ呟かれた言葉への返事は満面の笑顔だった。
「なんだか歌を歌いたい気分だったの。だってここは静かな幸せに溢れてるよ。この嬉しい気持ちをみんなにも伝えたい……そう思ったんだよ」
「ジョンさん、花……綺麗だな」
叉(ka3525)は傍らのジョン・フラム(ka0786)に話しかける。
「アンタが何言うか、いつも想像がつかねぇ。だから楽しくもある。
……前にもらった指輪だって、まさか貰えるなんて思ってなかった」
チェーンに通して首にかけた指輪は二人で出かけた先でジョンが作ったキャンドルポッドに忍ばせてあったもの。
それをもてあそびながらこの指輪が指にはめられた時、自分たちはどうなっているのだろう、ジョンは自分をきちんと愛してくれるのだろうか。
……自分を、一人にしないでくれるだろうか。
そんなことを考える叉。
ジョンはただ無言で、傍らを歩く。寄りかかってみてもそれは変わらない。
「ジョンさん、……俺、アンタが好きだ。……何があっても」
誓うように叉がそっと呟き、頬に口づけが落とされた。
(月夜の花見なんて、風情があるね……ふふ、悪くないな)
そういえば、故郷の村の裏の森にも月光を浴びると蓄光してボンヤリ光る苔があったな、とカフカ・ブラックウェル(ka0794) は昔見た景色を思い出す。
夜風に身を任せ、月の光や星の光、花が発する淡い光とふんわりと漂う花の香りを楽しむ。
静けさを楽しんでいる様子の人たちから少し離れた場所で、夜想曲や子守唄を持参の楽器で爪弾いて。
最近は依頼や戦いで寂しい思いをさせたペットのフェレットと戯れてみたりもして。
「ふふ、くすぐったいよ、ヴィー……お前は元気だな」
いつか双子の妹ともここに来ようと計画を立てるカフカ。
この世で唯一の対である彼女も、きっとこの場所を気に入る事だろう。
「マンマ・ミーア……」
超級まりお(ka0824)は月と星の光、森の影、そして薄紫の仄かな光が発する夜の奏でる静寂が質量を伴って全身を包み込んでくるような錯覚を感じつつ、情景に圧倒されて放心していた。
何をもってこの景色を言葉にすればいいか分からないまま、それでも言葉にしたい気もするし、無理に言葉を見つけずこの薄闇に漂っていたい気もする。
ただ一つ確かなのは、この景色を穏やかにいつまでも眺め続けていたいという気持ちだった。
ヘザー・S・シトリン(ka0835) はクリムゾンウェストに数ある花の中で、どの花が喫茶店に飾るのにあいそうで、どの花がパンに練り込んだり、ケーキに飾るのにも使える食用種なのか探している最中。
今回の藤に似た花の情報も、その辺りを確かめる意味もかねて見学気分でやってきた。
できれば幼馴染と喫茶店の店長と一緒に来たかったけれど、来れなかったものは仕方がない。
「あたしがいっぱい見て、いっぱい楽しんで、いっぱい土産話を持って帰りましょう。
にしても、リアルブルーにいる両親や、幼馴染んちのおばさんとお姉さんたちにもお見せしたいですね。
この素敵な、異世界な光景」
たまに、もう会えなくなるんじゃないかという気もする。
でもきっと自分たちと同じように元気でやっているに違いないとも思う。
少なくともヘザーはそう信じて異世界での一日一日を大切に生きるのだった。
浪風 白露(ka1025)と浪風悠吏(ka1035) は兄妹で夜の散歩。
いつもは家でごろごろしている兄と藤に似た花の観察に出かけている今の時間に戸惑いながらも、散歩するのが好きな白露は満更でもない。
もっとも、悠吏にエスコートされるのが恥ずかしくて足を軽く蹴る一幕もあったが。
他の兄弟姉妹に内緒で来ていることもありワクワクして目を輝かせて周りを見渡しながら歩く白露。
悠吏はそんな妹を見守りながら、藤の花なら見慣れている植物だが、発光するものは見たことがないのでその点についてポツリポツリと話をしていた。
「綺麗だよなぁ」
白露が藤に似た花に釘付けになる様子に、クリムゾンウェストに来てから素っ気ない妹を心配していたが、年相応の表情やしっかりやれているであろう様子を確認できて安心した悠吏はホッと一息。
「何かあったら頼れよ」
ついそんな風に諭してしまいながら不思議な花見を堪能するのだった。
クリスティン・ガフ(ka1090)は軽食に鶏を加工したサンドウィッチを持ってやってきていた。
意中の相手である春日 啓一(ka1621)が見たいと言っていたドレスに身を包み、寒いとさりげなくくっついて反応を窺う。
「しかしいい機会に恵まれたもんだ。クリスと一緒の時は大体戦場だからな、落ち着いて話す暇もねえ」
「確かに、常に戦場だったもの、な」
「クリスはつえーし頭もいいが、時々危うさを感じる。なんつーかね……戦いに生きる者の危うさだ」
「危うい、か。戦っていないと渇く故。すまんな、啓一」
他愛もない会話をとりとめなく続けた後、クリスティンは意を決して口を開く。
「あー、その……。万が一はないよう動くが、突然だがこの際言っておく。好きだ」
「好き……ねえ。今まで色恋なんて縁がなかったからよくわからねぇ。俺もクリスのことは好きだがそれがどの程度かわからねぇ。
だからお互い生きて帰ってこようぜ、んでまた話そう。答えはちゃんと出すからさ」
「ああ、また話そう」
その後は口をつぐんだ二人は舞い散る薄紫の花弁と、花の房が宿す淡い光を静かに眺め続けるのだった。
「こうしてゆっくり二人で、ってのは久し振りじゃないかと思ってな」
少し話をするためにとリュンルース・アウイン(ka1694)を連れ出したソレル・ユークレース(ka1693)だったがどう切り出すのか、いまだに悩んでいた。
リュンルースはその様子に首を傾げながら、ソレルが口を開くまでただじっと待つ。
「俺がルースの集落を護りきれずに逃げたことについて、今更なんだが話をしたくてな。
俺が生きてたことをルースは喜んでくれたが……正直、気まずかったんだ。
俺が謝ったところで失ったものは戻らないのは分かっているんだが、それでもな。
もしルースが許さないというのであれば許さなくていい」
「……なんとなくそうじゃないかと思っていたよ。
確かにわたしのいた集落はヴォイドに襲われてなくなってしまったわけだけれど、それでソルを責めるということはしたくないな。
大切なものをすべてなくすより、こうしてソルが生きていて、今も話ができるということが嬉しいんだ。
それでも納得しないのなら、私と生きることを約束して欲しい」
ふふ、なんだか告白みたいだね、とリュンルースは笑みをこぼすが目は真剣だった。
「私が言いたいことは、過去を気にしなくてもいいし、これからも一緒にいようということかな。
ソルのことはかけがえのない親友で、相棒だと思っているからね」
「そうか……俺もルースと共にありたい」
二人は本音を伝え合うと微かに笑い合い、並んで藤に似た花を眺めた。
言葉はそれ以上、今は必要なかったから。
「騒がしい方が好きだけど、たまには静かに過ごすのも悪くないか。
さすがは魔法のあるファンタジーな世界だ。リアルブルーには発光する花なんてないから興味深いな。
それにしても月夜に慎ましく光る花か。たしかにこれは一見の価値ありだな」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)はリアルブルーで光る植物なんて苔と、菌類だがキノコ位だし流石に愛でるにしても華がない、と付け加えて一人で軽く肩をすくめた。
持ち込んだ清酒を静かに飲み始める。
「つまみも用意してたんだが……この風景だけで十分肴になりそうだ」
満たした杯に花と月の光を浮かべて飲む一杯は、格別美味い気がした。
「美しい光景ですね……心が洗われるようです……」
Gacrux(ka2726)は抒情的で幻想的な景色に感動を求め、馬に乗ってやってきていた。
新しい馬だったため、今宵は慣らすための散歩も兼ねている。
「夜露に濡れた草……冷えた外気に溶ける花の香は、華やかに透き通っていて、今宵は満月。
藤波の咲く春の野に延ふ葛の下……よし恋ひば久しくもあらむ……」
リアルブルーの古い詩を思いだし目を閉じ口ずさむ。
知らない国の詩。あの人の住んでいた世界の詩。
煌々と闇夜を照らす月の鋭く冷たい光は、あの人のまなざしに似ている気がして、Gacruxは目を伏せた。
「こうやって一緒に出掛けるのって、初めてかもな」
「何故この歳になって手を繋がねばならないんだ」
これで迷子の心配はないし繋いだ手が暖かいと幸せを噛みしめるフェリル・L・サルバ(ka4516)に対し、常胎ギィ(ka2852)はため息をつきつつも手を振りほどきはしなかった。
そして視界に入ったのは、月明かりと花が宿す光で淡く彩られた幻想的な景色。
「なんと素晴らしい……! 月夜に見る花とはこうも美しいものだったのか。
今のうちにこの光景を目に焼き付けておかねばな。
あと何度見れるかもわからん」
そう言いながら何気なくフェリルへと視線を転じれば泣いている姿に思わずぎょっとする。
どうやら周りの幻想的な風景と、ギィの言葉の中で寂しさが頂点に達してしまったようだ。
「俺を独りにしないで……」
「ええい大の男がめそめそ泣きおって!
こんな泣き虫を放っておけるほど冷酷な人間じゃないぞ、私は」
ここにいる。その証明のようにつないだ手に少し力を籠めて歩き出すギィ。
泣きながらフェリルはギィに連れられて歩くのだった。
「綺麗ですね……素敵すぎて、言葉が続かないです」
「花見で息抜きってのも乙なもんだな。桜じゃねーのが残念だけど。
ってことで。ビール、飲んでもいいよな?」
リリティア・オルベール(ka3054) は鹿島 雲雀(ka3706)の言葉に止めても聞かないじゃないですか、と苦笑交じりに許可を出す。
「ブルーでは見られない景色……私、やっぱりこっちに来れてよかったなぁ」
「こう、吸い込まれるような感じがするよな。いつまでも見ていられるっつーか」
「こんな景色を守るために戦っている、とか言えたらいいんですけどね」
「なんだかんだで、こういうまったりとした時間に飢えてるのかねぇ。普段が普段なだけに」
とりとめのない話をしながらもリリティアの心はかの柳都の再戦に焦がれる。
「んふー、疲れてんのかな。たった二缶なのに、少し酔ってきちまった。それとも酔っているのはこの景色に、かね」
「雲雀さんが二缶でとは珍しい」
「なぁ、リリティアー。膝枕してくれよぅ」
にへら、と笑いながらすり寄ってねだる雲雀にリリティアは微笑んで膝を叩いて手招き。
「甘えんぼさんですねー……いいですよ、帰る時間になったら起してあげますから」
雲雀は嬉しそうに膝を占拠すると気持ちよさそうに眠りはじめるのだった。
「ルカさんと色々なところを回れて、私は嬉しいです……だって……」
「そこには食材の可能性を秘めたものが必ずあるから、かい?」
もじもじしながら言葉を紡ぐミネット・ベアール(ka3282)にルカ・シュバルツエンドは白衣に包まれた肩をすくめた。
「流石ルカさん、分かってますね。今回はダークマター改めシャイニングマターです」
「シャイニングマターとかどこの言葉だい……材料がこの花だってことは分かるけどさ、響き的に」
事前に少し摘み取っておいた、下ごしらえをした藤に似た花が今回の材料。
「ぐへぇ~。光ってます。これを完成させて食べたら私たちも光るかもしれません!」
喜んでいるのか、光る花に不気味さを感じているのかその部分だけだとちょっと分からない声を上げながら二人で調理開始。
匂いで他のハンターたちが失神しないように一番風下に陣取る事だけは忘れなかった。
「輝くのはちょっと嫌だな、僕。髪が抜け落ちて頭が、とかだったら余計に」
恒例となりつつある料理というより食の限界に対する挑戦というか何かの研究のような時間は過ぎ、いざ実食。
「うっ……ぬふふ、なんのこれしき! どうですかっ! 私今、輝いてますかっ!?」
「またなんとも形容しがたいものが出来たね。混沌としながら内部から薄ら光が……。
うーん、そうだな、食べ物を食べて幸せ、という意味ではある意味輝いてるかな。
相変わらず物好きだよね、君」
「食の可能性は無限大ですから!」
この二人、縁と命が続く限りは行く先々で道の食物と呼んでいいのかどうかすらはばかるモノづくりに励みそうな勢いである。
イブリス・アリア(ka3359)は恋愛対象としてではなく、単純に面白い存在として気に入っているメイ=ロザリンド(ka3394) の誘いを受けてやってきていた。
光る花に興味を示す様子もなく、楽しむのはあくまでロザリンドに対してのみ。
ロザリンドが初めて来た着物を着てのんびりと藤の花を眺め、手を繋ぐことはイブリスも拒まなかったので手を繋いで興味深そうに花を見て歩く姿を眺めていた。
もともとは桜を見に行く約束だったがそれは叶わず、代わりに今回の花見に来ることになった。
『イブリスさん、大好き、です……! 約束を守ってくれて……とても、とても嬉しいの』
誰より大切で、大好きなイブリスに少しでも近づけるようにと思いを込めてスケッチブックに綴る。
「お前を見ているのは面白い。だから約束を果たす気にもなる」
素っ気ないあしらいにもロザリンドはいつも以上にころころと表情を変えて楽しそうに過ごすのだった。
「紫の花ですか、私たちハンターの、マテリアルにも、似ていますね」
藤の花の由来や、リアルブルーの様子を同行したリアルブルー出身者が語るのに耳を傾けながらミオレスカ(ka3496) は自身が抱いた感想を漏らす。
「綺麗なものの話は、嬉しいです。ちょっと暖かいですし、お昼寝ではありませんが、少し休憩しましょう。
ここ最近、戦いが多く、少し疲れました」
藤の花にまつわる昔話や伝承を子守唄代わりに、ミオレスカはすやすやと眠り始め、語っていたハンターは寝冷えしないようにと彼女に自分の上着を毛布代わりに欠けてやるのだった。
「とても美しい花ですね……ですが私にとってはロロ様、貴女こそが最も美しい花なのですよ?」
「あー、あー、あー! 綺麗だよ確かにな! お前さえいなけりゃ最高だよクソ野郎! なんでいんだよ……!」
憎々しげにディードリヒ・D・ディエルマン(ka3850)を睨み付けるロロ・R・ロベリア(ka3858) の権幕にもディードリヒは動じる様子も見せず極上の笑み。
「……おや、心地よいほどの殺気ですね。流石私のロロ様です」
「だああああ鳥肌が立つ! そのクソ寒い台詞やめろ!」
投げられるもの、攻撃を全てマルチステップで回避しつつディードリヒは静かに花見を楽しむ他の人たちの迷惑にならないように人気のない場所に誘い込む。
追い詰められた振りをしつつ回避して立ち位置を入れ替えると木の幹に壁ドン。
「ロロ様、また無茶をされましたね……マテリアルの力により治りが早いとはいえ……やはり多少は傷が残ってしまっておりますよ?」
壁ドンに一瞬呆気にとられるが、すぐに美きりと青筋を額に浮かべて股間を蹴りあげるロロと、全力で回避するディードリヒ。
「余計なお世話だ変態野郎! テメーに心配される筋合いはねぇよ……! 傷が残る? ッハ上等じゃねぇか。
いいか!今日は花に免じて武器は仕舞っておいてやる。散らすのは勿体ねぇからな。
だが次はその首切り飛ばす」
「ふふ、ロロ様は本当に奥ゆかしく愛らしい……またお会いできるのを楽しみにしておりますよ」
殺人宣言にも動じず楽しげにロロのそばを離れないディードリヒを、ロロは舌打ちして視界から追い出した。
「あちらにいたのでは見られなかったもの、できなかったこと……この世界は私にいろんな初めてをくれますね……」
八代 遥(ka4481)はただ一人、幻想に身を任せて思案する。
さまざまなものをくれた世界だからこそ、生まれ故郷ではないとしても守らなくては、と思う。
「たった一人の小さな力でも、私はこの幻想を守るために使いたい……。
いい思い出が出来ました、また来たいですね」
決意を新たにしてそっとその場にたたずみ続けるのだった。
素敵なものが見られると聞いてどきどきし、夜の散策と聞いてわくわくしていた来未 結(ka4610)は現地についたらランタンを消して、打ち震える衝動のままに、月明かりと花の光を頼りに黙々と花の絵を描き始めた。
自らの立てる音を最小限に抑え、遠くの微かな虫の音まで絵に落とし込めるように。
最近相棒になった梟に周囲の警戒を任せて、一心不乱に描く。
作品を描き終えたら、月を見上げて遥か遠くのリアルブルーへと思いをはせる。
「お父さん……お母さん……」
呟きは芳しい夜に溶けて消えていった。
「ふむ、仄かに光る薄紫の花か……風流な物じゃ。
枝ごと手折れば提灯の代わりになりそうじゃが、さすがに無粋かのう」
紅薔薇(ka4766)はそんなことを思案しつつ故郷の風景を思い出していた。
もしかすると向こうにも似た景色が、自分が知らないだけであったかもしれない。
茣蓙を敷いてその上でお茶を飲みながらの鑑賞会。
水筒にいれてきた、ごくごく一般的なお茶だ。
茶菓子は手に入れやすかったという理由でクッキー。
通りかかった人で欲しそうな相手には勧めてみる。
「ほれ。遠慮せずともよい。お主らに勧める程度の量ならば、まだ少し残っている。
一人でこうして花を見ているのも、つまらぬものなのじゃ」
そう言って茶席に招いて共に花を眺める。
月と星の灯り、そして花の朧な光は夜の森を幽玄にライトアップし、夜更けまでひそやかな花見は続いたのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/28 17:56:17 |