ゲスト
(ka0000)
新メニュー開発者募集!
マスター:黒木茨

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/01 12:00
- 完成日
- 2015/05/10 18:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある四月の日のこと
「これでよし」
一つ終えて、男は満足そうに頷いた。
壁にはポスター。そこには鮮やかに絵付けされた卵と兎の絵と共に『イースターのメニュー大募集』の言葉と店の情報が書かれていた。
「フェリペさん、なにしてるの?」
そこをちょうど通りかかったのか、少女が男に声を掛ける。
「デボラちゃーん! 今はな、コレ貼ってるところ」
そう言って男は先程壁に貼ったポスターを手で叩いた。
デボラと呼ばれた少女はその貼り紙を見て不思議そうに言う。
「でも、今年のイースターもう終わってると思うよ」
「ちょっとぐらいは置いてても大丈夫大丈夫! 問題があるなら来年使えばいい」
男はデボラの言葉に答えて、「そういえば」と話題を変える。
「デボラちゃんが持ってる本、ちょっと貸してくれないかな?」
「いいけど、どうして?」
首を傾げたデボラに説明すべく、また男は口を開いた。
「俺の説明でもいいんだけどな、本の方がわかりやすいだろう。その本、何処に売ってるのもわからないしさ」
眉をハの字にした男を見て、デボラは少し考えて、
「いいよ、貸すよ」
と頷いた。
●それから
数日後、男……フェリペの店『紅蒼折衷』の厨房に集まった面々は、目前に立つフェリペを見ていた
「皆さん今日はよろしくお願いします」
フェリペは頭を下げて、説明を続ける。
「ここにあるものは自由に使ってくれて構いませんので、思うように作ってみて下さい」
厨房内を見渡すと、なるほどたしかに大凡必要なものは揃っていそうだ。
「一通り揃いましたら試食会をして、細かい調整の方しようかと思っています」
フェリペは和かに終えて、手を叩く。
「では始めてください。料理が苦手な人は呼んでくれればサポートします!」
「これでよし」
一つ終えて、男は満足そうに頷いた。
壁にはポスター。そこには鮮やかに絵付けされた卵と兎の絵と共に『イースターのメニュー大募集』の言葉と店の情報が書かれていた。
「フェリペさん、なにしてるの?」
そこをちょうど通りかかったのか、少女が男に声を掛ける。
「デボラちゃーん! 今はな、コレ貼ってるところ」
そう言って男は先程壁に貼ったポスターを手で叩いた。
デボラと呼ばれた少女はその貼り紙を見て不思議そうに言う。
「でも、今年のイースターもう終わってると思うよ」
「ちょっとぐらいは置いてても大丈夫大丈夫! 問題があるなら来年使えばいい」
男はデボラの言葉に答えて、「そういえば」と話題を変える。
「デボラちゃんが持ってる本、ちょっと貸してくれないかな?」
「いいけど、どうして?」
首を傾げたデボラに説明すべく、また男は口を開いた。
「俺の説明でもいいんだけどな、本の方がわかりやすいだろう。その本、何処に売ってるのもわからないしさ」
眉をハの字にした男を見て、デボラは少し考えて、
「いいよ、貸すよ」
と頷いた。
●それから
数日後、男……フェリペの店『紅蒼折衷』の厨房に集まった面々は、目前に立つフェリペを見ていた
「皆さん今日はよろしくお願いします」
フェリペは頭を下げて、説明を続ける。
「ここにあるものは自由に使ってくれて構いませんので、思うように作ってみて下さい」
厨房内を見渡すと、なるほどたしかに大凡必要なものは揃っていそうだ。
「一通り揃いましたら試食会をして、細かい調整の方しようかと思っています」
フェリペは和かに終えて、手を叩く。
「では始めてください。料理が苦手な人は呼んでくれればサポートします!」
リプレイ本文
●オシュターとか、オスターとか
ぱらりとページが捲られ、書かれている文字が追われていく。挿絵には絵付けされた卵が描かれていた。
イースターの項を調べ終えた者は本を閉じ、各々の作業場に戻った。
(彩色されたり、装飾された卵は、店に飾るだけでも華やかで良さそうだね)
ロラン・ラコート(ka0363)はそういったことを思案する。
先ほど調べたところによると、リアルブルーのスイスという国の中でも、アーモンドとレーズンのタルトを復活祭の食事として出すという。
ロランはそれを作ることに決めた。
「新しい料理ってわくわくしますよね」
と、ロランの隣で言った三宮ひかり(ka4595)はというと、蒸しパンのための生地を混ぜていた。
食紅を入れたため、とても鮮やかな色がボウルの中に広がっている。
「そうだよな! 俺も、レパートリーを広げてみたいぜ」
ひかりの呟きに答えているのは、フェリル・L・サルバ(ka4516)だ。
ほんのり甘めのパン生地が摩り下ろした人参と混ぜ合わされ、クリーム色とオレンジのマーブルを作った後は薄いオレンジ色になる。
「ですよね。フェリルさんは何を作る予定なんですか?」
と言いながら、ひかりは型に生地を流し込む。
「それは出来てからのお楽しみだな」
フェリルも、とん、と兎の形にまとめられた生地を、天板に。
ロランもアーモンド、レーズンを上に盛ったタルトをオーブンに入れる。二人もそれぞれ入れていった。
(他の面子の料理――特に研司とひかりが何を作るのか、興味があるね)
焼きあがりを待つ間、ロランは試食会でのお披露目を楽しみにしていた。
フェリルはというと、次の準備にとりかかる。
●復活祭の卵
イースターといえば、イースターエッグに代表されるように卵のイメージを抱くものも多い。
フェリペもポスターには卵を描いていたところだ。
「僕は、その卵を使った料理を作ってみようかなって思うんだ」
と言って、両の手に卵を手にしているのは翡翠(ka2534)。その卵を割るのかと思えば、そのまま思いっきり……振る!
彼は女性と見紛うような外見ながらも、中身はちゃんとした男の子。
子供の頃、悪戯心が湧いたのか、卵を今のように振りまくったことがあった。
「中身をぐちゃぐちゃにしたら割った時面白いかな~って思ってたんですけど、予想を反してその卵は茹でられちゃって」
当時の翡翠はあーあ、と思いながらことの経過を見守っていたのだが、出来上がったゆで卵を割ってみて翡翠を含む周囲の者が驚いたという。
なぜならそのゆで卵は中身の白身と黄身が綺麗に混ざり合い、薄い黄色のぷるるんとした物になっていたからだ。
――後にこの話をリアルブルーの人に教えたところ、プリンのようなもの、と言われたそうだ。
「砂糖を煮詰めて作ったカラメルソースっていうのをかけて食べると美味しいんだそうです。それを僕は今ここで再現してます」
軽い思い出話を終えたころ、ちょうど沸騰したお湯の中に翡翠は振った卵を入れていった。
「おぉ……」と話を聞いたフェリペが漏らす。次には、
「卵の殻を型にすることはありますがね、これは思いつかなかった」
と感心したように鍋を見ていた。翡翠はにっこりと微笑んで、ソース作りに着手する。
水と砂糖を鍋に入れ、火にかける。焦げるかと思われたが、無事カラメルソースが出来上がった。
ソースが出来てから、暫く。
翡翠はお湯から上げて冷やした卵に、水に強い顔料を用いて綺麗に模様を描き始めた。
プリンの外殻はイースターエッグのように華やかになりつつある。
(大事な厨房をお借りするんだもん、気合入れてかなきゃでござる!)
その向かい。揃えて貰った材料を並べ、ミィリア(ka2689)はぐっと気を引き締める。
「お料理、頑張るぞー! おー!!」
ミィリアはイースターといえば、イースターエッグなイメージかも、ということでカラフルな卵をイメージした料理に決めた。
さっそく炊けたご飯から少し取ってお椀に入れ、チーズを混ぜ込んでころんとなるように成形。
更に生ハムを巻き付けて、ピンクの卵風おにぎりが出来上がった。
次は、ツナを混ぜ込んで握ったものを、フライパンに。
焼いている間は香ばしい、いい香りが周囲に漂う。こちらもさっきのおにぎりと同じ様に成形されているが、全体的に薄茶色だ。
「次からはフライパンで……!」
ミィリアはまずアスパラベーコンを用意し、それらと一緒にご飯を炒めはじめた。
加熱によりベーコンから溶け出した脂がご飯に染み、バターライス風になっていく。
ツナを焼いた時とはまた違う、肉の焼ける香りを漂わせている。
仕上げにブラックペッパーを一振りして、これでまた一個。
まだご飯は残っている。残っているおにぎり二個分のご飯を、ケチャップライスに。
フライパンの中で、白いご飯がケチャップと交わって朱色に変わった。
そしたらそれを薄焼き卵で巻いて黄色のおにぎり、余ったケチャップライスの上にはチーズを載せて。
……といった具合である。
「よし、完成!」
と言ったミィリアの皿には、五個のころんとしたおにぎりが礼儀正しく盛り付けられていた。
●少し豪華に
フェリルの作る料理は、パンだけではなかった。
メインとなるのは、グリーンアスパラガス。はかまを削いで固茹でにしたものを、バターを溶かしたフライパンで小麦粉と一緒に炒める。
フェリルは粗熱を取ったそれを……本当はミキサーにかけられればよかったのだが、フェリペ曰く、
「そういうハイカラな機械はうちにはまだないですねぇ。でも、便利そうでいいな」
とのことで、形が残らないよう、細かく細かく刻んだ。
刻まれたアスパラガスは鍋で牛乳・生クリームと一緒に煮られることになる。
鍋の中で、緑がぐるぐると白い海に模様を作っていった。
煮込んだらフェリルは仕上げにぱっぱと塩コショウを振り、二品目はこれで完成となる。
その時ちょうど、オーブンに入れたパンが焼きあがったようだ。
様子を見てみると、ふっくらとした、いい匂いを香らせる兎……のようなパンがフェリルを出迎えてくれた。
藤堂研司(ka0569)は、復活を和食で表現しようとしていた。
「よし、始めるか!」
旬の食材も揃っており、気合充分。早速作業にとりかかる。
最初は小鉢だ。チーズを器用に籠状に編む。
(ブルーの国では、復活祭の祝福された食品を籠に入れるところもあったな)
編んだチーズは揚げ出しにされるのだが、それがこの時期に祝福される食品を入れる籠に近い。
その中には春の旬菜、ウドとクレソンを牛肉巻にした前菜を。
さっくりと小鉢を作り終えた研司が次に取り掛かるのは、魚料理。
「びちびち!」とまな板の上で跳ねる活きのいいメバルの頭を叩いて失神させ、布巾で目を覆う。
メバルは失神した後も尾を逞しくまな板に叩きつけていたものの、それも束の間。
抵抗をやめて大人しくなったメバルを、研司は素早く卸す。
活き造りである。そのままでもおいしい、とは思うが……
(ただ、生食だからな……こっちでも受け入れられる形にするには……)
暫し考えた研司は、清酒と梅干を鍋に入れて火をかける。
じんわりと崩れていく梅干を解して馴染ませ、あとはじっくりと煮詰めた。これがソースになる。
(カルパッチョ風に和えれば、抵抗少ないかもしれない)
出来たソースを研司はメバルの刺身と和えて……メバルの活き造りが出来上がった。
最後は肉料理だ。老鶏と若鶏の二種類が用意されている。
復活を表現するにあたって、研司は、
(歳を重ねた老鶏が、若鶏に深い味を与える……これも、復活って言えるかな)
と思った。
研司は中抜きした老鶏の腹の中に、下味をつけていた若鶏を丸々と入れ込む。
あとは、ひたすら時間をかけて炙るだけ。
この料理はこうして炙っている間に老鶏の味が腹の中の若鶏に沁み込んで、若鶏の旨みが増すといった感じだ。
研司は味がしっかりと沁み込むまで、忍耐強くじっと炙り続ける。
こうして肉料理も出来上がれば、肉、魚、卵をふんだんに使用したお膳の完成である。
(何しろ新メニュー、再現できなきゃ意味がねぇ)
ところで、研司のここまでの料理は、全てレシピとして纏められていた。
フェリペも、だいぶ再現がしやすいであろう。研司はそれらに間違いがないか確認して、フェリペに完成の合図を送る。
●試食会
テーブルには無事に完成した、十人十色の復活祭メニューが並んでいる。
研司の復活膳、ミィリアのおにぎり。
フェリルのパンとアスパラガスのクリームスープ。
ひかりの赤い卵型蒸しパン、翡翠の殻付きプリン。そして、ロランのアーモンドとレーズンのタルトだ。
「皆さん、お疲れ様でした!」
といったフェリペの声を音頭に、試食会が開かれる。
「大斎の期間中絶ってた肉や魚や卵を使ったお膳……復活膳だ!」
研司によっててきぱきと取り分けられる『復活膳』。最初を飾るのは、
「これは小鉢だ。名前をつけるなら『~祝福籠風揚げ出しチーズ~』かな」
前菜の、籠の形をした揚げ出しチーズと、中に入れられたウドとクレソンの牛肉巻。
「いただきます!」
や祈りなど、それぞれが食前の儀式をしてから、一思いに食す。
「美味しい」
と感想を漏らす者。無言ながらも美味しそうに食べる者。反応は様々である。
次はメバルの活き造りはそのまま『~メバルの活き造り~』ということで提供される。
「一度死んでから復活する、活き造りはそんなイメージに合うんじゃないかな!」
という研司の説明を聞きながら、ロランは活き造りを興味深そうに見ていた。
「活き造りって、えっと……おさしみ! ……でござる!」
ミィリアはわくわくしながらメバルを口に運ぶ。
「生のまま調理したのだね」
ロランは調べていた本場のモノとはだいぶ違う、面白い料理に関心を示している。
「カルパッチョ風にしてみたんだ! 食べてみてくれ」
と研司が答えてから、ロランも一口一口味わい始めた。
「活き造りか……コツがあったら教えて欲しいな」
といったフェリルと料理について少々語り合う研司。
「料理の腕前はまだまだだよなぁ。もっと頑張らないと!」
というフェリルの言葉で締まる。研司は次の料理を紹介した。
「最後にこれ、『~若鶏の老鶏包み焼き~』!」
一通りの紹介を終えた研司は、緻密に測られた分量と、具体的な手順、材料の記されたレシピをフェリペに渡す。
「こりゃすごい! レシピも細かくて助かりますねぇ!」
フェリペは目を通しながら、研司に礼を言った。
「活け造りみたいに練習要るのは付き合うよ。フェリペさん、一緒にやろう」
「ありがとうございます!」
研司の嬉しい協力にフェリペは頷いた。
ミィリアの作った5種のおにぎり。
「ざっと5種類、だけど同じ具とかご飯を使いまわしてそこまで手間にはならないように考えてみたり!」
ピンク、黄色、オレンジ、薄茶、緑。そんな五色のおにぎりはころころと整列して皿の上に。
「材料をまとめておけば作りやすいですねぇ! 効率も考えてくれてありがとうございます!」
フェリペはその中の生ハムが巻かれたピンクのおにぎりを頂いて、優しい味に口を綻ばせる。
「チーズとかブラックペッパーとか使ったし、何気におつまみにもなるんじゃないかなかな……!」
ミィリアもオレンジのものを少しぱくっと。
「家庭の味か!」
研司はオムライス風の黄色おにぎりをつまんだ。
「たしかに、ビールにも合いそうだな」
緑のアスパラベーコンおにぎりに手を出していたフェリルがぼそりと呟く。
「くーっ、我ながらお酒飲みたくなってきちゃうでござる!」
それに同調するように、当のミィリアもすっかりお酒気分になるのであった。
しかし、お酒は帰ってからになるのだろう。
「アルコールの提供も考えてみます」
と言いながら、フェリペはメモを付け加えた。
「かわいいね」
翡翠はイースター・バニーをイメージして作られた人参パンに興味を示したのか、感想を述べる。
「ありがとな、見ても楽しめるようにこの形にしてみたんだ」
フェリルはニカッと笑って、愛想よく返した。
「これはアスパラガスか?」
研司はというともう一品の、アスパラガスのクリームスープを試食していた。
「ブルーのある所じゃ春のイベントの時にこういうのを作るって聞いてさー。そっちもサブメニューだな」
フェリルの言葉を納得したように頷いた研司は、もう一口頂いて、
「旬の食材……いいよな」
と関心していた。
ひかりの料理は、一見して赤い卵に見える。
「お祭り事の料理は、目でも楽しまないと」
シンプルながらも基本に沿った装飾のイースターエッグ……のように見える、卵型の蒸しパンである。
「赤い色はどうやって出しているのかな」
「紅ですね! 珍しいですか?」
ひかりはロランの反応を伺いつつも、そう答える。
「美味しいね。後でレシピを教えてもらってもいいかな?」
「こちらにも纏めたものを!」
「いいですよ!」
ロランとフェリペの言葉にも、ひかりは笑顔で応じた。
「これは何ですか? ……ゆで卵?」
イースターエッグに見える翡翠のプリンを前に不思議そうに首を傾げるひかりを前に、翡翠がコン、コンとスプーンで殻を少しだけ割った。
それに倣って、席についている他の者も殻を割り、上の部分をはずすと……
「ゆで卵とはちょっと違うよね」
「イースター卵プリンです!」
ロランの声ににこにこと翡翠は笑みで返し、カラメルソースを配る。
かける人はかけて、いただきます。
卵だけの、普通のプリンとはまた変わった面白くも甘い味を堪能した参加者も、いるだろう。
タルトは駕籠に盛ってあるように飾り付けられ、イースターエッグを添えられていた。
こちらは正真正銘のイースターエッグである。
「綺麗だな!」
と、飾り付けに対してフェリルが言った。ひかりはタルトを口にして、
「甘くて美味しいです!」
もぐもぐと美味しそうに食べている。
「リアルブルーではこういうものを出すらしいね」
ロランは飄々とした調子で嘯く。
「なるほど、基本に忠実に……と言いますか!」
全ての試食を終えて、参加者の反応を一通り見たフェリペは一旦空になった皿や使われた器具を片付け、スタッフにその場を任せた。
「今回はご協力ありがとうございました!」
綺麗になった厨房でにこやかにフェリペは手を叩く。
「報酬は後にお支払いしますね。どれも個性的で美味しく、楽しめそうなメニューです! とても助かりました!」
礼をして、フェリペはハンターに感謝の気持ちを示した。
それからしばらくの間、レストラン『紅蒼折衷』ではイースターのメニューが提供された。
客からの評判はよく、来年のこの時期もこのメニューを使うことにしたという。
ぱらりとページが捲られ、書かれている文字が追われていく。挿絵には絵付けされた卵が描かれていた。
イースターの項を調べ終えた者は本を閉じ、各々の作業場に戻った。
(彩色されたり、装飾された卵は、店に飾るだけでも華やかで良さそうだね)
ロラン・ラコート(ka0363)はそういったことを思案する。
先ほど調べたところによると、リアルブルーのスイスという国の中でも、アーモンドとレーズンのタルトを復活祭の食事として出すという。
ロランはそれを作ることに決めた。
「新しい料理ってわくわくしますよね」
と、ロランの隣で言った三宮ひかり(ka4595)はというと、蒸しパンのための生地を混ぜていた。
食紅を入れたため、とても鮮やかな色がボウルの中に広がっている。
「そうだよな! 俺も、レパートリーを広げてみたいぜ」
ひかりの呟きに答えているのは、フェリル・L・サルバ(ka4516)だ。
ほんのり甘めのパン生地が摩り下ろした人参と混ぜ合わされ、クリーム色とオレンジのマーブルを作った後は薄いオレンジ色になる。
「ですよね。フェリルさんは何を作る予定なんですか?」
と言いながら、ひかりは型に生地を流し込む。
「それは出来てからのお楽しみだな」
フェリルも、とん、と兎の形にまとめられた生地を、天板に。
ロランもアーモンド、レーズンを上に盛ったタルトをオーブンに入れる。二人もそれぞれ入れていった。
(他の面子の料理――特に研司とひかりが何を作るのか、興味があるね)
焼きあがりを待つ間、ロランは試食会でのお披露目を楽しみにしていた。
フェリルはというと、次の準備にとりかかる。
●復活祭の卵
イースターといえば、イースターエッグに代表されるように卵のイメージを抱くものも多い。
フェリペもポスターには卵を描いていたところだ。
「僕は、その卵を使った料理を作ってみようかなって思うんだ」
と言って、両の手に卵を手にしているのは翡翠(ka2534)。その卵を割るのかと思えば、そのまま思いっきり……振る!
彼は女性と見紛うような外見ながらも、中身はちゃんとした男の子。
子供の頃、悪戯心が湧いたのか、卵を今のように振りまくったことがあった。
「中身をぐちゃぐちゃにしたら割った時面白いかな~って思ってたんですけど、予想を反してその卵は茹でられちゃって」
当時の翡翠はあーあ、と思いながらことの経過を見守っていたのだが、出来上がったゆで卵を割ってみて翡翠を含む周囲の者が驚いたという。
なぜならそのゆで卵は中身の白身と黄身が綺麗に混ざり合い、薄い黄色のぷるるんとした物になっていたからだ。
――後にこの話をリアルブルーの人に教えたところ、プリンのようなもの、と言われたそうだ。
「砂糖を煮詰めて作ったカラメルソースっていうのをかけて食べると美味しいんだそうです。それを僕は今ここで再現してます」
軽い思い出話を終えたころ、ちょうど沸騰したお湯の中に翡翠は振った卵を入れていった。
「おぉ……」と話を聞いたフェリペが漏らす。次には、
「卵の殻を型にすることはありますがね、これは思いつかなかった」
と感心したように鍋を見ていた。翡翠はにっこりと微笑んで、ソース作りに着手する。
水と砂糖を鍋に入れ、火にかける。焦げるかと思われたが、無事カラメルソースが出来上がった。
ソースが出来てから、暫く。
翡翠はお湯から上げて冷やした卵に、水に強い顔料を用いて綺麗に模様を描き始めた。
プリンの外殻はイースターエッグのように華やかになりつつある。
(大事な厨房をお借りするんだもん、気合入れてかなきゃでござる!)
その向かい。揃えて貰った材料を並べ、ミィリア(ka2689)はぐっと気を引き締める。
「お料理、頑張るぞー! おー!!」
ミィリアはイースターといえば、イースターエッグなイメージかも、ということでカラフルな卵をイメージした料理に決めた。
さっそく炊けたご飯から少し取ってお椀に入れ、チーズを混ぜ込んでころんとなるように成形。
更に生ハムを巻き付けて、ピンクの卵風おにぎりが出来上がった。
次は、ツナを混ぜ込んで握ったものを、フライパンに。
焼いている間は香ばしい、いい香りが周囲に漂う。こちらもさっきのおにぎりと同じ様に成形されているが、全体的に薄茶色だ。
「次からはフライパンで……!」
ミィリアはまずアスパラベーコンを用意し、それらと一緒にご飯を炒めはじめた。
加熱によりベーコンから溶け出した脂がご飯に染み、バターライス風になっていく。
ツナを焼いた時とはまた違う、肉の焼ける香りを漂わせている。
仕上げにブラックペッパーを一振りして、これでまた一個。
まだご飯は残っている。残っているおにぎり二個分のご飯を、ケチャップライスに。
フライパンの中で、白いご飯がケチャップと交わって朱色に変わった。
そしたらそれを薄焼き卵で巻いて黄色のおにぎり、余ったケチャップライスの上にはチーズを載せて。
……といった具合である。
「よし、完成!」
と言ったミィリアの皿には、五個のころんとしたおにぎりが礼儀正しく盛り付けられていた。
●少し豪華に
フェリルの作る料理は、パンだけではなかった。
メインとなるのは、グリーンアスパラガス。はかまを削いで固茹でにしたものを、バターを溶かしたフライパンで小麦粉と一緒に炒める。
フェリルは粗熱を取ったそれを……本当はミキサーにかけられればよかったのだが、フェリペ曰く、
「そういうハイカラな機械はうちにはまだないですねぇ。でも、便利そうでいいな」
とのことで、形が残らないよう、細かく細かく刻んだ。
刻まれたアスパラガスは鍋で牛乳・生クリームと一緒に煮られることになる。
鍋の中で、緑がぐるぐると白い海に模様を作っていった。
煮込んだらフェリルは仕上げにぱっぱと塩コショウを振り、二品目はこれで完成となる。
その時ちょうど、オーブンに入れたパンが焼きあがったようだ。
様子を見てみると、ふっくらとした、いい匂いを香らせる兎……のようなパンがフェリルを出迎えてくれた。
藤堂研司(ka0569)は、復活を和食で表現しようとしていた。
「よし、始めるか!」
旬の食材も揃っており、気合充分。早速作業にとりかかる。
最初は小鉢だ。チーズを器用に籠状に編む。
(ブルーの国では、復活祭の祝福された食品を籠に入れるところもあったな)
編んだチーズは揚げ出しにされるのだが、それがこの時期に祝福される食品を入れる籠に近い。
その中には春の旬菜、ウドとクレソンを牛肉巻にした前菜を。
さっくりと小鉢を作り終えた研司が次に取り掛かるのは、魚料理。
「びちびち!」とまな板の上で跳ねる活きのいいメバルの頭を叩いて失神させ、布巾で目を覆う。
メバルは失神した後も尾を逞しくまな板に叩きつけていたものの、それも束の間。
抵抗をやめて大人しくなったメバルを、研司は素早く卸す。
活き造りである。そのままでもおいしい、とは思うが……
(ただ、生食だからな……こっちでも受け入れられる形にするには……)
暫し考えた研司は、清酒と梅干を鍋に入れて火をかける。
じんわりと崩れていく梅干を解して馴染ませ、あとはじっくりと煮詰めた。これがソースになる。
(カルパッチョ風に和えれば、抵抗少ないかもしれない)
出来たソースを研司はメバルの刺身と和えて……メバルの活き造りが出来上がった。
最後は肉料理だ。老鶏と若鶏の二種類が用意されている。
復活を表現するにあたって、研司は、
(歳を重ねた老鶏が、若鶏に深い味を与える……これも、復活って言えるかな)
と思った。
研司は中抜きした老鶏の腹の中に、下味をつけていた若鶏を丸々と入れ込む。
あとは、ひたすら時間をかけて炙るだけ。
この料理はこうして炙っている間に老鶏の味が腹の中の若鶏に沁み込んで、若鶏の旨みが増すといった感じだ。
研司は味がしっかりと沁み込むまで、忍耐強くじっと炙り続ける。
こうして肉料理も出来上がれば、肉、魚、卵をふんだんに使用したお膳の完成である。
(何しろ新メニュー、再現できなきゃ意味がねぇ)
ところで、研司のここまでの料理は、全てレシピとして纏められていた。
フェリペも、だいぶ再現がしやすいであろう。研司はそれらに間違いがないか確認して、フェリペに完成の合図を送る。
●試食会
テーブルには無事に完成した、十人十色の復活祭メニューが並んでいる。
研司の復活膳、ミィリアのおにぎり。
フェリルのパンとアスパラガスのクリームスープ。
ひかりの赤い卵型蒸しパン、翡翠の殻付きプリン。そして、ロランのアーモンドとレーズンのタルトだ。
「皆さん、お疲れ様でした!」
といったフェリペの声を音頭に、試食会が開かれる。
「大斎の期間中絶ってた肉や魚や卵を使ったお膳……復活膳だ!」
研司によっててきぱきと取り分けられる『復活膳』。最初を飾るのは、
「これは小鉢だ。名前をつけるなら『~祝福籠風揚げ出しチーズ~』かな」
前菜の、籠の形をした揚げ出しチーズと、中に入れられたウドとクレソンの牛肉巻。
「いただきます!」
や祈りなど、それぞれが食前の儀式をしてから、一思いに食す。
「美味しい」
と感想を漏らす者。無言ながらも美味しそうに食べる者。反応は様々である。
次はメバルの活き造りはそのまま『~メバルの活き造り~』ということで提供される。
「一度死んでから復活する、活き造りはそんなイメージに合うんじゃないかな!」
という研司の説明を聞きながら、ロランは活き造りを興味深そうに見ていた。
「活き造りって、えっと……おさしみ! ……でござる!」
ミィリアはわくわくしながらメバルを口に運ぶ。
「生のまま調理したのだね」
ロランは調べていた本場のモノとはだいぶ違う、面白い料理に関心を示している。
「カルパッチョ風にしてみたんだ! 食べてみてくれ」
と研司が答えてから、ロランも一口一口味わい始めた。
「活き造りか……コツがあったら教えて欲しいな」
といったフェリルと料理について少々語り合う研司。
「料理の腕前はまだまだだよなぁ。もっと頑張らないと!」
というフェリルの言葉で締まる。研司は次の料理を紹介した。
「最後にこれ、『~若鶏の老鶏包み焼き~』!」
一通りの紹介を終えた研司は、緻密に測られた分量と、具体的な手順、材料の記されたレシピをフェリペに渡す。
「こりゃすごい! レシピも細かくて助かりますねぇ!」
フェリペは目を通しながら、研司に礼を言った。
「活け造りみたいに練習要るのは付き合うよ。フェリペさん、一緒にやろう」
「ありがとうございます!」
研司の嬉しい協力にフェリペは頷いた。
ミィリアの作った5種のおにぎり。
「ざっと5種類、だけど同じ具とかご飯を使いまわしてそこまで手間にはならないように考えてみたり!」
ピンク、黄色、オレンジ、薄茶、緑。そんな五色のおにぎりはころころと整列して皿の上に。
「材料をまとめておけば作りやすいですねぇ! 効率も考えてくれてありがとうございます!」
フェリペはその中の生ハムが巻かれたピンクのおにぎりを頂いて、優しい味に口を綻ばせる。
「チーズとかブラックペッパーとか使ったし、何気におつまみにもなるんじゃないかなかな……!」
ミィリアもオレンジのものを少しぱくっと。
「家庭の味か!」
研司はオムライス風の黄色おにぎりをつまんだ。
「たしかに、ビールにも合いそうだな」
緑のアスパラベーコンおにぎりに手を出していたフェリルがぼそりと呟く。
「くーっ、我ながらお酒飲みたくなってきちゃうでござる!」
それに同調するように、当のミィリアもすっかりお酒気分になるのであった。
しかし、お酒は帰ってからになるのだろう。
「アルコールの提供も考えてみます」
と言いながら、フェリペはメモを付け加えた。
「かわいいね」
翡翠はイースター・バニーをイメージして作られた人参パンに興味を示したのか、感想を述べる。
「ありがとな、見ても楽しめるようにこの形にしてみたんだ」
フェリルはニカッと笑って、愛想よく返した。
「これはアスパラガスか?」
研司はというともう一品の、アスパラガスのクリームスープを試食していた。
「ブルーのある所じゃ春のイベントの時にこういうのを作るって聞いてさー。そっちもサブメニューだな」
フェリルの言葉を納得したように頷いた研司は、もう一口頂いて、
「旬の食材……いいよな」
と関心していた。
ひかりの料理は、一見して赤い卵に見える。
「お祭り事の料理は、目でも楽しまないと」
シンプルながらも基本に沿った装飾のイースターエッグ……のように見える、卵型の蒸しパンである。
「赤い色はどうやって出しているのかな」
「紅ですね! 珍しいですか?」
ひかりはロランの反応を伺いつつも、そう答える。
「美味しいね。後でレシピを教えてもらってもいいかな?」
「こちらにも纏めたものを!」
「いいですよ!」
ロランとフェリペの言葉にも、ひかりは笑顔で応じた。
「これは何ですか? ……ゆで卵?」
イースターエッグに見える翡翠のプリンを前に不思議そうに首を傾げるひかりを前に、翡翠がコン、コンとスプーンで殻を少しだけ割った。
それに倣って、席についている他の者も殻を割り、上の部分をはずすと……
「ゆで卵とはちょっと違うよね」
「イースター卵プリンです!」
ロランの声ににこにこと翡翠は笑みで返し、カラメルソースを配る。
かける人はかけて、いただきます。
卵だけの、普通のプリンとはまた変わった面白くも甘い味を堪能した参加者も、いるだろう。
タルトは駕籠に盛ってあるように飾り付けられ、イースターエッグを添えられていた。
こちらは正真正銘のイースターエッグである。
「綺麗だな!」
と、飾り付けに対してフェリルが言った。ひかりはタルトを口にして、
「甘くて美味しいです!」
もぐもぐと美味しそうに食べている。
「リアルブルーではこういうものを出すらしいね」
ロランは飄々とした調子で嘯く。
「なるほど、基本に忠実に……と言いますか!」
全ての試食を終えて、参加者の反応を一通り見たフェリペは一旦空になった皿や使われた器具を片付け、スタッフにその場を任せた。
「今回はご協力ありがとうございました!」
綺麗になった厨房でにこやかにフェリペは手を叩く。
「報酬は後にお支払いしますね。どれも個性的で美味しく、楽しめそうなメニューです! とても助かりました!」
礼をして、フェリペはハンターに感謝の気持ちを示した。
それからしばらくの間、レストラン『紅蒼折衷』ではイースターのメニューが提供された。
客からの評判はよく、来年のこの時期もこのメニューを使うことにしたという。
依頼結果
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- 龍盟の戦士
藤堂研司(ka0569)
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料理アイデア相談卓 藤堂研司(ka0569) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/04/30 21:33:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/28 00:26:39 |