ゲスト
(ka0000)
端午の節句の菖蒲の湯
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/04 07:30
- 完成日
- 2015/05/10 16:58
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
聖地奪還の戦いの行われている中、リゼリオの街はざわめきが絶えなかった。
無理もない。
この戦いの結果如何で、情勢はかなり変わるというのは、素人目にも明らかだったからだ。
「……それにしても、街の人たちも随分ピリピリしちゃっていて、ちょっとまずいですよね……」
そうため息をつくのはジーク・真田(kz0090)、ガーディナの補佐として今はリゼリオでの作業を任されている。というのも、リーダーのリムネラ(kz0018)は今、戦場にも近い開拓地・ホープまで足を伸ばしているからだ。
「ここまでの情勢は、悪くないみたいですけど」
ややくたびれた感のある眼鏡を押し上げ、そして考える。
疲弊をしているのは何もハンターばかりではない。
いつも通りに見える町並みも、やはりどこか疲れがみえるのは――世界全体がどうにも疲れているからだ。
(リムネラさんがこんな街の様子を見たら、きっと嘆く)
辺境、そして聖地の為とはいえ、一般の人々にまで苦労をかけるのは本意ではないに決まっている。
(何か、良いアイデアは……)
●
「で、そのタンゴの節句ってどういうことするんですか」
聞き慣れぬ言葉に、ハンターは首をかしげる。
「まあ、リアルブルーのイベントの一つと思ってもらえれば。男の子の成長を祝う行事で、この日の為に鎧兜を飾ったり、お菓子を作ったりもするけど……折角だから、菖蒲湯ってどうかなと思って」
「しょうぶゆ」
「うん、縁起の良い植物とされている菖蒲を風呂に入れて、心と体を癒やすんだ。武術上達の祈りも込められているから、ハンターにもぴったりだと思う」
説明を受けたハンターたちはなるほどと頷いた。
「で、そのことをハンターズソサエティに提案したら、大賛成されてね。場所も確保出来た」
男女の風呂がきちんとわかれている、小さな湯治場があるらしい。近くにはツツジの綺麗な公園もあるのだそうだ。
「混浴ではないけど、水着着用は徹底してもらうよ? 万が一のことが起きても大変だからね」
その辺りはぬかりなく。
さあ、たまには骨休めと行こうか。
聖地奪還の戦いの行われている中、リゼリオの街はざわめきが絶えなかった。
無理もない。
この戦いの結果如何で、情勢はかなり変わるというのは、素人目にも明らかだったからだ。
「……それにしても、街の人たちも随分ピリピリしちゃっていて、ちょっとまずいですよね……」
そうため息をつくのはジーク・真田(kz0090)、ガーディナの補佐として今はリゼリオでの作業を任されている。というのも、リーダーのリムネラ(kz0018)は今、戦場にも近い開拓地・ホープまで足を伸ばしているからだ。
「ここまでの情勢は、悪くないみたいですけど」
ややくたびれた感のある眼鏡を押し上げ、そして考える。
疲弊をしているのは何もハンターばかりではない。
いつも通りに見える町並みも、やはりどこか疲れがみえるのは――世界全体がどうにも疲れているからだ。
(リムネラさんがこんな街の様子を見たら、きっと嘆く)
辺境、そして聖地の為とはいえ、一般の人々にまで苦労をかけるのは本意ではないに決まっている。
(何か、良いアイデアは……)
●
「で、そのタンゴの節句ってどういうことするんですか」
聞き慣れぬ言葉に、ハンターは首をかしげる。
「まあ、リアルブルーのイベントの一つと思ってもらえれば。男の子の成長を祝う行事で、この日の為に鎧兜を飾ったり、お菓子を作ったりもするけど……折角だから、菖蒲湯ってどうかなと思って」
「しょうぶゆ」
「うん、縁起の良い植物とされている菖蒲を風呂に入れて、心と体を癒やすんだ。武術上達の祈りも込められているから、ハンターにもぴったりだと思う」
説明を受けたハンターたちはなるほどと頷いた。
「で、そのことをハンターズソサエティに提案したら、大賛成されてね。場所も確保出来た」
男女の風呂がきちんとわかれている、小さな湯治場があるらしい。近くにはツツジの綺麗な公園もあるのだそうだ。
「混浴ではないけど、水着着用は徹底してもらうよ? 万が一のことが起きても大変だからね」
その辺りはぬかりなく。
さあ、たまには骨休めと行こうか。
リプレイ本文
●
「温泉ー、温泉ー♪」
そんなことを暢気に、嬉しそうに言いながら、陽炎(ka0142)がうれしそうに笑う。野営地にも露天風呂はあるが、余所に行くのはまた格別だ。
(まぁ、朱殷(ka1359)の飲み過ぎには、注意してなきゃいけないけど)
そう胸の中で思って、近くを歩く赤毛の男を見やる。
「なぁに、小僧。無茶するわけがなかろう」
もともと陽炎は朱殷の介助の手伝いも兼ねている。彼に負担は出来るだけかけないようにせねば成るまい。また、やはり陽炎と行動を共にしているエルフのユラン・S・ユーレアイト(ka0675)は内心複雑。と言うのも湯欄は【女性】であるが、もろもろの事情で普段は【男性】として振る舞っているからである。男湯に連行される可能性も考えると、少しばかりブルーになるのもやむを得まい。
それにしても太っ腹なハンターズソサエティの提案に、ハンターの誰もが拍手喝采だ。――まあ、一部の男性陣には微妙かも知れないが、それはそれ、これはこれ。公許良俗を守れないハンターはやはりよろしくない。スクール水着のようなものはレンタルしてくれると言うことなので、一部のハンターはそれはそれで喜んでいるのかも知れないが、まあそこまで行くと神のみぞ知る世界である。
まあヒトは十人十色というわけで、湯煙のロマンスに理解はあるがただひたすらに湯治にやってきた米本 剛(ka0320)のようなタイプもいるし、親友と信じているアーテル・テネブラエ (ka3693)――実はこのアーテルは親友以上の感情を抱いているわけだが幸か不幸か気づいていない――とともに、仲良く風呂に入りたいと思っているアリオーシュ・アルセイデス (ka3164)のようなものもいる。……もっとも、アーテルの方は若干後悔しているようだが。その旨に抱く感情のせいで。
また、近所のツツジを楽しみにしているものも多くいた。エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は絵を描くのが好きで、以前にもそういった類の依頼に入っているのだが、今回は図書館で植物図鑑を借りてきたりとなかなか本格的にチェックしている。言葉を発することが出来ない代わりに磨かれてきた絵の才能は、彼女がさまざまな世界を表現する為の格好の方法なのだ。
●
さて、湯治場となっている小さな温泉に着いてみれば、当然必然性をもって発生するのは着替えである。むろん、男女別の脱衣所完備な訳で、初めて温泉にきたというシェリル・マイヤーズ(ka0509)は言われるままにスクール水着をレンタルし、友人のオウカ・レンヴォルト(ka0301)にあらかじめ教えてもらった温泉知識を頭の中でぐるぐると回している。なお、オウカは男性です。念のため。
ちなみにスクール水着は体格を結構如実に顕してしまうので、彼女の凹凸の少ない体型も一発である。ユランはというと予想通りというか男風呂に連れ込まれかけて慌てて事情を説明するが、同じ部族の陽炎からも初耳だと言わんばかりに目を丸くされ、そういう事情ならと納得してもらった。ありがたい話なのだが複雑な気分に陥るのは、何となくわかる。
水着を用意してきた面々は、なかなか気が利いた姿をしている。
ビキニタイプに身を包んでいるのはクリスティア・オルトワール(ka0131)。親友のシルヴェーヌ=プラン(ka1583)、通称シルヴィに声をかけてやってきた口だが、彼女のつけた同じくビキニタイプの水着、特に胸元にクリスティア――通称ティアの視線が注がれていることに気づいて顔を赤らめる。
「シルヴィ、最近成長期に入られましたか?」
ティアにそう尋ねられて、あ、とも、う、ともつかない返事をするシルヴィ。そういえば年明け頃にもやはり連れ立って温泉に行っていたのだったが、そのときとのスタイルの違いに気づいたのだろう。
「有無……最近のぅ、その成長してきだしたかと、わし自身も思うてのう」
そう言いながら顔を赤らめるシルヴィ。改めて指摘されると、やはり羞恥心がわいてしまう。一方のティアはなにやら難しそうな表情。
(いえ、成長そのものはとても喜ばしいことなのですが……ね。何か大きくされる努力でもなさったのでしょうか……)
そんなことを考えてしまうのは、全体にスリムな肢体を持つからこそなのかも知れない。
「でも、温泉かぁ……リアルブルーにいた頃には一度も入ったことがないのに、こっちに来てからは何度目だろう」
そんなことを考えているのはサーシャ・V・クリューコファ(ka0723)。リアルブルーにもお国柄というのがあるのだから、まあそんなものなのかも知れない。温泉好きの学友を思い出してちょっと懐かしく思う。元気にしているだろうか……そしてそんな風に少しばかりセンチメンタルになっている自分に気づいて、また自嘲気味に笑うのだ。用意してきたタンキニタイプの水着はよく似合っている。こういうタイプの水着なら多少貧しい胸元もいくらかはごまかせよう。
「リアルブルーのハーブ湯、なんて素敵だわ~」
菖蒲湯はたしかにハーブ湯というカテゴリになるのだろうか。そんなことを言いながら、Non=Bee(ka1604)は酒瓶を抱えたまま楽しそうに笑う。名は体を表すというが、このノンベエ、紛れもない飲んべえである。なかなかにきわどいビキニタイプの水着に身を包み……ってこの人男性だ。脱衣室に入る前に座っている、いわゆる番台さんも困ったような表情を浮かべている。同じ一族の←jiro=Bee(ka4821)――これでヤジロベエ、と発音する――は普通に女性なのでその辺は問題ないのだが(おそらく)、
「タダで温泉! 最ッ高じゃありませんの!」
と、あくまで「金がかからない」ことを重視しているらしい。流石、自称一族の金庫番である。ちなみにノンベエのことを「お姉様」と慕っているので、壁を突き破ってでも背中を流しに行きたいなどとなかなかに不埒なことを考えている。危ない。
ハンターには変わり者が多いと聞いていたので、温泉側も念には念を入れているつもりなのだが、まあとにかく平穏なイベントに終わることを祈るしかないのであった。
●
時音 ざくろ(ka1250)は男である。
見た目はまるで少女のような愛らしさなのだが、中身は男。ちゃんと男。
しかしその少女めいた容貌の為に、からかわれることもしばしばで――
「えっ、水着必要なの?」
リアルブルーの故郷では入浴に水着なんて必要なかったから、もちろんそんなものは準備していない、と言わんばかりに目を丸くする少年。
「でもこれ、規則ですしね。万が一のトラブルが発生してもいけませんし」
ちゃんと今回の依頼書にもその旨は記載してありましたよ? と目で訴える現地の番台さん。
アルフェロア・アルヘイル(ka0568)は、手元の荷物を眺めながらくすりと笑う。
「まあ、たしかに混浴じゃないのだから裸で気持ちよく入りたいのだけれど……」
そう思っていると、あら? と目を丸くしたのも無理はない。見知った顔のざくろに渡されていた水着は何を勘違いしたのか女性用のスクール水着だったからで。一瞬何を言っているかわからない、と言うように複雑な表情を浮かべているざくろに対し、番台さんは当然のように女湯に行くようにとすすめている。それを見たアルフェロアが笑顔をまたこぼした。
「あらあらざくろちゃん、何しているのかしら、こちらは女湯よ? それともおねえさんと一緒に入りたいのかしらー?」
「いや、ざくろは男だから! 男だからー!」
泣きそうな声で訴えるざくろであった。
まあそんな茶番は一組もあれば十分……なのだが。
「うなっ、大丈夫! 苦しくないのなっ!」
そんなことを言いながら特徴的な水着を着ているのは黒の夢(ka0187)。豊満な肢体を牛柄のマイクロビキニ(しっぽつき)に包み、
「もーもーなのだ♪」
とみょうにどや顔。しかし彼女は今回の依頼でも「温泉はあと」とはっきり言っている口であり、温泉卵やまんじゅうなどの販売・提供の手伝いをするつもり満々である。
「ハンターさんはもっとゆっくりしていていいんですよ?」
温泉の主がそう言うものの、
「気にすることはないのな! さあ、女湯男湯へいざーっ」
と乗り込もうとするものだから、スタッフが善良で男湯への立ち入りを慌てて止める一幕もあったりして。
いくら水着を着ていたって、何かトラブルがあってはいけないのだ。その辺りはハンターズソサエティからもしっかり注意を受けているので、スタッフ側も丁寧に説明をする。
「うぬー……仕方がないのな」
そんなこんなで、トラブルの種を少しずつ回避しつつ、ふわりと菖蒲の香り漂う湯船に浸かるハンターたちなのだった。
●
「……うん、いい湯加減だな」
そう納得顔で湯に浸かっているのは久延毘 大二郎(ka1771)。持参したトランクスタイプの水着を着用し、満足げに湯船に寄りかかる。
と、聞き覚えのある声が女湯のほうから聞こえた。
「大二郎様ー♪ お湯加減は如何ですかー?」
声の主は聞き間違うはずもない。リアルブルー出身の少女で大二郎を【素敵な方】とばかりに慕っている八雲 奏(ka4074)(スクール水着着用中)である。その声を聞いて、大二郎も焦ってしまう。
「そ、その声は八雲君か……? いや、たしかによい湯加減だがね。それより声をもうすこし小さくだな……」
まさか聞こえると思わなかった声。しかも、壁一枚を隔てた向こうの女湯からの声。焦るなという方が無理な話である。
「混浴でしたらご一緒出来たのですが、残念ですねぇ……あ、そういえば石けんをわすれてしまいました。大二郎様、もし良ければお貸ししていただけますか?」
「わかった、わかったから、今投げ渡すからちょっとばかり待っていてくれ!」
どう考えても紫のほうが押せ押せムード。大二郎、たじたじだ。しかもそんな会話はもう浴場全体に筒抜けで、彼に向けられた視線が、みょうに痛い。うら若い女性の声とやりとり出来るというのはたしかに人によっては羨ましいのだろうが、そうでない人だっていると言うことをわかって貰いたいものだとため息をつかざるを得ない人も存在したりするのだ。
一つ安心出来るのは、かなりしっかりした板塀で区切られていることだ。
女性風呂を覗こうとするような輩はよほどの努力をしないとまずかろう。
だからこそ、男性も女性も、安心して入浴が出来るのだろうが……。
「それにしても広い風呂はいいな、こう……身体の隅々まで、リラックス出来る。菖蒲湯とやらの恩恵かな」
アリオーシュが笑うと、アーテルも微笑んだ。もともとアリオーシュが先だっての先頭で重傷を負ったことが今回のきっかけなのだから、そう言ってもらえるのはとても嬉しい話である。……まあ、もろもろの事情でアーテルの精神はごりごり音を立てて削られているのだが。もっともその理由についてはアリオーシュはまったく気づいていない。と言うか気づかせてはならない。
そう、『親友』であり続ける為にも。
と、ぼんやりしているアーテルに、アリオーシュは小さく首をかしげた。
「もしかしてのぼせたかい? 大丈夫?」
「あ、ああ……いやちょっと考え事をしていただけだ。俺は大丈夫。むしろお前のほうがひどい怪我だったんだ、しっかり浸かれ」
アーテルも慌ててそんなことを言う。気づかれたくないのだから、当然だ。
「でも、折角だからお礼に背中でも流そうか?」
アリオーシュの提案は嬉しかったが、アーテルは堅く辞退した。いやなのではなく、恥ずかしいからだ――と言うことは、なかなか理解してもらえないだろうから口にはしなかったけれど。僅かに赤く染まった頬を、アリオーシュはどう捕えただろう。そんなことをぼんやり考えながら、アーテルは楽しそうに湯船に浸かる『親友』を、優しい瞳で見つめていた。
(それにしてもこちらの世界にも温泉があったなんてびっくりですが、久しぶりに温泉に入れるのはすっごく嬉しいのです)
リアルブルー出身のミコト=S=レグルス(ka3953)は、『おふろの国の人だもの』という感じで、そわそわとしながら水着をしっかりと着用して、ざっぷりと首もとまで湯船に浸かってうっとりしている。
「はー、ここしばらくの依頼での疲れを癒やせるような気がしますです♪」
そういえばリアルブルーの故郷の基準だと、温泉につきものといえば温泉卵や温泉まんじゅう、風呂上がりの牛乳なんていうのも定番というイメージだが、こちらではどうなのかしら? なんて思っていたが、そこは依頼人がリアルブルー出身者ということや、そんなリアルブルー出身者からの情報などもあって、そう言ったものもしっかり準備されている。結構、いやかなりありがたい。
(名物があるなら、それも気になりますしっ)
楽しそうに鼻歌を歌いながら、少女は笑顔を浮かべるのだった。
(でも、覚醒者は不思議……傷ついても、短時間でなおるし、傷跡の残るような大怪我でもほとんど綺麗になおる……覚醒者って、一体何だろう?)
その傍で、シェリルはぶくぶくと、ぼんやりそんなことを考えながら浸かっていた。
さてユランは前述の理由で男湯に連行されかけそうになった。
と言うのも、まさかまさかの族長たる陽炎ですら彼女のことを男性と認識していたからである。説明するのも面倒くさくなった結果、ユランは強硬手段に出た。つまり自分の胸元に、陽炎の手を、むにっと。小ぶりではあるが男性とは明らかに異なるその感触に流石に納得したのだろう、陽炎たちも呆然としたまま彼女を女湯へと送り出してくれた。いや、あっけにとられて言葉が出なかっただけ、なのかも知れない。
(どっちにしても……わかってくれたのなら、いい)
いつもその性別を偽って生活していることもあって、温泉では完全に脱力モード。湯船にぼんやり浸かりながら、ほにゃりと笑うその姿は普段のユランからは想像も付かないくらいのとろけた表情である。幸せを感じている――そんな表情だった。
「今度は一緒に来たいぞ……いい場所だな」
一緒に来たい相手が来れなくなったものだから、一人で満喫することになったわけだが、それはそれで面白い。そんなことを思いながら、スクール水着姿――ただし胸元と腰回りのサイズがあっていない――で湯船に浸かっているのはヴィス=XV(ka2326)。もともと身体に刺青を持っている為、普通の公衆浴場ではたいていお断りされてしまうのだが、水着着用が大前提のここなら問題あるまいと、そんなことを思いながらぐるりと周囲を見回す。
近くの公園ではツツジが見頃ということだが、この露天風呂からもツツジはいくらか望むことができ、その色鮮やかな美しさについほうと見とれてしまう。
(まあ、覗こうとするような馬鹿な輩は排除した方がいいだろうな)
そんなことを考えてしまうのは、やはりゆっくりと時間を満喫したいから。
(男の娘とかいうのも男にゃ変わりねえし、引き込むなよな……)
脱衣所前での茶番をいくらか見ていたヴィスは、改めてため息。
そういった輩は正直、得意ではないからだ。
(そういえば、この菖蒲の葉で身体を軽く叩くのが正式な作法なんだっけな)
湯船に浮かぶ菖蒲の葉を手に取り、ぱしんと軽くそれを肩に当てる。なんだか気分がいいのは、その香りのせいだろうか。
「へぇ、それが正式な作法なんだね」
誰かがそれに共感すると、何人かが続けて同様にチャレンジした。
「にしても。小僧、本当に気づいておらなんだか」
男風呂。朱殷がそう言うと、持ってきた酒瓶からとくとくと杯に酒を注ぎ、陽炎に手渡す。気づいてない――というのはもちろんユランとの一幕についてだ。
「あ、ああ……声が出そうになったけど、何とか。って、準備いいな、飲み比べしよう」
陽炎はと言えば、あれからずーっと呆然とした様子を見せていた。まさか少年だと思い込んでいた相手が少女だっただなんて、すぐに理解しろというほうが難しい。
「ままま、まあ、この程度で動揺したりはしないよ……ぞぞ、族長だからね!」
「その割りには随分杯が震えておるな」
朱殷の言葉に、慌てて手を押さえる陽炎。どう見ても動揺している。
「やけ酒か? 余り酒精に頼るのもどうかとはおもうが。まあそれだけ、他人に目が行っておらぬと言うことよ。まだまだ未熟者よな」
朱殷はそう言って呵々と笑う。陽炎のほうは顔を赤らめて、まるで穴があったらはいりたいと言わんばかりだ。
「べ、別に酔っ払って全部わすれようとか、そんなこと思ってないし!」
そう言う陽炎の顔は、まだ酒も入っていないのに既に真っ赤だ。そんな初心なところも、また見ていてほほえましいのだが。
(まあこの小僧も、今年はどれだけ育つやら)
朱殷はどこか慈しむような眼差しで、若い族長を見やる。
「あっ、そうだ……あとで土産を見繕ってこよう。ユランにも聞けば……女の子の喜ぶものとか、知ってるかな」
陽炎はいいことを思いついたという風に笑顔。
そんな人の良さも、きっと族長の資質という意味ではいい物なのだろう。朱殷は何となくほほえましくなって、また小さく笑った。
(この世界に来てはや二ヶ月……)
そんなことを思っているのは、同じ高校の生徒会メンバーでリアルブルーから飛ばされた高円寺 義経(ka4362)。今回は慰労というと言うことでいつもの仲間たち――神保 寂音(ka4365)、究極のポジティブシンキングお嬢様にして内弁慶な怠け性の青山 りりか(ka4415)、そしてマイペースな三鷹 璃袈(ka4427)の四人での参加である。
お互い、四人でなければきっともっとひどいことになっていただろうという自覚はある。路頭に迷っていたかも知れないし、もっとひどければのたれ死んでいた可能性だって否定出来ない。
そう、皆と一緒だからがんばれた。
りりかはそう信じて疑わない。皆がいるからこそ、今の自分が笑うことができているのだと、そう思っている。それは他の仲間たちにも共通することで、だからこそ四人の絆は強固なものになっているのだ。
それにしても、温泉とは。
(温泉に水着とか……肌さらして、身体を隅々まで洗って、だからこそ気持ち糸思うんじゃないの? 先回りの規制が息苦しい世の中を生み出していくんだよ……)
辛辣なことを考えているのは寂音。しかし同時に、
(別にりりか様のあられもない姿が見られなくて残念とかそんなんじゃないんだからね)
なんてことを考えているのは正しいのか正しくないのか。
「そういえばこういう裸のつきあいってなかなか無いよねー」
この年代のリアルブルーの青少年なら、それこそ修学旅行のようなイベントくらいなものだろうか。とはいえ、義経はむろん男性なのだから、一人だけ仲間はずれになるのはやむを得ない。
(あの頃は学校以外は退屈だったけれど、こっちではそんな余裕もなかなか無かったし、久々に羽を伸ばせるっていうのはうれしいしありがたい話だよなあ)
今はいつも四人一緒に出来る限り行動していて。
まあ男と女という違いがあるから、その差は仕方ないけれど。
でも綺麗な風呂を見てハイテンションになるのはきっと誰もが同じだ。
「は―、極楽極楽」
男風呂でそう言いながら義経はざぶりと湯船を満喫する。
(ま、俺が霊闘士だったら超聴覚で君見立てるんすけどねぇ)
そんなしょうも無い戯言を考えてしまうのは、まあ年頃の少年だから仕方ないといえば仕方ない。
一方女湯はと言うと、如何なる時もりりか最優先だったり、そして自分を後回しにしていることを出来る限りばれないようにと四苦八苦して動いている寂音、感謝の気持ちをいっぱいにして、しかし(どれどれどこが成長してるかなぁ?)なんておっさんじみたことを考えてしまうりりか、成長、ハハハナンノコトヤラと乾いた笑いを浮かべるに過ぎない璃袈――と言う、まあこれまた三者三様の反応を見せている。
ちなみにリアルブルーで生徒会長だったのがりりかだった為、寂音などはりりか最優先! と言う発想に至っているらしいが、まあこんな時はそんなものも余り関係ない。背中を流し流され、滅多にない機会を満喫する。
「皆、本当にありがとうね」
その言葉を口にするりりか。実際、四人でいるから乗り越えられた壁は多い。
感謝の言葉がつきることがないくらいに。
「そんな言葉勿体ないです」
「そうそう、いつもみたいにしていていいんですから」
少女二人はそう言って慌てる。
けれど、そう言うつながりの強さが、きっと今の関係を円滑にしているのだろう。
「……あたしは、一人じゃ何も出来ませんから。だから本当に感謝していますし、このお誘いもとってもとっても嬉しいのですよ」
璃袈が微笑むと、寂音も頷く。そしてそれに対して、りりかはもう一度、
「ありがとう」
と言ったのだった。
●
「ああ――、いい湯だった」
風呂上がり、浴衣姿のオウカは思わずそんなつぶやきを漏らす。普段は無愛想なその顔に、ほんのりと朱を帯びているのは、風呂を満喫した結果だろう。
そう、そうやって温泉を満喫したあとは土産や周囲の景観を楽しむ時間だ。
温泉まんじゅうや温泉卵、きんと冷えた牛乳に舌鼓を打ちながら、休憩室や近くの公園を散策する。
黒の夢はここでの販売については問題ないとされ、爆乳を揺らしながら牛乳を提供している。……まあ、浴室ではないからキャンペーンガールもどきの扱いになってこれはこれで面白いのかも知れない。
いっぽう、シルヴィは嬉しそうに牛乳に手をかける。
「こう、手を腰に当てて一気に飲み干すのがポイントらしいのじゃ!」
なんのポイントかはわからないが、とにかくそうらしい。周囲を見れば、たしかににたようなポーズで牛乳を飲んでいる人が多かった。
「はしたないですよ、そんな飲み方……」
ティアがたしなめるが、まあこれも郷に入れば郷に従え、と言う奴なのだろうか。ティアは首をかしげつつも、シルヴィの満足そうな顔に文句は言えないのだった。
エヴァはいそいそと公園に出向き、温泉まんじゅうをぱくつきながらさっそくツツジのスケッチ。
「ん? エヴァちゃんじゃないか。今日も絵描きに精が出てるねぇ」
そんな彼女に声をかけたのはノンベエ、通称ノンちゃん。
『うん、ツツジもだけど、皆の笑顔も素敵だから』
さらさらとスケッチブックの端にそう書いて、エヴァは照れくさそうに笑顔を浮かべる。
「そうねぇ。皆の笑顔っていうのは、いい物だわ」
そう言いながら、ノンベエはそっとエヴァの髪にツツジの花を挿してやる。一瞬驚いた顔を見せたエヴァだが、
「花もいいけど、貴方も負けてないわよ? 楽しんでね♪」
そう言って、また気まぐれそうにヤジロベエの元へ行く。
「湯上がりのお姉様……色っぽくて素敵ですわぁ……そういえばツツジの花言葉はご存じです?」
ヤジロベエに尋ねられ、いいえ、とノンベエは首を振る。
「慎み、です。お美しいお姉様にぴったりですわぁ」
とろけるような笑顔を浮かべて、ヤジロベエはいう。……実は彼女、先ほど男湯と女湯の壁をぶち破ろうとしていたのだが、それはさっぱりわすれているらしい。と言うか、ノンベエお姉様大好き。ノンベエは男だけど。
水着のままで公園に出ようとしたシェリルは流石にオウカにたしなめられていたが、それ以外では大きなトラブルも少なかったようだ。
ミコトも、想像していたような土産物の存在に目を輝かせてぱくついている。土産ももちろん買うつもりだ。
エヴァは、皆の笑顔を見ながら、そして図鑑を見ながら、いろいろと考えていた。
(ツツジって、エトファリカ連邦国……東から、こちらへ移ってきた花、なのかな。ツツジとも、アザレアとも呼ばれているし、リアルブルーの人にも結構馴染みの深い花、みたいだけれど……)
深紅のツツジはエヴァが特に好きな色。秋の紅葉に勝るとも劣らない色味で描いていく。
(きっとこんなツツジだから、皆の心を捕えるのよね)
少女は一人、満足げに頷いた。
温泉卵とアルコールを肴に、ツツジを満喫しているのは剛。こういうゆったりのんびりした時間は、そういえば聖地奪還の戦闘が始まってからは久々かも知れない。のんびりできる時にのんびりする、それは蒼の世界で軍人として働いていた時に覚えたことだった。いや、もともとの性分も多分にあるかも知れないが。
生徒会の面々も、堪能出来なかった桜の代わりにツツジの花見としゃれ込んでいる。
(ドキがムネムネっす)
健康的高校生男子の義経、風呂上がりの上気した女性陣にわずかに緊張気味。常ならぬシチュエーションというのは、やはり誰にとっても緊張するものだ。
一方りりかは持参した手作り弁当を取り出してにっこり。
「はい、義経っ。あーん♪」
料理は上手でも下手でもない、けれど愛情だけは人一倍。
そう言って笑顔を浮かべれば、寂音も璃袈も楽しそうに微笑む。
四人でいるからがんばれる。きっと、これからも。
●
そんなこんなで端午の節句。
リアルブルーの一地域では『ゴールデンウィーク』と呼ばれる時期でもあるが――その時期の温泉は、きっと心と身体の洗濯になったに違いない。
きっとまた日常に戻れば、慌ただしい毎日が待っている。
それまでの少しの間かも知れないが、きっと気晴らしになったことだろう――。
「温泉ー、温泉ー♪」
そんなことを暢気に、嬉しそうに言いながら、陽炎(ka0142)がうれしそうに笑う。野営地にも露天風呂はあるが、余所に行くのはまた格別だ。
(まぁ、朱殷(ka1359)の飲み過ぎには、注意してなきゃいけないけど)
そう胸の中で思って、近くを歩く赤毛の男を見やる。
「なぁに、小僧。無茶するわけがなかろう」
もともと陽炎は朱殷の介助の手伝いも兼ねている。彼に負担は出来るだけかけないようにせねば成るまい。また、やはり陽炎と行動を共にしているエルフのユラン・S・ユーレアイト(ka0675)は内心複雑。と言うのも湯欄は【女性】であるが、もろもろの事情で普段は【男性】として振る舞っているからである。男湯に連行される可能性も考えると、少しばかりブルーになるのもやむを得まい。
それにしても太っ腹なハンターズソサエティの提案に、ハンターの誰もが拍手喝采だ。――まあ、一部の男性陣には微妙かも知れないが、それはそれ、これはこれ。公許良俗を守れないハンターはやはりよろしくない。スクール水着のようなものはレンタルしてくれると言うことなので、一部のハンターはそれはそれで喜んでいるのかも知れないが、まあそこまで行くと神のみぞ知る世界である。
まあヒトは十人十色というわけで、湯煙のロマンスに理解はあるがただひたすらに湯治にやってきた米本 剛(ka0320)のようなタイプもいるし、親友と信じているアーテル・テネブラエ (ka3693)――実はこのアーテルは親友以上の感情を抱いているわけだが幸か不幸か気づいていない――とともに、仲良く風呂に入りたいと思っているアリオーシュ・アルセイデス (ka3164)のようなものもいる。……もっとも、アーテルの方は若干後悔しているようだが。その旨に抱く感情のせいで。
また、近所のツツジを楽しみにしているものも多くいた。エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は絵を描くのが好きで、以前にもそういった類の依頼に入っているのだが、今回は図書館で植物図鑑を借りてきたりとなかなか本格的にチェックしている。言葉を発することが出来ない代わりに磨かれてきた絵の才能は、彼女がさまざまな世界を表現する為の格好の方法なのだ。
●
さて、湯治場となっている小さな温泉に着いてみれば、当然必然性をもって発生するのは着替えである。むろん、男女別の脱衣所完備な訳で、初めて温泉にきたというシェリル・マイヤーズ(ka0509)は言われるままにスクール水着をレンタルし、友人のオウカ・レンヴォルト(ka0301)にあらかじめ教えてもらった温泉知識を頭の中でぐるぐると回している。なお、オウカは男性です。念のため。
ちなみにスクール水着は体格を結構如実に顕してしまうので、彼女の凹凸の少ない体型も一発である。ユランはというと予想通りというか男風呂に連れ込まれかけて慌てて事情を説明するが、同じ部族の陽炎からも初耳だと言わんばかりに目を丸くされ、そういう事情ならと納得してもらった。ありがたい話なのだが複雑な気分に陥るのは、何となくわかる。
水着を用意してきた面々は、なかなか気が利いた姿をしている。
ビキニタイプに身を包んでいるのはクリスティア・オルトワール(ka0131)。親友のシルヴェーヌ=プラン(ka1583)、通称シルヴィに声をかけてやってきた口だが、彼女のつけた同じくビキニタイプの水着、特に胸元にクリスティア――通称ティアの視線が注がれていることに気づいて顔を赤らめる。
「シルヴィ、最近成長期に入られましたか?」
ティアにそう尋ねられて、あ、とも、う、ともつかない返事をするシルヴィ。そういえば年明け頃にもやはり連れ立って温泉に行っていたのだったが、そのときとのスタイルの違いに気づいたのだろう。
「有無……最近のぅ、その成長してきだしたかと、わし自身も思うてのう」
そう言いながら顔を赤らめるシルヴィ。改めて指摘されると、やはり羞恥心がわいてしまう。一方のティアはなにやら難しそうな表情。
(いえ、成長そのものはとても喜ばしいことなのですが……ね。何か大きくされる努力でもなさったのでしょうか……)
そんなことを考えてしまうのは、全体にスリムな肢体を持つからこそなのかも知れない。
「でも、温泉かぁ……リアルブルーにいた頃には一度も入ったことがないのに、こっちに来てからは何度目だろう」
そんなことを考えているのはサーシャ・V・クリューコファ(ka0723)。リアルブルーにもお国柄というのがあるのだから、まあそんなものなのかも知れない。温泉好きの学友を思い出してちょっと懐かしく思う。元気にしているだろうか……そしてそんな風に少しばかりセンチメンタルになっている自分に気づいて、また自嘲気味に笑うのだ。用意してきたタンキニタイプの水着はよく似合っている。こういうタイプの水着なら多少貧しい胸元もいくらかはごまかせよう。
「リアルブルーのハーブ湯、なんて素敵だわ~」
菖蒲湯はたしかにハーブ湯というカテゴリになるのだろうか。そんなことを言いながら、Non=Bee(ka1604)は酒瓶を抱えたまま楽しそうに笑う。名は体を表すというが、このノンベエ、紛れもない飲んべえである。なかなかにきわどいビキニタイプの水着に身を包み……ってこの人男性だ。脱衣室に入る前に座っている、いわゆる番台さんも困ったような表情を浮かべている。同じ一族の←jiro=Bee(ka4821)――これでヤジロベエ、と発音する――は普通に女性なのでその辺は問題ないのだが(おそらく)、
「タダで温泉! 最ッ高じゃありませんの!」
と、あくまで「金がかからない」ことを重視しているらしい。流石、自称一族の金庫番である。ちなみにノンベエのことを「お姉様」と慕っているので、壁を突き破ってでも背中を流しに行きたいなどとなかなかに不埒なことを考えている。危ない。
ハンターには変わり者が多いと聞いていたので、温泉側も念には念を入れているつもりなのだが、まあとにかく平穏なイベントに終わることを祈るしかないのであった。
●
時音 ざくろ(ka1250)は男である。
見た目はまるで少女のような愛らしさなのだが、中身は男。ちゃんと男。
しかしその少女めいた容貌の為に、からかわれることもしばしばで――
「えっ、水着必要なの?」
リアルブルーの故郷では入浴に水着なんて必要なかったから、もちろんそんなものは準備していない、と言わんばかりに目を丸くする少年。
「でもこれ、規則ですしね。万が一のトラブルが発生してもいけませんし」
ちゃんと今回の依頼書にもその旨は記載してありましたよ? と目で訴える現地の番台さん。
アルフェロア・アルヘイル(ka0568)は、手元の荷物を眺めながらくすりと笑う。
「まあ、たしかに混浴じゃないのだから裸で気持ちよく入りたいのだけれど……」
そう思っていると、あら? と目を丸くしたのも無理はない。見知った顔のざくろに渡されていた水着は何を勘違いしたのか女性用のスクール水着だったからで。一瞬何を言っているかわからない、と言うように複雑な表情を浮かべているざくろに対し、番台さんは当然のように女湯に行くようにとすすめている。それを見たアルフェロアが笑顔をまたこぼした。
「あらあらざくろちゃん、何しているのかしら、こちらは女湯よ? それともおねえさんと一緒に入りたいのかしらー?」
「いや、ざくろは男だから! 男だからー!」
泣きそうな声で訴えるざくろであった。
まあそんな茶番は一組もあれば十分……なのだが。
「うなっ、大丈夫! 苦しくないのなっ!」
そんなことを言いながら特徴的な水着を着ているのは黒の夢(ka0187)。豊満な肢体を牛柄のマイクロビキニ(しっぽつき)に包み、
「もーもーなのだ♪」
とみょうにどや顔。しかし彼女は今回の依頼でも「温泉はあと」とはっきり言っている口であり、温泉卵やまんじゅうなどの販売・提供の手伝いをするつもり満々である。
「ハンターさんはもっとゆっくりしていていいんですよ?」
温泉の主がそう言うものの、
「気にすることはないのな! さあ、女湯男湯へいざーっ」
と乗り込もうとするものだから、スタッフが善良で男湯への立ち入りを慌てて止める一幕もあったりして。
いくら水着を着ていたって、何かトラブルがあってはいけないのだ。その辺りはハンターズソサエティからもしっかり注意を受けているので、スタッフ側も丁寧に説明をする。
「うぬー……仕方がないのな」
そんなこんなで、トラブルの種を少しずつ回避しつつ、ふわりと菖蒲の香り漂う湯船に浸かるハンターたちなのだった。
●
「……うん、いい湯加減だな」
そう納得顔で湯に浸かっているのは久延毘 大二郎(ka1771)。持参したトランクスタイプの水着を着用し、満足げに湯船に寄りかかる。
と、聞き覚えのある声が女湯のほうから聞こえた。
「大二郎様ー♪ お湯加減は如何ですかー?」
声の主は聞き間違うはずもない。リアルブルー出身の少女で大二郎を【素敵な方】とばかりに慕っている八雲 奏(ka4074)(スクール水着着用中)である。その声を聞いて、大二郎も焦ってしまう。
「そ、その声は八雲君か……? いや、たしかによい湯加減だがね。それより声をもうすこし小さくだな……」
まさか聞こえると思わなかった声。しかも、壁一枚を隔てた向こうの女湯からの声。焦るなという方が無理な話である。
「混浴でしたらご一緒出来たのですが、残念ですねぇ……あ、そういえば石けんをわすれてしまいました。大二郎様、もし良ければお貸ししていただけますか?」
「わかった、わかったから、今投げ渡すからちょっとばかり待っていてくれ!」
どう考えても紫のほうが押せ押せムード。大二郎、たじたじだ。しかもそんな会話はもう浴場全体に筒抜けで、彼に向けられた視線が、みょうに痛い。うら若い女性の声とやりとり出来るというのはたしかに人によっては羨ましいのだろうが、そうでない人だっていると言うことをわかって貰いたいものだとため息をつかざるを得ない人も存在したりするのだ。
一つ安心出来るのは、かなりしっかりした板塀で区切られていることだ。
女性風呂を覗こうとするような輩はよほどの努力をしないとまずかろう。
だからこそ、男性も女性も、安心して入浴が出来るのだろうが……。
「それにしても広い風呂はいいな、こう……身体の隅々まで、リラックス出来る。菖蒲湯とやらの恩恵かな」
アリオーシュが笑うと、アーテルも微笑んだ。もともとアリオーシュが先だっての先頭で重傷を負ったことが今回のきっかけなのだから、そう言ってもらえるのはとても嬉しい話である。……まあ、もろもろの事情でアーテルの精神はごりごり音を立てて削られているのだが。もっともその理由についてはアリオーシュはまったく気づいていない。と言うか気づかせてはならない。
そう、『親友』であり続ける為にも。
と、ぼんやりしているアーテルに、アリオーシュは小さく首をかしげた。
「もしかしてのぼせたかい? 大丈夫?」
「あ、ああ……いやちょっと考え事をしていただけだ。俺は大丈夫。むしろお前のほうがひどい怪我だったんだ、しっかり浸かれ」
アーテルも慌ててそんなことを言う。気づかれたくないのだから、当然だ。
「でも、折角だからお礼に背中でも流そうか?」
アリオーシュの提案は嬉しかったが、アーテルは堅く辞退した。いやなのではなく、恥ずかしいからだ――と言うことは、なかなか理解してもらえないだろうから口にはしなかったけれど。僅かに赤く染まった頬を、アリオーシュはどう捕えただろう。そんなことをぼんやり考えながら、アーテルは楽しそうに湯船に浸かる『親友』を、優しい瞳で見つめていた。
(それにしてもこちらの世界にも温泉があったなんてびっくりですが、久しぶりに温泉に入れるのはすっごく嬉しいのです)
リアルブルー出身のミコト=S=レグルス(ka3953)は、『おふろの国の人だもの』という感じで、そわそわとしながら水着をしっかりと着用して、ざっぷりと首もとまで湯船に浸かってうっとりしている。
「はー、ここしばらくの依頼での疲れを癒やせるような気がしますです♪」
そういえばリアルブルーの故郷の基準だと、温泉につきものといえば温泉卵や温泉まんじゅう、風呂上がりの牛乳なんていうのも定番というイメージだが、こちらではどうなのかしら? なんて思っていたが、そこは依頼人がリアルブルー出身者ということや、そんなリアルブルー出身者からの情報などもあって、そう言ったものもしっかり準備されている。結構、いやかなりありがたい。
(名物があるなら、それも気になりますしっ)
楽しそうに鼻歌を歌いながら、少女は笑顔を浮かべるのだった。
(でも、覚醒者は不思議……傷ついても、短時間でなおるし、傷跡の残るような大怪我でもほとんど綺麗になおる……覚醒者って、一体何だろう?)
その傍で、シェリルはぶくぶくと、ぼんやりそんなことを考えながら浸かっていた。
さてユランは前述の理由で男湯に連行されかけそうになった。
と言うのも、まさかまさかの族長たる陽炎ですら彼女のことを男性と認識していたからである。説明するのも面倒くさくなった結果、ユランは強硬手段に出た。つまり自分の胸元に、陽炎の手を、むにっと。小ぶりではあるが男性とは明らかに異なるその感触に流石に納得したのだろう、陽炎たちも呆然としたまま彼女を女湯へと送り出してくれた。いや、あっけにとられて言葉が出なかっただけ、なのかも知れない。
(どっちにしても……わかってくれたのなら、いい)
いつもその性別を偽って生活していることもあって、温泉では完全に脱力モード。湯船にぼんやり浸かりながら、ほにゃりと笑うその姿は普段のユランからは想像も付かないくらいのとろけた表情である。幸せを感じている――そんな表情だった。
「今度は一緒に来たいぞ……いい場所だな」
一緒に来たい相手が来れなくなったものだから、一人で満喫することになったわけだが、それはそれで面白い。そんなことを思いながら、スクール水着姿――ただし胸元と腰回りのサイズがあっていない――で湯船に浸かっているのはヴィス=XV(ka2326)。もともと身体に刺青を持っている為、普通の公衆浴場ではたいていお断りされてしまうのだが、水着着用が大前提のここなら問題あるまいと、そんなことを思いながらぐるりと周囲を見回す。
近くの公園ではツツジが見頃ということだが、この露天風呂からもツツジはいくらか望むことができ、その色鮮やかな美しさについほうと見とれてしまう。
(まあ、覗こうとするような馬鹿な輩は排除した方がいいだろうな)
そんなことを考えてしまうのは、やはりゆっくりと時間を満喫したいから。
(男の娘とかいうのも男にゃ変わりねえし、引き込むなよな……)
脱衣所前での茶番をいくらか見ていたヴィスは、改めてため息。
そういった輩は正直、得意ではないからだ。
(そういえば、この菖蒲の葉で身体を軽く叩くのが正式な作法なんだっけな)
湯船に浮かぶ菖蒲の葉を手に取り、ぱしんと軽くそれを肩に当てる。なんだか気分がいいのは、その香りのせいだろうか。
「へぇ、それが正式な作法なんだね」
誰かがそれに共感すると、何人かが続けて同様にチャレンジした。
「にしても。小僧、本当に気づいておらなんだか」
男風呂。朱殷がそう言うと、持ってきた酒瓶からとくとくと杯に酒を注ぎ、陽炎に手渡す。気づいてない――というのはもちろんユランとの一幕についてだ。
「あ、ああ……声が出そうになったけど、何とか。って、準備いいな、飲み比べしよう」
陽炎はと言えば、あれからずーっと呆然とした様子を見せていた。まさか少年だと思い込んでいた相手が少女だっただなんて、すぐに理解しろというほうが難しい。
「ままま、まあ、この程度で動揺したりはしないよ……ぞぞ、族長だからね!」
「その割りには随分杯が震えておるな」
朱殷の言葉に、慌てて手を押さえる陽炎。どう見ても動揺している。
「やけ酒か? 余り酒精に頼るのもどうかとはおもうが。まあそれだけ、他人に目が行っておらぬと言うことよ。まだまだ未熟者よな」
朱殷はそう言って呵々と笑う。陽炎のほうは顔を赤らめて、まるで穴があったらはいりたいと言わんばかりだ。
「べ、別に酔っ払って全部わすれようとか、そんなこと思ってないし!」
そう言う陽炎の顔は、まだ酒も入っていないのに既に真っ赤だ。そんな初心なところも、また見ていてほほえましいのだが。
(まあこの小僧も、今年はどれだけ育つやら)
朱殷はどこか慈しむような眼差しで、若い族長を見やる。
「あっ、そうだ……あとで土産を見繕ってこよう。ユランにも聞けば……女の子の喜ぶものとか、知ってるかな」
陽炎はいいことを思いついたという風に笑顔。
そんな人の良さも、きっと族長の資質という意味ではいい物なのだろう。朱殷は何となくほほえましくなって、また小さく笑った。
(この世界に来てはや二ヶ月……)
そんなことを思っているのは、同じ高校の生徒会メンバーでリアルブルーから飛ばされた高円寺 義経(ka4362)。今回は慰労というと言うことでいつもの仲間たち――神保 寂音(ka4365)、究極のポジティブシンキングお嬢様にして内弁慶な怠け性の青山 りりか(ka4415)、そしてマイペースな三鷹 璃袈(ka4427)の四人での参加である。
お互い、四人でなければきっともっとひどいことになっていただろうという自覚はある。路頭に迷っていたかも知れないし、もっとひどければのたれ死んでいた可能性だって否定出来ない。
そう、皆と一緒だからがんばれた。
りりかはそう信じて疑わない。皆がいるからこそ、今の自分が笑うことができているのだと、そう思っている。それは他の仲間たちにも共通することで、だからこそ四人の絆は強固なものになっているのだ。
それにしても、温泉とは。
(温泉に水着とか……肌さらして、身体を隅々まで洗って、だからこそ気持ち糸思うんじゃないの? 先回りの規制が息苦しい世の中を生み出していくんだよ……)
辛辣なことを考えているのは寂音。しかし同時に、
(別にりりか様のあられもない姿が見られなくて残念とかそんなんじゃないんだからね)
なんてことを考えているのは正しいのか正しくないのか。
「そういえばこういう裸のつきあいってなかなか無いよねー」
この年代のリアルブルーの青少年なら、それこそ修学旅行のようなイベントくらいなものだろうか。とはいえ、義経はむろん男性なのだから、一人だけ仲間はずれになるのはやむを得ない。
(あの頃は学校以外は退屈だったけれど、こっちではそんな余裕もなかなか無かったし、久々に羽を伸ばせるっていうのはうれしいしありがたい話だよなあ)
今はいつも四人一緒に出来る限り行動していて。
まあ男と女という違いがあるから、その差は仕方ないけれど。
でも綺麗な風呂を見てハイテンションになるのはきっと誰もが同じだ。
「は―、極楽極楽」
男風呂でそう言いながら義経はざぶりと湯船を満喫する。
(ま、俺が霊闘士だったら超聴覚で君見立てるんすけどねぇ)
そんなしょうも無い戯言を考えてしまうのは、まあ年頃の少年だから仕方ないといえば仕方ない。
一方女湯はと言うと、如何なる時もりりか最優先だったり、そして自分を後回しにしていることを出来る限りばれないようにと四苦八苦して動いている寂音、感謝の気持ちをいっぱいにして、しかし(どれどれどこが成長してるかなぁ?)なんておっさんじみたことを考えてしまうりりか、成長、ハハハナンノコトヤラと乾いた笑いを浮かべるに過ぎない璃袈――と言う、まあこれまた三者三様の反応を見せている。
ちなみにリアルブルーで生徒会長だったのがりりかだった為、寂音などはりりか最優先! と言う発想に至っているらしいが、まあこんな時はそんなものも余り関係ない。背中を流し流され、滅多にない機会を満喫する。
「皆、本当にありがとうね」
その言葉を口にするりりか。実際、四人でいるから乗り越えられた壁は多い。
感謝の言葉がつきることがないくらいに。
「そんな言葉勿体ないです」
「そうそう、いつもみたいにしていていいんですから」
少女二人はそう言って慌てる。
けれど、そう言うつながりの強さが、きっと今の関係を円滑にしているのだろう。
「……あたしは、一人じゃ何も出来ませんから。だから本当に感謝していますし、このお誘いもとってもとっても嬉しいのですよ」
璃袈が微笑むと、寂音も頷く。そしてそれに対して、りりかはもう一度、
「ありがとう」
と言ったのだった。
●
「ああ――、いい湯だった」
風呂上がり、浴衣姿のオウカは思わずそんなつぶやきを漏らす。普段は無愛想なその顔に、ほんのりと朱を帯びているのは、風呂を満喫した結果だろう。
そう、そうやって温泉を満喫したあとは土産や周囲の景観を楽しむ時間だ。
温泉まんじゅうや温泉卵、きんと冷えた牛乳に舌鼓を打ちながら、休憩室や近くの公園を散策する。
黒の夢はここでの販売については問題ないとされ、爆乳を揺らしながら牛乳を提供している。……まあ、浴室ではないからキャンペーンガールもどきの扱いになってこれはこれで面白いのかも知れない。
いっぽう、シルヴィは嬉しそうに牛乳に手をかける。
「こう、手を腰に当てて一気に飲み干すのがポイントらしいのじゃ!」
なんのポイントかはわからないが、とにかくそうらしい。周囲を見れば、たしかににたようなポーズで牛乳を飲んでいる人が多かった。
「はしたないですよ、そんな飲み方……」
ティアがたしなめるが、まあこれも郷に入れば郷に従え、と言う奴なのだろうか。ティアは首をかしげつつも、シルヴィの満足そうな顔に文句は言えないのだった。
エヴァはいそいそと公園に出向き、温泉まんじゅうをぱくつきながらさっそくツツジのスケッチ。
「ん? エヴァちゃんじゃないか。今日も絵描きに精が出てるねぇ」
そんな彼女に声をかけたのはノンベエ、通称ノンちゃん。
『うん、ツツジもだけど、皆の笑顔も素敵だから』
さらさらとスケッチブックの端にそう書いて、エヴァは照れくさそうに笑顔を浮かべる。
「そうねぇ。皆の笑顔っていうのは、いい物だわ」
そう言いながら、ノンベエはそっとエヴァの髪にツツジの花を挿してやる。一瞬驚いた顔を見せたエヴァだが、
「花もいいけど、貴方も負けてないわよ? 楽しんでね♪」
そう言って、また気まぐれそうにヤジロベエの元へ行く。
「湯上がりのお姉様……色っぽくて素敵ですわぁ……そういえばツツジの花言葉はご存じです?」
ヤジロベエに尋ねられ、いいえ、とノンベエは首を振る。
「慎み、です。お美しいお姉様にぴったりですわぁ」
とろけるような笑顔を浮かべて、ヤジロベエはいう。……実は彼女、先ほど男湯と女湯の壁をぶち破ろうとしていたのだが、それはさっぱりわすれているらしい。と言うか、ノンベエお姉様大好き。ノンベエは男だけど。
水着のままで公園に出ようとしたシェリルは流石にオウカにたしなめられていたが、それ以外では大きなトラブルも少なかったようだ。
ミコトも、想像していたような土産物の存在に目を輝かせてぱくついている。土産ももちろん買うつもりだ。
エヴァは、皆の笑顔を見ながら、そして図鑑を見ながら、いろいろと考えていた。
(ツツジって、エトファリカ連邦国……東から、こちらへ移ってきた花、なのかな。ツツジとも、アザレアとも呼ばれているし、リアルブルーの人にも結構馴染みの深い花、みたいだけれど……)
深紅のツツジはエヴァが特に好きな色。秋の紅葉に勝るとも劣らない色味で描いていく。
(きっとこんなツツジだから、皆の心を捕えるのよね)
少女は一人、満足げに頷いた。
温泉卵とアルコールを肴に、ツツジを満喫しているのは剛。こういうゆったりのんびりした時間は、そういえば聖地奪還の戦闘が始まってからは久々かも知れない。のんびりできる時にのんびりする、それは蒼の世界で軍人として働いていた時に覚えたことだった。いや、もともとの性分も多分にあるかも知れないが。
生徒会の面々も、堪能出来なかった桜の代わりにツツジの花見としゃれ込んでいる。
(ドキがムネムネっす)
健康的高校生男子の義経、風呂上がりの上気した女性陣にわずかに緊張気味。常ならぬシチュエーションというのは、やはり誰にとっても緊張するものだ。
一方りりかは持参した手作り弁当を取り出してにっこり。
「はい、義経っ。あーん♪」
料理は上手でも下手でもない、けれど愛情だけは人一倍。
そう言って笑顔を浮かべれば、寂音も璃袈も楽しそうに微笑む。
四人でいるからがんばれる。きっと、これからも。
●
そんなこんなで端午の節句。
リアルブルーの一地域では『ゴールデンウィーク』と呼ばれる時期でもあるが――その時期の温泉は、きっと心と身体の洗濯になったに違いない。
きっとまた日常に戻れば、慌ただしい毎日が待っている。
それまでの少しの間かも知れないが、きっと気晴らしになったことだろう――。
依頼結果
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相談卓 サーシャ・V・クリューコファ(ka0723) 人間(リアルブルー)|15才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/04/29 12:12:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/04 00:54:36 |