Wisteria

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/05/09 07:30
完成日
2015/05/17 01:40

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●Once upon a time.
 ある山中の街道沿いに美しい花が咲く樹があった。
 それは大きな杉の幹に蔓を絡ませ巻きついて登り、樹冠に広がった。
 そして桜が終わり、新緑が眩しく輝く時期に、とても美しい紫色の長くしだれる花をつけた。
 誰かが言った。
「桜の樹の下には死体が埋まっているというけれど、きっとこの樹の下にも死体が埋まっている。この妖しいまでに美しい魔性の花は、見る者を魅了し、虜にして自分の養分にするのだ」

●20 years ago.
 その樹から山を下った丁度中腹辺りに、一軒の宿屋兼茶屋があった。
 ある春の雨が降る寒い日に、1人の女が尋ねてきた。
 店主はその女が大変美しく、それでいて儚い雰囲気を持ち合わせていた為、雑談を兼ねてその花の話しをした。
 女はその話を聞き終えたあと、静かに微笑んで言った。
「私はその樹が花を付ける頃、そこで逢おうと、ある方と約束したのです。そんなに美しい花が咲くのなら、きっと間違える事はないのですね」
 女は礼を言って、その花の樹へと向かった。
 ――そして、二度と女が尋ねてくることは無かった。

●10 years ago.
「なぁ親父。最近ここをこの男が通らなかったか?」
 ある日、ハンターの男が店主に顔写真を見せてきた。
 写真の男の顔に見覚えがあった店主はふむ、と頷いた。
「あぁ、たしかありゃ先週の頭ぐらいに通っていったな。……どうかしたのか?」
「行方不明なんだ」
「はぁ?」
「この山に入った様子はあった。で、親父も見た、と。でも山を下りて町に入った形跡が無い。……この山に何か棲んでるとかいう話しは聞かないか?」
「おいおい、縁起でもねぇ。俺はこのかた20年ここで店やってるが、ゴブリンの1匹さえ出たことのねぇ山だぞ」
 野犬が出た時期は確かにあったが、それもちゃんと駆除が入ってすっかり落ち着いていた。
「……そうか……夜盗にでもやられたんなら、死体が出そうなもんなんだが……」
 もし見かけたら、ここに連絡するように伝えてくれ。と、男は連絡先を店主に渡して帰って行った。

●3 days ago.
「あんた、あの山道通って行くつもりかい? ダメだよ、悪い事は言わないから、春先は止めときな」
 山の麓の町で、ある騎士の男がそう忠告を受けた。
「あそこはどういった訳か毎年春になると行方不明者が出るんだ。特に単独で夜の山越えは止めた方がいい」
「でもあそこは凄く綺麗な花を付ける樹があるって聞いたから、ちょっと興味があってね」
 そう言った男に、町人は眉を顰めて首を振った。
「昔、あの樹の下で駆け落ちを約束した恋人が殺し合ったんだ。その血を吸って咲くからあの花は美しいんだって噂だよ。あんな縁起の悪いもん、わざわざ見に行く必要は無いよ」
 それこそ誹謗中傷レベルの噂じゃないかと男は取り合わず、夕日が沈む前に愛馬に跨がると山を登っていった。
 静かな山道を進んでいくと、すっかり日も沈んだ頃に漸く目的の花樹の下へと辿り着いた。
「……本当に美しい」
 冴え冴えとした月に照らされた藤色の花がいくつも房状にしだれ、さやさやと風に揺れる様子は実に幻想的だった。
 ブルル……と馬が鳴いて、落ち着き無く前脚で地面を掻いた。
「……ん? どうした?」
 軍馬として調教されている馬なので、こういった落ち着きの無い仕草をすることが珍しく、男は愛馬の首筋を撫でながら宥めた。
 その時、目の端に白いものが見えた。
 顔を上げると、樹の傍に女が背を向けて立っていた。
 頭から白いストールを被せていて、表情は窺い知れないが、その白い華奢な指先が月明かりの下、はかなさを感じさせる。
「こんなところにお一人でどうされましたか?」
 男は下馬しようと思ったが、馬がそれを嫌がるので、再び首筋を撫でて宥めながら女に声をかけた。
 女はゆっくりと男の方を振り返った。
 ……その目はぽっかりと闇が収まっていた。
「っ!?」
 女が振り向くと同時に、馬が後ろ脚だけで立ち上がった。
 慌てて男は手綱を掴みバランスを取ろうとして、馬の足下の地面から手らしきモノがいくつも生えて来ているのを見た。
 そして、獣のうなり声。
 男は「好きに動け」と腹を軽く蹴って馬に伝えると、愛馬は高く嘶いた後、一目散に山を下り始めた。
 男が振り返ると、ゆらりと揺れる紫色の花の下、白い女が黒い影を幾つも従えるように立っているのが見えた。

●In today's hunter office.
「依頼です。ある山中の街道沿いにゾンビが複数体出現していることがわかりました。至急向かって退治して来て下さい」
 ハンターオフィスの女性は、いつもの冷静な声で状況を説明し始める。
「被害報告が少なかったため、発見が遅れました。分かっているだけでも人型ゾンビが5体、犬型ゾンビが6体以上います」
 予想を上回る数に、ハンター達にも動揺が走った。
「正確な数は分かりません。また、夜に一人でいる者を狙うという条件でしか発生しないようなので、これも発見が遅れた原因のようです」
 白い女を見た男はすぐにハンターギルドに駆け込み、依頼を出した。すぐに調査隊が組まれ、山を登ったのだが、日中は勿論、夜になっても女の影も獣のうなり声一つ聞くことは叶わなかった。そこで、男が出逢った状況と同じようにしたところ、ゾンビたちは現れたのだという。
「ゾンビたちは深追いして来ることはありません。ただ、犬型ゾンビは機動力も高いので注意して下さい。人型ゾンビは個人差が大きいです。女、子ども、男……詳しくは用紙に認めましたので確認して下さい」
 テーブルの上に封筒を置くと、女性は小さく息を吸ってあなたたちを見た。
「これだけの数のゾンビが自然発生するとは考えにくいのですが、何と言っても出現条件と数が厳しくこれ以上調査をすることが出来ませんでした。みなさんにはゾンビの討伐と共に、原因の究明とこの問題の根本からの解決をお願いします」
 万事解決の際には報酬ははずみます、と付け加えてから彼女は頭を下げた。
「それでも、どうか無理はせず、全員無事で帰ってきて下さい」

リプレイ本文

●DECOY
 ミリア・コーネリウス(ka1287)は愛馬の『バサシ』に乗って山頂を目指す。
 ざぁっと風がミリアの長い髪を攫う。思わず目の前に手をかざして、落ち葉や舞う花びらから目を守った。
 風が止み、前を見る。
 その視界にはついに一本杉と藤の樹が目に入った。
 風を受けてさやさやと揺れる花房、はらりはらりと舞う花。周囲に立ちこめる甘い花の香り。その見事な花の付き方に杉そのものが藤の花を咲かせているようにさえ見える。
 ミリアには月明かりを浴びた薄紫の花房がぼんやりと光っているようにさえ見えた。
 バサシの脚を止め、暫し杉の樹と藤の花を見上げる。
 そして、気がつくとその樹の根元に1人の白い女が立っているのに気付いた。
 ……さっきまでは居なかった。
 ミリアはトランシーバーを取り出しスイッチを入れる。
「着いたよ。女も居る」
 ……しかし、危惧していた通りトランシーバーでは範囲が届かないらしい。
 スイッチは入れたままにして、オカリナを取り出すと、思いっきり吹き鳴らした。
 同時に、バサシが嫌がるように前脚を浮かせたので地面を見れば、次々と手がバサシの脚を取ろうと生えて来ていた。
 ミリアはバサシに元来た道へ戻るよう指示を出すと、ちらりと女を見た。
 女は変わらずそこに立っているだけだった。

●CHASER
 神楽(ka2032)が灯したたいまつの傍で大人しく伏せていた柴犬が、突然立ち上がるとひと吠えして山頂へと走り出した。
 神谷 春樹(ka4560)はそれを見て慌てて自身も馬に飛び乗る。
「皆さん! 合図が来ました! オカリナです」
 春樹の声を受けて、他のメンバーも馬へと跨がり、走らせる。
 7人はそれぞれ一分一秒でも早く、と急く気持ちを抑えながら馬を駆った。

「「ミリアさん、聞こえるっすかー!」」
 神楽の声はノイズ音と共にミリアの腰にぶら下げたトランシーバーから聞こえた。
「はーい、ただいま絶賛ゾンビと戦闘中っ!」
 大声を張り上げて返事を返しつつ、飛び掛かって来た犬型ゾンビに両手斧を叩き込む。
「「ミリア? もうすぐ着くから、もうちょっとだけ耐えて!」」
 この声は逢見 千(ka4357)だろうか。ミリアは「はーい」と返事をしつつ、飛び掛かって来た別の犬型ゾンビを斧の柄で打ち落とす。
「「ミリアさん大丈夫ですか? すみません、すぐ合流します」」
 今度は青山 りりか(ka4415)か。返事をしようとして、ぐっと言葉を詰めた。
 見れば左足首のプレートアーマーのつなぎ目に犬が噛みついてぶら下がっている。その眉間に石突きを叩き込んで引き剥がす。
「ミリア!!」
 後方から器械を通さないクリアな肉声がミリアの耳に届いた。
 軽やかな馬の蹄の音が近付いて、その馬が己を追い越し、その先で竜巻が発生したようにゾンビたちが吹き飛ばされ消えていく。
 渦の中心、馬上にはまるで夜の番人であるミミズクのような風貌の岩井崎 旭(ka0234)が居た。
「怪我は?」
「1方向からそれぞれバラバラに来てくれるなら独りでも結構行けちゃうんだよね」
 ミリアは肩をすくめて問題無い事を伝えながら、旭の一撃を避けた犬の脳天に斧刃を振り下ろした。
「……やっぱり『白い女』から?」
 旭も近付いて来たゾンビの首を撥ね飛ばす。
「わかんない。けど、少なくとも、後ろから襲われることはなかったよ」
 犬に回り込まれる事はあっても、後ろからゾンビが湧くことは無かった。
 2人は元凶があの女なのか樹のどちらか――あるいは両方か――にあると目星を付ける。
 そんな2人に向かってきたゾンビの額が撃ち抜かれ、その衝撃でゾンビは仰向けにひっくり返った。
「助けに来たっすよ~! 俺がいればもう大丈夫っす!」
 明るい声が響き、そちらに目をやれば、神楽が馬上でぶんぶんと手に魔導銃を持ったまま振っているのが見えた。
 その後も春樹、シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)、ショウコ=ヒナタ(ka4653)の銃撃が次々と打ち込まれ、ひとまずミリアと旭の射程内からゾンビは一掃される。
「遅くなってごめんね。怪我は?」
「ミリアさん、旭さん、ご無事ですか?」
 千がミリアの横に並んで馬から下りると、後ろから魔獣のような全身鎧に身を包んだシルヴィアも下馬する。
「僕は大丈夫。あ、馬はここら辺に停めない? ゾンビ、前からしか来ないみたいだから。僕も万が一があったら嫌だからここに置いて行くつもり」
 ミリアの提案に、元々騎乗に慣れていない者や、戦慣れしていない馬を連れてきた者達が頷き、結局、全員が馬を置いて行くことにした。
 また念のためにここまで一緒に走ってきた春樹の柴犬も一緒に待機させる。
「灯りいるかなーって思ってたんっすけど、意外に明るいっすね」
 頭上には満天の星が瞬き、東の空には大きな満月が煌々と照らしていた。
 そのお陰か、ミリアも手元のランプシェード一つでも道を見失わずに順調に山を登ることが出来たのだ。
「んー、道にたいまつ置くぐらいは大丈夫そうっすかねー?」
 神楽の言葉を受けて、ショウコも周囲を見渡す。
 道は雑草程度しか生えていないやせた茶色い土だが、ひとたび道から外れるとそこは深い森。
 落ち葉や枯れ枝が散乱した中に火が落ちればたちまち山火事を引き起こすのは想像に難くない。
 また時折春特有の強い風が吹くので、延焼の可能性が無いとは言えなかったが、幸いにして道は広く、道の中央にたいまつを固定して置くことは出来そうだった。しかし、火矢はタイミングをみないとかなり危険かもしれないと1人溜息を吐いた。
 その間にも続々とゾンビたちはやってくる。
 春樹が一体の脚に銃弾を命中させ敵を転ばせる事に成功すると、千が追撃して止めを刺した。
「ともかく、山頂へ向かいましょう」
 りりかがそう告げると、横でリロードしながらシルヴィアが頷いた。
「正直、原因になりそうな相手が多すぎてどれか分かりません。少々効率は悪くなってしまいますが、ゾンビの殲滅後、一つ一つ排除していきましょう」
 そうして8人は山頂を目指して戦いながら歩き出した。

●DISTORTION
 山頂に近付くほど戦いは激化した。
 春樹は近付いて来たゾンビに銃からナイフに持ち替えて応戦する。
 有効な方で戦おうと思っていたが、火も光も大差は感じられなかったので、用途で使い分けることにしたのだ。
 りりかはホーリーライトを撃ち尽くし、シャインで光を灯したまま、近付いて来たゾンビを殴り付けていた。
 そして気付く。
「服装が……バラバラだわ」
 朽ちた分厚いコートを羽織っている者、破れた夏の旅装の者……このゾンビ達がかつての被害者だとして、本当に花咲く時期だけならばこんなにも服装にばらつきが出るだろうか?
 少し先に見える藤の花。思わず足を止めて見惚れてしまう程の美しさ。
 自分の瞳と同じ紫色は「高貴な色」と「人を誑かす色」とも言われる。
 しかし、植物とは”花を付けるために”力を蓄えるのではなかったか……?
 たまたま、花の時期に足を止める者が多かっただけで、実は一年中、この条件が揃った時には被害が出ていたのでは無いだろうか。
 ……だとしたら……?
 りりかの全身を悪寒が走った。
 千はハルバードを振るいながら、視界の向こうに見える一本杉と藤の花を見る。
 『なんか夫婦みたいに見えるような……』
 何かを思い出しかけて、思い出せず、犬の牙を躱して、そのまま頭部に刃を落とした。

「美人さんなのに、もったいないっすね」
 神楽は元ハンターと思われる片手剣を使うゾンビを相手にしつつ、ちらりと横目で白い女を見て、人生ままならねーもんっすねとぼやいた。
 藤の樹の下。白い女は変わらず佇んだまま動かない。
 ――その、射線が開けた瞬間をショウコは見逃さなかった。
 火薬火矢は準備出来なかったが、予めたいまつをばらして作った火矢に火を付け、風が吹いていない事を確認して樹を目がけて射る。
 勢いで火が消えないよう絶妙な力加減で射られた火矢。しかしそれは、樹に届く前に燃え上がった。
 白い女が身を挺して庇ったのだ。
 それを見た全員が驚いて動きを止めた。
 火はすぐに消えたが、周囲に繊維と肉の焦げた臭いが花の甘い香りと混じって立ちこめる。
「正体が何であれ、害悪なら殺す」
 すぐに次の火矢を射ろうと構えたが、風が吹き始めてしまった。
 山火事を起こすわけにもいかず、ショウコは火矢を消すと、射線を封じに来たゾンビを銃撃する。
 このショウコの攻撃により皆の予測は確信へと変わりつつあった。
 『本体は樹』
 最終目標が定まれば、ゾンビを狩る威力も増そうというものだ。
 ミリアは前衛でアムタトイを振るって襲いかかってきたゾンビの胴を切り離し、旭は誰よりもゾンビの多いところへ行き、ラウンドスウィングを放った。
 そんな旭を狙うゾンビの頭部をシルヴィアがヴォロンテAC47で狙い撃つ。
「情報では元ハンターも居ます。ゾンビになったとはいえ、少々厄介ではあるでしょう」
 そう独りごちて、再びアサルトライフルを構える。
 千は自分の身長よりも遥かに大きいヴァフラームを振り回し、ゾンビを確実に仕留めていく。
 神楽、りりか、春樹はそんな前衛組の猛攻を躱し逃れたゾンビ達を銃で撃ち、杖で殴り、ナイフで切り裂いた。
 そして最後衛のショウコはさらに湧き出すゾンビの頭を一体一体着実に撃ち抜いていった。

●CODEPENDENCY
 ついに、杉の樹と藤の樹と白い女だけとなった。
 攻撃を受けた後も、女はこちらに反撃するわけでも無く立っていた。
 誰も何も言うことなく、暫し対峙していた。
 風が吹き、花の香りが強まる。
 春樹はミラーシェード越しに藤の花を睨み、ブランデーを取り出すとそれを自らに振りかけて嗅覚を麻痺させてから、女に近付いた。
「あなたが待っていた人はもういないんだ。だから、もう待たなくていい。今度はその人が待っているから早く行ってあげなよ」
 闇へと通じる眼窩。しかし敵意は感じなかった。そしてそれ以上のどんな感情の揺らぎも感じられなかった。
 りりかは「あぁ」と嘆息した。
 もう遅いのだ。彼女にはもう何も通じない。何も感じない。ただそこにあるだけの抜け殻なのだ。
「もう”お休み”させてあげましょう」
 りりかの言葉にミリアは静かに頷くとゆっくりと女へと近付いていった。
「こんなところで20年もか……ごめんな、僕はこんな方法しか知らない」
 ミリアが両手斧を振り上げても、女は何の反応も返さなかった。

 ……ただ、その刃が届く直前、ほんのり女の口元が綻んだように見えた。

 女が塵となって消えていく。風が吹いて花弁と共に舞い上がる。ざぁぁぁぁと樹の枝が揺れた。
 ――いや、樹が、揺れて動いた。
「ぐっ!」
「ミリア!」
 女が立っていた場所から樹の根が突き出し、ミリアの装甲を破ってその大腿を貫いた。
 思わず蹌踉けたミリアを旭が受け止め支える。
「このっ!」
 神楽が手にしていたたいまつを、未だミリアの大腿に突き刺さったままの根に押しつけた。
 根はそれを嫌がるように地中へと戻る。
「本性を現したな」
 ショウコも火矢を直接樹に当てようと近寄るが、樹の根がその腕を鞭打ち、その衝撃で火矢は折れ街道に転がった。
「フェレライじゃなく樹かよ!」
 ミリアをりりかに預け、旭がクラッシュブロウを幹に放つが、地中から飛び出してきた樹の根に阻まれる。
 お返しとばかりに伸びてきたいくつもの根を振り払っていると、シルヴィアがそれを援護するために朧月を放った。
 春樹もまた距離を取ると、火の精霊の力を纏った弾丸を旭を狙う根へと撃ち込む。
「さんきゅー、シルヴィア、春樹」
「礼には及びませんよ、旭さん」
「何としてもこれ以上の被害を防がなくては」
 春樹の言葉に旭も頷くと、3人はそれぞれに動き始めた。

 藤の蔓や藤の樹を傷付けようとすると動きが激しくなる根と、寄り添うように立つ杉と藤。
 それまで真剣な表情で2つの樹を見つめていた千が、その大きな目を見開いた。
 そしてプロミネンスにも似た火を纏わせ、走り距離を縮めると、藤の蔓を除けて杉の樹に直接、横殴りに金色の斧刃を叩き込むと叫んだ。
「杉の樹が、歪虚だよ!」
 大きく食い込んだ刃を、力業で引き抜くと、再び同じ所に斧刃を振りかぶって叩き込む。
「思い出したの! 花言葉! 藤の花は『優しさ』とか『決して離れない』とか、だけど!」
 千の叫びに樹の根が大きく鞭打つように動き、地面を抉り、掘り返す。
「杉の樹自体は『堅実』、とか、だけど、葉っぱまで含めると」
 千は思わず杉の樹を仰ぎ見る。
 ギチギチと杉の幹にきつく絡みつく幾本もの蔓。
 杉の葉よりもあきらかに大きく伸びやかに広がる藤の枝と葉。
 これでは、杉自身が光合成出来ずに枯れてしまうはずだ。
「『君のために生きる』!」
 それでも生きている理由。枯れず、倒れず生きられる理由。
 そんなの、この場では一つしか思い浮かばない。
「千さんの援護をするっす!」
 神楽もサラマンダーを構え、杉の樹を狙って撃つ。
 りりかから回復してもらったミリアも、斧を肩に担いで千の正面に立った。
「切り倒すんでいいんだね? 交互に行くね!」
 攻めの構えから温存していた力を全て乗せるような渾身の一撃を幹へと叩き込む。
 千とミリアを鞭打たんと根が背後から伸びるのを、旭がギガースアックスで叩き斬り、シルヴィアが手裏剣で牽制し、ショウコもまた銃で荒ぶる根を狙い撃つ。
「これで! どうだ!」
 千が大きく振り上げた斧刃を幹へと叩き込んだ。
 ギシギシと重い音を立てて、杉の樹が傾ぐ。巨大な杉の樹そのものの重さを支えきれない藤の樹も杉の樹に絡みついたまま、共に倒れ始める。
「あ、そっち危ないよー」
 ミリアの声に春樹とショウコが慌てて左右に走った。

 ドォンという地響きは、シルヴィアが予想していたよりも軽く、視界が一瞬薄紫に染まり、むせかえる程の甘
い香りに包まれた。

 そして圧倒的な静寂が周囲を支配した。

 地面に落ちたたいまつと火矢の僅かな火が揺れる中、降る様に舞い散る藤の花弁。
 音も無く塵へと還っていく杉の樹と、巻き付いた形のまま残される藤の蔓。
 満月の下、誰もが言葉を失ったままその光景を眺め、完全に杉が消滅するのを見守った。

 ――そして、この夜を境に、もうこの街道から行方不明者が出ることは無くなったのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 心に鉄、槍には紅炎
    逢見 千(ka4357
    人間(蒼)|14才|女性|闘狩人
  • 藤光癒月
    青山 りりか(ka4415
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 月下紫想
    神谷 春樹(ka4560
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士

  • ショウコ=ヒナタ(ka4653
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦会議室
ミリア・ラスティソード(ka1287
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/05/08 10:29:31
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/06 09:27:54